霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 一島(ひとつじま)の女王(ぢよわう)〔七三四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻 篇:第1篇 流転の涙 よみ(新仮名遣い):るてんのなみだ
章:第4章 一島の女王 よみ(新仮名遣い):ひとつじまのじょおう 通し章番号:734
口述日:1922(大正11)年06月14日(旧05月19日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年5月10日
概要: 舞台:海上、萱野ケ原(地恩郷、地恩城) あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
小糸姫は、舟の漕ぎ手に襲われて三五教の宣伝使に助けられたと思いきや、それは夢であった。ニュージーランド近くにさしかかったと思うと舟は嵐に巻き込まれ、舟は海中の岩にぶつかって粉々になってしまった。
舟の漕ぎ手のチャンキーとモンキーの姿は見えなくなってしまった。小糸姫はかろうじて岩にしがみついて経文を唱え、助けを求めていた。嵐は収まったが、そこへ四人の女を乗せた舟がやってきて小糸姫に気づき、助け上げた。
小糸姫は、自分を助け上げた女たちを見れば、顕恩郷で侍女として仕えていた、五十子姫、梅子姫、宇豆姫、今子姫であった。
五十子姫と梅子姫は神素盞嗚尊の娘である素性を隠して、バラモン教に占領された顕恩郷に潜入していたが、太玉命と力を合わせて顕恩郷を取り戻した。その際に、元はバラモン教であった侍女の宇豆姫、今子姫も三五教に改心させていたのであった(第十五巻)。
四人は、友彦と駆け落ちしたはずの小糸姫が、なぜこのような所にいるのかを尋ねた。小糸姫はこれまでの経緯を語ったが、四人はその年に似合わぬ豪胆さに舌を巻いた。そして、三五教の教理を体得させて竜宮島の宣伝をさせることにした。
三五教の教理を授けられた小糸姫は、勝手に五十子姫、梅子姫を参謀となし、宇豆姫と今子姫を侍女として女王気取りでまだ未開の竜宮島に上陸した。
五人は宣伝歌を歌いながら、竜宮島の中心地、萱野ケ原にやってきて、天津祝詞を唱えた。現地の住民は、五人を天女の降臨と思って集まり、拝礼し始めた。
そこへ、一つ島の棟梁と自称するブランジーという豪族がやってきて、武装した部下たちに五人を包囲させ、何者か問い質した。小糸姫は少しも恐れず、逆にブランジーに対して、自分たちは天津神の使いであると厳として申し渡し、帰順を迫った。
ブランジーの部下たちは武装を捨ててひざまずいた。ブランジーも我を折って帰順の意を表した。
ブランジーを従えた小糸姫は、黄竜姫と名乗って竜宮島に三五教を宣布し、その名を四辺に轟かせた。五十子姫は今子姫と共に、自転倒島の神素盞嗚大神の元へ帰って行った。梅子姫と宇豆姫が、黄竜姫の補佐として残った。
ブランジーは妻のクロンバーと共に黄竜姫の宰相と取り立てられて、姫の威光によって島中に名を轟かせるまでになっていた。
あるときクロンバーは黄竜姫のもとにやってきて、自分は元は聖地に仕えていた者であることを明かした。そして、自分は紛失した大切な如意宝珠の玉、黄金の玉、紫の玉を探しており、黄竜姫の天眼通によって玉のありかを知らせて欲しいと懇願した。
黄竜姫は、三つの玉は自転倒島に故あって隠されていると告げ、今は玉への執着心を離れてブランジーと共に国務に奉仕するように、と申し渡して姿を隠してしまった。
クロンバーとは黒姫の名を変えた姿で、ブランジーは高山彦であった。二人は竜宮島風に名を変えて、国人を使役して玉のありかを探していたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:ニユージランド(ニュージーランド) データ凡例: データ最終更新日:2021-07-28 18:39:08 文字数:5021 OBC :rm2404
愛善世界社版:57頁 八幡書店版:第4輯 632頁 修補版: 校定版:58頁 普及版:27頁 初版: ページ備考:
001 今迄(いままで)皎々(かうかう)たる浄玻璃(じやうはり)の月(つき)は忽(たちま)ち黒雲(くろくも)に蔽(おほ)はれ、002満天(まんてん)の星光(ほしかげ)は瞬(またた)く中(うち)に雲(くも)の帳(とばり)に包(つつ)まれた。003海面(かいめん)は俄(にはか)に薄闇(うすぐら)く、004暴風(ばうふう)忽(たちま)ち臻(いた)り、005小舟(こぶね)を波(なみ)のまにまに翻弄(ほんろう)虐待(ぎやくたい)する。006船底(ふなぞこ)に横(よこ)たはり以前(いぜん)の夢(ゆめ)を見(み)て居(ゐ)た小糸姫(こいとひめ)は驚(おどろ)いて目(め)を瞠(みは)り、
