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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第36巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 天意か人意か
第1章 二教対立
第2章 川辺の館
第3章 反間苦肉
第4章 無法人
第5章 バリーの館
第6章 意外な答
第7章 蒙塵
第8章 悪現霊
第2篇 松浦の岩窟
第9章 濃霧の途
第10章 岩隠れ
第11章 泥酔
第12章 無住居士
第13章 恵の花
第14章 歎願
第3篇 神地の暗雲
第15章 眩代思潮
第16章 門雀
第17章 一目翁
第18章 心の天国
第19章 紅蓮の舌
第4篇 言霊神軍
第20章 岩窟の邂逅
第21章 火の洗礼
第22章 春の雪
第23章 雪達磨
第24章 三六合
余白歌
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霊界物語
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海洋万里(第25~36巻)
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第36巻(亥の巻)
> 第2篇 松浦の岩窟 > 第12章 無住居士
<<< 泥酔
(B)
(N)
恵の花 >>>
第一二章
無住
(
むぢう
)
居士
(
こじ
)
〔一〇〇〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻
篇:
第2篇 松浦の岩窟
よみ(新仮名遣い):
まつうらのがんくつ
章:
第12章 無住居士
よみ(新仮名遣い):
むじゅうこじ
通し章番号:
1000
口述日:
1922(大正11)年09月22日(旧08月2日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
松浦の谷合の小糸の里は、深き谷川が流れ、岩山の斜面に天然の大岩窟が穿たれている要害である。友彦が住んでいた館は岩窟より手前の平野にあった。
サガレン王は平野に館を結び、自らは岩窟に隠れて人を集め、都を取り戻す策を練っていた。テーリスとエームスが館にて武術を練っていると、一人の老人が岩道を登ってきて館の前でバラモン教の神文を唱えている。
エームスは老人を館に招き入れた。老人はなぜかサガレン王が岩窟に隠れていることを知っていた。老人は無住居士と名乗り、エームスたちの作戦を見抜いて深い洞察を表したので、エームスとテーリスは、サガレン王に会って助言をしてほしいと頼み込んだ。
無住居士は、テーリスが三五教徒でありながら、わが身のためにサガレン王の奉じるバラモン教に入信していたことをも見抜いた。そして、いずれの道でも至上至尊の神様のために真心を尽くし、神のお力にすがって王を補佐する心がけさえあれば、竜雲ごときは恐れるに足りないと説いた。
無限絶対の神の力に依り、霊魂の上に真の神力が備われば、一人の霊をもって一国や億兆無数の霊に対しても恐れることはないはずである、とエームスとテーリスに説き諭した。
無住居士は二人に教えを垂れるとすぐさま去ろうとした。テーリスは王に面会してもらうように頼み込んだが、無住居士は竜雲のごとき悪魔を言向け和すには、自分自身の心にひそむ執着心と驕慢心と自負心を脱却し、惟神の正道に立ち返りさえすれば十分だと説いた。
エームスが王を呼びに行った間に無住居士は、皇大神の前に真の心を捧げ、神の大道にまつろい真心を現すようにと宣伝歌を歌った。神の国を心の世界に建設し、元の心に帰ることにより、神の宮、神の身魂となることができるのだ、と歌って別れを告げ、飛鳥のように濃霧の中に去って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-09 10:49:11
OBC :
rm3612
愛善世界社版:
116頁
八幡書店版:
第6輯 624頁
修補版:
校定版:
120頁
普及版:
50頁
初版:
ページ備考:
001
松浦
(
まつうら
)
の
谷間
(
たにあひ
)
小糸
(
こいと
)
の
里
(
さと
)
は、
002
一方
(
いつぱう
)
は
千丈
(
せんぢやう
)
の
深
(
ふか
)
き
谷間
(
たにま
)
、
003
南北
(
なんぽく
)
に
流
(
なが
)
れ、
004
岩山
(
いはやま
)
の
斜面
(
しやめん
)
に
天然
(
てんねん
)
の
大岩窟
(
だいがんくつ
)
が
穿
(
うが
)
たれてゐる。
005
此
(
この
)
岩窟
(
がんくつ
)
に
達
(
たつ
)
せむとするには、
006
細
(
ほそ
)
き
岩
(
いは
)
の
路
(
みち
)
を
右左
(
みぎひだり
)
に
飛
(
と
)
び
越
(
こ
)
え
漸
(
やうや
)
くにして
渡
(
わた
)
り
得
(
う
)
る
実
(
じつ
)
に
危険
(
きけん
)
極
(
きは
)
まる
場所
(
ばしよ
)
である。
007
一卒
(
いつそつ
)
これを
守
(
まも
)
れば
万卒
(
ばんそつ
)
越
(
こ
)
ゆる
能
(
あた
)
はずと
云
(
い
)
ふ
天然
(
てんねん
)
的
(
てき
)
要害
(
えうがい
)
の
地点
(
ちてん
)
である。
008
かつてバラモン
教
(
けう
)
の
友彦
(
ともひこ
)
が
小糸姫
(
こいとひめ
)
と
共
(
とも
)
に
草庵
(
さうあん
)
を
結
(
むす
)
び、
009
教
(
をしへ
)
を
開
(
ひら
)
きゐたる
場所
(
ばしよ
)
は、
010
此
(
この
)
岩窟
(
がんくつ
)
より
四五丁
(
しごちやう
)
手前
(
てまへ
)
の、
011
極
(
ごく
)
平坦
(
へいたん
)
な
地点
(
ちてん
)
であつて、
012
そこには
細谷川
(
ほそたにがは
)
が
流
(
なが
)
れてゐる。
013
サガレン
王
(
わう
)
は
此
(
この
)
平地
(
へいち
)
に
俄作
(
にはかづく
)
りの
館
(
やかた
)
を
結
(
むす
)
び、
014
テーリス、
015
エームスなどに
守
(
まも
)
らしめ、
016
自
(
みづか
)
らは
岩窟内
(
がんくつない
)
深
(
ふか
)
く
入
(
い
)
りて、
017
回天
