霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一八章 沼(ぬま)の月(つき)〔一一〇二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻 篇:第4篇 関風沼月 よみ(新仮名遣い):かんぷうしょうげつ
章:第18章 沼の月 よみ(新仮名遣い):ぬまのつき 通し章番号:1102
口述日:1922(大正11)年11月04日(旧09月16日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
満月が葵の沼を照らす中、黄金姫と清照姫の二人は沼のほとりを通りかかった。二人は月を題材に道歌を交わす。
そこへ、沼に映った月を砕き、バサバサと水音を立てて八人の黒い影が沼を渡ってくる。これは、照国別たちから逃げてきたバラモン教徒たちであった。
黄金姫と清照姫は八人の前に立ち現われて、自ら蜈蚣姫だと名乗り立ちはだかった。母娘二人は、男たちをつかんで沼に投げ返した。この勢いに八人は沼を逆戻りしてまた照国別たちの所に逃げていく。
八人はカルとレーブに赦しを乞うが、カルとレーブは八人を片っ端から沼へ投げ落とした。八人は浅い沼を渡って逃げていく。
春公は、八人の会話から沼の反対側に黄金姫と清照姫がいるのではないかと照国別に諮り、一同は沼を渡って母娘を探しに出た。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-04 11:16:57 文字数:4373 OBC :rm4018
愛善世界社版:237頁 八幡書店版:第7輯 505頁 修補版: 校定版:245頁 普及版:110頁 初版: ページ備考:
001 十五夜(じふごや)の満月(まんげつ)は水(みづ)清(きよ)き可(か)なり広(ひろ)き葵(あふひ)の沼(ぬま)に浮(う)いてゐる。002空(そら)には円満(ゑんまん)清朗(せいろう)の月(つき)、003池(いけ)の面(おも)にも亦(また)月影(つきかげ)をうつして、004小波(さざなみ)にゆらいでゐる。005そこを通(とほ)りかかつた二人(ふたり)の宣伝使(せんでんし)があつた。006これは黄金姫(わうごんひめ)、007清照姫(きよてるひめ)の二人(ふたり)である。
008黄金(わうごん)『今日(けふ)の御(ご)機嫌(きげん)のよいお月(つき)さまの御(おん)かむばせ、009まるで黄金色(わうごんいろ)のやうだ。010一(ひと)つ此(この)池(いけ)の畔(ほとり)で月(つき)を賞翫(しやうぐわん)しながら休息(きうそく)致(いた)しませうか』
011清照(きよてる)『お母(か)アさま。012お月様(つきさま)の色(いろ)は黄金姫(わうごんひめ)で厶(ござ)いますなア、013そして清(きよ)く照(て)り輝(かがや)き給(たま)ふ所(ところ)は清照姫(きよてるひめ)といつてもいいやうですなア。014さうするとヤツパリ貴方(あなた)が体(たい)で私(わたし)が用(よう)といふやうなもの、015一(いち)日(にち)も早(はや)く此(この)娑婆(しやば)世界(せかい)をして黄金(わうごん)世界(せかい)に化(くわ)せしめ、016清(きよ)く照(て)り渡(わた)る三五(あななひ)の教(をしへ)を天下(てんか)に輝(かがや)かしたきもので厶(ござ)います。017此(この)沼(ぬま)は何(なん)といふ沼(ぬま)で厶(ござ)いませうか』
018黄金姫『何(なん)でも葵沼(あふひぬま)とかいふ事(こと)だ。019青空(あをぞら)が映(うつ)つて、020星(ほし)の影(かげ)さへ浮(うか)んでゐる。021何(なん)ともいへぬ景色(けしき)だ。022一(ひと)つここで歌(うた)でもよみませうか』
