霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 乱痴(らんち)将軍(しやうぐん)〔一二三七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻 篇:第1篇 浮木の盲亀 よみ(新仮名遣い):うききのもうき
章:第4章 乱痴将軍 よみ(新仮名遣い):らんちしょうぐん 通し章番号:1237
口述日:1923(大正12)年01月08日(旧11月22日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月6日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
ランチ将軍は、治国別を陣中に迎え入れてこの強敵を滅ぼそうと煩悶苦悩している最中であった。宣伝使の危難にも、部下たちはお祭り気分で喜楽に相撲を取ってさざめきあっていた。
陣屋の奥でランチ将軍、片彦将軍、治国別が酒を酌み交わして宴の最中、あわただしくエキスがやってきた。そして、竜公が三五教に寝返ったことを奏上し、彼を捕えたいと願い出た。
ランチ将軍は、すでに三五教とは和睦がなったと言って治国別を紹介し、竜公にも酒をふるまったらよいと鷹揚なところを見せた。竜公の様子を尋ねられたエキスは、相撲を取って実は竜公に負けたことを遠回しに白状した。そこへ竜公がやってきた。
ランチ将軍と片彦将軍は、竜公を宴に招き入れた。酒に酔った治国別と竜公は、奥の間で休むようにとランチ将軍と片彦将軍に誘われ、奥座敷に案内された。しかしこの居間は罠であり、二人は地下の水牢に落ち込んでしまった。
二人は岩窟に頭を打って気絶してしまう。ランチ将軍、片彦将軍、エキスは手を打って愉快気に笑い散らした。ランチ将軍、片彦将軍はエキスに命じて怪しの森に張り込ませ、ひとつには三五教の宣伝使の通過を見張り、ひとつには美人を捕えて陣中に連れてくるように言いつけた。
ランチ将軍と片彦将軍は、宿敵治国別を捕えることができたのもアークとタールの功績だと、奨励のために二人を昇進させ、一切万事の相談をする幹部に抜擢した。しかしこのとき、二人はすでに心機一転して内心三五教の信者となっていたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-04-12 17:18:01 文字数:4257 OBC :rm4704
愛善世界社版:60頁 八幡書店版:第8輯 493頁 修補版: 校定版:62頁 普及版:28頁 初版: ページ備考:
001 馬(うま)は君(きみ)の危急(ききふ)を知(し)らず、002鷹(たか)は悪人(あくにん)の頭上(づじやう)を飛(と)ぶとかや、003ランチ将軍(しやうぐん)、004片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)は、005イソ館(やかた)の攻撃戦(こうげきせん)の容易(ようい)ならざるに頭(あたま)を悩(なや)まし、006反間(はんかん)苦肉(くにく)の策(さく)を弄(ろう)して漸(やうや)く治国別(はるくにわけ)を陣中(ぢんちう)に迎(むか)へ入(い)れ、007如何(いか)にもして此(この)強敵(きやうてき)を亡(ほろ)ぼさむかと煩悶(はんもん)苦悩(くなう)の最中(さいちう)にも拘(かか)はらず、008部下(ぶか)の木端(こつぱ)武者(むしや)共(ども)は、009お祭(まつ)り気分(きぶん)になつて気楽(きらく)相(さう)に相撲(すまふ)をとり、010さざめき合(あ)うて居(ゐ)る。
