霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 暴風(ぼうふう)一過(いつくわ)〔七四二〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm2412
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は高山彦(たかやまひこ)、002黒姫(くろひめ)に誘(さそ)はれ、003広大(くわうだい)なる宰相室(さいしやうしつ)に導(みちび)かれ、004懐旧談(くわいきうだん)に時(とき)を移(うつ)しける。
005黒姫『高姫(たかひめ)様(さま)、006ようまア、007はるばると訪(たづ)ねて来(き)て下(くだ)さいました。008黄金(こがね)の玉(たま)の所在(ありか)は分(わか)りましたか。009妾(わたし)も此(この)島(しま)に渡(わた)つて宰相(さいしやう)の妻(つま)となつたのを幸(さいは)ひに、010国人(くにびと)を使役(しえき)し、011此(この)広大(くわうだい)なる島(しま)の隅々(すみずみ)まで探(さが)させましたなれど、012玉(たま)らしいものは一(ひと)つもありませぬ。013定(さだ)めて貴女(あなた)が是(これ)へお越(こ)し遊(あそ)ばしたのは、014妾(わたし)に安心(あんしん)させてやらうと思召(おぼしめ)して、015お出(い)で下(くだ)さつたらうと信(しん)じます』
016高姫『誠(まこと)に申(まを)し訳(わけ)がありませぬ。017あの玉(たま)の隠(かく)し人(びと)は、018正(まさ)しく言依別(ことよりわけの)命(みこと)らしう御座(ござ)います。019黄金(こがね)の玉(たま)ばかりか、020妾(わたし)の保管(ほくわん)して居(を)つた如意(によい)宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を始(はじ)め、021紫(むらさき)の玉(たま)まですつかり抜(ぬ)き取(と)られ、022妾(わたし)はそれが為(た)め種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)の艱難(かんなん)苦労(くらう)を嘗(な)め、023玉(たま)の所在(ありか)を探(さが)す内(うち)、024言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)は我々(われわれ)を出(だ)し抜(ぬ)き、025貴女(あなた)の御存(ごぞん)じの丹波村(たんばむら)のお節(せつ)や、026杢助(もくすけ)の娘(むすめ)のお初(はつ)に、027玉(たま)を何処(どこ)かへ隠(かく)させて仕舞(しま)つたのですよ。028それが為(た)めにお節(せつ)、029お初(はつ)を厳(きび)しく訊問(じんもん)すれども、030三十万(さんじふまん)年(ねん)の未来(みらい)でなければ申(まを)し上(あ)げぬと我(が)を張(は)り、031大方(おほかた)此(この)島(しま)に隠(かく)して置(お)いたのではあるまいかと、032荒波(あらなみ)を渡(わた)つて此処(ここ)まで参(まゐ)りました。033未(ま)だ一(ひと)つも玉(たま)の所在(ありか)は妾(わたし)は分(わか)らないのです』
034 黒姫(くろひめ)は眉(まゆ)を逆立(さかだ)て、
035黒姫『不届(ふとど)き至極(しごく)の言依別(ことよりわけ)にお節(せつ)にお初(はつ)、036此(この)恨(うら)みを晴(は)らさいで措(お)きませうや』
037と拳(こぶし)を握(にぎ)り、038思(おも)はず卓(たく)を三(み)つ四(よ)つ叩(たた)いて雄健(をたけ)びをする。039高山彦(たかやまひこ)は傍(そば)より、
