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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第24巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 流転の涙
第1章 粉骨砕身
第2章 唖呍
第3章 波濤の夢
第4章 一島の女王
第2篇 南洋探島
第5章 蘇鉄の森
第6章 アンボイナ島
第7章 メラの滝
第8章 島に訣別
第3篇 危機一髪
第9章 神助の船
第10章 土人の歓迎
第11章 夢の王者
第12章 暴風一過
第4篇 蛮地宣伝
第13章 治安内教
第14章 タールス教
第15章 諏訪湖
第16章 慈愛の涙
霊の礎(一〇)
霊の礎(一一)
神諭
余白歌
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第24巻(亥の巻)
> 第4篇 蛮地宣伝 > 第13章 治安内教
<<< 暴風一過
(B)
(N)
タールス教 >>>
第一三章
治安内
(
ぢあんない
)
教
(
けう
)
〔七四三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻
篇:
第4篇 蛮地宣伝
よみ(新仮名遣い):
ばんちせんでん
章:
第13章 治安内教
よみ(新仮名遣い):
ちあんないきょう
通し章番号:
743
口述日:
1922(大正11)年07月05日(旧閏05月11日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年5月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初稚姫一行はネルソン山の山頂で祝詞を唱えていたとき、強風に吹き煽られて、山頂から墜落してしまった。一つ島は、ネルソン山より東側は黄竜姫が治めていたが、西側は猛獣毒蛇が多く、人が立ち入れない場所と考えられていた。
しかし実際には、相当数に人間が住んでいたのである。この地に住む人々は、勇猛で身体大きく、男女共に顔面に刺青をしていた。これはこの地に多い猛獣や毒蛇を避けるためである。
ジャンナの里のジャンナイ教は、肉食を厳禁し、肉食を犯した者はネルソン山西麓の谷間に集まって贖罪の生活を為していた。酋長の娘・照姫が、贖罪の道を教えるためにジャンナイ教の教主となっていた。
ジャンナイ教には、鼻の赤い神が救世主として降る、という伝説があった。そこへ、ネルソン山の強風に吹き煽られた友彦が墜落してきた。
友彦が息を吹き返すと、刺青をした人間たちが自分を取り囲んでいた。しかし自分を崇めているような様子から、これは自分を天から降った人種だと思って奉っているものだと日ごろの山師気を起こし、言葉が通じないのをよいことに、天を指差したり五十音を発生したりしてそれらしく振舞っていた。
やがて友彦は、ジャンナイ教の照姫のもとに連れて行かれた。ジャンナイ教主である照姫だけは、刺青をしていなかった。そこで照姫と友彦は結婚の儀式を行い、祝いの歌が響き渡った。
そこへ同じようにネルソン山から吹き落とされた玉治別が担ぎ込まれてきた。玉治別は友彦がわけのわからない言葉で歌っているのを聞いて、思わずふき出した。
玉治別は言葉が通じないのをよいことに、友彦の悪行を里人に向かって説法したり、友彦をからかっている。友彦は照姫に連れられて別室に行ってしまった。
すると屋根の上から木の実が玉治別の顔に落ちて、鼻が赤く腫れ上がってしまった。ジャンナイ教の従者はこれを見て、友彦より鼻の赤い立派な神様が現れたと思い、照姫のところに連れて行った。
すると照姫は玉治別の方を気に入ってしまい、友彦に肘鉄を食わした。友彦と玉治別がやりあっている間に、玉治別の鼻は紫になり、黒くなってきた。すると今度は玉治別が肘鉄を食わされてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-15 02:39:08
OBC :
rm2413
愛善世界社版:
205頁
八幡書店版:
第4輯 688頁
修補版:
校定版:
211頁
普及版:
96頁
初版:
ページ備考:
001
大海原
(
おほうなばら
)
に
漂
(
ただよ
)
へる
002
黄金
(
こがね
)
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く
竜宮
(
りうぐう
)
の
003
一
(
ひと
)
つの
島
(
しま
)
に
上陸
(
じやうりく
)
し
004
厳
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
城門
(
じやうもん
)
を
005
潜
(
くぐ
)
りて
高姫
(
たかひめ
)
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
006
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
に
面会
(
めんくわい
)
し
007
梅子
(
うめこ
)
の
姫
(
ひめ
)
や
宇豆姫
(
うづひめ
)
の
008
高
(
たか
)
き
功績
(
いさお
)
に
舌
(
した
)
を
巻
(
ま
)
き
009
天狗
(
てんぐ
)
の
鼻
(
はな
)
の
高姫
(
たかひめ
)
は
010
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
と
011
諜
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せて
玉能姫
(
たまのひめ
)
012
初稚姫
(
はつわかひめ
)
や
玉治
(
たまはる
)
の
013
別
(
わけの
)
命
(
みこと
)
は
海原
(
うなばら
)
を
014
遠
(
とほ
)
く
渡
(
わた
)
りて
自転倒
(
おのころ
)
の
015
島
(
しま
)
に
帰
(
かへ
)
りしものとなし
016
俄
(
にはか
)
に
船
(
ふね
)
を
操
(
あやつ
)
りつ
017
東
(
ひがし
)
を
指
(
さ
)
して
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く
018
玉治別
(
たまはるわけ
)
や
玉能姫
(
たまのひめ
)
019
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
一行
(
いつかう
)
は
020
厳
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
の
城門
(
じやうもん
)
を
021
後
(
あと
)
に
眺
(
なが
)
めて
竜王山
(
たつおやま
)
022
峰
(
みね
)
を
伝
(
つた
)
うてシトシトと
023
谷
(
たに
)
を
飛
(
と
)
び
越
(
こ
)
え
岩間
(
いはま
)
をくぐり
024
ネルソン
山
(
ざん
)
の
山頂
(
さんちやう
)
に
025
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
しつつ
026
炎暑
(
えんしよ
)
と
戦
(
たたか
)
ひやうやうに
027
息
(
いき
)
継
(
つ
)
ぎあへず
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
028
折柄
(
をりから
)
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
涼風
(
りやうふう
)
に
029
払
(
はら
)
ひ
落
(
おと
)
した
玉
(
たま
)
の
汗
(
あせ
)
030
厳
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
を
顧
(
かへり
)
みて
031
山
(
やま
)
又
(
また
)
山
(
やま
)
に
連
(
つら
)
なりし
032
雄大
(
ゆうだい
)
無限
(
むげん
)
の
絶景
(
ぜつけい
)
を
033
心
(
こころ
)
行
(
ゆ
)
くまでも
観賞
(
くわんしやう
)
し
034
各
(
おのおの
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
035
天津
(
あまつ
)
御神
(
みかみ
)
や
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
036
国魂神
(
くにたまがみ
)
の
大前
(
おほまへ
)
に
037
拍手
(
はくしゆ
)
の
声
(
こゑ
)
も
勇
(
いさ
)
ましく
038
竜宮島
(
りうぐうじま
)
の
宣伝
(
せんでん
)
を
039
無事
(
ぶじ
)
に
済
(
す
)
まさせ
玉
(
たま
)
へよと
040
祈
(
いの
)
る
折
(
をり
)
しも
山腹
(
さんぷく
)
より
041
俄
(
にはか
)
に
湧
(
わ
)
き
来
(
く
)
る
濃雲
(
のううん
)
に
042
一行
(
いつかう
)
十
(
じふ
)
人
(
にん
)
忽
(
たちま
)
ちに
043
暗
(
やみ
)
に
包
(
つつ
)
まれ
足許
(
あしもと
)
も
044
碌々
(
ろくろく
)
見
(
み
)
えずなりにける
045
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
黒雲
(
くろくも
)
を
046
押
(
お
)
し
分
(
わ
)
け
来
(
きた
)
る
大蛇
(
をろち
)
の
群
(
むれ
)
047
焔
(
ほのほ
)
の
舌
(
した
)
を
吐
(
は
)
き
乍
(
なが
)
ら
048
一行
(
いつかう
)
目蒐
(
めが
)
けて
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
る
049
スマートボールは
驚
(
おどろ
)
いて
050
闇
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
をば
駆
(
かけ
)
めぐり
051
ネルソン
山
(
ざん
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
より
052
足
(
あし
)
踏
(
ふ
)
みはづし
万丈
(
ばんぢやう
)
の
053
谷間
(
たにま
)
に
忽
(
たちま
)
ち
顛落
(
てんらく
)
し
054
続
(
つづ
)
いて
貫州
(
くわんしう
)
武公
(
たけこう
)
や
055
久助
(
きうすけ
)
お
民
(
たみ
)
も
各自
(
めいめい
)
に
056
行方
(
ゆくへ
)
も
知
(
し
)
れずなりにけり
057
玉治別
(
たまはるわけ
)
や
玉能姫
(
たまのひめ
)
058
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
手
(
て
)
をつなぎ
059
暗祈
(
あんき
)
黙祷
(
もくたう
)
の
折柄
(
をりから
)
に
060
忽
(
たちま
)
ち
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
大嵐
(
おほあらし
)
061
本島一
(
ほんたういち
)
の
高山
(
かうざん
)
の
062
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
を
渡
(
わた
)
る
荒風
(
あらかぜ
)
は
063
一入
(
ひとしほ
)
強
(
つよ
)
く
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
064
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
如
(
ごと
)
く
中空
(
ちうくう
)
に
065
巻
(
ま
)
きあげられて
悲
(
かな
)
しくも
066
各
(
おのおの
)
行方
(
ゆくへ
)
は
白雲
(
しらくも
)
の
067
包
(
つつ
)
む
谷間
(
たにま
)
に
落
(
お
)
ちにけり
068
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
069
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
070
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
071
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
072
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
073
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
074
世
(
よ
)
の
過
(
あやま
)
ちを
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
す
075
三五教
(
あななひけう
)
の
皇神
(
すめかみ
)
の
076
教
(
をしへ
)
に
任
(
まか
)
せし
一行
(
いつかう
)
は
077