023清照姫『ハイ宜(よろ)しからう、024お母(か)アさまから一(ひと)つ出(だ)して下(くだ)さい、025私(わたし)が下(しも)の句(く)をつけますから』
026黄金(わうごん)……大空(おほぞら)も水底(みなそこ)までも葵沼(あふひぬま)
027清照(きよてる)………黄金色(わうごんいろ)に月(つき)は輝(かがや)く。
028黄金姫 黄金(わうごん)の玉(たま)の姿(すがた)は天(あめ)と地(つち)に
029清照姫 輝(かがや)きわたり清(きよ)く照(て)りぬる。
030黄金姫 清(きよ)くてる月(つき)の光(ひかり)の一(ひと)しほに
031清照姫 沼(ぬま)に映(うつ)りていとどさやけし。
032黄金姫 月(つき)うかび星(ほし)さへ浮(うか)ぶ此(この)沼(ぬま)は
033清照姫 高天原(たかあまはら)の姿(すがた)なるらむ。
034黄金姫 三五(あななひ)の月(つき)の教(をしへ)をまつぶさに
035清照姫 上(うへ)と下(した)とに照(て)らしゆかなむ。
036黄金姫 照(て)りわたる此(この)池水(いけみづ)を眺(なが)むれば
037清照姫 雲井(くもゐ)の空(そら)にまがふべらなり。
038黄金姫 風(かぜ)さへも凪(な)ぎわたりたる池(いけ)の面(も)に
039清照姫 黄金(わうごん)の月(つき)清(きよ)く照(て)るなり。
040黄金姫 望(もち)の夜(よ)の月(つき)の姿(すがた)を眺(なが)むれば
041清照姫 心持(こころもち)よき沼(ぬま)の面(おも)かな。
042黄金姫 沼(ぬま)の月(つき)波(なみ)に砕(くだ)けてなみなみと
043清照姫 動(うご)く姿(すがた)を見(み)れば飽(あ)かぬかも。
044黄金姫 今宵(こよひ)こそ沼(ぬま)の畔(ほとり)に熟睡(うまゐ)して
045清照姫 身魂(みたま)の疲(つか)れ休(やす)めむとぞ思(おも)ふ。
046黄金姫 吾(わが)魂(たま)は今(いま)見(み)る月(つき)の如(ごと)くなり
047清照姫 砕(くだ)けむとしていかな砕(くだ)けず。
048黄金姫 大空(おほぞら)に澄(す)み渡(わた)りたる月影(つきかげ)は
049清照姫 清照姫(きよてるひめ)の姿(すがた)ならまし。
050黄金姫 清(きよ)く照(て)る月(つき)の姿(すがた)は素盞嗚(すさのを)の
051清照姫 神(かみ)の尊(みこと)の光(ひかり)なるらむ。
052黄金姫 月読(つきよみ)の神(かみ)の姿(すがた)や瑞御霊(みづみたま)
053清照姫 沼(ぬま)の底(そこ)まで照(て)りわたる哉(かな)。
054黄金(わうごん)『オホヽヽヽ清(きよ)さま、055中々(なかなか)お上手(じやうづ)ですこと、056黄金姫(わうごんひめ)も如何(どう)やら歌(うた)の種(たね)が切(き)れました』
057清照(きよてる)『お母(か)アさま、058それなら私(わたくし)が始(はじ)めますから、059どうぞ後(あと)の句(く)をつけて下(くだ)さい』
060黄金(わうごん)『それも面白(おもしろ)からう、061やつて見(み)なさい』
062清照(きよてる)……われは今(いま)葵(あふひ)の沼(ぬま)の月(つき)を見(み)る
063黄金(わうごん)………月(つき)の教(をしへ)を開(ひら)く道(みち)にて。
064清照姫 月(つき)見(み)れば此(この)世(よ)の中(なか)も楽(たの)しけれ
065黄金姫 みちかけ繁(しげ)き人(ひと)の世(よ)なれど。
066清照姫 清(きよ)く照(て)る月(つき)に心(こころ)をあらはめや
067黄金姫 天(あめ)が下(した)をば照(て)らし行(ゆ)く身(み)は。
068清照姫 此(この)沼(ぬま)の主(ぬし)は幸(さち)も多(おほ)からむ
069黄金姫 夜(よ)な夜(よ)な清(きよ)き月(つき)を眺(なが)めて。
070清照姫 日(ひ)の光(ひかり)打仰(うちあふ)ぐ度(たび)に目(め)は晦(くら)む
