霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 入那(いるな)の森(もり)〔一一〇四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻 篇:第4篇 関風沼月 よみ(新仮名遣い):かんぷうしょうげつ
章:第20章 入那の森 よみ(新仮名遣い):いるなのもり 通し章番号:1104
口述日:1922(大正11)年11月05日(旧09月17日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月25日
概要: 舞台:イルナの森(入那の森) あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
黄金姫、清照姫、レーブ、カルの一行は西へを進んで行き、相当広い川辺に着いた。傍らの森には古ぼけた相当に大きな祠が建っている。一行は祝詞を奏上し、この祠で休んだ。カルとレーブは祠の床下に入り、あたりを警戒しながらウトウトと眠ってしまった。
そこへアルマ、ハム、テクの三人が黄金姫母娘を召し捕りにやってきて祠を取り巻いている。カルとレーブは目をさまし、三人の話を聞いている。
アルマが祠の階段を上って中に入ろうとすると、レーブは床下から石でもって床をガンガンをたたいた。三人は驚いて階段から落ちてしまった。
三人はひっくり返ったはずみに、口論を始めた。そのうちにカルとレーブ両人は石で床下を叩いたので、三人の捕り手は驚いて腰を抜かしてしまった。
レーブとカルは床下から階段上に現れて宣伝歌を歌った。バラモン教の捕り手三人は体が動かず、両手を合わせて命乞いをしている。黄金姫母娘は目を覚まして祠から出てきた。黄金姫は、三人の鎮魂をカルとレーブに命じた。
レーブは捕り手たちを悪者と懲らそうとしたが、黄金姫に叱責された。黄金姫が赦すと宣言すると、三人の腰は立ち、逃げるように森から逃げ出した。黄金姫一行は夜が明けるのを待ってイルナの国の都を目指した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-05 12:58:57 文字数:6388 OBC :rm4020
愛善世界社版:263頁 八幡書店版:第7輯 514頁 修補版: 校定版:272頁 普及版:121頁 初版: ページ備考:
001 黄金姫(わうごんひめ)は照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)と葵沼(あふひぬま)の畔(ほとり)で東西(とうざい)に別(わか)れ、002西(にし)へ西(にし)へと進(すす)み行(ゆ)く。003日(ひ)も漸(やうや)く黄昏(たそが)れて、004百鳥(ももどり)は塒(ねぐら)を求(もと)め、005彼方(あなた)此方(こなた)の森(もり)に帰(かへ)り行(ゆ)く、006其(その)羽音(はおと)の騒(さわ)がしさ。007一行(いつかう)四(よ)人(にん)はハタとつき当(あた)つた相当(さうたう)広(ひろ)い川辺(かはべ)に着(つ)いた。008比較(ひかく)的(てき)水(みづ)が少(すくな)くて徒渉(とせふ)するにも余(あま)り困難(こんなん)を感(かん)じない様(やう)に見(み)えて居(ゐ)る。009一行(いつかう)は薄暗(うすくら)がりに裾(すそ)をからげて流(なが)れを渡(わた)り、010二三丁(にさんちやう)西(にし)に当(あた)るコンモリとした森蔭(もりかげ)を目当(めあて)に辿(たど)り着(つ)いた。011後(のち)の夜(よ)の月(つき)はまだ姿(すがた)を現(あら)はさぬ宵暗(よひやみ)である。012森(もり)の中(なか)には古(ふる)ぼけた相当(さうたう)に大(おほ)きい祠(ほこら)が建(た)つてゐた。
013黄金(わうごん)『秋(あき)の日(ひ)は暮(く)れ易(やす)く、014余(あま)り足(あし)も草臥(くたび)れない内(うち)に又(また)休(やす)まねばならぬ様(やう)になりました。015幸(さいは)ひ此(この)森(もり)の祠(ほこら)の中(なか)で一休(ひとやす)み致(いた)しませう』
016清照(きよてる)『お母(かあ)アさま、017今晩(こんばん)は斯様(かやう)な所(ところ)で休(やす)まずに、018やがて月(つき)も出(で)ますから、019それまでここで月待(つきまち)をして進(すす)むことにしませう。020夜半(よなか)頃(ごろ)迄(まで)歩(ある)けば、021余程(よほど)里程(みちのり)がはかどりませうから………』
022黄金(わうごん)『長(なが)い道中(だうちう)のことだから、023夜(よ)が明(あ)けたら歩(ある)き、024何程(なにほど)楽(らく)でも日(ひ)が暮(く)れたら泊(とま)つてゆくことにしませう』
