霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 震士(しんし)震商(しんしやう)〔一二四三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻 篇:第2篇 中有見聞 よみ(新仮名遣い):ちゅううけんぶん
章:第10章 震士震商 よみ(新仮名遣い):しんししんしょう 通し章番号:1243
口述日:1923(大正12)年01月09日(旧11月23日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月6日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
治国別と竜公は、伊吹戸主神の関所で優待されしばらく休息していた。するとその前を勢いよく通りかかった六十男がある。赤顔の守衛があわてて男を引き留める。
男は鬼淫偽員の欲野深蔵だと名乗り、威張りかえっている。守衛たちに尋問された深蔵は、逆におかしな理屈をまくし立て、大股で関所を突破しようとした。
この騒ぎに伊吹戸主の神は関所の窓を開けてちょっと覗かせ給うた。欲野深蔵は伊吹戸主神の霊光に打たれてその場に悶絶し、泡を吹いて苦しみだした。番卒たちは深蔵の体を荷車に乗せ、地獄道の大門内へ運び去ってしまった。
八衢では、色の白い守衛が天国に行くべき人間を調べ、恐ろしい顔の赤い守衛が地獄へ行くべき人間を調べることになっている。
しばらくすると、バラモン教の宣伝使がここをくぐろうとした。宣伝使は自分が死んだことに気付かずに門を通ろうとするが、守衛に一喝されてようやくここが死後の世界であることを認めた。
守衛の取り調べにより、この宣伝使は神を信ぜずに世人を迷わせた偽宣伝使であることが判明したが、神の存在を無信仰者に伝えた徳によって地獄行きだけは免れた。そして、しばらく中有界で心を磨いて修業する猶予を与えらえた。
守衛は、その間に神様の御神格の内流を得て善と真を知覚し、意識し、証覚しうるものであり、自分の力でそれを得ると思ったら、たちまち天の賊となって地獄へおちなければならない、と注意を与えた。
治国別と竜公は、この様子を見ながら話し合っている。治国別は、善のために善をおこない真のために真を行う真人間にならなければならないと自らを省みた。そして、少しばかり言霊が利くようになったのは自分が修業した結果神力が備わったと思っていたが、それはたいへんな間違いであったと悟った。
いずれも瑞の御霊・神素盞嗚尊様の御神格が自分の精霊を充たし、肉体をお使いになっておられたということに思い至った。そして神様の恵みによってはっきりと霊界の様子を見、悟らせていただいたことに感謝を表した。
治国別と竜公が、神の諭しへの感謝の涙に暮れていると、伊吹戸主神は会釈して座を立ち、館の奥深くに入らせ給うた。二人がその姿を見ると、伊吹戸主神は丸い玉のように光り輝き、その神姿は判然と見えず、月のような光が七つ八つ九つの円球の周囲を取り巻き、次第に奥の間に隠れ給うのだった。
智慧と証覚のすぐれた神人を、それより劣った証覚者が拝するときは、光のように見えて目もまばゆくなるもののである。神の神格は神善と神真であり、それより発する智慧証覚はすなわち光である。
二人は愕然としてものも言わず、再び関所に目を放ち、ここに集まり来る精霊の様子を瞬きもせずにうかがっていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-04-22 18:58:05 文字数:4656 OBC :rm4710
