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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第36巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 天意か人意か
第1章 二教対立
第2章 川辺の館
第3章 反間苦肉
第4章 無法人
第5章 バリーの館
第6章 意外な答
第7章 蒙塵
第8章 悪現霊
第2篇 松浦の岩窟
第9章 濃霧の途
第10章 岩隠れ
第11章 泥酔
第12章 無住居士
第13章 恵の花
第14章 歎願
第3篇 神地の暗雲
第15章 眩代思潮
第16章 門雀
第17章 一目翁
第18章 心の天国
第19章 紅蓮の舌
第4篇 言霊神軍
第20章 岩窟の邂逅
第21章 火の洗礼
第22章 春の雪
第23章 雪達磨
第24章 三六合
余白歌
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霊界物語
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海洋万里(第25~36巻)
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第36巻(亥の巻)
> 第2篇 松浦の岩窟 > 第11章 泥酔
<<< 岩隠れ
(B)
(N)
無住居士 >>>
第一一章
泥酔
(
でいすゐ
)
〔九九九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻
篇:
第2篇 松浦の岩窟
よみ(新仮名遣い):
まつうらのがんくつ
章:
第11章 泥酔
よみ(新仮名遣い):
でいすい
通し章番号:
999
口述日:
1922(大正11)年09月22日(旧08月2日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
竜雲の部下・ヨールの一隊は、サガレン王を捜索に来て谷道の大岩の前で酔いつぶれ、大岩の後ろに王たちが潜んでいるとも知らずに、酔いが回って管を巻いている。
大岩の後ろから声も涼しく宣伝歌が聞こえてきた。ヨールたちは酔いで眼もろくに見えなくなり、歌の声が耳にガンガン響いてきた。
サガレン王は大岩の後ろから、バラモン教の正当性と竜雲の悪を立て別け、ヨールたちに向かって改心を促す歌を歌った。
ヨールはこの歌に降伏し、部下たちに命じてサガレン王を守る側に着くことを決めた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-08 13:54:54
OBC :
rm3611
愛善世界社版:
104頁
八幡書店版:
第6輯 619頁
修補版:
校定版:
108頁
普及版:
44頁
初版:
ページ備考:
001
ヨール、
002
レツト、
003
ビツト、
004
ランチ、
005
ルーズの
一行
(
いつかう
)
は
瓢
(
ひさご
)
の
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れ、
006
足
(
あし
)
をとられて
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れたまま、
007
廻
(
まは
)
らぬ
舌
(
した
)
の
根
(
ね
)
からソロソロと
下
(
くだ
)
らぬ
熱
(
ねつ
)
を
吹
(
ふ
)
き
立
(
た
)
てる。
008
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
めば
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かす、
009
愚図
(
ぐづ
)
をこねる、
010
飲
(
の
)
まねば
悪事
(
あくじ
)
をする、
011
博奕
(
ばくち
)
を
打
(
う
)
つ、
012
女
(
をんな
)
を
追
(
お
)
ひ
掛
(
か
)
ける、
013
如何
(
どう
)
にも
斯
(
か
)
うにも
始末
(
しまつ
)
にをへぬ
代物
(
しろもの
)
ばかりである。
014
レツト『オイ、
015
兄弟
(
きやうだい
)
、
016
何
(
なん
)
といい
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
き
)
たぢやないか。
017
舌
(
した
)
は
適度
(
てきど
)
に
縺
(
もつ
)
れて
来
(
く
)
る、
018
足
(
あし
)
は
舟
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つた
様
(
やう
)
に
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
浮
(
う
)
いて
来
(
き
)
た。
019
もう
斯
(
か
)
うなつては
此
(
この
)
急坂
(
きうはん
)
をセツセと
汗
(
あせ
)
を
流
(
なが
)
して、
020
テク
の
継続
(
けいぞく
)
事業
(
じげふ
)
をやる
必要
(
ひつえう
)
もなくなつたぢやないか……
乱雑
(
らんざつ
)
骨灰
(
こつぱひ
)
落花
(
らくくわ
)
微塵
(
みぢん
)
、
021
煙塵
(
えんぢん
)
空
(
くう
)
を
捲
(
ま
)
いて
風
(
かぜ
)
に
散
(
ち
)
る……と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
大騒動
(
おほさうどう
)
が
起
(
おこ
)
つて
来
(
き
)
てもビクとも
致
(
いた
)
さぬ
某
(
それがし
)
だ。
022
かう
巧
(
うま
)
く
酒
(
くす
)
の
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