025清照(きよてる)『それでも何(なん)だか気(き)がせいてなりませぬ。026ハルナの都(みやこ)にましますお父(とう)さまの身(み)の上(うへ)に何(なに)か変事(へんじ)でも起(おこ)つてゐるやうに思(おも)はれて、027気(き)が気(き)でなりませぬ』
028黄金(わうごん)『何程(なにほど)焦(あせ)つた所(ところ)で遠(とほ)い里程(みちのり)、029何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)にお任(まか)せして、030ボツボツ行(ゆ)きませう。031草臥(くたび)れて道(みち)で倒(たふ)れるやうな事(こと)があつては、032悪神(あくがみ)の跋扈(ばつこ)する世(よ)の中(なか)、033困(こま)りますから』
034レーブ『お二人(ふたり)さま、035ここで今晩(こんばん)は御(ご)一宿(いつしゆく)なさつたらどうです。036吾々(われわれ)両人(りやうにん)は互(たがひ)に交代(かうたい)で不寝番(ねずばん)を致(いた)しますから………』
037黄金(わうごん)『それなら何神(なにがみ)様(さま)の祠(ほこら)か知(し)らぬが先(ま)づ天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、038此(この)お宮(みや)を拝借(はいしやく)することに致(いた)しませう。039清照姫(きよてるひめ)………さうが善(い)いぢやないか』
040清照(きよてる)『お父(とう)さまの身(み)の上(うへ)の事(こと)は、041ここでトツクリ神(かみ)様(さま)に御(お)願(ねが)ひ致(いた)しまして、042寝(やす)むことに致(いた)しませう』
043 黄金姫(わうごんひめ)は軽(かる)くうなづきながら、044型(かた)の如(ごと)く祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、045祠(ほこら)の中(なか)に進(すす)み入(い)り、046蓑(みの)を布(し)いて母娘(おやこ)枕(まくら)を並(なら)べ寝(しん)に就(つ)いた。047レーブ、048カルの両人(りやうにん)は祠(ほこら)の床下(ゆかした)に横(よこた)はりつつあつたが、049何時(いつ)の間(ま)にか、050ウトウトと眠(ねむ)つて了(しま)つた。
051 ここへスタスタとやつて来(き)た二三(にさん)人(にん)の男(をとこ)がある、052足音(あしおと)を忍(しの)ばせながら祠(ほこら)の前(まへ)に立寄(たちよ)り、
053アルマ『オイ、054テク、055何(なん)でもここらあたりの祠(ほこら)の中(なか)らしいぞ』
056テク『オイ、057アルマ、058こんな所(とこ)に何(なに)が居(を)るものかい』
059アルマ『それでも何(なん)だか妙(めう)な響(ひびき)が聞(きこ)えて来(く)るぢやないか、060メツタに鼠(ねずみ)の鼾(いびき)ぢやあるまいぞ。061イルナの刹帝利(せつていり)さまから聞(き)いたには、062キツと黄金姫(わうごんひめ)の一行(いつかう)は此処(ここ)を通(とほ)るに違(ちが)ひないと仰有(おつしや)つた。063マアマア黙(だま)つて様子(やうす)を考(かんが)へたら如何(どう)だ。064彼奴(あいつ)さへ捉(つか)まへたなら、065結構(けつこう)な御(ご)褒美(ほうび)が頂(いただ)けるのだからなア。066小(ちひ)さい国(くに)の一(ひと)つも貰(もら)つてハムとなつて威張(ゐば)らうと儘(まま)だよ』
067テク『併(しか)し乍(なが)ら黄金姫(わうごんひめ)といふ奴(やつ)は中々(なかなか)の豪傑(がうけつ)で、068俺(おれ)達(たち)の手(て)には合(あ)はないぞ。069只(ただ)所在(ありか)さへ分(わか)れば黙(だま)つて報告(はうこく)し、070強(つよ)い奴(やつ)に掴(つか)まへさせばいいのだ。071それが余程(よほど)利口(りこう)な行方(やりかた)ぢやからなア、072おい、073テム、074貴様(きさま)はどつちにするか』
075テム『俺(おれ)はどつちかといへば中立(ちうりつ)だ。076併(しか)し乍(なが)ら同(おな)じことなら生擒(いけどり)にしたいものだ。077オイオイどうやら本真物(ほんまもの)の人間(にんげん)の鼾(いびき)がして来(き)だしたぞ』
078 レーブ、079カルの両人(りやうにん)は床下(ゆかした)から三(さん)人(にん)の話(はなし)を息(いき)をこらして聞(き)いてゐた。080三(さん)人(にん)は床下(ゆかした)に二人(ふたり)がひそんでゐるとは夢(ゆめ)にも知(し)らず、081ドシドシと階段(かいだん)を登(のぼ)り、
