霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 衝突(しやうとつ)〔一〇九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻 篇:第3篇 霊魂の遊行 よみ(新仮名遣い):れいこんのゆうこう
章:第10章 衝突 よみ(新仮名遣い):しょうとつ 通し章番号:1094
口述日:1922(大正11)年11月02日(旧09月14日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黄金姫と清照姫に同行していたレーブは、ハルナの都まで母娘の共をすることを懇願したが、黄金姫は宣伝使として共を連れて行くことは許されない、とレーブを諭した。
そうするうちに、バラモン教のランチ将軍の一軍が近づいてきた。彼らが斎苑館を攻撃するために進んでくると悟ったレーブは、自分が進軍を止めてみせると勇み立った。
黄金姫は、天則にしたがってあくまで言向け和すようにとレーブを諭した。軍勢の先頭に立ちはだかったレーブは、大音声で神素盞嗚大神の館への進軍を止めるようにと呼ばわった。
バラモン軍の小頭・カルは、レーブがバラモン教でありながら三五教の味方をしていることをとがめた。レーブは細く険しい山道にたちはだかり、岩つぶてを傍らに積み重ね、バラモン軍に狙いを定めている。
それでも進軍してくるバラモン軍に対し、レーブは岩つぶてを投げつけ、カルの首筋をつかんで谷底へ放り投げた。レーブは先頭の十人ばかりを相手に奮闘し、皆谷底へ放り投げたが、ついにバラモン軍によって自分も谷底に投げられてしまった。
黄金姫と清照姫はレーブが谷底に投げられてしまったのを見て、もはや天則違反もやむなしと打って出て、軍勢を相手に暴れまわった。矢を射かけるバラモン軍によって二人は谷底に転落した。武術の心得ある二人は柔らかい砂の上に無事に着地し、追ってくるバラモン軍を待ち受けていた。
バラモン軍は谷底へ降りてきて二人を取り囲み、矢を射掛けだした。その勢いに二人は最期を覚悟したが、どこからともなく狼の群れが現れて、ランチ将軍の軍勢に襲い掛かった。
ランチ将軍の軍勢は敗走し、斎苑館への近道である玉山峠を通ることをあきらめたようであった。黄金姫、清照姫の母娘は狼に送られて玉山峠を降り、無人の野を行くごとく進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-30 15:54:23 文字数:4435 OBC :rm4010
愛善世界社版:121頁 八幡書店版:第7輯 462頁 修補版: 校定版:127頁 普及版:56頁 初版: ページ備考:
001レーブ『初秋(しよしう)の風(かぜ)はザワザワと
002峰(みね)の尾上(をのへ)を吹(ふ)きまくる
003玉山峠(たまやまたうげ)の坂道(さかみち)を
004黄金姫(わうごんひめ)を初(はじ)めとし
005清照姫(きよてるひめ)の母娘(おやこ)連(づ)れ
006神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
007御言(みこと)畏(かしこ)み月(つき)の国(くに)
008ハルナの都(みやこ)に蟠(わだか)まる
009八岐(やまた)の大蛇(をろち)に憑(つ)かれたる
010大黒主(おほくろぬし)の枉神(まがかみ)を
011言向和(ことむけやは)し天地(あめつち)の
012尊(たふと)き神(かみ)の御光(みひかり)に
013救(すく)はむものと両人(りやうにん)は
014険(けは)しき山川(やまかは)打渡(うちわた)り
015雨(あめ)にはそぼち荒風(あらかぜ)に
016吹(ふ)かれながらもやうやうに
017此処迄(ここまで)進(すす)み来(きた)りけり
018険(けは)しき坂(さか)の傍(かたはら)に
019スツクと立(た)てる千引岩(ちびきいは)
020これ幸(さいは)ひと立寄(たちよ)つて
021母娘(おやこ)二人(ふたり)は腰(こし)をかけ
022息(いき)を休(やす)むる折(をり)もあれ
023矢(や)を射(い)る如(ごと)く峻坂(しゆんぱん)を
