霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 紅蓮(ぐれん)の舌(した)〔一〇〇七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻 篇:第3篇 神地の暗雲 よみ(新仮名遣い):こうじのあんうん
章:第19章 紅蓮の舌 よみ(新仮名遣い):ぐれんのした 通し章番号:1007
口述日:1922(大正11)年09月23日(旧08月3日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
門番のベスはふたたび竜雲とケールス姫の居間へやってきて、門前に白髪異様の老人が現れていろいろと不思議なことを言い、どうやらウラル教の宣伝使であるように思うので、調べてほしいと注進した。
ケールス姫は、その老人を連れてくるようにとベスに命じた。老人は竜雲の居間にやってくると、竜雲に雷のごとき声で問いかけた。竜雲は面食らって恐れをなしながら老人に名を問いかけた。
老人は、三五教の宣伝使・天の目一つの神(北光彦)と名乗った。竜雲は三五教と聞いて顔色を変えたが、気を取り直して余裕の振りをして社交辞令を述べ立てた。
天の目一つ神は竜雲に対し、単刀直入になぜバラモン教の教王であるサガレン王を追放したのかと問い詰めた。竜雲は、これは内々のことであるから申し上げるわけにはいかず、ただ三五教の教理を教えてほしいと答えた。
天の目一つの神は容赦せず、竜雲が王から后を奪い、共謀して王を追放して国を奪い、国政をほしいままにしていることを直言した。そして今度はケールス姫にこれをどう考えるか、問いただした。
ケールス姫はただただ恐れ入り、天の目一つの神の判断に任せるより他にはない、と自らの罪を認める発言をするのみであった。
天の目一つの神は、今のうちに両人は心を改めて王に心から謝罪し罪を清めなければ、たちまちに天罰が至るであろうと忠告した。そして早く決心をしないと実際の身辺の危険が刻々に迫っていると宣言した。
二人に忠告を終わると、天の目一つの神は廊下に杖の音を響かせながら帰って行った。竜雲とケールス姫は天の目一つの神の後姿を見送りながら、呆然自失として顔色青ざめ、ただただ太い息を吐いているのみであった。
ケールス姫は天の目一つの神が立ち去った後、目一つの神の神徳を称えた。竜雲は気を悪くし、自分が気に入らないなら自分を放逐し、目一つの神をこの位に据えたらよいと姫に対して怒った。
ケールス姫はサガレン王に背いたことを後悔し、竜雲に対し、自分の言が気に入らないならすぐに館から立ち去るようにと言い返した。姫を説得しようとする竜雲に対し、ケールス姫は自分の罪が恐ろしくなったと懐剣を取り出し、自害しようとした。
竜雲はあわてて姫の手を抑え、押しとどめようとしたが、姫は聞かずに力を入れて自害しようとする。右守のハルマが騒ぎを聞きつけてやってきて、姫の剣を奪って投げ捨てた。
そこへテールがやってきて、城内に火災が起こって城の大部分が焼け落ち、館にまで延焼したと告げに来た。実際に黒煙がもうもうとあたりを包み始めた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-03-05 17:30:18 文字数:4479 OBC :rm3619
愛善世界社版:207頁 八幡書店版:第6輯 657頁 修補版: 校定版:213頁 普及版:93頁 初版: ページ備考:
001 門番(もんばん)のベスは再(ふたた)び竜雲(りううん)、002ケールス姫(ひめ)の居間(ゐま)へ慌(あわただ)しく伺候(しこう)し、003恭(うやうや)しく両手(りやうて)をつかへ、
