霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 雁使(かりのつかひ)〔一〇九三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻 篇:第2篇 寒梅照国 よみ(新仮名遣い):かんばいしょうこく
章:第9章 雁使 よみ(新仮名遣い):かりのつかい 通し章番号:1093
口述日:1922(大正11)年11月02日(旧09月14日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
清春山の岩窟に留守をあずかるバラモン教徒たちは、照国別たちが出立した後も酒宴にふけっていた。ポーロは酔った勢いで管を巻き、菖蒲の両親を取り返されてやけになり、部下たちに絡んでいる。
エルマとキリクの両人は、酔いに夢を誠と取り違え、長刀を抜いて暴れだし、中は大騒ぎになってしまった。そこへケーリスとタークスがやってきて一喝した。三五教に帰依して言霊の力が備わったケーリスの声に、一同は身体強直して倒れてしまった。
タークスは声も涼しく宣伝歌を歌い、自分たちはポーロたちを赦すために照国別から遣わされてきたのだと来意を告げた。
歌い終わるとポーロたちの体は動き、一同は二人の前に手をついてあやまり入った。バラモン教徒たちは、ケーリスとタークスの神徳に打たれて唯々諾々としている。ポーロは照国別からの信書を受け取り、恐る恐る開いた。
そこには、ポーロたちのすべての所業を赦すこと、また三五教に入信する意があるならばケーリスとタークスに付いてイソ館に赴き、共に日の出神らに教えを受けるように、という諭しの言葉が記されていた。
ポーロは感激して照国別の神文を一同に読み聞かせ、皆ケーリスとタークスにしたがってイソ館に参進することになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-02-01 23:23:48 文字数:5004 OBC :rm4009
愛善世界社版:105頁 八幡書店版:第7輯 456頁 修補版: 校定版:110頁 普及版:49頁 初版: ページ備考:
001フサと月(つき)との国境(くにざかひ)
002アフガニスタンの北方(ほつぱう)に
003雲(くも)を圧(あつ)してそそり立(た)つ
004清春山(きよはるやま)はバラモンの
005教(をしへ)に取(と)つて第一(だいいち)の
006要害(えうがい)堅固(けんご)の関所(せきしよ)ぞと
007名(な)も遠近(をちこち)に轟(とどろ)きぬ
008大黒主(おほくろぬし)の命(めい)に依(よ)り
009清春山(きよはるやま)の神柱(かむばしら)
010大足別(おほだるわけ)は軍卒(ぐんそつ)を
011数多(あまた)率(ひき)ゐてカルマタの
012国(くに)の都(みやこ)に蟠(わだか)まる
013ウラルの彦(ひこ)の魂(たま)の末(すゑ)
014常暗彦(とこやみひこ)の集団(しふだん)を
015只(ただ)一戦(いつせん)に相屠(あひほふ)り
016バラモン教(けう)の安泰(あんたい)を
017守(まも)らむ為(ため)に出(い)でゆきし
018後(あと)は藻(も)ぬけの殻(から)となり
019難攻(なんこう)不落(ふらく)の絶所(ぜつしよ)をば
020力(ちから)となしてポーロをば
021臨時(りんじ)岩窟(いはや)の司(つかさ)とし
022出(い)でゆきし後(あと)の岩窟(がんくつ)は
023制度(せいど)も秩序(ちつじよ)も紊(みだ)れはて
024夜(よ)を日(ひ)に次(つ)いで十数(じふすう)の
025番卒(ばんそつ)共(ども)は腸(はらわた)を
026腐(くさ)らす牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)
027盛(さか)んに行(おこな)ひ居(ゐ)たりしが
028三五教(あななひけう)の神司(かむつかさ)
029照国別(てるくにわけ)の一行(いつかう)に
030言霊線(ことたません)を放射(はうしや)され
