霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 文珠(もんじゆ)〔一〇九一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻 篇:第2篇 寒梅照国 よみ(新仮名遣い):かんばいしょうこく
章:第7章 文珠 よみ(新仮名遣い):もんじゅ 通し章番号:1091
口述日:1922(大正11)年11月02日(旧09月14日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
騎馬隊は、バラモン軍の武将・片彦の一隊であった。照国別一行は、彼らがイソ館への進軍の先鋒隊だと聞いてなんとか追い返そうと思案をめぐらした。
照国別は声も涼しく宣伝歌を歌い始めた。その言霊に打たれて、早くも騎馬隊の四五人は馬首をめぐらし躊躇の色が見え始めた。片彦は味方に叱咤し、今こそ三五教の宣伝使を打ち倒す時だと活を入れた。
照国別に襲い来る騎馬武者たちを見かねて、岩彦は金剛杖を振り回して突撃し、馬の足を殴り倒した。二騎が落馬し、騎馬隊は一目散に逃げ散った。岩彦は敵の馬を奪い、騎馬隊を追いかけて行ってしまった。
照国別は泰然として宣伝歌を歌っていたが、照公、梅公とともに岩彦が打ち落とした敵の騎馬武者二名を介抱し始めた。二人はたちまち回復すると、照国別一行に命乞いを始めた。
照国別は、バラモン教の騎馬武者ケーリスとタークスを自分の弟子となし安堵させると、清春山への使いを頼み、その後はイソ館に行って修業をなすよう諭し、手紙を託して送り出した。
一方、片彦の一隊を追って行った岩彦は、バラモン教の援軍に攻められて身体一面に矢を受け、瀕死の重傷を負って地面に転落してしまった。片彦と釘彦が岩彦の首を取ろうとしたとき、どこからともなく唐獅子の大群が現れた。
巨大な獅子の背にまたがった大男の眉間から強烈な神光が発射され、その勢いにバラモン軍は散り散りに逃げてしまった。
岩彦が気が付いてその神人を見上げると、それは時置師神・杢助であった。岩彦は驚きかつ喜び、杢助にお礼を述べた。
杢助は笑って岩彦の乱暴をいさめると、一頭の大きな唐獅子を岩彦に託し、ライオン河を渡って黄金姫・清照姫の遭難を救うように命じて姿を隠してしまった。実は木花姫命が杢助の姿を借りて、岩彦を助けたのであった。
このときから岩彦の姿は透き通って鼈甲のようになっていた。岩彦は文殊菩薩となり、獅子の助けによって月の国の諸所に縦横無尽に変幻出没し、三五教の神軍を助けることになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-29 10:53:38 文字数:4791 OBC :rm4007
愛善世界社版:80頁 八幡書店版:第7輯 448頁 修補版: 校定版:84頁 普及版:39頁 初版: ページ備考:
001 照国別(てるくにわけ)は照公(てるこう)、002梅公(うめこう)、003岩彦(いはひこ)の宣伝使(せんでんし)と共(とも)にクルスの森(もり)に休息(きうそく)する折(をり)しも、004前方(ぜんぱう)よりイソ館(やかた)に向(むか)つて進撃(しんげき)する鬼春別(おにはるわけ)の部将(ぶしやう)片彦(かたひこ)の一隊(いつたい)の来(きた)るに会(あ)ひ、005潜(ひそ)かに木(き)の茂(しげ)みに隠(かく)れて様子(やうす)を窺(うかが)ひつつあつた。006片彦(かたひこ)の一隊(いつたい)数十騎(すうじつき)はライオン河(がは)を渡(わた)り、007百丁(ひやくちやう)余(あま)りの道(みち)を疾駆(しつく)して、008漸(やうや)くクルスの森(もり)に到着(たうちやく)し、009人馬(じんば)の休息(きうそく)をなさむと馬(うま)を乗(の)り捨(す)て、010森(もり)の中(なか)に逍遥(せうえう)する者(もの)、011又(また)は横(よこた)はつて雑談(ざつだん)に耽(ふけ)る者(もの)もあつた。
012 此(この)一隊(いつたい)はイソ館(やかた)に向(むか)ふ攻撃軍(こうげきぐん)の先鋒隊(せんぽうたい)とも斥候隊(せきこうたい)ともいふべき重要(ぢゆうえう)の任務(にんむ)に就(つ)いてゐる隊列(たいれつ)である。
