霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 メラの滝(たき)〔七三七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻 篇:第2篇 南洋探島 よみ(新仮名遣い):なんようたんとう
章:第7章 メラの滝 よみ(新仮名遣い):めらのたき 通し章番号:737
口述日:1922(大正11)年07月02日(旧閏05月08日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年5月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
南洋一の竜宮島とも讃えられるアンボイナ島は、雄島と雌島に分かれている。この地方の島には良い水がないのだが、アンボイナ島だけは島の至るところに清泉が湧き出している。雌島にはまた雄滝と雌滝(メラの滝)が懸っている。雌滝は人口の滝である。
蜈蚣姫と高姫の一行は、三個の宝玉はこの島に隠してあるだろうと慌てて上陸した。しかし船を磯端につないでおくことを忘れてしまったため、船はたちまち沖に流されてしまった。
そうとも知らない一行は島の奥地へと進んで行った。清らかな水で水垢離を取り、当たりの木の実を食べて元気が回復した一行は、玉への執着に憑かれて、それこそ島中の石や土をひっくり返して玉探しを続けた。その期間はほとんど三ケ月に及んだ。
蜈蚣姫と高姫は今度は磯辺に降りて大石小石を残らずひっくり返したが、玉らしきものはどこにも見当たらなかった。
スマートボールがようやく船が無いことに気づいて、蜈蚣姫と高姫に報告した。高姫は船の管理責任者を言いつけていた貫州に尋ねるが、貫州は高姫の本守護神が船を放り出せと言ったのだ、と答える。
蜈蚣姫に責任を問われた高姫は、捨て鉢になって、この島で天寿を楽しめば良いだの、海賊船が来たら奪えばいいだのと言って寝転がってしまう。バラモン教徒たちは高姫の我の強さにあきれてめいめい適当な場所に身を横たえて腰を据えた。
高姫は雄滝の麓に横たわって夢を見始めた。起きてみると辺りに誰もいないが、蓑笠などは置いてある。高姫は雌滝の方へと探しに歩いて行くが、濃霧に包まれてしまう。高姫は雌滝の側にしゃがんで、バラモン教の連中はどうなってもよいが、貫州に会わせてくれ、と祈願する。
貫州は雌滝の上に座っていたが、高姫のこの祈願を聞くと、濃霧を幸い造り声をして日の出神の託宣を始めた。高姫は自分こそ日の出神だと逆に説教を始める。貫州はおかしさに耐えかねて、押し殺した笑い声を発する。
高姫は貫州の笑い声をいぶかしみ、邪神の仕業と思ってますます叱り出す。そこへ蜈蚣姫がやってきた。貫州はまた造り声をしながら、高姫はバラモン教徒と表面心を合わせているだけで、実際には玉が手に入れば蜈蚣姫などはどうでもよいのだろう、と託宣する。
高姫は迷惑そうな顔をして、蜈蚣姫に邪神が仲たがいをさせようと思って言っているのだから気をつけるように、と釈明する。貫州は日の出神の声色で、蜈蚣姫に対して高姫に気をつけるように言ったり、蜈蚣姫の過去の行動を非難したりと二人を翻弄している。
すると島特産の巨大な熊蜂が飛んできて、高姫の頭にぶつかって蜈蚣姫の鼻に当たった。蜂は蜈蚣姫の鼻を針で刺した。
蜈蚣姫は高姫が不意打ちを食わせたと思って、バラモン教徒を呼んだ。高姫は一生懸命自分ではないと釈明する。貫州は、まだ滝の上から日の出神の託宣の真似をして滑稽なことを言っている。
やがて濃霧が晴れてきた。貫州は顔を見られまいとした途端に足を踏み外して、高姫の側へ落ちてきた。高姫に見咎められた貫州は、高姫の本守護神が自分にうつったのだと誤魔化す。
二人は、蜂に刺されて苦しんでいる蜈蚣姫を介抱しようとするが、蜈蚣姫は高姫が近づいてきたのを幸い、腹立ち紛れにかきむしった。
バラモン教徒たちはその場へ集まってきて、この光景を見てポカンと立ち尽くしている。そこへ三五教の宣伝歌が聞こえてくる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-08-01 16:50:53 文字数:5916 OBC :rm2407
愛善世界社版:103頁 八幡書店版:第4輯 649頁 修補版: 校定版:105頁 普及版:48頁 初版: ページ備考:
001 瀬戸(せと)の海(うみ)、002小豆(せうど)ケ島(しま)を船出(ふなで)してより、003大島(おほしま)、004琉球島(りうきうじま)、005台湾(たいわん)、006ヒリツピン群島(ぐんたう)をいつしか越(こ)えて、007南洋一(なんやういち)の竜宮島(りうぐうじま)と聞(きこ)えたる、008アンボイナ島(たう)の一角(いつかく)に高姫(たかひめ)の一行(いつかう)は漸(やうや)く到着(たうちやく)したり。
