霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 逆襲(ぎやくしう)〔一二三八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻 篇:第1篇 浮木の盲亀 よみ(新仮名遣い):うききのもうき
章:第5章 逆襲 よみ(新仮名遣い):ぎゃくしゅう 通し章番号:1238
口述日:1923(大正12)年01月08日(旧11月22日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月6日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
アークは郊外を散歩しながら、科学知識のみを頼む現代人の無常さを嘆く歌を歌い、ひるがえって、自分が愛善の火と真信の光にめざめることができたことを神に感謝した。
タールは、アークもずいぶん変わったものだと話しかけた。二人は治国別の身の上を案じ、どうなったか気にかけつつ、詩歌を歌ったりなどしながら歩いている。
二人は、いずれランチ将軍、片彦将軍も治国別の徳によって三五教に帰順するだろうから、それまでバラモン軍に籍を置いて我慢するのみだと話し合っている。
そこへエキスがウラナイ教の元教主・蠑螈別を駕籠に載せて陣中に迎え入れてきた。自分の手柄を誇って威張り散らすエキスに対し、アークとタールは自分たちも昇進したのだから威張るなとたしなめ、エキスがうまい汁を吸ってきたのを悟ってからかった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-04-14 10:49:50 文字数:4425 OBC :rm4705
愛善世界社版:72頁 八幡書店版:第8輯 497頁 修補版: 校定版:75頁 普及版:34頁 初版: ページ備考:
001(アーク)『見渡(みわた)す限(かぎ)りの枯野原(かれのはら)
002万木(ばんぼく)の梢(こずゑ)は羽衣(はごろも)を脱(ぬ)ぎ
003肌(はだへ)をたち切(き)るばかりの
004寒風(かんぷう)に戦慄(せんりつ)してゐる。
005独(ひと)り松柏(しようはく)のみは蒼々(さうさう)たり
006ヒヨやツムギや百舌鳥(もづ)雀(すずめ)などが
007悲(かな)しげな声調(せいてう)を搾(しぼ)つて
008浮世(うきよ)の無情(むじやう)を訴(うつた)へてゐる。
009吾(わが)目(め)に収容(しうよう)さるるものは
010生気(せいき)の褪(あ)せた
011細氷(さいひよう)の波(なみ)を敷(し)きつめた
012銀冷(ぎんれい)の世界(せかい)のみだ。
013万有(ばんいう)一切(いつさい)はあらゆる活動(くわつどう)を休止(きうし)し
014所謂(いはゆる)
015冬籠(ふゆごも)りの最中(さいちう)である
016かかる冷酷(れいこく)無残(むざん)の光景(くわうけい)を眺(なが)めて
017貧(まづ)しき人(ひと)は何(いづ)れも寒気(かんき)と飢餓(きが)に泣(な)く
018反対(はんたい)的(てき)に富(と)めるものは
019雪見(ゆきみ)の宴(えん)を張(は)り
020嬋妍(せんけん)たる美姫(びき)を招(まね)き
021青楼(せいろう)に酒盃(しゆはい)をかたむけ
022体主(たいしゆ)霊従(れいじう)的(てき)歓楽(くわんらく)に耽(ふけ)る
023社会(しやくわい)は真(しん)に様々(さまざま)なものだ
024冬日(とうじつ)積雪(せきせつ)のために
025労働(らうどう)の機(き)を得(え)ず
026生命(いのち)の糧(かて)を求(もと)めて泣(な)くもあれば
027冷(つめ)たき雪(ゆき)の景色(けしき)をながめて
028酒類(さけるゐ)にひたり
029一宵(いつせう)千金(せんきん)を浪費(らうひ)濫用(らんよう)して
