霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 二教(にけう)対立(たいりつ)〔九八九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻 篇:第1篇 天意か人意か よみ(新仮名遣い):てんいかじんいか
章:第1章 二教対立 よみ(新仮名遣い):にきょうたいりつ 通し章番号:989
口述日:1922(大正11)年09月21日(旧08月1日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
アジア大陸の西南端に突出した熱帯の月の国は、後世にはこれを天竺といい、今は印度をいっている。この国の東南端にある大孤島をシロの島といい、現代では錫蘭島と呼ばれ、仏教の始祖釈迦如来が誕生した由緒深い島である。
釈迦はこの島から仏教をインド、チベット、ベトナム、タイ、中国、朝鮮と東漸して、ついに自転倒島の日本までその勢力を及ぼしたのである。
シロとは、シは磯輪垣の約であり、四方を水に囲まれた天然の要害として垣に囲まれているという意味である。ロは国主があり人民があり、独立的な土地であり、城郭を構えて王者が治めるという意味である。
神代の昔からこの島は非常に人文が発達し、エルサレムについでの文明国であった。それゆえに、これをシロの島というのである。シロの別の意味としては、「知る」の転訛であり、天かをしろしめす王者の居る島ということである。
シロの島は後世、釈迦が現れて仏教を興すまではバラモン教の勢力の中心となっていた。後世のバラモン教は、生まれながらに階級を決めてしまい、大自在天の頭から生まれたという貴族はいたずらに徒食し、これを神の真理と誤信するに至ってしまった。
釈迦はこの国のある一孤島の浄飯王という王者の子として生まれ、悉達太子といった。バラモン教の不公平・不道理を打破して万民を平等に天の恵みに浴せしめんと仏教を創立したのであった。
この釈迦は、神素盞嗚大神の和魂である大八洲彦命、後にいう月照彦神が再生した者であることは、霊界物語の第六巻に示したとおりである。
地球が大傾斜する以前は、この島は今のような熱帯ではなかった。気候は中和を得てきわめて暮らし良い温帯の位置を占めていた。しかし釈迦が生まれた時代にはすでに赤道直下に間近くなっていた。
神素盞嗚大神の八女の第七の娘・君子姫は、侍女の清子姫と共に顕恩郷を出た後バラモン教の釘彦一派に捕えられ、半ば破れた舟に乗せられて大海に放逐された。
君子姫は侍女と共に激浪怒涛を渡り、ようやくにしてシロの島のドンドラ岬に漂着した。そしてかつて友彦が小糸姫とともに隠れた神館を尋ねて進んで行くことになった。
友彦の神館から数里隔てたところに神地の都があった。ここはサガレン王とケールス姫が館を構えて島国のほとんど七分を統括していた。サガレン王はバラモン教を奉じ、妃のケールス姫はウラル教を奉じていた。
都の南方に風景よき小高い丘陵があった。サガレン王に仕えている役人の男たちが休暇でここに蓮の花見に来ていた。男たちの噂話によれば、館の中はバラモン教派とウラル教派に分かれて殺伐としているということである。
またケールス姫はウラル教の神司・竜雲を寵愛し、王よりも尊崇しているという。竜雲は神変不可思議の術を使うと恐れられており、館の中に一大勢力を張って重臣の奥方もたぶらかしているという噂であった。
バラモン教でサガレン王派のユーズとシルレングは竜雲の所業に憤慨し、なんとか排除しようと画策するが、ベールは竜雲のスパイとして二人の魂胆を暴こうとしていた。
ユーズとシルレングは、ベールの言動から彼が竜雲の配下であることを悟り、自分たちのたくらみが露見してはたいへんと組みついた。三人は格闘するうちに蓮池の中に落ち込んでしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-03 11:54:33 文字数:3718 OBC :rm3601
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第6輯 585頁 修補版: 校定版:7頁 普及版:2頁 初版: ページ備考:
