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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第69巻(申の巻)
巻頭言
第1篇 清風涼雨
第1章 大評定
第2章 老断
第3章 喬育
第4章 国の光
第5章 性明
第6章 背水会
第2篇 愛国の至情
第7章 聖子
第8章 春乃愛
第9章 迎酒
第10章 宣両
第11章 気転使
第12章 悪原眠衆
第3篇 神柱国礎
第13章 国別
第14章 暗枕
第15章 四天王
第16章 波動
第4篇 新政復興
第17章 琴玉
第18章 老狽
第19章 老水
第20章 声援
第21章 貴遇
第22章 有終
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第69巻(申の巻)
> 第2篇 愛国の至情 > 第8章 春乃愛
<<< 聖子
(B)
(N)
迎酒 >>>
第八章
春乃愛
(
はるのあい
)
〔一七五三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
篇:
第2篇 愛国の至情
よみ(新仮名遣い):
あいこくのしじょう
章:
第8章 春乃愛
よみ(新仮名遣い):
はるのあい
通し章番号:
1753
口述日:
1924(大正13)年01月23日(旧12月18日)
口述場所:
伊予 山口氏邸
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1927(昭和2)年10月26日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
伊佐彦の妻、樽乃姫は嫉妬深く、残虐な性格であった。連夜、政務に追われる夫が帰ってこないことを怒り、ついに春乃姫からの手紙を勘違いして、狂乱してしまう。
街中に剣とピストルを携えて飛び出し、誰彼かまわず切りつけ、狙撃する。ついに、取り締まりに捕縛され、牢獄に投げ込まれる。
隣の牢獄に入れられていた愛州は、樽乃姫の狂乱の様から世の中の乱れを見て取り、その感興を歌に詠んでいる。
一方、春乃姫は侠客たちに約束したとおり、牢獄にやってきて愛州を開放し、城を抜け出す手引きをする。春乃姫は、兄・国照別から知らされて、愛州が実はヒルの国の国司の長子・国愛別であることを知っていたのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6908
愛善世界社版:
119頁
八幡書店版:
第12輯 317頁
修補版:
校定版:
124頁
普及版:
66頁
初版:
ページ備考:
001
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
世子
(
せいし
)
国照別
(
くにてるわけ
)
が、
002
何時
(
いつ
)
とはなしに
城内
(
じやうない
)
より
姿
(
すがた
)
を
消
(
け
)
してから、
003
松若彦
(
まつわかひこ
)
、
004
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
必死
(
ひつし
)
となつて
其
(
その
)
捜索
(
そうさく
)
にかかつてゐた。
005
松若彦
(
まつわかひこ
)
は
大老
(
たいらう
)
として
大小
(
だいせう
)
の
政治
(
せいぢ
)
を
監督
(
かんとく
)
し、
006
伊佐彦
(
いさひこ
)
は
賢平
(
けんぺい
)
、
007
取締
(
とりしまり
)
などを
使役
(
しえき
)
し、
008
専
(
もつぱ
)
ら
国照別
(
くにてるわけ
)
世子
(
せいし
)
の
捜索
(
そうさく
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
挙
(
あ
)
げてゐたが、
009
深溝町
(
ふかみぞちやう
)
俥帳場
(
くるまちやうば
)
に
車夫
(
しやふ
)
となつて
化
(
ばけ
)
込
(
こ
)
んでゐた
事
(
こと
)
が
新聞紙
(
しんぶんし
)
によつて
喧伝
(
けんでん
)
されてからは
一層
(
いつそう
)
打
(
うち
)
驚
(
おどろ
)
き、
010
自
(
みづか
)
ら
変装
(
へんさう
)
して
昼夜
(
ちうや
)
の
別
(
べつ
)
なく
市井
(
しせい
)
の
巷
(
ちまた
)
を
探
(
さぐ
)
り、
011
車夫
(
しやふ
)
らしき
者
(
もの
)
は
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
面体
(
めんてい
)
を
査
(
しら
)
べ、
012
家
(
うち
)
を
外
(
そと
)
に
活動
(
くわつどう
)
を
続
(
つづ
)
けて
居
(
ゐ
)
た。
013
そこへ
又
(
また
)
横小路
(
よここうぢ
)
の
侠客
(
けふかく
)
愛州
(
あいしう
)
が
不穏
(
ふおん
)
な
演説
(
えんぜつ
)
をやり、
014
益々
(
ますます
)
人心
(
じんしん
)
悪化
(
あくくわ
)
の
徴候
(
ちようこう
)
が
見
(
み
)
えたと
云
(
い
)
ふので、
015
眠
(
ねむ
)
たい
目
(
め
)
を
腫
(
は
)
らして
自
(
みづか
)
ら
探
(
さぐり
)
の
任
(
にん
)
に
当
(
あた
)
つてゐた。
016
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
妻
(
つま
)
樽乃姫
(
たるのひめ
)
は、
017
四斗樽
(
しとだる
)
の
如
(
ごと
)
き
大
(
おほ
)
きな
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へた
不格好
(
ぶかくかう
)
な
女
(
をんな
)
である。
018
そして
彼
(
かれ
)
は
極端
(
きよくたん
)
なるサデスムス
患者
(
くわんじや
)
であつた。
019
さてサデスムスとは
嫉妬
(
しつと
)
でもなく
憎悪
(
ぞうを
)
でもなくして、
020
自分
(
じぶん
)
の
最
(
もつと
)
も
愛
(
あい
)
する
異性
(
いせい
)
に
対
(
たい
)
し、
021
普通
(
ふつう
)
一般人
(
いつぱんじん
)
の
想像
(
さうざう
)
だも
及
(
およ
)
ばざる
様
(
やう
)
な
残虐
(
