霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】サブスク完了しました。どうもありがとうございます。サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は従来バージョンをお使い下さい

第三章 千騎(せんき)一騎(いつき)〔六四八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻 篇:第1篇 神慮洪遠 よみ(新仮名遣い):しんりょこうえん
章:第3章 千騎一騎 よみ(新仮名遣い):せんきいっき 通し章番号:648
口述日:1922(大正11)年05月06日(旧04月10日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高山彦は、聖地を指して白瀬川のほとりにやってきた。降り続く五月雨に河水は氾濫して渡れない。
高山彦は悔しそうに世継王山を見ていると、後から黒姫が追いついてきた。黒姫は早く河を渡れ、と高山彦をせっつく。高山彦は、どうしてこの激流が渡れようかと黒姫に返すが、黒姫はたちまち大蛇の姿となって河を渡ってしまった。
高山彦はそれを見て震えている。黒姫の大蛇の体から黒雲が出て、高山彦を包むと、高山彦を河の向こうに渡してしまった。黒姫は大蛇から元の姿に戻った。
高山彦は、黒姫の大蛇の姿を見てすっかり恐れをなしてしまった。黒姫は構わず、高山彦を前に立てて世継王山に進んで行く。
世継王山の館では、馬公と鹿公が夜の門番をしていた。二人は月を見ながら俳句を読み合っている。すると、二人は黒姫と高山彦がやってくるのを見つけた。鹿公は、門内に入ると馬公を外に置いたまま、錠を閉めてしまった。
黒姫は、門を開けてくれと頼むが、鹿公は錠を下ろしたまま青彦に注進した。黒姫は馬公が門外に締め出されているのを見つけ、人質にしてしまう。
門の内外で、黒姫と青彦、紫姫、鹿公は互いの主張を言い合って譲らない。黒姫は馬公を人質に取っていても役に立たないと、馬公を放した。紫姫が天の数歌を歌うと、黒姫と高山彦は逃げてしまった。
鹿公は馬公を門内に迎え入れた。馬公は、黒姫は自分を縛るとき、神様にお詫びをしてきつく縛らなかった、と報告すると、青彦はこれを聞いて首を垂れて思案に沈んでしまう。
紫姫は感謝の祝詞を上げるが、玉照姫は激しく泣き出した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-03-30 17:23:20 OBC :rm1903
愛善世界社版:31頁 八幡書店版:第4輯 40頁 修補版: 校定版:31頁 普及版:13頁 初版: ページ備考:
001 高山彦(たかやまひこ)魔窟(まくつ)(はら)岩窟(がんくつ)(あと)にし、002一生(いつしやう)懸命(けんめい)聖地(せいち)()して(すす)()く。003(やうや)白瀬川(しらせがは)(ほとり)()けば、004()(つづ)五月雨(さみだれ)河水(かすゐ)汎濫(はんらん)し、005(なみ)(うづたか)渡川(とせん)絶対(ぜつたい)不可能(ふかのう)となりぬ。
006 高山彦(たかやまひこ)(かは)(きし)(くだ)りつ、007(のぼ)りつ、008地団太(ぢだんだ)()みて口惜(くや)しがり、009現在(げんざい)()(まへ)聖地(せいち)世継王(よつわう)(ざん)(なが)め、010玉照姫(たまてるひめ)()座所(ざしよ)彼方(かなた)かと憧憬(どうけい)(ねん)()られて狂気(きやうき)(ごと)くなり()たり。011(かか)(ところ)(いき)せき()つて馳来(はせきた)りしは、012(つま)黒姫(くろひめ)なりける。
013高山彦『ヤーお(まへ)黒姫(くろひめ)か、014(なに)しに()()たのだ』
015黒姫高山(たかやま)さま、016ソラ(なに)()はつしやる。017(この)(まま)にして()(わけ)には()きますまい。018あれ()(むか)ふに()ゆるは世継王(よつわう)神山(しんざん)019三五教(あななひけう)(かく)場所(ばしよ)020玉照姫(たまてるひめ)(さま)()(もり)しげみ御座(ござ)るであらう。021サアサア(はや)(わた)りなさい』
