霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 寒迎(かんげい)〔一二三六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻 篇:第1篇 浮木の盲亀 よみ(新仮名遣い):うききのもうき
章:第3章 寒迎 よみ(新仮名遣い):かんげい 通し章番号:1236
口述日:1923(大正12)年01月08日(旧11月22日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月6日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
治国別は竜公とタールを伴い、浮木の里のランチ将軍の陣営を指して進んで行く。竜公は意気揚々として先に立ち、四方の景色を眺めながら新派口調で歌いだした。
治国別は神の愛と信と智慧証覚にみたされ、強敵の陣営に武器も持たずに進んで行くについても、里帰りするような心持で歌を歌いながら進んでいった。その雄々しさ、悠揚たる態度に感化されて、竜公もタールもすっかり天国旅行の気分になってしまった。
タールは平等愛と差別愛の違いについて、治国別に問いかけた。治国別は、差別愛は偏狭な恋愛のようなもの、平等愛は普遍的の愛、いわゆる神的愛だと簡単に解説し、新派様で歌いだした。
治国別は歌に籠めて、生来の差別愛から神的な平等愛に進む道は、惨憺たる血涙の道をゆかなければならない、と戒めた。そしてもう一首、信仰と法悦の信楽について歌い、それは現代の冷たい哲学や科学の斧によって幻滅の非運にあうような空想的なものではなく、神の持ち給へる愛の善と真の信とによって、智慧と証覚の上に立脚した大磐石心であると諭した。
前方からはランチ将軍が数十人の騎馬隊を引き連れて猛烈にやってきた。先頭に立っていたのはさきほど治国別に膏を絞られて助けられたアークであった。
アークは治国別に丁寧にお辞儀をし、迎えに来たので馬に乗って一緒に来てほしいと懇願した。治国別がランチ将軍はどなたかと尋ねると、将軍は馬を飛び下りて揉み手をしながら現れた。
ランチ将軍は治国別の前に仕立てに出て陣営に迎えようとする。治国別はランチ将軍の言葉を額面通りには信じていなかったが、彼を正道に導く好機と心に定め、差し出された馬にまたがって陣営に入って行った。
竜公とタールは陣営で軍卒どもが取っている相撲に見とれて、治国別が奥へ進んで行ったのに気付かなかった。土俵ではエキスが何人もの軍卒を投げつけて腕を誇っている。竜公は思わず土俵に飛び出し、エキスに挑んだ。
かねて対戦したことのある両者はたがいににらみ合いひとしきり掛け合った後、四股を踏んで潮を投げつけ、四つに組んだ。半時ばかりも組み合う長丁場にさすがのエキスも力尽き、隙をついて竜公がまわしを三辻をたたくと、土俵の中を転がって西のたまりへ転げ落ちてしまった。
エキスは面目をつぶし、裸のまま陣中の奥へ姿を隠した。賞賛の声、拍手の音はあたりもゆるぐばかりであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-04-12 17:53:31 文字数:4162 OBC :rm4703
愛善世界社版:43頁 八幡書店版:第8輯 486頁 修補版: 校定版:44頁 普及版:21頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎全集 > 第二巻 宗教・教育編 > 第六篇 宗教雑感 > 第二章 信仰
001 治国別(はるくにわけ)は竜公(たつこう)、002タールを伴(ともな)ひ、003枯野(かれの)の露(つゆ)を踏(ふ)み分(わ)けて浮木(うきき)の里(さと)に屯(たむろ)せるランチ将軍(しやうぐん)の陣営(ぢんえい)さして進(すす)み行(ゆ)く。004竜公(たつこう)は意気(いき)揚々(やうやう)として先(さき)に立(た)ち、005四方(よも)の景色(けしき)を眺(なが)めながら呂律(ろれつ)も合(あ)はぬ新派(しんぱ)口調(くてう)で歌(うた)ひ出(だ)した。
 
