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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第19巻(午の巻)
序
凡例
総説三十三魂
第1篇 神慮洪遠
第1章 高熊山
第2章 鶍の嘴
第3章 千騎一騎
第4章 善か悪か
第2篇 意外の意外
第5章 零敗の苦
第6章 和合と謝罪
第7章 牛飲馬食
第8章 大悟徹底
第3篇 至誠通神
第9章 身魂の浄化
第10章 馬鹿正直
第11章 変態動物
第12章 言照姫
第4篇 地異天変
第13章 混線
第14章 声の在所
第15章 山神の滝
第16章 玉照彦
第17章 言霊車
霊の礎(五)
余白歌
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第19巻(午の巻)
> 第3篇 至誠通神 > 第9章 身魂の浄化
<<< 大悟徹底
(B)
(N)
馬鹿正直 >>>
第九章
身魂
(
みたま
)
の
浄化
(
じやうくわ
)
〔六五四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻
篇:
第3篇 至誠通神
よみ(新仮名遣い):
しせいつうしん
章:
第9章 身魂の浄化
よみ(新仮名遣い):
みたまのじょうか
通し章番号:
654
口述日:
1922(大正11)年05月08日(旧04月12日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
荒鷹と鬼鷹は、旅の途上、峠の巌に腰を掛けてこれまでの経緯を思い出し話し合っていた。
二人は、ウラナイ教の拠点・高城山に、最近立派な雲が棚引くようになったのを見て、様子を探りに行こうと麓の千代川の郷の、鳴石の傍らまでやってきた。
二人は石の傍らで休息したが、石が温かいのに気づいて、その上に座った。すると、岩が鳴動を始め、次第に音響が大きくなってきた。二人は驚いて、岩から飛び降りた。
二人は岩から煙が立ち上る様を驚いてみていたが、すると一人の女神が現れた。荒鷹と鬼鷹は、岩が名高い鳴き岩であることに気づき、その上に座ってしまったことを謝罪して平伏した。
女神は二人に対して、「しばらくであった」と声を掛けた。女神の傍らの二人の稚児は、荒鷹と鬼鷹の額に、小さな紫の玉を打ち込んだ。すると荒鷹と鬼鷹の心は、穏やかになり春のように和らいだ。
女神は荒鷹に隆靖彦、鬼鷹に隆光彦と名を賜った。二人はお礼を言った。そして女神が丹州であることに気づいた。二人は丹州の本当の神名を請うたが、女神はまだそれを明かすときではない、と告げると、煙となって消えてしまった。
二人は鳴き石に礼拝すると、高城山に向かって進んでいった。すると馬公と鹿公に行きあたった。馬公と鹿公は、二人を荒鷹・鬼鷹とは気づかず、丹州だと勘違いしている。
荒鷹と鬼鷹は、宣伝歌にこれまでの経緯を説明して歌った。道すがら、馬公と鹿公は、高城山の言霊戦は、主人の失態を取り戻すためなので、自分たちに譲って欲しいと隆靖彦、隆光彦に頼んだ。
隆靖彦、隆光彦は後ろで見守ることなり、馬公、鹿公が高城山の館に挑むこととなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-03-17 06:55:31
OBC :
rm1909
愛善世界社版:
139頁
八幡書店版:
第4輯 81頁
修補版:
校定版:
141頁
普及版:
64頁
初版:
ページ備考:
001
心
(
こころ
)
の
暗
(
やみ
)
の
空
(
そら
)
晴
(
は
)
れて、
002
世界
(
せかい
)
に
鬼
(
おに
)
は
梨
(
なし
)
の
木
(
き
)
の、
003
峠
(
たうげ
)
の
巌
(
いはほ
)
に
腰
(
こし
)
打掛
(
うちか
)
け、
004
雪雲
(
ゆきぐも
)
の
空
(
そら
)
を
眺
(
なが
)
めて、
005
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
る
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
あり。
006
荒鷹
(
あらたか
)
『アヽ
思
(
おも
)
ひまはせば
今年
(
ことし
)
の
春
(
はる
)
の
初
(
はじめ
)
、
007
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
部下
(
ぶか
)
となつて、
008
三岳山
(
みたけやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
数多
(
あまた
)
の
手下
(
てした
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
009
善
(
よ
)
からぬ
事
(
こと
)
計
(
ばか
)
りを
得意
(
とくい
)
になつて、
010
自己
(
じこ
)
保存
(
ほぞん
)
は
人生
(
じんせい
)
の
本領
(
ほんりやう
)
だと
思
(
おも
)
ひ
詰
(
つ
)
め、
011
利己
(
りこ
)
主義
(
しゆぎ
)
の
行動
(
かうどう
)
を
以
(
もつ
)
て
金科
(
きんくわ
)
玉条
(
ぎよくでう
)
として
居
(
ゐ
)
たが、
012
まだ
天道
(
てんだう
)
様
(
さま
)
は
吾々
(
われわれ
)
を
捨
(
す
)
て
給
(
たま
)
はざりしか、
013
音彦
(
おとひこ
)
、
014
加米彦
(
かめひこ
)
、
015
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
の
一行
(
いつかう
)
に
救
(
すく
)
はれ、
016
飜然
(
ほんぜん
)
と
悟
(
さと
)
り、
017
三五教
(
あななひけう
)
に
入信
(
にふしん
)
さして
頂
(
いただ
)
き、
018
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
本城
(
ほんじやう
)
に
逆襲
(
ぎやくしふ
)
し、
019
言向和
(
ことむけやは
)
さむと
心力
(
しんりよく
)
を
尽
(
つく
)
して
見
(
み
)
たが、
020
まだ
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
大将
(
たいしやう
)
は、
021
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひのお
綱
(
つな
)
が
掛
(
かか
)
つて
居
(
ゐ
)
なかつたと
見
(
み
)
え、
022
吾々
(
われわれ
)
の
熱誠
(
ねつせい
)
なる
言霊
(
ことたま
)
の
忠告
(
ちうこく
)
を
馬耳
(
ばじ
)
東風
(
とうふう
)
と
聞
(
き
)
き
流
(
なが
)
し、
023
終
(
つひ
)
には
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
うて
何処
(
いづこ
)
ともなく
遁走
(
とんそう
)
して
了
(
しま
)
つた。
024
仮令
(
たとへ
)
三日
(
みつか
)
でも
同
(
おな
)
じ
鍋
(
なべ
)
はだ
の
飯
(
めし
)
を
食
(
く
)
つた
間柄
(
あひだがら
)
だから、
025
我々
(
われわれ
)
としては
何処
(
どこ
)
までも、
026
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
救
(
すく
)
はねばならないのだが、
027
何処
(
どこ
)
へお
出
(
い
)
でになつたか
行衛
(
ゆくへ
)
は
知
(
し
)
れず、
028
三五教
(
あななひけう
)
へ
這入
(
はい
)
つてから、
029
此
(
こ
)
れと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
奉仕
(
ほうし
)
も
出来
(
でき
)
ず、
030
困
(
こま
)
つたものだ。
031
竹生島
(
ちくぶしま
)
へ
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
れば、
032
英子姫
(
ひでこひめ
)
様
(
さま
)
は
神業
(
しんげふ
)
を
完成
(
くわんせい
)
遊
(
あそ
)
ばして、
033
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
と
共
(
とも
)
に、
034
フサの
国
(
くに
)
斎苑
(
いそ
)
の
御
(
ご
)
住居
(
ぢうきよ
)
へお
帰
(
かへ
)
り
遊
(
あそ
)
ばした
後
(
あと
)
なり、
035
三五教
(
あななひけう
)
の
方々
(
かたがた
)
には、
036
散
(
ち
)
り
散
(
ぢ
)
りバラになつて
別
(
わか
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
037
殆
(
ほとん
)
ど
方向
(
はうかう
)
に
迷
(
まよ
)
ふ
今日
(
けふ
)
の
有様
(
ありさま
)
、
038
せめては
高城山
(
たかしろやま
)
の
松姫
(
まつひめ
)
でも
言向和
(
ことむけやは
)
して、
039
一
(
ひと
)
つ
功
(
こう
)
を
立
(
た
)
てねばなるまい………ナア
鬼鷹
(
おにたか
)
』
040
鬼鷹
(
おにたか
)
『オーそうだ。
041
此処
(
ここ
)
も
所
(
ところ
)
は
違
(
ちが
)
ふが、
042
ヤツパリ
大枝山
(
おほえやま
)
だ。
043
あの
向
(
むか
)
うに
見
(
み
)
えるは
確
(
たし
)
かに
高城山
(
たかしろやま
)
だ。
044
何時
(
いつ
)
も
悪神
(
あくがみ
)
の
邪気
(
じやき
)
に
依
(
よ
)
つて
黒雲
(
くろくも
)
が
山
(
やま
)
の
頂
(
いただき
)
を
包
(
つつ
)
んで
居
(
ゐ
)
たが、
045
今日
(
けふ
)
は
又
(
また
)
どうしたものだ。
046
何時
(
いつ
)
にない
立派
(
りつぱ
)
な
雲
(
くも
)
が
棚引
(
たなび
)
いて
居
(
を
)
るではないか。
047
何
(
なん
)
でも
三五教
(
あななひけう
)
の
誰
(
たれ
)
かが
征服
(
せいふく
)
して、
048
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
祀
(
まつ
)
り、
049
神徳
(
しんとく
)
が
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
るのではなからうかな。
050
万一
(
まんいち
)
さうであるとすれば、
051
結構
(
けつこう
)
は
結構
(
けつこう
)
だが、
052
吾々
(
われわれ
)
はモウ
此
(
この
)
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
に
於
(
お
)
いて
活動
(
くわつどう
)
する
所
(
ところ
)
が
無
(
な
)
くなつた
様
(
やう
)
なものだ。
053
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
高城山
(
たかしろやま
)
を
一度
(
いちど
)
踏査
(
たふさ
)
して
実否
(
じつぴ
)
を
探
(
さぐ
)
り、
054
万々一
(
まんまんいち
)
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
して
居
(
ゐ
)
たとすれば、
055
モウ
仕方
(
しかた
)
がない。
056
どつと
張
(
は
)
り
込
(
こ
)
んで
此
(
この
)
海
(
うみ
)
を
渡
(
わた
)
