霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 黒士会(こくしくわい)〔一二三五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻 篇:第1篇 浮木の盲亀 よみ(新仮名遣い):うききのもうき
章:第2章 黒士会 よみ(新仮名遣い):こくしかい 通し章番号:1235
口述日:1923(大正12)年01月08日(旧11月22日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月6日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
治国別は竜公をいたわった。見れば穴の上にはタールがいる。竜公は、タールはもともとは人間のいい奴だから、善悪どちらにも傾くというと、治国別はタールの説得を竜公に命じた。
竜公は、自分はわざと治国別のところに入り込んで、ここまで宣伝使をおびきよせたのだ、と呼びかけて梯子を下ろさせた。しかし梯子から上がってきたのは治国別であった。治国別は、竜公は幽霊となったと言っておいて、後から竜公が上がってきてタールをおどかし、からかった。
タールは、今にアークが大勢の軍勢を連れてやってくるから、今のうちに逃げた方がよい、自分も供としてついていくから、と心配するが、治国別は笑って取り合わない。
そのうちにアークが数十人の騎士を引き連れてやってきて、治国別一行を取り囲んだ。アークは召し捕るように下知するが、治国別が天の数歌を奏上すると一同は身体が強直して馬上から転倒してしまった。
治国別は今度は、竜公に天の数歌を奏上させた。すると騎士たちは少しの怪我もなく身体は元に戻った。騎士たちは手早く馬にまたがって逃げ帰って行く。
後にはアークただ一人、どうしたものか体の自由がきかない。竜公がなにほど祈っても、アークの強直状態は直らなかった。治国別は、アークは自分に危害を加えようとしたから、自分が祈願してやらなければだめだろうと言って、暗祈黙祷した上で許す、と一言述べた。
アークの体は元に戻り、アークは治国別の前にひざまづいて涙を流しながら重々の無礼を謝した。治国別は自分はかすり傷一つ負っておらず、神の警告を示してくれた導師だと答えた。
そしてアークに、ランチ将軍への面会を依頼した。アークは感謝を現し、ランチ将軍に三五教への降伏を進めるように取り計らうと述べると、駒にまたがって陣中に帰って行った。
どうせランチ将軍の前に出たら前言を撤回してまたバラモン教に逆戻りするだろうと竜公が批評した。タールは、このごろアークはバラモン軍の中で決死隊を組織しているほど骨がしっかりしてきていると弁護した。
竜公が、そのアークが組織したという「国士会」の会則を見せてもらうと、立派な趣意書が書かれていたが、後に決意が骨抜きになるような但し書きが並んでいた。それを見て治国別と竜公は笑った。
二人はタールに案内されて、浮木の村の陣屋を指して宣伝歌を歌いながら進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-04-10 13:42:34 文字数:5347 OBC :rm4702
愛善世界社版:28頁 八幡書店版:第8輯 481頁 修補版: 校定版:28頁 普及版:14頁 初版: ページ備考:
001 思(おも)はぬ不覚(ふかく)をとつた治国別(はるくにわけ)は、002竜公(たつこう)を労(いた)はりながら、
003治国別『オイ竜公(たつこう)、004どこも怪我(けが)はなかつたかなア。005大変(たいへん)な不覚(ふかく)をとつて、006深(ふか)く落(お)ち込(こ)んだものだ』
007竜公『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います、008別(べつ)にどこも怪我(けが)は致(いた)して居(を)りませぬが、009余(あま)り深(ふか)い企(たく)みに乗(じやう)ぜられ、010深(ふか)い穴(あな)へ落(おと)されて、011チツとばかり不快(ふくわい)でたまりませぬ。012アハヽヽヽ』