011 陣屋(ぢんや)の奥(おく)の間(ま)にはランチ将軍(しやうぐん)、012片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)を始(はじ)め治国別(はるくにわけ)の三(さん)人(にん)、013和気(わき)靄々(あいあい)として酒(さけ)酌(く)み交(かは)し、014和睦(わぼく)の宴(えん)に耽(ふけ)つてゐる。015そこへ慌(あわただ)しくやつて来(き)たのは力強(ちからづよ)の相撲(すもう)好(ず)きのエキスであつた。
016エキス『エー、017将軍(しやうぐん)様(さま)に申(まを)し上(あ)げます。018只今(ただいま)竜公(たつこう)が三五教(あななひけう)へ寝返(ねがへ)りを打(う)ち、019其(その)スパイとなつて、020吾(わが)陣中(ぢんちう)へ舞(ま)ひ込(こ)んで参(まゐ)りました。021彼奴(あいつ)は御存(ごぞん)じの通(とほ)り中々(なかなか)の力強(ちからづよ)で厶(ござ)りますれば、022到底(たうてい)一通(ひととほ)りではとつ捉(つか)まへる訳(わけ)には参(まゐ)りますまいから、023何卒(どうぞ)貴方(あなた)の御(ご)秘蔵(ひざう)の曲輪(まがわ)を暫(しばら)くお貸(か)し下(くだ)さいますまいか。024其(その)曲輪(まがわ)によつて彼(かれ)をフン縛(じば)り、025一伍(いちぶ)一什(しじふ)を白状(はくじやう)させねば、026駄目(だめ)ですからな』
027ランチ『何(なに)、028竜公(たつこう)が……三五教(あななひけう)のスパイになつたとな。029アハヽヽヽ、030決(けつ)して案(あん)ずるには及(およ)ばぬ。031現(げん)に三五教(あななひけう)の御(おん)大将(たいしやう)、032治国別(はるくにわけ)様(さま)は此(この)通(とほ)り吾々(われわれ)と和睦(わぼく)を遊(あそ)ばし、033主客(しゆきやく)打(う)ち解(と)けて酒宴(しゆえん)の最中(さいちう)だ。034それよりも竜公(たつこう)を大切(たいせつ)に致(いた)して、035酒(さけ)でもふれまつたら宜(よ)からう』
036エキス『ヤー、037之(これ)は失礼(しつれい)致(いた)しました。038そこに厶(ござ)るのは、039噂(うはさ)に高(たか)き治国別(はるくにわけ)様(さま)で厶(ござ)りましたか。040これはこれは存(ぞん)ぜぬ事(こと)とて御(ご)無礼(ぶれい)を申(まを)しました』
041治国別『アー、042竜公(たつこう)さまは如何(どう)してゐられますかな』
043エキス『ハイ、044大変(たいへん)な元気(げんき)で相撲(すもう)をとつてゐられます。045実(じつ)の処(ところ)は、046私(わたし)も今(いま)一勝負(ひとしようぶ)して来(き)たところです』
047治国別『貴方(あなた)も随分(ずゐぶん)立派(りつぱ)な体格(たいかく)だが強(つよ)いでせうな。048竜公(たつこう)さまとの勝負(しようぶ)は、049如何(どう)なりましたか』
050エキス『ハイ、051い……いや……もう、052とんと……何(なん)で厶(ござ)ります』
053治国別『ハヽア、054何(いづ)れ劣(おと)らぬ竜虎(りうこ)の争(あらそ)ひ、055要(えう)するに行司(ぎやうじ)の預(あづか)りと云(い)ふ処(ところ)ですかな。056まアまア分(わ)けをとつておけば互(たがひ)に恨(うら)みが残(のこ)らいで結構(けつこう)ですよ。057アハヽヽヽ』
058エキス『ヘー、059その、060……エー、061……何(なん)で厶(ござ)ります。062つひ、063馬(うま)に蹴(け)られまして、064マーケタと云(い)ふのですな』
065治国別『うまく云(い)ひますね。066二番(にばん)勝負(しようぶ)でしたか、067一番(いちばん)勝負(しようぶ)でしたか』