013 暫(しばら)く休息(きうそく)の上(うへ)、014片彦(かたひこ)は再(ふたた)び馬(うま)にヒラリと飛乗(とびの)り、015人員(じんゐん)点呼(てんこ)をなし、016馬上(ばじやう)より大音声(だいおんじやう)を張(は)り上(あ)げて下知(げち)して曰(いは)く、
017片彦『之(これ)より先(さき)は三五教(あななひけう)の勢力(せいりよく)範囲(はんゐ)ともいふべき地点(ちてん)である。018清春山(きよはるやま)は大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)、019今(いま)やカルマタ国(こく)へ進軍(しんぐん)の為(ため)不在中(るすちう)なれば、020守(まも)り少(すくな)く、021到底(たうてい)力(ちから)とするに足(た)らず。022本隊(ほんたい)のランチ将軍(しやうぐん)は、023後(あと)より進(すす)み来(きた)るべしと雖(いへど)も、024吾(われ)等(ら)は吾(われ)等(ら)としての任務(にんむ)あり。025四辺(あたり)に心(こころ)を配(くば)り、026左右(さいう)を窺(うかが)ひつつ、027之(これ)より以北(いほく)は最(もつと)も注意(ちうい)を要(えう)す』
028と命令(めいれい)しつつあつた。029木蔭(こかげ)に隠(かく)れし照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)はイソの館(やかた)に進軍(しんぐん)の先鋒(せんぽう)と聞(き)き、030仮令(たとへ)少数(せうすう)と雖(いへど)も此(この)儘(まま)通過(つうくわ)せしむる事(こと)は出来(でき)ない。031何(なん)とかして此(この)先鋒隊(せんぽうたい)を追(お)ひ捲(まく)らねばならない。032後(あと)より来(きた)る玉国別(たまくにわけ)に対(たい)しても、033照国別(てるくにわけ)は敵(てき)に遭(あ)ひながら之(これ)を見(み)のがし、034ウブスナ山(やま)に近付(ちかづ)かしめたりと言(い)はれては、035吾々(われわれ)の職務(しよくむ)が尽(つく)せない…………と腕(うで)を組(く)み思案(しあん)に暮(く)れてゐた。
036 岩彦(いはひこ)は心(こころ)を焦(いら)ち、
037岩彦『照国別(てるくにわけ)さま、038大変(たいへん)な事(こと)になつて来(き)ました。039片彦(かたひこ)の一隊(いつたい)と見(み)えます。040之(これ)を奥(おく)へ進(すす)ませてはなりませぬから、041一(ひと)つここで何(なん)とか方法(はうはふ)を講(かう)じようではありませぬか。042最前(さいぜん)のお話(はなし)に依(よ)れば、043三五教(あななひけう)は何処(どこ)までも無抵抗(むていかう)主義(しゆぎ)と云(い)はれましたが、044敵(てき)は武力(ぶりよく)を以(もつ)て進(すす)み来(きた)るもの、045いかに言霊(ことたま)の妙用(めうよう)ありとて、046十数倍(じふすうばい)の敵(てき)に向(むか)つて戦(たたか)ふは容易(ようい)の業(わざ)ではありますまい。047如何(どう)しても武力(ぶりよく)に訴(うつた)へなければ駄目(だめ)でせうから、048あなたは宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ魔神(まがみ)の霊(れい)を畏服(ゐふく)させて下(くだ)さい。049此(この)岩彦(いはひこ)は得意(とくい)の杖(つゑ)を使(つか)ひ、050敵(てき)の真只中(まつただなか)に躍(をど)り込(こ)んで、051一歩(いつぽ)も之(これ)より奥(おく)へは進入(しんにふ)させない様(やう)に致(いた)しますから、052決(けつ)して敵(てき)を殺傷(さつしやう)する様(やう)な事(こと)は致(いた)しませぬ。053只(ただ)敵(てき)を威喝(ゐかつ)して、054元(もと)へ追(お)つ返(かへ)す迄(まで)の事(こと)ですから………』