007小糸姫『アヽ大変(たいへん)な恐(おそ)ろしい夢(ゆめ)を見(み)た。008……これ船頭(せんどう)さま、009俄(にはか)に闇(くら)くなつたぢやないか、010此処(ここ)は一体(いつたい)何(なん)と言(い)ふ所(ところ)だなア?』
011チャンキー『あまり暗(くら)くて薩張(さつぱ)り見当(けんたう)がとれなくなりました。012然(しか)し大方(おほかた)ニユージランドの近辺(きんぺん)だと思(おも)ひます。013波(なみ)は刻々(こくこく)に高(たか)くなり、014もう此(この)上(うへ)は風(かぜ)に任(まか)して行(ゆ)く処(ところ)まで行(や)るより仕方(しかた)がありませぬ。015斯(か)う言(い)ふ時(とき)にバラモン教(けう)のお経(きやう)を唱(とな)へて下(くだ)さつたら、016チツトは風(かぜ)も凪(な)ぎませう。017お姫(ひめ)様(さま)、018何卒(どうぞ)神(かみ)様(さま)に願(ねが)つて下(くだ)さいな』
019小糸姫『此(この)通(とほ)り風(かぜ)が吹(ふ)き波(なみ)が荒(あら)く立(た)ち騒(さわ)ぎ……櫓櫂(ろかい)の方(はう)に一生(いつしやう)懸命(けんめい)に力(ちから)を入(い)れて呉(く)れる方(かた)が妾(わたし)に取(と)つて何程(なにほど)安全(あんぜん)だか知(し)れませぬよ。020最前(さいぜん)の夢(ゆめ)の様(やう)な目(め)に会(あ)はされては迷惑(めいわく)だから……』
021モンキー『夢(ゆめ)にドンナ目(め)に会(あ)はれましたな?』
022と言(い)ひ乍(なが)ら一生(いつしやう)懸命(けんめい)に櫓(ろ)を漕(こ)いで居(ゐ)る。023山岳(さんがく)の如(ごと)き波(なみ)の間(あひだ)を、024船(ふね)は木(こ)の葉(は)の風(かぜ)に散(ち)る如(ごと)く浮(う)きつ沈(しづ)みつ、025荒波(あらなみ)の翻弄(ほんろう)に任(まか)すより途(みち)はなかつた。026忽(たちま)ち巨大(きよだい)なる音響(おんきやう)と共(とも)に船(ふね)は一(ひと)つの岩山(いはやま)に衝突(しようとつ)し、027滅茶(めちや)々々(めちや)になつて仕舞(しま)つた。028小糸姫(こいとひめ)は辛(から)うじて壁(かべ)を立(た)てた如(ごと)き岩(いは)に壁蝨(だに)の様(やう)に喰(く)ひつき、029運(うん)を天(てん)に任(まか)し経文(きやうもん)を唱(とな)へて居(ゐ)る。030二人(ふたり)の男(をとこ)は如何(どう)なつたか浪(なみ)の音(おと)に遮(さへぎ)られ、031一声(ひとこゑ)さへも聞(き)く事(こと)が出来(でき)なかつた。032一時(ひととき)ばかり経(た)つと思(おも)ふ頃(ころ)、033空(そら)を包(つつ)みし黒雲(くろくも)は拭(ぬぐ)ふが如(ごと)く晴(は)れ、034風(かぜ)は凪(な)ぎ、035浪(なみ)静(しづ)まり、036魚鱗(ぎよりん)の月光(げつくわう)は海上(かいじやう)一面(いちめん)に不知火(しらぬひ)の如(ごと)く瞬(またた)き初(そ)めた。037斯(か)かる所(ところ)へ四(よ)人(にん)の女(をんな)を乗(の)せた一艘(いつそう)の小舟(こぶね)、038島影(しまかげ)より悠々(いういう)と現(あら)はれ来(きた)り、039小糸姫(こいとひめ)が叫(さけ)ぶ声(こゑ)を聞(き)きつけ、040中(なか)の一人(ひとり)は棹(さを)をさし述(の)べ漸々(やうやう)にして小糸姫(こいとひめ)を船中(せんちう)に救(すく)ひ上(あ)げた。041二人(ふたり)の男(をとこ)の影(かげ)は目(め)に当(あた)らなかつた。042小糸姫(こいとひめ)は疲労(ひらう)の結果(けつくわ)、043船底(ふなそこ)に横(よこ)たはつたまま二時(ふたとき)、044三時(みとき)ばかり顔(かほ)を得上(えあ)げず、045礼(れい)をも言(い)はず蟹(かに)の如(よ)うな泡(あわ)を吹(ふ)いて苦(くる)しみ居(ゐ)たり。
046メソポタミヤの顕恩郷(けんおんきやう)
047鬼雲彦(おにくもひこ)が本城(ほんじやう)に
048種々(いろいろ)雑多(ざつた)と身(み)を窶(やつ)し
049神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
050御言(みこと)畏(かしこ)み八乙女(やをとめ)が
