霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 迎酒(むかへざけ)〔一七五四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第2篇 愛国の至情 よみ(新仮名遣い):あいこくのしじょう
章:第9章 迎酒 よみ(新仮名遣い):むかえざけ 通し章番号:1754
口述日:1924(大正13)年01月23日(旧12月18日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
愛州の子分たちは春乃姫の約束にしたがって、親分が帰ってくるのを待っていた。
すでに約束の十日目になっており、痺れを切らした子分たちが、牢獄へ押し寄せて腕ずくで愛州を取り戻そうと、出陣の酒盛りの準備を始める。そこへ、ひょっこりと愛州が戻ってくる。
出陣の酒盛りは、そのまま祝いの酒盛りとなり、愛州の館には万歳の声が響く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-10-09 20:39:26 文字数:4847 OBC :rm6909
愛善世界社版:133頁 八幡書店版:第12輯 322頁 修補版: 校定版:139頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 横小路(よここうぢ)の侠客(けふかく)愛州(あいしう)の留守宅(るすたく)には、002源州(げんしう)、003平州(へいしう)、004藤州(とうしう)、005橘公(きちこう)、006三州(さんしう)、007泉州(せんしう)、008相州(さうしう)、009杢州(もくしう)の兄分株(あにぶんかぶ)が数百(すうひやく)人(にん)の乾児共(こぶんども)を集(あつ)めて、010親分(おやぶん)の帰(かへ)り来(きた)るの遅(おそ)きに稍(やや)不安(ふあん)の念(ねん)を起(おこ)し、011冷酒(ひやざけ)を煽(あふ)り乍(なが)ら善後策(ぜんごさく)に就(つい)て協議(けふぎ)を凝(こ)らしてゐる。
012平(へい)『オイ源州(げんしう)の兄貴(あにき)、013親分(おやぶん)が捕(つか)まつてから今日(けふ)で十日目(とをかめ)になるが、014未(ま)だニヤンが屁(へ)こいたとも便(たよ)りがないぢやねいか。015吾々(われわれ)乾児(こぶん)として此(この)儘(まま)坐視(ざし)するこたア出来(でき)まい。016何(なん)とか救(すく)ひ出(だ)す工夫(くふう)はあるめえかな』
017源(げん)『まア今日(けふ)一(いち)日(にち)は待(ま)つたが可(よ)からうぞ。018畏(おそ)れ多(おほ)くも高砂城(たかさごじやう)の春乃姫(はるのひめ)様(さま)が仲裁(ちうさい)を遊(あそ)ばし、019……今(いま)直(すぐ)にと云(い)ふ訳(わけ)にも行(ゆ)かぬが、020十日(とをか)の間(あひだ)にはキツト救(すく)ひ出(だ)してやらう……と大勢(おほぜい)の前(まへ)で立派(りつぱ)に仰有(おつしや)つたのだから、021滅多(めつた)に間違(まちが)ひはあるめえ。022俺(おれ)達(たち)は姫(ひめ)様(さま)の尊(たふと)いお言葉(ことば)を信(しん)じ、023おとなしく待(ま)つてるのだ。024其(そ)の代(かは)り今日中(けふぢう)待(ま)つて親分(おやぶん)が帰(け)えれねえとすれば、025吾々(われわれ)も安閑(あんかん)としては居(を)られねえ。026味方(みかた)を一人(ひとり)も残(のこ)らず集(あつ)め、027非常(ひじやう)手段(しゆだん)と出(で)かける積(つも)りだ。028まア少時(しばらく)の所(ところ)俺(おれ)に免(めん)じて待(ま)つて呉(く)れ』
