霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 山神(やまがみ)の滝(たき)〔六六〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻 篇:第4篇 地異天変 よみ(新仮名遣い):ちいてんぺん
章:第15章 山神の滝 よみ(新仮名遣い):やまがみのたき 通し章番号:660
口述日:1922(大正11)年05月09日(旧04月13日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
来勿止神は、松姫の来歴を尋ねた。そして、あらましは言照姫から聞いているが、まだ副守護神が残っているため、山の神の滝で七日七夜の荒行が必要だ、と松姫に告げた。
来勿止神は、松姫の荒行の世話を勝公と竹公に命じた。勝公と竹公は、荒行の決まりとして心ならずも松姫を虐待する。しかし勝公が去ると、竹公は松姫の禊の手伝いとして、自分も滝行を行うのだった。
四日目の朝、勝公がやってきて、来勿止神より禊完了の許しが出たことを告げた。三人は来勿止神のところに戻ってきた。来勿止神は松姫と竹公をいたわった。
そこへ、ウラル教とバラモン教の四人が関所の門前にやってきて、玉照彦を奪ったことや、松姫を打ちすえたことを懺悔し、許しを請い始めた。
勝彦は、来勿止神と松姫に、四人の処置を伺いに戻っていく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-13 17:53:38 文字数:6184 OBC :rm1915
愛善世界社版:255頁 八幡書店版:第4輯 125頁 修補版: 校定版:259頁 普及版:119頁 初版: ページ備考:
001 松姫(まつひめ)は来勿止(くなどめの)神(かみ)に導(みちび)かれ、002門(もん)の傍(かたはら)の細(ささ)やけき二間(ふたま)造(づく)りの室(へや)に案内(あんない)された。
003来勿止(くなどめの)神(かみ)『此(こ)の暗夜(あんや)に女(をんな)の身(み)として此(こ)の神山(しんざん)へ御(ご)参拝(さんぱい)なされますに就(つい)ては、004何(なに)か深(ふか)い理由(わけ)がございませう。005私(わたし)は此(こ)の関所(せきしよ)を守(まも)る役目(やくめ)として一応(いちおう)御(お)尋(たづ)ねして置(お)く必要(ひつえう)がございますから、006どうぞ包(つつ)まず隠(かく)さず事情(じじやう)を述(の)べて下(くだ)さい』
007松姫(まつひめ)『御(お)恥(はづ)かしいことで御座(ござ)いますが、008私(わたくし)は今(いま)まで大変(たいへん)な取違(とりちが)ひを致(いた)して居(を)りましたものでございます。009ウラナイ教(けう)の分社(でやしろ)高城山(たかしろやま)の麓(ふもと)の館(やかた)に於(おい)て、010三五教(あななひけう)に対抗(たいかう)し、011素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)の御(お)邪魔(じやま)ばかり致(いた)して来(き)ました罪(つみ)の深(ふか)い女(をんな)でございます。012私(わたくし)の師匠(ししやう)の高姫(たかひめ)、013黒姫(くろひめ)と云(い)ふ方(かた)が大変(たいへん)に素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)に反対(はんたい)の教(をしへ)をなさつたので、014私(わたくし)はそれを真(ま)に受(う)け、015何処(どこ)までも天下(てんか)国家(こくか)のためにウラナイ教(けう)を拡張(くわくちやう)し、016素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の一派(いつぱ)言依別(ことよりわけ)、017八島主(やしまぬしの)神(かみ)様(さま)の主管(しゆくわん)せらるる三五教(あななひけう)を根底(こんてい)から打(う)ち壊(こわ)す決心(けつしん)を以(もつ)て、018昼夜(ちうや)の活動(くわつどう)を続(つづ)けて来(き)たものでございますが、019素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)は吾々(われわれ)凡人(ただびと)の考(かんが)へて居(を)るやうな方(かた)ではなく、020大慈(だいじ)大悲(だいひ)の世界(せかい)の贖主(あがなひぬし)であるといふ事(こと)を、021第一(だいいち)に高姫(たかひめ)様(さま)が合点(がつてん)遊(あそ)ばし、022立(た)つても坐(ゐ)ても居(ゐ)られないので、023黒姫(くろひめ)様(さま)と御(ご)相談(そうだん)の上(うへ)私(わたくし)の方(はう)へも詳細(しやうさい)な手紙(てがみ)が参(まゐ)りました。