022高山彦(わた)れと()つたつて()激流(げきりう)が、023どうして(わた)れやうか』
024黒姫生命(いのち)(まと)(わた)るのだよ。025それだから(をとこ)真逆(まさか)(とき)()(あは)ぬと()ふのだ。026(まへ)さまも鼻高(はなだか)守護神(しゆごじん)()厄介(やくかい)になつて中空(ちうくう)(たか)(わた)りなさい』
027高山彦『ソンナことを()つたつて、028さう易々(やすやす)(もと)(からだ)還元(くわんげん)することは出来(でき)ないよ』
029黒姫還元(くわんげん)出来(でき)ないと()道理(だうり)があらうか、030貴方(あなた)信仰(しんかう)()らぬからだ。031()になつても(じや)になつても、032()(かは)(わた)らな()くものか』
033()ふより(はや)く、034()るも(おそ)ろしき大蛇(だいじや)姿(すがた)となり、035激流(げきりう)怒濤(どたう)()(なか)目蒐(めが)けて、036ザンブとばかり()()み、037(やうや)対岸(むかうぎし)(わた)()きたり。
038 高山彦(たかやまひこ)()気色(けしき)(おそ)(をのの)き、039ガタガタ(ぶる)ひの最中(さいちう)040蛇体(じやたい)身体(からだ)より黒雲(くろくも)(おこ)一団(いちだん)となりて、041(かは)上空(じやうくう)此方(こなた)(わた)高山彦(たかやまひこ)身体(からだ)(つつ)むよと()()に、042高山彦(たかやまひこ)(かは)対岸(むかうぎし)にバタリと()()たりぬ。043蛇体(じやたい)(たちま)(もと)黒姫(くろひめ)(へん)じ、
044黒姫『サア高山(たかやま)さま、045コンナ(はな)(わざ)一生(いつしやう)一度(いちど)より出来(でき)ないのだが、046千騎(せんき)一騎(いつき)(この)場合(ばあひ)047黒姫(くろひめ)信念(しんねん)(ちから)(あら)はれたのだ。048サアサアこれに(おそ)れず、049今後(こんご)斯様(かやう)なことは()(ほど)に、050(わたし)(つづ)いてお()でなさい』
051 高山彦(たかやまひこ)(ふる)(ごゑ)で、
052高山彦『ナント(をんな)()(やつ)(おそ)ろしいものだなア』
053黒姫『コレ高山(たかやま)さま、054(まへ)はモーこれで愛想(あいさう)がつきただらうな。055愛想(あいさう)をつかすなら、056つかして()なさい、057此方(こちら)にも(ひと)(かんが)へがありますよ』
058(ひや)やかに(わら)ふ。059高山彦(たかやまひこ)()(しばた)たき、060(たか)(はな)()(かふ)(こす)(なが)ら、
061高山彦『イヤ何事(なにごと)黒姫(くろひめ)さまに()(まか)せする、062(この)()一切(いつさい)(かま)(ごと)(いた)さぬ。063貴女(あなた)のお()きの(やう)()使(つか)(くだ)さいませ』
064黒姫大分(だいぶ)改心(かいしん)出来(でき)ましたナア、065それでこそ(わたし)立派(りつぱ)なハズバンドだ。066サアサア()きませう、067エヽなンとした(あし)つきじやいな、068(しつか)りしなさらぬか、069(この)(かは)(わた)るが最後(さいご)070油断(ゆだん)のならぬ(てき)縄張(なはば)りだよ』
071高山彦『さうだと()つて、072ナンダか(あし)がワナワナして(ある)けないのだもの』
073黒姫『エー(なん)とした卑怯(ひけふ)(ひと)だらう。074(たれ)(こは)いのだい。075たか()れた紫姫(むらさきひめ)076青彦(あをひこ)連中(れんちう)ぢやないかいナ』
077高山彦青彦(あをひこ)078紫姫(むらさきひめ)も、079ナンニも(こわ)くはない。080(こわ)いのはお(まへ)性念(しやうねん)だよ』
081黒姫高山(たかやま)さま、082()()えても矢張(やつぱり)(をんな)(をんな)だよ。083()心配(しんぱい)なさるな。084これでも(また)大事(だいじ)にして可愛(かあい)がつて()げますワ』
085 高山彦(たかやまひこ)はブルブル(ふる)(なが)ら、
