霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第36巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 天意か人意か
第1章 二教対立
第2章 川辺の館
第3章 反間苦肉
第4章 無法人
第5章 バリーの館
第6章 意外な答
第7章 蒙塵
第8章 悪現霊
第2篇 松浦の岩窟
第9章 濃霧の途
第10章 岩隠れ
第11章 泥酔
第12章 無住居士
第13章 恵の花
第14章 歎願
第3篇 神地の暗雲
第15章 眩代思潮
第16章 門雀
第17章 一目翁
第18章 心の天国
第19章 紅蓮の舌
第4篇 言霊神軍
第20章 岩窟の邂逅
第21章 火の洗礼
第22章 春の雪
第23章 雪達磨
第24章 三六合
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい|
サブスク
のお知らせ
霊界物語
>
海洋万里(第25~36巻)
>
第36巻(亥の巻)
> 第1篇 天意か人意か > 第4章 無法人
<<< 反間苦肉
(B)
(N)
バリーの館 >>>
第四章
無法人
(
むはふにん
)
〔九九二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻
篇:
第1篇 天意か人意か
よみ(新仮名遣い):
てんいかじんいか
章:
第4章 無法人
よみ(新仮名遣い):
むほうにん
通し章番号:
992
口述日:
1922(大正11)年09月21日(旧08月1日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
左守のタールチン夫婦はサガレン王派であり、竜雲の横暴を快く思っていなかった。なんとかしてケールス姫の側から排除しようと相談している。すでに王派の忠臣・ユーズとシルレングは竜雲のための獄に投ぜられてしまっていた。
タールチンの妻・キングス姫は、実は竜雲から艶書を受け取っていた。タールチンはこれを利用して竜雲をおびき寄せ、亡き者にしようと画策した。
キングス姫は竜雲に色よい返事の内容の手紙を書き、藤の森に竜雲をおびき寄せた。タールチンは森の中に落とし穴を掘って竜雲を待っていた。はたして、竜雲はのこのこと夜中に森にやってきて落とし穴にはまり、タールチンに生き埋めにされてしまった。
このとき偶然エームスは藤の森に月をめでに二三人の部下と共にやってきていた。エームスは落とし穴を埋めたやわらかい土に足を踏み込んでしまい、下に誰かが埋められていることに気付いた。
エームスたちが穴を掘って助け上げてみれば、それは日ごろ敵対している竜雲であった。エームスは自分が命を助けたのは竜雲だと知って後悔した。竜雲はエームスに軽く礼を言うと、城に帰ったら自分の居間に来るようにと伝えてさっさと先に帰ってしまった。
エームスはやや不安にかられて竜雲の居間を訪ねた。竜雲は、右守の役職にあり城中きってのサガレン王派であるエームスを疎んじており、この機に追い落としてしまおうと考えていた。
竜雲はエームスを反逆者呼ばわりして捕り手に捕えさせ、獄につないでしまった。また竜雲を生き埋めにした左守のタールチンとキングス姫夫婦も投獄してしまった。
何とかこの難を逃れたサールは、ゼムとエールの館に駆け込み、竜雲が重鎮たちを次々に投獄してしまったことを報告した。ゼムとエールはすぐさまサガレン王の館に参じて竜雲の暴状を上奏した。
サガレン王は大いに驚いて、ケールス姫と竜雲を召し出した。サガレン王は怒りはなはだしく、ケールス姫と竜雲に、この国からの追放を言い渡した。
姫と竜雲はまったく動じず、竜雲は逆にこのような暴言を吐く王は発狂したのだと言い放ち、近習たちに王を拘束するようにと命じた。王は竜雲の配下たちによって捕えられ、座敷牢につながれてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-05 15:40:56
OBC :
rm3604
愛善世界社版:
31頁
八幡書店版:
第6輯 594頁
修補版:
校定版:
32頁
普及版:
15頁
初版:
ページ備考:
001
神地
(
かうぢ
)
の
都
(
みやこ
)
に
程
(
ほど
)
遠
(
とほ
)
からぬ、
002
青木
(
あをき
)
ケ
岡
(
をか
)
の
麓
(
ふもと
)
に
館
(
やかた
)
を
構
(
かま
)
へたタールチンの
奥座敷
(
おくざしき
)
には、
003
妻
(
つま
)
のキングス
姫
(
ひめ
)
と
共
(
とも
)
にヒソビソ
話
(
ばなし
)
が
始
(
はじ
)
まつて
居
(
ゐ
)
る。
004
タールチン『
何
(
なん
)
と
御
(
お
)
館
(
やかた
)
には
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
たものぢやないか。
005
ケールス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
を
竜雲
(
りううん
)
の
奴
(
やつ
)
巧
(
うま
)
く
取
(
と
)
り
込
(
こ
)
み、
006
横暴
(
わうぼう
)
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
募
(
つの
)
り、
007
サガレン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
を
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
恰
(
あだか
)
も
配下
(
はいか
)
の
如
(
ごと
)
き
態度
(
たいど
)
である。
008
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
放任
(
はうにん
)
しおかば、
009
神地城
(
かうぢじやう
)
も、
010
シロの
国
(
くに
)