030猶(なほ)も惜(を)しまぬものあり
031顧(かへり)みれば凡(すべ)て社会(しやくわい)の諸行(しよぎやう)は無常(むじやう)なり
032因果(いんぐわ)応報(おうはう)の神理(しんり)に暗(くら)き
033現代人(げんだいじん)は科学(くわがく)的(てき)知識(ちしき)のみを漁(あさ)りて
034永遠(ゑいゑん)の天国(てんごく)を知(し)らず
035又(また)根底(ねそこ)の国(くに)の何(なん)たるを解(かい)せず
036酔生(すゐせい)夢死(むし)無意義(むいぎ)なる
037生涯(しやうがい)を送(おく)るあり
038世間(せけん)の無情(むじやう)冷酷(れいこく)を歎(なげ)きて
039厳寒(げんかん)の空(そら)に戦(おのの)き慄(ふる)ひつつ
040面白(おもしろ)からぬ冬日(とうじつ)を送(おく)るもあり
041人生(じんせい)の暗黒面(あんこくめん)は
042椿(つばき)の花(はな)の梢(こずゑ)を去(さ)る如(ごと)く
043ぽたりぽたりと地上(ちじやう)に降(ふ)る
044悲喜(ひき)交々(こもごも)の社会(しやくわい)のおとづれ
045人(ひと)の身(み)の四辺(しへん)を包(つつ)む怪(あや)しさ。
046○
047アヽされどされど
048愛善(あいぜん)の火(ひ)と信真(しんしん)の光(ひか)りに
049自(みづか)ら眼(まなこ)醒(さ)めたる吾人(ごじん)は
050光栄(くわうえい)なり幸(さいは)ひなり
051天地(てんち)の主(しゆ)なる神(かみ)の
052玉(たま)の如(ごと)き神格(しんかく)の内流(ないりう)を
053全身(ぜんしん)に漲(みなぎ)らしつつ
054智慧(ちゑ)と証覚(しようかく)にひたりてより
055世人(よびと)の怖(おそ)るる針(はり)刺(さ)す如(ごと)き厳冬(げんとう)も
056万物(ばんぶつ)声(こゑ)を潜(ひそ)むる冷(つめ)たき
057死(し)んだやうな夜半(よは)の空気(くうき)も
058吾人(ごじん)には暖(あたた)かき春陽(しゆんやう)の思(おも)ひあり
059アヽ主(す)の神(かみ)よ主(す)の神(かみ)よ
060わが身魂(みたま)を機関(きくわん)の一部分(いちぶぶん)として
061いや永久(とこしへ)に使(つか)はせ給(たま)へ
062無限(むげん)絶対(ぜつたい)無始(むし)無終(むしう)の神格者(しんかくしや)
063愛善(あいぜん)の肉(にく)と
064神真(しんしん)の血(ち)を以(もつ)て
065吾(われ)等(ら)の上(うへ)に太陽(たいやう)の如(ごと)く月(つき)の如(ごと)く
066降(くだ)らせたまへ
067惟神(かむながら)霊(たま)幸(ち)はへませ』
068と歌(うた)つて郊外(かうぐわい)の散歩(さんぽ)をして居(ゐ)るのはアークであつた。069一人(ひとり)はタールのバラモン信者(しんじや)である。
070タール『オイ大将(たいしやう)、071俄(にはか)に悟(さと)つたらしいことを云(い)ふぢやないか。072俺(おれ)は悪党(あくたう)だからアークと名(な)をつけたのだ、073それだからどこ迄(まで)も徹底(てつてい)的(てき)に悪(あく)をやると主張(しゆちやう)して居(ゐ)たが、074たうとう治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)とぶつつかつて俄(にはか)に屁古垂(へこた)れたぢやないか』