029平(へい)『ウンそれもさうだが、030あんな事(こと)を云(い)つて一(いち)時(じ)逃(のが)れに俺(おれ)等(たち)を胡魔(ごま)かしたのぢやあるめいかな。031それならそれで俺(おれ)等(たち)にも覚悟(かくご)があるからなア』
032 岩公(いはこう)は側(そば)より、
033岩(いは)『オイ兄貴(あにき)心配(しんぱい)するな。034高砂城(たかさごじやう)の春乃姫(はるのひめ)様(さま)と云(い)つたら、035仁慈(じんじ)深(ふか)い、036そして時代(じだい)を解(かい)した、037立派(りつぱ)な思想(しさう)を持(も)つた、038人類愛(じんるゐあい)主義(しゆぎ)の女神(めがみ)様(さま)だ。039仮令(たとへ)一(いち)日(にち)や二日(ふつか)遅(おく)れても、040キツト仰有(おつしや)つた言(こと)は、041命(いのち)に代(か)へても履行(りかう)して下(くだ)さるから、042茲(ここ)はおとなしく待(ま)つて居(を)るが可(よ)からうぞ』
043平(へい)『老耄(おいぼれ)の末席(まつせき)の分際(ぶんざい)として偉(えら)相(さう)なこと云(い)ふない。044ナニ汝(きさま)がそんな事(こと)分(わか)らうかい。045春乃姫(はるのひめ)様(さま)なんて、046拝(をが)んだ事(こと)もない癖(くせ)に、047知(し)つたかぶりを吐(ほざ)くない。048こんな所(ところ)へチヨツカイを出(だ)す汝(きさま)の幕(まく)ぢやない。049あつちへ行(い)つて便所(べんじよ)の掃除(さうぢ)でもやつて来(こ)い』
050岩(いは)『ソリヤ、051兄貴(あにき)の云(い)ふことに反(そむ)く訳(わけ)にや行(ゆ)かぬから、052便所(べんじよ)の掃除(さうぢ)もせぬことは無(な)いが、053今日(けふ)は乗(の)るか反(そ)るかの肝心要(かんじんかなめ)の評定(ひやうじやう)の場合(ばあひ)ぢやないか。054如何(いか)に末輩(まつぱい)の俺(おれ)だつて、055大親分(おほおやぶん)の身内(みうち)に違(ちが)ひない。056親分(おやぶん)を思(おも)ふ赤心(まごころ)は兄貴(あにき)だつて、057末輩(まつぱい)だつて、058チツとも変(かは)りはないぞ。059外(ほか)の問題(もんだい)ならば順序(じゆんじよ)を守(まも)り、060こんな所(ところ)へツン出(で)て意見(いけん)は述(の)べないが、061親分(おやぶん)の一身(いつしん)上(じやう)に関(くわん)する大問題(だいもんだい)だから、062わつちの意見(いけん)も云(い)はして呉(く)れ玉(たま)へ』
063平(へい)『老耄爺(おいぼれぢい)の古(ふる)い頭(あたま)で、064何(ど)うして重要(ぢうえう)な問題(もんだい)の解決(かいけつ)が着(つ)くものか。065チヨン猪口才(ちよこざい)な、066そつちへ行(い)つて居(を)れつたら……本当(ほんたう)に五月蠅(うるさい)奴(やつ)だな。067此(この)平(へい)さまはな、068汝(きさま)は何(なん)と思(おも)つてるか知(し)らぬが、069背水会(はいすいくわい)の創立者(さうりつしや)だぞ。070源州(げんしう)の兄貴(あにき)と両人(ふたり)が、071伊佐彦(いさひこ)の老中(らうぢう)に頼(たの)まれて、072背水会(はいすいくわい)の元(もと)を作(つく)つたのだ。073大親分(おほおやぶん)の愛州(あいしう)さまは俺(おれ)達(たち)が頭(かしら)に戴(いただ)いてるものの、074背水会(はいすいくわい)の創立者(さうりつしや)は矢張(やつぱ)り俺(おれ)達(たち)だからな。075いはば侠客(けふかく)の神(かみ)様(さま)だ。076侠客(けふかく)には侠客(けふかく)の法(はふ)があるのだから、077汝(きさま)等(たち)は順序(じゆんじよ)を守(まも)つて、078すつ込(こ)んで居(を)れ』