も
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
、
011
滅茶
(
めつちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
瓦解
(
ぐわかい
)
し
大騒乱
(
だいさうらん
)
をかもすは、
012
火
(
ひ
)
を
見
(
み
)
るよりも
明
(
あきら
)
かであらう。
013
今
(
いま
)
にして
何
(
なん
)
とか
能
(
よ
)
き
手段
(
しゆだん
)
を
廻
(
めぐ
)
らし、
014
彼
(
か
)
の
怪物
(
くわいぶつ
)
を
排除
(
はいじよ
)
せなくては、
015
王
(
わう
)
さまの
御
(
ご
)
身辺
(
しんぺん
)
も
案
(
あん
)
じやられる。
016
何
(
な
)
んとかそなたに
良
(
よ
)
い
考
(
かんが
)
へはなからうかな』
017
キングス
姫
(
ひめ
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
て
来
(
き
)
ました。
018
バラモン
教
(
けう
)
を
以
(
もつ
)
て
民
(
たみ
)
を
治
(
をさ
)
むる
此
(
この
)
御国
(
みくに
)
へ、
019
宗旨
(
しうし
)
の
違
(
ちが
)
つたウラル
教
(
けう
)
を
植
(
う
)
ゑ
付
(
つ
)
けられては、
020
到底
(
たうてい
)
紛乱
(
ふんらん
)
の
絶
(
た
)
える
間
(
ま
)
は
御座
(
ござ
)
いますまい。
021
それに
付
(
つ
)
けても、
022
竜雲
(
りううん
)
の
悪僧
(
あくそう
)
、
023
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
妖術
(
えうじゆつ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
024
ケールス
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
心
(
こころ
)
を
奪
(
うば
)
ひ、
025
今
(
いま
)
は
誰
(
たれ
)
恐
(
おそ
)
るるものもなく、
026
無法
(
むはふ
)
の
限
(
かぎ
)
りを
尽
(
つく
)
す
憎
(
につく
)
き
奴
(
やつ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
027
何
(
な
)
んとか
之
(
これ
)
は
致
(
いた
)
さねばなりますまい』
028
タールチン
『あの
忠良
(
ちうりやう
)
なるシルレング、
029
ユーズなども
竜雲
(
りううん
)
のために
獄
(
ごく
)
に
投
(
とう
)
ぜられ、
030
今
(
いま
)
は
不辜
(
ふこ
)
の
罪
(
つみ
)
[
※
初版・愛世版では「不辜の罪」だが、校定版・八幡版では「無辜の罪」になっている。
]
に
悩
(
なや
)
んでゐる。
031
どうかして
之
(
これ
)
を
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
さむと、
032
千苦
(
せんく
)
万慮
(
ばんりよ
)
すれ
共
(
ども
)
、
033
ケールス
姫
(
ひめ
)
の
疑
(
うたが
)
ひ
深
(
ふか
)
く、
034
竜雲
(
りううん
)
の
勢
(
いきほ
)
ひ
侮
(
あなど
)
る
可
(
べか
)
らず。
035
吾々
(
われわれ
)
左守
(
さもり
)
の
神
(
かみ
)
としても、
036
之
(
これ
)
を
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのは、
037
時世
(
ときよ
)
時節
(
じせつ
)
とはいひ
乍
(
なが
)
ら
実
(
じつ
)
に
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
である。
038
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にしておけば
善人
(
ぜんにん
)
は
悉
(
ことごと
)
く
竜雲
(
りううん
)
の
毒舌
(
どくぜつ
)
にかかり、
039
残
(
のこ
)
らず
亡
(
ほろ
)
ぼされ、
040
悪人
(
あくにん
)
のみ
跋扈
(
ばつこ
)
跳梁
(
てうりやう
)
して、
041
遂
(
つひ
)
には
竜雲
(
りううん
)
は
如何
(
いか
)
なることを
仕出
(
しで
)
かすかも
知
(
し
)
れない。
042
彼
(
かれ
)
は
決
(
けつ
)
して、
043
現在
(
げんざい
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
甘
(
あま
)
んずる
者
(
もの
)
ではない。
044
野心
(
やしん
)
満々
(
まんまん
)
たる
怪物
(
くわいぶつ
)
であるから
先
(
ま
)
づ
大樹
(
たいじゆ
)
を
切
(
き
)
るに
先立
(
さきだ
)
ち
其
(
その
)
枝
(
えだ
)
を
切
(
き
)
る
如
(
ごと
)
く、
045
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
も
何時
(
いつ
)
如何
(
いか
)
なる
運命
(
うんめい
)
に
陥
(
おと
)
し
入
(
い
)
れらるるやも
計
(
はか
)
り
難
(
がた
)
い。
046
彼
(
かれ
)
を
誅伐
(
ちうばつ
)
するは、
047
今
(
いま
)
を
措
(
お
)
いて
他
(
た
)
にある
可
(
べか
)
らず、
048
どうだキングス
姫
(
ひめ
)
、