040高山彦『何時(いつ)までも玉々(たまたま)と云(い)ふには及(およ)ばぬぢやないか。041言依別(ことよりわけの)命(みこと)がどうなさらうと、042神界(しんかい)のお経綸(しぐみ)に違(ちが)ひあるまい。043モウ玉(たま)の事(こと)は断念(だんねん)して貰(もら)ひたい。044黒姫(くろひめ)の玉詮索(たませんさく)には私(わたし)もモウウンザリしたよ。045間(ま)がな隙(すき)がな寝言(ねごと)の端(はし)にまで、046玉(たま)の事(こと)ばかり、047タマつたものぢやない。048それに又(また)高姫(たかひめ)さままでが、049玉(たま)を盗(と)られたとか、050イヤもう、051うるさい事(こと)でコリコリしますワイ』
052黒姫『コレコレ高山(たかやま)さま、053お前(まへ)さまは何(な)んと云(い)ふ冷淡(れいたん)な事(こと)を仰有(おつしや)るのだい。054三千(さんぜん)世界(せかい)の御(おん)宝(たから)、055それを日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)として、056又(また)竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)の生宮(いきみや)として手(て)に入(い)れずして、057ドウして天下(てんか)万民(ばんみん)が救(すく)へませうか。058お前(まへ)さま、059時々(ときどき)利己主義(われよし)を発揮(はつき)するから困(こま)る。060誰(たれ)が何(なん)と云(い)つても此(この)玉(たま)の所在(ありか)を白状(はくじやう)させねば措(お)くものか。061……時(とき)に高姫(たかひめ)さま、062其(その)お節(せつ)にお初(はつ)は今(いま)何処(どこ)に居(を)りますか』
063高姫『ハイ、064たつた今(いま)……偉(えら)さうにニユージランドの土人(どじん)のお手車(てぐるま)に乗(の)せられ、065此(この)玄関先(げんくわんさき)までやつて来(き)ましたが、066大方(おほかた)蜈蚣姫(むかでひめ)と一緒(いつしよ)に奥殿(おくでん)に進(すす)み入(い)り、067黄竜姫(わうりようひめ)様(さま)の前(まへ)で自慢話(じまんばなし)でもやつて居(を)りませうよ、068本当(ほんたう)に劫腹(がふばら)の立(た)つ……ニユージランドの玉(たま)の森(もり)で、069大変(たいへん)な、070妾(わたし)に侮辱(ぶじよく)を加(くは)へました。071元(もと)の小糸姫(こいとひめ)様(さま)を誘拐(かどはか)した友彦(ともひこ)や、072スマートボールに田吾作(たごさく)の玉治別(たまはるわけ)、073それにお節(せつ)にお初(はつ)、074いやモウサンザンの目(め)に会(あ)はしよつた。075如何(いか)に……神(かみ)様(さま)の道(みち)ぢや、076見直(みなほ)し聞直(ききなほ)せ……と思(おも)つても、077口惜(くや)し残念(ざんねん)をこばりつめようと思(おも)つても、078是(これ)がどうして耐(こば)らせませうかい。079大勢(おほぜい)の人(ひと)の中(なか)に面(つら)を晒(さら)され、080生(うま)れてからコンナ残念(ざんねん)な目(め)に会(あ)はされた事(こと)は御座(ござ)いませぬワイなア』
081と耐(こら)へ耐(こら)へし溜涙(ためなみだ)、082一度(いちど)に堤防(ていばう)の崩(くづ)れし如(ごと)く声(こゑ)を放(はな)つて泣(な)き立(た)てける。
083黒姫『お節(せつ)にお初(はつ)、084田吾作(たごさく)の奴(やつ)、085屹度(きつと)当城内(たうじやうない)の何処(どこ)かに居(を)るに違(ちが)ひない。086サア是(こ)れから探(さが)し出(だ)して、087締木(しめぎ)に架(か)けても白状(はくじやう)させねば措(お)くものか。088……ヤア家来(けらい)共(ども)、089最前(さいぜん)参(まゐ)りし男女(だんぢよ)の一同(いちどう)召捕(めしと)つて此(この)場(ば)へ連(つ)れ来(きた)れよ』
090との黒姫(くろひめ)の下知(げち)に隣室(りんしつ)に控(ひか)へ居(ゐ)たる七八(しちはち)人(にん)の下男(しもべ)は、
091『ハイ』