079藤(とう)『オイ平州(へいしう)の兄貴(あにき)、080さう没義道(もぎだう)にこき下(お)ろすものぢやない。081此(この)岩州(いはしう)だつて、082普通(ふつう)の乾児(こぶん)とは、083ちつたア違(ちが)つた所(とこ)があるよ。084斯(か)ふいふ大切(だいじ)な場合(ばあひ)には、085誰(たれ)の意見(いけん)でも参考(さんかう)の為(ため)に聞(き)いてみる必要(ひつえう)があらうぞ』
086平(へい)『さうかも知(し)れねえが、087何(なん)だか虫(むし)の好(す)かねえ面(つら)をしやがつて、088横合(よこあひ)から茶々(ちやちや)を入(い)れやがると、089ムカついて堪(たま)らねえのだ。090此(この)岩州(いはしう)はヒヨツとしたら寒犬(かんけん)かも知(し)れないよ。091何(なん)だか目付(めつき)が怪(あや)しうて仕方(しかた)がねえ。092然(しか)しながら親分(おやぶん)が何時(いつ)も「岩々(いはいは)」と云(い)つて、0921腰巾着(こしぎんちやく)の様(やう)にどつこへ行(ゆ)くにも荷持(にもち)に連(つ)れて行(ゆ)くのだから、093親分(おやぶん)にどんなお考(かんが)へがあるか知(し)れぬと思(おも)つて、094俺(おれ)達(たち)や見逃(みのが)してるのだが、095実(じつ)に癪(しやく)に障(さは)る奴(やつ)だ。096高砂城(たかさごじやう)の老中(らうぢう)見(み)た様(やう)な根性魂(こんじやうだま)を下(さ)げてゐやがるのだからな』
097藤(とう)『エライ所(ところ)へ又(また)舌鋒(ぜつぽう)が脱線(だつせん)したものだな。098そんな話(はなし)よりも焦眉(せうび)の急(きふ)を要(えう)する問題(もんだい)は親分(おやぶん)の一身(いつしん)上(じやう)に関(くわん)する事(こと)だ。099源州(げんしう)の云(い)ふ通(とほ)り今晩(こんばん)の十二(じふに)時(じ)迄(まで)待(ま)つて見(み)て、100親方(おやかた)の顔(かほ)が見(み)えないとすれば、101いよいよ足装束(あししやうぞく)を整(ととの)へ、102非常(ひじやう)手段(しゆだん)をオツ初(ぱじ)めるのだなア』
103平(へい)『そんならさうに定(き)めておかう。104オイ兄弟(きやうだい)、105乾児(こぶん)連中(れんぢう)に、106何時(いつ)でも発足(はつそく)の出来(でき)る様(やう)に準備(じゆんび)を命(めい)じて呉(く)れ。107そして酒樽(さかだる)の鏡(かがみ)を抜(ぬ)いて、108今(いま)出立(しゆつたつ)と云(い)ふ時(とき)に呑(の)んで出(で)る様(やう)に準備(じゆんび)をして置(お)くのだなア』
109 三州(さんしう)、110泉州(せんしう)、111相州(さうしう)、112杢州(もくしう)の幹部(かんぶ)連(れん)は、1121裏(うら)の大部屋(おほべや)に集(あつ)まつてる数百(すうひやく)人(にん)の乾児(こぶん)に向(むか)つて右(みぎ)の趣(おもむき)を伝(つた)へ、113用意(ようい)にかからしめた。
