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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第40巻(卯の巻)
序文に代へて
緒言
総説
第1篇 恋雲魔風
第1章 大雲山
第2章 出陣
第3章 落橋
第4章 珍客
第5章 忍ぶ恋
第2篇 寒梅照国
第6章 仁愛の真相
第7章 文珠
第8章 使者
第9章 雁使
第3篇 霊魂の遊行
第10章 衝突
第11章 三途館
第12章 心の反映
第13章 試の果実
第14章 空川
第4篇 関風沼月
第15章 氷嚢
第16章 春駒
第17章 天幽窟
第18章 沼の月
第19章 月会
第20章 入那の森
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第40巻(卯の巻)
> 第1篇 恋雲魔風 > 第5章 忍ぶ恋
<<< 珍客
(B)
(N)
仁愛の真相 >>>
第五章
忍
(
しの
)
ぶ
恋
(
こひ
)
〔一〇八九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻
篇:
第1篇 恋雲魔風
よみ(新仮名遣い):
れんうんまふう
章:
第5章 忍ぶ恋
よみ(新仮名遣い):
しのぶこい
通し章番号:
1089
口述日:
1922(大正11)年11月01日(旧09月13日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年5月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
鬼熊別と石生能姫は奥の間に端座し、向かい合いながらしばし沈黙していた。鬼熊別は内心、大黒主の寵愛を受けハルナの館を取り仕切る石生能姫が共も連れずに一人やってきたことに何か深い仔細があるものと警戒していた。
石生能姫は、鬼熊別を慕う自分の心中を明かそうという決意でやってきたのだが、いざ鬼熊別に対面するとその思いはどこかへ消えてしまったかのようであった。
鬼熊別は、大黒主が自分を信任することは決してないことを知っていたが、すでに浮世には心にかけることはないと覚悟をしていることから、石生能姫の命にしたがって左守の留守役を引き受けたことを明かした。
また鬼熊別は実際のところ、大黒主を堕落させた毒婦として石生能姫のことを見ていたことを明かし、一日も早く前非を悔いて自害し、大黒主の目を覚ますようにと厳しく責め立てた。
石生能姫は返す言葉もなく泣き伏し、自分自身も大黒主が本妻をないがしろにして職務に身を入れていないことを嘆いていることを明かした。そして自分の身の上話を始め、元は三五教の信者であったが両親に生き別れ、まだ幼少のころに大黒主に見初められて小間使いとして連れてこられたことを語った。
しかし大黒主は、長じた自分を寵愛し、恩ある鬼雲姫が自分のために大黒主から疎まれてしまう結果となった。そのことを苦にして自害しようとしたが、そのたびに中空から声が聞こえて押しとどめられたという。
そのため、大黒主に唯一忠言できる自分の立場を鑑み、バラモン教の柱石となる人物を守ることが自分の役割だと思い切って、これまで活動してきたのだと胸中を明かした。
鬼熊別は、石生能姫のバラモン教に対する赤誠を感じ、これまで毒婦と思ってきたことを詫びた。そして、大黒主の考えを改めてバラモン教の立て直しをしたいという自分の思いを石生能姫に吐露した。
石生能姫は、大黒主の我は左守の軍がウラル教徒に敗れなければ折れないことまで見通しており、その機をうかがいながら、共に協力してハルナ城内を清めようと鬼熊別に決心の内を明かした。
鬼熊別と石生能姫は志を同じくし、共にバラモン教の立て直しのために働くことを誓って別れた。鬼熊別は神殿に向かい、バラモン神に感謝の祝詞を奏上して涙を流した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-11-28 11:59:06
OBC :
rm4005
愛善世界社版:
56頁
八幡書店版:
第7輯 437頁
修補版:
校定版:
58頁
普及版:
27頁
初版:
ページ備考:
001
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
、
002
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
端坐
(
たんざ
)
し、
003
双方
(
さうはう
)
から
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
004
暫
(
しば
)
し
沈黙
(
ちんもく
)
の
幕
(
まく
)
がおりた。
005
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
にて……
夜前
(
やぜん
)
の
熊彦
(
くまひこ
)
の
報告
(
はうこく
)
と
云
(
い
)
ひ、
006
又
(
また
)
途中
(
とちう
)
の
大橋
(
おほはし
)
を
落
(
おと
)
しおきたるにも
拘
(
かかは
)
らず、
007
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
供
(
とも
)
をもつれず、
008
身分
(
みぶん
)
をも
弁
(
わきま
)
へず
訪
(
たづ
)
ね
来
(
きた
)
りしは
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
き
仔細
(
しさい
)
のあるならむと、
009
口
(
くち
)
をつぐんで
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
の
切出
(
きりだ
)
しを
待
(
ま
)
つてゐた。
010
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
も
亦
(
また
)
今更
(
いまさら
)
の
如
(
ごと
)
く
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
儼然
(
げんぜん
)
たる
態度
(
たいど
)
に
気
(
き
)
を
呑
(
の
)
まれ、
011
胸
(
むね
)
に
積
(
つも
)
りし
数々
(
かずかず
)
を
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てむとしたる
事
(
こと
)
の、
012
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら、
013
どこともなく
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せて、
014
出
(
だ
)
す
言葉
(
ことば
)
も
知
(
し
)
らず
稍
(
やや
)
躊躇
(
ちうちよ
)
狼狽
(
らうばい
)
の
態
(
てい
)
にて