051鬼雲彦(おにくもひこ)の側近(そばちか)く
052仕(つか)へ待(はべ)りてバラモンの
053悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)を立直(たてなほ)し
054国治立(くにはるたち)の大神(おほかみ)の
055至仁(しじん)至愛(しあい)の御息(みいき)より
056現(あら)はれ出(い)でたる三五(あななひ)の
057神(かみ)の教(をしへ)に服(まつろ)はせ
058名実(めいじつ)叶(かな)ふ顕恩(けんおん)の
059郷(さと)の昔(むかし)に復(かへ)さむと
060心(こころ)を配(くば)る折柄(をりから)に
061天(あめ)の太玉(ふとだま)宣伝使(せんでんし)
062数多(あまた)の司(つかさ)を伴(ともな)ひて
063顕恩城(けんおんじやう)に入(い)り来(きた)り
064言霊戦(ことたません)を開始(かいし)して
065鬼雲彦(おにくもひこ)の大棟梁(だいとうりやう)
066其(その)他(た)の魔神(まがみ)を伊照(いて)らせば
067忽(たちま)ち大蛇(をろち)と身(み)を変(へん)じ
068雲(くも)を起(おこ)して遁(に)げ去(さ)りぬ
069天(あめ)の太玉(ふとだま)宣伝使(せんでんし)
070顕恩郷(けんおんきやう)を掌(つかさど)り
071此処(ここ)に八人(やたり)の乙女子(をとめご)は
072天地(あめつち)四方(よも)の国々(くにぐに)に
073三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)を
074宣(の)べ伝(つた)へんと手(て)を別(わ)けて
075荒野(あらの)を彷徨(さまよ)ふ折柄(をりから)に
076バラモン教(けう)の枉神(まがかみ)に
077嗅出(かぎいだ)されて捕(とら)へられ
078いたいけ盛(ざか)りの姉妹(おとどい)は
079半(なかば)破(やぶ)れし釣舟(つりぶね)に
080投(な)げ入(い)れられて浪(なみ)の上(うへ)
081何処(いづく)を当(あ)てと定(さだ)めなく
082漂(ただよ)ひ来(きた)る折柄(をりから)に
083大海中(おほわだなか)に突(つ)き立(た)てる
084岩(いは)ばかりなる一(ひと)つ島(じま)
085辺(ほとり)に漕(こ)ぎ着(つ)き眺(なが)むれば
086何(いづ)れの人(ひと)か知(し)らねども
087年端(としは)も行(ゆ)かぬ真娘(まなむすめ)
088岩(いは)に喰(く)ひ付(つ)き声(こゑ)限(かぎ)り
089救(すく)ひを求(もと)めて叫(さけ)び居(ゐ)る
090仁慈(じんじ)無限(むげん)の五十子(いそこ)姫(ひめ)は
091三人(みたり)の女子(をみな)と諸共(もろとも)に
092言(い)はず語(かた)らず心(こころ)合(あ)ひ
093棹(さを)を延(の)ばして救(すく)ひあげ
094互(たがひ)に櫓櫂(ろかい)を操(あやつ)りつ
095風(かぜ)に送(おく)られ西(にし)南(みなみ)
096竜宮島(りうぐうじま)を指(さ)して行(ゆ)く
097あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
098霊(みたま)の幸(さち)を隈(くま)もなく
099世人(よびと)の上(うへ)に照(て)らします
100至仁至愛(みろく)の神(かみ)の御救(みすく)ひに
101小糸(こいと)の姫(ひめ)は生(い)きかへり
102撥(は)ね返(かへ)りたる心地(ここち)して
103朝日(あさひ)の豊栄(とよさか)昇(のぼ)る頃(ころ)
104漸(やうや)く頭(かしら)を抬(もた)げける
105四辺(あたり)を見(み)れば四柱(よはしら)の
106顕恩郷(けんおんきやう)に見覚(みおぼ)えの
107娘(むすめ)と見(み)るより仰天(ぎやうてん)し
108暫(しば)し言葉(ことば)も無(な)かりしが
109漸(やうや)く心(こころ)落(お)ち着(つ)けて
110『あゝ訝(いぶ)かしやいぶかしや
111夢(ゆめ)か現(うつつ)か幻(まぼろし)か
112五十子(いそこ)の姫(ひめ)や梅子姫(うめこひめ)
113御供(みとも)の宇豆姫(うづひめ)、今子姫(いまこひめ)
114貴女(あなた)は何故(なにゆゑ)海原(うなばら)に
115彷徨(さまよ)ひ来(きた)り在(ま)しますぞ
116是(これ)には深(ふか)き理由(ことわり)の
117在(おは)するならむ詳細(まつぶさ)に
118宣(の)らせ給(たま)へ』と手(て)を合(あは)せ
119胸(むね)もどきどき問(と)ひかくる。