075アーク『俺(おれ)があの宣伝使(せんでんし)と出会(であ)つたお蔭(かげ)で、076今日(こんにち)の地位(ちゐ)になつたのぢやないか、077エーン、078能(よ)く考(かんが)へて見(み)よ、079ランチ将軍(しやうぐん)、080片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の帷幕(ゐばく)に参(さん)じ、081重要(ぢうえう)会議(くわいぎ)に参列(さんれつ)する身分(みぶん)となつたのは、082矢張(やつぱ)り治国別(はるくにわけ)さまのお蔭(かげ)ぢや、083併(しか)し治国別(はるくにわけ)さまはどうなつたのだらうかなア。084よもやあの人格者(じんかくしや)がオメオメとランチ将軍(しやうぐん)の陥穽(かんせい)に陥(おちい)る筈(はず)はあるまいしなア………何(なん)だか俺(おれ)は気(き)がかりでならないのだ。085何処迄(どこまで)も俺(おれ)達(たち)は表面(へうめん)ランチ将軍(しやうぐん)に服従(ふくじゆう)し、086治国別(はるくにわけ)さまの身辺(しんぺん)を気(き)を付(つ)けなければならない義務(ぎむ)があるのだ。087それにつけてもビルの奴(やつ)、088癪(しやく)に触(さは)るぢやないか、089ランチの従卒(じゆうそつ)ぢやと思(おも)うて、090無茶(むちや)苦茶(くちや)に威張(ゐば)り散(ち)らすのだからなア』
091タール『威張(ゐば)りたい奴(やつ)は威張(ゐば)らして置(お)くさ。092朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)馬(うま)のお世話(せわ)ばかりさされて居(ゐ)るのだから、093一寸(ちよつと)は威張(ゐば)らしてやつたて好(い)いぢやないか。094誰(たれ)だつて何(なに)かの特権(とくけん)がなければ勤(つと)まらぬからなア、095彼奴(あいつ)だつてさう馬鹿(ばか)にしたものぢやないよ。096俺(おれ)だつて貴様(きさま)だつて二三(にさん)日前(にちぜん)迄(まで)は随分(ずゐぶん)惨(みじ)めなものだつたからな。097併(しか)し人間(にんげん)は一旦(いつたん)ドン底(ぞこ)に落(お)ちて来(こ)ねば駄目(だめ)だ。098「人生(じんせい)の破調(はてう)は神(かみ)を輸入(ゆにふ)す」とか、099どこやらの哲学者(てつがくしや)が吐(ほざ)いたぢやないか。100一旦(いつたん)失脚(しつきやく)せなくては、101真(しん)の神(かみ)に接(せつ)し神(かみ)の神力(しんりき)を受(う)ける事(こと)は出来(でき)ないものだ』
102アーク『さうだなア。103何(なん)でもエマーソンとか云(い)ふ哲人(てつじん)の言葉(ことば)だと聞(き)いてゐるが、104随分(ずゐぶん)エラーソンに云(い)つたものぢやなア。105アハヽヽヽ』
106タール『古今(ここん)東西(とうざい)の偉人(ゐじん)傑士(けつし)と云(い)ふ奴(やつ)は、107大抵(たいてい)孤児(こじ)か貧児(ひんじ)か、108もしくは私生児(しせいじ)或(あるひ)は極(きは)めて惨(みじ)めな不仕合(ふしあは)せ者(もの)であつた事(こと)を考(かんが)へて見(み)ると、109人間(にんげん)と云(い)ふものは、110何(ど)うしても悲境(ひきやう)の淵(ふち)に沈(しづ)んで、111社会(しやくわい)の辛酸(しんさん)を嘗(な)めて来(こ)なくては到底(たうてい)駄目(だめ)だよ。112人間(にんげん)の父母(ふぼ)の恩愛(おんあい)は、113動(やや)もすれば舐犢(しとく)の愛(あい)に流(なが)れ易(やす)きものだ。114貴族(きぞく)の伜(せがれ)が鞭撻(べんたつ)ない手(て)に育(そだ)てられ、115人(ひと)となつた所謂(いはゆる)寵児(ちようじ)は、116往々(わうわう)にして放蕩(はうたう)遊惰(いうだ)の鈍物(どんぶつ)となるの事実(じじつ)は、117世間(せけん)には随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)あるものだからなア。118世(よ)の諺(ことわざ)にも、119親(おや)はなくても子(こ)は育(そだ)つと云(い)ふぢやないか。120人間(にんげん)は何(ど)うしても神(かみ)様(さま)の保護(ほご)を受(う)けなくては、121一力(いちりき)で存在(そんざい)する事(こと)は出来(でき)はしない、122誠(まこと)の神(かみ)の愛(あい)に触(ふ)れなくちや駄目(だめ)だ。123俺(おれ)は神(かみ)様(さま)の愛(あい)の呼吸(こきふ)と云(い)ふ歌(うた)を作(つく)つて見(み)たのだが、124一(ひと)つ謹(つつし)んで拝聴(はいちやう)する気(き)はないか』