り、
057
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
へでも
往
(
い
)
つて、
058
一働
(
ひとはたら
)
きしようぢやないか』
059
荒鷹
(
あらたか
)
『オウそれが
上分別
(
じやうふんべつ
)
だ。
060
併
(
しか
)
し
第一
(
だいいち
)
着手
(
ちやくしゆ
)
として、
061
高城山
(
たかしろやま
)
の
探険
(
たんけん
)
と
出
(
で
)
かけやうぢやないか』
062
鬼鷹
(
おにたか
)
『
高城山
(
たかしろやま
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
雲
(
くも
)
が
棚引
(
たなび
)
いて
居
(
ゐ
)
るが、
063
あれ
見
(
み
)
よ、
064
真西
(
まにし
)
に
当
(
あた
)
つて
又
(
また
)
もや
弥仙山
(
みせんざん
)
の
麓
(
ふもと
)
の
様
(
やう
)
に
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
が
靉靆
(
たなび
)
いて
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
065
玉照姫
(
たまてるひめ
)
様
(
さま
)
に
匹敵
(
ひつてき
)
した
男神
(
をがみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
出現
(
しゆつげん
)
遊
(
あそ
)
ばしたのではあるまいかなア。
066
併
(
しか
)
し
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
高城山
(
たかしろやま
)
へ
打向
(
うちむか
)
ひ、
067
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
に
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
の
出処
(
でどころ
)
を
調
(
しら
)
べる
事
(
こと
)
としようかい。
068
サアサア
行
(
ゆ
)
かう』
069
と
板
(
いた
)
を
立
(
た
)
てた
様
(
やう
)
な
坂道
(
さかみち
)
を
下
(
くだ
)
り、
070
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
駆出
(
かけだ
)
した。
071
満目
(
まんもく
)
蕭然
(
せうぜん
)
として
地
(
ち
)
は
一面
(
いちめん
)
の
薄雪
(
はくせつ
)
の
白布
(
はくふ
)
を
被
(
かぶ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
072
仁王
(
にわう
)
の
様
(
やう
)
な
足型
(
あしがた
)
を
印
(
いん
)
し
乍
(
なが
)
ら、
073
高城山
(
たかしろやま
)
の
山麓
(
さんろく
)
、
074
千代川
(
ちよかは
)
の
郷
(
さと
)
、
075
鳴石
(
なきいし
)
の
傍
(
かたはら
)
までやつて
来
(
き
)
た。
076
荒鷹
(
あらたか
)
『
一方
(
いつぱう
)
は
樹木
(
じゆもく
)
鬱蒼
(
うつさう
)
とした
箱庭
(
はこには
)
式
(
しき
)
の
小山
(
こやま
)
に、
077
卯
(
う
)
の
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
いた
様
(
やう
)
に、
078
白雪
(
はくせつ
)
が
梢
(
こずゑ
)
に
止
(
と
)
まり、
079
時
(
とき
)
ならぬ
花
(
はな
)
を
咲
(
さ
)
かせ、
080
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
綺麓
(
きれい
)
な
水
(
みづ
)
の
流
(
なが
)
れた
大堰川
(
おほいがは
)
、
081
こんな
佳
(
い
)
い
景色
(
けしき
)
は
大枝
(
おほえ
)
の
坂
(
さか
)
を
越
(
こ
)
えてこのかた、
082
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
い。
083
一
(
ひと
)
つ
此
(
この
)
辺
(
へん
)
で
休息
(
きうそく
)
した
上
(
うへ
)
、
084
ボツボツと
高城山
(
たかしろやま
)
に
向
(
むか
)
ふ
事
(
こと
)
にしようかい』
085
鬼鷹
(
おにたか
)
『
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
がし
出
(
だ
)
したぢやないか。
086
別
(
べつ
)
に
人間
(
にんげん
)
らしい
者
(
もの
)
も
居
(
を
)
らず、
087
獣
(
けだもの
)
とても
居
(
ゐ
)
ないやうだ。
088
狐
(
きつね
)
や
狸
(
たぬき
)
の
足型
(
あしがた
)
は
薄雪
(
はくせつ
)
の
上
(
うへ
)
に
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
るが、
089
併
(
しか
)
し
狐
(
きつね
)
の
声
(
こゑ
)
でもなし、
090
人間
(
にんげん
)
の
声
(
こゑ
)
でもなし、
091
合点
(
がつてん
)
のいかぬ
響
(
ひび
)
きがするぢやないか。
092
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
此処
(
ここ
)
に
大
(
おほ
)
きな
岩
(
いは
)
がある。
093
どこもかも
薄雪
(
うすゆき
)
だらけだが、
094
此
(
この
)
岩
(
いは
)
に
限
(
かぎ
)
つて
一片
(
いつぺん
)
の
雪
(
ゆき
)
もたまつて
居
(
ゐ
)
ない、
095
さうして
又
(
また
)
カラカラに
乾
(
かわ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
096
幸
(
さいは
)
ひ
此
(
この
)
岩
(
いは
)
の
上
(
うへ
)
で、
097
楊柳
(
やうりう
)
観音
(
くわんおん
)
ぢやないが、
098
一
(
ひと
)
つ
瞑目
(
めいもく
)
静坐
(
せいざ
)
し
心胆
(
しんたん
)
を
錬
(
ね
)
つて
見
(
み
)
たらどうだ』
099
荒鷹
(
あらたか
)
は
打首肯
(
うちうなづ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
100
平坦
(
へいたん
)
な
巌
(
いはほ
)
の
上
(
うへ
)
にドツカと
坐
(
すわ
)
つた。
101
荒鷹
(
あらたか
)
『オイ
兄弟
(
きやうだい
)
、
102
大変
(
たいへん
)
此
(
この
)
岩
(
いは
)
は
温
(
あたた
)
かいぞ。
103
お
前
(
まへ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
此処
(
ここ
)
に
坐
(
すわ
)
つて
見
(
み
)
よ』
104
鬼鷹
(
おにたか
)
『ヤア
本当
(
ほんたう
)
に
温
(
あたた
)
かい
岩
(
いは
)
だなア。
105
地上
(
ちじやう
)
一面
(
いちめん
)
冷
(
つめ
)
たい
雪
(
ゆき
)
が
降
(
ふ
)
り、
106
冷酷
(
れいこく
)
な
世界
(
せかい
)
の
人情
(
にんじやう
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
りと、
107
天地
(
てんち
)
から
鑑
(
かがみ
)
を
出
(
だ
)
して、
108
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
示
(
しめ
)
して
御座
(
ござ
)
るのに、
109
こりや
又
(
また
)
どうしたものだ。
110
僅
(
わづ
)
か
一
(
ひと
)
坪
(
つぼ
)
ばかりの
此
(
この
)
岩
(
いは
)
の
上
(
うへ
)
許
(
ばか
)
りは、
111
冷酷
(
れいこく
)
な
雪
(
ゆき
)
もたまらず、
112
春
(
はる
)
の
様
(
やう
)
な
暖
(
あたた
)
かみを
帯
(
お
)
びて
居
(
ゐ
)
る。
113
是
(
こ
)
れを
見
(
み
)
ても、
114
どつかに
暖
(
あたた
)
かい
人間
(
にんげん
)
も、
115
チツとは
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
暗示
(
あんじ
)
だらうよ』
116
忽
(
たちま
)
ち
膝下
(
しつか
)
の
平面岩
(
へいめんいは
)
は
鳴動
(
めいどう
)
を
始
(
はじ
)
め、
117
刻々
(
こくこく
)
に
音響
(
おんきやう
)
強大
(
きやうだい
)
猛烈
(
まうれつ
)
の
度
(
ど
)
を
加
(
くは
)
へて
来
(
き
)
た。
118
二人
(
ふたり
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
足早
(
あしばや
)
に
飛
(
と
)
び
下
(
お
)
り、
119
七八間
(
しちはちけん
)
此方
(
こなた
)
に
引
(
ひ
)
き
返
(
かへ
)
し、
120
岩石
(
がんせき
)
を
見詰
(
みつ
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
121
忽
(
たちま
)
ち
岩石
(
がんせき
)
は
白煙
(
はくえん
)
を
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
した。
122
続
(
つづ
)
いて
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
細
(
ほそ
)
く
長
(
なが
)
く、
123
白煙
(
はくえん
)
の
中
(
なか
)
に
棹
(
さを
)
を
立
(
た
)
てた
様
(
やう
)
に
天
(
てん
)
に
冲
(
ちう
)
し、
124
蕨
(
わらび
)
が
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
を
固
(
かた
)
めたやうな
恰好
(
かつかう
)
になつては、
125
二三十
(
にさんじつ
)
間
(
けん
)
中空
(
ちうくう
)
に
消
(
き
)
え、
126
又
(
また
)
同
(
おな
)
じく
現
(
あら
)
はれては
消
(
き
)
え、
127
幾回
(
いくくわい
)
となく
紫
(
むらさき
)
の
円柱
(
ゑんちゆう
)
が
立昇
(
たちのぼ
)
り、
128
生々
(
せいせい
)
滅々
(
めつめつ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
129
二人
(
ふたり
)
は『ヤアヤア』と
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げ
驚
(
おどろ
)
くばかりであつた。
130
猛烈
(
まうれつ
)
なる
大爆音
(
だいばくおん
)
は
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
低声
(
ていせい
)
となり、
131
遂
(
つひ
)
にピタリと
止
(
と
)
まつた。
132
白煙
(
はくえん
)
は
依然
(
いぜん
)
として
盛
(
さかん
)
に
立昇
(