009 総(すべ)て此(この)方面(はうめん)には濁水(だくすゐ)漲(みなぎ)り飲料水(いんれうすゐ)は唯(ただ)天水(てんすゐ)を受(う)けて使用(しよう)するのみである。010然(しか)るに此(この)島(しま)計(ばか)りは竜宮島(りうぐうじま)と称(しよう)するだけありて、011島(しま)の到(いた)る所(ところ)に清泉(せいせん)湧(わ)き出(い)で、012且(か)つ島(しま)は二(ふた)つに分(わ)かれ雄島(をしま)、013雌島(めしま)と称(とな)へられて居(ゐ)る。014雌島(めしま)の方(はう)には釣岩(つりいは)の滝(たき)、015一名(いちめい)雄滝(をだき)、016及(およ)びメラの滝(たき)、017一名(いちめい)雌滝(めだき)の二(ふた)つの竜琴(りうきん)が懸(かか)つて居(ゐ)る。018さうして雄滝(をだき)の方(はう)は岩(いは)と岩(いは)との間(あひだ)より囂々(がうがう)として流(なが)れ落(お)ち、019雌滝(めだき)の方(はう)は大木(たいぼく)の根本(ねもと)より湧(わ)き出(い)づる稍(やや)細(ほそ)き水(みづ)を、020人工(じんこう)をもつて筧(かけひ)を作(つく)り滝(たき)として居(ゐ)るのである。021此(この)島(しま)は世界(せかい)の所在(あらゆる)草木(さうもく)繁茂(はんも)し、022数多(あまた)の屹然(きつぜん)たる岩島(いはしま)の中(なか)に樹木(じゆもく)蒼然(さうぜん)として特(とく)に目(め)だつた宝島(たからじま)である。023酷熱(こくねつ)の夏(なつ)の日(ひ)も此(この)滝(たき)の辺(ほとり)に往(ゆ)けば樹葉(じゆえう)天(てん)を封(ふう)じ、024瀑(たき)は淙々(そうそう)として清(きよ)く落下(らくか)し、025万斛(ばんこく)の涼味(りやうみ)を湛(たた)へたる実(じつ)に南洋(なんやう)第一(だいいち)の天国(てんごく)浄土(じやうど)とも称(しよう)すべき聖地(せいち)なりける。
026 高姫(たかひめ)、027蜈蚣姫(むかでひめ)は第一(だいいち)に此(この)島(しま)に目(め)をつけ、028玉能姫(たまのひめ)が匿(かく)し置(お)いたる三個(さんこ)の宝玉(ほうぎよく)は、029テツキリ此(この)島(しま)に納(をさ)まりあるならむと、030既(すで)に既(すで)に宝玉(ほうぎよく)を手(て)に入(い)れた如(ごと)く喜(よろこ)び勇(いさ)み、031先(さき)を争(あらそ)うて上陸(じやうりく)し、032雄滝(をだき)の方(はう)に向(むか)つて歩(ほ)を進(すす)めた。033余(あま)りの嬉(うれ)しさに船(ふね)を磯端(いそばた)に繋(つな)ぐ事(こと)を忘(わす)れた。034折柄(をりから)の稍(やや)強(つよ)き風(かぜ)に、035船(ふね)は一瀉(いつしや)千里(せんり)の勢(いきほひ)で沖(おき)の彼方(あなた)に流(なが)れ去(さ)つて仕舞(しま)つた。036されど一行(いつかう)は船(ふね)の流(なが)れたる事(こと)を夢(ゆめ)にも悟(さと)らず、037意気(いき)揚々(やうやう)として釣岩(つりいは)の滝(たき)の麓(ふもと)に進(すす)み、038汗染(あせば)んだ着衣(ちやくい)を脱(ぬ)ぎ捨(す)て、039我一(われいち)に涼味(りやうみ)を味(あぢは)はむと滝壺(たきつぼ)に飛(と)び込(こ)み、040一生(いつしやう)懸命(けんめい)に蘇生(そせい)した気持(きもち)で神言(かみごと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めたり。
041 三日(みつか)三夜(みよさ)一同(いちどう)は水垢離(みづごり)をとり元気(げんき)も恢復(くわいふく)し、042四辺(あたり)の新鮮(しんせん)なる木(こ)の実(み)を食(く)ひ勢(いきほひ)頓(とみ)に加(くは)はり、043弥(いよいよ)全島(ぜんたう)残(のこ)らず玉(たま)の捜索(そうさく)に係(かか)る事(こと)となつた。044高姫(たかひめ)は雌島(めしま)を、045蜈蚣姫(むかでひめ)は雄島(をしま)と部署(ぶしよ)を定(さだ)めて、046些(すこ)しにても怪(あや)しき石(いし)と見(み)れば引(ひ)き剥(めく)り、047山(やま)の芋(いも)を掘(ほ)るやうに、048こぐちから掻(か)き廻(まは)し、049此(この)島(しま)に毛氈(まうせん)の如(ごと)く敷(し)き詰(つ)めたる麗(うるは)しき青苔(あをこけ)を残(のこ)らず引繰返(ひつくりかへ)したるに、050苔(こけ)の下(した)よりは怪(あや)しき形(かたち)したる蛇(へび)、051蜈蚣(むかで)、052守宮(やもり)、053蜥蜴(とかげ)の類(るゐ)間断(かんだん)なく現(あら)はれ来(きた)り、054高姫(たかひめ)其(その)他(た)一同(いちどう)の体(からだ)を目蒐(めが)けて飛(と)びつき喰(くら)ひつく嫌(いや)らしさ、055されど玉(たま)の行方(ゆくへ)に魂(たましひ)を抜(ぬ)かれた一行(いつかう)は何(なん)の頓着(とんちやく)もなく『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』を口々(くちぐち)に唱(とな)へながら、056時間(じかん)を構(かま)はず疲(つか)れては休息(きうそく)し、057喉(のど)が渇(かわ)けば水(みづ)を掬(すく)ひ、058腹(はら)が空(す)けば随所(ずいしよ)の果物(くだもの)をむしり喰(く)ひながら、059向上虫(かうじやうむし)が梅(うめ)の大木(たいぼく)を一葉(ひとは)も残(のこ)らず食(く)ひ尽(つく)すやうな勢(いきほひ)で、060島山(しまやま)の頂(いただ)きまで残(のこ)らず土(つち)を引繰返(ひつくりかへ)し、061苔(こけ)を剥(めく)り捜索(そうさく)し終(をは)りたり。