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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第36巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 天意か人意か
第1章 二教対立
第2章 川辺の館
第3章 反間苦肉
第4章 無法人
第5章 バリーの館
第6章 意外な答
第7章 蒙塵
第8章 悪現霊
第2篇 松浦の岩窟
第9章 濃霧の途
第10章 岩隠れ
第11章 泥酔
第12章 無住居士
第13章 恵の花
第14章 歎願
第3篇 神地の暗雲
第15章 眩代思潮
第16章 門雀
第17章 一目翁
第18章 心の天国
第19章 紅蓮の舌
第4篇 言霊神軍
第20章 岩窟の邂逅
第21章 火の洗礼
第22章 春の雪
第23章 雪達磨
第24章 三六合
余白歌
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霊界物語
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海洋万里(第25~36巻)
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第36巻(亥の巻)
> 第1篇 天意か人意か > 第2章 川辺の館
<<< 二教対立
(B)
(N)
反間苦肉 >>>
第二章
川辺
(
かはべ
)
の
館
(
やかた
)
〔九九〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻
篇:
第1篇 天意か人意か
よみ(新仮名遣い):
てんいかじんいか
章:
第2章 川辺の館
よみ(新仮名遣い):
かわべのやかた
通し章番号:
990
口述日:
1922(大正11)年09月21日(旧08月1日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月30日
概要:
舞台:
ケールス姫の別宅
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
神地の城は東北西の三方を美しい青山に囲まれ、南方はやや展開し、城の東西には水清く流れている。ケールス姫の別宅は、絶景の地点を選んで建てられていた。
ケールス姫は竜雲をここに招いて不義の快楽にふけっていた。サガレン王はいつも神地の館で政務を執り、バラモン教の神殿にこもって祈願に余念がなかった。サガレン王は信仰をもって唯一の楽しみとしていた。
ケールス姫と竜雲は、王を厄介払いし、竜雲が王と成り変わる計画を相談しつつあった。そこへ竜雲の部下・ベールが泥まみれになって慌ただしく戻ってきた。ベールは、ユーズとシルレングの二人が、竜雲を除く計画を立てていることを注進した。
ベールは、ユーズとシルレングが王に姫と竜雲の関係を上申して不利な状況になる前に、先手を打って王にユーズとシルレングを誣告し、彼らの仲を裂くべきだと献策した。
ケールス姫と竜雲は不安にかられて、慌ただしく登城の支度を始めた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-04 11:22:13
OBC :
rm3602
愛善世界社版:
16頁
八幡書店版:
第6輯 588頁
修補版:
校定版:
16頁
普及版:
7頁
初版:
ページ備考:
001
神地
(
かうぢ
)
の
城
(
しろ
)
は
東北西
(
とうほくせい
)
の
三方
(
さんぱう
)
、
002
美
(
うつく
)
しき
青山
(
せいざん
)
に
囲
(
かこ
)
まれ、
003
南方
(
なんぱう
)
は
稍
(
やや
)
展開
(
てんかい
)
し、
004
城
(
しろ
)
の
東西
(
とうざい
)
に
余
(
あま
)
り
広
(
ひろ
)
からねども、
005
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
く
流
(
なが
)
れ
深
(
ふか
)
き
清泉
(
せいせん
)
が
通
(
とほ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
006
奇石
(
きせき
)
怪岩
(
くわいがん
)
最
(
もつと
)
も
多
(
おほ
)
く、
007
奇勝
(
きしよう
)
絶景
(
ぜつけい
)
の
地点
(
ちてん
)
を
選
(
えら
)
んで、
008
ケールス
姫
(
ひめ
)
の
別宅
(
べつたく
)
が
建
(
た
)
てられてあつた。
009
東
(
ひがし
)
の
河
(
かは
)
は
別館
(
べつくわん
)
の
西
(
にし
)
を
流
(
なが
)
れ、
010
河
(
かは
)
の
中
(
なか
)
には
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
の
形
(
かたち
)
をしたる
大小
(
だいせう
)
無数
(
むすう
)
の
岩石
(
がんせき
)
が
点在
(
てんざい
)
し、
011
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
を
淙々
(
そうそう
)
と
流
(
なが
)
るる
水音
(
みなおと
)
、
012
聞
(
き
)
くも
見
(
み
)
るも
壮快
(
さうくわい
)
の
思
(
おも
)
ひに
満
(
み
)
たされる。
013
ケールス
姫
(
ひめ
)
は、
014
ウラル
教
(
けう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
竜雲
(
りううん
)
を
此処
(
ここ
)
に
招
(
まね
)
き、
015
朝夕
(
あさゆふ
)
となく
不義
(
ふぎ
)
の
快楽
(
けらく
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
016
サガレン
王
(
わう
)
はいつも
神地
(
かうぢ
)
の
館
(
やかた
)
にあつて
政務
(
せいむ
)
を
見
(
み
)
、
017
バラモン
教
(
けう
)
の
大自在天
(
だいじざいてん
)
を
祭
(
まつ
)
りたる
神殿
(
しんでん
