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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第19巻(午の巻)
序
凡例
総説三十三魂
第1篇 神慮洪遠
第1章 高熊山
第2章 鶍の嘴
第3章 千騎一騎
第4章 善か悪か
第2篇 意外の意外
第5章 零敗の苦
第6章 和合と謝罪
第7章 牛飲馬食
第8章 大悟徹底
第3篇 至誠通神
第9章 身魂の浄化
第10章 馬鹿正直
第11章 変態動物
第12章 言照姫
第4篇 地異天変
第13章 混線
第14章 声の在所
第15章 山神の滝
第16章 玉照彦
第17章 言霊車
霊の礎(五)
余白歌
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
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第19巻(午の巻)
> 第1篇 神慮洪遠 > 第2章 鶍の嘴
<<< 高熊山
(B)
(N)
千騎一騎 >>>
第二章
鶍
(
いすか
)
の
嘴
(
はし
)
〔六四七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻
篇:
第1篇 神慮洪遠
よみ(新仮名遣い):
しんりょこうえん
章:
第2章 鶍の嘴
よみ(新仮名遣い):
いすかのはし
通し章番号:
647
口述日:
1922(大正11)年05月06日(旧04月10日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
魔窟ケ原の岩屋で、高姫、黒姫、高山彦は、青彦らの首尾を待っていた。そこへ様子伺いに行っていた梅公は、辰公、鳶公を従えて息せき切って戻ってきた。
梅公の様子を見て、門番をしていた寅若は、不首尾を悟ってあざ笑う。
青彦らの戻りが遅いので、高姫は心配するが、黒姫は自分が信任した青彦たちをかばう。黒姫は夫の高山彦に同意を求めようとするが、高山彦も青彦たちに対して懐疑的なため、黒姫と喧嘩になり、高姫にたしなめられる。
そこへ、寅若に連れられて梅公たちが入ってきた。黒姫は首尾を尋ねるが、梅公たちははぐらかしてはっきり答えない。高姫が、青彦たちは三五教へ返ったのだろう、と問うと、ようやく梅公はその事実を認めた。
それを聞くと高姫はさっさとフサの国へ帰ろうと、鳥船指して由良の港へ走って出て行ってしまった。
高山彦は、このままでは高姫に合わせる顔がないと、世継王山に単身乗り込んで、玉照姫を奪おうと駆け出した。黒姫も高山彦の後に続いた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-03-30 17:14:07
OBC :
rm1902
愛善世界社版:
19頁
八幡書店版:
第4輯 35頁
修補版:
校定版:
19頁
普及版:
7頁
初版:
ページ備考:
001
足
(
あし
)
踏
(
ふ
)
む
隙
(
すき
)
も
夏草
(
なつくさ
)
の、
002
生茂
(
おひしげ
)
りたる
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
、
003
山時鳥
(
やまほととぎす
)
悲
(
かな
)
しげに、
004
血
(
ち
)
を
吐
(
は
)
く
思
(
おも
)
ひの
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
、
005
高姫
(
たかひめ
)
、
006
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
007
黒姫
(
くろひめ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
008
奥
(
おく
)
の
一室
(
ひとま
)
に
鼎坐
(
ていざ
)
して、
009
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
青彦
(
あをひこ
)
の、
010
消息
(
たより
)
如何
(
いか
)
にと
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たる。
011
頃
(
ころ
)
しもあれや
梅公
(
うめこう
)
は、
012
辰
(
たつ
)
、
013
鳶
(
とび
)
二人
(
ふたり
)
を
従
(
したが
)
へて、
014
息
(
いき
)
せき
切
(
き
)
つて
馳
(
は
)
せ
帰
(
かへ
)
りきぬ。
015
寅若
(
とらわか
)
『ヨオ、
016
梅公
(
うめこう
)
ぢやないか、
017
何処
(
どこ
)
へ
行
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
018
甚
(
ひど
)
う
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
が
晴
(
は
)
れ
晴
(
ば
)
れして
居
(
ゐ
)
ないぢやないか、
019
何時
(
いつ
)
も
快活
(
くわいくわつ
)
なお
前
(
まへ
)
に
似合
(
にあ
)
はず、
020
どこともなく
影
(
かげ
)
が
薄
(
うす
)
う
見
(
み
)
えて
仕方
(
しかた
)
がないワ』
021
梅公
(
うめこう
)
『エヽ、
022
何
(
なん
)
でもない、
023
お
前
(
まへ
)
の
出
(
で
)
る
幕
(
まく
)
ぢやないから
柔順
(
おとな
)
しく
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ろ』
024
寅若
(
とらわか
)
は
ニタリ
と
笑
(
わら
)
ひ、
025
寅若
(
とらわか
)
『ヘン、
026
やられよつたな、
027
鼈
(
すつぽん
)
に
尻
(
しり
)
をやられたと
云
(
い
)
はうか、
028
嘘
(
うそ
)
を
月夜
(
つきよ
)
に
釜
(
かま
)
を
抜
(
ぬ
)
かれたと
云
(
い
)
ふ
為体
(
ていたらく
)
、
029
又
(
また
)
も
違
(
ちが
)
つたら
梟鳥
(
ふくろどり
)
が
夜食
(
やしよく
)
に
外
(
はづ
)