ざんぎやく
)
な
行為
(
かうゐ
)
を
加
(
くは
)
へて、
022
性欲
(
せいよく
)
の
興奮
(
こうふん
)
と
満足
(
まんぞく
)
を
得
(
う
)
ると
云
(
い
)
ふ
病的
(
びやうてき
)
な
人間
(
にんげん
)
を
云
(
い
)
ふので、
023
医学
(
いがく
)
上
(
じやう
)
から
斯
(
か
)
かる
部類
(
ぶるゐ
)
の
人間
(
にんげん
)
を、
024
サデスムス
即
(
すなは
)
ち
性的
(
せいてき
)
残忍症
(
ざんにんしやう
)
といつてゐる。
025
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
く
変態
(
へんたい
)
的
(
てき
)
性欲
(
せいよく
)
狂
(
きやう
)
は、
026
如何
(
いか
)
なる
名医
(
めいい
)
も
薬剤
(
やくざい
)
も
殆
(
ほとん
)
ど
治療
(
ちれう
)
の
望
(
のぞ
)
み
無
(
な
)
き
者
(
もの
)
である。
027
樽乃姫
(
たるのひめ
)
は
此
(
この
)
病気
(
びやうき
)
に
冒
(
をか
)
されてゐた。
028
脂
(
あぶら
)
こく
肥満
(
ひまん
)
した
元気
(
げんき
)
な
肉体
(
にくたい
)
を
有
(
も
)
ち、
029
性欲
(
せいよく
)
の
興奮
(
こうふん
)
を
抑
(
おさ
)
へ
切
(
き
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ず、
030
毎夜
(
まいよ
)
空閨
(
くうけい
)
に
嫉妬
(
しつと
)
の
角
(
つの
)
を
生
(
は
)
やし、
031
連夜
(
れんや
)
夫
(
をつと
)
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
ないのを
見
(
み
)
て、
032
外
(
ほか
)
に
増
(
ます
)
花
(
はな
)
が
出来
(
でき
)
たのではあるまいか、
033
自分
(
じぶん
)
は
元来
(
ぐわんらい
)
不格好
(
ぶかくかう
)
な
女性
(
ぢよせい
)
である、
034
到底
(
たうてい
)
夫
(
をつと
)
の
愛
(
あい
)
し
相
(
さう
)
なスタイルではない。
035
かう
毎晩
(
まいばん
)
家
(
うち
)
を
外
(
そと
)
にして、
036
国家
(
こくか
)
の
老中
(
らうぢう
)
ともあるべき
者
(
もの
)
が、
037
女房
(
にようばう
)
にも
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せないのは、
038
キツトどつかの
待合
(
まちあひ
)
へどつかの
女性
(
ぢよせい
)
を
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
んでヤニ
下
(
さが
)
つてるに
違
(
ちが
)
ひない。
039
かうなれば
可愛
(
かあい
)
さ
余
(
あま
)
つて
憎
(
にく
)
さが
百倍
(
ひやくばい
)
だ。
040
今
(
いま
)
に
主人
(
しゆじん
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たら、
041
ピストルに
丸
(
たま
)
をこめ、
042
いきなり
眉間
(
みけん
)
を
狙
(
ねら
)
つて
一思
(
ひとおも
)
ひに
打
(
うち
)
殺
(
ころ
)
し、
043
他
(
ほか
)
の
仇
(
あだ
)
し
女
(
をんな
)
の
弄具
(
おもちや
)
となつた
股間
(
こかん
)
の
珍器
(
ちんき
)
を
油揚
(
あぶらげ
)
にして、
044
狐
(
きつね
)
に
食
(
く
)
はしてやらうと、
045
恐
(
おそ
)
ろしい
瞋恚
(
しんい
)
の
炎
(
ほのほ
)
を
燃
(
も
)
やし、
046
悋気
(
りんき
)
の
角
(
つの
)
を
生
(
は
)
やし、
047
おみつ
狂乱
(
きやうらん
)
の
様
(
やう
)
なスタイルで
髪
(
かみ
)
を
逆立
(
さかだ
)
て、
048
眉毛
(
まゆげ
)
を
縦
(
たて
)
にして、
049
吐息
(
といき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら
待
(
まち
)
構
(
かま
)
へてゐた。
050
家臣
(
かしん
)
や
下女
(
げぢよ
)
には
事毎
(
ことごと
)
に
八当
(
やつあた
)
りとなり、
051
見
(
み
)
るもの、
052
触
(
さ
)
はるもの、
053
癪
(
しやく
)
に
障
(
さは
)
り、
054
家具
(
かぐ
)
をブチ
破
(
やぶ
)
り、
055
箪笥
(
たんす
)
の
引出
(
ひきだし
)
から
夫
(
をつと
)
の
衣類
(
いるゐ
)
を
引出
(
ひきだ
)
してはベリベリと
引
(
ひき
)
裂
(
さ
)
き、
056
夫
(
をつと
)
の
用
(
もち
)
ゐた
食器
(
しよくき
)
や
下駄
(
げた
)
、
057
靴
(
くつ
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
、
058
メチヤメチヤに
壊
(
こは
)
して
了
(
しま
)
ひ、
059
どうにもかうにも、
060
鎮撫
(
ちんぷ
)
の
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
くなつてゐた。
061
そこへ
高砂城
(
たかさごじやう
)
から
春乃姫
(
はるのひめ
)
様
(
さま
)
のお
使
(
つかひ
)
だと
云
(
い
)
つて、
062
伊佐彦
(
いさひこ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
063
一通
(
いつつう
)
の
書状
(
しよじやう
)
を
送
(
おく
)
つて
来
(
き
)
た。
064
樽乃姫
(
たるのひめ
)
は
其
(
その
)
書状
(
しよじやう
)
を
手早
(
てばや
)
く
手
(
て
)
に
取
(
と
)
り、
065
表書
(
うはがき
)
を
見
(
み
)
れば、
066
『
伊佐彦
(
いさひこ
)
老中殿
(
らうぢうどの
)
、
067
春乃姫
(
