霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 大悟(たいご)徹底(てつてい)〔六五三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻 篇:第2篇 意外の意外 よみ(新仮名遣い):いがいのいがい
章:第8章 大悟徹底 よみ(新仮名遣い):たいごてってい 通し章番号:653
口述日:1922(大正11)年05月07日(旧04月11日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
紫姫と若彦たちは、元伊勢の神前に祈願を籠めながら、馬公と鹿公の復命を待っていた。そこへ二人が戻ってきた。鶴公が高姫に報告をしに行ったことを聞いた一同は、高姫の返事を待つために一度世継王山へ帰ることになった。
四五日して、世継王山へ高姫一行が訪ねて来た。一同は、高姫らをもてなした。黒姫は、なぜ策略を使って奪った玉照姫を、こちらへ渡そうとするのか、と聞いた。若彦と紫姫は、自分たちの行為が素盞嗚尊の怒りを買い、三五教を除名され、また玉照姫をウラナイ教に譲るようにと命じられた経緯を語った。
高姫はそれを聞いて、素盞嗚尊の善を悟り、今まで敵対してきたことを詫び、涙にくれてその場に打ち伏した。高姫は素盞嗚尊の真心に打たれ、玉照姫を連れて帰ることはしばらく考えされて欲しい、と申し出た。
そして、高姫一行は一度フサの国へ帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-03 17:12:52 文字数:6489 OBC :rm1908
愛善世界社版:119頁 八幡書店版:第4輯 73頁 修補版: 校定版:122頁 普及版:55頁 初版: ページ備考:
001 紫姫(むらさきひめ)、002若彦(わかひこ)、003お玉(たま)は元伊勢(もといせ)の神殿(しんでん)に祈願(きぐわん)を籠(こ)め終(をは)り、004玉照姫(たまてるひめ)を介抱(かいほう)しつつ、005馬(うま)、006鹿(しか)両人(りやうにん)の復命(ふくめい)如何(いか)にと待(ま)つて居(ゐ)た。
007 黄昏(たそがれ)過(す)ぐる頃(ころ)神殿(しんでん)に向(むか)つて急(いそ)ぎ来(きた)る二(ふた)つの影(かげ)。
008馬公、鹿公『モシモシ紫姫(むらさきひめ)さま、009若彦(わかひこ)さまは居(ゐ)られますか、010馬(うま)、011鹿(しか)の両人(りやうにん)で御座(ござ)います』
012若彦(わかひこ)『ヤア馬公(うまこう)に鹿公(しかこう)、013御(ご)苦労(くらう)だつたナア。014様子(やうす)は如何(どう)ぢや』
015馬公(うまこう)『ハイまアまア上(じやう)いきでした。016黒姫(くろひめ)はフサの国(くに)へ帰(かへ)つて不在中(ふざいちゆう)だとかで、017残(のこ)りの十四五(じふしご)人(にん)の連中(れんちう)、018酒(さけ)に喰(くら)ひ酔(よ)つて大騒(おほさわ)ぎの真最中(まつさいちう)、019到頭(たうとう)吾々(われわれ)両人(りやうにん)も引張(ひつぱ)り込(こ)まれ、020酒(さけ)に酔(よ)ひ潰(つぶ)され、021敵味方(てきみかた)の区別(くべつ)も無(な)く互(たがひ)に歓(くわん)を尽(つく)して居(ゐ)る最中(さいちう)へ、022やつて来(き)たのはフサの国(くに)の本山(ほんざん)より高姫(たかひめ)、023黒姫(くろひめ)の使(つかひ)として鶴公(つるこう)、024亀公(かめこう)の両人(りやうにん)、025そこで吾々(われわれ)両人(りやうにん)は貴女(あなた)方(がた)の御(ご)意見(いけん)を伝(つた)へますると、026鶴公(つるこう)、027亀公(かめこう)は一(いち)も二(に)も無(な)く承諾(しようだく)をしました。028併(しか)し乍(なが)ら一寸(ちよつと)フサの国(くに)まで伺(うかが)つて来(く)るから、029確(かく)たる返答(へんたふ)は後(のち)程(ほど)するとの事(こと)でございました』
030紫姫(むらさきひめ)『アヽそれは御(ご)苦労(くらう)でしたナ。031左様(さやう)ならば御(ご)返事(へんじ)のあるまで、032一旦(いつたん)聖地(せいち)へ引返(ひきかへ)しませうか』
033若彦(わかひこ)『それが御(お)よろしうございませう。034玉照姫(たまてるひめ)様(さま)が元伊勢(もといせ)へ御(ご)参拝(さんぱい)の御(お)供(とも)を致(いた)したと思(おも)へば無駄(むだ)にはなりませぬ。035サアサア急(いそ)ぎ帰(かへ)りませう』
036と一行(いつかう)五(ご)人(にん)は、037玉照姫(たまてるひめ)を恭(うやうや)しく捧持(ほうぢ)しつつ再(ふたた)び世継王(よつわう)山麓(さんろく)の館(やかた)に立帰(たちかへ)りける。038峰(みね)の嵐(あらし)に吹(ふ)き散(ち)らされて満天(まんてん)の雲(くも)は何処(いづく)ともなく姿(すがた)を消(け)し、039上弦(じやうげん)の月(つき)は東天(とうてん)に輝(かがや)き初(はじ)めた。040夜明(よあ)けに間(ま)もなき時(とき)なりける。