013治国別『ウフヽヽヽ、014貴様(きさま)も余程(よほど)三五教(あななひけう)式(しき)になつたな。015如何(いか)なる艱難(かんなん)に出会(であ)つても、016其(その)態度(たいど)でなくちや駄目(だめ)だ』
017竜公『アナ有難(ありがた)や、018穴(あな)尊(たふと)しや、019三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)、020ヤツパリ、021バラモン教(けう)は三五教(あななひけう)の反対(はんたい)で穴有教(あなありけう)ですなア』
022治国別『オイ何時(いつ)迄(まで)もこんな所(ところ)に蟄居(ちつきよ)して居(を)つても約(つま)らぬぢやないか。023モウいい加減(かげん)に這(は)ひ上(あが)る工夫(くふう)をしたら何(ど)うだ』
024竜公『さうですな、025幸(さいは)ひ沢山(たくさん)な槍(やり)を立(た)ててゐやがるし、026此(この)通(とほ)り、027蜘蛛(くも)の巣(す)の如(ごと)く、028吾々(われわれ)の身体(からだ)にまきつくやうに網(あみ)をはつてゐよるのだから、029槍(やり)の先(さき)を皆(みな)ぬいて、030先(せん)ぐり之(これ)をくくりつけ、031槍(やり)の梯子(はしご)でも拵(こしら)へて上(のぼ)つてやりませうか。032グヅグヅしてゐると、033アークの奴(やつ)沢山(たくさん)の子分(こぶん)をつれて来(き)て、034上(うへ)から槍(やり)の雨(あめ)でも降(ふ)らされると困(こま)りますで』
035治国別『ナアニ其(その)時(とき)は、036これ丈(だけ)沢山(たくさん)の槍(やり)だから、037下(した)から上(うへ)へ向(む)けて槍(やり)の雨(あめ)を降(ふ)らしてやればいいのだ。038マアゆつくりと風(かぜ)の当(あた)らぬ空井(からゐど)の底(そこ)で休養(きうやう)でもして上(あが)ることにしようかい。039時(とき)に穴(あな)の縁(ふち)には誰(たれ)かゐるぢやないか』
040竜公『彼奴(あいつ)ア、041タールといふ男(をとこ)です。042随分(ずゐぶん)馬鹿(ばか)ですけれど、043人間(にんげん)のいゝ奴(やつ)ですから、044どちらへでも傾(かたむ)く代物(しろもの)です。045一(ひと)つ彼奴(あいつ)を言向(ことむ)け和(やは)したらどうでせうかな』
046治国別『お前(まへ)の初陣(うひぢん)に一(ひと)つやつて見(み)よ、047治国別(はるくにわけ)はここにて、048竜公(たつこう)の言霊戦(ことたません)を観戦(くわんせん)するから……』
049 竜公(たつこう)は、
050竜公『ハイ有難(ありがた)う』
051と云(い)ひながら、052空(そら)を打仰(うちあふ)ぎ、
053竜公『バラモン教(けう)の先鋒隊(せんぽうたい)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)が秘書役(ひしよやく)、054竜公(たつこう)、055今(いま)更(あらた)めてタールの奴(やつこ)に申付(まをしつ)ける。056此(この)竜公(たつこう)は、057汝(なんぢ)の知(し)る如(ごと)く、058河鹿(かじか)峠(たうげ)に於(おい)て治国別(はるくにわけ)の為(ため)に一敗(いつぱい)地(ち)にまみれ、059全軍(ぜんぐん)遁走(とんそう)する折(をり)しも、060腑甲斐(ふがひ)なき味方(みかた)の敗残(はいざん)見(み)るに忍(しの)びず一計(いつけい)を案(あん)じ、061松公(まつこう)と共(とも)に詐(いつは)つて治国別(はるくにわけ)に降参(かうさん)を装(よそほ)ひ、062ここ迄(まで)導(みちび)いて来(き)たのだ。063一時(いつとき)も早(はや)く此(この)方(はう)を縄梯子(なはばしご)なりと吊(つ)り下(おろ)して救(すく)ひ出(いだ)せよ。064さすれば汝(なんぢ)は、065アークにまさる手柄者(てがらもの)として、066ランチ将軍(しやうぐん)に奏上(そうじやう)してやらう。067どうぢやタール、068此(この)方(はう)の神算(しんさん)鬼謀(きぼう)は恐(おそ)れ入(い)つたであらうがなア』