024地響(ぢひび)きさせつトントンと
025下(くだ)り来(きた)れる男(をとこ)あり
026よくよくすかし眺(なが)むれば
027玉山峠(たまやまたうげ)の登(のぼ)り口(ぐち)
028思(おも)はず出会(であ)うた神司(かむづかさ)
029レーブの姿(すがた)と見(み)るよりも
030母娘(おやこ)は声(こゑ)をはり上(あ)げて
031手招(てまね)きすれば立止(たちど)まり
032行(ゆ)き過(すご)したる坂道(さかみち)を
033再(ふたた)び登(のぼ)りて両人(りやうにん)が
034側(そば)に近寄(ちかよ)りシトシトと
035流(なが)るる汗(あせ)を押拭(おしぬぐ)ひ
036貴方(あなた)は母娘(おやこ)の神司(かむづかさ)
037私(わたし)はレーブで厶(ござ)ります
038尊(たふと)き神(かみ)の引合(ひきあ)はせ
039思(おも)はぬ処(とこ)で会(あ)ひました
040貴方(あなた)に別(わか)れた其(その)時(とき)は
041酷(むご)いお方(かた)と心(こころ)にて
042きつく怨(うら)んで居(を)りました
043一人(ひとり)の男(をとこ)は森林(しんりん)へ
044姿(すがた)を隠(かく)し行衛(ゆくゑ)をば
045尋(たづ)ぬる折(をり)しも河(かは)渡(わた)り
046向(むか)ふへ越(こ)えた釘彦(くぎひこ)の
047手下(てした)の武士(つはもの)二騎(にき)三騎(さんき)
048再(ふたた)び河(かは)を打渡(うちわた)り
049レーブの前(まへ)に現(あら)はれて
050今(いま)居(ゐ)た母娘(おやこ)の巡礼(じゆんれい)は
051蜈蚣(むかで)の姫(ひめ)に小糸姫(こいとひめ)
052テツキリそれに違(ちが)ひない
053後(あと)追(お)つかけて引捕(ひつとら)へ
054大黒主(おほくろぬし)の御(おん)前(まへ)に
055引連(ひきつ)れ行(ゆ)かむと呶鳴(どな)る故(ゆゑ)
056ハツと当惑(たうわく)しながらも
057早速(さそく)の頓智(とんち)此(この)レーブ
058そしらぬ顔(かほ)の惚(とぼ)け面(づら)
059馬(うま)の轡(くつわ)を引掴(ひつつか)み
060こりやこりや待(ま)つた、こりや待(ま)つた
061鬼熊別(おにくまわけ)に仕(つか)へたる
062私(わし)はレーブの司(つかさ)ぞや
063吾(われ)も汝(なれ)等(ら)と同様(どうやう)に
064母娘(おやこ)二人(ふたり)の巡礼(じゆんれい)は
065蜈蚣(むかで)の姫(ひめ)の母娘(おやこ)ぞと
066疑(うたが)ひながら近寄(ちかよ)つて
067よくよく顔(かほ)を調(しら)ぶれば
068似(に)ても似(に)つかぬ雪(ゆき)と墨(すみ)
069片目(かため)婆(ば)さまの皺苦茶(しわくちや)に
070痘痕(あばた)をあしらふ御(ご)面相(めんさう)
071娘(むすめ)は如何(いか)にと眺(なが)むれば
072これ亦(また)偉(えら)いドテ南瓜(かぼちや)
073下賤(げせん)の姿(すがた)の母娘(おやこ)づれ
074決(けつ)して探(たづ)ぬる人(ひと)でない
075くだらぬことに骨(ほね)を折(を)り
076貴重(きちよう)な光陰(くわういん)潰(つぶ)すより
077一(いち)時(じ)も早(はや)くカルマタの
078都(みやこ)に進(すす)み抜群(ばつぐん)の
079功名(こうみやう)手柄(てがら)をしたがよい
080何(なん)ぢやかんぢやと口(くち)極(きは)め
081罵(ののし)り散(ち)らせば釘彦(くぎひこ)の
082手下(てした)の騎士(きし)は首肯(うなづ)いて
083再(ふたた)び河(かは)を打渡(うちわた)り
084帰(かへ)り行(ゆ)くこそ嬉(うれ)しけれ
085つらつら思(おも)ひ廻(まは)らせば
086貴女(あなた)が私(わたし)を捨(す)てたのは
087深(ふか)い仕組(しぐみ)のありしこと
088前知(ぜんち)の明(めい)なき此(この)レーブ
089今更(いまさら)の如(ごと)感嘆(かんたん)し
090勢込(いきほひこ)んでスタスタと
091お後(あと)を慕(した)ひ玉山(たまやま)の