愛善世界社版:143頁 八幡書店版:第8輯 524頁 修補版: 校定版:151頁 普及版:70頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)、002竜公(たつこう)両人(りやうにん)は伊吹戸主(いぶきどぬし)の神(かみ)の関所(せきしよ)に於(おい)て優待(いうたい)され茶果(さくわ)を饗応(きやうおう)せられ、003少時(しばらく)休息(きうそく)してゐると、004其(その)前(まへ)をスタスタと勢(いきほひ)よく通(とほ)りかかつたデツプリ肥(こ)えた六十(ろくじふ)男(をとこ)がある。
005 赤顔(あかがほ)の守衛(しゆゑい)はあわてて、006其(その)男(をとこ)を引(ひ)きとめ、
007赤顔の守衛『コラ待(ま)てツ』
008と一喝(いつかつ)した。009男(をとこ)は後(あと)振返(ふりかへ)り、010不機嫌(ふきげん)な顔(かほ)をして、
011男(欲野深蔵)『何(なん)だ天下(てんか)の大道(だいだう)を往来(わうらい)するのに、012待(ま)てと云(い)つて妨(さまた)げる不道理(ふだうり)な事(こと)があるか、013エー、014俺(おれ)をどなたと心得(こころえ)て居(ゐ)る。015傷(しやう)死位(しゐ)窘(くん)死等(しとう)死爵(ししやく)鬼族婬(きぞくゐん)偽員(ぎゐん)欲野(よくの)深蔵(ふかざう)といふ紳士(しんし)だ。016邪魔(じやま)を致(いた)すと、017交番(かうばん)へ引渡(ひきわた)さうか』
018赤顔の守衛『オイ、019其(その)方(はう)はここをどこと心得(こころえ)て居(ゐ)る』
020欲野深蔵『言(い)はいでもきまつた事(こと)だ。021野蛮(やばん)未開(みかい)の北海道(ほくかいだう)ぢやないか』
022赤顔の守衛『其(その)方(はう)は何(ど)うして此処(ここ)へ来(き)たのだ』
023欲野深蔵『空中(くうちう)視察(しさつ)の為(ため)、024飛行機(ひかうき)に乗(の)つて居(を)つた所(ところ)、025プロペラの加減(かげん)が悪(わる)くて、026風波(かざなみ)でこんな方(はう)へやつて来(き)たのだ。027何(ど)うだ俺(おれ)を本国(ほんごく)へ案内(あんない)してくれないか、028さうすりや腐(くさ)つた酒(さけ)の一杯(いつぱい)も呑(の)ましてやらぬこともないワイ』
029赤顔の守衛『コリヤコリヤ欲野(よくの)深蔵(ふかざう)、030ここは冥途(めいど)だぞ、031天(あめ)の八衢(やちまた)を知(し)らぬか』
032欲野深蔵『鳴動(めいどう)も爆発(ばくはつ)もあつたものかい、033そんなメードウな事(こと)を云(い)ふない、034俺(おれ)こそはフサの国(くに)に於(おい)て遠近(ゐんきん)に名(な)を知(し)られた紳士(しんし)だ……否(いな)紳士(しんし)兼(けん)紳商(しんしやう)だ。035男(をとこ)のボーイに酒(さけ)をつがす時(とき)には男酌(だんしやく)閣下(かくか)で、036自分(じぶん)一人(ひとり)ついで呑(の)む時(とき)には私酌(ししやく)閣下(かくか)だ。037エヽーン、038そんなおどし文句(もんく)を並(なら)べて、039鳴動(めいどう)だの、040破裂(はれつ)だのと云(い)はずに、041俺(おれ)の案内(あんない)でもしたらどうだ、042貴様(きさま)もこんな所(ところ)で二銭(にせん)銅貨(どうくわ)の様(やう)な顔(かほ)をして、043しやちこ張(ば)つて居(を)つても、044気(き)が利(き)かぬぢやないか。045銅銭(どうせん)ロクな奴(やつ)ぢやあろまいが、046俺(おれ)も大度量(だいどりやう)をオツ放(ぽ)り出(だ)して、047椀給(わんきふ)で門番(もんばん)にでも救(すく)うてやらう』