)
に、
018
殆
(
ほとん
)
ど
閉
(
と
)
ぢ
籠
(
こも
)
り
祈願
(
きぐわん
)
に
余念
(
よねん
)
なく、
019
信仰
(
しんかう
)
をもつて
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
楽
(
たのし
)
みとして
居
(
ゐ
)
た。
020
ケールス
姫
(
ひめ
)
『
竜雲
(
りううん
)
さま、
021
どうして
又
(
また
)
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
此
(
こ
)
のやうな
結構
(
けつこう
)
なウラル
教
(
けう
)
の
教
(
をしへ
)
が
分
(
わか
)
らないのでせう。
022
何
(
なん
)
とかしてウラル
教
(
けう
)
を
信奉
(
しんぽう
)
さるるやうに、
023
貴方
(
あなた
)
の
神力
(
しんりき
)
を
以
(
もつ
)
て
悦服
(
えつぷく
)
さして
下
(
くだ
)
さる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまいかなア』
024
竜雲
(
りううん
)
『
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんわう
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
、
025
天ケ下
(
あめがした
)
に
何一
(
なにひと
)
つ
御
(
ご
)
自由
(
じいう
)
にならない
事
(
こと
)
はありませぬ。
026
王
(
わう
)
様
(
さま
)
をウラル
教
(
けう
)
に
入信
(
にふしん
)
させるのは
朝飯前
(
あさめしまへ
)
の
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
027
これには
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
き
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
があつて、
028
吾々
(
われわれ
)
に
一
(
ひと
)
つの
決心
(
けつしん
)
を
与
(
あた
)
ふべく
仕組
(
しぐ
)
まれたので
御座
(
ござ
)
いませう。
029
バラモンの
如
(
ごと
)
き、
030
人
(
ひと
)
の
血
(
ち
)
を
見
(
み
)
なくては
到底
(
たうてい
)
承知
(
しようち
)
せないと
云
(
い
)
ふやうな
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
祭
(
まつ
)
り、
031
これを
信仰
(
しんかう
)
すると
云
(
い
)
ふは、
032
一身
(
いつしん
)
上
(
じやう
)
の
不幸
(
ふかう
)
のみならず、
033
延
(
ひ
)
いて
国家
(
こくか
)
国民
(
こくみん
)
の
大不幸
(
だいふかう
)
です。
034
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
035
この
錫蘭島
(
セイロンたう
)
にて
誰一人
(
たれひとり
)
指
(
ゆび
)
をさへるものなき
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
ですから、
036
吾々
(
われわれ
)
人間
(
にんげん
)
としては、
037
何程
(
なにほど
)
教理
(
けうり
)
を
申上
(
まをしあ
)
げた
処
(
ところ
)
で、
038
いやと
一口
(
ひとくち
)
首
(
くび
)
をお
振
(
ふ
)
りになつたが
最後
(
さいご
)
、
039
もはや
申上
(
まをしあ
)
げる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい』
040
ケールス姫
『
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つたことで
御座
(
ござ
)
いますなア。
041
何
(
なん
)
とかよい
分別
(
ふんべつ
)
が
貴方
(
あなた
)
にありますまいか。
042
かうして
互
(
たがひ
)
に
親
(
した
)
しうなつた
二人
(
ふたり
)
の
仲
(
なか
)
、
043
何
(
なに
)
も
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
りますまい。
044
どうぞ
貴方
(
あなた
)
のお
考
(
かんが
)
へを、
045
包
(
つつ
)
まず
匿
(
かく
)
さず
私
(
わたくし
)
に
打
(
う
)
ち
明
(
あ
)
けて
下
(
くだ
)
さいませ』
046
竜雲
『
何
(
なん
)
と
仰
(
あふ
)
せられても、
047
是
(
これ
)
許
(
ばか
)
りは
口
(
くち
)
に
頬張
(
ほほば
)
つて、
048
如何
(
いか
)
に
親密
(
しんみつ
)
な
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
にでも
申上
(
まをしあ
)
げる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ』
049
ケールス姫
『
竜雲
(
りううん
)
さま、
050
貴方
(
あなた
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
冷静
(
れいせい
)
な
方
(
かた
)
ですなア。
051
未
(
ま
)
だ
私
(
わたくし
)
の
心
(
こころ
)
が
分
(
わか
)
らないのですか、
052
イヤ
信用
(
しんよう
)
して
下
(
くだ
)
さらないのですか』
053
竜雲
『
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
信用
(
しんよう
)
せない
処
(
どころ
)
か、
054
貴女
(
あなた
)
より
外
(
ほか
)
に、