たちのぼ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
133
此
(
この
)
時
(
とき
)
金
(
きん
)
の
冠
(
かむり
)
を
戴
(
いただ
)
き、
134
種々
(
しゆじゆ
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
を
以
(
もつ
)
て
造
(
つく
)
られたる
瓔珞
(
やうらく
)
を
身体
(
しんたい
)
一面
(
いちめん
)
に
着飾
(
きかざ
)
り、
135
白
(
しろ
)
き
薄衣
(
うすぎぬ
)
を
着
(
ちやく
)
したる、
136
白面
(
はくめん
)
豊頬
(
ほうけふ
)
の
女神
(
めがみ
)
、
137
眉目
(
びもく
)
の
位置
(
ゐち
)
と
謂
(
ゐ
)
ひ、
138
鼻
(
はな
)
の
附
(
つき
)
具合
(
ぐあひ
)
と
云
(
い
)
ひ、
139
唇
(
くちびる
)
の
色
(
いろ
)
紅
(
くれなゐ
)
を
呈
(
てい
)
し、
140
雪
(
ゆき
)
の
如
(
ごと
)
き
歯
(
は
)
を
少
(
すこ
)
しく
見
(
み
)
せ、
141
ニヤリと
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
うた。
142
荒鷹
(
あらたか
)
『ヤア
音
(
おと
)
に
名高
(
なだか
)
い
川堰
(
かはぜき
)
の
鳴石
(
なきいし
)
であつたか。
143
それとは
知
(
し
)
らずに
御
(
ご
)
無礼千万
(
ぶれいせんばん
)
にも、
144
吾々
(
われわれ
)
の
汚
(
けが
)
れた
体
(
からだ
)
で
踏
(
ふ
)
みにじり、
145
誠
(
まこと
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
のない
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
したワイ。
146
キツと
鳴石
(
なきいし
)
の
霊
(
れい
)
が
現
(
あら
)
はれて、
147
何
(
なに
)
か
吾々
(
われわれ
)
に
対
(
たい
)
して
厳
(
きび
)
しい
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
を
下
(
くだ
)
されるのであらう。
148
何
(
なに
)
はともあれお
詫
(
わび
)
をするより
仕方
(
しかた
)
がない』
149
と
荒鷹
(
あらたか
)
は
薄雪
(
はくせつ
)
の
積
(
つ
)
もる
大地
(
だいち
)
にペタリと
平太張
(
へたば
)
つて、
150
謝罪
(
しやざい
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
した。
151
鬼鷹
(
おにたか
)
も
同
(
おな
)
じく
大地
(
だいち
)
に
鰭伏
(
ひれふ
)
し
慄
(
ふる
)
うて
居
(
を
)
る。
152
忽
(
たちま
)
ち
虚空
(
こくう
)
に
音楽
(
おんがく
)
聞
(
きこ
)
え、
153
蓮
(
はす
)
の
葉
(
は
)
の
様
(
やう
)
な
大花弁
(
だいくわべん
)
がパラパラと
降
(
ふ
)
つて
来
(
き
)
た。
154
四辺
(
あたり
)
はえも
云
(
い
)
はれぬ
芳香
(
はうかう
)
に
包
(
つつ
)
まれた。
155
荒鷹
(
あらたか
)
は
頭
(
かしら
)
を
地
(
ち
)
に
附
(
つ
)
け
乍
(
なが
)
ら、
156
少
(
すこ
)
しく
首
(
くび
)
を
曲
(
ま
)
げ、
157
一方
(
いつぱう
)
の
目
(
め
)
にて
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る
岩上
(
がんじやう
)
の
女神
(
めがみ
)
を
眺
(
なが
)
めた。
158
女神
(
めがみ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
美
(
うつく
)
しき
稚児
(
ちご
)
を
左右
(
さいう
)
に
侍
(
はべ
)
らせ、
159
例
(
れい
)
の
白烟
(
はくえん
)
の
中
(
なか
)
に
莞爾
(
くわんじ
)
として
立現
(
たちあら
)
はれ、
160
白
(
しろ
)
に
稍
(
やや
)
桃色
(
ももいろ
)
を
帯
(
お
)
びたる
繊手
(
せんしゆ
)
を
差
(
さ
)
し
延
(
の
)
べて、
161
此方
(
こなた
)
の
両人
(
りやうにん
)
に
向
(
むか
)
ひ
手招
(
てまね
)
きして
居
(
を
)
る。
162
荒鷹
(
あらたか
)
『オイ
鬼鷹
(
おにたか
)
、
163
ソウツと
頭
(
あたま
)
を
上
(
あ
)
げてあの
女神
(
めがみ
)
を
拝
(
をが
)
んで
見
(
み
)
よ。
164
何
(
なん
)
だか
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
に
対
(
たい
)
して
御用
(
ごよう
)
が
有
(
あ
)
りそうだぞ』
165
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
鬼鷹
(
おにたか
)
はコワゴワ
乍
(
なが
)
ら、
166
女神
(
めがみ
)
の
方
(
はう
)
に
眼
(
め
)
を
注
(
そそ
)
いだ
刹那
(
せつな
)
、
167
鬼鷹
(
おにたか
)
は『アツ』と
叫
(
さけ
)
んで、
168
又
(
また
)
もや
大地
(
だいち
)
に
頭
(
あたま
)
を
摺付
(
すりつ
)
けた。
169
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
両人
(
りやうにん
)
の
体
(
からだ
)
は
何者
(
なにもの
)
にか
引
(
ひ
)
きずらるる
様
(
やう
)
な
心地
(
ここち
)
し、
170
以前
(
いぜん
)
の
平岩
(
ひらいは
)
の
前
(
まへ
)
に
安着
(
あんちやく
)
して
居
(
ゐ
)
た。
171
女神
(
めがみ
)
は
淑
(
しと
)
やかに、
172
女神
『
荒鷹
(
あらたか
)
どの、
173
鬼鷹
(
おにたか
)
どの、
174
しばらくで
御座
(
ござ
)
つたなア』
175
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
両人
(
りやうにん
)
は
一度
(
いちど
)
に
頭
(
かしら
)
を
擡
(
もた
)
げ、
176
熟々
(
つくづく
)
と
女神
(
めがみ
)
の
姿
(
すがた
)
を
打眺
(
うちなが
)
め、
177
腑
(
ふ
)
に
落
(
お
)
ちぬ
面色
(
おももち
)
にて
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
いて
居
(
を
)
る。
178
女神
(
めがみ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
稚児
(
ちご
)
に、
179
懐
(
ふところ
)
より
麗
(
うるは
)
しき
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
たせ、
180
何事
(
なにごと
)
か
目配
(
めくば
)
せした。
181
二人
(
ふたり
)
の
稚児
(
ちご
)
は
両人
(
りやうにん
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
みより、
182
小
(
ちひ
)
さき
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
を
両人
(
りやうにん
)
の
額
(
ひたひ
)
に
当
(
あ
)
て、
183
コンコンと
打
(
う
)
ち
込
(
こ
)
んだ。
184
二人
(
ふたり
)
は『アイタタ』と
云
(
い
)
ふ
間
(
ま
)
もなく、
185
痛
(
いた
)
みは
止
(
と
)
まつた。
186
二人
(
ふたり
)
の
稚児
(
ちご
)
は
忽
(
たちま
)
ち
女神
(
めがみ
)
の
両脇
(
りやうわき
)
に
復帰
(
ふくき
)
し、
187
さも
愉快
(
ゆくわい
)
げに
笑
(
わら
)
つて
居
(
を
)
る。
188
此
(
この
)
時
(
とき
)
より
荒鷹
(
あらたか
)
、
189
鬼鷹
(
おにたか
)
の
二人
(
ふたり
)
は
何
(
なん
)
となく
心
(
こころ
)
穏
(
おだや
)
かに
春
(
はる
)
の
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
が
漂
(
ただよ
)
うた。
190
女神
(
めがみ
)
は
静
(
しづか
)
に、
191
女神
『
唯今
(
ただいま
)
より
荒鷹
(
あらたか
)
、
192
鬼鷹
(
おにたか
)
では
有
(
あ
)
りませぬ。
193
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
、
194
隆光彦
(
たかてるひこ
)
と
名
(
な
)
を
与
(
あた
)
へます。
195
どうぞ
今後
(
こんご
)
は
誠
(
まこと
)
の
神人
(
しんじん
)
となつて、
196
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
して
下
(
くだ
)
さい。
197
妾
(
わらは
)
の
顔
(
かほ
)
を
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
ゐ
)
ますか』
198
荒鷹
(
あらたか
)
はやつと
安堵
(
あんど
)
の
態
(
てい
)
、
199
荒鷹
『
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
の
名
(
な
)
を
賜
(
たま
)
はり、
200
有難
(
ありがた
)
き、
201
身
(
み
)
に
取
(
と
)
つての
光栄
(
くわうえい
)
で
御座
(
ござ
)
います』
202
隆光彦
(
たかてるひこ
)
『
私
(
わたくし
)
の
如
(
ごと
)
き
曇
(
くも
)
り
切
(
き
)
つた
身魂
(
みたま
)
に
対
(
たい
)
し、
203
隆光彦
(
たかてるひこ
)
と
御
(
おん
)
名
(
な
)
を
下
(
くだ
)
さいましたのは、
204
何
(
なん
)
ともお
礼
(
れい
)
の
申様
(
まをしやう
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬ。
205
失礼
(
しつれい
)
乍
(
なが
)
ら
貴神
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
吾々
(
われわれ
)
と
共
(
とも
)
に
三岳山
(
みたけやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
にお
住居
(
すまゐ
)
遊
(
あそ
)
ばした
丹州
(
たんしう
)
様
(
さま
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
206
女神
(
めがみ
)
は
莞爾
(
くわんじ
)
として
首肯
(
うなづ
)
く。
207
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『アヽ
是
(
こ
)
れで
世界晴
(
せかいば
)
れが
致
(
いた
)
しました。
208
モウ