082アルマ『ヤア此(この)縁側(えんがは)は数百(すうひやく)年来(ねんらい)の風雨(ふうう)の侵害(しんがい)に依(よ)つて、083余程(よほど)老朽(らうきう)してると見(み)えるワイ。084気(き)をつけぬと底(そこ)がぬけて、085脛(すね)でもかすつたら、086又(また)此(この)間(あひだ)の様(やう)に吠面(ほえづら)かわいて、087負(お)うてくれの何(なん)のとダダをこねねばならぬやうになるぞ。088気(き)をつけたり 気(き)をつけたり』
089 レーブは床下(ゆかした)から、090そこらの石(いし)を拾(ひろ)つて、091古板(ふるいた)を下(した)からガンガンと力(ちから)をこめてなぐり立(た)てた。092三(さん)人(にん)は此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)き、093飛上(とびあ)がつた途端(とたん)に、094階段(かいだん)から真逆(まつさか)様(さま)に祠(ほこら)の前(まへ)に転落(てんらく)し、
095三人『アイタヽヽ、096ウンウン』
097と唸(うな)り出(だ)した。
098テク『オイ、099貴様(きさま)等(ら)チトしつかりせぬか。100あれ位(くらゐ)な声(こゑ)にビツクリしやがつて、101挙措(きよそ)其(その)度(ど)を失(しつ)し、102こんな所(ところ)からヒツクリ返(かへ)るといふことがあるものか。103そんな臆病(おくびやう)なことで如何(どう)して吾々(われわれ)の御用(ごよう)が勤(つと)まると思(おも)ふか』
104アルマ『テク、105お前(まへ)もヤツパリ落(お)ちたぢやないか。106人(ひと)を責(せ)むること急(きふ)にして、107己(おのれ)の失敗(しつぱい)は口角(こうかく)につかねて知(し)らぬ顔(かほ)の半兵衛(はんべゑ)とはチツと虫(むし)がよすぎるぢやないか』
108テク『貴様(きさま)等(ら)二人(ふたり)が転(ころ)げやがつたものだから、109俺(おれ)も一緒(いつしよ)について落(おと)されたのだ。110いはば俺(おれ)は被害者(ひがいしや)だ。111貴様(きさま)等(ら)両人(りやうにん)は証拠(しようこ)充分(じうぶん)なる加害者(かがいしや)だから、112刹帝利(せつていり)様(さま)に報告(はうこく)して相当(さうたう)の処分(しよぶん)をやつて貰(もら)ふから、113さう思(おも)へ』
114アルマ『アハヽヽヽ旃陀羅(せんだら)成上(なりあ)がり奴(め)、115エラさうに吐(ぬか)すない。116俺(おれ)はかう見(み)えても、117チヤキチヤキの首陀(しゆだ)の家柄(いへがら)だ。118貴様(きさま)等(ら)とは人種(じんしゆ)が違(ちが)ふのだからなア』
119テク『コリヤ俺(おれ)が旃陀羅(せんだら)なんて、120無礼(ぶれい)なことを言(い)ふな、121勿体(もつたい)なくもバラモン族(ぞく)だぞ』
122アルマ『バラモンが聞(き)いて呆(あき)れるワイ、123のうテム、124此奴(こいつ)は今日(けふ)も道(みち)の真中(まんなか)で旃陀羅(せんだら)に会(あ)ひやがつて、125心安(こころやす)さうに何(なん)だか囁(ささや)いてゐたぢやないか。126彼奴(あいつ)に近(ちか)よつて物(もの)をいふ奴(やつ)は矢張(やつぱり)其(その)系統(けいとう)でなければ、127汚(けが)らはしくて寄(よ)り付(つ)く者(もの)はないからのう』
128テク『コリヤ両人(りやうにん)、129上官(じやうくわん)に対(たい)して何(なん)といふ無礼(ぶれい)なこと申(まを)す。130吾々(われわれ)捕手(とりて)の役人(やくにん)は旃陀羅(せんだら)であらうが首陀(しゆだ)であらうが、131一々(いちいち)出会(であ)ふ奴(やつ)の面(つら)を検(あらた)めねばならず、132物(もの)も言(い)はして見(み)ねば人間(にんげん)の程度(ていど)が分(わか)らないから、133仕方(しかた)なしに職務(しよくむ)を重(おも)んじて物(もの)を言(い)つたのだ。134そんな冷淡(れいたん)なことで此(この)役目(やくめ)が勤(つと)まるか、135万々一(まんまんいち)蜈蚣姫(むかでひめ)が此(この)捜索(そうさく)の厳(きび)しいのを悟(さと)つて、136人(ひと)のいやがる旃陀羅(せんだら)に化(ば)けて通(とほ)るかも知(し)れない。137さうだから、138此(この)方(はう)が職務(しよくむ)忠実(ちうじつ)に勤(つと)めてゐたのだ。139馬鹿(ばか)野郎(やらう)だなア。140左様(さやう)な不心得(ふこころえ)な奴(やつ)は只今(ただいま)限(かぎ)り暇(ひま)をくれてやるから、141さう思(おも)へ』
142テム『オイ大将(たいしやう)、143口(くち)ばかりエラさうに言(い)つてるが、144お前(まへ)の腰(こし)は立(た)つのかい』