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
078
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませと
079
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
祈
(
いの
)
りつつ
080
底
(
そこ
)
ひも
知
(
し
)
れぬ
谷底
(
たにぞこ
)
に
081
生命
(
いのち
)
からがら
墜落
(
つゐらく
)
し
082
谷
(
たに
)
の
木霊
(
こだま
)
を
響
(
ひび
)
かせつ
083
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
をスラスラと
084
奏上
(
そうじやう
)
するこそ
健気
(
けなげ
)
なれ。
085
○
086
厳
(
うづ
)
の
城
(
しろ
)
より
舁出
(
かきだ
)
され
087
谷間
(
たにま
)
の
岩上
(
がんじやう
)
に
墜落
(
つゐらく
)
し
088
腰
(
こし
)
を
打
(
う
)
ちたる
友彦
(
ともひこ
)
も
[
※
第11章末を参照
]
089
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りの
著
(
いちじる
)
く
090
ハツと
心
(
こころ
)
を
取直
(
とりなほ
)
し
091
あたりを
見
(
み
)
れば
人影
(
ひとかげ
)
の
092
無
(
な
)
きを
幸
(
さいは
)
ひ
森林
(
しんりん
)
の
093
草
(
くさ
)
を
分
(
わ
)
けつつやうやうに
094
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
を
喰
(
くら
)
ひ
谷水
(
たにみづ
)
に
095
喉
(
のど
)
を
潤
(
うるほ
)
しネルソンの
096
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
に
着
(
つ
)
きにける
097
又
(
また
)
もや
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
烈風
(
れつぷう
)
に
098
友彦
(
ともひこ
)
の
身
(
み
)
は
煽
(
あふ
)
られて
099
高山
(
かうざん
)
数多
(
あまた
)
飛
(
と
)
び
越
(
こ
)
えつ
100
ジヤンナの
谷間
(
たにま
)
に
墜落
(
つゐらく
)
し
101
前後
(
ぜんご
)
不覚
(
ふかく
)
になりにける
102
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
103
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましますか
104
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
友彦
(
ともひこ
)
も
105
ジヤンナイ
教
(
けう
)
の
信徒
(
まめひと
)
に
106
担
(
かつ
)
ぎこまれて
照姫
(
てるひめ
)
の
107
教
(
をしへ
)
の
館
(
やかた
)
に
着
(
つ
)
きにける。
108
此
(
この
)
島
(
しま
)
はネルソン
山
(
ざん
)
の
山脈
(
さんみやく
)
を
以
(
もつ
)
て
東西
(
とうざい
)
に
区劃
(
くくわく
)
され、
109
東
(
ひがし
)
は
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
が
三五教
(
あななひけう
)
を
宣布
(
せんぷ
)
し、
110
其
(
その
)
勢力
(
せいりよく
)
範囲
(
はんゐ
)
となつて
居
(
ゐ
)
た。
111
されどネルソン
山
(
ざん
)
以西
(
いせい
)
は
住民
(
ぢゆうみん
)
も
少
(
すくな
)
く、
112
猛獣
(
まうじう
)
、
113
毒蛇
(
どくじや
)
、
114
大蛇
(
をろち
)
の
群
(
むれ
)
無数
(
むすう
)
に
棲息
(
せいそく
)
して、
115
東半部
(
とうはんぶ
)
の
人民
(
じんみん
)
は
此
(
この
)
山脈
(
さんみやく
)
を
西
(
にし
)
に
越
(
こ
)
えた
者
(
もの
)
はなかつた。
116
然
(
しか
)
るにネルソン
山
(
ざん
)
以西
(
いせい
)
にも
相当
(
さうたう
)
に
人類
(
じんるゐ
)
棲息
(
せいそく
)
して
秘密郷
(
ひみつきやう
)
の
如
(
ごと
)
くなつて
居
(
ゐ
)
た。
117
極
(
きは
)
めて
獰猛
(
だうまう
)
勇敢
(
ゆうかん
)
なる
人種
(
じんしゆ
)
にして、
118
男子
(
だんし
)
は
身
(
み
)
の
丈
(
たけ
)
八九
(
はちく
)
尺
(
しやく
)
、
119
女子
(
ぢよし
)
と
雖
(
いへど
)
も
七八
(
しちはつ
)
尺
(
しやく
)
を
下
(
くだ
)
る
者
(
もの
)
はない、
120
巨人
(
きよじん
)
の
棲息地
(
せいそくち
)
である。
121
男子
(
だんし
)
も
女子
(
ぢよし
)
も
残
(
のこ
)
らず
顔面
(
がんめん
)
に
文身
(
いれずみ
)
をなし、
122
一見
(
いつけん
)
して
男女
(
だんぢよ
)
の
区別
(
くべつ
)
判
(
はん
)
じ
難
(
がた
)
き
位
(
ぐらゐ
)
である。
123
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
を
編
(
あ
)
みて
腰
(
こし
)
の
周囲
(
まはり
)
を
蔽
(
おほ
)
ひ、
124
其
(
その
)
他
(
た
)
全部
(
ぜんぶ
)
赤裸
(
まつぱだか
)
にして、
125
赤銅
(
しやくどう
)
の
如
(
ごと
)
き
皮膚
(
ひふ
)
を
有
(
いう
)
し
居
(
を
)
れり。
126
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
い
顔
(
かほ
)
に
青
(
あを
)
い
文身
(
いれずみ
)
をなし
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
とて、
127
実
(
じつ
)
に
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
恐
(
おそ
)
ろしき
容貌
(
ようばう
)
計
(
ばか
)
りなりき。
128
猛獣
(
まうじう
)
、
129
大蛇
(
だいじや
)
の
怖
(
おそ
)
れて
近寄
(
ちかよ
)
らざる
様
(
やう
)
との
注意
(
ちゆうい
)
より、
130
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
く
文身
(
いれずみ
)
をなしゐるなり。
131
故
(
ゆゑ
)
に
此
(
この
)
地
(
ち
)
に
美男子
(
びだんし
)
と
云
(
い
)
へば
最
(
もつと
)
も
獰猛
(
だうまう
)
醜悪
(
しうあく
)
なる
面貌
(
めんばう
)
の
持主
(
もちぬし
)
にして、
132
酋長
(
しうちやう
)
たるべき
者
(
もの
)
は
一見
(
いつけん
)
して
鬼
(
おに
)
の
如
(
ごと
)
くなり。
133
頭部
(
とうぶ
)
には
諸獣
(
しよじう
)
の
角
(
つの
)
を
付着
(
ふちやく
)
し、
134
手
(
て
)
には
石造
(
いしづく
)
りの
槍
(
やり
)
を
携
(
たづさ
)
へ、
135
旅行
(
りよかう
)
する
時
(
とき
)
は
少
(
すくな
)
くとも
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
の
同伴
(
つれ
)
が
無
(
な
)
ければ、
136
一歩
(
いつぽ
)
も
外
(
そと
)
へ
出
(
で
)
ないと
云
(
い
)
ふ
風習
(
ふうしふ
)
である。
137
住宅
(
ぢゆうたく
)
は
主
(
おも
)
に
山腹
(
さんぷく
)
に
穴
(
あな
)
を
穿
(
うが
)
ち、
138
芭蕉
(
ばせう
)
の
如
(
ごと
)
き
大
(
だい
)
なる
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
を
敷
(
し
)
き
詰
(
つ
)
めて
褥
(
しとね
)
となし、
139
食物
(
しよくもつ
)
は
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
、
140
山
(
やま
)
の
芋
(
いも
)
、
141
松
(
まつ
)
の
実
(
み
)
等
(
とう
)
を
以
(
もつ
)
て
常食
(
じやうしよく
)
となしゐるなり。
142
山間
(
さんかん
)
の
地
(
ち
)
は
魚類
(
ぎよるゐ
)
は
実
(
じつ
)
に
珍味
(
ちんみ
)
にして、
143
一生
(
いつしやう
)
の
間
(
あひだ
)
に
一二回
(
いちにくわい
)
口
(
くち
)
にするを
得
(
え
)
ば、
144
実
(
じつ
)
に
豪奢
(
がうしや
)
の
生活
(
せいくわつ
)
と
言
(
い
)
はるる
位
(
くらゐ
)
なり。
145
谷川
(
たにがは
)
に
上
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
るミースと
云
(
い
)
ふ
五寸
(
ごすん
)
許
(
ばか
)
りの
魚
(
さかな
)
、
146
時
(
とき
)
あつて
捕獲
(
ほくわく
)
するのみにして、
147
魚類
(
ぎよるゐ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
は
甚
(
はなは
)
だ
稀
(
まれ
)
なり。
148
兎
(
うさぎ
)
、
149
山犬
(
やまいぬ
)
、
150
山猫
(
やまねこ
)
などを
捕獲
(
ほくわく
)
し、
151
之
(
こ
)
れを
最上
(
さいじやう
)
の
珍味
(
ちんみ
)
とし
居
(
ゐ
)
たるなり。
152
されどジヤンナイ
教
(
けう
)
の
教理
(
けうり
)
は、
153
動物
(
どうぶつ
)
の
肉
(
にく
)
を
食
(
く
)
ふ
事
(
こと
)
を
厳禁
(
げんきん
)
しあるを
以
(
もつ
)
て、
154
若
(
も
)
し
此
(
この
)
禁
(
きん
)
を
破
(
やぶ
)
る
者
(
もの
)
は、
155
焦熱
(
せうねつ
)
地獄
(
ぢごく
)
に
陥
(
おちい
)
るとの
信仰
(
しんかう
)
を
抱
(
いだ
)
き、
156
容易
(
ようい
)
に
食
(
くら
)
ふ
事
(
こと
)
を
忌
(
い
)
み
居
(
を
)
れり。
157
一度
(
いちど
)
肉食
(
にくしよく
)
を
犯
(
をか
)
せし
者
(
もの
)
は、
158
其
(
その
)
群
(
むれ
)
より
放逐
(
ほうちく
)
され、
159
谷川
(
たにがは
)
の
畔
(
ほとり
)
に
追
(
お
)
ひやらるる
事
(
こと
)
となれり。
160
此
(
この
)
肉食
(
にくしよく
)
を
犯
(
をか
)
し
追
(
お
)
ひ
退
(
やら
)
はれたる
者
(
もの
)
は、
161
ネルソン
山
(
ざん
)
の
西麓
(
せいろく
)
の
広
(
ひろ
)
き
谷間
(
たにま
)
に
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
り、
162
神
(
かみ
)
に
罪
(
つみ
)
を
謝
(
しや
)
する
為
(
ため
)
に
酋長
(
しうちやう
)
の
娘
(
むすめ
)
照姫
(
てるひめ
)
を
教主
(
けうしゆ
)
と
仰
(
あふ
)
ぎ、
163
ジヤンナイ
教
(
けう
)
を
樹
(
た
)
て、
164
醜穢
(
しうわい
)
の
罪人
(
ざいにん
)
計
(
ばか
)
りに
対
(
たい
)
し、
165
謝罪
(
しやざい
)
の
道
(
みち
)
を
教
(
をし
)
へ
居
(
ゐ
)
たりける。
166
肉食
(
にくしよく
)
せざる
者
(
もの
)
は
何
(
いづ
)
れも
山
(
やま
)
の
中腹
(
ちうふく
)
以上
(
いじやう
)
に
住居
(
ぢゆうきよ
)
を
構
(
かま
)
へ、
167
豊富
(
ほうふ
)
なる
木
(
こ
)
の
実
(
み
)
を
常食
(
じやうしよく
)
となし、
168
安楽
(
あんらく
)
なる
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
りゐたり。
169
谷底
(
たにぞこ
)
には
猛獣
(
まうじう
)
、
170
大蛇
(
をろち
)
、
171
毒蛇
(
どくじや
)
多
(
おほ
)
く
集
(
あつ
)
まり、
172
実
(
じつ
)
に
危険
(
きけん
)
極
(
きは
)
まる
湿地
(
しつち
)
