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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第19巻(午の巻)
序
凡例
総説三十三魂
第1篇 神慮洪遠
第1章 高熊山
第2章 鶍の嘴
第3章 千騎一騎
第4章 善か悪か
第2篇 意外の意外
第5章 零敗の苦
第6章 和合と謝罪
第7章 牛飲馬食
第8章 大悟徹底
第3篇 至誠通神
第9章 身魂の浄化
第10章 馬鹿正直
第11章 変態動物
第12章 言照姫
第4篇 地異天変
第13章 混線
第14章 声の在所
第15章 山神の滝
第16章 玉照彦
第17章 言霊車
霊の礎(五)
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
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第19巻(午の巻)
> 第4篇 地異天変 > 第14章 声の在所
<<< 混線
(B)
(N)
山神の滝 >>>
第一四章
声
(
こゑ
)
の
在所
(
ありか
)
〔六五九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻
篇:
第4篇 地異天変
よみ(新仮名遣い):
ちいてんぺん
章:
第14章 声の在所
よみ(新仮名遣い):
こえのありか
通し章番号:
659
口述日:
1922(大正11)年05月09日(旧04月13日)
口述場所:
筆録者:
藤津久子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
どこからともなく、赤子の声が聞こえてくる。幼児の鳴き声は、各人それぞれ違った方角から聞こえてきて、ばらばらの方角に探しに出たが、見つからない。
気がつくと、四人は天狗岩の根元に寝ていた。四人は山を駆け下りるが、その途中で玉照彦を抱いて上がってくる言照姫に出くわした。テルヂーと谷丸は、それぞれ自分たちの陣営に玉照彦を賜るように、と言照姫に懇願した。
言照姫は、互いに玉照彦の手を引っ張り合い、勝った方に玉照彦をやろう、と提案する。二人は玉照彦の手を引いて両側から引っ張り合うが、玉照彦が悲鳴をあげると、テルヂーは驚いて手を放してしまった。
谷丸は勝利を宣言するが、玉照彦本人が口を利いて、自分が痛がっているのに手を引き続けたバラモン教に行くのはいやだ、と言い出した。谷丸は言照姫に審判を仰ごうとするが、言照姫の姿は消えてしまっていた。
玉照彦は、こうなった以上は自分はどちらへ行くこともやめましょう、その代わり三五教の松姫という者が迎えに来るから、そちらに行くことにした、と語った。
そこへ松姫がやってきて、玉照彦に背を差し出し、背負って帰ろうとした。ウラル教とバラモン教の四人は目配せをすると、松姫に襲い掛かって打ちすえ、玉照彦を奪って逃げてしまった。
松姫はその場に気絶していたが、息を吹き返すと、そこには二柱の女神が立っていた。女神たちは、松姫に高熊山に行って玉照彦を奉迎するように、と言う。松姫が、玉照彦はウラル教とバラモン教に奪われてしまった、と言うと、女神たちは、彼らは貪欲に駆られて、石を玉照彦だと思い込んで運んでいったのだ、と明かした。
松姫はすっかり暮れた夜道を高熊山に向かって進んで行き、来勿止の関所までやってきた。松姫は通してくれるように頼むが、門番の勝公と竹公は門を開けない。そこへ来勿止神がやってきた。
松姫は平伏すると、来勿止神は、女神の報せによって、松姫が来るのを待っていたのだ、と伝えた。勝公は門を開いて松姫を通した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-04-12 17:00:26
OBC :
rm1914
愛善世界社版:
238頁
八幡書店版:
第4輯 118頁
修補版:
校定版:
242頁
普及版:
111頁
初版:
ページ備考:
001
谷丸
(
たにまる
)
、
002
鬼丸
(
おにまる
)
、
003
テルヂー、
004
コロンボの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
堺峠
(
さかひたうげ
)
の
天狗岩
(
てんぐいは
)
を
後
(
あと
)
にし
乍
(
なが
)
ら、
005
山麓
(
さんろく
)
の
老松
(
らうしよう
)
の
根元
(
ねもと
)
を
越
(
こ
)
え、
006
玉照彦
(
たまてるひこ
)
の
幼児
(
えうじ
)
の
隠
(
かく
)
し
場所
(
ばしよ
)
に
走
(
はし
)
り
着
(
つ
)
いた。
007
谷丸
(
たにまる
)
は、
008
目
(
め
)
を
丸
(
まる
)
くして、
009
此処
(
ここ
)
彼処
(
かしこ
)
と
探
(
さが
)
し
廻
(
まは
)
し、
010
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
吾一
(
われいち
)
の
功名
(
こうみやう
)
せむと、
011
血眼
(
ちまなこ
)
になつて、
012
谷丸
(
たにまる
)
の
行
(
ゆ
)
く
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
013
捜索
(
そうさく
)
を
始
(
はじ
)
めた。
014
忽
(
たちま
)
ち
聞
(
きこ
)
ゆる
赤児
(
あかご
)
の
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
、
015
谷丸
(
たにまる
)
は
立止
(
たちど
)
まり、
016
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
み、
017
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
の
何
(
いづ
)
れより
来
(
きた
)
るかを
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
018
谷丸
(
たにまる
)
『
慥
(
たしか
)
に
此処
(
ここ
)
に、
019
お
寝
(
ね
)
かせ
申
(
まを
)
して
置
(
お
)
いた
筈
(
はず
)
だ、
020
それに
形跡
(
けいせき
)
だに
残
(
のこ
)
つてゐないのみならず、
021
御
(
お
)
声
(
こゑ
)
は
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
るがトント
方角
(
はうがく
)
が
分
(
わか
)
らない。
022
東
(
ひがし
)
に
聞
(
きこ
)
える
様
(
やう
)
でもあるし、
023
西
(
にし
)
の
様
(
やう
)
でもあるし、
024
西
(
にし
)
かと
思
(
おも
)
へば
南
(
みなみ
)
に
聞
(
きこ
)
えるし、
025
南
(
みなみ
)
かと
思
(
おも
)
へば、
026
北
(
きた
)
に
聞
(
きこ
)
える
様
(
やう
)
だし、
027
ハテナ、
028
こいつは、
029
狐
(
きつね
)
の
奴
(
やつ
)
、
030
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
を
啣
(
くは
)
へて、
031
其処中
(
そこらぢう
)
を
迂路
(
うろ
)
ついて
居
(
ゐ
)
やがるのだな、
032
オイ
俺
(
おれ
)
は
東
(
ひがし
)
を
探
(
さが
)
すから、
033
鬼丸
(
おにまる
)
、
034
貴様
(
きさま
)
は
西
(
にし
)
の
方
(
はう
)
を
探
(
さが
)
して
呉
(
く
)
れ。
035
そして、
036
テルヂー、
037
コロンボ
二人
(
ふたり
)
は、
038
南
(
みなみ
)
、
039
北
(
きた
)
に
手分
(
てわ
)
けして
捜索
(
そうさく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
040
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
誰
(
たれ
)
が
見付
(
みつ
)
けても
共有
(
きよういう
)
だから
其
(
その
)
お
積
(
つ
)
もりで
願
(
ねが
)
ひますよ』
041
テルヂー『
其
(
その
)
約束
(
やくそく
)
は
間違
(
まちが
)
ひありませぬなア。
042
イヤ
面白
(
おもしろ
)
い。
043
さあコロンボ、
044
貴様
(
きさま
)
は
南
(
みなみ
)
に
行
(
ゆ
)
け、
045
俺
(
おれ
)
は
北
(
きた
)
の
方
(
はう
)
を
探
(
さが
)
して
見
(
み
)
る』
046
不思議
(
ふしぎ
)
にも、
047
幼児
(
えうじ
)
の
泣声
(
なきごゑ
)
は、
048
谷丸
(
たにまる
)
の
耳
(
みみ
)
には
東
(
ひがし
)
に
最
(
もつと
)