024就(つい)ては高姫(たかひめ)、025黒姫(くろひめ)御(お)二方(ふたかた)の今迄(いままで)の罪(つみ)を許(ゆる)して頂(いただ)かねばなりませぬので、026弟子(でし)としての私(わたくし)も立(た)つても坐(ゐ)ても居(ゐ)られませず、027何(なに)か一(ひと)つの荒修行(あらしうぎやう)を致(いた)しまして、028功名(こうみやう)手柄(てがら)を顕(あら)はし、029それを御(お)土産(みやげ)に三五教(あななひけう)へ参(まゐ)り、030師匠(ししやう)や自分(じぶん)の罪(つみ)を赦(ゆる)して頂(いただ)き度(た)いばつかりに、031高城山(たかしろやま)の館(やかた)を振(ふ)り捨(す)てて一人(ひとり)とぼとぼと此(こ)の霊山(れいざん)に修行(しうぎやう)がてら、032玉照彦(たまてるひこ)様(さま)を如何(どう)かして御(お)迎(むか)へ申(まを)し、033これを土産(みやげ)に三五教(あななひけう)へ帰(かへ)るつもりで参(まゐ)つたのでございます』
034来勿止(くなどめの)神(かみ)『アヽさうでせう。035私(わたし)もうすうす言照姫(ことてるひめ)様(さま)より承(うけたま)はつて居(を)りました。036併(しか)し乍(なが)ら貴女(あなた)は余程(よほど)御(ご)改心(かいしん)が出来(でき)て居(ゐ)るやうだが、037未(ま)だお腹(はら)の中(なか)に副(ふく)守護神(しゆごじん)が沢山(たくさん)に潜伏(せんぷく)して居(を)りますから、038此(この)儘(まま)御(お)出(い)でになつても玉照彦(たまてるひこ)様(さま)が御(ご)承知(しようち)下(くだ)さいますまい。039此(この)先(さき)に山(やま)の神(かみ)の滝(たき)がございますから、040其処(そこ)で七日(なぬか)七夜(ななや)荒行(あらぎやう)をなさつて副(ふく)守護神(しゆごじん)を追(お)ひ出(だ)し、041至粋(しすゐ)至純(しじゆん)の本心(ほんしん)に復帰(たちかへ)り水晶玉(すいしやうだま)に磨(みが)き上(あ)げた上(うへ)、042御(お)出(い)でにならなくては駄目(だめ)ですよ』
043松姫(まつひめ)『如何(いか)にも左様(さやう)でございませう。044どうか如何(いか)なる荒行(あらぎやう)でも厭(いと)ひませぬ、045どうぞ御(お)命(めい)じ下(くだ)さいませ』
046来勿止(くなどめの)神(かみ)『此処(ここ)の修行(しうぎやう)は大変(たいへん)に辛(つら)いですが、047貴女(あなた)それが忍(こば)り切(き)れますか』
048松姫(まつひめ)『何程(なにほど)辛(つら)くても構(かま)ひませぬ。049仮令(たとへ)生命(いのち)が亡(な)くなつても、050御(お)師匠(ししやう)様(さま)の罪(つみ)が消(き)えさへすれば、051それで満足(まんぞく)致(いた)します』
052来勿止(くなどめの)神(かみ)『アヽそれは感心(かんしん)な御(お)心(こころ)がけだ。053それなら是(これ)から時(とき)を移(うつ)さず、054山(やま)の神(かみ)の滝(たき)に於(お)いて修行(しうぎやう)をなされ、055神(かみ)の道(みち)に断飲(だんいん)断食(だんじき)は無(な)けれども、056貴女(あなた)は自分(じぶん)の罪(つみ)及(およ)び、057御(お)師匠(ししやう)様(さま)の罪(つみ)、058其(その)他(た)部下(ぶか)一般(いつぱん)の罪(つみ)の贖(あがな)ひのために、059七日(なぬか)七夜(ななや)断飲(だんいん)断食(だんじき)をなし、060その上(うへ)に荒行(あらぎやう)をせなくては本当(ほんたう)に罪(つみ)は消(き)えませぬぞ』
061松姫(まつひめ)『何分(なにぶん)よろしく御(お)願(ねが)ひ致(いた)します』
062来勿止(くなどめの)神(かみ)『勝(かつ)、063竹(たけ)の両人(りやうにん)、064一寸(ちよつと)此処(ここ)へ出(で)ておいで』
065 言下(げんか)に二人(ふたり)は此(この)場(ば)に現(あら)はれ、
066勝公(かつこう)『何用(なによう)でございます』
