霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 波濤(はたう)の夢(ゆめ)〔七三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻 篇:第1篇 流転の涙 よみ(新仮名遣い):るてんのなみだ
章:第3章 波濤の夢 よみ(新仮名遣い):はとうのゆめ 通し章番号:733
口述日:1922(大正11)年06月14日(旧05月19日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年5月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
小糸姫は二人の島人に舟を漕がせて、友彦から逃げ出した。しかし舟が大海原に来ると、二人の島人は小糸姫に襲いかかろうとする。
小糸姫は逃げ回るが、捕まってしまいあわやというところへ、四人の女が乗った一艘の船が疾走して来た。船から一人の女が乗り込んで来て、島人に当て身を食わして小糸姫を助けた。
小糸姫を助けてくれた女は、よくよく見れば、顕恩郷の侍女・今子姫であった。今子姫は小糸姫に両親のところへ帰るように諭すが、小糸姫はどうしても竜宮の一つ島に渡るのだ、と言う。
今子姫は、小糸姫が出奔した後に顕恩郷は三五教に奪い返され、鬼雲彦や鬼熊別もどこかへ逃げてしまったことを告げた。そして自分は今は素盞嗚尊の娘に仕えており、バラモン教と闘って破れ、この船で流されたところだと経緯を物語った。
小糸姫はそれを聞いて、今子姫をバラモン教の裏切り者として身構えるが、四対一で今は敵わないことを悟り、降参の覚悟を決めた。
今子姫は二人の島人に活を入れて起こした。小糸姫は二人に対して、自分はこれから三五教の宣伝使になると宣言し、駄賃を上げてセイロン島に返した。小糸姫は今子姫らの船に乗り込んだ。
五人は船を漕いでオーストラリヤの一つ島に上陸した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-07-27 18:56:09 文字数:4590 OBC :rm2403
愛善世界社版:45頁 八幡書店版:第4輯 627頁 修補版: 校定版:46頁 普及版:21頁 初版: ページ備考:
001 野卑(やひ)下劣(げれつ)なる友彦(ともひこ)の態度(たいど)にぞつ魂(コン)愛想(あいさう)をつかし、002ぞぞがみを立(た)て蛇蝎(だかつ)の如(ごと)く忌(い)み恐(おそ)れたるセイロン島(たう)の女王(ぢよわう)小糸姫(こいとひめ)は、003友彦(ともひこ)が大酒(おほざけ)に酔(よ)ひ潰(つぶ)れ前後(ぜんご)不覚(ふかく)になつた隙(すき)を窺(うかが)ひ三行半(みくだりはん)を後(あと)に残(のこ)し、004黄金(こがね)を腹巻(はらまき)にどつさりと重(おも)い程(ほど)締込(しめこ)み錫蘭(シロ)の港(みなと)より、005黒(くろ)ン坊(ぼう)チヤンキー、006モンキーの二人(ふたり)に船(ふね)を操(あやつ)らせ、007月(つき)照(て)り渡(わた)る海原(うなばら)を力(ちから)限(かぎ)りに辷(すべ)り往(ゆ)く。
008 天上(てんじやう)には浄玻璃(じやうはり)の鏡(かがみ)厳(おごそ)かに懸(かか)り、009大地(だいち)の水陸(すゐりく)森羅(しんら)万象(ばんしやう)を映(うつ)して居(ゐ)る。010小糸姫(こいとひめ)が今(いま)往(ゆ)く此(この)船(ふね)も、011矢張(やは)り月(つき)の面(おも)にかかつた天然画(てんねんぐわ)中(ちう)のものであらう。012小糸姫(こいとひめ)は漸(やうや)く虎口(ここう)を逃(のが)れホツと一息(ひといき)つきながら独言(ひとりごと)………。