041 四五(しご)日(にち)過(す)ぐる夜半(よなか)頃(ごろ)、042世継王(よつわう)山麓(さんろく)の玉照姫(たまてるひめ)が庵(いほり)を訪(たづ)ねる数名(すうめい)の男女(だんぢよ)が現(あら)はれた。043凩(こがらし)吹(ふ)き荒(すさ)ぶ真夜中(まよなか)頃(ごろ)、044紫姫(むらさきひめ)以下(いか)の家族(かぞく)は残(のこ)らず寝(しん)に就(つい)て居(ゐ)た。045門(もん)の戸(と)を敲(たた)く男(をとこ)の声(こゑ)、
046鶴公(つるこう)『モシモシ夜中(よなか)に参(まゐ)りまして済(す)みませぬが、047私(わたくし)は御(ご)存知(ぞんぢ)のフサの国(くに)のウラナイ教(けう)の本山(ほんざん)から参(まゐ)りました鶴公(つるこう)でございます。048先日(せんじつ)馬公(うまこう)さま、049鹿公(しかこう)さまに御(お)聞(き)き申(まを)したことを、050直様(すぐさま)高姫(たかひめ)、051黒姫(くろひめ)様(さま)に御(お)伝(つた)へ致(いた)しました所(ところ)、052殊(こと)の外(ほか)御(お)悦(よろこ)び遊(あそ)ばして、053唯今(ただいま)此所(ここ)へ大勢(おほぜい)伴(つ)れて御(お)出(い)でになりました』
054 馬公(うまこう)は此(こ)の声(こゑ)を聞(き)き、055家(いへ)の中(なか)より、
056馬公『ヤア擬(まが)ふ方(かた)なき鶴公(つるこう)さまの声(こゑ)、057一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい。058今直(いますぐ)に紫姫(むらさきひめ)様(さま)に申上(まをしあ)げますから、059オイ鹿公(しかこう)、060起(お)きぬか、061大変(たいへん)だ大変(たいへん)だ』
062 鹿公(しかこう)はむつくと起(お)き、
063鹿公『ナヽヽ何(なに)が大変(たいへん)だ。064大方(おほかた)フサの国(くに)から黒姫(くろひめ)さま、065高姫(たかひめ)さまが殊(こと)の外(ほか)御(お)悦(よろこ)びで御(お)出(い)でになつたのだらう』
066馬公(うまこう)『なまくらな奴(やつ)だ、067聞(き)いてゐやがつたのだな』
068鹿公(しかこう)『アハヽヽヽ、069モシモシ紫姫(むらさきひめ)さま、070若彦(わかひこ)さま、071高姫(たかひめ)、072黒姫(くろひめ)の御(ご)両人(りやうにん)が御(お)出(い)でになりましたよ』
073紫姫(むらさきひめ)『アーそれは御(ご)遠方(ゑんぽう)の所(ところ)、074よう来(き)て下(くだ)さつた。075馬公(うまこう)や、076早(はや)く表(おもて)を開(あ)けて下(くだ)さい。077さうして受付(うけつけ)で一寸(ちよつと)御(お)茶(ちや)でも差上(さしあ)げて、078此方(こちら)の奥(おく)の片付(かたづ)くまで待(ま)つて居(ゐ)て貰(もら)うて下(くだ)さい』
079と欣々(いそいそ)として寝床(ねどこ)を片付(かたづ)け、080掃除(さうぢ)にかかる。081若彦(わかひこ)は寝巻(ねまき)を着替(きか)へ、082慌(あわて)て表(おもて)に飛(と)び出(だ)し、
083若彦(わかひこ)『ヤー黒姫(くろひめ)さま、084高姫(たかひめ)さま、085よう御(お)出(い)で下(くだ)さいました。086サアほんの仮小屋(かりごや)で貴方(あなた)の御(お)在(いで)遊(あそ)ばす本山(ほんざん)に比(くら)ぶれば、087全(まる)で柴小屋(しばごや)の様(やう)なものでございますが、088どうぞ御(お)入(はい)り下(くだ)さいませ』
089高姫(たかひめ)『青彦(あをひこ)さま、090何事(なにごと)も神界(しんかい)の御(ご)都合(つがふ)だから今迄(いままで)の事(こと)は、091全然(すつかり)水(みづ)に流(なが)して仲好(なかよ)うするのだよ』
092若彦(わかひこ)『ハイハイ仰(あふ)せの通(とほ)り仲好(なかよ)うする程(ほど)、093結構(けつこう)なことはございませぬ』
094黒姫(くろひめ)『お前(まへ)は矢張(やつぱ)り私(わし)の眼識(めがね)に違(たが)はず、095屹度(きつと)こんな好結果(かうけつくわ)を齎(もたら)すであらうと思(おも)つて居(を)つた。096私(わし)の眼(め)は矢張(やつぱ)り黒(くろ)いワ。097高姫(たかひめ)さま如何(どう)でございます、098間違(まちが)ひはありますまい』
099高姫(たかひめ)『イヤどうも恐(おそ)れ入(い)りました。100サアサア御免(ごめん)蒙(かうむ)りませう』
101と一同(いちどう)はぞろぞろと閾(しきゐ)を跨(また)げて奥(おく)に進(すす)み入(い)る。
102紫姫(むらさきひめ)『これはこれは皆様(みなさま)よくおはせられました。103毎日(まいにち)日日(ひにち)首(くび)を伸(の)ばして御(ご)返事(へんじ)如何(いか)にと御(お)待(ま)ち申(まを)してゐました。104こちらの方(はう)から御(ご)返事(へんじ)の有(あ)り次第(しだい)伺(うかが)ふつもりでしたのに、105自(みづか)ら御(ご)出張(しゆつちやう)下(くだ)さいますとは、106実(じつ)に有難(ありがた)いことでございます。107どうぞ今迄(いままで)の御(ご)無礼(ぶれい)は御(お)赦(ゆる)し下(くだ)さいませ』