062其(その)間(かん)殆(ほとん)ど三(さん)ケ月(げつ)を要(えう)したりける。
063 高姫(たかひめ)、064蜈蚣姫(むかでひめ)は執念深(しふねんぶか)くも今度(こんど)は磯辺(いそべ)に下(お)り、065大石(おほいし)小石(こいし)をこぐちより一(ひと)つも残(のこ)さず引繰(ひつく)り返(かへ)し調(しら)べ見(み)たれど船虫(ふなむし)や蟹(かに)計(ばか)りで、066玉(たま)らしきものは一(ひと)つも見当(みあた)らざりけり。067流石(さすが)の高姫(たかひめ)、068蜈蚣姫(むかでひめ)も根気(こんき)尽(つ)き、069又(また)もや雄滝(をだき)の麓(ふもと)に集(あつ)まり来(きた)り、070胴(どう)を据(す)ゑて水垢離(みづごり)にかかる事(こと)となりぬ。071磯辺(いそべ)を各自(めいめい)調(しら)べながら玉(たま)に心(こころ)を取(と)られて、072乗(の)り来(きた)りし船(ふね)の影(かげ)だに無(な)き事(こと)に気(き)の付(つ)く者(もの)は一人(ひとり)もなかりけり。
073 七日(なぬか)七夜(ななよさ)ばかり滝壺(たきつぼ)を中心(ちうしん)に水垢離(みづごうり)を取(と)つて居(ゐ)たスマートボールは、074一人(ひとり)海辺(うみべ)に出(い)でよくよく見(み)れば船(ふね)の姿(すがた)なきに打(う)ち驚(おどろ)き、075島(しま)の廻(まは)りを何回(なんくわい)となく廻(まは)つて調(しら)べ見(み)たるが、076一向(いつかう)見当(みあた)らず、077驚(おどろ)いて滝壺(たきつぼ)の前(まへ)に現(あらは)れ来(きた)り、
078スマートボール『高姫(たかひめ)様(さま)、079蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)、080大変(たいへん)で御座(ござ)います』
081と顔色(かほいろ)を変(か)へて云(い)ふ。082蜈蚣姫(むかでひめ)は口(くち)を尖(とが)らして、
083蜈蚣姫『大変(たいへん)とは何(なん)だエ、084玉(たま)の所在(ありか)が分(わか)つたのか』
085スマートボール『ソンナ気楽(きらく)な事(こと)ですかいな。086船(ふね)が薩張(さつぱり)逃(に)げて仕舞(しま)ひましたよ』
087蜈蚣姫『何(なに)、088船(ふね)が逃(に)げた……なぜ追(お)つかけて引張(ひつぱ)つて来(こ)ぬのだい』
089スマートボール『逃(に)げたか沈(しづ)みたか、090皆目(かいもく)行方(ゆくへ)が分(わか)らないのですもの』
091蜈蚣姫『そりや大変(たいへん)だ、092高姫(たかひめ)さま、093何(ど)うしませう』
094高姫『さてもさても気(き)の利(き)かぬ者(もの)計(ばか)りだな。095……これ貫州(くわんしう)さま、096お前(まへ)は船(ふね)の責任者(せきにんしや)だ。097一体(いつたい)何(ど)うして置(お)いたのだい』
098貫州『何(ど)うも斯(か)うもありませぬワ。099日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)が私(わたし)に憑(うつ)つて船(ふね)をかやせと仰有(おつしや)つた。100それ故(ゆゑ)高姫(たかひめ)さまの本(ほん)守護神(しゆごじん)の御(ご)命令(めいれい)によつて、101何処(いづこ)なりと勝手(かつて)に往(ゆ)けと放(はう)り出(だ)しました。102あの船(ふね)は竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)に着(つ)くのが目的(もくてき)だから、103遊(あそ)ばして置(お)くのも勿体(もつたい)ないと思(おも)つて、104独(ひと)り活動(くわつどう)さして置(お)きましたよ。105やがて目的(もくてき)を達(たつ)するでせう』
106高姫『お前(まへ)は何(なん)と云(い)ふ馬鹿(ばか)なのだ、107船(ふね)計(ばか)り行(い)つた処(ところ)で、108我々(われわれ)の肉体(にくたい)が往(ゆ)かねば何(なん)にもならぬぢやないか。109船(ふね)が無(な)ければ、110何時(いつ)迄(まで)も此(この)島(しま)に蟄居(ちつきよ)して居(を)らねばならぬぢやないかい』