049
そなたは
竜雲
(
りううん
)
より
艶書
(
えんしよ
)
を
受取
(
うけと
)
つたさうぢやなア』
050
キングス
姫
(
ひめ
)
は
夫
(
をつと
)
の
言葉
(
ことば
)
にやや
顔
(
かほ
)
を
赤
(
あか
)
らめ、
051
キングス姫
『ハイ、
052
仰
(
あふ
)
せの
通
(
とほ
)
りで
御座
(
ござ
)
います。
053
余
(
あま
)
りの
事
(
こと
)
で
申上
(
まをしあ
)
げやうもなく、
054
心
(
こころ
)
の
内
(
うち
)
にて
大変
(
たいへん
)
に
煩悶
(
はんもん
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りました。
055
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
056
あなた
様
(
さま
)
が
御存
(
ごぞん
)
じの
上
(
うへ
)
は
何
(
なに
)
をか
隠
(
かく
)
しませう。
057
之
(
これ
)
を
御覧
(
ごらん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
058
と
差出
(
さしだ
)
す
一通
(
いつつう
)
の
艶書
(
えんしよ
)
、
059
タールチンは
手早
(
てばや
)
く
受取
(
うけと
)
り、
060
押開
(
おしひら
)
いて
読
(
よ
)
み
下
(
くだ
)
せば
左
(
さ
)
の
通
(
とほ
)
りである。
061
『
竜雲
(
りううん
)
よりキングス
姫
(
ひめ
)
に
私
(
ひそ
)
かに
此
(
こ
)
の
手紙
(
てがみ
)
を
差上
(
さしあ
)
げる。
062
此
(
こ
)
の
手紙
(
てがみ
)
を
夫
(
をつと
)
にお
見
(
み
)
せになる
様
(
やう
)
なことがあらば、
063
貴女
(
あなた
)
の
生命
(
いのち
)
はなくなりますぞ。
064
又
(
また
)
決
(
けつ
)
して
他言
(
たごん
)
はなりませぬ。
065
竜雲
(
りううん
)
は
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
登場
(
とうじやう
)
の
際
(
さい
)
、
066
一目
(
ひとめ
)
お
姿
(
すがた
)
を
拝
(
はい
)
してより、
067
恋慕
(
れんぼ
)
の
心
(
こころ
)
禁
(
きん
)
じ
難
(
がた
)
く、
068
朝夕
(
てうせき
)
煩悶
(
はんもん
)
の
鬼
(
おに
)
に
捉
(
とら
)
へられ、
069
青息
(
あをいき
)
吐息
(
といき
)
をついて
居
(
を
)
ります。
070
就
(
つい
)
ては
竜雲
(
りううん
)
は
近
(
ちか
)
き
将来
(
しやうらい
)
に
於
(
おい
)
て
或
(
ある
)
目的
(
もくてき
)
を
達
(
たつ
)
し、
071
シロの
島国
(
しまぐに
)
のキングと
相成
(
あひな
)
る
考
(
かんが
)
へなれば、
072
今
(
いま
)
の
内
(
うち
)
に
夫
(
をつと
)
を
棄
(
す
)
て、
073
表面
(
へうめん
)
独身
(
どくしん
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
074
竜雲
(
りううん
)
の
隠
(
かく
)
し
妻
(
つま
)
となつて
貰
(
もら
)
ひたい。
075
又
(
また
)
あなたの
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
とあれば、
076
タールチンを
従前
(
じうぜん
)
の
如
(
ごと
)
く
重
(
おも
)
く
用
(
もち
)
ゐるであらう。
077
貴女
(
あなた
)
の
一身
(
いつしん
)
の
浮沈
(
ふちん
)
、
078
夫
(
をつと
)
の
存亡
(
そんばう
)
に
関
(
くわん
)
する
一大事
(
いちだいじ
)
ですから、
079
何卒
(
なにとぞ
)
色好
(
いろよ
)
き
返詞
(
へんじ
)
を
賜
(
たま
)
はり
度
(
た
)
く、
080
指折
(
ゆびを
)
り
数
(
かぞ
)
へて、
081
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
返詞
(
へんじ
)
を
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
ります。
082
左様
(
さやう
)
なら……』
083
と
書
(
か
)
き
記
(
しる
)
してあつた。
084
タールチンはニツコと
笑
(
わら
)
ひ、
085
タールチン
『アハヽヽヽ、
086
馬鹿
(
ばか
)
な
奴
(
やつ
)
だなア。
087
之
(
これ
)
さへあれば、
088
面白
(
おもしろ
)
い、
089
どんな
計略
(
けいりやく
)
でも
出来
(
でき
)
るであらう……コレ、
090
キングス
姫
(
ひめ
)
……』
091
と
側近
(
そばちか
)
く
耳
(
みみ
)
に
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せ、
092
何事
(
なにごと
)
か
囁
(
ささや
)
けば、
093
キングス
姫
(
ひめ
)
は
莞爾
(
くわんじ
)
として
打諾
(
うちうなづ
)
き、
094
キングス姫
『
仰
(
あふ
)
せに
従
(
したが
)
ひ
美事
(
みごと
)
成功
(
せいこう
)
させて
見
(
み
)
せませう』
095
と
稍
(
やや
)
確信
(
かくしん
)
あるものの
如
(
ごと
)
く
肯
(
うなづ
)
いた。
096
それより
二日目
(
ふつかめ