が
幸
(
さち
)
はひ
給
(
たま
)
ふと、
023
何
(
なん
)
とはなしに
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
晩
(
ばん
)
のサガレン
王
(
わう
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に、
024
一掬
(
いつきく
)
同情
(
どうじやう
)
の
涙
(
なみだ
)
を
濺
(
そそ
)
ぎたくなつたぢやないか。
025
大
(
おほい
)
に
多恨
(
たこん
)
の
才士
(
さいし
)
をして
懐旧
(
くわいきう
)
の
情
(
なさけ
)
を
起
(
おこ
)
さしむるに
足
(
た
)
るだ。
026
何
(
なん
)
と
胃
(
ゐ
)
の
腑
(
ふ
)
の
格納庫
(
かくなふこ
)
は
充実
(
じうじつ
)
し、
027
腹中
(
ふくちう
)
の
酒樽
(
さかだる
)
は
恰
(
あだか
)
も
祝詞
(
のりと
)
の
文句
(
もんく
)
ぢやないが……
甕瓶
(
みかのへ
)
高知
(
たかし
)
り、
028
甕
(
みか
)
の
腹満
(
はらみて
)
並
(
なら
)
べて
赤丹
(
あかに
)
の
穂
(
ほ
)
に
聞
(
きこ
)
し
召
(
め
)
せと、
029
畏
(
かしこ
)
み
畏
(
かしこ
)
みも
申
(
まを
)
す……と
云
(
い
)
つた
塩梅
(
あんばい
)
式
(
しき
)
だ。
030
なあヨールの
大将
(
たいしやう
)
、
031
もう
斯
(
こ
)
んな
良
(
い
)
い
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
く
)
ればヨールもヒールもあつたものぢやない。
032
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
でゴロンと
木
(
き
)
の
根
(
ね
)
に
薬罐
(
やつかん
)
を
載
(
の
)
せて
一眠
(
ひとねむ
)
りする
事
(
こと
)
にしようかい。
033
枕
(
まくら
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
は
木扁
(
きへん
)
に
尤
(
もつとも
)
と
書
(
か
)
くのだからな。
034
エー、
035
エプツ、
036
ガラガラガラガラ……』
037
ビツト『あゝ
臭
(
くさ
)
い
臭
(
くさ
)
い、
038
チツと
心得
(
こころえ
)
ぬか、
039
風上
(
かざかみ
)
に
廻
(
まは
)
りよつて……
八
(
はち
)
月
(
ぐわつ
)
の
大風
(
おほかぜ
)
ぢやないが
蕎麦
(
そば
)
の
迷惑
(
めいわく
)
だぞ。
040
如何
(
どう
)
やら
心
(
こころ
)
の
土台
(
どだい
)
がグラつき
出
(
だ
)
して、
041
俺
(
おれ
)
やもうサガレン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
心
(
こころ
)
がおいとしうなつて
来
(
き
)
た。
042
何程
(
なにほど
)
出世
(
しゆつせ
)
さして
呉
(
く
)
れると
云
(
い
)
つても、
043
猫
(
ねこ
)
の
目
(
め
)
の
玉
(
たま
)
ほどクレクレと
変
(
かは
)
る
竜雲
(
りううん
)
の
親方
(
おやかた
)
では、
044
チツと
心細
(
こころぼそ
)
いぢやないか』
045
ヨール『コラコラ、
046
宜
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
心得
(
こころえ
)
ぬかい。
047
それだから
余
(
あんま
)
り
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
むなと
云
(
い
)
ふのだ。
048
困
(
こま
)
つた
代物
(
しろもの
)
だなア。
049
大事
(
だいじ
)
な
用
(
よう
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら
肝腎
(
かんじん
)
の
時
(
とき
)
に
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れよつて、
050
何故
(
なにゆゑ
)
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
と
相談
(
さうだん
)
して
飲
(
の
)
まないのだ。
051
身
(
み
)
知
(
し
)
らず
奴
(
め
)
が!』
052
ビツト『エー、
053
八釜
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふない。
054
何
(
いづ
)
れ
腰
(
こし
)
が
抜
(
ぬ
)
けるのだ。
055
サガレン
王
(
わう
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
に
恐
(
おそ
)
れて
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かすか、
056
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
うて
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かすか、
057
何
(
いづ
)
れ
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かす
十分
(
じふぶん
)
の
可能性
(
かのうせい
)
を
具備
(
ぐび
)
してるのだよ。
058
人
(
ひと
)
の
頭
(
かしら
)
に
立
(
た
)