111貫州『それでも貴女(あなた)は人間(にんげん)の肉(にく)の宮(みや)は神(かみ)の容器(いれもの)と仰有(おつしや)つたでせう。112日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)も、113大黒主(おほくろぬしの)命(みこと)も、114蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)の本(ほん)守護神(しゆごじん)も、115今頃(いまごろ)はあの船(ふね)に乗(の)つて、116目的地(もくてきち)に安着(あんちやく)して居(ゐ)るでせう。117此(この)島(しま)に上(あが)つてから百(ひやく)日(にち)以上(いじやう)になりますから、118何程(なにほど)遠(とほ)くても最早(もはや)一(ひと)つ島(じま)に到着(たうちやく)し、119そろそろ帰(かへ)つて来(く)る時期(じき)ですから、120さうやきもき云(い)はずに待(ま)つて居(ゐ)なさるが宜(よろ)しからう』
121と態(わざ)と平気(へいき)な顔(かほ)をして見(み)せる。
122蜈蚣姫『何(なん)と間(ま)の抜(ぬ)けた男(をとこ)だなア。123……高姫(たかひめ)さま、124流石(さすが)は貴女(あなた)の御(ご)家来(けらい)ぢや。125抜(ぬ)け目(め)のない理屈(りくつ)計(ばか)りはよく捏(こ)ねますね。126一体(いつたい)何(ど)うして下(くだ)さる』
127高姫『此処(ここ)は南洋(なんやう)の竜宮島(りうぐうじま)、128澆季(げうき)末法(まつぽふ)の世(よ)の中(なか)には諸善(しよぜん)竜宮(りうぐう)に入(い)り給(たま)ふと云(い)ふからには、129妾(わたし)等(ら)は善一筋(ぜんひとすぢ)の誠(まこと)の神(かみ)だから、130この竜宮島(りうぐうじま)を永遠(ゑいゑん)の住家(すみか)として、131天寿(てんじゆ)を楽(たの)しまうぢやありませぬか』
132蜈蚣姫『ようも……負惜(まけを)しみの強(つよ)い事(こと)が云(い)へますぢやい。133………三(みつ)つの宝玉(はうぎよく)は何(ど)うなさる積(つも)りだ』
134高姫『それは飽迄(あくまで)も探(さが)さねばなりませぬ。135まア見(み)とりなさい、136おつつけ神(かみ)様(さま)が妾(わたし)等(ら)の神徳(しんとく)に感(かん)じ、137船(ふね)を持(も)つて迎(むか)ひに来(き)て下(くだ)さるのは鏡(かがみ)にかけて見(み)るやうなものだ。138刹那心(せつなしん)を楽(たの)しむで、139取越(とりこ)し苦労(くらう)をせないやうにして下(くだ)さい』
140スマートボール『何(なん)だか船(ふね)が無(な)いと来(き)ては、141何程(なにほど)結構(けつこう)な竜宮島(りうぐうじま)でも気楽(きらく)に暮(くら)す気(き)にはなれぬぢやありませぬか。142……アヽ俄(にはか)に綺麗(きれい)な山(やま)も嫌(いや)な色(いろ)になつて来(き)たワイ。143美(うつく)しい滝(たき)の景色(けしき)も地獄(ぢごく)のやうな気分(きぶん)がしだした。144アヽ此(この)結構(けつこう)な島(しま)が船(ふね)のやうに動(うご)いて、145俺(おれ)達(たち)を何処(どこ)かの大陸(たいりく)へ送(おく)つては呉(く)れまいかなア。146スマートも心配(しんぱい)ぢやワイ』
147高姫『まア愚図(ぐづ)々々(ぐづ)云(い)はずに待(ま)つて居(ゐ)なさい。148海賊船(かいぞくせん)でも来(き)たら、149それでも占領(せんりやう)して乗(の)つて行(ゆ)けばよいぢやないか。150何事(なにごと)もなるやうにしか成(な)らぬ世(よ)の中(なか)だ』
151と稍(やや)捨鉢(すてばち)気分(きぶん)になり、152青草(あをくさ)の上(うへ)へ身(み)を打(ぶ)つ付(つ)けるやうに、153不行儀(ふぎやうぎ)に高姫(たかひめ)は寝転(ねころ)むで仕舞(しま)つた。
154スマートボール『エヽ何処迄(どこまで)も徹底(てつてい)した自我(じが)の強(つよ)い婆(ばば)アだなア』
155とスマートは小声(こごゑ)に呟(つぶや)きながら密林(みつりん)の中(なか)に姿(すがた)を匿(かく)したり。156蜈蚣姫(むかでひめ)其(その)他(た)一同(いちどう)は、157思(おも)ひ思(おも)ひにこの島山(しまやま)を捨鉢(すてばち)気分(きぶん)になつて駆廻(かけまは)り、158適当(てきたう)な場所(ばしよ)に身(み)を横(よこた)へて、159因果腰(いんぐわごし)を定(き)める事(こと)となりぬ。160雄滝(をだき)の麓(ふもと)に高姫(たかひめ)は唯(ただ)独(ひと)り横(よこた)はつた儘(まま)遂(つい)に夢路(ゆめぢ)に入(い)りけり。161………
162 高姫(たかひめ)は漸(やうや)く目(め)を醒(さま)し四辺(あたり)を見(み)れば、163一人(ひとり)の人影(ひとかげ)も無(な)きに驚(おどろ)き、