も
高
(
たか
)
く
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
049
鬼丸
(
おにまる
)
には
西
(
にし
)
の
方
(
はう
)
に
聞
(
きこ
)
える。
050
コロンボの
耳
(
みみ
)
には
南
(
みなみ
)
に
聞
(
きこ
)
える。
051
テルヂーの
耳
(
みみ
)
には
慥
(
たしか
)
に
北
(
きた
)
の
方
(
はう
)
から
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
052
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぼく
)
に、
053
慌
(
あはただ
)
しく、
054
声
(
こゑ
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
055
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
耳
(
みみ
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
猛烈
(
まうれつ
)
な
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
、
056
各自
(
かくじ
)
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
より
響
(
ひび
)
いて
来
(
く
)
る。
057
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
に、
058
耳
(
みみ
)
を
引張
(
ひつぱ
)
られる
様
(
やう
)
に、
059
体
(
からだ
)
をキリキリ
舞
(
ま
)
ひさせ、
060
目
(
め
)
を
廻
(
まは
)
して
四
(
よ
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
、
061
バタリと
倒
(
たふ
)
れた。
062
一時
(
いつとき
)
許
(
ばか
)
り
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
呼
(
よ
)
ぶ
声
(
こゑ
)
も、
063
風
(
かぜ
)
の
音
(
おと
)
も
鎮
(
しづ
)
まり
閑寂
(
かんじやく
)
の
幕
(
まく
)
が
下
(
お
)
ろされた。
064
夜
(
よ
)
はそろそろと
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れ、
065
東
(
ひがし
)
の
空
(
そら
)
の
雲
(
くも
)
押
(
お
)
し
分
(
わ
)
けて
昇
(
のぼ
)
り
給
(
たま
)
ふ
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
の
御影
(
みかげ
)
に
照
(
てら
)
され、
066
各
(
おのおの
)
一度
(
いちど
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さま
)
せば、
067
豈
(
あに
)
計
(
はか
)
らむや、
068
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
天狗岩
(
てんぐいは
)
の
根元
(
ねもと
)
にヅブ
濡
(
ぬ
)
れになつて
眠
(
ねむ
)
りゐたりき。
069
谷丸
(
たにまる
)
『アヽ
何
(
なん
)
だ、
070
夢
(
ゆめ
)
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たのか、
071
矢張
(
やつぱり
)
天狗岩
(
てんぐいは
)
の
傍
(
そば
)
だから
鼻高
(
はなだか
)
の
奴
(
やつ
)
、
072
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
を
一寸
(
ちよつと
)
チヨロマカしやがつたのだな。
073
それにしても、
074
肝腎
(
かんじん
)
の、
075
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
は
何処
(
どこ
)
にお
出
(
い
)
でになつたのだらう。
076
アヽ
此処
(
ここ
)
に
御座
(
ござ
)
つた、
077
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
078
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
どうぞ
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
079
貴方
(
あなた
)
お
一人
(
ひとり
)
をこんな
岩
(
いは
)
の
上
(
うへ
)
に、
080
御
(
お
)
寝
(
ね
)
かし
申
(
まを
)
し、
081
吾々
(
われわれ
)
は
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らず
寝込
(
ねこ
)
んで
了
(
しま
)
ひました』
082
と
云
(
い
)
ひつつ
傍
(
そば
)
に
寄
(
よ
)
り、
083
抱
(
だ
)
き
上
(
あ
)
げむとしたるに、
084
玉照彦
(
たまてるひこ
)
の
全身
(
ぜんしん
)
は
冷切
(
ひえき
)
つて
氷
(
こほり
)
の
如
(
ごと
)
くに
冷
(
つめ
)
たくなつて
居
(
を
)
る。
085
谷丸
(
たにまる
)
『オイ
鬼丸
(
おにまる
)
、
086
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
は
冷
(
つめ
)
たくなつて
居
(
ゐ
)
らつしやる、
087
こりやマア
何
(
ど
)
うしたら
宜
(
よ
)
からうかなア』
088
鬼丸
(
おにまる
)
『そりや
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
に
見
(
み
)
た
通
(
とほ
)
り
石
(
いし
)
ぢやありませぬか』
089
谷丸
(
たにまる
)
『ヤア
如何
(
いか
)
にも、
090
此奴
(
こいつ
)
は
夢
(
ゆめ
)
の
通
(
とほ
)
り
矢張
(
やつぱり
)
石
(
いし
)
だつた』
091
テルヂー、
092
コロンボ
一度
(
いちど
)
に、
093
テ、
094
コ『アハヽヽヽ、
095
誠
(
まこと
)
に
誠
(
まこと
)
に、
096
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
の
仕様
(
しやう
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ、
097
もう
斯
(
こ
)
うなつた
以上
(
いじやう
)
は
何程
(
なにほど
)
泣
(
な
)
いても
悔
(
くや
)
んでも
石
(
いし
)
が
物
(
もの
)
云
(
い
)
ふ
例
(
ためし
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬ、
098
どうぞ
鄭重
(
ていちよう
)
に
弔
(
とむら
)
うて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さい。
099
さあコロンボ、
100
夢
(
ゆめ
)
の
処
(
ところ
)
へ
行
(
ゆ
)
くのだ』
101
と
駆出
(
かけだ
)
す。
102
谷丸
(
たにまる
)
、
103
鬼丸
(
おにまる
)
も
続
(
つづ
)
いて
駆出
(
かけだ
)
したり。
104
坂
(
さか
)
の
中程
(
なかほど
)
迄
(
まで
)
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
しも、
105
水
(
みづ
)
の
滴
(
したた
)
る
如
(
ごと
)
き
一人
(
ひとり
)
の
美人
(
びじん
)
、
106
玉照彦
(
たまてるひこ
)
を
抱
(
だ
)
いて
上
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
るに
出会
(
であ
)
つた。
107
テルヂー『モシモシ、
108
貴方
(
あなた
)
は
言照姫
(
ことてるひめ
)
様
(
さま
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
109
美人
(
びじん
)
『ハイ
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
110
今
(
いま
)
玉照彦