004ベス『畏(おそ)れながら申上(まをしあ)げます。005只今(ただいま)門前(もんぜん)に現(あら)はれました、006白髪(はくはつ)異様(いやう)の老人(らうじん)が、007老人(らうじん)かと思(おも)へば平(ひら)たくなつたり、008長(なが)くなつたり、009顔(かほ)が四(よつ)つも五(いつ)つもあり、010身体(からだ)が背継(せつ)ぎしたやうに見(み)えたり、011眼(め)も鼻(はな)も随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)持(も)つた化物(ばけもの)が現(あら)はれました。012何(なん)と云(い)つても頑張(ぐわんば)つて帰(かへ)らうとは致(いた)しませぬ。013到底(たうてい)吾々(われわれ)門番(もんばん)の非力(ひりき)では追払(おつぱら)ふ訳(わけ)には行(ゆ)きませぬ。014併(しか)し乍(なが)ら、015飲(の)めよ騒(さわ)げよ一寸先(いつすんさき)は暗(やみ)よ、016暗(やみ)の後(あと)には月(つき)が出(で)る……と、017ヘヽヽヽヽ随分(ずゐぶん)気(き)に入(い)る事(こと)を云(い)ひます。018屹度(きつと)あれはウラル教(けう)の神(かみ)様(さま)が化(ば)けて御座(ござ)つたのかも知(し)れませぬ。019善(ぜん)とも悪(あく)とも、020たとへ方(がた)なきもので御座(ござ)います』
021 竜雲(りううん)はベスの言葉(ことば)を聞(き)き、022暫(しばら)く首(くび)を傾(かた)げて居(ゐ)たが、023俄(にはか)に口(くち)を尖(とが)らして、
024竜雲『ベス、025お前(まへ)は大変(たいへん)に酩酊(めいてい)して居(ゐ)るではないか。026目(め)がチラチラして居(ゐ)るぞ。027お前(まへ)の酔(よ)うた眼(まなこ)で見(み)たものだから、028さう種々(いろいろ)と姿(すがた)が変(かは)つて見(み)えたのであらう。029決(けつ)して化物(ばけもの)ではあるまい』
030ベス『ハイ、031些(すこ)し許(ばか)り聞(きこ)し召(め)したもので御座(ござ)いますから、032眼(め)の調子(てうし)が狂(くる)つても居(を)りませうが、033何(なに)は兎(と)もあれ、034一風(いつぷう)変(かは)つた人物(じんぶつ)で御座(ござ)います。035何卒(どうぞ)お目通(めどほ)りをお許(ゆる)しになつて篤(とく)とお調(しら)べ下(くだ)さいませ』
036 ケールス姫(ひめ)は傍(そば)より静(しづか)な声(こゑ)にて、
037ケールス姫『何(なに)は兎(と)もあれ、038其(その)男(をとこ)を此処(ここ)へ案内(あんない)して来(き)たがよからう』
039ベス『ハイ、040畏(かしこ)まりました』
041とベスは座(ざ)を立(た)ち、042ヒヨロリヒヨロリと廊下(らうか)を危(あやふ)く踏(ふ)み鳴(な)らしながら表(おもて)へ出(で)て行(ゆ)く。043暫(しばら)くありて以前(いぜん)のベスは白髪(はくはつ)の老人(らうじん)を導(みちび)き、044竜雲(りううん)の前(まへ)に恐(おそ)る恐(おそ)る現(あら)はれ、
045ベス『唯今(ただいま)申上(まをしあ)げました化物(ばけもの)とは、046これで御座(ござ)います。047どうぞ篤(とく)とお調(しら)べの上(うへ)、048ウラル教(けう)の神力(しんりき)をもつてお退治(たいぢ)下(くだ)さいませ。049彼様(かやう)なものが徘徊(はいくわい)致(いた)すと吾々(われわれ)は門番(もんばん)も碌(ろく)に勤(つと)まりませぬ』
050竜雲(りううん)『オイ、051ベス、052余計(よけい)な事(こと)を申(まを)すな。053早(はや)く立(た)ち去(さ)れ!』