092と答(こた)へて捻鉢巻(ねぢはちまき)、093襷十字(たすきじふじ)に綾取(あやど)り、094突棒(つくぼう)、095刺股(さすまた)、096手槍(てやり)なぞを提(ひつさ)げて、097城内(じやうない)隈(くま)なく捜索(そうさく)し始(はじ)めたり。098されど裏山(うらやま)の森林(しんりん)に手早(てばや)く姿(すがた)を隠(かく)したる玉能姫(たまのひめ)其(その)他(た)一同(いちどう)は山(やま)又(また)山(やま)を越(こ)えて、099遥(はる)か向(むか)ふの山頂(さんちやう)に避難(ひなん)し時(とき)の移(うつ)るを待(ま)ち居(ゐ)たりける。
100 かかる所(ところ)へ侍女(じぢよ)の一人(ひとり)出(い)で来(きた)り、
101侍女『宰相(さいしやう)様(さま)、102其(その)他(た)の御(お)客(きやく)様(さま)に、103女王(ぢよわう)様(さま)がお目(め)にかかりたいと仰(あふ)せられます。104どうぞ直様(すぐさま)お越(こ)し下(くだ)されませ、105御(ご)案内(あんない)致(いた)しませう』
106と先(さき)に立(た)つ。107ブランジー、108クロンバーの後(あと)に従(つ)いて高姫(たかひめ)は、109首(くび)を頻(しき)りに振(ふ)りながら、110半(なかば)神懸(かむがかり)[※三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑り」。]の態(てい)にて奥(おく)深(ふか)く進(すす)みつつ、111やうやう黄竜姫(わうりようひめ)の居間(ゐま)に通(とほ)されける。
112 高山彦(たかやまひこ)は黄竜姫(わうりようひめ)に向(むか)ひ両手(りやうて)をつき、
113高山彦『今日(こんにち)は御(おん)母上(ははうへ)に御(ご)対面(たいめん)遊(あそ)ばされ、114吾々(われわれ)も共(とも)に大慶(たいけい)至極(しごく)に存(ぞん)じまする。115……蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)、116ようこそ、117御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました。118私(わたくし)は当国(たうごく)の宰相(さいしやう)を承(うけたま)はる高山彦(たかやまひこ)と申(まを)す者(もの)、119ブランジーとは仮(かり)の名(な)、120又(また)此(この)クロンバーと申(まを)すは私(わたくし)の妻(つま)、121本名(ほんみやう)は黒姫(くろひめ)と申(まを)すもの、122何卒(なにとぞ)御(お)見知(みし)り置(お)かれまして御(お)引立(ひきたて)の段(だん)、123偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)りまする』
124蜈蚣姫『コレハコレハ高山彦(たかやまひこ)様(さま)、125黒姫(くろひめ)様(さま)とやら、126予(かね)て高姫(たかひめ)さまより承(うけたま)はつて居(を)りました、127何分(なにぶん)宜(よろ)しう御(お)願(ねが)ひ致(いた)します。128……コレ高姫(たかひめ)さま、129貴女(あなた)も随分(ずゐぶん)意地悪(いぢわる)いお方(かた)で御座(ござ)いましたなア、130ニユージランドの玉(たま)の森(もり)にては貴女(あなた)も随分(ずゐぶん)お困(こま)りでしたやうですワ』
131高姫『蜈蚣姫(むかでひめ)さま、132お前(まへ)さまの娘御(むすめご)が、133此(この)国(くに)の女王(ぢよわう)になつたと思(おも)つて俄(にはか)に偉(えら)い御(ご)見識(けんしき)、134何程(なにほど)偉(えら)い女王(ぢよわう)様(さま)でも、135世界(せかい)統一(とういつ)の太柱(ふとばしら)、136三千(さんぜん)世界(せかい)の御(おん)宝(たから)、137日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)に比(くら)ぶれば、138竜宮(りうぐう)の一(ひと)つ島(じま)位(くらゐ)手(て)に握(にぎ)つたとて、139アンマリ立派(りつぱ)なお手柄(てがら)でも御座(ござ)いますまい。140三千(さんぜん)世界(せかい)に二人(ふたり)とない世(よ)の立替(たてかへ)立直(たてなほ)しの基礎(どだい)の身魂(みたま)は、141……ヘン此(この)高姫(たかひめ)で御座(ござ)いますワイ。