055照国(てるくに)『先鋒隊(せんぽうたい)として黄金姫(わうごんひめ)、056清照姫(きよてるひめ)が行(い)つて居(ゐ)る筈(はず)だから、057後(あと)へ追(お)つ返(かへ)せば、058却(かへつ)て両人(りやうにん)を後(あと)より攻(せ)め来(く)る敵軍(てきぐん)と共(とも)に挟(はさ)み撃(う)ちに遭(あ)はす様(やう)なものだ。059ハテ困(こま)つたことが出来(でき)たものだ。060吾々(われわれ)の目的(もくてき)はハルナの都(みやこ)の大黒主(おほくろぬし)を帰順(きじゆん)さすのが使命(しめい)の眼目(がんもく)で、061彼(かれ)等(ら)如(ごと)き木端(こつぱ)武者(むしや)を相手(あひて)にすべきものではない。062ぢやといつて、063みすみすイソ館(やかた)へ進撃(しんげき)する一隊(いつたい)と知(し)つて、064之(これ)を防止(ばうし)せざるは吾々(われわれ)の職務(しよくむ)を果(はた)さざるといふもの。065兎(と)も角(かく)言霊(ことたま)を以(もつ)て彼(かれ)片彦(かたひこ)が一隊(いつたい)に向(むか)ひ戦闘(せんとう)を開始(かいし)してみよう。066それでゆかない時(とき)は岩彦(いはひこ)の考(かんが)への通(とほ)りに杖(つゑ)を使(つか)つて敵(てき)を散乱(さんらん)させる方法(はうはふ)を採(と)るより仕方(しかた)はあるまい。067先(ま)づ第一(だいいち)に神(かみ)様(さま)のお力(ちから)を借(か)つて善戦(ぜんせん)善闘(ぜんとう)する事(こと)にせう。068照公(てるこう)、069梅公(うめこう)もその用意(ようい)を致(いた)すがよからう』
070照公(てるこう)『始(はじ)めて敵(てき)の軍隊(ぐんたい)に出会(でつくは)し、071こんな愉快(ゆくわい)な事(こと)はありませぬワイ。072わが言霊(ことたま)の神力(しんりき)を試(ため)すは此(この)時(とき)で厶(ござ)いませう』
073と潔(いさぎよ)く言(い)つてのけたものの、074何(なん)とはなしに其(その)声(こゑ)は震(ふる)うてゐた。
075梅公(うめこう)『宣伝使(せんでんし)様(さま)、076万々一(まんまんいち)敵(てき)の馬蹄(ばてい)に踏(ふ)み躙(にじ)られ、077命(いのち)危(あやふ)くなつた時(とき)は抵抗(ていかう)するかも知(し)れませぬから、078それ丈(だけ)御(ご)承知(しようち)を願(ねが)つておきます。079私(わたし)は岩彦(いはひこ)さまのやうに武器(ぶき)を使(つか)ふ事(こと)は不得手(ふえて)です、080が何(なん)とかして防衛(ばうゑい)をなし、081一身(いつしん)を守(まも)らねばなりませぬ』
082と大事(だいじ)の使命(しめい)を忘(わす)れて只(ただ)自分(じぶん)の安全(あんぜん)に就(つい)てのみ心(こころ)を痛(いた)めて居(ゐ)る様子(やうす)であつた。083岩彦(いはひこ)は早(はや)くも杖(つゑ)をしごいて、084弦(つる)を離(はな)れむとする間際(まぎは)の矢(や)の如(ごと)く、085体(たい)を斜(しや)に構(かま)へて、086照国別(てるくにわけ)の命令(めいれい)を今(いま)や遅(おそ)しと待(ま)つて居(ゐ)た。087此(この)時(とき)敵(てき)は已(すで)に馬首(ばしゆ)を並(なら)べて北進(ほくしん)せむとする様子(やうす)が見(み)えて来(き)た。
088 照国別(てるくにわけ)は声(こゑ)も涼(すず)しく宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ふ。
089照国別『常世(とこよ)の国(くに)の自在天(じざいてん)
090大国彦(おほくにひこ)を祀(まつ)りたる
091バラモン教(けう)の神館(かむやかた)
092空(そら)照(て)り渡(わた)る月(つき)の国(くに)
093ハルナの都(みやこ)に現(あら)はれて
094鬼雲彦(おにくもひこ)の又(また)の御名(みな)
095大黒主(おほくろぬし)が郎党(らうたう)を
096呼(よ)び集(つど)ひつつ日(ひ)に月(つき)に
097再(ふたた)び勢(いきほひ)盛(も)り返(かへ)し
098傲(おご)り驕(たか)ぶり今(いま)は早(はや)
099自高(じかう)自慢(じまん)の鼻(はな)高(たか)く