006竜公『月(つき)山(やま)に入(い)らず
007 天(てん)は暁(あ)けざれど
008 雲雀(ひばり)や百鳥(ももどり)の
009 忙(せ)はしき声(こゑ)に励(はげ)まされ
010 眠(ねむ)たき眼(まなこ)を擦(こす)りながら
011 早(はや)くも荒野(あらの)に
012 歩(あゆ)みを起(おこ)しぬ
013○
014 露(つゆ)持(も)つ草葉(くさは)を
015 草鞋(わらぢ)に踏(ふ)めば
016 袖(そで)吹(ふ)くあしたの風(かぜ)は
017 美(うる)はしく薫(かを)りて
018 汗(あせ)を拭(ぬぐ)ひ胸(むね)を洗(あら)ふ
019 旅路(たびぢ)の愉快(ゆくわい)さよ
020 坂照山(さかてるやま)の月(つき)清(きよ)くして
021 松風(まつかぜ)に添(そ)ふ
022 笙(しやう)の音(ね)も
023 いとど床(ゆか)しく聞(きこ)え来(きた)りぬ』
 
024タールは、
025タール『オイ竜公(たつこう)さま、026笙(しやう)もない、027笙(しやう)の音(ね)も何(なに)も聞(きこ)えて居(ゐ)ないぢやないか。028エー、029詩人(しじん)といふものはソンナ嘘(うそ)を言(い)つても良(よ)いのか』
030竜公『そこが詩人(しじん)だよ。031詩(し)といふ字(じ)は言偏(ごんべん)に寺(てら)といふ字(じ)を書(か)くからなア。032寺(てら)は死人(しにん)の行(ゆ)く所(ところ)だ。033笙々(しやうしやう)違(ちが)つた所(ところ)で正味(しやうみ)が面白(おもしろ)ければ可(い)いぢやないか。034どうせ生(い)きたる人間(にんげん)の作(つく)るものぢや無(な)いからな、035半詩(はんし)半笙(はんしやう)の人間(にんげん)か、036又(また)は現世(げんせ)に用(よう)のない老爺(おやぢ)や三文(さんもん)蚊士(ぶんし)の言(い)ふことだ。037俺(おれ)も一寸(ちよつと)詩人(しじん)の真似(まね)をして見(み)たのだ』
038タール『正味(しやうみ)ぢやない、039趣味(しゆみ)のことだらう』
040竜公『正笙(しやうしやう)ぐらゐ違(ちが)つたつて別(べつ)に詩才(しさい)はないぢやないか。041アハヽヽヽ』
042タール『モシ先生(せんせい)、043アノ月(つき)さまも矢張(やは)り詩人(しじん)ですか、044中空(ちうくう)にぶるぶると慄(ふる)へて居(ゐ)るぢやありませぬか。045太陽(たいやう)さへあれば、046月(つき)は必要(ひつえう)のないものですなア。047太陽(たいやう)の光(ひかり)に圧倒(あつたふ)されて追々(おひおひ)と光(ひかり)が弱(よわ)り、048殆(ほとん)ど死(し)んだやうに見(み)えて来(き)たぢやありませぬか』
049治国別『ウン、050さう見(み)えるかな。051それでは一(ひと)つ竜公(たつこう)さまに習(なら)つて、052治国別(はるくにわけ)が詩(し)でも詠(よ)んで見(み)ようかなア。
 
053 数百万(すうひやくまん)年(ねん)の太古(たいこ)から
054 冷(ひ)え切(き)つた死(し)んだ様(やう)な
055 寂(しづ)かな月(つき)が
056 大空(たいくう)に独(ひと)り輝(かがや)いてゐる
057 それは
058 地上(ちじやう)の万有(ばんいう)に
059 瑞光(ずゐくわう)を投(な)げて
060 仁慈(じんじ)の露(つゆ)を
061 蒼生(さうせい)の上(うへ)に降(くだ)し
062 生命(いのち)の清水(しみづ)を
063 与(あた)へむがために
064 和光(わくわう)同塵(どうぢん)の
065 温姿(をんし)を現(げん)じ給(たま)ふためだ
066 月(つき)は盈(み)ち或(あるひ)は虧(か)け
067 或(あるひ)は没(ぼつ)して
068 地上(ちじやう)の世界(せかい)に
069 明暗(めいあん)の神機(しんき)を示(しめ)し
070 仁慈(みろく)の神業(かむわざ)を