031右往(うわう)左往(さわう)に逃(に)げ惑(まど)ふ
032其(その)惨状(さんじやう)を見(み)のがして
033先(さき)を急(いそ)ぎし宣伝使(せんでんし)
034両親(りやうしん)妹(いもと)を守(まも)りつつ
035帰(かへ)りし後(あと)は又(また)元(もと)の
036牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)の会(くわい)となり
037飲(の)めよ騒(さわ)げよ歌(うた)へよ舞(ま)へよ
038一寸先(いつすんさき)は暗(やみ)の夜(よ)ぢや
039暗(やみ)の後(あと)には月(つき)が出(で)る
040月(つき)は月(つき)ぢやが運(うん)の尽(つき)
041キヨロつき、マゴつき、ウソつきの
042バラモン教(けう)の神柱(かむばしら)
043戦(いくさ)に勝(か)たうが負(ま)けようが
044国家(こくか)の興亡(こうばう)は吾々(われわれ)の
045敢(あへ)て関(くわん)するとこでない
046朝(あさ)から晩(ばん)まで酒(さけ)を呑(の)み
047甘(うま)い物(もの)食(く)て楽々(らくらく)と
048暮(くら)して其(その)日(ひ)を送(おく)るのが
049文明(ぶんめい)人種(じんしゆ)の行方(やりかた)と
050ウラル教(けう)もどきに悪化(あくくわ)して
051ポーロ、レールを初(はじ)めとし
052ハール、エルマやシヤム、キルク
053其(その)外(ほか)残(のこ)りの信徒(まめひと)は
054飲(の)まな損(そん)ぢやと争(あらそ)うて
055ヘベレケ腰(ごし)になりながら
056岩窟(いはや)の中(なか)を這(は)ひまわり
057大蛇(をろち)の正体(しやうたい)現(あら)はして
058騒(さわ)ぎ狂(くる)ふぞ可笑(をか)しけれ。
059 ポーロはもつれ舌(じた)を無理(むり)に動(うご)かせながら、
060ポーロ『オイ、061レール、062とうとう爺(ぢぢ)イと婆(ばば)アを取返(とりかへ)され、063折角(せつかく)陥穽(おとしあな)へ落(おと)した三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)一行(いつかう)も亦(また)、064ヤツコスの裏返(うらがへ)りに依(よ)つて、065サツパリ掠奪(りやくだつ)され、066最早(もはや)俺(おれ)達(たち)の使命(しめい)はこれで尽(つ)きたと言(い)ふものだ。067こんな淋(さび)しい岩窟(いはや)に頑張(ぐわんば)つて居(を)つたのも、068あの夫婦(ふうふ)を押込(おしこ)め、069彼奴(あいつ)の口(くち)から菖蒲(あやめ)を口説(くど)き落(おと)させ、070大足別(おほだるわけ)さまの女房(にようばう)にする為(ため)に勤(つと)めてゐたのだが、071モウ斯(か)うなつちやア仕方(しかた)がない。072本館(ほんやかた)へ立帰(たちかへ)らうぢやないか。073大足別(おほだるわけ)さまは不在(ふざい)でも、074小足別(こだるわけ)の神司(かむつかさ)がまだ沢山(たくさん)の部下(ぶか)を伴(つ)れて守(まも)つてゐるから、075そこまで一(ひと)つ退却(たいきやく)しようかい。076グヅグヅしてゐるとあの宣伝使(せんでんし)奴(め)がむし返(かへ)しにやつて来(き)よつたら、077それこそ今度(こんど)はポーロもボロクソにやられて了(しま)はねばならぬかも知(し)れない。078さうだから今(いま)の間(うち)にポーロい汁(しる)を吸(す)うて、079後(あと)に未練(みれん)のないやうにしておかうと思(おも)つて、080特別(とくべつ)破格(はかく)を以(もつ)て、081貴様(きさま)たちに勉強(べんきやう)さして牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)を勤(つと)めさしてゐるのだ。082此(この)頃(ごろ)は貴様(きさま)も一向(いつかう)不勉強(ふべんきやう)ぢやないか。