霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第七章 牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)〔六五二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻 篇:第2篇 意外の意外 よみ(新仮名遣い):いがいのいがい
章:第7章 牛飲馬食 よみ(新仮名遣い):ぎゅういんばしょく 通し章番号:652
口述日:1922(大正11)年05月07日(旧04月11日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
厳の御魂の大御神の和魂を祀った元伊勢に、紫姫や若彦らの一行が参拝していた。若彦は馬公と鹿公に、魔窟ケ原へ行って黒姫に、玉照姫をウラナイ教にお渡ししたいと伝えるように言いつけた。
魔窟ケ原では梅公を頭に、一同黒姫と高山彦の留守を幸い、備蓄した食糧を持ち出して大宴会を開いていた。そこへ馬公と鹿公がやってくる。梅公は二人を中へ引き入れると、宴会の仲間に加えた。
そこへ、フサの国から高姫の使いとして鶴公と亀公がやってきた。酔って迎えた鳶公と鷹公は、一喝されて大慌てになり、鳶公は徳利を隠させようと中へ急ぐ。鶴公と亀公はかまわず中へ入ってきた。
鶴公は、高姫の意向を皆に伝える。しかし梅公が、中に三五教の馬公と鹿公が混じっているのに気づいた。馬公と鹿公は、紫姫と若彦が改心して、玉照姫をウラナイ教に差し出そうとしていることを伝えた。
鶴公は、一度フサの国へ帰って高姫の意向を聞くこととし、馬公と鹿公は、いったん元伊勢に戻っていった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-03 17:54:03 文字数:6257 OBC :rm1907
愛善世界社版:102頁 八幡書店版:第4輯 67頁 修補版: 校定版:105頁 普及版:47頁 初版: ページ備考:
001 厳(いづ)の御霊(みたま)の大御神(おほみかみ)、002その和魂(にぎみたま)を祭(まつ)りたる、003神(かみ)の光(ひかり)の元伊勢(もといせ)の、004大御前(おほみまへ)に額(ぬか)づきて、005天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、006心(こころ)の空(そら)の雲霧(くもきり)を晴(は)らせ給(たま)へと、007汗(あせ)をたらたら祈(いの)り居(を)る、008三男(さんなん)二女(にぢよ)の信徒(まめひと)ありけり。
009若彦(わかひこ)『コレコレ馬公(うまこう)に鹿公(しかこう)、010お前(まへ)御(ご)苦労(くらう)だが是(これ)から、011魔窟(まくつ)ケ原(はら)の黒姫(くろひめ)さまの岩窟館(がんくつやかた)を訪(たづ)ねて往(い)つて貰(もら)へまいかな、012私(わたくし)は玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を御(ご)保護(ほご)申上(まをしあ)げて、013紫姫(むらさきひめ)様(さま)、014お玉(たま)さまと此(この)御(ご)神殿(しんでん)に円満(ゑんまん)解決(かいけつ)の祈願(きぐわん)を凝(こ)らして待(ま)つて居(ゐ)るから、015黒姫(くろひめ)さまに会(あ)つて、016とつくりと吾々(われわれ)の真心(まごころ)を伝(つた)へて貰(もら)ひたいのだ』
017馬公(うまこう)『ハイハイ、018かうなればもう破(やぶ)れかぶれだ。019神(かみ)様(さま)の仰有(おつしや)る事(こと)は何(なに)が何(なん)だか訳(わけ)が分(わか)らない、020行(い)つて参(まゐ)りませう』
021若彦(わかひこ)『分(わか)らない所(ところ)に妙味(めうみ)があるのだらう、022往(ゆ)く所(ところ)迄(まで)行(ゆ)かねば到底(たうてい)吾々(われわれ)の限(かぎ)りある知識(ちしき)では御(ご)神慮(しんりよ)を窺知(きち)し奉(たてまつ)る事(こと)は出来(でき)ない。023此(この)度(たび)は十分(じふぶん)に低(ひく)う出(で)て、024黒姫(くろひめ)さまが、025何(なん)と云(い)うても一言(いちごん)も口答(くちごた)へをしてはならないよ』
026鹿公(しかこう)『ソンナラ馬公(うまこう)、027兎(と)も角(かく)偵察(ていさつ)がてら行(い)つて来(き)ませう。028何(なん)だか張合(はりあひ)の無(な)いやうな気(き)が致(いた)します哩(わい)。029併(しか)し乍(なが)ら黒姫(くろひめ)が居(ゐ)なかつたらどうしませう』
030若彦(わかひこ)『万一(まんいち)フサの国(くに)へでも帰(かへ)られた後(あと)であつたならば、031誰(たれ)か代理者(だいりしや)が置(お)いてあらうから、032其(その)代理者(だいりしや)に懸(か)け合(あ)つて来(く)ればよいのだ』