(
たまてるひこ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
保護
(
ほご
)
して
此処迄
(
ここまで
)
参
(
まゐ
)
りました』
111
テルヂー『
変
(
へん
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
しますが、
112
何卒
(
どうぞ
)
ウラル
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
として
大切
(
たいせつ
)
に
致
(
いた
)
しますから、
113
吾々
(
われわれ
)
に
下
(
くだ
)
さいますまいか』
114
言照姫
(
ことてるひめ
)
『ハイ
何誰
(
どなた
)
かに
貰
(
もら
)
つて
貰
(
もら
)
はねばならないのですから、
115
お
望
(
のぞ
)
みとあれば、
116
何
(
ど
)
うとも
致
(
いた
)
しませう』
117
斯
(
か
)
かる
処
(
ところ
)
へ、
118
谷丸
(
たにまる
)
、
119
鬼丸
(
おにまる
)
は
追
(
おつ
)
かけ
来
(
きた
)
り、
120
谷
(
たに
)
、
121
鬼
(
おに
)
『ヤア
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか、
122
大変
(
たいへん
)
にお
慕
(
した
)
ひ
申
(
まを
)
し
探
(
さが
)
して
居
(
を
)
りました。
123
サアサア
何卒
(
どうぞ
)
谷丸
(
たにまる
)
へお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
124
私
(
わたくし
)
が
抱
(
だ
)
いて
上
(
あ
)
げませう』
125
言照姫
(
ことてるひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は、
126
谷丸
(
たにまる
)
さまぢやないか。
127
私
(
わたくし
)
の
不在中
(
ふざいちゆう
)
に、
128
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
から
盗
(
ぬす
)
み
出
(
だ
)
し、
129
大切
(
たいせつ
)
にする
事
(
こと
)
か、
130
あのやうな
茨室
(
いばらむろ
)
へ
蓑
(
みの
)
を
敷
(
し
)
いて、
131
捨子
(
すてご
)
同様
(
どうやう
)
にして
置
(
お
)
きなさつたぢやないか。
132
どうして
貴方
(
あなた
)
に、
133
此
(
この
)
尊
(
たふと
)
い
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
を
安心
(
あんしん
)
してお
預
(
あづ
)
け
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうか』
134
谷丸
(
たにまる
)
『イヤ
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬ。
135
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても、
136
ウラル
教
(
けう
)
のテルヂーが
狙
(
ねら
)
つて
居
(
を
)
るのですから、
137
取
(
と
)
られちや
大変
(
たいへん
)
と、
138
茨
(
いばら
)
の
中
(
なか
)
とは
知
(
し
)
らず、
139
朧月夜
(
おぼろづきよ
)
の
事
(
こと
)
とて
間違
(
まちが
)
ひ、
140
お
寝
(
ね
)
かせ
申
(
まを
)
したのです。
141
どうぞ
私
(
わたくし
)
に
下
(
くだ
)
さいませ』
142
言照姫
(
ことてるひめ
)
『
斯
(
か
)
う
両方
(
りやうはう
)
から
懇望
(
こんもう
)
されては、
143
一方
(
いつぱう
)
を
立
(
た
)
てれば
一方
(
いつぱう
)
に
済
(
す
)
まず、
144
処置
(
しよち
)
に
困
(
こま
)
ります。
145
そんなら
斯
(
か
)
う
致
(
いた
)
しませう。
146
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
は
御
(
お
)
生
(
うま
)
れ
遊
(
あそ
)
ばしてからまだ
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
にもなりませぬが、
147
ちよいちよい
物
(
もの
)
も
仰有
(
おつしや
)
る、
148
立歩
(
たちあゆ
)
みもなさいますから、
149
ウラル
教
(
けう
)
のテルヂーとバラモン
教
(
けう
)
の
谷丸
(
たにまる
)
とお
二人
(
ふたり
)
で
両方
(
りやうはう
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
つて、
150
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
を
引張合
(
ひつぱりあ
)
ひして
下
(
くだ
)
さい。
151
引張
(
ひつぱ
)
つて
勝
(
か
)
つ
方
(
はう
)
に
上
(
あ
)
げませう』
152
四
(
よ
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に、
153
四人
『さう
願
(
ねが
)
へば
公平
(
こうへい
)
で
結構
(
けつこう
)
です』
154
言照姫
(
ことてるひめ
)
は
玉照彦
(
たまてるひこ
)
を
坂道
(
さかみち
)
の
真中
(
まんなか
)
に
下
(
お
)
ろした。
155
玉照彦
(
たまてるひこ
)
は
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
を
両方
(
りやうはう
)
に
差
(
さ
)
し
延
(
の
)
ばし、
156
玉照彦
(
たまてるひこ
)
『サア
坊
(
ぼん
)
の
手
(
て
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
157
勝
(
か
)
つたお
方
(
かた
)
の
方
(
はう
)
へ
参
(
まゐ
)
ります。
158
然
(
しか
)
しソツと
引
(
ひ
)
いて
下
(
くだ
)
さいや』
159
谷丸、テルヂー
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
160
と
谷丸
(
たにまる
)
、
161
テルヂーの
二人
(
ふたり
)
は、
162
左右
(
さいう
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
163
腰
(
こし
)
を
跼
(
かが
)
めて、
164
背
(
せ
)
の
低
(
ひく
)
い
玉照彦
(
たまてるひこ
)
の
手
(
て
)
をグツト
握
(
にぎ
)
り
力
(
ちから
)
を
極
(
きは
)
めて、
165
谷丸、テルヂー
『サア
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
、
166
私
(
わたくし
)
の
方
(
はう
)
へ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
167
と、
168
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
、
169
腕
(
うで
)
が
抜
(
ぬ
)
ける
程
(
ほど
)
引張
(
ひつぱ
)
る。
170
玉照彦
(
たまてるひこ
)
『アヽ
痛
(
いた
)
い
痛
(
いた
)
い、
171
痛
(
いた
)
いわいなア』
172
と
顔
(
かほ
)
を
顰
(
しか
)
め
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
す。
173
テルヂーは
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いて、
174
思
(
おも
)
はず
手
(
て
)
を
離
(
はな
)
した。
175
谷丸
(
たにまる
)
『サア
愈
(
いよいよ
)
こちらの
物
(
もの
)
ぢや。
176
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
、
177
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら、
178
今日
(
けふ
)
から、
179
バラモン
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
になつて