067来勿止(くなどめの)神(かみ)『別(べつ)に外(ほか)の事(こと)ではないが、068この松姫(まつひめ)様(さま)が山(やま)の神(かみ)の滝(たき)で、069七日(なぬか)七夜(ななや)の荒行(あらぎやう)をなさるのだから、070お前(まへ)は十分(じふぶん)世話(せわ)を代(かは)る代(がは)るして上(あ)げて呉(く)れ。071荒行(あらぎやう)の間(あひだ)は決(けつ)して此(こ)の方(かた)に同情(どうじやう)したり、072憫(あはれ)みをかけてはいけませぬぞ。073能(あた)う限(かぎ)りの虐待(ぎやくたい)をするのだ。074さうでなければ神(かみ)様(さま)へ対(たい)し重(かさ)ね重(がさ)ね御(ご)無礼(ぶれい)御(お)気障(きざは)り、075到底(たうてい)何時(いつ)までかかつても罪(つみ)は消滅(せうめつ)するものではないから、076松姫(まつひめ)様(さま)を助(たす)けたいと思(おも)ふなら、077十分(じふぶん)厳(きび)しき行(ぎやう)をさしてあげて呉(く)れなくてはなりませぬ』
078勝公(かつこう)『ハイ畏(かしこ)まりました。079何分(なにぶん)門番(もんばん)も勤(つと)めねばなりませぬから、080竹(たけ)さんと私(わたし)とが代(かは)る代(がは)る世話(せわ)をします』
081来勿止(くなどめの)神(かみ)『アヽそうだ。082若(わか)いものをよく監督(かんとく)して、083落度(おちど)の無(な)い様(やう)に十分(じふぶん)の荒行(あらぎやう)をさせ、084立派(りつぱ)な人間(にんげん)に研(みが)いて上(あ)げて呉(く)れ』
085 二人(ふたり)は一礼(いちれい)し、
086勝公、竹公『サア松姫(まつひめ)様(さま)、087早速(さつそく)ながら是(これ)から滝壺(たきつぼ)へ参(まゐ)りませう。088何(いづ)れ大(おほ)きな灸(やいと)を据(す)ゑられると随分(ずゐぶん)熱(あつ)うて辛(つら)いものだが、089そのために大病(たいびやう)が全快(ぜんくわい)した時(とき)の愉快(ゆくわい)といふものは、090口(くち)で言(い)ふやうなことでないと同様(どうやう)に、091お前(まへ)さまも是(これ)から私(わたし)が大(おほ)きな灸(やいと)を据(す)ゑます。092併(しか)し乍(なが)ら決(けつ)して憎(にく)んでするのぢやないから、093悪(わる)く思(おも)うて下(くだ)さらぬ様(やう)に頼(たの)みますぜ』
094松姫(まつひめ)『罪(つみ)重(おも)き妾(わたし)、095どんな辛(つら)い行(ぎやう)でも甘(あま)んじて致(いた)します。096何卒(どうぞ)よろしう御(お)願(ねが)ひ申(まを)します』
097勝公(かつこう)『よしよし、098サア斯(か)う来(く)るんだぞ、099松姫(まつひめ)の女(あま)つちよ。100愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐやがると頭(あたま)をかち割(わ)らうか』
101と俄(にはか)に言葉(ことば)や行(おこな)ひに大変動(だいへんどう)を現(あら)はした。
102松姫(まつひめ)『ハイ』
103と答(こた)へて随(つ)いて行(ゆ)く。
104 勝(かつ)は先(さき)に立(た)ち、105竹(たけ)は松姫(まつひめ)の後(うしろ)より棒千切(ぼうちぎれ)を以(もつ)て背(せ)を打(う)ち、106臀(しり)を突(つ)き、
107竹公(たけこう)『ヤイ松姫(まつひめ)、108何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐやがるのだ。109早(はや)く歩(ある)かぬか、110あた面倒(めんだう)臭(くさ)い。111日(ひ)が暮(くれ)てからやつて来(き)やがつて、112俺(おれ)達(たち)が楽(らく)に寝(ね)ようと思(おも)つて居(ゐ)るのに、113滝(たき)まで送(おく)つてやつて貴様(きさま)を大切(たいせつ)に虐待(ぎやくたい)せねばならぬ。114今(いま)まで慢神(まんしん)をして大神(おほかみ)様(さま)に敵対(てきと)うた其(そ)のみせしめだ』
115と言(い)ひつつ棒千切(ぼうちぎ)れを以(もつ)て、116松姫(まつひめ)の後頭部(こうとうぶ)をカツンと撲(なぐ)つた。117松姫(まつひめ)は痛(いた)さを堪(こら)へ乍(なが)ら、
118松姫(まつひめ)『どうも有難(ありがた)うございます。119これでちつとは妾(わたし)の罪(つみ)も軽(かる)くなりませうか』
120竹公(たけこう)『ナニ百(ひやく)や二百(にひやく)撲(なぐ)つたつて、121頭(あたま)をかち割(わ)つたつて、122貴様(きさま)の罪(つみ)は容易(ようい)に浄(きよ)まるものか』
123勝公(かつこう)『オイ竹公(たけこう)、124あまりぢやぞ』