つ
者
(
もの
)
は、
059
さう
何
(
なん
)
でもない
事
(
こと
)
を
捉
(
とら
)
まへてコセコセ
云
(
い
)
ふものぢやないわ。
060
チツと
腹
(
はら
)
を
広
(
ひろ
)
う
持
(
も
)
ち、
061
肝玉
(
きもだま
)
を
太
(
ふと
)
くし、
062
心
(
こころ
)
を
大
(
おほ
)
きうしたら
如何
(
どう
)
だ。
063
頭
(
かしら
)
が
廻
(
まは
)
らにや
尾
(
を
)
が
廻
(
まは
)
らぬと
云
(
い
)
ふぢやないか。
064
一体
(
いつたい
)
ヨールの
大将
(
たいしやう
)
は
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
つてるが
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
つのかい』
065
ヨール『
事
(
こと
)
にヨールと
立
(
た
)
つ
事
(
こと
)
もあり、
066
立
(
た
)
たぬ
事
(
こと
)
もあるわ。
067
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
大将
(
たいしやう
)
たるものは
自
(
みづか
)
ら
働
(
はたら
)
くを
要
(
えう
)
せず、
068
克
(
よ
)
く
人
(
ひと
)
に
任
(
にん
)
じ、
069
大局
(
たいきよく
)
に
当
(
あた
)
り
小事
(
せうじ
)
に
焦慮
(
あせ
)
らず
拘泥
(
こうでい
)
せず、
070
部下
(
ぶか
)
の
賢愚
(
けんぐ
)
良否
(
りやうひ
)
を
推知
(
すゐち
)
して、
071
各
(
おのおの
)
其
(
その
)
能力
(
のうりよく
)
を
揮
(
ふる
)
はしむるものだよ。
072
人
(
ひと
)
の
将
(
しやう
)
たるべき
者
(
もの
)
将
(
まさ
)
に
務
(
つと
)
むべき
事
(
こと
)
は
大将
(
たいしやう
)
の
襟度
(
きんど
)
だ。
073
俺
(
おれ
)
あアル
中
(
ちう
)
で
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
たなくても、
074
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
を
指揮
(
しき
)
する
権能
(
けんのう
)
があるのだから、
075
そんな
心配
(
しんぱい
)
をして
呉
(
く
)
れるな。
076
ただ
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
は
此
(
こ
)
のヨールの
命令
(
めいれい
)
に
従
(
したが
)
つて、
077
犬馬
(
けんば
)
の
労
(
らう
)
を
執
(
と
)
りさへすれば
宜
(
よ
)
いのだ。
078
エーエー、
079
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
の
面
(
つら
)
は
何
(
なん
)
だ。
080
四角
(
しかく
)
になるかと
思
(
おも
)
へば
三角
(
さんかく
)
になり、
081
目玉
(
めだま
)
を
七
(
なな
)
つも
八
(
やつ
)
つも
十
(
とを
)
も
顔
(
かほ
)
にひつ
付
(
つ
)
けよつて、
082
醜面
(
しこつら
)
の
包囲
(
はうゐ
)
攻撃
(
こうげき
)
は
如何
(
いか
)
に
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
のヨールさまだつて、
083
あまりいい
気持
(
きもち
)
はせぬワ。
084
チツと
配下
(
はいか
)
の
奴
(
やつ
)
どもシツカリ
致
(
いた
)
さぬかい。
085
何
(
なん
)
だ
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
場合
(
ばあひ
)
になつて、
086
腰
(
こし
)
が
抜
(
ぬ
)
けたの、
087
サガレン
王
(
わう
)
が
恐
(
おそ
)
ろしいのと
亡国
(
ばうこく
)
的
(
てき
)
の
哀音
(
あいおん
)
を
吐
(
は
)
き、
088
絶望
(
ぜつばう
)
的
(
てき
)
の
悲哀
(
ひあい
)
を
帯
(
お
)
びた
其
(
その
)
弱
(
よわ
)
い
言霊
(
ことたま
)
、
089
実
(
じつ
)
に
吾々
(
われわれ
)
も
斯様
(
かやう
)
な
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
な
部下
(
ぶか
)
を
引
(
ひき
)
ずり
出
(
だ
)
して
来
(
き
)
たかと
思
(
おも
)
へば、
090
豈
(
あに
)
絶望
(
ぜつばう
)
の
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しづ
)
まざるを
得
(
え
)
むやだ……ゲー、
091
ウツ、
092
プ、
093
ガラガラガラ、
094
アヽ
苦
(
くる
)
しい、
095
酒
(
さけ
)
の
奴
(
やつ
)
まで
大腹川
(
おほはらがは
)
を
逆流
(
ぎやくりう
)
しだしたワ』
096
レツト『ヤイ、
097
ヨールの
大将
(
たいしやう
)
、
098
もう
徐々
(
そろそろ
)
と
現
(
あら
)
はれる
刻限
(
こくげん
)
ですぜ。
099
今
(
いま
)
にエームスやテーリスの
謀反人
(
むほんにん
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たら
如何
(
どう
)
処置
(
しよち
)
する
考
(
かんが
)
へだ。
100
それを
一
(
ひと