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
015
黙然
(
もくねん
)
として
差俯
(
さしうつ
)
むいてゐる。
016
かくして
四半時
(
しはんとき
)
ばかり
沈黙
(
ちんもく
)
の
内
(
うち
)
に
時
(
とき
)
は
容赦
(
ようしや
)
なく
過去
(
すぎさ
)
つた。
017
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つたやうに
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
は
稍
(
やや
)
顔
(
かほ
)
を
赤
(
あか
)
らめて、
018
石生能姫
『
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
遊
(
あそ
)
ばす
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
のお
宅
(
たく
)
を
女
(
をんな
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
供
(
とも
)
をもつれず
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
019
御
(
ご
)
訪問
(
はうもん
)
申上
(
まをしあ
)
げましたに
就
(
つい
)
ては、
020
貴方
(
あなた
)
も
嘸
(
さぞ
)
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
021
奥様
(
おくさま
)
やお
嬢様
(
ぢやうさま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
とやらに
入信
(
にふしん
)
遊
(
あそ
)
ばして、
022
貴方
(
あなた
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
苦節
(
くせつ
)
を
守
(
まも
)
り、
023
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
をつづけて、
024
お
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
お
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
に
昼夜
(
ちうや
)
御
(
ご
)
辛労
(
しんらう
)
を
遊
(
あそ
)
ばす、
025
其
(
その
)
見上
(
みあ
)
げたお
志
(
こころざし
)
、
026
実
(
じつ
)
に
感服
(
かんぷく
)
の
至
(
いた
)
りで
厶
(
ござ
)
います』
027
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
028
鬼熊別
『
御用
(
ごよう
)
は
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
いますか。
029
どうぞ
手取
(
てつと
)
り
早
(
ばや
)
く
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
030
又々
(
またまた
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
嫌疑
(
けんぎ
)
を
受
(
う
)
けては
互
(
たがひ
)
の
迷惑
(
めいわく
)
、
031
サ、
032
早
(
はや
)
く
御用
(
ごよう
)
の
趣
(
おもむき
)
を』
033
とせき
立
(
た
)
てれば、
034
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
は
悲
(
かな
)
しげに、
035
涙声
(
なみだごゑ
)
にて、
036
石生能姫
『ハイ
何
(
なに
)
から
申上
(
まをしあ
)
げて
宜
(
よろ
)
しいやら、
037
只今
(
ただいま
)
迄
(
まで
)
斯
(
か
)
うも
申上
(
まをしあ
)
げたい、
038
あゝも
申上
(
まをしあ
)
げたいと
胸
(
むね
)
に
一杯
(
いつぱい
)
になつて
居
(
を
)
りましたが、
039
貴方
(
あなた
)
の
儼然
(
げんぜん
)
たるお
姿
(
すがた
)
を
拝
(
はい
)
して、
040
俄
(
にはか
)
にどつかへ
隠
(
かく
)
れて
了
(
しま
)
ひました。
041
どうぞゆるゆると
申上
(
まをしあ
)
げますから
気
(
き
)
を
長
(
なが
)
くお
聞取
(
ききと
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
042
鬼熊別
『
私
(
わたくし
)
は
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
043
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
に
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
の
嫌疑
(
けんぎ
)
を
蒙
(
かうむ
)
り、
044
左守
(
さもり
)
の
聖職
(
せいしよく
)
まで
取剥
(
とりは
)
がれ、
045
何
(
なん
)
となく
両者
(
りやうしや
)
の
間
(
あひだ
)
には、
046
形容
(
けいよう
)
し
難
(
がた
)
き
妖雲
(
えううん
)
漂
(
ただよ
)
ひ、
047
今
(
いま
)
にも
雨
(
あめ
)
か
風
(
かぜ
)
か
雷鳴
(
らいめい
)
かといふ
殺風景
(
さつぷうけい
)
な
空気
(
くうき
)
が
包
(
つつ
)
んで
居
(
を
)
りましたが、
048
昨日
(
きのう
)
の
外教
(
ぐわいけう
)
征伐
(
せいばつ
)
の
相談
(
さうだん
)
の
際
(
さい
)
、
049
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
のお
取成
(
とりな
)
しに
依
(
よ
)
つて
再
(
ふたた
)
び
元
(
もと
)
の
左守
(
さもり
)
に
任
(
にん
)
ぜられ、
050
私
(
わたくし
)
としては
身
(
み
)
に
余
(
あま
)
る
光栄
(
くわうえい
)
で
厶
(
ござ
)
りますが、
051
之
(
これ
)
が
却
(
かへつ
)
て
私
(
わたくし
)
の
為
(
ため
)
には
大
(
だい
)
なる
災
(
わざはひ
)
とならうも
知
(
し
)
りませぬ。
052
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
が