055
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
私
(
わたし
)
の
力
(
ちから
)
になつて
呉
(
く
)
れる
方
(
かた
)
はありませぬ。
056
私
(
わたし
)
は
貴女
(
あなた
)
の
為
(
た
)
めには
一
(
ひと
)
つより
無
(
な
)
い
生命
(
いのち
)
迄
(
まで
)
も
捧
(
ささ
)
げて
居
(
を
)
ります』
057
ケールス姫
『それなら
何故
(
なぜ
)
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さらないのですか』
058
竜雲
『
是
(
これ
)
計
(
ばか
)
りは
暫
(
しばら
)
く
御
(
ご
)
猶予
(
いうよ
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
059
ケールス姫
『ハイ、
060
宜敷
(
よろし
)
う
御座
(
ござ
)
います、
061
貴方
(
あなた
)
はタールチンの
女房
(
にようばう
)
キングス
姫
(
ひめ
)
には
何
(
なん
)
でも
仰有
(
おつしや
)
る
癖
(
くせ
)
に、
062
信用
(
しんよう
)
のない
私
(
わたくし
)
にはお
隠
(
かく
)
しになるのでせう、
063
宜敷
(
よろし
)
う
御座
(
ござ
)
います。
064
それならそれで
私
(
わたくし
)
にも
一
(
ひと
)
つの
考
(
かんが
)
へが
御座
(
ござ
)
いますから……』
065
竜雲
『さう
悪気
(
わるぎ
)
を
廻
(
まは
)
されては
大変
(
たいへん
)
に
困
(
こま
)
るぢやありませぬか。
066
どうぞ
冷静
(
れいせい
)
に
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
をあてて、
067
今日
(
こんにち
)
の
私
(
わたし
)
の
地位
(
ちゐ
)
と
境遇
(
きやうぐう
)
とをお
考
(
かんが
)
へ
下
(
くだ
)
さいませ』
068
ケールス姫
『
貴方
(
あなた
)
は
今日
(
こんにち
)
の
地位
(
ちゐ
)
がお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らないのですか。
069
そりやさうでせう。
070
私
(
わたくし
)
だつて
貴方
(
あなた
)
を
真
(
しん
)
の
夫
(
をつと
)
と
仰
(
あふ
)
ぎ、
071
この
錫蘭
(
セイロン
)
の
島
(
しま
)
をして、
072
ウラル
教
(
けう
)
の
教
(
をしへ
)
に
立替
(
たてか
)
へ、
073
島民
(
たうみん
)
を
安
(
やす
)
く
楽
(
たの
)
しく
暮
(
くら
)
さしてやりたいのは
胸
(
むね
)
に
一
(
いつ
)
ぱいで
御座
(
ござ
)
います。
074
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
貴方
(
あなた
)
が、
075
エツトキング、
076
サーチ、
077
エール、
078
アイ、
079
シエール、
080
ビーベツトになると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
一
(
ひと
)
つ
考
(
かんが
)
へものです。
081
うつかり
遣
(
や
)
り
損
(
そこな
)
ふものなら、
082
それこそ、
083
大変
(
たいへん
)
ですからなア』
084
竜雲
『
第一
(
だいいち
)
邪魔
(
じやま
)
になるのはタールチン、
085
シルレング、
086
ユーズの
頑固派
(
ぐわんこは
)
です。
087
あれを
何
(
なん
)
とかせなくては、
088
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
目的
(
もくてき
)
は
達成
(
たつせい
)
する
事
(
こと
)
は
不可能
(
ふかのう
)
です』
089
ケールス姫
『そんな
事
(
こと
)
は
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
には
及
(
およ
)
びますまい。
090
併
(
しか
)
しながら
蟻穴
(
ぎけつ
)
堤防
(
ていばう
)
を
崩
(
くづ
)
すとか
云
(
い
)
つて、
091
些
(
ちつ
)
とも
油断
(
ゆだん
)
はなりますまい』
092
竜雲
(
りううん
)
は、
093
ケールス
姫
(
ひめ
)
の
耳
(
みみ
)
に
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せ、
094
竜雲
『エールベツト、
095
キング、
096
シヤームン、
097
デー、
098
イツクス、
099
バー』
100
と
囁
(
ささや
)
いた。
101
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
は
如何
(
いか
)
なる
意義
(
いぎ
)
を
含
(
ふく
)
んで
居
(
ゐ
)
るか、
102
読者
(
どくしや
)
の
判断
(
はんだん
)
に
任
(
まか
)
す
事
(
こと
)
とする。
103
かかる
処
(
ところ
)
へ、
104
ベールは
泥
(
どろ
)
まぶれとなつて
慌
(
あわただ
)
しく
馳帰
(
はせかへ
)
り、
105
ベール
『モシモシ、
106
ケールス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます。
107
大変
(
たいへん
)
な、
108
プロテスタントが
現
(
あら
)
はれ、
109
竜雲
(
りううん
)
さまをベツトすると
云
(
い
)
つて、
110
計劃
(
けいくわく
)
おさおさ
怠
(
をこた
)
りなき
有様
(
ありさま
)
です。
111
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
れば、
112
今
(
いま
)
に