083初(はじ)めの間(うち)は僅(わづ)かに十六(じふろく)人(にん)を以(もつ)て四斗(しと)も五斗(ごと)も飲(の)んでくれたが、084何(なん)だ、085此(この)頃(ごろ)は十七八(じふしちはち)人(にん)も寄(よ)つて僅(わづ)かに一斗(いつと)五六升(ごろくしよう)の酒(さけ)にヘベレケになりよつて、086そんな事(こと)で此(この)岩窟(がんくつ)の酒(さけ)が何時(いつ)なくなるか分(わか)つたものぢやないぞ。087レール、088ちつと皆(みな)の奴(やつ)を鞭撻(べんたつ)して、089モ少(すこ)し活動(くわつどう)させたら如何(どう)だい』
090レール『俺(おれ)だつて何時(いつ)もレールから脱線(だつせん)する所(ところ)まで奨励(しやうれい)してるのだから、091モウこの上(うへ)勉強(べんきやう)せいと云(い)つても仕方(しかた)がないワ。092ウラル教(けう)の奴(やつ)でもゐよると、093五六(ごろく)人(にん)新手(あらて)を加(くは)へて、094呑(の)ましてやつたなら、095それはそれは随分(ずゐぶん)はかがゆくのだけれどなア。096酒(さけ)を呑(の)むなら薬鑵(やくわん)で呑(の)めよ、097薬鑵(やくわん)がいやなら壺口(つぼぐち)で呑(の)めよ。098壺口(つぼぐち)がいやなら飛込(とびこ)んで呑(の)めよ、099猩々(しやうじやう)の奴(やつ)めが胆(きも)つぶし、100呆(あき)れ返(かへ)つて逃(に)げるよに呑(の)めよ、101呑(の)めよ呑(の)めよドツサリ呑(の)めよ、102呑(の)めば呑(の)む程(ほど)身(み)の徳利(とくり)だ。103デカタンシヨウ デカタンシヨウ……とやつたら、104随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)からうがな。105アーン』
106ポーロ『オイ、107シヤム、108貴様(きさま)は此(この)頃(ごろ)は一向(いつかう)酒(さけ)に勉強(べんきやう)をせぬぢやないか。109何(なん)だか口汚(くちぎた)ないシヤムシヤムと飯(めし)ばかり食(くら)ひやがつて、110そんなことで牛飲党(ぎういんたう)の幹部(かんぶ)になれるか。111グヅグヅしてゐると酒(さけ)のなくならぬ間(うち)に三五教(あななひけう)がやつてくるかも知(し)れぬぞ。112さうなつたら俺(おれ)達(たち)は三五教(あななひけう)ぢやないが、113無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)だから、114甘(うま)い酒(さけ)が残(のこ)つてると、115後(あと)に執着心(しふちやくしん)が残(のこ)つて潔(いさぎよ)う逃(に)げられぬからなア。116敵(てき)に酒(さけ)を呑(の)ますも余(あま)り気(き)が利(き)かぬぢやないか』
117シヤム『ナアニ、118三五教(あななひけう)だつてヤツパリ人間(にんげん)だ。119彼奴(あいつ)が呑(の)んでもヤツパリ甘(うま)い酒(さけ)は甘(うま)いのだ。120ウラル教(けう)の奴(やつ)に手伝(てつだ)はすより、121余程(よほど)ハカが行(ゆ)くかも知(し)れぬぞ。122何(なん)ぼ呑(の)んでも三五教(あななひけう)だから、123腹(はら)にたまる気遣(きづかひ)もなし、124俺(おれ)達(たち)のやうに、125直(ぢき)にづぶ六(ろく)メンタルになる虞(おそれ)はなからうぞ。126なあ、127ハール、128三五教(あななひけう)がやつて来(き)たら………これはこれはようこそ御(ご)入来(じゆらい)下(くだ)さいました。129何分(なにぶん)悪(あく)の御(おん)大将(たいしやう)が不在(ふざい)で厶(ござ)いますから、130結構(けつこう)な毒酒(どくしゆ)をあげる訳(わけ)にもゆかず、131とつときのよい酒(さけ)で済(す)みませぬが、132一献(いつこん)どうでげせう……とかますのだ。