霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 善(ぜん)か悪(あく)か〔六四九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻 篇:第1篇 神慮洪遠 よみ(新仮名遣い):しんりょこうえん
章:第4章 善か悪か よみ(新仮名遣い):ぜんかあくか 通し章番号:649
口述日:1922(大正11)年05月06日(旧04月10日) 口述場所: 筆録者:藤津久子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
悦子姫は、夏彦、常彦、加米彦、滝公、板公を連れて、使命を明かさずに世継王山麓の館を後にして神業に出立した。音彦と五十子姫も、別の使命を受けて何処ともなく出立して行った。
後には、紫姫、若彦(青彦)、お節、お玉、馬公、鹿公の面々が玉照姫を保育していた。いつしか秋の半ばになっていた。
ある真夜中、門の戸を叩く者があった。鹿公と馬公はその音に驚いて目を覚ました。激しく叩く音に、鹿公が誰何すると、男は江州竹生島から、紫姫を尋ねてやって来た者だ、と答えた。
鹿公は正体が分からない限り、夜に門は開けられない、と答えると、男は亀彦だと名乗った。そして、神素盞嗚大神の使いとしてやってきたのだ、と告げた。
鹿公、馬公は、若彦と紫姫に注進した。一同は急いで寝間を片付けると、門を開けた。すると亀彦は金色の冠、夜光の玉を身につけ、薄絹の白衣を着て威儀厳然としていた。亀彦は門内に入ると玉照姫の前に拍手再拝、神言を奏上して正座に着いた。
そして、神素盞嗚大神は若彦、紫姫が黒姫をたばかって玉照姫を迎え入れたことに対して非常なご不興を蒙っていることを告げると、大神の命として玉照姫を黒姫に渡すこと、若彦と紫姫は宣伝使の職を去ることを言い渡した。
紫姫は非を認め、謹んで大神の責めを受けたが、若彦は、玉照姫を迎え入れた手柄に対して責めを受けるのは納得がいかない、亀彦は偽物だろう、と霊縛を加えようとした。すると亀彦の背後から女神が現れて、その光が若彦を射ると、若彦はその場に倒れてしまった。
亀彦は、「泣いて馬謖を斬る」が大神と英子姫の心であると告げ、直日に見直し聞きなおして奇魂の覚りによってこの大望を遂行すれば、再び神業に参加することを得るであろう、と言い残すと、女神とともに忽然と姿を消した。
若彦はようやく自分の非を悟り、拍手を打って大神に感謝した。玉照姫はにこにこを笑い出した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:滝(滝公)、板(板公) データ凡例: データ最終更新日:2021-03-31 17:21:32 文字数:4556 OBC :rm1904
愛善世界社版:46頁 八幡書店版:第4輯 46頁 修補版: 校定版:47頁 普及版:20頁 初版: ページ備考:
001瑞穂(みづほ)の国(くに)の真秀良場(まほらば)や
002青垣山(あをがきやま)を繞(めぐ)らせる
003下津(したつ)岩根(いはね)と聞(きこ)えたる
004要害(えうがい)堅固(けんご)の神策地(しんさくち)
005小三災(せうさんさい)の饑病戦(きびやうせん)
006大三災(だいさんさい)の風水火(ふうすゐくわ)
007夢(ゆめ)にも知(し)らぬ世継王(よつわう)の
008山(やま)の麓(ふもと)に現(あ)れませる
009玉照姫(たまてるひめ)の御(おん)稜威(みいづ)
010光(ひかり)は四方(よも)に照妙(てるたへ)の
011衣(きぬ)を纏(まと)ひて経緯(たてよこ)の
012綾(あや)と錦(にしき)の機(はた)を織(お)る
013棚機姫(たなばたひめ)と現(あら)はれし
014紫姫(むらさきひめ)に侍(かしづ)かれ
015月日(つきひ)を重(かさ)ね年(とし)を越(こ)え
016其(その)名(な)は四方(よも)に轟(とどろ)きぬ。