なりけり。
173
此
(
この
)
谷底
(
たにそこ
)
に
照姫
(
てるひめ
)
を
教主
(
けうしゆ
)
とせるジヤンナイ
教
(
けう
)
の
本山
(
ほんざん
)
は
建
(
た
)
てられ、
174
数多
(
あまた
)
の
信徒
(
しんと
)
は
朝夕
(
あさゆふ
)
に
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らしつつあつた。
175
ジヤンナイ
教
(
けう
)
の
信条
(
しんでう
)
は………
我
(
われ
)
等
(
ら
)
はアールの
神
(
かみ
)
の
禁
(
きん
)
を
犯
(
をか
)
せし
罪人
(
つみびと
)
なれば、
176
死後
(
しご
)
は
必
(
かなら
)
ず
根底
(
ねそこ
)
の
国
(
くに
)
の
苦
(
くるし
)
みを
受
(
う
)
くる
者
(
もの
)
なれば、
177
神
(
かみ
)
に
祈
(
いの
)
りて
罪
(
つみ
)
を
謝
(
しや
)
し、
178
来世
(
らいせ
)
の
苦
(
く
)
を
逃
(
のが
)
るべきもの……と
固
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じてゐたるなり。
179
さうして……
頓
(
やが
)
て
鼻頭
(
びとう
)
の
赤
(
あか
)
き
神
(
かみ
)
、
180
此
(
この
)
地
(
ち
)
に
降臨
(
かうりん
)
する
事
(
こと
)
あらむ。
181
是
(
こ
)
れ
我
(
われ
)
等
(
ら
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
にして、
182
天
(
てん
)
より
我
(
われ
)
等
(
ら
)
の
信仰
(
しんかう
)
を
憐
(
あは
)
れみ
天降
(
あまくだ
)
し
玉
(
たま
)
ふものなり……と、
183
照姫
(
てるひめ
)
の
教
(
をしへ
)
を
固
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じ、
184
時
(
とき
)
の
来
(
きた
)
るを
待
(
ま
)
ちつつありける。
185
さうして
鼻
(
はな
)
赤
(
あか
)
き
生神
(
いきがみ
)
はオーストラリヤ
全島
(
ぜんたう
)
を
支配
(
しはい
)
し、
186
霊肉
(
れいにく
)
共
(
とも
)
に、
187
我
(
われ
)
等
(
ら
)
を
救
(
すく
)
ふ
者
(
もの
)
との
信念
(
しんねん
)
を
保持
(
ほぢ
)
して、
188
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
降
(
くだ
)
るを
旱天
(
かんてん
)
の
雲霓
(
うんげい
)
を
望
(
のぞ
)
むが
如
(
ごと
)
く
待
(
ま
)
ち
居
(
ゐ
)
たりしなり。
189
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へネルソン
山上
(
さんじやう
)
のレコード
破
(
やぶ
)
りの
強風
(
きやうふう
)
に
吹
(
ふ
)
きまくられ、
190
高山
(
かうざん
)
の
頂
(
いただ
)
きを
数多
(
あまた
)
越
(
こ
)
えて
今
(
いま
)
此
(
この
)
ジヤンナの
広
(
ひろ
)
き
谷間
(
たにま
)
に
墜落
(
つゐらく
)
したれば、
191
怪
(
あや
)
しき
人物
(
じんぶつ
)
の
降
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
れるものかなと、
192
折
(
をり
)
から
来
(
き
)
合
(
あは
)
せたる
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
男女
(
だんぢよ
)
は、
193
友彦
(
ともひこ
)
の
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
となれる
肉体
(
にくたい
)
を
藤蔓
(
ふぢづる
)
を
以
(
もつ
)
て
編
(
あ
)
みたる
寝台
(
しんだい
)
に
載
(
の
)
せ、
194
ジヤンナイ
教
(
けう
)
の
本山
(
ほんざん
)
に
担
(
かつ
)
ぎ
込
(
こ
)
みぬ。
195
数多
(
あまた
)
の
信徒
(
しんと
)
は
物珍
(
ものめづら
)
しげに
集
(
あつま
)
り
来
(
きた
)
り、
196
水
(
みづ
)
を
飲
(
の
)
ませ、
197
撫
(
な
)
でさすり、
198
手
(
て
)
を
曲
(
ま
)
げ、
199
足
(
あし
)
を
動
(
うご
)
かしなどして、
200
やうやうに
蘇生
(
そせい
)
せしめたり。
201
友彦
(
ともひこ
)
は
此
(
この
)
時
(
とき
)
は
既
(
すで
)
に
失心
(
しつしん
)
し、
202
血液
(
けつえき
)
循環
(
じゆんかん
)
も
殆
(
ほとん
)
ど
休止
(
きうし
)
し、
203
全身
(
ぜんしん
)
蒼白色
(
さうはくしよく
)
に
変
(
かは
)
り
居
(
ゐ
)
たり。
204
照姫
(
てるひめ
)
の
一
(
いち
)
の
弟子
(
でし
)
と
聞
(
きこ
)
えたるチーチヤーボールは、
205
勝
(
すぐ
)
れて
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
にして、
206
口
(
くち
)
は
頬
(
ほほ
)
の
半
(
なかば
)
まで
引裂
(
ひきさ
)
け、
207
鼻
(
はな
)
は
大
(
おほ
)
きく、
208
白目勝
(
しろめがち
)
の
大
(
だい
)
なる
眼
(
まなこ
)
の
所有者
(
しよいうしや
)
なりき。
209
教主
(
けうしゆ
)
照姫
(
てるひめ
)
は
少
(
すこ
)
しの
文身
(
いれずみ
)
もなさず、
210
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
色
(
いろ
)
白
(
しろ
)
く、
211
稍
(
やや
)
赤味
(
あかみ
)
を
帯
(
お
)
びたる
美人
(
びじん
)
なりき。
212
ジヤンナイ
教
(
けう
)
の
教主
(
けうしゆ
)
たる
者
(
もの
)
は、
213
天然
(
てんねん
)
自然
(
しぜん
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
染
(
そ
)
めざるを
以
(
もつ
)
て
教
(
をしへ
)
の
本旨
(
ほんし
)
となし、
214
数多
(
あまた
)
の
信者
(
しんじや
)
より
特別
(
とくべつ
)
の
待遇
(
たいぐう
)
を
受
(
う
)
け、
215
尊敬
(
そんけい
)
の
的
(
まと
)
とせられ
居
(
ゐ
)
たるなり。
216
友彦
(
ともひこ
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
正気
(
しやうき
)
づき、
217
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
218
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
恐
(
おそ
)
ろしき、
219
男女
(
だんぢよ
)
区別
(
くべつ
)
も
分
(
わか
)
らぬ
人種
(
じんしゆ
)
の、
220
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
に
我
(
わが
)
周囲
(
しうゐ
)
を
取巻
(
とりま
)
きゐるに
驚
(
おどろ
)
き、
221
如何
(
いかが
)
はせむと
首
(
かうべ
)
を
傾
(
かた
)
げ
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れ
居
(
ゐ
)
たり。
222
顔色
(
がんしよく
)
は
漸
(
やうや
)
く
元
(
もと
)
に
復
(
ふく
)
し、
223
身体
(
しんたい
)
一面
(
いちめん
)
に
血色
(
けつしよく
)
よくなると
共
(
とも
)
に、
224
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
はいやが
上
(
うへ
)
にも
赤
(
あか
)
くなり
来
(
き
)
たりぬ。
225
チーチヤーボールは
大勢
(
おほぜい
)
に
向
(
むか
)
ひ、
226
チーチヤーボール
『オーレンス、
227
サーチライス』
228
と
云
(
い
)
ひける。
229
此
(
この
)
意味
(
いみ
)
は『
吾々
(
われわれ
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
なり』と
云
(
い
)
ふ
意味
(
いみ
)
なり。
230
一同
(
いちどう
)
は
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
め、
231
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
232
友彦
(
ともひこ
)
に
向
(
むか
)
つてしきりに
何事
(
なにごと
)
か
口々
(
くちぐち
)
に
叫
(
さけ
)
び
乍
(
なが
)
ら、
233
落涙
(
らくるゐ
)
しゐる。
234
チーチヤーボールは、
235
チーチヤーボール
『オーレンス、
236
サーチライス』
237
と
繰返
(
くりかへ
)
し
繰返
(
くりかへ
)
し
言
(
い
)
ふ。
238
友彦
(
ともひこ
)
は
合点
(
がてん
)
往
(
ゆ
)
かねども、
239
此
(
この
)
土人
(
どじん
)
等
(
ら
)
は
決
(
けつ
)
して
吾
(
われ
)
を
虐待
(
ぎやくたい
)
するものにあらず、
240
珍
(
めづ
)
らしげに
吾
(
われ
)
を
天降
(
てんかう
)
人種
(
じんしゆ
)
と
誤信
(
ごしん
)
し、
241
感涙
(
かんるゐ
)
に
咽
(
むせ
)
ぶものならむと
思
(
おも
)
ひ、
242
日頃
(
ひごろ
)
の
山師気
(
やましげ
)
を
発揮
(
はつき
)
し、
243
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
り
人差指
(
ひとさしゆび
)
を
立
(
た
)
て、
244
天
(
てん
)
を
指
(
さ
)
して、
245
友彦
『ウツポツポー、
246
ウツポツポー』
247
と
二声
(
ふたごゑ
)
叫
(
さけ
)
びてみたり。
248
チーチヤーボールを
初
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
は
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
に
応
(
おう
)
じて、
249
一同
『ウツポツポー、
250
ウツポツポー、
251
オーレンス、
252
サーチライス』
253
と
声
(
こゑ
)
を
揃
(
そろ
)
へて
叫
(
さけ
)
び
出
(
だ
)
しぬ。
254
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
は
谷
(
たに
)
の
木霊
(
こだま
)
に
響
(
ひび
)
き、
255
向
(
むか
)
ふ
側
(
がは
)
の
谷
(
たに
)
にも
山彦
(
やまびこ
)
が
同
(
おな
)
じ
様
(
やう
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
応酬
(
おうしう
)
する。
256
土人
(
どじん
)
は
又
(
また
)
もや
声
(
こゑ
)
する
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
つて
前
(
まへ
)
の
言葉
(
ことば
)
を
繰返
(
くりかへ
)
しける。
257
友彦
(
ともひこ
)
は
稍
(
やや
)
安心
(
あんしん
)
したるが、
258
此
(
この
)
ジヤンナの
郷
(
さと
)
の
言語
(
げんご
)
が
通
(
つう
)
じないに
聊
(
いささ
)
か
当惑
(
たうわく
)
を
感
(
かん
)
じたり。
259
されど
頓智
(
とんち
)
のよい
友彦
(
ともひこ
)
は……
何
(
なに
)
、
260
却
(
かへつ
)
て
天降
(
てんかう
)
人種
(
じんしゆ
)
は
地上
(
ちじやう
)
の
言葉
(
ことば
)
に
通
(
つう
)
ぜざるが
一層
(
いつそう
)
尊貴
(
そんき
)
の
観念
(
かんねん
)
を
与
(
あた
)
ふるならむと
決心
(
けつしん
)
し、
261
友彦
『アオウエイ、
262
カコクケキ、
263
サソスセシ、
264
……』
265
と
五十音
(
ごじふおん
)
を
繰返
(
くりかへ
)
し
繰返
(
くりかへ
)
し
唱
(
とな
)
へ
出
(
だ
)
したり。