001 亜細亜(アジア)大陸(たいりく)の西南端(せいなんたん)に突出(とつしゆつ)したる熱帯(ねつたい)の月(つき)の国(くに)は、002後世(こうせい)これを天竺(てんぢく)と称(とな)へ、003今(いま)は印度(いんど)と云(い)ふ。004此(この)国(くに)の東南端(とうなんたん)の海中(かいちう)に浮(うか)び出(い)でたる大孤島(だいこたう)はシロの島(しま)といふ。005現代(げんだい)にては錫蘭島(セイロンたう)と称(とな)へられて、006仏教(ぶつけう)の始祖(しそ)釈迦(しやか)如来(によらい)が誕生(たんじやう)したる由緒(ゆいしよ)深(ふか)き島(しま)である。
007 釈迦(しやか)は此(この)島(しま)より仏教(ぶつけう)を008[※初版・三版・愛世版では「仏教を西蔵」だが、校定版・八幡版では「印度」を付け加え「仏教を、印度、西蔵」に直している。]009西蔵(チベツト)、010安南(あんなん)、011シヤム、012支那(しな)、013朝鮮(てうせん)と、014其(その)教勢(けうせい)東漸(とうぜん)して、015遂(つひ)に自転倒(おのころ)島(じま)の我(わが)日本国(にほんこく)にまで、016其(その)勢力(せいりよく)を及(およ)ぼしたのである。017仏教(ぶつけう)は概(がい)して、018有色(いうしよく)人種(じんしゆ)の宗教(しうけう)となつてゐる。019之(これ)に反(はん)してキリスト教(けう)は、020大部分(だいぶぶん)白色(はくしよく)人種(じんしゆ)の宗教(しうけう)となつてゐる。021土耳古(トルコ)、022希臘(ギリシヤ)の如(ごと)きコーカス人種(じんしゆ)も亦(また)、023仏教(ぶつけう)の感化(かんくわ)を受(う)けたこと最(もつと)も大(だい)なるものがあつた。
024 シロの島(しま)といふ意義(いぎ)はシは磯輪垣(しわがき)の約(つづま)りである。025シワ垣(がき)とは四方(しはう)水(みづ)を以(もつ)て天然(てんねん)の要害(えうがい)となし、026垣(かき)を作(つく)られてゐるといふ意味(いみ)である。027ロといふ言霊(ことたま)の意義(いぎ)は、028国主(こくしゆ)あり人民(じんみん)あり、029そして独立(どくりつ)的(てき)土地(とち)を有(いう)し、030城廓(じやうくわく)を構(かま)へて王者(わうじや)の治(をさ)むるといふ事(こと)である。031神代(じんだい)の昔(むかし)より此(この)島(しま)は非常(ひじやう)に人文(じんぶん)が発達(はつたつ)してゐた。032エルサレムに次(つ)いでの神代(じんだい)に於(お)ける文明国(ぶんめいこく)であつた。033故(ゆゑ)に之(これ)をシロの島(しま)といふ。034又(また)シロといふ別(べつ)の意味(いみ)はシロは知(し)るの転訛(てんくわ)にて、035天下(てんか)をしろしめす王者(わうじや)の居(ゐ)ます島(しま)といふことである。
036 序(ついで)に島(しま)といふのはシは水(みづ)であり、037マは廻(めぐ)る言霊(げんれい)である。038故(ゆゑ)に古(いにしへ)は島(しま)には人(ひと)の家(いへ)もなく、039又(また)人類(じんるゐ)の棲息(せいそく)せざりしものの称(とな)へであつた。040然乍(しかしながら)此(この)物語(ものがたり)にも高砂島(たかさごじま)、041筑紫島(つくしじま)、042自転倒(おのころ)島(じま)などと島(しま)の名義(めいぎ)を以(もつ)て呼(よ)んでゐるのは、043此(この)言霊(ことたま)の意義(いぎ)より言(い)へば実(じつ)に矛盾(むじゆん)せし如(ごと)く聞(きこ)ゆるであらう。044さり乍(なが)ら、045今日(こんにち)の称呼(しようこ)上(じやう)分(わか)り易(やす)きを尊(たつと)んで、046現代(げんだい)的(てき)に島(しま)と称(とな)へた迄(まで)である。047其(その)実(じつ)はシロといつた方(はう)が適当(てきたう)なのである。
