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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第40巻(卯の巻)
序文に代へて
緒言
総説
第1篇 恋雲魔風
第1章 大雲山
第2章 出陣
第3章 落橋
第4章 珍客
第5章 忍ぶ恋
第2篇 寒梅照国
第6章 仁愛の真相
第7章 文珠
第8章 使者
第9章 雁使
第3篇 霊魂の遊行
第10章 衝突
第11章 三途館
第12章 心の反映
第13章 試の果実
第14章 空川
第4篇 関風沼月
第15章 氷嚢
第16章 春駒
第17章 天幽窟
第18章 沼の月
第19章 月会
第20章 入那の森
余白歌
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霊界物語
>
舎身活躍(第37~48巻)
>
第40巻(卯の巻)
> 第3篇 霊魂の遊行 > 第11章 三途館
<<< 衝突
(B)
(N)
心の反映 >>>
第一一章
三途
(
みづ
)
館
(
やかた
)
〔一〇九五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻
篇:
第3篇 霊魂の遊行
よみ(新仮名遣い):
れいこんのゆうこう
章:
第11章 三途館
よみ(新仮名遣い):
みずやかた
通し章番号:
1095
口述日:
1922(大正11)年11月02日(旧09月14日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年5月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
カルは際限ない枯れ野原を魔風に吹かれながら進んで行く。亡者の一団を見れば、レーブに谷底に放り投げられた男たちであった。
岩に腰かけて休んでいた男を見ると、レーブであった。カルは、どうやら共に幽界に来てしまったようだとレーブに話しかけ、生前バラモン神を信心していたのに、なぜこんなところに来てしまったのだろうといぶかった。
レーブは、自分のような英雄豪傑が若いのに死んだはずがない、お前たちが引っ張り込んだのだろうと軽口をたたく。
突然枯草の中から角を生やした恐ろしげな鬼が現れて、亡者たちを大喝した。しかし鬼はレーブとカルの二人だけには優しく接し、三途の川の岸まで案内すると申し出た。
他の亡者たちは赤と黒の鬼に責められて連れて行かれた。レーブとカルは、川辺の黄金造りの一軒家に案内された。レーブとカルはこの状況をいぶかしんでいる。
一人の少女が現れて二人を奥へ案内した。敷居をまたげて奥に入ると、外から見たのとは相違して、壁が落ちてむき出し、異臭がする小屋であった。奥座敷には、立派な衣装を着た美人が待っていて、御馳走を並べている。
二人は小屋の汚さ・むさくるしさと、美人と御馳走の取り合わせをいぶかった。女はここは三途の川で自分は鬼婆だと告げた。そしてさらに奥の間へ二人を案内するという。
二人がついていくと、ぼうぼうとした草原を進んで行く。女は、現界は表面ばかり立派にしているから、こんな家を建ててあるのだと毒づいた。
二人は女に連れられて、透明な水晶の家や汚い小屋を見せられた。女はにわかに白髪の婆になり、二人の首筋をとらえて幽界へ引きずり込もうとする。婆は、三途の川は三段に分かれており、上の激しい瀬を渡る者は現界に行き、真ん中の深い瀬を渡る者は神界へ、下の緩い瀬を渡る者は幽界へ行くのだ、と語った。
二人は婆を振り切って逃げだし、三途の川の中津瀬に飛び込んで向こう岸に泳ぎ着いた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-01 11:36:05
OBC :
rm4011
愛善世界社版:
135頁
八幡書店版:
第7輯 467頁
修補版:
校定版:
141頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
四面
(
しめん
)
寂寥
(
せきれう
)
として
虫
(
むし
)
の
声
(
こゑ
)
もなく
002
際限
(
さいげん
)
もなき
枯野原
(
かれのはら
)
を
003
形容
(
けいよう
)
し
難
(
がた
)
き
魔
(
ま
)
の
風
(
かぜ
)
に
004
吹
(
ふ
)
かれながらに
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
005
道
(
みち
)
の
片方
(
かたはう
)
の
真赤
(
まつか
)
な
血
(
ち
)
の
流
(
なが
)
れたやうな
方形
(
はうけい
)
の
岩
(
いは
)
に
腰打掛
(
こしうちか
)
け、
006
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めてゐる
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
がある。
007
そこへ『ホーイホーイ』と
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げながら、
008
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
にトボトボと
足許
(
あしもと
)
覚束
(
おぼつか
)
なげにやつて
来
(
く
)
る
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
009
何
(
いづ
)
れの
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
ても、
010
皆
(
みな
)
土
(
つち
)
の
如
(
ごと
)
く
青白
(
あをじろ
)
く、
011
頭
(
あたま
)
に
三角
(
さんかく
)
の
霊衣
(
れいい
)
を
戴
(
いただ
)
いてゐる。
012
之
(
これ
)
は
言
(
い
)
はずと
知
(
し
)
れた
幽界
(
いうかい
)
の
旅
(
たび
)
をしてゐる
亡者
(
まうじや
)
の
一団
(
いちだん
)
であつた。
013
先
(
さき
)
に
腰打掛
(
こしうちか
)
けて
休
(
やす
)
んでゐたのは、
014
玉山峠
(
たまやまたうげ
)
の
谷底
(
たにそこ
)
から、
015
春造
(
はるざう
)
に
投込
(
なげこ
)
まれて
気絶
(
きぜつ
)
したレーブである。
016
後
(
あと
)
から
来
(
く
)
るのが、
017
カルを
始
(
はじ
)
め
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
のバラモン
教
(
けう
)
の
家来
(
けらい
)
であつた。
018
カルは
黄金姫
(
わうごんひめ
)
に
投込
(
なげこ
)
まれて
気絶
(
きぜつ
)
し
[
※
第10章でカルは黄金姫ではなくレーブに投げ飛ばされたと記されている。
]
、
019
其
(
その
)
他
(
た
)
の
亡者
(
まうじや
)
は
残
(
のこ
)
らずレーブの
為
(
ため
)
にやられた
連中
(
れんちう
)
ばかりである。
020
カルはレーブの
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
021
カル
『ヨー、
022
お
早
(
はや
)
う、
023
お
前
(
まへ
)
も
矢張
(
やつぱり
)
こんな
所
(
ところ
)
へやつて
来
(
き
)
たのかなア、
024
附合
(
つきあひ
)
のいい
男
(
をとこ
)
だな。
025
死
(
し
)
なば
諸共
(
もろとも
)
死出
(
しで
)
三途
(
せうづ
)
、
026
血
(
ち
)
の
池
(
いけ
)
地獄
(
ぢごく
)
、
027
針
(
はり
)
の
山
(
やま
)
、
028
八寒
(
はちかん
)
地獄
(
ぢごく
)
も
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
いて、
029
十万
(
じふまん
)
億土
(
おくど
)
へ
参
(
まゐ
)
りませう。
030
モウ
斯
(
か
)
うなつちや
現界
(
げんかい
)
と
違
(
ちが
)
つて、
031
幽界
(
いうかい
)
では
名誉心
(
めいよしん
)
も
要
(
い
)
らねば、
032
財産
(
ざいさん
)
の
必要
(
ひつえう
)
もない。
033
従
(
したが
)
つて
争
(
あらそ
)
ひも
怨恨
(
うらみ
)
も
不必要
(
ふひつえう
)
だ。
034
只
(
ただ
)
恨
(
うら
)
むらくは、
035
生前
(
せいぜん
)
にバラモン
神
(
がみ
)
様
(
さま
)
を
信
(
しん
)
じてゐたお
神徳
(
かげ
)
で、
036
至幸
(
しかう
)
至楽
(
しらく
)
の
天国
(
てんごく
)
へやつて
貰
(
もら
)
へるだらうと
期待
(
きたい
)
してゐたのが、
037
ガラリと
外
(
はづ
)
れて、
038
こんな
淋
(
さび
)
しい
枯野
(
かれの
)
ケ
原
(
はら
)
を
渉
(
わた
)
つて
行
(
ゆ
)
くだけが
残念
(
ざんねん
)
だが、
039
これも
仕方
(
しかた
)
がない。
040
サア、
041
レーブさま、
042
一緒
(
いつしよ
)
に
参
(
まゐ
)
りませう』
043
レーブ『ヤア
皆
(
みな
)
さま、
044
お
揃
(
そろ
)
ひだなア。
045
カルさまは
根
(
ね
)
つから
俺
(
おれ
)
に
覚
(
おぼ
)
えがないが、
046
はたの
御
(
ご
)
連中
(
れんちう
)
は
残
(
のこ
)
らず
俺
(
おれ
)
が
冥途
(
めいど
)
の
旅
(
たび
)
をさしてやつたやうなものだ。
047
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
はまだ
死
(
し
)
んではゐないのだから、
048
亡者
(
まうじや
)
扱
(
あつか
)
ひは
御免
(
ごめん
)
だ。
049
千引
(
ちびき
)
の
岩
(
いは
)
の
上
(
うへ
)
に
於
(
おい
)
て
激戦
(
げきせん
)
苦闘
(
くとう
)
をつづけた
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
のレーブさまが、
050
年
(
とし
)
の
若
(
わか
)
いのに
今頃
(
いまごろ
)
死
(
し
)
んで
堪
(
たま
)
るかい。
051
此
(
この
)