145テク『貴様(きさま)の知(し)つてゐる通(とほ)り、146腰(こし)が立(た)ちやこそ此処(ここ)までやつて来(き)たのぢやないかい。147訳(わけ)の分(わか)らぬことを吐(ぬか)すものぢやないワイ。148サア只今(ただいま)限(かぎ)り暇(ひま)をくれる、149どつこへなりと、150天下(てんか)に放(はな)ち飼(が)ひだ。151うせたがよからうぞ』
152アルマ『どこへ行(ゆ)けと云(い)つても、153俺(おれ)達(たち)は両人(りやうにん)共(とも)ビツクリ腰(ごし)が抜(ぬ)けたのだから、154暫(しばら)く免職(めんしよく)丈(だけ)は保留(ほりう)してゐて呉(く)れ。155同(おな)じ免職(めんしよく)なれば、156依願(いぐわん)免職(めんしよく)といふ形式(けいしき)でやつて貰(もら)はねば、157今後(こんご)の就職口(しうしよくぐち)に付(つ)いて迷惑(めいわく)だから、158貴様(きさま)を旃陀羅(せんだら)と云(い)つた位(くらゐ)で、159此(この)結構(けつこう)……でもない職(しよく)を免(めん)ぜられて堪(たま)るものかい。160のうテム公(こう)』
161テク『武士(ぶし)の言葉(ことば)に二言(にごん)はないぞ。162いひ出(だ)したら後(あと)へは引(ひ)かぬテクさまの気性(きしやう)を知(し)つてゐるだらう』
163アルマ『ヘン、164テクテクと何(なん)だテクせの悪(わる)い、165泥棒(どろばう)上(あが)り奴(め)が、166モウ斯(か)うなつては、167破(やぶ)れかぶれだ。168オイ、169テム公(こう)、170貴様(きさま)はテム公(こう)だから、171テクの奴(やつ)がかぶりついて来(き)たら、172手向(てむか)ふ役(やく)となつて格闘(かくとう)するのだ。173万々一(まんまんいち)形勢(けいせい)危(あやふ)しと見(み)たら、174俺(おれ)が助太刀(すけだち)をする、175併(しか)しモウ少(すこ)し経(た)たぬと駄目(だめ)だ。176まだ抜(ぬ)けた腰(こし)が元(もと)の鞘(さや)へ、177少(すこ)しばかり納(をさ)まつてゐないからのう。178併(しか)しテクの奴(やつ)もきつく腰(こし)を打(う)ちやがつたに違(ちがひ)ない、179あの声(こゑ)の色(いろ)を見(み)い、180大分(だいぶ)に痛(いた)さうだぞ。181大体(だいたい)旃陀羅(せんだら)がこんな尊(たふと)い御(ご)神前(しんぜん)へ土足(どそく)のまま昇(のぼ)るものだから、182神罰(しんばつ)が当(あた)り、183俺(おれ)達(たち)迄(まで)がマキ添(ぞ)ひに会(あ)うたのだ』
184 かく話(はな)す時(とき)しも、185又(また)もや床下(ゆかした)から一層(いつそう)大(おほ)きな怪(あや)しい声(こゑ)が聞(きこ)えてきた。186先(さき)のはレーブ一人(ひとり)が石(いし)で床板(ゆかいた)をコツいたのであつたが、187今度(こんど)は両人(りやうにん)が力(ちから)一杯(いつぱい)石(いし)にて床下(ゆかした)を叩(たた)いたのだから、188四五(しご)層倍(そうばい)の響音(きやうおん)に聞(きこ)えて来(き)た。189三(さん)人(にん)はキヤツと悲鳴(ひめい)をあげ、190逃(に)げようとして手(て)ばかりもがいてゐるが、191チツとも腰(こし)が立(た)たない。192さうかうしてゐる間(うち)に、193月(つき)は容赦(ようしや)なく下界(げかい)を照(て)らし、194森(もり)の隙間(すきま)から強(つよ)き光(ひかり)がさして、195三(さん)人(にん)の体(からだ)を照(て)らした。
196 レーブ、197カルは床下(ゆかした)よりニタリと笑(わら)ひながら這(は)ひ出(いだ)し、198階段(かいだん)の上(うへ)にツカツカと登(のぼ)り、199あたりに響(ひび)く大音声(だいおんぜう)にて歌(うた)ひ出(だ)した。
200レーブ『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
201善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
202刹帝利(せつていり)浄行(じやうぎやう)畏舎(びしや)首陀(しゆだ)や
203旃陀羅(せんだら)族(ぞく)の素性(すじやう)をば
204立別(たてわ)け給(たま)ふ時(とき)は来(き)ぬ
205此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
206心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
207唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
208直日(なほひ)に見直(みなほ)し宣直(のりなほ)し
209大黒主(おほくろぬし)は知(し)らずして