013小糸姫『アヽ妾(わたし)程(ほど)罪(つみ)深(ふか)い者(もの)が世(よ)に有(あ)らうか。014山(やま)より高(たか)き父(ちち)の恩(おん)、015海(うみ)より深(ふか)き母(はは)の恩(おん)、016恩(おん)に甘(あま)え、017親(おや)の心(こころ)子(こ)知(し)らずの譬(たとへ)に漏(も)れず、018人(ひと)も有(あ)らうに、019万人(ばんにん)の見(み)て以(もつ)て蛇蝎(だかつ)の如(ごと)く忌(い)み嫌(きら)ふ友彦(ともひこ)のやうな下劣(げれつ)な男(をとこ)に、020何(ど)うして妾(わたし)は迷(まよ)つたであらうか。021我(われ)と我(わが)身(み)が怪(あや)しくなつて来(き)た。022執念深(しふねんぶか)き男(をとこ)の常(つね)として、023嘸(さぞ)今頃(いまごろ)は酔(ゑひ)も醒(さ)め、024四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)し、025我(わが)残(のこ)せし手紙(てがみ)を見(み)てアツト腰(こし)を抜(ぬ)かし、026例(れい)のいかい目(め)を剥(む)き出(だ)し、027嘸(さぞ)や嘸(さぞ)、028腹(はら)を立(た)てて居(ゐ)るだらう。029思(おも)へば可憐(かはい)さうな様(やう)でもあり、030小気味(こぎみ)がよいやうにもある。031妾(わたし)の心(こころ)は鬼(おに)か蛇(じや)か神(かみ)か仏(ほとけ)か、032我(われ)と我(わ)が心(こころ)を解(と)き兼(か)ねる。033それにしてもあの友彦(ともひこ)と云(い)ふ男(をとこ)、034金(かね)さへあれば朝(あさ)から晩(ばん)まで飲(の)み倒(たふ)し、035体(からだ)を砕(くだ)き魂(たましひ)を腐(くさ)らせ、036殆(ほとん)ど人間(にんげん)としての資格(しかく)は最早(もはや)ゼロになつて仕舞(しま)つた所(ところ)だから、037今度(こんど)の驚(おどろ)きで些(ちつ)とは性念(しやうねん)も直(なほ)るであらう。038真人間(まにんげん)にさへなつて呉(く)れたならば、039妾(わたし)とても別(べつ)に憎(にく)みはせぬ。040あの男(をとこ)に一片(いつぺん)良心(りやうしん)の光(ひかり)があれば、041キツト心(こころ)を取(と)り直(なほ)し、042立派(りつぱ)な人間(にんげん)になるであらう。043さすれば今(いま)見捨(みす)てて逃(に)げ出(だ)す妾(わたし)の非常(ひじやう)手段(しゆだん)も、044あの男(をとこ)の為(ため)には却(かへ)つて幸福(かうふく)の種(たね)、045腐(くさ)つた魂(たましひ)は清(きよ)まり、046酒(さけ)に砕(くだ)けた肉体(にくたい)は又(また)元(もと)の如(ごと)く健(すこや)かになり、047神界(しんかい)の為(ため)、048社会(しやくわい)のために、049活動(くわつどう)するだけの神力(しんりき)が備(そな)はるであらう………友彦(ともひこ)殿(どの)、050妾(わたし)が書置(かきおき)を見(み)て嘸(さぞ)憤慨(ふんがい)して居(ゐ)るであらう。051併(しか)し乍(なが)ら之(これ)も妾(わたし)が御(おん)身(み)に対(たい)する恵(めぐみ)の鞭(むち)だと思(おも)つて、052有難(ありがた)く感謝(かんしや)するがよいぞや。053必(かなら)ず必(かなら)ず迷(まよ)うてはならないよ。054破(わ)れ鍋(なべ)に閉(と)ぢ蓋(ぶた)、055それ相当(さうたう)の女(をんな)を見(み)つけ出(だ)して夫婦(ふうふ)仲(なか)よく暮(くら)しやんせ。056提灯(ちやうちん)に釣鐘(つりがね)、057釣(つ)り合(あは)ぬは不縁(ふえん)の基(もと)と云(い)ふ事(こと)は昔(むかし)からの金言(きんげん)友彦(ともひこ)の守護神(しゆごじん)殿(どの)、058肉体(にくたい)、059いざさらば之(これ)にて万劫(まんご)末代(まつだい)お別(わか)れ致(いた)します』