069タール『ハイハイ、070そんな事(こと)とは存(ぞん)じませず、071誠(まこと)に以(もつ)て御(ご)無礼(ぶれい)を致(いた)しました。072サア何(ど)うぞお上(あが)り下(くだ)さいませ。073幸(さいは)ひここに縄梯子(なはばしご)が厶(ござ)いますから、074今(いま)つり下(おろ)します。075どうぞ貴方(あなた)丈(だけ)上(あが)つて下(くだ)さい。076そして治国別(はるくにわけ)はどうなりましたか』
077竜公『最早(もはや)治国別(はるくにわけ)にかまふ必要(ひつえう)はなくなつた。078縄梯子(なはばしご)さへつり下(おろ)したらいいのだ』
079タール『それは真(まこと)に気(き)の毒(どく)な様(やう)、080気(き)の毒(どく)でない様(やう)なことで厶(ござ)いますな。081芋刺(いもざ)しにでもおなりなさつたのですか。082あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
083と云(い)ひながら、084縄梯子(なはばしご)を暗(くら)い陥穽(おとしあな)へ吊(つ)り下(おろ)した。085治国別(はるくにわけ)は縄梯子(なはばしご)を伝(つた)うてトントンと上(のぼ)りゆく。
086タール『ヤア竜公(たつこう)さま、087あゝ結構(けつこう)々々(けつこう)、088怪我(けが)がなくて何(なに)よりでした。089どうぞ私(わたくし)の御(ご)無礼(ぶれい)は平(ひら)に許(ゆる)して下(くだ)さいませ』
090治国別『タールとやら、091拙者(せつしや)は竜公(たつこう)では厶(ござ)らぬ。092治国別(はるくにわけ)だよ』
093タール『ヤア、094これはこれは真(まこと)にはや、095何(なん)ともかとも申上(まをしあ)げられませぬ。096マンマンマンお目出度(めでた)う厶(ござ)います。097そして竜公(たつこう)は何(ど)うなりましたか』
098治国別『ウン、099竜公(たつこう)は都合(つがふ)好(よ)くなつた。100マア大丈夫(だいぢやうぶ)だよ』
101タール『それはマア可哀相(かあいさう)なことを致(いた)しました。102沢山(たくさん)に血(ち)が出(で)ましただらうな』
103治国別『ウン、104今(いま)に幽霊(いうれい)となつて、105井戸(ゐど)の底(そこ)から青(あを)い火(ひ)をとぼし、106ヒユーとやつて来(く)るだらうよ』
107 此(この)時(とき)早(はや)くも竜公(たつこう)は穴(あな)の口(くち)へ九分(くぶ)ばかり登(のぼ)つて来(き)てゐた。108そして両人(りやうにん)の話(はなし)を小耳(こみみ)にはさみ、109俄(にはか)に幽霊(いうれい)気分(きぶん)となつて、110目(め)をクルリとむき、111口(くち)をポカンと開(あ)け、112舌(した)をたらし、113腰(こし)をフニヤフニヤさせ、114両手(りやうて)を力(ちから)なげにグナリと前(まへ)に突出(つきだ)し、
115竜公『恨(うら)めしや』
116と妙(めう)な声(こゑ)を絞(しぼ)り出(だ)した。117タールは、
118タール『キヤツ』
119と其(その)場(ば)に尻餅(しりもち)をつき、
120タール『アヽヽヽヽ』
121と口(くち)をあけて慄(ふる)うてゐる。
122治国別『アハヽヽヽ、123オイ、124タールさま、125嘘(うそ)だ嘘(うそ)だ。126竜公(たつこう)が悪戯(いたづら)をしてゐるのだ。127オイ竜公(たつこう)、128朝(あさ)つぱらから幽霊(いうれい)も、129根(ね)つからはやらないぞ』
130竜公『オイ、131タール、132実(じつ)の処(ところ)は済(す)まなかつたが、133井戸(ゐど)の底(そこ)から俺(おれ)の言(い)つた事(こと)は皆(みな)嘘(うそ)だ。134地獄(ぢごく)の様(やう)な所(ところ)へ落(おと)されたのだから、135地獄(ぢごく)相応(さうおう)の佯(いつは)りを云(い)つたのだよ。136最早(もはや)井戸(ゐど)の底(そこ)から比(くら)ぶれば、137天国(てんごく)にも比(ひ)すべき、138此(この)平地(へいち)へ上(のぼ)つて来(き)たのだから、139嘘(うそ)佯(いつは)りは云(い)ふこた出来(でき)ない。140サア是(これ)から、141ランチ将軍(しやうぐん)の館(やかた)へさして案内(あんない)をしてくれ』