210唯(ただ)惟神(かむながら)に刹帝利(せつていり)の
211流(なが)れのはてとあやまりつ
212旃陀羅(せんだら)族(ぞく)のテク公(こう)を
213神(かみ)の司(つかさ)の供人(ともびと)と
214使(つか)ひ居(ゐ)たりし可笑(をか)しさよ
215かかる矛盾(むじゆん)を見(み)るにつけ
216バラモン教(けう)の神司(かむづかさ)
217大黒主(おほくろぬし)の盲神(めくらがみ)
218ぢやといふ事(こと)はハツキリと
219今(いま)や隈(くま)なく知(し)れわたる
220三五(さんご)の月(つき)の御光(みひかり)に
221照(て)らされ苦(くるし)む三人(みたり)連(づれ)
222中(なか)にも賤(いや)しきテク公(こう)は
223天地(てんち)の間(あひだ)も恐(おそ)れずに
224勿体(もつたい)なくもバラモンの
225鬼熊別(おにくまわけ)の奥(おく)さまや
226小糸(こいと)嬢(ぢやう)をば馬(うま)に乗(の)せ
227お供(とも)に仕(つか)へしさへあるに
228冥加(みやうが)知(し)らずのテク公(こう)は
229怪(あや)しき眼(まなこ)を光(ひか)らして
230心(こころ)に何(なに)か企(たく)むてふ
231容子(ようす)の色(いろ)に見(み)えければ
232神(かみ)に斉(ひと)しき黄金(わうごん)の
233姫(ひめ)の命(みこと)や清照(きよてる)の
234姫(ひめ)の司(つかさ)はそれとなく
235玉山峠(たまやまたうげ)の麓(ふもと)にて
236レーブにかこつけ暇(ひま)やると
237言(い)はれた時(とき)の天眼通(てんがんつう)
238これぞ誠(まこと)の生神(いきがみ)と
239敬(うやま)ひ慕(した)ひ後(あと)を追(お)ひ
240いろいろ雑多(ざつた)と苦労(くらう)して
241ここ迄(まで)従(したが)ひ来(きた)りしぞ
242此(この)床下(ゆかした)にひそみ居(ゐ)て
243汝(なれ)等(ら)三人(みたり)の囁(ささや)きを
244残(のこ)らず聞(き)いたレーブ、カル
245最早(もはや)叶(かな)はぬ百年目(ひやくねんめ)
246腰(こし)の抜(ぬ)けたを幸(さいは)ひに
247弱目(よわめ)をみかけて俺(おれ)達(たち)が
248つけ込(こ)むのではなけれども
249耳(みみ)をさらへてよつく聞(き)け
250汝(なんぢ)は鬼熊別(おにくまわけ)の神(かみ)
251下僕(しもべ)とならむといろいろに
252手(て)をかへ品(しな)を変(か)へながら
253頼(たの)み込(こ)んだが明察(めいさつ)の
254ほまれも高(たか)き神司(かむづかさ)
255鬼熊別(おにくまわけ)は忽(たちま)ちに
256看破(かんぱ)なされて御(おん)首(くび)を
257左右(ひだりみぎ)りとふり給(たま)ひ
258男(をとこ)を下(さ)げてベソをかき
259大黒主(おほくろぬし)の下僕(しもべ)等(ら)に
260うまく取(と)り入(い)り漸(やうや)くに
261下僕(しもべ)の数(かず)に加(くは)へられ
262よからぬ事(こと)のみ行(おこな)ひつ
263又(また)もや此処(ここ)に現(あら)はれて
264イルナの国(くに)の刹帝利(せつていり)と
265心(こころ)を合(あは)せ奥様(おくさま)や
266嬢様(ぢやうさま)たちを捉(とら)へむと
267向(むか)ひ来(きた)るぞ可笑(をか)しけれ
268命(いのち)知(し)らずの馬鹿者(ばかもの)よ
269心(こころ)の鬼(おに)に責(せ)められて
270チヨツとの音(おと)に胆(きも)ひやし
271階段(かいだん)上(じやう)から転落(てんらく)し
272腰(こし)を痛(いた)めて吠面(ほえづら)を
273かわき苦(くるし)む憐(あは)れさよ
274あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
275御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
276悪(あく)に返(かへ)つた旃陀羅(せんだら)の
277テクの心(こころ)を立直(たてなほ)し
278仁慈(じんじ)無限(むげん)の三五(あななひ)の
279神(かみ)の教(をしへ)に逸早(いちはや)く
280進(すす)ませ給(たま)へ天地(あめつち)の
281尊(たふと)き神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
282慎(つつし)み敬(いやま)ひ願(ね)ぎまつる
283朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
284月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
285仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