133さうすると、134酒(さけ)見(み)て笑(わら)はぬ奴(やつ)アないから、135何程(なにほど)三五教(あななひけう)だつて、136すぐに相好(さうがう)をくずし、137喉(のど)をグルグル言(い)はして……ヤアこれはこれは思(おも)ひがけなき御(ご)馳走(ちそう)を頂戴(ちやうだい)致(いた)しました……といつて、138目(め)を細(ほそ)うしてグツと一杯(いつぱい)やつたらモウ大丈夫(だいぢやうぶ)だ。139一杯(いつぱい)のんでも甘(うま)い、140二杯(にはい)のんでも亦(また)甘(うま)い、141三杯(さんばい)のんでもまだ甘(うま)い、142四杯(しはい)五杯(ごはい)、143百杯(ひやつぱい)千杯(せんぱい)と、144しまひの果(はて)にや土手(どて)を切(き)らし、145三五教(あななひけう)も何(なに)も忘(わす)れて了(しま)ひ、146キツと牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)会(くわい)の会員(くわいいん)になるにきまつとる。147さうなると、148余(あま)り俺(おれ)達(たち)は酒(さけ)を呑(の)まぬやうにするのだ。149向方(むかふ)が十分(じふぶん)酔(よ)うた潮合(しほあひ)を計(はか)つて、150来(く)る奴(やつ)来(く)る奴(やつ)をあの陥穽(おとしあな)へ埋葬(まいさう)さへすれば、151三五教(あななひけう)の百匹(ひやつぴき)や二百匹(にひやつぴき)来(き)たつて、152さまで驚(おどろ)くには及(およ)ばぬよ。153何(なん)と妙案(めうあん)奇策(きさく)ぢやないか』
154 かく話(はな)す時(とき)しも、155エルマ、156キルクの両人(りやうにん)は今迄(いままで)酔(よ)ひ倒(たふ)れてゐたが、157何(なん)に感(かん)じたかムクムクと起上(おきあが)り、
158エルマ、キルク『コーリヤ、159どいつも此奴(こいつ)も、160計略(けいりやく)を以(もつ)ておれ等(ら)両人(りやうにん)を殺(ころ)そうとしたなア。161俺(おれ)も死物狂(しにものぐる)ひだ』
162と夢(ゆめ)を誠(まこと)と思(おも)ひ僻(ひが)め、163矢庭(やには)に奥(おく)の間(ま)に駆(か)け入(い)り、164両人(りやうにん)は長刀(ちやうたう)をスラリと引抜(ひきぬ)いて、165ポーロ、166レール、167シヤム、168ハール其(その)他(た)十二三(じふにさん)人(にん)の群(むれ)に向(むか)つて、169無性(むしやう)矢鱈(やたら)に切込(きりこ)んだ。170頬(ほほ)の肉(にく)をけづられた奴(やつ)、171鼻(はな)の先(さき)を切(き)られた奴(やつ)、172耳(みみ)を落(おと)された奴(やつ)、173腕(うで)を切(き)られ、174指(ゆび)を飛(と)ばされ、
175『コラコラ何(なに)をする』
176といひながら徳利(とくり)や鉢(はち)や盃(さかづき)や膳(ぜん)を以(もつ)て防(ふせ)ぎ戦(たたか)ふ。177徳利(とつくり)や鉢(はち)の破(わ)れる音(おと)パチパチ ガチヤ ガチヤ、178ウン、179キヤア、180アイタと咆吼(はうかう)怒号(どがう)の声(こゑ)一(いち)時(じ)に起(おこ)り来(きた)り、181岩窟(いはや)の外(そと)迄(まで)聞(きこ)えて来(き)た。182ケーリス、183タークスの両人(りやうにん)は何事(なにごと)の変事(へんじ)突発(とつぱつ)せしやと、184足許(あしもと)に注意(ちうい)しながら奥(おく)深(ふか)く進(すす)み入(い)れば、185岩窟(いはや)の中(なか)は阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)、186修羅(しゆら)の巷(ちまた)と激変(げきへん)してゐる。187ケーリスは矢庭(やには)に雷(らい)の如(ごと)き声(こゑ)を張(は)り上(あ)げ、
188ケーリス『コラツ』