120 五十子(いそこ)姫(ひめ)は小糸姫(こいとひめ)に向(むか)ひ、
121五十子姫『貴女(あなた)は顕恩郷(けんおんきやう)の鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)のお娘子(むすめご)、122如何(どう)して、123マア斯様(かやう)な処(ところ)へお越(こ)しなされましたか。124さうして友彦(ともひこ)様(さま)は如何(どう)遊(あそ)ばしましたか』
125小糸姫『それよりも貴女(あなた)等(がた)四人(よつたり)様(さま)、126斯様(かやう)な処(ところ)へ御(お)船(ふね)に乗(の)つてお越(こ)し遊(あそ)ばすとは合点(がつてん)が参(まゐ)りませぬ。127何(なん)の御用(ごよう)で何処(どこ)へ御(お)いでになりますか、128お聞(き)かせ下(くだ)さいませな』
129五十子姫『是(これ)には深(ふか)い仔細(しさい)が御座(ござ)いまする。130何(いづ)れゆるゆる聞(き)いて頂(いただ)きませうが、131貴女(あなた)から何卒(どうぞ)先(さき)へお口開(くちびら)きを願(ねが)ひます』
132 小糸姫(こいとひめ)は『ハイ』と答(こた)へて、133顕恩郷(けんおんきやう)を出(い)でしよりその後(ご)友彦(ともひこ)に別(わか)れ、134此処迄(ここまで)逃(に)げ来(きた)りし一伍(いちぶ)一什(しじふ)の顛末(てんまつ)を包(つつ)み隠(かく)さず述(の)べ立(た)てた。135四(よ)人(にん)は年(とし)にも似合(にあ)はぬ小糸姫(こいとひめ)の悪竦(あくらつ)にして豪胆(がうたん)なるに舌(した)を捲(ま)きける。
136 梅子姫(うめこひめ)は呆(あき)れ顔(がほ)にて、
137梅子姫『随分(ずゐぶん)貴女(あなた)も人格(じんかく)がお変(かは)りになりましたね』
138小糸姫『さうでせうとも、139妾(わたし)は竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)の未来(みらい)の女王(ぢよわう)ですから、140今迄(いままで)の様(やう)な嬢(ぢやう)や坊(ぼう)では数多(あまた)の国人(くにびと)を治(をさ)める事(こと)は出来(でき)ませぬ』
141と未(ま)だ島影(しまかげ)さへも見(み)えぬ内(うち)から、142早(はや)くも竜宮島(りうぐうじま)を腹(はら)に呑(の)んで居(ゐ)る豪胆(がうたん)不敵(ふてき)の女(をんな)なり。
143 五十子(いそこ)姫(ひめ)、144梅子姫(うめこひめ)は善悪(ぜんあく)は兎(と)も角(かく)、145野蛮(やばん)未開(みかい)の地(ち)の女王(ぢよわう)としては最適任(さいてきにん)ならむ、146此(この)船(ふね)に乗(の)つたのを幸(さいは)ひ竜宮島(りうぐうじま)に到着(たうちやく)する幾多(いくた)の日数(につすう)を応用(おうよう)して三五教(あななひけう)の教理(けうり)を体得(たいとく)せしめ、147精神(せいしん)的(てき)天国(てんごく)を建設(けんせつ)せしめむと早(はや)くも心(こころ)に定(さだ)め……顕恩郷(けんおんきやう)を立(た)ち出(い)で、148三五教(あななひけう)の教理(けうり)を四方(よも)に宣伝(せんでん)せむとする時(とき)しも、149バラモン教(けう)の片彦(かたひこ)、150釘彦(くぎひこ)一派(いつぱ)に捕(とら)へられ、151此海(ここ)に漂流(へうりう)し来(きた)りし事(こと)の顛末(てんまつ)を細(つぶ)さに物語(ものがた)り、152互(たがひ)に敵味方(てきみかた)の障壁(しやうへき)を除却(ぢよきやく)し、153一蓮(いちれん)托生(たくしやう)の船(ふね)の上(うへ)にて遂(つい)に首尾(しゆび)よく小糸姫(こいとひめ)に三五教(あななひけう)の教理(けうり)を植付(うゑつ)けた。
154 小糸姫(こいとひめ)は船中(せんちう)より已(すで)に女王(ぢよわう)気取(きどり)で五十子(いそこ)姫(ひめ)、155梅子姫(うめこひめ)を顧問(こもん)か参謀(さんぼう)の様(やう)に独(ひと)り定(ぎ)めにして仕舞(しま)つた。156今子姫(いまこひめ)、157宇豆姫(うづひめ)は自分(じぶん)の小使(こづかひ)として待遇(たいぐう)して居(ゐ)た。