071黄金姫 月(つき)のみ独(ひと)り眼(まなこ)養(やしな)ふ。
072清照姫 日(ひ)の光(ひかり)隅(くま)なく照(て)らす世(よ)の中(なか)に
073黄金姫 又(また)もや月(つき)の光(ひかり)めでたし。
074清照姫 日(ひ)も月(つき)も世人(よびと)の為(ため)に大空(おほぞら)に
075黄金姫 輝(かがや)き給(たま)ふ神(かみ)の御恵(みめぐみ)。
076清照姫 有難(ありがた)し三五(あななひ)の月(つき)の御教(みをしへ)の
077黄金姫 旭(あさひ)の如(ごと)く照(て)りわたる世(よ)は。
078清照姫 日(ひ)も月(つき)も波間(なみま)に浮(うか)ぶ葵沼(あふひぬま)
079黄金姫 心(こころ)も赤(あか)きわれは眺(なが)めつ。
080清照姫 母(おや)と娘(こ)が葵(あふひ)の沼(ぬま)を打眺(うちなが)め
081黄金姫 月(つき)の光(ひかり)をめづる今日(けふ)かな。
082清照姫 バラモンの神(かみ)の教(をしへ)は晦日(つもごり)の
083黄金姫 暗夜(やみよ)の如(ごと)き姿(すがた)なるらむ。
084清照姫 暗(やみ)の夜(よ)を照(て)らし清(きよ)むる黄金(わうごん)の
085黄金姫 月(つき)の光(ひかり)ぞ雄々(をを)しかりけり。
086清照姫 晦日(つもごり)の大空(おほぞら)遠(とほ)く眺(なが)むれば
087黄金姫 大黒主(おほくろぬし)の暗夜(やみよ)なりけり。
088清照姫 鬼熊(おにくま)の別(わけ)の命(みこと)の魂(たましひ)は
089黄金姫 空(そら)行(ゆ)く雲(くも)に包(つつ)まれし月(つき)。
090清照姫 大空(おほぞら)もやがてハルナの神館(かむやかた)
091黄金姫 三五(あななひ)の月(つき)の清(きよ)く照(て)るらむ。
092清照(きよてる)『オホヽヽヽ私(わたし)もこれで小出(こだ)しが切(き)れました。093又(また)暇(ひま)な時(とき)、094倉庫(さうこ)よりドツサリ出(だ)してお目(め)にかけませう』
095黄金(わうごん)『オホヽヽヽヽ清(きよ)さま、096お前(まへ)さまも随分(ずゐぶん)杢助(もくすけ)さまの側(そば)に居(ゐ)たおかげで、097滑稽(こつけい)が上手(じやうづ)になりましたな』
098清照(きよてる)『コツケコと東雲(しののめ)つぐる鶏(とり)の声(こゑ)
099やがて日(ひ)の出(で)の神(かみ)や昇(のぼ)らむ』
100黄金(わうごん)『オホヽヽ早速(さつそく)の滑稽(こつけい)が始(はじ)まつた。101ドレ此(この)母(はは)も一(ひと)つ旅(たび)の疲(つか)れを慰(なぐさ)むる為(ため)、102駄句(だく)つて見(み)ませう。
103葵沼(あふひぬま)に赤(あか)い心(こころ)の神司(かむづかさ)
104白(しろ)い三五(あななひ)の月(つき)を見(み)る哉(かな)。
105黄金(わうごん)の姫(ひめ)の司(つかさ)が現(あら)はれて
106葵(あふひ)の沼(ぬま)のわれた月(つき)みる』
107清照(きよてる)『われた月(つき)そりや母(かあ)さまの事(こと)ですよ
108私(わたし)の月(つき)はまん丸(まる)い月(つき)』
109黄金(わうごん)『オツホヽヽヽ手(て)にも足(あし)にも合(あ)はぬお嬢(ぢやう)さまだなア』
110清照姫『われぬ月(つき)とは言(い)ふものの友彦(ともひこ)の
111波(なみ)に砕(くだ)けし半(はん)われの月(つき)』
112黄金姫『うまうまと母(はは)の前(まへ)にて嘘(うそ)をつき
113つき通(とほ)さむとするぞ可笑(をか)しき』
114清照姫『片(かた)われの月(つき)さへ望(もち)の夜(よ)となれば
115どこもかけない黄金(わうごん)の月(つき)』