068エキス『ハイ、069一番(いちばん)と云(い)へば一番(いちばん)、070二番(にばん)と云(い)へば二番(にばん)ですな。071真中(まんなか)で水(みづ)を入(い)れたものですから、072先(さき)の一番(いちばん)は拙者(せつしや)が負(ま)けました。073後(あと)の一番(いちばん)は先方(むかふ)が勝(か)ちましたよ』
074 ランチ外(ほか)二人(ふたり)は、
075ランチ他二人『アハヽヽヽ』
076と大口(おほぐち)を開(あ)けて笑(わら)ふ。
077ランチ『おい、078エキス、079まア一杯(いつぱい)やつたら如何(どう)だ』
080エキス『(都々逸(どどいつ))相撲(すまふ)にや負(ま)けても怪我(けが)さへなけりや
081   ランチ将軍(しやうぐん)が酒(さけ)飲(の)ます
082アハヽヽヽいや有難(ありがた)う厶(ござ)ります。083此(この)頃(ごろ)は何(なん)と云(い)つても政府(せいふ)が物価(ぶつか)調節(てうせつ)、084下落(げらく)の方針(はうしん)を採(と)つてゐるのですから、085まけさへすればいいのです。086負(ま)けて勝取(かちと)ると云(い)ふ事(こと)がありますからな。087吾々(われわれ)共(ども)から範(はん)を示(しめ)さなくちや、088如何(どう)しても不良(ふりやう)商人(せうにん)が暴利(ばうり)を貪(むさぼ)つて仕方(しかた)がありませぬからな』
089片彦(かたひこ)『アハヽヽヽ、090負惜(まけをし)みの……何処(どこ)までも強(つよ)い男(をとこ)だな』
091エキス『将軍(しやうぐん)さま、092貴方(あなた)だつて負(ま)けるのは上手(じやうづ)でせう。093治国別(はるくにわけ)さまの言霊戦(ことたません)に向(むか)つた時(とき)は何(ど)うでしたな。094エヘヽヽヽ』
095片彦『和睦(わぼく)の済(す)んだ上(うへ)は河鹿(かじか)峠(たうげ)の事(こと)は云(い)はない様(やう)にして呉(く)れ。096勝敗(しようはい)は時(とき)の運(うん)だからな』
097 かかる所(ところ)へ竜公(たつこう)とタールは軍扇(ぐんせん)を持(も)つたまま恐(おそ)る恐(おそ)る進(すす)み来(きた)り、
098竜公(たつこう)『一寸(ちよつと)将軍(しやうぐん)様(さま)に伺(うかが)ひますが、099治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)はお見(み)えになつて居(を)りますか』
100と戸(と)の外(そと)から尋(たづ)ねて居(ゐ)る。
101片彦(かたひこ)『さう云(い)ふ声(こゑ)は竜公(たつこう)ぢやないか。102何処(どこ)をうろついてゐたのだ。103まア這入(はい)れ』
104竜公『はい、105御免(ごめん)を蒙(かうむ)ります』
106と云(い)ひながら戸(と)をガラリと開(あ)けて、107タールと共(とも)につかつかと進(すす)み入(い)り、
108竜公(たつこう)『まだ新年(しんねん)に早(はや)う厶(ござ)りますが、109皆(みな)さま、110まけましてお目出度(めでた)う厶(ござ)ります』
111片彦(かたひこ)『馬鹿(ばか)!』
112竜公『いえいえ、113エー……誤解(ごかい)して貰(もら)つちや困(こま)ります。114実(じつ)は只今(ただいま)馬場(ばんば)に於(おい)て此処(ここ)に居(ゐ)ます此(この)エキスの関取(せきとり)と格闘(かくとう)をやりました処(ところ)、115脆(もろ)くもエキスが負(ま)けましたので、116エキス君(くん)に対(たい)して御(ご)挨拶(あいさつ)を申(まを)し上(あ)げたので厶(ござ)ります』
117ランチ『アハヽヽヽ、118片彦(かたひこ)さま、119何事(なにごと)も、120もう此(この)上(うへ)は水(みづ)に流(なが)すのだな』