れたと
云
(
い
)
ふ
塩梅
(
あんばい
)
式
(
しき
)
だな、
030
黒姫
(
くろひめ
)
さまもよい
家来
(
けらい
)
をお
持
(
も
)
ちになつて
仕合
(
しあは
)
せだワイ、
031
イヒヽヽヽ』
032
梅公
(
うめこう
)
『エヽ
喧敷
(
やかまし
)
う
云
(
い
)
ふな、
033
其処
(
そこ
)
退
(
ど
)
け、
034
ソンナ
狭
(
せま
)
い
入口
(
いりぐち
)
に
貴様
(
きさま
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
ては
這入
(
はい
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
やしないワ』
035
寅若
(
とらわか
)
『ハヽヽヽ、
036
可成
(
なるべく
)
這入
(
はい
)
らぬが
好
(
よ
)
からうぜ、
037
御
(
ご
)
注進
(
ちうしん
)
申上
(
まをしあ
)
げるや
否
(
いな
)
や
形勢
(
けいせい
)
不穏
(
ふおん
)
、
038
大地震
(
だいぢしん
)
でも
勃発
(
ぼつぱつ
)
してみよ、
039
此
(
この
)
岩窟
(
いはや
)
はガタガタだ。
040
此
(
この
)
寅若
(
とらわか
)
は
御
(
ご
)
信任
(
しんにん
)
が
無
(
な
)
いから
駄目
(
だめ
)
だが、
041
併
(
しか
)
し
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまや、
042
青彦
(
あをひこ
)
さま、
043
それに
次
(
つい
)
で
梅公
(
うめこう
)
と
来
(
き
)
たら
豪
(
えら
)
いものだよ。
044
一
(
ひと
)
つ
今回
(
こんくわい
)
の
失敗
(
しつぱい
)
、
045
否
(
いや
)
、
046
お
手柄話
(
てがらばなし
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はうかい、
047
何時
(
いつ
)
も
黒姫
(
くろひめ
)
は
目
(
め
)
が
黒
(
くろ
)
いと
仰有
(
おつしや
)
る、
048
間違
(
まちが
)
ひはあるまい、
049
此
(
この
)
眼
(
め
)
で
一目
(
ひとめ
)
睨
(
にら
)
みたら
些
(
ちつ
)
とも
違
(
ちが
)
はぬと
仰
(
あふ
)
せられるのだからなア、
050
アハヽヽヽ』
051
と
頤
(
あご
)
をしやくつて
入口
(
いりぐち
)
に
立
(
た
)
ち
塞
(
ふさ
)
がり、
052
きよく
つた
[
※
「きよくつた」は「曲(きょく)った」か? 「曲(きょく)る」とは、冷やかすとか、からかうという意味。
]
やうな
笑
(
わら
)
ひをする。
053
奥
(
おく
)
の
一室
(
ひとま
)
には
高姫
(
たかひめ
)
、
054
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
055
黒姫
(
くろひめ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
056
鳩首
(
きうしゆ
)
謀議
(
ぼうぎ
)
の
真最中
(
まつさいちう
)
なりける。
057
高姫
(
たかひめ
)
『これ
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
058
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
青彦
(
あをひこ
)
が
出立
(
しゆつたつ
)
してから、
059
もう
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
にもなるぢやありませぬか、
060
それに
今
(
いま
)
になつて、
061
猫
(
ねこ
)
が
嚔
(
くしやみ
)
をしたとも、
062
膿
(
う
)
ンだ
鼻
(
はな
)
が
潰
(
つぶ
)
れたとも
云
(
い
)
ふ
便
(
たよ
)
りが
無
(
な
)
いぢやありませぬか、
063
貴女
(
あなた
)
のお
眼識
(
めがね
)
に
叶
(
かな
)
つた
許
(
ばか
)
りか、
064
選抜
(
せんばつ
)
してお
遣
(
や
)
りになつたのだから、
065
如才
(
じよさい
)
はありますまいが、
066
万一
(
まんいち
)
あつては
大変
(
たいへん
)
だと
気
(
き
)
に
懸
(
かか
)
つてなりませぬワ』
067
黒姫
(
くろひめ
)
は
稍
(
やや
)
不安
(
ふあん
)
の
面持
(
おももち
)
にて、
068
黒姫
『
何分
(
なにぶん
)
突飛
(
とつぴ
)
な
談判
(
だんぱん
)
に
遣
(
や
)
つたものだから、
069
摺
(
す
)
つた
揉
(
も
)
ンだと、
070
毎日
(
まいにち
)
問題
(
もんだい
)
が
次
(
つぎ
)
から
次
(
つぎ
)
へと
提出
(
ていしゆつ
)
され、
071
家庭
(
かてい
)
会議
(
くわいぎ
)
でも
開
(
ひら
)
いて
連日
(
れんじつ
)
連夜
(
れんや
)
小田原
(
をだはら
)
評定
(
へうぢやう
)
に
時
(
とき
)
を
費
(
つひ
)
やして
居
(
ゐ
)
るのでせう。
072
早
(
はや
)
く
成
(
な
)
るものは
破
(
やぶ
)
れ
易
(
やす
)
く、
073
遅
(
おそ
)
く
成
(
な
)
るものは
破
(
やぶ
)
れ
難
(
がた
)
し、
074
大器
(
たいき
)
晩成
(
ばんせい
)
と
云
(
い
)
つて
暇
(
ひま
)
の
要
(
い
)
る
程
(
ほど
)
脈
(
みやく
)
があるのですよ、
075
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
にすつと
伸
(
の
)
びて
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
く
草木
(
さうもく
)
は
秋
(
あき
)
が
来
(
く
)
れば
萎
(
しほ
)
れて
仕舞
(
しま
