霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 土人(どじん)の歓迎(くわんげい)〔七四〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻 篇:第3篇 危機一髪 よみ(新仮名遣い):ききいっぱつ
章:第10章 土人の歓迎 よみ(新仮名遣い):どじんのかんげい 通し章番号:740
口述日:1922(大正11)年07月03日(旧閏05月09日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年5月10日
概要: 舞台:ニュージーランド(沓島)、地恩城(地恩郷) あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
玉治別の漕ぐ船は、ニュージーランドの沓島にやってきた。上陸した一行は、島の人々の歓迎を受けた。友彦は言葉の通じないのを幸い、木の上に登って口から出任せの言葉を叫んだ。
友彦の出鱈目の言葉は、島の人々には、玉能姫と初稚姫は尊い女神であり、蜈蚣姫は一つ島の女王の母上だ、と聞こえた。そのため玉能姫、初稚姫、蜈蚣姫は非常に歓迎を受けた。
玉治別やスマートボールも樹上に登って出鱈目な言葉を叫ぶ。スマートボールが叫ぶと、島の人々は高姫を取り囲んで尻をまくって馬鹿にし始めた。高姫は怒るが、高姫の言葉は島の人々にはまったく通じなかった。
玉能姫は、樹上の玉治別に、すぐに一つ島に行かなければならないと告げた。島の人々は一斉に散って、豪華な船をしつらえて持ってきてくれた。
島の人々は玉能姫、初稚姫、蜈蚣姫らを豪華な船に乗せた。玉治別らは自分たちが乗ってきた船に乗った。島の人々はなぜか、高姫とチャンキー、モンキーだけは泥舟に無理矢理乗せてしまった。
島の人たちは船を漕いで、一行を一つ島に案内した。玉治別は島の神霊に感じて、南洋語をにわかに感得し、島の言葉で宣伝歌を歌った。島人たちはこれを聞いて、感涙に咽んだ。
一つ島に着くと、ニュージーランドの酋長は一つ島の黄竜姫に到着を告げに先に出立した。他の人々は丁重に手車に乗せられて案内されたが、高姫だけは道中非常に侮辱を受けながら連れて行かれた。
黄竜姫の使いとしてブランジーが現れ、蜈蚣姫を輿車に乗せ変えて迎えた。一行は城内に入った。玄関にはクロンバーがいた。玉能姫、初稚姫は黒姫だと気が付き、声をかけた。
黒姫は南洋に玉を探しに出ていた経緯を語ったが、今は黄竜姫の宰相として仕えていると権力を楯にして、三五教の面々を見下した態度をあらわにした。
そこへ、惨めな姿で高姫が現れた。高姫を認めた黒姫、高山彦は、お互いに涙を流して喜び合い、手を取って城の中へ姿を隠した。この様を見て、玉治別、初稚姫、玉能姫ら一行は密かに裏門から城外にのがれ、裏山の森林に姿を隠して休息した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:ニユージランド(ニュージーランド) データ凡例: データ最終更新日:2021-08-04 20:29:09 文字数:5815 OBC :rm2410
愛善世界社版:164頁 八幡書店版:第4輯 672頁 修補版: 校定版:168頁 普及版:76頁 初版: ページ備考:
001南洋一(なんやういち)の竜宮島(りうぐうじま)
002アンボイナをば後(あと)に見(み)て
003救(すく)ひの船(ふね)に身(み)を任(まか)せ
004進(すす)み来(きた)れる高姫(たかひめ)や
005蜈蚣(むかで)の姫(ひめ)の一行(いつかう)は
006夜(よ)を日(ひ)に継(つ)いでオセアニヤ
007一(ひと)つ島根(しまね)に渡(わた)らむと
008心(こころ)勇(いさ)みて漕(こ)ぎ来(きた)る
009時(とき)しもあれや海中(わだなか)に
010すつくと立(た)てる岩島(いはしま)を
011左手(ゆんで)に眺(なが)めて進(すす)み行(ゆ)く
012俄(にはか)に海風(うなかぜ)吹(ふ)き荒(すさ)び
013浪(なみ)高(たか)まりて船体(せんたい)を
014操(あやつ)る術(すべ)も無(な)きままに
015浪(なみ)を避(さ)けむと岩島(いはしま)の
016蔭(かげ)に漕(こ)ぎつけ眺(なが)むれば
017怪(あや)しき影(かげ)の唯(ただ)二(ふた)つ
018何者(なにもの)ならむと立(た)ち寄(よ)つて
019素性(すじやう)を聞(き)けば錫蘭島(シロしま)の
020チヤンキー モンキー 両人(りやうにん)が
021顕恩城(けんおんじやう)の小糸姫(こいとひめ)