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
御
(
ご
)
任命
(
にんめい
)
ならば
私
(
わたくし
)
も
喜
(
よろこ
)
んでお
受
(
う
)
けを
致
(
いた
)
しますが、
053
代理権
(
だいりけん
)
の
御
(
ご
)
執行
(
しつかう
)
とはいへ、
054
決
(
けつ
)
して
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
は
私
(
わたくし
)
を
御
(
ご
)
信任
(
しんにん
)
遊
(
あそ
)
ばして
厶
(
ござ
)
る
筈
(
はず
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
055
早速
(
さつそく
)
御
(
ご
)
辞退
(
じたい
)
申
(
まう
)
さむかと
其
(
その
)
場
(
ば
)
で
思
(
おも
)
ひましたが、
056
さうしては
物事
(
ものごと
)
に
角
(
かど
)
が
立
(
た
)
ち、
057
円満
(
ゑんまん
)
解決
(
かいけつ
)
が
出来難
(
できにく
)
い、
058
又
(
また
)
外
(
そと
)
に
向
(
むか
)
つて
勁敵
(
けいてき
)
を
控
(
ひか
)
へ、
059
兵馬
(
へいば
)
の
勢力
(
せいりよく
)
は
大部分
(
だいぶぶん
)
外
(
そと
)
に
出
(
い
)
で、
060
ハルナ
城
(
じやう
)
は
守
(
まも
)
り
薄弱
(
はくじやく
)
となつた
此
(
この
)
際
(
さい
)
、
061
兄弟
(
けいてい
)
牆
(
かき
)
にせめぐ
如
(
ごと
)
き
愚
(
ぐ
)
を
演
(
えん
)
じてはお
道
(
みち
)
の
不利益
(
ふりえき
)
と
存
(
ぞん
)
じまして、
062
口
(
くち
)
まで
出
(
で
)
かけてゐた
辞退
(
じたい
)
の
言葉
(
ことば
)
を
呑
(
の
)
みこみ、
063
無念
(
むねん
)
をこらへて、
064
左守
(
さもり
)
たることをお
受
(
う
)
け
致
(
いた
)
したやうな
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
065
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
を
申
(
まを
)
せば、
066
私
(
わたくし
)
の
心
(
こころ
)
は
最早
(
もはや
)
浮世
(
うきよ
)
が
厭
(
いや
)
になり、
067
地位
(
ちゐ
)
も
名望
(
めいばう
)
も
財産
(
ざいさん
)
も
女房
(
にようばう
)
も
欲
(
ほ
)
しくはありませぬ。
068
暫
(
しばら
)
く
山林
(
さんりん
)
に
隠遁
(
いんとん
)
して、
069
光風
(
くわうふう
)
霽月
(
せいげつ
)
を
友
(
とも
)
とし
余生
(
よせい
)
を
送
(
おく
)
りたきは
山々
(
やまやま
)
なれども、
070
バラモン
教
(
けう
)
の
今日
(
こんにち
)
の
内情
(
ないじやう
)
を
見
(
み
)
ては、
071
左様
(
さやう
)
な
勝手
(
かつて
)
なことも
出来
(
でき
)
ませず、
072
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し
奉
(
たてまつ
)
り、
073
これ
位
(
くらゐ
)
不孝
(
ふかう
)
の
罪
(
つみ
)
はないと
存
(
ぞん
)
じ、
074
心
(
こころ
)
ならずも
御用
(
ごよう
)
を
承
(
うけたま
)
はることに
致
(
いた
)
しましたやうな
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
075
そして
貴女
(
あなた
)
、
076
途中
(
とちう
)
に
何
(
なに
)
か
変
(
かは
)
つたことは
厶
(
ござ
)
りませなんだかな』
077
石生能姫
『ハイ
別
(
べつ
)
に
変
(
かは
)
りもなかつた
様
(
やう
)
ですが、
078
此方
(
こちら
)
へ
参
(
まゐ
)
る
途中
(
とちう
)
、
079
九十九
(
つくも
)
橋
(
ばし
)
が
何者
(
なにもの
)
にか
打落
(
うちおと
)
され、
080
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
一
(
いち
)
里
(
り
)
ばかり
下手
(
しもて
)
へ
参
(
まゐ
)
り、
081
百代橋
(
ももよばし
)
を
渡
(
わた
)
つて、
082
お
館
(
やかた
)
を
訪
(
たづ
)
ねて
参
(
まゐ
)
りました。
083
途上
(
とじやう
)
伝
(
つた
)
ふる
所
(
ところ
)
によれば、
084
何
(
なん
)
でも
斯
(
か
)
う
申
(
まを
)
すとお
気
(
き
)
に
さへ
られるか
存
(
ぞん
)
じませぬが、
085
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
身内
(
みうち
)
の
者
(
もの
)
が、
086
何
(
なん
)
等
(
ら
)
かの
考
(
かんが
)
へで
打落
(
うちおと
)
したとか
云
(
い
)
ふ
噂
(
うはさ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
087
どうぞ
此
(
この
)
事
(
こと
)
が
大黒主
(
おほくろぬし
)
に
聞
(
きこ
)
えねばよいがと
実
(
じつ
)
は
心配
(
しんぱい
)
を
致
(
いた
)
しつつ
参
(
まゐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
います』
088
鬼熊別
『
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つ
嫌疑
(
けんぎ
)
の
種
(
たね
)
がふえましたな。
089
モウ
私
(
わたくし
)
は
何事
(
なにごと
)
も
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
090
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
任
(
まか
)
した
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
091
如何
(
いか
)
なる
災難
(
さいなん
)
がふりかかつて
来
(
こ
)
ようとも、
092
少
(
すこ
)
しも
恐
(
おそ
)
れは
致
(
いた
)
しませぬ。
093
併
(
しか
)
し
又
(
また
)
貴女
(
あなた
)
が
一人
(
ひとり
)
でお
越
(
こ
)
しになつたに
付