189と一喝(いつかつ)した。190どこともなく其(その)言霊(ことたま)に三五教(あななひけう)の威力(ゐりよく)備(そな)はつてゐたと見(み)え、191エルマ、192キルクは其(その)声(こゑ)と共(とも)に刀(かたな)をバタリと落(おと)して尻餅(しりもち)をつき、193仰向(あふむ)けに倒(たふ)れる。194ポーロ以下(いか)の連中(れんちう)も手(て)に持(も)つた得物(えもの)を悉(ことごと)く其(その)声(こゑ)と共(とも)にパタリと落(おと)し、195同(おな)じく仰向(あふむ)けに、196残(のこ)らず倒(たふ)れて了(しま)つた。197何(いづ)れもケーリスの言霊(ことたま)の威力(ゐりよく)に打(う)たれて身体(しんたい)強直(きやうちよく)し、198首(くび)から上(うへ)のみをクルクルと廻転(くわいてん)させ、199蒼白(まつさを)な顔(かほ)して呻(うめ)いてゐる。
200 タークスは声(こゑ)も涼(すず)しく宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ出(だ)した。
201タークス『大黒主(おほくろぬし)の命(めい)を受(う)け
202イソの館(やかた)へ立向(たちむか)ふ
203鬼春別(おにはるわけ)の将軍(しやうぐん)が
204先鋒隊(せんぽうたい)と仕(つか)へたる
205片彦(かたひこ)さまに従(したが)うて
206ライオン河(がは)を打渡(うちわた)り
207駒(こま)に跨(またが)り堂々(だうだう)と
208クルスの森(もり)に来(きた)る折(をり)
209三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
210照国別(てるくにわけ)の一行(いつかう)に
211思(おも)はぬ所(ところ)で出会(でつくは)し
212互(たがひ)に挑(いど)み戦(たたか)ひつ
213味方(みかた)は脆(もろ)くも敗北(はいぼく)し
214吾(われ)等(ら)二人(ふたり)は言霊(ことたま)に
215打(う)たれて馬(うま)より転落(てんらく)し
216命(いのち)危(あやふ)くなりけるが
217仁慈(じんじ)無限(むげん)の三五(あななひ)の
218神(かみ)に仕(つか)へし神司(かむつかさ)
219照国別(てるくにわけ)は照(てる)、梅(うめ)の
220二人(ふたり)の供(とも)と諸共(もろとも)に
221吾(われ)等(ら)を助(たす)け労(いた)はりて
222尊(たふと)き教(をしへ)を宣(の)り給(たま)ひ
223三五教(あななひけう)の信徒(まめひと)と
224許(ゆる)され給(たま)ひし身(み)の上(うへ)ぞ
225あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
226神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
227吾(われ)等(ら)二人(ふたり)は勇(いさ)み立(た)ち
228栗毛(くりげ)の駒(こま)に跨(またが)りて
229清春山(きよはるやま)の麓(ふもと)まで
230風(かぜ)に髪(かみ)をば梳(くしけづ)り
231進(すす)み来(きた)りし者(もの)なるぞ
232ここに駒(こま)をば乗捨(のりす)てて
233汝(なんぢ)ポーロに会(あ)はむ為(ため)
234照国別(てるくにわけ)の信書(しんしよ)をば
235齎(もたら)し来(きた)る吾(わ)が一行(いつかう)
236岩窟(いはや)の外(そと)にて窺(うかが)へば
237阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)の惨状(さんじやう)は
238手(て)にとる如(ごと)く聞(きこ)えたり
239只事(ただごと)ならじと吾々(われわれ)は
240進(すす)み来(きた)りて眺(なが)むれば
241落花(らくくわ)狼藉(らうぜき)ここかしこ
242血潮(ちしほ)の雨(あめ)は降(ふ)りしきり
243丼鉢(どんぶりばち)は舞(ま)ひ狂(くる)ひ
244徳利(とくり)は宙(ちう)に飛上(とびあ)がり