142盲(めくら)千(せん)人(にん)の世(よ)の中(なか)、143誠(まこと)の者(もの)は一寸(ちよつと)やそつとに分(わか)りますまい。144此(この)黒姫(くろひめ)さまだとて、145黄竜姫(わうりようひめ)の幕下(ばくか)に神妙(しんめう)に仕(つか)へて御座(ござ)るが、146実(じつ)の素性(すじやう)を申(まを)せば、147驚(おどろ)く勿(なか)れ……竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)様(さま)の生宮(いきみや)で御座(ござ)るぞや。148高山彦(たかやまひこ)は夫顔(をつとがお)をして偉(えら)さうにして御座(ござ)るが、149実際(じつさい)の身魂(みたま)を云(い)へば、150青雲山(せいうんざん)に棲(すま)ひを致(いた)す大天狗(だいてんぐ)の身魂(みたま)、151何(なん)と云(い)つても高姫(たかひめ)、152黒姫(くろひめ)の二人(ふたり)が居(を)らねば、153神国(しんこく)成就(じやうじゆ)は……ヘン致(いた)しませぬワイ。154人民(じんみん)に対(たい)して一(ひと)つ島(じま)の女王(ぢよわう)さまでも、155天地(てんち)根本(こつぽん)の神(かみ)の生宮(いきみや)、156神界(しんかい)では是(これ)位(くらゐ)立派(りつぱ)な権威(けんゐ)のある身魂(みたま)はありますまい。157……黄竜姫(わうりようひめ)殿(どの)、158暫(しばら)く日(ひ)の出神(でのかみ)に席(せき)をお譲(ゆづ)りめされ』
159とツンツンし乍(なが)ら、160上座(じやうざ)にドンと坐(すわ)り見(み)せたり。
161蜈蚣姫『何(なん)とマア我(が)の強(つよ)い執拗(しぶと)い身魂(みたま)だらう。162仮令(たとへ)日(ひ)の出神(でのかみ)でも竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)でも、163此(この)城内(じやうない)は黄竜姫(わうりようひめ)の権利(けんり)、164上座(じやうざ)に坐(すわ)るのが御(お)気(き)に召(め)さねば、165トツトと帰(かへ)つて貰(もら)ひませう』
166高姫『別(べつ)に妾(わたし)は女王(ぢよわう)にならうと云(い)ふのではない。167女王(ぢよわう)さまの坐(すわ)つて御座(ござ)る尻(しり)の下(した)が一遍(いつぺん)調(しら)べて見(み)たいのだ』
168蜈蚣姫『オホヽヽヽ、169疑(うたが)ひの深(ふか)いお方(かた)だ事(こと)、170女王(ぢよわう)さまの坐(すわ)つて御座(ござ)る床下(ゆかした)に、171三(みつ)つの玉(たま)でも隠(かく)してある様(やう)に疑(うたが)うていらつしやるのだな』
172高姫『疑(うたが)ふも疑(うたが)はぬもありますかい。173日(ひ)の出神(でのかみ)がチヤンと天眼通(てんがんつう)で調(しら)べてあるのだ、174お前(まへ)さまが意地張(いぢば)れば意地張(いぢば)るほど、175此方(こちら)は疑(うたが)はざるを得(え)ませぬ。176黒姫(くろひめ)さまも好(い)い頓馬(とんま)だなア。177何(なん)の為(た)めに暫(しばら)く宰相神(さいしやうがみ)に化(ば)けて御座(ござ)つたのだな。178サヽ女王(ぢよわう)さま、179一寸(ちよつと)立(た)つて下(くだ)さい』
180黄竜姫『苟(いやし)くも一国(いつこく)の女王(ぢよわう)たるもの、181仮令(たとへ)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の言葉(ことば)と雖(いへど)も、182吾(わが)意(い)に反(はん)して一分(いちぶ)も動(うご)く事(こと)は出来(でき)ませぬぞ』
183 高姫(たかひめ)は横手(よこて)を拍(う)ちニヤリと笑(わら)ひ、