100神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
101鎮(しづ)まりいますイソ館(やかた)
102進撃(しんげき)せむと進(すす)み来(く)る
103其(その)扮装(いでたち)の勇(いさ)ましさ
104片彦(かたひこ)いかに勇(ゆう)あるも
105天地(てんち)を揺(ゆる)がせ雷電(らいでん)や
106風雨(ふうう)を自由(じいう)に叱咤(しつた)する
107三五教(あななひけう)の言霊(ことたま)に
108いかでか敵(てき)し得(え)ざらむや
109あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
110神(かみ)の心(こころ)に見直(みなほ)して
111無謀(むぼう)の戦(いくさ)を起(おこ)すより
112一日(ひとひ)も早(はや)く真心(まごころ)に
113立復(たちかへ)りませ片彦(かたひこ)よ
114われも神(かみ)の子(こ)汝(なれ)も亦(また)
115尊(たふと)き神(かみ)の貴(うづ)の御子(みこ)
116御子(みこ)と御子(みこ)とは睦(むつ)び合(あ)ひ
117誠(まこと)一(ひと)つの天地(あめつち)の
118神(かみ)の大道(おほぢ)に叶(かな)ひつつ
119天(あめ)の下(した)なる神人(しんじん)を
120救(すく)ひ助(たす)けて神国(かみくに)の
121柱(はしら)とならむ惟神(かむながら)
122神(かみ)に誠(まこと)を誓(ちか)ひつつ
123汝(なれ)が軍(いくさ)に立(た)ち向(むか)ひ
124言霊車(ことたまぐるま)挽(ひ)き出(いだ)す
125われは照国別(てるくにわけ)の神(かみ)
126此(この)世(よ)を照(て)らす照公(てるこう)や
127神(かみ)の御稜威(みいづ)も一時(いつとき)に
128開(ひら)いて薫(かを)る梅公(うめこう)や
129心(こころ)も固(かた)き宣伝使(せんでんし)
130岩彦司(いはひこつかさ)の四人(よたり)連(づれ)
131イソの館(やかた)を立出(たちい)でて
132ここ迄(まで)進(すす)みクルス森(もり)
133木蔭(こかげ)に潜(ひそ)み横(よこた)はり
134汝(な)が一隊(いつたい)の物語(ものがたり)
135完全(うまら)に委曲(つばら)に聞終(ききをは)り
136覚(さと)りし上(うへ)は如何(いか)にして
137汝(なれ)を此(この)儘(まま)通(とほ)さむや
138鬼春別(おにはるわけ)の部下(ぶか)とます
139汝(なんぢ)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)よ
140言霊隊(ことたまたい)の神軍(しんぐん)が
141勇士(ゆうし)と現(あ)れし三五(あななひ)の
142照国別(てるくにわけ)の言(こと)の葉(は)を
143いと平(たひら)けく安(やす)らけく
144心(こころ)の鏡(かがみ)にうつし見(み)て
145省(かへり)み給(たま)へ惟神(かむながら)
146神(かみ)に誓(ちか)ひて宣(の)り伝(つた)ふ』
147 俄(にはか)に森(もり)の中(なか)より聞(きこ)え来(く)る宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)に、148片彦(かたひこ)始(はじ)め一同(いちどう)は案(あん)に相違(さうゐ)し、149暫(しば)し馬首(ばしゆ)を止(とど)め、150稍(やや)躊躇(ちうちよ)の色(いろ)が見(み)えて来(き)た。151後(あと)に控(ひか)へし四五(しご)人(にん)の騎士(きし)は言霊(ことたま)に討(う)たれて、152何(なん)となく怖気(おぢけ)づき、153早(はや)くも馬首(ばしゆ)をめぐらし、154馳(か)け出(だ)さむとする形勢(けいせい)さへ見(み)えて来(き)た。155片彦(かたひこ)はこの態(てい)を見(み)て、156気(き)を焦(いら)ち、157躊躇(ちうちよ)してゐては、158却(かへつ)て味方(みかた)の不統一(ふとういつ)を来(きた)し、159不利益(ふりえき)此(この)上(うへ)なしと声(こゑ)を励(はげ)まし、