レーブさまには
生
(
い
)
きたる
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
があるから、
052
メツタに
死
(
し
)
んでる
気遣
(
きづかひ
)
はないのだ。
053
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
甘
(
うま
)
いことをいつて、
054
俺
(
おれ
)
を
冥途
(
めいど
)
へ
引張
(
ひつぱ
)
りに
来
(
き
)
よつたのだな。
055
扨
(
さ
)
ても
扨
(
さ
)
ても
肚
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い
男
(
をとこ
)
だ、
056
モウいいかげんに
娑婆
(
しやば
)
の
妄執
(
まうしふ
)
を
晴
(
は
)
らさないか。
057
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
へふみ
迷
(
まよ
)
うて
来
(
く
)
ると
結構
(
けつこう
)
な
天国
(
てんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
かれないぞ。
058
南無
(
なむ
)
カル
頓生
(
とんしよう
)
菩提
(
ぼだい
)
、
059
願
(
ねが
)
はくば
天国
(
てんごく
)
へ
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
へ。
060
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
061
と
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
す。
062
カル
『オイ、
063
レーブ、
064
貴様
(
きさま
)
何
(
なに
)
呆
(
とぼ
)
けてゐるのだ。
065
ここは
娑婆
(
しやば
)
ぢやないぞ。
066
幽冥界
(
いうめいかい
)
の
門口
(
かどぐち
)
、
067
枯野
(
かれの
)
ケ
原
(
はら
)
の
真中
(
まんなか
)
だ。
068
サア
之
(
これ
)
から
前進
(
ぜんしん
)
しよう。
069
何
(
いづ
)
れいろいろの
鬼
(
おに
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
070
何
(
なん
)
とか
彼
(
かん
)
とか
難題
(
なんだい
)
を
吹
(
ふ
)
つかけるかも
知
(
し
)
れないが、
071
それも
自業
(
じごう
)
自得
(
じとく
)
だ、
072
各自
(
かくじ
)
に
心
(
こころ
)
に
覚
(
おぼ
)
えがあることだから
何
(
なに
)
が
出
(
で
)
ても
仕方
(
しかた
)
がない。
073
皆
(
みな
)
俺
(
おれ
)
たちが
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
に
造
(
つく
)
つた
御
(
ご
)
親類筋
(
しんるゐすぢ
)
の
鬼
(
おに
)
に
責
(
せ
)
められるのだから、
074
諦
(
あきら
)
めるより
道
(
みち
)
はなからうぞ』
075
レーブ
『ハヽヽヽヽ
亡者
(
まうじや
)
の
癖
(
くせ
)
に、
076
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだ。
077
気楽
(
きらく
)
さうに、
078
青
(
あを
)
、
079
赤
(
あか
)
、
080
黒
(
くろ
)
の
鬼
(
おに
)
が
鉄棒
(
かなぼう
)
を
持
(
も
)
つてやつて
来
(
き
)
たら、
081
貴様
(
きさま
)
それこそ
肝玉
(
きもだま
)
を
潰
(
つぶ
)
して、
082
目
(
め
)
を
眩
(
ま
)
かし、
083
二度目
(
にどめ
)
の
幽界
(
いうかい
)
旅行
(
りよかう
)
をやらねばならなくなるぞ。
084
此
(
この
)
レーブさまは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
死
(
し
)
んだ
覚
(
おぼ
)
えはない』
085
カル
『マアどうでも
可
(
い
)
いワ。
086
行
(
ゆ
)
くとこ
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つてみれば、
087
死
(
し
)
んでゐるか
生
(
い
)
きてるか、
088
能
(
よ
)
く
分
(
わか
)
るのだからなア』
089
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも、
090
枯草
(
かれくさ
)
の
中
(
なか
)
から
忽然
(
こつぜん
)
として
現
(
あら
)
はれた、
091
仁王
(
にわう
)
の
荒削
(
あらけづ
)
りみたやうな、
092
真赤
(
まつか
)
の
角
(
つの
)
を
生
(
はや
)
した
裸鬼
(
はだかおに
)
、
093
虎
(
とら
)
の
皮
(
かは
)
の
褌
(
ふんどし
)
をグツと
締
(
し
)
め、
094
蒼白
(
あをじろ
)
い
牡牛
(
めうし
)
のやうな
角
(
つの
)
、
095
額
(
ひたひ
)
から
二本
(
にほん
)
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
しながら、
096
鬼
『オイ
亡者
(
まうじや
)
共
(
ども
)
』
097
と
大喝
(
たいかつ
)
一声
(
いつせい
)
した。
098
レーブは
初
(
はじ
)
めて、
099
自分
(
じぶん
)
が
冥途
(
めいど
)
へ
来
(
き
)
てゐるのだなア……と
合点
(
がてん
)
した。
100
されど
自分
(
じぶん
)
は
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
を
伝
(
つた
)
ふる
真最中
(
まつさいちう
)
に
死
(
し
)
んだのだから、
101
決
(
けつ
)
して
斯様
(
かやう
)
な
鬼
(
おに
)
に
迫害
(
はくがい
)
されたり
虐
(
しひた
)
げらるるものではない。
102
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
の
言霊
(
ことたま
)
さへ
使
(
つか
)
へば
即座
(
そくざ
)
に
消滅
(
せうめつ
)
するものだと
固
(
かた
)
く
信
(
しん
)
じて、
103
外
(
ほか
)
の
亡者
(
まうじや
)
のやうに
左程
(
さほど
)
に
驚
(
おどろ
)
きもせず、
104
平然
(
へいぜん
)
として
鬼
(
おに
)
共
(
ども
)
の
顔
(
かほ
)
を
打眺
(
うちなが
)
めてゐた。
105
鬼
(
おに
)
はレーブ、
106
カルの
二人
(
ふたり
)
に
一寸
(
ちよつと
)
会釈
(
ゑしやく
)
して、
107
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
優
(
やさ
)
しい
顔
(
かほ
)
で、
108
鬼
『エー
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
様
(
さま
)
、
109
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
は
之
(
これ
)
から
私
(
わたし
)
が
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
しますから、
110
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
岸
(
きし
)
まで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい。
111
外
(
ほか
)
の
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
は……オイ
黒
(
くろ
)
赤
(
あか
)
両鬼
(
りやうおに
)
に
従
(
したが
)
つて、
112
此処
(
ここ
)
を
右
(
みぎ
)
に
取
(
と
)
つて
行
(
ゆ
)
くがよからう。
113
サア
行
(
ゆ
)
けツ』
114
と
疣々
(
いぼいぼ
)
だらけの
鉄棒
(
かなぼう
)
を
持
(
も
)
つて
追
(
お
)
つかける
様
(
やう
)
にする、
115
八
(
はち
)
人
(
にん
)
の
亡者
(
まうじや
)
はシホシホと
赤黒
(
あかくろ
)
の
鬼
(
おに
)
に
引
(
ひ
)
かれて
茫々
(
ばうばう
)
たる
枯野
(
かれの
)
ケ
原
(
はら
)
の
彼方
(
かなた
)
に
消
(
き
)
え
去
(
さ
)
つた。
116
青鬼
(
あをおに
)
はレーブ、
117
カルを
送
(
おく
)
つて、
118
漸
(
やうや
)
くに
水音
(
みなおと
)
淙々
(
そうそう
)
と
鳴
(
な
)
り
響
(
ひび
)
いてゐる
広
(
ひろ
)
き
川辺
(
かはべ
)
に
到着
(
たうちやく
)
した。
119
川辺
(
かはべ
)
には
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
綺麗
(
きれい
)
な
黄金造
(
わうごんづく
)
りの
小
(
こ
)
ざつぱりとした
一軒家
(
いつけんや
)
が
立
(
た
)
つてゐる。
120
青鬼
(
あをおに
)
は
鉄門
(
かなど
)
をガラリとあけ、
121
中
(
なか
)
に
這入
(
はい
)
つて、
122
青鬼
『
只今
(
ただいま
)
、
123
娑婆
(
しやば
)
の
亡者
(
まうじや
)
を
二人
(
ふたり
)
送
(
おく
)
つて
来
(
き
)
ました。
124
どうぞ
受取
(
うけと
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
125
と
叮嚀
(
ていねい
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
してゐる。
126
レーブ、
127
カルは