(
くわいてん
)
の
謀
(
はかりごと
)
をめぐらしてゐた。
018
谷路
(
たにみち
)
の
大岩
(
おほいは
)
の
傍
(
かたはら
)
に
王
(
わう
)
の
一行
(
いつかう
)
を
捉
(
とら
)
へむと
手具脛
(
てぐすね
)
引
(
ひ
)
いて
待
(
ま
)
つてゐた
竜雲
(
りううん
)
の
部下
(
ぶか
)
、
019
ヨール、
020
ビツト、
021
レツト、
022
ルーズの
改心組
(
かいしんぐみ
)
を
初
(
はじ
)
め、
023
サール、
024
ウインチ、
025
ゼム、
026
エール、
027
タールチン、
028
キングス
姫
(
ひめ
)
は
此
(
この
)
館
(
やかた
)
と
岩窟
(
いはや
)
の
間
(
あひだ
)
を
往復
(
わうふく
)
して、
029
暫
(
しば
)
し
此処
(
ここ
)
に
足
(
あし
)
を
止
(
とど
)
め、
030
王
(
わう
)
の
為
(
ため
)
に
心身
(
しんしん
)
を
悩
(
なや
)
ましつつあつた。
031
テーリス、
032
エームスの
両人
(
りやうにん
)
は
平地
(
へいち
)
の
館
(
やかた
)
に
於
(
おい
)
て、
033
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
を
集
(
あつ
)
め、
034
武術
(
ぶじゆつ
)
を
練
(
ね
)
り、
035
竜雲
(
りううん
)
討伐
(
たうばつ
)
の
準備
(
じゆんび
)
にかかつてゐる。
036
其処
(
そこ
)
へ
白髪
(
はくはつ
)
異様
(
いやう
)
の
老人
(
らうじん
)
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
037
コツコツと
杖
(
つゑ
)
の
音
(
おと
)
をさせながら
岩路
(
いはみち
)
を
登
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
り、
038
館
(
やかた
)
の
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
つてバラモン
教
(
けう
)
の
神文
(
しんもん
)
を
一生
(
いつしよ
)
懸命
(
けんめい
)
に
称
(
とな
)
へてゐる。
039
エームスは
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより
慇懃
(
いんぎん
)
に
其
(
その
)
老翁
(
らうをう
)
を
館
(
やかた
)
に
引入
(
ひきい
)
れ、
040
湯
(
ゆ
)
を
与
(
あた
)
へ
食
(
しよく
)
を
供
(
きよう
)
し、
041
四方山
(
よもやま
)
の
話
(
はなし
)
に
夜
(
よ
)
を
更
(
ふ
)
かしながら、
042
遂
(
つひ
)
には
其
(
その
)
老翁
(
らうをう
)
が
来歴
(
らいれき
)
を
尋
(
たづ
)
ぬる
事
(
こと
)
となつた。
043
エームス『モシ、
044
あなたの
様
(
やう
)
な
御
(
ご
)
老体
(
らうたい
)
として、
045
此
(
この
)
山路
(
やまみち
)
を
登
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
り、
046
且
(
かつ
)
又
(
また
)
道伴
(
みちづ
)
れもなく
行脚
(
あんぎや
)
をなされるのは、
047
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
き
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
のある
事
(
こと
)
でせう。
048
どうぞ
差支
(
さしつか
)
へなくば、
049
概略
(
あらまし
)
御
(
お
)
物語
(
ものがた
)
りを
願
(
ねが
)
ひたう
御座
(
ござ
)
います』
050
老翁(無住居士)
『
私
(
わたし
)
は
無住
(
むぢゆう
)
居士
(
こじ
)
といつて、
051
生
(
うま
)
れた
所
(
ところ
)
も
知
(
し
)
らねば、
052
親
(
おや
)
も
知
(
し
)
らず、
053
子
(
こ
)
もなし、
054
つまり
言
(
い
)
へば
天下
(
てんか
)
の
浮浪人
(
ふらうにん
)
だ。
055
途中
(
とちう
)
にて
承
(
うけたま
)
はれば、
056
此
(
この
)
お
館
(
やかた
)
にはバラモン
教
(
けう
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
方々
(
かたがた
)
がお
集
(
あつ
)
まりになり、
057
武術
(
ぶじゆつ
)
の
稽古
(
けいこ
)
をなさると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
、
058
私
(
わたくし
)
も
斯
(
か
)
う
年
(
とし
)
は
老
(
よ
)
つて
居
(
を
)
れども、
059
武術
(
ぶじゆつ
)
が
大
(
だい
)
の
好物
(
かうぶつ
)
、
060
一
(
ひと
)
つ
其
(
その
)
お
稽古場
(
けいこば
)
を
拝見
(
はいけん
)
したいもので
御座
(
ござ
)
る』
061
エームス
『
無住
(
むぢゆう
)
さま、
062
あなたは
遥々
(
はるばる
)
と
此処
(
ここ
)
へお
越
(
こ
)
しになつたのは、
063
只
(
ただ
)
単
(
たん
)
に
武術
(
ぶじゆつ
)
の
稽古
(
けいこ
)
を
見
(
み
)
たい
為
(
ため
)
ではありますまい』
064
無住居士
『
武術
(
ぶじゆつ
)
の
稽古
(
けいこ
)
を
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
ひたいと
云
(
い
)
ふのは、
065
ホンのお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
対
(
たい
)
する
体好
(
ていよ
)
き
挨拶
(
あいさつ
)
だ。
066