266
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
一同
(
いちどう
)
は
友彦
(
ともひこ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
従
(
つ
)
いて『アオウエイ』と
異口
(
いく
)
同音
(
どうおん
)
に
唱
(
とな
)
へ
出
(
だ
)
す。
267
友彦
(
ともひこ
)
は
漸
(
やうや
)
く
空腹
(
くうふく
)
を
感
(
かん
)
じ、
268
友彦
『
我
(
わ
)
れに
食
(
しよく
)
を
与
(
あた
)
へよ』
269
と
云
(
い
)
ふ。
270
されど
郷人
(
さとびと
)
の
耳
(
みみ
)
には
一人
(
ひとり
)
として
了解
(
れうかい
)
するものなく、
271
呆然
(
ばうぜん
)
として
友彦
(
ともひこ
)
の
顔
(
かほ
)
を
心配
(
しんぱい
)
げに
打眺
(
うちなが
)
めてゐたり。
272
友彦
(
ともひこ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
口
(
くち
)
を
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
で
押
(
おさ
)
へてみするに、
273
一同
(
いちどう
)
は
同
(
おな
)
じく
自分
(
じぶん
)
の
手
(
て
)
で
各自
(
めいめい
)
の
口
(
くち
)
を
抑
(
おさ
)
へゐる。
274
友彦
(
ともひこ
)
は、
275
友彦
『
何
(
なに
)
か
食
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
があれば
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いツ』
276
と
云
(
い
)
ふ。
277
又
(
また
)
一同
(
いちどう
)
は、
278
一同
『
何
(
なに
)
か
食
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
があれば
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いツ』
279
と
妙
(
めう
)
な
訛
(
なまり
)
で
叫
(
さけ
)
ぶ。
280
此
(
この
)
時
(
とき
)
大勢
(
おほぜい
)
の
声
(
こゑ
)
の
尋常
(
ただ
)
ならぬに
不審
(
ふしん
)
を
起
(
おこ
)
し、
281
二三
(
にさん
)
の
侍女
(
じぢよ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
りしは、
282
ジヤンナイ
教主
(
けうしゆ
)
テールス
姫
(
ひめ
)
(
照姫
(
てるひめ
)
)なりき。
283
友彦
(
ともひこ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
るより
忽
(
たちま
)
ち
堪
(
こら
)
へ
切
(
き
)
れぬ
様
(
やう
)
な
笑
(
ゑみ
)
を
含
(
ふく
)
み、
284
友彦
(
ともひこ
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
りぬ。
285
友彦
(
ともひこ
)
は
鬼
(
おに
)
の
様
(
やう
)
な
人間
(
にんげん
)
の
群
(
むれ
)
の
中
(
なか
)
にも、
286
斯
(
か
)
かる
麗
(
うる
)
はしき
女性
(
ぢよせい
)
のあるかと
驚
(
おどろ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
287
彼女
(
かれ
)
がなす
儘
(
まま
)
に
任
(
まか
)
せ
居
(
ゐ
)
たり。
288
テールス
姫
(
ひめ
)
は
侍女
(
じぢよ
)
に
何事
(
なにごと
)
か
命令
(
めいれい
)
したるに、
289
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
侍女
(
じぢよ
)
は
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
を
執
(
と
)
り、
290
一人
(
ひとり
)
は
腰
(
こし
)
を
押
(
お
)
し、
291
テールス
姫
(
ひめ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
292
穴居
(
けつきよ
)
民族
(
みんぞく
)
に
似
(
に
)
ず、
293
蔦葛
(
つたかづら
)
を
以
(
もつ
)
て
縛
(
しば
)
りつけたる
木造
(
もくざう
)
の
広
(
ひろ
)
き
家
(
いへ
)
に
導
(
みちび
)
きける。
294
友彦
(
ともひこ
)
は
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として、
295
天下
(
てんか
)
の
色男
(
いろをとこ
)
気取
(
きど
)
りになりて、
296
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
深
(
ふか
)
く
導
(
みちび
)
かれ
行
(
ゆ
)
く。
297
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
には
立派
(
りつぱ
)
な
斎殿
(
さいでん
)
が
設
(
まう
)
けられてあり、
298
名
(
な
)
も
知
(
し
)
れぬ
麗
(
うる
)
はしき
果物
(
くだもの
)
、
299
小山
(
こやま
)
の
如
(
ごと
)
く
積
(
つ
)
み
重
(
かさ
)
ね
供
(
そな
)
へられありぬ。
300
テールス
姫
(
ひめ
)
は
其
(
その
)
中
(
なか
)
の
紅色
(
べにいろ
)
の
果物
(
くだもの
)
を
一
(
ひと
)
つ
取出
(
とりだ
)
し、
301
侍女
(
じぢよ
)
に
命
(
めい
)
じ、
302
石
(
いし
)
の
包丁
(
はうちやう
)
を
以
(
もつ
)
て
二
(
ふた
)
つに
割
(
わ
)
らしめ、
303
さうして
一
(
ひと
)
つは
自分
(
じぶん
)
が
食
(
く
)
ひ、
304
一
(
ひと
)
つは
友彦
(
ともひこ
)
に
食
(
く
)
へと、
305
仕方
(
しかた
)
をして
見
(
み
)
せたり。
306
友彦
(
ともひこ
)
は
喜
(
よろこ
)
び
空腹
(
すきばら
)
の
事
(
こと
)
とて、
307
かぶり
付
(
つ
)
く
様
(
やう
)
に
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
に
平
(
たひら
)
げにける。
308
これはコーズと
云
(
い
)
ふ
果物
(
くだもの
)
の
実
(
み
)
で、
309
此
(
この
)
郷
(
さと
)
に
唯
(
ただ
)
一本
(
いつぽん
)
より
無
(
な
)
き
大切
(
たいせつ
)
なる
樹
(
き
)
の
果物
(
くだもの
)
なりき。
310
二年目
(
にねんめ
)
或
(
あるひ
)
は
三年目
(
さんねんめ
)
に
僅
(
わづ
)
かに
一
(
ひと
)
つ
二
(
ふた
)
つ
実
(
みの
)
る
位
(
くらゐ
)
のものにして、
311
此
(
この
)
コーズの
実
(
み
)
の
稔
(
みの
)
りたる
年
(
とし
)
は
必
(
かなら
)
ず
此
(
この
)
郷
(
さと
)
に
芽出度
(
めでた
)
き
事
(
こと
)
ありと
伝
(
つた
)
へられ
居
(
ゐ
)
たり。
312
そしてテールス
姫
(
ひめ
)
が
二
(
ふた
)
つに
割
(
わ
)
つて
友彦
(
ともひこ
)
に
食
(
く
)
はしたるは、
313
要
(
えう
)
するに
結婚
(
けつこん
)
の
儀式
(
ぎしき
)
なりけり。
314
数多
(
あまた
)
の
男女
(
だんぢよ
)
は
雪崩
(
なだれ
)
の
如
(
ごと
)
く
追々
(
おひおひ
)
此
(
この
)
家
(
や
)
に
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
り「ウローウロー」と
嬉
(
うれ
)
しさうに
叫
(
さけ
)
び、
315
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち
躍
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
ひゐる。
316
是
(
こ
)
れは
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
降臨
(
かうりん
)
を
祝
(
しゆく
)
しテールス
姫
(
ひめ
)
の
結婚
(
けつこん
)
を
喜
(
よろこ
)
ぶ
声
(
こゑ
)
なりけり。
317
テールス
姫
(
ひめ
)
は
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
降臨
(
かうりん
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
結婚
(
けつこん
)
の
盛典
(
せいてん
)
を
祝
(
しゆく
)
する
為
(
ため
)
に
立
(
た
)
つて
歌
(
うた
)
ひ
初
(
はじ
)
めたり。
318
その
歌
(
うた
)
、
319
テールス姫
『オーレンス、サーチライス
320
ウツポツポ、ウツポツポ
321
テールスナイス、テーナイス
322
テーリスネース、テーネース
323
ウツパツパ、ウツパツパ
324
パークパーク、ホースホース、エーリンス
325
カーチライト、トーマース
326
タリヤタラーリヤ、トータラリ
327
タラリータラリー、リートーリートー、ユーカ
328
シンジヤン、ジヤンジヤ、ベース
329
ヘース、ヘースク、ツーターリンス
330
イーリクイーリク、イーエンス
331
ジヤイロパーリスト
332
ポーポー、パーリスク
333
ターウーインス、エーリツクチヤーリンスク、パーパー』
334
と
唄
(
うた
)
ひける。
335
友彦
(
ともひこ
)
は
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だか
合点
(
がつてん
)
行
(
ゆ
)
かず、
336
されど
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
ではない、
337
祝
(
いはひ
)
の
言葉
(
ことば
)
だと
心
(
こころ
)
に
思
(
おも
)
ひぬ。
338
此
(
この
)
意味
(
いみ
)
を
総括
(
そうくわつ
)
して
言
(
い
)
へば、
339
『
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
ひ、
340
人間
(
にんげん
)
としても
実
(
じつ
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
なり。
341
吾
(
わ
)
れは
此
(
この
)
郷
(
さと
)
の
信仰
(
しんかう
)
の
中心
(
ちうしん
)
人物
(
じんぶつ
)
、
342
さうして
実
(
じつ
)
に
女
(
をんな
)
として
恥
(
はづ
)
かしからぬ
准
(
じゆん
)
救世主
(
きうせいしゆ
)
である。
343
汝
(
なれ
)
が
降
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
るを
首
(
くび
)
を
長
(
なが
)
くして
神
(
かみ
)
に
祈
(
いの
)
り
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
りました。
344
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
谷間
(
たにま
)
の
郷
(
さと
)
は
如何
(
いか
)
なる
大蛇
(
をろち
)
が
来
(
き
)
ても
猛獣
(
まうじう
)
が
来
(
き
)
ても、
345
如何
(
いか
)
なる
悪魔
(
あくま
)
でも、
346
決
(
けつ
)
して
恐
(
おそ
)
るるに
足
(
た
)
りない。
347
私
(
わたくし
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
ち
此
(
この
)
上
(
うへ
)
の
喜
(
よろこ
)
びはない。
348
暗夜
(
あんや
)
に
灯火
(
とうくわ
)
を
点
(
てん
)
じたやうな
心持
(
こころもち
)
になつて
来
(
き
)
た。
349
今日
(
けふ
)
の
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
は
誰
(
たれ
)
彼
(
かれ
)
も
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