071 永遠(ゑいゑん)無窮(むきう)に
072 営(いとな)ませ給(たま)ふからだ
073 人間(にんげん)の眼(まなこ)より
074 冷然(れいぜん)たる月(つき)と見(み)ゆるは
075 温情(をんじやう)内包(ないはう)の摂理(せつり)に
076 その霊光(れいくわう)を隠(かく)させ給(たま)ふためだ。
 
077序(ついで)に今吹(いまふ)く風(かぜ)の音(おと)を詠(よ)んで見(み)よう。
 
078 そよそよと吹(ふ)く
079 風(かぜ)の音(おと)
080 脚歩(きやくほ)の響(ひびき)
081 草葉(くさば)の声(こゑ)を聞(き)けば
082 万物(ばんぶつ)みな
083 こころ有(あ)りて
084 何事(なにごと)か神秘(しんぴ)を
085 心(こころ)暗(くら)き吾(わが)耳(みみ)に
086 語(かた)るあるに似(に)たり』
 
087 治国別(はるくにわけ)は神(かみ)の愛(あい)と信(しん)と智慧(ちゑ)証覚(しようかく)に充(み)たされ、088さしもの強敵(きやうてき)の陣営(ぢんえい)に向(むか)つて武器(ぶき)をも持(も)たず進(すす)み行(ゆ)くについても、089殆(ほとん)ど下女(げぢよ)が春秋(はるあき)の籔入(やぶいり)に親里(おやざと)に帰(かへ)る様(やう)な心持(こころもち)で途々(みちみち)歌(うた)を歌(うた)ひながら進(すす)み行(ゆ)く其(その)雄々(をを)しさ。090竜公(たつこう)もタールも何時(いつ)とはなしに治国別(はるくにわけ)の悠揚(いうやう)迫(せま)らざる態度(たいど)に感化(かんくわ)されて、091すつかり天国(てんごく)の旅行(りよかう)気分(きぶん)になつて了(しま)つた。092タールは、
093タール『もし、094先生(せんせい)様(さま)、095平等愛(びやうどうあい)と差別愛(さべつあい)とは何処(どこ)で違(ちが)ふのでせうか。096差別愛(さべつあい)から平等愛(びやうどうあい)に進(すす)むか、097平等愛(びやうどうあい)から差別愛(さべつあい)に分離(ぶんり)するのでせうか。098私(わたくし)は差別(さべつ)的(てき)平等愛(びやうどうあい)、099平等(べうどう)的(てき)差別愛(さべつあい)だと聞(き)いて居(を)りますが、100どちらから出発点(しゆつぱつてん)を見出(みい)だせば宜(よ)いのでせう』
101治国別『差別愛(さべつあい)とは偏狭(へんけふ)な恋愛(れんあい)の様(やう)なものだ。102平等愛(びやうどうあい)とは普遍(ふへん)的(てき)の愛(あい)だ。103所謂(いはゆる)神的愛(しんてきあい)だ。104今一(いまひと)つ駄句(だく)つて見(み)よう』
105と治国別(はるくにわけ)は、
 
106治国別『生来(せいらい)の差別愛(さべつあい)より
107 神的(しんてき)なる
108 平等愛(びやうどうあい)に進(すす)む径路(けいろ)は
109 実(じつ)に
110 惨憺(さんたん)たる血涙(けつるゐ)の
111 道(みち)を行(ゆ)かねばならぬ
112 これが
113 不断(ふだん)煩悩得(ぼんなうとく)涅槃(ねはん)の
114 有難(ありがた)い消息(せうそく)が秘(ひ)められてあるのだ。
 
115序(ついで)に、116も一首(いつしゆ)信仰(しんかう)と法悦(ほふえつ)の信楽(しんらく)に就(つ)いて駄句(だく)つて見(み)よう。
 
117 信仰(しんかう)によつて
118 不信(ふしん)なる吾人(ごじん)の頑壁(ぐわんぺき)が
119 身心(しんしん)脱落(だつらく)し崩壊(ほうくわい)し去(さ)る時(とき)は
120 神(かみ)の宝座(ほうざ)より
121 吹(ふ)き来(きた)る霊風(れいふう)の鞴(ふいご)に
122 解脱(げだつ)新生(しんせい)の歓喜(くわんき)を為(な)し
123 猛火(まうくわ)も焼(や)く能(あた)はず
124 波浪(はらう)も没(ぼつ)する能(あた)はず底(てい)の