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
128
小声
(
こごゑ
)
で、
129
レーブ『オイ、
130
コリヤ
怪体
(
けつたい
)
な
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
たぢやないか。
131
此
(
この
)
大川
(
おほかは
)
を
渡
(
わた
)
れといはれたら、
132
それこそ
大変
(
たいへん
)
だぞ。
133
今
(
いま
)
鬼
(
おに
)
が……
二人
(
ふたり
)
の
亡者
(
まうじや
)
を
送
(
おく
)
つて
来
(
き
)
ました、
134
受取
(
うけと
)
つて
下
(
くだ
)
さい………なんて
言
(
い
)
つてるぢやないか。
135
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ても
強
(
つよ
)
さうな
小面憎
(
こづらにく
)
い
鬼
(
おに
)
が、
136
あれ
丈
(
だけ
)
叮嚀
(
ていねい
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
してるのだから、
137
余程
(
よつぽど
)
強
(
つよ
)
い
大鬼
(
おほおに
)
が
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
るに
違
(
ちが
)
ひないぞ。
138
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
元
(
もと
)
の
道
(
みち
)
へ
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
さうかなア』
139
カル『
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
すと
云
(
い
)
つたつて、
140
地理
(
ちり
)
も
分
(
わか
)
らず、
141
何一
(
なにひと
)
つ
障碍物
(
しやうがいぶつ
)
がない
此
(
この
)
枯野原
(
かれのはら
)
、
142
直
(
すぐ
)
に
見
(
み
)
つかつて
了
(
しま
)
ふワ。
143
それよりも
神妙
(
しんめう
)
にして
甘
(
うま
)
く
交渉
(
かうせふ
)
を
遂
(
と
)
げ、
144
よい
所
(
ところ
)
へやつて
貰
(
もら
)
ふ
方
(
はう
)
が
何程
(
なにほど
)
得
(
とく
)
かも
知
(
し
)
れないぞ』
145
かく
話
(
はな
)
す
時
(
とき
)
しも、
146
青鬼
(
あをおに
)
は
二人
(
ふたり
)
に
向
(
むか
)
ひ、
147
叮嚀
(
ていねい
)
に
頭
(
かしら
)
をピヨコピヨコ
下
(
さ
)
げて、
148
青鬼
『
私
(
わたし
)
は
之
(
これ
)
からお
暇
(
いとま
)
を
申
(
まを
)
します。
149
館
(
やかた
)
の
主人
(
あるじ
)
さまに
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
申上
(
まをしあ
)
げておきましたから、
150
どうぞ
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
に
入
(
はい
)
つて、
151
悠
(
ゆつ
)
くりお
話
(
はなし
)
をなさいませ』
152
と
云
(
い
)
ひながら
大股
(
おほまた
)
にまたげて、
153
鉄棒
(
かなぼう
)
を
軽
(
かる
)
さうに
打振
(
うちふ
)
り
打振
(
うちふ
)
り
元
(
もと
)
来
(
き
)
た
道
(
みち
)
へ
引返
(
ひつかへ
)
すのであつた。
154
後
(
あと
)
に
二人
(
ふたり
)
は
怪訝
(
けげん
)
な
顔
(
かほ
)
しながら、
155
レーブ『オイ、
156
如何
(
どう
)
やら
此処
(
ここ
)
は
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
らしいぞ、
157
何
(
なん
)
と
妙
(
めう
)
な
川
(
かは
)
ぢやないか。
158
三段
(
さんだん
)
に
波
(
なみ
)
が
別
(
わか
)
れて
流
(
なが
)
れてゐる。
159
まるで
縦
(
たて
)
に
流
(
なが
)
れてゐるのか、
160
横
(
よこ
)
に
流
(
なが
)
れてゐるのか
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れぬやうな
川
(
かは
)
だのう』
161
カル『オイ、
162
そんな
川
(
かは
)
所
(
どころ
)
かい、
163
此
(
この
)
館
(
やかた
)
はキツと
三途
(
せうづ
)
川原
(
がはら
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
の
番所
(
ばんしよ
)
かも
分
(
わか
)
らぬぞ。
164
ここで
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
はサツパリ
着物
(
きもの
)
を
剥
(
は
)
がれて
了
(
しま
)
ふのだ。
165
さうすればこれから
前途
(
さき
)
は
追々
(
おひおひ
)
冬空
(
ふゆぞら
)
に
向
(
む
)
くのに
赤裸
(
まつぱだか
)
になつて、
166
八寒
(
はちかん
)
地獄
(
ぢごく
)
に
旅立
(
たびだち
)
といふ
悲劇
(
ひげき
)
の
幕
(
まく
)
がおりるかも
知
(
し
)
れぬぞ。
167
困
(
こま
)
つたことが
出来
(
でき
)
たものだなア』
168
かく
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ
館
(
やかた
)
の
戸
(
と
)
を
押開
(
おしひら
)
いて
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
たのは
十二三
(
じふにさん
)
才
(
さい
)
の
美
(
うつく
)
しい
娘
(
むすめ
)
であつた。
169
レーブ『ヤア
偉
(
えら
)
い
見当違
(
けんたうちがひ
)
をしてゐたワイ。
170
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
脱衣婆
(
だついばば
)
アといへば、
171
エグつたらしい
顔
(
かほ
)
をした、
172
人
(
ひと
)
でも
喰
(
く
)
ひさうな
餓鬼
(
がき
)
が
控
(
ひか
)
へてゐるかと
思
(
おも
)
へば、
173
まだ
十二三
(
じふにさん
)
才
(
さい
)
の
肩揚
(
かたあげ
)
の
取
(
と
)
れぬ
少女
(
せうぢよ
)
が
而
(
しか
)
も
二人
(
ふたり
)
、
174
優
(
やさ
)
しい
顔
(
かほ
)
して
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るぢやないか。
175
矢張
(
やつぱり
)
現界
(
げんかい
)
とは
凡
(
すべ
)
てのことが
逆様
(
さかさま
)
だといふから、
176
現界
(
げんかい
)
の
所謂
(
いはゆる
)
小娘
(
こむすめ
)
が
幽界
(
いうかい
)
の
婆
(
ばば
)
アかも
知
(
し
)
れぬぞ。
177
娘
(
むすめ
)
と
云
(
い
)
つたら
幽界
(
いうかい
)
では
婆
(
ばば
)
アのことだらう。
178
婆
(
ばば
)
アと
云
(
い
)
つたら
幽界
(
いうかい
)
では
少女
(
せうぢよ
)
のことだらう。
179
娘
(
むすめ
)
と
云
(
い
)
つたら……』
180
カル『コリヤコリヤ
同
(
お
)
んなじことばかり、
181
何
(
なに
)
をグヅグヅ
言
(
い
)
つてるのだい。
182
娘
(
むすめ
)
が
聞
(
き
)
いたら
態
(
ざま
)
が
悪
(
わる
)
いぞ』
183
レーブ
『
余
(
あま
)
りの
不思議
(
ふしぎ
)
で、
184
ツイあんな
事
(
こと
)
が
言
(
い
)
へたのだ』
185
二人
(
ふたり
)
の
少女
(
せうぢよ
)
は
叮嚀
(
ていねい
)
に
手
(
て
)
をつかへ、
186
少女
『あなたはレーブさまにカルさまで
厶
(
ござ
)
いますか。
187
サアどうぞお
姫
(
ひめ
)
さまが
最前
(
さいぜん
)
からお
待兼
(
まちかね
)
で
厶
(
ござ
)
います。
188
お
弁当
(
べんたう
)
の
用意
(
ようい
)
もして
厶
(
ござ
)
いますから、
189
どうぞトツクリとお
休
(
やす
)
みの
上
(
うへ
)
お
食
(
あが
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
190
レーブ『イヤア、
191
洒落
(
しやれ
)
て
けつ
かるワイ、
192
さうすると
矢張
(
やつぱり
)
ここは
現界
(
げんかい
)
だな。
193
此
(
この
)
風景
(
ふうけい
)
のよい
川端
(
かはばた
)
でどこの
奴
(
やつ
)
か
知
(
し
)
らねども
沢山
(
たくさん
)
のおチヨボをおきやがつて、
194
茶代
(
ちやだい
)
をねだつたり
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
拵
(
こしら
)
へて
高
(
たか
)
く
代価
(
だいか
)
を
請求
(
せいきう
)
し、
195
剥取
(
はぎと
)
りをしやがるのだな。
196
オイ
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けぬと
着物
(
きもの
)
位
(
くらゐ
)
ならいいが、
197
魂
(
たましひ
)
まで
女
(
をんな
)
に
抜取
(
ぬきと
)
られて
了
(
しま
)
ふかも
知
(
し
)
れぬぞ。
198
鬼婆
(
おにばば
)
よりも
何
(
なに
)
よりも
恐
(
おそ
)
ろしいのは
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
だからなア』
199
少女
(
せうぢよ
)
『モシモシお
客
(
きやく
)
さま、
200
そんな