125アーク『どうせ、126貴様(きさま)の事(こと)だから碌(ろく)な歌(うた)は詠(よ)めはしよまい。127併(しか)し後生(ごしやう)のためだから、128一(ひと)つ辛抱(しんばう)して聞(き)いてやらう』
129 タールは、130エヘンと咳払(せきばらひ)しながら、
131タール『吾輩(わがはい)の詩歌(しいか)は左(さ)の通(とほ)りだ。
 
132 天父(てんぷ)の聖心(せいしん)にある
133 大愛(だいあい)の鼓動(こどう)は
134 直(ただち)に美(うつく)しく
135 而(しか)も厳粛(げんしゆく)なる
136 自然(しぜん)の情調(じやうてう)として
137 促々(そくそく)として吾(わが)身(み)に迫(せま)り
138 動(やや)もすれば私欲(しよく)野念(やねん)のために
139 昂進(かうしん)し攪乱(かくらん)する
140 吾(わが)心身(しんしん)の脈搏(みやくはく)を鎮静(ちんせい)し
141 かくて従容(しようよう)として
142 捨身(しやしん)無為(むゐ)の
143 本然(ほんぜん)的(てき)活動(くわつどう)に入(い)らねば止(や)まない。
144 如何(いか)に安息(あんそく)を求(もと)めて
145 涼(すず)しき山奥(やまおく)や
146 静(しづか)な海浜(かいひん)に遊(あそ)ぶも
147 若(も)し夫(そ)れ
148 心霊(しんれい)の内分(ないぶん)に
149 神(かみ)と倶(とも)に働(はたら)き
150 天界(てんかい)を蔵(ざう)して
151 天地(てんち)と呼吸(こきふ)を斉(ととの)ふべき
152 霊覚(れいかく)を欠(か)かむか
153 安息(あんそく)も立命(りつめい)も
154 只(ただ)一場(いちぢやう)の好夢(かうむ)にも比(ひ)すべき
155 憐(あは)れなる欺幻(ぎげん)に
156 過(す)ぎないであらう』
 
157アーク『成程(なるほど)ちぎる秋茄子(あきなすび)、158根(ね)つから面黒(おもくろ)くないわい。159併(しか)しながら、160治国別(はるくにわけ)さまに感化(かんくわ)されて俄詩人(にはかしじん)となつたぢやないか。161もう是(これ)だけ詩文(しぶん)が綴(つづ)れるやうになりやタールも文壇(ぶんだん)の花(はな)として、162持(も)て囃(はや)されるかも知(し)れないよ。163アハヽヽヽ』
164タール『併(しか)し俺(おれ)は何(ど)うしたものか、165バラモン軍(ぐん)に籍(せき)を置(お)くのが、166きつう嫌(きら)ひとなつたのだが、167それだと云(い)つて外(ほか)にする事(こと)もなし、168仕方(しかた)が無(な)いから先(ま)づ暫(しばら)くは腰掛(こしかけ)だと思(おも)うて、169ランチ将軍(しやうぐん)や片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)のお髯(ひげ)の塵(ちり)を心(こころ)ならずも払(はら)ふ事(こと)としようかなア。170これが処世法(しよせいほふ)の最(もつと)も優秀(いうしう)なる道(みち)だらうよ』