)
ひます。
076
梅
(
うめ
)
桜
(
さくら
)
、
077
桃
(
もも
)
椿
(
つばき
)
などの
喬木
(
けうぼく
)
になると、
078
二
(
に
)
年
(
ねん
)
や
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
に
花
(
はな
)
は
咲
(
さ
)
かない
代
(
かは
)
りに、
079
天
(
てん
)
を
衝
(
つ
)
くやうに
其
(
その
)
幹
(
みき
)
は
成長
(
せいちやう
)
し、
080
毎年
(
まいねん
)
々々
(
まいねん
)
花
(
はな
)
も
咲
(
さ
)
く、
081
私
(
わたし
)
の
眼識
(
めがね
)
に
叶
(
かな
)
つた
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
082
青彦
(
あをひこ
)
の
事
(
こと
)
ですから、
083
よもや
寝返
(
ねがへ
)
りを
打
(
う
)
つと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はありますまい、
084
ナア
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま』
085
高山彦
(
たかやまひこ
)
『サア、
086
何
(
なん
)
とも
保証
(
ほせう
)
の
限
(
かぎ
)
りではないなア』
087
黒姫
(
くろひめ
)
、
088
目
(
め
)
に
角
(
かど
)
を
立
(
た
)
て、
089
黒姫
『エヽ
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
る、
090
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
091
余
(
あま
)
り
紫姫
(
むらさきひめ
)
や、
092
青彦
(
あをひこ
)
を
見損
(
みそこな
)
つてはいけませぬよ。
093
お
前
(
まへ
)
さまの
身魂
(
みたま
)
は
昔
(
むかし
)
鬼城山
(
きじやうざん
)
にあつて
木常姫
(
こつねひめ
)
さまに
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
教
(
をし
)
へ、
094
今度
(
こんど
)
は
南高山
(
なんかうざん
)
の
宝取
(
たからと
)
りには
道彦
(
みちひこ
)
の
為
(
ため
)
に
大失敗
(
だいしつぱい
)
を
演
(
えん
)
じ、
095
今
(
いま
)
又
(
また
)
ウラナイ
教
(
けう
)
へ
帰
(
かへ
)
つてくると
云
(
い
)
ふ
身魂
(
みたま
)
だから、
096
ソンナ
考
(
かんが
)
へが
出
(
で
)
るのだよ、
097
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
を
標準
(
へうじゆん
)
として
青彦
(
あをひこ
)
や
紫姫
(
むらさきひめ
)
の
心
(
こころ
)
を
測量
(
そくりやう
)
なさるとは、
098
些
(
ちつ
)
と
残酷
(
ざんこく
)
と
云
(
い
)
ふものだワ』
099
高山彦
(
たかやまひこ
)
は
少
(
すこ
)
し
声
(
こゑ
)
を
高
(
たか
)
うして、
100
高山彦
『
昔
(
むかし
)
は
昔
(
むかし
)
今
(
いま
)
は
今
(
いま
)
ぢや、
101
身魂
(
みたま
)
に
経験
(
けいけん
)
を
積
(
つ
)
みて
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るから、
102
大概
(
たいがい
)
の
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
はよく
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
103
何時
(
いつ
)
も
俺
(
おれ
)
は
柔順
(
おとな
)
しくして
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
採
(
と
)
つて
居
(
を
)
れば、
104
貴様
(
おまへ
)
は
何時
(
いつ
)
も
先
(
さき
)
に
出
(
で
)
て
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
迄
(
まで
)
、
105
掻
(
か
)
いて
掻
(
か
)
いて
掻
(
か
)
き
廻
(
まは
)
し、
106
一言
(
ひとこと
)
云
(
い
)
へば
直
(
ただ
)
ちに
眉
(
まゆ
)
を
逆立
(
さかだ
)
て
鼻息
(
はないき
)
を
荒
(
あら
)
くし、
107
口
(
くち
)
から
泡
(
あわ
)
を
飛
(
と
)
ばすぢやないか、
108
俺
(
おれ
)
は
五月蠅
(
うるさ
)
いから
何時
(
いつ
)
も
黙
(
だま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
109
今日
(
けふ
)
は
幸
(
さいは
)
ひ
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
だから、
110
俺
(
おれ
)
の
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
を
忌憚
(
きたん
)
なく
吐露
(
とろ
)
したのだ』
111
黒姫
(
くろひめ
)
『そりや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ひなさる、
112
貴方
(
あなた
)
は
此
(
この
)
家
(
いへ
)
の
主人
(
しゆじん
)
ぢやないか、
113
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くやうな
素直
(
すなほ
)
な
身魂
(
みたま
)
ですかいな、
114
何
(
なん
)
でも
彼
(
かん
)
でも
一
(
ひと
)
つ
一