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
113
ケールス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
身辺
(
しんぺん
)
が
危
(
あやふ
)
くなりますから、
114
命
(
いのち
)
からがら
御
(
ご
)
注進
(
ちゆうしん
)
に
参
(
まゐ
)
りました』
115
ケールス
姫
(
ひめ
)
『シルレング、
116
ユーズの
両人
(
りやうにん
)
が、
117
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
をベツトせむと
云
(
い
)
ふ
計劃
(
けいくわく
)
を
廻
(
めぐ
)
らして
居
(
ゐ
)
るのでは
無
(
な
)
いか』
118
ベール
『ハイ、
119
其
(
その
)
通
(
とほ
)
りで
御座
(
ござ
)
います。
120
貴女
(
あなた
)
さまの
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
により、
121
蓮
(
はす
)
の
花見
(
はなみ
)
に
事
(
こと
)
よせ、
122
娑羅
(
さら
)
双樹
(
さうじゆ
)
の
森
(
もり
)
に
両人
(
りやうにん
)
を
誘
(
おび
)
き
出
(
だ
)
し、
123
彼
(
かれ
)
が
心底
(
しんてい
)
を
探
(
さぐ
)
りみたる
処
(
ところ
)
、
124
蛙
(
かはづ
)
は
口
(
くち
)
から、
125
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
つて
喋
(
しやべ
)
つて
仕舞
(
しま
)
ひました。
126
さうして
私
(
わたくし
)
を
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
間者
(
まはしもの
)
に
相違
(
さうゐ
)
ないと
云
(
い
)
つて、
127
両人
(
りやうにん
)
は
双方
(
さうはう
)
より
私
(
わたくし
)
に
飛
(
と
)
びかかり、
128
ベツトせむと
息巻
(
いきま
)
き
来
(
きた
)
るを、
129
死物狂
(
しにものぐるひ
)
の
力
(
ちから
)
を
出
(
だ
)
して
格闘
(
かくとう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
130
漸
(
やうや
)
く
夜
(
よ
)
に
紛
(
まぎ
)
れてここ
迄
(
まで
)
逃
(
に
)
げて
帰
(
かへ
)
りました。
131
あなた
方
(
がた
)
も
斯様
(
かやう
)
な
処
(
ところ
)
にお
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばしては、
132
生命
(
いのち
)
が
危
(
あやふ
)
く
御座
(
ござ
)
います。
133
どうぞ
早
(
はや
)
く
神地
(
かうぢ
)
の
館
(
やかた
)
にお
引
(
ひ
)
き
取
(
と
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
134
何時
(
いつ
)
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
は
徒党
(
とたう
)
を
組
(
く
)
んで
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
るかも
図
(
はか
)
られませぬ』
135
竜雲
(
りううん
)
『それは
大変
(
たいへん
)
だ。
136
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
一先
(
ひとま
)
づ
城内
(
じやうない
)
へ
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
と
致
(
いた
)
しませう』
137
ケールス
姫
(
ひめ
)
『
別
(
べつ
)
に
驚
(
おどろ
)
くには
及
(
およ
)
びますまい。
138
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
が
吾々
(
われわれ
)
の
信仰
(
しんかう
)
をお
認
(
みと
)
めになつた
以上
(
いじやう
)
はキツト
御
(
ご
)
保護
(
ほご
)
をして
下
(
くだ
)
さいませう。
139
かう
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
に
騒
(
さわ
)
がないやう
胆力
(
たんりよく
)
を
練
(
ね
)
るために
平常
(
へいじやう
)
から
信仰
(
しんかう
)
を
励
(
はげ
)
んで
居
(
ゐ
)
るのではありませぬか。
140
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
、
141
もしシルレング、
142
ユーズの
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
るとも、
143
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
貴方
(
あなた
)
の
霊力
(
れいりよく
)
をもつて
打
(
う
)
ち
懲
(
こら
)
してやれば、
144
すぐ
埒
(
らち
)
のつく
事
(
こと
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬか』
145
と
迷信
(
めいしん
)
しきつたるケールス
姫
(
ひめ
)
は、
146
竜雲
(
りううん
)
の
神力
(
しんりき
)
を
過信
(
くわしん
)
して
平然
(
へいぜん
)
と
構
(
かま
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
147
ベール『モシモシ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