017 悦子姫(よしこひめ)は、018夏彦(なつひこ)、019常彦(つねひこ)、020加米彦(かめひこ)、021滝(たき)、022板(いた)を伴(ともな)ひ、023我(わが)使命(しめい)を明(あ)かさず、024世継王(よつわう)山麓(さんろく)の住家(すみか)を後(あと)にして、025何処(いづこ)ともなく神業(しんげふ)の為(た)めに出発(しゆつぱつ)したり。026音彦(おとひこ)、027五十子(いそこ)姫(ひめ)は別(べつ)の使命(しめい)を受(う)け、028是(これ)亦(また)何処(いづく)ともなく、029行先(ゆくさき)を明(あ)かさず、030惟神(かむながら)的(てき)に、031世継王(よつわう)の住家(すみか)を後(あと)にして出発(しゆつぱつ)せり。
032 後(あと)には、033紫姫(むらさきひめ)、034若彦(わかひこ)、035お節(せつ)、036お玉(たま)、037馬公(うまこう)、038鹿公(しかこう)の面々(めんめん)朝(あさ)な夕(ゆふ)なに、039玉照姫(たまてるひめ)の保育(ほいく)に全力(ぜんりよく)を尽(つく)し居(ゐ)たりける。
040 夏(なつ)も何時(いつ)しか暮(く)れ果(は)て、041天(てん)高(たか)く、042風(かぜ)清(きよ)く、043野(の)には稲穂(いなほ)が黄金(こがね)の波(なみ)を打(う)ち、044佐保姫(さほひめ)の錦(にしき)織(おり)なす紅葉(もみぢば)の、045愈(いよいよ)秋(あき)の半(なかば)となりぬ。
046 時(とき)しもあれ、047真夜中(まよなか)に戸(と)を叩(たた)く一人(ひとり)の男(をとこ)あり。048馬公(うまこう)、049鹿公(しかこう)は此(この)音(おと)に驚(おどろ)き目(め)を醒(さ)まし、
050馬公(うまこう)『オイ鹿公(しかこう)、051何(なん)だか表(おもて)の戸(と)を叩(たた)く音(おと)がするではないか、052お前(まへ)御(ご)苦労(くらう)だが一(ひと)つ調(しら)べて見(み)て呉(く)れないか』
053鹿公『何(なに)、054あれは秋(あき)の夜(よ)の紅葉(もみぢ)を散(ち)らす凩(こがらし)の戸(と)を叩(たた)く音(おと)だ。055余程(よほど)お前(まへ)も神経(しんけい)過敏(くわびん)になつたものだな、056そりや無理(むり)もない、057五六七(みろく)神政(しんせい)の生御霊(いくみたま)玉照姫(たまてるひめ)様(さま)の御(ご)保護(ほご)の任(にん)に当(あた)つて居(ゐ)るのだから、058雨(あめ)の音(おと)、059風(かぜ)の響(ひびき)にも注意(ちうい)を払(はら)ふのは当然(たうぜん)だ。060併(しか)し乍(なが)ら余(あま)り思(おも)ひ過(す)ぎると神経病(しんけいびやう)を起(おこ)す様(やう)になつては詰(つま)らないから、061何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)にお任(まか)せして、062吾々(われわれ)は能(あた)ふ限(かぎ)りのベストを尽(つく)し、063忠実(ちうじつ)に務(つと)めさへすれば宜(よ)いのだよ』
064馬公『そりやお前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)りだが、065併(しか)し今(いま)の音(おと)は決(けつ)して雨(あめ)や風(かぜ)の音(おと)ではない、066何(なに)か訪(おとづ)るる人(ひと)が門(かど)にありさうだよ』