060と頤(あご)をしやくり、061傍(かたはら)に人(ひと)無(な)き如(ごと)き横柄(わうへい)なスタイルにて喋(しやべ)り立(た)てて居(ゐ)る。062無心(むしん)の月(つき)は浄玻璃(じやうはり)の鏡(かがみ)の如(ごと)く真澄(ますみ)の空(そら)に緩(ゆる)やかに懸(かか)り、063小糸姫(こいとひめ)が船中(せんちう)のモノログを床(ゆか)しげに見詰(みつ)めて聞(き)いて居(ゐ)るものの如(ごと)くに思(おも)はれた。064チヤンキー、065モンキーの二人(ふたり)は大海原(おほうなばら)の真中(まんなか)に浮(うか)び出(で)たのを幸(さいは)ひ、066目(め)と目(め)を見合(みあは)せ、067そろそろ肩(かた)を聳(そび)やかせながら体(からだ)迄(まで)四角(しかく)にして、068機械(きかい)人形(にんぎやう)の様(やう)に小糸姫(こいとひめ)の両脇(りやうわき)にチヨコナンと坐(すわ)り、
069チャンキー『何(なん)と今日(けふ)のお月様(つきさま)は、070まんまるい綺麗(きれい)なお顔(かほ)ぢやないか。071恰(まる)で小糸姫(こいとひめ)女王(ぢよわう)のやうな、072玲瓏(れいろう)たる容色(ようしよく)。073空(そら)を仰(あふ)げば如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の如(ごと)き月光(げつくわう)如来(によらい)、074船中(せんちう)を眺(なが)むれば雪(ゆき)を欺(あざむ)く純白(じゆんぱく)の光明(くわうみやう)女来(によらい)の御(ご)出現(しゆつげん)、075俺(おれ)達(たち)も男(をとこ)と生(うま)れた上(うへ)は、076一(ひと)つ此(この)様(やう)な美人(びじん)と握手(あくしゆ)をしたいものだなア、077アハヽヽヽ』
078と作(つく)つたやうな笑(わら)ひ声(ごゑ)を出(だ)す。
079モンキー『オイ、080チヤン、081擽(くすぐ)つたいやうな遠廻(とほまは)しにかけて何(なに)を云(い)ふのだ。082一(いち)里(り)や二(に)里(り)ならまだしもだが、083大空(おほぞら)のお月(つき)さま迄(まで)引張(ひつぱ)り出(だ)しやがつて、084そんな廻(まは)り遠(とほ)い事(こと)は今(いま)の世(よ)には流行(りうかう)せないぞ。085何事(なにごと)も簡単(かんたん)敏捷(びんせう)を貴(たつと)ぶ世(よ)の中(なか)だ。086海底(うなそこ)にも此(この)通(とほ)り立派(りつぱ)な月(つき)が浪(なみ)のまにまに漂(ただよ)うて居(ゐ)る。087月(つき)の上(うへ)を渡(わた)る此(この)船(ふね)は、088天人(てんにん)の乗(の)つた天(あま)の鳥船(とりふね)も同様(どうやう)だ。089これ見(み)よ………海(うみ)の底(そこ)には幾十万(いくじふまん)とも知(し)れぬ星(ほし)の影(かげ)、090月(つき)と月(つき)、091星(ほし)と星(ほし)とに包(つつ)まれた此(この)大空(おほぞら)仮令(たとへ)俺(おれ)達(たち)の色(いろ)が黒(くろ)いと云(い)うても、092唇(くちびる)が厚(あつ)いと云(い)うても、093最早(もはや)此(この)通(とほ)り天上(てんじやう)を翔(かけ)る様(やう)になつたのだから、094顕恩郷(けんおんきやう)のお姫(ひめ)様(さま)に何(なに)遠慮(ゑんりよ)する事(こと)があるものかい。