286摂取(せつしゆ)不捨(ふしや)の御(おん)誓(ちか)ひ
287人間界(にんげんかい)に交(まじ)こりて
288賤(いや)しき身分(みぶん)とさげしまれ
289排斥(はいせき)されし旃陀羅(せんだら)も
290其(その)源(みなもと)を尋(たづ)ぬれば
291天地(てんち)の神(かみ)の御(ご)分霊(ぶんれい)
292御(ご)分体(ぶんたい)ぞと聞(き)くからは
293一切(いつさい)平等(びやうどう)神(かみ)の御子(みこ)
294大慈(だいじ)大悲(だいひ)の御心(みこころ)に
295見直(みなほ)しましてテクの罪(つみ)
296許(ゆる)させ給(たま)へと願(ね)ぎまつる』
297 カルはレーブの後(あと)について又(また)歌(うた)ふ。
298カル『おつたまげたか、たまげたか
299テクにアルマにテムの奴(やつ)
300天(てん)に口(くち)あり壁(かべ)に耳(みみ)
301汝(なんぢ)等(ら)三人(みたり)の悪(わる)だくみ
302残(のこ)らず聞(き)いた床(ゆか)の下(した)
303コリヤ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
304一(ひと)つおどして胆玉(きもたま)を
305試(ため)してやらうとレーブさま
306カルの二人(ふたり)が二(ふた)つの目(め)
307見合(みあは)しながら床下(ゆかした)の
308石(いし)を拾(ひろ)ひて古板(ふるいた)を
309ドヽヽヽドンと打叩(うちたた)き
310おどしてみれば面白(おもしろ)や
311汝(なんぢ)等(ら)三人(みたり)は胆(きも)潰(つぶ)し
312道路神(だうろしん)にさいなまれ
313つまみ出(だ)された其(その)如(ごと)く
314階下(かいか)にドーツと打倒(うちたふ)れ
315腰(こし)をぬかしてウンウンと
316吠面(ほえづら)かわき愚痴(ぐち)並(なら)べ
317旃陀羅(せんだら)族(ぞく)だ刹帝利(せつていり)と
318味方(みかた)同志(どうし)が内乱(ないらん)を
319起(おこ)し居(を)るこそ馬鹿(ばか)らしい
320あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
321神(かみ)の神罰(しんばつ)立(たち)どころ
322悪(あく)の企(たく)みの年(ねん)の明(あ)き
323大黒主(おほくろぬし)に仕(つか)へたる
324おれは名高(なだか)きカルさまよ
325今(いま)床下(ゆかした)で聞(き)き居(を)れば
326アルマやテムの両人(りやうにん)を
327只今(ただいま)限(かぎ)り免職(めんしよく)と
328エラさうにほざいて居(を)つただろ
329おれは貴様(きさま)に比(くら)ぶれば
330十三四(じふさんし)段(だん)上役(うはやく)だ
331此(この)カルさまが神(かみ)様(さま)に
332代(かは)つてテクを免職(めんしよく)し
333息(いき)の根(ね)とめて根(ね)の国(くに)や
334底(そこ)の国(くに)なる地獄道(ぢごくだう)
335派遣(はけん)してやるテクの奴(やつ)
336双手(もろて)を合(あは)せ感謝(かんしや)せよ
337大慈(だいじ)大悲(だいひ)のカルさまが
338お前(まへ)の好(す)きな底(そこ)の国(くに)
339青(あを)赤(あか)黒(くろ)の鬼(おに)共(ども)が
340手具脛(てぐすね)ひいて待(ま)つてゐる
341焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)のドン底(ぞこ)へ
342紹介状(せうかいじやう)をつけるから
343安心(あんしん)致(いた)して行(ゆ)くがよい
344アハヽヽハツハ オホヽヽヽ
345誠(まこと)に誠(まこと)に気味(きみ)がよい
346それに引替(ひきか)へテムアルマ
347二人(ふたり)の奴(やつ)はカルさまが
348抜擢(ばつてき)致(いた)して今(いま)よりは
349改心(かいしん)次第(しだい)で三五(あななひ)の
350司(つかさ)のお供(とも)に任(ま)けてやろ
351サア嬉(うれ)しいか嬉(うれ)しいか
352二人(ふたり)の奴(やつ)らよ返答(へんたふ)せよ
353返答(へんたふ)次第(しだい)で天(てん)となり
354或(あるひ)は地獄(ぢごく)と早変(はやがは)り
355極楽(ごくらく)地獄(ぢごく)の境目(さかひめ)ぢや
356あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
357祠(ほこら)の中(なか)にひそみます
358黄金姫(わうごんひめ)や清照(きよてる)の
359姫(ひめ)の司(つかさ)の御(おん)前(まへ)に
360カルが真心(まごころ)捧(ささ)げつつ