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りませぬ、
201
どうぞ
早
(
はや
)
くお
入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
202
カル『ヤツパリ
夢
(
ゆめ
)
だつたかいな。
203
ネツからとんと
合点
(
がてん
)
がゆかぬやうになつて
来
(
き
)
たワイ。
204
どこともなしに
娑婆
(
しやば
)
臭
(
くさ
)
くなつて
来
(
き
)
たぞ』
205
レーブ『それだから、
206
貴様
(
きさま
)
が
亡者
(
まうじや
)
気分
(
きぶん
)
になつてゐやがつた
時
(
とき
)
から、
207
俺
(
おれ
)
はキツト
死
(
し
)
んでゐるのぢやないと
言
(
い
)
つただらう。
208
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
警戒
(
けいかい
)
して
女
(
をんな
)
に
魂
(
たましひ
)
を
抜
(
ぬ
)
かれぬやうに
入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
ようかい。
209
併
(
しか
)
し
此
(
この
)
家
(
いへ
)
を
見
(
み
)
るだけでも
大変
(
たいへん
)
値打
(
ねうち
)
があるぞ。
210
屋根
(
やね
)
も
瓦
(
かはら
)
も
壁
(
かべ
)
もどこも
黄金造
(
わうごんづく
)
りぢやないか。
211
こんな
所
(
ところ
)
に
居
(
ゐ
)
るナイスはキツト
世間離
(
せけんばな
)
れのした
高尚
(
かうしやう
)
な
優美
(
いうび
)
な
頗
(
すこぶ
)
る……に
違
(
ちが
)
ひない』
212
といひながら
少女
(
せうぢよ
)
に
引
(
ひ
)
かれて
二人
(
ふたり
)
は
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
げた。
213
外
(
そと
)
から
見
(
み
)
れば
金光
(
きんくわう
)
燦爛
(
さんらん
)
たる
此
(
この
)
館
(
やかた
)
、
214
中
(
なか
)
へ
入
(
はい
)
つてみれば、
215
荒壁
(
あらかべ
)
が
落
(
お
)
ちて
骨
(
ほね
)
を
剥
(
む
)
きだし、
216
まるで
乞食
(
こじき
)
小屋
(
ごや
)
のやうである。
217
そして
其
(
その
)
むさ
苦
(
くる
)
しいこと、
218
異様
(
いやう
)
の
臭気
(
しうき
)
がすること、
219
お
話
(
はなし
)
にならぬ。
220
二人
(
ふたり
)
は
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
し、
221
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず、
222
カル、レーブ
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
ア
堪
(
たま
)
らぬ、
223
エライ
化家
(
ばけいへ
)
だなア。
224
こんな
所
(
ところ
)
にゐやがる
奴
(
やつ
)
ア、
225
どうで
碌
(
ろく
)
なものぢやあるまいぞ。
226
オイ
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けぬと
虱
(
しらみ
)
が
足
(
あし
)
へ
這上
(
はひあが
)
るぞ、
227
エーエ
気分
(
きぶん
)
の
悪
(
わる
)
いことだ』
228
と
口々
(
くちぐち
)
に
咳
(
つぶや
)
いてゐる。
229
破
(
やぶ
)
れた
襖障子
(
からかみ
)
をパツとあけて
奥
(
おく
)
からやつて
来
(
き
)
たのは、
230
こはそもいかに、
231
汚
(
きたな
)
い
座敷
(
ざしき
)
に
似合
(
にあ
)
はぬ、
232
立派
(
りつぱ
)
な
衣裳
(
いしやう
)
を
着
(
ちやく
)
した
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
、
233
襠姿
(
うちかけすがた
)
の
儘
(
まま
)
、
234
破
(
やぶ
)
れた
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うへ
)
を
惜気
(
をしげ
)
もなく
引
(
ひ
)
きずりながら、
235
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
236
女
『あゝ、
237
これはこれはお
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
、
238
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
りました。
239
大変
(
たいへん
)
早
(
はや
)
うお
越
(
こ
)
しで
厶
(
ござ
)
いましたなア。
240
奥
(
おく
)
に
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
が
拵
(
こしら
)
へてありますから、
241
一
(
ひと
)
つ
召上
(
めしあが
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
242
と
打解
(
うちと
)
けた
言
(
い
)
ひぶりである。
243
レーブは
合点
(
がてん
)
ゆかず、
244
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
をキヨロキヨロ
見上
(
みあ
)
げ
見下
(
みおろ
)
し、
245
隅々
(
すみずみ
)
迄
(
まで
)
も
見廻
(
みまは
)
しながら、
246
レーブ
『
何
(
なん
)
と
隅
(
すみ
)
から
隅
(
すみ
)
迄
(
まで
)
完全
(
くわんぜん
)
無欠
(
むけつ
)
なムサ
苦
(
ぐる
)
しい
家
(
いへ
)
だなア、
247
何程
(
なにほど
)
山海
(
さんかい
)
の
珍味
(
ちんみ
)
でも、
248
此
(
この
)
光景
(
くわうけい
)
を
眺
(
なが
)
めては、
249
喉
(
のど
)
へは
通
(
とほ
)
りませぬワイ。
250
コレコレお
女中
(
ぢよちう
)
、
251
一体
(
いつたい
)
此処
(
ここ
)
は
何
(
なん
)
といふ
所
(
ところ
)
ですか』
252
女
(
をんな
)
『ここは
冥途
(
めいど
)
の
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
といふ
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
253
レーブ『さうすると
矢張
(
やつぱり
)
私
(
わたし
)
は
亡者
(
まうじや
)
になつたのかいなア』
254
女
『ホヽヽヽヽ
亡者
(
まうじや
)
といへば
亡者
(
まうじや
)
、
255
生
(
い
)
きてゐるといへば
少
(
すこ
)
し
息
(
いき
)
が
通
(
かよ
)
うてゐる。
256
三十万
(
さんじふまん
)
年後
(
ねんご
)
の
二十
(
にじつ
)
世紀
(
せいき
)
の
人間
(
にんげん
)
の
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
だ。
257
半死半
(
はんしはん
)
せう
泥棒
(
どろばう
)
とはお
前
(
まへ
)
さまのことですよ。
258
私
(
わたし
)
は
三途川
(
せうづがは
)
の
有名
(
いうめい
)
な
鬼婆
(
おにばば
)
で、
259
辞職
(
じしよく
)
の
出来
(
でき
)
ぬ
終身官
(
しうしんくわん
)
だよ。
260
ホツホヽヽ』
261
レーブ
『オイオイ
馬鹿
(
ばか
)
にすない、
262
そんな
鬼婆
(
おにばば
)
があつてたまるかい、
263
年
(
とし
)
は
二八
(
にはち
)
か
二九
(
にく
)
からぬ、
264
花
(
はな
)
の
顔容
(
かんばせ
)
月
(
つき
)
の
眉
(
まゆ
)
、
265
珂雪
(
かせつ
)
の
白歯
(
しらは
)
、
266
玲瓏玉
(
れいろうたま
)
の
如
(
ごと
)
き
其
(
その
)
肌
(
はだ
)
の
具合
(
ぐあひ
)
、
267
如何
(
どう
)
して
之
(
これ
)
が
鬼婆
(
おにばば
)
と
思
(
おも
)
へるものか、
268
あんまり
揶揄
(
からか
)
ふものではありませぬぞ、
269
お
前
(
まへ
)
さまは
丁度
(
ちやうど
)
二十一
(
にじふいち
)
世紀
(
せいき
)
のハイカラ
女
(
をんな
)
の
様
(
やう
)
なことを
言
(
い
)
ふぢやないか。
270
こんな
娘
(
むすめ
)
が
婆
(
ばば
)
アとはどこで
算用
(
さんによ
)
が
違
(
ちが
)
うたのだらうなア』
271
女
『ホヽヽ
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
男
(
をとこ
)
だこと、
272
百年目
(
ひやくねんめ
)
に
二三
(
にさん
)
年
(
ねん
)
づつ
人
(
ひと
)
の
寿命
(
じゆみやう
)
が
縮
(
ちぢ
)
まつてゆくのだから、
273
二十一
(
にじふいち
)
世紀
(
せいき
)
の
末
(
すゑ
)
になると、
274
十七八
(
じふしちはつ
)
才
(
さい
)
になれば
大変
(
たいへん
)
な
古婆
(
ふるばば
)
だよ。
275
モ
三歳
(
みつつ
)
になると
夫婦
(
ふうふ
)
の
道
(
みち
)
を
悟
(
さと
)
るやうになるのだから……お
前
(
まへ
)
さまも
余程
(
よつぽど
)
頭
(
あたま
)
が
古
(
ふる
)
いね』
276
カル『さうすると、
277
ここは
二十一
(
にじふいち
)
世紀
(
せいき
)
の
幽界
(
いうかい
)
の
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
だな』
278
女
(
をんな
)
『
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