184高姫『ソレソレ矢張(やつぱり)隠(かく)し終(お)ふせますまいがな。185此方(こちら)が現(あらは)さぬ内(うち)に素直(すなほ)に白状(はくじやう)なされ。186さうすれば永遠(ゑいゑん)無窮(むきう)に一(ひと)つ島(じま)の女王(ぢよわう)として、187驍名(げうめい)を天下(てんか)に輝(かがや)かす事(こと)が出来(でき)る。188成(な)る事(こと)なら此(この)儘(まま)にして蓋(ふた)を開(あ)けずに助(たす)けて遣(や)りたいのが、189高姫(たかひめ)の胸一杯(むねいつぱい)だ。190此(この)大(だい)慈悲心(じひしん)を無(む)にして、191何処迄(どこまで)も隠(かく)すのなら隠(かく)してよからう。192蜈蚣姫(むかでひめ)と親子(おやこ)心(こころ)を合(あは)せ、193聖地(せいち)の宝(たから)を隠(かく)さうと思(おも)うても、194隠(かく)し終(お)ふせるものでは御座(ござ)いませぬぞや』
195 黄竜姫(わうりようひめ)は稍(やや)不機嫌(ふきげん)の態(てい)にて無言(むごん)の儘(まま)此(この)場(ば)をツツと立(た)ち、196風景(ふうけい)よき次(つぎ)の間(ま)に蜈蚣姫(むかでひめ)を伴(ともな)ひ進(すす)み入(い)りけり。
197高姫『オホヽヽヽ、198トウトウ尻(しり)こそばゆなつて座(ざ)を立(た)つて、199お脱(ぬ)け遊(あそ)ばしたワイ。200……高山彦(たかやまひこ)さま、201黒姫(くろひめ)さま、202高姫(たかひめ)の御(ご)威勢(ゐせい)には敵(かな)ひますまい。203サアサ尻(しり)の下(した)の板(いた)をめくつて調(しら)べて御覧(ごらん)、204お前(まへ)さまの目(め)では実物(じつぶつ)を見(み)なければ分(わか)るまい。205妾(わたし)はチヤンと天眼通(てんがんつう)で床板(ゆかいた)を透(とう)して知(し)つて居(を)るのだ。206……ヤレヤレ愈(いよいよ)大願(たいぐわん)成就(じやうじゆ)の時(とき)到(いた)れりだ。207アーア惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
208と双手(もろて)を合(あは)せ、209まだ見(み)ぬ先(さき)から手(て)に入(い)つたやうな心持(こころもち)に、210感謝(かんしや)の祝詞(のりと)を頻(しき)りに奏上(そうじやう)する。
211高山彦『高姫(たかひめ)さま、212此(この)床下(ゆかした)には決(けつ)してソンナ物(もの)はありませぬよ。213此(この)葢(ふた)を開(あ)けるが最後(さいご)、214蜿蜒(えんえん)たる黄竜(わうりよう)が潜(ひそ)んで居(を)りますから、215毒気(どくき)に当(あ)てられては大変(たいへん)な目(め)に逢(あ)はねばなりますまい。216開(あ)けるのなら、217お前(まへ)さま手(て)づから開(あ)けて下(くだ)さい』
218 高姫(たかひめ)は………「甘(うま)い事(こと)を云(い)ふ、219高山彦(たかやまひこ)さまもお人(ひと)がよいから、220黄竜姫(わうりようひめ)に誤魔化(ごまくわ)されて居(を)るワイ」……と云(い)ふ様(やう)な顔付(かほつき)をし乍(なが)ら、221床板(ゆかいた)を一(いち)枚(まい)グツとめくり、222床下(ゆかした)の深(ふか)い穴(あな)を覗(のぞ)き込(こ)み「アツ」と云(い)つたきり、223蟹(かに)の様(やう)な泡(あわ)を吹(ふ)き目(め)をまはし打(う)ち倒(たふ)れけり。
224 黒姫(くろひめ)、225高山彦(たかやまひこ)の両人(りやうにん)は高姫(たかひめ)の身体(からだ)を引抱(ひつかか)へ、226吾(わが)居間(ゐま)に担(かつ)ぎ込(こ)み水(みづ)よ薬(くすり)よと介抱(かいはう)し、227一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)したるに、228漸(やうや)くにして高姫(たかひめ)は息(いき)を吹(ふ)き返(かへ)し、
229高姫『アーア、230日(ひ)の出神(でのかみ)も全(まつた)く疑(うたが)ひが晴(は)れました。231かうなる以上(いじやう)は黄竜姫(わうりようひめ)に対(たい)し恥(はづ)かしくて、232半時(はんとき)の間(ま)も居(を)られはしない。233高山彦(たかやまひこ)御(ご)夫婦(ふうふ)の御(ご)所存(しよぞん)は如何(いか)に、234妾(わたし)と一緒(いつしよ)にお節(せつ)の所在(ありか)を探(さが)し、235今度(こんど)は千騎(せんき)一騎(いつき)に調(しら)べて見(み)ようぢやないか』