086高山彦『ヤーもう可愛(かあい)がつて(もら)はいでも結構(けつこう)です。087(わたくし)(やう)なものは貴女(あなた)のお(そば)()るのは勿体(もつたい)ない。088(おそ)(おほ)い。089どうぞ草履持(ざうりもち)になつとして(くだ)さいな』
090黒姫『エー(この)(ひと)(また)(なん)とした卑怯(ひけふ)なことを()ふのだらう。091アヽもうすつかり愛想(あいさう)()きちやつた、092(いや)になつて(しま)ふワ』
093高山彦『どうぞ愛想(あいさう)をつかして(くだ)さいな。094(いや)になつて(もら)へば大変(たいへん)好都合(かうつがふ)です』
095 黒姫(くろひめ)(こゑ)(とが)らし、
096黒姫『ソリヤ(なに)()ふのだい、097(いや)になつて()れと()つたつて、098(いま)となつて(たれ)がソンナ軽挙(かるはづみ)なことをするものかいな。099(へび)(ねら)はれた(かはづ)ぢやと(おも)つて(あきら)めなさいよ』
100高山彦『ハイ(あきら)めます。101何事(なにごと)因縁(いんねん)づくぢやと(おも)つて、102コンナ悪縁(あくえん)辛抱(しんばう)(いた)しませう。103前生(ぜんせい)(わる)因縁(いんねん)(むく)うて()たのだから』
104黒姫(なに)悪縁(あくえん)だへ。105(まへ)さまは(をとこ)(こころ)(あき)(そら)106(すぐ)飽縁(あくえん)だらうが、107(わたし)何処迄(どこまで)(あき)(そら)で、108何処(どこ)々々(どこ)(まで)()いて()いてすき(とう)つてゐますよ、109ホヽヽヽヽ』
110高山彦『モシモシ黒姫(くろひめ)(さま)111何卒(どうぞ)(ひと)一人(ひとり)(たす)けると(おも)つて(わたくし)(つみ)(ゆる)して(くだ)さいな』
112黒姫『そりや(また)(なに)()ふのだえ、113モー()うなる(うへ)(ゆる)してたまるものか。114竜宮(りうぐう)(うみ)(そこ)まで()れて()つて()みたり、115()みたり、116(ねぶ)つたり大事(だいじ)にして()げようぞへ』
117高山彦『モー大事(だいじ)にして(もら)はいでも結構(けつこう)です。118何卒(どうぞ)()()心遣(こころづか)ひは()無用(むよう)になさつて(くだ)さいませ。119返礼(へんれい)仕方(しかた)がありませぬワ』
120黒姫『エーわからぬ(をとこ)だ。121(はなし)(あと)(ゆつ)くりして()げよう。122サア(いち)()(はや)()かねばなるまい。123恰度(ちやうど)()()れて()た』
124高山彦(たかやまひこ)(さき)()たせ、125夏草(なつぐさ)(しげ)露野(つゆの)(はら)世継王(よつわう)山麓(さんろく)()して辿(たど)()く。
126 ()(ぐわつ)十三夜(じふさんや)(つき)は、127楕円形(だゑんけい)(かがみ)(そら)(てら)してゐる。128馬公(うまこう)129鹿公(しかこう)(つき)(ひかり)(なが)め、
130馬公『アヽ(なん)といい(つき)ぢやないか、131のう鹿公(しかこう)
132鹿公『ソリヤ馬公(うまこう)133きまつた(こと)だ。134五月(ごぐわつ)五日(いつか)(よひ)玉照姫(たまてるひめ)(さま)がお()(あそ)ばし、135記念(きねん)すべき(つき)だもの。136古往(こわう)今来(こんらい)コンナよい(つき)があるものかい。137それに(つい)ても可哀相(かわいさう)なのは黒姫(くろひめ)ぢやないか。138この(とほ)御空(みそら)水晶(すゐしやう)玉照姫(たまてるひめ)(さま)(かがや)(わた)り、139この(また)屋内(をくない)にもお(たま)さまに、140玉照姫(たまてるひめ)さまぢや、141(これ)()(あは)せて()つの御魂(みたま)()つても()いワ。142アヽ、
 
143()れて()たやうに(おも)ふや雨後(うご)(つき)
 
144とは如何(どう)だ』
145馬公『ヤー鹿公(しかこう)146貴様(きさま)俳句(はいく)()つて()るのか』