はるのひめ
)
より』と
記
(
しる
)
してある。
068
此
(
この
)
文字
(
もじ
)
を
見
(
み
)
るより、
069
又
(
また
)
もや
髪
(
かみ
)
を
逆立
(
さかだ
)
てて、
070
歯
(
は
)
をくひしばり、
071
大
(
おほ
)
きな
鼻
(
はな
)
の
孔
(
あな
)
をムケムケさせ
乍
(
なが
)
ら、
072
バリバリと
封
(
ふう
)
押
(
おし
)
切
(
き
)
り、
073
披
(
ひら
)
いて
見
(
み
)
ればいとも
美
(
うる
)
はしき
水茎
(
みづくき
)
の
跡
(
あと
)
、
074
お
家流
(
いへりう
)
でサラサラと
流
(
なが
)
るる
如
(
ごと
)
くに
書
(
かき
)
流
(
なが
)
してある。
075
樽乃姫
(
たるのひめ
)
は……サアいい
証拠
(
しようこ
)
を
掴
(
つか
)
んだ……と
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ
乍
(
なが
)
ら
読
(
よ
)
んで
行
(
ゆ
)
くと、
076
一筆
(
ひとふで
)
示
(
しめ
)
しまゐらす。
077
先日
(
せんじつ
)
は
妾
(
わらは
)
が
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
につき
色々
(
いろいろ
)
と
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
仰
(
おほ
)
せ
下
(
くだ
)
され、
078
一度
(
いちど
)
は
否
(
いな
)
まむかと
思
(
おも
)
ひ
候
(
さふら
)
ひしも、
079
国家
(
こくか
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
考
(
かんが
)
へ、
080
又
(
また
)
両親
(
りやうしん
)
の
意見
(
いけん
)
を
斟酌
(
しんしやく
)
し、
081
貴殿
(
きでん
)
の
赤心
(
まごころ
)
を
容
(
い
)
れて、
082
遂
(
つひ
)
に
貴意
(
きい
)
に
従
(
したが
)
ふことと
相成
(
あひな
)
りたるは、
083
既
(
すで
)
に
貴殿
(
きでん
)
の
知
(
し
)
らるる
所
(
ところ
)
なり。
084
今後
(
こんご
)
は
互
(
たがひ
)
に
胸襟
(
きようきん
)
を
開
(
ひら
)
き、
085
上下
(
じやうげ
)
の
障壁
(
しやうへき
)
を
断
(
た
)
ち、
086
抱擁
(
はうよう
)
帰一
(
きいつ
)
互
(
たがひ
)
に
心裡
(
しんり
)
を
打
(
うち
)
開
(
あ
)
け、
087
恰
(
あたか
)
も
夫婦間
(
ふうふかん
)
の
愛情
(
あいじやう
)
に
於
(
お
)
けるが
如
(
ごと
)
き
親密
(
しんみつ
)
なる
態度
(
たいど
)
を
以
(
もつ
)
て、
088
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
、
0881
尽力
(
じんりよく
)
致
(
いた
)
し
度
(
たく
)
、
089
此
(
この
)
段
(
だん
)
貴意
(
きい
)
を
得
(
え
)
参
(
まゐ
)
らす、
090
めでたくかしこ
091
と
記
(
しる
)
してある。
092
……サア、
093
サデスムスの
樽乃姫
(
たるのひめ
)
は
怒髪
(
どはつ
)
天
(
てん
)
を
衝
(
つ
)
き、
094
忽
(
たちま
)
ち
残虐性
(
ざんぎやくせい
)
を
発揮
(
はつき
)
し、
095
ピストル
大剣
(
たいけん
)
を
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
に
携
(
たづさ
)
へ、
096
行
(
ゆ
)
きがけの
駄賃
(
だちん
)
にと、
097
家令
(
かれい
)
、
098
家扶
(
かふ
)
、
099
下女
(
げぢよ
)
などを、
100
或
(
あるひ
)
は
狙撃
(
そげき
)
し、
101
或
(
あるひ
)
は
斬
(
きり
)
捨
(
す
)
て、
102
往来
(
ゆきき
)
の
人々
(
ひとびと
)
に
当
(
あた
)
るを
幸
(
さいは
)
ひ
何
(
いづ
)
れも
敵
(
てき
)
と
見
(
み
)
なして、
103
斬
(
き
)
り
立
(
た
)
て
薙
(
な
)
ぎ
立
(
た
)
て、
104
打
(
うち
)
まくり、
105
……
吾
(
わが
)
怨敵
(
をんてき
)
の
所在
(
ありか
)
は
高砂
(
たかさご
)
城内
(
じやうない
)
……と
夜叉
(
やしや
)
の
如
(
ごと
)
くに
髪
(
かみ
)
振
(
ふ
)
り
乱
(
みだ
)
し、
106
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
き
乍
(
なが
)
らあばれ
行
(
ゆ
)
く。
107
たまたま
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
馬場
(
ばば
)
で
駿馬
(
しゆんめ
)
に
跨
(
またが
)
り、
108
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
ひ
駆
(
か
)
け
来
(
きた
)
る
夫
(
をつと
)
伊佐彦
(
いさひこ
)
に
出会
(
であ
)
ひ、
109
矢庭
(
やには
)
に
馬
(
うま
)
の
足
(
あし
)
を
切
(
き
)
り、
110
馬腹
(
ばふく
)
に
風穴
(
かざあな
)
を
穿
(
うが
)
ち、
111
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
顛倒
(
てんたう
)
せしめた。
112
伊佐彦
(
いさひこ
)
は
形相
(
ぎやうさう
)
変
(
かは
)
つた
其
(
その
)
面体
(
めんてい
)
に、
113
自分
(
じぶん
)
の
妻
(
つま
)
とは
知
(
し
)
らず、
114
賢平
(
けんぺい
)
、
115
取締
(
とりしまり
)
を
指揮
(
しき
)
して、
116
苦
(
く
)
も
無
(
な
)
く
之
(
これ
)
を
捕縛
(
ほばく