下
(
くだ
)
さい』
180
玉照彦
(
たまてるひこ
)
、
181
首
(
かぶり
)
を
振
(
ふ
)
り、
182
玉照彦
(
たまてるひこ
)
『イヤイヤ テルヂーの
方
(
はう
)
に
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になります』
183
谷丸
(
たにまる
)
『そりやあ
約束
(
やくそく
)
が
違
(
ちが
)
ふぢやありませぬか』
184
玉照彦
(
たまてるひこ
)
『
貴方
(
あなた
)
は、
185
私
(
わたくし
)
が
悲鳴
(
ひめい
)
を
上
(
あ
)
げて
痛
(
いた
)
がつて
居
(
を
)
るのに、
186
構
(
かま
)
はずに
引張
(
ひつぱ
)
つたぢやありませぬか、
187
あの
時
(
とき
)
にテルヂーが
放
(
はな
)
して
下
(
くだ
)
さらなかつたら、
188
私
(
わたし
)
の
体
(
からだ
)
は
二
(
ふた
)
つに
千切
(
ちぎ
)
れて
居
(
を
)
るのです。
189
愛情
(
あいじやう
)
の
深
(
ふか
)
いテルヂーに
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になります』
190
谷丸
(
たにまる
)
『
小難
(
こむつ
)
かしい
事
(
こと
)
を
仰
(
おつ
)
しやいますなア、
191
チト
位
(
くらゐ
)
辛抱
(
しんばう
)
して
下
(
くだ
)
さつても
宜
(
よ
)
いぢやありませぬか。
192
モシモシ
言照姫
(
ことてるひめ
)
様
(
さま
)
、
193
どうぞ
生
(
う
)
みの
御
(
お
)
母
(
かあ
)
様
(
さま
)
の
貴方
(
あなた
)
からよく
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
194
と
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
き
見
(
み
)
れば、
195
こは
如何
(
いか
)
に、
196
言照姫
(
ことてるひめ
)
の
姿
(
すがた
)
は
最早
(
もはや
)
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
もない。
197
玉照彦
(
たまてるひこ
)
『
私
(
わたし
)
は
最
(
も
)
う
斯
(
こ
)
うなる
以上
(
いじやう
)
は、
198
どちらへも
参
(
まゐ
)
る
事
(
こと
)
は
止
(
や
)
めませう。
199
今
(
いま
)
ウラナイ
教
(
けう
)
の
松姫
(
まつひめ
)
さまが、
200
お
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さるから、
201
そちらへ
行
(
ゆ
)
きます』
202
此
(
この
)
時
(
とき
)
トボトボと
坂
(
さか
)
を
登
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
る
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
がありしが、
203
玉照彦
(
たまてるひこ
)
は
嬉
(
うれ
)
しさうに、
204
玉照彦
『ヤア、
205
其方
(
そなた
)
は
松姫
(
まつひめ
)
か、
206
よう
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れた。
207
サアサア
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つておくれ』
208
松姫
(
まつひめ
)
『これはこれは
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
、
209
焦
(
こが
)
れ
慕
(
した
)
うて
参
(
まゐ
)
りました。
210
サア
私
(
わたくし
)
が
御
(
おん
)
負
(
ぶ
)
して
進
(
しん
)
ぜませう』
211
と
背中
(
せなか
)
を
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
す。
212
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
目
(
め
)
と
目
(
め
)
を
見合
(
みあは
)
せ
乍
(
なが
)
ら、
213
松姫
(
まつひめ
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
より
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
き、
214
鉄拳
(
てつけん
)
を
以
(
もつ
)
て
擲
(
たた
)
きつけ、
215
悲鳴
(
ひめい
)
を
上
(
あ
)
げて
倒
(
たふ
)
れるのを
見済
(
みす
)
まし、
216
玉照彦
(
たまてるひこ
)
を
引攫
(
ひつさら
)
へ、
217
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
林
(
はやし
)
の
茂
(
しげ
)
みに
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したり。
218
松姫
(
まつひめ
)
は
暴漢
(
ばうかん
)
に
乱打
(
らんだ
)
され
忽
(
たちま
)
ち
気絶
(
きぜつ
)
して
坂道
(
さかみち
)
に
倒
(
たふ
)
れ
居
(
ゐ
)
たりしが、
219
其
(
その
)
日
(
ひ
)
の
夕暮
(
ゆふぐれ
)
頃
(
ごろ
)
フト
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
き
返
(
かへ
)
し、
220
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
221
麗
(
うるは
)
しき
二柱
(
ふたはしら
)
の
女神
(
めがみ
)
、
222
儼然
(
げんぜん
)
として
其
(
その
)
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
ち
給
(
たま
)
ふ。
223
女神
(
めがみ
)
一『
汝
(
そなた
)
は
高城山
(
たかしろやま
)
の
松姫
(
まつひめ
)
であらう。
224
サア、
225
妾
(
わらは
)
に
従
(
したが
)
つて
是
(
これ
)
より、
226
高熊山
(
たかくまやま
)
の
岩窟
(
いはや
)
に
参
(
まゐ
)
りませう』
227
松姫
(
まつひめ
)
『
何
(
いづ
)
れの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
か
存
(
ぞん
)
じませぬが、
228
ようマア
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました。
229
私
(
わたくし
)
は
悪者
(
わるもの
)
に
虐
(
しひた
)
げられ
気絶
(
きぜつ
)
をして、
230
遠
(
とほ
)
い
遠
(
とほ
)
い
彼
(
あ
)
の
世
(
よ
)
の
旅行
(
りよかう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
ました。
231
処
(
ところ
)
が
二人
(
ふたり
)
の
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
が
現
(
あら
)
はれて、
232
コレ
松姫
(
まつひめ
)
、
233
此処
(
ここ
)
は
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
る、
234
幽界
(
いうかい
)
の
入口
(
いりぐち
)
であるぞや。
235
汝
(
なんぢ
)
はまだまだ
幽界
(
いうかい
)
に
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
時
(
とき
)
でない、
236
サアサア
妾
(
わらは
)
が
送
(
おく
)
つてやるから、
237
と
仰有
(
おつしや
)
つたと
思
(
おも
)
へば
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
きました。
238
見
(
み
)
れば
幽界
(
いうかい
)
で
見
(
み
)
た
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
と、
239
寸分
(
すんぶん
)
も
間違
(
まちが
)
ひのない
御
(
お
)
二方
(
ふたかた
)
様
(
さま
)
、
240
お
蔭
(