022竜宮城(りうぐうじやう)[※校定版・八幡版では「竜宮洲」に修正されている。]へ送(おく)る折(をり)
023俄(にはか)の時化(しけ)に船(ふね)を破(わ)り
024茲(ここ)に非難(ひなん)し居(ゐ)たりしを
025漸(やうや)く悟(さと)り高姫(たかひめ)は
026日頃(ひごろ)探(たづ)ぬる神宝(しんぱう)の
027匿(かく)せし場所(ばしよ)は此(この)島(しま)と
028疑惑(ぎわく)の眼(まなこ)光(ひか)らせつ
029二人(ふたり)の男(をとこ)を引(ひ)つ捉(とら)へ
030ためつ賺(すか)しつ尋(たづ)ぬれど
031元(もと)より訳(わけ)は白浪(しらなみ)の
032中(なか)に漂(ただよ)ふ二人(ふたり)連(づ)れ
033取(とり)つく島(しま)も泣(な)き寝入(ねい)り
034蜈蚣(むかで)の姫(ひめ)は両人(りやうにん)が
035話(はなし)を聞(き)いて仰天(ぎやうてん)し
036小糸(こいと)の姫(ひめ)は世(よ)の中(なか)に
037もはや命(いのち)は無(な)きものと
038悲歎(ひたん)の涙(なみだ)に暮(く)れながら
039船底(ふなそこ)深(ふか)くかぢりつく
040ころしもあれや南洋(なんやう)に
041其(その)名(な)も高(たか)き一巨島(いちきよたう)
042テンカオ島(たう)は海中(かいちう)に
043大音響(だいおんきやう)と諸共(もろとも)に
044苦(く)もなく沈(しづ)みし勢(いきほひ)に
045海水(かいすゐ)俄(にはか)に立(た)ち騒(さわ)ぎ
046水量(みづかさ)まさりて魔(ま)の島(しま)を
047早(はや)一呑(ひとの)みに呑(の)まむとす
048高姫(たかひめ)其(その)他(た)の一同(いちどう)は
049九死(きうし)一生(いつしやう)の苦(くる)しみに
050生(い)きたる心地(ここち)も荒浪(あらなみ)の
051肝(きも)を潰(つぶ)せる折柄(をりから)に
052黄昏時(たそがれどき)の海原(うなばら)を
053声(こゑ)を目当(めあて)に進(すす)み来(く)る
054救(すく)ひの船(ふね)に助(たす)けられ
055やつと安心(あんしん)胸(むね)を撫(な)で
056進(すす)む折(をり)しも玉能姫(たまのひめ)
057初稚姫(はつわかひめ)や田吾作(たごさく)の
058助(たす)けの船(ふね)と悟(さと)りてゆ
059高姫(たかひめ)持病(ぢびやう)は再発(さいはつ)し
060竹篦返(しつぺいがへ)しの減(へ)らず口(ぐち)
061頤(あご)を叩(たた)くぞ憎(にく)らしき
062あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
063神(かみ)の恵(めぐみ)は何処(どこ)までも
064悪(あく)の身魂(みたま)も懇(ねんごろ)に
065誠(まこと)の教(をしへ)に導(みちび)きて
066救(すく)ひ給(たま)ふぞ有難(ありがた)き
067玉治別(たまはるわけ)の漕(こ)ぐ船(ふね)は
068夜(よ)に日(ひ)を重(かさ)ねてやうやうに
069ニユージランドの沓島(くつじま)の
070磯端(いそばた)近(ちか)く着(つ)きにけり
071浪打(なみう)ち際(ぎは)に近(ちか)づけば
072思(おも)ひもよらぬ高潮(たかしほ)の
073寄(よ)せては返(かへ)す物凄(ものすご)さ
074船(ふね)の操縦(さうじう)に悩(なや)みつつ
075スマートボールや貫州(くわんしう)や
076チヤンキー モンキー諸共(もろとも)に
077汗(あせ)を流(なが)して櫂(かい)を漕(こ)ぎ
078漸(やうや)く上陸(じやうりく)したりける
079あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
080御霊(みたま)の幸(さち)ぞ尊(たふと)けれ
081神(かみ)の恵(めぐみ)ぞ畏(かしこ)けれ。
082 物珍(ものめづ)らしげに島(しま)の土人(どじん)は小山(こやま)の如(ごと)く現(あら)はれ来(きた)り、083口々(くちぐち)に手(て)を打(う)ち「ウツポー、084クツター クツター」と叫(さけ)びゐたり。085これは「珍(めづら)しき尊(たふと)き神人(しんじん)来(きた)り給(たま)へり」と云(い)ふ意味(いみ)なり。086一同(いちどう)は「ウツポー、087クツター クツター」の諸声(もろこゑ)に送(おく)られ、088禿(はげ)計(ばか)りの島(しま)に似合(にあ)はず、089樹木(じゆもく)鬱蒼(うつさう)たる大森林(だいしんりん)の樹下(じゆか)に導(みちび)かれ、090珍(めづら)しき果物(くだもの)を饗応(きやうおう)され、091神(かみ)の如(ごと)くに尊敬(そんけい)されたりける。