160片彦『ヤアヤア一同(いちどう)の騎士(きし)、161三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の一行(いつかう)現(あら)はれたり、162大自在天(だいじざいてん)大国彦(おほくにひこの)神(かみ)の神力(しんりき)を身(み)に受(う)けたる吾々(われわれ)神軍(しんぐん)の勇士(ゆうし)は、163彼(かれ)等(ら)に躊躇(ちうちよ)することなく、164馬蹄(ばてい)にかけて踏(ふ)み殺(ころ)せよ』
165と厳(きび)しく下知(げち)すれば、166駒(こま)に跨(またが)り、167照国別(てるくにわけ)の方(かた)に向(むか)つて、168鞭(むち)をきびしく馬背(ばはい)に当(あ)てながら踏砕(ふみくだ)かむと進(すす)み来(く)る。169照国別(てるくにわけ)は泰然(たいぜん)自若(じじやく)として天(あま)の数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)し、170又(また)もや宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ出(だ)した。171されど心(こころ)の曇(くも)り切(き)つたる曲神(まがかみ)には、172宣伝歌(せんでんか)の力(ちから)も充分(じうぶん)に透徹(とうてつ)せず、173敵(てき)は命(いのち)限(かぎ)りに攻(せ)め来(きた)る。174其(その)猛勢(まうせい)に腕(うで)を叩(たた)いて待構(まちかま)へてゐた岩彦(いはひこ)は『照国別(てるくにわけ)殿(どの)お許(ゆる)しあれ』と言(い)ひながら弦(つる)を放(はな)れた矢(や)の如(ごと)く、175金剛杖(こんがうづゑ)を上下(じやうげ)左右(さいう)に唸(うな)りを立(た)てて振(ふ)り廻(まは)しながら、176敵(てき)に向(むか)つて突撃(とつげき)し、177瞬(またた)く間(うち)に馬(うま)の脚(あし)を片(かた)つ端(ぱし)から擲(なぐ)り立(た)てた。178馬(うま)は驚(おどろ)いて立上(たちあが)り、179馬上(ばじやう)の騎士(きし)は真逆(まつさか)様(さま)に地上(ちじやう)に転落(てんらく)し、180馬(うま)を乗(の)り捨(す)て四方(しはう)八方(はつぱう)に逃(に)げ散(ち)りゆく。181片彦(かたひこ)は騎馬(きば)の儘(まま)、182一目散(いちもくさん)に南方(なんぱう)さして駆(か)け出(いだ)すを、183岩彦(いはひこ)は敵(てき)の馬(うま)に跨(またが)り杖(つゑ)にて馬腹(ばふく)を鞭(むちう)ちながら片彦(かたひこ)の後(あと)を追(お)うて一目散(いちもくさん)に駆(かけ)り行(ゆ)く。
184 照国別(てるくにわけ)は泰然(たいぜん)自若(じじやく)として尚(なほ)も宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひつつあつた。185数多(あまた)の騎士(きし)は思(おも)ひ思(おも)ひに四方(しはう)八方(はつぱう)に転(こ)けつ輾(まろ)びつ散乱(さんらん)した。186されども北(きた)へは一人(ひとり)も恐(おそ)れてか逃(に)げ行(ゆ)く者(もの)はない。187岩彦(いはひこ)に膝頭(ひざがしら)を打(う)たれて倒(たふ)れてゐる馬匹(ばひつ)は七八頭(しちはつとう)、188彼方(あなた)此方(こなた)に呻(うめ)き声(ごゑ)をあげてゐる。189馬(うま)から転落(てんらく)する際(さい)、190首(くび)を突込(つつこ)み、191肩骨(かたぼね)を外(はづ)して九死(きうし)一生(いつしやう)の苦(くるし)みを受(う)け呻吟(しんぎん)してゐる二人(ふたり)の敵(てき)を、192照公(てるこう)、193梅公(うめこう)が手分(てわ)けして介抱(かいほう)してゐる。194照国別(てるくにわけ)は敵(てき)の負傷者(ふしやうしや)に向(むか)つて一生(いつしやう)懸命(けんめい)に鎮魂(ちんこん)を与(あた)へた。195漸(やうや)く首(くび)の骨(ほね)は二人(ふたり)の介抱(かいほう)に依(よ)つて元(もと)に復(ふく)し、196外(はづ)れた肩胛骨(けんかうこつ)も元(もと)の如(ごと)く治(をさ)まつた。