164高姫『サア大変(たいへん)、165誰(たれ)も彼(かれ)も腹(はら)を合(あは)せ此(この)高姫(たかひめ)を置去(おきざり)にして、166流(なが)れて来(き)た船(ふね)にでも乗(の)つて逃(に)げたに相違(さうゐ)あるまい。167アヽ頼(たの)み難(がた)きは人心(ひとごころ)。168……貫州(くわんしう)の奴(やつ)、169此(この)高姫(たかひめ)に一言(ひとこと)も答(こた)へず、170逃(に)げ帰(かへ)るとは不親切(ふしんせつ)極(きは)まる。171併(しか)し乍(なが)ら余(あんま)り口汚(くちぎたな)く叱(しか)りつけたものだから、172根(ね)に持(も)つて復讐(かたきうち)をしようとしたのだらう。173エヽ仕方(しかた)がない』
174と四辺(あたり)を見廻(みまは)せば、175蓑笠(みのかさ)などが其処(そこ)に残(のこ)つて居(ゐ)る。
176高姫『ハア、177矢張(やつぱり)何処(どこ)かへ行(い)つたのだな。178何処(どこ)へ匿(かく)れても此(この)島中(しまぢう)には居(ゐ)るだらう。179まアまア皆(みな)の者共(ものども)が早(はや)く此処(ここ)へ帰(かへ)つて来(く)るやう御(ご)祈念(きねん)でも致(いた)しませう』
180と独言(ひとりご)ちつつ雌滝(めだき)の傍(そば)に進(すす)み寄(よ)る。181折柄(をりから)の濃霧(のうむ)に包(つつ)まれて、182一(いつ)尺(しやく)の先(さき)も見(み)えないやうになり来(き)たりぬ。183高姫(たかひめ)は雌滝(めだき)の傍(そば)に蹲踞(しやが)みながら、184両手(りやうて)を合(あは)せ祈願(きぐわん)を始(はじ)めたり。
185高姫『第一番(だいいちばん)に力(ちから)と頼(たの)む貫州(くわんしう)の行方(ゆくへ)が分(わか)りますやう。186蜈蚣姫(むかでひめ)其(その)他(た)の連中(れんちう)は神界(しんかい)の御(ご)都合(つがふ)に依(よ)つてお匿(かく)し遊(あそ)ばすなら、187たつてとは申(まを)しませぬ。188兎(と)も角(かく)も必要(ひつえう)なは貫州(くわんしう)一人(ひとり)、189何卒(どうぞ)彼(あれ)だけなりと私(わたし)の傍(そば)に引(ひ)き寄(よ)せて下(くだ)さいませ。190何分(なにぶん)小(ちひ)さい島(しま)と申(まを)しても、191十(じふ)里(り)も周(めぐ)つた此(この)浮島(うきじま)、192容易(ようい)に探(さが)し当(あ)てる事(こと)は出来(でき)ますまい。193何卒(なにとぞ)御(ご)神力(しんりき)をもつて、194一(いち)時(じ)も早(はや)くお引(ひ)き寄(よ)せを願(ねが)ひ奉(たてまつ)ります』
195 メラの滝(たき)の上(うへ)にチヨコナンとして、196滝水(たきみづ)を弄(いぢ)つて居(を)つた貫州(くわんしう)は、197高姫(たかひめ)の此(この)祈(いの)り声(ごゑ)を聞(き)いて造(つく)り声(ごゑ)をしながら、
198貫州『此(この)方(はう)は、199誠(まこと)の生粋(きつすゐ)の日本(やまと)魂(だましひ)の日(ひ)の出神(でのかみ)であるぞよ。200其(その)方(はう)は日(ひ)の出神(でのかみ)と申(まを)せども、201実(じつ)は三千(さんぜん)年(ねん)の劫(がふ)を経(へ)たる古狸(ふるだぬき)の霊(みたま)が宿(やど)つて居(ゐ)るのであるぞよ。202よく胸(むね)に手(て)を置(お)いて思案(しあん)を致(いた)せよ。203汝(なんぢ)の改心(かいしん)が出来(でき)たなら、204いつ何時(なんどき)なりとも、205其(その)方(はう)の前(まへ)に貫州(くわんしう)一人(ひとり)現(あら)はして見(み)せうぞ。206何(ど)うぢや、207もう今後(こんご)は日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)呼(よ)ばはりは致(いた)さぬか』
208高姫『貴方(あなた)は日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)と今(いま)仰有(おつしや)つたが、209そりや違(ちが)ひませう。210真(まこと)の日(ひ)の出神(でのかみ)は此(この)高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)にお憑(うつ)り遊(あそ)ばし、211大黒主(おほくろぬしの)命(みこと)と半分(はんぶん)同志(どうし)の霊魂(みたま)が一(ひと)つになつて高姫(たかひめ)と現(あら)はれ、212世界中(せかいぢう)の事(こと)を調(しら)べぬいて、213神政(しんせい)成就(じやうじゆ)の土台(どだい)となる結構(けつこう)な身魂(みたま)でありますぞ。214いづれの神(かみ)か知(し)らねど、215よく審神(さには)をして下(くだ)さい。216真(まこと)の事(こと)を知(し)つた神(かみ)は、217世界(せかい)に一神(ひとり)よりか無(な)いとお筆(ふで)に出(で)て居(ゐ)ますぞ。218枝(えだ)の神(かみ)の分際(ぶんざい)として何(なに)が分(わか)つて堪(たま)らうぞい。219改心(かいしん)なされ足許(あしもと)から鳥(とり)が立(た)ちますぞえ』