121片彦『仕方(しかた)がありませぬ。122常(つね)ならば許(ゆる)し難(がた)き代物(しろもの)ですが、123今日(けふ)は和睦(わぼく)の祝(いはひ)に忘(わす)れてやりませう。124おい竜公(たつこう)、125貴様(きさま)は余程(よほど)幸福者(しあはせもの)だ』
126竜公『本当(ほんたう)にお察(さつ)しの通(とほ)り私(わたし)は幸福者(しあはせもの)ですよ。127到頭(たうとう)三五教(あななひけう)の言霊(ことたま)を覚(おぼ)えちまつたものですから、128最早(もはや)今日(けふ)となつてはバラモン教(けう)の百(ひやく)人(にん)や千(せん)人(にん)位(くらゐ)は、129とつて放(ほ)る位(くらゐ)は何(なん)でもありませぬからな。130エツヘヽヽヽ』
131ランチ『竜公(たつこう)、132久(ひさ)し振(ぶ)りだ。133一杯(いつぱい)やらうかい』
134竜公『ハイ、135有難(ありがた)う。136例(れい)の○○酒(さけ)ぢやありませぬかな』
137ランチ『決(けつ)して鴆毒(ちんどく)は這入(はい)つて居(ゐ)ないよ。138これ此(この)通(とほ)り俺(おれ)が飲(の)んでゐるのだから』
139竜公『成程(なるほど)、140それなら恐(おそ)れながら、141将軍(しやうぐん)様(さま)のお飲(あが)りになつたのを頂(いただ)きませう。142余程(よほど)剣呑(けんのん)ですからな』
143ランチ『心(こころ)の鬼(おに)が身(み)を責(せ)めるのだ。144其(その)方(はう)は余程(よほど)悪(わる)いことを企(たく)んでると見(み)えるな。145心(こころ)に悪(あく)あれば人(ひと)を恐(おそ)るるとか、146又(また)心(こころ)に企(たく)みあれば人(ひと)を疑(うたが)ふと云(い)ふ事(こと)があるぢやないか。147何(なに)か貴様(きさま)は野心(やしん)を包蔵(はうざう)してゐるのだらう』
148竜公『野心(やしん)は貴方(あなた)の方(はう)にあるのでせう。149かうして治国別(はるくにわけ)を此処(ここ)へ導(みちび)いて来(き)たのは、150うまく酒(さけ)に酔(よ)はし、151隙(すき)を狙(ねら)つて○○しようと云(い)ふ考(かんが)へだと云(い)ふ事(こと)はチヤーンと此(この)天眼通(てんがんつう)で調(しら)べてあるのですよ。152此(この)竜公(たつこう)だつて、153最早(もはや)今日(けふ)となつては神(かみ)の神力(しんりき)と智慧(ちゑ)に充(み)たされ、154今迄(いままで)のヒヨツトコ野郎(やらう)とは聊(いささ)か訳(わけ)が違(ちが)ふのですから、155斯様(かやう)な大胆(だいたん)な事(こと)を云(い)つてゐられるのですよ。156一(ひと)つ言霊(ことたま)を発射(はつしや)して御覧(ごらん)に入(い)れませうかな。157エヘヽヽヽ』
158ランチ『しようもない事(こと)を覚(おぼ)えて来(き)たものだな』
159片彦(かたひこ)『何程(なにほど)、160威張(ゐば)つた所(ところ)で駄目(だめ)だらうよ。161そりや大方(おほかた)治国別(はるくにわけ)様(さま)の事(こと)を云(い)つてゐるのだらう。162虎(とら)の威(ゐ)をかる狐(きつね)とは貴様(きさま)の事(こと)だらうよ。163オホヽヽヽ』
164と心中(しんちう)にやや恐(おそ)れながら豪傑(がうけつ)笑(わら)ひに紛(まぎ)らしてゐる。
165治国(はるくに)『いや大変(たいへん)に頂戴(ちやうだい)を致(いた)し酩酊(めいてい)しました。166エー何処(どつ)かで休息(きうそく)さして貰(もら)ひたいものですな』