054ベス『ハイ、055オイ化州(ばけしう)、056確(しつか)りやらないと駄目(だめ)だぞ』
057と口汚(くちぎたな)く罵(ののし)りながら此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)つた。
058老人(らうじん)『神地(かうぢ)の都(みやこ)の城主(じやうしゆ)、059サガレン王(わう)の後(あと)を襲(おそ)うて政治(せいぢ)を執(と)る竜雲(りううん)とは其方(そなた)の事(こと)か?』
060と雷(らい)の如(ごと)き大声(おほごゑ)を発(はつ)して問(と)ひかける。061どこともなく底力(そこぢから)のある声(こゑ)に、062遉(さすが)の竜雲(りううん)も面喰(めんくら)つて後(うしろ)へ二足(ふたあし)三足(みあし)タヂタヂと退(しりぞ)き、
063竜雲『ハイ、064仰(あふ)せの通(とほ)り竜雲(りううん)は私(わたし)で御座(ござ)る。065貴方(あなた)は此(この)竜雲(りううん)に対(たい)し御(ご)訪問(はうもん)下(くだ)さつたのは、066如何(いか)なる御用(ごよう)で御座(ござ)るか。067さうして其(その)御(ご)姓名(せいめい)は何(なん)と申(まを)さるるか、068お聞(き)かせを願(ねが)ひ度(た)い』
069老人(天の目一つの神)『吾(われ)こそは三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、070天(あま)の岩戸(いはと)開(びら)きの神業(しんげふ)に仕(つか)へたる天(あめ)の目一(まひと)つの神(かみ)で御座(ござ)る。071汝(なんぢ)に対(たい)し訓誡(くんかい)を与(あた)へ度(た)き事(こと)あれば、072老駆(らうく)ををかし遥々(はるばる)と此処(ここ)に参(まゐ)りしものぞ』
073 竜雲(りううん)は三五教(あななひけう)と聞(き)いて、074些(すこ)しく顔色(かほいろ)を変(へん)じたが、075何(なん)となく犯(おか)し難(がた)き其(その)威貌(ゐばう)に度肝(どぎも)をぬかれ、
076竜雲『音(おと)に聞(きこ)えし天(あめ)の目一(まひと)つの神(かみ)様(さま)で御座(ござ)いましたか。077これはこれは遠路(ゑんろ)の処(ところ)、078ようこそ御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました。079何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)至(いた)らぬ竜雲(りううん)、080宜敷(よろし)く御(ご)指導(しだう)をお願(ねが)ひ申(まを)す』
081天の目一つの神『アハヽヽヽ、082随分(ずゐぶん)其(その)方(はう)も外交(ぐわいかう)的(てき)手腕(しゆわん)は立派(りつぱ)なものだ、083余程(よほど)現代化(げんだいくわ)して御座(ござ)ると見(み)える。084併(しか)し乍(なが)ら竜雲殿(りううんどの)にお尋(たづ)ね致(いた)したい事(こと)が御座(ござ)る。085其(その)尋(たづ)ねたいと申(まを)すのは外(ほか)でもない、086サガレン王(わう)の今日(こんにち)の境遇(きやうぐう)だ。087苟(いやし)くもバラモン教(けう)の教司(をしへつかさ)、088一国(いつこく)の王者(わうじや)の身(み)をもつて、089山野(さんや)に流浪(るらう)し給(たま)ふやうになつたのは、090何(なに)かの理由(りいう)がなくては叶(かな)はぬ。091此(この)経緯(いきさつ)を詳細(つぶさ)に吾(わが)前(まへ)に告白(こくはく)されたい』