(
ひと
)
つ
ケチ
をつけねば
置
(
お
)
かぬ
因果
(
いんぐわ
)
な
身魂
(
みたま
)
だから』
115
高山彦
(
たかやまひこ
)
『
今度
(
こんど
)
の
青彦
(
あをひこ
)
、
116
紫姫
(
むらさきひめ
)
を
派遣
(
はけん
)
したのはお
前
(
まへ
)
の
発案
(
はつあん
)
だらう、
117
其
(
その
)
時
(
とき
)
俺
(
おれ
)
は
貴様
(
おまへ
)
に
剣呑
(
けんのん
)
だからそつと
寅若
(
とらわか
)
でもつけてやつたら
何
(
ど
)
うだと
云
(
い
)
うたぢやないか、
118
其
(
その
)
時
(
とき
)
貴様
(
おまへ
)
は
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
り、
119
大変
(
たいへん
)
な
荒
(
すさ
)
びやうだつた、
120
アヽ、
121
又
(
また
)
毎度
(
いつも
)
の
病気
(
びやうき
)
が
出
(
で
)
た
哩
(
わい
)
と
思
(
おも
)
つて
辛抱
(
しんばう
)
して
居
(
ゐ
)
たのだ。
122
此奴
(
こいつ
)
は
屹度
(
きつと
)
不成功
(
ふせいこう
)
、
123
否
(
いな
)
不成功
(
ふせいこう
)
のみならず、
124
青彦
(
あをひこ
)
、
125
紫姫
(
むらさきひめ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
間諜
(
まはしもの
)
だつたに
違
(
ちが
)
ひない』
126
黒姫
(
くろひめ
)
『
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ひなさるのだい、
127
マア
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
なされ、
128
屹度
(
きつと
)
今
(
いま
)
に
分
(
わか
)
る。
129
玉照姫
(
たまてるひめ
)
を
連
(
つ
)
れて
青彦
(
あをひこ
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ますよ。
130
若
(
も
)
し
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
なかつたら、
131
二度
(
にど
)
とお
前
(
まへ
)
さまにも
高姫
(
たかひめ
)
さまにもお
目
(
め
)
にかかりませぬ
哩
(
わい
)
なア』
132
と
頤
(
あご
)
をしやくり、
133
上下
(
じやうげ
)
の
歯
(
は
)
を
ぐつ
と
噛
(
か
)
みしめ、
134
前
(
まへ
)
に
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
せける。
135
高山彦
(
たかやまひこ
)
はムツとしたか
蠑螺
(
さざえ
)
のやうな
拳骨
(
げんこつ
)
を
固
(
かた
)
めて
黒姫
(
くろひめ
)
の
横面
(
よこづら
)
を
撲
(
なぐ
)
らむとする。
136
スワ
一大事
(
いちだいじ
)
と
高姫
(
たかひめ
)
は
仲
(
なか
)
に
割
(
わ
)
つて
入
(
い
)
り、
137
高姫
『ヤア
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
138
犬
(
いぬ
)
も
食
(
く
)
はぬ
喧嘩
(
けんくわ
)
をすると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がありますか、
139
些
(
ちつ
)
と
心得
(
こころえ
)
なさい。
140
お
前
(
まへ
)
さま
二人
(
ふたり
)
はウラナイ
教
(
けう
)
の
柱石
(
ちうせき
)
たる
重要
(
ぢうえう
)
人物
(
じんぶつ
)
ぢやないか、
141
ソンナ
事
(
こと
)
で
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
に
教訓
(
しめし
)
が
出来
(
でき
)
ますか』
142
黒姫
(
くろひめ
)
『ハイハイ、
143
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います、
144
何分
(
なにぶん
)
宅
(
うち
)
のがヒヨツトコですから』
145
高山彦
(
たかやまひこ
)
『こりや
黒
(
くろ
)
、
146
ヒヨツトコとは
何
(
なん
)
だ。
147
俺
(
おれ
)
がヒヨツトコなら
貴様
(
おまへ
)
はベツトコだ』
148
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ、
149
お
二人
(
ふたり
)
とも
詔直
(
のりなほ
)
しだ
詔直
(
のりなほ
)
しだ、
150
言霊
(
ことたま
)
をお
慎
(
つつし
)
みなさらぬか』
151
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
寅若
(
とらわか
)
を
先頭
(
せんとう
)
に、
152
梅
(
うめ
)
、
153
辰
(
たつ
)
、
154
鳶
(
とび
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
155
寅若
(
とらわか
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
156
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の、
157
私
(
わたくし
)
へ
隠
(
かく
)
してのお
使
(
つかい
)
が
偉
(
えら
)
い
勢
(
いきほひ
)
なくして
帰
(
かへ
)
つて
参
(
まゐ
)
りました、
158
何卒
(
どうぞ
)
詳
(
くは
)
しくお
聞
(
き
)
き
取
(
と
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
159
黒姫
(
くろひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は
梅公
(
うめこう
)
、
160
辰公
(
たつこう
)
、
161
鳶公
(
とびこう
)
、
162
首尾
(
しゆび
)
は
何
(
ど
)
うだつたな、
163
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
164
青彦
(
あをひこ
)
を
旨
(
うま
)
くやつたらうなア?』
165
梅公
(
うめこう
)
『ヘエヘエ、
166
流石
(
さすが
)
の
青彦
(
あをひこ
)
、
167
紫姫
(
むらさきひめ
)
で
御座
(
ござ
)
います、
168
梅
(
うめ
)
いことをやつて、
169
此
(
この
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
ぢやないが
鳶辰
(
とびたつ
)
やうに
トツト
と
凱歌
(
がいか
)
を
奏
(
そう
)
して、
170
何々
(
なになに
)
の
何
(
なに
)
へ
向
(
むか
)
つて
帰
(
かへ
)
りましたワ』
171
黒姫
(
くろひめ
)
『アヽ、
172
さうかさうか、
173
それは
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
であつた。
174
サア
早
(
はや
)
く
玉照姫
(
たまてるひめ
)
様
(
さま
)
のお
居間
(
ゐま
)
のお
掃除
(
さうぢ
)
を
為
(
な
)
し、
175
皆様
(
みなさま
)
の
御飯
(
ごはん
)
やお
酒
(
さけ
)
の
用意
(
ようい
)
をして
置
(
お
)
きなさい』
176
梅公
(
うめこう
)
『ヘイ、
177
根
(
ね
)
つから
其
(
その
)
必要
(
ひつえう
)
は
認
(
みと
)
めませぬがなア』
178
黒姫
(
くろひめ
)
『そりや
梅公
(
うめこう
)
、
179
お
前
(
まへ
)
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのぢや、
180
必要
(
ひつえう
)
を
認
(
みと
)
めるの
認
(
みと
)
めないのと
何故
(
なぜ
)
私
(
わし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かないのかい、
181
これこれ
辰公
(
たつこう
)
、
182
鳶公
(
とびこう
)
、
183
お
前
(
まへ
)
も
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
ぢやつた。
184
どうぞ
詳
(
くは
)
しく
高姫
(
たかひめ
)
さまの
前
(
まへ
)
で、
185
青彦
(
あをひこ
)
や
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまの
天晴
(
あつぱれ
)
功名
(
こうみやう
)
した
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さい』
186
鳶公
(
とびこう
)
『エー、
187
もう
余
(
あま
)
りの
事
(
こと
)
で
申上
(
まをしあ
)
げます
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ませぬ』
188
辰公
(
たつこう
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
六日
(
むゆか
)
の
菖蒲
(
あやめ
)
、
189
十日
(
とをか
)
の
菊
(
きく
)
、
190
何
(
なに
)
が
何
(
な
)
ンだやら
薩張
(
さつぱり
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
を
頂
(
いただ
)
いて
来
(
き
)
ました』
191
寅若
(
とらわか
)
『アハヽヽヽ、
192
此奴
(
こいつ
)
余程
(
よほど
)
弱
(
よわ
)
つて
居
(
ゐ
)
やがるな、
193
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
と
云
(
い
)
ふのは
卑怯者
(
ひけふもの
)
の
適当
(
てきたう
)
な
遁辞
(
とんじ
)
だ。
194
モシモシ
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
195
こいつは
屹度
(
きつと
)
もの
にならなかつたのですよ、
196
蛸
(
たこ
)
の
揚壺
(
あげつぼ
)
を
食
(
くら
)
つて
帰
(
かへ
)
つたとより
見
(
み
)
えませぬな』
197
黒姫
(
くろひめ
)
『これ
寅若
(
とらわか
)
、
198
お
前
(
まへ
)
に
誰
(
たれ
)
が
物
(
もの
)
を
尋
(
たづ
)
ねたかい、
199
弥仙山
(
みせんざん
)
へ
往
(
い
)
つて
失敗
(
しつぱい
)
をして
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たやうな
男
(
をとこ
)
だから、
200
今度
(
こんど
)
の
事
(
こと
)
は
彼是
(
かれこれ
)
云
(
い
)
ふお
前
(
まへ
)
には
資格
(
しかく
)
がない、
201
一段
(
いちだん
)
下
(
お
)
りて
庭
(
には
)
へ
下
(
さ
)
がつて
其処
(
そこ
)
の
掃除
(
さうぢ
)
でもしなさい。
202
これこれ
梅公
(
うめこう
)
早
(
はや
)
く
云
(
い
)
ひなさいよ』
203
梅公
(
うめこう
)
は
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
で
頭
(
あたま
)
を
三遍
(
さんぺん
)
ばかりも、
204
つるつると
撫
(
な
)
でながら、
205
梅公
(
うめこう
)
『ハイ、
206
私
(
わたくし
)
は
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
207
青彦
(
あをひこ
)
その
他
(
た
)