033鹿公(しかこう)『代理者(だいりしや)が居(ゐ)なかつたら何(ど)うしませう。034万一(まんいち)留守(るす)であつたら何(ど)うなるのです』
035若彦(わかひこ)『エヽ、036ソンナ事(こと)迄(まで)尋(たづ)ねる必要(ひつえう)が無(な)いぢやないか。037臨機(りんき)応変(おうへん)でやつて来(く)るのだ』
038 馬(うま)、039鹿(しか)両人(りやうにん)一度(いちど)に、
040馬公、鹿公『委細(ゐさい)承知(しようち)仕(つかまつ)りました。041オイ兄弟(きやうだい)、042駆歩(かけあし)だ』
043と早(はや)くも尻引(しりひ)きからげ飛(と)び出(だ)さむとするを、044若彦(わかひこ)は、
045若彦『オイオイ両人(りやうにん)、046用向(ようむき)は知(し)つて居(を)るか』
047馬公(うまこう)『ハイ知(し)つて居(ゐ)ます。048黒姫(くろひめ)が居(を)るか居(を)らぬか見(み)て来(き)たらよいのでせう』
049鹿公(しかこう)『黒姫(くろひめ)が居(ゐ)なかつたら、050代理(だいり)を見(み)て来(く)る。051代理(だいり)が居(ゐ)なかつたら臨機(りんき)応変(おうへん)、052酒(さけ)でもあつたら一杯(いつぱい)飲(の)みて来(く)るのでせう』
053紫姫(むらさきひめ)『ホヽヽヽヽ』
054若彦(わかひこ)『ハヽヽヽヽ、055狼狽者(あはてもの)だなア、056黒姫(くろひめ)さまが被居(いらつしや)らなかつたら、057吾々(われわれ)両人(りやうにん)は紫姫(むらさきひめ)様(さま)や、058若彦(わかひこ)の代理(だいり)にお詫(わび)に参(まゐ)りました。059玉照姫(たまてるひめ)様(さま)を献上(けんじやう)致(いた)しますから、060今迄(いままで)の御(ご)立腹(りつぷく)は河(かは)に流(なが)して下(くだ)さいませ、061是非(ぜひ)とも宜敷(よろし)くお願(ねが)ひ致(いた)します。062と云(い)うて返事(へんじ)を聞(き)いて来(く)るのだよ』
063馬公(うまこう)『ソンナ察(さつ)しの無(な)い馬公(うまこう)とは違(ちが)ひます哩(わい)。064亀彦(かめひこ)のお直使(ぢきし)がお出(い)でになつた時(とき)からチヤンと筋書(すぢがき)は分(わか)つて居(ゐ)るのだ。065なア鹿公(しかこう)』
066鹿公(しかこう)『鹿(しか)り鹿(しか)り、067サア往(ゆ)かう。068三人(さんにん)様(さま)、069玉照姫(たまてるひめ)さまを大切(たいせつ)にして御(ご)保護(ほご)なさいませや、070たつた今(いま)黒姫(くろひめ)の手(て)に渡(わた)すかと思(おも)へば、071何(なん)だかお世話(せわ)の仕甲斐(しがひ)が無(な)いやうな気(き)が致(いた)しまするが、072これも成行(なりゆき)だ。073因縁(いんねん)づくぢやと諦(あきら)めましてな、074是非(ぜひ)とも宜敷(よろし)うお頼(たの)み申(まをし)やす』
075と云(い)ひ捨(す)てて谷川(たにがは)伝(づた)ひ、076崎嶇(きく)たる小径(せうけい)を魔窟(まくつ)ケ原(はら)指(さ)して驀地(まつしぐら)に駆(か)けり往(ゆ)く。
077 話(はなし)変(かは)つて魔窟(まくつ)ケ原(はら)の岩窟(がんくつ)には主人(しゆじん)の留守(るす)の間鍋(まなべ)たき、078梅公(うめこう)の留守(るす)師団長(しだんちやう)、079丑(うし)、080寅(とら)、081辰(たつ)、082鷹(たか)、083鳶(とび)其(その)他(た)七八(しちはち)名(めい)は、084食(く)つては寝(ね)、085寝(ね)ては起(お)き、086朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)、087土竜(むぐらもち)のやうに穴住(あなずま)ひ許(ばか)りに日(ひ)を暮(くら)し、088宣伝(せんでん)にも行(ゆ)かず、089貯蔵(ちよざう)せし酒(さけ)や米(こめ)を出(だ)し放題(はうだい)に出(だ)して、090白蟻(しろあり)が柱(はしら)を食(く)ふやうにちびちびと、091獅子(しし)身中(しんちう)の虫(むし)の本領(ほんりやう)を遺憾(ゐかん)なく発揮(はつき)して居(を)る。
092寅若(とらわか)『コレコレ梅(うめ)の大将(たいしやう)、093去年(きよねん)の此(この)頃(ごろ)だつたねエ、094普甲峠(ふかふたうげ)の突発(とつぱつ)事件(じけん)、095黒姫(くろひめ)さまに分(わか)つた時(とき)にや随分(ずゐぶん)ひやひやしたぢやないか』