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
高城山
(
たかしろやま
)
の
松姫
(
まつひめ
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し、
209
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
し、
210
天地
(
てんち
)
に
蟠
(
わだか
)
まる
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
す
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
は、
211
十分
(
じふぶん
)
に
与
(
あた
)
へられた
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
になりました。
212
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
213
隆光彦
(
たかてるひこ
)
も
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
、
214
頭
(
かしら
)
を
下
(
さ
)
げ
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表示
(
へうじ
)
する。
215
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『あなた
様
(
さま
)
は
今
(
いま
)
まで
丹州
(
たんしう
)
と
身
(
み
)
を
変
(
へん
)
じ、
216
吾々
(
われわれ
)
の
身魂
(
みたま
)
を
研
(
みが
)
く
為
(
ため
)
に、
217
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
と
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
を
遊
(
あそ
)
ばした
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
218
どうぞ
御
(
おん
)
名
(
な
)
を
現
(
あら
)
はし
下
(
くだ
)
さいませ』
219
女神
(
めがみ
)
『
今
(
いま
)
は
我
(
わが
)
名
(
な
)
を
現
(
あら
)
はすべき
時
(
とき
)
にあらず。
220
自然
(
しぜん
)
に
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
の
身魂
(
みたま
)
に
感得
(
かんとく
)
し
得
(
う
)
る
所
(
ところ
)
まで
磨
(
みが
)
いて
下
(
くだ
)
さい。
221
妾
(
わらは
)
の
素性
(
すじやう
)
が
明瞭
(
はつきり
)
お
分
(
わか
)
りになつた
其
(
その
)
時
(
とき
)
は、
222
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
の
身魂
(
みたま
)
は
天晴
(
あつぱ
)
れの
神人
(
しんじん
)
となられた
時
(
とき
)
です。
223
それまでは、
224
あなた
方
(
がた
)
の
為
(
ため
)
に
懸案
(
けんあん
)
として
暫
(
しばら
)
く
留保
(
りうほ
)
して
置
(
お
)
きませう』
225
と
云
(
い
)
ふかと
見
(
み
)
れば、
226
三柱
(
みはしら
)
の
姿
(
すがた
)
は
煙
(
けぶり
)
となつて
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
227
鳴石
(
なきいし
)
は
依然
(
いぜん
)
として
小
(
ちひ
)
さき
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
る。
228
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『なんと
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
つたもんですなア。
229
吾々
(
われわれ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
な
女神
(
めがみ
)
さまが
現
(
あら
)
はれて、
230
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
だとか、
231
隆光彦
(
たかてるひこ
)
だとか、
232
身分
(
みぶん
)
不相応
(
ふさうおう
)
の
神名
(
しんめい
)
を
下
(
くだ
)
さつたが、
233
実際
(
じつさい
)
に
於
(
おい
)
て
責任
(
せきにん
)
を
尽
(
つく
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るであらうかと、
234
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つ
心配
(
しんぱい
)
が
殖
(
ふ
)
えて
来
(
き
)
たやうだ』
235
隆光彦
(
たかてるひこ
)
『そうだ、
236
私
(
わたくし
)
も
同感
(
どうかん
)
だ。
237
併
(
しか
)
しあの
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
は
何処
(
どこ
)
となく
丹州
(
たんしう
)
さまにソツくりだつた。
238
お
前
(
まへ
)
もさう
思
(
おも
)
つただらう』
239
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『ヤア
私
(
わし
)
はあまり
勿体
(
もつたい
)
なくて、
240
とつくりと
顔
(
かほ
)
を、
241
ヨウ
拝
(
をが
)
まなんだよ。
242
何
(
なん
)
とはなしに
目
(
め
)
がマクマクして、
243
面
(
おもて
)
を
向
(
む
)
ける
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
244
そうして
何
(
なん
)
だか
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
恥
(
はづか
)
しくつて、
245
自分
(
じぶん
)
の
今迄
(
いままで
)
の
罪悪
(
ざいあく
)
を
照
(
てら
)
される
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がして、
246
随分
(
ずゐぶん
)
苦
(
くる
)
しかつた。
247
是
(
こ
)
れはヒヨツとしたら
夢
(
ゆめ
)
ぢや
有
(
あ
)
るまいかなア』
248
隆光彦
(
たかてるひこ
)
『ナニ、
249
夢
(
ゆめ
)
所
(
どころ
)
か
本当
(
ほんたう
)
に
顕
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
うたのだ。
250
斯
(
こ
)
うなつた
以上
(
いじやう
)
は、
251
層一層
(
そういつそう
)
言行
(
げんかう
)
を
慎
(
つつし
)
んで
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
にならなくちや、
252
今
(
いま
)
の
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
して
申訳
(
まをしわけ
)
が
無
(
な
)
からう。
253
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
こ
)
の
鳴石
(
なきいし
)
は
依然
(
いぜん
)
として
唸
(
うな
)
つて
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
254
又々
(
またまた
)
どんな
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
出現
(
しゆつげん
)
遊
(
あそ
)
ばすか
分
(
わか
)
らないよ。
255
モウ
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
に
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
たらどうだらう』
256
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『ヤア
此
(
この
)
上
(
うへ
)
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
出
(
で
)
られてたまるものかい。
257
モウ
此
(
こ
)
れで
結構
(
けつこう
)
だ。
258
恥
(
はづ
)
かしくつて
仕方
(
しかた
)
がない。
259
サアサア
早
(
はや
)
く
高城山
(
たかしろやま
)
へ
行
(
ゆ
)
かう』
260
二人
(
ふたり
)
は
鳴石
(
なきいし
)
に
恭
(
うやうや
)
しく
礼拝
(
れいはい
)
し、
261
足早
(
あしばや
)
に
大川
(
おほかは
)
の
堤
(
つつみ
)
を
伝
(
つた
)
つて
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
262
忽
(
たちま
)
ちドンと
突
(
つ
)
き
当
(
あた
)
つた
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
、
263
驚
(
おどろ
)
いて、
264
二人
(
ふたり
)
『ヤアこれはこれは
誠
(
まこと
)
に
無調法
(
ぶてうはふ
)
致
(
いた
)
しました。
265
あまり
俯
(
うつ
)
むいて
道
(
みち
)
を
急
(
いそ
)
いで
居
(
ゐ
)
ましたので、
266
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
通
(
とほ
)
りとも
知
(
し
)
らず、
267
衝突
(
しようとつ
)
を
致
(
いた
)
しまして、
268
申訳
(
まをしわけ
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬ。
269
どうぞお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
270
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『ヤアお
前
(
まへ
)
は、
271
馬公
(
うまこう
)
に
鹿公
(
しかこう
)
ぢやないか。
272
エライ
勢
(
いきほ
)
ひで
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
く
積
(
つも
)
りぢや』
273
馬公
(
うまこう
)
『ハイ
吾々
(
われわれ
)
の
大将
(
たいしやう
)
、
274
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
275
青彦
(
あをひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
さま、
276
大失敗
(
だいしつぱい
)
を
演
(
えん
)
じ、
277
聖地
(
せいち
)
にも
居
(
を
)
れないと
云
(
い
)
ふ
立場
(
たちば
)
になつて