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はサガレン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
危難
(
きなん
)
と
承
(
うけたま
)
はり、
067
此
(
この
)
館
(
やかた
)
にお
隠
(
かく
)
れ
遊
(
あそ
)
ばすと
聞
(
き
)
き、
068
はるばると
尋
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
たのだ』
069
エームス
『
其
(
その
)
王
(
わう
)
様
(
さま
)
を
尋
(
たづ
)
ねて
何
(
なん
)
となさる
御
(
ご
)
所存
(
しよぞん
)
か、
070
それが
承
(
うけたま
)
はりたい!』
071
と
稍
(
やや
)
気色
(
けしき
)
ばんで、
072
声
(
こゑ
)
を
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
高
(
たか
)
め
問
(
と
)
ひかける。
073
無住居士
『アハヽヽヽ、
074
竜雲
(
りううん
)
如
(
ごと
)
き
悪神
(
あくがみ
)
に
蹂躙
(
じうりん
)
され、
075
金城
(
きんじやう
)
鉄壁
(
てつぺき
)
とも
云
(
い
)
ふべき
牙城
(
がじやう
)
を
捨
(
す
)
てて、
076
女々
(
めめ
)
しくも
二人
(
ふたり
)
の
部下
(
ぶか
)
と
共
(
とも
)
に
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
まで
生命
(
いのち
)
惜
(
を
)
しさに
逃
(
に
)
げ
来
(
きた
)
り、
077
岩蜂
(
いはばち
)
か
何
(
なん
)
ぞの
様
(
やう
)
に
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
身
(
み
)
を
潜
(
ひそ
)
め、
078
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
の
準備
(
じゆんび
)
をなすとは、
079
甚
(
はなはだ
)
以
(
もつ
)
て
迂愚
(
うぐ
)
千万
(
せんばん
)
なやり
方
(
かた
)
では
御座
(
ござ
)
らぬか。
080
此方
(
こちら
)
に
準備
(
じゆんび
)
が
整
(
ととの
)
へば、
081
向方
(
むかふ
)
にも
亦
(
また
)
それ
相当
(
さうたう
)
の
準備
(
じゆんび
)
が
出来
(
でき
)
るはずだ。
082
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
せむとすれば、
083
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
間髪
(
かんぱつ
)
を
容
(
い
)
れざる
底
(
てい
)
の
早業
(
はやわざ
)
を
以
(
もつ
)
て、
084
短兵急
(
たんぺいきふ
)
に
攻
(
せ
)
めよせねば、
085
到底
(
たうてい
)
勝算
(
しようさん
)
の
見込
(
みこ
)
みはない。
086
今
(
いま
)
や
竜雲
(
りううん
)
は
勝
(
か
)
ちに
乗
(
じやう
)
じ、
087
心
(
こころ
)
おごり、
088
殆
(
ほとん
)
ど
常識
(
じやうしき
)
を
失
(
うしな
)
つてゐる
場合
(
ばあひ
)
だから、
089
此
(
この
)
際
(
さい
)
に
事
(
こと
)
を
挙
(
あ
)
げねば、
090
曠日
(
くわうじつ
)
瀰久
(
びきう
)
、
091
無勢力
(
むせいりよく
)
なる
味方
(
みかた
)
を
集
(
あつ
)
め
居
(
ゐ
)
る
内
(
うち
)
には
向方
(
むかふ
)
も
亦
(
また
)
漸
(
やうや
)
く
目
(
め
)
が
醒
(
さ
)
め、
092
一層
(
いつそう
)
厳重
(
げんぢゆう
)
な
警備
(
けいび
)
もし、
093
防禦力
(
ばうぎよりよく
)
も
蓄
(
たくは
)
へ、
094
まさか
違
(
ちが
)
へば
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
き
大軍
(
たいぐん
)
を
以
(
もつ
)
て、
095
一挙
(
いつきよ
)
に
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
るやも
計
(
はか
)
り
難
(
がた
)
い。
096
何程
(
なにほど
)
要害
(
えうがい
)
堅固
(
けんご
)
の
絶処
(
ぜつしよ
)
なればとて、
097
敵
(
てき
)
に
長年月
(
ちやうねんげつ
)
包囲
(
はうゐ
)
されようものなら、
098
水道
(
すゐだう
)
は
断
(
た
)
たれ、
099
糧食
(
りやうしよく
)
は
欠乏
(
けつぼう
)
し、
100
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
らにして
降服
(
かうふく
)
せなくてはなろまい。
101
これ
位
(
くらゐ
)
な
考
(
かんが
)
へなくして、
102
如何
(
どう
)
して
奸智
(
かんち
)
に
長
(
た
)
けたる
竜雲
(
りううん
)
を
討伐
(
たうばつ
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ようぞ。
103
又
(
また
)
味方
(
みかた
)
の
中
(
なか
)
にも
敵
(
てき
)
がある
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
104
能
(
よ
)
く
気
(
き
)
をつけたがよからうぞや』
105
エームス
『
如何
(
いか
)
にも
御
(
お
)
説
(
せつ
)
御尤
(
ごもつと
)
も、
106
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
吾々
(
われわれ
)
同志
(
どうし
)
は
王
(
わう
)
に
対
(