158五十子(いそこ)姫(ひめ)、159梅子姫(うめこひめ)は良(よ)き機関(きくわん)を得(え)たりと喜(よろこ)び、160表面(へうめん)十六(じふろく)才(さい)の阿婆摺(あばず)れ娘(むすめ)の小糸姫(こいとひめ)を首領(しゆりやう)と定(さだ)め、161漸(やうや)くにして五(ご)人(にん)の女(をんな)は竜宮島(りうぐうじま)のクスの港(みなと)に無事(ぶじ)到着(たうちやく)し、162船(ふね)を岸辺(きしべ)に繋(つな)ぎ、163五(ご)人(にん)は宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ乍(なが)らさしもに広(ひろ)き一(ひと)つ島(じま)を足(あし)に任(まか)せて進(すす)み行(ゆ)く。164日(ひ)は漸(やうや)く没(ぼつ)して四方(しはう)闇黒(やみ)に包(つつ)まれ、165五(ご)人(にん)はとある谷川(たにがは)の辺(ほとり)に蓑(みの)を敷(し)き安々(やすやす)と寝(ねむり)に就(つ)きけり。
166 猛獣(まうじう)の声(こゑ)は山岳(さんがく)も揺(ゆる)ぐばかり唸(うな)り出(だ)した。167豪胆(がうたん)不敵(ふてき)の五(ご)人(にん)の女(をんな)は松風(まつかぜ)の音(おと)か琴(こと)の音(ね)位(くらゐ)に軽(かる)く見做(みな)し、168其(その)声(こゑ)を就寝(しうしん)の栞(しほり)とし、169他愛(たあい)も無(な)く此処(ここ)に一夜(いちや)を明(あか)した。170四辺(あたり)の果実(このみ)をむしりて腹(はら)を拵(こしら)へ、171草(くさ)茫々(ばうばう)と身(み)を没(ぼつ)するばかりの谷道(たにみち)を宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)に木霊(こだま)を響(ひび)かせ乍(なが)ら、172進(すす)み進(すす)みて或(あ)る一(ひと)つの平坦(へいたん)なる部落(ぶらく)に出(で)たり。173山(やま)と山(やま)とに包(つつ)まれたる摺鉢(すりばち)の底(そこ)の様(やう)な稍(やや)広(ひろ)き原野(げんや)と山腹(さんぷく)に穴(あな)を穿(うが)ち、174炭焼竈(すみやきがま)の様(やう)に各戸(かくこ)煙(けむり)をボウボウと立(た)てて居(ゐ)る。175五(ご)人(にん)は原野(げんや)の中央(ちうあう)にある小高(こだか)き大岩(おほいは)の上(うへ)に登(のぼ)り、176声(こゑ)を限(かぎ)りに天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ出(だ)した。177此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いてか、178山腹(さんぷく)の数(かず)限(かぎ)りもなき穴(あな)より色(いろ)の黒(くろ)き老若(らうにやく)男女(なんによ)一(ひと)つの穴(あな)より或(あるひ)は五(ご)人(にん)或(あるひ)は十(じふ)人(にん)、179二十(にじふ)人(にん)と這(は)ひ出(い)で各(おのおの)柄物(えもの)を手(て)にし、180五(ご)人(にん)の立(た)てる大岩(おほいは)の周囲(しうゐ)に蟻(あり)の如(ごと)く群(むら)がり集(あつ)まつた。181此処(ここ)は一(ひと)つ島(じま)にても稍(やや)都会(とくわい)と聞(きこ)えたる萱野(かやの)ケ原(はら)といふ処(ところ)であつた。182一同(いちどう)は色(いろ)白(しろ)き五(ご)人(にん)の美女(びぢよ)が岩上(がんじやう)に立(た)てる姿(すがた)を見(み)て、183天津(あまつ)乙女(をとめ)の天上(てんじやう)より降(くだ)り給(たま)ひしものと固(かた)く信(しん)じ随喜(ずいき)の涙(なみだ)を流(なが)し乍(なが)ら、184四方(しはう)八方(はつぱう)より掌(て)を合(あは)せ拝跪(はいき)敬礼(けいれい)して居(ゐ)る。
185 斯(か)かる処(ところ)へ山奥(やまおく)より法螺貝(ほらがひ)の声(こゑ)「ブウブウ」と響(ひび)き渡(わた)り、186見(み)れば数百(すうひやく)人(にん)の荒男(あらをとこ)を率(ひき)ゐた大男(おほをとこ)駻馬(かんば)に跨(また)がり、187ツカツカと此(この)場(ば)に現(あら)はれ来(きた)り、
188大男(ブランジー)『ヤア、189汝(なんぢ)は何(いづ)れの国(くに)より漂着(へうちやく)してうせた。190此(この)一(ひと)つ島(じま)は、191他国人(たこくじん)の上陸(じやうりく)を許(ゆる)さざる秘密境(ひみつきやう)だ。192誰(たれ)の許可(ゆるし)を得(え)て出(で)てうせた。193速(すみやか)に其(その)岩(いは)を下(くだ)り一々(いちいち)事情(じじやう)を申(まを)し伝(つた)へよ』