125竹公(たけこう)『何(なに)があまりぢや。126貴様(きさま)は来勿止(くなどめの)神(かみ)様(さま)の御(お)言葉(ことば)をなんと聞(き)いたか。127松姫(まつひめ)に親切(しんせつ)があるのなら、128十分(じふぶん)に虐待(ぎやくたい)をしてやれと仰有(おつしや)つたぢやないか』
129勝公(かつこう)『ウーそれはさうだが、130あまり役(やく)たいもないことをするものぢやないぞ。131虐待(ぎやくたい)も十分(じふぶん)にするが好(えー)が、132其処(そこ)は又(また)、133それ其処(そこ)ぢや、134人情(にんじやう)を呑(の)み込(こ)まずにな。135好(い)いか』
136竹公(たけこう)『貴様(きさま)は偉(えら)さうに先頭(せんとう)に立(た)ちやがつて、137来勿止(くなどめの)神(かみ)様(さま)の御(お)言葉(ことば)を無視(むし)し、138且(かつ)又(また)松姫(まつひめ)の修行(しうぎやう)を妨(さまた)げ、139重(おも)い罪(つみ)を更(さら)に重(おも)うしようとするのか』
140松姫(まつひめ)『モシモシ御(お)二方(ふたかた)、141妾(わたし)のことに就(つい)て、142どうぞ口論(いさかひ)はないやうにして下(くだ)さいませ。143神(かみ)様(さま)に済(す)みませぬから』
144竹公(たけこう)『エー松姫(まつひめ)の奴(やつ)、145何(なに)をゴテゴテと干渉(かんせう)するのだ。146ふざけた事(こと)を吐(ぬか)すとモー一(ひと)つ御(お)見舞(みまひ)だぞ。147イヤ此(こ)の棍棒(こんぼう)で力(ちから)一(いち)パイ首(くび)が飛(と)ぶ程(ほど)、148可愛(かはい)がつてやらうか』
149松姫(まつひめ)『重々(ぢうぢう)の御(ご)親切(しんせつ)有難(ありがた)う存(ぞん)じます。150併(しか)し乍(なが)ら御(ご)苦労(くらう)をかけて済(す)みませぬ。151どうぞ貴方(あなた)もお疲(つか)れでせうから、152今日(けふ)はこれ位(くらゐ)でお休(やす)み下(くだ)さいませ』
153竹公(たけこう)『なにうまい事(こと)を言(い)ふな。154矢張(やつぱ)り頭(あたま)を撲(なぐ)られるのが苦(くるし)いと見(み)えるな。155俺(おれ)は此(この)間(あひだ)から何(なん)とはなしに、156むかついてむかついて其処(そこら)の岩(いは)でも木(き)でも、157見(み)つけ次第(しだい)撲(なぐ)り度(た)うて撲(なぐ)り度(た)うて、158腕(かいな)が唸(うな)つて居(を)つたのだ。159今日(けふ)は幸(さいは)ひ来勿止(くなどめの)神(かみ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)を遵奉(じゆんぽう)して心地(ここち)よい程(ほど)、160貴様(きさま)の頭(あたま)を可愛(かはい)がつてやるのだ。161有難(ありがた)く思(おも)へ。162荒行(あらぎやう)と云(い)ふものは辛(つら)いものだらう。163ウラナイ教(けう)で朝(あさ)から晩(ばん)まで、164蛙(かへる)かなんぞのやうにザブザブと水(みづ)をかぶつとるのとはちつと段(だん)が違(ちが)ふぞ。165何程(なにほど)辛(つら)くても生命(いのち)の瀬戸際(せとぎは)になつても、166僅(わづ)か七日(なぬか)七夜(ななや)の辛抱(しんばう)だ。167此処(ここ)で修行(しうぎやう)をやり損(そこ)ねたならば、168今(いま)まで大神(おほかみ)様(さま)の御(お)道(みち)を邪魔(じやま)した、169自(みづか)らの罪(つみ)で万劫(まんごふ)末代(まつだい)根底(ねそこ)の国(くに)に落(おと)され、170無限(むげん)の苦(くる)しみを受(う)けねばならぬぞ。171此(こ)の位(くらゐ)なことはホンの宵(よひ)の口(くち)だ。172九牛(きうぎう)の一毛(いちまう)にも如(し)かざる苦(くるし)みだから、173勇(いさ)んで修行(しうぎやう)をするのだぞ』
174松姫(まつひめ)『ハイ』
175と答(こた)へた儘(まま)、176頭部(とうぶ)より流(なが)るる血潮(ちしほ)の眼(め)に滲(し)み込(こ)むを、177袖(そで)にそつと拭(ぬぐ)ひつつ、178しよぼしよぼと滝(たき)の方(はう)へ向(むか)つて随(つ)いて行(ゆ)く。
179勝公(かつこう)『サア、180これが名題(なだい)の山神(やまがみ)の滝(たき)だ。181ちつと寒(さむ)うても真裸体(まつぱだか)になつて、182頭(あたま)から水(みづ)をかぶるのだ。183此処(ここ)は猿(さる)が沢山(たくさん)居(ゐ)る処(ところ)だから、184顔(かほ)を引(ひ)つ掻(か)かれぬやうに用心(ようじん)なさい。185昼(ひる)は大丈夫(だいぢやうぶ)だが、186夜分(やぶん)になると千疋猿(せんびきざる)がやつて来(き)て悪戯(いたづら)をするから』