148
何程
(
なにほど
)
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
があればとて、
149
非
(
ひ
)
は
理
(
り
)
に
勝
(
か
)
たず、
150
理
(
り
)
は
法
(
はふ
)
に
勝
(
か
)
たず、
151
法
(
はふ
)
は
権
(
けん
)
に
勝
(
か
)
たずと
云
(
い
)
ふことが
御座
(
ござ
)
います。
152
身
(
み
)
に
寸鉄
(
すんてつ
)
も
帯
(
お
)
びざる
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
に
対
(
たい
)
し
数多
(
あまた
)
の
反逆者
(
はんぎやくしや
)
共
(
ども
)
が
凶器
(
きやうき
)
を
携
(
たづさ
)
へ
闖入
(
ちんにふ
)
し
来
(
きた
)
る
事
(
こと
)
あらば、
153
時
(
とき
)
と
場合
(
ばあひ
)
に
寄
(
よ
)
つては、
154
いかなる
運命
(
うんめい
)
に
陥
(
おちい
)
るやも
分
(
わか
)
りませぬ。
155
又
(
また
)
貴女
(
あなた
)
と
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
との、
156
トツチケーアイの
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
を、
157
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
は
看破
(
かんぱ
)
して
居
(
ゐ
)
ますから、
158
何時
(
いつ
)
サガレン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に、
159
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
不在
(
ふざい
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
上申
(
じやうしん
)
するやも
分
(
わか
)
りませぬ。
160
さうならば、
161
ますますもつて
事
(
こと
)
が
面倒
(
めんだう
)
となります
故
(
ゆゑ
)
、
162
どうぞ
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
此処
(
ここ
)
を
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
り、
163
お
館
(
やかた
)
へお
帰
(
かへ
)
りになつた
上
(
うへ
)
、
164
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
口
(
くち
)
より
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
向
(
むか
)
ひ、
165
シルレング、
166
ユーズの
一派
(
いつぱ
)
は、
167
クーデターを
企劃
(
きくわく
)
し、
168
日
(
ひ
)
ならず
館
(
やかた
)
へ
侵入
(
しんにふ
)
し
来
(
きた
)
るべければ、
169
早
(
はや
)
く
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
其
(
その
)
御
(
ご
)
処置
(
しよち
)
を
遊
(
あそ
)
ばすやうと、
170
申上
(
まをしあ
)
げて
下
(
くだ
)
さいませ。
171
先
(
さき
)
んずれば
人
(
ひと
)
を
制
(
せい
)
す、
172
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
ゐ
)
て
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
に
計
(
はか
)
られては
御
(
おん
)
身
(
み
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
、
173
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
身辺
(
しんぺん
)
も
気
(
き
)
づかはしければ、
174
何卒
(
どうぞ
)
ベールの
申上
(
まをしあ
)
げる
事
(
こと
)
をお
聞
(
き
)
きとどけの
程
(
ほど
)
を
願
(
ねがひ
)
上
(
あ
)
げ
奉
(
たてまつ
)
ります』
175
と
顔色
(
かほいろ
)
迄
(
まで
)
変
(
か
)
へて
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てた。
176
竜雲
(
りううん
)
は
顔色
(
かほいろ
)
をサツと
変
(
か
)
へ、
177
竜雲
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
178
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
一刻
(
いつこく
)
の
猶予
(
いうよ
)
もなりますまい。
179
サア
早
(
はや
)
く
帰城
(
きじやう
)
致
(
いた
)
しませう』
180
と
惶
(
あわ
)
てて
座
(
ざ
)
を
立
(
た
)
つ。
181
ケールス
姫
(
ひめ
)
も
稍
(
やや
)
不安
(
ふあん
)
の
念
(
ねん
)
にかられながら、
182
城内
(
じやうない
)
さして
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
り、
183
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
艶姿
(
えんし
)
を
隠
(
かく
)
したり。
184
(
大正一一・九・二一
旧八・一
加藤明子
録)
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