116黄金(わうごん)『オホヽヽヽヽ余(あま)り月々(つきつき)云(い)うてると、117月(つき)がひつくり返(かへ)つて、118キズが出(で)て来(き)ます。119モウいい加減(かげん)に歌(うた)の材料(ざいれう)もつきだ。120サアサアここでゆつくり寝(ね)ツキませう』
121清照(きよてる)『私(わたし)もツキ合(あ)ひにお側(そば)にツキ添(そ)うて、122寝(ね)ツキませう。123オホヽヽヽ』
124と笑(わら)ひながら、125月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)びつつ、126蓑(みの)を布(し)いて沼(ぬま)の畔(ほとり)にたわいもなく横(よこた)はる。
127 斯(か)かる所(ところ)へ、128沼(ぬま)に浮(うか)んだ月(つき)を砕(くだ)いて、129バサバサバサと波(なみ)を蹴破(けやぶ)り、130走(はし)つて来(き)た七八(しちはち)人(にん)の黒(くろ)い影(かげ)、
131エル『あゝあ、132ドテライ目(め)に会(あ)うた。133蜈蚣姫(むかでひめ)、134小糸姫(こいとひめ)の両人(りやうにん)に、135テツキリと玉山峠(たまやまたうげ)の南坂(みなみざか)で出会(でつくは)し、136カルの大将(たいしやう)の命令(めいれい)で、137遮二(しやに)無二(むに)攻(せ)めかけた所(ところ)、138苦(く)もなく谷底(たにそこ)へ取(と)つてほられ、139気絶(きぜつ)して一途(いちづ)の川(かは)まで鬼(おに)に引(ひ)きゆかれ困(こま)つてゐる所(ところ)へ、140三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)がやつて来(き)やがつて、141何(なん)とも知(し)れぬ甘露水(かんろすゐ)を呑(の)ませて呉(く)れやがつたと思(おも)へば、142谷底(たにそこ)にブツ倒(たふ)れて夢(ゆめ)を見(み)てゐたのであつた。143本当(ほんたう)にこはい夢(ゆめ)だつたが、144気(き)がついて見(み)ると馬鹿(ばか)らしい、145それにも拘(かかは)らず、146カルの大将(たいしやう)奴(め)、147安眠中(あんみんちう)に起(おこ)されて、148命(いのち)の御(ご)恩人(おんじん)だなどと、149御(ご)追従(つゐしよう)を百万(ひやくまん)陀羅(だら)並(なら)べ、150胸糞(むねくそ)が悪(わる)くつてたまらない、151とうと彼奴(あいつ)ア三五教(あななひけう)に沈没(ちんぼつ)して了(しま)ひやがつた、152猫(ねこ)の目(め)の玉(たま)程(ほど)よく気(き)の変(かは)る奴(やつ)だ。153俺(おれ)達(たち)はどこ迄(まで)も初心(しよしん)を変(へん)ぜず、154大黒主(おほくろぬしの)神(かみ)様(さま)の為(ため)に身命(しんめい)を捧(ささ)げたのだから、155あんな柔弱(にうじやく)な事(こと)は出来(でき)ない、156なあキル公(こう)、157本当(ほんたう)に約(つま)らぬ腰弱(こしよわ)ぢやないか』
158キル『オヽさうだ、159おれも余(あま)りケツ体(たい)が悪(わる)くて、160あんな宣伝使(せんでんし)に………ハイハイおかげで命(いのち)を助(たす)けて貰(もら)ひました………などと、161馬鹿(ばか)らしい、162其(その)場(ば)逃(のが)れにお世辞(せじ)を云(い)つてやつたが、163何(なん)だか打(う)たぬ博奕(ばくち)に負(ま)けた様(やう)で、164気色(きしよく)が悪(わる)くて堪(たま)らない。