かげ
)
で
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
戴
(
いただ
)
きました』
241
と
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
にくれて
居
(
ゐ
)
る。
242
女神
(
めがみ
)
二『サア
松姫
(
まつひめ
)
どの、
243
高熊山
(
たかくまやま
)
の
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
をお
迎
(
むか
)
へに
行
(
ゆ
)
きませう』
244
松姫
(
まつひめ
)
『あの
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
はたつた
今
(
いま
)
、
245
悪者
(
わるもの
)
に
攫
(
さら
)
はれて
行
(
ゆ
)
かれました。
246
最早
(
もはや
)
、
247
高熊山
(
たかくまやま
)
には
居
(
ゐ
)
らつしやいますまい』
248
女神
(
めがみ
)
一『オホヽヽヽ、
249
今朝
(
けさ
)
ウラル
教
(
けう
)
とバラモン
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
来
(
き
)
たでせう。
250
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
は
貪欲心
(
どんよくしん
)
に
絡
(
から
)
まれ、
251
眼
(
まなこ
)
暗
(
くら
)
み、
252
石
(
いし
)
くれを
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
と
思
(
おも
)
ひ
違
(
ちが
)
へ、
253
喜
(
よろこ
)
んで
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
つたのです。
254
サアこれから、
255
貴女
(
あなた
)
は
気
(
き
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し、
256
単身
(
たんしん
)
岩窟
(
がんくつ
)
に
進
(
すす
)
み、
257
言照姫
(
ことてるひめ
)
にお
逢
(
あ
)
ひなされて、
258
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
をお
連
(
つ
)
れ
申
(
まを
)
してお
帰
(
かへ
)
りなさい。
259
妾
(
わらは
)
は
来勿止
(
くなどめ
)
迄
(
まで
)
送
(
おく
)
つて
上
(
あ
)
げませう。
260
それから
奥
(
おく
)
は
貴女
(
あなた
)
一人
(
ひとり
)
のお
働
(
はたら
)
きです。
261
妾
(
わらは
)
達
(
たち
)
二柱
(
ふたはしら
)
、
262
お
手伝
(
てつだ
)
ひ
申
(
まを
)
すは
易
(
やす
)
き
事
(
こと
)
乍
(
なが
)
ら、
263
それでは
貴女
(
あなた
)
の
御
(
お
)
手柄
(
てがら
)
にはなりませぬから、
264
心
(
こころ
)
丈夫
(
ぢやうぶ
)
に
以
(
もつ
)
てお
出
(
い
)
でなさいませ』
265
松姫
(
まつひめ
)
『
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
迄
(
まで
)
、
266
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
267
お
言葉
(
ことば
)
に
甘
(
あま
)
へて
来勿止
(
くなどめ
)
迄
(
まで
)
送
(
おく
)
つて
頂
(
いただ
)
きませうか。
268
さうして、
269
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神名
(
しんめい
)
は
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
します』
270
二人
(
ふたり
)
の
女神
(
めがみ
)
はニコリと
笑
(
わら
)
ひ、
271
二人の女神
『
何
(
いづ
)
れ
分
(
わか
)
る
時節
(
じせつ
)
が
参
(
まゐ
)
りませう。
272
此処
(
ここ
)
では
一寸
(
ちよつと
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げ
兼
(
か
)
ねます』
273
と
先
(
さ
)
き
立
(
た
)
ち、
274
足早
(
あしばや
)
に、
275
山奥
(
やまおく
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
給
(
たま
)
ふ。
276
松姫
(
まつひめ
)
は、
277
二女神
(
にぢよしん
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
278
心
(
こころ
)
いそいそ
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
したり。
279
二女神
(
にぢよしん
)
『もう
二三丁
(
にさんちやう
)
先
(
さき
)
が、
280
来勿止
(
くなどめ
)
の
関所
(
せきしよ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
281
吾々
(
われわれ
)
は
此処
(
ここ
)
でお
別
(
わか
)
れ
致
(
いた
)
します。
282
何
(
いづ
)
れ
改
(
あらた
)
めてお
目
(
め
)
にかかる
事
(
こと
)
が
御座
(
ござ
)
いませう。
283
左様
(
さやう
)
なら』
284
と
云
(
い
)
ふかと
思
(
おも
)
へば
二女神
(
にぢよしん
)
の
姿
(
すがた
)
は
忽
(
たちま
)
ちかき
消
(
け
)
す
如
(
ごと
)
く
見
(
み
)
えなくなりぬ。
285
松姫
(
まつひめ
)
は
盲人
(
めくら
)
が
杖
(
つゑ
)
を
失
(
うしな
)
つた
如
(
ごと
)
く、
286
暗夜
(
あんや
)
に
提灯
(
ちやうちん
)
取
(
と
)
られた
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
して、
287
重
(
おも
)
き
足
(
あし
)
を、
288
希望
(
きばう
)
の
車
(
くるま
)
に
乗
(
の
)
せられ、
289
引摺
(
ひきず
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
290
日
(
ひ
)
は
既
(
すで
)
に
黄昏
(
たそが
)
れ、
291
十七夜
(
じふしちや
)
の
月
(
つき
)
はまだ
昇
(
のぼ
)
り
給
(
たま
)
はざる
一
(
いち
)
の
暗
(
くら
)
み
時
(
どき
)
、
292
来勿止
(
くなどめ
)
の
神
(
かみ
)
の
関所
(
せきしよ
)
に
着
(
つ
)
いた。
293
此処
(
ここ
)
は
厳格
(
げんかく
)
な
関門
(
くわんもん
)
が
築
(
きづ
)
かれてある。
294
松姫
(
まつひめ
)
『モシモシ
私
(
わたくし
)
は
霊山
(
れいざん
)
へ
詣
(
まゐ
)
る
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
います。
295
何卒
(
なにとぞ
)
、
296
此
(
この
)
門
(
もん
)
お
通
(
とほ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
297
門番
(
もんばん
)
の
一人
(
ひとり
)
甲
(
かふ
)
は、
298
横門
(
よこもん
)
を
押
(
お
)
し
開
(
あ
)
け
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
り、
299
甲
(
かふ
)
(勝公)
『
何誰
(
どなた
)
か
知
(
し
)
りませぬが、
300
此
(
この
)
一
(
いち
)
の
暗
(
やみ
)
に、
301
此
(
この
)
門
(
もん
)
あけいと
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は
碌
(
ろく
)
な
者
(
もの
)
ぢやありませぬ。
302
何時
(
いつ
)
も
何時
(
いつ
)
も
狐
(
きつね
)
や
狸
(
たぬき
)
に
誑
(
なぶ
)
られて、
303
馬鹿
(
ばか
)
を
見通
(
みどほ
)
しだから、
304
今日
(
けふ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