197 三(さん)人(にん)の介抱(かいほう)を受(う)けて漸(やうや)く元(もと)に復(ふく)したる二人(ふたり)の騎士(きし)は、198味方(みかた)は一人(ひとり)もあたりに居(を)らず、199三(さん)人(にん)の三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)や信者(しんじや)の顔(かほ)を見(み)て大(おほい)に驚(おどろ)き、
200二人の騎士(ケーリス、タークス)『私(わたし)は片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の見出(みいだ)しに預(あづ)かり、201バラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)となつてゐるケーリス、202タークスといふ二人(ふたり)の者(もの)で厶(ござ)います。203どうぞ今日(こんにち)只今(ただいま)より三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)致(いた)しますから、204命(いのち)ばかりはお助(たす)けを願(ねが)ひます』
205とハラハラと涙(なみだ)を流(なが)して頼(たの)み込(こ)んだ。206照国別(てるくにわけ)は言葉(ことば)を改(あらた)めて、207いと慇懃(いんぎん)に労(いた)はりながら、
208照国別『あなた方(がた)は矢張(やつぱり)バラモンの宣伝使(せんでんし)で厶(ござ)つたか。209世(よ)の中(なか)は相見互(あひみたがひ)だ、210互(たがひ)に助(たす)け助(たす)けられ、211持(も)ちつ持(も)たれつの世(よ)の中(なか)、212三五教(あななひけう)は決(けつ)してバラモン教(けう)の如(ごと)く敵(てき)を殺傷(さつしやう)するといふやうな非人道(ひじんだう)的(てき)なことはやらないから安心(あんしん)してゐるがよい。213就(つい)ては汝(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)に申付(まをしつ)くることがある。214之(これ)より清春山(きよはるやま)へ立寄(たちよ)り、215イソの館(やかた)へお使(つかひ)に行(い)つてはくれまいかなア』
216二人の騎士(ケーリス、タークス)『ハイ最早(もはや)貴方(あなた)のお弟子(でし)となつた以上(いじやう)は如何(いか)なることも承(うけたま)はりませう。217併(しか)し乍(なが)らイソの館(やかた)へ参(まゐ)るの丈(だけ)は何(なん)だか恐(おそ)ろしい心持(こころもち)が致(いた)します』
218照国別『決(けつ)して三五教(あななひけう)は敵(てき)でも助(たす)ける役(やく)だから、219汝(なんぢ)等(ら)を苦(くるし)めるやうなことはない。220又(また)照国別(てるくにわけ)の弟子(でし)だといへば屹度(きつと)大切(たいせつ)に扱(あつか)つて下(くだ)さるであらう。221今(いま)手紙(てがみ)を書(か)くから、222之(これ)を持(も)つて清春山(きよはるやま)へ立寄(たちよ)り、223其(その)次(つぎ)にはイソの館(やかた)に行(い)つて日(ひ)の出別(でわけの)神(かみ)様(さま)に面会(めんくわい)し、224暫(しばら)くイソ館(やかた)にて三五(あななひ)の道(みち)の修業(しうげふ)を致(いた)すやう取計(とりはか)らうてやらう』
225 二人(ふたり)は、
226『ハイ』