)
の
夕方
(
ゆふがた
)
、
097
竜雲
(
りううん
)
の
側
(
そば
)
へキングス
姫
(
ひめ
)
の
手紙
(
てがみ
)
がそツと
届
(
とど
)
いた。
098
竜雲
(
りううん
)
は
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
と
打喜
(
うちよろこ
)
び
乍
(
なが
)
ら
封
(
ふう
)
押切
(
おしき
)
つてよくよく
見
(
み
)
れば、
099
左
(
さ
)
の
如
(
ごと
)
き
文面
(
ぶんめん
)
が
記
(
しる
)
してある。
100
『
竜雲
(
りううん
)
さま、
101
妾
(
わらは
)
のやうな
不束
(
ふつつか
)
な
女
(
をんな
)
に、
102
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
生神
(
いきがみ
)
さまより、
103
懇切
(
こんせつ
)
なる
御
(
お
)
手紙
(
てがみ
)
を
頂
(
いただ
)
きましたことは、
104
妾
(
わらは
)
身
(
み
)
に
取
(
と
)
つて
一生
(
いつしやう
)
の
光栄
(
くわうえい
)
で
御座
(
ござ
)
います。
105
早速
(
さつそく
)
御
(
ご
)
返詞
(
へんじ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げたいと
存
(
ぞん
)
じて
居
(
を
)
りましたが、
106
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても、
107
夫
(
をつと
)
ある
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
108
御
(
ご
)
返詞
(
へんじ
)
を
書
(
か
)
きます
暇
(
いとま
)
もなく、
109
やうやう
今日
(
こんにち
)
、
110
夫
(
をつと
)
タールチンが
小糸
(
こいと
)
の
館
(
やかた
)
に
参
(
まゐ
)
りました
不在中
(
ふざいちゆう
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
111
此
(
この
)
手紙
(
てがみ
)
を
認
(
したた
)
めました。
112
夫
(
をつと
)
は
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
帰
(
かへ
)
りますまい。
113
就
(
つ
)
いては
詳
(
くは
)
しき
御
(
お
)
話
(
はな
)
しを
承
(
うけたま
)
はりたく、
114
又
(
また
)
妾
(
わらは
)
の
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
も
申上
(
まをしあ
)
げたう
御座
(
ござ
)
いますから、
115
どうぞ
藤
(
ふじ
)
の
森
(
もり
)
の
森林
(
しんりん
)
迄
(
まで
)
、
116
万障
(
ばんしやう
)
繰合
(
くりあは
)
せ、
117
明後晩
(
みやうごばん
)
御
(
お
)
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませぬか。
118
もしも
御
(
お
)
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さることならば、
119
此
(
この
)
使
(
つかひ
)
に
厳封
(
げんぷう
)
して、
120
返詞
(
へんじ
)
の
御
(
お
)
手紙
(
てがみ
)
を
頂
(
いただ
)
きたう
御座
(
ござ
)
います。
121
吾
(
わが
)
家
(
や
)
にてお
目
(
め
)
にかかるのはいと
易
(
やす
)
き
事
(
こと
)
なれ
共
(
ども
)
、
122
数多
(
あまた
)
の
人々
(
ひとびと
)
の
出入
(
しゆつにふ
)
多
(
おほ
)
く、
123
且
(
か
)
つ
夫
(
をつと
)
の
不在中
(
ふざいちゆう
)
にあなたと
御
(
お
)
話
(
はな
)
しをしてゐたと
言
(
い
)
はれては、
124
世間体
(
せけんてい
)
も
何
(
なん
)
となく
面白
(
おもしろ
)
からず
存
(
ぞん
)
じます
故
(
ゆゑ
)
、
125
何卒
(
なにとぞ
)
藤
(
ふぢ
)
の
森
(
もり
)
の
頂上
(
いただき
)
まで
御
(
ご
)
足労
(
そくらう
)
を、
126
強
(
た
)
つて
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申上
(
まをしあ
)
げたう
御座
(
ござ
)
います』
127
と
記
(
しる
)
しあるを
見
(
み
)
て
竜雲
(
りううん
)
は
大
(
おほ
)
いに
喜
(
よろこ
)
び、
128
直
(
ただ
)
ちに
返書
(
へんしよ
)
を
認
(
したた
)
め、
129
使
(
つかひ
)
の
男
(
をとこ
)
に
渡
(
わた
)
した。
130
タールチンは
藤
(
ふぢ
)
の
森
(
もり
)
の
或
(
ある
)
処
(
ところ
)
に
陥穽
(
おとしあな
)
を
掘
(
ほ
)
り、
131
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
落葉
(
おちば
)
を
沢山
(
たくさん
)
に
被
(
かぶ
)
せ、
132
竜雲
(
りううん
)
の
来
(
きた
)
るを
今
(
いま
)
や
遅
(
おそ
)
しと
木
(
こ
)
かげに
潜
(
ひそ
)
んで
待
(
ま
)
つてゐた。
133
竜雲
(
りううん
)
は
斯
(
か
)
かる
企
(
たく
)