125 金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の法身(ほつしん)
126 おのづから
127 吾(われ)に本具(ほんぐ)現成(ごんじやう)するを
128 自覚(じかく)し得(う)るに至(いた)る
129 その時(とき)こそは
130 百千(ひやくせん)の夏日(かじつ)昇(のぼ)りて
131 一(いち)時(じ)に灼鑠(しやくやく)たるも
132 ただ是(これ)
133 自性(じしやう)法界(ほふかい)を荘厳(さうごん)するの七宝(しつぱう)
134 清浄(しやうじやう)妙心(めうしん)を照映(せうえい)するの
135 摩尼(まに)宝珠(ほつしゆ)なるべきのみだ。
136○
137 吾人(ごじん)が法悦(ほふえつ)の信楽(しんらく)は
138 現代(げんだい)の冷(つめ)たい哲学(てつがく)の鋸(のこぎり)や
139 慧(さか)しい科学(くわがく)の斧(をの)に由(よ)つて
140 忽(たちま)ち幻滅(げんめつ)の悲運(ひうん)に
141 会(あ)ふやうな
142 ソンナ空想(くうさう)的(てき)のものでは無(な)い
143 主(す)の神(かみ)の持(ぢ)し給(たま)へる
144 愛(あい)の善(ぜん)と信(しん)の真(しん)とによつて
145 智慧(ちゑ)と証覚(しようかく)の上(うへ)に
146 立脚(りつきやく)したる大(だい)磐石心(ばんじやくしん)だ』
 
147タール『只今(ただいま)のお歌(うた)によつて、148私(わたくし)も大変(たいへん)に法悦(ほふえつ)の信楽(しんらく)を味(あぢ)はひました。149漸(やうや)く今日(けふ)の日輪(にちりん)様(さま)もお上(あが)りになつたと見(み)え、150坂照山(さかてるやま)の頂(いただき)は大変(たいへん)に明(あか)るく輝(かがや)いて来(き)ました。151一(ひと)つ歌(うた)でも詠(よ)んで見(み)ませう』
152とタールは歌(うた)ふ。
153タール『燃(も)えさかる希望(きばう)に充(み)ちし心(こころ)もて
154昇(のぼ)る旭(あさひ)を拝(をろが)みにけり。
155遠山(とほやま)の峰(みね)は真白(ましろ)し今(いま)はしも
156昇(のぼ)らむとして雲(くも)映(は)え居(を)れり。
157より強(つよ)く生(い)きむと思(おも)ふ吾(わが)前(まへ)に
158昇(のぼ)る旭(あさひ)の大(おほ)いなるかな』
159竜公(たつこう)『山(やま)荒(あ)れて風(かぜ)の捲(ま)きくる郊外(かうぐわい)は
160あたりも見(み)えず雪(ゆき)に暮(く)れけり』
161タール『アハヽヽヽ、162オイ竜公(たつこう)、163寝愡(ねとぼ)けちやいかぬよ、164「雪(ゆき)に暮(く)れけり」とは何(なん)だ。165なぜ「雪(ゆき)に明(あ)けけり」と云(い)はぬのだ』
166竜公『これは昨晩(ゆうべ)の貯蔵品(ちよざうひん)だ。167あんまり永(なが)く貯蔵(ちよざう)しておくと寝息物(ねいきもの)になるから、168先(ま)づ古(ふる)い粗製品(そせいひん)から売(う)つて、169それから又(また)新(あたら)しい奴(やつ)を売(う)り出(だ)すのだ。170あたら名句(めいく)を腹(はら)の中(なか)で腐(くさ)らして了(しま)つちや経済(けいざい)がもてぬからな。171さあ之(これ)からが新規(しんき)蒔直(まきなほ)しだ。
172山(やま)明(あ)けて風(かぜ)そよそよと吹(ふ)く野路(のぢ)は
173あたりも清(きよ)く胸(むね)も静(しづ)けき。
174と宣(の)り直(なほ)すのだ。175エヘン』
176タール『何(なん)と立派(りつぱ)な歌(うた)だなア』
177竜公『まだまだ之(これ)から、178とつときを放(ほ)り出(だ)すのだ、179エヘン。
180厳(おごそ)かに旭(あさひ)を浴(あ)びて坂照山(さかてるやま)の
181高嶺(たかね)は雲(くも)の上(うへ)に聳(そび)ゆる。
182とは如何(どう)だ』
183タール『厳(おごそ)かに生(い)きむとするか気高(けだか)くも