167ランチ『アー、168大変(たいへん)にお疲(くたぶ)れでせう。169では奥(おく)の間(ま)にユルリと御(ご)休息(きうそく)なさいませ。170やア竜公(たつこう)、171貴様(きさま)も一緒(いつしよ)にお供(とも)して奥(おく)の間(ま)で休(やす)んだら如何(どう)だ』
172竜公『ハイ、173有難(ありがた)う、174治国別(はるくにわけ)様(さま)にグツスリと寝(やす)んで頂(いただ)きまして、175此(この)竜公(たつこう)は万一(まんいち)に備(そな)ふるため、176不寝番(ねずばん)を致(いた)しませう』
177ランチ『おい竜公(たつこう)、178まだ疑(うたが)つてゐるのかな』
179竜公『平生(ふだん)のやり方(かた)が、180やり方(かた)ですから、181何程(なんぼ)和睦(わぼく)をなさつたと云(い)つても、182何(ど)うして油断(ゆだん)が出来(でき)ませうか。183おい、184タール、185貴様(きさま)も俺(おれ)について来(こ)い』
186片彦(かたひこ)『いや、187タールには至急(しきふ)甲付(まをしつ)け度(た)い事(こと)があるから、188竜公(たつこう)一人(ひとり)奥(おく)の間(ま)へ宿直(とのゐ)を致(いた)したがよからう。189さア治国別(はるくにわけ)さま、190案内(あんない)を致(いた)しませう』
191と先(さき)に立(た)つて立派(りつぱ)な一段(いちだん)高(たか)い俄造(にはかづく)りの奥座敷(おくざしき)に案内(あんない)した。
192 此(この)居間(ゐま)は燕返(つばめがへ)しになつて居(ゐ)て、193一(ひと)つ針金(はりがね)を引張(ひつぱ)ると真暗(まつくら)な深(ふか)い穴(あな)に落(お)ち込(こ)む様(やう)になつてゐる。194さうして此処(ここ)は水牢(みづらう)になつてゐる。195治国別(はるくにわけ)、196竜公(たつこう)の両人(りやうにん)は此(この)間(ま)へ足(あし)を踏(ふ)み込(こ)むや否(いな)や、197忽(たちま)ち座敷(ざしき)はクレリと燕返(つばめがへ)しの芸当(げいたう)を演(えん)じ、198真暗(まつくら)な谷底(たにそこ)へ落(お)ち込(こ)んで了(しま)つた。199水(みづ)は一(いつ)尺(しやく)ばかりより溜(たま)つてゐないが、200両人(りやうにん)は岩窟(がんくつ)にいささか頭(あたま)を打(う)ち、201憐(あは)れや忽(たちま)ち気絶(きぜつ)して了(しま)つた。202ランチ将軍(しやうぐん)、203片彦(かたひこ)、204エキスは此(この)場(ば)に走(はし)り来(きた)り、205手(て)を拍(う)つて愉快気(ゆくわいげ)に笑(わら)ひ散(ち)らした。
206片彦(かたひこ)『ヤア、207ランチ殿(どの)、208河鹿(かじか)峠(たうげ)の大物(おほもの)を斯(か)くの如(ごと)く計略(けいりやく)にかけて岩窟内(がんくつない)へ落(おと)した以上(いじやう)は、209最早(もはや)天下(てんか)に恐(おそ)るべきものはありますまい。210サア之(これ)から一杯(いつぱい)やりませう』
211と又(また)もとの座(ざ)へ引返(ひつかへ)し一生(いつしやう)懸命(けんめい)に大(だい)乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎを始(はじ)め出(だ)した。