067鹿公(しかこう)『峰(みね)の嵐(あらし)か松風(まつかぜ)か、068一(ひと)つ違(ちが)へば狐狸(こり)の悪戯(いたづら)か、069尻尾(しつぽ)を以(もつ)て雨戸(あまど)を叩(たた)き、070吾々(われわれ)を脅威(おどか)さうとするのだ。071此(この)間(あひだ)から幾度(いくたび)となく、072ウラナイ教(けう)の間者(まはしもの)がやつて来(き)て、073玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を奪(うば)ひ返(かへ)さうとかかつて居(ゐ)るらしい、074迂濶(うつか)り夜中(やちう)に戸(と)でも開(あ)け様(やう)ものなら大変(たいへん)だ、075英子姫(ひでこひめ)様(さま)、076悦子姫(よしこひめ)様(さま)に申訳(まをしわけ)がない、077先(ま)づ此処(ここ)は、078見(み)ざる、079聞(き)かざる、080言(い)はざるの三猿(さんゑん)主義(しゆぎ)を取(と)る方(はう)が安全(あんぜん)第一(だいいち)だ。081俺(おれ)の鹿(しか)とお前(まへ)の馬(うま)とでシカりとウマウマ守(まも)るのだナア』
082 戸(と)を叩(たた)く音(おと)益々(ますます)烈(はげ)しくなり来(きた)る。
083馬公『それでも益々(ますます)烈(はげ)しく叩(たた)くぢやないか、084どうだ一(ひと)つ紫姫(むらさきひめ)様(さま)に伺(うかが)つて見(み)たら』
085鹿公『それもさうだな、086併(しか)し乍(なが)ら折角(せつかく)よくお寝(やす)みになつて居(ゐ)られるのだから、087夜中(やちう)にお目(め)を醒(さ)まさせるのもお気(き)の毒(どく)だ』
088 表(おもて)を叩(たた)く音(おと)益々(ますます)烈(はげ)しい。089鹿公(しかこう)はムツとした様(やう)な声(こゑ)で、
090鹿公『誰(たれ)だい、091人(ひと)の寝(ね)しづまつた家(うち)を無闇(むやみ)に叩(たた)くものは』
092外から声(亀彦)『吾(わ)れは英子姫(ひでこひめ)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)によつて、093江州(ごうしう)竹生島(ちくぶしま)よりはるばる単騎(たんき)旅行(りよかう)でやつて来(き)た者(もの)だ。094紫姫(むらさきひめ)は在宅(ざいたく)か、095若彦(わかひこ)は居(を)るか』
096鹿公(しかこう)『紫姫(むらさきひめ)様(さま)や若彦(わかひこ)様(さま)の名(な)を知(し)つて居(ゐ)るからには、097何(なん)でも何(なん)だらう、098さう考(かんが)へると容易(ようい)に開(あ)ける事(こと)は出来(でき)ない。099吾々(われわれ)は昼(ひる)は寝(い)ね夜(よる)は不寝番(ふしんばん)をつとめて居(ゐ)るのだ。100夜(よる)の間(あひだ)は俺(おれ)達(たち)の権限(けんげん)があるのだから誰(たれ)が開(あ)けいと云(い)つても、101此(この)鹿公(しかこう)の本(ほん)守護神(しゆごじん)が開(あ)けと命令(めいれい)を下(くだ)す迄(まで)は開(あ)けられぬのだ。102マアマア暫(しばら)く御(ご)苦労(くらう)だが正体(しやうたい)が分(わか)らぬから、103自然(しぜん)に開(あ)ける迄(まで)待(ま)つて居(ゐ)たが宜(よ)からう。104日光(につくわう)に照(てら)されて、105モウモウした毛(け)を体(からだ)一面(いちめん)に現(あら)はすのだらう。106吾々(われわれ)は夜分(やぶん)は目(め)の見(み)えぬ人間(にんげん)だから、107平(ひら)にお断(ことわ)り申(まを)す』
108 外(そと)より、
109(亀彦)『さう云(い)ふ声(こゑ)は鹿公(しかこう)ぢやないか、110今日(こんにち)参(まゐ)つたのは余(よ)の儀(ぎ)ではない。111神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)の御心(みこころ)により、112英子姫(ひでこひめ)様(さま)の大命(たいめい)を奉(ほう)じて御(お)直使(ぢきし)として出張(しゆつちやう)致(いた)した、113三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)亀彦(かめひこ)であるぞよ』
114鹿公『何(なに)、115亀彦(かめひこ)さまか、116ソンナラ開(あ)けぬ事(こと)は無(な)いが若(も)しや作(つく)り声(ごゑ)ではあるまいかなア』