苦
(
くるし
)
んで
居
(
ゐ
)
られます。
278
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
はあまりお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で、
279
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
280
そつと
館
(
やかた
)
を
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
281
江州
(
ごうしう
)
の
竹生島
(
ちくぶしま
)
へ
参
(
まゐ
)
つて、
282
英子姫
(
ひでこひめ
)
様
(
さま
)
にお
目
(
め
)
にかかり、
283
お
情
(
なさけ
)
を
以
(
もつ
)
て、
284
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
両人
(
りやうにん
)
のお
詫
(
わび
)
をして
頂
(
いただ
)
かうと
思
(
おも
)
ひ、
285
取
(
と
)
る
物
(
もの
)
も
取敢
(
とりあへ
)
ず
参
(
まゐ
)
りました。
286
どうぞ
丹州
(
たんしう
)
さま、
287
何
(
なん
)
とか、
288
あなたもお
力添
(
ちからぞへ
)
をして
下
(
くだ
)
さいませぬか、
289
お
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
します』
290
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『
私
(
わたし
)
は
丹州
(
たんしう
)
さまぢやない。
291
お
前
(
まへ
)
さんと
一緒
(
いつしよ
)
に、
292
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
の
言霊戦
(
ことたません
)
に
向
(
むか
)
つた
大悪人
(
だいあくにん
)
たりし、
293
荒鷹
(
あらたか
)
で
御座
(
ござ
)
いますよ』
294
馬公
(
うまこう
)
『モシモシ
丹州
(
たんしう
)
さま、
295
ソラ
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
います。
296
眉目
(
びもく
)
清秀
(
せいしう
)
、
297
厳
(
げん
)
として
冒
(
をか
)
す
可
(
べか
)
らざるあなたの
御
(
ご
)
容貌
(
ようばう
)
、
298
女神
(
めがみ
)
の
姿
(
すがた
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
ゐ
)
らつしやるが、
299
適切
(
てつき
)
りあなたは
擬
(
まが
)
ふ
方
(
かた
)
なき
丹州
(
たんしう
)
様
(
さま
)
、
300
そんな
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
らずに、
301
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
して、
302
打解
(
うちと
)
けて
下
(
くだ
)
さいな』
303
鹿公
(
しかこう
)
『ヤア
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
304
此処
(
ここ
)
にも
丹州
(
たんしう
)
さまそつくりの
方
(
かた
)
が
又
(
また
)
現
(
あら
)
はれた。
305
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
た
時
(
とき
)
から
変
(
かは
)
つたお
方
(
かた
)
ぢやと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
306
ヤツパリ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
化身
(
けしん
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか。
307
どうぞ
唯今
(
ただいま
)
申
(
まを
)
した
通
(
とほ
)
りの
始末
(
しまつ
)
ですから、
308
宜
(
よろ
)
しく
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
を
以
(
もつ
)
てお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいませ』
309
隆光彦
(
たかてるひこ
)
『イエイエ
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して、
310
私
(
わたくし
)
は
丹州
(
たんしう
)
さまでは
御座
(
ござ
)
いませぬ。
311
荒鷹
(
あらたか
)
の
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
鬼鷹
(
おにたか
)
と
云
(
い
)
ふ、
312
三岳山
(
みたけやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
於
(
おい
)
て、
313
悪
(
あく
)
ばかり
働
(
はたら
)
いて
居
(
を
)
つた
男
(
をとこ
)
で
御座
(
ござ
)
いますよ』
314
馬
(
うま
)
、
315
鹿
(
しか
)
『なんと
仰有
(
おつしや
)
つても、
316
鬼鷹
(
おにたか
)
、
317
荒鷹
(
あらたか
)
の
様
(
やう
)
な
粗雑
(
そざつ
)
な
容貌
(
ようばう
)
ぢや
有
(
あ
)
りませぬワ。
318
彼奴
(
あいつ
)
ア、
319
一旦
(
いつたん
)
改心
(
かいしん
)
はしよつたが、
320
又
(
また
)
地金
(
ぢがね
)
を
出
(
だ
)
して、
321
どつかへ
迂路
(
うろ
)
つき、
322
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
や
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
うて、
323
悪
(
あく
)
の
道
(
みち
)
へ
逆転
(
ぎやくてん
)
旅行
(
りよかう
)
をやつて
居
(
を
)
るだらうと、
324
吾々
(
われわれ
)
仲間
(
なかま
)
の
評定
(
へうぢやう
)
に
上
(
のぼ
)
つて
居
(
を
)
る
位
(
くらゐ
)
な
男
(
をとこ
)
です。
325
そんな
善悪
(
ぜんあく
)
不可解
(
ふかかい
)
の
筒井
(
つつゐ
)
式
(
しき
)
の
男
(
をとこ
)
の
名
(
な
)
を
騙
(
かた
)
つたりなさらずに、
326
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
327
私
(
わたくし
)
達
(
たち
)
は
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
場合
(
ばあひ
)
で
御座
(
ござ
)
います』
328
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『
世間
(
せけん
)
の
眼識
(
めがね
)
は
違
(
ちが
)
はぬものだなア。
329
何程
(
なにほど
)
改心
(
かいしん
)
してもヤツパリどつかに、
330
副守
(
ふくしゆ
)
が
割拠
(
かつきよ
)
して
居
(
を
)
つたと
見
(
み
)
えて、
331
三五教
(
あななひけう
)
の
御
(
ご
)
連中
(
れんちう
)
からは、
332
今
(
いま
)
、
333
馬公
(
うまこう
)
、
334
鹿公
(
しかこう
)
の
言
(
い
)
つた
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
られて
居
(
を
)
つたのだなア。
335
アーア
仕方
(
しかた
)
のないものだ。
336
どうぞしてあの
時
(
とき
)
の
姿
(
すがた
)
になつて、
337
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
の
疑
(
うたがひ
)
を
晴
(
は
)
らしたいものだ。
338
斯
(
こ
)
うなると、
339
麗
(
うるは
)
しき
容貌
(
ようばう
)
になつたのが、
340
却
(
かへつ
)
て
有難
(
ありがた
)
迷惑
(
めいわく
)
だ。
341
ナア
鬼鷹
(
おにたか
)
否々
(
いやいや
)
、
342
隆光彦
(
たかてるひこ
)
さま…』
343
隆光彦
(
たかてるひこ
)
『アヽさうですなア。
344
併
(
しか
)
し、
345
馬公
(
うまこう
)
さま、
346
鹿公
(
しかこう
)
さまにまで
疑
(
うたが
)
はれる
程
(
ほど
)
、
347
霊魂
(
みたま
)
が
向上
(
かうじやう
)
し、
348
体
(
からだ
)
の
相貌
(
さうばう
)
までが
変
(
かは
)
つて
来
(
き
)
たと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
349
実
(
じつ
)
に
尊
(
たふと
)
いものだ。
350
ヤツパリ
人間
(
にんげん
)
は
霊魂
(
みたま
)
が
第一
(
だいいち
)
だ。
351
……モシモシ
馬
(
うま
)
さま
鹿
(
しか
)
さま、
352
決
(
けつ
)
して
嘘
(
うそ
)
は
申
(
まを
)
しませぬ。
353
たつた
今
(
いま
)
、
354
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
立派
(
りつぱ
)
な
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
から、
355
玉
(
たま
)
を
頂
(
いただ
)
いたが
最後
(
さいご
)
、
356
斯
(
こ
)
んなに
変化
(
へんくわ
)
して
了
(
しま
)
つたのだ。
357
名
(
な
)
も
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
、
358
隆光彦
(
たかてるひこ
)
と
頂
(
いただ
)
いたのだが、
359
つい
今
(
いま
)
の
先
(
さき
)
まで
依然
(
いぜん
)
として、
360
荒鷹
(
あらたか
)
、
361
鬼鷹
(
おにたか
)
の
姿
(
すがた
)
で
居
(
を
)
つたのだ。
362
どうぞ
疑
(
うたがひ
)
を
晴
(
は
)
らして
下
(
くだ
)
さい』
363
馬
(
うま
)
、
364
鹿
(
しか
)
の
二人
(
ふたり
)
は
疑団
(
ぎだん
)
の
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれ、
365
両人
(
りやうにん
)
の
姿
(
すがた
)
を
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
から
足
(
あし
)
の
爪先
(
つまさき
)
まで、
366
念入
(
ねんい
)
りに
見詰
(
みつ
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
367
隆靖彦(荒鷹)・隆光彦(鬼鷹)
『バラモン
教
(
けう
)
の
総大将
(
そうだいしやう
)
368
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
