治国別は竜公をいたわった。見れば穴の上にはタールがいる。竜公は、タールはもともとは人間のいい奴だから、善悪どちらにも傾くというと、治国別はタールの説得を竜公に命じた。
竜公は、自分はわざと治国別のところに入り込んで、ここまで宣伝使をおびきよせたのだ、と呼びかけて梯子を下ろさせた。しかし梯子から上がってきたのは治国別であった。治国別は、竜公は幽霊となったと言っておいて、後から竜公が上がってきてタールをおどかし、からかった。
タールは、今にアークが大勢の軍勢を連れてやってくるから、今のうちに逃げた方がよい、自分も供としてついていくから、と心配するが、治国別は笑って取り合わない。
そのうちにアークが数十人の騎士を引き連れてやってきて、治国別一行を取り囲んだ。アークは召し捕るように下知するが、治国別が天の数歌を奏上すると一同は身体が強直して馬上から転倒してしまった。
治国別は今度は、竜公に天の数歌を奏上させた。すると騎士たちは少しの怪我もなく身体は元に戻った。騎士たちは手早く馬にまたがって逃げ帰って行く。
後にはアークただ一人、どうしたものか体の自由がきかない。竜公がなにほど祈っても、アークの強直状態は直らなかった。治国別は、アークは自分に危害を加えようとしたから、自分が祈願してやらなければだめだろうと言って、暗祈黙祷した上で許す、と一言述べた。
アークの体は元に戻り、アークは治国別の前にひざまづいて涙を流しながら重々の無礼を謝した。治国別は自分はかすり傷一つ負っておらず、神の警告を示してくれた導師だと答えた。
そしてアークに、ランチ将軍への面会を依頼した。アークは感謝を現し、ランチ将軍に三五教への降伏を進めるように取り計らうと述べると、駒にまたがって陣中に帰って行った。
どうせランチ将軍の前に出たら前言を撤回してまたバラモン教に逆戻りするだろうと竜公が批評した。タールは、このごろアークはバラモン軍の中で決死隊を組織しているほど骨がしっかりしてきていると弁護した。
竜公が、そのアークが組織したという「国士会」の会則を見せてもらうと、立派な趣意書が書かれていたが、後に決意が骨抜きになるような但し書きが並んでいた。それを見て治国別と竜公は笑った。
二人はタールに案内されて、浮木の村の陣屋を指して宣伝歌を歌いながら進んで行く。