147鹿公『ハイ()でも、148(うた)でも、149(なん)でも()らぬものは()い。150(なん)なと()うて()よ。151当意(たうい)即妙(そくめう)152(ただち)(つく)つて()()にかける鹿公(しかこう)だよ』
153馬公『ソンナラ(いま)()のお(つき)さまに黒雲(くろくも)がさしかかり、154(いま)(かく)さうとして()る。155()れを(ひと)つやつて()よ』
156鹿公黒姫(くろひめ)玉照姫(たまてるひめ)(つつ)まれて 馬鹿(ばか)()むとす青彦(あをひこ)(そら)
157馬公(なん)()縁起(えんぎ)(わる)(うた)()むのだ。158()(なほ)さぬかい、159鹿公(しかこう)()
160鹿公大方(おほかた)馬公(うまこう)がさうお(いで)ると(おも)つて()た。161今度(こんど)真剣(しんけん)だよ。
 
162青彦(あをひこ)紫姫(むらさきひめ)大空(おほぞら)に (つき)玉照姫(たまてるひめ)(かがや)
 
163とは如何(どう)だ』
164馬公『ヨーシ モー(ひと)つやれ』
165鹿公『いくらでも、166(つき)(だい)にするのなら(つき)先祖(せんぞ)よ。167(つき)大神(おほかみ)(さま)(この)()()先祖(せんぞ)(さま)であるぞよ。168馬公(うまこう)()つかり()けよアーン、
169(つき)叢雲(むらくも)(はな)には(あらし)
170(ひがし)旗雲(はたぐも)箒星(はうきぼし)
171(あま)河原(かはら)北南(きたみなみ)
172(ほし)(なが)れは久方(ひさかた)
173フサの御国(みくに)()ちて()
174高山彦(たかやまひこ)短山(ひきやま)
175(みね)より(のぼ)月影(つきかげ)
176今日(けふ)芽出度(めでた)十三夜(じふさんや)
177たとへ黒姫(くろひめ)かかるとも
178伊吹(いぶき)狭霧(さぎり)()()らし
179(たちま)(かは)大御空(おほみそら)
180紫姫(むらさきひめ)青彦(あをひこ)
181(きよ)姿(すがた)となりにけり。
182 とは如何(どう)だ』
183馬公随分(ずゐぶん)(なが)(うた)だのう、184鹿公(しかこう)
185鹿公(なが)いとも(なが)いとも、186(いま)(なが)(やつ)(くろ)(かほ)してやつて()るのだ。187(よこ)(なが)(やつ)と、188(たて)(なが)高山彦(たかやまひこ)青瓢箪(あをべうたん)だ。189うまくやらぬと馬鹿(うましか)()るぞよ。190変性(へんじやう)男子(なんし)(まを)(こと)一分(いちぶ)一厘(いちりん)(ちが)ひはないぞよ』
191馬公(なに)(ぬか)すのだ、192モー()加減(かげん)()めて(もら)はうかい。193オイオイ()れを()よ、194(ふた)つの(かげ)(うごめ)いて()るぢやないか、195鹿(しか)とは(わか)らぬけれど』
196鹿公(しかこう)『ヨオ来居(きを)つたぞ、197(ふと)(みじか)(やつ)(ほそ)(なが)(やつ)だ。198ヤー此奴(こいつ)高山彦(たかやまひこ)黒姫(くろひめ)だ。199愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ると(そら)のお(つき)さまの(やう)に、200黒姫(くろひめ)()まれて(しま)つちや、201玉照姫(たまてるひめ)(さま)一大事(いちだいじ)だ、202サアサア()()めろ』
203()ふより(はや)く、204鹿公(しかこう)飛込(とびこ)みてピシヤリと(ぢやう)()ろしたり。
205馬公『オイ(おれ)()れて()れないか』
206鹿公『エー邪魔臭(じやまくさ)い。207貴様(きさま)何処(どこ)(くさむら)(なか)潜伏(せんぷく)して()れ、208(うま)じやないか。209(おれ)(なか)から()関所(せきしよ)死守(ししゆ)するのだ』
210 (ふた)つの(かげ)段々(だんだん)近寄(ちかよ)つて()る。211鹿公(しかこう)()うしても()けぬ。212馬公(うまこう)()むを()(かや)しげみ()(かく)して(ふる)()る。
213 二人(ふたり)(かげ)戸口(とぐち)(あら)はれたり。214一人(ひとり)(をんな)215一人(ひとり)(をとこ)