095僅(わづ)か十六(じふろく)歳(さい)の繊弱(かよわ)き女(をんな)、096此(この)通(とほ)り頑丈(ぐわんぢやう)な鉄(てつ)のやうな固(かた)い腕(うで)をした我々(われわれ)の自由(じいう)にならぬ道理(だうり)があるか。097際限(さいげん)も無(な)き此(この)海原(うなばら)、098何一(なにひと)つ楽(たの)しみなくして何(ど)うして之(これ)が勤(つと)まらう。099………これ小糸姫(こいとひめ)さま、100お前(まへ)の家来(けらい)だと云(い)うて連(つ)れて居(を)つた友彦(ともひこ)の鼻曲(はなまが)りや、101出歯亀(でばがめ)に比(くら)ぶれば幾層倍(いくそうばい)立派(りつぱ)だか知(し)れやしまい。102色(いろ)は黒(くろ)うても浅漬(あさづけ)茄子(なすび)、103何(ど)うだ一(ひと)つ妥協(だけふ)をやらうではないか』
104小糸姫『ホヽヽヽヽ、105これ二人(ふたり)の黒(くろ)ン坊(ばう)さま、106冗談(じようだん)を云(い)ふにも程(ほど)がある。107女(をんな)だと思(おも)うて無礼(ぶれい)な事(こと)をなさると了見(りやうけん)はせぬぞエ』
108チャンキー『アハヽヽヽ、109見事(みごと)云(い)ふだけの事(こと)は仰有(おつしや)りますワイ。110まさかの時(とき)になれば言論(げんろん)よりも実力(じつりよく)が勝(か)つ世(よ)の中(なか)だ。111もうかうなつちや此(この)方(はう)の自由(じいう)自在(じざい)、112何事(なにごと)も因縁(いんねん)ぢやと諦(あきら)めて我々(われわれ)の要求(えうきう)を全部(ぜんぶ)容(い)れるがお前(まへ)さまの身(み)の為(ため)だ。113可憐(かはい)さうに、114あれ程(ほど)焦(こが)れて居(を)つた友彦(ともひこ)を酒(さけ)を飲(の)まして酔潰(ゑひつぶ)し、115其(その)間(ま)にすつかり路銀(ろぎん)を腹(はら)に巻(ま)き、116逃(に)げ出(だ)すと云(い)ふ大(だい)それた年(とし)にも似合(にあ)はぬ豪胆者(がうたんもの)、117後(あと)に残(のこ)つた友彦(ともひこ)は………僅(わづ)か肩揚(かたあげ)の取(と)れた計(ばか)りの小娘(こむすめ)に三十(さんじふ)男(をとこ)が馬鹿(ばか)にされ、118どうして世間(せけん)に顔出(かほだ)しがなるものか、119「エヽ残念(ざんねん)や口惜(くちをし)や、120仮令(たとへ)千尋(ちひろ)の海(うみ)の底(そこ)迄(まで)も小糸(こいと)の後(あと)を探(たづ)ねて、121恨(うら)みを云(い)はねば死(し)んでも死(し)ねぬ」………と恨(うら)んだ男(をとこ)の魂(たましひ)が結晶(けつしやう)して副(ふく)守護神(しゆごじん)となり我々(われわれ)両人(りやうにん)にすつかり憑依(のりうつ)つたのだ、122因縁(いんねん)と云(い)ふものは恐(おそ)ろしいものだらう。123かう申(まを)す言葉(ことば)は決(けつ)して黒(くろ)ン坊(ばう)が云(い)ふのではない、124友彦(ともひこ)の霊魂(みたま)が口(くち)を籍(か)つて云(い)うて居(ゐ)るのだ。125さア返答(へんたふ)は如何(どう)だ』
126と形相(ぎやうさう)凄(すさま)じく肩肱(かたひぢ)を怒(いか)らせ汗臭(あせくさ)い体(からだ)で両方(りやうはう)から詰寄(つめよ)せて来(く)る。
127小糸姫『ホヽヽヽヽ、128これこれ黒(くろ)ン坊(ばう)さま、129何(なん)ぢやお前(まへ)は、130卑怯(ひけふ)千万(せんばん)な、131友彦(ともひこ)の霊魂(れいこん)だなぞと……なぜ黒(くろ)ン坊(ばう)のチヤンキー、132モンキーが女王(ぢよわう)さまに惚(ほ)れましたと、133キツパリ云(い)はぬのだい』