092竜雲『ハイ、093これには種々(いろいろ)の訳(わけ)も御座(ござ)いまするが、094あまり込(こ)み入(い)つての御(ご)干渉(かんせう)は迷惑(めいわく)千万(せんばん)、095何卒(なにとぞ)此(この)話(はなし)は打(う)ち切(き)つて、096三五教(あななひけう)の教理(けうり)を御(ご)教示(けうじ)あらむ事(こと)を希望(きばう)致(いた)します』
097天の目一つの神『ハヽヽヽヽ、098吾々(われわれ)の干渉(かんせう)地帯(ちたい)でないから問(と)うて呉(く)れなと云(い)はるるのかな。099イヤ尤(もつと)もだ、100秘密(ひみつ)の暴露(ばくろ)を恐(おそ)るるは人情(にんじやう)の常(つね)だ。101たつて辞退(じたい)せらるるものを無理(むり)には強要(きやうえう)致(いた)さぬ。102併(しか)し乍(なが)らよく考(かんが)へて御覧(ごらん)なされ! もしも此処(ここ)に或(ある)王者(わうじや)があり、103其(その)王者(わうじや)には后(きさき)があつて、104夫婦(ふうふ)相並(あひなら)び神(かみ)を敬(うやま)ひ政治(せいぢ)をとり、105円満(ゑんまん)に民(たみ)を治(をさ)めて居(ゐ)る。106其処(そこ)へ何処(いづく)ともなく一人(ひとり)の妖僧(えうそう)が現(あら)はれ来(き)たつて、107其(その)后(きさき)を誑惑(きやうわく)し、108変(かは)つた信仰(しんかう)を強(し)ひ、109漸次(ぜんじ)にして其(その)后(きさき)の心(こころ)を奪(うば)ひ、110遂(つひ)には畏(おそ)れ多(おほ)くも夫(をつと)たり国王(こくわう)たる神司(かむつかさ)を、111妖僧(えうそう)と共(とも)に腹(はら)を合(あは)して放逐(はうちく)し、112後(あと)に晏然(あんぜん)として其(その)后(きさき)を妻(つま)となし、113自(みづか)らは王者然(わうじやぜん)として控(ひか)へて居(ゐ)る悪逆(あくぎやく)無道(むだう)の怪物(くわいぶつ)ありとすれば、114竜雲殿(りううんどの)は如何(いかが)思召(おぼしめ)さるるか。115神(かみ)の教(をしへ)を宣伝(せんでん)する宣伝使(せんでんし)として是(これ)が黙過(もくくわ)する事(こと)が出来(でき)ようか、116如何(いかが)で御座(ござ)るアハヽヽヽ。117之(これ)は要(えう)するに譬(たとへ)で御座(ござ)れば、118決(けつ)してお気(き)にさへられな。119竜雲殿(りううんどの)の明敏(めいびん)なる頭脳(づなう)によつて、120其(その)解決(かいけつ)を与(あた)へて貰(もら)ひたいのだ』
121竜雲『ハイ、122成(な)る程(ほど)六(むつ)かしい問題(もんだい)で御座(ござ)る』
123天の目一つの神『六(むつ)ケ敷(し)き問題(もんだい)は問題(もんだい)だ。124併(しか)し如何(どう)解決(かいけつ)をつけたらよいかと聞(き)いて居(ゐ)るのだ。125イヤそこに俯(うつ)むいて居(ゐ)るのはケールス姫殿(ひめどの)で御座(ござ)らう。126其方(そなた)の意見(いけん)を承(うけたま)はらう』
127ケールス姫『ハイ誠(まこと)に恐(おそ)れ入(い)つた次第(しだい)で御座(ござ)います。128何(なん)ともお答(こた)への致(いた)しやうが御座(ござ)いませぬ。129貴方(あなた)の御(ご)判断(はんだん)にお任(まか)せ申(まを)すより、130もはや手段(しゆだん)は御座(ござ)いませぬ』