361只今(ただいま)仲裁(ちうさい)仕(つかまつ)る
362あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
363叶(かな)はぬならば逸早(いちはや)く
364両手(りやうて)を合(あは)せ尻(しり)をふり
365頭(かしら)を下(さ)げつ四(よ)つ這(ば)ひに
366三(さん)べん廻(まは)つてワンワンと
367吠(ほ)えて改心(かいしん)したと云(い)ふ
368証拠(しようこ)を早(はや)く見(み)せてくれ
369それをばシホにカルさまが
370神(かみ)の司(つかさ)に取持(とりも)つて
371お前(まへ)を許(ゆる)し結構(けつこう)な
372これから役目(やくめ)にする程(ほど)に
373昇(のぼ)る身魂(みたま)と又(また)降(くだ)る
374身魂(みたま)とさばく神(かみ)の道(みち)
375テク公(こう)は降(くだ)る両人(りやうにん)は
376天国(てんごく)浄土(じやうど)に昇(のぼ)るよな
377心(こころ)一(ひと)つの持様(もちやう)で
378ハツキリ区別(けじめ)がつく程(ほど)に
379メソメソ吠(ほ)えずに確(しつ)かりと
380早(はや)く改心(かいしん)した上(うへ)で
381感謝(かんしや)の誠(まこと)を現(あら)はせよ
382あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
383御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
384 三(さん)人(にん)は体(からだ)の身動(みうご)きもならぬままに、385両手(りやうて)を合(あは)せ、
386三人『お助(たす)け お助(たす)け』
387と叫(さけ)んでゐる。388此(この)騒(さわ)ぎに黄金姫(わうごんひめ)、389清照姫(きよてるひめ)は目(め)を覚(さ)まし、390何事(なにごと)ならむと祠(ほこら)の戸(と)を開(ひら)いて外(そと)に現(あら)はれ見(み)れば、391三(さん)人(にん)の男(をとこ)の此(この)惨状(さんじやう)、
392黄金(わうごん)『コレ、393レーブ、394カル両人(りやうにん)、395ここにどうやら三(さん)人(にん)の男(をとこ)が倒(たふ)れてゐるやうだ。396早(はや)く神(かみ)様(さま)にお詫(わび)をしてやつて下(くだ)さい。397先(ま)づ鎮魂(ちんこん)を施(ほどこ)して、398腰(こし)を立(た)たしてやらねばなるまいぞや』
399レーブ『ハイ、400畏(かしこ)まりました。401併(しか)し乍(なが)ら此奴(こいつ)はテームス峠(たうげ)を登(のぼ)る時(とき)、402清照姫(きよてるひめ)様(さま)の馬(うま)の口(くち)を取(と)つて、403玉山峠(たまやまたうげ)の麓(ふもと)迄(まで)送(おく)つて来(き)たテクといふ悪者(わるもの)で厶(ござ)います。404外(ほか)の二人(ふたり)は助(たす)けてやつても宜(よろ)しいが、405此奴(こいつ)丈(だけ)はみせしめの為(ため)に此(この)儘(まま)に捨(す)ておき、406頭(あたま)から糞(くそ)でもひつかけてやつた方(はう)が将来(しやうらい)の為(ため)かも知(し)れませぬぜ』
407テク『モシモシ、408レーブさま、409そんな殺生(せつしやう)なことをいはずに、410わしも今日(けふ)から改心(かいしん)しますから、411どうぞ助(たす)けて下(くだ)さいな』
412レーブ『何(なん)と云(い)つても此(この)レーブさまとしては許(ゆる)すことが出来(でき)ないワ。413今日(けふ)こそ思(おも)ふ存分(ぞんぶん)貴様(きさま)をいぢめてやるのだ。414貴様(きさま)もチツと小手(こて)の利(き)いてる代物(しろもの)だから、415こんな時(とき)に仕返(しかへ)しをしてやらぬと、416千載(せんざい)一遇(いちぐう)の機会(きくわい)を逸(いつ)するといふものだ。417いつやら俺(おれ)の頭(あたま)をなぐりやがつて、418其(その)為(ため)に俺(おれ)は治療(ちれう)二(に)週間(しうかん)を要(えう)する傷(きず)を負(お)うたのだ。419それでも長(なが)いものには巻(ま)かれ主義(しゆぎ)で、420今日(けふ)迄(まで)辛抱(しんばう)して来(き)たのだから、421今日(けふ)は仇討(かたきう)ちの時節(じせつ)が到来(たうらい)したのだ。422エヘヽヽヽ、423神(かみ)が仇(かたき)をうつてやるぞよと仰有(おつしや)るのはここの事(こと)だ、424こりやテク、425観念(くわんねん)致(いた)せ』