)
つ
今
(
いま
)
の
中
(
うち
)
に
決定
(
けつてい
)
して
置
(
お
)
かねば、
101
さあ
今
(
いま
)
となつて、
102
盗人
(
ぬすびと
)
を
捕
(
とら
)
へてソロソロ
縄
(
なは
)
を
綯
(
な
)
ふ
様
(
やう
)
な
へま
な
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ますまいぜ』
103
ヨール『
何
(
なに
)
、
104
心配
(
しんぱい
)
するな。
105
此
(
この
)
ヨールさまには
一
(
ひと
)
つの
考案
(
かうあん
)
があるのだ。
106
君子
(
くんし
)
的
(
てき
)
否
(
いな
)
紳士
(
しんし
)
的
(
てき
)
文明
(
ぶんめい
)
的
(
てき
)
のやり
方
(
かた
)
を
以
(
もつ
)
て、
107
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
舌
(
した
)
の
推進機
(
すゐしんき
)
を
廻転
(
くわいてん
)
し、
108
戦
(
たたか
)
はずして
敵
(
てき
)
をプロペラペラと
言向和
(
ことむけやは
)
す
成算
(
せいさん
)
があるのだ。
109
ジヤンジヤヘールの
胸中
(
きようちう
)
が、
110
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
の
様
(
やう
)
なガラクタに
分
(
わか
)
つて
堪
(
たま
)
るかい。
111
何
(
なん
)
といつても
其処
(
そこ
)
はヨールさまだよ』
112
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも
大岩
(
おほいは
)
の
後
(
うしろ
)
の
方
(
はう
)
から
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
謡
(
うた
)
ふ
者
(
もの
)
がある。
113
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
は
余
(
あま
)
りの
泥酔
(
でいすゐ
)
に
目
(
め
)
も
碌
(
ろく
)
に
見
(
み
)
えず、
114
耳
(
みみ
)
はガンガンと
警鐘
(
けいしよう
)
を
乱打
(
らんだ
)
した
様
(
やう
)
に、
115
物
(
もの
)
の
音色
(
ねいろ
)
も
弁別
(
べんべつ
)
がつかない
処
(
ところ
)
まで
聴音機
(
ちやうおんき
)
が
狂
(
くる
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
116
ヨール『そら
如何
(
どう
)
だ。
117
天
(
てん
)
は
正義
(
せいぎ
)
に
与
(
くみ
)
すると
云
(
い
)
つてな、
118
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
誠忠
(
せいちう
)
を
憐
(
あは
)
れみ
給
(
たま
)
ひ、
119
天
(
てん
)
の
一方
(
いつぱう
)
より
妙音
(
めうおん
)
菩薩
(
ぼさつ
)
が、
120
此
(
この
)
千引
(
ちびき
)
の
岩
(
いは
)
の
後
(
うしろ
)
より
天
(
あめ
)
の
八重雲
(
やへくも
)
を
掻
(
か
)
き
分
(
わ
)
けて
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
ひ、
121
鈴虫
(
すずむし
)
か
松虫
(
まつむし
)
かと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
美音
(
びおん
)
を
放
(
はな
)
つて
酒
(
さけ
)
の
興
(
きよう
)
を
添
(
そ
)
へ、
122
疲
(
つか
)
れきつた
精神
(
せいしん
)
に
新生命
(
しんせいめい
)
を
授
(
さづ
)
けて
下
(
くだ
)
さるぢやないか。
123
斯
(
か
)
うなるとヨールさまも
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にならないぞ。
124
アーン』
125
レツト『
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが、
126
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
には
如何
(
どう
)
も
苛性
(
かせい
)
曹達
(
さうだ
)
を
耳
(
みみ
)
の
穴
(
あな
)
へ
突
(
つ
)
つ
込
(
こ
)
んだ
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
き
)
たワイ。
127
オイ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
128
シツカリせぬか。
129
どうやら
怪
(
あや
)
しいぞ。
130
雨
(
あめ
)
か、
131
風
(
かぜ
)
か、
132
はた
雷鳴
(
らいめい
)
か、
133
地震
(
ぢしん
)
か、
134
親爺
(
おやぢ
)
か、
135
火事
(
くわじ
)
か、
136
何
(
な
)
んだか
知
(
し
)
らぬが、
137
余
(
あんま
)
りよい
気分
(
きぶん
)
がせぬぢやないか』
138
ヨール『
八釜
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふな。
139
心
(
こころ
)
一
(
ひと
)
つの
持
(
も
)
ち
様
(
やう
)
で、
140
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