134チャンキー『ヤア割(わり)とは開(ひら)けた女王(ぢよわう)様(さま)だ。135それも其(その)筈(はず)十五(じふご)やそこらで大(おほ)きな男(をとこ)を翻弄(ほんろう)し故郷(こきやう)を飛(と)び出(だ)すやうな阿婆摺(あばず)れ女(をんな)だから、136其(その)位(くらゐ)な度胸(どきよう)は有(あ)りさうなものだ。137そんなら小糸姫(こいとひめ)さま、138改(あらた)めて私(わたし)等(ら)二人(ふたり)は、139お前(まへ)さまに心(こころ)の底(そこ)から、140スヰートハートをして居(ゐ)るのだ。141余(あま)り憎(にく)うもありますまい』
142小糸姫『ホヽヽヽヽ、143あゝさうですかいな。144それ程(ほど)私(わたし)に御(ご)執着(しふちやく)ですかな。145矢張(やつぱり)天下(てんか)無双(むさう)のナイスでせう』
146モンキー『ナイスは云(い)はぬでも分(わか)つて居(ゐ)る。147何(ど)うだ、148吾々(われわれ)両人(りやうにん)の思召(おぼしめし)を聞(き)いて下(くだ)さるのか』
149小糸姫『妾(わたし)は聾(つんぼ)ぢやありませぬよ。150最前(さいぜん)から一言(ひとこと)も残(のこ)らず聞(き)いて居(ゐ)るぢやありませぬか』
151チャンキー『ソンナ聞(き)きやうとは違(ちが)ひますワイ。152要(えう)するに、153吾々(われわれ)の要求(えうきう)を容(い)れて下(くだ)さるかと云(い)ふのだ』
154小糸姫『アタ阿呆(あはう)らしい、155誰(たれ)が炭団玉(たどんだま)のやうな黒(くろ)い男(をとこ)に秋波(しうは)を送(おく)りますか、156烏(からす)の芝居(しばゐ)だと思(おも)つて、157最前(さいぜん)から、158面白(おもしろ)可笑(をか)しう観覧(くわんらん)して居(ゐ)るのだよ』
159チャンキー『コラ阿魔女(あまつちよ)……かう見(み)えても俺(おれ)は男(をとこ)だぞ。160女(をんな)の癖(くせ)に、161裸一貫(はだかいつくわん)の大男(おほをとこ)を嘲弄(てうろう)するのか』
162小糸姫『何程(なにほど)胴殻(どうがら)は大(おほ)きうても、163お前(まへ)の肝(きも)は余(あま)り小(ちひ)さいから、164サツク迄(まで)が矢張(やつぱり)小(ちひ)さく見(み)えて仕方(しかた)がないワ』
165チャンキー『何処迄(どこまで)も吾々(われわれ)を馬鹿(ばか)にするのだな。166よしよし、167この船(ふね)を何処(どこ)へやらうと俺(おれ)達(たち)の勝手(かつて)だから、168往生(わうじやう)する所(ところ)迄(まで)苦(くる)しめてやるからさう思(おも)へ』
169小糸姫『同(おな)じ船(ふね)に乗(の)つた以上(いじやう)は、170妾(わたし)の苦(くる)しい時(とき)は矢張(やつぱり)お前(まへ)も苦(くる)しいのだ。171妾(わたし)はかうしてお客(きやく)さまだから手(て)を束(つか)ねて見(み)て居(ゐ)るが、172お前(まへ)達(たち)は労働(らうどう)せなくては一(いち)日(にち)も暮(く)れない身分(みぶん)だ。173常世(とこよ)の国(くに)の果(はて)迄(まで)なりと勝手(かつて)に漕(こ)いで往(い)つたがよからう。174妾(わたし)は此(この)広々(ひろびろ)とした此(この)海面(かいめん)を天国(てんごく)のやうに思(おも)うて、175仮令(たとへ)三(さん)年(ねん)でも十(じふ)年(ねん)でも漂(ただよ)うて居(ゐ)るのが好(す)きなのだ』