117亀彦『何(なに)、118作(つく)り声(ごゑ)する必要(ひつえう)があるか、119紫姫(むらさきひめ)以下(いか)一同(いちどう)に申(まを)し渡(わた)す仔細(しさい)がある。120一時(いつとき)も早(はや)く開(あ)けたが宜(よ)からうぞ』
121鹿公『何(なん)だか亀彦(かめひこ)さま、122今日(けふ)に限(かぎ)つて言葉(ことば)つき迄(まで)厳粛(げんしゆく)に構(かま)へて御座(ござ)る、123何(なに)かこれに就(つい)ては善(ぜん)か悪(あく)か、124吉(きち)か凶(きよう)か、125普通(ふつう)のお使(つかい)ではあるまい、126なア馬公(うまこう)、127どうしたら宜(よ)からうなア』
128馬公『荘重(さうちよう)な語気(ごき)だな、129今日(けふ)は大神(おほかみ)様(さま)の代理権(だいりけん)を以(もつ)て来(き)て居(を)るのだと見(み)えて、130いつもとは言霊(ことたま)の響(ひび)きが何処(どこ)とは無(な)しに森厳(しんげん)だぞ』
131鹿公『何(なに)、132アンナ事(こと)を云(い)つて洒落(しやれ)てるのだよ。133大変(たいへん)な用向(ようむ)きがある様(やう)な語調(ごてう)で吾々(われわれ)を威喝(ゐかつ)しようと思(おも)つて居(ゐ)るのだ。134何(なに)、135心配(しんぱい)する事(こと)はないさ、136大山(たいざん)鳴動(めいどう)して鼠(ねずみ)一匹(いつぴき)位(くらゐ)なものだ。137アハヽヽヽ』
138亀彦(かめひこ)『早(はや)く開(あ)けぬか、139何(なに)をぐづぐづ致(いた)して居(を)るぞ』
140鹿公(しかこう)『ヨオ高圧(かうあつ)的(てき)に大袈裟(おほげさ)に出(で)やがつたな、141これでは吾々(われわれ)両人(りやうにん)にては一寸(ちよつと)解決(かいけつ)がつき難(にく)い、142若彦(わかひこ)の大将(たいしやう)に一寸(ちよつと)相談(さうだん)して見(み)ようか』
143馬公(うまこう)『それが宜(よ)からう』
144と云(い)ひ乍(なが)ら若彦(わかひこ)の居間(ゐま)に立(た)ち入(い)り肩(かた)を揺(ゆす)つて、
145馬公『モシモシ若彦(わかひこ)さまか、146青彦(あをひこ)さまか、147どちらを云(い)つて宜(よ)いのか知(し)らぬが一寸(ちよつと)起(お)きて下(くだ)さい。148門口(かどぐち)に大変(たいへん)な者(もの)が現(あら)はれました。149サアサア早(はや)く起(お)きたり起(お)きたり』
150若彦『誰(たれ)かと思(おも)へば馬公(うまこう)ぢやないか。151夜(よる)の夜中(よなか)に何(なに)を喧(やかま)しう云(い)ふのだい』
152馬公『イエイエ急(きふ)な事件(じけん)が突発(とつぱつ)しました。153素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)の御心(みこころ)により英子姫(ひでこひめ)様(さま)より御(お)直使(ぢきし)として、154亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)が見(み)えました』
155若彦(わかひこ)『何(なに)、156亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)が見(み)えたと、157何(なん)と遅(おそ)かつたな、158もう英子姫(ひでこひめ)様(さま)よりお褒(ほ)めの言葉(ことば)が下(さが)るか下(さが)るかと指折(ゆびを)り数(かぞ)へて、159紫姫(むらさきひめ)を始(はじ)め吾々(われわれ)一同(いちどう)は首(くび)を伸(の)ばして待(ま)つて居(ゐ)たのだ。160馬公(うまこう)喜(よろこ)べ屹度(きつと)御(ご)褒美(ほうび)を頂戴(ちやうだい)するのだらう』
161馬公『それは有難(ありがた)い、162ソンナラ開(あ)けませうか』