を
見
(
み
)
て、
350
手
(
て
)
の
舞
(
ま
)
ひ
足
(
あし
)
の
踏
(
ふ
)
む
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らず
喜
(
よろこ
)
んでゐます。
351
どうぞ
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
も
此郷
(
ここ
)
に
御
(
お
)
鎮
(
しづ
)
まり
下
(
くだ
)
さいまして、
352
末永
(
すえなが
)
く
夫婦
(
ふうふ
)
の
契
(
ちぎり
)
を
結
(
むす
)
び、
353
此
(
この
)
郷
(
さと
)
の
救
(
すく
)
ひ
主
(
ぬし
)
となつて
人民
(
じんみん
)
を
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
354
アヽ
有難
(
ありがた
)
い、
355
嬉
(
うれ
)
しい。
356
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
が
開
(
ひら
)
けた
様
(
やう
)
な……
否
(
いや
)
全
(
まつた
)
く
岩戸
(
いはと
)
が
開
(
ひら
)
けました。
357
我々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
は
是
(
これ
)
より
安心
(
あんしん
)
して
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
ります。
358
お
前
(
まへ
)
の
鼻
(
はな
)
の
頭
(
あたま
)
の
赤
(
あか
)
いのが
日
(
ひ
)
の
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
から
御
(
お
)
降
(
くだ
)
りなされた
証拠
(
しようこ
)
だ。
359
どうぞ
末永
(
すえなが
)
く
妾
(
わらは
)
を
初
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
の
者
(
もの
)
を
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さい』
360
と
云
(
い
)
ふ
意味
(
いみ
)
の
感謝
(
かんしや
)
の
辞
(
ことば
)
なりけり。
361
友彦
(
ともひこ
)
は
返答
(
へんたふ
)
せずには
居
(
を
)
られないと、
362
負
(
ま
)
けぬ
気腰
(
きごし
)
になりて……
天降
(
てんかう
)
人種
(
じんしゆ
)
気取
(
きど
)
りで
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つてやる
方
(
はう
)
が
却
(
かへつ
)
て
有難
(
ありがた
)
がるだらう、
363
土人
(
どじん
)
の
言語
(
げんご
)
も
知
(
し
)
らずに、
364
憖
(
なまじ
)
ひに
真似
(
まね
)
をして
却
(
かへつ
)
て
軽蔑
(
けいべつ
)
さるるも
不利益
(
ふりえき
)
だ……と
心
(
こころ
)
に
思
(
おも
)
ひ
定
(
さだ
)
め、
365
さも
応揚
(
おうやう
)
な
態度
(
たいど
)
で、
366
友彦
『……アーメンス、ヨーリンス
367
フーララリンス、サーチライス
368
スーツクスーツク、ダーインコーウンス
369
カーブーランス、ネーギーネーブーカー
370
ナーハーネース、エンモース
371
水菜
(
みづな
)
に
嫁菜
(
よめな
)
に
蒲公英
(
たんぽぽ
)
セーリンス
372
ナヅナ、ヤーマンス、ノンインモー
373
ドンジヨー、ウナーギー、フーナモロコ、
374
コーイ、ナマヅ、タコドービンヒツサゲタ、
375
ナイス、ネース、ローマンス、
376
ホートーホートー、ローレンス
377
ピーツク、ピーツク、ヒーバーリース』
378
と
唄
(
うた
)
ひ
済
(
す
)
まし
込
(
こ
)
み
居
(
ゐ
)
たり。
379
一同
(
いちどう
)
は
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だか
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬ。
380
されど
天
(
てん
)
より
降
(
くだ
)
りし
救世主
(
きうせいしゆ
)
の
言葉
(
ことば
)
と
有難
(
ありがた
)
がり、
381
随喜
(
ずいき
)
の
涙
(
なみだ
)
を
零
(
こぼ
)
し
居
(
ゐ
)
たりける。
382
此
(
この
)
時
(
とき
)
又
(
また
)
もや
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
土人
(
どじん
)
に
担
(
かつ
)
がれて、
383
此
(
この
)
場
(
ば
)
へ
来
(
き
)
たりしは
玉治別
(
たまはるわけ
)
なりき。
384
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
友彦
(
ともひこ
)
が
言葉
(
ことば
)
を
半分
(
はんぶん
)
ばかり
聞
(
き
)
いて
可笑
(
をか
)
しさに
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し「プーツプーツ」と
唾
(
つばき
)
を
飛
(
と
)
ばしける。
385
一同
(
いちどう
)
は
同
(
おな
)
じく「プーツプーツ」と
言
(
い
)
つて
友彦
(
ともひこ
)
目蒐
(
めが
)
けて
唾液
(
つば
)
を
吹
(
ふ
)
つ
掛
(
か
)
ける。
386
友彦
(
ともひこ
)
は
唾液
(
つば
)
の
夕立
(
ゆふだち
)
に
会
(
あ
)
うた
様
(
やう
)
になつて、
387
友彦
『
誰
(
たれ
)
かと
思
(
おも
)
へば
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
388
あまりぢやないか、
389
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな』
390
玉治別
『オイ
友彦
(
ともひこ
)
さま、
391
随分
(
ずゐぶん
)
好遇
(
もて
)
たものだなア。
392
コンナ ナイスを
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
ち、
393
無鳥郷
(
むてうきやう
)
の
蝙蝠
(
へんぷく
)
で
暮
(
くら
)
して
居
(
を
)
れば、
394
マア
無事
(
ぶじ
)
だらうよ』
395
友彦
『
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
396
チツト
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいな。
397
折角
(
せつかく
)
ここの
大将
(
たいしやう
)
が
此
(
この
)
赤
(
あか
)
い
鼻
(
はな
)
に
惚
(
ほ
)
れて、
398
コンナ
面白
(
おもしろ
)
い
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
るのに、
399
しようもない
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さると、
400
サツパリ
化
(
ば
)
けが
現
(
あら
)
はれるぢやないか』
401
玉治別
『ナアニ、
402
言語
(
げんご
)
の
通
(
つう
)
じない
所
(
ところ
)
だ。
403
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
つたつて
構
(
かま
)
ふものか。
404
わしも
一
(
ひと
)
つ
言霊
(
ことたま
)
をやつて
見
(
み
)
ようかな』
405
友彦
『やるのも
宜
(
よろ
)
しいが、
406
なまかぢりに
此郷
(
ここ
)
の
言葉
(
ことば
)
を
使
(
つか
)
つちや
可
(
い
)
けませぬよ』
407
玉治別
『ソンナこたア
玉
(
たま
)
さま
百
(
ひやく
)
も
承知
(
しようち
)
だ。
408
笑
(
わら
)
つちや
可
(
い
)
けないよ』
409
友彦
『ナニ
笑
(
わら
)
ふものかい、
410
やつて
見
(
み
)
玉
(
たま
)
へ。
411
わしは
最早
(
もはや
)
此郷
(
ここ
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
だから、
412
あまり
心安
(
こころやす
)
さうに
言
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れては
困
(
こま
)
るよ。
413
第一
(
だいいち
)
お
前
(
まへ
)
の
態度
(
たいど
)
から
直
(
なほ
)
して、
414
わしの
家来
(
けらい
)
の
様
(
やう
)
な
風
(
ふう
)
をして
見
(
み
)
せて
呉
(
く
)
れよ』
415
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
416
玉治別
『ヨシ
面白
(
おもしろ
)
い』
417
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
言語
(
げんご
)
の
通
(
つう
)
ぜざるを
幸
(
さいは
)
ひ、
418
玉治別
『ジヤンナの
郷人
(
さとびと
)
よ、
419
玉治別
(
たまはるわけ
)
が
今
(
いま
)
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
をよつく
聞
(
き
)
けよ。
420
此
(
この
)
友彦
(
ともひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
はメソポタミヤの
顕恩郷
(
けんおんきやう
)
に
於
(
おい
)
て、
421
バラモン
教
(
けう
)
の
副棟梁
(
ふくとうりやう
)
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
が
娘
(
むすめ
)
小糸姫
(
こいとひめ
)
(
十五
(
じふご
)
才
(
さい
)
)を
巧言
(
かうげん
)
を
以
(
もつ
)
てチヨロまかし……』
422
友彦
『コレコレ
玉
(
たま
)
さま、
423
あまりぢやないか』
424
玉治別
『
何
(
なん
)
でも
好
(
い
)
いぢやないか。
425
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
だから、
426
マア
黙
(
だま
)
つて
聞
(
き
)
かうよ……それから
錫蘭
(
シロ
)
の
島
(
しま
)
へ
随徳寺
(
ずゐとくじ
)
をきめ
込
(
こ
)
み、
427
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
ばかり
暮
(
くら
)
して
居
(
ゐ
)
たが、
428
赤鼻
(
あかはな
)
の
出歯
(
でば
)
の
鰐口
(
わにぐち
)
に、
429
流石
(
さすが
)
の
小糸姫
(
こいとひめ
)
も
愛想
(
あいさう
)
をつかし、
430
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
のチヤンキー、
431
モンキーを
雇
(
やと
)
ひ、
432
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
まで
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
た。
433
……
話
(
はなし
)
が
元
(
もと
)
へ
戻
(
もど
)
つて
友彦
(
ともひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
434
浪速
(
なには
)
の
里
(
さと
)
に
於
(
おい
)
て
三百
(
さんびやく
)
両
(
りやう
)
の
詐欺
(
さぎ
)
を
致
(
いた
)
し、
435
次
(
つぎ
)
に
淡路
(
あはぢ
)
の
洲本
(
すもと
)
の
酋長
(
しうちやう
)
東助
(
とうすけ
)
が
不在
(
るす
)
を
窺
(
うかが
)
ひ、
436
女房
(
にようばう
)
の
前
(
まへ
)
に
偽神懸
(
にせかむがかり
)
[
※
三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。
]
を
致
(
いた
)
し、
437
陰謀
(
いんぼう
)
忽
(
たちま
)
ち
露見
(
ろけん
)
して
雪隠
(
せんち
)
の
穴
(
あな
)
より