(
つ
)
いては
合点
(
がてん
)
のゆかぬことが
厶
(
ござ
)
います。
094
あれ
丈
(
だけ
)
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
様
(
さま
)
が
嫉妬心
(
しつとしん
)
深
(
ふか
)
く、
095
束
(
つか
)
の
間
(
ま
)
も
貴女
(
あなた
)
の
側
(
そば
)
を
離
(
はな
)
れないといふ
御
(
お
)
方
(
かた
)
が
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つて、
096
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
外出
(
ぐわいしゆつ
)
を
許
(
ゆる
)
されるとは、
097
合点
(
がてん
)
のゆかぬことで
厶
(
ござ
)
います。
098
大方
(
おほかた
)
夫婦
(
ふうふ
)
喧嘩
(
げんくわ
)
でも
遊
(
あそ
)
ばして、
099
貴女
(
あなた
)
は
城内
(
じやうない
)
をぬけ
出
(
だ
)
して
来
(
こ
)
られたのぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
100
石生能姫
『イエ
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して、
101
夫
(
をつと
)
の
諒解
(
りやうかい
)
を
得
(
え
)
て、
102
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
忍
(
しの
)
んで
参
(
まゐ
)
りました』
103
鬼熊別
『ハテ、
104
益々
(
ますます
)
合点
(
がてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬ。
105
これには
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
計略
(
けいりやく
)
のあることだろう……イヤ
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
殿
(
どの
)
、
106
打割
(
うちわ
)
つて
申
(
まを
)
さば、
107
貴女
(
あなた
)
の
如
(
ごと
)
き
毒婦
(
どくふ
)
に
物
(
もの
)
申
(
まを
)
すのも
汚
(
けが
)
らはしう
厶
(
ござ
)
る』
108
石生能姫
『エヽ
何
(
なん
)
と
仰
(
あふ
)
せられます。
109
それほど
妾
(
わたし
)
をお
憎
(
にく
)
みで
厶
(
ござ
)
いますか。
110
そりやマア
如何
(
どう
)
した
訳
(
わけ
)
で……』
111
鬼熊別
『
訳
(
わけ
)
は
言
(
い
)
はなくても、
112
貴女
(
あなた
)
のお
心
(
こころ
)
にお
尋
(
たづ
)
ねなされば、
113
キツと
分
(
わか
)
るでせう。
114
よく
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
115
大切
(
たいせつ
)
な
奥様
(
おくさま
)
を
放出
(
ほりだ
)
し、
116
貴女
(
あなた
)
は
のめのめ
と
其
(
その
)
後釜
(
あとがま
)
にすわり、
117
平気
(
へいき
)
の
平座
(
へいざ
)
で
女王面
(
ぢよわうづら
)
をさらして
厶
(
ござ
)
る。
118
そのお
振舞
(
ふるまひ
)
が
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
には
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りませぬ。
119
左様
(
さやう
)
なことをなさるものだから、
120
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
怒
(
いか
)
りにふれ、
121
三五教
(
あななひけう
)
やウラル
教
(
けう
)
がハルナの
都
(
みやこ
)
に
向
(
むか
)
つて
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せて
来
(
く
)
るやうになつたのです。
122
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
前非
(
ぜんぴ
)
を
悔
(
く
)
い、
123
奥様
(
おくさま
)
に
一
(
ひと
)
つはお
詫
(
わび
)
の
為
(
ため
)
、
124
一
(
ひと
)
つは
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
改心
(
かいしん
)
の
為
(
ため
)
に、
125
立派
(
りつぱ
)
に
自害
(
じがい
)
をしてお
果
(
は
)
てなされ。
126
それ
丈
(
だけ
)
の
真心
(
まごころ
)
がなくては、
127
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
神業
(
しんげふ
)
はつとまりませぬぞ』
128
と
儼然
(
げんぜん
)
として
叱
(
しか
)
るやうに
言
(
い
)
つてのけた。
129
其
(
その
)
権幕
(
けんまく
)
の
烈
(
はげ
)
しさに、
130
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
は
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
もなく、
131
ワツとばかりに
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
泣
(
な
)
き
倒
(
たふ
)
れた。
132
暫
(
しばら
)
くにして
目
(
め
)
をおしぬぐひ、
133
顔
(
かほ
)
をあげ、
134
細
(
ほそ
)
き
声
(
こゑ
)
にて、
135
石生能姫
『あなたの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
は
真
(
しん
)
に
御尤
(
ごもつと
)
もで
厶
(
ござ
)
います。
136
妾
(
わたし
)
もあなたと
同感
(
どうかん
)
、
137
此
(
この
)
事
(
こと
)
に
就
(
つ
)
いてはどれ
丈
(
だけ
)
胸
(
むね
)
を
痛
(
いた
)
めて
居
(
を
)
るか
分
(
わか
)
りませぬ』
138
鬼熊別
『それ
程
(
ほど
)
胸
(
むね
)
を
痛
(
いた
)
めるやうなことを
何故
(
なぜ
)
なさいますか。
139
貴女
(
あなた
)
の
決心
(
けつしん
)
一
(