165一(ひと)つは仇討(あだうち)の為(ため)、166一(ひと)つは大黒主(おほくろぬし)様(さま)の前(まへ)に功名(こうみやう)を立(た)てる為(ため)、167皆(みな)の奴(やつ)の寝息(ねいき)を考(かんが)へて、168ソツと宣伝使(せんでんし)の腰(こし)に綱(つな)をつけ、169一(いつ)ぺんにグイと引張(ひつぱ)つて喉(のど)のしまる仕掛(しかけ)をしておいた所(ところ)、170宣伝使(せんでんし)の奴(やつ)、171大変(たいへん)な古狸(ふるだぬき)だから、172寝真似(ねまね)をしてをつたと見(み)えて、173いつの間(ま)にか魔法(まはふ)を使(つか)ひ、174あべこべに俺(おれ)達(たち)をフン縛(じば)り、175レーブに綱(つな)を引(ひ)かしやがつた時(とき)の苦(くる)しさ、176今度(こんど)こそ本当(ほんたう)に幽界(いうかい)旅行(りよかう)をせねばならぬかと心配(しんぱい)したよ。177一体(いつたい)貴様(きさま)達(たち)ア気(き)の利(き)かぬ奴(やつ)だから、178大(おほ)きな声(こゑ)を出(だ)しやがつて………命(いのち)の御(ご)恩人(おんじん)に恩(おん)を仇(あだ)で返(かへ)すよな事(こと)をしたら神罰(しんばつ)が当(あた)るなんて吐(ぬか)しやがるものだから、179とうとう計略(けいりやく)が外(はづ)れ、180虻蜂取(あぶはちと)らずになつて了(しま)つたぢやないか。181今度(こんど)から気(き)をつけぬと、182どんな目(め)に会(あ)はされるか知(し)れやしないぞ。183本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)だなア。184今(いま)にも蜈蚣姫(むかでひめ)や小糸姫(こいとひめ)が此(この)沼(ぬま)を迂回(うくわい)して、185ここに来(く)るに違(ちがひ)ないから、186今度(こんど)はぬかつちやならないぞ。187おれ達(たち)や貴様(きさま)達(たち)は大黒主(おほくろぬし)様(さま)のおかげで、188女房(にようぼう)子(こ)を安楽(あんらく)に養(やしな)うてゐるのぢやないか。189よう考(かんが)へて見(み)い、190果物(くだもの)ばかり食(く)つて命(いのち)をつなぐ訳(わけ)にもゆくまい。191大黒主(おほくろぬし)様(さま)から御(お)扶持(ふち)を頂(いただ)かなかつたら、192家内中(かないぢう)が皆(みな)かつゑて死(し)なねばならない。193それ程(ほど)大恩(たいおん)深(ふか)き御(ご)主人(しゆじん)様(さま)の事(こと)を打忘(うちわす)れ、194たつた自分(じぶん)一人(ひとり)の命(いのち)を助(たす)けてくれた宣伝使(せんでんし)が、195ナニそれ程(ほど)有難(ありがた)いか、196而(しか)も安眠(あんみん)してゐる所(ところ)を起(おこ)されたと云(い)つていい様(やう)なものだ。197大勢(おほぜい)の命(いのち)を常住(じやうぢう)不断(ふだん)につながして下(くだ)さる大黒主(おほくろぬし)様(さま)に、198如何(どう)して替(か)へる事(こと)が出来(でき)ようか。199皆(みな)の奴(やつ)、200さうぢやないか』
201一同(いちどう)『さう事(こと)を分(わ)けて説明(せつめい)して貰(もら)へば、202大黒主(おほくろぬし)さまは有難(ありがた)いなア。203此(この)御恩(ごおん)に酬(むく)ゆるには如何(どう)しても蜈蚣姫(むかでひめ)、204小糸姫(こいとひめ)の二人(ふたり)を捜(さが)して連(つ)れ帰(かへ)るのが第一(だいいち)の御(ご)恩報(おんはう)じだ。205最早(もはや)将軍(しやうぐん)はイソ館(やかた)へ進軍(しんぐん)され、206遠(とほ)く行(ゆ)かれたに違(ちがひ)ないから、207俺(おれ)達(たち)は到底(たうてい)本隊(ほんたい)をはなれて、208此(この)小部隊(せうぶたい)では険呑(けんのん)で進(すす)む事(こと)も出来(でき)ないから、209せめては母娘(おやこ)二人(ふたり)の行方(ゆくへ)を捜(さが)して、210彼奴(あいつ)を捕縛(ほばく)して凱旋(がいせん)する方(はう)が、211何程(なんぼ)手柄(てがら)になるか知(し)れたものぢやないぞ。