096梅公(うめこう)『過(す)ぎ去(さ)つた事(こと)は云(い)ふものぢやない哩(わい)。097あれが抑(そもそ)もの序幕(じよまく)で、098玉照姫(たまてるひめ)の事件(じけん)が起(おこ)り、099それが失敗(しつぱい)の原因(げんいん)となつて、100意地癖(いぢくせ)の悪(わる)い高山彦(たかやまひこ)夫婦(ふうふ)が、101吾々(われわれ)に城(しろ)を明(あ)け渡(わた)してフサの国(くに)の本山(ほんざん)へ帰(かへ)つて行(い)つた。102お蔭(かげ)で目(め)の上(うへ)の瘤(こぶ)が取(と)れて毎日(まいにち)ウラル教(けう)ぢやないが、103飲(の)めよ騒(さわ)げよ一寸先(いつすんさき)ア闇(やみ)よと、104牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)が続(つづ)けられるのだ。105矢張(やつぱり)これも梅公(うめこう)の方寸(はうすん)から出(で)たのだ。106一年前(いちねんまへ)から見越(みこ)しての梅公(うめこう)の計画(けいくわく)と云(い)ふものは偉(えら)いものだらう。107黒姫(くろひめ)迄(まで)おつ放(ぽ)り出(だ)すと云(い)ふ土台(どだい)を作(つく)つた凄(すご)い腕前(うでまへ)だから、108何(なん)と云(い)うても哥兄(にい)さまだよ』
109寅若(とらわか)『ソンナ自慢(じまん)は置(お)いて貰(もら)はうかい。110此(この)新(あたら)しがる世(よ)の中(なか)に、111黴(かび)の生(は)えたやうな一年越(いちねんごし)の自慢話(じまんばなし)は買手(かひて)がないぞ。112それにつけても漁夫(ぎよふ)の利(り)を占(しめ)たのは三五教(あななひけう)の奴(やつ)だ。113一敗(いつぱい)地(ち)に塗(まみ)れ馬鹿(ばか)を見(み)たのは黒姫(くろひめ)さまだよ。114紫姫(むらさきひめ)や、115青彦(あをひこ)を特別(とくべつ)待遇(たいぐう)で下(した)にも置(お)かぬ様(やう)な信任振(しんにんぶり)を発揮(はつき)して居(ゐ)たが、116豈(あに)図(はか)らむや、117妹(いもうと)図(はか)らむやだ。118あの態(ざま)つたらないぢやないか。119アンナ奴(やつ)は又(また)三五教(あななひけう)で愛想(あいさう)尽(つ)かされて、120盆(ぼん)過(す)ぎの幽霊(いうれい)の様(やう)に矢張(やつぱり)ウラナイ教(けう)が誠(まこと)だつた、121改心(かいしん)致(いた)しましたなぞと尾(を)を掉(ふ)つて帰(かへ)つて来(く)るかも知(し)れやしないぞ。122今度(こんど)はドンナ事(こと)があつても相手(あひて)になつてはいけないよ』
123梅公(うめこう)『何程(なにほど)鉄面皮(てつめんぴ)の青彦(あをひこ)だつて、124さう何度(なんど)も謝罪(あやま)つて来(こ)られた態(ざま)ぢやあるまい。125ソンナ事(こと)は絶対(ぜつたい)にないと俺(おれ)は確信(かくしん)して居(を)る、126マアマア悠(ゆつ)くり飲(の)みて騒(さわ)ぐがよからうぞ。127一寸先(いつすんさき)は暗(やみ)の世(よ)だ。128ある中(うち)に飲(の)ンだり食(く)つたりして置(お)かない事(こと)には、129三五教(あななひけう)は兎(と)も角(かく)バラモン教(けう)の残党(ざんたう)が押(お)し寄(よ)せて来(き)て奪(と)つて行(ゆ)くかも分(わか)つたものぢやない。130兎(と)に角(かく)腹(はら)の中(なか)に入(い)れて置(お)けば損(そん)は無(な)いのだから、131人数(にんずう)は減(へ)つたなり、132二(に)年(ねん)ぶりの食糧(しよくりやう)や酒(さけ)があるのだから、133お前(まへ)方(がた)勉強(べんきやう)して胃(ゐ)の腑(ふ)を働(はたら)かし、134毎日(まいにち)日日(ひにち)、135五六(ごろく)人前(にんまへ)宛(づつ)勉強(べんきやう)せないと神(かみ)様(さま)に済(す)まないぞ』
136と他愛(たあい)もなく、137酒(さけ)に酔(よ)うて勝手(かつて)な理屈(りくつ)を囀(さへづ)り居(を)る。
138 此(この)時(とき)門口(もんぐち)より岩(いは)の戸(と)を覗(のぞ)いて『オイオイ』と呼(よ)ぶ男(をとこ)ありき。
139寅若(とらわか)『オイ鷹公(たかこう)、140鳶公(とびこう)、141何(なん)だか入口(いりぐち)からオイオイと云(い)つて居(ゐ)やがるぢやないか。142何処(どこ)の奴(やつ)か知(し)らないが、143敵(てき)でも味方(みかた)でも構(かま)はぬ、144引張込(ひつぱりこ)んで飯(めし)を鱈腹(たらふく)喰(く)はせ、145酒(さけ)を十分(じふぶん)飲(の)ませて穀潰(ごくつぶ)しの御用(ごよう)をさせるんだ。146早(はや)く行(い)つて引張(ひつぱ)つて来(こ)い。147是(これ)から酒責(さけぜ)め、148飯責(めしぜ)め、149御(ご)馳走責(ちそうぜ)めだ』
150 『オイ合点(がつてん)だ』と鳶(とび)、151鷹(たか)の両人(ふたり)は握(にぎ)り飯(めし)を片手(かたて)に持(も)ち、152片手(かたて)に酒徳利(さけどつくり)を各自(めいめい)提(さ)げながら、153穴(あな)の入口(いりぐち)迄(まで)やつて来(く)る。
154馬公(うまこう)『モシモシ、155私(わたくし)は馬(うま)で御座(ござ)います。156どうぞ通(とほ)して下(くだ)さいませぬか』