ひと
)
つで、
140
如何
(
どう
)
でもなるぢやありませぬか』
141
石生能姫
『
夫
(
をつと
)
の
恥
(
はぢ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げて
不貞
(
ふてい
)
くされの
女
(
をんな
)
だとおさげすみを
蒙
(
かうむ
)
るか
存
(
ぞん
)
じませぬが、
142
モウ
斯
(
か
)
うなつては
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
を
申
(
まを
)
しあげねばなりますまい。
143
どうぞ
暫
(
しばら
)
く
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さいませ。
144
私
(
わたし
)
は
元
(
もと
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
の
娘
(
むすめ
)
、
145
石生子
(
いそこ
)
と
申
(
まを
)
しました。
146
幼少
(
えうせう
)
より
両親
(
りやうしん
)
に
生別
(
いきわか
)
れ、
147
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
と
彷徨
(
さまよ
)
ふ
中
(
うち
)
、
148
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
が
狩
(
かり
)
に
散歩
(
さんぽ
)
の
途中
(
とちう
)
、
149
私
(
わたし
)
を
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより、
150
吾
(
わが
)
家
(
や
)
へ
来
(
きた
)
れと
仰有
(
おつしや
)
つて
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り、
151
奥様
(
おくさま
)
の
小間使
(
こまづかひ
)
として
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
方
(
かた
)
に
可愛
(
かあい
)
がられ、
152
仕
(
つか
)
へて
居
(
を
)
りました
所
(
ところ
)
、
153
ある
夜
(
よ
)
、
154
恥
(
はづ
)
かしながら、
155
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
無理
(
むり
)
難題
(
なんだい
)
、
156
奥様
(
おくさま
)
にすまぬこととは
知
(
し
)
りながら
女
(
をんな
)
の
心
(
こころ
)
弱
(
よわ
)
き
所
(
ところ
)
から、
157
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そこ
)
ねまいと、
158
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
要求
(
えうきう
)
に
応
(
おう
)
じました。
159
それより
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
は
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
、
160
私
(
わたし
)
を
手許
(
てもと
)
に
引寄
(
ひきよ
)
せ、
161
奥様
(
おくさま
)
に
対
(
たい
)
して
小言
(
こごと
)
ばかり
仰有
(
おつしや
)
る
様
(
やう
)
になり、
162
私
(
わたし
)
は
立
(
た
)
つてもゐても
居
(
ゐ
)
られないので、
163
いろいろと
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
申上
(
まをしあ
)
げましたけれども、
164
お
聞
(
き
)
き
遊
(
あそ
)
ばさず、
165
とうとう
奥様
(
おくさま
)
を、
166
あの
通
(
とほ
)
り
追出
(
おひだ
)
してお
了
(
しま
)
ひになりました。
167
私
(
わたし
)
も
世間
(
せけん
)
からいろいろと
悪評
(
あくひやう
)
を
立
(
た
)
てられ
生
(
い
)
きてゐる
甲斐
(
かひ
)
もなく、
168
外
(
そと
)
を
歩
(
ある
)
くのも
恥
(
はづ
)
かしく、
169
一層
(
いつそう
)
のこと
自害
(
じがい
)
して
心
(
こころ
)
の
潔白
(
けつぱく
)
を
示
(
しめ
)
し、
170
奥様
(
おくさま
)
にお
詫
(
わび
)
致
(
いた
)
さうかと
幾度
(
いくたび
)
となく
自害
(
じがい
)
の
覚悟
(
かくご
)
をきめましたが、
171
どこともなく
中空
(
ちうくう
)
に
声
(
こゑ
)
聞
(
きこ
)
え、
172
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
てと
止
(
と
)
められるので、
173
面白
(
おもしろ
)
からぬ
月日
(
つきひ
)
を
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
永
(
なが
)
らへて
来
(
き
)
たので
厶
(
ござ
)
います。
174
所
(
ところ
)
がお
館
(
やかた
)
に
奸者
(
かんじや
)
侫人
(
ねいじん
)
跋扈
(
ばつこ
)
し、
175
あなた
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
悪
(
あ
)
しきさまに
大黒主
(
おほくろぬし
)
に
申上
(
まをしあ
)
ぐる
者
(
もの
)
、
176
日々
(
にちにち
)
其
(
その
)
数
(
すう
)
を
加
(
くは
)
へ、
177
主人
(
しゆじん
)
は
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
りの
短気者
(
たんきもの
)
故
(
ゆゑ
)
、
178
あなた
様
(
さま
)
をふん
縛
(
じば
)
り、
179
厳
(
きび
)
しき
刑罰
(
けいばつ
)
に
処
(
しよ
)
せむと
息
(
いき
)
まくこと
一再
(
いつさい
)
ならず、
180
之
(
これ
)
を
思
(
おも
)
へば
私
(
わたし
)
は
今
(
いま
)
死
(
し
)
んでも
死
(
し
)
なれない。
181
主人
(
しゆじん
)
が
如何
(
いか
)
なる
事
(
こと
)
でも、
182
私
(
わたし
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
なら
聞
(
き
)
いてくれるのを
幸
(
さいは
)
ひ、
183
バラモン
教