220 貫州(くわんしう)は余(あま)りの強情(がうじやう)に愛想(あいさう)を尽(つ)かし、221且(か)つ可笑(をか)しさに吹(ふ)き出(だ)さうとしたが、222歯(は)を喰(く)ひしばり気張(きば)り居(ゐ)る。223歯(は)は『キーキー』、224喉許(のどもと)で笑(わら)ふ声(こゑ)『キウキウ』と体中(からだぢう)に波(なみ)を打(う)たせ蹲踞(しやが)んで気張(きば)り居(を)る。225高姫(たかひめ)は滝(たき)の下(した)より、
226高姫『エヽ油断(ゆだん)のならぬ。227何程(なにほど)諸善神(しよぜんしん)の集(あつ)まる竜宮島(りうぐうじま)でも、228寸善(すんぜん)尺魔(しやくま)とか云(い)ふ悪神(あくがみ)が高姫(たかひめ)の気(き)を引(ひ)きに来(き)よつたな。229併(しか)し乍(なが)ら高姫(たかひめ)の弁舌(べんぜつ)、230否(いな)言霊(ことたま)に、231仕方(しかた)なく四足(よつあし)の性来(しやうらい)を現(あら)はし、232……キーキー、233キウキウ……と啼(な)いてゐやがる。234野良鼠(のらねずみ)か、235栗鼠(りす)か、236鼬(いたち)か貂(てん)か、237又(また)も違(ちが)つたら豆狸(まめだぬき)か、238一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)れ。239日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の前(まへ)も憚(はばか)らず、240四足(よつあし)の分際(ぶんざい)として高(たか)い所(ところ)に上(あが)ると云(い)ふ事(こと)は、241天地(てんち)顛倒(てんたう)も甚(はなは)だしい。242シイシイ』
243と頻(しき)りに歯(は)の脱(ぬ)けた口(くち)から唾(つば)を飛(と)ばしながら叱(しか)つて居(を)る。244貫州(くわんしう)は益々(ますます)可笑(をか)しさに耐(た)へ兼(か)ね、245脇(わき)の辺(あた)りで『キウキウ』と笑(わら)ひ出(だ)したり。246此処(ここ)へ濃霧(のうむ)の中(なか)を両手(りやうて)を前(まへ)に突(つ)き出(だ)し、247盲(めくら)が杖(つゑ)無(な)くして歩(ある)くやうに、248探(さぐ)り足(あし)にやつて来(き)たのは蜈蚣姫(むかでひめ)なりき。249貫州(くわんしう)は皺嗄(しわが)れ声(ごゑ)を出(だ)し、
250貫州『如何(いか)に高姫(たかひめ)、251汝(なんぢ)の願(ねが)ひ叶(かな)へてやらう。252其(その)方(はう)は蜈蚣姫(むかでひめ)を此(この)島(しま)に一人(ひとり)残(のこ)し置(お)き、253貫州(くわんしう)を連(つ)れて逃(に)げだした方(はう)が都合(つがふ)がよいとの意志(いし)を表示(へうじ)したであらう。254表面(へうめん)は蜈蚣姫(むかでひめ)とバツを合(あは)せて居(を)るが、255其(その)方(はう)の心(こころ)の中(なか)は決(けつ)してバラモン教(けう)では無(な)い事(こと)はよく分(わか)つて居(を)る。256唯(ただ)三個(さんこ)の玉(たま)さへ手(て)に入(い)れば、257蜈蚣姫(むかでひめ)は何(ど)うでもよいのだ。258何(ど)うだ、259神(かみ)の申(まを)す事(こと)に間違(まちが)ひあるまい』
260 高姫(たかひめ)は聊(いささ)か迷惑顔(めいわくがほ)しながら、
261高姫『モシモシ蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)、262何処(どこ)に居(を)られましたの。263私(わたし)はどれだけ心配(しんぱい)したか分(わか)りませぬワ。264ようマア無事(ぶじ)でゐて下(くだ)さいました。265此(この)通(とほ)り濃霧(のうむ)に包(つつ)まれて一尺先(いつしやくさき)は分(わか)らぬやうな事(こと)で御座(ござ)いますから、266種々(いろいろ)の枉津(まがつ)が現(あら)はれて、267今(いま)お聞(き)きの通(とほ)り貴女(あなた)と私(わたし)の仲(なか)を悪(わる)くし内輪(うちわ)喧嘩(げんくわ)をさせ、268内部(ないぶ)から結束(けつそく)を破(やぶ)らせようとするのだから、269用心(ようじん)なさいませや』
270 滝(たき)の上(うへ)から貫州(くわんしう)は、
271貫州『蜈蚣姫(むかでひめ)とやら、272高姫(たかひめ)の口車(くちぐるま)に乗(の)るなよ。273真(まこと)の日(ひ)の出神(でのかみ)此処(これ)にあり』