092峠(たうげ)を越(こ)えて後(あと)を追(お)ひ
093此処(ここ)に目出度(めでた)く面会(めんくわい)し
094これほど嬉(うれ)しい事(こと)はない
095あゝ願(ねが)はくば両人(りやうにん)よ
096レーブの司(つかさ)を月(つき)の国(くに)
097ハルナの都(みやこ)に伴(ともな)ひて
098鬼熊別(おにくまわけ)の館(やかた)まで
099進(すす)ませ給(たま)へ惟神(かむながら)
100神(かみ)に誓(ちか)ひて願(ね)ぎまつる
101途中(とちう)に如何(いか)なる枉神(まがかみ)の
102現(あら)はれ来(きた)りて騒(さ)やるとも
103神(かみ)に任(まか)せし此(この)レーブ
104命(いのち)を的(まと)に投(な)げ出(だ)して
105無事(ぶじ)に貴女(あなた)の目的(もくてき)を
106達成(たつせい)せしめにやおきませぬ
107何卒(なにとぞ)お供(とも)を許(ゆる)されよ
108あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
109神(かみ)の御前(みまへ)に祈(ね)ぎまつる』
110と歌(うた)に代(か)へて所感(しよかん)を述(の)べ、111ハルナの都(みやこ)まで随行(ずゐかう)を許(ゆる)されむ事(こと)を懇願(こんぐわん)した。112黄金姫(わうごんひめ)は言葉(ことば)厳(おごそ)かに、
113黄金姫『折角(せつかく)の其方(そなた)の親切(しんせつ)な願(ねがひ)なれど吾々(われわれ)母娘(おやこ)は日(ひ)の出別(でわけ)の神(かみ)様(さま)の特命(とくめい)を受(う)け、114もとより供(とも)を許(ゆる)されなかつたのだから、115今(いま)になつて何程(なにほど)お前(まへ)が頼(たの)んでも連(つ)れて行(ゆ)く事(こと)は出来(でき)ない、116さうだと云(い)つて貴方(あなた)を排斥(はいせき)するのではない程(ほど)に、117何卒(どうぞ)悪(わる)くとらぬ様(やう)にしてお呉(く)れ』
118レーブ『さう仰(あふ)せらるれば、119たつてお頼(たの)み申(まを)すわけには参(まゐ)りませぬ。120それなら私(わたし)も是非(ぜひ)が御座(ござ)いませぬから単独(たんどく)行動(かうどう)をとり、121貴女(あなた)方(がた)母娘(おやこ)の前後(あとさき)を守(まも)つて参(まゐ)りませう』
122清照(きよてる)『何卒(どうぞ)吾々(われわれ)母娘(おやこ)の目(め)に見(み)えない範囲内(はんゐない)で行(い)つて下(くだ)さいや。123もしもお供(とも)をつれて行(い)つたと云(い)はれては吾々(われわれ)母娘(おやこ)の申訳(まをしわけ)が立(た)ちませぬからな』
124レーブ『左様(さやう)なれば、125たつて無理(むり)にはお願(ねがひ)を申(まを)しませぬ。126私(わたし)は之(これ)より不離(ふり)不即(ふそく)の態度(たいど)を保(たも)ち、127兎(と)も角(かく)もハルナの都(みやこ)へ参(まゐ)ります、128どうぞハルナの都(みやこ)へおいでになつたら私(わたし)を一度(いちど)御(ご)引見(いんけん)下(くだ)さる様(やう)に御(お)願(ねがひ)を致(いた)しておきます。129私(わたし)も貴女(あなた)様(さま)お二人(ふたり)の所在(ありか)を尋(たづ)ぬべく御(ご)主人(しゆじん)様(さま)に命令(めいれい)を受(う)けたもので厶(ござ)いますから、130貴方(あなた)等(たち)の所在(ありか)さへ分(わか)れば、131それで宜(よ)いので厶(ござ)います。132それなら之(これ)から見(み)え隠(がく)れにお供(とも)をしますから、133こればかりはお含(ふく)みを願(ねが)ひます』
134黄金(わうごん)『あゝ仕方(しかた)がない。135お前(まへ)の勝手(かつて)にしたが宜(よ)からう』
136レーブ『はい、137有難(ありがた)う』
138と落涙(らくるい)に咽(むせ)んでゐる。139此(この)時(とき)谷底(たにそこ)より聞(きこ)え来(く)る法螺貝(ほらがひ)、140陣太鼓(ぢんだいこ)、141鐘(かね)の音(おと)、142矢叫(やさけ)びの声(こゑ)、143木谺(こだま)を驚(おどろ)かして響(ひび)き来(く)る。