(
けう
)
の
柱石
(
ちうせき
)
をムザムザ
失
(
うしな
)
つては
大変
(
たいへん
)
だと、
184
いろいろと
今日
(
けふ
)
まで
諫言
(
かんげん
)
を
致
(
いた
)
し、
185
蔭
(
かげ
)
乍
(
なが
)
らあなたの
御
(
ご
)
身辺
(
しんぺん
)
を
守
(
まも
)
つて
来
(
き
)
た
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
います。
186
どうぞあなたもお
道
(
みち
)
を
思
(
おも
)
ひ、
187
国
(
くに
)
を
思
(
おも
)
ふ
真心
(
まごころ
)
をモ
一
(
ひと
)
つ
発揮
(
はつき
)
して、
188
私
(
わたし
)
と
共
(
とも
)
に
此
(
この
)
教
(
をしへ
)
と
国
(
くに
)
を
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さいますまいか。
189
今
(
いま
)
私
(
わたし
)
が
自害
(
じがい
)
して
果
(
は
)
てたならば、
190
あなた
様
(
さま
)
の
身辺
(
しんぺん
)
は
忽
(
たちま
)
ち
危
(
あやふ
)
くなるでせう、
191
否々
(
いないな
)
あなたは
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
、
192
ヤミヤミ
討
(
う
)
たれはなさいますまいが、
193
内憂
(
ないいう
)
外患
(
ぐわいくわん
)
の
烈
(
はげ
)
しき
今日
(
こんにち
)
、
194
両虎
(
りやうこ
)
共
(
とも
)
に
鎬
(
しのぎ
)
を
削
(
けづ
)
つて
争
(
あらそ
)
ふ
時
(
とき
)
は、
195
勢
(
いきほひ
)
共
(
とも
)
に
全
(
まつた
)
からず、
196
どちらか
傷
(
きず
)
ついて
倒
(
たふ
)
れ、
197
バラモン
教国
(
けうこく
)
の
覆滅
(
ふくめつ
)
は
火
(
ひ
)
を
睹
(
み
)
るよりも
明
(
あきら
)
かで
厶
(
ござ
)
います。
198
何卒
(
どうぞ
)
ここの
道理
(
だうり
)
を
聞分
(
ききわ
)
けて、
199
私
(
わたし
)
の
精神
(
せいしん
)
をお
悟
(
さと
)
り
下
(
くだ
)
さいます
様
(
やう
)
に
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します。
200
此
(
この
)
事
(
こと
)
の
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
を
申上
(
まをしあ
)
げたさに、
201
主人
(
しゆじん
)
の
手前
(
てまへ
)
を
甘
(
うま
)
くつくろひ、
202
あなたの
腹中
(
ふくちう
)
を
探
(
さぐ
)
つて
来
(
く
)
ると
申
(
まを
)
して
参
(
まゐ
)
りました』
203
と
涙
(
なみだ
)
ながらに
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
を
物語
(
ものがた
)
つた。
204
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
稍
(
やや
)
顔色
(
かほいろ
)
を
和
(
やは
)
らげ、
205
鬼熊別
『
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
殿
(
どの
)
、
206
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
つたか。
207
かかる
清
(
きよ
)
き
尊
(
たふと
)
きお
志
(
こころざし
)
とは
知
(
し
)
らず、
208
今
(
いま
)
まで
貴女
(
あなた
)
を
毒婦
(
どくふ
)
、
209
奸婦
(
かんぷ
)
と
見
(
み
)
くびり
憎
(
にく
)
んで
居
(
を
)
りましたのは
誠
(
まこと
)
に
私
(
わたくし
)
が
不明
(
ふめい
)
の
致
(
いた
)
す
所
(
ところ
)
、
210
どうぞ
赦
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さい。
211
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふも
暗黒
(
あんこく
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
、
212
到底
(
たうてい
)
人間
(
にんげん
)
の
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
は
分
(
わか
)
るものでは
厶
(
ござ
)
いませぬ。
213
私
(
わたくし
)
だつて
其
(
その
)
通
(
とほ
)
り、
214
数多
(
あまた
)
の
侫人
(
ねいじん
)
ばらに
讒訴
(
ざんそ
)
され、
215
円満
(
ゑんまん
)
なるべき
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
との
仲
(
なか
)
に
垣
(
かき
)
が
出来
(
でき
)
たのも
全
(
まつた
)
く
互
(
たがひ
)
の
誤解
(
ごかい
)
からで
厶
(
ござ
)
いませう。
216
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
もあの
様
(
やう
)
な
悪
(
わる
)
い
方
(
かた
)
ではなかつた
筈
(
はず
)
ですが、
217
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
稍
(
やや
)
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさつた
虚
(
きよ
)
に
乗
(
じやう
)
じ、
218
曲神
(
まがかみ
)
に
身魂
(
みたま
)
を
襲
(
おそ
)
はれ
給
(
たま
)
うたので
厶
(
ござ
)
りませう。
219
あゝ
何
(
なん
)
とかして
其
(
その
)
悪魔
(
あくま
)
を
退散
(
たいさん
)
させたいもので
厶
(
ござ
)
いますなア』
220
石生能姫
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う、
221
よく
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいました。
222
どうぞあなたはお
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
、
223