171アーク『さうだ、172治国別(はるくにわけ)さまが陣中(ぢんちう)にお出(いで)になつたのだから、173何(なん)と云(い)うても此処(ここ)は辛抱(しんばう)せなくてはなるまい。174ランチ、175片彦(かたひこ)両将軍(りやうしやうぐん)も何(いづ)れは帰順(きじゆん)するだらうからなア。176さうすれば吾々(われわれ)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)となつて天国(てんごく)を地上(ちじやう)に移写(いしや)する事(こと)になるのだ。177これが人間(にんげん)として最(もつと)も勝(すぐ)れたる行(おこな)ひだ。178否(いな)人間(にんげん)として最(もつと)も嬉(うれ)しき事業(じげふ)だ』
179タール『時(とき)に何(なん)だか向(むか)ふの方(はう)から、180甚(ひど)い勢(いきほひ)で鳴物入(なりものいり)でアーク神(がみ)がやつて来(く)るではないか。181ヨウヨウ棺(くわん)が来(く)るぞ、182而(しか)も二挺(にちやう)だ』
183アーク『如何(いか)にも章魚(たこ)にも足八本(あしはちほん)だ。184ヨウあいつはエキスぢやないか。185又(また)獲物(えもの)を旨(うま)くチヨロまかして持(も)ち込(こ)んだのだらう。186彼奴(あいつ)は又(また)、187ランチ将軍(しやうぐん)の御(おん)覚(おぼ)え目出度(めでた)うなつて威張(ゐば)り出(だ)しちや、188大変(たいへん)だぞ』
189 エキスは意気(いき)揚々(やうやう)として、190蠑螈別(いもりわけ)、191お民(たみ)を駕籠(かご)に乗(の)せ、192四五(しご)人(にん)の番卒(ばんそつ)と共(とも)に此方(こちら)に向(むか)つて帰(かへ)つて来(く)るのであつた。193エキスはアーク、194タールの両人(りやうにん)を見(み)るより、195さも得意気(とくいげ)に、
196エキス『ヤア其(その)方(はう)はアーク、197タールの御(ご)両所(りやうしよ)、198お出迎(でむか)へ大儀(たいぎ)で厶(ござ)る』
199 アーク、200タールの両人(りやうにん)はエキスに「お出迎(でむか)へ大儀(たいぎ)」と云(い)はれ、201殆(ほとん)ど目下(めした)扱(あつか)ひをせられたやうな気分(きぶん)になつて業(ごふ)が沸(わ)いて耐(たま)らないけれど、202態(わざ)と素知(そし)らぬ顔(かほ)をして何気(なにげ)なう、
203アーク『やあエキス殿(どの)、204御(ご)苦労(くらう)で厶(ござ)つた。205嘸(さぞ)ランチ将軍(しやうぐん)が、206お喜(よろこ)び遊(あそ)ばす事(こと)だらう。207さうして其(その)駕籠(かご)の中(なか)の客人(きやくじん)は一体(いつたい)何人(なにびと)で厶(ござ)るかなア』
208 エキスはさも横柄(わうへい)に、209鬼(おに)の首(くび)を竹篦(たけべら)で切(き)り取(と)つたやうな誇(ほこ)り顔(がほ)で、
210エキス『大切(たいせつ)なるお客人(きやくじん)、211某(それがし)の弁茶羅(べんちやら)、212アヽ否(いな)、213器量(きりやう)によつてお迎(むか)へ申(まを)して来(き)たのだ。214御(ご)本人(ほんにん)の誰人(たれびと)なるかは、215ランチ、216片彦(かたひこ)両将軍(りやうしやうぐん)にお目(め)にかける迄(まで)発表(はつぺう)する事(こと)は出来(でき)ない。217さア御(ご)両所(りやうしよ)、218先(さき)に立(た)つて御(ご)案内(あんない)めされ』
219タール『随分(ずゐぶん)威張(ゐば)つたものだなア。220エヽ仕方(しかた)がない』
221アーク『エキスに随(つ)いて奥(おく)へ進(すす)む事(こと)にしようぢやないか。222大分(だいぶん)に最前(さいぜん)から郊外(かうぐわい)散歩(さんぽ)をやつたからなア』
223 エキスは道々(みちみち)歌(うた)ひ出(だ)した。
224エキス『バラモン教(けう)の大教主(だいけうしゆ)
225大黒主(おほくろぬし)の部下(ぶか)となり
226産土山(うぶすなやま)の高原(かうげん)に