144黄金姫、清照姫『素破(すは)こそ一大事(いちだいじ)、145バラモン教(けう)の大黒主(おほくろぬし)が部下(ぶか)の者(もの)ならむ。146彼(かれ)に捕(つか)まつては大変(たいへん)』
147と母娘(おやこ)は岩(いは)の後(うしろ)に身(み)を隠(かく)し、148一隊(いつたい)の通過(つうくわ)を待(ま)たむとした。149レーブは勇(いさ)み立(た)ち、
150レーブ『やあ、151愈(いよいよ)忠義(ちうぎ)の現(あら)はし時(どき)、152もしもし御(ご)両人(りやうにん)様(さま)、153貴女(あなた)は此(この)岩影(いはかげ)に身(み)を忍(しの)びお待(ま)ち下(くだ)さいませ。154此(この)軍隊(ぐんたい)をイソの館(やかた)へ進(すす)ませてはなりませぬ。155これより私(わたし)が力限(ちからかぎ)り戦(たたか)つて敵(てき)を退却(たいきやく)させて見(み)ませう』
156黄金(わうごん)『決(けつ)して敵(てき)を傷(きず)つけてはなりませぬよ。157善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を以(もつ)てお防(ふせ)ぎなさい。158此(この)細谷道(ほそたにみち)、159而(しか)も急坂(きふはん)、160何程(なにほど)数多(あまた)の敵(てき)が攻(せ)め上(のぼ)り来(きた)るとも、161一度(いちど)にドツとかかる事(こと)は出来(でき)まい。162片端(かたつぱし)から言向和(ことむけやは)すが神慮(しんりよ)に叶(かな)うたやり方(かた)、163先(ま)づ其方(そなた)が第一戦(だいいつせん)を試(こころ)みたが宜(よ)からう。164とても叶(かな)はぬと見(み)てとつた時(とき)は此(この)黄金姫(わうごんひめ)が立(た)ち代(かは)つて言霊戦(ことたません)を開(ひら)いて見(み)ようから』
165レーブ『承知(しようち)致(いた)しました。166一卒(いつそつ)これに拠(よ)れば万卒(ばんそつ)進(すす)むべからずと云(い)ふ此(この)難所(なんしよ)、167私(わたし)一人(ひとり)で大丈夫(だいぢやうぶ)です』
168と武者振(むしやぶる)ひして勇(いさ)み立(た)つた。
169 かかる処(ところ)へブウブウと先登(せんとう)に立(た)つた武士(つはもの)は法螺貝(ほらがひ)を吹(ふ)き陣容(ぢんよう)を整(ととの)へ登(のぼ)り来(く)る。170旗指物(はたさしもの)、171幾十(いくじふ)となく風(かぜ)に翻(ひるがへ)り単縦陣(たんじうじん)を作(つく)りて進(すす)む其(その)光景(くわうけい)、172恰(あだか)も絵巻物(ゑまきもの)を見(み)る如(ごと)くであつた。173レーブは千引(ちびき)の岩(いは)の上(うへ)に直立(ちよくりつ)し、174此(この)光景(くわうけい)を眺(なが)め敵軍(てきぐん)の近(ちか)づくのを今(いま)や遅(おそ)しと待(ま)つてゐる。
175 先頭(せんとう)に立(た)つた武士(つはもの)は急坂(きふはん)を上(のぼ)りつつ勇(いさ)ましく軍歌(ぐんか)を歌(うた)つてゐる。
176『東西南(とうざいなん)の三方(さんぱう)に
177青海(あをみ)ケ原(はら)を巡(めぐ)らせる
178世界(せかい)で一(いち)の月(つき)の国(くに)
179神(かみ)の御稜威(みいづ)も明(あきら)かに
180照(て)り輝(かがや)きしバラモンの
181教(をしへ)の柱(はしら)は畏(かしこ)くも
182大黒主(おほくろぬし)と現(あ)れましぬ
183此(この)度(たび)イソの神館(かむやかた)
184神(かむ)素盞嗚(すさのを)の枉神(まがかみ)が
185手下(てした)の者(もの)共(ども)集(あつ)まりて
186朝(あさ)な夕(ゆふ)なに武(ぶ)を練(ね)りつ
187一挙(いつきよ)に月(つき)へ攻(せ)め寄(よ)せて
188バラモン教(けう)の本城(ほんじやう)を