一行
(
いつかう
)
の
後
(
あと
)
を
見
(
み
)
え
隠
(
がく
)
れに
監視
(
かんし
)
して
参
(
まゐ
)
りました。
208
さうした
処
(
ところ
)
流石
(
さすが
)
の
青彦
(
あをひこ
)
さま、
209
綾彦
(
あやひこ
)
お
民
(
たみ
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
前
(
まへ
)
に
出
(
だ
)
して
豊彦爺
(
とよひこぢい
)
をアツと
云
(
い
)
はせ、
210
ヤアお
前
(
まへ
)
は
綾彦
(
あやひこ
)
であつたか、
211
お
民
(
たみ
)
であつたか、
212
ヤア
父
(
とと
)
さまか、
213
母
(
かか
)
さまか、
214
妹
(
いもうと
)
か、
215
兄
(
あに
)
さまかと
一場
(
いちぢやう
)
の
悲喜劇
(
ひきげき
)
が
現
(
あら
)
はれ、
216
其処
(
そこ
)
へ
平和
(
へいわ
)
の
女神然
(
めがみぜん
)
たる
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまが、
217
おチヨボ
口
(
ぐち
)
を
ぱつ
と
開
(
ひら
)
いて
仰有
(
おつしや
)
るには、
218
何事
(
なにごと
)
も
皆
(
みな
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のなさる
事
(
こと
)
、
219
豊彦
(
とよひこ
)
さまも
斯
(
こ
)
うして
若夫婦
(
わかふうふ
)
が
帰
(
かへ
)
つて
御座
(
ござ
)
つた
以上
(
いじやう
)
は、
220
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ
御
(
ご
)
恩返
(
おんがへ
)
しにお
玉
(
たま
)
さま
始
(
はじ
)
め、
221
玉照姫
(
たまてるひめ
)
様
(
さま
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
奉
(
たてまつ
)
らねばなりますまいと、
222
さも
流暢
(
りうちやう
)
な
弁
(
べん
)
で
談判
(
かけあひ
)
になりますと、
223
豊彦爺
(
とよひこぢい
)
は、
224
喜
(
よろこ
)
ぶの
喜
(
よろこ
)
ばないのつて、
225
首
(
くび
)
を
滅多
(
めつた
)
矢鱈
(
やたら
)
に
振
(
ふ
)
つて
振
(
ふ
)
つて
振
(
ふ
)
りさがし、
226
千切
(
ちぎ
)
れはせぬかと
思
(
おも
)
ふ
程
(
ほど
)
首肯
(
うなづ
)
いて、
227
仕舞
(
しまひ
)
の
果
(
はて
)
にはドンと
尻餅
(
しりもち
)
を
搗
(
つ
)
き、
228
眼
(
め
)
を
暈
(
まは
)
しかけました。
229
マアさうして
爺
(
ぢい
)
の
云
(
い
)
ふのには、
230
アヽ
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
だ、
231
嬉
(
うれ
)
しい
時
(
とき
)
には
欣喜
(
きんき
)
雀躍
(
じやくやく
)
、
232
手
(
て
)
の
舞
(
ま
)
ひ
足
(
あし
)
の
踏
(
ふ
)
む
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らずと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だが、
233
俺
(
わし
)
は
余
(
あま
)
り
嬉
(
うれ
)
しくて
目
(
め
)
のまひ、
234
家
(
いへ
)
のまひ、
235
身体
(
からだ
)
の
居
(
を
)
る
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らずぢや、
236
と
云
(
い
)
ひまして、
237
それはそれは
大変
(
たいへん
)
喜
(
よろこ
)
びましたよ。
238
あれ
位
(
くらゐ
)
喜
(
よろこ
)
びた
事
(
こと
)
は
生
(
うま
)
れてから
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
も、
239
聞
(
き
)
いた
事
(
こと
)
もありませぬワ』
240
黒姫
(
くろひめ
)
『アヽ、
241
さうだらうさうだらう、
242
喜
(
よろこ
)
びたらうな、
243
これ
高山
(
たかやま
)
さまどうですかい、
244
これでも
文句
(
もんく
)
がありますかい、
245
高姫
(
たかひめ
)
さま、
246
もうこれで、
247
大
(
おほ
)
きな
顔
(
かほ
)
で
本山
(
ほんざん
)
に
帰
(
かへ
)
つて
貰
(
もら
)
はうと
儘
(
まま
)
ですワイ、
248
オホヽヽヽ、
249
サア
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
を
梅公
(
うめこう
)
云
(
い
)
ひなさい、
250
瞬
(
またた
)
く
間
(
ひま
)
も
待
(
ま
)
ち
遠
(
どほ
)
しいやうな
心持
(
こころもち
)
がする』
251
梅公
(
うめこう
)
『サア、
252
これから
先
(
さき
)
は
時間
(
じかん
)
の
問題
(
もんだい
)
ですな、
253
云
(
い
)
はぬ
方
(
はう
)
が
却
(
かへ
)
つて
先楽
(
さきたの
)
しみで
宜
(
よろ
)
しからう。
254
オイ
鳶
(
とび
)
、
255
辰
(
たつ
)
、
256
貴様
(
きさま
)
も
些
(
ちつ
)
と
云
(
い
)
はぬかい』
257
辰公
(
たつこう
)
『ヘン、
258
よい
所
(
ところ
)
ばつかり
食
(
く
)
つて
糟粕
(
かす
)
ばつかり
人
(
ひと
)
に
食
(
く
)
はさうと
思
(
おも
)
つたつて
駄目
(
だめ
)
だよ、
259
貴様
(
きさま
)
が
報告
(
はうこく
)
した
後
(
あと
)
に……サアサア
