霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 出陣(しゆつぢん)〔一〇八六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻 篇:第1篇 恋雲魔風 よみ(新仮名遣い):れんうんまふう
章:第2章 出陣 よみ(新仮名遣い):しゅつじん 通し章番号:1086
口述日:1922(大正11)年11月01日(旧09月13日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
出陣の用意が整い、幹部たちは見送りをなしたあとに本城の奥殿にて簡単な酒宴を催した。幹部たちが帰途に着いた。夜は深々と更け、夜嵐が吹きすさぶ丑満のころ、大黒主は石生能姫と共に来し方行く末を語らいあっていた。
大黒主が弱気になり、早く息子に位を譲って隠居したいとしょげ返ったのに対し、石生能姫は笑って活を入れ、また本妻の鬼雲姫を呼び戻してともに神業に参加すべきだと意見した。
大黒主は、本妻を追い出したのも、憎い鬼熊別を再び召し出したのも、石生能姫を思い言い分を立てたい一心からだと弁解する。
石生能姫は、鬼雲姫だけでなく鬼熊別も擁護し、両者ともにバラモン教の繁栄には欠かせない人材だと鬼雲彦に忠言した。そして、鬼雲彦があくまで鬼熊別を疑うのならば、自分自身が鬼熊別を訪ね、その心中を見定めて来ると宣言した。
鬼雲彦もついに折れて、石生能姫の鬼熊別邸訪問をゆるし、二人は寝に着いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-26 12:10:47 文字数:3663 OBC :rm4002
愛善世界社版:24頁 八幡書店版:第7輯 427頁 修補版: 校定版:25頁 普及版:11頁 初版: ページ備考:
001バラモン教(けう)の神司(かむづかさ)
002鬼春別(おにはるわけ)は大教主(だいけうしゆ)
003大黒主(おほくろぬし)や石生能(いその)姫(ひめ)
004二人(ふたり)の旨(むね)を奉戴(ほうたい)し
005片彦(かたひこ)、ランチ二将軍(にしやうぐん)
006左右(さいう)の翼(よく)となしながら
007三千(さんぜん)余(よ)騎(き)に将(しやう)として
008ハルナの都(みやこ)を出発(しゆつぱつ)し
009陣鐘(ぢんがね)太鼓(たいこ)を打(う)ちながら
010法螺貝(ほらがひ)ブウブウ吹(ふ)きたてて
011旗鼓(きこ)堂々(だうだう)と三五教(あななひけう)
012イソの館(やかた)へ進(すす)み行(ゆ)く
013其(その)勢(いきほ)ひの勇(いさ)ましさ
014鬼神(きしん)も肝(きも)を挫(ひし)がれて
015絶(た)え入(い)るばかり思(おも)はれぬ
016軍(いくさ)の司(つかさ)と仕(つか)へたる
017大足別(おほだるわけ)も同様(どうやう)に
018釘彦(くぎひこ)、エールの二将軍(にしやうぐん)
019三千(さんぜん)余(よ)騎(き)に将(しやう)として
020旗鼓(きこ)堂々(だうだう)とウラル教(けう)
021立籠(たてこも)りたるカルマタの
022根城(ねじろ)をさして攻(せ)めて行(ゆ)く
023何(いづ)れ劣(おと)らぬ勇士(ゆうし)と勇士(ゆうし)
024山野(さんや)の草木(くさき)も自(おのづか)ら
025靡(なび)き伏(ふ)しつつ虎(とら)熊(くま)や
026獅子(しし)狼(おほかみ)もおしなべて
027戦(をのの)き逃(に)ぐる思(おも)ひなり
028実(げ)に勇(いさ)ましき進軍(しんぐん)の
029駒(こま)の嘶(いなな)き轡(くつわ)の音(おと)
030蹄(ひづめ)の音(おと)も戞々(かつかつ)と
031鬨(とき)を作(つく)つて攻(せ)めて行(ゆ)く
032実(げ)に勇(いさ)ましき次第(しだい)なり。