)
せしめ、
117
町
(
まち
)
はづれの
牢獄
(
らうごく
)
に
投込
(
なげこ
)
ましめた。
118
樽乃姫
(
たるのひめ
)
は
侠客
(
けふかく
)
の
親分
(
おやぶん
)
愛州
(
あいしう
)
の
繋
(
つな
)
がれてゐる
隣
(
となり
)
の
牢獄
(
らうごく
)
に、
119
四肢
(
しし
)
五体
(
ごたい
)
を
厳
(
きび
)
しく
縛
(
しば
)
られ
投込
(
なげこ
)
まれた。
120
そして
殆
(
ほとん
)
ど
半狂乱
(
はんきやうらん
)
状態
(
じやうたい
)
となり、
121
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
喋
(
しやべ
)
り
立
(
た
)
ててゐる。
122
樽乃
(
たるの
)
『エー、
123
残念
(
ざんねん
)
や
口惜
(
くちを
)
しや、
124
妾
(
わらは
)
に
何科
(
なにとが
)
あつて
斯様
(
かやう
)
な
醜
(
みぐるし
)
き
牢獄
(
らうごく
)
へブチ
込
(
こ
)
んだのか。
125
妾
(
わらは
)
は
勿体
(
もつたい
)
なくも
高砂城
(
たかさごじやう
)
に
於
(
おい
)
て、
126
老中
(
らうぢう
)
と
尊敬
(
そんけい
)
されたる
伊佐彦
(
いさひこ
)
が
女房
(
にようばう
)
、
127
樽乃姫
(
たるのひめ
)
様
(
さま
)
だ。
128
然
(
しか
)
るに
賢平
(
けんぺい
)
の
奴
(
やつ
)
、
129
尊
(
たふと
)
き
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
も
知
(
し
)
らず、
130
盲
(
めくら
)
滅法界
(
めつぽふかい
)
に
妾
(
わらは
)
を
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げ、
131
穢
(
むさくる
)
しい
牢屋
(
らうや
)
に
投込
(
なげこ
)
むとは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
132
今
(
いま
)
に
仕返
(
しかへ
)
しをしてやるから、
133
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
つたがよからうぞ。
134
エー
残念
(
ざんねん
)
やな、
135
クヽ
口惜
(
くちを
)
しやな。
136
此
(
この
)
縛
(
いまし
)
めが
解
(
と
)
けたならば、
137
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
きヒヨヒヨの
牢獄
(
らうごく
)
138
只
(
ただ
)
一叩
(
ひとたたき
)
に
打
(
うち
)
破
(
やぶ
)
り、
139
吾
(
わが
)
夫
(
をつと
)
を
寝取
(
ねと
)
つた
春乃姫
(
はるのひめ
)
を
始
(
はじ
)
め、
140
夫
(
をつと
)
伊佐彦
(
いさひこ
)
の
生首
(
なまくび
)
を
引
(
ひき
)
抜
(
ぬ
)
き、
141
みん
事
(
ごと
)
敵
(
かたき
)
を
討
(
う
)
つて
見
(
み
)
せうぞ。
142
坊主
(
ばうず
)
が
憎
(
にく
)
けりや
袈娑
(
けさ
)
まで
憎
(
にく
)
い。
143
国依別
(
くによりわけ
)
の
国司
(
こくし
)
も
末子姫
(
すゑこひめ
)
、
144
松若彦
(
まつわかひこ
)
も
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
斬
(
き
)
り
立
(
た
)
て
薙
(
な
)
ぎ
立
(
た
)
て、
145
恨
(
うらみ
)
を
晴
(
は
)
らさでおかうか。
146
モウかうなる
上
(
うへ
)
は
樽乃姫
(
たるのひめ
)
は
鬼
(
おに
)
だ、
147
悪魔
(
あくま
)
だ、
148
夜叉
(
やしや
)
明王
(
みやうわう
)
だ、
149
阿修羅
(
あしゆら
)
王
(
わう
)
だ。
150
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
泥海
(
どろうみ
)
にしてでも、
151
恨
(
うらみ
)
を
晴
(
は
)
らさにやおくものか』
152
とキリキリキリと
歯切
(
はぎり
)
をかみ、
153
昼夜
(
ちうや
)
の
別
(
べつ
)
なく、
154
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
を
繰返
(
くりかへ
)
し
繰返
(
くりかへ
)
し
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
る。
155
隣室
(
りんしつ
)
に
繋
(
つな
)
がれて
居
(
ゐ
)
る
愛州
(
あいしう
)
は、
156
樽乃姫
(
たるのひめ
)
の
狂的
(
きやうてき
)
独語
(
どくご
)
を
聞
(
き
)
いて、
157
興味
(
きようみ
)
を
感
(
かん
)
じ
歌
(
うた
)
ふ。
158
『うば
玉
(
たま
)
の
暗
(
やみ
)
の
世
(
よ
)
なれば
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
159
牢屋
(
ひとや
)
の
中
(
なか
)
まで
忍
(
しの
)
び
来
(
く
)
るかな。
160
サデスムス
病
(
や
)
みて
夜昼
(
よるひる
)
あれ
狂
(
くる
)
ふ
161
烈
(
はげ
)
しき
性欲
(
せいよく
)
に
狂
(
くる
)
ひタルの
姫
(
ひめ
)
。
162
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
正義
(
せいぎ
)
の
為
(
ため
)
に
捕
(
とら
)
へられ
163
ままならね
共
(
ども
)
心
(
こころ
)
は
平
(
たひ
)
らか。
164
吾
(
わが
)
身
(
み
)
をば
殺
(
ころ
)
す
魔神
(
まがみ
)
の
来
(
きた
)
る
共
(
とも
)
165
指
(
ゆび
)
もさされぬ
魂
(
たま
)
の
命
(
いのち
)
は。
166
国
(
くに
)
さまや
幾公
(
いくこう