114 源州(げんしう)、115平州(へいしう)、116藤州(とうしう)、117橘公(きちこう)の幹部(かんぶ)連(れん)は元気(げんき)をつける為(ため)、118酒(さけ)を燗(かん)し乍(なが)ら数(かず)の子(こ)の肴(さかな)でチヨビリチヨビリと呑(の)み始(はじ)めた。119段々(だんだん)酔(よひ)が廻(まは)つて来(き)て互(たがひ)に気焔(きえん)を吐(は)き出(だ)した。
120 橘公(きちこう)廻(まは)らぬ舌(した)で、
121橘公『アーア、122思(おも)へば思(おも)へば侠客(けふかく)なんて、123つまらねえもなアありやしねえワ。124なア兄弟(きやうだい)、125よく考(かんが)へてみろ。126喧嘩(けんくわ)して切(き)られても痛(いた)いと云(い)ふ訳(わけ)にや行(ゆ)かず、127殺(ころ)されても逃(にげ)る訳(わけ)にや行(ゆ)かねえし、128本当(ほんたう)に引合(ひきあ)はぬ商売(しやうばい)ぢやねえか。129若(も)し卑怯(ひけふ)な言葉(ことば)でも出(だ)して見(み)よ、130彼奴(あいつ)アなきがらだと云(い)つて、131仲間(なかま)の奴(やつ)から擯斥(ひんせき)され、132先代(せんだい)の親分(おやぶん)の名(な)まで汚(けが)し、133又(また)乾児(こぶん)の面(つら)に泥(どろ)を塗(ぬ)らねばならぬ。134さうすりや、135乾児(こぶん)の巾(はば)が利(き)かなくなつて了(しま)ふ。136彼奴(あいつ)の親分(おやぶん)は切(き)られて痛(いた)がつたとか、137死(し)にがけに吠(ほ)えたとか歌(うた)つたとか云(い)はれて、138なきがらなきがらと貶(けな)され、139乾児(こぶん)の渡世(とせい)が出来(でき)ねえ様(やう)になつて了(しま)ふ。140それを思(おも)へば喧嘩(けんくわ)して腕(うで)の一本(いつぽん)位(くらゐ)落(おと)されても、141痛(いた)さを怺(こら)へて無理(むり)に笑顔(ゑがほ)を作(つく)り、142劫託(ごふたく)を並(なら)べて胡魔(ごま)かさねばならず、143本当(ほんたう)に世(よ)の中(なか)に此(こ)れ位(くらゐ)つまらねえ商売(しやうばい)はねえぢやねえか』
144 平州(へいしう)ヅブ六(ろく)に酔(よ)ひ乍(なが)ら、
145平州『さうとも さうとも、146橘(きち)の云(い)ふ通(とほ)り、147本当(ほんたう)に詰(つま)らねえな。148伊佐彦(いさひこ)の奴(やつ)、149対命舎(たいめいしや)や投槍派(なげやりは)が恐(おそ)ろしくなつたものだから、150俺(おれ)達(たち)を甘(うま)く釣(つ)り込(こ)みやがつて……国家(こくか)の保護(ほご)に任(にん)ずる者(もの)は151腐敗(ふはい)堕落(だらく)の今日(こんにち)の世(よ)の中(なか)に、152侠客(けふかく)をおいて他(た)に無(な)し……等(など)と煽(おだ)て上(あ)げ、153背水会(はいすいくわい)を組織(そしき)して呉(く)れたら充分(じゆうぶん)の保護(ほご)を与(あた)へ、154凡(すべ)ての便宜(べんぎ)を与(あた)へてやると吐(ぬ)かしやがつたものだから、155珍(うづ)の国(くに)の大親分(おほおやぶん)六十(ろくじふ)余(よ)人(にん)に檄(げき)を飛(と)ばし、156……伊佐彦(いさひこ)老中(らうぢう)の請求(せいきう)だから、157一度(いちど)珍(うづ)の城下(じやうか)へ集(あつ)まつて、158背水会(はいすいくわい)の組織(そしき)をして呉(く)れまいか……と云(い)つた所(ところ)、159どの親分(おやぶん)も二(ふた)つ返事(へんじ)で賛成(さんせい)をして呉(く)れたのだ。