212ランチ『どうも陣中(ぢんちう)の事(こと)と云(い)ひ、213男(をとこ)ばかりが酒(さけ)を飲(の)んで居(を)つてもはづまぬぢやないか。214片彦(かたひこ)殿(どの)、215部下(ぶか)の奴(やつ)共(ども)に少(すこ)し渋皮(しぶかは)の剥(む)けた女(をんな)を探(さが)さして此処(ここ)へ貢(みつ)がしたら如何(どう)でせう。216もはや治国別(はるくにわけ)を殺(ころ)した以上(いじやう)は大黒主(おほくろぬし)様(さま)へ対(たい)しても云(い)ひ訳(わけ)の立(た)つと云(い)ふもの、217余(あま)り急(いそ)ぐにも及(およ)びますまい。218まづ此処(ここ)で一(いち)年(ねん)ばかり野営(やえい)をして英気(えいき)を養(やしな)ひ、219河鹿(かじか)峠(たうげ)を乗(の)り越(こ)えてイソ館(やかた)へ乗(の)り込(こ)む事(こと)に致(いた)しませう。220何(ど)うせ三五教(あななひけう)は此処(ここ)を通(とほ)らなくちや、221ハルナの都(みやこ)へ行(ゆ)く事(こと)は出来(でき)ませぬから、222一(いち)年間(ねんかん)も女(をんな)なくてはやりきれないでせう』
223片彦『成程(なるほど)、224然(しか)らばエキス、225其(その)方(はう)御(ご)苦労(くらう)ながら二三(にさん)人(にん)の部下(ぶか)を引率(ひきつ)れ怪(あや)しの森(もり)に陣取(ぢんど)り、226一(いつ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の通過(つうくわ)を取調(とりしら)べ、227一(いつ)は美人(びじん)の通過(つうくわ)するあらば有無(うむ)を云(い)はせず、228ひつ捕(と)らへて陣中(ぢんちう)へ連(つ)れ来(く)る様(やう)取計(とりはか)らへよ』
229エキス『ハイ、230委細(いさい)承知(しようち)仕(つかまつ)りました』
231と此処(ここ)にエキスはコー、232ワク、233エム外(ほか)二人(ふたり)を率(ひき)ゐ、234怪(あや)しの森(もり)に守衛(しゆゑい)を命(めい)じおき、235自分(じぶん)は陣中(ぢんちう)を彼方(あちら)此方(こちら)と看守(みまも)りする事(こと)となつた。
236 後(あと)にランチ、237片彦(かたひこ)両将軍(りやうしやうぐん)はクビリクビリと酒(さけ)を傾(かたむ)けながら雑談(ざつだん)に耽(ふけ)つてゐる。
238ランチ『アー、239都合(つがふ)よくいつたものだな。240鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)、241久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)が今日(けふ)の吉報(きつぱう)を聞(き)いたら嘸(さぞ)喜(よろこ)ばれるだらう。242然(しか)し吾々(われわれ)は居(ゐ)ながらにして功名(こうみやう)を樹(た)てたのだから実(じつ)に幸福(しあはせ)だ。243之(これ)と云(い)ふのも、244全(まつた)く大自在天(だいじざいてん)様(さま)の御(ご)神力(しんりき)だ』
245片彦『成程(なるほど)、246全(まつた)く大自在天(だいじざいてん)の御(ご)神力(しんりき)に間違(まちが)ひはありますまい。247之(これ)についてアーク、248タールの両人(りやうにん)も之(これ)から抜擢(ばつてき)してやらねばなりますまい。249一(ひと)つ将軍(しやうぐん)から直接(ちよくせつ)にお盃(さかづき)を与(あた)へておやりなされば、250将来(しやうらい)のため奨励(しやうれい)となつて宜(い)いでせう』
251ランチ『成程(なるほど)、252貴将軍(あなた)の云(い)はるる通(とほ)りアーク、253タールの両人(りやうにん)を此処(ここ)へ呼(よ)び出(だ)しませう』
254 ランチは手(て)を拍(う)つて従卒(じゆうそつ)を招(まね)いた。255従卒(じゆうそつ)ビルは恐(おそ)る恐(おそ)る進(すす)み出(い)で、
256ビル『お呼(よ)びになりましたのは私(わたし)で厶(ござ)りますか』
257ランチ『ウン、258只今(ただいま)アーク、259タールの両人(りやうにん)を之(これ)へ呼(よ)び出(だ)して来(こ)い、260否(いな)引(ひ)き連(つ)れて参(まゐ)れ』