187松姫(まつひめ)『ハイ、188有難(ありがた)うございます』
189竹公(たけこう)『勝公(かつこう)、190御(ご)苦労(くらう)だつた。191お前(まへ)は門(もん)の方(はう)を守(まも)つて呉(く)れ。192俺(おれ)はこれから一(ひと)つ此(こ)の行者(ぎやうじや)を十分(じふぶん)に可愛(かはい)がつてやらにやならぬからな。193それから六(ろく)と初(はつ)とに棍棒(こんぼう)を持(も)つて、194至急(しきふ)やつて来(く)るやうに言(い)うて呉(く)れ』
195勝公(かつこう)『さう沢山(たくさん)棍棒(こんぼう)を持(も)つて来(き)て如何(どう)するのだい』
196竹公(たけこう)『きまつたことだ。197一本(いつぽん)位(くらゐ)の棍棒(こんぼう)では徹底(てつてい)的(てき)に可愛(かはい)がつてやる訳(わけ)にはいかぬ。198助太刀(すけだち)のためだ』
199勝公(かつこう)『併(しか)しなア、200竹公(たけこう)、201わが身(み)を抓(つめ)つて他(ひと)の痛(いた)さを知(し)れと言(い)ふことがあるなア。202世界(せかい)に鬼(おに)は無(な)いといふことも、203誰(たれ)やらに聞(き)いたことがあるやうに思(おも)ふ』
204と、205それとは無(な)しに余(あま)り虐待(ぎやくたい)をせぬようにと、206口(くち)には言(い)はねど、207其(その)意(い)をほのめかしてゐる。
208竹公(たけこう)『なに謎(なぞ)のやうなことを言(い)ひやがつて、209貴様(きさま)は松姫(まつひめ)を大切(たいせつ)にせいと言(い)ふのぢやらう、210否(いや)結局(けつきよく)憎(にく)めといふのだらう。211何事(なにごと)も竹(たけ)の胸中(きようちう)に有(あ)るのだ、212心配(しんぱい)せずに早(はや)く帰(かへ)れ。213さうして来勿止(くなどめの)神(かみ)さまに俺(おれ)が力(ちから)一(いち)パイ虐待(ぎやくたい)して可愛(かはい)がつて居(ゐ)る実状(じつじやう)を、214より以上(いじやう)に報告(はうこく)するのだぞ』
215勝公(かつこう)『竹(たけ)の奴(やつ)が松姫(まつひめ)の頭(あたま)を七八分(しちはちぶ)割(わ)り、216腕(かいな)を折(を)り、217胴腹(どんばら)に風穴(かぜあな)をあけよつたと言(い)つて置(お)かうか』
218竹公(たけこう)『そうだ、219其処(そこ)は貴様(きさま)の都合(つがふ)にして呉(く)れ。220マア可成(なるべ)く神(かみ)様(さま)は小(ちい)さいことはお嫌(きら)ひだから、221言(い)ふのなら十分(じふぶん)大(おほ)きく言(い)ふのだな。222オイ勝(かつ)、223一寸(ちよつと)待(ま)つて呉(く)れ。224二人(ふたり)の奴(やつ)に棍棒(こんぼう)を持(も)つて来(く)るように言(い)つて呉(く)れと云(い)うたが、225こんな女(をんな)一人(ひとり)を虐待(ぎやくたい)するのに応援(おうゑん)を頼(たの)んだと思(おも)はれては残念(ざんねん)だ。226俺(おれ)が徹底(てつてい)的(てき)にやつて置(お)くから、227来勿止(くなどめの)神(かみ)に詳細(しやうさい)に報告(はうこく)するのだぞ』
228勝公(かつこう)『そんなら松姫(まつひめ)さま、229暫(しばら)くの辛抱(しんばう)だ。230どうぞ立派(りつぱ)な身魂(みたま)になつて下(くだ)さいや』
231松姫(まつひめ)『ハイ有難(ありがた)うございます』
232竹公(たけこう)『エー又(また)女(をんな)にベシヤベシヤと正(しやう)月(ぐわつ)言葉(ことば)を使(つか)ひやがつて、233早(はや)く帰(かへ)れ』
234勝公(かつこう)『帰(かへ)れと云(い)はなくても誰(たれ)が斯(こ)んな怖(おそ)ろしい処(ところ)に居(ゐ)る奴(やつ)があるか』
235とトントンと帰(かへ)つてゆく。
236 肌(はだ)を裂(さ)く如(ごと)き寒風(かんぷう)は木々(きぎ)の梢(こずゑ)に唸(うな)りを立(た)てて見舞(みま)うて来(く)る。237月(つき)は皎々(かうかう)として東(ひがし)の山(やま)の頂(いただ)きから滝壺(たきつぼ)をのぞいた。