092 友彦(ともひこ)は得意(とくい)満面(まんめん)に溢(あふ)れ、093言語(げんご)の通(つう)ぜざるを幸(さいは)ひ、094猿(ましら)の如(ごと)く大樹(たいじゆ)の枝(えだ)にかけ登(のぼ)り、095懐(ふところ)より麻(ぬさ)を取(と)り出(だ)し左右左(さいうさ)に打(う)ち振(ふ)りながら、
096友彦『ウツポツポー ウツポツポー、097テンツルトウ テンツルトウ、098チンプクリンノチンプクリン、099プクプクリンノプクプクリン、100ペンコ ペンコ、101チヤツク チヤツク、102ジヤンコ ジヤンコ、103テンツルテンノテンツルトウ、104トコトンポーリー トコトンポーリー、105カンカラカンノケンケラケン、106高姫(たかひめ)さまのガンガラガンノコンコロコン、107蜈蚣姫(むかでひめ)のパーパーサン、108コンコンチキチン、109コンチキチン、110小糸(こいと)の姫(ひめ)の婿(むこ)様(さま)は、111トントコトンの友彦(ともひこ)が、112ウツパツパー ウツパツパー、113シヤンツクテンテンツクテンテン、114キンプクリンノフクリンリン』
115と囀(さへづ)り初(はじ)めたり。116数多(あまた)の土人(どじん)は一行中(いつかうちう)の最(もつと)も貴(たつと)き神(かみ)と早合点(はやがつてん)し、117随喜(ずいき)の涙(なみだ)を零(こぼ)し合掌(がつしやう)しゐたり。118スマートボールは又(また)もや駆(か)け登(のぼ)り、119矢庭(やには)に木(き)の枝(えだ)を手折(たお)り、120左右左(さいうさ)に打(う)ち振(ふ)り、
121スマートボール『ウツポツポー ウツポツポー、122キンライライノクタクタライ、123キンプクリンノキンライライ、124ウツポツポー ウツポツポー』
125と囀(さへづ)り出(だ)したり。126スマートボールは自分(じぶん)の云(い)うた事(こと)を自分(じぶん)ながら些(ちつ)とも解(かい)して居(ゐ)ない。127されど土人(どじん)の胸(むね)には、128先(さき)に上(のぼ)つた友彦(ともひこ)よりも最上位(さいじやうい)の神(かみ)たる事(こと)を悟(さと)りたり。129友彦(ともひこ)は又(また)もや、
130友彦『ウツポツポー、131ペンペコペン、132ウツポツポ、133パーパーサン、134エツポツポー、135エツポツポー』
136と囀(さへづ)り出(だ)したり。137是(これ)は土人(どじん)の言葉(ことば)に対照(たいせう)すると、
138『二人(ふたり)の女(をんな)は真(まこと)の平和(へいわ)の女神(めがみ)だ。139さうして若(わか)い方(はう)の婆(ばば)アは悪党(あくたう)だ。140色(いろ)の黒(くろ)い婆(ばば)アは一(ひと)つ島(じま)の女王(ぢよわう)の母上(ははうへ)だ』
141と云(い)ふ意味(いみ)になる。142数多(あまた)の土人(どじん)は蜈蚣姫(むかでひめ)の前(まへ)に跪(ひざまづ)き、143手(て)を拍(う)ち嬉(うれ)し涙(なみだ)に暮(く)れながら恭敬(きようけい)の意(い)を表(へう)し、144踊(をど)り狂(くる)ひ、145其(その)次(つぎ)に玉能姫(たまのひめ)、146初稚姫(はつわかひめ)を胴上(どうあ)げにし「エイヤ エイヤ」と声(こゑ)を揃(そろ)へて森(もり)の木蔭(こかげ)を舁(かつ)ぎ廻(まは)り、147踊(をど)り狂(くる)ふ其(その)可笑(をか)しさ。148玉能姫(たまのひめ)、149初稚姫(はつわかひめ)は様子(やうす)分(わか)らねど、150兎(と)も角(かく)も自分(じぶん)等(ら)を尊敬(そんけい)せしものたる事(こと)は、151其(その)態度(たいど)に依(よ)つて悟(さと)る事(こと)を得(え)たりける。
152 森林(しんりん)の最(もつと)も高(たか)き所(ところ)に七八丈(しちはちじやう)許(ばか)りの方形(ほうけい)の岩(いは)が、153地(ち)の底(そこ)から湧(わ)き出(で)たやうに現(あら)はれ居(ゐ)たり。154其(その)上(うへ)に玉能姫(たまのひめ)、155蜈蚣姫(むかでひめ)、156初稚姫(はつわかひめ)の三(さん)人(にん)を舁(かつ)ぎ往(ゆ)き、157種々(いろいろ)の果物(くだもの)を各自(てんで)に持(も)ち来(きた)り、158所(ところ)狭(せ)き迄(まで)並(なら)べ立(た)て、159此(この)岩(いは)を中心(ちうしん)に踊(をど)り狂(くる)ひ廻(まは)つた。160残(のこ)りの一隊(いつたい)は大樹(たいじゆ)の下(もと)に移(うつ)り往(ゆ)き、161何事(なにごと)か一生(いつしやう)懸命(けんめい)に祈願(きぐわん)し初(はじ)めたり。