227と云(い)つたきり有難涙(ありがたなみだ)にくれ、228再(ふたた)び馬(うま)に跨(またが)り北(きた)へ北(きた)へと進(すす)むこととなつた。229一通(いつつう)の手紙(てがみ)は清春山(きよはるやま)のポーロに宛(あ)て、230帰順(きじゆん)を促(うなが)す文面(ぶんめん)であり、231一通(いつつう)は照国別(てるくにわけ)が出陣(しゆつぢん)の途中(とちう)遭遇(さうぐう)したる一伍(いちぶ)一什(しじふ)を日(ひ)の出別(でわけの)神(かみ)に報告(はうこく)し、232且(か)つ此(この)両人(りやうにん)をして三五教(あななひけう)の教理(けうり)を学(まな)ばしめ、233将来(しやうらい)宣伝使(せんでんし)として用(もち)ひ給(たま)はば、234相当(さうたう)の成績(せいせき)をあぐる者(もの)なるべし、235何分(なにぶん)宜(よろ)しく頼(たの)み入(い)るとの文面(ぶんめん)であつた。236二人(ふたり)は心(こころ)の底(そこ)より照国別(てるくにわけ)の慈愛(じあい)に感(かん)じ、237遂(つひ)に清春山(きよはるやま)に立寄(たちよ)り、238ポーロに手紙(てがみ)を渡(わた)し、239次(つ)いでイソ館(やかた)に進(すす)んで教理(けうり)を学(まな)び、240且(かつ)又(また)バラモン教(けう)のイソ館(やかた)を攻撃(こうげき)する一伍(いちぶ)一什(しじふ)の作戦(さくせん)計画(けいくわく)を残(のこ)らず打開(うちあ)けて物語(ものがた)り、241非常(ひじやう)な便宜(べんぎ)を与(あた)へたのである。
242 清春山(きよはるやま)に二人(ふたり)が立寄(たちよ)り、243ポーロ其(その)外(ほか)を帰順(きじゆん)せしめたる一条(いちでう)や其(その)他(た)の面白(おもしろ)き経路(けいろ)は項(かう)を改(あらた)めて述(の)ぶることとする。
244 話(はなし)は元(もと)へ返(かへ)つて、245岩彦(いはひこ)は駿馬(しゆんめ)に跨(またが)り、246逃(に)げゆく片彦(かたひこ)の後(あと)を、247己(おのれ)も馬(うま)に跨(またが)つて一目散(いちもくさん)に西南(せいなん)指(さ)して駆(か)け行(ゆ)く。248ライオン河(がは)の近(ちか)くまでやつて来(く)ると、249釘彦(くぎひこ)将軍(しやうぐん)の一隊(いつたい)又(また)もや数十騎(すうじつき)、250片彦(かたひこ)と共(とも)に岩彦(いはひこ)一人(ひとり)を目(め)がけて弓(ゆみ)を射(い)かけ、251攻(せ)めかくる。252岩彦(いはひこ)は一隊(いつたい)の的(まと)となり、253身体(からだ)一面(いちめん)矢(や)に刺(さ)され、254蝟(はりねずみ)の如(ごと)くなつて了(しま)つた。255されど生死(せいし)の境(さかひ)を超越(てうゑつ)したる岩彦(いはひこ)は獅子(しし)奮迅(ふんじん)の勢(いきほひ)を以(もつ)て、256馬(うま)の蹄(ひづめ)にて一隊(いつたい)を踏(ふ)み躙(にじ)らむと、257前後(ぜんご)左右(さいう)をかけ巡(めぐ)りつつあつたが、258身体(からだ)の重傷(ふかで)に疲(つか)れ果(は)て、259ドツと馬上(ばじやう)より地上(ちじやう)に転落(てんらく)し、260人事(じんじ)不省(ふせい)となつて了(しま)つた。261片彦(かたひこ)、262釘彦(くぎひこ)将軍(しやうぐん)は今(いま)此(この)時(とき)と、263馬(うま)を飛(と)び下(お)り、264岩彦(いはひこ)の首(くび)を刎(は)ねむとする時(とき)、265何処(いづこ)ともなく山岳(さんがく)も崩(くづ)るるばかりの大音響(だいおんきやう)と共(とも)に数十頭(すうじつとう)の唐獅子(からじし)現(あら)はれ来(きた)り、266其(その)中(うち)にて最(もつと)も巨大(きよだい)なる獅子(しし)の背(せ)に大(だい)の男(をとこ)跨(またが)り、267眉間(みけん)より強烈(きやうれつ)なる神光(しんくわう)を発射(はつしや)しながら、268釘彦(くぎひこ)の一隊(いつたい)に向(むか)つて突込(つつこ)み来(きた)る、269其(その)勢(いきほひ)に辟易(へきえき)し、270得物(えもの)を投(な)げ棄(す)て、271或(あるひ)は馬(うま)を棄(す)て、272四方(しはう)八方(はつぱう)に散乱(さんらん)して了(しま)つた。273獅子(しし)の唸(うな)り声(ごゑ)に岩彦(いはひこ)はハツと気(き)が付(つ)きあたりを見(み)れば、274巨大(きよだい)なる獅子(しし)の背(せ)に跨(またが)り、275眉間(みけん)より霊光(れいくわう)を発射(はつしや)する神人(しんじん)が側近(そばちか)く莞爾(くわんじ)として控(ひか)へてゐる。276岩彦(いはひこ)は体(からだ)の痛(いた)みを忘(わす)れ起直(おきなほ)り、277跪(ひざまづ)いて救命(きうめい)の恩(おん)を謝(しや)した。278よくよく見(み)れば嵩計(あにはか)らむや、279三五教(あななひけう)にて名(な)も高(たか)き英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)の時置師(ときおかしの)神(かみ)であつた。280岩彦(いはひこ)は驚(おどろ)きと喜(よろこ)びの余(あま)り、