160侠客(けふかく)と云(い)ふ者(もの)は161時(とき)の権威者(けんゐしや)の鼻(はな)つ柱(ぱしら)を打挫(うちくじ)くのが天職(てんしよく)だから、162ヨモヤ老中(らうぢう)の走狗(そうく)にならうと云(い)ふ親分(おやぶん)は一人(ひとり)もなからうと信(しん)じてゐたのに、163エーエ、164豈(あに)図(はか)らむや妹計(いもうとはか)らむやだ。165今(いま)の侠客(けふかく)ア、166魂(たましひ)が脱(ぬ)けてゐるから、167伊佐彦(いさひこ)老中(らうぢう)のお声(こゑ)がかりだと聞(き)いて、168欣喜(きんき)雀躍(じやくやく)して珍(うづ)の都(みやこ)のスカタン・ホテルへ、169蟻(あり)の甘(あま)きに集(つど)ふ如(ごと)くやつて来(き)たのだ。170其(その)時(とき)の親分衆(おやぶんしう)の勢(いきほひ)つたら素晴(すば)らしいものだつた。171此(こ)れ丈(だけ)の者(もの)が協心(けふしん)戮力(りくりよく)して当(あた)らうものなら、172どんな事(こと)でも成功(せいこう)疑(うたが)ひ無(な)し173と思(おも)はれたよ』
174源(げん)『最前(さいぜん)から聞(き)いて居(を)れば、175自分(じぶん)一人(ひとり)が背水会(はいすいくわい)を組織(そしき)したやうに云(い)つてるが、176其(その)衝(しよう)に当(あた)つた者(もの)は汝(きさま)許(ばか)りぢやねえ、177俺(おれ)が先頭(せんとう)ぢやねえか』
178平(へい)『ウーン、179それもさうだ。180サア之(これ)から兄貴(あにき)の番(ばん)だ。181酒(さけ)の肴(さかな)に一(ひと)つ兄弟(きやうだい)の前(まへ)で、182背水会(はいすいくわい)組織(そしき)の顛末(てんまつ)を聞(き)かしてやつて呉(く)れ、183オイ兄弟(きやうだい)、184随分(ずいぶん)面白(おもしろ)いぞ』
185源(げん)『望(のぞ)みとあらば云(い)つてやらぬ事(こと)も無(な)い。186俺(おれ)等(たち)の勇気(ゆうき)と云(い)ふものは大(たい)したものだぞ。187エー実(じつ)の所(ところ)は此(この)源州(げんしう)の所(ところ)へ、188伊佐彦(いさひこ)老中(らうぢう)の所(ところ)から頼(たの)みに来(き)たのだ。189それで平州(へいしう)と相談(さうだん)した上(うへ)、190珍(うづ)全国(ぜんこく)の親分株(おやぶんかぶ)を集(あつ)め、191スカタン・ホテルへ行(い)つて、192それから老中(らうぢう)へ電話(でんわ)をかけ、193横波(よこなみ)局長(きよくちやう)に照会(せうくわい)した所(ところ)、194横波(よこなみ)の奴(やつ)、195吃驚(びつくり)しやがつて、196……決(けつ)して上(うへ)の方(はう)から侠客(けふかく)なんか依頼(いらい)したこたアない。197其方(そちら)の方(はう)に用(よう)があるなら、198老中局(らうぢうきよく)へやつて来(こ)い……なんて、199木(き)で鼻(はな)を擦(こす)つた様(やう)な挨拶(あいさつ)をしやがるのだ。200俺(おれ)等(たち)二人(ふたり)は六十(ろくじふ)余(よ)人(にん)の親分(おやぶん)に対(たい)し横波(よこなみ)がそんなこと云(い)つたと、201何(ど)うして云(い)はれうか。202切腹(せつぷく)でもして言訳(いひわけ)しなくちや男(をとこ)の顔(かほ)が立(た)たねえ。