142タール『ヤ、143それで俺(おれ)も一寸(ちよつと)ばかり安心(あんしん)した。144併(しか)しながら、145そんな所(ところ)へ行(ゆ)かないで、146私(わたし)も一緒(いつしよ)に伴(つ)れて、147宣伝使(せんでんし)様(さま)に逃(に)げて貰(もら)ふ訳(わけ)には行(ゆ)きますまいか。148なモシ治国別(はるくにわけ)様(さま)とやら、149決(けつ)して悪(わる)いこた申(まを)しませぬ、150今(いま)にアークが沢山(たくさん)の軍勢(ぐんぜい)を引連(ひきつ)れて、151貴方(あなた)を召捕(めしと)りに来(く)るに違(ちが)ひありませぬ。152サ早(はや)く引返(ひきかへ)して下(くだ)さい。153其(その)代(かは)り私(わたくし)もお供(とも)さして貰(もら)ひますから』
154治国別『ハヽヽヽヽ、155敵(てき)を見(み)て旗(はた)を捲(ま)き、156矛(ほこ)を納(をさ)めて退却(たいきやく)するといふことはない、157三五教(あななひけう)は目的(もくてき)に向(むか)つては退却(たいきやく)はない。158只(ただ)驀進(ばくしん)あるのみだ』
159 かく話(はな)す所(ところ)へ、160馬(うま)に跨(またが)り、161先頭(せんとう)に立(た)つてやつて来(き)たのはアークであつた。162アークは数十(すうじふ)人(にん)の騎士(きし)を引連(ひきつ)れ、163轡(くつわ)を並(なら)べてバラバラと治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)を取囲(とりかこ)み、
164アーク『三五教(あななひけう)の治国別(はるくにわけ)とやら、165最早(もはや)かうなつては叶(かな)ふまい。166サ尋常(じんじやう)に手(て)をまはし、167縛(ばく)につけ。168ランチ将軍(しやうぐん)の御前(みまへ)に引連(ひきつ)れくれむ』
169と大音声(だいおんじやう)に呼(よ)ばはつた。
170治国別(はるくにわけ)は平然(へいぜん)として、
171治国別『イヤ、172アークとやら、173出迎(でむか)へ大儀(たいぎ)、174治国別(はるくにわけ)は汝(なんぢ)が要求(えうきう)なくとも、175堂々(だうだう)とランチ将軍(しやうぐん)に面会(めんくわい)すべく進(すす)んで来(き)たものだ。176必(かなら)ず心配(しんぱい)致(いた)すな、177逃(に)げも隠(かく)れも致(いた)さぬ』
178アーク『左様(さやう)なことを申(まを)して、179吾々(われわれ)に油断(ゆだん)をさせ、180隙(すき)を窺(うかが)ひ、181遁走(とんそう)致(いた)す所存(しよぞん)であらう。182其(その)手(て)は食(く)はぬぞ。183ヤア部下(ぶか)の者(もの)、184治国別(はるくにわけ)を始(はじ)め、185反逆者(はんぎやくしや)の竜公(たつこう)諸共(もろとも)召捕(めしと)れ、186縄(なは)をかけよ』
187と下知(げち)をする。188治国別(はるくにわけ)は平然(へいぜん)として、189天(あま)の数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)するや、190一同(いちどう)の騎士(きし)は身体(しんたい)強直(きやうちよく)し如何(いかん)ともするに由(よし)なく、191パタリパタリと馬上(ばじやう)より椿(つばき)の花(はな)が雨(あめ)にあうて落(お)ちるが如(ごと)く、192地上(ちじやう)に顛倒(てんたう)し始(はじ)めた。193アークも馬上(ばじやう)から真逆(まつさか)様(さま)に転落(てんらく)し、194治国別(はるくにわけ)の脚下(あしもと)に大(だい)の字(じ)になつて、195ふん伸(の)びて了(しま)つた。196治国別(はるくにわけ)は竜公(たつこう)に向(むか)ひ、197天(あま)の数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)せしめた。198竜公(たつこう)は稍(やや)心中(しんちう)に不安(ふあん)を感(かん)じながら、199一生(いつしやう)懸命(けんめい)になつて天(あま)の数歌(かずうた)を二回(にくわい)ばかり奏上(そうじやう)した。200不思議(ふしぎ)や一同(いちどう)の騎士(きし)はすこしの怪我(けが)もなく強直(きやうちよく)した身体(しんたい)は元(もと)に復(ふく)し、201手早(てばや)く又(また)馬(うま)に跨(またが)り、202駒(こま)に鞭(むちう)ち、203一生(いつしやう)懸命(けんめい)、204疾風(しつぷう)の如(ごと)く陣屋(ぢんや)をさして逃(に)げ帰(かへ)り行(ゆ)く。205後(あと)に残(のこ)るはアーク只(ただ)一人(ひとり)、206何(ど)うしたものか、207身体(からだ)の自由(じいう)が利(き)かない。