108黒姫(くろひめ)『モー斯(こ)うなれば親子(おやこ)も同然(どうぜん)だ。109決(けつ)して御(お)気遣(きづか)ひ下(くだ)さるな』
110と奥(おく)の間(ま)の正座(しやうざ)に一行(いつかう)七(しち)人(にん)ずらりと棚(たな)の布袋然(ほていぜん)として座(ざ)を占(しめ)る。
111 紫姫(むらさきひめ)は心底(しんてい)より嬉々(きき)として、112丁寧(ていねい)に遠来(ゑんらい)の客(きやく)をもてなしてゐる。113若彦(わかひこ)、114馬(うま)、115鹿(しか)の三(さん)人(にん)は俄(にはか)に襷掛(たすきが)けとなり、116御(ご)馳走(ちそう)の献立(こんだて)に全力(ぜんりよく)を尽(つく)してゐる。117お玉(たま)は玉照姫(たまてるひめ)の側(そば)を離(はな)れず大切(たいせつ)に保護(ほご)して居(を)る。
118黒姫(くろひめ)『これ紫姫(むらさきひめ)さま、119貴女(あなた)は本当(ほんたう)に見上(みあ)げた御(お)方(かた)だ。120この黒姫(くろひめ)でさへも深遠(しんゑん)霊妙(れいめう)なる貴女(あなた)の秘策(ひさく)には気(き)が付(つ)かなかつた。121大事(だいじ)を遂行(すゐかう)するものは、122さうなくてはならぬものだ。123現在(げんざい)上役(うはやく)の私(わたし)さへも知(し)らぬやうに、124うまく芝居(しばゐ)を仕組(しぐ)まれた其(そ)の腕前(うでまへ)は、125実(じつ)に感服(かんぷく)致(いた)しました。126モシ高姫(たかひめ)さま、127それだから私(わたし)が貴女(あなた)に御(お)目(め)にかけた時(とき)、128掘(ほ)り出(だ)し物(もの)が手(て)に入(い)つたと言(い)うたぢやありませぬか。129黒姫(くろひめ)の眼力(がんりき)も、130あまり捨(す)てたものぢやありますまい。131エヘヽヽヽ』
132と肩(かた)を揺(ゆす)る。
133紫姫(むらさきひめ)『イエイエもとより智慧(ちゑ)の足(た)らはぬ妾(わらは)のことでございますから、134実(じつ)の処(ところ)は若彦(わかひこ)、135元(もと)の名(な)の青彦(あをひこ)と二人(ふたり)、136悦子姫(よしこひめ)さまの御(お)指図(さしづ)に従(したが)つて、137済(す)まぬとは知(し)り乍(なが)ら黒姫(くろひめ)様(さま)を誑(たば)かつたのです。138つまり貴女(あなた)に揚(あ)げ壺(つぼ)を喰(く)はし、139玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を此方(こちら)へ捧持(ほうぢ)して帰(かへ)つた時(とき)は、140それはそれは何(なん)とも知(し)れぬ心持(こころもち)でございました。141嬉(うれ)しいやら又(また)何(なん)ともなしに気持(きもち)が悪(わる)いやら、142貴女(あなた)に対(たい)して御(お)気(き)の毒(どく)やら、143何(なに)か心(こころ)の奥(おく)の奥(おく)に一(ひと)つの黒(くろ)い影(かげ)があるやうな心持(こころもち)でした、144今日(こんにち)となつては実(じつ)に一点(いつてん)の曇(くも)りも無(な)き様(やう)になりまして、145こんな嬉(うれ)しいことはございませぬ』
146 黒姫(くろひめ)は眼(め)を丸(まる)うし、147口(くち)を尖(とが)らし、
148黒姫(くろひめ)『さうすると矢張(やつぱ)りお前(まへ)等(ら)二人(ふたり)諜(しめ)し合(あ)はして、149私(わし)を抱(だ)き落(おと)しにかけたのだな。150ほんにほんに油断(ゆだん)ならぬ途方(とはう)も無(な)い腹(はら)の黒(くろ)いお姫(ひめ)様(さま)だ。151オホヽヽヽ』
152高姫(たかひめ)『これ黒姫(くろひめ)さま、153もう好(よ)いぢやありませぬか。154改心(かいしん)さへなさつたら何(なに)も言(い)ふことはありませぬワ。155過(す)ぎ去(さ)つたことを言(い)うて互(たがひ)に気分(きぶん)を悪(わる)うするよりも、156勇(いさ)んで御用(ごよう)をするのが神(かみ)様(さま)に対(たい)して孝行(かうかう)ぢや。157もうそんな事(こと)は打切(うちき)りに致(いた)して、158打解(うちと)けて是(これ)から神業(しんげふ)に参加(さんか)しようではありませぬか』
159紫姫(むらさきひめ)『有難(ありがた)うございます。160これに就(つ)きましては種々(いろいろ)と深(ふか)い理由(わけ)がございますが、161軈(やが)て御膳(ごぜん)の支度(したく)も出来(でき)ませうから、162ゆつくりと召上(めしあが)つて其(そ)の後(あと)に、163妾(わたし)等(ら)の懺悔話(ざんげばなし)を聞(き)いて貰(もら)ひませう』
164 斯(かか)る処(ところ)へ若彦(わかひこ)は現(あら)はれ来(きた)り、