たい
)
しては、
107
誠忠
(
せいちう
)
無比
(
むひ
)
の
義士
(
ぎし
)
ばかりの
集団
(
しふだん
)
なれば、
108
外
(
ほか
)
は
知
(
し
)
らず、
109
決
(
けつ
)
して
左様
(
さやう
)
な
醜類
(
しうるゐ
)
は
混入
(
こんにふ
)
してゐない
筈
(
はず
)
で
御座
(
ござ
)
ります。
110
あなたのお
目
(
め
)
にはさう
映
(
うつ
)
りますかな』
111
無住居士
『アハヽヽヽ、
112
若
(
わか
)
い
若
(
わか
)
い、
113
現
(
げん
)
に
此
(
この
)
中
(
なか
)
には
間者
(
かんじや
)
が
交
(
まじ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
114
それが
気
(
き
)
もつかぬやうな
事
(
こと
)
では、
115
如何
(
いか
)
なる
目的
(
もくてき
)
を
立
(
た
)
つるとも
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
にて、
116
顛覆
(
てんぷく
)
させられて
了
(
しま
)
ふであらう』
117
エームス
『
其
(
その
)
間者
(
まはしもの
)
といふのは
誰々
(
たれたれ
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
118
無住居士
『それは
今
(
いま
)
茲
(
ここ
)
では
申
(
まを
)
しますまい。
119
其
(
その
)
間者
(
まはしもの
)
を
看破
(
かんぱ
)
する
丈
(
だけ
)
の
眼識
(
がんしき
)
がなくては
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だ。
120
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
出入
(
しゆつにふ
)
する
人々
(
ひとびと
)
の
目
(
め
)
の
使
(
つか
)
ひ
方
(
かた
)
、
121
足
(
あし
)
の
歩
(
ある
)
き
方
(
かた
)
、
122
体
(
からだ
)
の
動
(
うご
)
かし
方
(
かた
)
などを、
123
トツクと
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へなされ!
一目
(
ひとめ
)
にして
正邪
(
せいじや
)
が
分
(
わか
)
るであらう』
124
エームスは
歎息
(
たんそく
)
の
色
(
いろ
)
を
表
(
あら
)
はし、
125
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
126
さし
俯
(
うつ
)
むいて
思案
(
しあん
)
にくれてゐる。
127
テーリスは
始
(
はじ
)
めて
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
128
テーリス
『
無住
(
むぢゆう
)
さま、
129
今回
(
こんくわい
)
の
吾々
(
われわれ
)
の
計画
(
けいくわく
)
は
完全
(
くわんぜん
)
に
成功
(
せいこう
)
するでせうか。
130
何卒
(
なにとぞ
)
御
(
ご
)
神策
(
しんさく
)
があらば
御
(
ご
)
教授
(
けうじゆ
)
を
願
(
ねが
)
ひたい』
131
無住居士
『アハヽヽヽ、
132
成功
(
せいこう
)
するかせないか、
133
知
(
し
)
らしてくれと
云
(
い
)
ふのかな。
134
左様
(
さやう
)
な
確信
(
かくしん
)
のないアヤフヤな
事
(
こと
)
で、
135
如何
(
どう
)
して
大事
(
だいじ
)
が
遂
(
と
)
げられるか。
136
第一
(
だいいち
)
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
心
(
こころ
)
の
置
(
お
)
き
所
(
どころ
)
が
違
(
ちが
)
つてゐる。
137
サガレン
王
(
わう
)
に
忠義
(
ちうぎ
)
の
為
(
ため
)
に
心身
(
しんしん
)
を
用
(
もち
)
ゐるは、
138
実
(
じつ
)
に
臣下
(
しんか
)
として
感
(
かん
)
ずるの
至
(
いた
)
りである。
139
が、
140
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
141
サガレン
王
(
わう
)
以上
(
いじやう
)
の
尊
(
たふと
)
き
方
(
かた
)
のある
事
(
こと
)
は
知
(
し
)
つて
御座
(
ござ
)
るか。
142
それが
分
(
わか
)
らねば
今度
(
こんど
)
の
目的
(
もくてき
)
は、
143
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
乍
(
なが
)
ら
全然
(
ぜんぜん
)
画餅
(
ぐわへい
)
に
帰
(
き
)
すだらう。
144
否
(
いや
)
却
(
かへつ
)
て
大災害
(
だいさいがい
)
を
招
(
まね
)
く
因
(
いん
)
となるにきまつてゐる。
145
それよりも
今
(
いま
)
の
内
(
うち
)
に
甲
(
かぶと
)
をぬぎ、
146
竜雲
(
りううん
)
の
膝下
(
しつか
)
に
茨
(
いばら
)
の
鞭
(
むち
)
を
負
(
お
)
ひ、
147
降伏
(
かうふく
)
を
申
(
まを
)
し
込
(
こ
)
む
方
(
はう
)
が
近道
(
ちかみち
)
だ。
148
アハヽヽヽ』
149
と
肩
(
かた
)
をゆすつて、
150
大
(
おほ
)
きく
笑
(
わら
)
ふ。
151
テーリスは
少
(
すこ
)
しも
無住
(
むぢゆう
)
の
言
(
げん
)
が
腑
(
ふ
)
におちず、
152
たたみかけて
息
(
いき
)
もせはしく
問
(
と
)
ひかける。
153
テーリス
『
吾々
(
われわれ
)
は
此
(
この
)
シロの
国
(
くに
)
に
於
(
おい
)
て、
154
サガレン
王
(
わう
)
よりも
尊
(
たふと
)
い
者
(
もの