208竜公『神(かみ)様(さま)、209有難(ありがた)う厶(ござ)います。210私(わたくし)の様(やう)な悪党(あくたう)が尊(たふと)き数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)致(いた)しまして、211即座(そくざ)に効験(かうけん)を現(あら)はし下(くだ)さいましたのは、212全(まつた)く神(かみ)様(さま)の御恵(みめぐみ)御稜威(みいづ)と存(ぞん)じます。213決(けつ)して竜公(たつこう)の力(ちから)では厶(ござ)いませぬ。214どうぞ此(この)上(うへ)益々(ますます)厚(あつ)く私(わたくし)の身体(からだ)を御(ご)使用(しよう)下(くだ)さいます様(やう)にお願(ねが)ひ致(いた)します。215就(つ)いては此(この)アーク一人(ひとり)のみ、216まだ言霊(ことたま)の神徳(しんとく)を頂(いただ)かずに、217此(この)通(とほ)り強直(きやうちよく)状態(じやうたい)になつて居(を)ります。218どうぞ之(これ)も私(わたくし)の口(くち)を通(とほ)してお救(すく)ひ下(くだ)さいます様(やう)、219御(お)願(ねが)ひ致(いた)します。220あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
221と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に合掌(がつしやう)する。222何程(なにほど)祈(いの)つても、223数歌(かずうた)を奏上(そうじやう)しても、224アークの強直(きやうちよく)状態(じやうたい)は旧(もと)に復(かへ)らなかつた。
225竜公『モシ治国別(はるくにわけ)様(さま)、226何(ど)うしたものでせうか、227アーク一人(ひとり)は神(かみ)様(さま)がお許(ゆる)し遊(あそ)ばさぬのでせうかな』
228治国別『ウン、229此(この)アークは治国別(はるくにわけ)に危害(きがい)を加(くは)へむと致(いた)したのだから、230拙者(せつしや)が祈願(きぐわん)致(いた)してやらねば、231駄目(だめ)だらう』
232と云(い)ひながら、233暫(しばら)く暗祈(あんき)黙祷(もくたう)をつづけ、234全身(ぜんしん)に神格(しんかく)の流入(りうにふ)充溢(じういつ)せし時(とき)を窺(うかが)ひ……許(ゆる)す……と一言(ひとこと)を宣(の)れば、235不思議(ふしぎ)やアークの身体(からだ)は旧(もと)に復(ふく)した。236アークは治国別(はるくにわけ)の前(まへ)に跪(ひざまづ)き、237涙(なみだ)をたらしながら、238重々(ぢゆうぢゆう)の無礼(ぶれい)を謝(しや)した。
239治国別『アークとやら、240大変(たいへん)なお骨折(ほねを)りで厶(ござ)つたなア。241併(しか)しながら治国別(はるくにわけ)はお蔭(かげ)に仍(よ)つて此(この)通(とほ)り、242カスリ疵(きず)一(ひと)つ負(お)うて居(を)らねば、243汝(なんぢ)に対(たい)して少(すこ)しも恨(うら)むることはない。244否(いな)寧(むし)ろ神々(かみがみ)様(さま)の御(ご)警告(けいこく)だと思(おも)ひ感謝(かんしや)してゐる。245神(かみ)様(さま)は汝(なんぢ)が手(て)をとほし、246此(この)治国別(はるくにわけ)に、247油断(ゆだん)の大敵(たいてき)たることをお示(しめ)し下(くだ)さつたのであらう。248さすれば汝(なんぢ)は吾(われ)に対(たい)して、249唯一(ゆゐいつ)の導師(だうし)だ。250大(おほい)に感謝(かんしや)する。251サア、252アーク殿(どの)、253そなたもバラモン軍(ぐん)の中(うち)に於(おい)て、254可(か)なり相当(さうたう)の地位(ちゐ)を持(も)つてゐる人物(じんぶつ)らしい。255さぞ陣中(ぢんちう)にも御用(ごよう)もあらう。256早(はや)く帰(かへ)つて治国別(はるくにわけ)即刻(そくこく)ランチ将軍(しやうぐん)に面会(めんくわい)の為(ため)、257参上(さんじやう)致(いた)すと伝(つた)へてくれ』