の
言霊
(
ことたま
)
も
悪言
(
あくげん
)
暴語
(
ぼうご
)
に
聞
(
きこ
)
えたり、
141
又
(
また
)
甘露
(
かんろ
)
も
泥水
(
どろみづ
)
の
味
(
あぢ
)
がしたりするのだ。
142
貴様
(
きさま
)
は
余
(
あんま
)
り
向
(
むか
)
ふ
見
(
み
)
ずに
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
ひよつたものだから、
143
聴声器
(
ちやうせいき
)
に
異状
(
いじやう
)
をきたし、
144
こんな
妙音
(
めうおん
)
菩薩
(
ぼさつ
)
の
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
が
鬼哭
(
きこく
)
愁々然
(
しうしうぜん
)
として
響
(
ひび
)
くのだ。
145
それよりも
胴
(
どう
)
を
据
(
す
)
ゑてモ
一杯
(
いつぱい
)
やれ』
146
レツト『やれと
云
(
い
)
つたつて
瓢箪
(
へうたん
)
の
奴
(
やつ
)
、
147
早
(
はや
)
くも
売切
(
うりき
)
れ
品切
(
しなぎ
)
れの
札
(
ふだ
)
を
出
(
だ
)
しよつたぢやないか。
148
何程
(
なにほど
)
尻
(
けつ
)
を
叩
(
たた
)
いて
見
(
み
)
た
処
(
ところ
)
で、
149
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
一滴
(
いつてき
)
の
酒
(
さけ
)
だつて
出
(
で
)
るものぢやない。
150
百姓
(
ひやくしやう
)
と
糠袋
(
ぬかぶくろ
)
は
絞
(
しぼ
)
れば
絞
(
しぼ
)
る
程
(
ほど
)
出
(
で
)
ると
云
(
い
)
ふけれど、
151
是
(
これ
)
は
又
(
また
)
如何
(
どう
)
した
拍子
(
ひやうし
)
の
瓢箪
(
へうたん
)
やら、
152
蚊
(
か
)
の
涙
(
なみだ
)
程
(
ほど
)
も
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ぬぢやないか。
153
アーアもう
何
(
なに
)
もかも
嫌
(
いや
)
になつてしまつた。
154
俺
(
おれ
)
はもうサツパリ
改心
(
かいしん
)
したよ。
155
万々一
(
まんまんいち
)
王
(
わう
)
様
(
さま
)
が
此処
(
ここ
)
へお
越
(
こ
)
しになつたら、
156
低頭
(
ていとう
)
平身
(
へいしん
)
七重
(
ななへ
)
の
膝
(
ひざ
)
を
八重
(
やへ
)
九重
(
ここのへ
)
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
に
折
(
を
)
つてお
詫
(
わび
)
をして、
157
それでも
許
(
ゆる
)
さぬと
仰有
(
おつしや
)
つたら
首
(
くび
)
でも
刎
(
は
)
ねて
貰
(
もら
)
ふ
積
(
つも
)
りだ。
158
乍然
(
しかしながら
)
俺
(
おれ
)
の
首
(
くび
)
はチツとばかり
必要
(
ひつえう
)
があるから
尚早論
(
しやうさうろん
)
を
主張
(
しゆちやう
)
し、
159
ヨールの
素首
(
そつくび
)
を
代表
(
だいへう
)
的
(
てき
)
犠牲物
(
ぎせいぶつ
)
として
刎
(
は
)
ねて
貰
(
もら
)
ふのだな。
160
大将
(
たいしやう
)
となれば、
161
それだけの
覚悟
(
かくご
)
がなくては
部下
(
ぶか
)
を
用
(
もち
)
ふる
事
(
こと
)
は
到底
(
たうてい
)
不可能
(
ふかのう
)
だ。
162
なあヨールの
大将
(
たいしやう
)
、
163
吾輩
(
わがはい
)
の
云
(
い
)
ふことがチツとは
肯綮
(
こうけい
)
に
嵌
(
はま
)
りますかな、
164
否
(
いな
)
肯定
(
こうてい
)
するでせうなア』
165
ヨール『
八釜
(
やかま
)
しいわい。
166
何
(
なん
)
と
冴
(
さ
)
えきつた
音色
(
ねいろ
)
ぢやないか。
167
サガレン
王
(
わう
)
とか
何
(
なん
)
とか
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
168
ヤイモウ
宜
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
にシツカリして
腰
(
こし
)
を
上
(
あ
)
げぬかい』
169
ビツト『
何程
(
なにほど
)
上
(
あ
)
げと
云
(
い
)
つても、
170
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
ビツトも
動
(
うご
)
かぬのだから
実
(
じつ
)
に
大
(
たい
)
したものだ。
171
アツハヽヽヽのオツホヽヽヽだ』
172
歌
(
うた
)
の
声
(
こゑ
)
は
益々
(
ますます
)
冴
(
さ
)
え
来
(
きた
)
る。
173
声(サガレン王、テーリス、エームス)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
174
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
て
別
(
わ
)
ける
175
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
176
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
177
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