)
はないと
心得
(
こころえ
)
て
居
(
を
)
ります。
155
王
(
わう
)
以上
(
いじやう
)
の
尊
(
たふと
)
き
者
(
もの
)
とは
如何
(
いか
)
なる
方
(
かた
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
156
どうぞ
御
(
ご
)
教諭
(
けうゆ
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
157
無住居士
『
其方
(
そなた
)
はバラモン
教
(
けう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
、
158
兼
(
けん
)
、
159
王
(
わう
)
の
臣下
(
しんか
)
であらう。
160
三五教
(
あななひけう
)
に
信従
(
しんじゆう
)
し
乍
(
なが
)
ら、
161
時
(
とき
)
の
天下
(
てんか
)
に
従
(
したが
)
へと
言
(
い
)
つたやうな
柔弱
(
にうじやく
)
な
考
(
かんが
)
へより、
162
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
栄達
(
えいたつ
)
を
計
(
はか
)
る
為
(
ため
)
、
163
サガレン
王
(
わう
)
の
奉
(
ほう
)
ずるバラモン
教
(
けう
)
に
入信
(
はい
)
つたのであらうがな。
164
どうぢや、
165
此
(
この
)
無住
(
むぢゆう
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
に
間違
(
まちがひ
)
があるか』
166
テーリス
『ハイ、
167
仰
(
あふ
)
せの
通
(
とほ
)
りです。
168
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
三五教
(
あななひけう
)
を
捨
(
す
)
てては
居
(
を
)
りませぬ。
169
何
(
いづ
)
れの
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
も
元
(
もと
)
は
一株
(
ひとかぶ
)
だから
吾々
(
われわれ
)
の
行動
(
かうどう
)
に
付
(
つ
)
いては
神
(
かみ
)
さまに
対
(
たい
)
し、
170
少
(
すこ
)
しも
矛盾
(
むじゆん
)
はないと
心得
(
こころえ
)
ますが……』
171
無住居士
『
何
(
いづ
)
れの
道
(
みち
)
に
入
(
い
)
るも
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
変
(
かは
)
りはない。
172
其
(
その
)
事
(
こと
)
は
別
(
べつ
)
に
咎
(
とが
)
めもありますまい。
173
さり
乍
(
なが
)
らそこ
迄
(
まで
)
真心
(
まごころ
)
を
尽
(
つく
)
して
王
(
わう
)
の
為
(
ため
)
に
努
(
つと
)
めむとするならば、
174
至上
(
しじやう
)
至尊
(
しそん
)
の
神
(
かみ
)
さまの
為
(
ため
)
に、
175
なぜ
真心
(
まごころ
)
を
尽
(
つく
)
さないのか。
176
神
(
かみ
)
第一
(
だいいち
)
といふ
教
(
をしへ
)
の
真諦
(
しんたい
)
を
忘
(
わす
)
れたのか。
177
左様
(
さやう
)
な
心掛
(
こころがけ
)
では
何程
(
なにほど
)
千慮
(
せんりよ
)
万苦
(
ばんく
)
をなすとも
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だ。
178
神
(
かみ
)
の
御
(
お
)
力
(
ちから
)
にすがり
奉
(
まつ
)
りて、
179
サガレン
王
(
わう
)
を
助
(
たす
)
けむとする
心
(
こころ
)
にならば、
180
彼
(
か
)
の
竜雲
(
りううん
)
如
(
ごと
)
き
曲者
(
くせもの
)
は、
181
物
(
もの
)
の
数
(
かず
)
でもあるまい。
182
誠
(
まこと
)
の
神力
(
しんりき
)
さへ
備
(
そな
)
はらば、
183
竜雲
(
りううん
)
如
(
ごと
)
きは
日向
(
ひなた
)
に
氷
(
こほり
)
をさらした
如
(
ごと
)
く、
184
自然
(
しぜん
)
の
力
(
ちから
)
に
依
(
よ
)
りて
自滅
(
じめつ
)
するは
当然
(
たうぜん
)
の
帰結
(
きけつ
)
である。
185
何
(
なに
)
を
苦
(
くる
)
しんで、
186
数多
(
あまた
)
の
同志
(
どうし
)
を
集
(
あつ
)
め、
187
殺伐
(
さつばつ
)
なる
武術
(
ぶじゆつ
)
を
練習
(
れんしふ
)
するか。
188
武
(
ぶ
)
は
如何
(
いか
)
に
熟練
(
じゆくれん
)
すればとて
一人
(
ひとり
)
を
以
(
もつ
)
て
一人
(
ひとり
)
に
対
(
たい
)
するのみの
働
(
はたら
)
きより
出来
(
でき
)
まい。
189
無限
(
むげん
)
絶対
(
ぜつたい
)
の
神
(
かみ
)
の
力
(
ちから
)
に
依
(
よ
)
り、
190
汝
(
なんぢ
)
が
霊魂
(
れいこん
)
の
上
(
うへ
)
に
真
(
まこと
)
の
神力
(
しんりき
)
備
(
そな
)
はらば、
191
一
(
いち
)
人
(
にん
)
の
霊
(
れい
)
を
以
(
もつ
)
て
一国
(
いつこく
)
の
霊
(
れい
)
に
対
(
たい
)
し
又
(
また
)
は
億兆
(
おくてう
)
無数
(
むすう
)
の
霊
(
れい
)
に
対
(
たい
)
しても
恐
(
おそ
)
るる
事
(
こと
)
はなき
筈
(
はず
)
、
192
又
(
また
)
霊力
(
れいりよく
)
さへ
完全
(
くわんぜん
)
に
備
(
そな
)
はらば、
193
汝
(
なんぢ
)
一
(
いち
)
人
(
にん
)
の
力
(
ちから
)
を
以
(
もつ
)
て
億兆
(
おくてう
)
無数
(
むすう
)
の
力
(
ちから
)
に
対
(
たい