163若彦『一寸(ちよつと)待(ま)つて呉(く)れ、164寝間(ねま)を片付(かたづ)け、165其処(そこ)いらを掃除(さうぢ)してそれから御(お)這入(はい)りを願(ねが)はないと、166こう散(ちら)けては御(お)直使(ぢきし)に対(たい)して御(ご)無礼(ぶれい)だ。167モシモシ紫姫(むらさきひめ)さま、168お玉(たま)さま、169早(はや)く起(お)きて下(くだ)さい、170英子姫(ひでこひめ)様(さま)のお使(つかい)として亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)が只今(ただいま)見(み)えました』
171紫姫(むらさきひめ)『ア、172さうですか、173そりや大変(たいへん)です、174困(こま)つた事(こと)になりましたねエ』
175若彦『あれだけの吾々(われわれ)は苦心(くしん)惨憺(さんたん)を重(かさ)ね玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を三五教(あななひけう)へお迎(むか)へ申(まを)したのだから、176褒(ほ)めて貰(もら)ふ事(こと)はあつてもお咎(とが)めを蒙(かうむ)る様(やう)な道理(だうり)がない。177御(ご)心配(しんぱい)なさいますな、178何程(なにほど)立派(りつぱ)な神人(しんじん)ぢやと云(い)つても、179女(をんな)は矢張(やつぱ)り女(をんな)だナア、180そンな取越(とりこし)苦労(くらう)はするものぢやありませぬよ』
181紫姫『それでも何(なん)だか気掛(きがか)りでなりませぬワ。182何(なに)は兎(と)もあれ、183早(はや)く室内(しつない)を片(かた)づけて這入(はい)つて貰(もら)ひませう』
184と一同(いちどう)は夜着(よぎ)を片付(かたづ)け、185綺麗(きれい)に掃除(さうぢ)をなし終(をは)り、
186若彦(わかひこ)『サア準備(じゆんび)は出来(でき)た、187馬公(うまこう)、188鹿公(しかこう)、189表(おもて)を開(あ)けて亀彦(かめひこ)さまを御(ご)案内(あんない)申(まを)したがよからう』
190 馬(うま)、191鹿(しか)の両人(りやうにん)は畏(かしこ)まりましたと表戸(おもてど)をサラリと開(あ)け、192驚(おどろ)いたのは両人(りやうにん)、193亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)は威儀(ゐぎ)儼然(げんぜん)として金色(こんじき)の冠(かむり)を頂(いただ)き、194夜光(やくわう)の宝玉(ほうぎよく)四辺(あたり)を照(て)らし、195薄(うす)き絹(きぬ)の袖(そで)長(なが)き白衣(びやくい)を着(ちやく)し、196入口(いりぐち)狭(せま)しと悠々(いういう)と進(すす)み入(い)り、197二人(ふたり)に一揖(いちいふ)し、198つかつかと奥(おく)の間(ま)に進(すす)み、199玉照姫(たまてるひめ)の御前(みまへ)に端坐(たんざ)し、200拍手(はくしゆ)再拝(さいはい)、201神言(かみごと)を奏(そう)し終(をは)り正座(しやうざ)に着(つ)きける。
202 紫姫(むらさきひめ)は手(て)を突(つ)ひて、
203紫姫『これはこれは亀彦(かめひこ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、204否(いな)、205英子姫(ひでこひめ)様(さま)の御(お)直使(ぢきし)様(さま)、206夜陰(やいん)といひ遠方(ゑんぱう)の処(ところ)、207ようこそ御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました。208御用(ごよう)の趣(おもむき)仰(あふ)せ聞(き)けられ下(くだ)さいませ』
209 亀彦(かめひこ)は威儀(ゐぎ)を正(ただ)し、