165若彦『皆(みな)さま、166御飯(ごはん)の用意(ようい)が出来(でき)ました。167もう夜(よ)も明(あ)けかけましたから、168どうぞ御(お)手水(てうづ)を使(つか)つて御飯(ごはん)を召上(めしあが)つて下(くだ)さいませ』
169黒姫(くろひめ)『サア皆(みな)さま、170身体(からだ)を潔(きよ)めて神(かみ)様(さま)に御(お)礼(れい)を申上(まをしあ)げ、171御飯(ごはん)を頂戴(ちやうだい)して、172ゆるゆると御(お)話(はなし)を承(うけたま)はることにしませう』
173 此(こ)の言葉(ことば)に一同(いちどう)は裏(うら)の谷川(たにがは)の清泉(せいせん)に口(くち)を嗽(すす)ぎ、174手水(てうづ)を使(つか)ひ神前(しんぜん)に祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、175終(をは)つて朝餉(あさげ)の膳(ぜん)に就(つ)いた。
176黒姫(くろひめ)『何(なに)から何(なに)まで心(こころ)を籠(こ)めた結構(けつこう)な御(ご)馳走(ちそう)を頂戴(ちやうだい)致(いた)しました。177青彦(あをひこ)さまの真心(まごころ)が染(し)み込(こ)んで、178何(なん)となく美味(おいし)く頂戴(ちやうだい)致(いた)しました。179時(とき)に青彦(あをひこ)さまに否(いや)紫姫(むらさきひめ)さまに改(あらた)めて御(お)訊(たづ)ね致(いた)しますが、180それだけ仕組(しぐ)んで此(こ)の年寄(としより)をちよろまかし、181茲(ここ)まで成功(せいこう)して置(お)き乍(なが)ら、182何(なん)の為(ため)に今(いま)となつて玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を、183私(わたし)の方(はう)へ渡(わた)さうと言(い)ふのだい。184大方(おほかた)玉照姫(たまてるひめ)様(さま)の御意(ぎよい)に叶(かな)はずして何(なに)か恐(おそ)ろしい夢(ゆめ)でも毎晩(まいばん)二人(ふたり)の方(かた)が見(み)せられ、185責(せめ)られるのが辛(つら)さに切羽(せつぱ)詰(つま)つての今度(こんど)の降参(かうさん)ぢやないか。186素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の悪神(わるがみ)の御用(ごよう)をするお前(まへ)として、187どうも不思議(ふしぎ)で堪(たま)らぬぢやないか。188サアすつぱりと打明(うちあ)けて言(い)ひなされ。189事(こと)によつたら玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を受取(うけと)つて上(あ)げぬこともない』
190若彦(わかひこ)『イエイエ滅相(めつさう)もない。191玉照姫(たまてるひめ)様(さま)は何時(いつ)も大変(たいへん)な御(ご)機嫌(きげん)でゐらせられ、192御(ご)神徳(しんとく)は日々(にちにち)輝(かがや)きまして、193此(こ)の御(お)方(かた)あるため三五教(あななひけう)は大変(たいへん)な勢力(せいりよく)になつて来(き)ました』
194黒姫(くろひめ)『そんな結構(けつこう)な玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を何故(なぜ)又(また)あれだけ秘術(ひじゆつ)を尽(つく)して手(て)に入(い)れ乍(なが)ら、195ウラナイ教(けう)へ受取(うけと)つて下(くだ)されと頼(たの)みに来(き)たのだい』
196若彦(わかひこ)『実(じつ)は剣尖山(けんさきやま)の麓(ふもと)の谷川(たにがは)で、197貴女(あなた)に御(お)眼(め)にかかつた時(とき)、198紫姫(むらさきひめ)様(さま)と吾々(われわれ)以心(いしん)伝心(でんしん)的(てき)に詐(いつは)つて、199ウラナイ教(けう)に帰順(きじゆん)と見(み)せかけ、200貴女(あなた)の計略(けいりやく)をすつかり探知(たんち)し、201うまく取(と)り入(い)つて重任(ぢうにん)を仰(あふ)せ付(つ)けらるるところまで漕(こ)ぎつけ、202これ幸(さいは)ひと豊彦(とよひこ)の家(うち)へ綾彦(あやひこ)夫婦(ふうふ)を引伴(ひきつ)れ、203玉照姫(たまてるひめ)様(さま)、204お玉(たま)さまを受取(うけと)り、205黒姫(くろひめ)さまは今頃(いまごろ)は欠伸(あくび)をして待(ま)つてゐらつしやるだらう。206エー好(よ)いことをした、207痛快(つうくわい)だと心(こころ)欣々(いそいそ)帰(かへ)つて参(まゐ)り、208日(ひ)に夜(よ)に侍(かしづ)き仕(つか)へ奉(まつ)り、209その御(お)かげで旭日(きよくじつ)昇天(しようてん)の三五教(あななひけう)の勢(いきほ)ひとなり、210素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)も嘸(さぞ)御(お)悦(よろこ)びの事(こと)と思(おも)つて居(を)りましたところ、211或(ある)夜(よ)のこと大神(おほかみ)様(さま)の御(おん)娘(むすめ)英子姫(ひでこひめ)様(さま)に、212大神(おほかみ)様(さま)より非常(ひじやう)な御(ご)意見(いけん)を遊(あそ)ばされた上(うへ)、213権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)的(てき)偽策(ぎさく)を弄(ろう)して貴(たふと)き神(かみ)様(さま)を手(て)に入(い)れるとは不都合(ふつがふ)千万(せんばん)だ、214三五教(あななひけう)に於(おい)て最(もつと)も必要(ひつえう)なる玉照姫(たまてるひめ)なれば、215ウラナイ教(けう)にも必要(ひつえう)であらう。