は
何万
(
なんまん
)
年
(
ねん
)
経
(
た
)
つても、
279
決
(
けつ
)
して
変
(
かは
)
るものではない。
280
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
アだつて、
281
何時迄
(
いつまで
)
も
年
(
とし
)
も
老
(
よ
)
らず、
282
いはば
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
のコゲつきだ。
283
サア
早
(
はや
)
く
奥
(
おく
)
へ
来
(
き
)
て、
284
饂飩
(
うどん
)
でも
喰
(
た
)
べたがよからうぞや。
285
大分
(
だいぶ
)
に
玉山峠
(
たまやまたうげ
)
で
活動
(
くわつどう
)
して
腹
(
はら
)
がすいてゐるだらう』
286
レーブ『それなら
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
奥
(
おく
)
へ
通
(
とほ
)
して
貰
(
もら
)
はう。
287
オイ、
288
カル、
289
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
では
何
(
なん
)
だか
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
い、
290
貴様
(
きさま
)
もついて
来
(
こ
)
い』
291
カル『ヨシヨシ
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
かう、
292
此
(
この
)
女
(
をんな
)
はバの
字
(
じ
)
とケの
字
(
じ
)
に
違
(
ちが
)
ひないから
油断
(
ゆだん
)
をすな。
293
そして
一歩
(
いつぽ
)
々々
(
いつぽ
)
探
(
さぐ
)
り
探
(
さぐ
)
りにゆかぬと、
294
陥穽
(
おとしあな
)
でも
拵
(
こしら
)
へてあつたら
大変
(
たいへん
)
だぞ。
295
亡者
(
まうじや
)
でも
矢張
(
やつぱり
)
命
(
いのち
)
が
惜
(
を
)
しいからなア』
296
と
云
(
い
)
ひながら
美人
(
びじん
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
297
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
かと
思
(
おも
)
へば
草
(
くさ
)
莽々
(
ばうばう
)
と
生
(
は
)
えきつた
川
(
かは
)
の
堤
(
つつみ
)
であつた。
298
其
(
その
)
向方
(
むかふ
)
を
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
が
滔々
(
たうたう
)
とウネリを
立
(
た
)
てて
白
(
しろ
)
い
泡
(
あわ
)
を
所々
(
ところどころ
)
に
吐
(
は
)
きながら
悠々
(
いういう
)
と
流
(
なが
)
れてゐる。
299
レーブ『コレコレ
婆
(
ば
)
アさまとやら、
300
お
前
(
まへ
)
の
所
(
ところ
)
の
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
といふのは、
301
こんな
野
(
の
)
つ
原
(
ぱら
)
か。
302
矢張
(
やつぱり
)
冥途
(
めいど
)
といふ
所
(
ところ
)
は
娑婆
(
しやば
)
とは
趣
(
おもむき
)
が
違
(
ちが
)
ふものだなア。
303
娘
(
むすめ
)
を
婆
(
ばば
)
と
云
(
い
)
つたり、
304
野原
(
のはら
)
を
奥
(
おく
)
と
言
(
い
)
つたり、
305
サツパリ
裏表
(
うらおもて
)
だ。
306
なア、
307
カル
公
(
こう
)
、
308
ますます
怪
(
あや
)
しくなつたぢやないか』
309
女
(
をんな
)
『ここはお
前
(
まへ
)
さまの
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り
野
(
の
)
ツ
原
(
ぱら
)
だ、
310
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
といふのは
次
(
つぎ
)
の
家
(
いへ
)
だ。
311
此
(
この
)
向方
(
むかふ
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
が
建
(
た
)
つてゐるから、
312
そこへ
案内
(
あんない
)
を
致
(
いた
)
しませう』
313
レーブ『
又
(
また
)
外
(
そと
)
から
見
(
み
)
れば、
314
金殿
(
きんでん
)
玉楼
(
ぎよくろう
)
、
315
中
(
なか
)
へ
入
(
い
)
つて
見
(
み
)
れば
乞食
(
こじき
)
小屋
(
ごや
)
といふやうなお
館
(
やかた
)
へ
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
下
(
くだ
)
さるのですかなア。
316
イヤもうこれで
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
います』
317
カル『
何
(
なん
)
で
又
(
また
)
これ
丈
(
だけ
)
外
(
そと
)
に
金
(
かね
)
をかけて、
318
立派
(
りつぱ
)
な
家
(
いへ
)
を
建
(
た
)
てながら、
319
中
(
なか
)
はこんなにムサ
苦
(
ぐる
)
しいのだらう。
320
なアお
婆
(
ば
)
アさま、
321
コラ
一体
(
いつたい
)
何
(
なに
)
か
意味
(
いみ
)
があるだらうな』
322
女
(
をんな
)
『ここは
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
現界部
(
げんかいぶ
)
だから、
323
こんな
家
(
いへ
)
が
建
(
た
)
ててあるのだ。
324
現界
(
げんかい
)
の
奴
(
やつ
)
は
表面
(
うはつら
)
計
(
ばか
)
り
立派
(
りつぱ
)
にして、
325
人
(
ひと
)
の
目
(
め
)
に
見
(
み
)
えぬ
所
(
ところ
)
は
皆
(
みな
)
こんなものだ。
326
口先
(
くちさき
)
は
立派
(
りつぱ
)
なことを
言
(
い
)
ふが、
327
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
は
丁度
(
ちやうど
)
此
(
この
)
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
見
(
み
)
るやうなものですよ。
328
私
(
わたし
)
だつて
斯
(
こ
)
んなナイスに
粉飾
(
ふんしよく
)
してるが、
329
此
(
この
)
家
(
いへ
)
と
同様
(
どうやう
)
で
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
汚
(
きたな
)
いものだよ。
330
お
前
(
まへ
)
さまもバラモン
教
(
けう
)
だとか、
331
三五教
(
あななひけう
)
だとかのレツテルを
被
(
かぶ
)
つて、
332
宣伝
(
せんでん
)
だとか
万伝
(
まんでん
)
だとか
言
(
い
)
つて
歩
(
ある
)
いてゐただらう、
333
腐
(
くさ
)
つた
肉
(
にく
)
に
宣伝使
(
せんでんし
)
服
(
ふく
)
を
着
(
つ
)
けて
糞
(
くそ
)
や
小便
(
せうべん
)
をそこら
中
(
ぢう
)
持
(
も
)
ち
歩
(
ある
)
いて、
334
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
だし
に、
335
物
(
もの
)
の
分
(
わか
)
らぬ
婆嬶
(
ばばかか
)
に
随喜
(
ずゐき
)
渇仰
(
かつかう
)
の
涙
(
なみだ
)
をこぼさしてゐたのだらう。
336
私
(
わたし
)
も
此
(
この
)
着物
(
きもの
)
を
一
(
ひと
)
つ
剥
(
む
)
いたら、
337
二目
(
ふため
)
と
見
(
み
)
られぬ
鬼婆
(
おにばば
)
アだよ。
338
白粉
(
おしろい
)
を
塗
(
ぬ
)
り
口紅
(
くちべに
)
をさし
白髪
(
しらが
)
に
黒
(
くろ
)
ンボを
塗
(
ぬ
)
り、
339
身体中
(
からだぢう
)
に
蝋
(
らふ
)
の
油
(
あぶら
)
をすり
込
(
こ
)
んで、
340
こんなよい
肉付
(
にくづき
)
にみせてゐるが、
341
一遍
(
いつぺん
)
少
(
すこ
)
し
熱
(
あつ
)
い
湯
(
ゆ
)
の
中
(
なか
)
へでも
這入
(
はい
)
らうものなら
見
(
み
)
られた
態
(
ざま
)
ぢやない。
342
サア
是
(
これ
)
から
本当
(
ほんたう
)
の
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
へ
伴
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つてあげよう。
343
イヤ
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
へつれて
行
(
ゆ
)
きませう』
344
レーブ『
何
(
なん
)
と
合点
(
がてん
)
のいかぬことをいふ
娘婆
(
むすめば
)
アさまぢやなア。
345
何
(
なん
)
だか
気味
(
きみ
)
が
悪
(
わる
)
くなつて
来
(
き
)
た。
346
斯
(
か
)
う
言
(
い
)
はれると
自分
(
じぶん
)
等
(
ら
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
うち
)
を
浄玻璃
(
じやうはり
)
の
鏡
(
かがみ
)
で
照
(
て
)
らされたやうな
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
き
)
たワイ。
347
のうカル
公
(
こう
)
』
348
カル『さうだな、
349
丸切
(
まるき
)
り