176チャンキー『何(なん)と豪胆(がうたん)な女(をんな)だな。177流石(さすが)は鬼熊別(おにくまわけ)の血(ち)の流(なが)れを受(う)けた丈(だけ)あつて、178どことはなしに違(ちが)つた所(ところ)があるワイ。179なア、180モンキー、181用心(ようじん)せぬと此奴(こいつ)は化物(ばけもの)か知(し)れないぞ。182何程(なにほど)胆力(たんりよく)があると云(い)うても十五(じふご)や十六(じふろく)で之(これ)だけ胴(どう)の据(す)わる筈(はず)がない。183三五教(あななひけう)の守護(しゆご)を致(いた)して居(ゐ)る高倉(たかくら)か旭(あさひ)の化身(けしん)かも知(し)れない。184………オイ一寸(ちよつと)尻(しり)をあげて見(み)い。185尻尾(しつぽ)でも下(さ)げて居(ゐ)やがりやせぬか』
186と小糸姫(こいとひめ)の背部(はいぶ)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)見詰(みつ)めながら、
187チャンキー『矢張(やつぱり)此奴(こいつ)は正真(しやうしん)正銘(しやうめい)の小糸姫(こいとひめ)だ。188………オイ、189モンキー愈(いよいよ)是(これ)から不言(ふげん)実行(じつかう)だ』
190モンキー『ヨシ合点(がつてん)だ』
191とモンキーは前(まへ)より、192チヤンキーは後(うしろ)より小糸姫(こいとひめ)に武者(むしや)振(ぶ)りつき、193手籠(てごめ)にせむと飛(と)び掛(かか)るを小糸姫(こいとひめ)は右(みぎ)に左(ひだり)にぬるりぬるりと身(み)を躱(かは)し、194暫(しば)し揉(も)み合(あ)ひ居(ゐ)たりしが、195強力(がうりき)なる二人(ふたり)の男(をとこ)に取(と)り押(おさ)へられ「キヤツ」と叫(さけ)ぶ折(をり)しも、196四(よ)人(にん)の乗(の)つた一艘(いつそう)の船(ふね)、197此(この)場(ば)に浪(なみ)を切(き)つて疾走(しつそう)し来(きた)り、198一人(ひとり)の女(をんな)は二人(ふたり)の男(をとこ)に当身(あてみ)を喰(く)はしたれば、199二人(ふたり)は脆(もろ)くも船(ふね)の中(なか)にウンと云(い)つたきり大(だい)の字(じ)になり打(う)ち倒(たふ)れける。
200 小糸姫(こいとひめ)は思(おも)はぬ助(たす)け船(ぶね)のために危難(きなん)を救(すく)はれ、201一人(ひとり)の女(をんな)に向(むか)ひ、
202小糸姫『危(あやふ)い所(ところ)をお救(すく)ひ下(くだ)さいまして有難(ありがた)う御座(ござ)います』
203と月夜(つきよ)に透(す)かし見(み)て、
204小糸姫『貴女(あなた)は今子姫(いまこひめ)様(さま)、205何(ど)うしてまア斯様(かやう)な所(ところ)へ御(お)入来(いで)遊(あそ)ばしました』
206と聞(き)かれて今子姫(いまこひめ)は驚(おどろ)き、
207今子姫『さう云(い)ふ貴女(あなた)は顕恩郷(けんおんきやう)の副棟梁(ふくとうりやう)様(さま)のお娘子(むすめご)、208小糸姫(こいとひめ)様(さま)では御座(ござ)いませぬか。209去年(きよねん)の春(はる)、210友彦(ともひこ)の宣伝使(せんでんし)と手(て)に手(て)を取(と)つて何処(いづく)へかお越(こ)し遊(あそ)ばし、211御(ご)両親(りやうしん)のお歎(なげ)きは一通(ひととほ)りでは御座(ござ)いませぬ。212傍(そば)の見(み)る目(め)もお気(き)の毒(どく)で耐(たま)りませなんだ。213さア貴女(あなた)は一(いち)日(にち)も早(はや)くお帰(かへ)り遊(あそ)ばして、214御(ご)両親(りやうしん)に御(ご)安心(あんしん)おさせ遊(あそ)ばすが宜(よろ)しからう』