245さながら戦場(せんぢやう)の如(ごと)くなり
246ポーロ、レールよシヤム、ハール
247エルマやキルク其(その)外(ほか)の
248神(かみ)の司(つかさ)よ、よつく聞(き)け
249人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
250一(ひと)つの神(かみ)の造(つく)らしし
251同胞(はらから)なれば村肝(むらきも)の
252心(こころ)を合(あは)せ睦(むつま)じく
253天地(てんち)の神(かみ)の御使(みつかひ)と
254なりて仕(つか)ふる身(み)なるぞや
255汝(なんぢ)等(ら)一同(いちどう)神柱(かむばしら)
256大足別(おほだるわけ)の出(い)でましし
257不在(るす)を幸(さいは)ひ甘酒(うまざけ)に
258酔(よ)ひくづれつつ此(この)様(さま)は
259神(かみ)の司(つかさ)と任(ま)けられし
260人(ひと)のなすべき事(こと)ならず
261一日(ひとひ)も早(はや)く心(こころ)をば
262改(あらた)め直(なほ)せ惟神(かむながら)
263神(かみ)に誓(ちか)ひてタークスが
264汝(なんぢ)を戒(いまし)め諭(さと)すなり
265あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
266御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ
267一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)つ六(む)つ
268七(なな)八(や)九(ここの)つ十(たり)百(もも)千(ち)
269万(よろづ)の神(かみ)の御恵(みめぐみ)に
270ポーロを始(はじ)め一同(いちどう)の
271心(こころ)の園(その)に花(はな)開(ひら)き
272正(ただ)しき教(をしへ)の御柱(みはしら)と
273救(すく)はせ給(たま)へ惟神(かむながら)
274神(かみ)の御前(みまへ)にねぎまつる』
275と歌(うた)ひ了(をは)るや、276ポーロを始(はじ)めレール其(その)他(た)一同(いちどう)はムクムクと漸(やうや)くにして起上(おきあが)り、277二人(ふたり)の前(まへ)に恐(おそ)る恐(おそ)る手(て)をつかへ、278あやまり入(い)るのであつた。
279 ポーロ、280レールは同(おな)じバラモン教(けう)にて顔(かほ)を見知(みし)つたるケーリス、281タークスの両人(りやうにん)が俄(にはか)に不可思議(ふかしぎ)の神力(しんりき)を身(み)にそなへ、282且(か)つ三五教(あななひけう)式(しき)の宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひたるに胆(きも)を潰(つぶ)し、283其(その)霊徳(れいとく)に打(う)たれて一言(ひとこと)も発(はつ)せず又(また)反抗(はんかう)的(てき)態度(たいど)もとらず、284唯々(ゐゐ)諾々(だくだく)として両人(りやうにん)のなすが儘(まま)に服従(ふくじゆう)せむと、285期(き)せずして互(たがひ)の心(こころ)は一致(いつち)してゐた。
286ケーリス『コレ、287ポーロさま、288大将(たいしやう)の不在中(ふざいちゆう)だと思(おも)つて、289随分(ずゐぶん)活躍(くわつやく)したものですな、290少(すこ)しタガがゆるんでゐるやうですよ。291かかる忠臣(ちうしん)に留守(るす)を守(まも)らせておけば、292大足別(おほだるわけ)様(さま)も御(ご)安心(あんしん)でせう、293アハヽヽヽ』