238竹公(たけこう)『松姫(まつひめ)さま、239御(お)気(き)の毒(どく)ですが、240どうぞ暫(しば)らく辛抱(しんばう)して下(くだ)さい。241来勿止(くなどめの)神(かみ)は中々(なかなか)厳格(げんかく)な神(かみ)で寸分(すんぶん)も仮借(かしやく)をしませぬから、242私(わたし)も実(じつ)は満腔(まんこう)の涙(なみだ)を隠(かく)して、243失礼(しつれい)なことを致(いた)しました。244併(しか)し乍(なが)ら到底(たうてい)貴女(あなた)の身体(からだ)では、245此(こ)の荒行(あらぎやう)は続(つづ)きますまい。246世(よ)は呪(まじなひ)と言(い)うて神(かみ)様(さま)は、247大難(だいなん)を小難(せうなん)に祭(まつ)り替(か)へて下(くだ)さるのだから、248私(わたし)もこれからスツパリと素裸体(すつぱだか)になつて、249貴女(あなた)の行(ぎやう)を助(たす)けて上(あ)げよう。250さうすれば七日(なぬか)のものは三日半(みつかはん)で済(す)むといふ道理(だうり)だ。251お前(まへ)さま、252頭(あたま)を割(わ)られて血(ち)が出(で)たと思(おも)つてゐるだらうが、253ありや血(ち)ぢやありませぬから安心(あんしん)なさい。254私(わたし)が紅殻(べにがら)の汁(しる)を棒(ぼう)の先(さき)の革袋(かはぶくろ)に括(くく)りつけて撲(なぐ)つたのですよ。255血(ち)と見(み)えたのは袋(ふくろ)の紅殻(べにがら)だ。256撲(なぐ)られた割(わり)には痛(いた)くはありますまいがな』
257松姫(まつひめ)『ハイ、258さうでございました。259別(べつ)に何処(どこ)も痛(いた)んで居(を)りませぬ。260斯(こ)んなことで神(かみ)様(さま)の御意(ぎよい)に召(め)すやうな荒行(あらぎやう)が出来(でき)ませうかな』
261竹公(たけこう)『出来(でき)ますとも。262神(かみ)様(さま)は形(かたち)だけをすれば赦(ゆる)して下(くだ)さいます。263可愛(かはい)い世界(せかい)の氏子(うぢこ)に何(なに)を好(この)んで辛(つら)い目(め)をさせなさいませう。264貴女(あなた)が生命(いのち)がけの荒行(あらぎやう)をして、265御(お)詫(わび)をしようと決心(けつしん)なさつた其(そ)の心(こころ)が、266既(すで)に貴方(あなた)の罪(つみ)を赦(ゆる)して居(を)ります。267唯今(ただいま)の貴女(あなた)は最早(もはや)ちつとも罪(つみ)は無(な)いのですよ。268本当(ほんたう)の生(うま)れ赤児(あかご)の心(こころ)ですワ。269併(しか)し乍(なが)ら余(あま)り気分(きぶん)のよい滝(たき)ですから、270清(きよ)めた上(うへ)に浄(きよ)めてお出(い)でになつたら宜敷(よろし)からう。271併(しか)し来勿止(くなどめの)神(かみ)は、272あゝ見(み)えても実際(じつさい)は閻魔(えんま)さまの化身(けしん)ですから、273中々(なかなか)賞罰(しやうばつ)を厳重(げんぢう)になさるのです。274今(いま)帰(かへ)つた勝公(かつこう)だつて本当(ほんたう)に優(やさ)しい、275慈悲(じひ)深(ぶか)い人間(にんげん)です。276併(しか)し乍(なが)ら彼奴(あいつ)は馬鹿(ばか)正直(しやうぢき)ですから私(わたし)が本当(ほんたう)に貴女(あなた)を虐待(ぎやくたい)したのだと思(おも)つて心配(しんぱい)をして居(を)るのです』
277松姫(まつひめ)『アヽさうでございますか。278なんとも御(お)礼(れい)の申(まを)しやうは御座(ござ)いませぬ。279何分(なにぶん)よろしう御(ご)指導(しだう)を願(ねが)ひます』
280 斯(か)くして二三(にさん)日(にち)経(た)つて、281四日目(よつかめ)の朝(あさ)になつた。
282松姫(まつひめ)『なんと荘厳(さうごん)な景色(けいしよく)ですな。283日輪(にちりん)様(さま)が此(こ)の滝(たき)に輝(かがや)き遊(あそ)ばして七色(しちしよく)の虹(にじ)を御(お)描(ゑが)き遊(あそ)ばし、284得(え)も言(い)はれぬ微妙(びめう)な鳥(とり)の声(こゑ)、285常磐木(ときはぎ)の色(いろ)、286まるで天国(てんごく)の様(やう)ぢやありませぬか』
287竹公(たけこう)『さうですとも、288貴女(あなた)の心(こころ)が清(きよ)まつたので宇宙(うちう)一切(いつさい)が荘厳(さうごん)雄大(ゆうだい)に見(み)え、289環境(くわんきやう)すべて楽園(らくゑん)と化(くわ)したのですよ』
290松姫(まつひめ)『高城山(たかしろやま)も随分(ずゐぶん)景色(けしき)に富(と)んだ処(ところ)ですが、291到底(たうてい)比(くら)べものにはなりませぬワ』
292竹公(たけこう)『それは貴女(あなた)のお心(こころ)が曇(くも)つてゐたからですよ。293今度(こんど)見直(みなほ)して御覧(ごらん)、294此(こ)の景色(けしき)よりも層一層(そういつそう)立派(りつぱ)です』