258アーク『ハイ、259何(なん)とも申上(まをしあ)げ様(やう)が厶(ござ)いませぬ。260併(しか)しながら私(わたくし)はこれより仰(あふ)せに従(したが)ひ、261ランチ将軍(しやうぐん)の前(まへ)に罷(まか)り出(い)で、262三五教(あななひけう)の教理(けうり)を申上(まをしあ)げ、263一(いち)時(じ)も早(はや)く貴方(あなた)の前(まへ)に降服(かうふく)致(いた)す様(やう)取計(とりはか)らひませう。264然(しか)らば御免(ごめん)下(くだ)さいませ』
265といふより早(はや)く駒(こま)に跨(またが)り、266一鞭(ひとむち)あてて雲(くも)を霞(かすみ)と陣中(ぢんちう)指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
267竜公『ハヽヽヽヽ、268たうとうアークの大将(たいしやう)、269ヘコたれよつたな。270併(しか)しマア偉相(えらさう)にランチ将軍(しやうぐん)を改心(かいしん)させるなんて、271御託(がふたく)を云(い)つて行(ゆ)きよつたが、272彼奴(あいつ)も駄目(だめ)だ。273そばへゆくと、274猫(ねこ)の前(まへ)へ出(で)た鼠(ねづみ)のやうにピリピリふるうて、275何(なに)もよう云(い)はないのだからなア。276ランチ将軍(しやうぐん)の目(め)の動(うご)き方(かた)や顔(かほ)の色(いろ)ばかり考(かんが)へて、277ハートに浪(なみ)を立(た)たせる代物(しろもの)だから、278到底(たうてい)成功(せいこう)は覚束(おぼつか)ない。279別(わか)れる時(とき)のお正(しやう)月(ぐわつ)言葉(ことば)だ。280キツとランチ将軍(しやうぐん)の後(うしろ)について、281治国別(はるくにわけ)征伐(せいばつ)なんて、282洒落(しやれ)てやつて来(く)るでせうよ。283宣伝使(せんでんし)様(さま)、284決(けつ)して油断(ゆだん)はなりませぬで、285あゝいふことはバラモン教(けう)一般(いつぱん)の常套(じやうたう)手段(しゆだん)ですからなア』
286治国別『ウン、287さうかも知(し)れないが、288吾々(われわれ)は決(けつ)して人(ひと)を疑(うたが)ふこた出来(でき)ない。289何事(なにごと)も惟神(かむながら)に任(まか)しておけばいいのだ』
290タール『オイ竜公(たつこう)さま、291さう見(み)くびつたものぢやないよ。292バラモン教(けう)の中(なか)にもチツとは骨(ほね)もあり、293花(はな)も実(み)もある人物(じんぶつ)も交(ま)ぜつてゐるからな。294アークは此(この)頃(ごろ)、295バラモン教(けう)軍(ぐん)の中(うち)で、296一種(いつしゆ)の決死隊(けつしたい)ともいふべき団体(だんたい)を作(つく)つてるのだ』
297竜公『有名(いうめい)無実(むじつ)の団体(だんたい)が幾(いく)らあつたつて、298役(やく)に立(た)つものかい。299そんなことを云(い)つて空威張(からゐば)りをするのだらう。300コケ威(おど)した、301曰(いは)く何々団(なになにだん)、302曰(いは)く何々会(なになにくわい)と、303雨後(うご)の筍(たけのこ)ほどにそこら中(ぢう)に奇々(きき)怪々(くわいくわい)な会(くわい)が創立(さうりつ)されるが、304宣言(せんげん)は立派(りつぱ)でも実行(じつかう)が出来(でき)るためしはないぢやないか。305そしてアークの創立(さうりつ)した会(くわい)はどんな会(くわい)だ、306法螺(ほら)の貝(かひ)か、307溝(どぶ)の貝(かひ)か、308どうでロクなものぢやなからう』
309タール『馬鹿(ばか)云(い)ふな、310吾々(われわれ)国士(こくし)がよつて、311国士会(こくしくわい)といふものを作(つく)り、312最善(さいぜん)のベストを尽(つく)してゐるのだ』