)
、
浅公
(
あさこう
)
其
(
その
)
外
(
ほか
)
の
167
真人
(
まびと
)
はいかに
世
(
よ
)
を
過
(
すご
)
すらむ。
168
ヒルの
国
(
くに
)
ヒルの
都
(
みやこ
)
を
後
(
あと
)
にして
169
思
(
おも
)
ひもよらぬ
悩
(
なや
)
みする
哉
(
かな
)
。
170
暗
(
やみ
)
の
世
(
よ
)
のいと
深
(
ふか
)
ければ
黎明
(
れいめい
)
に
171
近
(
ちか
)
きを
思
(
おも
)
ひて
独
(
ひと
)
り
楽
(
たの
)
しむ。
172
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
真
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
のゐます
上
(
うへ
)
は
173
救
(
すく
)
ひ
玉
(
たま
)
はむ
吾
(
われ
)
の
身魂
(
みたま
)
を。
174
今
(
いま
)
しばし
牢屋
(
ひとや
)
の
中
(
なか
)
にひそみつつ
175
神
(
かみ
)
にうけたる
霊
(
みたま
)
きよめむ。
176
可憐
(
かれん
)
なる
樽乃
(
たるの
)
の
姫
(
ひめ
)
の
繰言
(
くりごと
)
を
177
聞
(
き
)
きて
世
(
よ
)
のさま
明
(
あきら
)
かに
知
(
し
)
る。
178
樽乃姫
(
たるのひめ
)
暫
(
しばら
)
く
待
(
ま
)
てよいかめしき
179
鉄門
(
かなど
)
の
開
(
ひら
)
く
春
(
はる
)
や
来
(
きた
)
らむ。
180
汝
(
なれ
)
が
身
(
み
)
を
救
(
すく
)
ひやらむとあせれ
共
(
ども
)
181
儘
(
まま
)
ならぬ
身
(
み
)
の
如何
(
いか
)
に
詮
(
せん
)
なき』
182
斯
(
か
)
く
口吟
(
くちずさ
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
183
其処
(
そこ
)
へ
盛装
(
せいさう
)
を
凝
(
こ
)
らした
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
が
従者
(
じゆうしや
)
をも
連
(
つ
)
れず、
184
牢屋
(
ひとや
)
の
巡視
(
じゆんし
)
を
名目
(
めいもく
)
に
愛州
(
あいしう
)
の
在所
(
ありか
)
を
訪
(
たづ
)
ねてやつて
来
(
き
)
た。
185
数多
(
あまた
)
の
科人
(
とがにん
)
が
沢山
(
たくさん
)
の
牢屋
(
ひとや
)
の
中
(
なか
)
に
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれてゐるので、
186
一目
(
ひとめ
)
も
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
のない
春乃姫
(
はるのひめ
)
には、
187
どれが
愛州
(
あいしう
)
だか
見当
(
けんたう
)
がつかなかつた。
188
春乃姫
(
はるのひめ
)
は
淑
(
しと
)
やかな
声
(
こゑ
)
にて
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
愛州
(
あいしう
)
を
尋
(
たづ
)
ねてゐる。
189
『ここは
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
190
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
町
(
まち
)
はづれ
191
罪
(
つみ
)
ある
人
(
ひと
)
も
罪
(
つみ
)
のなき
192
人
(
ひと
)
も
諸共
(
もろとも
)
盲
(
めしひ
)
たる
193
司
(
つかさ
)
が
縛
(
しば
)
りあつめ
来
(
き
)
て
194
無理
(
むり
)
に
投込
(
なげこ
)
む
地獄道
(
ぢごくだう
)
195
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
に
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
196
白浪
(
しらなみ
)
男
(
をとこ
)
の
愛州
(
あいしう
)
は
197
どこの
牢屋
(
らうや
)
に
潜
(
ひそ
)
むやら
198
乾児
(
こぶん
)
の
源州
(
げんしう
)
其
(
その
)
他
(
ほか
)
の
199
数多
(
あまた
)
の
乾児
(
こぶん
)
に
頼
(
たの
)
まれて
200
汝
(
なれ
)
を
救
(
すく
)
ひに
来
(
き
)
た
女
(
をんな
)
201
名乗
(
なの
)
れよ
名乗
(
なの
)
れ
愛州
(
あいしう
)
よ
202
仁
(
じん
)
と
愛
(
あい
)
とは
天地
(
あめつち
)
の
203
神
(
かみ
)
の
尊
(
たふと
)
き
御心
(
みこころ
)
ぞ
204
今
(
いま
)
常暗
(
とこやみ
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
205
表
(
おもて
)
に
愛
(
あい
)
を
標榜
(
へうばう
)
し
206
蔭
(
かげ
)
に
潜
(
ひそ
)
みて
悪
(
あく
)
をなす
207
牢屋
(
らうや
)
にいます
愛州
(
あいしう
)
は
208
悪
(
あく
)
を
表
(
おもて
)
に
標榜
(
へうばう
)
し
209
普
(
あまね
)
く
愛
(
あい
)
を
発揮
(
はつき
)
して
210
市井
(
しせい
)
の
弱者
(
じやくしや
)
を
扶
(
たす
)
けゆく
211
神
(
かみ
)
か
仏
(
ほとけ
)
か
真人
(
しんじん
)
か
212
かかる
尊
(
たふと
)
き
侠客
(
けふかく
)
を
213
己
(
おのれ
)
の
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
いとて
214
あらぬ
罪名
(
ざいめい
)
をきせ
乍
(
なが
)
ら
215
牢屋
(
らうや
)
に
投込
(
なげこ
)
む
憎
(
にく
)
らしさ
216
これぞ
全
(
まつた
)