部下
(
ぶか
)
となり
369
三岳
(
みたけ
)
の
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
370
心
(
こころ
)
も
荒
(
あら
)
き
荒鷹
(
あらたか
)
や
371
生血
(
いきち
)
を
絞
(
しぼ
)
る
鬼鷹
(
おにたか
)
と
372
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でて
四方
(
よも
)
八方
(
やも
)
の
373
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
を
拐
(
かど
)
はかし
374
無慈悲
(
むじひ
)
の
限
(
かぎ
)
りを
尽
(
つく
)
したる
375
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
376
大江
(
おほえ
)
の
山
(
やま
)
や
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
377
三岳
(
みたけ
)
の
山
(
やま
)
に
山砦
(
さんさい
)
を
378
構
(
かま
)
へて
住
(
す
)
まへる
折
(
をり
)
もあれ
379
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
の
雲
(
くも
)
別
(
わ
)
けて
380
降
(
くだ
)
りましたか
地
(
ち
)
を
掘
(
ほ
)
りて
381
現
(
あら
)
はれましたか
知
(
し
)
らねども
382
何
(
なん
)
とはなしに
威厳
(
ゐげん
)
ある
383
丹州
(
たんしう
)
さまがやつて
来
(
き
)
て
384
俺
(
わし
)
の
乾児
(
こぶん
)
にして
呉
(
く
)
れと
385
頭
(
かしら
)
を
下
(
さ
)
げて
頼
(
たの
)
まれる
386
二人
(
ふたり
)
は
素
(
もと
)
より
神
(
かみ
)
ならぬ
387
身
(
み
)
の
悲
(
かな
)
しさに
丹州
(
たんしう
)
を
388
奴隷
(
どれい
)
の
如
(
ごと
)
く
酷
(
こ
)
き
使
(
つか
)
ひ
389
紫姫
(
むらさきひめ
)
の
主従
(
しゆじゆう
)
を
390
ウマウマ
岩窟
(
いはや
)
に
騙
(
だま
)
し
込
(
こ
)
み
391
馬公
(
うまこう
)
、
鹿公
(
しかこう
)
二人
(
ふたり
)
をば
392
地獄
(
ぢごく
)
に
等
(
ひと
)
しき
岩穴
(
いはあな
)
へ
393
情
(
なさけ
)
容赦
(
ようしや
)
も
荒縄
(
あらなは
)
に
394
縛
(
しば
)
つてヤツと
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
みし
395
天地
(
てんち
)
容
(
い
)
れざる
大悪
(
だいあく
)
の
396
罪
(
つみ
)
をも
憎
(
にく
)
まず
三五
(
あななひ
)
の
397
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
398
音彦
(
おとひこ
)
、
加米彦
(
かめひこ
)
現
(
あら
)
はれて
399
悦子
(
よしこ
)
の
姫
(
ひめ
)
を
守
(
まも
)
りつつ
400
深
(
ふか
)
き
罪
(
つみ
)
をば
差
(
さ
)
し
赦
(
ゆる
)
し
401
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
に
導
(
みちび
)
きて
402
忽
(
たちま
)
ち
変
(
かは
)
る
神心
(
かみごころ
)
403
人
(
ひと
)
を
悩
(
なや
)
める
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
404
悪魔
(
あくま
)
の
砦
(
とりで
)
に
立向
(
たちむか
)
ひ
405
聞
(
き
)
くも
芽出
(
めで
)
たき
言霊
(
ことたま
)
の
406
清
(
きよ
)
き
戦
(
いくさ
)
に
参加
(
さんか
)
して
407
神
(
かみ
)
の
尊
(
たふと
)
き
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
り
408
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
409
四方
(
よも
)
の
国々
(
くにぐに
)
弘
(
ひろ
)
めむと
410
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
る
折柄
(
をりから
)
に
411
弥仙
(
みせん
)
の
山
(
やま
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
412
神
(
かみ
)
の
知
(
し
)
らせか
紫
(
むらさき
)
の
413
雲
(
くも
)
立昇
(
たちのぼ
)
る
麗
(
うるは
)
しさ
414
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
は
何
(
なん
)
となく
415
雲
(
くも
)
に
引
(
ひ
)
かるる
心地
(
ここち
)
して
416
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
の
斎
(
まつ
)
りたる
417
御山
(
みやま
)
の
麓
(
ふもと
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
418
豈計
(
あにはか
)
らむや
丹州
(
たんしう
)
の
419
威厳
(
ゐげん
)
備
(
そな
)
はる
御姿
(
みすがた
)
に
420
再
(
ふたた
)
び
驚
(
おどろ
)
き
畏
(
かしこ
)
みて
421
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
し
須知山
(
しゆちやま
)
の
422
峠
(
たうげ
)
の
上
(
うへ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
423
常彦
(
つねひこ
)
さまや
滝
(
たき
)
、
板
(
いた
)
の
424
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
に
驚
(
おどろ
)
きつ
425
一言
(
ひとこと
)
二言
(
ふたこと
)
云
(
い
)
ひかはし
426
丹州
(
たんしう
)
さまの
仰
(
あふ
)
せをば
427
畏
(
かしこ
)
み
仕
(
つか
)
へ
東路
(
あづまぢ
)
を
428
指
(
さ
)
して
山坂
(
やまさか
)
打渉
(
うちわた
)
り
429
荒波
(
あらなみ
)
猛
(
たけ
)
る
琵琶
(
びは
)
の
湖
(
うみ
)
430
英子
(
ひでこ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
隠
(
かく
)
れます
431
竹生
(
ちくぶ
)
の
島
(
しま
)
に
往
(
い
)
て
見
(
み
)
れば
432
藻抜
(
もぬ
)
けの
殻
(
から
)
の
果敢
(
はか
)
なさに
433
駒
(
こま
)
の
首
(
かしら
)
を
立
(
た
)
て
直
(
なほ
)
し
434
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
と
彷徨
(
さまよ
)
ひつ
435
吾
(
わが
)
信仰
(
しんかう
)
も
堅木原
(
かたぎはら
)
436
足並
(
あしなみ
)
揃
(
そろ
)
へて
沓掛
(
くつかけ
)
の
437
郷
(
さと
)
を
踏
(
ふ
)
み
越
(
こ
)
え
懺悔坂
(
ざんげざか
)
438
漸
(
やうや
)
く
登
(
のぼ
)
り
梨
(
なし
)
の
木
(
き
)
の
439
峠
(
たうげ
)
に
立
(
た
)
ちて
眺
(
なが
)
むれば
440
遥
(
はるか
)
に
見
(
み
)
ゆる
西
(
にし
)
の
空
(
そら
)
441
高城山
(
たかしろやま
)
の
頂
(
いただ
)
きに
442
五色
(
ごしき
)
の
雲
(
くも
)
の
棚引
(
たなび
)
きし
443
其
(
その
)
光景
(
くわうけい
)
に
憧憬
(
あこが
)
れつ
444
薄雪
(
はくせつ
)
踏
(
ふ
)
み
締
(
し
)
め
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
445
風
(
かぜ
)
の
音
(
ね
)
高
(
たか
)
く
鳴石
(
なきいし
)
の
446
上
(
うへ
)
より
昇
(
のぼ
)
る
白煙
(
しらけぶり
)
447
また
立昇
(
たちのぼ
)
る
紫
(
むらさき
)
の
448
雲
(
くも
)
に
心
(
こころ
)
を
奪
(
うば
)
はれつ
449
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ
拝
(
をが
)
む
内
(
うち
)
450
煙
(
けぶり
)
の
中
(
なか
)
より
現
(
あら
)
はれし
451
荘厳
(
さうごん
)
無比
(
むひ
)
の
女神
(
めがみ
)
さま
452
二人
(
ふたり
)
の
稚児
(
ちご
)
を
伴
(
ともな
)
ひて
453
吾
(
わ
)
れにうつしき
宝玉
(
ほうぎよく
)
を
454
授
(
さづ
)
け
給
(
たま
)
うと
見
(
み
)
る
間
(
うち
)
に
455
鬼
(
おに
)
をも
欺
(
あざむ
)
く
醜体
(
しうたい
)
の
456
二人
(
ふたり
)
は
忽
(
たちま
)
ち
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
457
白衣
(
びやくい
)
の
袖
(
そで
)
に
包
(
つつ
)
まれて
458
容貌
(
ようばう
)
忽
(
たちま
)
ち
一変
(
いつぺん
)
し
459
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
や
隆光彦
(
たかてるひこ
)
の
460
教
(
をしへ
)
の
司
(
つかさ
)
と
名付
(
なづ
)
けられ
461
やうやう
此処
(
ここ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
462
顔
(
かほ
)
見覚
(
みおぼ
)
えた
馬公
(
うまこう
)
や
463
鹿公
(
しかこう
)
二人
(
ふたり
)
に
巡
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
ひ
464
俄
(
にはか
)
に
変
(
かは
)
る
吾
(
わが
)
姿
(
すがた
)
465
如何
(
いか
)
程
(
ほど
)
言葉
(
ことば
)
を
尽
(
つく
)
すとも
466
諾
(
うべ
)
なひまさぬは
道理
(
だうり
)
なれ
467
アヽ
然
(
さ
)
り
乍
(
なが
)
ら
然
(
さ
)
り
乍
(
なが
)
ら
468
吾
(
わ
)
れはヤツパリ
荒鷹
(
あらたか
)
に
469
鬼鷹
(
おにたか
)
二人
(
ふたり
)
の
向上身
(
こうじやうしん
)
470
どうぞ
疑
(
うたがひ
)
晴
(
は
)
らしませ
471
人
(
ひと
)
は
心
(
こころ
)
が
第一
(
だいいち
)
よ
472
霊魂
(
みたま
)
研
(
みが
)
けば
忽
(
たちま
)
ちに
473
鬼
(
おに
)
も
変
(
へん
)
じて
神