210亀彦『今日(けふ)只今(ただいま)此(この)館(やかた)に参(まゐ)りしは余(よ)の儀(ぎ)では厶(ござ)らぬ。211此(この)度(たび)其(その)方(はう)紫姫(むらさきひめ)を始(はじ)め若彦(わかひこ)の行為(かうゐ)に就(つ)いて神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)、212以(もつ)ての外(ほか)の御(ご)不興(ふきよう)、213英子姫(ひでこひめ)様(さま)に御(ご)神示(しんじ)あらせられたれば、214亀彦(かめひこ)ここに英子姫(ひでこひめ)の命(みこと)の直使(ぢきし)としてわざわざ参(まゐ)りたり』
215 紫姫(むらさきひめ)、216若彦(わかひこ)はハツと両手(りやうて)をつき、
217紫姫、若彦『これはこれは御(お)直使(ぢきし)様(さま)御(ご)苦労(くらう)に存(ぞん)じます。218御用(ごよう)の趣(おもむき)、219速(すみやか)にお聞(き)かせ下(くだ)さいませ』
220亀彦『其(その)方(はう)事(こと)は神界(しんかい)経綸(けいりん)の玉照姫(たまてるひめ)を天地(てんち)の律法(りつぱう)を忘却(ばうきやく)し、221権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)の秘策(ひさく)を用(もち)ゐ、222反間(はんかん)苦肉(くにく)の策(さく)を以(もつ)て目的(もくてき)を達(たつ)したる事(こと)神意(しんい)に叶(かな)はず、223彼(か)れ玉照姫(たまてるひめ)の神(かみ)は、224一旦(いつたん)、225ウラナイ教(けう)の黒姫(くろひめ)に与(あた)ふべきものなり。226一(いち)時(じ)も早(はや)く玉照姫(たまてるひめ)様(さま)及(およ)びお玉(たま)を黒姫(くろひめ)の手許(てもと)に送(おく)り、227汝(なんぢ)等(ら)は此(この)責任(せきにん)を負(お)ひて宣伝使(せんでんし)の職(しよく)を去(さ)るべし、228との厳命(げんめい)で御座(ござ)る』
229と厳(おごそ)かに云(い)ひ渡(わた)したり。
230 紫姫(むらさきひめ)は顔(かほ)を赤(あか)らめ、
231紫姫『実(じつ)に理義(りぎ)明白(めいはく)なる御(お)直使(ぢきし)のお言葉(ことば)、232妾(わらは)不徳(ふとく)の致(いた)す処(ところ)、233今(いま)となつては最早(もはや)弁解(べんかい)の辞(じ)も御座(ござ)いませぬ。234謹(つつし)みてお受(う)け致(いた)します』
235若彦『モシモシ紫姫(むらさきひめ)さま、236此(この)若彦(わかひこ)を差(さ)し置(お)き、237さうづけづけとものを仰有(おつしや)つては後(あと)の結(むす)びがつきませぬ。238仮令(たとへ)権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)の策(さく)にもしろ五六七(みろく)神政(しんせい)の貴(うづ)の御(おん)宝(たから)、239玉照姫(たまてるひめ)の生御霊(いくみたま)を三五教(あななひけう)に迎(むか)へ奉(たてまつ)りたる抜群(ばつぐん)の功名(こうみやう)手柄(てがら)、240御(ご)賞詞(しやうし)こそ頂(いただ)くべきに、241却(かへ)つて吾々(われわれ)の職(しよく)を免(めん)じ、242剰(あま)つさへ玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を黒姫(くろひめ)に渡(わた)せとは大神(おほかみ)様(さま)始(はじ)め英子姫(ひでこひめ)様(さま)の御(お)言葉(ことば)とも覚(おぼ)えませぬ。243オイ、244コラ亀彦(かめひこ)、245貴様(きさま)は吾々(われわれ)の成功(せいこう)を嫉(ねた)み、246左様(さやう)な事(こと)を申(まを)すのであらう。247否(いな)、248汝(なんぢ)の本(ほん)守護神(しゆごじん)より出(い)でたる世迷(よま)ひ言(ごと)ではあるまい、249屹度(きつと)副(ふく)守護神(しゆごじん)の悪戯(いたづら)ならむ。250只今(ただいま)若彦(わかひこ)が神霊(しんれい)注射(ちうしや)を行(おこな)ひ、251汝(なんぢ)に憑依(ひようい)せる悪魔(あくま)を現(あら)はし呉(く)れむ』