294タークス『きまつた事(こと)よ。295鬼(おに)の居(ゐ)ぬ間(ま)に心(こころ)の洗濯(せんたく)を遊(あそ)ばしたのだ。296誰(たれ)だつて今(いま)の人間(にんげん)は面従(めんじう)腹背(ふくはい)とかいつて、297本人(ほんにん)の前(まへ)ではペコペコと頭(あたま)を下(さ)げ………お前(まへ)さまのことなら命(いのち)でも差上(さしあ)げますと、298二(ふた)つ目(め)には巧妙(かうめう)な辞令(じれい)を使(つか)つてゐるが、299其(その)前(まへ)を離(はな)れると、300すぐに打(う)つて変(かは)つて悪口(あくこう)を言(い)つたり反対(はんたい)的(てき)の行動(かうどう)を執(と)るものだ。301それが所謂(いはゆる)現代(げんだい)思潮(してう)だ。302いはば時勢(じせい)に忠実(ちうじつ)な行方(やりかた)と言(い)はば云(い)へぬことはない。303何事(なにごと)も神直日(かむなほひ)、304大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、305善意(ぜんい)に此(この)場(ば)は解釈(かいしやく)しておく方(はう)が穏(おだや)かであらうよ。306俺(おれ)だつて、307昨日(きのふ)までならキツトさうだ。308ポーロさまに決(けつ)して負(ま)けるものぢやない。309吾々(われわれ)だつて片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)に何(なん)といつた………仮令(たとへ)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)幾万騎(いくまんき)押寄(おしよ)せ来(きた)るとも、310命(いのち)の限(かぎ)り奮闘(ふんとう)を続(つづ)け、311不幸(ふかう)にして命(いのち)がなくなれば、312七度(ななたび)生(うま)れ変(かは)つて、313バラモン教(けう)の為(ため)に三五教(あななひけう)の司(つかさ)を殲滅(せんめつ)致(いた)さねばおきませぬ………と誓(ちか)つた間(ま)もなく直(すぐ)に此(この)通(とほ)り三五教(あななひけう)へ帰順(きじゆん)して了(しま)つたのだから、314人間(にんげん)のやる事(こと)は如何(どう)しても矛盾(むじゆん)は免(まぬ)がれない。315オイポーロさま、316実(じつ)は俺(おれ)達(たち)は最早(もはや)三五教(あななひけう)の信徒(しんと)だ。317これからイソの館(やかた)へ修行(しうぎやう)に参(まゐ)る所(ところ)だ。318其(その)途中(とちう)に於(おい)て三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)………つまり俺(おれ)達(たち)の親分(おやぶん)、319照国別(てるくにわけの)命(みこと)から信書(しんしよ)をことづかつて来(き)たから、320何(なに)が書(か)いてあるか知(し)らぬが、321よく検(あらた)めて読(よ)んでくれ』
322 ポーロは照国別(てるくにわけ)と聞(き)いて、323胸(むね)をビクつかせながら信書(しんしよ)を受取(うけと)り、324封(ふう)おし切(き)つてソロソロと読(よ)み下(くだ)した。325信書(しんしよ)を持(も)つ手(て)は頻(しき)りに慄(ふる)へてゐる。326其(その)文面(ぶんめん)は左(さ)の通(とほ)りである。
327『一、328三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)照国別(てるくにわけ)より清春山(きよはるやま)の岩窟(がんくつ)の留守職(るすしよく)ポーロに一書(いつしよ)を送(おく)る。329吾(わが)両親(りやうしん)は、330永(なが)らく汝(なんぢ)の手厚(てあつ)きお世話(せわ)になり、331安楽(あんらく)に月日(つきひ)を送(おく)り、332あらゆる世(よ)の艱難(かんなん)を嘗(な)めた為(ため)、333漸(やうや)くにして尊(たふと)き神(かみ)の恩恵(おんけい)を悟(さと)り、334又(また)吾(わが)妹(いもうと)も同(おな)じく神徳(しんとく)の広大(くわうだい)無辺(むへん)なるを悟(さと)り、335正(ただ)しき三五(あななひ)の信徒(しんと)となりしも、336要(えう)するに汝(なんぢ)等(ら)が迫害(はくがい)的(てき)同情(どうじやう)の賜物(たまもの)たることを深(ふか)く信(しん)じ深(ふか)く感謝(かんしや)する。