033 出陣(しゆつぢん)の用意(ようい)は急速(きふそく)に整(ととの)うた。034大黒主(おほくろぬし)、035石生能(いその)姫(ひめ)、036鬼熊別(おにくまわけ)、037雲依別(くもよりわけ)其(その)他(た)の幹部(かんぶ)は出陣(しゆつぢん)を見送(みおく)り成功(せいこう)を祝(しゆく)し、038終(をは)つてハルナの本城(ほんじやう)の奥殿(おくでん)に進(すす)み入(い)り此処(ここ)に簡単(かんたん)なる酒宴(しゆえん)を催(もよほ)し、039鬼熊別(おにくまわけ)は一先(ひとま)づ吾(わが)館(やかた)へ立帰(たちかへ)る事(こと)となつた。040雲依別(くもよりわけ)も亦(また)其(その)日(ひ)は己(おの)が館(やかた)に帰(かへ)り、041神前(しんぜん)に戦勝(せんしよう)祈願(きぐわん)の祝詞(のりと)を奏(そう)し寝(しん)に就(つ)いた。
042 夜(よ)は深々(しんしん)と更(ふ)け渡(わた)り、043咫尺(しせき)暗澹(あんたん)として閑寂(かんじやく)な気(き)に包(つつ)まれ、044夜嵐(よあらし)吹(ふ)き荒(すさ)ぶ丑満(うしみつ)の頃(ころ)迄(まで)、045大黒主(おほくろぬし)は石生能(いその)姫(ひめ)と共(とも)に来(こ)し方(かた)行末(ゆくすゑ)の事(こと)等(など)語(かた)らひ夜(よ)を更(ふ)かしつつあつた。
046大黒(おほくろ)『あゝあ、047吾(われ)こそはバラモン教(けう)の大教主(だいけうしゆ)となつて以来(いらい)、048世(よ)の為(ため)、049道(みち)の為(ため)にあらゆる艱難(かんなん)辛苦(しんく)を嘗(な)め尽(つく)し、050漸(やうや)くにして月(つき)の国(くに)に根城(ねじろ)を定(さだ)め、051稍(やや)安心(あんしん)と思(おも)ふ間(ま)もなく好事(かうず)魔(ま)多(おほ)しとやら、052三五教(あななひけう)、053ウラル教(けう)の奴輩(やつばら)吾(わが)教(をしへ)の隆盛(りうせい)を妬(ねた)み、054今(いま)や双方(さうはう)より此(この)本城(ほんじやう)を攻撃(こうげき)し吾(われ)等(ら)を亡(ほろ)ぼさむと致(いた)す憎(につ)くき奴(やつ)、055余(あま)りの事(こと)に神経(しんけい)過敏(くわびん)となり、056夜(よ)も碌々(ろくろく)に此(この)頃(ごろ)は寝(ね)た事(こと)もない。057せめて石生能(いその)姫(ひめ)の優(やさ)しき言葉(ことば)を心(こころ)の頼(たの)みとして日夜(にちや)を送(おく)る苦(くる)しさ。058あゝあ世(よ)の中(なか)は如何(どう)してこれほど災(わざはひ)の多(おほ)きものだらうか。059思(おも)へば思(おも)へば浮世(うきよ)が嫌(いや)になつて来(き)たわい。060早(はや)く大教主(だいけうしゆ)の役(やく)を伜(せがれ)に継承(けいしよう)さして其方(そなた)と共(とも)に山林(さんりん)に隠(かく)れ、061光風(くわうふう)霽月(せいげつ)を楽(たの)しみ余生(よせい)を送(おく)りたいと思(おも)ふ心(こころ)は山々(やまやま)なれど、062伜(せがれ)はあの通(とほ)り文弱(ぶんじやく)に流(なが)れ世間(せけん)知(し)らずの坊(ぼ)んちやん育(そだ)ち、063実(じつ)に前途(ぜんと)は心細(こころぼそ)いものだ。064何(なん)とか致(いた)して此(この)苦艱(くかん)を免(のが)るる道(みち)はあるまいかな』
065とハアハアと吐息(といき)をつき悄(せう)げ返(かへ)る。066石生能(いその)姫(ひめ)は打笑(うちわら)ひ、