184錦(にしき)の山(やま)は空(そら)に聳(そび)ゆる』
185治国別『いや、186何(いづ)れも秀逸(しういつ)だ。187こんな立派(りつぱ)な詩人(しじん)と同道(どうだう)して居(ゐ)ると治国別(はるくにわけ)も殆(ほとん)ど顔色(がんしよく)なしだ。188さあボツボツと行(ゆ)かうぢやないか』
189 斯(か)く云(い)ひつつ三(さん)人(にん)は朝露(あさつゆ)を踏(ふ)んで枯草(かれくさ)茂(しげ)る野路(のぢ)を進(すす)み行(ゆ)く。190前方(ぜんぱう)よりはランチ将軍(しやうぐん)数十(すうじふ)人(にん)の騎馬隊(きばたい)を引(ひ)き率(つ)れ、191此方(こなた)に向(むか)つて走(はし)り来(きた)る其(その)勢(いきほ)ひ、192山岳(さんがく)も蹴飛(けと)ばすばかりに思(おも)はれた。193先頭(せんとう)に立(た)つたのは最前(さいぜん)治国別(はるくにわけ)に救(すく)はれて逃(に)げたアークである。
194 アークは馬(うま)を飛(と)び下(お)り、195治国別(はるくにわけ)の前(まへ)に進(すす)み寄(よ)り、196叮嚀(ていねい)に会釈(ゑしやく)しながら、
197アーク『先刻(せんこく)はえらい御(ご)厄介(やくかい)に預(あづ)かりまして有難(ありがた)う存(ぞん)じます。198就(つ)きましては、199直様(すぐさま)本陣(ほんぢん)に立帰(たちかへ)り、200将軍(しやうぐん)様(さま)に貴方(あなた)の事(こと)を申上(まをしあ)げた処(ところ)、201将軍(しやうぐん)様(さま)も大変(たいへん)にお喜(よろこ)び遊(あそ)ばしお迎(むか)へに出(で)なくちやなるまいと仰有(おつしや)いまして、202今(いま)此処(ここ)に御(ご)出陣(しゆつぢん)なさいました。203さあ私(わたくし)の馬(うま)に乗(の)つて本陣(ほんぢん)迄(まで)お越(こ)し下(くだ)さいます様(やう)に』
204治国別『やあ、205それは御(ご)苦労(くらう)だつた。206そしてランチ将軍(しやうぐん)殿(どの)は此処(ここ)に居(ゐ)られるのかな』
207アーク『ハイ、208あの金色(きんしよく)燦爛(さんらん)たる軍帽(ぐんばう)を冠(かぶ)つて居(ゐ)られますのが将軍(しやうぐん)様(さま)で厶(ござ)います』
209治国別『いや何(なん)と立派(りつぱ)な服装(ふくさう)だな。210然(しか)らば一(ひと)つ御(ご)挨拶(あいさつ)を致(いた)さねばなるまい』
211 斯(か)く云(い)ふ折(をり)しも、212ランチ将軍(しやうぐん)は馬(うま)をヒラリと飛(と)び下(お)り、213治国別(はるくにわけ)の前(まへ)に揉(も)み手(て)をし乍(なが)ら現(あら)はれ来(きた)り、
214ランチ『拙者(せつしや)は大黒主(おほくろぬし)の神司(かむつかさ)に仕(つか)へ奉(まつ)るランチ将軍(しやうぐん)と申(まを)す者(もの)、215此(この)度(たび)主君(しゆくん)の命(めい)によつてイソの館(やかた)へ攻(せ)め寄(よ)せる途中(とちう)、216吾(わが)先鋒隊(せんぽうたい)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)は貴方(あなた)等(がた)の言霊(ことたま)とやらに散々(さんざん)に打(う)ち捲(まく)られ、217脆(もろ)くも敗走(はいそう)致(いた)した様子(やうす)、218神力(しんりき)無双(むさう)の三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)に対(たい)し到底(たうてい)吾々(われわれ)如(ごと)き非力(ひりき)無徳(むとく)の者(もの)にては敵対(てきた)ひまつる事(こと)相叶(あひかな)はぬ次第(しだい)なれば、219浮木(うきき)の森(もり)へ陣営(ぢんえい)をはり幕僚(ばくれう)と協議(けふぎ)の結果(けつくわ)、220全軍(ぜんぐん)を率(ひき)ゐて貴方(あなた)の膝下(しつか)に帰順(きじゆん)するより外(ほか)なしと衆議(しうぎ)一決(いつけつ)した以上(いじやう)は、221もはや貴方(あなた)等(がた)に対(たい)して敵対(てきたい)行為(かうゐ)は毛頭(まうとう)とりませぬ。222何卒(なにとぞ)吾(わが)陣営(ぢんえい)へおいで下(くだ)さつて尊(たふと)きお話(はなし)を聞(き)かして下(くだ)されば、223実(じつ)に望外(ばうぐわい)の幸福(しあはせ)で厶(ござ)ります』