く
醜司
(
しこつかさ
)
217
表
(
おもて
)
に
忠義
(
ちうぎ
)
を
飾
(
かざ
)
りつつ
218
己
(
おの
)
が
野望
(
やばう
)
の
妨
(
さまた
)
げと
219
なる
真人
(
しんじん
)
を
悉
(
ことごと
)
く
220
苦
(
くる
)
しめなやまし
吾
(
わが
)
望
(
のぞ
)
み
221
立
(
た
)
てむが
為
(
た
)
めの
企
(
たく
)
み
事
(
ごと
)
222
看破
(
かんぱ
)
したれば
春乃姫
(
はるのひめ
)
223
人目
(
ひとめ
)
を
忍
(
しの
)
び
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
224
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
りて
愛州
(
あいしう
)
の
225
命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けむと
226
心
(
こころ
)
を
千々
(
ちぢ
)
に
砕
(
くだ
)
くなり
227
早
(
はや
)
く
名乗
(
なの
)
れよ
愛
(
あい
)
の
神
(
かみ
)
228
愛
(
あい
)
の
女神
(
めがみ
)
は
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
229
汝
(
なれ
)
が
在所
(
ありか
)
を
尋
(
たづ
)
ねつつ
230
下
(
くだ
)
り
来
(
き
)
にけり
逸早
(
いちはや
)
く
231
名乗
(
なの
)
らせ
玉
(
たま
)
へ
愛
(
あい
)
の
神
(
かみ
)
232
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
男伊達
(
をとこだて
)
233
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
男伊達
(
をとこだて
)
』
234
と
歌
(
うた
)
ひつつ
愛州
(
あいしう
)
の
牢屋
(
らうや
)
の
前
(
まへ
)
に
来
(
きた
)
る。
235
愛州
(
あいしう
)
は
此
(
この
)
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
くより、
236
驚喜
(
きやうき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
237
稍
(
やや
)
疲
(
つか
)
れたる
声
(
こゑ
)
にて、
238
『
雪霜
(
ゆきしも
)
にとぢこめられし
白梅
(
しらうめ
)
も
239
春乃光
(
はるのひかり
)
に
会
(
あ
)
ひて
笑
(
わら
)
はむ。
240
曲
(
まが
)
りたる
事
(
こと
)
しなさねど
醜神
(
しこがみ
)
の
241
忌憚
(
きたん
)
にふれて
捕
(
とら
)
へられける。
242
吾
(
わが
)
身
(
み
)
をば
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
くる
春乃姫
(
はるのひめ
)
の
243
あつき
心
(
こころ
)
に
涙
(
なみだ
)
こぼるる』
244
春乃姫
(
はるのひめ
)
は
此
(
この
)
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
くより、
245
愛州
(
あいしう
)
なることを
悟
(
さと
)
り、
246
手早
(
てばや
)
く
錠
(
ぢやう
)
をはづし、
247
暗
(
くら
)
き
牢屋
(
らうや
)
に
打
(
うち
)
向
(
むか
)
ひ、
248
『
花
(
はな
)
は
開
(
ひら
)
き
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
のめぐむ
春乃姫
(
はるのひめ
)
249
いざ
導
(
みちび
)
かむ
花
(
はな
)
の
御園
(
みその
)
へ』
250
愛州
(
あいしう
)
『
有難
(
ありがた
)
し
辱
(
かたじけ
)
なしと
述
(
の
)
ぶるより
251
宣
(
の
)
る
言霊
(
ことたま
)
を
知
(
し
)
らぬ
嬉
(
うれ
)
しさ』
252
春乃姫
(
はるのひめ
)
『いざ
早
(
はや
)
く
出
(
い
)
でさせ
玉
(
たま
)
へ
此
(
この
)
牢屋
(
らうや
)
253
醜
(
しこ
)
の
司
(
つかさ
)
に
見
(
み
)
つけられぬ
内
(
うち
)
』
254
愛州
(
あいしう
)
『
男伊達
(
をとこだて
)
心
(
こころ
)
ならずも
汝
(
な
)
が
君
(
きみ
)
の
255
恵
(
めぐみ
)
にほだされ
牢屋
(
らうや
)
を
出
(
い
)
でむ』
256
と
返
(
かへ
)
し
乍
(
なが
)
ら
春乃姫
(
はるのひめ
)
に
導
(
みちび
)
かれ、
257
非常門
(
ひじやうもん
)
口
(
ぐち
)
より
両人
(
りやうにん
)
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
りて
夜陰
(
やいん
)
に
紛
(
まぎ
)
れ、
258
何
(
いづ
)
れともなく
落
(
お
)
ちのび、
259
二人
(
ふたり
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
北
(
きた
)
へ
北
(
きた
)
へと
町外
(
まちはづ
)
れの
道
(
みち
)
を、
260
転
(
こ
)
けつ
輾
(
まろ
)
びつ、
261
日暮
(
ひぐらし
)
の
森
(
もり
)
へと
駆
(
か
)
けつけ、
262
古
(
ふる
)
ぼけた
鎮守
(
ちんじゆ
)
の
宮
(
みや
)
の
床下
(
ゆかした
)
に
夜露
(
よつゆ
)
を
凌
(
しの
)
ぐこととなりぬ。
263
愛州
(
あいしう
)
『
尊
(
たふと
)
き
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
264
侠客
(
けふかく
)
如
(
ごと
)
き
吾々
(
われわれ
)
一人
(
ひとり
)
を
助
(
たす
)
けむが
為
(
ため
)
に