189覆(くつが)へさむと企(たく)み居(ゐ)る
190其(その)曲業(まがわざ)を前知(ぜんち)して
191吾(われ)等(ら)が奉(ほう)ずる神柱(かむばしら)
192大黒主(おほくろぬし)は畏(かしこ)くも
193鬼春別(おにはるわけ)を将(しやう)となし
194ランチ将軍(しやうぐん)片彦(かたひこ)の
195大武士(おほつはもの)を任(ま)け給(たま)ひ
196悪魔(あくま)の征途(せいと)に上(のぼ)ります
197其(その)神業(しんげふ)に仕(つか)へ行(ゆ)く
198吾(われ)等(ら)の身(み)こそ楽(たの)しけれ
199朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
200月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
201仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
202三五教(あななひけう)の本城(ほんじやう)を
203覆(くつが)へさずにおくべきか
204常世(とこよ)の国(くに)の自在天(じざいてん)
205大国彦(おほくにひこ)の御(おん)守(まも)り
206愈(いよいよ)深(ふか)くましませば
207如何(いか)なる枉(まが)の猛(たけ)ぶとも
208鬼神(きしん)を挫(ひし)ぐ勇(ゆう)あるも
209などか恐(おそ)れむバラモンの
210教(をしへ)に鍛(きた)へし此(この)体(からだ)
211刃向(はむか)ふ敵(てき)はあらざらめ
212進(すす)めよ進(すす)め いざ進(すす)め
213神(かむ)素盞嗚(すさのを)の曲神(まがかみ)の
214手下(てした)の残(のこ)らず亡(ほろ)ぶまで
215枉津(まがつ)の軍(ぐん)の失(う)するまで』
216と歌(うた)ひながら旗鼓(きこ)堂々(だうだう)と進(すす)み来(きた)る物々(ものもの)しさ。
217 ランチ将軍(しやうぐん)の部下(ぶか)は早(はや)くもレーブの立(た)てる岩(いは)の麓(ふもと)まで進(すす)んで来(き)た。218レーブは大音声(だいおんぜう)を張(は)り上(あ)げながら、
219レーブ『ヤアヤア、220吾(われ)こそはバラモン教(けう)の神司(かむづかさ)、221鬼熊別(おにくまわけ)が身内(みうち)の者(もの)、222只今(ただいま)大自在天(だいじざいてん)のお告(つ)げにより汝(なんぢ)等(ら)一行(いつかう)此処(ここ)に来(きた)る事(こと)を前知(ぜんち)し、223今(いま)や遅(おそ)しと待(ま)ち構(かま)へ居(ゐ)たり。224汝(なんぢ)も亦(また)バラモンの部下(ぶか)に相違(さうゐ)はない。225云(い)はば味方(みかた)同士(どうし)だ。226案内(あんない)するは本意(ほんい)なれども、227汝(なんぢ)等(ら)は今(いま)の軍歌(ぐんか)によつて聞(き)けば仁慈(じんじ)無限(むげん)の神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の館(やかた)に押寄(おしよ)するものと聞(きこ)えたり。228かう聞(き)く上(うへ)は少(すこ)しも猶予(いうよ)はならぬ。229片端(かたつぱし)から神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の言霊(ことたま)を発射(はつしや)して一人(ひとり)も残(のこ)らず言向和(ことむけやは)し呉(く)れむ。230暫(しばら)く待(ま)て』
231と呼(よ)ばはつた。232先頭(せんとう)に立(た)つた武士(つはもの)はカルと云(い)ふ一寸(ちよつと)気(き)の利(き)いた小頭(こがしら)である。233カルはレーブの此(この)声(こゑ)を聞(き)くより立(た)ち止(とど)まり、
234カル『ハテ、235心得(こころえ)ぬ汝(なんぢ)の言葉(ことば)、236汝(なんぢ)バラモン教(けう)の神司(かむづかさ)でありながら、237何(なに)を血迷(ちまよ)うて左様(さやう)な事(こと)を申(まを)すか。238大方(おほかた)発狂(はつきやう)致(いた)したのであらう。239そこ退(の)け、240邪魔(じやま)になるわい』