131天の目一つの神『今(いま)の中(うち)に心(こころ)を改(あらた)め、132其方(そなた)両人(りやうにん)が、133計略(けいりやく)をもつて逐出(おひだ)したるサガレン王(わう)を探(たづ)ね出(だ)し、134茨(いばら)の鞭(むち)を負(お)うて王(わう)に心(こころ)の底(そこ)より謝罪(しやざい)をなし、135其(その)罪(つみ)を清(きよ)めなければ、136天罰(てんばつ)立所(たちどころ)に至(いた)り、137地震(ぢしん)雷(かみなり)火(ひ)の雨(あめ)の誡(いまし)めに遇(あ)ふは最早(もはや)眼前(がんぜん)に迫(せま)つて居(ゐ)る。138両人(りやうにん)早(はや)く決心(けつしん)をなさらぬと、139其方(そなた)が身辺(しんぺん)の危険(きけん)は刻々(こくこく)に迫(せま)りつつありますぞ。140いらざる目一(まひと)つの神(かみ)が差出口(さしでぐち)とけなさるるならばそれ迄(まで)だ。141目一(まひと)つの神(かみ)は此(この)上(うへ)両人(りやうにん)に対(たい)して忠告(ちうこく)すべき事(こと)はない。142よく良心(りやうしん)に尋(たづ)ねて、143最善(さいぜん)の方法(はうはふ)を取(と)られたがよからう。144縁(えん)あらば又(また)もやお目(め)にかからうも知(し)れない。145左様(さやう)なら……』
146と云(い)ふより早(はや)く、147コツンコツンと廊下(らうか)に杖(つゑ)の音(おと)を響(ひび)かせ、148表(おもて)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
149 竜雲(りううん)、150ケールス姫(ひめ)は、151目一(まひと)つの神(かみ)の後姿(うしろすがた)を見送(みおく)り、152茫然(ばうぜん)自失(じしつ)為(な)す処(ところ)を知(し)らず、153顔色(がんしよく)忽(たちま)ち蒼白(さうはく)に変(へん)じ、154太(ふと)き溜息(ためいき)を吐(は)いて居(ゐ)る。
155三五教(あななひけう)に仕(つか)へたる
156北光彦(きたてるひこ)の宣伝使(せんでんし)
157天(あめ)の目一(まひと)つ神司(かむつかさ)
158松浦(まつら)の郷(さと)を後(あと)にして
159河森河(かうもりがは)を遡(さかのぼ)り
160神地(かうぢ)の都(みやこ)に現(あら)はれて
161心(こころ)汚(きたな)き竜雲(りううん)や
162ケールス姫(ひめ)に打向(うちむか)ひ
163悪逆(あくぎやく)無道(むだう)の行動(かうどう)を
164悔悟(くわいご)せしめて天国(てんごく)の
165園(その)に導(みちび)き助(たす)けむと
166老(おい)の歩(あゆ)みもトボトボと
167恐(おそ)れげもなく進(すす)み来(く)る
168門番(もんばん)ベスに伴(ともな)はれ
169奥殿(おくでん)深(ふか)く進(すす)み入(い)り
170竜雲(りううん)ケールス両人(りやうにん)に
171向(むか)つて真理(しんり)を説(と)き諭(さと)し
172其(その)改心(かいしん)を迫(せま)りおき
173悠々(いういう)として長廊下(ながらうか)
174コツリコツリと杖(つゑ)の音(おと)
175次第(しだい)々々(しだい)に遠(とほ)ざかり
176何時(いつ)の間(ま)にやら崇高(すうかう)な
177神(かみ)の姿(すがた)は消(き)えにける
178あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
179御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ
180サガレン王(わう)を初(はじ)めとし
181服(まつろ)ひまつる忠誠(ちうせい)の
182神(かみ)の司(つかさ)や信人(まめひと)を
183誠(まこと)の道(みち)にまつろひて
184天授(てんじゆ)の真理(しんり)を悟(さと)らしめ
185八十(やそ)の曲津(まがつ)につかれたる
186竜雲(りううん)ケールス両人(りやうにん)を