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
をかけまして、
265
誠
(
まこと
)
に
感謝
(
かんしや
)
に
堪
(
た
)
へませぬ。
266
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
いませう
共
(
とも
)
、
267
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
の
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
、
268
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
御
(
ご
)
恩返
(
おんがへし
)
を
仕
(
つかまつ
)
ります』
269
と
改
(
あらた
)
めて
感謝
(
かんしや
)
の
辞
(
じ
)
を
述
(
の
)
べた。
270
春乃
(
はるの
)
『
貴方
(
あなた
)
は
侠客
(
けふかく
)
の
愛州
(
あいしう
)
さまとは
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
忍
(
しの
)
ぶ
仮
(
かり
)
の
御名
(
みな
)
、
271
貴方
(
あなた
)
はヒルの
都
(
みやこ
)
の
楓別
(
かへでわけ
)
様
(
さま
)
の
長子
(
ちやうし
)
国愛別
(
くにちかわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いませうがな』
272
と
星
(
ほし
)
をさされて、
273
愛州
(
あいしう
)
はハツと
胸
(
むね
)
を
押
(
おさ
)
へ、
274
『イエイエ
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
左様
(
さやう
)
な
尊
(
たふと
)
い
身分
(
みぶん
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ。
275
ホンの
市井
(
しせい
)
のならず
者
(
もの
)
、
276
博奕
(
ばくち
)
を
渡世
(
とせい
)
に
致
(
いた
)
す
酢
(
す
)
でも
蒟蒻
(
こんにやく
)
でもゆかない、
277
ケチな
野郎
(
やらう
)
でごぜえやす。
278
勿体
(
もつたい
)
ない
279
そんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ひますと、
280
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
つて
目
(
め
)
が
潰
(
つぶ
)
れるかも
知
(
し
)
れませぬよ、
281
アツハヽヽヽ。
282
御
(
ご
)
冗談
(
じようだん
)
も
可
(
よ
)
いかげんにして
下
(
くだ
)
さいませ』
283
春乃
(
はるの
)
『イエイエお
隠
(
かく
)
しには
及
(
およ
)
びませぬ。
284
吾
(
わが
)
兄
(
あに
)
国照別
(
くにてるわけ
)
からソツと
手紙
(
てがみ
)
が
参
(
まゐ
)
つて
居
(
を
)
ります。
285
其
(
その
)
手紙
(
てがみ
)
によれば、
286
横小路
(
よここうぢ
)
の
侠客
(
けふかく
)
愛州
(
あいしう
)
といふのは
自分
(
じぶん
)
の
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
だが、
287
実際
(
じつさい
)
の
素性
(
すじやう
)
を
明
(
あ
)
かせば、
288
ヒルの
国
(
くに
)
の
城主
(
じやうしゆ
)
の
御
(
ご
)
長子
(
ちようし
)
国愛別
(
くにちかわけ
)
様
(
さま
)
だと
書
(
か
)
いて
厶
(
ござ
)
いましたよ。
289
そしてお
前
(
まへ
)
も
理想
(
りさう
)
の
夫
(
をつと
)
が
有
(
も
)
ちたいだらうが、
290
兄
(
あに
)
の
目
(
め
)
から
見
(
み
)
たお
前
(
まへ
)
に
適当
(
てきたう
)
な
夫
(
をつと
)
は、
291
あの
愛州
(
あいしう
)
様
(
さま
)
だと
書
(
か
)
いて
厶
(
ござ
)
いましたもの。
292
貴方
(
あなた
)
は
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
お
隠
(
かく
)
しになつても、
293
兄
(
あに
)
が
証明
(
しようめい
)
してゐるから
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
294
愛州
(
あいしう
)
『
拙者
(
わつち
)
やア、
295
国
(
くに
)
さまとか、
296
国照別
(
くにてるわけ
)
さまとか、
297
そんな
尊
(
たふと
)
いお
方
(
かた
)
と
一面識
(
いちめんしき
)
も
厶
(
ござ
)
いやせぬ。
298
ソラ
大方
(
おほかた
)
人違
(
ひとちが
)
ひで
厶
(
ござ
)
いやせう。
299
愛
(
あい
)
といふ
名
(
な
)
はわつち
一人
(
ひとり
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いやせぬ。
300
どうか、
301
御
(
お
)
取違
(
とりちが
)
ひのない
様
(
やう
)
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
しやす』
302
春乃姫
(
はるのひめ
)
はポンと
肩
(
かた
)
を
叩
(
たた
)
き、
303
『
国愛別
(
くにちかわけ
)
様
(
さま
)
、
304
駄目
(
だめ
)
ですよ、
305
お
隠
(
かく
)
しには
及
(
およ
)
びませぬ。
306
サア
之
(
これ
)
から
横小路
(
よここうぢ
)
のお
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
らうではありませぬか。
307
妾
(
わらは
)
は
源州
(
げんしう
)
さまにキツと
親方
(
おやかた
)
を
近
(
ちか
)
い
内
(
うち
)
に
手渡
(
てわた
)
しすると、
308
約束
(
やくそく
)