216黒姫(くろひめ)が全力(ぜんりよく)を尽(つく)して手(て)に入(い)れようとしてゐるものを、217無慈悲(むじひ)にも何故(なぜ)そんな掠奪(りやくだつ)的(てき)行動(かうどう)を執(と)つたのだ。218己(おのれ)の欲(ほつ)する所(ところ)は他人(ひと)に施(ほどこ)せと云(い)ふ神(かみ)の心(こころ)を知(し)らぬか、219一時(いつとき)も早(はや)く黒姫(くろひめ)に玉照姫(たまてるひめ)を御(お)渡(わた)し申(まを)し、220御(お)詫(わび)を致(いた)せ。221さうして其(その)方(はう)等(ら)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)を止(や)めよとの意外(いぐわい)なる御(ご)不興(ふきよう)、222厳(きび)しき御(ご)命令(めいれい)でございました。223それが為(ため)に紫姫(むらさきひめ)様(さま)も、224私(わたくし)も嗚呼(ああ)縮尻(しくじ)つた。225三五教(あななひけう)の精神(せいしん)はそんなものぢやない。226また素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)の大御心(おほみこころ)は、227吾々(われわれ)のやうな半清(はんせい)半濁(はんだく)の魂(たましひ)ではない。228誠(まこと)一(ひと)つの水晶(すゐしやう)の御魂(みたま)と感(かん)じ入(い)り、229恐(おそ)れ入(い)つて気(き)が気(き)でならず、230貴女(あなた)が依然(いぜん)として魔窟(まくつ)ケ原(はら)の巌窟(がんくつ)に御座(ござ)ることと思(おも)ひ、231玉照姫(たまてるひめ)様(さま)が元伊勢(もといせ)様(さま)へ御(ご)参拝(さんぱい)の御(お)供(とも)を幸(さいは)ひ、232馬(うま)、233鹿(しか)の両人(りやうにん)を遣(つか)はして御(お)詫(わび)にやつたところ、234生憎(あいにく)本山(ほんざん)へ御(お)引上(ひきあ)げの御(お)留守中(るすちう)、235幸(さいは)ひにも本山(ほんざん)より、236鶴(つる)、237亀(かめ)の御(ご)両人(りやうにん)が御(お)出(い)でになつたさうで、238そこで馬(うま)、239鹿(しか)の両人(りやうにん)が吾々(われわれ)の意志(いし)を伝(つた)へて、240貴女(あなた)に御(お)願(ねが)ひしたやうな次第(しだい)でございます。241決(けつ)して決(けつ)して吾々(われわれ)両人(りやうにん)が心(こころ)からの改心(かいしん)で御(お)渡(わた)し申(まを)さうと言(い)ふのではございませぬ。242全(まつた)く大神(おほかみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)に拠(よ)つたのでございます』
243紫姫(むらさきひめ)『唯今(ただいま)若彦(わかひこ)の申(まを)された通(とほ)り、244寸分(すんぶん)の相違(さうゐ)もございませぬ。245どうぞ吾々(われわれ)の今迄(いままで)の悪心(あくしん)を御(お)赦(ゆる)し下(くだ)さいまして、246玉照姫(たまてるひめ)様(さま)をウラナイ教(けう)へ御(お)受取(うけとり)下(くだ)さいませ。247吾々(われわれ)一同(いちどう)がフサの国(くに)迄(まで)御(お)供(とも)を致(いた)します。248さうして吾々(われわれ)最早(もはや)三五教(あななひけう)を除名(ぢよめい)されたものでございますれば、249どうぞ貴女(あなた)の幕下(ばくか)に御(お)使(つか)ひ下(くだ)さいますように御(お)願(ねが)ひ申(まを)します』
250黒姫(くろひめ)『よしよし私(わし)の否(いな)ウラナイ教(けう)の立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)にして上(あ)げませうよ。251御(ご)心配(しんぱい)なさるな。252又(また)玉照姫(たまてるひめ)様(さま)もお玉(たま)さまも確(たしか)に御(お)受取(うけと)り致(いた)しませう』
253高姫(たかひめ)『アヽ一寸(ちよつと)黒姫(くろひめ)さま、254御(お)待(ま)ち下(くだ)さいませ。255こりや吾々(われわれ)も一(ひと)つ考(かんが)へねばなりますまい。256何程(なにほど)玉照姫(たまてるひめ)様(さま)が結構(けつこう)な御(お)方(かた)だと言(い)つて、257ハイ左様(さやう)かと頂(いただ)いて帰(かへ)る訳(わけ)には行(い)きますまい』