236 高山彦(たかやまひこ)は気(き)のりのせぬ風(ふう)にて、
237高山彦『アマリ急(いそ)ぐに及(およ)びませぬワイ』
238黒姫『コレ高山彦(たかやまひこ)さま、239何(なん)といふ冷淡(れいたん)な事(こと)を仰有(おつしや)る。240天下(てんか)国家(こくか)の為(ため)にどうしても彼(あ)の玉(たま)を手(て)に入(い)れねばなりますまい』
241高姫『黒姫(くろひめ)さま、242一(ひと)つ覚悟(かくご)を遊(あそ)ばさねばなりませぬぞ。243日(ひ)の出神(でのかみ)が今(いま)申(まを)し付(つ)ける』
244黒姫『竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)の生宮(いきみや)、245確(たしか)に承知(しようち)仕(つかまつ)りました』
246 かかる所(ところ)へ七八(しちはち)人(にん)の男(をとこ)ドヤドヤと入(い)り来(きた)り、
247男『宰相(さいしやう)様(さま)に申(まを)し上(あ)げます。248城内(じやうない)隈(くま)なく探(さが)しましたが、249宣伝使(せんでんし)らしき者(もの)は一人(ひとり)も居(を)りませぬから、250屹度(きつと)裏門(うらもん)から逃(に)げ去(さ)つたに相違(さうゐ)ありますまい。251一足(ひとあし)なりと逃(に)げ延(の)びぬ内(うち)に、252サア皆(みな)さま捜索(そうさく)に参(まゐ)りませう』
253と促(うなが)す。254三(さん)人(にん)はツト此(こ)の城(しろ)を立出(たちい)で、255傍(かたはら)の山(やま)より峰伝(みねづた)ひに、256玉能姫(たまのひめ)、257初稚姫(はつわかひめ)、258玉治別(たまはるわけ)一行(いつかう)の捜索(そうさく)に立向(たちむか)ひける。
259 高山彦(たかやまひこ)も終(つひ)に顕要(けんえう)の地位(ちゐ)を棄(す)てて高姫(たかひめ)、260黒姫(くろひめ)と共(とも)に「タカ」の港(みなと)に現(あら)はれ、261一隻(いつせき)の船(ふね)に身(み)を委(まか)せ、262浪(なみ)のまにまに玉能姫(たまのひめ)一行(いつかう)の後(あと)を追(お)はむと漕(こ)ぎ出(だ)したり。
263 玉能姫(たまのひめ)、264初稚姫(はつわかひめ)、265玉治別(たまはるわけ)其(その)他(た)の一行(いつかう)は、266遥(はる)かの山上(さんじやう)より霊眼(れいがん)を以(もつ)て三(さん)人(にん)が此(この)島(しま)を後(あと)に帰(かへ)り行(ゆ)くのを眺(なが)め、267ヤツト胸(むね)撫(な)で下(お)ろし、268再(ふたた)び城内(じやうない)に悠々(いういう)として帰(かへ)り来(き)たりぬ。269初稚姫(はつわかひめ)一行(いつかう)は、270蜈蚣姫(むかでひめ)のアンボイナ島(たう)に於(お)ける危難(きなん)を救(すく)ふ可(べ)く船(ふね)を与(あた)へたる其(その)好意(かうい)を黄竜姫(わうりようひめ)より感謝(かんしや)され、271山海(さんかい)の珍味(ちんみ)を饗応(もてな)され、272愈(いよいよ)茲(ここ)に三五教(あななひけう)を確立(かくりつ)し、273黄竜姫(わうりようひめ)を女王(ぢよわう)兼(けん)全島(ぜんたう)の教主(けうしゆ)と定(さだ)め、274各自(めいめい)に手分(てわ)けをなし、275梅子姫(うめこひめ)、276宇豆姫(うづひめ)諸共(もろとも)に、277全島(ぜんたう)隈(くま)なくあらゆる生霊(せいれい)に三五(あななひ)の大道(たいだう)を宣伝(せんでん)し、278自転倒(おのころ)島(じま)の聖地(せいち)に向(むか)つて凱旋(がいせん)する事(こと)となりにける。
279(大正一一・七・三 旧閏五・九 谷村真友録)
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