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
し……』
438
友彦
『コラコラ
好
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
止
(
や
)
めて
呉
(
く
)
れぬかい。
439
あまりぢやないか』
440
玉治別
『ナアニ、
441
構
(
かま
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか。
442
あれを
見
(
み
)
よ。
443
有難
(
ありがた
)
がつて
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
して
聞
(
き
)
いてるぢやないか。
444
………マダマダ
奥
(
おく
)
はありますけれど、
445
先
(
ま
)
づ
今晩
(
こんばん
)
は
是
(
こ
)
れにて
止
(
とど
)
めをき、
446
又
(
また
)
明晩
(
みやうばん
)
ゆーるゆるとお
聞
(
き
)
きに
達
(
たつ
)
しまする。
447
皆
(
みな
)
さま、
448
吶弁
(
とつべん
)
の
吾々
(
われわれ
)
が
此
(
この
)
物語
(
ものがたり
)
、
449
よくも
神妙
(
しんめう
)
にお
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
さいました。
450
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
用心
(
ようじん
)
なさらぬと、
451
此
(
この
)
友彦
(
ともひこ
)
は
険難
(
けんのん
)
ですよ。
452
……テールス
姫
(
ひめ
)
さま、
453
此奴
(
こいつ
)
は
女子惚
(
をなごのろ
)
けの
後家
(
ごけ
)
盗人
(
ぬすびと
)
、
454
グヅグヅしてると、
455
そこらの
侍女
(
じぢよ
)
を
皆
(
みんな
)
チヨロまかし、
456
あなたに
蛸
(
たこ
)
の
揚壺
(
あげつぼ
)
を
喰
(
く
)
はす
事
(
こと
)
は
火
(
ひ
)
を
睹
(
み
)
るより
明
(
あきら
)
かですよ。
457
アツハヽヽヽ』
458
と
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて
笑
(
わら
)
ひ
転
(
こ
)
ける。
459
友彦
(
ともひこ
)
は
仕方
(
しかた
)
がなしに
自分
(
じぶん
)
もワザと
笑
(
わら
)
ひゐる。
460
チーチヤーボールは
此
(
この
)
場
(
ば
)
にヌツと
現
(
あら
)
はれ………「
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
だ。
461
併
(
しか
)
し
今
(
いま
)
お
出
(
い
)
でになつた
神
(
かみ
)
は
余程
(
よほど
)
立派
(
りつぱ
)
な
方
(
かた
)
だが、
462
併
(
しか
)
し
家来
(
けらい
)
に
違
(
ちがひ
)
ない。
463
其
(
その
)
証拠
(
しようこ
)
には
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
がチツトも
赤
(
あか
)
くない。
464
さうして
余
(
あま
)
り
口
(
くち
)
が
小
(
ちひ
)
さすぎる」……と
稍
(
やや
)
下目
(
しため
)
に
見下
(
みおろ
)
し、
465
友彦
(
ともひこ
)
と
同
(
おな
)
じ
座
(
ざ
)
に
着
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて、
466
一段下
(
いちだんした
)
の
席
(
せき
)
に
導
(
みちび
)
き、
467
チーチヤーボール
『ウツポツポ ウツポツポ、
468
サーチライス、
469
シーリス シーリス』
470
と
合掌
(
がつしやう
)
する。
471
他
(
た
)
の
者
(
もの
)
も
一同
(
いちどう
)
に、
472
一同
『シーリス シーリス』
473
と
云
(
い
)
ふ。
474
これは「
救世主
(
きうせいしゆ
)
のお
脇立
(
わきだち
)
……
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
」と
云
(
い
)
ふ
意味
(
いみ
)
なり。
475
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
其
(
その
)
意
(
い
)
を
悟
(
さと
)
り、
476
玉治別
『オイ
友
(
とも
)
、
477
馬鹿
(
ばか
)
にしよるな。
478
俺
(
おれ
)
を
眷属
(
けんぞく
)
だと
言
(
い
)
ひよつて、
479
貴様
(
きさま
)
それで
大将面
(
たいしやうづら
)
して
居
(
を
)
つて
気分
(
きぶん
)
が
良
(
い
)
いのか』
480
友彦
『
何
(
なん
)
だか
奥歯
(
おくば
)
に
物
(
もの
)
がこまつた
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
もするし、
481
尻
(
しり
)
に
糞
(
くそ
)
を
挟
(
はさ
)
んどる
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
もするのだ、
482
マアここはお
前
(
まへ
)
も
辛抱
(
しんばう
)
して
家来
(
けらい
)
になつて
呉
(
く
)
れ』
483
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
嘲弄
(
からかひ
)
半分
(
はんぶん
)
に、
484
玉治別
『オイ
友
(
とも
)
、
485
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
俺
(
おれ
)
の
一段下
(
いちだんした
)
につけ。
486
貴様
(
きさま
)
は
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
と、
487
鼻
(
はな
)
の
赤
(
あか
)
いお
蔭
(
かげ
)
で
信
(
しん
)
ぜられてるのだから、
488
俺
(
おれ
)
が
上
(
うへ
)
へ
上
(
あが
)
つた
処
(
ところ
)
で
貴様
(
きさま
)
が
下
(
した
)
だとは
思
(
おも
)
ひはせまい。
489
さうしたら、
490
貴様
(
きさま
)
の
位
(
くらゐ
)
は
落
(
お
)
ちず、
491
俺
(
おれ
)
はモ
一
(
ひと
)
つ
上
(
うへ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
と
信
(
しん
)
じられて、
492
面白
(
おもしろ
)
い
芝居
(
しばゐ
)
が
出来
(
でき
)
るから、
493
一遍
(
いつぺん
)
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
を
向
(
む
)
いて
拝
(
をが
)
みて
見
(
み
)
よ』
494
友彦
『さうだと
云
(
い
)
つて、
495
まさかテールス
姫
(
ひめ
)
の
前
(
まへ
)
で、
496
ソンナ
不態
(
ぶざま
)
の
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るものか。
497
そこはチツト
忍耐
(
がまん
)
して
呉
(
く
)
れぬと
困
(
こま
)
るよ』
498
玉治別
『それならそれでよし、
499
俺
(
おれ
)
には
考
(
かんが
)
へがある。
500
貴様
(
きさま
)
の
旧悪
(
きうあく
)
を
此郷
(
ここ
)
の
言葉
(
ことば
)
で
素破抜
(
すつぱぬ
)
いてやらうか』
501
友彦
『ヘン、
502
偉
(
えら
)
さうに
言
(
い
)
ふない。
503
此郷
(
ここ
)
の
言葉
(
ことば
)
がさう
急
(
きふ
)
に
分
(
わか
)
るものか。
504
何
(
なん
)
なと
言
(
い
)
へ、
505
分
(
わか
)
りつこないワ』
506
玉治別
『ヨシ、
507
俺
(
おれ
)
は
今
(
いま
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
言葉
(
ことば
)
を
習
(
なら
)
つたのだ……オーレンス、
508
サーチライス、
509
ウツポツポ ウツポツポ、
510
イーエス イーエス、
511
エツポツポ エツポツポ、
512
エツパツパ……』
513
友彦
(
ともひこ
)
はあわてて、
514
友彦
『コラコラ、
515
しようもない
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れるない。
516
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
に
覚
(
おぼ
)
えよつたのだらう。
517
モウ
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
治安
(
ちあん
)
妨害
(
ばうがい
)
だから、
518
弁士
(
べんし
)
中止
(
ちうし
)
を
命
(
めい
)
じます』
519
玉治別
『とうとう
弱
(
よわ
)
りよつたなア。
520
サア
俺
(
おれ
)
に
合掌
(
がつしやう
)
するのだ。
521
下座
(
げざ
)
に
坐
(
すわ
)
れ』
522
友彦
(
ともひこ
)
はモヂモヂし
乍
(
なが
)
ら、
523
尻
(
しり
)
に
糞
(
くそ
)
を
挟
(
はさ
)
んだ
様
(
やう
)
な
調子
(
てうし
)
で、
524
青
(
あを
)
い
顔
(
かほ
)
して
佇
(
たたず
)
み
居
(
ゐ
)
る。
525
テールス
姫
(
ひめ
)
は
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
つたか、
526
友彦
(
ともひこ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り、
527
柴
(
しば
)
で
造
(
つく
)
つた
押戸
(
おしど
)
を
開
(
あ
)
け、
528
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
へ
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しける。
529
玉治別
『エー
到頭
(
たうとう
)
養子
(
やうし
)
になりよつたなア。
530
淡路島
(
あはぢしま
)
で
養子
(
やうし
)
になり
損
(
そこな
)
つて
面
(
つら
)
を
曝
(
さら
)
されよつたが、
531
熱心
(
ねつしん
)
と
云
(
い
)
ふものは
偉
(
えら
)
いものだナア。
532
到頭
(
たうとう
)
鼻赤
(
はなあか
)
のお
蔭
(
かげ
)
でコンナ
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
依
(
よ
)
つて、
533
怪態
(
けつたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
534
テールス
姫
(
ひめ
)
と
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて
済
(
す
)
ましこみて
這入
(
はい
)
りよつた。
535
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
彼奴
(
あいつ
)
も
可憐相
(
かはいさう
)
だ。
536
モウこれぎりで
嘲弄
(
からか
)
ふ
事
(
こと
)
は
止
(
や
)
めてやらう』
537
チーチヤーボールは
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
前
(
まへ
)
に
来
(
き
)
て、
538
チーチヤーボール
『オーレンス、
539
サーチライス、
540
シーリス シーリス』
541
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
542
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
導
(
みちび
)
き、
543
果物
(
くだもの
)
の
酒
(
さけ
)
を
注
(
そそ
)
いで
玉治別
(
たまはるわけ
)
に
進
(
すす
)
めける。
544
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
を
高
(
たか
)
く
差
(
さ
)
し
上
(
あ
)
げ、
545
玉治別
『アマアマ』
546
と
云
(
い
)
ひつつ
太陽
(
たいやう
)
を
指
(
さ
)
し
示
(
しめ
)
したり。
547
ここは
次
(
つぎ
)
の
第三番
(
だいさんばん
)
目