048 我(わが)国(くに)の武家(ぶけ)が頭(あたま)を上(あ)げてから、049各地(かくち)に群雄(ぐんゆう)割拠(かつきよ)し、050各自(かくじ)に居城(きよじやう)を作(つく)り、051其(その)武威(ぶゐ)を誇(ほこ)つた其(その)城廓(じやうくわく)及(およ)び境域(きやうゐき)を総称(そうしよう)して城(しろ)といつたのも、052館(やかた)の周囲(しうゐ)に堀(ほり)を穿(うが)ち、053水(みづ)をめぐらしたから城(しろ)というたのである。054偶(たま)には山(やま)の上(うへ)に館(やかた)を建(た)てて城(しろ)と呼(よ)んでゐる変則(へんそく)的(てき)のものもあつた。055故(ゆゑ)に之(これ)を特(とく)に山城(やましろ)といつて、056山(やま)の字(じ)を冠(くわん)してゐたのである。057又(また)島(しま)といふ字(じ)は漢字(かんじ)で山扁(やまへん)に鳥(とり)を書(か)き、058又(また)山冠(やまかんむり)に鳥(とり)を書(か)いてシマと読(よ)ましてあるのは、059海島(うみじま)に数多(あまた)の鳥族(てうぞく)が棲息(せいそく)してゐたからである。060筑紫(つくし)の島(しま)とか、061オーストラリア島(たう)とかいふのは、062三水扁(さんずゐへん)に州(しう)と書(か)いて、063現代(げんだい)用(もち)ゐて居(ゐ)る。064之(これ)は字義(じぎ)の上(うへ)からは最(もつと)も適当(てきたう)な称呼(しようこ)である。065此(この)シロの島(しま)は後世(こうせい)、066釈迦(しやか)が現(あら)はれて、067仏教(ぶつけう)を起(おこ)す迄(まで)は、068殆(ほとん)どバラモン教(けう)の勢力(せいりよく)の中心(ちうしん)となつて居(ゐ)たのである。069後世(こうせい)のバラモン教(けう)は、070すべての人間(にんげん)は大自在天(だいじざいてん)の頭(あたま)より生(うま)れた種族(しゆぞく)と、071胴(どう)から生(うま)れた種族(しゆぞく)と、072足(あし)から生(うま)れた種族(しゆぞく)と三種(さんしゆ)あるといふ教理(けうり)が、073深(ふか)く国人(くにびと)の脳髄(なうずゐ)に浸(し)み込(こ)み、074頭(あたま)より生(うま)れたりと称(しよう)する種族(しゆぞく)は所謂(いはゆる)此(この)国(くに)の貴族(きぞく)にして、075人民(じんみん)の頭(かしら)に立(た)ち、076遊逸(いういつ)徒食(としよく)にのみ耽(ふけ)り乍(なが)ら、077之(これ)を惟神(かむながら)の真理(しんり)と誤信(ごしん)してゐたのである。078又(また)大自在天(だいじざいてん)の胴(どう)から生(うま)れた階級人(かいきふじん)は、079すべて人民(じんみん)の上(うへ)に立(た)ち、080政治(せいぢ)を行(おこな)ふ治者(ちしや)の地位(ちゐ)にあつた。081又(また)足(あし)から生(うま)れたと称(しよう)せらるる階級(かいきふ)に属(ぞく)する民族(みんぞく)は、082営々(えいえい)兀々(こつこつ)として朝暮(てうぼ)勤労(きんらう)に服(ふく)し、083上級(じやうきふ)民族(みんぞく)の殆(ほとん)ど衣食住(いしよくぢゆう)の生産(せいさん)機関(きくわん)たるの観(くわん)をなして居(ゐ)た。
084 釈迦(しやか)は此(この)国(くに)の或(ある)一孤島(いちこたう)の浄飯王(じやうぼんわう)といふ王者(わうじや)の子(こ)と生(うま)れ、085悉達(しつた)太子(たいし)といつた。086彼(かれ)は此(この)バラモン教(けう)の不公平(ふこうへい)、087不道理(ふだうり)なる習慣(しふくわん)を打破(だは)して、088万民(ばんみん)を平等(べうどう)に、089天(てん)の恵(めぐみ)に浴(よく)せしめむと思(おも)ひ立(た)ち、090自他(じた)平等(べうどう)の教理(けうり)を樹立(じゆりつ)し、091生老(しやうらう)病死(びやうし)の四苦(しく)を救(すく)はむとして、092彼(か)の仏教(ぶつけう)なるものを創立(さうりつ)したのであつた。093そして此(この)釈迦(しやか)は、094神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の和魂(にぎみたま)、095大八洲彦(おほやしまひこの)命(みこと)、096後(のち)には月照彦(つきてるひこの)神(かみ)の再生(さいせい)せし者(もの)たることは、097霊界(れいかい)物語(ものがたり)第六(だいろく)巻(くわん)に示(しめ)したる通(とほ)りである。