252と早(はや)くも両手(りやうて)を組(く)みウンと一声(ひとこゑ)霊縛(れいばく)を加(くは)へむとするや、253亀彦(かめひこ)の背後(はいご)より煙(けぶり)の如(ごと)く忽然(こつぜん)として顕(あら)はれ給(たま)うた光華(くわうくわ)明彩(めいさい)六合(りくがふ)を照徹(せうてつ)する許(ばか)りの女神(めがみ)顕(あら)はれ給(たま)ひ、254若彦(わかひこ)が面(おもて)を射(い)させ給(たま)ひぬ。255紫姫(むらさきひめ)、256若彦(わかひこ)は身体(しんたい)萎縮(ゐしゆく)し其(その)場(ば)に畏伏(ゐふく)しワナワナと震(ふる)ひ戦(をのの)き、257涙(なみだ)に畳(たたみ)を潤(うるほ)すに至(いた)りぬ。258亀彦(かめひこ)は顔色(がんしよく)を和(やは)らげ、
259亀彦『英雄(えいゆう)涙(なみだ)を振(ふる)つて馬稷(ばしよく)を斬(き)るとは神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)、260英子姫(ひでこひめ)様(さま)の御(ご)心事(しんじ)、261さり乍(なが)ら汝(なんぢ)よく直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)し、262奇魂(くしみたま)の覚(さと)りによりて此(この)大望(たいもう)を完全(くわんぜん)に遂行(すゐかう)せば、263再(ふたた)び神業(しんげふ)に参加(さんか)する事(こと)を得(え)む』
264と稍(やや)俯(うつ)むき、265同情(どうじやう)の涙(なみだ)を流(なが)しつつ女神(めがみ)と共(とも)に、266亀彦(かめひこ)の姿(すがた)は忽然(こつぜん)として此(この)場(ば)より消(き)えにける。267玉照姫(たまてるひめ)の泣(な)き給(たま)ふ声(こゑ)は此(この)時(とき)より時々(じじ)刻々(こくこく)に烈(はげ)しくなり来(き)たれり。
268お玉(たま)『玉照姫(たまてるひめ)様(さま)、269どうぞ御(ご)機嫌(きげん)を直(なほ)して下(くだ)さいませ。270何(なに)かお気障(きざは)りが御座(ござ)いますか。271幾重(いくへ)にも御(お)詫(わび)致(いた)します』
272と頭(かしら)を畳(たたみ)にすり付(つ)け詫入(わびい)る。
273若彦『紫姫(むらさきひめ)さま、274大変(たいへん)な事(こと)になりましたねエ。275若彦(わかひこ)はどう致(いた)したら宜(よろ)しいのでせう』
276紫姫『仕方(しかた)がありませぬ、277成功(せいこう)を急(いそ)ぐの余(あま)り無理(むり)をやつたものですから、278何程(なにほど)目的(もくてき)は手段(しゆだん)を選(えら)ばずといつても、279それは俗人(ぞくじん)の為(な)すべき事(こと)、280吾々(われわれ)宣伝使(せんでんし)の分際(ぶんざい)として余(あま)り立派(りつぱ)な行動(かうどう)をやつたとは云(い)はれますまい。281吾々(われわれ)両人(りやうにん)を殊勲者(しゆくんしや)として大神(おほかみ)様(さま)より賞詞(しやうし)さるる様(やう)な事(こと)あらば、282それこそ三五教(あななひけう)の生命(せいめい)は茲(ここ)に全(まつた)く滅亡(めつぼう)を告(つ)げ、283ウラル教(けう)となつて了(しま)ひませう。284アヽ大神(おほかみ)様(さま)の御(お)言葉(ことば)には千(せん)に一(ひと)つもあだは御座(ござ)いませぬ。285是(これ)よりは前非(ぜんぴ)を悔(く)い身魂(みたま)を研(みが)いて本当(ほんたう)の宣伝使(せんでんし)にならなくちやなりませぬ。286玉照姫(たまてるひめ)様(さま)のあの御(お)泣(ンな)き声(ごゑ)、287御(ご)神慮(しんりよ)に叶(かな)つて居(ゐ)ないのは当然(たうぜん)です』