224と真(まこと)しやかに述(の)べ立(た)つる。225治国別(はるくにわけ)は一々(いちいち)ランチの言葉(ことば)を信(しん)ずるにはあらねども、226此(この)時(とき)こそは彼(かれ)を正道(せいだう)に導(みちび)く好機会(かうきくわい)なりと心(こころ)に定(さだ)め、227何(なに)喰(く)はぬ顔(かほ)にて、
228治国別『然(しか)らば仰(あふ)せに従(したが)ひ、229貴軍(きぐん)の陣中(ぢんちう)へ参(まゐ)りませう』
230 ランチ将軍(しやうぐん)は自分(じぶん)の乗(の)り来(き)し名馬(めいば)に治国別(はるくにわけ)を乗(の)せ、231自分(じぶん)は控(ひか)へ馬(うま)に跨(またが)り、232意気(いき)揚々(やうやう)と陣営(ぢんえい)さして帰(かへ)り行(ゆ)く。
233 門(もん)の前(まへ)に立止(たちど)まり、234ランチ将軍(しやうぐん)は治国別(はるくにわけ)を見返(みかへ)り、
235ランチ『見(み)る蔭(かげ)もなき俄造(にはかづく)りの陣営(ぢんえい)、236遠来(ゑんらい)の客(きやく)を遇(ぐう)するには不都合(ふつがふ)千万(せんばん)なれど、237何卒(なにとぞ)ゆるゆる御(ご)休息(きうそく)を願(ねが)ひ上(あ)げまする』
238と慇懃(いんぎん)に挨拶(あいさつ)をする。239治国別(はるくにわけ)は、
240治国別『ハイ、241有難(ありがた)う』
242と僅(わづ)かに答礼(たふれい)しながら奥(おく)へ奥(おく)へと進(すす)み入(い)る。
243 数多(あまた)の軍卒(ぐんそつ)共(ども)は退屈(たいくつ)紛(まぎ)れに土俵(どへう)を築(きづ)き素人(しろうと)相撲(ずまふ)をとつてゐる。244竜公(たつこう)、245タールの両人(りやうにん)は其(その)相撲(すもう)に見惚(みと)れて治国別(はるくにわけ)の奥(おく)深(ふか)く進(すす)み入(い)つたのを気(き)がつかず、246負投(おひな)げ、247腰投(こしな)げ、248突出(つきだ)し、249河津(かはづ)等(など)の四十八(しじふはつ)手(て)の使(つか)ひ方(かた)を批評(ひひやう)しながら、
250竜公、タール『アハヽヽヽ』
251と笑(わら)ひ、252遂(つひ)には手(て)を拍(う)つて囃(はや)し出(だ)した。253此(この)中(うち)で一番(いちばん)の力自慢(ちからじまん)のエキスは四股踏(しこふ)み鳴(な)らし、254土俵(どへう)の真中(まんなか)に仁王立(にわうだ)ちとなり、
255エキス『さア誰(たれ)なつと来(こ)い、256消(け)しかかりだ』
257といきりきつて居(ゐ)る。258来(く)る奴(やつ)来(く)る奴(やつ)片(かた)つ端(ぱし)から投(な)げつける、259其(その)手際(てぎは)のよさ。260竜公(たつこう)はエキスの態度(たいど)と弱武者(よわむしや)の腑甲斐(ふがひ)なさに憤慨(ふんがい)し、261何時(いつ)の間(ま)にか両(りやう)の手(て)が腰(こし)へまはり、262帯(おび)をスルスルと解(と)いて了(しま)ひ、263真裸(まつぱだか)となつて土俵(どへう)の真中(まんなか)へ飛(と)び出(だ)した。264さうしてドンドンと四股(しこ)を踏(ふ)み鳴(な)らしてゐる。265エキスは之(これ)を見(み)て癪(しやく)に触(さは)つたと見(み)え、