426黄金(わうごん)『コレ、427レーブ、428お前(まへ)も無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)と忍耐(にんたい)と慈悲(じひ)との三五教(あななひけう)へ入(はい)つたのだから、429今(いま)までの恨(うら)みはサラリと川(かは)へ流(なが)し赦(ゆる)してやりなさい』
430レーブ『奥様(おくさま)の御(お)言葉(ことば)なれど此奴(こいつ)に限(かぎ)つて赦(ゆる)すことは出来(でき)ませぬ。431恨(うら)み骨髄(こつずゐ)に徹(とほ)してる不倶(ふぐ)戴天(たいてん)の仇敵(きうてき)ですから、432どうぞ仇(かたき)を討(う)たして下(くだ)さいませ』
433黄金姫『お前(まへ)は神(かみ)様(さま)の御(お)言葉(ことば)を忘(わす)れたのかな』
434レーブ『イエイエどうして、435忘(わす)れてなりますものか、436片時(かたとき)の間(ま)も、437尊(たふと)き三五(あななひ)の教(をしへ)は忘却(ばうきやく)致(いた)しませぬ』
438黄金姫『それなら何故(なぜ)仇(かたき)を赦(ゆる)してやらないのか、439チツとお前(まへ)の信仰(しんかう)と、440矛盾(むじゆん)しては居(ゐ)ないかなア』
441レーブ『矛盾(むじゆん)か撞着(どうちやく)か知(し)りませぬが、442此奴(こいつ)ばかりは赦(ゆる)す事(こと)は出来(でき)ませぬ。443普通(ふつう)の人間(にんげん)に擲(なぐ)られたのなら辛抱(しんばう)も致(いた)しますが、444こんな旃陀羅(せんだら)にやられたと思(おも)へば残念(ざんねん)で堪(たま)りませぬ。445こんな奴(やつ)に擲(なぐ)られて其(その)儘(まま)にしておいては出世(しゆつせ)の時節(じせつ)がありませぬから、446どうぞ頭(あたま)を一(ひと)つカチ割(わ)らせて下(くだ)さいませ。447何(なん)と仰有(おつしや)つてもこれ丈(だけ)は思(おも)ひとまる訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ』
448と手頃(てごろ)の石(いし)を拾(ひろ)ひ、449そこに倒(たふ)れて居(ゐ)るテクの頭(あたま)を打割(うちわ)らうとするのを、450黄金姫(わうごんひめ)は大喝(たいかつ)一声(いつせい)、
451黄金姫『レーブ、452暫(しばら)く待(ま)てツ。453これ程(ほど)事(こと)を分(わ)けて申(まを)すのに、454女(をんな)宣伝使(せんでんし)と侮(あなど)つて、455吾(わが)言(げん)を用(もち)ひないのか。456只今(ただいま)限(かぎ)り免職(めんしよく)を致(いた)すから、457さう思(おも)うたがよからうぞや』
458 レーブは頭(あたま)を掻(か)きながら、
459レーブ『あゝ又(また)免職(めんしよく)が伝染(でんせん)したと見(み)えますわい。460エヽ仕方(しかた)がない、461それなら奥(おく)さまの御(ご)命令(めいれい)に従(したが)ひませう』
462テク『コレ、463レーブ、464さうしたがよいぞや。465人(ひと)を免職(めんしよく)させると、466又(また)自分(じぶん)が免職(めんしよく)になるぞや』
467レーブ『エヽ貴様(きさま)まで人(ひと)を馬鹿(ばか)にするない、468アタ忌々(いまいま)しい』
469黄金(わうごん)『オホヽヽヽ』
470清照(きよてる)『ウフヽヽヽあのマア、471レーブさまの悄気(せうげ)た顔(かほ)わいのう』
472カル『エツヘヽヽヽ、473コリヤ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い』
474黄金(わうごん)『三(さん)人(にん)の者(もの)共(ども)、475黄金姫(わうごんひめ)が赦(ゆる)すから、476何処(どこ)へなと勝手(かつて)に行(い)つたがよからう。477今度(こんど)は決(けつ)してこんな割(わり)のわるい商売(しやうばい)は致(いた)す事(こと)はなりませぬぞ』
478三(さん)人(にん)『ハイ有難(ありがた)う』
479と涙声(なみだごゑ)に感謝(かんしや)してゐる。480不思議(ふしぎ)や三(さん)人(にん)の腰(こし)は忽(たちま)ち旧(もと)に復(ふく)し、481喜(よろこ)び勇(いさ)んで匆々(さうさう)に此(この)森(もり)を後(あと)に逃(に)ぐるが如(ごと)く姿(すがた)を隠(かく)した。
482 黄金姫(わうごんひめ)一行(いつかう)は夜(よ)の明(あ)くるを待(ま)ち、483悠々(いういう)として此(この)場(ば)を立出(たちい)で、484イルナの国(くに)の都(みやこ)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。
485(大正一一・一一・五 旧九・一七 松村真澄録)
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