313竜公『ハハア、314まつくろけになつて死(し)ぬ黒死病(こくしびやう)の会(くわい)だな。315ウンそれで分(わか)つた、316ペストを尽(つく)すのだ。317それよりもバラモン省(しやう)へ掛合(かけあ)つて、318一匹(いつぴき)の鼠(ねづみ)を十銭(じつせん)づつに買上(かひあ)げさせさへすりや、319それの方(はう)が余程(よつぽど)近道(ちかみち)だよ』
320タール『貴様(きさま)にはテンデ話(はなし)が出来(でき)ないワ。321国士会(こくしくわい)と云(い)つたら、322国家(こくか)を憂(うれ)ふる志士(しし)の団体(だんたい)だ』
323竜公『獅子(しし)か虎(とら)か狼(おほかみ)か豹(へう)か鼠(ねづみ)か知(し)らぬが、324どうでロクな奴(やつ)の集(あつ)まる団体(だんたい)ぢやなからう、325アークが発頭人(ほつとうにん)だと聞(き)いちや、326余(あま)り信用(しんよう)も出来(でき)ぬぢやないか。327そして何(なに)か会(くわい)の趣意書(しゆいしよ)でも出来(でき)てゐるのか』
328タール『先(ま)づ不平党(ふへいたう)の張本人(ちやうほんにん)アークさまが主唱者(しゆしやうしや)で、329おれ達(たち)が賛助員(さんじよゐん)だ。330此(この)趣意書(しゆいしよ)を一寸(ちよつと)拝読(はいどく)してみよ』
331と得意気(とくいげ)に懐(ふところ)から小(ちひ)さい印刷物(いんさつぶつ)を取出(とりだ)して見(み)せた。332竜公(たつこう)は手(て)に取(と)り、333趣意書(しゆいしよ)を読(よ)み下(くだ)せば左(さ)の文章(ぶんしやう)が書(か)いてある。
 
334 趣意書(しゆいしよ)
335 国事(こくじ)日(ひ)に非(ひ)なれども、336天下(てんか)一人(いちにん)の聴従(ちやうじゆう)すべき権威者(けんゐしや)なし、337所謂(いはゆる)慨世(がいせい)の士(し)、338口(くち)を開(ひら)けば思想(しさう)の変化(へんくわ)を言(い)ひ、339思想(しさう)に対(たい)するには思想(しさう)を以(もつ)てせざる可(べか)らざるを説(と)く、340其(その)言(げん)や不可(ふか)なしと雖(いへど)も、341漫然(まんぜん)たる抽象論(ちうしやうろん)は此(この)際(さい)寸効(すんかう)なし。342況(いは)んや公党(こうたう)公人(こうじん)相率(あひひき)ゐて世(よ)を欺(あざむ)き、343己(おのれ)を欺(あざむ)き、344只(ただ)自(みづか)ら守(まも)るに急(きふ)にして、345心術(しんじゆつ)の陋劣(ろうれつ)を暴露(ばくろ)して憚(はばか)らず、346益々(ますます)思想(しさう)の変化(へんくわ)を助長(じよちやう)しつつあるに於(おい)ておや。347吾々(われわれ)国民(こくみん)は寧(むし)ろ百(ひやく)人(にん)の論客(ろんかく)よりも一(いち)人(にん)の志士(しし)の立(た)つべきを思(おも)ふ。348それ難(なん)に赴(おもむ)くは士(し)の本領(ほんりやう)なり、349大(だい)にしては天下(てんか)国家(こくか)の難(なん)、350小(せう)にしては一地方(いちちはう)一個人(いちこじん)の難(なん)、351吾(わが)党(たう)の士(し)は苟(いやし)くも辞(じ)せず、352身(み)を挺(てい)して之(これ)を救(すく)はむことを欲(ほつ)す。353もし吾(わが)党(たう)の士(し)一度(ひとたび)立(た)つて解決(かいけつ)せざる案件(あんけん)あらば、354そは士道(しだう)の汚辱(をじよく)たらむのみ。355何(なん)とならば吾(わが)国士会(こくしくわい)は名(な)正(ただ)しからざれば、356断(だん)じて立(た)たず、357誓約(せいやく)十則(じつそく)に示(しめ)すが如(ごと)く、358悉(ことごと)く士道(しだう)に率由(そつゆう)して行動(かうどう)すればなり、359敢(あへ)て天下(てんか)に宣(せん)す。
360  年(ねん) 月(ぐわつ) 日(ひ)
361      国士会(こくしくわい)
 
362 十則(じつそく)
363一、364国士(こくし)はバラモン教(けう)男子(だんし)たることを誇(ほこ)りとす。