215小糸姫『イエイエ何(ど)うあつても妾(わたし)は竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)へ参(まゐ)らねばなりませぬ。216少(すこ)し様子(やうす)あつて友彦(ともひこ)に別(わか)れ、217今(いま)渡海(とかい)の途中(とちう)で御座(ござ)います。218顕恩郷(けんおんきやう)の本山(ほんざん)は益々(ますます)隆盛(りうせい)で御座(ござ)いますか』
219今子姫『私(わたし)は三五教(あななひけう)の大神(おほかみ)、220素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)の御(お)娘子(むすめご)五十子(いそこ)姫(ひめ)様(さま)の侍女(じぢよ)となり、221三五教(あななひけう)の信者(しんじや)で御座(ござ)いましたが、222鬼雲彦(おにくもひこ)様(さま)や、223貴女(あなた)の御(ご)両親(りやうしん)に改心(かいしん)して頂(いただ)かうと、224種々(いろいろ)心(こころ)は砕(くだ)きましたなれど何(ど)うしても駄目(だめ)、225とうとう天(あめ)の太玉(ふとだまの)命(みこと)の宣伝使(せんでんし)が御(お)入来(いで)になり、226鬼雲彦(おにくもひこ)初(はじ)め、227御(ご)両親(りやうしん)は何処(どこ)へか身(み)を匿(かく)され、228顕恩郷(けんおんきやう)は今(いま)や三五教(あななひけう)の霊場(れいぢやう)となつて居(を)ります。229そして妾(わたし)は五十子(いそこ)姫(ひめ)様(さま)、230梅子姫(うめこひめ)様(さま)と宣伝(せんでん)の途中(とちう)、231片彦(かたひこ)、232釘彦(くぎひこ)等(ら)部下(ぶか)の為(ため)に促(とら)へられ、233此(この)船(ふね)に乗(の)せて流(なが)されました途中(とちう)で御座(ござ)います』
234と聞(き)いて小糸姫(こいとひめ)は大(おほ)いに驚(おどろ)き、
235小糸姫『さすれば貴女(あなた)は三五教(あななひけう)に寝返(ねがへ)りを打(う)つた謀反人(むほんにん)。236鬼雲彦(おにくもひこ)様(さま)を初(はじ)め、237妾(わたし)の両親(りやうしん)の敵(かたき)も同様(どうやう)、238サア此(この)上(うへ)は覚悟(かくご)をなされ』
239と懐剣(くわいけん)をスラリと抜(ぬ)いて斬(き)り掛(かか)らうとする。240五十子(いそこ)姫(ひめ)、241梅子姫(うめこひめ)、242宇豆姫(うづひめ)は、243乗(の)り来(き)し船(ふね)の上(うへ)より、244騒(さわ)がず焦(あせ)らず端然(たんぜん)として此(この)光景(くわうけい)を打(う)ち看守(みまも)つて居(ゐ)る。245今子姫(いまこひめ)は言葉(ことば)淑(しと)やかに、
246今子姫『マアマアお鎮(しづ)まり遊(あそ)ばせ。247何程(なにほど)貴女(あなた)がお焦慮(いらち)なさつても、248此(この)通(とほ)り此方(こちら)は四(よ)人(にん)の女(をんな)、249貴女(あなた)は一人(ひとり)、250到底(たうてい)駄目(だめ)ですよ。251それより貴女(あなた)の度胸(どきよう)を活用(くわつよう)し、252竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)へ渡(わた)りお道(みち)の宣伝(せんでん)を開始(かいし)なさつたら何(ど)うでせう。253妾(わたし)もお力(ちから)になりまする』
254 小糸姫(こいとひめ)は勝敗(しようはい)の数(すう)既(すで)に決(けつ)せりと覚悟(かくご)を極(き)め、