067石生能姫『ホヽヽヽ旦那(だんな)様(さま)の其(その)お言葉(ことば)、068何(なん)とした弱音(よわね)をお吹(ふ)き遊(あそ)ばすのでせう。069そんな弱(よわ)い事(こと)で如何(どう)して此(この)月(つき)の国(くに)を背負(せお)つて立(た)つ事(こと)が出来(でき)ませうか。070神(かみ)様(さま)は此(この)チツポケな月(つき)の国(くに)ばかりか、071豊葦原(とよあしはら)の瑞穂国(みづほのくに)全体(ぜんたい)をバラモンの教(をしへ)に帰順(きじゆん)せしめ、072恵(めぐ)みの露(つゆ)をば万民(ばんみん)に霑(うるほ)し与(あた)へむとの御(ご)神慮(しんりよ)では御座(ござ)りませぬか。073左様(さやう)な意志(いし)の薄弱(はくじやく)な事(こと)では月(つき)の国(くに)さへも保(たも)つ事(こと)は出来(でき)ますまい。074チト心(こころ)を取(と)り直(なほ)して元気(げんき)を出(だ)して下(くだ)さいませ。075一国(いつこく)の王者(わうじや)たる身(み)を以(もつ)て妾(わたし)の如(ごと)き卑(いや)しき女(をんな)に心魂(しんこん)を蕩(とろ)かし、076偕老(かいらう)同穴(どうけつ)を契(ちぎ)り給(たま)ひし鬼雲姫(おにくもひめ)様(さま)、077特(とく)に内助(ないじよ)の功(こう)多(おほ)き奥様(おくさま)をあの通(とほ)り退隠(たいいん)させ、078日夜(にちや)涙(なみだ)の生活(せいくわつ)を続(つづ)けて御座(ござ)るのを他所(よそ)にして、079旦那(だんな)様(さま)は妾(わたし)の様(やう)な女(をんな)を弄(もてあそ)び給(たま)ふは御(ご)神慮(しんりよ)に叶(かな)はぬ事(こと)ではありますまいか。080それを思(おも)へば妾(わたし)も安(やす)き心(こころ)は厶(ござ)りませぬ。081何卒(なにとぞ)一(いち)日(にち)も早(はや)く奥様(おくさま)を本城(ほんじやう)に招(まね)き入(い)れ、082夫婦(ふうふ)睦(むつ)まじく神業(しんげふ)に参加(さんか)して下(くだ)さいませ。083そして妾(わたし)の位置(ゐち)を下(くだ)して婢女(はしため)となし下(くだ)されば、084御(ご)夫婦(ふうふ)に対(たい)し力限(ちからかぎ)りの忠勤(ちうきん)を励(はげ)む石生能(いその)姫(ひめ)の覚悟(かくご)、085何卒(どうぞ)許(ゆる)して下(くだ)さいませ。086これが妾(わたし)の一生(いつしやう)の願(ねが)ひで御座(ござ)います』
087大黒主『ハヽヽヽヽ其方(そなた)は此(この)大黒主(おほくろぬし)を気(き)が小(ちひ)さいと申(まを)すが、088あまり其方(そなた)も気(き)が小(ちひ)さ過(す)ぎるぢやないか。089其方(そなた)が始(はじ)めて吾(われ)と褥(しとね)を一(ひと)つにした時(とき)、090其方(そなた)は云(い)つたぢやないか。091旦那(だんな)様(さま)が妾(わたし)のやうな不躾(ふつつか)なものを斯(か)うして可愛(かあい)がつて下(くだ)さるのは実(じつ)に有難涙(ありがたなみだ)にくれますが、092然(しか)し乍(なが)ら奥様(おくさま)の事(こと)が気(き)になつて心(こころ)も心(こころ)ならず、093そればかりが心配(しんぱい)だと申(まを)したではないか。094それ故(ゆゑ)、095永(なが)らく連(つ)れ添(そ)うて共(とも)に苦労(くらう)を致(いた)した鬼雲姫(おにくもひめ)を別家(べつけ)させ、096其方(そなた)の希望(きばう)通(どほ)りにしてやつたではないか。097今(いま)となつて左様(さやう)な事(こと)を云(い)つてくれては大黒主(おほくろぬし)も困(こま)つてしまふ。098俺(おれ)が許(ゆる)した女房(にようばう)、099誰(たれ)に遠慮(ゑんりよ)は要(い)らぬ。100大(おほ)きな顔(かほ)をして本城(ほんじやう)の花(はな)となり女王(クイーン)となつて、101吾(わが)神業(しんげふ)を陰(いん)に陽(やう)に極力(きよくりよく)助(たす)けてくれなくては困(こま)つてしまふよ』
102石生能姫『旦那(だんな)様(さま)、103妾(わたし)は奥様(おくさま)の事(こと)が気(き)にかかると云(い)つたのは勿体(もつたい)ない、104奥様(おくさま)を放(はふ)り出(だ)して欲(ほ)しいと願(ねが)つたのぢや御座(ござ)りませぬ。105奥様(おくさま)のある旦那(だんな)様(さま)に可愛(かあい)がられては誠(まこと)に済(す)まない。106奥様(おくさま)に会(あ)はす顔(かほ)がないと云(い)つたまでで御座(ござ)ります』