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
を
諄々
(
じゆんじゆん
)
と
掛
(
か
)
け
値
(
ね
)
の
無
(
な
)
い
所
(
ところ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げてお
目玉
(
めだま
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
するのだな』
260
梅公
(
うめこう
)
『エヽ
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
大将
(
たいしやう
)
になると
責任
(
せきにん
)
が
重
(
おも
)
い、
261
エイエイ
仕方
(
しかた
)
がない、
262
ソンナラ
私
(
わたくし
)
が
申上
(
まをしあ
)
げます、
263
黒姫
(
くろひめ
)
さま
喫驚
(
びつくり
)
なさいますな』
264
黒姫
(
くろひめ
)
『
何
(
なに
)
喫驚
(
びつくり
)
するものか、
265
喫驚
(
びつくり
)
するのは
高山
(
たかやま
)
さまぢや、
266
余
(
あま
)
り
嬉
(
うれ
)
しいて
喫驚
(
びつくり
)
する
者
(
もの
)
と、
267
余
(
あま
)
り
阿呆
(
あはう
)
らしくて
会
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
がなくて
喫驚
(
びつくり
)
する
者
(
もの
)
と
出来
(
でき
)
ませうぞい』
268
梅公
(
うめこう
)
『エヽ、
269
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
270
青彦
(
あをひこ
)
はお
玉
(
たま
)
、
271
玉照姫
(
たまてるひめ
)
様
(
さま
)
を
連
(
つ
)
れて
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
と、
272
吾々
(
われわれ
)
を
何々
(
なになに
)
し、
273
何々
(
なになに
)
の
何々
(
なになに
)
へ
何々
(
なになに
)
して
仕舞
(
しま
)
ひました』
274
黒姫
(
くろひめ
)
『これ
梅公
(
うめこう
)
、
275
アタもどかしい、
276
早
(
はや
)
く
云
(
い
)
はぬかいナ、
277
いつ
迄
(
まで
)
私
(
わし
)
を
焦
(
じ
)
らすのだい』
278
梅公
(
うめこう
)
『イエイエ、
279
決
(
けつ
)
して
焦
(
じ
)
らすのぢやありませぬ、
280
知
(
し
)
らすのですよ、
281
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずの
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
御
(
お
)
気障
(
きざはり
)
、
282
知
(
し
)
らぬ
神
(
かみ
)
に
祟
(
たた
)
りなし、
283
どうぞ
私
(
わたくし
)
だけは
今日
(
けふ
)
の
所
(
ところ
)
は
帳外
(
ちやうはづ
)
れにして
下
(
くだ
)
さいませ』
284
黒姫
(
くろひめ
)
『
怪体
(
けつたい
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか、
285
さうして
青彦
(
あをひこ
)
の
一行
(
いつかう
)
はいつ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るのだい』
286
梅公
(
うめこう
)
『それは
いつ
になるとも
判然
(
はつきり
)
お
答
(
こた
)
へが
出来
(
でき
)
ませぬなア、
287
是
(
これ
)
も
矢張
(
やつぱり
)
時
(
とき
)
の
力
(
ちから
)
でせう』
288
高姫
(
たかひめ
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
289
青彦
(
あをひこ
)
初
(
はじ
)
め、
290
紫姫
(
むらさきひめ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
へ
帰
(
かへ
)
つたのですよ』
291
梅公
(
うめこう
)
『マア マア、
292
高姫
(
たかひめ
)
さまの
天眼力
(
てんがんりき
)
にて
御
(
ご
)
観察
(
くわんさつ
)
の
通
(
とほ
)
り、
293
誠
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
てお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
千万
(
せんばん
)
、
294
青彦
(
あをひこ
)
、
295
紫姫
(
むらさきひめ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
は
共
(
とも
)
に
グレン
をやりました。
296
今頃
(
いまごろ
)
は
世継王
(
よつわう
)
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
で
祝
(
いは
)
ひ
酒
(
ざけ
)
でも
呑
(
の
)
みて
居
(
を
)
るでせう』
297
と
頭
(
あたま
)
を
抱
(
かか
)
へ
小隅
(
こすみ
)
にすくみける。
298
黒姫
(
くろひめ
)
『エヽソンナ
青彦
(
あをひこ
)
ぢやない、
299
又
(
また
)
紫姫
(
むらさきひめ
)
も
紫姫
(
むらさきひめ
)
ぢや、
300
三五教
(
あななひけう
)
へ
行
(
ゆ
)
くなぞと、
301
そりや
大方
(
おほかた
)
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
を
放
(
ほ
)
かしに
往
(
い
)
つたのだらう、
302
屹度
(
きつと
)
戻
(
もど
)
つて
来
(
く
)
る
確信
(
かくしん
)
がある』
303
高姫
(
たかひめ