212浅(あさ)い沼(ぬま)ではあるが、213時々(ときどき)泥深(どろぶか)い所(ところ)があつて、214睾丸(きんたま)も褌(ふんどし)もズクタンボー[※但馬地方の方言で「ずぶ濡れ」を意味する「ずくたんぼ」のことだと思われる。]になりよつた。215何(なん)とかして此奴(こいつ)を早(はや)く干(かは)かさぬと、216気分(きぶん)が悪(わる)くて仕方(しかた)ない。217月(つき)は照(て)つてゐるが、218彼奴(あいつ)はあつてもなうてもよい奴(やつ)だから、219俺(おれ)の褌(ふんどし)一(ひと)つよう乾(かわ)かす力(ちから)を持(も)つてゐやがらせぬワイ。220其(その)事(こと)思(おも)へば、221日輪(にちりん)さまはエライものだなア。222三五教(あななひけう)は月(つき)の教(をしへ)だとか吐(ぬか)して居(ゐ)るが、223夜(よる)の守護(しゆご)だから、224サツパリ駄目(だめ)だ。225サア皆(みな)の奴(やつ)、226ここで一(ひと)つ一服(いつぷく)致(いた)さうかい』
227 黄金姫(わうごんひめ)は草(くさ)の中(なか)から、
228黄金姫『われこそは一途(いちづ)の川(かは)の鬼婆(おにばば)だぞよ、229其(その)方(はう)は此処(ここ)を葵(あふひ)の沼(ぬま)と思(おも)うて居(ゐ)るか、230ここは冥途(めいど)の関所(せきしよ)だ。231サア早(はや)く其(その)衣(ころも)を脱(ぬ)げ』
232キル『オイ皆(みな)の奴(やつ)、233ヤツパリ此奴(こいつ)ア夢(ゆめ)かも知(し)れぬぞ。234宣伝使(せんでんし)が助(たす)けよつたと思(おも)うたのは嘘(うそ)だつたかいな。235一途(いちづ)の川(かは)のヤツパリここは連続(れんぞく)だ。236エヽもう斯(か)うなつてはヤケクソだ。237どつかここらの草(くさ)の中(なか)に脱衣婆(だついばば)の声(こゑ)がして来(き)た。238サア突貫(とつくわん)々々(とつくわん)』
239と号令(がうれい)する。240黄金姫(わうごんひめ)、241清照姫(きよてるひめ)は草(くさ)を分(わ)けて八(はち)人(にん)の前(まへ)にスツクと立現(たちあら)はれ、
242黄金(わうごん)『バラモン教(けう)の悪人(あくにん)共(ども)、243サア之(これ)から蜈蚣姫(むかでひめ)が武勇(ぶゆう)の試(ため)し時(どき)、244覚悟(かくご)いたせ』
245キル『ナヽ何(なん)だあ、246蜈蚣姫(むかでひめ)だ、247甘(うま)い事(こと)吐(ぬか)すない、248一途(いちづ)の川(かは)の星々婆(ほしほしばば)ア奴(め)、249ガキも人数(にんず)だ。250八(はち)人(にん)と一人(ひとり)では叶(かな)ふまい。251サア突貫(とつくわん)々々(とつくわん)』
252清照(きよてる)『妾(わらは)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)小糸姫(こいとひめ)だ。253バラモン教(けう)の悪人(あくにん)共(ども)、254一人(ひとり)も残(のこ)らず冥途(めいど)の旅立(たびだち)をさしてやらう。255サア覚悟(かくご)はよいか』
256キル『ヤア此奴(こいつ)は又(また)若(わか)い脱衣婆(だついばば)アだ。257コリヤ両人(りやうにん)、258蜈蚣姫(むかでひめ)や小糸姫(こいとひめ)の名(な)をかたつても駄目(だめ)だぞ。259一(ひ)イ二(ふ)ウ三(み)ツ』
260といひながら、261八(はち)人(にん)は二人(ふたり)に向(むか)つて武者(むしや)振(ぶ)りつくを、
262『エヽ面倒(めんだう)』