178
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
し
179
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
す
180
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
教
(
をしへ
)
181
曲津
(
まがつ
)
の
神
(
かみ
)
に
迷
(
まよ
)
はされ
182
神地
(
かうぢ
)
の
都
(
みやこ
)
に
現
(
あ
)
れませる
183
サガレン
王
(
わう
)
に
刃向
(
はむか
)
ひて
184
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
むだう
)
の
罪科
(
つみとが
)
を
185
重
(
かさ
)
ね
来
(
きた
)
りし
人々
(
ひとびと
)
も
186
その
源
(
みなもと
)
を
尋
(
たづ
)
ぬれば
187
高皇
(
たかみ
)
産霊
(
むすび
)
や
神皇
(
かむみ
)
産霊
(
むすび
)
188
陰
(
いん
)
と
陽
(
やう
)
との
神々
(
かみがみ
)
の
189
水火
(
いき
)
より
生
(
うま
)
れし
者
(
もの
)
なれば
190
何
(
いづ
)
れも
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
191
時世
(
ときよ
)
時節
(
じせつ
)
の
力
(
ちから
)
にて
192
醜
(
しこ
)
の
魔風
(
まかぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれつつ
193
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
罪
(
つみ
)
の
淵
(
ふち
)
194
陥
(
おちい
)
る
者
(
もの
)
も
最多
(
いとおほ
)
し
195
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
も
憐
(
あは
)
れみて
196
罪
(
つみ
)
や
穢
(
けがれ
)
に
染
(
そ
)
まりたる
197
其
(
その
)
曲人
(
まがひと
)
を
助
(
たす
)
けむと
198
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
御心
(
みこころ
)
を
199
配
(
くば
)
らせ
給
(
たま
)
ひ
三五
(
あななひ
)
の
200
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
やバラモンの
201
珍
(
うづ
)
の
教
(
をしへ
)
を
開
(
ひら
)
きまし
202
此
(
この
)
シロ
島
(
じま
)
に
現
(
あ
)
れまして
203
四方
(
よも
)
を
包
(
つつ
)
みし
村雲
(
むらくも
)
を
204
科戸
(
しなど
)
の
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
らし
205
闇
(
やみ
)
に
迷
(
まよ
)
へる
国人
(
くにびと
)
を
206
明
(
あか
)
きに
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げ
給
(
たま
)
ふ
207
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
208
神
(
かみ
)
は
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
倶
(
とも
)
にあり
209
心
(
こころ
)
穢
(
きたな
)
き
竜雲
(
りううん
)
に
210
媚
(
こ
)
び
諂
(
へつら
)
ひて
諸々
(
もろもろ
)
の
211
曲
(
まが
)
を
尽
(
つく
)
せし
人々
(
ひとびと
)
を
212
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
の
教
(
をしへ
)
にて
213
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し
天国
(
てんごく
)
の
214
栄
(
さか
)
えの
園
(
その
)
に
導
(
みちび
)
きて
215
救
(
すく
)
ひ
奉
(
まつ
)
らむサガレン
王
(
わう
)
の
216
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
御
(
おん
)
心
(
こころ
)
217
仰
(
あふ
)
げば
高
(
たか
)
し
久方
(
ひさかた
)
の
218
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
に
聳
(
そそ
)
り
立
(
た
)
つ
219
地教
(
ちけう
)
の
山
(
やま
)
も
啻
(
ただ
)
ならず
220
天教山
(
てんけうざん
)
に
厳高
(
いづたか
)
く
221
鎮
(
しづ
)
まりいます
皇神
(
すめかみ
)
の
222
恵
(
めぐみ
)
の
露
(
つゆ
)
は
四方
(
よも
)
の
国
(
くに
)
223
青人草
(
あをひとぐさ
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
224
鳥
(
とり
)
獣
(
けだもの
)
や
草木
(
くさき
)
まで
225
清
(
きよ
)
き
生命
(
いのち
)
を
与
(
あた
)
へつつ
226
神世
(
かみよ
)
を
永遠
(
とは
)
に
開
(
ひら
)
きます
227
其
(
その
)
功績
(
いさをし
)
ぞ
畏