みのあるとは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
134
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
悲
(
かな
)
しさ、
135
得意然
(
とくいぜん
)
として、
136
城内
(
じやうない
)
をソツと
脱
(
ぬ
)
け
出
(
い
)
で
面部
(
めんぶ
)
を
深
(
ふか
)
く
包
(
つつ
)
み、
137
藤
(
ふぢ
)
の
森
(
もり
)
の
頂
(
いただ
)
きさして、
138
月
(
つき
)
照
(
て
)
る
山路
(
やまみち
)
を
登
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
139
細
(
ほそ
)
い
路
(
みち
)
の
中央
(
まんなか
)
に
深
(
ふか
)
き
陥穽
(
おとしあな
)
のあるのも
知
(
し
)
らず、
140
悠々
(
いういう
)
として、
141
キングス
姫
(
ひめ
)
に
会
(
あ
)
はむと
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
途端
(
とたん
)
、
142
踏
(
ふ
)
み
外
(
はづ
)
して、
143
陥穽
(
おとしあな
)
にバツサリと
落込
(
おちこ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
144
タールチンは
物
(
もの
)
をも
言
(
い
)
はず、
145
土
(
つち
)
をかきあつめ、
146
陥穽
(
おとしあな
)
を
埋
(
うづ
)
めて
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
吾
(
わが
)
家
(
や
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
147
此
(
この
)
時
(
とき
)
エームスは
藤
(
ふぢ
)
の
森
(
もり
)
の
山上
(
さんじやう
)
に
月
(
つき
)
を
賞
(
しやう
)
しつつ、
148
二三
(
にさん
)
の
部下
(
ぶか
)
と
共
(
とも
)
に
登
(
のぼ
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
149
夜中頃
(
よなかごろ
)
帰
(
かへ
)
りに
就
(
つ
)
き、
150
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
其
(
その
)
陥穽
(
おとしあな
)
を
踏
(
ふ
)
み
外
(
はづ
)
し、
151
自分
(
じぶん
)
も
亦
(
また
)
それに
陥
(
おちい
)
つた。
152
されど
俄
(
にはか
)
に
柔
(
やはら
)
かき
土
(
つち
)
を
以
(
もつ
)
て
埋
(
うづ
)
めたることとて
引
(
ひき
)
ならしたる
土
(
つち
)
も
四五
(
しご
)
尺
(
しやく
)
許
(
ばか
)
りゴソツと
落込
(
おちこ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
153
其
(
その
)
時
(
とき
)
何
(
なん
)
だか、
154
足許
(
あしもと
)
に
暖
(
あたた
)
かい
毛
(
け
)
のやうな
物
(
もの
)
が
触
(
さは
)
つた
様
(
やう
)
な
感
(
かん
)
じがした。
155
エームスは
二三
(
にさん
)
の
部下
(
ぶか
)
と
共
(
とも
)
に、
156
鋤鍬
(
すきくは
)
を
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
より
持
(
も
)
ち
来
(
きた
)
らせ、
157
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら、
158
何人
(
なにびと
)
か
生埋
(
いきう
)
めにされて
居
(
を
)
るならむ、
159
救
(
すく
)
ひ
与
(
あた
)
へむと、
160
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
土
(
つち
)
を
掘
(
ほ
)
り
上
(
あ
)
げ、
161
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
して
見
(
み
)
れば
豈計
(
あにはか
)
らむや、
162
日頃
(
ひごろ
)
城中
(
じやうちう
)
に
暴威
(
ばうゐ
)
を
振
(
ふる
)
ふウラル
教
(
けう
)
の
竜雲
(
りううん
)
なりとは。
163
エームスは
心
(
こころ
)
の
内
(
うち
)
にて……あゝ
失敗
(
しま
)
つた
奴
(
やつ
)
を
助
(
たす
)
けたものだ、
164
こんな
事
(
こと
)
なら、
165
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
すぢやなかつたに……と
後悔
(
こうくわい
)
すれ
共
(
ども
)
、
166
最早
(
もはや
)
及
(
およ
)
ばなかつた。
167
竜雲
(
りううん
)
は
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
されて、
168
竜雲
『
危
(
あやふ
)
い
所
(
ところ
)
を
助
(
たす
)
けてくれた、
169
恩人
(
おんじん
)
は
何人
(
なにびと
)
なりや?』
170
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
171
顔
(
かほ
)
を