162 玉治別(たまはるわけ)は一向(いつかう)構(かま)つて呉(く)れないのに稍(やや)悄気(しよげ)気味(ぎみ)となり、163又(また)もや樹上(じゆじやう)に駆(か)け登(のぼ)り木(き)の枝(えだ)を手折(たお)つて、164前後(ぜんご)左右(さいう)に無精(むしやう)に打(う)ち振(ふ)り、
165玉治別『ウツパツパーウツパツパー、166キンライライノクタクタライ、167ラーテンドウ ラーテンドウ』
168と幾度(いくたび)も繰返(くりかへ)しける。169此(この)意味(いみ)は、
170『吾(われ)は海底(かいてい)の竜神(りうじん)、171今(いま)此(この)島(しま)を平安(へいあん)無事(ぶじ)ならしめむために現(あら)はれ来(きた)り』
172と云(い)ふ事(こと)になる。173又(また)もや土人(どじん)は玉治別(たまはるわけ)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)に拝(をが)み初(はじ)めたり。174スマートボールは、
175スマートボール『パーパーチンチン、176パーチンチン』
177と囀(さへづ)りぬ。178数多(あまた)の群集(ぐんしふ)は各(おのおの)尻(しり)をまくり、179高姫(たかひめ)の身辺(しんぺん)近(ちか)く取(と)り巻(ま)き「我(わが)臀肉(でんにく)を喰(くら)へ」と云(い)ふ意味(いみ)にて、
180土人『パーパーキントウ、181キントウ、182パーパーキントウ、183キントウ、184パースパース』
185と云(い)ひながら御(ご)丁寧(ていねい)に一人(ひとり)も残(のこ)らず尻(しり)をまくりて、186三間(さんげん)許(ばか)り四(よ)つ這(ばひ)になり、187各(おのおの)此(この)場(ば)を捨(す)てて、188初稚姫(はつわかひめ)等(ら)が坐(ざ)せる石(いし)の宝座(ほうざ)の方(はう)に、189先(さき)を争(あらそ)うて進(すす)み行(ゆ)く。
190 樹下(じゆか)に蹲踞(しやが)み、191感涙(かんるい)に咽(むせ)んで居(ゐ)る数十(すうじふ)人(にん)の、192残(のこ)つた土人(どじん)の敬虔(けいけん)の態度(たいど)を眺(なが)めた高姫(たかひめ)は、193そろそろむかづき初(はじ)め、
194高姫『これこれ此処(ここ)の土人(どじん)さま、195お前(まへ)は何(なん)と思(おも)つて居(を)るか。196あの先(さき)に登(のぼ)つた奴(やつ)は友彦(ともひこ)と云(い)ふ、197それはそれは恐(おそ)ろしい、198人(ひと)を騙(だま)して金(かね)を奪(と)り、199嬶盗人(かかぬすびと)をやつた悪(わる)い悪(わる)い男(をとこ)だよ。200そして後(あと)から上(のぼ)つた細長(ほそなが)い猿(さる)の様(やう)な男(をとこ)はスマートボールと云(い)ふ、201最前(さいぜん)行(い)つた蜈蚣姫(むかでひめ)の乾児(こぶん)の中(なか)でも一番(いちばん)意地(いぢ)くねの悪(わる)い代物(しろもの)だ。202三番目(さんばんめ)に登(のぼ)つた奴(やつ)は神(かみ)でも何(なん)でもない。203自転倒(おのころ)島(じま)の宇都山(うづやま)の里(さと)に、204蚯蚓切(みみずき)りの蛙飛(かへると)ばしを商売(しやうばい)にする、205田吾作(たごさく)と云(い)ふ男(をとこ)だ。206如何(いか)に盲(めくら)千(せん)人(にん)の世(よ)の中(なか)だと云(い)うても、207取違(とりちが)ひするにも程(ほど)がある。208此(この)中(なか)で一番(いちばん)尊(たふと)い御(お)方(かた)は日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)たる此(この)高姫(たかひめ)だよ、209取(と)り違(ちが)ひをするな』
210と癇癪声(かんしやくごゑ)を張(は)り上(あ)げながら、211自分(じぶん)の鼻先(はなさき)をチヨンと押(おさ)へて見(み)せたれど土人(どじん)には何(なん)の事(こと)か一(ひと)つも通(つう)ぜず、212歯脱(はぬ)け婆(ばば)が気(き)を焦(いら)つて、213尻(しり)をかまされた腹立紛(はらだちまぎ)れに怒鳴(どな)つて居(を)るのだ位(くらゐ)に解(かい)され居(ゐ)たり。214一同(いちどう)の土人(どじん)は高姫(たかひめ)に向(むか)ひ、215両手(りやうて)の食指(ひとさしゆび)を突(つ)き出(だ)し、216左右(さいう)の指(ゆび)を交(かは)る交(がは)る鼻(はな)の前(まへ)に突出(つきだ)し、217しやくつて見(み)せたり。