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
と
思召
(
おぼしめ
)
し、
224
不愉快
(
ふゆくわい
)
を
忍
(
しの
)
んで、
225
御
(
ご
)
登城
(
とじやう
)
下
(
くだ
)
さいまして、
226
左守
(
さもり
)
としての
職責
(
しよくせき
)
を
完全
(
くわんぜん
)
にお
尽
(
つく
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
227
私
(
わたし
)
が
及
(
およ
)
ばずながら
内助
(
ないじよ
)
の
労
(
らう
)
を
取
(
と
)
りますから。
228
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
前
(
まへ
)
以
(
もつ
)
て
申上
(
まをしあ
)
げておきますが、
229
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
は
中々
(
なかなか
)
容易
(
ようい
)
に
改心
(
かいしん
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
230
イソの
館
(
やかた
)
に
向
(
むか
)
つた
鬼春別
(
おにはるわけ
)
やカルマタ
国
(
こく
)
に
向
(
むか
)
つた
大足別
(
おほだるわけ
)
が
一敗
(
いつぱい
)
地
(
ち
)
にまみれ、
231
往生
(
わうじやう
)
をした
上
(
うへ
)
でなくては、
232
到底
(
たうてい
)
あのキツイ
我
(
が
)
は
折
(
を
)
れますまい。
233
どうぞ、
234
あなたはお
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
、
235
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
に
身
(
み
)
を
挺
(
てい
)
して
刃
(
やいば
)
の
中
(
なか
)
をくぐる
大覚悟
(
だいかくご
)
を
以
(
もつ
)
て
御
(
ご
)
出勤
(
しゆつきん
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
236
幸
(
さいは
)
ひ
私
(
わたし
)
は
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
寵愛
(
ちようあい
)
を
得
(
え
)
て
居
(
を
)
りますから、
237
其
(
その
)
段
(
だん
)
は
大変
(
たいへん
)
に
好都合
(
かうつがふ
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
238
折
(
をり
)
を
見
(
み
)
て
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
様
(
さま
)
を
元
(
もと
)
の
奥様
(
おくさま
)
に
直
(
なほ
)
つて
貰
(
もら
)
ふやうに
取計
(
とりはか
)
らひませう。
239
それに
付
(
つ
)
いては
到底
(
たうてい
)
私
(
わたし
)
一人
(
ひとり
)
の
力
(
ちから
)
で
及
(
およ
)
びますまいから、
240
あなたと
私
(
わたし
)
と
力
(
ちから
)
を
併
(
あは
)
せて、
241
ハルナの
城内
(
じやうない
)
を
先
(
ま
)
づ
清
(
きよ
)
め、
242
悪魔
(
あくま
)
を
郤
(
しりぞ
)
けようでは
厶
(
ござ
)
いませぬか』
243
鬼熊別
『そこ
迄
(
まで
)
の
女
(
をんな
)
の
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
決心
(
けつしん
)
、
244
イヤもう
実
(
じつ
)
に
感服
(
かんぷく
)
仕
(
つかまつ
)
りました。
245
左様
(
さやう
)
なれば、
246
私
(
わたし
)
も
貴女
(
あなた
)
の
真心
(
まごころ
)
に
感
(
かん
)
じ、
247
身
(
み
)
を
挺
(
てい
)
して
大改革
(
だいかいかく
)
にかかりませう。
248
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
内助
(
ないじよ
)
を
願
(
ねが
)
ひます
様
(
やう
)
、
249
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
昨夜
(
さくや
)
あなたは
御存
(
ごぞん
)
じなけれども、
250
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
内命
(
ないめい
)
にて
近侍
(
きんじ
)
の
者
(
もの
)
等
(
ら
)
数十
(
すうじふ
)
名
(
めい
)
、
251
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
へ
襲来
(
しふらい
)
し、
252
夜陰
(
やいん
)
に
紛
(
まぎ
)
れて
吾
(
わが
)
命
(
いのち
)
を
奪
(
うば
)
はむと
致
(
いた
)
されました。
253
其
(
その
)
計略
(
けいりやく
)
を
或
(
ある
)
者
(
もの
)
より
承
(
うけたま
)
はり、
254
家老
(
からう
)
の
熊彦
(
くまひこ
)
が
計
(
はか
)
らひにて、
255
あの
橋
(
はし
)
を
落
(
おと
)
させておいた
様
(
やう
)
な
次第
(
しだい
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
256
何
(
いづ
)
れ
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
より
一問題
(
ひともんだい
)
が
私
(
わたし
)
に
対
(
たい
)
し
持上
(
もちあ
)
がるものと、
257
覚悟
(
かくご
)
は
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります』
258
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
はこれを
聞
(
き
)
いて
驚
(
おどろ
)
き
呆
(
あき
)
れ、
259
身
(
み
)
を
震
(
ふる
)
はしながら、
260
石生能姫
『ソリヤまあ
真実
(
しんじつ
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
261
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