098 地球(ちきう)の大傾斜(だいけいしや)せしより以前(いぜん)は、099今(いま)の如(ごと)く余(あま)りの熱帯(ねつたい)ではなかつた。100気候(きこう)中和(ちうわ)を得(え)、101極(きは)めて暮(くら)しよき温帯(おんたい)に位置(ゐち)を占(し)めて居(ゐ)たのである。102併(しか)し釈迦(しやか)の生(うま)れたる時代(じだい)は、103すでに赤道(せきだう)直下(ちよくか)に間近(まぢか)き島国(しまぐに)となつて居(ゐ)たのである。104印度(いんど)は言(い)ふに及(およ)ばず、105此(この)錫蘭島(セイロンたう)の住民(ぢゆうみん)は何(いづ)れも色(いろ)黒(くろ)く、106少(すこ)しく黄味(きみ)を帯(お)びたやうな膚(はだ)をして居(ゐ)た。
107 神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の八人(やたり)乙女(おとめ)の第七(だいしち)の娘(むすめ)、108君子姫(きみこひめ)は侍女(じぢよ)の清子姫(きよこひめ)と共(とも)にバラモン教(けう)の本山(ほんざん)メソポタミヤの顕恩城(けんおんじやう)を後(あと)にして、109フサの国(くに)にて三五教(あななひけう)の宣伝(せんでん)に従事(じうじ)せむとする折(をり)しも、110バラモン教(けう)の釘彦(くぎひこ)の一派(いつぱ)に捉(とら)へられ、111姉妹(しまい)五(ご)人(にん)は何(いづ)れも半(なかば)破(やぶ)れし舟(ふね)に乗(の)せられて波(なみ)のまにまに放逐(はうちく)されたのである。112君子姫(きみこひめ)は侍女(じぢよ)と共(とも)に激浪(げきらう)怒濤(どたう)を渡(わた)り、113漸(やうや)くにしてシロの島(しま)のドンドラ岬(みさき)に漂着(へうちやく)し、114それより夜(よ)を日(ひ)についで、115先年(せんねん)友彦(ともひこ)が小糸姫(こいとひめ)と共(とも)に隠(かく)れゐたる、116神館(かむやかた)を尋(たづ)ねて進(すす)み行(ゆ)くこととなつた。
117 此(この)神館(かむやかた)より数(すう)里(り)を隔(へだ)てて神地(かうぢ)の都(みやこ)といふがあつた。118此処(ここ)にはサガレン王(わう)、119ケールス姫(ひめ)の二人(ふたり)が館(やかた)を構(かま)へ、120此(この)島国(しまぐに)の殆(ほとん)ど七分(しちぶ)許(ばか)りを統轄(とうかつ)して居(ゐ)た。121そしてサガレン王(わう)はバラモン教(けう)を奉(ほう)じ、122其(その)妃(ひ)のケールス姫(ひめ)はウラル教(けう)を奉(ほう)じて居(ゐ)た。
123 此(この)国(くに)の人々(ひとびと)の言葉(ことば)は残(のこ)らずサンスクリツトを用(もち)ふるは言(い)ふまでもない。124されど口述者(こうじゆつしや)は一般(いつぱん)の読者(どくしや)に諒解(りやうかい)し易(やす)からしむる為(ため)、125成(な)る可(べ)く日本語(にほんご)を以(もつ)て、126述(の)べることとしておく。
127 神地(かうぢ)の都(みやこ)の少(すこ)しく南方(なんぱう)に、128娑羅(さら)双樹(さうじゆ)の密生(みつせい)したる小高(こだか)き風景(ふうけい)よき丘陵(きうりよう)がある。129そこに二三(にさん)の中流(ちうりう)階級(かいきふ)と覚(おぼ)しき黒(くろ)い面(かほ)の男(をとこ)が、130展開(てんかい)したる原野(げんや)の中(なか)に点々(てんてん)として咲(さ)き乱(みだ)れて居(ゐ)る白蓮華(びやくれんげ)を眺(なが)めて、131酒(さけ)汲(く)みかはし、132雑談(ざつだん)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。133一人(ひとり)はシルレングといひ、134一人(ひとり)はユーズと云(い)ひ、135も一人(ひとり)の男(をとこ)はベールといふ。136何(いづ)れもサガレン王(わう)に仕(つか)へて居(ゐ)る一部(いちぶ)の役人(やくにん)であつた。137今日(けふ)は休暇(きうか)を賜(たま)はつて、138ここに蓮(はす)の花見(はなみ)をすべく、139一(いち)日(にち)の清遊(せいいう)を試(こころ)みて居(ゐ)たのである。