258黒姫(くろひめ)『そりや又(また)何故(なぜ)に、259折角(せつかく)ここ迄(まで)に漕(こ)ぎつけたのに、260神(かみ)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)を受取(うけと)らぬと仰有(おつしや)るのですか』
261高姫(たかひめ)『私(わたくし)は実(じつ)に心(こころ)の中(うち)のさもしさが今更(いまさら)の如(ごと)く恥(はづ)かしくなつて来(き)ました。262素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)は変性(へんじやう)女子(によし)だ、263悪役(あくやく)だと今(いま)の今(いま)まで思(おも)ひ詰(つ)め、264こんな神(かみ)の建(た)てた教(をしへ)は絶対(ぜつたい)に根底(こんてい)から粉砕(ふんさい)して了(しま)はねば世界(せかい)は何時(いつ)迄(まで)も闇黒(くらやみ)だから、265仮令(たとへ)私(わたし)の生命(いのち)は如何(どう)なつても、266素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の悪神(あくがみ)を打滅(うちほろぼ)し、267三五教(あななひけう)を根底(こんてい)より替(か)へて誠(まこと)一(ひと)つのウラナイの教(をしへ)で世界(せかい)を水晶(すゐしやう)に致(いた)し、268二度目(にどめ)の岩戸(いはと)開(びら)きをせなならぬと、269今(いま)の今迄(いままで)一生(いつしやう)懸命(けんめい)に活動(くわつどう)して来(き)ましたが、270素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)は矢張(やつぱ)り善(ぜん)であつた。271大善(たいぜん)は大悪(だいあく)に似(に)たり、272真(しん)の孝(かう)は不孝(ふかう)に似(に)たり、273誠(まこと)の教(をしへ)は偽(いつは)りの教(をしへ)に似(に)たりと言(い)ふ神(かみ)様(さま)の御(ご)教示(けうじ)が、274私(わたくし)の胸(むね)に釘(くぎ)さすやうに響(ひび)いて来(き)ました。275アヽ瑞(みづ)の御霊(みたま)様(さま)、276今迄(いままで)の私(わたし)の取違(とりちが)ひ、277御(ご)無礼(ぶれい)を何卒(どうぞ)赦(ゆる)して下(くだ)さいませ』
278と両手(りやうて)を合(あは)せ、279涙(なみだ)をハラハラと流(なが)し、280身体(からだ)を畳(たたみ)に打突(うちつ)けるやうに藻掻(もが)いて詫入(わびい)るのであつた。
281 黒姫(くろひめ)は狐(きつね)につままれたやうな顔(かほ)をして、282一言(いちごん)も発(はつ)せず、283眼(め)ばかりギヨロつかせて一同(いちどう)を眺(なが)めて居(ゐ)る。284梟鳥(ふくろどり)の夜食(やしよく)に外(はづ)れたと言(い)はうか、285鳩(はと)が豆鉄砲(まめでつぱう)を喰(く)つたと言(い)はうか、286何(なん)とも形容(けいよう)の出来(でき)ぬスタイルを遺憾(ゐかん)なく暴露(ばくろ)してゐる。287紫姫(むらさきひめ)は高姫(たかひめ)に取縋(とりすが)り、288涙(なみだ)乍(なが)らに、
289紫姫(むらさきひめ)『モシモシ高姫(たかひめ)様(さま)、290どうぞ許(ゆる)して下(くだ)さいませ。291貴女(あなた)は其(その)様(やう)な綺麗(きれい)な御(お)心(こころ)とは知(し)らず、292今(いま)の今迄(いままで)陰険(いんけん)な御(お)方(かた)と疑(うたが)つて居(を)りました。293何(なに)も彼(か)も是(これ)にてすつかり御(ご)心中(しんちう)が氷解(ひようかい)致(いた)しました。294アー私(わたくし)は何(なん)としたさもしい根性(こんじやう)でありましただらう。295どうぞ私(わたし)達(たち)を助(たす)けると思(おも)つて、296玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を御(お)受取(うけと)り下(くだ)さいませ』
297 高姫(たかひめ)は漸々(やうやう)顔(かほ)を上(あ)げ、298涙(なみだ)を袖(そで)にて拭(ぬぐ)ひ乍(なが)ら鼻(はな)を啜(すす)つて、
299高姫(たかひめ)『イヤもう前世(ぜんせ)よりの深(ふか)い罪業(めぐり)で、300今(いま)が今迄(いままで)瞋恚(しんい)の雲(くも)に包(つつ)まれ、301執着心(しふちやくしん)の悪魔(あくま)に囚(とら)はれて、302思(おも)はぬ恥(はぢ)を神(かみ)様(さま)の前(まへ)に晒(さら)しました。303国治立(くにはるたち)の大神(おほかみ)様(さま)、304豊国姫(とよくにひめ)の大神(おほかみ)様(さま)、305素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)も嘸(さぞ)端(はした)ない奴(やつ)だと御(お)笑(わら)ひでございませう。