266エキス『おい、267貴公(きこう)は竜公(たつこう)ぢやないか。268此(この)間(あひだ)から何処(どこ)へ逃(に)げて居(を)つたのだ。269そんな弱虫(よわむし)の出(で)る所(ところ)ぢやない。270俺(おれ)達(たち)と相撲(すまふ)をとるなんぞと云(い)ふ野心(やしん)を起(おこ)すものぢやないぞ。271野見(のみ)の宿弥(すくね)の再来(さいらい)とも云(い)ふべき此(この)エキスさまに相手(あひて)にならうと思(おも)ふのか。272エー、273措(お)け措(お)け、274恥(はぢ)をかく様(やう)なものだから』
275竜公『ヘン、276馬鹿(ばか)にすない。277俺(おれ)でも若(わか)い時(とき)や幕(まく)の内(うち)まで入(はい)つたものだ。278襦子(しゆす)の締込(しめこ)み、279バレンツの相撲束(すまふたば)ねの櫓鬢(やぐらぴん)、280大黒主(おほくろぬし)の前(まへ)でも大胡床(おほあぐら)をかき、281立(た)つて水(みづ)のみ、282手鼻汁(てばな)をかむ、283十(じふ)と六俵(ろくぺう)の土俵(どへう)に出(で)たら、284獅子(しし)奮迅(ふんじん)、285土(つち)つかずの竜公(たつこう)さまだ。286いつも土俵(どへう)の上(うへ)で横(よこ)になつた事(こと)はない、287いつも立(た)ちつづけだから竜公(たつこう)さまだ。288又(また)の名(な)を勝公(かつこう)さまだ。289さあ一(ひと)つ揉(も)んでやらう』
290エキス『エー、291生命(いのち)知(し)らず奴(め)、292土(つち)の中(なか)へ植(う)ゑてやらう。293吠(ほ)え面(づら)かわくな』
294竜公『そりや俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)だ。295末期(まつご)の水(みづ)でも飲(の)んでしつかりせい』
296と云(い)ひ乍(なが)ら四本柱(しほんばしら)に括(くく)りつけた塩(しほ)をポツポツと左右(さいう)に打振(うちふ)り、297水(みづ)をも飲(の)まずに四股(しこ)を踏(ふ)み出(だ)した。298エキスも負(ま)けぬ気(き)になり塩(しほ)を一掴(ひとつか)みグツと握(にぎ)つて竜公(たつこう)にぶちかけ、299水(みづ)をも飲(の)まずドンドンと地響(ぢひび)きさせながらペタペタと四(よ)つに組(く)んで了(しま)つた。300半時(はんとき)ばかり竜虎(りうこ)の争(あらそ)ひ、301いつ勝負(しようぶ)の果(は)つべしとも見(み)えない。302タールは一生(いつしやう)懸命(けんめい)になり、303軍扇(ぐんせん)を握(にぎ)り土俵(どへう)に行司(ぎやうじ)気取(きど)りに飛(と)び出(だ)し、
304タール『はつけよい はつけよい のこつた のこつた、305後(あと)がないぞ、306はつけよいや』
307と土俵(どへう)の周囲(ぐるり)を右左(みぎひだり)に廻(まは)つてゐる。308大勢(おほぜい)は固唾(かたづ)を呑(の)んで此(この)勝負(しようぶ)如何(いか)にと見(み)つめて居(ゐ)る。309流石(さすが)のエキスも力(ちから)尽(つ)きハツと吐(は)く息(いき)の気合(きあひ)を窺(うかが)ひ、310ポンと右(みぎ)の手(て)をぬいて褌(まはし)の三辻(みつ)を竜公(たつこう)がたたくとコロコロコロと土俵(どへう)の中(うち)を三(み)つ四(よ)つ廻(まは)つて西(にし)の溜(たまり)へドスンと雪崩(ゆきなだれ)が落(お)ちた様(やう)に転(ころ)げ込(こ)んで了(しま)つた。311エキスは大(おほい)に面目(めんぼく)を失(しつ)し、312真裸(まつぱだか)の儘(まま)スタスタと陣中(ぢんちう)奥(おく)深(ふか)く姿(すがた)を隠(かく)した。313ワーイワーイと称讃(しようさん)の声(こゑ)、314拍手(はくしゆ)の音(おと)、315四辺(あたり)も揺(ゆる)ぐばかりであつた。
316(大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 北村隆光録)
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