)
し、
194
又
(
また
)
汝
(
なんぢ
)
一
(
いち
)
人
(
にん
)
の
体
(
たい
)
を
以
(
もつ
)
て
億兆
(
おくてう
)
無数
(
むすう
)
の
体
(
たい
)
に
対抗
(
たいかう
)
し、
195
よく
其
(
その
)
目的
(
もくてき
)
を
貫徹
(
くわんてつ
)
する
事
(
こと
)
を
得
(
う
)
るであらう』
196
テーリス『
重
(
かさ
)
ね
重
(
がさ
)
ねの
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
、
197
身
(
み
)
にしみ
渡
(
わた
)
つて
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
198
就
(
つ
)
いては
奥
(
おく
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
にサガレン
王
(
わう
)
が
居
(
を
)
られますから、
199
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
します。
200
どうぞ
一度
(
いちど
)
御
(
ご
)
面会
(
めんくわい
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
201
無住居士
『
別
(
べつ
)
に
王
(
わう
)
に
面会
(
めんくわい
)
する
必要
(
ひつえう
)
も
認
(
みと
)
めぬ。
202
王
(
わう
)
に
於
(
おい
)
てわれに
面会
(
めんくわい
)
を
望
(
のぞ
)
むとあらば、
203
暫時
(
ざんじ
)
の
間
(
あひだ
)
タイムをさいてやらう』
204
エームス『
何
(
いづ
)
れの
御
(
お
)
方
(
かた
)
かは
知
(
し
)
りませぬが、
205
さう
固
(
かた
)
く
仰有
(
おつしや
)
らずに、
206
どうぞ
王
(
わう
)
さまの
前
(
まへ
)
までお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
207
王
(
わう
)
は
定
(
さだ
)
めてお
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばす
事
(
こと
)
でせうから……』
208
無住居士
『アハヽヽヽ、
209
そこが
矛盾
(
むじゆん
)
してゐるといふのだ。
210
われは
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
211
五大洲
(
ごだいしう
)
を
股
(
また
)
にかけて
万民
(
ばんみん
)
の
不朽
(
ふきう
)
不滅
(
ふめつ
)
の
魂
(
たましひ
)
に
永遠
(
ゑいゑん
)
無窮
(
むきう
)
の
命
(
いのち
)
を
与
(
あた
)
ふる
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
212
僅
(
わづか
)
にかかる
小国
(
せうこく
)
を
治
(
をさ
)
めかぬる
如
(
ごと
)
きサガレン
王
(
わう
)
に
対
(
たい
)
して、
213
われより
訪問
(
はうもん
)
するとは、
214
天地
(
てんち
)
転倒
(
てんたう
)
も
甚
(
はなはだ
)
しきものだ。
215
サガレン
王
(
わう
)
は
単
(
たん
)
に
此
(
この
)
島国
(
しまぐに
)
の
人間
(
にんげん
)
の
肉体
(
にくたい
)
の
短
(
みじか
)
き
生命
(
せいめい
)
を
保護
(
ほご
)
し
監督
(
かんとく
)
するだけの
役目
(
やくめ
)
だ。
216
霊魂
(
れいこん
)
上
(
じやう
)
の
支配権
(
しはいけん
)
は
絶無
(
ぜつむ
)
だ。
217
かかる
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
的
(
てき
)
精神
(
せいしん
)
の
除
(
と
)
れざる
内
(
うち
)
は、
218
いかに
神軍
(
しんぐん
)
を
起
(
おこ
)
すとも、
219
悪魔
(
あくま
)
の
竜雲
(
りううん
)
を
言向和
(
ことむけやは
)
す
事
(
こと
)
は
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
らぬ
事
(
こと
)
である。
220
最早
(
もはや
)
われは
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
用
(
よう
)
なし、
221
さらば……』
222
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
223
いそいそとして
立去
(
たちさ
)
らむとするを、
224
テーリス、
225
エームス
両人
(
りやうにん
)
はあわてて
袖
(
そで
)
を
引
(
ひき
)
とめ、
226
テーリス、エームス
『もしもし
無住
(
むぢゆう
)
居士
(
こじ
)
さま、
227
暫
(
しばら
)
くお
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ。
228
只
(
ただ
)
今
(
いま
)
承
(
うけたま
)
はれば、
229
あなたは
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
230
宣伝使
(
せんでんし
)
ならば、
231
何卒
(
なにとぞ
)
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
誠忠
(
せいちう
)
を
憐
(
あはれ
)
み、
232
最善
(
さいぜん
)
の
方法
(
はうはふ
)
を
教
(
をし
)
へ
下
(
くだ
)
さいませ。
233
そして
貴方
(
あなた
)
は
何教
(
なにけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
234
それが
一言
(
ひとこと
)
承
(
うけたま
)
はりたう
御座
(
ござ
)
います』