218高姫(たかひめ)も何事(なにごと)か訳(わけ)が分(わか)らず、219同(おな)じやうに今度(こんど)は指(ゆび)を外向(そとむ)けにして、220水田(みづた)の中(なか)を熊手(くまで)で掘(ほ)るやうに空中(くうちう)を掻(か)いて見(み)せる。221其(その)スタイルは蟷螂(かまきり)の怒(おこ)つた時(とき)の様子(やうす)に似(に)たりける。222数十(すうじふ)人(にん)の土人(どじん)は何故(なにゆゑ)か一度(いちど)に頭(かしら)を大地(だいち)につけたり。223高姫(たかひめ)は調子(てうし)に乗(の)つて幾回(いくくわい)となく空中(くうちう)を掻(か)く。224樹上(じゆじやう)の友彦(ともひこ)は又(また)もや、
225友彦『エツポツポー エツポツポー、226パーパーチクリン、227パーチクリン、228ポコポコペンノポコポコペン、229ペンポコペンポコ、230チンタイタイ』
231と叫(さけ)べば、232一同(いちどう)はムクムクと頭(あたま)を上(あ)げ、233日(ひ)に焦(や)けた真黒(まつくろ)な腕(うで)をニウと前(まへ)に出(だ)し、234一斉(いつせい)に高姫(たかひめ)に向(むか)つて突(つ)きかかり来(く)る。235此(この)時(とき)玉治別(たまはるわけ)は樹上(じゆじやう)より、
236玉治別『エイムツエイムツ、237ツウツウター』
238と叫(さけ)ぶ。239一同(いちどう)は俄(にはか)に腕(うで)をすくめ、240力(ちから)無(な)げに又(また)元(もと)の座(ざ)に平伏(へいふく)し、241樹上(じゆじやう)の三(さん)人(にん)に向(むか)つて合掌(がつしやう)し、242何事(なにごと)か声低(こゑびく)に祈(いの)り居(ゐ)る。
243 暫(しばら)くありて玉能姫(たまのひめ)は、244蜈蚣姫(むかでひめ)と共(とも)に初稚姫(はつわかひめ)を中(なか)に置(お)き、245後前(あとさき)を警固(けいご)しながら数多(あまた)の土人(どじん)に送(おく)られて、246大樹(たいじゆ)の下(もと)に引(ひ)き返(かへ)し来(きた)りぬ。247玉治別(たまはるわけ)は調子(てうし)に乗(の)つて口(くち)から出任(でまか)せに、
248玉治別『ダールダール、249ネースネース、250ツツーテクテクテレリントン、251ニウジイランドテテーポーポー、252ツツーポーポ、253タターポーポー、254エーポーポー、255エーツクエーツク、256エーポーポー、257エーツクエーツク、258エーテイテイ』
259と叫(さけ)ぶや否(いな)や、260土人(どじん)の大多数(だいたすう)は蜘蛛(くも)の子(こ)を散(ち)らすが如(ごと)く此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)りにける。261玉能姫(たまのひめ)は樹上(じゆじやう)を見上(みあ)げながら、
262玉能姫『玉治別(たまはるわけ)さま、263スマートボールさま、264早(はや)く下(お)りて下(くだ)さい、265玉能姫(たまのひめ)は一(ひと)つ島(じま)に往(ゆ)かねばなりますまい。266サア早(はや)く早(はや)く』
267と手招(てまね)きするにぞ、268三(さん)人(にん)は此(この)声(こゑ)に応(おう)じて、269ずるずると樹下(じゆか)に苦(く)もなく下(くだ)り来(き)たりぬ。270暫(しばら)くありて土人(どじん)は満艦飾(まんかんしよく)を施(ほどこ)したる立派(りつぱ)な船(ふね)を一艘(いつそう)と、271其(その)他(た)に堅固(けんご)なる船(ふね)十数艘(じふすうそう)を率(ひき)ゐ来(きた)り、272中(なか)には至(いた)つて見苦(みぐる)しき泥船(どろふね)一艘(いつそう)を交(ま)ぜて居(ゐ)た。273最(もつと)も麗(うるは)しき船(ふね)に玉能姫(たまのひめ)、274初稚姫(はつわかひめ)、275蜈蚣姫(むかでひめ)を丁寧(ていねい)に寄(よ)つて集(たか)つて舁(かつ)ぎながら、276恭(うやうや)しく乗(の)せた。277玉治別(たまはるわけ)は我(わが)乗(の)り来(きた)りし船(ふね)に、278スマートボール、279友彦(ともひこ)と三(さん)人(にん)分乗(ぶんじやう)した。280久助(きうすけ)、281お民(たみ)は土人(どじん)と共(とも)に麗(うるは)しき船(ふね)に乗(の)せられた。282チヤンキー、283モンキー及(およ)び高姫(たかひめ)は泥船(どろぶね)に無理(むり)に捻込(ねぢこ)まれ、284艫(ろ)を漕(こ)ぎながら、285数百(すうひやく)人(にん)の土人(どじん)は大船(おほぶね)に満乗(まんじやう)して、286一(ひと)つ島(じま)目蒐(めが)けて送(おく)つて行(ゆ)く。