157鳶公(とびこう)『ウン、158荷(に)つけ馬(うま)か、159乗馬馬(じやうめうま)か、160木馬(きうま)か、161尻馬(しりうま)か知(し)らぬが、162マアこのうまい酒(さけ)を飲(の)んで握(にぎ)り飯(めし)でも食(く)へ。163さうして誠意(せいい)を現(あら)はすのだ』
164馬公(うまこう)『飯相(めしさう)な、165何(ど)う致(いた)しまして、166お酒(さけ)を頂戴(ちやうだい)しては済(す)みませぬ。167実(じつ)は謝罪(あやま)りに参(まゐ)りました。168是非(ぜひ)共(とも)宜敷(よろし)くお願(ねが)ひ致(いた)します』
169鳶公(とびこう)『エヽ、170ちよろ臭(くさ)い、171徳利(とくり)の顔(かほ)を見(み)て謝罪(あやま)る奴(やつ)があるか。172二升(にしよう)や三升(さんじよう)グツとやつて其(その)上(うへ)で謝罪(あやま)るのなら筋(すぢ)が立(た)つが、173徳利(とくり)の顔(かほ)をみて謝罪(あやま)る奴(やつ)が何処(どこ)にあるかい』
174馬公(うまこう)『イエイエ、175私(わたくし)は黒姫(くろひめ)さまに反対(はんたい)致(いた)しました青彦(あをひこ)や、176紫姫(むらさきひめ)の部下(ぶか)の者(もの)で御座(ござ)います。177誠(まこと)に済(す)まない事(こと)で、178黒姫(くろひめ)さまにお詫(わび)に参(まゐ)りました』
179鳶公(とびこう)『ウン、180あの黒姫(くろひめ)の奴(やつ)か、181彼奴(あいつ)はお前(まへ)達(たち)のお蔭(かげ)で縮尻(しゆくじ)りやがつた。182とうの昔(むかし)フサの国(くに)の本山(ほんざん)に引(ひ)き上(あ)げよつた、183其(その)後(ご)と云(い)ふものは毎日(まいにち)日日(ひにち)、184食(く)つたり飲(の)んだり、185気楽(きらく)なものだ。186青彦(あをひこ)様々(さまさま)だ。187お前(まへ)も其(その)家来(けらい)であらば尚々(なほなほ)結構(けつこう)だ。188マアマア祝(いは)ひに一杯(いつぱい)やれ』
189馬公(うまこう)『オイ鹿公(しかこう)、190何(ど)うやらこいつは風並(かざなみ)が変(へん)だよ』
191鹿公(しかこう)『変(へん)でも何(なん)でも唯(ただ)飲(の)めと云(い)ふのだから飲(の)んだらいいぢやないか。192モシモシ皆(みな)さま、193是非(ぜひ)共(とも)宜敷(よろし)く、194私(わたくし)は決(けつ)して決(けつ)して謝罪(あやま)りなどは致(いた)しませぬ』
195鳶公(とびこう)『ヤアお前(まへ)は鹿公(しかこう)だつたな。196ウンよしよし、197一寸(ちよつと)話(はな)せる、198我(わが)党(たう)の士(し)だ。199サア是(これ)から酒責(さけぜ)め、200飯責(めしぜ)め、201牡丹餅(ぼたもち)責(ぜ)めの御(ご)馳走責(ちそうぜ)めだ。202去年(きよねん)の返報(へんぱう)がへしだ。203おぢおぢせずに男(をとこ)らしう牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)するのだぞ。204黒姫(くろひめ)が留守(るす)になつたから梅公(うめこう)の会長(くわいちやう)で、205牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)の本部(ほんぶ)が設立(せつりつ)されたのだ。206貴様(きさま)も成績(せいせき)次第(しだい)で幹部(かんぶ)にしてやらぬ事(こと)も無(な)いし、207特別(とくべつ)会員(くわいいん)に推薦(すいせん)しないにも限(かぎ)らない、
 
208岩窟(いはや)にも春(はる)は来(き)にけり酒(さけ)の花(はな)
 
209だ。210アハヽヽヽ、211サア這入(はい)つたり這入(はい)つたり』
212 鷹(たか)、213鳶(とび)の両人(ふたり)は、214馬(うま)、215鹿(しか)の手(て)を無理(むり)無体(むたい)に引張(ひつぱ)り、216大勢(おほぜい)の前(まへ)に連(つ)れて来(き)た。
217梅公(うめこう)『ヤアお前(まへ)は三五教(あななひけう)の連中(れんちう)ぢやないか』
218馬公(うまこう)『今日(けふ)から牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)へ入会(にふくわい)を願(ねが)ひます』
219梅公(うめこう)『ヤア、220二人(ふたり)だな、221本会(ほんくわい)創立(さうりつ)以来(いらい)創立者(さうりつしや)の外(ほか)に、222入会(にふくわい)を申込(まをしこ)んだのは君(きみ)達(たち)が最初(さいしよ)だ。223普通(あたりまへ)なれば飲(の)みぶり、224食(く)ひぶりを検査(けんさ)した上(うへ)に会員(くわいいん)の等級(とうきふ)を定(き)めるのだが、225今日(けふ)は祝意(しゆくい)を表(へう)する為(ため)、226特別(とくべつ)会員(くわいいん)に推薦(すいせん)するから、227特別(とくべつ)会員(くわいいん)の名誉(めいよ)を保持(ほぢ)する為(ため)に、228腹(はら)が破(やぶ)れる程(ほど)食(く)つて、229天(てん)が地(ち)になり、230地(ち)が天(てん)になる所(ところ)迄(まで)酒(さけ)を飲(の)むのだ。231いいか、232合点(がつてん)か』