になるとこで
厶
(
ござ
)
いました。
262
ヤ
私
(
わたし
)
がこれから
帰
(
かへ
)
りまして、
263
それとはなしに
探
(
さぐ
)
つてみませう。
264
又
(
また
)
あなたに
難題
(
なんだい
)
のかかるやうなことは
決
(
けつ
)
してさせませぬから………あゝモウ
暫
(
しばら
)
く
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
が
致
(
いた
)
したいので
厶
(
ござ
)
いますが、
265
余
(
あま
)
り
長
(
なが
)
くなると
又
(
また
)
疑惑
(
ぎわく
)
の
種
(
たね
)
を
蒔
(
ま
)
きますから、
266
お
名残
(
なごり
)
惜
(
を
)
しう
厶
(
ござ
)
いますが、
267
これにて
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
します…………』
268
と
妙
(
めう
)
な
目使
(
めづか
)
ひにて
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
を
見守
(
みまも
)
つた。
269
あゝ
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
き
心
(
こころ
)
正
(
ただ
)
しき
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
も
恋
(
こひ
)
には
迷
(
まよ
)
ふ
心
(
こころ
)
の
闇
(
やみ
)
、
270
上下
(
じやうげ
)
の
隔
(
へだて
)
なしとはよく
云
(
い
)
つたものである。
271
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
に
左様
(
さやう
)
な
心
(
こころ
)
ありとは、
272
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
273
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
しながら、
274
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
を
固
(
かた
)
く
握
(
にぎ
)
り、
275
鬼熊別
『コレ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
276
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けなさいませ。
277
貴女
(
あなた
)
の
体
(
からだ
)
は
大切
(
たいせつ
)
なお
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
278
私
(
わたくし
)
と
貴女
(
あなた
)
と
力
(
ちから
)
を
合
(
あ
)
はして
居
(
を
)
りさへすれば、
279
ハルナの
都
(
みやこ
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
で
厶
(
ござ
)
います』
280
と
一層
(
いつそう
)
強
(
つよ
)
く
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
りしめた。
281
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
は
日頃
(
ひごろ
)
思
(
おも
)
ひ
込
(
こ
)
んだ
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
に
手
(
て
)
を
固
(
かた
)
く
握
(
にぎ
)
られ、
282
嬉
(
うれ
)
しさに
胸
(
むね
)
を
轟
(
とどろ
)
かせ、
283
覚束
(
おぼつか
)
なげに
細
(
ほそ
)
き
手
(
て
)
を
伸
(
の
)
べて、
284
力限
(
ちからかぎ
)
り
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
り
返
(
かへ
)
し、
285
流
(
なが
)
し
目
(
め
)
に
顔
(
かほ
)
を
見上
(
みあ
)
げて、
286
ホロリと
一雫
(
ひとしづく
)
涙
(
なみだ
)
の
雨
(
あめ
)
と
共
(
とも
)
に
名残
(
なごり
)
惜
(
を
)
しげに
後振返
(
あとふりかへ
)
り
振返
(
ふりかへ
)
り、
287
館
(
やかた
)
をしづしづと
立
(
た
)
つて
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
288
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
玄関口
(
げんくわんぐち
)
まで
姫
(
ひめ
)
を
見送
(
みおく
)
り、
289
そこにて
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げ、
290
午後
(
ごご
)
は
必
(
かなら
)
ず
参勤
(
さんきん
)
すべきことを
約
(
やく
)
して、
291
暫
(
しば
)
しの
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げた。
292
後
(
あと
)
に
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
神殿
(
しんでん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
293
感謝
(
かんしや
)
祈願
(
きぐわん
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し………あゝ
未
(
いま
)
だバラモン
神
(
しん
)
は
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
捨
(
す
)
て
給
(
たま
)
はざるか、
294
有難
(
ありがた
)
し
勿体
(
もつたい
)
なや………と
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
295
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
を
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
く
流
(
なが
)
すのであつた。
296
(
大正一一・一一・一
旧九・一三
松村真澄
録)
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