現代
(
げんだい
)
の
貴勝族
(
きしようぞく
)
の
生活
(
せいくわつ
)
の
様
(
やう
)
だなア。
350
外
(
そと
)
から
見
(
み
)
れば
刹帝利
(
せつていり
)
か
浄行
(
じやうぎやう
)
か
何
(
なに
)
か
貴
(
たふと
)
い
方
(
かた
)
が
住
(
す
)
んでゐるお
館
(
やかた
)
のやうだが、
351
中
(
なか
)
へ
這入
(
はい
)
つてみると、
352
毘舎
(
びしや
)
よりも
首陀
(
しゆだ
)
よりも
幾層倍
(
いくそうばい
)
劣
(
おと
)
つた
旃陀羅
(
せんだら
)
の
住家
(
すみか
)
の
様
(
やう
)
だのう』
353
女
(
をんな
)
『
せんだら
万
(
まん
)
だら
言
(
い
)
はずと
早
(
はや
)
く
此方
(
こつちや
)
アへ
来
(
き
)
なされよ。
354
サア
此処
(
ここ
)
が
神界
(
しんかい
)
の
人
(
ひと
)
の
住
(
す
)
む
館
(
やかた
)
だ、
355
かういふ
家
(
うち
)
に
住居
(
ぢうきよ
)
をするやうにならぬとあきませぬぞや』
356
レーブ『どこに
家
(
うち
)
があるのだい、
357
野原
(
のはら
)
計
(
ばか
)
りぢやないか。
358
向
(
むか
)
ふには
川
(
かは
)
が
滔々
(
たうたう
)
と
流
(
なが
)
れてる
計
(
ばか
)
りで、
359
家
(
いへ
)
らしいものは
一
(
ひと
)
つもないぢやないか』
360
カル『オイ、
361
レーブ、
362
貴様
(
きさま
)
余程
(
よほど
)
悟
(
さと
)
りの
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
ぢやなア。
363
神界
(
しんかい
)
の
家
(
いへ
)
といつたら
娑婆
(
しやば
)
のやうな
木
(
き
)
や
石
(
いし
)
や
竹
(
たけ
)
で
畳
(
たた
)
んだ
家
(
いへ
)
ぢやない、
364
際限
(
さいげん
)
もなき
此
(
この
)
宇宙間
(
うちうかん
)
を
称
(
しよう
)
して
神界
(
しんかい
)
の
家
(
いへ
)
と
云
(
い
)
ふのだ』
365
レーブ『こんな
家
(
いへ
)
に
住
(
す
)
んで
居
(
を
)
つたら、
366
それでも
雨露
(
うろ
)
を
凌
(
しの
)
ぐ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬぢやないか。
367
神界
(
しんかい
)
の
家
(
いへ
)
といふのは
所謂
(
いはゆる
)
乞食
(
こじき
)
の
家
(
いへ
)
だな。
368
何
(
なに
)
がそんな
家
(
うち
)
が
結構
(
けつこう
)
だい。
369
貴様
(
きさま
)
こそ
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬことを
言
(
い
)
ふぢやないか』
370
女
(
をんな
)
『コレコレお
二人
(
ふたり
)
さま、
371
何
(
なに
)
をグヅグヅいつてらつしやるのだ、
372
此
(
この
)
家
(
うち
)
が
見
(
み
)
えませぬか。
373
水晶
(
すゐしやう
)
の
屋根
(
やね
)
、
374
水晶
(
すゐしやう
)
の
柱
(
はしら
)
、
375
何
(
なに
)
もかも
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
、
376
器具
(
きぐ
)
の
端
(
はし
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
水晶
(
すゐしやう
)
で
拵
(
こしら
)
へてあるのだから、
377
お
前
(
まへ
)
さまの
曇
(
くも
)
つた
眼力
(
がんりき
)
では
見
(
み
)
えませうまい。
378
私
(
わたし
)
の
体
(
からだ
)
だつて
神界
(
しんかい
)
へ
這入
(
はい
)
れば、
379
これ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
380
見
(
み
)
えますまいがな』
381
と
俄
(
にはか
)
に
透
(
す
)
き
通
(
とほ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
382
レーブ『
目
(
め
)
は
開
(
あ
)
いてゐるが
家
(
いへ
)
の
所在
(
ありか
)
が
一寸
(
ちよつと
)
も
分
(
わか
)
らぬ、
383
これでは
盲
(
めくら
)
も
同然
(
どうぜん
)
だ。
384
何程
(
なにほど
)
結構
(
けつこう
)
でも
家
(
いへ
)
の
分
(
わか
)
らぬやうな
所
(
ところ
)
へやつて
来
(
き
)
て、
385
水晶
(
すゐしやう
)
の
柱
(
はしら
)
へでもブツカツたら、
386
大変
(
たいへん
)
だから、
387
ヤツパリ
俺
(
おれ
)
は、
388
最前
(
さいぜん
)
の
現界
(
げんかい
)
の
家
(
いへ
)
の
方
(
はう
)
が
何程
(
なにほど
)
よいか
分
(
わか
)
らぬわ。
389
コレコレ
娘婆
(
むすめば
)
アさま、
390
どこへ
行
(
い
)
つたのだい。
391
お
前
(
まへ
)
の
姿
(
すがた
)
丈
(
だけ
)
なつと
見
(
み
)
せてくれないか』
392
耳
(
みみ
)
のはたに
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
、
393
女
『ホヽヽ
何
(
なん
)
とまア
不自由
(
ふじゆう
)
な
明盲
(
あきめくら
)
だこと、
394
モ
少
(
すこ
)
し
霊
(
みたま
)
を
水晶
(
すゐしやう
)
に
研
(
みが
)
きなさい。
395
そしたら
此
(
この
)
立派
(
りつぱ
)
な
水晶
(
すゐしやう
)
の
館
(
やかた
)
が
明瞭
(
はつきり
)
と
見
(
み
)
えます』
396
レーブ『どうしても
見
(
み
)
えないから、
397
一
(
ひと
)
つ
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて
案内
(
あんない
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
398
女
(
をんな
)
『それなら
案内
(
あんない
)
して
上
(
あ
)
げませう』
399
と
言
(
い
)
ひながら、
400
水晶
(
すゐしやう
)
の
表戸
(
おもてど
)
をガラガラガラと
音
(
おと
)
をさせて
開
(
あ
)
けた。
401
カル、レーブ
『ヤア
顔
(
かほ
)
は
見
(
み
)
えぬが、
402
確
(
たしか
)
に
戸
(
と
)
のあいた
音
(
おと
)
だ』
403
といひながら
二人
(
ふたり
)
は
手
(
て
)
をつなぎ、
404
レーブは
女
(
をんな
)
に
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
かれて、
405
水晶
(
すゐしやう
)
の
館
(
やかた
)
に
這入
(
はい
)
つて
了
(
しま
)
つた。
406
レーブ『
何
(
なん
)
だ
家
(
いへ
)
の
内
(
うち
)
か
家
(
いへ
)
の
外
(
そと
)
か、
407
ヤツパリ
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れぬぢやないか。
408
アイタタ、
409
とうとう
頭
(
あたま
)
をうつた、
410
ヤツパリ
家
(
いへ
)
の
内
(
うち
)
と
見
(
み
)
えるワイ、
411
コレコレ
娘婆
(
むすめば
)
アさま、
412
こんな
所
(
ところ
)
に
居
(
を
)
るのはモウ
嫌
(
いや
)
だ。
413
モ
一遍
(
いつぺん
)
手
(
て
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つて
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
414
女
(
をんな
)
『お
前
(
まへ
)
さま
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
勝手
(
かつて
)
に
出
(
で
)
なさい。
415
這入
(
はい
)
つたものが
出
(
で
)
られぬといふ
筈
(
はず
)
がない』
416
カル『
何
(
なん
)
とマア
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
女
(
をんな
)
だなア。
417
そんなことを
言
(
い
)
はずに
一寸
(
ちよつと
)
の
手間
(
てま
)
ぢやないか、
418
出口
(
でぐち
)
を
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
さいな』
419
女
(
をんな
)
『お
前
(
まへ
)
さまの
身魂
(
みたま
)
さへ
研
(
みが
)
けたら、
420
出口
(
でぐち
)
は
明瞭
(
はつきり
)
分
(
わか
)
りますよ。
421
自然
(
しぜん
)
に
霊
(
みたま
)
の
研
(
みが
)
ける
迄
(
まで
)
、
422
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
でも
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
でもここに
坐
(
すわ
)
つてゐなさい、
423
こんな
綺麗
(
きれい
)
な
所
(
ところ
)
はありませぬからなア』
424
レーブ『
余
(
あま
)
り
汚
(
きたな
)
い
霊
(
みたま
)
が
水晶
(
すゐしやう
)
の
館
(
やかた
)
へ
入
(
はい
)
つたものだから、
425
とうとう
神徳敗
(
しんとくま
)
けをしてしまつて、
426
出口
(
でぐち
)
が
分
(
わか
)
らなくなつて
了
(
しま
)
つた。
427
エヽ
構
(
かま
)
ふこたない、
428
盲
(
めくら
)
でさへ
一人
(
ひとり
)
道中
(
だうちう
)
をする