(
かみ
)
となり
474
心
(
こころ
)
一
(
ひと
)
つの
持方
(
もちかた
)
で
475
神
(
かみ
)
も
忽
(
たちま
)
ち
鬼
(
おに
)
となる
476
さは
然
(
さ
)
り
乍
(
なが
)
ら
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
の
477
如何
(
いか
)
に
霊魂
(
みたま
)
を
研
(
みが
)
くとも
478
神
(
かみ
)
の
力
(
ちから
)
に
依
(
よ
)
らざれば
479
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
魂
(
たましひ
)
は
480
清
(
きよ
)
まるものに
有
(
あ
)
らざらむ
481
自力
(
じりき
)
信仰
(
しんかう
)
もよけれども
482
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
483
他力
(
たりき
)
の
神
(
かみ
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ
484
心
(
こころ
)
を
任
(
まか
)
せ
皇神
(
すめかみ
)
の
485
救
(
すく
)
ひを
得
(
う
)
るより
途
(
みち
)
はない
486
人
(
ひと
)
の
賢
(
さか
)
しき
利巧
(
りかう
)
もて
487
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
究
(
きは
)
めむと
488
思
(
おも
)
うた
事
(
こと
)
の
誤
(
あやま
)
りを
489
今
(
いま
)
漸
(
やうや
)
くに
悟
(
さと
)
りけり
490
吁
(
あゝ
)
馬公
(
うまこう
)
よ
鹿公
(
しかこう
)
よ
491
人間心
(
にんげんごころ
)
を
振棄
(
ふりす
)
てて
492
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
493
神
(
かみ
)
の
他力
(
たりき
)
に
打任
(
うちまか
)
せ
494
誠
(
まこと
)
の
信仰
(
しんかう
)
積
(
つ
)
むがよい
495
吾
(
わ
)
れは
是
(
こ
)
れより
高城
(
たかしろ
)
の
496
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
に
現
(
あら
)
はれし
497
ウラナイ
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
498
松姫
(
まつひめ
)
さまを
言向
(
ことむ
)
けて
499
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
救
(
すく
)
はむと
500
思
(
おも
)
ひ
定
(
さだ
)
めて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
501
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
若彦
(
わかひこ
)
の
502
二人
(
ふたり
)
の
心
(
こころ
)
は
察
(
さつ
)
すれど
503
人間心
(
にんげんごころ
)
の
如何
(
いか
)
にして
504
救
(
すく
)
ふ
手段
(
てだて
)
がありませうか
505
魂
(
たま
)
を
研
(
みが
)
いて
今
(
いま
)
は
唯
(
ただ
)
506
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く
春
(
はる
)
を
待
(
ま
)
てばよい
507
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
508
無量
(
むりやう
)
無限
(
むげん
)
のお
慈悲心
(
じひしん
)
509
如何
(
いか
)
でか
見捨
(
みす
)
て
給
(
たま
)
はむや
510
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
511
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
512
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
若彦
(
わかひこ
)
に
513
如何
(
いか
)
なる
罪
(
つみ
)
の
有
(
あ
)
りとても
514
心
(
こころ
)
平
(
たひ
)
らに
安
(
やす
)
らかに
515
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
516
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
しませ
素盞嗚
(
すさのを
)
の
517
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
祈
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
518
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
519
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
520
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
521
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
麻柱
(
あななひ
)
の
522
道
(
みち
)
を
貫
(
つらぬ
)
く
吾々
(
われわれ
)
は
523
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひは
目
(
ま
)
の
前
(
あたり
)
524
必
(
かなら
)
ずともに
二人
(
ふたり
)
共
(
とも
)
525
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
め
給
(
たま
)
ふまじ
526
女神
(
めがみ
)
の
姿
(
すがた
)
と
現
(
あら
)
はれし
527
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
は
先頭
(
せんとう
)
に
528
高城山
(
たかしろやま
)
に
向
(
むか
)
ひ
行
(
ゆ
)
く
529
馬公
(
うまこう
)
、
鹿公
(
しかこう
)
両人
(
りやうにん
)
よ
530
執着心
(
しふちやくしん
)
を
振
(
ふ
)
り
棄
(
す
)
てて
531
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
共
(
とも
)
に
言霊
(
ことたま
)
の
532
清
(
きよ
)
き
戦
(
いくさ
)
に
加
(
くは
)
はりて
533
太
(
ふと
)
しき
功績
(
いさを
)
を
立
(
た
)
て
給
(
たま
)
へ
534
いざいざさらば、いざさらば
535
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
片時
(
かたとき
)
も
536
疾
(
と
)
く
速
(
すむや
)
けく
参
(
まゐ
)
りませう
537
神
(
かみ
)
は
汝
(
なんぢ
)
と
倶
(
とも
)
にあり
538
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
は
海
(
うみ
)
よりも
539
深
(
ふか
)
しと
聞
(
き
)
けば
高城
(
たかしろ
)
の
540
山
(
やま
)
は
如何
(
いか
)
程
(
ほど
)
嶮
(
さか
)
しとも
541
悪魔
(
あくま
)
の
勢
(
いきほひ
)
強
(
つよ
)
くとも
542
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
を
身
(
み
)
に
受
(
う
)
けて
543
常世
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
を
照
(
てら
)
し
行
(
ゆ
)
く
544
三五教
(
あななひけう
)
の
吾々
(
われわれ
)
が
545
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
こそは
楽
(
たの
)
しけれ
546
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
547
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひ
坐
(
ま
)
しませよ』
548
と
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひつつ、
549
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
一歩
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
、
550
ウラナイ
教
(
けう
)
の
松姫
(
まつひめ
)
が
館
(
やかた
)
を
指
(
さ
)
して
近付
(
ちかづ
)
きぬ。
551
馬公
(
うまこう
)
『モシモシ
最前
(
さいぜん
)
のお
歌
(
うた
)
に
依
(
よ
)
つて、
552
私
(
わたくし
)
達
(
たち
)
もスツカリと
信仰
(
しんかう
)
の
妙味
(
めうみ
)
と
効果
(
かうくわ
)
が、
553
心底
(
しんてい
)
から
諒解
(
りやうかい
)
出来
(
でき
)
ました。
554
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は、
555
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
のお
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
し、
556
比沼
(
ひぬ
)
の
真奈井
(
まなゐ
)
の
貴
(
うづ
)
の
宝座
(
ほうざ
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
の
途中
(
とちう
)
、
557
あなた
方
(
がた
)
に
拐
(
かど
)
はかされ、
558
其
(
その
)
お
蔭
(
かげ
)
にて
尊
(
たふと
)
き
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
となり、
559
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
の
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
は、
560
世
(
よ
)
にも
尊
(
たふと
)
き
宣伝使
(
せんでんし
)
とまでお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばし、
561
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
昼夜
(
ちうや
)
感涙
(
かんるい
)
に
咽
(
むせ
)
び……アーア
吾々
(
われわれ
)
主従
(
しゆじゆう
)
は
何
(
なん
)
とした
果報者
(
くわほうもの
)
だ……と
喜
(
よろこ
)
んで
居
(
を
)
りましたが、
562
計
(
はか
)
らずも