233馬公(うまこう)『これはこれは特別(とくべつ)の御(ご)詮議(せんぎ)を以(もつ)て』
234鹿公(しかこう)『しかも特別(とくべつ)会員(くわいいん)に列(れつ)せられまして有難(ありがた)う。235飽迄(あくまで)頂戴(ちやうだい)仕(つかまつ)ります』
236梅公(うめこう)『ヤア、237これで同志(どうし)がざつと二人(ふたり)増加(ぞうか)した。238黒姫(くろひめ)の信徒(しんと)募集(ぼしふ)とは余程(よほど)早(はや)い哩(わい)。239否(いな)効果(かうくわ)が挙(あ)がると云(い)ふものだ』
240寅若(とらわか)『オイ皆(みな)の奴(やつ)、241会長(くわいちやう)万歳(ばんざい)を三唱(さんしやう)しようぢやないか』
242一同(いちどう)『オー宜(よ)からう宜(よ)からう、243牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)万歳(ばんざい)、244会長(くわいちやう)さん万歳(ばんざい)、245馬(うま)、246鹿(しか)両人(りやうにん)万歳(ばんざい)、247会員(くわいいん)一同(いちどう)万々歳(ばんばんざい)、248ワハヽヽヽ』
249と岩窟(がんくつ)も崩(くづ)るる許(ばか)り笑(わら)ひ倒(こ)ける。250此(この)時(とき)岩窟(がんくつ)の外(そと)には鶴(つる)、251亀(かめ)の両人(りやうにん)四五(しご)の従者(じゆうしや)を引(ひ)き連(つ)れやつて来(き)た。
252鶴公(つるこう)『これこれ亀公(かめこう)、253随分(ずゐぶん)賑(にぎ)やかな声(こゑ)がするぢやないか』
254亀公(かめこう)『オウ、255そうだなア、256何(なん)でも此(この)中(なか)に天眼通(てんがんつう)の利(き)く奴(やつ)があつて、257吾々(われわれ)の歓迎会(くわんげいくわい)でも開(ひら)いて前祝(まへいはひ)でもしとるのだらう』
258鶴公(つるこう)『それだけ天眼(てんがん)の利(き)いて居(ゐ)る奴(やつ)があるのなら、259何故(なぜ)吾々(われわれ)を迎(むか)ひに来(こ)ないのだらう』
260亀公(かめこう)『余(あま)り嬉(うれ)しいので酒(さけ)に喰(くら)ひ酔(よ)うて忘(わす)れたのかも知(し)れない。261併(しか)し霊(れい)は屹度(きつと)迎(むか)ひに来(き)て居(を)るよ。262何事(なにごと)も善意(ぜんい)に解(かい)するのが安全(あんぜん)第一(だいいち)だ』
263鶴公(つるこう)『併(しか)し何(なん)だかチと変梃(へんてこ)だ。264鬼(おに)の来(こ)ぬ間(ま)に体(からだ)の洗濯(せんたく)、265睾丸(きんたま)の皺伸(しわの)ばしをやつて居(を)るのぢやなからうかなア。266何(なに)は兎(と)もあれ一(ひと)つ呶鳴(どな)つて見(み)ようぢやないか』
267 斯(か)く話(はな)す折(をり)しも、268鳶(とび)、269鷹(たか)の二人(ふたり)は行歩(かうほ)蹣跚(まんさん)として入口(いりぐち)に現(あら)はれ来(きた)り、
270鳶公、鷹公『ダヽヽ誰人(だれ)だ。271羨望(けな)りさうに入口(いりぐち)から覗(のぞ)きよつて、272何(なに)も遠慮(ゑんりよ)は要(い)らない。273サア思(おも)ひ切(き)り飲(の)んで、274思(おも)ひ切(き)り食(く)つて踊(をど)るんだ。275今日(けふ)は三五教(あななひけう)からも二人(ふたり)も入会者(にふくわいしや)があつた。276ヤア七八(しちはち)人(にん)も連(つ)れて居(ゐ)やがるな。277牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)の隆盛(りうせい)、278旭日(きよくじつ)昇天(しようてん)の勢(いきほひ)だ。279今日(けふ)の祝意(しゆくい)を表(へう)するため、280特別(とくべつ)会員(くわいいん)に推薦(すいせん)してやる。281そんなに入口(いりぐち)に乞食(こじき)のやうに立(た)つて居(ゐ)ないで、282トツトと辷(すべ)り込(こ)めい』
283鶴公(つるこう)『貴様(きさま)は鷹公(たかこう)と鳶公(とびこう)ぢやないか。284黒姫(くろひめ)の留守役(るすやく)たる梅公(うめこう)は何(なに)をして居(を)るか。285此(この)方(はう)はフサの国(くに)の本山(ほんざん)より出張(しゆつちやう)致(いた)したる鶴(つる)、286亀(かめ)の両人(りやうにん)だ。287一刻(いつこく)も早(はや)く梅公(うめこう)の奴(やつ)に注進(ちうしん)致(いた)せ』
288 鷹(たか)と鳶(とび)とは此(こ)の声(こゑ)を聞(き)いて一度(いちど)に酔(ゑひ)を醒(さ)まし、289ぶるぶる慄(ふる)へながら、