281岩彦『ヤア貴神(あなた)は杢助(もくすけ)様(さま)、282如何(どう)して私(わたし)の遭難(さうなん)が分(わか)りましたか、283よくマア助(たす)けて下(くだ)さいました』
284 杢助(もくすけ)はカラカラと打笑(うちわら)ひ、
285杢助『イヤ岩彦(いはひこ)、286今後(こんご)は決(けつ)して乱暴(らんばう)なことは致(いた)してはなりませぬぞ。287苟(いやし)くも三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)たる身(み)を以(もつ)て暴力(ばうりよく)に訴(うつた)へ敵(てき)を悩(なや)まさむとするは御(ご)神慮(しんりよ)に反(はん)する行動(かうどう)である。288飽迄(あくまで)善戦(ぜんせん)善闘(ぜんとう)し、289言霊(ことたま)の神力(しんりき)を発射(はつしや)し、290それにしても行(ゆ)かなければ、291隙(すき)を覗(ねら)つて一(いち)時(じ)退却(たいきやく)するも、292決(けつ)して神慮(しんりよ)に背(そむ)くものではない。293汝(なんぢ)は之(これ)より此(この)獅子(しし)に跨(またが)り、294ライオン河(がは)を渡(わた)り、295黄金姫(わうごんひめ)、296清照姫(きよてるひめ)の遭難(さうなん)を救(すく)ふべし、297さらば』
298といふより早(はや)く杢助(もくすけ)の姿(すがた)は煙(けむり)と消(き)え、299数多(あまた)の獅子(しし)の影(かげ)もなく、300只(ただ)一頭(いつとう)の巨大(きよだい)なる唐獅子(からじし)のみ両足(りやうあし)を揃(そろ)へ、301行儀(ぎやうぎ)よく坐(すわ)つてゐた。302今(いま)杢助(もくすけ)と現(あら)はれたのは、303其(その)実(じつ)は五六七(みろくの)大神(おほかみ)の命(めい)に依(よ)り、304木花姫(このはなひめの)命(みこと)が仮(か)りに杢助(もくすけ)の姿(すがた)を現(あら)はし、305岩彦(いはひこ)の危難(きなん)を救(すく)はれたのである。306岩彦(いはひこ)は之(これ)より只(ただ)一人(ひとり)唐獅子(からじし)に跨(またが)り、307ライオン河(がは)を打渡(うちわた)り、308黄金姫(わうごんひめ)の危急(ききふ)を救(すく)ふべく、309急(いそ)ぎ後(あと)を追(お)ふこととなつた。
310 此(この)時(とき)、311岩彦(いはひこ)の姿(すがた)は何時(いつ)の間(ま)にやら透(す)き通(とほ)り、312恰(あだか)も鼈甲(べつかう)の如(ごと)くなつてゐた。313仏者(ぶつしや)の所謂(いはゆる)文珠(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)は岩彦(いはひこ)の宣伝使(せんでんし)の霊(みたま)である。314之(これ)より岩彦(いはひこ)は月(つき)の国(くに)を縦横(じうわう)無尽(むじん)に獅子(しし)の助(たす)けに依(よ)りて、315所々(しよしよ)に変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)し、316三五(あななひ)の神軍(しんぐん)を、317危急(ききふ)の場合(ばあひ)に現(あら)はれて救(すく)ひ守(まも)ることとなつたのである。
318 惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
319(大正一一・一一・二 旧九・一四 松村真澄録)
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