開
(
あ
)
けませぬ、
305
否
(
いや
)
通過
(
つうくわ
)
させませぬ。
306
出直
(
でなほ
)
して
明日
(
あす
)
の
朝
(
あさ
)
お
出
(
いで
)
なさい』
307
松姫
(
まつひめ
)
『
左様
(
さやう
)
では
御座
(
ござ
)
いませうが、
308
決
(
けつ
)
して
怪
(
あや
)
しい
者
(
もの
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬ。
309
どうぞ
通
(
とほ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
310
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
誕生地
(
たんじやうち
)
へ
至急
(
しきふ
)
詣
(
まゐ
)
らねばなりませぬから』
311
乙
(
おつ
)
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いて、
312
乙
(
おつ
)
(竹公)
『オイ
勝公
(
かつこう
)
、
313
此
(
この
)
暗
(
くら
)
がりに、
314
アタ
厭
(
いや
)
らしい、
315
そんな
白
(
しろ
)
い
装束
(
しやうぞく
)
を
着
(
き
)
た
女
(
をんな
)
を
相手
(
あひて
)
に
何
(
なに
)
を
揶揄
(
からか
)
つて
居
(
を
)
るのか、
316
早
(
はや
)
く
這入
(
はい
)
らぬか、
317
又
(
また
)
例
(
れい
)
の
奴
(
やつ
)
に
定
(
きま
)
つて
居
(
を
)
るぞ』
318
勝公
(
かつこう
)
『そうだと
云
(
い
)
つて
此
(
こ
)
の
方
(
かた
)
が
是非
(
ぜひ
)
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
に
参拝
(
さんぱい
)
したいから、
319
通過
(
つうくわ
)
させて
呉
(
く
)
れと、
320
懇願
(
こんぐわん
)
なさるのだもの、
321
無情
(
むげ
)
に
断
(
ことわ
)
る
訳
(
わけ
)
にもゆかぬぢやないか』
322
乙
(
おつ
)
(竹公)
『
何
(
なん
)
だ、
323
又
(
また
)
貴様
(
きさま
)
、
324
日
(
ひ
)
の
暮
(
く
)
れ
紛
(
まぎ
)
れに、
325
女
(
をんな
)
を
掴
(
つか
)
まへて、
326
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
やがるのだな、
327
余程
(
よほど
)
、
328
勝手
(
かつて
)
な
奴
(
やつ
)
だ。
329
男
(
をとこ
)
が
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
く
)
ると、
330
何時
(
いつ
)
も、
331
慳
(
けん
)
もほろろに、
332
木
(
き
)
で
鼻
(
はな
)
こすつた
様
(
やう
)
な
応待
(
おうたい
)
をするクセに、
333
今日
(
けふ
)
は
言葉付
(
ことばつき
)
迄
(
まで
)
、
334
優
(
やさ
)
しく
出
(
で
)
やがつて、
335
貴様
(
きさま
)
の
面
(
つら
)
つたら、
336
大方
(
おほかた
)
崩壊
(
ほうくわい
)
して
居
(
を
)
るのだらう。
337
暗夜
(
やみよ
)
でマア
仕合
(
しあは
)
せだ。
338
昼
(
ひる
)
であつて
見
(
み
)
よ、
339
好
(
よ
)
い
化者
(
ばけもの
)
だぞ』
340
勝公
(
かつこう
)
『
俺
(
おれ
)
の
顔
(
かほ
)
が
化者
(
ばけもの
)
なら、
341
貴様
(
きさま
)
の
顔
(
かほ
)
は
何
(
なん
)
だい。
342
鯰
(
なまづ
)
が
沸茶
(
にえちや
)
を
浴
(
か
)
ぶせられた
様
(
やう
)
な
面
(
つら
)
をしやがつて、
343
人
(
ひと
)
さんの
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
迄
(
まで
)
、
344
批評
(
ひへう
)
すると
云
(
い
)
ふ
資格
(
しかく
)
がどこに
有
(
あ
)
るかい』
345
乙
(
おつ
)
(竹公)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
貴様
(
きさま
)
は
女
(
をんな
)
にかけては
五月蠅
(
うるさ
)
い
奴
(
やつ
)
だ、
346
俺
(
おれ
)
が
来
(
こ
)
なんだら、
347
優
(
やさ
)
しい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しやがつて
何々
(
なになに
)
を、
348
何々
(
なになに
)
する、
349
何々
(
なになに
)
だつたらう。
350
エライ
邪魔物
(
じやまもの
)
が
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
しまして
済
(
す
)
みませぬなア、
351
アハヽヽヽ』
352
松姫
(
まつひめ
)
『モシモシお
二人
(
ふたり
)
様
(
さん
)
、
353
今日
(
けふ
)
は
特別
(
とくべつ
)
の
御
(
ご
)
憐愍
(
れんびん
)
を
以
(
もつ
)
てお
通
(
とほ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
354
どうしても
今晩
(
こんばん
)
の
中
(
うち
)
に
参拝
(
さんぱい
)
致
(
いた
)
さねばなりませぬから』
355
乙
(
おつ
)
(竹公)
『
大胆
(
だいたん
)
至極
(
しごく
)
な、
356
女
(
をんな
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
に
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
踏
(
ふ
)
み
込
(
こ
)
み
来
(
きた
)
り、
357
此
(
この
)
怖
(
おそ
)
ろしい
岩窟
(
いはや
)
へ
参詣
(
さんけい
)
し
様
(
やう
)
なんて、
358
そんな
大野心
(
だいやしん
)
を
起
(
おこ
)
しても
駄目
(
だめ
)
ですよ。
359
屹度
(
きつと
)
途中
(
とちう
)
で、
360
狼
(
おほかみ
)
にバリバリとやられて
了
(
しま
)
ふのは
請合
(
うけあひ
)
だ。
361
此
(
この
)
門
(
もん
)
潜
(
くぐ
)
るや
否
(
いな
)
や、
362
地獄
(
ぢごく
)
の
八丁目
(
はつちやうめ
)
だから、
363
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はぬ。
364
お
前
(
まへ
)
の
身
(
み
)
の
為
(
ため
)
ぢや。
365
いつ
迄
(
まで
)
も
絶対
(
ぜつたい
)
通
(
とほ
)
さないとは
申
(
まを
)
さぬから、
366
明日
(
あす
)
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
367
松姫
(
まつひめ
)
『
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
は
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いますが、
368
私
(
わたくし
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
何事
(
なにごと
)
もお
任
(
まか
)
せ
申
(
まを
)
した
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
369
命
(
いのち
)
なんかどうなつても
宜
(
よろ
)
しいから、
370
何卒
(
どうぞ
)
心
(
こころ
)
よう
通
(
とほ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
371
乙
(
おつ
)
(竹公)
『イヤイヤ、
372
命
(
いのち
)
が
惜
(
を
)
しくない
様
(
やう
)
な、
373
ド
転婆
(
てんば
)
を
通
(
とほ
)
す
事
(
こと
)
は
愈
(
いよいよ
)
以
(
もつ
)
てなりませぬ
哩
(
わい
)
、
374
来勿止
(
くなどめ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
又
(
また
)
どんなお
小言
(
こごと