290鷹公、鳶公『ヤア、291これはこれは鶴公(つるこう)に亀公(かめこう)、292鷹公(たかこう)に鳶公(とびこう)、293馬公(うまこう)に鹿公(しかこう)、294鶴公(つるこう)に亀公(かめこう)、295鷹公(たかこう)に鳶公(とびこう)、296馬公(うまこう)に鹿公(しかこう)』
297鶴公(つるこう)『何(なに)を云(い)つて居(を)るのだ。298狼狽(うろた)へやがつて、299早(はや)く注進(ちうしん)せぬかい』
300鷹公(たかこう)『オイ鳶公(とびこう)、301気(き)の利(き)かぬ奴(やつ)だ。302早(はや)く今(いま)の内(うち)に奥(おく)に行(い)つて皆(みな)に注進(ちうしん)して、303酒徳利(さけどつくり)や何(なに)かを隠(かく)すのだ。304それ迄(まで)俺(おれ)は何(なん)とか彼(か)とか云(い)うて閉塞隊(へいそくたい)の御用(ごよう)を務(つと)めて居(を)るから』
305亀公(かめこう)『オイ、306鷹公(たかこう)、307その狭(せま)い入口(いりぐち)に何(なに)をうごうごして居(ゐ)るのだ。308早(はや)く退(の)かぬかい、309這入(はい)れないぢやないか』
310鷹公(たかこう)『今(いま)這入(はい)られて何(ど)う耐(たま)らう。311出口(でぐち)入口(いりぐち)一寸(ちよつと)一(ひと)つ門(もん)、312徳利(とくり)の口(くち)で一口(ひとくち)ぢや、313土瓶(どびん)の口(くち)ぢや二口(ふたくち)ぢや、314口(くち)は幸福(かうふく)の門(もん)、315今日(けふ)の口(くち)はどうやら禍(わざはい)の門(もん)ぢや。316謹(つつし)んで漫(みだ)りに口(くち)を開(ひら)くぢやないぞ。317口(くち)は禍(わざはい)の基(もと)だぞよ。318口(くち)程(ほど)恐(こわ)いものはないぞよ。319今(いま)に天(あま)の岩戸(いはと)を開(ひら)いて見(み)せるぞよ』
320鶴公(つるこう)『コラ鷹公(たかこう)、321貴様(きさま)酒(さけ)に喰(くら)ひ酔(よ)つて居(を)るな、322大方(おほかた)誰(たれ)も彼(かれ)も残(のこ)らず酒(さけ)を喰(くら)ひ、323御(ご)馳走(ちそう)に飽(あ)いて居(を)るのぢやらう』
324鷹公(たかこう)『滅相(めつさう)な滅相(めつさう)な、325何(ど)うして何(ど)うして、326黒姫(くろひめ)様(さま)のお留守中(るすちう)は慎(つつし)んだ上(うへ)にも慎(つつし)まねばなりませぬ、327その故(ゆゑ)に牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)が創立(さうりつ)されました』
328鶴公(つるこう)『何(なに)、329牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)、330そりや何(なに)をする会(くわい)だ』
331鷹公(たかこう)『エイエイ、332それは彼(あ)の何(なん)です。333大江山(おほえやま)に八岐(やまた)の大蛇(をろち)が現(あらは)れまして大(おほ)きな牛(うし)を五六匹(ごろつぴき)も一遍(いつぺん)にぎうと飲(の)み、334馬(うま)も七八匹(しちはつぴき)一遍(いつぺん)に食(く)つたと云(い)ふ事(こと)です。335それで呑(のむ)のが商売(しやうばい)の八岐(やまた)の大蛇(をろち)の牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)をやつて居(を)る其(その)型(かた)を一寸(ちよつと)して見(み)たのですよ。336ちと位(くらゐ)酒(さけ)を飲(の)んで飯(めし)を食(く)つたつて矢張(やつぱり)一升袋(いつしようぶくろ)は一升(いつしよう)だ。337何(いづ)れ留守中(るすちう)の事(こと)だからチツと位(くらゐ)不都合(ふつがふ)があつても大目(おほめ)に見(み)なさるがよからう。338兎(と)に角(かく)憎(にく)まれるのは損(そん)だ。339八方(はつぱう)美人(びじん)主義(しゆぎ)が当世(たうせい)だから』
340 奥(おく)の方(はう)では鳶公(とびこう)の注進(ちうしん)によつて俄(にはか)の大騒(おほさわ)ぎ、341徳利(とくり)を持(も)つて雪隠(せつちん)に隠(かく)るる奴(やつ)、342丼鉢(どんぶりばち)を抱(かか)へて床下(ゆかした)に這(は)ひ込(こ)む奴(やつ)、343着物(きもの)を前(まへ)後(うしろ)に着(き)る奴(やつ)、344大騒(おほさわ)ぎをやつて居(を)る。345鶴(つる)、346亀(かめ)両人(りやうにん)は遂(つひ)に鷹公(たかこう)を蹴飛(けと)ばし、347六(ろく)人(にん)の従者(じゆうしや)と共(とも)にこの乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎの現場(げんぢやう)に現(あら)はれ来(き)たり、