140シルレング『オイ、141サガレン王(わう)様(さま)も本当(ほんたう)にお気(き)の毒(どく)ではないか。142あれ丈(だけ)好(す)きなバラモン教(けう)を公然(こうぜん)と祀(まつ)ることも出来(でき)ず、143ケールス姫(ひめ)様(さま)がウラル教(けう)だから、144姫(ひめ)の方(はう)の勢力(せいりよく)が旺盛(わうせい)になり、145館(やかた)の内(うち)は何時(いつ)とはなしに、146信仰(しんかう)争(あらそ)ひで、147何(なん)ともいへぬ殺伐(さつばつ)で冷(つめ)たい空気(くうき)が漂(ただよ)うて居(ゐ)るやうだ。148王(わう)様(さま)もさぞ不愉快(ふゆくわい)な事(こと)であらう。149何(なん)とかして吾々(われわれ)の奉(ほう)ずるバラモン教(けう)に立替(たてか)へたいものだなア。150王(わう)様(さま)計(ばか)りか、151吾々(われわれ)共(ども)も本当(ほんたう)に不愉快(ふゆくわい)で、152政務(せいむ)も碌(ろく)に執(と)る気(き)にならないぢやないか』
153ユーズ『何(なに)を言(い)つても、154ケールス姫(ひめ)様(さま)がウラル教(けう)の神司(かむつかさ)竜雲(りううん)を殊(こと)の外(ほか)寵愛(ちようあい)し、155今(いま)ではサガレン王(わう)様(さま)よりも尊敬(そんけい)して居(ゐ)られるといふ体裁(ていさい)だから、156何(ど)うにも斯(か)うにも仕方(しかた)がないぢやないか、157又(また)あの竜雲(りううん)といふ怪物(くわいぶつ)は、158いろいろと神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の妖術(えうじゆつ)を使(つか)ひ、159ケールス姫(ひめ)を甘(うま)く籠絡(ろうらく)し、160権勢(けんせい)並(なら)ぶものなき今日(こんにち)の有様(ありさま)だから、161ウツカリ斯(こ)んな話(はな)しでも竜雲(りううん)の耳(みみ)へ這入(はい)らうものなら、162それこそ大変(たいへん)だ。163モウ此(この)話(はな)しは打切(うちき)りにしたら如何(どう)だ』
164ベール『ナニ、165どこの牛骨(ぎうこつ)か馬骨(ばこつ)か知(し)れもせぬ風来者(ふうらいもの)の竜雲(りううん)如(ごと)きに、166尻尾(しつぽ)を巻(ま)いてたまるものかい。167おれは何(なん)とかして、168あの怪物(くわいぶつ)を征伐(せいばつ)し、169ケールス姫(ひめ)様(さま)の御(お)目(め)をさましサガレン王(わう)さまの御(ご)安心(あんしん)を得(え)たいと思(おも)うて居(ゐ)る。170これが吾々(われわれ)臣下(しんか)たる者(もの)の、171君(きみ)に尽(つく)すべき最善(さいぜん)の道(みち)だからなア』
172シルレング『時(とき)にあの竜雲(りううん)の奴(やつ)、173左守(さもり)の神(かみ)のタールチン殿(どの)の奥様(おくさま)、174キングス姫(ひめ)と○○関係(くわんけい)があるといふことだが、175お前(まへ)聞(き)いて居(ゐ)るか』
176ベール『聞(き)いて居(ゐ)るとも、177第一(だいいち)夫(そ)れが癪(しやく)に障(さは)るのだ。178それだから、179タールチンさまに、180此(この)間(あひだ)も面会(めんくわい)し、181いろいろと忠告(ちうこく)をしたのだが、182何(なん)といつても、183嬶天下(かかてんか)だから、184タールチンさまの言(い)はれるには……今日(こんにち)飛(と)ぶ鳥(とり)も落(おと)す様(やう)な竜雲(りううん)さまのなさる事(こと)に、185吾々(われわれ)が嘴(くちばし)を容(い)れる場合(ばあひ)でない、186モウそんな事(こと)は今後(こんご)言(い)つてくれな……と箝口令(かんこうれい)を布(し)きよるのだ。187本当(ほんたう)に良(よ)い腰抜(こしぬけ)だなア。188閨閥(けいばつ)関係(くわんけい)を以(もつ)て自分(じぶん)の地位(ちゐ)を保(たも)たうとする、189其(その)卑怯(ひけふ)さ、190実(じつ)に吾々(われわれ)の風上(かざかみ)におくべき代物(しろもの)でないのだ。191何(なん)とかして竜雲(りううん)の面(つら)の皮(かは)を剥(む)いてやる妙案(めうあん)はあろまいかな』