107大黒主『さうだから其方(そなた)の心配(しんぱい)の種(たね)を除(のぞ)くために鬼雲姫(おにくもひめ)を遠(とほ)ざけたのではないか』
108石生能姫『それはチト了簡(れうけん)が違(ちが)ひませう。109何程(なにほど)奥様(おくさま)が遠(とほ)ざかつて居(ゐ)らつしやいましても妾(わたし)の心(こころ)は如何(どう)しても済(す)みませぬ。110今(いま)までよりも一層(いつそう)お気(き)の毒(どく)で堪(たま)りませぬ。111数多(あまた)の部下(ぶか)や国民(こくみん)には妖女(えうぢよ)ぢや、112鬼女(きぢよ)ぢや、113謀叛人(むほんにん)だと口々(くちぐち)に罵(ののし)られ、114如何(どう)して之(これ)で妾(わたし)の胸(むね)が安(やす)まりませう。115御(ご)推量(すゐりやう)なさつて下(くだ)さりませ。116貴方(あなた)は如何(どう)しても、117口先(くちさき)で私(わたし)を愛(あい)して下(くだ)さるが、118本当(ほんたう)の妾(わたし)の心(こころ)を汲(く)みとつて下(くだ)さらぬ故(ゆゑ)、119つまり妾(わたし)を苦(くる)しめ憎(にく)み給(たま)ふ事(こと)となるので厶(ござ)ります』
120と袖(そで)を顔(かほ)にあてサメザメと泣(な)き沈(しづ)む。
121大黒主『其方(そなた)の云(い)ふ事(こと)ならば何一(なにひと)つ背(そむ)いた事(こと)はないぢやないか。122今日(けふ)も今日(けふ)とて鬼熊別(おにくまわけ)の如(ごと)き教(をしへ)の道(みち)の妨害(ばうがい)になる、123蟄居(ちつきよ)を命(めい)じてある男(をとこ)を俺(おれ)に相談(さうだん)もせず代理権(だいりけん)を執行(しつかう)すると申(まを)して、124人(ひと)もあらうにあれほど俺(おれ)の嫌(きら)ひの鬼熊別(おにくまわけ)を左守(さもり)に任(にん)じ城内(じやうない)の権(けん)を一任(いちにん)したではないか。125俺(おれ)にとつては天下(てんか)の一大事(いちだいじ)、126承諾(しようだく)致(いた)す限(かぎ)りではなけれども、127其方(そなた)の言(い)ひ分(ぶん)をたて、128其方(そなた)の機嫌(きげん)を損(そん)じまいと憤(いきどほ)りを抑(おさ)へて辛抱(しんばう)をしてるではないか。129万一(まんいち)此(この)国(くに)が外教(ぐわいけう)の手(て)におちる様(やう)の事(こと)あらば、130俺(おれ)は到底(たうてい)此処(ここ)に安心(あんしん)して居(ゐ)ることは出来(でき)ない。131吾(われ)等(ら)にとつての一大事(いちだいじ)を忍(しの)んで居(を)るのも其方(そなた)が可愛(かあい)いばつかりだ』
132石生能姫『あの鬼熊別(おにくまわけ)は貴方(あなた)の目(め)からは、133それ程(ほど)悪(わる)い人(ひと)と見(み)えますか。134貴方(あなた)はお人(ひと)がよいから悪人輩(あくにんばら)の讒言(ざんげん)を一々(いちいち)御(ご)採用(さいよう)遊(あそ)ばし智者(ちしや)賢者(けんじや)の言(げん)を用(もち)ひ給(たま)はず。135あれほどバラモン教(けう)を思(おも)つて厶(ござ)る神司(かむつかさ)は何処(どこ)に厶(ござ)りませう。136それは貴方(あなた)の一大事(いちだいじ)、137又(また)私(わたし)の一大事(いちだいじ)に関(くわん)する事(こと)、138さう易々(やすやす)と少(すこ)しの感情(かんじやう)や気(き)まぐれ位(くらゐ)に、139そんな大事(だいじ)がきめられますか。140何卒(どうぞ)心(こころ)の雲(くも)を取(と)り払(はら)ひ、141正(ただ)しく鬼熊別(おにくまわけ)の心(こころ)を汲(く)みとつてやつて下(くだ)さいませ』