216女(黒姫)『モシモシ一寸(ちよつと)此処(ここ)()けて(くだ)さいな』
217鹿公『ナンダ、218暮六(くれむ)(さが)つてから(ひと)(うち)(おとづ)れる(やつ)があるかい。219()()世界(せかい)だ、220(よう)があれば明日(あす)()()い。221(この)門口(かどぐち)鹿公(しかこう)絶対(ぜつたい)()けることは出来(でき)ないぞよ』
222女(黒姫)左様(さやう)御座(ござ)いませうが、223ホンのチヨイトで(よろ)しい、224(いつ)(しやく)(ばか)()けて(くだ)さい。225(まを)()()一大事(いちだいじ)がございます』
226 鹿公(しかこう)227戸口(とぐち)()つて、
228鹿公其方(そちら)一大事(いちだいじ)があつても此方(こちら)(また)一大事(いちだいじ)だ。229ナント()つても()けないよ。230モシモシ青彦(あをひこ)さま、231貴方(あなた)一寸(ちよつと)()(くだ)さいな。232どうやら黒姫(くろひめ)がやつて()たやうですワ』
233 青彦(あをひこ)(おく)()より、
234青彦(たれ)がなんと()つても()けられないぞ』
235鹿公『さうだと()つて馬公(うまこう)(そと)に、236這入(はい)(そこ)ねて(かく)れて()ますがな』
237 黒姫(くろひめ)()(こゑ)()き、238(あた)りの(くさむら)(たづ)ね、
239黒姫『ヤアお(まへ)馬公(うまこう)ぢやな。240サアもう大丈夫(だいぢやうぶ)だ。241コレコレ高山(たかやま)さま、242用意(ようい)(つな)をお()しなさい。243エー(なに)をビリビリ地震(ぢしん)(やう)(ふる)ふて()なさる。244()(よわ)(けもの)だな』
245()ふより(はや)自分(じぶん)細帯(ほそおび)(ほど)いて、246馬公(うまこう)(しば)つて(しま)ひ、
247黒姫『サア馬公(うまこう)248此方(こつち)()るのだよ。249(この)()()ける(まで)250(まへ)人質(ひとじち)だ。251()()けなかつたら(この)黒姫(くろひめ)正体(しやうたい)(あら)はして、252一呑(ひとの)みに()みて(しま)はうか』
253馬公『エーコンナことだと(おも)つて()つた。254それだから(かみ)(さま)言霊(ことたま)(つつし)めと仰有(おつしや)るのに、255鹿公(しかこう)(やつ)256黒姫(くろひめ)()うだの()うだのと()ひよるものだから、257コンナ破目(はめ)(おちい)るんだ。258オイ馬公(うまこう)(くく)られたよ、259鹿公(しかこう)()けて()れないか』
260鹿公貴様(きさま)(くく)られる(やく)だ、261(おれ)(なか)(なが)くなつてグツスリ(やす)(やく)だ。262マア()()ける(まで)263其処(そこ)立往生(たちわうじやう)するがよいワ。264(やさ)しい黒姫(くろひめ)さまと、265色男(いろをとこ)高山(たかやま)さまとのお()れだもの、266あまり(さび)しくもあるまいがな』
267馬公『ソンナ冷酷(れいこく)なことを()ふものぢやないよ、268(まへ)もちつとは朋友(ほういう)(みち)(わきま)へて()るだらう』
269鹿公『マア()て、270(いま)これから紫姫(むらさきひめ)(さま)十八番(じふはちばん)言霊(ことたま)発射(はつしや)()さるところだ。271さうすれば黒姫(くろひめ)だつて高山彦(たかやまひこ)だつて(かぜ)()()()(ごと)く、272悲惨(ひさん)()()つて(ほろび)(しま)ふのだ』
273馬公『さうしたら(おれ)()うなるのだ』
274鹿公貴様(きさま)(こと)まで、275()研究(けんきう)はして()らぬ(わい)276オイ黒姫(くろひめ)(やつ)277(まこと)(もつ)てお()(どく)千万(せんばん)278()心中(しんちう)()(さつ)(まを)す。279高姫(たかひめ)(さま)(さぞ)叱言(こごと)頂戴(ちやうだい)なさつたでせう。280(しか)(なが)何程(なにほど)(まへ)さまが玉照姫(たまてるひめ)(さま)をお(むか)へしようと(おも)つてもモー駄目(だめ)だから足許(あしもと)(あか)るい(うち)に、281トツトと(かへ)りなさい。282其処(そこ)(うま)一匹(いつぴき)()るから、283ソレに()つてお(かへ)りなさいよ』