287高姫(たかひめ)は不平(ふへい)で堪(たま)らず、288種々(いろいろ)と言葉(ことば)を尽(つく)して……日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)を最(もつと)も立派(りつぱ)な船(ふね)に乗(の)せるのが至当(したう)だ、289玉能姫(たまのひめ)ナンカは普通(ふつう)の船(ふね)でよい……と身(み)を踠(もが)いて喋(しやべ)り立(た)てたが、290土人(どじん)には一向(いつかう)言葉(ことば)も通(つう)じないと見(み)えて、
291土人『エツポツポー エツポツポー、292パーパーチツク、293パーチツク』
294と云(い)ひながら、295一(ひと)つ島(じま)目蒐(めが)けて進(すす)み行(ゆ)く。296玉治別(たまはるわけ)は船中(せんちう)にて宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ初(はじ)めたり。
297玉治別『コーツーコーツーオーリンス
298セイセイオウオウオウセンス
299チーサーオーサーツウツクリン
300コモトヨコモト、カンツクリン
301ターツーテーツーテーリンス
302ノウミス ノウミス ヨーリンス
303メースヤーツノーブクリン』
304と歌(うた)ひ出(だ)しぬ。305土人(どじん)は此(この)声(こゑ)に随喜(ずいき)の涙(なみだ)を澪(こぼ)し、306手(て)を拍(う)つて合掌(がつしやう)したり。307この意味(いみ)は、
308『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて、309善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)ける、310此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)、311心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)、312唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は、313直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞(き)き直(なほ)せ、314身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)せ』
315と云(い)ふ宣伝歌(せんでんか)の直訳(ちよくやく)なり。316玉治別(たまはるわけ)は此(この)島(しま)の神霊(しんれい)に感(かん)じ、317俄(にはか)に南洋(なんやう)の語(ご)を感得(かんとく)したるなりき。318其(その)他(た)の一同(いちどう)も、319残(のこ)らず此(この)島(しま)に上陸(じやうりく)して神霊(しんれい)に感(かん)じ用語(ようご)を悟(さと)りぬ。320されど我慢(がまん)にして猜疑心(さいぎしん)深(ふか)き高姫(たかひめ)には、321一語(いちご)も神(かみ)より言葉(ことば)を与(あた)へ給(たま)はざりしなり。322船中(せんちう)は残(のこ)らず南洋語(なんやうご)で持(も)ち切(き)り、323恰(あたか)も燕(つばくろ)の巣(す)の如(ごと)く「チーチーパーパー、324キウキウ」の声(こゑ)に満(み)たされ、325漸(やうや)くにして一(ひと)つ島(じま)のタカ(テーク)の港(みなと)に無事(ぶじ)上陸(じやうりく)したりける。
326 土人(どじん)の中(なか)にても最(もつと)も羽振(はぶり)の利(き)いた酋長(しうちやう)のカーチヤンは、327二三(にさん)人(にん)の供人(ともびと)と共(とも)に辛(から)うじて港(みなと)に上陸(じやうりく)するや否(いな)や、328黄竜姫(わうりようひめ)の鎮(しづ)まる王城(わうじやう)の都(みやこ)を指(さ)して、329蜈蚣姫(むかでひめ)一行(いつかう)の到着(たうちやく)を報告(はうこく)すべく、330一目散(いちもくさん)に島内(たうない)深(ふか)く姿(すがた)を隠(かく)しけり。