142大黒主『さう聞(き)けばさうかも知(し)れないが、143鬼熊別(おにくまわけ)の女房(にようばう)は到頭(たうとう)三五教(あななひけう)に寝返(ねがへ)りをうち、144娘(むすめ)の小糸姫(こいとひめ)も矢張(やは)り三五(あななひ)の道(みち)の立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)となつてバラモン教(けう)の畑(はたけ)を蚕食(さんしよく)し、145色々(いろいろ)雑多(ざつた)と道(みち)の妨害(ばうがい)を致(いた)す奴(やつ)、146ハルナの都(みやこ)の内幕(うちまく)は何(なに)も彼(か)も三五教(あななひけう)に知(し)れ渡(わた)つて居(ゐ)るのも、147側近(そばちか)く仕(つか)ふる者(もの)の中(なか)に内通(ないつう)するものがなくてはならぬ。148若(も)し内通(ないつう)するものありとすれば、149鬼春別(おにはるわけ)の言葉(ことば)の如(ごと)く鬼熊別(おにくまわけ)の外(ほか)にはない道理(だうり)、150石生能(いその)姫(ひめ)、151其方(そなた)は之(これ)でも鬼熊別(おにくまわけ)を信用(しんよう)致(いた)すか』
152石生能姫『そりや貴方(あなた)お考(かんが)へ違(ちが)ひでせう。153あの方(かた)に限(かぎ)つて左様(さやう)な卑(さも)しい根性(こんじやう)をお有(も)ち遊(あそ)ばす道理(だうり)は厶(ござ)りませぬ。154人(ひと)を疑(うたが)へば何処(どこ)までも限(かぎ)りのないもの、155人(ひと)の善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)は神(かみ)様(さま)が直接(ちよくせつ)にお審(さば)き遊(あそ)ばしませう。156仮令(たとへ)貴方(あなた)は神(かみ)の代表者(だいへうしや)としても矢張(やは)り人間(にんげん)の肉体(にくたい)を有(も)つた神(かみ)様(さま)、157如何(どう)して人(ひと)の心(こころ)の善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)が判(わか)りませう。158一切(いつさい)の心(こころ)の雲霧(くもきり)を払拭(ふつしき)し惟神(かむながら)の心(こころ)に立(た)ち帰(かへ)り、159胸(むね)に手(て)をあててお考(かんが)へ遊(あそ)ばしたらチツと御(ご)合点(かつてん)が参(まゐ)りませう。160もしも鬼熊別(おにくまわけ)さまに左様(さやう)な野心(やしん)がありとすれば、161あれだけ国民(こくみん)の信用(しんよう)を一身(いつしん)に担(にな)うたお方(かた)、162どんな事(こと)でも出来(でき)ませう。163貴方(あなた)は兵馬(へいば)の権(けん)を握(にぎ)つておいで遊(あそ)ばす故(ゆゑ)、164国王(こくわう)とも大教主(だいけうしゆ)とも仰(あふ)いでゐるものの、165人心(じんしん)は既(すで)に離(はな)れて居(を)りますよ。166髭(ひげ)の塵(ちり)を払(はら)ふものばかりお側(そば)に近寄(ちかよ)つて貴方(あなた)を益々(ますます)深(ふか)い淵(ふち)に陥(おとしい)れるものばかり、167本当(ほんたう)に貴方(あなた)の力(ちから)になる誠(まこと)の者(もの)は此(この)沢山(たくさん)な御(ご)家来(けらい)の内(うち)、168妾(わたし)の公平(こうへい)なる目(め)より見(み)れば鬼熊別(おにくまわけ)様(さま)より外(ほか)に只(ただ)の一人(ひとり)もありませぬ。169何卒(どうぞ)一(いち)時(じ)も早(はや)く鬼熊別(おにくまわけ)と胸襟(きようきん)を開(ひら)いてお道(みち)の為(ため)、170国(くに)の為(ため)、171最善(さいぜん)の力(ちから)をお尽(つく)し遊(あそ)ばす様(やう)に石生能(いその)姫(ひめ)が真心(まごころ)をこめてお願(ねが)ひ致(いた)します』