295 斯(か)く話(はな)す時(とき)しも勝公(かつこう)は莞爾(にこ)々々(にこ)として馳(は)せ来(きた)り、
296勝公(かつこう)『アヽ松姫(まつひめ)さん、297竹(たけ)さん、298御(ご)苦労(くらう)だつた。299来勿止(くなどめの)神(かみ)様(さま)から今日(けふ)は行(ぎやう)の中途(なかば)だけれど、300モウ修行(しうぎやう)が済(す)んだから直様(すぐさま)御(お)山(やま)へ参詣(まゐ)つて宜(よろ)しいとの御(ご)命令(めいれい)が下(くだ)りました。301お悦(よろこ)びなさいませ』
302松姫(まつひめ)『それは何(なに)より有(あ)り難(がた)うございます』
303と滝壺(たきつぼ)に向(むか)ひ、304感謝(かんしや)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し終(をは)つて三(さん)人(にん)打(う)ち連(つ)れ立(だ)つて、305来勿止(くなどめの)神(かみ)の庵(いほり)に向(むか)つて帰(かへ)りゆく。
306竹公(たけこう)『神(かみ)様(さま)、307おかげで無事(ぶじ)に松姫(まつひめ)様(さま)の御(ご)修行(しうぎやう)が終(をは)りました』
308松姫(まつひめ)『来勿止(くなどめの)神(かみ)様(さま)、309いろいろと厚(あつ)き広(ひろ)き思召(おぼしめし)に依(よ)りまして、310汚(きたな)い身魂(みたま)を洗(あら)つて頂(いただ)きました』
311来勿止(くなどめの)神(かみ)『アヽそうだつたか、312結構(けつこう)々々(けつこう)、313モウそれで何処(どこ)へ出(だ)しても立派(りつぱ)なものだ。314お前(まへ)さんの修行(しうぎやう)のおかげで玉照彦(たまてるひこ)様(さま)のお迎(むか)へも出来(でき)ませう。315お師匠(ししやう)様(さま)の罪(つみ)も全然(すつかり)赦(ゆる)されませう、316よう辛(つら)い行(ぎやう)をなさいました。317アヽ竹公(たけこう)、318お前(まへ)も大変(たいへん)な心配(こころくば)り、319気遣(きづか)ひであつたな。320私(わし)の心(こころ)を知(し)つて居(ゐ)るのはお前(まへ)ばつかりだ』
321と嬉(うれ)し涙(なみだ)を袖(そで)にそつと拭(ぬぐ)ふ。322暫(しばら)くは沈黙(ちんもく)の幕(まく)が下(お)りた。323此(この)時(とき)門前(もんぜん)に慌(あはただ)しく駆来(かけきた)る四(よ)人(にん)の男(をとこ)、
324男(をとこ)『モシモシ此(こ)の門(もん)開(あ)けて下(くだ)さいませ』
325 勝(かつ)は立上(たちあが)り大石門(だいせきもん)をギーと左右(さいう)に開(あ)けた。326四(よ)人(にん)の姿(すがた)を見(み)て勝(かつ)は驚(おどろ)き、
327勝公(かつこう)『ヤアお前(まへ)は此(こ)の間(あひだ)やつて来(き)た不届者(ふとどきもの)、328バラモン教(けう)の谷丸(たにまる)、329鬼丸(おにまる)の両人(りやうにん)、330又(また)二人(ふたり)も味方(みかた)を殖(ふ)やして来居(きを)つたのだな。331玉照彦(たまてるひこ)様(さま)だと思(おも)つて大(おほ)きな岩石(がんせき)を大事(だいじ)さうに抱(かか)へて帰(かへ)り、332途中(とちう)で気(き)がついて又(また)もや二度目(にどめ)のお迎(むか)ひに来居(きを)つたのだらう。333モウモウ余人(よにん)は知(し)らず貴様(きさま)に限(かぎ)つて、334此(この)門(もん)を通過(つうくわ)さすことは出来(でき)ないと来勿止(くなどめの)神(かみ)様(さま)の厳命(げんめい)だ』
335 谷丸(たにまる)、336鬼丸(おにまる)は大地(だいち)にペタツと坐(すわ)り、337涙(なみだ)を流(なが)し乍(なが)ら、
338谷(たに)、339鬼(おに)『モーシ門番(もんばん)様(さま)、340今日(けふ)の谷丸(たにまる)、341鬼丸(おにまる)は先日(せんじつ)の両人(りやうにん)とは違(ちが)ひます。342どうぞ御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
343勝公(かつこう)『違(ちが)うと云(い)つたつてお前(まへ)の容貌(ようばう)と云(い)ひ、344姿(すがた)と云(い)ひ、345何処(どこ)に一(ひと)つ変(かは)つたとこがないぢやないか』
346谷(たに)、347鬼(おに)『ハイ形(かたち)の上(うへ)はちつとも変(かは)つて居(を)りませぬが、348私(わたくし)の心(こころ)は天地(てんち)の相違(さうゐ)に変(かは)りました』