365二、366国士(こくし)は難(なん)に赴(おもむ)くを以(もつ)て本領(ほんりやう)とす、367但(ただ)し時処位(じしよゐ)によるべし。
368三、369国士(こくし)は誓(ちか)つて無名(むめい)の戦(たたか)ひを宣(せん)せず。370但(ただ)しランチ将軍(しやうぐん)の命(めい)なれば敢(あへ)て辞(じ)せず。
371四、372国士(こくし)は対者(たいしや)の為(ため)に計(はか)つて忠(ちう)なるを期(き)す。373但(ただし)三五教(あななひけう)に対(たい)しては此(この)限(かぎ)りにあらず。
374五、375国士(こくし)は本来(ほんらい)の敵(てき)を有(いう)せず、376故(ゆゑ)に勝敗(しようはい)に超越(てうゑつ)す。377(河鹿(かじか)峠(たうげ)の言霊戦(ことたません)に於(お)ける吾(わが)軍(ぐん)の行動(かうどう)は其(その)好適例(かうてきれい)なり)
378六、379国士(こくし)は一諾(いちだく)が一死(いつし)に値(あたひ)するも悔(く)いず、380但(ただ)し最愛(さいあい)の女性(ぢよせい)に限(かぎ)る。
381七、382国士(こくし)は精神(せいしん)を主(しゆ)とし、383形式(けいしき)を従(じゆう)とす。384但(ただ)しバラモン軍中(ぐんちう)に在(あ)りては、385或(あるひ)は適用(てきよう)せざることあるべし。
386八、387国士(こくし)は過去(くわこ)を追(お)はず未来(みらい)を信(しん)ず、388但(ただし)バラモン教(けう)の大棟梁(だいとうりやう)大黒主(おほくろぬし)の最後(さいご)は必(かなら)ずしも光明(くわうみやう)ならざることを。
389九、390国士(こくし)は無意義(むいぎ)なる一日(いちじつ)を天(てん)に恥(は)づ、391但(ただし)酒宴(しゆえん)の時(とき)は仮令(たとへ)三日(みつか)四日(よつか)たりとも之(これ)を恥(は)づることなし。
392十、393国士(こくし)は一(いち)人(にん)の知己(ちき)を有(いう)すれば足(た)れり、394但(ただ)し異性(いせい)なれば最(もつと)もよしとなす。
 
395竜公『なアんだ、396立派(りつぱ)なことを並(なら)べてゐるが但書(ただしがき)がサツパリ駄目(だめ)ぢやないか。397これだからバラモン式(しき)は当(あて)にならないといふのだ。398羊頭(やうとう)をかかげて狗肉(くにく)を売(う)るのだからなア』
399タール『これが現代(げんだい)の処世法(しよせいほふ)の最優秀(さいいうしう)なる手段(しゆだん)だ。400バラモン教(けう)の真髄(しんずゐ)をうがつたものだ、401之(これ)でなくちや世(よ)の中(なか)が渡(わた)れないからな』
402竜公『アハヽヽヽ、403モシ先生(せんせい)、404どうです、405国士会(こくしくわい)も、406随分(ずゐぶん)奇抜(きばつ)なことを云(い)ふぢやありませぬか』
407治国別『ウン結構(けつこう)だ、408詐(いつは)らざるバラモンの告白(こくはく)だ。409イヤもう感心(かんしん)致(いた)した』
410竜公『私(わたし)だつたら、411こんな会(くわい)へは入会(にふくわい)しませぬな。412エキスキユーズ・ミー………とやりますよ』
413治国別『ハヽヽヽヽ、414ドラ行(ゆ)かう。415タールさまに案内(あんない)して貰(もら)はうかなア。416否(いな)国士会(こくしくわい)の賛助員(さんじよゐん)さま、417御(ご)先導(せんだう)を願(ねが)ひます』
418竜公(たつこう)『国士会(こくしくわい)員(いん)万歳(ばんざい)、419アハヽヽヽ』
420 かく笑(わら)ひ興(きよう)じながら、421治国別(はるくにわけ)外(ほか)二人(ふたり)は浮木(うきき)の村(むら)の陣屋(ぢんや)を指(さ)して、422宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひながら、423朝露(あさつゆ)をふんで勢(いきほひ)よく進(すす)み行(ゆ)く。
424(大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 松村真澄録)
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