172 大黒主(おほくろぬし)は石生能(いその)姫(ひめ)の云(い)ふ事(こと)ならば一旦(いつたん)は拒(こば)んで見(み)ても、173徹底(てつてい)的(てき)に排除(はいじよ)する事(こと)は恋(こひ)の弱味(よわみ)で出来(でき)なかつた。174大黒主(おほくろぬし)は遂(つひ)に我(が)を折(を)つて、
175大黒主『それなら鬼熊別(おにくまわけ)の身(み)の上(うへ)は其方(そなた)に任(まか)す。176随分(ずゐぶん)気(き)を付(つ)けて彼(かれ)に謀(はか)られぬ様(やう)、177此(この)方(はう)のために力(ちから)を尽(つく)すやうに云(い)ひ聞(き)かしてくれ』
178石生能姫『早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、179石生能(いその)姫(ひめ)満足(まんぞく)致(いた)します。180左様(さやう)ならば明日(みやうにち)早朝(さうてう)妾(わたし)より彼(かれ)が館(やかた)を訪(たづ)ね充分(じうぶん)に其(その)意中(いちう)を探(さぐ)り果(はた)して善人(ぜんにん)ならば日々(にちにち)登場(とうぢやう)を命(めい)じ旦那(だんな)様(さま)の相談柱(さうだんばしら)と致(いた)しますなり、181もしも心(こころ)に針(はり)を包(つつ)む様(やう)な形跡(けいせき)が鵜(う)の毛(け)の露(つゆ)程(ほど)でもありますなら、182それこそ断乎(だんこ)たる処置(しよち)を執(と)らねばなりますまい。183それなら明日(あす)の早朝(さうてう)鬼熊別(おにくまわけ)の館(やかた)に参(まゐ)りますから御(ご)承知(しようち)を願(ねが)つておきます』
184大黒主『其方(そなた)が態々(わざわざ)行(ゆ)かないでも此処(ここ)へ呼(よ)び寄(よ)せて調(しら)べたら如何(どう)だ。185女(をんな)と云(い)ふものはさう易々(やすやす)と門(もん)を跨(また)げるものではない』
186石生能姫『オホヽヽヽ旦那(だんな)様(さま)の今(いま)のお言葉(ことば)、187今日(こんにち)の女(をんな)は、188社交界(しやかうかい)の花(はな)と謳(うた)はれねば女(をんな)ではありませぬ。189夫(をつと)の成功(せいこう)は凡(すべ)て女(をんな)の社交(しやかう)の上手(じやうづ)下手(へた)にあるもので厶(ござ)います。190妾(わたし)が鬼熊別(おにくまわけ)の屋敷(やしき)へ参(まゐ)つたとて、191決(けつ)して旦那(だんな)様(さま)のお顔(かほ)にかかはる様(やう)な汚(けが)れた事(こと)は致(いた)しませぬから、192そこは御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいまして、193鬼熊別(おにくまわけ)の真(しん)の精神(せいしん)をトコトン探(さぐ)らして下(くだ)さいませ』
194大黒主『それなら何事(なにごと)も其方(そなた)に一任(いちにん)する。195明日(あす)は早朝(さうてう)よりソツと余(あま)り人(ひと)に判(わか)らぬやうに彼(かれ)の館(やかた)に訪(たづ)ね行(ゆ)き篤(とく)と心中(しんちう)を見届(みとど)けてくれ。196サア夜(よ)も大分(だいぶん)に更(ふ)けたやうだ。197就寝(しうしん)致(いた)さうか』
198石生能姫『はい』
199と答(こた)へて石生能(いその)姫(ひめ)は寝具(しんぐ)をのべ、200夫婦(ふうふ)は茲(ここ)に漸(やうや)く久(ひさ)し振(ぶ)りで心(こころ)を落着(おちつ)け、201安々(やすやす)と寝(しん)に就(つ)いた。
202(大正一一・一一・一 旧九・一三 北村隆光録)
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