203そこで此(この)平州(へいしう)を引連(ひきつ)れ、204俺(おれ)はドスを腰(こし)にブラ下(さ)げ、205平州(へいしう)はピストルを懐(ふところ)にして、206老中局(らうぢうきよく)の玄関(げんくわん)にあばれ込(こ)み……横波(よこなみ)局長(きよくちやう)を此所(ここ)へ引(ひき)ずり出(だ)せツ……と呶鳴(どな)つた所(ところ)、207横波(よこなみ)の奴(やつ)吃驚(びつくり)しやがつて、208チツとも面(つら)出(だ)しやがらぬ。209受付(うけつけ)に萎(しな)びた爺(ぢい)が一疋(いつぴき)けつかつて、210……マアマア何用(なによう)か知(し)りませぬが私(わたし)が承(うけたま)はりませう……と云(い)ひやがる。211……エー薬鑵(やくわん)親爺(おやぢ)奴(め)212愚図(ぐづ)々々(ぐづ)さらしてると、2121捻(ひね)りつぶしてやる……と、213平州(へいしう)がやつた所(ところ)、214親爺(おやぢ)奴(め)縮(ちぢ)み上(あが)りやがつて、215……私(わたし)は大泡(おほあわ)吹造(ふくざう)と申(まを)します……と云(い)ひやがつて、216大泡(おほあわ)吹造(ふくざう)とは醜偽院(しうぎゐん)の偽長(ぎちやう)もやつてゐた奴(やつ)だなアと思(おも)ひ出(だ)し、217……そんなら親爺(おやぢ)、218横波(よこなみ)に俺(おれ)の出(で)て来(き)た用件(ようけん)をトツクリと話(はな)して、219侠客(けふかく)の面(つら)を立(た)てる様(やう)にするか、220でなくちやこつちにも覚悟(かくご)がある……と槍(やり)を一本(いつぽん)入(い)れて、221スカタン・ホテルへ帰(かへ)つて来(く)ると、222老中局(らうぢうきよく)から十数台(じふすうだい)の自動車(じどうしや)を持(も)つて、223俺(おれ)達(たち)一行(いつかう)を迎(むか)へに来(き)やがつたのだ。224それから始(はじ)めて、225局内(きよくない)の評定所(ひやうぢやうしよ)へ這入(はい)つて見(み)ると、226生(うま)れてから見(み)た事(こと)も無(な)いやうな美(うつく)しい毛氈(まうせん)を布(し)き、227真白(まつしろ)な頭(あたま)をしたブルケーとかブルカーとか云(い)ふ奴(やつ)がやつて来(き)やがつて、228挨拶(あいさつ)をしやがる。229後(あと)から考(かんが)へて見(み)ると、230此奴(こいつ)が松若彦(まつわかひこ)の命令(めいれい)に仍(よ)つて、231珍(うづ)の国(くに)の政権(せいけん)を握(にぎ)つてる白頭翁(はくとうをう)だと分(わか)つたので……何(なん)だ老中(らうぢう)と云(い)ふ者(もの)はこんなものかい……と稍(やや)軽悔(けいぶ)の念(ねん)が咄嗟(とつさ)に湧(わ)いて来(き)た。232そこへ横波(よこなみ)が恐(おそ)る恐(おそ)るやつて来(き)て、233米搗(こめつき)バツタの様(やう)にペコペコ頭(あたま)を下(さ)げ……皆(みな)さま遠方(ゑんぱう)御(ご)苦労(くらう)様(さま)で厶(ござ)います。234先刻(せんこく)はエライかけ違(ちが)ひで失礼(しつれい)致(いた)しました……と挨拶(あいさつ)さらすものだから、235一国(いつこく)の大老(たいらう)や老中(らうぢう)が頼(たの)むからと思(おも)ひ、236ヤツと虫(むし)を殺(ころ)して背水会(はいすいくわい)を組織(そしき)する事(こと)になつたのだ。237何(なん)と偉(えら)い者(もの)だらう』