194 小糸姫(こいとひめ)は泰然(たいぜん)自若(じじやく)、195満面(まんめん)に笑(ゑみ)を湛(たた)へて大男(おほをとこ)の一行(いつかう)を看守(みまも)つた。196四(よ)人(にん)の宣伝使(せんでんし)も同(おな)じく両手(りやうて)を組(く)み合(あは)せ、197儼然(げんぜん)として小糸姫(こいとひめ)の両脇(りやうわき)に立(た)ち、198一同(いちどう)の顔(かほ)を打(う)ち看守(みまも)つた。199大(だい)の男(をとこ)は声(こゑ)荒(あら)らげ、
200大男(ブランジー)『此(この)方(はう)は一(ひと)つ島(じま)の大棟梁(だいとうりやう)ブランジーと言(い)ふ者(もの)である。201此(この)方(はう)の威勢(ゐせい)に恐(おそ)れぬか。202一(いち)時(じ)も早(はや)く座(ざ)を下(くだ)り我(われ)等(ら)が縛(ばく)につけ』
203と鬼(おに)の如(ごと)き眼(め)を光(ひか)らしグツと睨(ね)めつけたるを、204小糸姫(こいとひめ)は莞爾(につこ)と笑(わら)ひ、
205小糸姫『愚(おろか)なりブランジー、206妾(われ)は天津(あまつ)神(かみ)の命(めい)を受(う)け、207只今(ただいま)四柱(よはしら)の従者(ともびと)を率(ひき)ゐ、208五色(ごしき)の雲(くも)に乗(の)り此(この)一(ひと)つ島(じま)に天降(あまくだ)りしものぞ。209此(この)国(くに)は妾(われ)が治(をさ)むべき神(かみ)の定(さだ)めの真秀良場(まほらば)なれば今日(こんにち)より妾(われ)に誠心(まごころ)を捧(ささ)げて仕(つか)ふるか。210さもなくば、211天譴(てんけん)を下(くだ)して槍(やり)の雨(あめ)を降(ふ)らせ、212雷(いかづち)の弾(たま)を以(もつ)て懲戒(みせしめ)の為(た)め汝(なんぢ)等(ら)を打滅(うちほろぼ)し呉(く)れむ。213返答(へんたふ)如何(いか)に』
214とキツと言(い)ひ渡(わた)せば、215流石(さすが)のブランジーも崇高(すうかう)なる女(をんな)の姿(すがた)に首(かうべ)を傾(かたむ)け、216暫(しば)し思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)た。217数百(すうひやく)人(にん)の荒男(あらをとこ)は武装(ぶさう)の儘(まま)大地(だいち)に平伏(ひれふ)し、218五(ご)人(にん)に向(むか)つて萱野(かやの)ケ原(はら)の住民(ぢゆうみん)と共(とも)に両手(りやうて)を合(あは)せ随喜(ずいき)の涙(なみだ)に暮(く)れて居(ゐ)る。219ブランジーは此(この)光景(くわうけい)を見(み)て我(が)を折(を)り、220又(また)もや馬(うま)を下(くだ)り大地(だいち)に平伏(へいふく)して帰順(きじゆん)の意(い)を表(へう)したり。221小糸姫(こいとひめ)は言葉(ことば)淑(しと)やかに、
222小糸姫『汝(なんぢ)は天津(あまつ)乙女(をとめ)の棚機姫(たなばたひめ)に帰順(きじゆん)せし徳(とく)に依(よ)つて、223妾(われ)が従司(じうしん)となし重(おも)く用(もち)ひむ。224飽迄(あくまで)も誠(まこと)を以(もつ)て吾(われ)等(ら)に仕(つか)へよ』
225と巧(うま)く言霊(ことたま)を応用(おうよう)すれば一同(いちどう)は感(かん)に打(う)たれ、226五(ご)人(にん)の宣伝使(せんでんし)を神人(しんじん)と敬(うやま)ひ、227前後(ぜんご)を護(まも)りて稍(やや)展開(てんかい)せる美(うる)はしき原野(げんや)の中(なか)の都会(とくわい)に導(みちび)き、228広殿(ひろどの)に五(ご)人(にん)を迎(むか)へて心(こころ)よりの馳走(ちそう)を拵(こしら)へ、229いと懇(ねんごろ)に誠意(せいい)を表(へう)したりける。
230 茲(ここ)に五(ご)人(にん)は一(ひと)つ島(じま)の花(はな)と謳(うた)はれ、231三五(あななひ)の神(かみ)の教(をしへ)を四方(よも)に宣伝(せんでん)し、232其(その)驍名(げうめい)は全島(ぜんたう)に轟(とどろ)き渡(わた)りけり。233此処(ここ)を是(これ)より地恩郷(ちおんきやう)と命名(めいめい)し、234小糸姫(こいとひめ)は遂(つい)に島人(しまびと)に挙(あ)げられて女王(ぢよわう)となり黄竜姫(わうりようひめ)と改名(かいめい)する事(こと)となりける。