192ユーズ『そりや方法(はうはふ)は幾(いく)らでもある。193併(しか)しながら大事(だいじ)を遂行(すゐかう)せむとする者(もの)は、194軽々(けいけい)に事(こと)を執(と)つてはならない。195先(ま)づ沈思(ちんし)黙考(もくかう)して敵(てき)の虚(きよ)を窺(うかが)ひ、196時節(じせつ)を待(ま)つて決行(けつかう)するのだナア』
197ベール『其(その)決行(けつかう)は如何(どう)するといふのだ』
198ユーズ『オイ、199ベール、200お前(まへ)はそんなこと云(い)つて、201竜雲(りううん)の間者(まはしもの)になつて来(き)て居(ゐ)るのではないか。202どうも目付(めつき)が怪(あや)しいぞ。203自分(じぶん)の方(はう)から竜雲(りううん)の悪口(あくこう)を言(い)つて、204俺(おれ)達(たち)の腹(はら)を探(さぐ)つて居(ゐ)るのだらう。205そんなことの分(わか)らぬユーズさまぢやないぞ』
206ベール『コレは怪(け)しからぬ。207誰(たれ)があんな怪物(くわいぶつ)のお先(さき)に使(つか)はれてなるものかい。208何程(なにほど)ベールの様(やう)に鳴(な)る男(をとこ)でも、209そんな秘密(ひみつ)は言(い)ふことは出来(でき)ないからなア』
210ユーズ『ヤツパリ貴様(きさま)は自白(じはく)しよつたなア。211秘密(ひみつ)をいふ事(こと)が出来(でき)ないとは何(なん)だ。212竜雲(りううん)に頼(たの)まれて俺(おれ)達(たち)の腹(はら)を探(さぐ)らうと、213蓮見物(はすけんぶつ)に事(こと)よせ、214ここまでつれ出(だ)して来(き)よつたに違(ちがひ)あるまい。215サア斯(か)うなる上(うへ)は、216モウ見(み)のがすことは出来(でき)ぬ……オイ、217シルレング、218今(いま)の中(うち)にベール奴(め)を片付(かたづ)けて了(しま)はうぢやないか』
219シルレング『ヨシ、220合点(がつてん)だ』
221といひ乍(なが)ら、222ベールに向(むか)つて武者振(むしやぶり)ついた。223ユーズは後(うしろ)からベールに縄(なは)をかけむと組付(くみつ)く。224さすがのベールも一生(いつしよ)懸命(けんめい)になつて、225二人(ふたり)を相手(あひて)に格闘(かくとう)を始(はじ)め、226三(さん)人(にん)は組(く)んづ組(く)まれつ、227小丘(せうきう)の上(うへ)から麓(ふもと)の蓮池(はすいけ)の中(なか)へ一塊(ひとかたまり)になつて、228ゴロゴロゴロと落(お)ち込(こ)んで了(しま)つた。
229 此(この)時(とき)すでに月(つき)は半(はん)円(ゑん)の姿(すがた)を現(あら)はして頭上(づじやう)に輝(かがや)き始(はじ)めた。230銀河(ぎんが)はエルサレムの方面(はうめん)から印度洋(いんどやう)の彼方(あなた)に清(きよ)く流(なが)れて居(ゐ)る。231颯々(さつさつ)たる風(かぜ)は蓮(はす)の池(いけ)の面(おも)を撫(な)で、232葉(は)のふれて鳴(な)る音(おと)パタパタと聞(きこ)えて居(ゐ)る。233三(さん)人(にん)は泥池(どろいけ)の中(なか)で、234バサリ、235ドブンと音(おと)を立(た)てて泥水(どろみづ)まぶれになつて、236力(ちから)限(かぎ)りに互角(ごかく)の勢(いきほひ)で掴(つか)み合(あ)うて居(ゐ)る。
237 娑羅(さら)双樹(さうじゆ)のこもつた枝(えだ)から、238梟(ふくろ)が『ホウスケホウホウ、239ドロツクドロンボ、240ゴロツトカヤセ、241ボーボー』と鳴(な)き立(た)てて居(ゐ)る。
242(大正一一・九・二一 旧八・一 松村真澄録)
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