227館(やかた)を建(た)てて世(よ)の中(なか)を
228掻(か)き乱(みだ)し行(ゆ)く曲津(まがつ)神(かみ)
229神(かむ)素盞嗚(すさのを)の牙城(がじやう)をば
230屠(はふ)らむために進(すす)み往(ゆ)く
231ランチ将軍(しやうぐん)、片彦(かたひこ)の
232其(その)陣中(ぢんちう)に名(な)も高(たか)き
233ヒーロー豪傑(がうけつ)このエキス
234神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の妙法(めうはふ)を
235縦横(じうわう)無尽(むじん)に発揮(はつき)して
236神(かむ)素盞嗚(すさのを)の尊(みこと)さへ
237攻(せ)めあぐみたるウラナイの
238教(をしへ)の司(つかさ)とあれませる
239蠑螈別(いもりわけ)の教主(けうしゆ)をば
240吾(わが)言霊(ことたま)に靡(なび)かせつ
241軍用金(ぐんようきん)を献納(けんなふ)させ
242将軍(しやうぐん)様(さま)の片腕(かたうで)に
243勧(すす)めむためとやうやうに
244お供(とも)をなして帰(かへ)りけり
245蠑螈別(いもりわけ)の勇将(ゆうしやう)が
246もはや吾(わが)手(て)に入(い)るからは
247神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の妖術(えうじゆつ)を
248使(つか)うて世人(よびと)を苦(くる)しむる
249三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
250仮令(たとへ)幾万(いくまん)ありとても
251如何(いか)でか恐(おそ)るる事(こと)やある
252これも全(まつた)くバラモンの
253尊(たふと)き神(かみ)の引(ひ)き合(あは)せ
254ランチ、片彦(かたひこ)両将(りやうしやう)も
255嘸(さぞ)や満足(まんぞく)なさるだらう
256此(この)陣中(ぢんちう)に俺(おれ)のよな
257功名(こうみやう)手柄(てがら)を現(あら)はした
258勇士(ゆうし)が又(また)とあるものか
259アーク、タールの両人(りやうにん)よ
260これから俺(おれ)は将軍(しやうぐん)の
261帷幕(ゐばく)に参(さん)じ汝(なんぢ)等(ら)を
262それ相当(さうたう)の職掌(しよくしやう)に
263使(つか)うてやらう楽(たの)しんで
264御(お)沙汰(さた)をまつがよからうぞ
265お前(まへ)も何時(いつ)迄(まで)番卒(ばんそつ)の
266小頭(こがしら)みたよな役(やく)をして
267居(を)つた所(ところ)で詰(つま)らない
268世(よ)の諺(ことわざ)に云(い)ふ通(とほ)り
269立(た)ち寄(よ)るならば大木(たいぼく)の
270密葉(みつえう)の影(かげ)ぞ親方(おやかた)と
271箸(はし)は太(ふと)いがよいと云(い)ふ
272社会(しやくわい)の真理(しんり)を悟(さと)るなら
273今日(けふ)から俺(おれ)の御(ご)家来(けらい)と
274なつて神妙(しんめう)に仕(つか)へよや
275今(いま)から注意(ちうい)を与(あた)へ置(お)く
276あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
277バラモン教(けう)の大御神(おほみかみ)
278御霊(みたま)幸(さち)はへましませよ』
279 アークは蠑螈別(いもりわけ)の乗(の)つて居(ゐ)る棒端(ぼうばな)をグツと握(にぎ)り、
280アーク『オイ、281此(この)駕籠(かご)、282一寸(ちよつと)待(ま)つた』
283エキス『待(ま)つたとは何(ど)うぢや、284一(いち)時(じ)も早(はや)く将軍(しやうぐん)のお目(め)にかけねばならぬ大切(たいせつ)なお客様(きやくさま)だ、285邪魔(じやま)ひろぐと容赦(ようしや)は致(いた)さぬぞ』