187尊(たふと)き神(かみ)の正道(まさみち)に
188眼(め)を醒(さ)まさしめ朝夕(あさゆふ)に
189神(かみ)の教(をしへ)にまつろはせ
190百(もも)の司(つかさ)の御魂(みたま)まで
191洗(あら)ひやらむと雄々(をを)しくも
192守(まも)りも固(かた)き此(この)城(しろ)に
193単身(たんしん)進(すす)み入(い)りにける
194神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
195醜(しこ)の曲津(まがつ)も影(かげ)隠(かく)し
196天津(あまつ)御神(みかみ)のたまひたる
197元(もと)つみたまに立(た)ち帰(かへ)り
198神人(しんじん)和合(わがふ)の天国(てんごく)を
199神地(かうぢ)の城(しろ)の棟(むね)高(たか)く
200照(て)らさせたまへ惟神(かむながら)
201神(かみ)のみ前(まへ)に願(ね)ぎまつる。
202 二人(ふたり)は目一(まひと)つの神(かみ)の立(た)ち去(さ)りし後(あと)にて、203又(また)もやひそひそと話(はなし)に耽(ふけ)り居(ゐ)る。
204ケールス姫『モシ竜雲(りううん)さま、205今(いま)見(み)えた目一(まひと)つの神(かみ)様(さま)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)だと云(い)はれましたが、206何(なん)とマア御(ご)神徳(しんとく)の高(たか)い方(かた)でせう。207お顔(かほ)は目(め)つかちで、208何(なん)とはなしに見劣(みおと)りがするやうですが、209どこともなしに犯(おか)すべからざる威厳(ゐげん)が備(そな)はつて居(ゐ)ました。210かういふと済(す)みませぬが、211常々(つねづね)神徳(しんとく)高(たか)き竜雲(りううん)様(さま)だと思(おも)つて居(ゐ)ましたが、212傍(そば)に寄(よ)せるとまるで比(くら)べものにはなりませぬ。213象(ざう)の傍(そば)によつた猫(ねこ)のような気分(きぶん)が致(いた)しましたワ』
214竜雲『是(これ)はしたり、215余(あま)りと云(い)へば余(あま)りの無礼(ぶれい)ではないか。216吾々(われわれ)を猫(ねこ)にたとへるとは不埒(ふらち)千万(せんばん)、217それ程(ほど)此(この)竜雲(りううん)が小(ちひ)さきものに見(み)えるならば、218なぜ其方(そなた)は目一(まひと)つの神(かみ)を引(ひ)き止(と)めて夫(をつと)となし、219此(この)竜雲(りううん)を放逐(はうちく)せないのか』
220と声(こゑ)を尖(とが)らせてゐる。
221ケールス姫『何(なに)も貴方(あなた)を疎外(そぐわい)したのぢや御座(ござ)いませぬ。222目一(まひと)つの神(かみ)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)を讃(たた)へたので御座(ござ)いますワ。223貴方(あなた)は見(み)れば見(み)る程(ほど)、224交際(つきあ)へばつきあふ程(ほど)小(ちひ)さくなり汚(きたな)くなり、225弱(よわ)くならつしやるやうですワ。226こんな事(こと)なら、227なぜ神徳(しんとく)高(たか)きサガレン王(わう)に背(そむ)いたであらうかと、228今更(いまさら)悔悟(くわいご)の念(ねん)に堪(た)へませぬ。229此(この)館(やかた)は妾(わらは)が住家(すみか)、230今(いま)はいい気(き)になつて王者然(わうじやぜん)と構(かま)へて居(を)られますが、231実際(じつさい)を云(い)へば私(わたし)の館(やかた)、232お気(き)に召(め)さねば何時(いつ)なりと帰(かへ)つて下(くだ)さい』