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
429
頭
(
あたま
)
を
打
(
う
)
たぬ
様
(
やう
)
に
手
(
て
)
で
空
(
くう
)
をかきながら、
430
出
(
で
)
られる
所
(
ところ
)
へ
出
(
で
)
ようぢやないか』
431
カル『さうだな、
432
なんぼ
広
(
ひろ
)
い
家
(
うち
)
だつて、
433
さう
大
(
おほ
)
きうはあるまい。
434
小口
(
こぐち
)
から
撫
(
な
)
で
廻
(
まは
)
したら
出口
(
でぐち
)
はあるだらう。
435
本当
(
ほんたう
)
に
盲
(
めくら
)
よりひどいぢやないか。
436
外
(
そと
)
が
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
りながら
出
(
で
)
られぬとは、
437
何
(
ど
)
うした
因果
(
いんぐわ
)
なことだらう。
438
コラ
大方
(
おほかた
)
あの
娘婆
(
むすめばば
)
アの
計略
(
けいりやく
)
にかかつてこんな
所
(
ところ
)
へ
入
(
い
)
れられたのかも
知
(
し
)
れぬぞ……ヤア
同
(
おな
)
じ
女
(
をんな
)
が
沢山
(
たくさん
)
に
映
(
うつ
)
り
出
(
だ
)
した。
439
ハハア
此奴
(
こいつ
)
ア
鏡
(
かがみ
)
で
作
(
つく
)
つた
家
(
うち
)
だ、
440
一
(
ひと
)
つの
影
(
かげ
)
が
彼方
(
あちら
)
へ
反射
(
はんしや
)
し、
441
此方
(
こちら
)
へ
反射
(
はんしや
)
し、
442
沢山
(
たくさん
)
に
見
(
み
)
え
出
(
だ
)
しよつたのだ。
443
ヨーヨー
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
姿
(
すがた
)
も
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
映
(
うつ
)
つてるぢやないか、
444
此奴
(
こいつ
)
ア
閉口
(
へいこう
)
だ。
445
コレ
娘婆
(
むすめば
)
アさま、
446
そんな
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
いことを
言
(
い
)
はずに
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
447
女
(
をんな
)
『ホヽヽ
娑婆
(
しやば
)
亡者
(
まうじや
)
とはお
前
(
まへ
)
のことだ。
448
それならモウ
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
出
(
だ
)
して
上
(
あ
)
げませう、
449
折角
(
せつかく
)
の
水晶
(
すゐしやう
)
の
館
(
やかた
)
が
汚
(
けが
)
れて
曇
(
くも
)
つて
了
(
しま
)
ふと、
450
あとの
掃除
(
さうぢ
)
に
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
アも
困
(
こま
)
るから』
451
と
云
(
い
)
ひながら、
452
二人
(
ふたり
)
の
手
(
て
)
をつないで、
453
外
(
そと
)
へ
出
(
だ
)
した
手
(
て
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つてくれた
感覚
(
かんかく
)
はするが、
454
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えるばかりで、
455
少
(
すこ
)
しも
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えなかつた。
456
女
(
をんな
)
『サア
此処
(
ここ
)
が
外
(
そと
)
だ。
457
モウ
安心
(
あんしん
)
しなさい』
458
レーブ『ヤア
有難
(
ありがた
)
う、
459
おかげで
助
(
たす
)
かりました。
460
ヤアお
婆
(
ば
)
アさま、
461
そこに
居
(
を
)
つたのか』
462
女
(
をんな
)
『サア
之
(
これ
)
から
幽界
(
いうかい
)
の
館
(
やかた
)
を
案内
(
あんない
)
しませう、
463
私
(
わたし
)
について
来
(
く
)
るのだよ』
464
レーブ『
神界
(
しんかい
)
現界
(
げんかい
)
の
立派
(
りつぱ
)
なお
家
(
うち
)
を
拝見
(
はいけん
)
したのだから、
465
幽界
(
いうかい
)
も
矢張
(
やつぱり
)
序
(
ついで
)
に
見
(
み
)
せて
貰
(
もら
)
はうか。
466
のうカル
公
(
こう
)
』
467
カル『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
468
ここ
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
て
幽界
(
いうかい
)
丈
(
だけ
)
見
(
み
)
なくては
帰
(
い
)
んで
嬶
(
かか
)
アに
土産
(
みやげ
)
がないワイ』
469
女
(
をんな
)
『ホヽヽお
前
(
まへ
)
さま
達
(
たち
)
、
470
帰
(
い
)
なうと
云
(
い
)
つても、
471
モウ
斯
(
か
)
う
冥途
(
めいど
)
へ
来
(
き
)
た
上
(
うへ
)
は、
472
メツタに
帰
(
かへ
)
ることが
出来
(
でき
)
ませぬぞや、
473
ここは
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
渡場
(
わたしば
)
だ。
474
それ、
475
ここに
汚
(
きたな
)
い
藁小屋
(
わらごや
)
がある、
476
これが
幽界
(
いうかい
)
のお
館
(
やかた
)
だ』
477
と
言
(
い
)
ひながら
俄
(
にはか
)
に
白髪
(
しらが
)
の
婆
(
ばば
)
アになつて
了
(
しま
)
つた。
478
レーブ『ヤア、
479
カル
公
(
こう
)
、
480
あの
娘
(
むすめ
)
は
本当
(
ほんたう
)
の
婆
(
ばば
)
アになりよつたぞ。
481
いやらしい
顔
(
かほ
)
をしてゐるぢやねえか』
482
婆
(
ばば
)
『いやらしいのは
当然
(
あたりまへ
)
だ。
483
亡者
(
まうじや
)
の
皮
(
かは
)
を
剥
(
は
)
ぐ
脱衣婆
(
だついばば
)
アだから、
484
サアこれからお
前
(
まへ
)
さまの
衣
(
ころも
)
をはがすのだ』
485
カル『エヽ
洒落
(
しやれ
)
ない、
486
なんだ
此
(
この
)
小
(
ち
)
つぽけな
雪隠
(
せんち
)
小屋
(
ごや
)
のやうな
家
(
うち
)
を
見
(
み
)
つけやがつて、
487
モウ
俺
(
おれ
)
は
止
(
や
)
めた。
488
矢張
(
やつぱり
)
現界
(
げんかい
)
の
家
(
いへ
)
の
方
(
はう
)
へ
行
(
い
)
つて
休
(
やす
)
まう』
489
と
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
さうとすれば、
490
婆
(
ばば
)
アはグツと
両
(
りやう
)
の
手
(
て
)
で
二人
(
ふたり
)
の
首筋
(
くびすぢ
)
を
掴
(
つか
)
んだ。
491
二人
(
ふたり
)
はゾツとして、
492
カル、レーブ
『オイ
婆
(
ば
)
アさま、
493
離
(
はな
)
した
離
(
はな
)
した、
494
こらへてくれ、
495
こらへてくれ』
496
婆
(
ばば
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
離
(
はな
)
さない。
497
ここは
幽界
(
いうかい
)
の
関所
(
せきしよ
)
だから、
498
お
前
(
まへ
)
を
赤裸
(
まつぱだか
)
にして、
499
地獄
(
ぢごく
)
へ
追
(
お
)
ひやらねばならぬのだ。
500
此
(
この
)
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
には
神界
(
しんかい
)
へ
行
(
ゆ
)
く
途
(
みち
)
と、
501
現界
(
げんかい
)
へ
行
(
ゆ
)
く
途
(
みち
)
と、
502
幽界
(
いうかい
)
へ
行
(
ゆ
)
く
途
(
みち
)
と
三筋
(
みすぢ
)
あるから、
503
それで
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
といふのだよ。
504
伊弉諾
(
いざなぎの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
が
黄泉国
(
よもつのくに
)
からお
帰
(
かへ
)
りなさつた
時
(
とき
)
御禊
(
みそぎ
)
をなさつたのも
此
(
この
)
川
(
かは
)
だよ。
505
上
(
かみ
)
つ
瀬
(
せ
)
は
瀬
(
せ
)
強
(
つよ
)
し、
506
下
(
しも
)
つ
瀬
(
せ
)
は
瀬
(
せ
)
弱
(
よわ
)
し、
507
中
(
なか
)
つ
瀬
(
せ
)
に
下
(
くだ
)
り
立
(
た
)
ちて、
508
水底
(
みなそこ
)
に
打
(
う
)
ちかづきて
御禊
(
みそぎ
)
し
給
(
たま
)
ひし
時
(
とき
)
に
生
(
な
)
りませる
神
(
かみ
)
の
名
(
な
)
は
大事忍男
(
おほことをしをの
)
神
(
かみ
)
といふことがある。
509
それあの
通
(
とほ
)
り、
510
川
(
かは
)
の
瀬
(
せ
)
が
三段
(
さんだん
)
になつてるだろ。
511
真中
(
まんなか
)
を
渡
(
わた
)
る
霊
(
みたま
)
は
神界
(
しんかい
)
へ
行
(
ゆ
)
くなり、
512
あの
下
(
しも
)
の
緩
(
ぬる
)
い
瀬
(
せ
)
を
渡
(
わた
)
る
代物
(
しろもの
)
は
幽界
(
いうかい
)
へ
行
(
ゆ
)
くなり、
513
上
(
かみ
)
の
烈
(
はげ
)
しい
瀬
(
せ