348鶴公(つるこう)『ヤア御(おん)大将(たいしやう)梅公(うめこう)さま、349仲々(なかなか)の元気(げんき)ですなア。350流石(さすが)は黒姫(くろひめ)様(さま)が留守(るす)師団長(しだんちやう)に選抜(せんばつ)せられるだけあつて好(よ)く隅(すみ)から隅(すみ)迄(まで)行(ゆ)き届(とど)いて居(ゐ)ます。351余程(よほど)貴方(あなた)の御(ご)政治(せいぢ)が良(よ)いと見(み)えて四辺(あたり)の草木(くさき)は申(まを)すに及(およ)ばず、352室内(しつない)の徳利(とくり)や土瓶(どびん)、353膳(ぜん)、354椀(わん)、355箸(はし)にいたる迄(まで)貴方(あなた)の余徳(よとく)で交歓(かうくわん)抃舞(べんぶ)雀躍(じやくやく)手(て)の舞(ま)ひ足(あし)の踏(ふ)む所(ところ)を知(し)らずと云(い)ふ有様(ありさま)ですな』
356梅公(うめこう)『イヤもう、357さう云(い)はれましては答弁(たふべん)の辞(じ)が御座(ござ)いませぬ。358何分(なにぶん)有力(いうりよく)な黒姫(くろひめ)様(さま)がお留守(るす)になつたものですから、359吾々(われわれ)は粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)大車輪(だいしやりん)の活動(くわつどう)を致(いた)さねばならぬと思(おも)うて、360部下(ぶか)の者共(ものども)に奨励(しやうれい)を致(いた)して居(ゐ)ます。361其(その)感化力(かんくわりよく)に依(よ)りまして、362土瓶(どびん)から徳利(とくり)の端(はし)に至(いた)る迄(まで)活溌(くわつぱつ)に働(はたら)いて見(み)せて呉(く)れます哩(わい)。363アハヽヽヽ』
364亀公(かめこう)『コレコレ梅公(うめこう)、365それは何(なん)と云(い)ふ不真面目(ふまじめ)な云(い)ひ分(ぶん)だ。366一体(いつたい)此(この)態(ざま)は何(なん)だ、367落花(らくくわ)狼藉(らうぜき)名状(めいじやう)すべからざる為体(ていたらく)ぢやないか』
368 鳶(とび)、369グダグダに酔(よ)ひながら、
370鳶公『お前(まへ)は亀(かめ)ぢやな、371亀(かめ)は酒(さけ)の好(す)きなものだ。372そんな四角張(しかくば)つた面構(つらがま)へをせずにちつと命(いのち)の水(みづ)を飲(の)んだら何(ど)うだい。373酒(さけ)は百薬(ひやくやく)の長(ちやう)だ、374酒(さけ)位(くらゐ)元気(げんき)な、375曲芸(きよくげい)をする奴(やつ)はないぞ』
376 亀(かめ)、377儼然(げんぜん)として、
378亀公『吾(われ)こそは、379フサの国(くに)北山村(きたやまむら)の本山(ほんざん)より、380高姫(たかひめ)の使者(ししや)として罷(まか)り越(こ)したるものである。381これより汝(なんぢ)等(ら)一同(いちどう)の者(もの)はフサの国(くに)へ連(つ)れ帰(かへ)るから其(その)用意(ようい)を致(いた)されよ。382ヤア梅公(うめこう)、383其(その)方(はう)は特別(とくべつ)をもつて亀公(かめこう)の御(お)伴(とも)申付(まをしつ)ける』
384梅公(うめこう)『斯(か)くある事(こと)とかねて承知(しようち)を致(いた)して居(を)りました。385それ故(ゆゑ)先見(せんけん)の明(めい)ある吾々(われわれ)、386敵(てき)に糧(かて)を渡(わた)すも約(つま)らぬと存(ぞん)じ、387皆(みな)の奴(やつ)等(ら)に昼夜(ちうや)間断(かんだん)なく勉強(べんきやう)して牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)をさせ置(お)いて御座(ござ)る。388斯(か)くの如(ごと)く体内(たいない)に滲(し)み込(こ)ませて置(お)けば、389今後(こんご)一(いち)年(ねん)や二(に)年(ねん)、390半粒(はんつぶ)の米(こめ)も一滴(いつてき)の水(みづ)も飲(の)ます必要(ひつえう)は御座(ござ)らぬ。391アハヽヽヽ』
392鷹公(たかこう)『オイ鳶公(とびこう)、393辰(たつ)、394寅(とら)、395皆(みな)の奴(やつ)、396梅(うめ)の大将(たいしやう)甚(ひど)い事(こと)を吐(ぬか)すぢやないか。397俺(おれ)達(たち)を蛇(へび)か蛙(かはづ)のやうに思(おも)ひやがつて夏中(なつぢう)餌食(ゑば)みさせて、398二(に)年(ねん)三(さん)年(ねん)はもう喰(く)はいでもよいなぞと云(い)うて居(ゐ)やがるぜ。399こんな処(ところ)にいつ迄(まで)も居(を)つたら蛙(かへる)の干乾(ひぼし)になつて仕舞(しま)ふぞ。400今(いま)の内(うち)に逃(に)げ出(だ)さうかな』
401梅公(うめこう)『オイ丑公(うしこう)、402皆(みな)の奴(やつ)が逃(に)げ出(だ)さぬやう一方口(いつぱうぐち)に立塞(たちふさ)がり、403槍(やり)をもつて立番(たちばん)を致(いた)せ。404無理(むり)に逃走(たうそう)を企(くはだ)てた奴(やつ)があれば容赦(ようしや)なし芋刺(いもざ)しにするのだぞ』