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
するか
知
(
し
)
れやしない。
375
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
此
(
この
)
門番
(
もんばん
)
も
失策
(
しつさく
)
だらけで、
376
薩張
(
さつぱ
)
り
鼻
(
はな
)
べちや
で
威勢
(
ゐせい
)
が
上
(
あが
)
らない。
377
それと
云
(
い
)
ふのも、
378
勝公
(
かつこう
)
が
心
(
こころ
)
の
締
(
しま
)
りがないものだから、
379
いつでも
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
巻添
(
まきぞ
)
へを
食
(
く
)
ふのだ。
380
オイ
勝公
(
かつこう
)
、
381
サアこんな
命
(
いのち
)
知
(
し
)
らずの
強者
(
したたかもの
)
を
相手
(
あひて
)
にせずと、
382
トツトと
奥
(
おく
)
へ
這入
(
はい
)
つてそれから
門
(
もん
)
を
閉
(
し
)
めて、
383
警戒
(
けいかい
)
を
厳重
(
げんぢう
)
にせなくちやならぬぞ。
384
サア
這入
(
はい
)
らう
這入
(
はい
)
らう』
385
勝公
(
かつこう
)
『それだと
云
(
い
)
つてこれ
程
(
ほど
)
熱心
(
ねつしん
)
に、
386
お
頼
(
たの
)
みなさるのに、
387
どうして
刎
(
は
)
ね
付
(
つ
)
ける
訳
(
わけ
)
にゆくものか。
388
貴様
(
きさま
)
這入
(
はい
)
りたければ、
389
勝手
(
かつて
)
に
這入
(
はい
)
つて
勝手
(
かつて
)
に
閉
(
し
)
めたが
宜
(
よ
)
からう。
390
俺
(
おれ
)
は
仕方
(
しかた
)
がないから、
391
日頃
(
ひごろ
)
覚
(
おぼ
)
えた、
392
ぬけ
道
(
みち
)
を
伝
(
つた
)
うて
此
(
この
)
御
(
お
)
方
(
かた
)
を
背中
(
せなか
)
に
背負
(
せお
)
つて
上
(
あ
)
げるのだ』
393
乙
(
おつ
)
(竹公)
『とうとう
尻尾
(
しつぽ
)
を
現
(
あら
)
はしやがつたな、
394
アハヽヽヽ、
395
随分
(
ずゐぶん
)
女
(
をんな
)
にかけては
腰抜
(
こしぬ
)
けなものだ』
396
勝公
(
かつこう
)
『エヽ
竹公
(
たけこう
)
の
唐変木
(
たうへんぼく
)
奴
(
め
)
、
397
貴様
(
きさま
)
に
女
(
をんな
)
が
分
(
わか
)
つて
堪
(
たま
)
るかい。
398
女
(
をんな
)
で
苦労
(
くらう
)
して
来
(
き
)
た
者
(
もの
)
でないと
女人
(
によにん
)
心理
(
しんり
)
は
解
(
わか
)
らないぞ。
399
さう
毒々
(
どくどく
)
しく
無情
(
むじやう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものぢやないワ。
400
人間
(
にんげん
)
は
堅
(
かた
)
い
許
(
ばか
)
りが
能
(
のう
)
ぢやない。
401
砕
(
くだ
)
ける
時
(
とき
)
は
砕
(
くだ
)
けて、
402
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
人々
(
ひとびと
)
の
為
(
ため
)
に
便利
(
べんり
)
を
計
(
はか
)
るのが
人間
(
にんげん
)
の
務
(
つと
)
めだ。
403
况
(
ま
)
して
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
泊
(
と
)
めて
呉
(
く
)
れと
仰有
(
おつしや
)
るのでもなし、
404
通
(
とほ
)
してさへ
上
(
あ
)
げれば
宜
(
よ
)
いのぢやないか』
405
竹公
(
たけこう
)
『
貴様
(
きさま
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
406
一旦
(
いつたん
)
男
(
をとこ
)
の
口
(
くち
)
から、
407
通
(
とほ
)
さぬと
云
(
い
)
つたら
通
(
とほ
)
さぬのだ』
408
勝公
(
かつこう
)
『モシモシお
女中
(
ぢよちう
)
、
409
今
(
いま
)
お
聞
(
き
)
きの
通
(
とほ
)
り
同僚役
(
あひぼうやく
)
があの
通
(
とほ
)
りの
頑固者
(
ぐわんこもの
)
ですから、
410
無理
(
むり
)
にお
通
(
とほ
)
し
申
(
まを
)
しても、
411
後
(
あと
)
でどんな
難題
(
なんだい
)
を
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
にふきかけるやら
分
(
わか
)
りませぬ。
412
さうすればお
互
(
たがひ
)
の
迷惑
(
めいわく
)
ですから、
413
どうぞ
貴方
(
あなた
)
も
折角
(
せつかく
)
此処迄
(
ここまで
)
お
出
(
い
)
でになつたのですから、
414
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
堪
(
たま
)
りませぬが、
415
今晩
(
こんばん
)
は
一旦
(
いつたん
)
、
416
引返
(
ひきかへ
)
して
下
(
くだ
)
さいませぬか』
417
松姫
(
まつひめ
)
『どうぞ、
418
方角
(
はうがく
)
だけなつと
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
さいませ。
419
送
(
おく
)
つて
貰
(
もら
)
つては
大変
(
たいへん
)
な、
420
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
になつては
済
(
す
)
みませぬから』
421
勝公
(
かつこう
)
『
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
は、
422
これだけ
厳
(
きび
)
しく
門番
(
もんばん
)
も
今迄
(
いままで
)
は
云
(
い
)
はなかつたのですが、
423
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
に、
424
バラモン
教
(
けう
)
の、
425
谷
(
たに
)
とか
鬼
(
おに
)
とか
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
がやつて
来
(
き
)
て、
426
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
始
(
はじ
)
め、
427
吾々
(
われわれ
)
をチヨロまかし、
428
トウトウ
大切
(
たいせつ
)
な、
429
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
を
盗
(
ぬす
)
んで
帰
(
かへ
)
つたものですから、
430
其
(
その
)
後
(
ご
)
と
云
(
い
)
ふものは
大変
(
たいへん
)
に
警戒
(
けいかい
)
が
厳
(
きび
)
しくなつて、
431
暮六
(
くれむ
)
つ
下
(
さが
)
れば、
432
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
にかかはらず、
433
一切
(
いつさい
)
通
(
とほ
)
してはならぬと
云
(
い
)
ふ、
434
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
厳
(
きび
)
しき
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
で
御座
(
ござ
)
います。
435
それ
故
(
ゆゑ
)
、
436
今
(
いま
)
の
男
(
をとこ
)
があんな
無情
(
むじやう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うたのですが、
437
然
(
しか
)
しあゝ
見
(
み
)
えても
彼奴
(
あいつ
)
は
極
(
きは
)
めて
平常
(
ふだん
)
から
親切
(
しんせつ
)
な
男
(
をとこ
)
ですよ。
438
言葉
(
ことば
)
つきこそ、
439
穢
(
きたな
)
ふ
御座
(
ござ
)
いますが、
440
それはそれは
心
(
こころ
)
の
美
(
うつく
)
しい
男
(
をとこ
)
ですよ。
441
屹度
(
きつと
)
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