233竜雲『これケールス姫殿(ひめどの)、234其方(そなた)は狂気(きやうき)したのか、235其(その)言霊(ことたま)は何(なん)で御座(ござ)る』
236ケールス姫『ハイ、237一(いつ)たん悪魔(あくま)に誑惑(きやうわく)され、238大蛇(をろち)のかかつた竜雲(りううん)様(さま)に従(したが)つて居(ゐ)ましたが、239今(いま)漸(やうや)く病気(びやうき)全快(ぜんくわい)しまして正気(しやうき)に立(た)ち帰(かへ)りました。240もはや正気(しやうき)に立(た)ち帰(かへ)つた上(うへ)は、241今(いま)迄(まで)の罪(つみ)が恐(おそ)ろしく、242又(また)竜雲(りううん)の悪心(あくしん)が憎(にく)らしくなつて来(き)ましたよ』
243竜雲『心機(しんき)一転(いつてん)も甚(はなは)だしいぢやないか。244これケールス姫(ひめ)、245よい加減(かげん)に此(この)竜雲(りううん)を揶揄(からか)つて置(お)くがよい。246下(くだ)らぬ事(こと)を云(い)つてさう気(き)を揉(も)ますものではないよ』
247ケールス姫『妾(わたし)はもはや此(この)世(よ)に生(い)きて居(を)る事(こと)は出来(でき)ませぬ。248大罪(だいざい)を犯(おか)した者(もの)で御座(ござ)いますから、249潔(いさぎよ)く自殺(じさつ)を致(いた)します。250仮令(たとへ)三日(みつか)でも五日(いつか)でも、251縁(えん)あればこそ不義(ふぎ)の契(ちぎり)を結(むす)んだ妾(わたし)、252臨終(いまは)の際(きは)にのぞんで一口(ひとくち)忠告(ちうこく)を致(いた)して置(お)かねばなりませぬ。253悪(あく)は何時(いつ)迄(まで)も続(つづ)くものではありませぬよ。254貴方(あなた)はこれから男(をとこ)らしく割腹(かつぷく)して、255サガレン王(わう)様(さま)に罪(つみ)を謝(しや)すか、256但(ただし)は世捨人(よすてびと)になつて再(ふたた)び難業(なんげふ)苦業(くげふ)をなし誠(まこと)の神(かみ)の司(つかさ)とおなりなさるか、257それは貴方(あなた)の自由(じいう)意志(いし)に任(まか)しませうが、258たとへ如何(いか)なる事(こと)があつても、259悪(あく)を企(たく)んだり策略(さくりやく)を廻(めぐ)らしたり、260今(いま)迄(まで)のやうに嘘(うそ)をいつてはなりませぬよ。261これが私(わたし)の竜雲(りううん)に対(たい)する忠告(ちうこく)だ。262此(この)世(よ)に生(い)きて何(なん)の詮(せん)もなし、263左様(さやう)ならば竜雲殿(りううんどの)、264お別(わか)れ致(いた)しますぞや』
265と云(い)ふより早(はや)く、266懐中(くわいちゆう)より懐剣(くわいけん)をとり出(だ)し、267今(いま)や喉(のんど)にガバと許(ばか)り突(つ)き立(た)てむとす。268竜雲(りううん)は慌(あわ)てて姫(ひめ)の手(て)を確(しつか)りと押(おさ)へ、269声(こゑ)を慄(ふる)はせて、
270竜雲『ケールス姫殿(ひめどの)、271暫(しば)し待(ま)たれよ。272短気(たんき)は損気(そんき)、273死(し)なうと思(おも)へばいつでも死(し)ねる。274此(この)竜雲(りううん)も唯今(ただいま)限(かぎ)り改心(かいしん)を致(いた)すから、275どうぞ死(し)ぬ事(こと)だけは止(や)めて下(くだ)さい。276可惜(あつたら)神地(かうぢ)の城(しろ)の名花(めいくわ)を散(ち)らすは誠(まこと)に惜(を)しい、277先(ま)づ思(おも)ひ止(とど)まつて下(くだ)され』
278と姫(ひめ)の手(て)を力(ちから)限(かぎ)りに握(にぎ)りしめて居(ゐ)る。