238藤(とう)『それ丈(だけ)上(うへ)の奴(やつ)から背水会(はいすいくわい)を力(ちから)にしてる以上(いじやう)は、239吾々(われわれ)に対(たい)しても余程(よほど)便宜(べんぎ)とか特典(とくてん)とか与(あた)へて呉(く)れ相(さう)なものだのに、240博奕(ばくち)を打(う)てば矢張(やはり)人並(ひとなみ)に牢獄(らうごく)へブチ込(こ)みやがるなり、241喧嘩(けんくわ)して人(ひと)を斬(き)れば、242刑法(けいはふ)だとか何(なん)とか云(い)つて刑場(けいぢやう)へやられるなり、243自分(じぶん)の都合(つがふ)の好(よ)い時(とき)は背水会(はいすいくわい)背水会(はいすいくわい)と云(い)つて、244無茶(むちや)苦茶(くちや)に扱(こ)き使(つか)はれ、245本当(ほんたう)に彼奴(あいつ)等(ら)の機械(きかい)に使(つか)はれてる様(やう)なものぢやないか。246今度(こんど)の親分(おやぶん)だつて、247背水会(はいすいくわい)の大頭(おほあたま)たる以上(いじやう)は、248チツとは大目(おほめ)に見(み)さうなものだのに、249牢獄(らうごく)へブチ込(こ)みやがつて馬鹿(ばか)にしてる。250こんな事(こと)ならモウ背水会(はいすいくわい)を叩(たた)き潰(つぶ)し、251昔(むかし)の儘(まま)の侠客(けふかく)でやつて行(ゆ)かうぢやないか。252本当(ほんたう)に詰(つま)らねえからなア』
253源(げん)『さうだ、254俺(おれ)も同感(どうかん)だ。255なア平州(へいしう)、256三州(さんしう)、257泉州(せんしう)、258相州(さうしう)、259杢州(もくしう)も賛成(さんせい)だらう』
260その五人『尤(もつと)も尤(もつと)も、261賛成(さんせい)262々々(さんせい)』
263と手(て)を拍(う)つて迎(むか)へた。
264平(へい)『ウエー、265大分(だいぶ)に酔(よひ)も廻(まは)つたが、266最早(もう)子(ね)の刻(こく)だ。267親分(おやぶん)がいよいよ帰(かへ)らねえとすると、268全体(ぜんたい)を引(ひ)き連(つ)れて、269非常(ひじやう)手段(しゆだん)と出(で)かけようぢやないか。270そして序(ついで)に俺(おれ)達(たち)を詐(いつは)りやがつた春乃姫(はるのひめ)を血祭(ちまつり)にして来(こ)うぢやないか。271それ位(ぐらゐ)な勇気(ゆうき)が無(な)くては侠客(けふかく)と云(い)はれないワ』
272と荐(しき)りにメートルを上(あ)げて居(ゐ)る。
273源(げん)『さう急(いそ)ぐには及(およ)ばぬぢやないか。274半日(はんにち)や一(いち)日(にち)遅(おく)れたつて、275何(ど)う云(い)ふ御(ご)都合(つがふ)があるか知(し)れないワ。276斯(か)う何時(なんどき)でも、277出動(しゆつどう)準備(じゆんび)が出来(でき)てるのだから、278勢揃(せいぞろ)ひの上(うへ)は満(まん)を持(ぢ)して考(かんが)へねばなるまいぞ。279一旦(いつたん)弦(つる)を離(はな)れた矢(や)は再(ふたた)び帰(かへ)らないからの。280猪突(ちよとつ)主義(しゆぎ)も結構(けつこう)だが、281却(かへつ)て親分(おやぶん)に迷惑(めいわく)を及(およ)ぼす様(やう)な事(こと)があつては、282乾児(こぶん)としての道(みち)が立(た)たないからのう』
283平(へい)『卑怯(ひけふ)なことを云(い)ふない。284最早(もはや)戦闘(せんとう)準備(じゆんび)が整(ととの)うた上(うへ)は愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐられない。285士気(しき)を沮喪(そさう)する虞(おそれ)がある。286サア之(これ)から鏡(かがみ)を抜(ぬ)いて乾児(こぶん)共(ども)の元気(げんき)をつけ、287暴虎(ばうこ)馮河(ひようが)の勢(いきほひ)で出陣(しゆつぢん)することにしようかい』