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
み、
172
竜雲
『アヽお
前
(
まへ
)
はエームスか、
173
能
(
よ
)
くマア
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れた。
174
何
(
いづ
)
れ
帰城
(
きじやう
)
の
上
(
うへ
)
、
175
何分
(
なにぶん
)
の
沙汰
(
さた
)
を
致
(
いた
)
すから、
176
何処
(
どこ
)
へも
行
(
ゆ
)
かず
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れよ』
177
と
云
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
て、
178
早々
(
さうさう
)
藤
(
ふぢ
)
の
森
(
もり
)
の
岡
(
をか
)
を
下
(
くだ
)
りて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
179
○
180
エームスはサール
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
の
部下
(
ぶか
)
と
共
(
とも
)
に、
181
竜雲
(
りううん
)
の
居間
(
ゐま
)
に、
182
稍
(
やや
)
不安
(
ふあん
)
の
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られ
乍
(
なが
)
ら、
183
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けてやつたのだから、
184
決
(
けつ
)
して
不足
(
ふそく
)
は
云
(
い
)
はうまい、
185
何
(
なに
)
かキツと
詞
(
ことば
)
の
礼
(
れい
)
位
(
くらゐ
)
は
云
(
い
)
ふのだらうと、
186
腹
(
はら
)
をきめてやつて
来
(
き
)
たのである。
187
竜雲
(
りううん
)
は
心
(
こころ
)
の
内
(
うち
)
にて、
188
エームスの
吾
(
わが
)
生命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
つて
呉
(
く
)
れた
事
(
こと
)
に
就
(
つ
)
いては
好感情
(
かうかんじやう
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
189
されどエームスはサガレン
王
(
わう
)
の
右守
(
うもり
)
の
神
(
かみ
)
として
声名
(
せいめい
)
あり、
190
且
(
か
)
つバラモン
教
(
けう
)
の
熱心
(
ねつしん
)
なる
信者
(
しんじや
)
であつて、
191
常
(
つね
)
に
自分
(
じぶん
)
の
目
(
め
)
の
上
(
うへ
)
の
瘤
(
こぶ
)
として
憎
(
にく
)
んでゐた。
192
それ
故
(
ゆゑ
)
竜雲
(
りううん
)
は
此
(
この
)
機
(
き
)
を
逸
(
いつ
)
せず、
193
自分
(
じぶん
)
の
目的
(
もくてき
)
の
妨害
(
ばうがい
)
になる
者
(
もの
)
は
善悪
(
ぜんあく
)
に
係
(
かかは
)
らず、
194
何
(
いづ
)
れ
亡
(
ほろぼ
)
さねば
止
(
や
)
まぬと
云
(
い
)
ふ
悪心
(
あくしん
)
を
発揮
(
はつき
)
し、
195
言葉
(
ことば
)
厳
(
おごそ
)
かにエームスに
向
(
むか
)
つていふ。
196
竜雲
『
昨夜
(
さくや
)
は
危
(
あやふ
)
き
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けられ、
197
其
(
その
)
段
(
だん
)
は
竜雲
(
りううん
)
にとつても
感謝
(
かんしや
)
する
次第
(
しだい
)
である。
198
さり
乍
(
なが
)
ら
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
は、
199
タールチン、
200
キングス
姫
(
ひめ
)
等
(
ら
)
と
諜
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せ、
201
此
(
この
)
竜雲
(
りううん
)
を
始
(
はじ
)
め、
202
ケールス
姫
(
ひめ
)
、
203
サガレン
王
(
わう
)
をレース
[
※
初版・愛世版では「レース」だが、校定版・八幡版では「レツト」に直している。
]
、
204
ベツトせむとの
野心
(
やしん
)
を
抱
(
いだ
)
く
者
(
もの
)
たる
事
(
こと
)
は、
205
歴然
(
れきぜん
)
たる
事実
(
じじつ
)
であれば
見
(
み
)
せしめの
為
(
ため
)
、
206
汝
(
なんぢ
)
を
反逆罪
(
はんぎやくざい
)
に
定
(
さだ
)
むるに
依
(
よ
)
つて、
207
さう
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
したが
宜
(
よ
)
からう』
208
と
儼然
(
げんぜん
)
として
言
(
い
)
ひ
渡
(
わた
)
したるにぞ、
209
エームスは
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
竜雲
(
りううん
)
の
言葉
(
ことば
)
に
呆
(
あき
)
れ
返
(
かへ
)
り、
210
エームス
『
吾々
(
われわれ
)
を
反逆者
(
はんぎやくしや
)
とは
何
(
なに
)
を
証拠
(
しようこ
)
に
仰
(
あふ
)
せらるるや。