284馬公『コラ鹿公(しかこう)285無茶(むちや)ばつかり()ふない、286(おれ)(けつ)して黒姫(くろひめ)さまの(うま)ではないぞ』
287黒姫(くろひめ)『どうしても()けませぬか、288()けな(よろ)しい。289黒姫(くろひめ)道成寺(だうじやうじ)釣鐘(つりがね)ぢやないが()(いへ)大蛇(だいじや)となつて、290十重(とへ)二十重(はたへ)取捲(とりま)き、291熱湯()にして()せうか』
292鹿公『モシモシ紫姫(むらさきひめ)さま、293青彦(あをひこ)さま、294(しつか)りして(くだ)さい。295トツケもないことを()ひますぜ』
296 紫姫(むらさきひめ)言葉(ことば)(しづか)に、
297紫姫『ホヽヽヽヽ、298()心配(しんぱい)なさいますな。299鹿(しか)さま、300(しつ)かりと()()めて()きなさいや、301モシモシ黒姫(くろひめ)さま、302(まこと)貴女(あなた)には()()(どく)でございますが、303神界(しんかい)()め、304()(なか)(ため)には貴女(あなた)(たい)して不親切(ふしんせつ)なことを(いた)すのも()むを()ませぬ。305どうぞ(かへ)つて(くだ)さいませ』
306黒姫(なん)()つても(かへ)らない。307青彦(あをひこ)紫姫(むらさきひめ)素首(そつくび)引抜(ひきぬ)いて、308フサの(くに)高姫(たかひめ)(さま)にお()にかけ、309玉照姫(たまてるひめ)(さま)()(むか)(まを)さねば()きませぬぞや』
310青彦(あをひこ)(なん)執念深(しふねんぶか)()アさまぢやな、311青彦(あをひこ)(あき)れたよ。312いい加減(かげん)執着心(しふちやくしん)放棄(はうき)したらどうだい』
313黒姫執着心(しふちやくしん)はお(まへ)のことだよ。314(まへ)から()つたがよからう。315さうして玉照姫(たまてるひめ)さまと、316(たま)さまを此方(こつち)(わた)しなさい』
317青彦(あをひこ)()執着心(しふちやくしん)だけは何処(どこ)までも(はな)されない。318(けつ)して個人(こじん)私有(しいう)すべきものでない、319神政(しんせい)成就(じやうじゆ)大切(たいせつ)()(たから)だ。320たとへ天地(てんち)()へるとも、321こればかりは承諾(しようだく)出来(でき)ない、322どうぞ(はや)くお(かへ)りになつて(くだ)さい』
323黒姫(なん)()つても黒姫(くろひめ)(かへ)りませぬ』
324紫姫(むらさきひめ)玉照姫(たまてるひめ)(さま)三五教(あななひけう)(おい)ても()くてはならぬ結構(けつこう)(かみ)(さま)でございます。325(また)ウラナイ(けう)にも必要(ひつえう)(かみ)(さま)でございます。326さうだと(まを)して両方(りやうはう)欲求(よくきう)(みた)すと()(こと)は、327到底(たうてい)出来(でき)ませぬから、328いつそ(こと)貴方(あなた)()改心(かいしん)をなさつて、329三五教(あななひけう)にお(はい)(くだ)さつたら如何(どう)ですか。330貴方(あなた)()改心(かいしん)なさつた以上(いじやう)は、331高姫(たかひめ)さまも自然(しぜん)()改心(かいしん)になりませうから、332(むらさき)がさう()つたと高姫(たかひめ)さまに(つた)へて(くだ)さいませ』
333黒姫権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)(ろう)折角(せつかく)(わたし)(のぞ)みた玉照姫(たまてるひめ)(さま)計略(けいりやく)(もつ)て、334横領(わうりやう)なさつたお(まへ)さまこそ改心(かいしん)()され。335どちらが(ぜん)か、336(あく)か、337(こころ)(かがみ)(てら)して御覧(ごらん)なさい。338貴方(あなた)()(かた)三五教(あななひけう)精神(せいしん)破壊(はくわい)する()(かた)339つまり優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)利己主義(われよし)ではありませぬか』