274蜈蚣姫『ハイ、275有難(ありがた)う御座(ござ)います。276貴神(あなた)のお言葉(ことば)は寸分(すんぶん)間違(まちが)ひはありますまい。277私(わたし)はこれから気(き)をつけます。278……モシモシ高姫(たかひめ)さま、279神(かみ)様(さま)は正直(しやうぢき)ですな。280国城山(くにしろやま)の岩窟(がんくつ)で貴女(あなた)が俄(にはか)に豹変(へうへん)的(てき)態度(たいど)を取(と)つた時(とき)から、281一癖(ひとくせ)ありと始終(しじう)行動(かうどう)を監視(かんし)して居(を)りました私(わたし)の案(あん)に違(たが)はず、282今(いま)真(まこと)の日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)が証明(しようめい)して下(くだ)さいました。283サア如何(どう)です。284これ高姫(たかひめ)さま、285返答(へんたふ)がありますか』
286 貫州(くわんしう)は霧(きり)の中(なか)より、
287貫州『蜈蚣姫(むかでひめ)も蜈蚣姫(むかでひめ)だ。288高姫(たかひめ)を巧(うま)く利用(りよう)して玉(たま)を探(さが)させ、289其(その)上(うへ)にて巧(うま)くボツタクリ、290高姫(たかひめ)に蛸(たこ)の揚(あ)げ壺(つぼ)を喰(く)はす所存(しよぞん)であらうがな。291神(かみ)は汝(なんぢ)の申(まを)す如(ごと)く正直(しやうぢき)一方(いつぱう)、292嘘(うそ)はチツトも申(まを)さぬぞよ』
293 高姫(たかひめ)はしたり顔(がほ)、
294高姫『蜈蚣姫(むかでひめ)さま、295それ御覧(ごらん)、296貴方(あなた)こそ腹(はら)が悪(わる)いぢやありませぬか』
297蜈蚣姫『悪(あく)と悪(あく)との寄(よ)り合(あ)ひだもの、298云(い)ふだけ野暮(やぼ)ですよ。299オホヽヽヽ』
300と笑(わら)ひに紛(まぎ)らす。
301 此(この)時(とき)この島(しま)の特産物(とくさんぶつ)たる五寸(ごすん)許(ばか)りの熊蜂(くまばち)が、302『ブーン』とうなりをたてて高姫(たかひめ)の頭(あたま)に礫(つぶて)の如(ごと)く衝突(しようとつ)し、303勢(いきほひ)あまつて蜈蚣姫(むかでひめ)の鼻柱(はなばしら)に撥(は)ね返(かへ)され、304蜂(はち)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に鼻(はな)にしがみつき鼻(はな)の孔(あな)を鋭利(えいり)なる剣(けん)にてグサリと突(つ)き立(た)てた。305蜈蚣姫(むかでひめ)は『アイタヽヽ』と云(い)つたきり、306両手(りやうて)に鼻(はな)を抑(おさ)へて其(その)場(ば)に倒(たふ)れた。307蜈蚣姫(むかでひめ)は高姫(たかひめ)が鉄拳(てつけん)で鼻柱(はなばしら)を目蒐(めが)けて喰(くら)はした事(こと)と思(おも)ひつめ、
308蜈蚣姫『悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の高姫(たかひめ)、309不意打(ふいうち)を喰(く)はすとは卑怯(ひけふ)千万(せんばん)。310やア、311スマートボール其(その)他(た)の者共(ものども)、312早(はや)く来(きた)つて高姫(たかひめ)を縛(しば)り付(つ)けよ』
313と呶鳴(どな)りゐる。314見(み)る見(み)る顔(かほ)は脹(は)れ上(あが)り、315鼻(はな)も目(め)も口(くち)も腫(は)れ塞(ふさ)がりにけり。316高姫(たかひめ)は驚(おどろ)いて、
317高姫『モシモシ蜈蚣姫(むかでひめ)さま、318妾(わたし)ぢやありませぬ。319熊蜂(くまばち)が噛(か)むだのです。320何卒(どうぞ)悪(わる)く取(と)つて下(くだ)さいますな』
321 滝(たき)の上(うへ)の霧(きり)の中(なか)より、
322貫州『蜈蚣(むかで)が蜂(はち)に刺(さ)されたぞよ。323是(これ)を見(み)て高姫(たかひめ)改心(かいしん)を致(いた)されよ。324雀(すずめ)ケ原(はら)に鷹(たか)が降(お)りたやうな横柄振(わうへいぶり)を今迄(いままで)発揮(はつき)して居(ゐ)たが、325高姫(たかひめ)の目(め)を又(また)熊蜂(くまばち)に刺(さ)さしてやらうか。326此(この)方(はう)は熊蜂(くまばち)の精霊(せいれい)であるぞよ。327其(その)方(はう)は余(あま)り慢心(まんしん)が強(つよ)い故(ゆゑ)に、328両人(りやうにん)互(たがひ)に他人(ひと)の頭(かしら)の上(うへ)に上(あが)らうと致(いた)して居(を)るから、329こんな戒(いまし)めに遇(あ)うたのぢや。330それ程(ほど)偉(えら)い者(もの)になつて人(ひと)の頭(かしら)に上(のぼ)りたくば、331天井裏(てんじやううら)の鼠(ねずみ)になつと成(な)つたがよからう。332人(ひと)が除(よ)けて通(とほ)るやうな御(ご)神徳(しんとく)が欲(ほ)しいと申(まを)して、333南洋(なんやう)三界(さんかい)まで玉(たま)を探(さが)しに参(まゐ)り、334それ程(ほど)偉(えら)くなり度(た)くば肥(こえ)担(かつ)ぎになれ。