211
人命
(
じんめい
)
を
救助
(
きうじよ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
212
思
(
おも
)
ひもよらぬ
冤罪
(
ゑんざい
)
に
問
(
と
)
はるるとは
前代
(
ぜんだい
)
未聞
(
みもん
)
の
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
る。
213
竜雲
(
りううん
)
殿
(
どの
)
は
狂気
(
きやうき
)
めされたのではあるまいか』
214
と
気色
(
けしき
)
ばんで
詰
(
つ
)
めよるを、
215
竜雲
(
りううん
)
は
冷然
(
れいぜん
)
として
聞流
(
ききなが
)
し、
216
ワザと
作
(
つく
)
り
笑
(
わら
)
ひをし
乍
(
なが
)
ら、
217
竜雲
『アハヽヽヽ、
218
能
(
よ
)
くもマア
白
(
しら
)
ばくれたものだなア。
219
其
(
その
)
弁解
(
べんかい
)
は
後
(
のち
)
にゆつくり
聞
(
き
)
かう……ヤアヤア
者共
(
ものども
)
、
220
反逆人
(
はんぎやくにん
)
のエームスを
早
(
はや
)
く
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げ、
221
獄
(
ごく
)
に
投
(
とう
)
ぜよ!』
222
と
呼
(
よ
)
ばはつた。
223
かねて
待構
(
まちかま
)
へたる
数名
(
すうめい
)
の
捕手
(
とりて
)
は、
224
有無
(
うむ
)
を
言
(
い
)
はせずエームスを
引捕
(
ひきとら
)
へ、
225
直
(
ただ
)
ちに
暗黒
(
あんこく
)
なる
獄屋
(
ごくや
)
に
無理
(
むり
)
無体
(
むたい
)
に
投込
(
なげこ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
226
竜雲
(
りううん
)
とケールス
姫
(
ひめ
)
の
命令
(
めいれい
)
にて、
227
タールチン、
228
キングス
姫
(
ひめ
)
も
亦
(
また
)
同
(
おな
)
じ
運命
(
うんめい
)
の
下
(
もと
)
に
捉
(
とら
)
へられ、
229
獄舎
(
ごくしや
)
に
呻吟
(
しんぎん
)
する
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
となつて
了
(
しま
)
つたのである。
230
サールは
僅
(
わづか
)
に
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
のが
)
れ
直
(
ただ
)
ちにゼム、
231
エールの
館
(
やかた
)
に
駆
(
か
)
け
至
(
いた
)
つて、
232
其
(
その
)
実状
(
じつじやう
)
を
一々
(
いちいち
)
報告
(
はうこく
)
した。
233
ゼム、
234
エールはサールと
共
(
とも
)
に、
235
時
(
とき
)
をうつさずサガレン
王
(
わう
)
の
館
(
やかた
)
に
参
(
まゐ
)
り、
236
竜雲
(
りううん
)
が
暴状
(
ばうじやう
)
を
陳奏
(
ちんそう
)
した。
237
サガレン
王
(
わう
)
は
大
(
おほい
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
238
直
(
ただ
)
ちに
侍臣
(
じしん
)
をしてケールス
姫
(
ひめ
)
、
239
竜雲
(
りううん
)
を
召
(
め
)
し
出
(
い
)
だした。
240
竜雲
(
りううん
)
、
241
ケールス
姫
(
ひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
予
(
かね
)
て
覚悟
(
かくご
)
の
事
(
こと
)
とて、
242
驚
(
おどろ
)
きたる
色
(
いろ
)
もなく、
243
悠々
(
いういう
)
として
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
244
姫
(
ひめ
)
『
今
(
いま
)
お
呼
(
よ
)
びになつたのは、
245
如何
(
いか
)
なる
御用
(
ごよう
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
246
サガレン
王
(
わう
)
は
目
(
め
)
をしば
叩
(
たた
)
き、
247
サガレン王
『ケールス
姫
(
ひめ
)
!』
248
と
言
(
ことば
)
を
強
(
つよ
)
め
乍
(
なが
)
ら、
249
サガレン王
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
左守
(
さもり
)
の
神
(
かみ
)
、
250
タールチン
夫婦
(
ふうふ
)
を
始
(
はじ
)
め、
251
エームスを
獄
(
ごく
)
に
投
(
とう
)
じたのは
如何
(
いか
)
なる
罪
(
つみ
)
あつての
事
(
こと
)
か、
252
一応
(
いちおう
)
吾
(
われ
)
の
裁断
(
さいだん
)
を
得
(
え
)
た
上
(
うへ
)
にて
決行
(
けつかう
)
致
(
いた
)
すべきものなるに、
253
汝
(
なんぢ
)
一了簡
(
いちりやうけん
)
を
以
(
もつ
)
て、
254
斯
(
か
)
かる
重臣
(
ぢゆうしん
)
を
徒
(
いたづら
)
に
投
(
とう
)
ずるは
不届
(
ふとど
)
きならずや。
255
又
(
また
)
汝
(
なんぢ
)
はウラル
教
(
けう
)
を
捨
(
す
)
て、
256
竜雲
(
りううん
)
を
放逐
(
はうちく
)
すると、
257
吾