306それに就(つ)けても茲(ここ)迄(まで)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)を敵(かたき)として、307有(あ)らむ限(かぎ)りの悪口(あくこう)を申上(まをしあ)げ、308神業(しんげふ)の御(お)邪魔(じやま)を何彼(なにか)につけて致(いた)して来(き)ました。309此(こ)の深(ふか)い罪(つみ)をも御(お)咎(とが)めなく、310大切(たいせつ)な玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を私(わたし)達(たち)に御(お)遣(つか)はし下(くだ)された上(うへ)、311大切(たいせつ)な宣伝使(せんでんし)まで懲戒(みせしめ)のため除名(ぢよめい)をするとの御(おん)言葉(ことば)、312何(なん)たる公平(こうへい)無私(むし)な神(かみ)様(さま)でございませう。313アヽ勿体(もつたい)ない、314どうぞ神(かみ)様(さま)赦(ゆる)して下(くだ)さいませ』
315と又(また)もや泣(な)き伏(ふ)しける。316黒姫(くろひめ)も何(なん)となく悲(かな)しさうに俯向(うつむ)いて、317肩(かた)で息(いき)をして居(ゐ)る。
318馬公(うまこう)『オイ鹿公(しかこう)、319どうしても世継王(よつわう)山(ざん)の麓(ふもと)はフモトぢや。320全(まる)で狐(きつね)を馬(うま)に乗(の)せたやうな天変(てんぺん)地変(ちへん)が勃発(ぼつぱつ)したぢやないか』
321鹿公(しかこう)『そうだから一寸先(いつすんさき)は暗(やみ)の世(よ)よ。322何事(なにごと)も惟神(かむながら)に任(まか)せ、323人間(にんげん)の分際(ぶんざい)で神(かみ)の経綸(しぐみ)は判(わか)らぬと仰有(おつしや)るのだ』
324馬公(うまこう)『そうだと言(い)つて、325変(かは)ると言(い)つても、326あまりぢやないか。327彼(あ)れ程(ほど)両方(りやうはう)から一生(いつしやう)懸命(けんめい)になつて、328狙(ねら)つて居(を)つた玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を貰(もら)つて呉(く)れ、329イヤ勿体(もつたい)ないなんて肝腎(かんじん)の玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を馬鹿(ばか)にして居(を)るぢやないか。330此方(こちら)で振(ふ)られ、331彼方(あちら)で振(ふ)られ、332玉照姫(たまてるひめ)さまだつて立(た)つ所(ところ)が無(な)いぢやらう。333俺(おれ)はウラナイ教(けう)が伴(つ)れて帰(かへ)らねば、334お玉(たま)さまと一緒(いつしよ)に手(て)を携(たづさ)へて、335玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を捧持(ほうぢ)し、336何処(どこ)かの山奥(やまおく)に行(い)つて、337一旗(ひとはた)挙(あ)げて見(み)ようと思(おも)ふが如何(どう)だらうな』
338鹿公(しかこう)『何(なに)を吐(ぬか)すのだ。339貴様(きさま)等(ら)に玉照姫(たまてるひめ)さまやお玉(たま)さまが随(つ)いて往(い)かつしやると思(おも)ふか』
340馬公(うまこう)『一寸先(いつすんさき)は暗(やみ)の世(よ)だ。341人間(にんげん)の知識(ちしき)の範囲(はんゐ)でわかるものかい。342何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)の御(ご)意思(いし)の儘(まま)だ。343併(しか)しよく考(かんが)へてみよ、344高姫(たかひめ)さまや、345黒姫(くろひめ)さまが泣(な)いて受取(うけと)らず、346紫姫(むらさきひめ)さまや、347若彦(わかひこ)が受取(うけと)つて呉(く)れと言(い)ふ。348何方(どちら)にもゆき場(ば)がなくなつて、349宙(ちう)にブラリの玉照姫(たまてるひめ)さまだ。350白羽(しらは)の矢(や)は屹度(きつと)俺(おれ)にささらねば、351ささるものがないぢやないか』
352鹿公(しかこう)『アハヽヽヽ、353取(と)らぬ狸(たぬき)の皮算用(かはざんよう)だ、354拾(ひろ)はぬ金子(かね)の分配話(ぶんぱいばなし)見(み)たやうな惚(とぼ)けたことを言(い)ふない。355余程(よつぽど)貴様(きさま)もお目出度(めでた)い奴(やつ)だ。356アハヽヽヽ』
357若彦(わかひこ)『こりや馬(うま)、358鹿(しか)の両人(りやうにん)、359沈黙(ちんもく)せぬか』
360馬公、鹿公『ハイ沈黙(ちんもく)致(いた)します。361併(しか)しお前(まへ)さま等(ら)のやうに涙(なみだ)をこぼしての沈黙(ちんもく)とは違(ちが)ひますから、362玉石(ぎよくせき)混淆(こんかう)されては困(こま)りますで』
363若彦(わかひこ)『要(い)らぬ口(くち)をたたくものぢやない』
364 馬(うま)、365鹿(しか)は目(め)を細(ほそ)うし、366舌(した)をベロツと出(だ)し、367腮(あご)をしやくつて蹲踞(しやが)んで見(み)せた。