286 アークは、
287アーク『こりやエキス、288其(その)方(はう)は今(いま)何(なん)と申(まを)した。289吾々(われわれ)両人(りやうにん)は両将軍(りやうしやうぐん)の片腕(かたうで)となつて帷幕(ゐばく)に参列(さんれつ)する重役(ぢゆうやく)だ。290貴様(きさま)の不在中(ふざいちゆう)に任命式(にんめいしき)が行(おこな)はれたのだから、291知(し)らぬのも無理(むり)はないが、292余(あま)りの暴言(ばうげん)ぢやないか。293此(この)方(はう)に対(たい)し「出迎(でむか)へ大儀(たいぎ)」などと部下(ぶか)扱(あつか)ひをなすとは以(もつ)ての外(ほか)の汝(なんぢ)の振舞(ふるま)ひ、294吾々(われわれ)は上役(うはやく)の職権(しよくけん)をもつて其(その)方(はう)を放逐(はうちく)致(いた)さうか』
295エキス『ソヽそんな事(こと)ア俺(おれ)は知(し)らなかつたのだ。296間違(まちが)つて居(を)れば許(ゆる)して貰(もら)はなくては仕方(しかた)がない。297併(しか)し最(もつと)も大切(たいせつ)なる客人(きやくじん)をお連(つ)れ申(まを)して来(き)たのだから、298さう頭(あたま)ごなしに呶鳴(どな)りつけられちや、299このエキスも引合(ひきあ)はぬぢやありませぬか』
300アーク『知(し)らなければ仕方(しかた)がない、301差許(さしゆる)す、302併(しか)しながら、303今(いま)約束(やくそく)をして置(お)くが、304エキス、305其(その)方(はう)は、306将軍(しやうぐん)様(さま)のお見出(みだ)しに預(あづ)かつて、307吾々(われわれ)と同役(どうやく)になつても決(けつ)して威張(ゐば)つてはならないぞ。308なあエキス、309こりやエキスの野郎(やらう)、310よいかエキス』
311タール『やい、312エキス、313今(いま)アーク重役(ぢゆうやく)さまの言葉(ことば)を能(よ)く腹(はら)に入(い)れたか。314やいエキス、315エー聞(き)いただらうなあエキス、316何(ど)うだいエキス、317返答(へんたふ)は』
318エキス『さう沢山(たくさん)さうにエキスエキスと云(い)つて貰(もら)つちや、319お客(きやく)さまに対(たい)し外聞(ぐわいぶん)が悪(わる)いぢやありませぬか。320一口(ひとくち)仰有(おつしや)つたら分(わか)つて居(ゐ)るぢやありませぬか』
321アーク『今(いま)は俺(おれ)が上役(うはやく)だから、322今(いま)の中(うち)に沢山(たくさん)さうに呼(よ)びつけにして置(お)かぬと、323重役(ぢゆうやく)になつたら、324もう呼(よ)ぶ事(こと)が出来(でき)ないからなア。325エキス、326さうだらうエキス、327きつと羽張(はば)つてはいけないぞ。328こりやエキス』
329タール『アハヽヽヽ、330何(なに)か旨(うま)い液(しる)吸(す)うて来(き)たと見(み)えるな。331それでエキスエキスとアークさまが云(い)ふのだらう』
332アーク『旨(うま)い液(しる)を吸(す)うて来(き)よつたのだ。333盗人(ぬすびと)の上前(うはまへ)をはねて二千(にせん)両(りやう)、334蠑螈別(いもりわけ)から五千(ごせん)両(りやう)、335都合(つがふ)七千(しちせん)両(りやう)のエキス(液吸う)たから、336これ位(くらゐ)云(い)うてもよいのぢや』
337 エキスは、
338エキス『ウフヽヽヽヽ』
339と私(ひそ)かに笑(わら)ふ。
340(大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 加藤明子録)
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