(
われ
)
に
誓
(
ちか
)
ひながら、
258
相変
(
あひかは
)
らず
竜雲
(
りううん
)
を
側近
(
そばちか
)
く
招
(
まね
)
き、
259
種々
(
しゆじゆ
)
良
(
よ
)
からぬ
計画
(
けいくわく
)
をなすとは、
260
言語
(
ごんご
)
道断
(
どうだん
)
の
行方
(
やりかた
)
、
261
今日
(
こんにち
)
より
汝
(
なんぢ
)
を
始
(
はじ
)
め
竜雲
(
りううん
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
放逐
(
はうちく
)
いたす、
262
サア
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立去
(
たちさ
)
れ!』
263
と
怒髪天
(
どはつてん
)
を
衝
(
つ
)
いて
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てたれば、
264
竜雲
(
りううん
)
はケールス
姫
(
ひめ
)
に
目配
(
めくば
)
せし、
265
竜雲
(
りううん
)
『
苟
(
いやし
)
くも
王者
(
わうじや
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
き
暴言
(
ばうげん
)
を
吐
(
は
)
き
玉
(
たま
)
ふは、
266
普通
(
ふつう
)
の
精神
(
せいしん
)
に
非
(
あら
)
ざるべし。
267
王
(
わう
)
には
発狂
(
はつきやう
)
の
兆
(
てう
)
あり、
268
否
(
いな
)
既
(
すで
)
に
発狂
(
はつきやう
)
し
居
(
を
)
れり。
269
早
(
はや
)
く
座敷牢
(
ざしきらう
)
に
入
(
い
)
れまつり、
270
御
(
ご
)
摂養
(
せつやう
)
を
遊
(
あそ
)
ばさねば、
271
此
(
この
)
上
(
うへ
)
病勢
(
びやうせい
)
募
(
つの
)
る
時
(
とき
)
は、
272
第一
(
だいいち
)
本城
(
ほんじやう
)
の
為
(
ため
)
には
不幸
(
ふかう
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
なく、
273
国民
(
こくみん
)
の
迷惑
(
めいわく
)
は
一方
(
ひとかた
)
ならざるべし。
274
ケールス
姫殿
(
ひめどの
)
、
275
如何
(
いかが
)
遊
(
あそ
)
ばす
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へなりや』
276
ケールス
姫
(
ひめ
)
は
黙
(
だま
)
つて
俯
(
うつむ
)
いてゐる。
277
サガレン
王
(
わう
)
は
益々
(
ますます
)
怒
(
いか
)
り、
278
サガレン王
『
汝
(
なんぢ
)
竜雲
(
りううん
)
、
279
吾
(
われ
)
に
向
(
むか
)
つて
発狂
(
はつきやう
)
とは
何事
(
なにごと
)
ぞ。
280
手打
(
てう
)
ちに
致
(
いた
)
して
呉
(
く
)
れむ』
281
と
大刀
(
だいたう
)
をスラリと
引抜
(
ひきぬ
)
き、
282
斬
(
き
)
つてかからむとす。
283
数多
(
あまた
)
の
近従
(
きんじう
)
は
王
(
わう
)
の
背後
(
はいご
)
よりムンヅと
許
(
ばか
)
り
抱
(
だ
)
き
止
(
と
)
めた。
284
竜雲
(
りううん
)
は
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
285
竜雲
『
王
(
わう
)
さまは
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
におはしませば、
286
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
遊
(
あそ
)
ばすまで、
287
座敷牢
(
ざしきらう
)
にお
隠
(
かく
)
し
申
(
まを
)
せよ』
288
と
下知
(
げち
)
する。
289
ケールス
姫
(
ひめ
)
は
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
はず、
290
首
(
くび
)
を
垂
(
た
)
れて、
291
サガレン
王
(
わう
)
に
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せぬやうに
努
(
つと
)
めてゐる。
292
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
憐
(
あは
)
れや
王
(
わう
)
は
竜雲
(
りううん
)
の
腹心
(
ふくしん
)
の
部下
(
ぶか
)
の
為
(
ため
)
に、
293
発狂
(
はつきやう
)
ならざる
身
(
み
)
を
発狂者
(
はつきやうしや
)
として
一室
(
いつしつ
)
に
監禁
(
かんきん
)
さるる
事
(
こと
)
となつて
了
(
しま
)
つたのである。
294
(
大正一一・九・二一
旧八・一
松村真澄
録)
295
此日風強く雨さへ降り来り頗る冷気を覚ゆ
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 反間苦肉
(B)
(N)
バリーの館 >>>
霊界物語
>
海洋万里(第25~36巻)
>
第36巻(亥の巻)
> 第1篇 天意か人意か > 第4章 無法人
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第4章 無法人|第36巻|海洋万里|霊界物語|/rm3604】
合言葉「みろく」を入力して下さい→