(
め
)
の
間
(
ま
)
で、
548
屋根
(
やね
)
は
無
(
な
)
く、
549
唯
(
ただ
)
石盤
(
せきばん
)
の
様
(
やう
)
な
石
(
いし
)
が
奇麗
(
きれい
)
に
敷
(
し
)
き
詰
(
つ
)
めてある
露天
(
ろてん
)
の
座敷
(
ざしき
)
なり。
550
鬱蒼
(
うつさう
)
たる
樹木
(
じゆもく
)
が
天然
(
てんねん
)
の
屋根
(
やね
)
をなし
居
(
ゐ
)
たり。
551
チーチヤーボールは
此
(
この
)
樹上
(
じゆじやう
)
に
登
(
のぼ
)
れと
命
(
めい
)
じたと
早合点
(
はやがつてん
)
し、
552
猿
(
ましら
)
の
如
(
ごと
)
く
樹上
(
じゆじやう
)
に
駆
(
か
)
け
登
(
のぼ
)
り、
553
テールス
姫
(
ひめ
)
が
寵愛
(
ちようあい
)
の
取
(
と
)
つときのコーズの
実
(
み
)
の
二
(
ふた
)
つ
計
(
ばか
)
り
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
るのを、
554
一
(
ひと
)
つむしり
懐
(
ふところ
)
に
捻
(
ねぢ
)
こみたり。
555
懐
(
ふところ
)
と
云
(
い
)
つても、
556
粗
(
あら
)
い
粗
(
あら
)
い
蔓
(
つる
)
で
編
(
あ
)
みし
形
(
かたち
)
ばかりの
着物
(
きもの
)
なり。
557
コーズは
着物
(
きもの
)
の
目
(
め
)
を
抜
(
ぬ
)
けてバサリと
落
(
お
)
ちたる
途端
(
とたん
)
に、
558
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
面部
(
めんぶ
)
にポカンと
当
(
あた
)
りぬ。
559
玉治別
(
たまはるわけ
)
は「アツ」と
叫
(
さけ
)
んで
俯向
(
うつむ
)
けに
倒
(
たふ
)
れ、
560
鼻
(
はな
)
を
健
(
したた
)
か
打
(
う
)
ち、
561
涙
(
なみだ
)
をこぼし
気張
(
きば
)
り
居
(
ゐ
)
る。
562
チーチヤーボールは
驚
(
おどろ
)
いて
樹上
(
じゆじやう
)
を
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
り、
563
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
前
(
まへ
)
に
犬突這
(
いぬつくばひ
)
となりて
無礼
(
ぶれい
)
を
拝謝
(
はいしや
)
するものの
如
(
ごと
)
く、
564
チーチヤーボール
『ワーク ワーク、
565
ユーリンス ユーリンス』
566
と
泣声
(
なきごゑ
)
になり
合掌
(
がつしやう
)
し
居
(
ゐ
)
たり。
567
暫
(
しばら
)
くして
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
顔
(
かほ
)
をあげたるに、
568
鼻
(
はな
)
は
少
(
すこ
)
しく
腫
(
はれ
)
あがり、
569
友彦
(
ともひこ
)
以上
(
いじやう
)
の
赤鼻
(
あかはな
)
と
急変
(
きふへん
)
したり。
570
チーチヤーボールは
驚
(
おどろ
)
いて
飛
(
と
)
びあがり、
571
チーチヤーボール
『ウツポツポ ウツポツポ、
572
オーレンス、
573
サーチライス、
574
アーリンス アーリンス』
575
と
叫
(
さけ
)
び
出
(
だ
)
しぬ。
576
其
(
その
)
意味
(
いみ
)
は、
577
『
今
(
いま
)
テールス
姫
(
ひめ
)
の
夫
(
をつと
)
となつた
救世主
(
きうせいしゆ
)
より
一層
(
いつそう
)
立派
(
りつぱ
)
な
救世主
(
きうせいしゆ
)
だ。
578
縁談
(
えんだん
)
を
結
(
むす
)
ぶ
時
(
とき
)
に
用
(
もち
)
ふる
果実
(
このみ
)
が
当
(
あた
)
つて、
579
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
立派
(
りつぱ
)
な
鼻
(
はな
)
になつたのは、
580
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
であらう』
581
と
無理
(
むり
)
無体
(
むたい
)
に
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つてテールス
姫
(
ひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
迎
(
むか
)
へ
入
(
い
)
れたり。
582
見
(
み
)
れば
友彦
(
ともひこ
)
は
立派
(
りつぱ
)
なる
冠
(
かんむり
)
を
着
(
き
)
せられ、
583
蔓
(
つる
)
で
編
(
あ
)
みたる
衣服
(
いふく
)
を
着流
(
きなが
)
し、
584
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
褌
(
ふんどし
)
を
締
(
し
)
め、
585
傲然
(
がうぜん
)
と
構
(
かま
)
へ
居
(
ゐ
)
たり。
586
側
(
そば
)
にテールス
姫
(
ひめ
)
はジヤンナイ
教
(
けう
)
の
神文
(
しんもん
)
を、
587
テールス姫
『タータータラリ、
588
タータラリ、
589
トータラリ、
590
リートー リートー トータラリ』
591
と
唱
(
とな
)
へ
居
(
ゐ
)
る。
592
神文
(
しんもん
)
が
終
(
をは
)
るを
待
(
ま
)
つて、
593
チーチヤーボールはテールス
姫
(
ひめ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
594
チーチヤーボール
『オーレンス、
595
サーチライス、
596
アーリンス アーリンス』
597
と
言葉
(
ことば
)
をかけたり。
598
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にテールス
姫
(
ひめ
)
は
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
き、
599
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
赤
(
あか
)
い
鼻
(
はな
)
を
見
(
み
)
て
打驚
(
うちおどろ
)
き……「アヽ
今日
(
けふ
)
は
何
(
なん
)
たる
立派
(
りつぱ
)
なる
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がお
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばす
日
(
ひ
)
だらう。
600
それにしても
後
(
あと
)
からお
降
(
くだ
)
りになつた
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
立派
(
りつぱ
)
だワ。
601
同
(
おな
)
じ
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つのなら
立派
(
りつぱ
)
な
方
(
かた
)
を
持
(
も
)
たなくては、
602
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
がない。
603
少
(
すこ
)
しく
口
(
くち
)
は
小
(
ちひ
)
さいなり、
604
身長
(
せい
)
は
低
(
ひく
)
いけれど、
605
何
(
なん
)
とはなしに
虫
(
むし
)
の
好
(
す
)
く
御
(
お
)
方
(
かた
)
だ」……と
穴
(
あな
)
のあく
程
(
ほど
)
、
606
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
顔
(
かほ
)
に
見惚
(
みと
)
れ、
607
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
にさげ
比
(
くら
)
べをなし
居
(
ゐ
)
たりけり。
608
玉治別
『オイ
友
(
とも
)
、
609
どうだ、
610
俺
(
おれ
)
の
鼻
(
はな
)
を
見
(
み
)
い、
611
貴様
(
きさま
)
は
余程
(
よほど
)
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
て
鼻高
(
はなだか
)
になりよつたが、
612
俺
(
おれ
)
は
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
の
鼻赤
(
はなあか
)
だ。
613
貴様
(
きさま
)
の
赤
(
あか
)
さは……
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
を
云
(
い
)
へば……
安物
(
やすもの
)
の
染料
(
せんれう
)
で
染
(
そ
)
めた
様
(
やう
)
に
大変
(
たいへん
)
色
(
いろ
)
が
薄
(
うす
)
くなつて
居
(
ゐ
)
るぞ。
614
俺
(
おれ
)
の
鼻
(
はな
)
はまるで
赤林檎
(
あかりんご
)
の
肌
(
はだ
)
の
様
(
やう
)
だ。
615
サア
鼻
(
はな
)
比
(
くら
)
べをしようかい。
616
赤
(
あか
)
い
ハナ
には
目
(
め
)
が
付
(
つ
)
くと
云
(
い
)
つて、
617
子供
(
こども
)
でさへも
喜
(
よろこ
)
ぶんだぞ。
618
俺
(
おれ
)
の
鼻
(
はな
)
の
色
(
いろ
)
が
百点
(
ひやくてん
)
とすれば、
619
貴様
(
きさま
)
の
鼻
(
はな
)
はマア
四十点
(
よんじつてん
)
スウスウだ。
620
今
(
いま
)
にテールス
姫
(
ひめ
)
さまが
審神
(
さには
)
をして
下
(
くだ
)
さるから、
621
マア
楽
(
たのし
)
んで
居
(
ゐ
)
たがよからう。
622
キツト
団扇
(
うちは
)
は
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
へあがるこたア、
623
請合
(
うけあひ
)
の
西瓜
(
すゐくわ
)
だ。
624
中
(
なか
)
までマツカイケだ……たーかい、
625
やーまかーら、
626
谷底
(
たにそこ
)
見
(
み
)
ればなア、
627
うーりやなあすびイイの、
628
ハナ
、
629
あかいな、
630
アラどんどんどん、
631
コラどんどんどん、
632
……どんどんでテールス
姫
(
ひめ
)
の
花婿
(
はなむこ
)
さまは、
633
玉治別
(
たまはるわけ
)
に
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
るワ。
634
それだから、
635
此
(
この
)
鬼
(
おに
)
の
様
(
やう
)
な
立派
(
りつぱ
)
な
面
(
つら
)
をして、
636
チーチヤーボールさんとやらが
貴様
(
きさま
)
が
結婚
(
けつこん
)
したにも
拘
(
かか
)
はらず、
637
俺
(
おれ
)
を
導
(
みちび
)
いて
此室
(
ここ
)
へ
連
(
つれ
)
て
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れたのだ。
638
エツヘン』
639
と
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
に
握拳
(
にぎりこぶし
)
を
二
(
ふた
)
つ
重
(
かさ
)
ねて、
640
キリキリツと
二三遍
(
にさんぺん
)
廻
(
まは
)
つて
見
(
み
)
せたりける。
641
友彦
『
洒落
(
しやれ
)
も
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
にして
置
(
お
)
かぬかい。
642
何程
(
なにほど
)
美
(
うつく
)
しうても、
643
塗
(
ぬ
)
つた
鼻
(
はな
)
は
直
(
すぐ
)
剥
(
は
)
げて
了
(
しま
)
ふぞ。
644
此
(
この
)
暑
(
あつ
)
い
国
(
くに
)
に
汗
(
あせ
)
を
一二度
(
いちにど
)
かいて
見
(
み
)
よ。
645
忽
(
たちま
)
ち
化
(
ばけ
)
が
現
(
あら
)
はれるワ。
646
俺
(
おれ
)
の
鼻
(
はな
)
は
生
(
うま
)
れつき、
647
地
(
ぢ
)
の
底
(
そこ
)
から
生
(
は
)
えぬきの
赤鼻
(
あかはな
)
だ。
648
ヘン、
649
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
や
其
(
その
)
他
(
ほか
)
では……
鼻赤
(
はなあか
)
々々
(