)
を
渡
(
わた
)
る
者
(
もの
)
は
現界
(
げんかい
)
に
行
(
ゆ
)
くのだ。
514
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
とも
天
(
あめ
)
の
安河
(
やすかは
)
とも
称
(
とな
)
へるのだから、
515
お
前
(
まへ
)
の
霊
(
みたま
)
の
善悪
(
ぜんあく
)
を
検
(
あらた
)
める
関所
(
せきしよ
)
だ。
516
サアお
前
(
まへ
)
はどこを
通
(
とほ
)
る
心算
(
つもり
)
だ。
517
真中
(
まんなか
)
の
瀬
(
せ
)
はあゝ
見
(
み
)
えてゐても
余程
(
よほど
)
深
(
ふか
)
いぞ。
518
グヅグヅしてると、
519
沈没
(
ちんぼつ
)
して
了
(
しま
)
ふなり、
520
下
(
しも
)
の
瀬
(
せ
)
の
緩
(
ぬる
)
い
瀬
(
せ
)
を
渡
(
わた
)
れば
渡
(
わた
)
りよいが
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
幽界
(
いうかい
)
へ
行
(
ゆ
)
かねばならず、
521
どちらへ
行
(
ゆ
)
くかな。
522
モ
一度
(
いちど
)
娑婆
(
しやば
)
へ
行
(
ゆ
)
きたくば
上
(
かみ
)
つ
瀬
(
せ
)
を
渡
(
わた
)
つたがよからうぞや』
523
レーブ『
何程
(
なにほど
)
瀬
(
せ
)
が
緩
(
ぬる
)
いと
云
(
い
)
つても
幽界
(
いうかい
)
の
地獄
(
ぢごく
)
へ
行
(
ゆ
)
くのは
御免
(
ごめん
)
だ。
524
折角
(
せつかく
)
ここまでやつて
来
(
き
)
て
現界
(
げんかい
)
へ
後戻
(
あともど
)
りするのも
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かない。
525
三五教
(
あななひけう
)
に
退却
(
たいきやく
)
の
二字
(
にじ
)
はないのだから……
併
(
しか
)
しカルの
奴
(
やつ
)
、
526
マ
一度
(
いちど
)
現界
(
げんかい
)
へ
帰
(
かへ
)
りたくば
婆
(
ば
)
アさまの
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
527
あの
瀬
(
せ
)
をバサンバサンと
渡
(
わた
)
つてみい。
528
俺
(
おれ
)
はどうしても
神界行
(
しんかいゆき
)
だ、
529
虎穴
(
こけつ
)
に
入
(
い
)
らずんば
虎児
(
こじ
)
を
得
(
え
)
ずといふから、
530
一
(
ひと
)
つ
運
(
うん
)
を
天
(
てん
)
に
任
(
まか
)
し、
531
俺
(
おれ
)
は
神界
(
しんかい
)
旅行
(
りよかう
)
に
決
(
き
)
めた。
532
時
(
とき
)
に
途中
(
とちう
)
で
別
(
わか
)
れた
連中
(
れんちう
)
はどこへ
行
(
い
)
つたのだらうか、
533
婆
(
ば
)
アさま、
534
お
前
(
まへ
)
知
(
し
)
つてるだらうな』
535
婆
(
ばば
)
『あいつかい、
536
あいつは
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
つて、
537
八万
(
はちまん
)
地獄
(
ぢごく
)
へ
真逆
(
まつさか
)
様
(
さま
)
に
落
(
お
)
ちよつたのだよ』
538
カル『
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
とは
今
(
いま
)
聞
(
き
)
き
始
(
はじ
)
めだ。
539
どうしてマア
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
はそんな
所
(
ところ
)
へ
連
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
かれよつたのだらう』
540
婆
(
ばば
)
『
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
といふのは、
541
善
(
ぜん
)
一途
(
いちづ
)
を
立
(
た
)
てたものか、
542
悪
(
あく
)
一途
(
いちづ
)
を
立
(
た
)
てた
者
(
もの
)
の
通
(
とほ
)
る
川
(
かは
)
だ。
543
善
(
ぜん
)
一途
(
いちづ
)
の
者
(
もの
)
はすぐに
都率天
(
とそつてん
)
まで
上
(
のぼ
)
るなり、
544
悪
(
あく
)
一途
(
いちづ
)
の
奴
(
やつ
)
は
渡
(
わた
)
しを
渡
(
わた
)
るが
最後
(
さいご
)
八万
(
はちまん
)
地獄
(
ぢごく
)
に
落
(
お
)
ちる
代物
(
しろもの
)
だ、
545
本当
(
ほんたう
)
に
可哀相
(
かあいさう
)
なものだよ。
546
カルの
部下
(
ぶか
)
となつてゐたあの
八
(
はち
)
人
(
にん
)
は
今頃
(
いまごろ
)
はエライ
制敗
(
せいばい
)
を
受
(
う
)
けてるだらう。
547
それを
思
(
おも
)
へば
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
アも
可哀相
(
かあいさう
)
でも
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
でも
何
(
なん
)
でもないわい。
548
オホヽヽヽ』
549
カル『コリヤ
鬼婆
(
おにばば
)
、
550
俺
(
おれ
)
の
部下
(
ぶか
)
がそんな
所
(
ところ
)
へ
行
(
い
)
つているのに、
551
何
(
なん
)
だ
気味
(
きみ
)
がよささうに、
552
其
(
その
)
笑
(
わら
)
ひ
態
(
ざま
)
は…
貴様
(
きさま
)
こそよい
悪垂婆
(
あくたればば
)
だ。
553
何故
(
なぜ
)
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
をこんな
婆
(
ばば
)
が
渡
(
わた
)
らぬのだらうかな、
554
のうレーブ』
555
婆
(
ばば
)
『
何
(
いづ
)
れ
幽界
(
いうかい
)
の
関所
(
せきしよ
)
を
守
(
まも
)
るやうな
婆
(
ばば
)
に
慈悲
(
じひ
)
ぢやの
情
(
なさけ
)
ぢやの
同情
(
どうじやう
)
などあつて
堪
(
たま
)
るかい、
556
悪人
(
あくにん
)
だから
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
渡守
(
わたしもり
)
をしてゐるのだ。
557
善人
(
ぜんにん
)
が
来
(
く
)
れば
直
(
すぐ
)
に
最前
(
さいぜん
)
のやうな
娘
(
むすめ
)
になり、
558
現界
(
げんかい
)
の
奴
(
やつ
)
が
来
(
く
)
れば
上皮
(
うはかは
)
だけ
綺麗
(
きれい
)
な
中面
(
なかつら
)
の
汚
(
きたな
)
い
娘
(
むすめ
)
に
化
(
ば
)
ける。
559
悪人
(
あくにん
)
が
来
(
く
)
ればこんな
恐
(
おそ
)
ろしい
婆
(
ばば
)
になるのだ。
560
約
(
つま
)
りここへ
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
の
心次第
(
こころしだい
)
に
化
(
ば
)
ける
婆
(
ばば
)
アだよ』
561
レーブ『それなら
俺
(
おれ
)
はまだ
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
へ
鬼
(
おに
)
が
引張
(
ひつぱ
)
つて
行
(
ゆ
)
きよらなんだ
丈
(
だけ
)
、
562
どつかに
見込
(
みこみ
)
があるのだな。
563
ヨシヨシそれなら
一
(
ひと
)
つ
奮発
(
ふんぱつ
)
して
神界
(
しんかい
)
旅行
(
りよかう
)
と
出
(
で
)
かけよう。
564
オイ、
565
カル、
566
貴様
(
きさま
)
も
俺
(
おれ
)
について
中
(
なか
)
つ
瀬
(
せ
)
を
渡
(
わた
)
れ』
567
カル『ヨシ、
568
どこ
迄
(
まで
)
もお
前
(
まへ
)
とならば
道伴
(
みちづ
)
れにならう』
569
両人
(
りやうにん
)
『イヤお
婆
(
ば
)
アさま、
570
大変
(
たいへん
)
なお
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました。
571
御縁
(
ごえん
)
があつたら
又
(
また
)
お
目
(
め
)
にかかりませう、
572
左様
(
さやう
)
なら、
573
まめで、
574
御
(
ご
)
無事
(
ぶじ
)
で、
575
御
(
お
)
達者
(
たつしや
)
で……ないやうに、
576
早
(
はや
)
く
くたばり
なされ、
577
オホヽヽヽ』
578
婆
(
ばば
)
『コリヤ
貴様
(
きさま
)
は
霊界
(
れいかい
)
へ
来
(
き
)
てまで
不心得
(
ふこころえ
)
な、
579
悪垂口
(
あくたれぐち
)
を
叩
(
たた
)
くか、
580
神界
(
しんかい
)
へ
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
つても、
581
やらしはせぬぞ』
582
と
茨
(
いばら
)
の
杖
(
つゑ
)
を
振
(
ふ
)
り
上
(
あ
)
げて
追
(
お
)
つかけ
来
(
きた
)
る
其
(
その
)
凄
(
すさま
)
じさ。
583
二人
(
ふたり
)
はザンブと
計
(
ばか
)
り
中
(
なか
)
つ
瀬
(
せ
)
に
飛込
(
とびこ
)
み、
584
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
抜手
(
ぬきて
)
を
切
(
き
)
つて、
585
あなたの
岸
(
きし
)
に
漸
(
やうや
)
く
泳
(
およ
)
ぎついた。
586
(
大正一一・一一・二
旧九・一四
松村真澄
録)
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