279ケールス姫『イエイエ、280何(なん)と云(い)つて下(くだ)さつても罪(つみ)多(おほ)き此(この)体(からだ)、281死(し)を選(えら)ぶより外(ほか)に道(みち)はありませぬ。282どうぞ其(その)手(て)を放(はな)して下(くだ)さい!』
283と身(み)を藻掻(もが)く。284其(その)騒動(さうだう)を聞(き)きつけて走(はし)り入(い)つたる右守(うもり)の神(かみ)のハルマは、285此(この)体(てい)を見(み)て打驚(うちおどろ)き、
286ハルマ『竜雲(りううん)様(さま)、287姫(ひめ)様(さま)、288尊(たふと)き御(おん)身(み)を持(も)ちながら、289何(なん)の不自由(ふじゆう)もなきに夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)をなさるとは、290盤古(ばんこ)神王(しんわう)様(さま)に対(たい)し畏(おそ)れ多(おほ)いでは御座(ござ)らぬか。291苟(いやし)くも王者(わうじや)の身(み)をもつて、292俗人輩(ぞくじんばら)のなすが如(ごと)き刃物(はもの)三昧(ざんまい)とは何事(なにごと)で御座(ござ)るか』
293 ケールス姫(ひめ)は泣(な)き声(ごゑ)を絞(しぼ)りながら、
294ケールス姫『ヤア其(その)方(はう)は右守(うもり)の神(かみ)のハルマであらう。295吾(われ)は決(けつ)して竜雲殿(りううんどの)と争(あらそ)ひはして居(ゐ)ない。296余(あま)りの罪(つみ)の恐(おそ)ろしさに、297自害(じがい)をしようとして居(ゐ)るのだ。298それを竜雲殿(りううんどの)が執念深(しふねんぶか)くも止(と)めようとなさるのだから、299どうぞ其方(そなた)、300私(わたし)の頼(たの)みだ、301竜雲殿(りううんどの)の手(て)を放(はな)させてお呉(く)れ!』
302ハルマ『これこれ姫(ひめ)様(さま)、303自殺(じさつ)は罪悪中(ざいあくちう)の大罪悪(だいざいあく)と申(まを)すぢやありませぬか。304如何(いか)なる事情(じじやう)かは存(ぞん)じませぬが、305私(わたくし)が此処(ここ)へ現(あら)はれた以上(いじやう)は、306決(けつ)して死(し)なしは致(いた)しませぬ』
307と云(い)ひながら、308強力(がうりき)に任(まか)せて姫(ひめ)の手(て)より剣(つるぎ)を奪(うば)ひ、309手早(てばや)く窓(まど)を開(あ)けて眼下(がんか)の谷川(たにがは)へ投(な)げ捨(す)つれば、310竜雲(りううん)はやれ安心(あんしん)と吐息(といき)を吐(つ)く時(とき)しも、311慌(あわた)だしく此(この)場(ば)に馳来(はせきた)るテールは両手(りやうて)を仕(つか)へ、
312テール『モシモシ、313此(この)城内(じやうない)に火災(くわさい)起(おこ)り、314非常(ひじやう)な勢(いきほひ)で火(ひ)は風(かぜ)に煽(あふ)られ、315火炎(くわえん)の舌(した)は瞬(またた)く間(うち)に城(しろ)の大部分(だいぶぶん)を舐尽(なめつく)し、316早(はや)くも此(この)館(やかた)に延焼(えんせう)しました。317サア早(はや)く、318立退(たちの)きを願(ねが)ひます』
319と云(い)ふ間(ま)もあらず、320黒煙(こくえん)濛々(もうもう)として四辺(あたり)を包(つつ)み、321竜雲(りううん)、322ケールス姫(ひめ)、323ハルマは、324見(み)る見(み)る黒煙(こくえん)に包(つつ)まれにける。
325(大正一一・九・二三 旧八・三 加藤明子録)
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