241と進(すす)まむとするをレーブは早(はや)くも尖(とが)つた石(いし)を何時(いつ)の間(ま)にか岩(いは)の上(うへ)に幾十(いくじふ)となく積(つ)み重(かさ)ね、242一歩(いつぽ)たりとも前進(ぜんしん)せば、243此(この)岩(いは)を以(もつ)て脳天(なうてん)より打挫(うちくじ)かむと右手(めて)に岩(いは)をささげて睨(ね)めつけてゐる。244カルは目(め)を瞋(いか)らし、
245カル『こりや、246こりやレーブ、247左様(さやう)な石(いし)を捧(ささ)げて如何(どう)致(いた)す心算(つもり)だ。248チツと危険(きけん)ではないか』
249レーブ『ハヽヽヽチツとも、250やつとも危険(きけん)だ。251何程(なにほど)汝(なんぢ)の味方(みかた)は沢山(たくさん)押寄(おしよ)せ来(きた)るとも此(この)一条(いちでう)の難路(なんろ)、252一人(ひとり)も残(のこ)らず討滅(うちほろぼ)すに何(なん)の手間暇(てまひま)要(い)るものか。253一(いち)時(じ)も早(はや)くここを引(ひ)き返(かへ)せよ』
254 カルはレーブの顔(かほ)を睨(ね)めつけ、255互(たがひ)に無言(むごん)のまま睨(にら)みあつて居(ゐ)ると、256後(うしろ)の方(はう)より、
257『進(すす)め進(すす)め』
258と登(のぼ)り来(く)る其(その)勢(いきほひ)にカルもやむなく後(あと)より押(お)されて前進(ぜんしん)せむとする時(とき)、259レーブは無法(むはふ)にも其(その)岩(いは)をとつて一(ひと)つ嚇(おど)かし呉(く)れむと、260敵(てき)に中(あた)らぬ様(やう)にと狙(ねら)ひを定(さだ)めて投(な)げつくれば、261岩(いは)はカツカツと音(おと)をたてて谷底(たにそこ)へ転落(てんらく)して了(しま)つた。
262カル『こりやこりや危(あぶ)ないわい。263何(なに)を致(いた)すか』
264レーブ『何(なに)も致(いた)さない。265其方(そのはう)等(ら)を片端(かたつぱし)から殲殺(みなごろ)しに致(いた)さねば俺(おれ)の心(こころ)が得心(とくしん)せぬのだ』
266と云(い)ひながら今度(こんど)は両手(りやうて)に二(ふた)つの石(いし)を引掴(ひつつか)み、267又(また)もや登(のぼ)り来(く)る敵(てき)に向(むか)つて投(な)げつけむとする気色(けしき)を示(しめ)した。268ランチ将軍(しやうぐん)は稍(やや)後(うしろ)の方(はう)より、
269『進(すす)め進(すす)め』
270と下知(げち)をする。271已(や)むを得(え)ずしてカルは前進(ぜんしん)せむとするを、272レーブは道(みち)の真中(まんなか)に立(た)ちはだかり、273第一着(だいいちちやく)にカルの首筋(くびすぢ)を掴(つか)んで谷底(たにそこ)目(め)がけて投(な)げつけた。274又(また)来(く)る奴(やつ)を引掴(ひつつか)み十(じふ)人(にん)ばかりも谷川(たにがは)目蒐(めが)けて投(な)げつくる。275かかる処(ところ)へ遥(はる)か下(した)の方(はう)より数多(あまた)の軍卒(ぐんそつ)を押(お)し分(わ)けて登(のぼ)り来(く)る大(だい)の男(をとこ)、276忽(たちま)ちレーブの前(まへ)に現(あら)はれ、
277若芽の春造『何者(なにもの)ならばわが行軍(かうぐん)を妨害(ばうがい)致(いた)すか。278吾(われ)こそはランチ将軍(しやうぐん)の懐刀(ふところがたな)と聞(きこ)えたる若芽(わかめ)の春造(はるざう)だ』
279と云(い)ひながらレーブの素首(そつくび)引掴(ひつつか)み、280谷川(たにがは)目(め)がけてドスンとばかり投(な)げ込(こ)んで了(しま)つた。281此(この)態(てい)を窺(うかが)ひ見(み)たる黄金姫(わうごんひめ)、282清照姫(きよてるひめ)は、