255小糸姫『世界(せかい)は皆(みな)神(かみ)様(さま)のお造(つく)り遊(あそ)ばしたもの、256謂(い)はば世界(せかい)の人間(にんげん)は神(かみ)様(さま)の御子(みこ)で御座(ござ)います。257神(かみ)の目(め)から御覧(ごらん)になれば妾(わたし)も貴女(あなた)も皆(みな)姉妹(きやうだい)、258今迄(いままで)の事(こと)はスツカリと河(かは)へ流(なが)しイヤ海(うみ)に流(なが)し、259相(あひ)提携(ていけい)して神(かみ)様(さま)に奉仕(ほうし)しようではありませぬか』
260今子姫『それは真(まこと)に結構(けつこう)で御座(ござ)います。261……五十子(いそこ)姫(ひめ)様(さま)、262梅子姫(うめこひめ)様(さま)、263宇豆姫(うづひめ)様(さま)、264貴女(あなた)方(がた)の御(お)考(かんが)へは如何(どう)でせう』
265 三(さん)人(にん)一度(いちど)に頷(うなづ)く。
266今子姫『アレ彼(あ)の通(とほ)りお三(さん)人(にん)共(とも)、267妾(わたし)と御(ご)同感(どうかん)、268さア是(これ)から御(ご)一緒(いつしよ)に一(ひと)つの船(ふね)で参(まゐ)りませう。269併(しか)し乍(なが)ら二人(ふたり)の男(をとこ)に活(くわつ)を入(い)れ、270助(たす)けてやらねばなりますまい』
271と今子姫(いまこひめ)は『ウン』と力(ちから)を籠(こ)めて活(くわつ)を入(い)れた。272忽(たちま)ち二人(ふたり)は正気(しやうき)づき涙(なみだ)を流(なが)して謝罪(あやま)つて居(ゐ)る。
273小糸姫『これはこれは二人(ふたり)の黒(くろ)ン坊(ばう)さま、274長々(ながなが)御(ご)苦労(くらう)であつた。275妾(わたし)は是(これ)より三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)となつて、276世界(せかい)の隅々(すみずみ)迄(まで)巡歴(じゆんれき)するから、277お前(まへ)達(たち)はこれで帰(かへ)つてお呉(く)れ』
278と懐中(くわいちゆう)より小判(こばん)を取(と)り出(だ)し投(な)げやれば、279二人(ふたり)は押(お)し頂(いただ)き、
280チャンキー、モンキー『誠(まこと)に御(ご)無礼(ぶれい)を到(いた)しました上(うへ)に、281之(これ)程(ほど)沢山(たくさん)お金(かね)を頂戴(ちやうだい)致(いた)しまして有(あ)り難(がた)う御座(ござ)います。282左様(さやう)なれば貴女(あなた)は彼方(あちら)の船(ふね)にお乗(の)り下(くだ)さいませ。283私(わたし)共(ども)は此(この)船(ふね)で錫蘭(シロ)の港(みなと)に引返(ひきかへ)します、284万一(まんいち)友彦(ともひこ)様(さま)に遇(あ)うたら何(ど)う申(まを)して置(お)きませうか』
285小糸姫『アー知(し)らないと云(い)うて置(お)くが無難(ぶなん)でよからう』
286 二人(ふたり)は『ハイ有難(ありがた)う』と感謝(かんしや)し乍(なが)ら手早(てばや)く櫓(ろ)を操(あやつ)り、287東北(とうほく)さして漕(こ)ぎ帰(かへ)る。288茲(ここ)に五(ご)人(にん)の女(をんな)は代(かは)る代(がは)る櫓(ろ)を操(あやつ)りながら、289浪(なみ)のまにまに流(なが)されて、290遂(つひ)にオーストラリヤの一(ひと)つ島(じま)に無事(ぶじ)上陸(じやうりく)する事(こと)となりける。
291(大正一一・六・一四 旧五・一九 加藤明子録)
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