235 茲(ここ)に五十子(いそこ)姫(ひめ)は今子姫(いまこひめ)を従(したが)へ、236梅子姫(うめこひめ)、237宇豆姫(うづひめ)を小糸姫(こいとひめ)が左右(さいう)に侍(じ)せしめ、238自転倒(おのころ)島(じま)さして神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の御跡(みあと)を慕(した)ひ進(すす)み渡(わた)る事(こと)となりぬ。239ブランジーの妻(つま)にクロンバーといふ女(をんな)あり。240夫婦(ふうふ)何(いづ)れも五十(ごじふ)の坂(さか)を四(よ)つ五(いつ)つ越(こ)えたる年輩(ねんぱい)なり。241ブランジーはクロンバーと共(とも)に今(いま)は黄竜姫(わうりようひめ)の宰相役(さいしやうやく)となり、242遠近(ゑんきん)に其(その)名(な)を轟(とどろ)かして居(ゐ)た。243クロンバーは或(ある)時(とき)黄竜姫(わうりようひめ)に拝謁(はいえつ)を乞(こ)ひ奥(おく)の間(ま)近(ちか)く進(すす)み入(い)り、
244クロンバー『黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)に折入(をりい)つてお願(ねが)ひが御座(ござ)います。245妾(わたし)の夫(をつと)ブランジーは貴女(あなた)様(さま)のお見出(みだ)しに預(あづか)り、246宰相(さいしやう)として恩寵(おんちよう)を辱(かたじけ)なうし、247此(この)島(しま)に於(おい)ては飛(と)ぶ鳥(とり)も落(おと)す勢(いきほひ)となりました。248クロンバー身(み)にとり有難(ありがた)く御(お)礼(れい)の申(まを)し上(あ)げ様(やう)も御座(ござ)いませぬ。249御存(ごぞん)じの通(とほ)り大男(おほをとこ)の不束者(ふつつかもの)で御座(ござ)いますれば、250何卒(どうぞ)御(お)見捨(みす)てなく末永(すえなが)く使(つか)つてやつて下(くだ)さいませ。251妾(わたし)は実(じつ)は此(この)島(しま)の生(うま)れではなく、252聖地(せいち)エルサレムに仕(つか)へて居(を)りました者(もの)で御座(ござ)いますが、253大切(たいせつ)なる玉(たま)の紛失(ふんしつ)せし為(た)め其(その)所在(ありか)を探(たづ)ねむと、254竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の生宮(いきみや)として今年(ことし)で殆(ほとん)ど満(まん)二(に)年(ねん)、255残(のこ)る隈(くま)なく探(さが)せども今(いま)に所在(ありか)は分(わか)らず、256何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)貴女(あなた)の天眼力(てんがんりき)を以(もつ)て御(お)示(しめ)し下(くだ)さらば有(あ)り難(がた)う御座(ござ)います』
257 黄竜姫(わうりようひめ)は厳然(げんぜん)として、
258黄竜姫『是(これ)は珍(めづ)らしき汝(なんぢ)の願(ねが)ひ、259其(その)玉(たま)と申(まを)すは如何(いか)なる玉(たま)なるぞ』
260クロンバー『ハイ、261左様(さやう)で御座(ござ)います。262金剛(こんがう)不壊(ふえ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)に黄金(こがね)の玉(たま)、263紫(むらさき)の玉(たま)の三(み)つの御宝(みたから)で御座(ござ)います。264今迄(いままで)は自転倒(おのころ)島(じま)の三五教(あななひけう)の東本山(ひがしほんざん)に納(をさ)めありし処(ところ)、265何者(なにもの)にか盗(ぬす)み取(と)られ今(いま)に行方(ゆくへ)が分(わか)りませぬ。266黄金(こがね)の玉(たま)は妾(わたし)が保管(ほくわん)致(いた)して居(を)りました所(ところ)、267何者(なにもの)にか盗(ぬす)み出(だ)され、268又(また)残(のこ)り二(ふた)つの玉(たま)は噂(うはさ)に聞(き)けば是(これ)亦(また)行方(ゆくへ)不明(ふめい)との事(こと)、269何卒(どうぞ)貴女(あなた)の御(ご)神力(しんりき)を以(もつ)て、270此(この)島(しま)の何(いづ)れの地点(ちてん)にあるやお示(しめ)し下(くだ)さらば有(あ)り難(がた)う存(ぞん)じます』
271 黄竜姫(わうりようひめ)はさも鷹揚(おうやう)さうに微笑(ほほゑ)み乍(なが)ら、