263と母娘(おやこ)二人(ふたり)は首筋(くびすぢ)つかんで葵(あふひ)の沼(ぬま)の真中(まんなか)へ、264一人(ひとり)も残(のこ)らず、265バサリバサリと投(な)げ込(こ)んだ。266八(はち)人(にん)は此(この)勢(いきほひ)に辟易(へきえき)し、267一生(いつしやう)懸命(けんめい)に再(ふたた)び沼(ぬま)の真中(まんなか)をバサバサバサと北(きた)を指(さ)して逃(に)げて行(ゆ)く。
268 八(はち)人(にん)の奴(やつ)は驚(おどろ)きの余(あま)り、269照国別(てるくにわけ)の休(やす)んでゐる所(ところ)へ、270以前(いぜん)の怖(こは)さを忘(わす)れて又(また)もやバサバサバサと命(いのち)からがら上(あが)つて来(き)た。271レーブは此(この)姿(すがた)を見(み)て、
272レーブ『アハヽヽヽ、273コリヤ八(や)つの蛙(かへる)、274如何(どう)したのだ。275いかにカヘルだと云(い)つて、276再(ふたた)び元(もと)の所(ところ)へ逃(に)げカヘル奴(やつ)があるかい』
277キル『ヤア…………此奴(こいつ)アしまつた、278余(あま)りビツクリして忘(わす)れてゐた。279前門(ぜんもん)の狼(おほかみ)、280後門(こうもん)の虎(とら)だ。281オイ、282レーブ、283こらへてくれ。284向(むか)ふへ渡(わた)ると蜈蚣姫(むかでひめ)、285小糸姫(こいとひめ)の名(な)をかたつて婆(ばば)や娘(むすめ)がヒユードロドロと出(で)やがるなり、286こつちへ来(く)れば又(また)此(この)通(とほ)り、287進退(しんたい)これ谷(きは)まるだ。288モウ改心(かいしん)するから許(ゆる)してくれ。289頼(たの)む頼(たの)む』
290レーブ『たとへ宣伝使(せんでんし)がお赦(ゆる)しになつても、291貴様(きさま)の様(やう)な不都合(ふつがふ)な奴(やつ)は此(この)レーブが赦(ゆる)さぬのだ。292オイ、293カル、294貴様(きさま)も一(ひと)つ手伝(てつだ)つてくれ。295この八匹(はつぴき)の蛙(かへる)を元(もと)のドブ池(いけ)へ突込(つつこ)んでやるのだから』
296カル『ヨシ来(き)た』
297とカルは立上(たちあが)り、298手(て)に唾(つば)して、299片(かた)つぱしからドブンドブンと沼(ぬま)を目(め)がけて投込(なげこ)んだ。300八(はち)人(にん)は又(また)もやバサバサバサと浅(あさ)き沼(ぬま)を命(いのち)カラガラ南(みなみ)を指(さ)して逃(に)げて行(ゆ)く。
301春公(はるこう)『モシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、302ヒヨツとしたら、303黄金姫(わうごんひめ)様(さま)、304清照姫(きよてるひめ)様(さま)は此(この)沼(ぬま)の向方(むかふ)あたりにお休(やす)みになつてるのかも知(し)れませぬぜ』
305照国(てるくに)『いかにもさうかも知(し)れない、306一(ひと)つ此(この)沼(ぬま)を渡(わた)つて、307追(お)つついて査(しら)べてみよう。308サア一同(いちどう)用意(ようい)だ』
309と云(い)ひながら、310早(はや)くも照国別(てるくにわけ)は裾(すそ)をからげ、311浅(あさ)き沼(ぬま)をバサバサと歩(あゆ)み出(だ)した。312照(てる)、313梅(うめ)、314春(はる)、315レーブ、316カルの一行(いつかう)は照国別(てるくにわけ)の後(あと)に従(したが)ひ、317月(つき)照(て)り渡(わた)る沼(ぬま)の中(なか)をバサリバサリと、318波(なみ)に円(ゑん)を描(ゑが)きながら急(いそ)ぎ行(ゆ)く。
319(大正一一・一一・四 旧九・一六 松村真澄録)
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