288若彦『エヽ仕方(しかた)がありませぬなア』
289 馬公(うまこう)は、290(小声(こごゑ)で)
291馬公『オイ鹿公(しかこう)、292梟鳥(ふくろどり)の宵企(よひだく)み、293夜食(やしよく)に外(はづ)れて難(むつ)かしい顔(かほ)を致(いた)すぞよ。294ドンナ良(よ)い事(こと)でも誠(まこと)で致(いた)した事(こと)でなければ、295毛筋(けすぢ)の横巾(よこはば)程(ほど)でも悪(あく)が混(まじ)りたら、296物事(ものごと)成就(じやうじゆ)致(いた)さぬぞよ、297と云(い)ふ三五教(あななひけう)の御(ご)神諭(しんゆ)を知(し)つて居(を)るか』
298鹿公『ウン、299いつか聞(き)いた様(やう)に思(おも)ふ。300ナント神(かみ)様(さま)といふものは七難(しちむつ)かしい事(こと)を仰有(おつしや)るものだな。301三千(さんぜん)世界(せかい)を自由(じいう)になさる大神(おほかみ)様(さま)が、302ソンナ小(ちひ)さい事(こと)をゴテゴテ仰有(おつしや)る様(やう)では神政(しんせい)成就(じやうじゆ)も覚束(おぼつか)ないワイ。303然(しか)し乍(なが)ら若彦(わかひこ)さまや、304吾々(われわれ)の師匠(ししやう)と仰(あふ)ぎ主人(しゆじん)と崇(あが)むる紫姫(むらさきひめ)様(さま)迄(まで)が、305御(ご)退職(たいしよく)なさる以上(いじやう)は吾々(われわれ)とても同(おな)じ事(こと)だ。306何(なん)とか考(かんが)へないと馬鹿(うましか)な目(め)に遭(あ)はねばならぬぞ』
307馬公『モシモシ若彦(わかひこ)さま、308紫姫(むらさきひめ)さま、309御(お)目出度(めでた)う、310お祝(いは)ひ致(いた)します』
311 鹿公(しかこう)は慌(あは)てて馬公(うまこう)の口(くち)に手(て)を当(あ)て、
312鹿公『コラコラ馬公(うまこう)何(なに)を云(い)ふのだ、313些(ちつ)と失礼(しつれい)ぢやないか』
314紫姫『馬公(うまこう)、315よう云(い)ふて下(くだ)さつた。316本当(ほんたう)にコンナ目出度(めでた)い事(こと)はありませぬワ。317今日(こんにち)只今(ただいま)始(はじ)めて臍下丹田(したついはね)の天(あま)の岩戸(いはと)が開(ひら)けました。318これから本当(ほんたう)の真如(しんによ)の日月(じつげつ)が現(あら)はれませう。319お互(たがひ)様(さま)にお目出度(めでた)う存(ぞん)じます』
320 若彦(わかひこ)は拍手(かしはで)を打(う)つて、
321若彦『大神(おほかみ)様(さま)有難(ありがた)う御座(ござ)います。322愈(いよいよ)私(わたくし)も心天(しんてん)の妖雲(えううん)が晴(は)れました』
323と感謝(かんしや)の辞(じ)を涙(なみだ)と共(とも)に述(の)べたて居(ゐ)る。
324 玉照姫(たまてるひめ)は何(なん)とも形容(けいよう)の出来(でき)ない美(うる)はしき顔色(かほいろ)にて、325御(ご)機嫌斜(きげんななめ)ならずニコニコと笑(わら)ひ始(はじ)め給(たま)ひ、326お玉(たま)は嬉(うれ)し泣(な)きに泣(な)き入(い)る。
327 馬公(うまこう)、328鹿公(しかこう)二人(ふたり)は互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せ、
329馬公、鹿公『ハテ合点(がてん)がゆかぬ。330こりやマアどうなり往(ゆ)くのであらうかな』
331 紫姫(むらさきひめ)、332若彦(わかひこ)は今後(こんご)果(はた)して如何(いか)なる行動(かうどう)に出(い)づるならむか。
333(大正一一・五・六 旧四・一〇 藤津久子録)
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