272黄竜姫『其(その)宝玉(ほうぎよく)は此(この)竜宮島(りうぐうじま)には隠(かく)しては無(な)い。273自転倒(おのころ)島(じま)の或(ある)地点(ちてん)に隠(かく)しあり、274容易(ようい)に発掘(はつくつ)すべからず、275最早(もはや)汝(なんぢ)は玉(たま)に対(たい)する執着心(しふちやくしん)を離(はな)れ、276ブランジーと共(とも)に誠心(まごころ)を尽(つく)して国務(こくむ)に奉仕(ほうし)したが宜(よ)からう』
277と言(い)ひ捨(す)て逃(に)ぐるが如(ごと)く奥殿(おくでん)に姿(すがた)を隠(かく)して仕舞(しま)つた。278後(あと)にクロンバーは独言(ひとりごと)、
279クロンバー『アーア、280仕方(しかた)がない。281黄金(こがね)の玉(たま)を紛失(ふんしつ)し、282高姫(たかひめ)様(さま)に叱(しか)り飛(と)ばされ、283守護神(しゆごじん)の囁(ささや)きに依(よ)つて竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)に隠(かく)しあると聞(き)き、284此処(ここ)まで探(たづ)ねて来(き)たものの、285此(この)広(ひろ)き島(しま)に三(さん)年(ねん)や五(ご)年(ねん)国人(くにびと)を使(つか)うて探(さが)して見(み)た処(ところ)で雲(くも)を掴(つか)む様(やう)な咄(はな)し、286黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)のお言葉(ことば)に依(よ)れば三(みつ)つの宝(たから)は此(この)島(しま)には無(な)いとの事(こと)、287如何(どう)したら宜(よ)からうか。288彼(あ)の玉(たま)無(な)き時(とき)は如何(どう)しても聖地(せいち)に帰(かへ)り高姫(たかひめ)様(さま)に会(あ)はす顔(かほ)がない。289此(この)黒姫(くろひめ)は夫(をつと)高山彦(たかやまひこ)と共(とも)にブランジー、290クロンバーと外国(から)様(さま)に名(な)を変(か)へて此(この)島(しま)に居(ゐ)るものの、291もう斯(か)うなつては何程(なにほど)結構(けつこう)な役(やく)を仰(あふ)せ付(つ)けられても聖地(せいち)に比(くら)ぶれば物(もの)の数(かず)でも無(な)い。292アヽ早(はや)く帰(かへ)り度(た)いものだナア』
293と語(かた)る折(をり)しもブランジーは此(この)場(ば)に現(あら)はれ、
294ブランジー『ヤア黒姫(くろひめ)、295早(はや)く館(やかた)へ帰(かへ)らうぢやないか。296黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)の御(ご)機嫌(きげん)を損(そこ)ねてはならないぞ』
297クロンバー『高山(たかやま)さま、298何(なに)を仰有(おつしや)る、299もう妾(わたし)は此(この)島(しま)が嫌(いや)になりました。300何程(なにほど)探(さが)したとて此(この)広(ひろ)い島(しま)に手掛(てがか)りの出来(でき)る筈(はず)がありませぬ。301此(この)上(うへ)は破(やぶ)れかぶれ、302一旦(いつたん)聖地(せいち)へ立(た)ち帰(かへ)り、303三五教(あななひけう)を根本(こんぽん)より立直(たてなほ)し、304言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)を追(お)つ放(ぽ)り出(だ)さねば虫(むし)が得心(とくしん)致(いた)しませぬ。305我々(われわれ)夫婦(ふうふ)が波濤(はたう)万里(ばんり)の此(この)島(しま)へ来(き)て苦労(くらう)するのも、306皆(みな)言依別(ことよりわけ)のためではありませぬか、307エヽ残念(ざんねん)や、308口惜(くちをし)や、309妾(わたし)はもう破(やぶ)れかぶれ、310是(これ)から狂乱(きやうらん)になりますから其(その)積(つも)りで居(ゐ)て下(くだ)さい』
311ブランジー『ハヽヽヽヽ、312又(また)何時(いつ)もの疳癪病(かんしやくびやう)が突発(とつぱつ)したのか。313マアマア宅(うち)へ帰(かへ)つて、314酒(さけ)でもゆつくり飲(の)んで其(その)上(うへ)の事(こと)にしようかい』
315と背(せな)を三(み)つ四(よ)つ打(う)ち、316クロンバーの手(て)を引(ひ)いて己(おの)が館(やかた)へ帰(かへ)り行(ゆ)く。
317(大正一一・六・一四 旧五・一九 北村隆光録)
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