261ビル『ハイ、262承知(しようち)致(いた)しました』
263と此(この)場(ば)を立出(たちい)で、264肩肱(かたひぢ)怒(いか)らし屋外(をくぐわい)に出(い)でて行(ゆ)く。
265 アーク、266タールの両人(りやうにん)は真裸体(まつぱだか)となつて治国別(はるくにわけ)の遭難(さうなん)を知(し)らず土俵(どへう)で四股(しこ)を踏(ふ)んで居(ゐ)る。267そこへビルは鼻高々(はなたかだか)と勅使(ちよくし)気取(きど)りになつて現(あら)はれ来(きた)り、
268ビル『アイヤ、269そこに居(ゐ)るアーク、270タールの両人(りやうにん)、271申渡(まをしわた)す仔細(しさい)がある。272某(それがし)についてランチ将軍(しやうぐん)の御(おん)前(まへ)まで罷(まか)りつん出(で)よ』
273と下知(げち)した。274アーク、275タールの両人(りやうにん)はビルの怪(あや)しきスタイルに吹(ふ)き出(だ)し、
276アーク『アハヽヽヽ将軍(しやうぐん)の従卒(じゆうそつ)だと思(おも)つていやに鯱子張(しやちこば)つて居(ゐ)やがるな。277何(なん)だ、278鉛(なまり)の福助(ふくすけ)人形(にんぎやう)見(み)た様(やう)なスタイルしやがつて「罷(まか)りつん出(で)よ」もあつたものかい。279貴様(きさま)のスタイルこそ古物屋(こぶつや)の店前(みせさき)へ日(ひ)の丸(まる)の扇(あふぎ)を持(も)つて坐(すわ)つてゐる大文字屋(だいもんじや)福助(ふくすけ)ソツクリだ、280アハヽヽヽ笑(わら)はしやがるわい』
281ビル『こりやこりや両人(りやうにん)、282ビルの言葉(ことば)でないぞよ。283勿体(もつたい)なくもランチ将軍(しやうぐん)様(さま)の御(おん)仰(あふ)せだ。284ビルの言葉(ことば)は即(すなは)ちランチ将軍(しやうぐん)の御(お)言葉(ことば)だ。285さあさあキリキリお立(た)ち召(め)され』
286タール『エー、287仕方(しかた)がないなア。288自分(じぶん)より五六段(ごろくだん)も低(ひく)い奴(やつ)に威張(ゐば)り散(ち)らされて、289堪(たま)つたものぢやない。290之(これ)だから宮仕(みやづか)へは嫌(いや)といふのだ。291本当(ほんたう)に木(き)の角杭(かくくひ)の様(やう)な代物(しろもの)に威張(ゐば)り散(ち)らされて何処(どこ)に男(をとこ)が立(た)つものか。292なあアーク』
293アーク『ウン、294さうともさうとも、295然(しか)しながら主命(しゆめい)はもだし難(がた)しだ。296さア行(ゆ)かう』
297 此処(ここ)に二人(ふたり)はビルに導(みちび)かれ、298ランチ将軍(しやうぐん)の居間(ゐま)に進(すす)んだ。299然(しか)しながら此(この)両人(りやうにん)は已(すで)に已(すで)に心機(しんき)一転(いつてん)して、300内心(ないしん)三五教(あななひけう)の信者(しんじや)となつて居(ゐ)た。301二人(ふたり)の心(こころ)が斯(か)くも変(かは)つて居(ゐ)るとは神(かみ)ならぬ身(み)の知(し)る由(よし)もなく、302ランチ、303片彦(かたひこ)両将軍(りやうしやうぐん)は二人(ふたり)を此上(こよ)なきものと愛(め)で慈(いつく)しみ、304一切(いつさい)万事(ばんじ)の相談(さうだん)をなすべく幹部(かんぶ)に抜擢(ばつてき)して了(しま)つたのである。
305(大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 北村隆光録)
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