)
『
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
304
もう
駄目
(
だめ
)
だ。
305
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
306
お
前
(
まへ
)
さまも
立派
(
りつぱ
)
な
奥
(
おく
)
さまを
持
(
も
)
つて
御
(
ご
)
満足
(
まんぞく
)
でせう、
307
この
忙
(
いそが
)
しいのに
永
(
なが
)
らく
逗留
(
とうりう
)
してお
邪魔
(
じやま
)
をしました。
308
エライ
馬鹿
(
ばか
)
を
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さいましたナ、
309
アーア、
310
併
(
しか
)
しこれも
何
(
なに
)
かの
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
だ。
311
左様
(
さやう
)
なら、
312
帰
(
かへ
)
ります』
313
高山彦
(
たかやまひこ
)
『どうぞ
私
(
わたくし
)
も
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
314
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
さまの
勝手
(
かつて
)
になされ、
315
黒姫
(
くろひめ
)
さまを
大切
(
たいせつ
)
にお
守
(
まも
)
りなさるがお
徳
(
とく
)
だらう、
316
左様
(
さやう
)
なら』
317
と、
318
大勢
(
おほぜい
)
の
止
(
と
)
むるをも
聞
(
き
)
かず、
319
額
(
ひたい
)
に
青筋
(
あをすぢ
)
を
立
(
た
)
て、
320
偉
(
えら
)
い
気色
(
けしき
)
で
表
(
おもて
)
へかけ
出
(
だ
)
し、
321
鶴
(
つる
)
、
322
亀
(
かめ
)
来
(
きた
)
れと
二人
(
ふたり
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
を
驀地
(
まつしぐら
)
に、
323
由良
(
ゆら
)
の
港
(
みなと
)
を
指
(
さ
)
して
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
324
高山彦
(
たかやまひこ
)
『こりや
大変
(
たいへん
)
』
325
と
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
、
326
七分
(
しちぶ
)
三分
(
さんぶ
)
に
尻
(
しり
)
からげ、
327
細長
(
ほそなが
)
いコンパスに
油
(
あぶら
)
をかけ、
328
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
さうとする。
329
黒姫
(
くろひめ
)
はグツと
袂
(
たもと
)
を
握
(
にぎ
)
り、
330
黒姫
(
くろひめ
)
『
高山
(
たかやま
)
さま、
331
血相
(
けつさう
)
変
(
か
)
へて
何処
(
どこ
)
へお
出
(
いで
)
るのだえ』
332
高山彦
(
たかやまひこ
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
333
肝腎
(
かんじん
)
の
玉照姫
(
たまてるひめ
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
334
青彦
(
あをひこ
)
、
335
紫姫
(
むらさきひめ
)
迄
(
まで
)
三五教
(
あななひけう
)
に
取
(
と
)
られて、
336
どうして
高姫
(
たかひめ
)
さまに
申訳
(
まをしわけ
)
が
立
(
た
)
つか、
337
是
(
これ
)
より
此
(
この
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
が
世継王
(
よつわう
)
山
(
ざん
)
の
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
館
(
やかた
)
にかけ
込
(
こ
)
み、
338
玉照姫
(
たまてるひめ
)
を
小脇
(
こわき
)
にヒン
抱
(
だ
)
き
帰
(
かへ
)
らで
置
(
お
)
かうか、
339
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
いた
)
せば
高姫
(
たかひめ
)
さまは
飛行機
(
ひかうき
)
に
乗
(
の
)
つて
フサ
の
国
(
くに
)
へお
帰
(
かへ
)
りだ、
340
それ
迄
(
まで
)
に
玉照姫
(
たまてるひめ
)
様
(
さま
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れてお
詫
(
わび
)
をせにやならぬ、
341
邪魔
(
じやま
)
ひろぐな』
342
と
蹶飛
(
けと
)
ばし、
343
突飛
(
つきと
)
ばし、
344
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
にかけ
出
(
だ
)
したり。
345
黒姫
(
くろひめ
)
も
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りにオーイオーイと
髪
(
かみ
)
振
(
ふ
)
り
乱
(
みだ
)
し、
346
帯
(
おび
)
を
引
(
ひ
)
きずり
乍
(
なが
)
ら
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひ、
347
足
(
あし
)
に
任
(
まか
)
せて
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
348
(
大正一一・五・六
旧四・一〇
加藤明子
録)
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