(
かしこ
)
けれ
228
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
229
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
230
ビツト、レツトやヨール
外
(
ほか
)
231
二人
(
ふたり
)
の
御子
(
みこ
)
を
憎
(
にく
)
まずに
232
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
233
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
234
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
235
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
236
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
237
助
(
たす
)
けにや
措
(
お
)
かぬ
岩
(
いは
)
の
前
(
まへ
)
238
酒
(
さけ
)
の
力
(
ちから
)
に
倒
(
たふ
)
れたる
239
五
(
いつ
)
つの
身魂
(
みたま
)
に
日月
(
じつげつ
)
の
240
清
(
きよ
)
き
光
(
ひか
)
りを
与
(
あた
)
へつつ
241
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
帰順
(
きじゆん
)
させ
242
救
(
すく
)
ひ
与
(
あた
)
へむサガレン
王
(
わう
)
243
テーリス、エームス
三人
(
みたり
)
連
(
づれ
)
244
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
に
打
(
う
)
ち
向
(
むか
)
ひ
245
悟
(
さと
)
りの
道
(
みち
)
を
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かす
246
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
247
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
248
ヨール『オイ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
、
249
もう
斯
(
か
)
うなつちや
悪
(
あく
)
の
身魂
(
みたま
)
の
年
(
ねん
)
の
明
(
あ
)
きだよ。
250
今
(
いま
)
の
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
いたか。
251
あれを
聞
(
き
)
いた
以上
(
いじやう
)
は
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
耳
(
みみ
)
は
爽
(
さはや
)
かになり、
252
心
(
こころ
)
の
眼
(
まなこ
)
は
開
(
ひら
)
き、
253
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
は
清
(
きよ
)
まり、
254
胸
(
むね
)
の
雲
(
くも
)
は
晴
(
は
)
れ、
255
抜
(
ぬ
)
かした
腰
(
こし
)
は
立上
(
たちあが
)
り、
256
手
(
て
)
は
舞
(
ま
)
ひ
足
(
あし
)
は
踊
(
をど
)
り、
257
何
(
なん
)
ともかとも
云
(
い
)
へぬ
天地
(
てんち
)
開明
(
かいめい
)
の
気分
(
きぶん
)
が
漂
(
ただよ
)
ひ、
258
生
(
うま
)
れ
変
(
かは
)
つた
様
(
やう
)
になつて
来
(
き
)
たぢやないか。
259
サア
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
何事
(
なにごと
)
も
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
にすると
云
(
い
)
つたのだから、
260
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
改心
(
かいしん
)
をして
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
悪心
(
あくしん
)
を
翻
(
ひるがへ
)
し、
261
サガレン
王
(
わう
)
に
忠義
(
ちうぎ
)
を
尽
(
つく
)
すのだよ。
262
ヨモヤ
俺
(
おれ
)
の
言葉
(
ことば
)
に
違背
(
ゐはい
)
する
奴
(
やつ
)
はあるまいな』
263
と
廻
(
まは
)
らぬ
舌
(
した
)
から、
264
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
に
朧気
(
おぼろげ
)
に
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
して
居
(
ゐ
)
る。
265
レツト『
誰
(
たれ
)
だつて、
266
悪
(
あく
)
を
好
(
この
)
んでする
様
(
やう
)
な
大
(
おほ
)
馬鹿者
(
ばかもの
)
が
何処
(
どこ
)
にあるものかい。
267
お
前
(
まへ
)
はサガレン
王
(
わう
)
が
悪
(
あく
)
だ、
268
あれをベツトして
了
(
しま
)
はなくちや
善
(
ぜん
)
の
道
(
みち
)
がたたぬ。
269
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