288 源州(げんしう)も止(や)むを得(え)ず、289平州(へいしう)の舌剣(ぜつけん)に切(きり)まくられ、290不承(ふしよう)不承(ぶしょう)に賛成(さんせい)をしたので、291愈(いよいよ)出陣(しゆつぢん)の準備(じゆんび)として四斗樽(しとだる)の詰(つめ)を抜(ぬ)き、292乾児(こぶん)は各(おのおの)杓(しやく)に掬(すく)うては呑(の)み掬(すく)うては呑(の)み、293部屋(へや)の中(なか)は山岳(さんがく)も吹(ふ)き飛(と)ばす底(てい)の活気(くわつき)が漲(みなぎ)つて来(き)た。294其所(そこ)へ表戸(おもてど)を叩(たた)く者(もの)がある。295岩公(いはこう)は戸(と)の入口(いりぐち)に神妙(しんめう)に番(ばん)をしてゐたが、296足音(あしおと)や戸(と)の叩(たたき)方(かた)に仍(よ)つて大親分(おほおやぶん)の帰(かへ)つて来(き)た事(こと)を悟(さと)り、297錠(ぢやう)をはづして、298表戸(おもてど)をガラリと引開(ひきあ)け、
299岩(いは)『ヤ、300親分(おやぶん)、301帰(かへ)つて来(き)たか、302待(まち)兼(か)ねたよ』
303と小声(こごゑ)で云(い)ふ。304愛州(あいしう)は、
305愛州『ヤ、306失礼(しつれい)しました。307漸(やうや)くの事(こと)で、308春乃姫(はるのひめ)様(さま)の計(はか)らひで帰(かへ)る事(こと)が出来(でき)ました。309随分(ずいぶん)奥(おく)は賑(にぎは)しい様(やう)ですな』
310岩(いは)『実(じつ)の所(とこ)は、311親分(おやぶん)が今日(けふ)十二(じふに)時(じ)に帰(かへ)らなかつたら、312乾児(こぶん)一同(いちどう)を引(ひ)き連(つ)れ、313非常(ひじやう)手段(しゆだん)をやると云(い)ふので出陣(しゆつぢん)の用意(ようい)をしてるのです。314マア危機(きき)一発(いつぱつ)の所(ところ)へ帰(かへ)つて頂(いただ)き互(たがひ)に結構(けつこう)です』
315と囁(ささや)き乍(なが)らズツト奥(おく)へ入(い)り、
316岩(いは)『オイ兄貴(あにき)連(れん)、317喜(よろこ)び玉(たま)へ。318親分(おやぶん)が無事(ぶじ)帰(かへ)つて来(こ)られたぞ』
319 源州(げんしう)始(はじ)め一同(いちどう)の者(もの)は、
320源州始め一同『ナニ、321親分(おやぶん)がお帰(かへ)りと云(い)ふのか、322ソラ有難(ありがた)い。323門出(かどで)の酒(さけ)が歓迎(くわんげい)の酒(さけ)となつたのか、324何(なん)とマア嬉(うれ)しい事(こと)が出来(でき)て来(き)たものだなア。325あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
326と嬉(うれ)しさの余(あま)り、327常(つね)には神仏(しんぶつ)に手(て)を合(あは)さなんだ侠客(けふかく)連(れん)も思(おも)はず知(し)らず合掌(がつしやう)した。328少時(しばらく)すると愛州(あいしう)の館(やかた)は山岳(さんがく)も崩(くづ)るる許(ばか)り329『万歳(ばんざい)』の声(こゑ)が雷(らい)の如(ごと)くに響(ひび)き渡(わた)つた。
330(大正一三・一・二三 旧一二・一二・一八 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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