235
無住居士
『
別
(
べつ
)
に
竜雲
(
りううん
)
の
如
(
ごと
)
き
悪魔
(
あくま
)
を
言向和
(
ことむけやは
)
すに
就
(
つ
)
いては
議論
(
ぎろん
)
もヘチマもあつたものでない。
236
只
(
ただ
)
汝
(
なんぢ
)
が
心
(
こころ
)
にひそむ
執着心
(
しふちやくしん
)
と
驕慢心
(
けうまんしん
)
と
自負心
(
じふしん
)
を
脱却
(
だつきやく
)
し、
237
只々
(
ただただ
)
惟神
(
かむながら
)
の
正道
(
せいだう
)
に
立返
(
たちかへ
)
りなばそれで
十分
(
じふぶん
)
だ。
238
一
(
ひと
)
つの
計画
(
けいくわく
)
も
何
(
なに
)
も
要
(
い
)
つたものでない。
239
アハヽヽヽ』
240
と
言
(
い
)
ひ
棄
(
す
)
て、
241
又
(
また
)
もや
袖
(
そで
)
ふり
切
(
き
)
つて
立去
(
たちさ
)
らむとする。
242
テーリスは
泣
(
な
)
かぬ
許
(
ばか
)
りに
跪
(
ひざまづ
)
き、
243
無住
(
むぢゆう
)
の
杖
(
つゑ
)
をグツト
握
(
にぎ
)
りながら、
244
テーリス
『エームスよ、
245
早
(
はや
)
く
王
(
わう
)
さまをここへお
迎
(
むか
)
へ
申
(
まを
)
して
来
(
こ
)
よ。
246
無住
(
むぢゆう
)
居士
(
こじ
)
に
今
(
いま
)
帰
(
かへ
)
られては、
247
吾々
(
われわれ
)
は
暗夜
(
あんや
)
に
航海
(
かうかい
)
する
舟
(
ふね
)
の
艫櫂
(
ろかい
)
を
失
(
うしな
)
うたやうなものだ。
248
サア
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く……』
249
と
急
(
せ
)
き
立
(
た
)
つれば、
250
エームスは
打頷
(
うちうなづ
)
きながら、
251
急
(
いそ
)
いで
危
(
あやふ
)
き
岩
(
いは
)
の
壁
(
かべ
)
を
伝
(
つた
)
ひ
岩窟
(
がんくつ
)
さして
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
252
無住
(
むぢゆう
)
『
貴重
(
きちよう
)
なタイムを、
253
仮令
(
たとへ
)
一息
(
ひといき
)
の
間
(
ま
)
も
空費
(
くうひ
)
するは、
254
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
さまに
対
(
たい
)
して、
255
誠
(
まこと
)
にすまない。
256
最早
(
もはや
)
無住
(
むぢゆう
)
の
用
(
よう
)
はなき
筈
(
はず
)
、
257
よく
本心
(
ほんしん
)
に
立帰
(
たちかへ
)
り、
258
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
259
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
と
相談
(
さうだん
)
をなされ』
260
テーリス『ハイ、
261
重
(
かさ
)
ね
重
(
がさ
)
ねの
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
、
262
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
263
就
(
つ
)
いては
今
(
いま
)
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
御
(
お
)
待
(
ま
)
ちを
願
(
ねが
)
ひます。
264
王
(
わう
)
さまの
此処
(
ここ
)
へお
出
(
い
)
でになる
迄
(
まで
)
……』
265
無住居士
『サガレン
王
(
わう
)
が
今
(
いま
)
の
如
(
ごと
)
き
精神
(
せいしん
)
にてわれに
面会
(
めんくわい
)
が
叶
(
かな
)
ふと
思
(
おも
)
うてゐるか。
266
取違
(
とりちがひ
)
するにも
程
(
ほど
)
があるぞよ。
267
われの
正体
(
しやうたい
)
を
感知
(
かんち
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るか』
268
テーリス『ハイ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
とも
宣伝使
(
せんでんし
)
とも
見分
(
みわ
)
けがつきませぬ。
269
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
暫
(
しばら
)
くの
御
(
ご
)
猶予
(
いうよ
)
を
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
します』
270
と
合掌
(
がつしやう
)
し、
271
熱涙
(
ねつるゐ
)
を
頬
(
ほほ
)
に
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら
頼
(
たの
)
み
入
(
い
)
る。
272
無住
(
むぢゆう
)
居士
(
こじ
)
は
声
(
こゑ
)
爽
(
さはや
)
かに、
273
老人
(
らうじん
)
にも
似
(
に
)
ず、
274
勇
(
いさ
)
ましき
声音
(
せいおん
)
にて
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
したり。
275
無住居士
『あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
276
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
277
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
278
とは
云
(
い
)
ふものの
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