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
は
若彦
(
わかひこ
)
さまと
共
(
とも
)
に、
563
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
不興
(
ふきよう
)
を
蒙
(
かうむ
)
り、
564
少
(
すこ
)
しの
取違
(
とりちがひ
)
より、
565
今
(
いま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
を
除名
(
ぢよめい
)
され、
566
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
しては
申訳
(
まをしわけ
)
なく、
567
其
(
その
)
罪
(
つみ
)
万死
(
ばんし
)
に
値
(
あたひ
)
すると
言
(
い
)
つて、
568
日夜
(
にちや
)
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
のお
歎
(
なげ
)
き、
569
家来
(
けらい
)
の
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
、
570
これがどうして
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
られませう。
571
そこで
吾々
(
われわれ
)
は
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
にお
暇
(
いとま
)
を
願
(
ねが
)
ひ、
572
一
(
ひと
)
つの
功名
(
こうみやう
)
を
立
(
た
)
て、
573
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
誠
(
まこと
)
を
現
(
あら
)
はし、
574
其
(
その
)
功
(
いさを
)
に
依
(
よ
)
りて
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
の
罪
(
つみ
)
を
赦
(
ゆる
)
して
戴
(
いただ
)
かうと
思
(
おも
)
ひ、
575
それとはなしにお
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
しましたが、
576
どうしても
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
は
吾々
(
われわれ
)
に
暇
(
いとま
)
を
下
(
くだ
)
さらないので、
577
血
(
ち
)
を
吐
(
は
)
くやうな
思
(
おも
)
ひをして、
578
心
(
こころ
)
にも
有
(
あ
)
らぬ
主人
(
しゆじん
)
に
対
(
たい
)
し
罵詈
(
ばり
)
雑言
(
ざふごん
)
を
逞
(
たくま
)
しうし、
579
ヤツと
勘当
(
かんどう
)
されて
此処
(
ここ
)
までやつて
来
(
き
)
ました。
580
モウ
斯
(
こ
)
うなる
上
(
うへ
)
は、
581
仮令
(
たとへ
)
失敗
(
しつぱい
)
を
致
(
いた
)
さうとも、
582
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
の
御
(
おん
)
身
(
み
)
には
何
(
なん
)
の
関係
(
くわんけい
)
も
及
(
およ
)
ぼさないなり、
583
万々一
(
まんまんいち
)
吾々
(
われわれ
)
が
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
を
現
(
あら
)
はした
時
(
とき
)
には
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
に
帰参
(
きさん
)
をお
願
(
ねがひ
)
致
(
いた
)
し、
584
さうして
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
の
名誉
(
めいよ
)
を
回復
(
くわいふく
)
したいばつかりで、
585
両人
(
りやうにん
)
申合
(
まをしあは
)
せ、
586
何
(
なん
)
とか
良
(
い
)
い
御用
(
ごよう
)
をして
見
(
み
)
たいと
思
(
おも
)
つて、
587
此処
(
ここ
)
まで
参
(
まゐ
)
りました。
588
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らあなたは
既
(
すで
)
に
高城山
(
たかしろやま
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
さむと
御
(
ご
)
決心
(
けつしん
)
なされた
以上
(
いじやう
)
は、
589
吾々
(
われわれ
)
はお
供
(
とも
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
590
仮令
(
たとへ
)
成功
(
せいこう
)
を
致
(
いた
)
しましても、
591
それが
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
のお
詫
(
わび
)
の
材料
(
ざいれう
)
にはなりませぬ。
592
あなたは
既
(
すで
)
に
其
(
そ
)
れだけの
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
をお
頂
(
いただ
)
きになつたのだから、
593
此
(
この
)
言霊戦
(
ことたません
)
はどうぞ、
594
私
(
わたくし
)
に
譲
(
ゆづ
)
つて
下
(
くだ
)
さいますまいか』
595
鹿公
(
しかこう
)
『いま
馬公
(
うまこう
)
の
申
(
まを
)
した
通
(
とほ
)
りの
事情
(
じじやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
596
どうぞ、
597
吾々
(
われわれ
)
の
切
(
せつ
)
なる
胸中
(
きようちう
)
をお
察
(
さつ
)
し
下
(
くだ
)
さいまして、
598
今回
(
こんくわい
)
は
吾々
(
われわれ
)
にお
任
(
まか
)
せ
下
(
くだ
)
さいませ。
599
万々一
(
まんまんいち
)
失敗
(
しつぱい
)
を
致
(
いた
)
しました
時
(
とき
)
は、
600
第二軍
(
だいにぐん
)
として、
601
あなた
方
(
がた
)
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
が、
602
弔戦
(
とむらひいくさ
)
をやつて
下
(
くだ
)
さいませぬか』
603
と
涙
(
なみだ
)
をハラハラと
流
(
なが
)
し、
604
真心
(
まごころ
)
を
面
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はして
頼
(
たの
)
みゐる。
605
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『
吾々
(
われわれ
)
も
入信
(
にふしん
)
以来
(
いらい
)
、
606
一
(
ひと
)
つの
功労
(
こうらう
)
もなく、
607
せめては
頑強
(
ぐわんきやう
)
なる
松姫
(
まつひめ
)
を
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し、
608
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
目
(
め
)
にかけたいと
思
(
おも
)
つてやつて
来
(
き
)
たが、
609
武士
(
ぶし
)
は
相身互
(
あひみたがひ
)
だ。
610
それだけの
事情
(
じじやう
)
を
聞
(
き
)
いた
以上
(
いじやう
)
は、
611
強
(
た
)
つて
断
(
ことわ
)
る
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かぬ。
612
ナア
隆光彦
(
たかてるひこ
)
さま、
613
此
(
この
)
言霊戦
(
ことたません
)
は
馬公
(
うまこう
)
、
614
鹿公
(
しかこう
)
に
手柄
(
てがら
)
を
譲
(
ゆづ
)
りませうか。
615
己
(
おのれ
)
の
欲
(
ほつ
)
する
所
(
ところ
)
は
人
(
ひと
)
に
施
(
ほどこ
)
せとの
御
(
ご
)
神勅
(
しんちよく
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
いだ
)
せば、
616
無情
(
むげ
)
に
撥
(
は
)
ねつける
訳
(
わけ
)
にもゆきますまい』
617
隆光彦
(
たかてるひこ
)
『あなたの
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
りです。
618
馬公
(
うまこう
)
、
619
鹿公
(
しかこう
)
、
620
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら
華々
(
はなばな
)
しくやつて
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さい。
621
私
(
わたくし
)
は
彼
(
あ
)
の
川縁
(
かはべり
)
の
景色
(
けしき
)
の
佳
(
よ
)
い
所
(
ところ
)
で、
622
あなたの
武者振
(
むしやぶり
)
を
拝見
(
はいけん
)
致
(
いた
)
します』
623
馬
(
うま
)
、
624
鹿
(
しか
)
『それは
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承諾
(
しようだく
)
、
625
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
626
何分
(
なにぶん
)
身魂
(
みたま
)
の
磨
(
みが
)
けぬ
吾々
(
われわれ
)
の
言霊戦
(
ことたません
)
、
627
蔭
(
かげ
)
乍
(
なが
)
ら
御
(
ご
)
保護
(
ほご
)
を
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
628
隆靖彦
(
たかやすひこ
)
『
天晴
(
あつぱ
)
れ
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
を
現
(
あら
)
はして
下
(
くだ
)
さい』
629
隆光彦
(
たかてるひこ
)
『
大勝利
(
だいしようり
)
を
祈
(
いの
)
ります』
630
馬
(
うま
)
、
631
鹿
(
しか
)
の
両人
(
りやうにん
)
は『
有難
(
ありがた
)
う』と
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
し、
632
二人
(
ふたり
)
に
別
(
わか
)
れ、
633
松姫
(
まつひめ
)
の
館
(
やかた
)
を
指
(
さ
)
してイソイソ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
634
(
大正一一・五・八
旧四・一二
松村真澄
録)
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【第9章 身魂の浄化|第19巻|如意宝珠|霊界物語|/rm1909】
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