が
誠
(
まこと
)
の
善
(
ぜん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だと、
270
耳
(
みみ
)
が
蛸
(
たこ
)
になる
程
(
ほど
)
お
説教
(
せつけう
)
を
聞
(
き
)
かしたぢやないか。
271
俺
(
おれ
)
アもうかうなつて
来
(
く
)
ると
何方
(
どちら
)
が
善
(
ぜん
)
だか
悪
(
あく
)
だかサツパリ
見当
(
けんたう
)
がとれなくなつて
来
(
き
)
た。
272
一体
(
いつたい
)
本当
(
ほんたう
)
のことはサガレン
王
(
わう
)
が
善
(
ぜん
)
か、
273
竜雲
(
りううん
)
が
善
(
ぜん
)
か、
274
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
をハツキリ
聞
(
き
)
かして
呉
(
く
)
れ。
275
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
との
衝突
(
しようとつ
)
がなければ、
276
元
(
もと
)
よりこんな
騒動
(
さうだう
)
がオツ
始
(
ぱじ
)
まる
道理
(
だうり
)
がないのだからなア』
277
ビツト『こらレツト、
278
そんな
劣等
(
れつと
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふな。
279
もとより
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
反抗
(
はんかう
)
すると
云
(
い
)
ふのは
悪
(
あく
)
に
決
(
きま
)
つてるぢやないか』
280
レツト『それでも
貴様
(
きさま
)
、
281
竜雲
(
りううん
)
さまが
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
たよ。
282
エー、
283
君
(
きみ
)
、
284
君
(
きみ
)
たらずんば
臣
(
しん
)
、
285
臣
(
しん
)
たるべからず、
286
父
(
ちち
)
、
287
父
(
ちち
)
たらずんば
子
(
こ
)
、
288
子
(
こ
)
たるべからず、
289
と
云
(
い
)
はれたぢやないか。
290
それだから
俺
(
おれ
)
は
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
偉
(
えら
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だと
信
(
しん
)
じて
居
(
を
)
るのだ。
291
天下
(
てんか
)
国家
(
こくか
)
の
救主
(
すくひぬし
)
だから、
292
竜雲
(
りううん
)
様
(
さま
)
のために
働
(
はたら
)
くのは
即
(
すなは
)
ち
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
に
働
(
はたら
)
くのだ、
293
国民
(
こくみん
)
一般
(
いつぱん
)
の
為
(
ため
)
に
働
(
はたら
)
く
善行
(
ぜんかう
)
だと
確信
(
かくしん
)
して
居
(
ゐ
)
るから、
294
夜
(
よる
)
も
碌
(
ろく
)
に
眠
(
ねむ
)
らず
捨身
(
しやしん
)
的
(
てき
)
の
活動
(
くわつどう
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだ。
295
誰
(
たれ
)
でも
竜雲
(
りううん
)
を
悪
(
あく
)
だと
知
(
し
)
つたら、
296
其
(
その
)
意志
(
いし
)
に
従
(
したが
)
つて
活動
(
くわつどう
)
する
奴
(
やつ
)
があるものかい』
297
ビツト『
君
(
きみ
)
、
298
君
(
きみ
)
たらずとも
臣
(
しん
)
は
以
(
もつ
)
て
臣
(
しん
)
たるべし、
299
父
(
ちち
)
、
300
父
(
ちち
)
たらずとも
子
(
こ
)
は
以
(
もつ
)
て
子
(
こ
)
たるべしと
云
(
い
)
ふのが、
301
天津誠
(
あまつまこと
)
の
麻柱
(
あななひ
)
の
大道
(
だいだう
)
だよ。
302
如何
(
いか
)
なる
無理
(
むり
)
難題
(
なんだい
)
も
甘
(
あま
)
んじて
受
(
う
)
けるのが、
303
忠
(
ちう
)
ともなり
孝
(
かう
)
ともなるのだ。
304
そんな
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
小理屈
(
こりくつ
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ては、
305
何時迄
(
いつまで
)
も
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
無事
(
ぶじ
)
太平
(
たいへい
)
に
治
(
をさ
)
まるものぢやないよ』
306
ヨール『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も、
307
此
(
この
)
ヨールさまの
命令
(
めいれい
)
に
服従
(
ふくじう
)
するのだ。
308
サアこれからサガレン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
にお
詫
(
わび
)
だよ』
309
一同
(
いちどう
)
『はい、
310
仕方
(
しかた
)
がないなア』
311
(
大正一一・九・二二
旧八・二
北村隆光
録)
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