335誰(たれ)も彼(かれ)も皆(みな)除(よ)けて通(とほ)るぞよ。336も一(ひと)つよい事(こと)を教(をし)へてやらう。337泥棒(どろばう)になれば人(ひと)が恐(おそ)れるぞよ。338神徳(しんとく)を得(え)て人(ひと)を恐(こわ)がらし度(た)くば何(なん)の手間暇(てまひま)は入(い)らぬ。339鉄道(てつだう)を噛(かぢ)り砂利(じやり)を喰(くら)ひ、340鋼鉄艦(かうてつかん)を呑(の)むやうな達者(たつしや)な歯(は)になれ。341さうすれば世界(せかい)の奴(やつ)は其(その)方(はう)に対(たい)して歯節(はぶし)は立(た)たぬぞよ。342またも間違(まちが)つたら癩病患者(らいびやうやみ)、343疥癬患者(ひぜんかき)になれ』
344と『キウ キウ』と喉(のど)の中(なか)で笑(わら)うて居(ゐ)る。345突然(とつぜん)涼風(りやうふう)吹(ふ)き起(おこ)り、346四辺(あたり)を籠(こ)めた濃霧(のうむ)は俄(にはか)に晴(は)れて遠望(ゑんばう)千(せん)里(り)の光景(くわうけい)となつて来(き)た。347貫州(くわんしう)は驚(おどろ)いて高姫(たかひめ)に顔(かほ)を見(み)られじと袖(そで)に面部(めんぶ)を被(おほ)ひ乍(なが)ら走(はし)り行(ゆ)く途端(とたん)に踏(ふ)み外(はづ)し、348高姫(たかひめ)の足許(あしもと)にドスンと落(お)ちて来(き)た。349高姫(たかひめ)は『キヤツ』と云(い)うて二歩(ふたあし)三歩(みあし)後(うしろ)へ飛(と)び退(の)き、350よくよく見(み)れば貫州(くわんしう)なりける。
351高姫『ヤア、352お前(まへ)は貫州(くわんしう)かイナア。353何(なん)だか合点(がつてん)がゆかぬと思(おも)つてゐたら何(なん)と云(い)ふ悪戯(いたづら)をするのだイ。354罰(ばち)は覿面(てきめん)、355これこの通(とほ)り逆(さか)とんぼりを打(う)つて苦(くる)しまねばならうまいがなア』
356貫州『ヤアもう誠(まこと)に不都合(ふつがふ)千万(せんばん)で御座(ござ)いました。357何分(なにぶん)守護神(しゆごじん)が現(あら)はれたものですから』
358高姫『馬鹿(ばか)を云(い)ひなさるな。359二(ふた)つ目(め)には守護神(しゆごじん)々々々(しゆごじん)と口癖(くちぐせ)のやうに……其(その)手(て)は喰(く)ひませぬぞエ。360それよりも今(いま)の中(うち)に船(ふね)に乗(の)つてサアサア玉探(たまさが)しにゆきませう』
361貫州『蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)が蜂(はち)に刺(さ)されて此(この)通(とほ)り苦(くる)しみて御座(ござ)るのに、362何(ど)うするつもりですか。363神(かみ)様(さま)の道(みち)は敵(てき)でも助(たす)けるのが法(はふ)ぢやありませぬか。364さうして船(ふね)に乗(の)らうと云(い)つた処(ところ)で船(ふね)が無(な)いぢやありませぬか』
365高姫『アヽさうだつたなア。366ほんとにほんとにお気(き)の毒(どく)な事(こと)になつたものだ。367蜈蚣姫(むかでひめ)さま、368何卒(どうぞ)早(はや)く全快(ぜんくわい)して下(くだ)され』
369と蜈蚣姫(むかでひめ)の背中(せなか)を撫(な)で、370次(つぎ)に胸(むね)を撫(な)でて慰(なぐさ)めてやらうとする。371目(め)も鼻(はな)も口(くち)も腫(は)れて化物(ばけもの)のやうになつた蜈蚣姫(むかでひめ)は、372鷲(わし)のやうになつた爪(つめ)を立(た)てて、373高姫(たかひめ)の手(て)が体(からだ)に触(さは)つたのを目当(めあて)に力(ちから)限(かぎ)り掻(か)きむしる。374高姫(たかひめ)は顔(かほ)を顰(しか)めながら血潮(ちしほ)の滴(したた)る手(て)を押(おさ)へ、375草(くさ)をもつて血止(ちど)めの用意(ようい)とくるくる捲(ま)きつけゐる。
376 スマートボール、377久助(きうすけ)、378お民(たみ)其(その)他(た)の従者(じうしや)共(ども)は、379濃霧(のうむ)の晴(は)れたのを幸(さいは)ひ此(この)場(ば)に駆(か)け来(きた)り、380二人(ふたり)の態(てい)を見(み)て驚(おどろ)き、381口(くち)をポカンと開(あ)けた儘(まま)言(もの)をも云(い)はず立(た)ち居(ゐ)る。382この時(とき)磯端(いそばた)に当(あた)つて、383涼(すず)しき三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)え来(き)たりぬ。384果(はた)して何人(なにびと)の声(こゑ)ならむか。
385(大正一一・七・二 旧閏五・八 加藤明子録)
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