では
涙
(
なみだ
)
をこぼして
居
(
ゐ
)
たに
違
(
ちが
)
ひありませぬ。
442
どうぞ、
443
竹公
(
たけこう
)
は
無情
(
むじやう
)
な
奴
(
やつ
)
だと
恨
(
うら
)
んでやつては
下
(
くだ
)
さいますな』
444
松姫
(
まつひめ
)
『イエイエ
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
何
(
なん
)
の
恨
(
うら
)
みませう。
445
お
役目
(
やくめ
)
大切
(
たいせつ
)
にお
守
(
まも
)
りなさる
処
(
ところ
)
を、
446
私
(
わたくし
)
が
御
(
ご
)
無理
(
むり
)
を
申
(
まを
)
しますのですから、
447
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
られても
是非
(
ぜひ
)
はありませぬ。
448
併
(
しか
)
し
今
(
いま
)
貴方
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
によれば、
449
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
はバラモン
教
(
けう
)
の
方
(
かた
)
が
盗
(
ぬす
)
んで
帰
(
かへ
)
つたと
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
450
それは
事実
(
じじつ
)
ですか』
451
勝公
(
かつこう
)
『
盗
(
ぬす
)
んで
帰
(
かへ
)
つたのは
事実
(
じじつ
)
ですが、
452
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
高
(
たか
)
き
高熊
(
たかくま
)
の
霊山
(
れいざん
)
、
453
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
には
盗
(
ぬす
)
まれたと
思
(
おも
)
つた
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
は、
454
依然
(
いぜん
)
として
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
麗
(
うる
)
はしく、
455
言照姫
(
ことてるひめ
)
様
(
さま
)
に
抱
(
だ
)
かれて
居
(
を
)
られます。
456
本当
(
ほんたう
)
に
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
があつたものです』
457
松姫
(
まつひめ
)
『それ
聞
(
き
)
いて
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました。
458
私
(
わたくし
)
にも
成程
(
なるほど
)
と
諾
(
うなづ
)
かれる
点
(
てん
)
が
御座
(
ござ
)
います』
459
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも
石
(
いし
)
の
本門
(
ほんもん
)
はガラリと
開
(
あ
)
いた。
460
灯火
(
ともしび
)
をとぼし、
461
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る、
462
白髪
(
はくはつ
)
異様
(
いやう
)
の
老人
(
らうじん
)
の
姿
(
すがた
)
が、
463
松明
(
たいまつ
)
に
照
(
てら
)
されて、
464
明瞭
(
はつきり
)
と
松姫
(
まつひめ
)
の
目
(
め
)
に
映
(
うつ
)
つた。
465
松姫
(
まつひめ
)
は
思
(
おも
)
はず、
466
ハツと
地
(
ち
)
に
平伏
(
へいふく
)
した。
467
勝公
(
かつこう
)
『これはこれは
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
468
何処
(
どこ
)
へお
出
(
で
)
ましになります』
469
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
勝
(
かつ
)
ぢやなア。
470
此処
(
ここ
)
へ
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
が
来
(
く
)
る
筈
(
はず
)
ぢや。
471
未
(
ま
)
だ
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ないかな』
472
勝公
(
かつこう
)
『ハイ、
473
それは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
ですか。
474
松姫
(
まつひめ
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか』
475
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『アヽさうぢや、
476
其
(
その
)
松姫
(
まつひめ
)
が
来
(
く
)
る
筈
(
はず
)
だ。
477
二時
(
ふたとき
)
ばかり
以前
(
いぜん
)
に、
478
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
よりお
使
(
つかい
)
が
見
(
み
)
えて、
479
此処
(
ここ
)
へ
松姫
(
まつひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
女
(
をんな
)
が
一人
(
ひとり
)
来
(
く
)
る
筈
(
はず
)
だから、
480
夜分
(
やぶん
)
でも
構
(
かま
)
はぬ
故
(
ゆゑ
)
、
481
通
(
とほ
)
してやつて
呉
(
く
)
れとの
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
であつた』
482
勝公
(
かつこう
)
『その
方
(
かた
)
なら、
483
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
られます。
484
サア
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
、
485
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな。
486
今
(
いま
)
お
聞
(
き
)
きの
通
(
とほ
)
りですから』
487
松姫
(
まつひめ
)
頭
(
かしら
)
を
上
(
あ
)
げ、
488
松姫
(
まつひめ
)
『
勝
(
かつ
)
さまとやら、
489
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いました。
490
して
貴方
(
あなた
)
が
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか。
491
罪
(
つみ
)
深
(
ふか
)
き
妾
(
わらは
)
なれど、
492
どうぞ
此
(
この
)
御門
(
ごもん
)
を
通
(
とほ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
493
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『サアサア
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
りませぬ、
494
ズツとお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
495
貴女
(
あなた
)
のお
登
(
のぼ
)
りを、
496
岩窟
(
いはや
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が
大変
(
たいへん
)
に
御
(
お
)
待
(
ま
)
ち
遊
(
あそ
)
ばして
居
(
を
)
られます。
497
サアサアこちらへ』
498
と
松姫
(
まつひめ
)
の
手
(
て
)
を
把
(
と
)
り
門内
(
もんない
)
に
導
(
みちび
)
き
入
(
い
)
れたり。
499
(
大正一一・五・九
旧四・一三
藤津久子
録)
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【第14章 声の在所|第19巻|如意宝珠|霊界物語|/rm1914】
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