がしてあるのですから、
309
是非
(
ぜひ
)
一度
(
いちど
)
は
源州
(
げんしう
)
さまに、
310
貴方
(
あなた
)
の
身柄
(
みがら
)
を
御
(
お
)
渡
(
わた
)
しせねばなりませぬからね』
311
愛州
(
あいしう
)
『ヤア
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
312
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
只今
(
ただいま
)
となつては、
313
破獄
(
はごく
)
逃走者
(
たうそうしや
)
としてズキがまはり、
314
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
は
賢平
(
けんぺい
)
取締
(
とりしまり
)
を
以
(
もつ
)
て、
315
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
に
取
(
とり
)
まいてをりませう。
316
左様
(
さやう
)
な
危険
(
きけん
)
な
所
(
ところ
)
へ
帰
(
かへ
)
るのは
考
(
かんがへ
)
ものですな。
317
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
、
318
人
(
ひと
)
の
為
(
ため
)
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てるのは、
319
少
(
すこ
)
しも
惜
(
をし
)
みませぬが、
320
ムザムザと
命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てるのは
残念
(
ざんねん
)
で
厶
(
ござ
)
いますから……』
321
春乃
(
はるの
)
『
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
322
妾
(
わらは
)
は
不肖
(
ふせう
)
乍
(
なが
)
らも
高砂城
(
たかさごじやう
)
の
世継
(
よつぎ
)
春乃姫
(
はるのひめ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
323
仮令
(
たとへ
)
幾万
(
いくまん
)
の
捕手
(
とりて
)
が
来
(
きた
)
る
共
(
とも
)
、
324
只
(
ただ
)
一言
(
いちごん
)
にて
解散
(
かいさん
)
をさせてみせませう。
325
そして
此
(
この
)
後
(
ご
)
は
役人
(
やくにん
)
共
(
ども
)
に
指
(
ゆび
)
一本
(
いつぽん
)
さへさせませぬから、
326
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ』
327
愛州
(
あいしう
)
『
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
328
左様
(
さやう
)
なればお
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
ひ、
329
吾
(
わが
)
家
(
いへ
)
へ
帰
(
かへ
)
りませう。
330
送
(
おく
)
つて
貰
(
もら
)
ふのも
何
(
なん
)
だか
乾児
(
こぶん
)
の
前
(
まへ
)
、
331
恥
(
はづか
)
しいやうな
気分
(
きぶん
)
が
致
(
いた
)
しますから、
332
貴方
(
あなた
)
はどうぞお
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
333
私
(
わたくし
)
はボツボツ
乾児
(
こぶん
)
が
待
(
ま
)
つてゐませうから、
334
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
ることに
致
(
いた
)
しませう。
335
何分
(
なにぶん
)
後
(
あと
)
の
所
(
ところ
)
は
宜
(
よろ
)
しく
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
します』
336
春乃
(
はるの
)
『
左様
(
さやう
)
なれば、
337
妾
(
わらは
)
は
之
(
これ
)
から
城内
(
じやうない
)
へ
帰
(
かへ
)
ることに
致
(
いた
)
します。
338
今
(
いま
)
少時
(
しばし
)
城内
(
じやうない
)
に
止
(
とどま
)
り、
339
世子
(
せいし
)
の
位地
(
ゐち
)
に
立
(
た
)
つてゐなければ、
340
何
(
なに
)
かの
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
う
厶
(
ござ
)
いますから……
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
清家
(
せいか
)
的
(
てき
)
生活
(
せいくわつ
)
は
致
(
いた
)
したくありませぬから、
341
将来
(
しやうらい
)
は
夫婦
(
ふうふ
)
……
否
(
いな
)
兄妹
(
きやうだい
)
の
如
(
ごと
)
くなつて、
342
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
に
尽
(
つく
)
さうでは
厶
(
ござ
)
いませぬか、
343
ねえ
国愛別
(
くにちかわけ
)
様
(
さま
)
』
344
愛州
(
あいしう
)
『ハイ、
345
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
346
と
右
(
みぎ
)
と
左
(
ひだり
)
に
立別
(
たちわか
)
れ、
347
朧夜
(
おぼろよ
)
の
影
(
かげ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
了
(
しま
)
つた。
348
(
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旧一二・一二・一八
伊予 於山口氏邸
松村真澄
録)
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