337又(また)岩彦(いはひこ)の宣伝使(せんでんし)はヤツコスと名(な)を変(へん)じ、338汝(なんぢ)が岩窟(いはや)の館(やかた)に忍(しの)び込(こ)み、339種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)のバラモン教(けう)の教理(けうり)を探(さぐ)り得(え)たるは、340向後(かうご)に於(お)ける彼(かれ)が活動(くわつどう)上(じやう)、341最(もつと)も便宜(べんぎ)を得(え)たるものと確信(かくしん)し、342これ又(また)謹(つつし)んで感謝(かんしや)する次第(しだい)である。
343 次(つぎ)に吾々(われわれ)始(はじ)め一行(いつかう)の者(もの)、344暗黒(あんこく)なる陥穽(おとしあな)に放(はふ)りこまれ、345否(いな)陥落(かんらく)したるより、346不注意(ふちうい)の最(もつと)も恐(おそ)るべきを悟(さと)りたるは、347今後(こんご)の吾々(われわれ)が活動(くわつどう)上(じやう)に於(お)ける良(よ)き戒(いまし)めにして、348全(まつた)く汝(なんぢ)等(ら)の恩恵(おんけい)に依(よ)るものと、349これ又(また)謹(つつし)んで感謝(かんしや)する。350人(ひと)は凡(すべ)て尊(たふと)き造物主(ざうぶつしゆ)の分霊(ぶんれい)分体(ぶんたい)なれば、351狭隘(けふあい)なる教(をしへ)の名(な)を設(まう)けて、352互(たがひ)に信仰(しんかう)を争(あらそ)ひ、353主義(しゆぎ)を戦(たたか)はすは、354大慈(だいじ)大悲(だいひ)の元(もと)つ御祖(みおや)の神(かみ)に対(たい)し、355不孝(ふかう)の罪(つみ)、356これより大(だい)なるはなかるべし。
357 ケーリス、358タークスの両人(りやうにん)は直(ただ)ちに三五(あななひ)の教理(けうり)を悟(さと)り、359速(すみや)かに入信(にふしん)したれば、360今(いま)よりウブスナ山(やま)のイソ館(やかた)に遣(つか)はし、361天晴(あつぱ)れ誠(まこと)の神柱(かむばしら)となさむ為(ため)に差遣(さしつか)はす途中(とちう)、362此(この)手紙(てがみ)を汝(なんぢ)に謹(つつし)んで呈(てい)する。363万一(まんいち)汝(なんぢ)等(ら)にして照国別(てるくにわけ)の言(げん)を肯定(こうてい)するならば、364此(この)二人(ふたり)と共(とも)にイソの館(やかた)に参(まゐ)り、365日(ひ)の出別(でわけ)の神(かみ)始(はじ)め其(その)他(た)の神司(かむづかさ)より教(をしへ)を受(う)けられよ。366恐惶(きようくわう)頓首(とんしゆ)』
367と記(しる)してあつた。368ポーロは涙(なみだ)を流(なが)して感歎(かんたん)し、369再(ふたた)び此(この)神文(しんもん)を読(よ)み上(あ)げ、370一同(いちどう)に聞(き)かせた。371レール、372シヤム其(その)他(た)一同(いちどう)は異口(いく)同音(どうおん)に照国別(てるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)を称讃(しようさん)し、373且(かつ)三五教(あななひけう)の教理(けうり)の十方(じつぱう)無礙(むげ)、374光明(くわうみやう)赫灼(かくしやく)たるに打驚(うちおどろ)き、375心(こころ)を改(あらた)め、376二人(ふたり)に従(したが)つてイソ館(やかた)へ参進(さんしん)することとなつた。377あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
378(大正一一・一一・二 旧九・一四 松村真澄録)
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