340鹿公(しかこう)『エー八釜敷(やかまし)()ふない、341黒姫(くろひめ)(やつ)342貴様(きさま)こそ利己主義(われよし)ぢやないか。343()玉照姫(たまてるひめ)(さま)三五教(あななひけう)(かみ)(さま)()経綸(しぐみ)(あそ)ばして悦子姫(よしこひめ)(さま)()()げまでなさつた因縁(いんねん)があるのぢや。344(なん)()つても正義(せいぎ)だ、345先取権(せんしゆけん)があるのだ。346(ひと)(たから)垂涎(すゐゑん)して()らぬ謀叛(むほん)(おこ)煩悶(はんもん)をするよりも、347すつかりと(おも)()つて気楽(きらく)になつたら如何(どう)だ、348鹿公(しかこう)(はら)()つワイ』
349黒姫(くろひめ)(なん)()つても()(ばか)りは貫徹(くわんてつ)させなくては()くものか。350仮令(たとへ)(せん)(ねん)(まん)(ねん)かかつても(いの)つて(いの)つて(いの)()つて()せよう。351ヤアコンナ馬公(うまこう)人質(ひとじち)()つたところが、352(なん)(やく)にも()たない。353サア馬公(うまこう)354世界中(せかいぢう)(はな)(がひ)だ。355何処(どこ)なと勝手(かつて)にお()でなさい』
356(いましめ)(ほど)けば、357馬公(うまこう)は、
358馬公『ヤアヤア黒姫(くろひめ)さま有難(ありがた)う。359ヤアどつこい、360(まへ)(しば)られて、361(まへ)(ほど)かれたのだ、362有難(ありがた)うと()(すぢ)()い。363エー取返(とりかへ)しのならぬ失策(しつさく)をやつたものだ。364馬鹿(ばか)々々(ばか)しい』
365 (この)(とき)紫姫(むらさきひめ)(すず)やかな(こゑ)にて、366(あま)数歌(かずうた)(とどろ)(わた)りける。367(たちま)黒姫(くろひめ)頭部(とうぶ)真白(まつしろ)(へん)じ、368高山彦(たかやまひこ)()()(くも)(かすみ)西北(せいほく)()して(にげ)()く。
369馬公(うまこう)『オイ鹿公(しかこう)370モー黒姫(くろひめ)夫婦(ふうふ)(にげ)(しま)つたよ。371どうぞ()けて()れないか』
372鹿公『ヨシヨシ』
373()をガラリと()()け、
374鹿公『オイ馬公(うまこう)どうだつたい、375貴様(きさま)(しば)られて()つたぢやないか』
376馬公『ウン(しば)られたよ。377(しか)しチツトモ(いた)くはなかつた。378黒姫(くろひめ)(やつ)379(おれ)(しば)るときに一生(いつしやう)懸命(けんめい)小声(こごゑ)になつて、380大神(おほかみ)(さま)()みませぬ、381(ゆる)して(くだ)さい。382(つみ)()馬公(うまこう)(しば)ります、383これも()(みち)(ため)ですから、384神直日(かむなほひ)385大直日(おほなほひ)見直(みなほ)し、386聞直(ききなほ)して(くだ)さいませ」と(ねん)じて()つた。387(ひと)(せい)(ぜん)なりとは、388よく()うたものだなア』
389 青彦(あをひこ)はこれを()いて両手(りやうて)()み、390(かうべ)首垂(うなだ)思案(しあん)(しづ)む。391紫姫(むらさきひめ)(ただち)神前(しんぜん)感謝(かんしや)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)する。392玉照姫(たまてるひめ)(にはか)にヒシるが(ごと)()()(たま)ひける。393(たま)(おどろ)きあはてて玉照姫(たまてるひめ)()()(さす)り、394(なぐさ)()たり。
395 (そら)には(しろ)魚鱗(ぎよりん)(なみ)(たた)へた(くも)()()(つき)(おぼろ)(かがや)き、396(かな)しげに山杜鵑(やまほととぎす)(こゑ)(みね)彼方(かなた)(きこ)()る。
397大正一一・五・六 旧四・一〇 外山豊二録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→