はなあか
)
……と
馬鹿
(
ばか
)
にしられて、
650
あちらの
女
(
をんな
)
にも
此方
(
こちら
)
の
女
(
をんな
)
にも
鼻
(
はな
)
あか
されて
来
(
き
)
たが、
651
どんなものだい。
652
貴様
(
きさま
)
の
鼻
(
はな
)
はたつた
今
(
いま
)
化
(
ばけ
)
が
露
(
あら
)
はれて、
653
お
払
(
はら
)
ひ
箱
(
ばこ
)
に
会
(
あ
)
ふのだ』
654
玉治別
『
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
へ、
655
ナンボ
拭
(
ふ
)
いても
拭
(
ふ
)
いても、
656
落
(
お
)
ちぬのだ。
657
俺
(
おれ
)
は
俄
(
にはか
)
に
天
(
てん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
降臨
(
かうりん
)
遊
(
あそ
)
ばして
御
(
お
)
憑
(
うつ
)
りなさつた、
658
コノハナ
赤
(
あか
)
や
姫
(
ひめ
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
だぞ。
659
貴様
(
きさま
)
があまり
詐欺
(
さぎ
)
や
泥棒
(
どろばう
)
して、
660
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
が
無
(
な
)
くなり、
661
又
(
また
)
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
で
温情
(
おとな
)
しい
土人
(
どじん
)
をチヨロまかさうと
致
(
いた
)
すから、
662
天
(
てん
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が、
663
可憐相
(
かあいさう
)
だから、
664
本当
(
ほんたう
)
のコノ
ハナ
赤
(
あか
)
や
姫
(
ひめ
)
は
玉治別
(
たまはるわけ
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
証明
(
しようめい
)
する
為
(
ため
)
に、
665
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
赤
(
あか
)
くして
下
(
くだ
)
さつたのだ。
666
嘘
(
うそ
)
と
思
(
おも
)
ふなら
貴様
(
きさま
)
来
(
き
)
て
一寸
(
ちよつと
)
拭
(
ふ
)
いて
見
(
み
)
よ。
667
中
(
なか
)
まで
真赤
(
まつか
)
けだ』
668
友彦
『ソンナ
真赤
(
まつか
)
な
嘘
(
うそ
)
を
言
(
い
)
ふものぢやない』
669
玉治別
(
たまはるわけ
)
はヌツと
腮
(
あご
)
を
突出
(
つきだ
)
し、
670
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し、
671
玉治別
『アヽさうでオ
マツカ
、
672
ハナ
ハナ
以
(
もつ
)
て
赤恥
(
あかはぢ
)
をかかし
済
(
す
)
みませぬなア』
673
テールス
姫
(
ひめ
)
はツト
立
(
た
)
ち、
674
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
を
自分
(
じぶん
)
の
右手
(
みぎて
)
でグツと
握
(
にぎ
)
り、
675
二三遍
(
にさんへん
)
揺
(
ゆす
)
つた
上
(
うへ
)
今度
(
こんど
)
は
手
(
て
)
を
離
(
はな
)
し
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
で
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
り、
676
右
(
みぎ
)
の
頬
(
ほほ
)
を
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
右
(
みぎ
)
の
頬
(
ほほ
)
に
擦
(
す
)
りつけ、
677
恋慕
(
れんぼ
)
の
情
(
じやう
)
を
十二分
(
じふにぶん
)
に
示
(
しめ
)
した。
678
充分
(
じうぶん
)
尊敬
(
そんけい
)
の
極
(
きよく
)
、
679
愛慕
(
あいぼ
)
の
極
(
きよく
)
に
達
(
たつ
)
した
時
(
とき
)
は、
680
相手
(
あひて
)
の
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
を
自分
(
じぶん
)
の
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
るのが
方式
(
はうしき
)
である。
681
さうして
頬
(
ほほ
)
をすりつけるのは、
682
最
(
もつと
)
も
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つたと
云
(
い
)
ふ
表証
(
しるし
)
であつた。
683
友彦
(
ともひこ
)
は
劫
(
がふ
)
を
煮
(
に
)
やし、
684
ツカツカと
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
685
テールス
姫
(
ひめ
)
の
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
を
鷲掴
(
わしづか
)
みにグツと
握
(
にぎ
)
り、
686
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
横
(
よこ
)
にしやくつた。
687
姫
(
ひめ
)
は
顔
(
かほ
)
をしかめて、
688
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
め、
689
そこに
平太
(
へた
)
らうとした。
690
玉治別
(
たまはるわけ
)
も
友彦
(
ともひこ
)
も、
691
期
(
き
)
せずして
握
(
にぎ
)
つた
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
した。
692
友彦
(
ともひこ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
頬
(
ほほ
)
をテールス
姫
(
ひめ
)
の
頬
(
ほほ
)
に
当
(
あ
)
てようと
身
(
み
)
に
寄
(
よ
)
り
添
(
そ
)
うた。
693
テールス
姫
(
ひめ
)
は、
694
テールス姫
『イーエス』
695
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
696
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
友彦
(
ともひこ
)
を
突
(
つ
)
き
飛
(
と
)
ばした。
697
友彦
(
ともひこ
)
はヨロヨロとよろめき、
698
ドスンと
尻餅
(
しりもち
)
を
搗
(
つ
)
き、
699
マ
一
(
ひと
)
つひつくり
覆
(
かへ
)
つて、
700
居室
(
ゐま
)
の
柱
(
はしら
)
に
厭
(
いや
)
と
云
(
い
)
ふ
程
(
ほど
)
後頭部
(
こうとうぶ
)
を
打
(
うち
)
つけ、
701
「キヤツ」と
云
(
い
)
つて
其
(
その
)
場
(
ば
)
にフン
伸
(
の
)
びて
了
(
しま
)
つた。
702
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
703
テールス
姫
(
ひめ
)
、
704
チーチヤーボールは
驚
(
おどろ
)
いて、
705
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
み
来
(
きた
)
り、
706
頭
(
あたま
)
から
何杯
(
なんばい
)
も
何杯
(
なんばい
)
も
誕生
(
たんじやう
)
の
釈迦
(
しやか
)
の
様
(
やう
)
に、
707
目
(
め
)
、
708
鼻
(
はな
)
、
709
口
(
くち
)
の
区別
(
くべつ
)
もなく
注
(
そそ
)
ぎ
掛
(
か
)
けた。
710
友彦
(
ともひこ
)
は「ウン、
711
ブー、
712
ブルブルブル」と
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
いた
拍子
(
へうし
)
に、
713
鼻汁
(
はな
)
を
垂
(
た
)
らし、
714
鼻
(
はな
)
から
薄
(
うす
)
い
毬
(
まり
)
の
様
(
やう
)
な
玉
(
たま
)
が
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ、
715
串団子
(
くしだんご
)
の
様
(
やう
)
に
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
した。
716
テールス
姫
(
ひめ
)
は
顔
(
かほ
)
を
背向
(
そむ
)
けて
俯
(
うつ
)
ぶいて
了
(
しま
)
つた。
717
そろそろ
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
赤
(
あか
)
い
鼻
(
はな
)
は
血
(
ち
)
がヨドンだと
見
(
み
)
え、
718
紫色
(
むらさきいろ
)
になり、
719
終局
(
しまひ
)
には
真黒
(
まつくろ
)
けになつて
了
(
しま
)
つた。
720
されど
玉治別
(
たまはるわけ
)
はヤツパリ
鮮紅色
(
せんこうしよく
)
の
鼻
(
はな
)
の
持主
(
もちぬし
)
だと
信
(
しん
)
じて
居
(
ゐ
)
た。
721
友彦
(
ともひこ
)
は
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
鼻
(
はな
)
の
色
(
いろ
)
の
変
(
かは
)
つたのにヤツと
安心
(
あんしん
)
し、
722
テールス
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
723
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
で
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
鼻
(
はな
)
を
指
(
さ
)
し
示
(
しめ
)
した。
724
テールス
姫
(
ひめ
)
は
怪訝
(
けげん
)
な
顔
(
かほ
)
して
玉治別
(
たまはるわけ
)
を
眺
(
なが
)
めて
居
(
ゐ
)
る。
725
玉治別
(
たまはるわけ
)
はモ
一
(
ひと
)
つ
悪戯
(
からか
)
つてやらうと、
726
ツカツカと
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み、
727
テールス
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
728
頬
(
ほほ
)
を
当
(
あ
)
てようとした。
729
テールス
姫
(
ひめ
)
は、
730
テールス姫
『イーエス イーエス』
731
と
云
(
い
)
ひつつ
力
(
ちから
)
に
任
(
まか
)
せて、
732
玉治別
(
たまはるわけ
)
をドツと
押
(
お
)
した。
733
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
後
(
あと
)
の
低
(
ひく
)
い
段々
(
だんだん
)
を
押
(
お
)
されて、
734
友彦
(
ともひこ
)
同様
(
どうやう
)
タヂタヂと
逡巡
(
たじろ
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら、
735
一
(
いち
)
の
字
(
じ
)
に
長
(
なが
)
くなつて
倒
(
たふ
)
れた。
736
友彦
(
ともひこ
)
は
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて、
737
友彦
『アツハヽヽヽ』
738
チーチヤーボール『エツポツポ エツポツポ、
739
エツパー エツパー、
740
イーエス イーエス』
741
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
742
玉治別
(
たまはるわけ
)
を
引起
(
ひきおこ
)
し、
743
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
押出
(
おしだ
)
して
行
(
ゆ
)
く。
744
(
大正一一・七・五
旧閏五・一一
松村真澄
録)
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