349勝公(かつこう)『いよいよ以(もつ)て怪(け)しからぬ奴(やつ)だ。350皮(かは)は何時(いつ)でも変(かは)るぞよ。351霊魂(みたま)は中々(なかなか)変(かは)らぬぞよと神(かみ)様(さま)が教(をし)へてござる。352それに何(なん)ぞや、353心(こころ)が変(かは)りましたとは益々(ますます)合点(がつてん)のゆかぬ奴(やつ)だ』
354谷(たに)、355鬼(おに)『そのお疑(うたが)ひは御尤(ごもつと)もでございますが、356今(いま)までの取違(とりちが)ひ、357慢神(まんしん)の雲霧(くもきり)が晴(は)れまして、358すつぱりと青天(せいてん)白日(はくじつ)の様(やう)な魂(たましひ)に生(うま)れ変(かは)りました。359何程(なにほど)人間(にんげん)が利巧(りかう)や智慧(ちゑ)をだして焦慮(あせ)つて見(み)た所(ところ)で駄目(だめ)だ。360神(かみ)様(さま)のお許(ゆる)しない事(こと)は九分(くぶ)九厘(くりん)で掌(てのひら)が覆(かへ)ると云(い)ふことをつくづくと悟(さと)らして頂(いただ)きました。361アーア心(こころ)程(ほど)怖(おそ)ろしいものは御座(ござ)いませぬ。362今迄(いままで)私(わたくし)は三五教(あななひけう)や、363ウラル教(けう)、364ウラナイ教(けう)が敵(かたき)ぢやと思(おも)つて、365一生(いつしやう)懸命(けんめい)に其(そ)の敵(てき)を征服(せいふく)したいと憂身(うきみ)を窶(やつ)し、366大活動(だいくわつどう)を続(つづ)けて居(ゐ)ました。367然(しか)るに豈(あに)図(はか)らむや、368その大悪魔(だいあくま)の敵(てき)は私(わたくし)等(ら)の心(こころ)の中(なか)にみんな潜(ひそ)んで居(を)りました。369斯(こ)うおかげを頂(いただ)いた以上(いじやう)は、370天ケ下(あめがした)に敵(てき)も無(な)ければ、371他人(たにん)も無(な)い、372鬼(おに)も大蛇(をろち)も何(なに)もありませぬ。373吾々(われわれ)は松姫(まつひめ)と云(い)ふウラナイ教(けう)の宣伝使(せんでんし)に対(たい)し、374非常(ひじやう)な暴虐(ばうぎやく)を加(くは)へ、375大方(おほかた)半死(はんし)になるとこ迄(まで)打擲(ちやうちやく)を致(いた)しましたことを、376今更(いまさら)乍(なが)ら悔(く)いまして、377立(た)つても坐(ゐ)ても居堪(ゐた)まらず、378四(よ)人(にん)のものが、379どうぞして松姫(まつひめ)様(さま)の所在(ありか)を尋(たづ)ね御(お)詫(わび)をせなくてはならないと思(おも)うて、380そこらを探(さが)す内(うち)、381道(みち)で会(あ)うた杣人(そまびと)に聞(き)いて見(み)れば、382三四日(さんよつか)以前(いぜん)の暮(く)れ方(がた)に霊山(れいざん)の方(はう)に向(むか)つて、383一人(ひとり)の女(をんな)が上(あが)つたと云(い)ふことを聞(き)き、384之(これ)は正(まさ)しく松姫(まつひめ)様(さま)に間違(まちが)ひあるまいと、385飛(と)び立(た)つ許(ばか)り悦(よろこ)んで四(よ)人(にん)が打揃(うちそろ)ひ御(おん)目(め)にかかつて御(お)詫(わび)をしようと出(で)て来(き)たのです。386どうぞ此処(ここ)を通(とほ)して下(くだ)さいませ。387又(また)先達(せんだつて)は貴方(あなた)等(がた)に御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました其(その)罪(つみ)も御(お)詫(わび)せなくてはなりませぬ。388何事(なにごと)も過去(くわこ)のことは水(みづ)に流(なが)して、389吾々(われわれ)の過(あやま)ちをお赦(ゆる)し下(くだ)さいますやうに』
390勝公(かつこう)『さてもさても妙(めう)なことが出来(でき)たものだ哩(わい)。391変(かは)り易(やす)いは秋冬(しうとう)の空(そら)と聞(き)いてゐるが、392こりや又(また)大変(たいへん)の地異(ちい)天変(てんぺん)が起(おこ)つたものだ。393一寸(ちよつと)皆(みな)さま待(ま)つて下(くだ)さい。394松姫(まつひめ)様(さま)もまだ此処(ここ)にゐられますから、395伺(うかが)つた上(うへ)で会(あ)はせませう』
396と門内(もんない)に影(かげ)を隠(かく)しける。
397(大正一一・五・九 旧四・一三 外山豊二録)
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