368 高姫(たかひめ)は涙(なみだ)を払(はら)ひ、
369高姫『アヽ兎(と)も角(かく)一旦(いつたん)フサの国(くに)の本山(ほんざん)へ帰(かへ)りまして、370トツクリと思案(しあん)を致(いた)しまして其(その)上(うへ)に御(ご)返事(へんじ)をさして貰(もら)ひませう。371サア黒姫(くろひめ)さま、372御(お)暇(いとま)乞(ご)ひをしようではございませぬか』
373黒姫(くろひめ)『玉照姫(たまてるひめ)さまの御(お)身(み)の上(うへ)はどうなさる。374序(ついで)に鄭重(ていちよう)に御(お)迎(むか)ひ申(まを)して帰(かへ)つたら如何(どう)でせう』
375紫姫(むらさきひめ)『どうぞさうなさつて下(くだ)さいませ。376ナアお玉(たま)さま、377貴方(あなた)行(い)つて下(くだ)さいますか』
378お玉(たま)『ハイ何事(なにごと)も惟神(かむながら)に任(まか)した妾(わたし)、379どうぞ宜敷(よろし)きやうに御(お)願(ねが)ひ致(いた)します』
380高姫(たかひめ)『なんと仰有(おつしや)つて下(くだ)さいましても、381心(こころ)が恥(はづ)かしくつて玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を御(お)世話(せわ)さして戴(いただ)くだけの資格(しかく)がないやうに、382守護神(しゆごじん)が申(まを)します。383どうぞ此(この)場(ば)は、384これ限(ぎ)りにして下(くだ)さいませ』
385若彦(わかひこ)『どうしても御(お)受取(うけとり)下(くだ)さらぬのですか。386又(また)吾々(われわれ)の願(ねが)ひを諾(き)いてやらぬとの御(ご)了簡(りやうけん)ですか。387それはあまりぢやありませぬか』
388高姫(たかひめ)『なんと仰有(おつしや)つても暫(しば)らくの御(ご)猶予(いうよ)を頂(いただ)きます。389どうぞ大切(たいせつ)に玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を御(お)世話(せわ)して上(あ)げて下(くだ)さいませ。390万々一(まんまんいち)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)が此(この)事(こと)に就(つい)て、391貴方(あなた)方(がた)をお咎(とが)めになるやうなことがあれば、392此(こ)の高姫(たかひめ)がどんな責任(せきにん)でも負(おは)して頂(いただ)きます。393アヽ玉照姫(たまてるひめ)様(さま)どうぞ御(ご)機嫌(きげん)よう三五教(あななひけう)を御(お)守(まも)り下(くだ)さいませ。394罪(つみ)深(ふか)き高姫(たかひめ)、395御(お)言葉(ことば)をおかけ申(まを)すも畏(おそ)れ多(おほ)うございますが、396広(ひろ)き厚(あつ)き大御心(おほみこころ)に見直(みなほ)し、397聞直(ききなほ)し下(くだ)さいまして罪(つみ)深(ふか)き吾々(われわれ)どもを御(お)許(ゆる)し下(くだ)さいませ。398左様(さやう)ならば御(お)暇(いとま)致(いた)しますよ』
399黒姫(くろひめ)『もうお帰(かへ)りですか』
400高姫(たかひめ)『サア貴方(あなた)も帰(かへ)りませう。401玉照姫(たまてるひめ)様(さま)にお暇(いとま)乞(ご)ひをなさいませ。402紫姫(むらさきひめ)様(さま)、403青彦(あをひこ)様(さま)、404其(その)外(ほか)御(ご)一同(いちどう)様(さま)、405突然(とつぜん)参(まゐ)りまして、406エライ御(ご)造作(ざうさ)をかけました。407一先(ひとま)づ本山(ほんざん)まで帰(かへ)つて参(まゐ)ります。408何分(なにぶん)宜(よろ)しうお願(ねが)ひ申(まを)します』
409紫姫(むらさきひめ)『アヽ強(た)つてさう仰有(おつしや)れば是非(ぜひ)はございませぬ。410これも全(まつた)く妾(わたし)等(ら)の行届(ゆきとど)かないからのこと、411どうぞ悪(あし)からず思召(おぼしめ)し下(くだ)さいまして、412将来(しやうらい)何分(なにぶん)宜敷(よろし)く御(お)願(ねが)ひ申(まを)します』
413馬公(うまこう)『是非(ぜひ)ともよろしう』
414鹿公(しかこう)『私(わたし)も同(おな)じく是非(ぜひ)ともよろしう』
415高姫(たかひめ)『サア金公(きんこう)、416八公(はちこう)、417飛行船(ひかうせん)の用意(ようい)だ』
418 高姫(たかひめ)一行(いつかう)は二隻(にせき)の飛行船(ひかうせん)に搭乗(たふじやう)するや否(いな)や、419円(ゑん)を描(ゑが)いて空中(くうちう)に駆(か)け昇(のぼ)り、420西天(せいてん)高(たか)く姿(すがた)を隠(かく)したり。
421 アヽ高姫(たかひめ)、422黒姫(くろひめ)は今後(こんご)如何(いか)なる行動(かうどう)に出(い)づるならむか。
423(大正一一・五・七 旧四・一一 外山豊二録)
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