331 初稚姫(はつわかひめ)、332玉能姫(たまのひめ)、333蜈蚣姫(むかでひめ)は土人(どじん)の手車(てぐるま)に乗(の)せられて、334之(これ)を舁(かつ)ぐやうな体裁(ていさい)で、335「エツサアサア エツサアサア」と云(い)ひながら都(みやこ)をさして送(おく)られて行(ゆ)く。336玉治別(たまはるわけ)は驢馬(ろば)に跨(また)がり、337友彦(ともひこ)其(その)他(た)を従(したが)へ悠々(いういう)として土人(どじん)の一隊(いつたい)に守(まも)られ進(すす)み行(ゆ)く。338高姫(たかひめ)は非常(ひじやう)の侮辱(ぶじよく)と虐待(ぎやくたい)を受(う)けながら意気(いき)銷沈(せうちん)の体(てい)にて、339恨(うら)めしげにとぼとぼと、340どん後(あと)から随従(つい)て往(ゆ)く。341往(ゆ)く事(こと)数十丁(すうじつちやう)、342前方(ぜんぱう)より麗(うるは)しき輿(こし)を舁(かつ)ぎ、343騎馬(きば)の兵士(つはもの)数十(すうじふ)人(にん)、344前後(ぜんご)につき添(そ)ひ、345威風(ゐふう)堂々(だうだう)として来(きた)る真先(まつさき)に立(た)てる勝(すぐ)れて背(せ)の高(たか)い男(をとこ)、346馬上(ばじやう)より、
347ブランジー『我(われ)こそは黄竜姫(わうりようひめ)の宰相(さいしやう)、348ブランジーと申(まを)すもの、349今日(けふ)は女王(ぢよわう)の御(おん)母上(ははうへ)蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)御(ご)来臨(らいりん)と承(うけたま)はり、350これ迄(まで)お迎(むか)ひのため罷(まか)り越(こ)したり。351……サア蜈蚣姫(むかでひめ)様(さま)、352この輿(こし)にお乗(の)り下(くだ)さいませ』
353とすすむるにぞ、354蜈蚣姫(むかでひめ)は意外(いぐわい)の待遇(たいぐう)に嬉(うれ)しさ余(あま)つて言葉(ことば)も得出(えだ)さず差俯(さしうつ)むき居(ゐ)る。355群衆(ぐんしう)は何(なん)の容赦(ようしや)もなく手車(てぐるま)の儘(まま)輿(こし)の傍(そば)に近(ちか)づき、356御輿(みこし)の戸(と)を開(あ)けて、357蜈蚣姫(むかでひめ)を乗(の)らしめたり。358初稚姫(はつわかひめ)、359玉能姫(たまのひめ)は土人(どじん)の手車(てぐるま)に乗(の)りしまま輿(こし)の後(あと)に従(したが)ひ行(ゆ)く。
360 行(ゆ)く事(こと)数十丁(すうじつちやう)、361忽(たちま)ち黄竜姫(わうりようひめ)の城内(じやうない)に一同(いちどう)迎(むか)へ入(い)れられ、362御輿(みこし)は玄関(げんくわん)の前(まへ)に据(す)ゑられける。363此(この)時(とき)黄竜姫(わうりようひめ)はクロンバーを従(したが)へ玄関(げんくわん)に立(た)ち現(あら)はれ、364輿(こし)より出(い)づる蜈蚣姫(むかでひめ)の手(て)を取(と)り、365嬉(うれ)し涙(なみだ)を湛(たた)へながら奥(おく)深(ふか)く姿(すがた)を匿(かく)しけり。366クロンバーは玄関(げんくわん)に佇(たたず)み、367一行(いつかう)の姿(すがた)を見(み)やりながら、
368クロンバー『ヤアお前(まへ)はお節(せつ)ぢやないか。369お初(はつ)、370何(なん)ぢや偉(えら)さうに手車(てぐるま)に乗(の)つて……慢神(まんしん)するにも程(ほど)がある。371ヤア田吾作(たごさく)、372スマートボールに鼻(はな)の先(さき)の赤(あか)い男(をとこ)、373ヤア何(なん)とした今日(けふ)は怪態(けつたい)な日(ひ)だらう。374高山(たかやま)さまも高山(たかやま)さまだ、375なぜコンナ代物(しろもの)を迎(むか)へ入(い)れたのだらう……それにつけても高姫(たかひめ)さま、376酷(きつ)い事(こと)を仰有(おつしや)つて私(わたし)を追(お)ひ出(だ)しなさつたが、377嘸(さぞ)や今頃(いまごろ)は心細(こころぼそ)く思(おも)うて居(ゐ)なさるだらう、378アヽお哀憫(いと)しい。379コンナ連中(れんちう)に遭(あ)ふのも嫌(いや)だが、380高姫(たかひめ)さまに何(ど)うかして一目(ひとめ)遭(あ)ひたいものだ』
381と独(ひと)り呟(つぶや)き居(ゐ)る。382玉能姫(たまのひめ)、383初稚姫(はつわかひめ)はクロンバーに向(むか)ひ、
384初稚姫『ヤア貴女(あなた)は三五教(あななひけう)の黒姫(くろひめ)さまでは御座(ござ)いませぬか、385妾(わたし)は初稚(はつわか)で厶(ござ)います』