279
顕幽
(
けんいう
)
一致
(
いつち
)
善悪
(
ぜんあく
)
不二
(
ふじ
)
280
善
(
ぜん
)
もなければ
悪
(
あく
)
もない
281
心
(
こころ
)
一
(
ひと
)
つの
持
(
も
)
ちやうぞ
282
サガレン
王
(
わう
)
に
仕
(
つか
)
へたる
283
テーリス、エームス
両人
(
りやうにん
)
よ
284
神
(
かみ
)
を
力
(
ちから
)
に
誠
(
まこと
)
を
杖
(
つゑ
)
に
285
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
真心
(
まごころ
)
を
286
洗
(
あら
)
ひ
浄
(
きよ
)
めてサガレン
王
(
わう
)
の
287
君
(
きみ
)
の
命
(
みこと
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
288
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
祖
(
おや
)
と
現
(
あ
)
れませる
289
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
290
天地
(
てんち
)
自然
(
しぜん
)
の
飾
(
かざ
)
りなき
291
誠
(
まこと
)
の
心
(
こころ
)
を
捧
(
ささ
)
げつつ
292
祈
(
いの
)
れよ
祈
(
いの
)
れ
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
293
天地
(
てんち
)
の
間
(
あひだ
)
に
生
(
お
)
ひ
立
(
た
)
てる
294
すべての
物
(
もの
)
になり
代
(
かは
)
り
295
罪
(
つみ
)
を
贖
(
あがな
)
ひ
千万
(
ちよろづ
)
の
296
悩
(
なや
)
みをわが
身
(
み
)
に
甘受
(
かんじゆ
)
して
297
神
(
かみ
)
の
大道
(
おほぢ
)
にまつろひし
298
其
(
その
)
真心
(
まごころ
)
を
現
(
あら
)
はせよ
299
神
(
かみ
)
は
汝
(
なんじ
)
と
倶
(
とも
)
にあり
300
とは
云
(
い
)
ふものの
汝
(
な
)
が
心
(
こころ
)
301
いかでか
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
らむや
302
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
らす
身魂
(
みたま
)
には
303
塵
(
ちり
)
もなければ
曇
(
くも
)
りなし
304
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
は
日月
(
じつげつ
)
の
305
光
(
ひかり
)
さやけく
照
(
て
)
りわたり
306
平和
(
へいわ
)
の
風
(
かぜ
)
は
永遠
(
とは
)
に
吹
(
ふ
)
き
307
花
(
はな
)
は
匂
(
にほ
)
ひ
鳥
(
とり
)
歌
(
うた
)
ひ
308
実
(
みの
)
りゆたけき
神
(
かみ
)
の
国
(
くに
)
を
309
心
(
こころ
)
の
世界
(
せかい
)
に
建設
(
けんせつ
)
し
310
宇宙
(
うちう
)
の
外
(
そと
)
に
身
(
み
)
を
置
(
お
)
いて
311
森羅
(
しんら
)
万象
(
ばんしやう
)
睥睨
(
へいげい
)
し
312
元
(
もと
)
の
心
(
こころ
)
に
帰
(
かへ
)
りなば
313
汝
(
なんぢ
)
は
最早
(
もはや
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
314
神
(
かみ
)
の
身魂
(
みたま
)
となりぬべし
315
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
316
神
(
かみ
)
の
大道
(
おほぢ
)
をつつしみて
317
進
(
すす
)
めよ
進
(
すす
)
めバラモンの
318
教
(
をしへ
)
を
奉
(
ほう
)
ずる
神司
(
かむづかさ
)
319
それに
従
(
したが
)
ふ
人々
(
ひとびと
)
よ
320
此
(
この
)
老翁
(
らうをう
)
が
一言
(
ひとこと
)
を
321
別
(
わか
)
れに
臨
(
のぞ
)
みてのこしおく
322
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
323
われの
姿
(
すがた
)
を
村肝
(
むらきも
)
の
324
心
(
こころ
)
を
定
(
さだ
)
めてよく
悟
(
さと
)
れ
325
サガレン
王
(
わう
)
の
来
(
きた
)
る
迄
(
まで
)
326
待
(
ま
)
ちてやりたく
思
(
おも
)
へども
327
タイムの
力
(
ちから
)
は
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
328
元
(
もと
)
へ
返
(
かへ
)
さむ
由
(
よし
)
もなし
329
いざいざさらば いざさらば
330
二人
(
ふたり
)
の
誠
(
まこと
)
の
神司
(
かむづかさ
)
331
ここにて
袂
(
たもと
)
を
別
(
わか
)
つべし』
332
といふかと
見
(
み
)
れば、
333
飛鳥
(
ひてう
)
の
如
(
ごと
)
く
老躯
(
ろうく
)
を
物
(
もの
)
の
苦
(
く
)
にもせず、
334
足
(
あし
)
を
速
(
はや
)
めて、
335
早
(
はや
)
くも
濃霧
(
のうむ
)
の
中
(
なか
)
に
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
336
此
(
この
)
老人
(
らうじん
)
は
果
(
はた
)
して
何神
(
なにがみ
)
の
化身
(
けしん
)
であらうか?
337
(
大正一一・九・二二
旧八・二
松村真澄
録)
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