283黄金姫、清照姫『今(いま)は最早(もはや)是(これ)までなり、284天則(てんそく)違反(ゐはん)かは知(し)らね共(ども)、285何(なん)とかして敵(てき)を追(お)ひちらし、286只(ただ)一人(ひとり)も此(この)峠(たうげ)を越(こ)えさせじ』
287と腕(うで)に撚(より)をかけ金剛杖(こんがうづゑ)を前後(ぜんご)左右(さいう)に打振(うちふ)り打振(うちふ)り、288単縦陣(たんじうぢん)を張(は)つて登(のぼ)り来(く)る敵(てき)に向(むか)つて打込(うちこ)めば、289素破(すは)一大事(いちだいじ)とランチ将軍(しやうぐん)は弓(ゆみ)に矢(や)をつがえ、290二人(ふたり)を目(め)がけて発矢(はつし)と射(い)かけた。291続(つづ)いて数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)は弓(ゆみ)を背(せ)より下(おろ)し雨(あめ)の如(ごと)く二人(ふたり)に向(むか)つて射(い)かける。292其(その)間(あひだ)を杖(つゑ)を以(もつ)て避(よ)けながら獅子(しし)奮迅(ふんじん)の勢(いきほひ)を以(もつ)て前後(ぜんご)左右(さいう)に母娘(おやこ)が荒(あ)れまはる。293二人(ふたり)は遂(つひ)に坂道(さかみち)より足(あし)踏(ふ)み外(はづ)し、294谷底(たにそこ)にヅデンドウと母娘(おやこ)一(いち)時(じ)に転落(てんらく)した。295流石(さすが)の黄金姫(わうごんひめ)、296清照姫(きよてるひめ)は武術(ぶじゆつ)の心得(こころえ)あれば少(すこ)しも体(からだ)に負傷(ふしやう)をなさず、297谷底(たにそこ)の真砂(まさご)の上(うへ)にヒラリと体(たい)を下(おろ)し敵軍(てきぐん)来(きた)れと手(て)に唾(つばき)して待(ま)つてゐる。298ランチ将軍(しやうぐん)は母娘(おやこ)両人(りやうにん)を逃(にが)すなと下知(げち)すれば、299数多(あまた)の軍卒(ぐんそつ)は都合(つがふ)よき谷川(たにがは)の下(お)り口(ぐち)を探(さが)し求(もと)めて、300雲霞(うんか)の如(ごと)く二人(ふたり)を取囲(とりかこ)み弓(ゆみ)を頻(しき)りに射(い)かけ出(だ)した。301二人(ふたり)は進退(しんたい)惟(これ)谷(きは)まつて最早(もはや)運命(うんめい)尽(つ)きたりと覚悟(かくご)の臍(ほぞ)をかたむる折(をり)しもあれ、302谷底(たにそこ)よりウーウーと狼(おほかみ)の呻声(うなりごゑ)聞(きこ)ゆると共(とも)に、303幾百(いくひやく)とも知(し)れぬ狼軍(らうぐん)はランチ将軍(しやうぐん)に向(むか)つて牙(きば)を剥(む)き目(め)を瞋(いか)らして暴(あば)れ入(い)る。304其(その)勢(いきほひ)に辟易(へきえき)し、305ランチ将軍(しやうぐん)を始(はじ)め一同(いちどう)は玉山峠(たまやまたうげ)を雪崩(なだれ)の如(ごと)くバラバラバツと逃(に)げて行(ゆ)く。
306 黄金姫(わうごんひめ)、307清照姫(きよてるひめ)は前後(ぜんご)に心(こころ)を配(くば)りながら、308数十(すうじふ)の狼(おほかみ)に送(おく)られて玉山峠(たまやまたうげ)を宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら悠々(いういう)として下(くだ)り行(ゆ)く。309谷口(たにぐち)に到(いた)り見(み)れば、310ランチ将軍(しやうぐん)の部下(ぶか)は如何(いかが)なりしか、311影(かげ)だにも見(み)えずなつて居(ゐ)た。312これは玉山峠(たまやまたうげ)を登(のぼ)れば余程(よほど)の近道(ちかみち)なれども、313危険(きけん)を恐(おそ)れて道(みち)を東(ひがし)に向(むか)ひて進軍(しんぐん)したものと見(み)える。314黄金姫(わうごんひめ)、315清照姫(きよてるひめ)は無人(むじん)の野(の)を行(ゆ)く心地(ここち)して悠々(いういう)と進(すす)み行(ゆ)くのであつた。
316(大正一一・一一・二 旧九・一四 北村隆光録)
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