386黒姫『ハイ、387左様(さやう)で御座(ござ)います。388世間(せけん)は広(ひろ)いもの、389自転倒(おのころ)島(じま)に居(を)つて、390皆(みな)さまに笑(わら)はれ譏(そし)られ、391邪魔(じやま)計(ばか)りしられて居(を)りましては真実(ほんと)の神力(しんりき)が出(で)ませぬが、392此(この)広(ひろ)い島(しま)に渡(わた)つて来(き)て自由(じいう)自在(じざい)に神力(しんりき)を発揮(はつき)し、393今(いま)では此(この)通(とほ)り立派(りつぱ)な一国(いつこく)の宰相(さいしやう)の北(きた)の方(かた)となりました。394お前(まへ)さまは矢張(やつぱり)言依別(ことよりわけの)命(みこと)について自転倒(おのころ)島(じま)を宣伝(せんでん)に廻(まは)り、395失敗(しつぱい)の結果(けつくわ)、396又(また)ボロイ事(こと)があらうかと思(おも)つて、397南洋(なんやう)三界(さんかい)迄(まで)彷徨(さまよ)うて来(き)なさつたのだな。398ウンよしよし、399世界(せかい)に鬼(おに)は無(な)い。400改心(かいしん)さへ出来(でき)れば黒姫(くろひめ)が助(たす)けて上(あ)げよう。401窮鳥(きうてう)懐(ふところ)に入(い)れば猟師(れふし)も之(これ)を取(と)らずと云(い)ふ事(こと)がある。402もうかうなつては今迄(いままで)のやうに我(が)を張(は)らずに、403お節(せつ)……ハイ、404……お初(はつ)……ハイ……と云(い)うて黒姫(くろひめ)に絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)をなさるのが身(み)の為(た)めぢやぞエ。405……お前(まへ)は田吾作(たごさく)ぢやないか。406矢張(やつぱり)周章者(あわてもの)は周章者(あわてもの)ぢや。407自転倒(おのころ)島(じま)ではもう相手(あひて)が無(な)くなつたかや。408オホヽヽヽ、409気(き)の毒(どく)な事(こと)いのう』
410 玉治別(たまはるわけ)は余(あま)りの侮辱(ぶじよく)にむツとしたが、411堪忍袋(かんにんぶくろ)を押(おさ)へて素知(そし)らぬ顔(かほ)にて笑(わら)ひ居(ゐ)る。412ブランジーの高山彦(たかやまひこ)は馬(うま)に跨(また)がり乍(なが)ら、
413高山彦『ヤアヤア数多(あまた)の人々(ひとびと)、414遥々(はるばる)御(ご)苦労(くらう)なりしよ。415城(しろ)の馬場(ばんば)に沢山(たくさん)の酒肴(しゆかう)の用意(ようい)もしてあらば、416自由(じいう)自在(じざい)に飲(の)み食(く)ひしてお帰(かへ)り下(くだ)さい』
417 群衆(ぐんしう)はウローウローと云(い)ひながら、418雪崩(なだれ)を打(う)つて城門(じやうもん)を駆出(かけだ)し、419広(ひろ)き馬場(ばんば)に列(なら)べられたる酒肴(さけさかな)に舌鼓(したつづみ)をうち、420酔(ゑひ)が廻(まは)るに連(つ)れて唄(うた)ひ舞(ま)ひ、421踊(をど)り狂(くる)ひ、422歓喜(くわんき)の声(こゑ)は天地(てんち)も揺(ゆる)ぐ許(ばか)りなり。
423 高姫(たかひめ)は悄々(しほしほ)として、424漸(やうや)く玄関(げんくわん)に現(あらは)れ来(きた)り、425黒姫(くろひめ)の姿(すがた)を見(み)るより、426矢庭(やには)に飛(と)び込(こ)み獅噛(しが)みつき、
427高姫『アヽ貴女(あなた)は黒姫(くろひめ)様(さま)、428お久(ひさ)しう御座(ござ)います』
429 また黒姫(くろひめ)は、
430黒姫『アヽ貴女(あなた)は高姫(たかひめ)様(さま)、431会(あ)ひたかつた、432懐(なつ)かしや』
433と他所(よそ)の見(み)る目(め)も憚(はばか)らず、434互(たがひ)に抱(いだ)きつき嬉(うれ)し涙(なみだ)に掻(か)き曇(くも)る。
435 高山彦(たかやまひこ)は馬(うま)を乗(の)り捨(す)て其(その)場(ば)に現(あら)はれ、
436高山彦『高姫(たかひめ)さまですか、437私(わたくし)は高山彦(たかやまひこ)ですよ。438ようまア来(き)て下(くだ)さいました』
439と涙(なみだ)含(ぐ)み乍(なが)ら、440二人(ふたり)の手(て)を取(と)り奥(おく)深(ふか)く進(すす)み入(い)る。441玉治別(たまはるわけ)、442初稚姫(はつわかひめ)、443玉能姫(たまのひめ)其(その)他(た)の一同(いちどう)は裏門(うらもん)より密(ひそか)に逃(のが)れ出(い)で、444裏山(うらやま)の森林(しんりん)に姿(すがた)を隠(かく)し息(いき)を休(やす)め居(ゐ)たりける。
445(大正一一・七・三 旧閏五・九 加藤明子録)
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