405丑公(うしこう)『畏(かしこ)まりました』
406と長押(なげし)の槍(やり)を取(と)るより早(はや)く、407一方口(いつぱうぐち)に立(た)ち塞(ふさ)がり、408儼然(げんぜん)として警戒(けいかい)の任(にん)に当(あた)つて居(ゐ)る。409梅公(うめこう)は馬(うま)、410鹿(しか)の両人(りやうにん)が此(この)場(ば)に混(まじ)り居(を)るに初(はじ)めて気(き)がついたものか、411目(め)を丸(まる)くして頓狂(とんきやう)な声(こゑ)で、
412梅公(うめこう)『ヤア、413お前(まへ)は三五教(あななひけう)の馬(うま)、414鹿(しか)と云(い)ふ男(をとこ)ぢやないか』
415馬公(うまこう)『ヘイ、416さうでげす。417最前(さいぜん)貴方(あなた)様(さま)の前(まへ)に於(おい)て特別(とくべつ)会員(くわいいん)に推薦(すいせん)されました馬(うま)、418鹿(しか)の両人(りやうにん)、419吾々(われわれ)も特別(とくべつ)会員(くわいいん)に列(れつ)せられたチヤキチヤキです。420もしもしフサの国(くに)からお越(こ)しになつた鶴公(つるこう)さま、421亀公(かめこう)さま、422よい所(ところ)でお目(め)に懸(かか)りました。423実(じつ)の処(ところ)、424特別(とくべつ)火急(くわきふ)のお願(ねが)ひがあつて黒姫(くろひめ)さまにお目(め)に懸(か)からうと出(で)て参(まゐ)りました処(ところ)、425生憎(あいにく)御(ご)不在(ふざい)の上(うへ)、426梅公(うめこう)の会長(くわいちやう)の下(もと)に盛(さかん)な牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)が開会(かいくわい)されて居(ゐ)ましたので、427吾々(われわれ)も鷹公(たかこう)、428鳶公(とびこう)の推薦(すいせん)によつて特別(とくべつ)会員(くわいいん)たるの光栄(くわうえい)を得(え)ました。429併(しか)し乍(なが)ら鶴公(つるこう)さま、430貴方(あなた)は黒姫(くろひめ)さまに一(ひと)つ吾々(われわれ)の願(ねがひ)を取次(とりつい)で下(くだ)さいますまいかな』
431鶴公(つるこう)『是(これ)は又(また)妙(めう)な事(こと)を聞(き)きます。432一体(いつたい)取次(とりつ)げと云(い)ふ要件(えうけん)は何(ど)んな事(こと)で御座(ござ)いますか』
433鹿公(しかこう)『実(じつ)は紫姫(むらさきひめ)、434青彦(あをひこ)が改心(かいしん)を致(いた)しまして、435折角(せつかく)手(て)に入(い)れた玉照姫(たまてるひめ)様(さま)母子(おやこ)を黒姫(くろひめ)様(さま)に献(けん)じ度(た)いと申(まを)し出(で)たので御座(ござ)います』
436 鶴公(つるこう)暫(しば)し首(くび)を傾(かたむ)け稍(やや)思案(しあん)に暮(く)れ居(ゐ)たりしが、437亀公(かめこう)は不思議(ふしぎ)さうに、
438亀公『又(また)そんな事(こと)を云(い)つてウラナイ教(けう)を打(ぶ)ち返(かへ)しに来(く)るのだらう。439そんな下手(へた)な計略(けいりやく)はよしたがよからうぜ』
440鹿公(しかこう)『是非(ぜひ)とも宜敷(よろし)うお願(ねが)ひ申(まを)します』
441 鶴公(つるこう)は手(て)を打(う)つて、
442鶴公『嗚呼(ああ)流石(さすが)は神(かみ)様(さま)だ、443斯(こ)うなくては叶(かな)はぬ道理(だうり)だ、444イヤ承知(しようち)致(いた)しました。445直様(すぐさま)お伝(つた)へ致(いた)しませう。446馬公(うまこう)、447鹿公(しかこう)、448貴方(あなた)は一(いち)時(じ)も早(はや)く帰(かへ)つて皆(みな)さまに報告(はうこく)して下(くだ)さい。449私(わたくし)は一寸(ちよつと)飛行船(ひかうせん)を飛(と)ばしてフサの本山(ほんざん)に立帰(たちかへ)り、450高姫(たかひめ)、451黒姫(くろひめ)様(さま)の御(お)両人(ふたり)様(さま)の御(ご)意見(いけん)を承(うけたま)はつて参(まゐ)りませう』
452馬公(うまこう)『是非(ぜひ)共(とも)宜敷(よろし)くお頼(たの)み申(まを)します』
453鹿公(しかこう)『私(わたくし)も同(おな)じく是非(ぜひ)共(とも)宜敷(よろし)う』
454と、455いそいそとして門番(もんばん)の丑公(うしこう)に事情(じじやう)を明(あ)かし、456元伊勢(もといせ)指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
457(大正一一・五・七 旧四・一一 加藤明子録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→