048赤顔の守衛『コリヤ深蔵(ふかざう)、049貴様(きさま)はチツとばかり酒(さけ)に喰(くら)ひ酔(よ)うてゐるな、050今(いま)紳士(しんし)紳商(しんしやう)だと吐(ぬか)したが欲(よく)にかけたら親子(しんし)の間(あひだ)でも公事(くじ)を致(いた)したり、051又(また)人(ひと)の悪口(あくこう)を針小(しんせう)棒大(ぼうだい)に吹聴(ふいちやう)致(いた)し、052自己(じこ)の名利(めいり)栄達(えいたつ)を計(はか)り、053身上(しんじやう)を拵(こしら)へた真極道(しんごくだう)だらう、054チヤンとここな帳面(ちやうめん)についてゐるのだ、055何程(なんぼ)娑婆(しやば)で羽振(はぶり)がよくても霊界(れいかい)へ来(き)ては最早(もはや)駄目(だめ)だ。056サ、057ここの衡(はかり)にかかれ、058貴様(きさま)の罪(つみ)を測量(そくりやう)してやらう』
059欲野深蔵『さうすると、060此処(ここ)はヤツパリ冥途(めいど)でげすかなア』
061赤顔の守衛『気(き)がついたか、062貴様(きさま)は積悪(せきあく)の酬(むくい)に仍(よ)りて、063地震(ぢしん)の為(ため)に震死(しんし)した震死(しんし)代物(しろもの)だらう』
064欲野深蔵『成程(なるほど)、065さう承(うけたま)はれば朧(おぼろ)げに記憶(きおく)に浮(う)かむで来(き)ますワイ。066飛行機(ひかうき)に乗(の)つたと思(おも)つたのは……さうすると魂(たましひ)が宙(ちう)に飛(と)んだのかな』
067 赤面(あかづら)の守衛(しゆゑい)は帳面(ちやうめん)をくりながら、
068赤顔の守衛『其(その)方(はう)は欲野(よくの)深蔵(ふかざう)と云(い)つたな、069幼名(えうめい)は渋柿(しぶがき)泥右衛門(どろうゑもん)と申(まを)さうがな』
070欲野深蔵『ハイ、071ヨク、072深(ふか)い所(ところ)まで御存(ごぞん)じで厶(ござ)いますなア、073それに間違(まちが)ひは厶(ござ)いませぬ』
074赤顔の守衛『其(その)方(はう)は娑婆(しやば)に於(おい)て、075殺人(さつじん)鉄道(てつだう)嵐脈(らんみやく)会社(くわいしや)の社長(しやちやう)兼(けん)取締役(とりしまりやく)を致(いた)して居(を)つたであらう』
076欲野深蔵『ハイ其(その)通(とほ)りで厶(ござ)います』
077赤顔の守衛『優先株(いうせんかぶ)だとか、078幽霊株(いうれいかぶ)だとか申(まを)して、079沢山(たくさん)な蕪(かぶら)や大根(だいこん)を、080金(かね)も出(だ)さずに吾物(わがもの)に致(いた)しただらう』
081欲野深蔵『ハイそんな事(こと)もあつたでせう、082併(しか)しそれを致(いた)さねば現界(げんかい)に於(おい)ては、083鬼族院(きぞくゐん)偽員(ぎゐん)になる事(こと)も出来(でき)ず、084紳士(しんし)紳商(しんしやう)といはれる事(こと)も出来(でき)ませぬから、085娑婆(しやば)の規則(きそく)に依(よ)つて止(や)むを得(え)ず優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)的(てき)行動(かうどう)を致(いた)しました、086コリヤ決(けつ)して私(わたし)の罪(つみ)ではありませぬ、087社会(しやくわい)の罪(つみ)で厶(ござ)います、088何分(なにぶん)社会(しやくわい)の組織(そしき)制度(せいど)が、089さうせなくちやならない様(やう)になつてゐるのですからなア』
090赤顔の守衛『馬鹿(ばか)申(まを)せ、091そんな法律(はふりつ)が何時(いつ)発布(はつぷ)されたか』
092欲野深蔵『表面(へうめん)から見(み)れば、093左様(さやう)な事(こと)はありませぬが、094其(その)内容(ないよう)及(および)精神(せいしん)から考(かんが)へれば、095法文(はふぶん)の裏(うら)をくぐるべく仕組(しぐ)まれてあるものですから、096之(これ)をうまく切抜(きりぬ)ける者(もの)が、097娑婆(しやば)の有力者(いうりよくしや)と云(い)ふ者(もの)です、098総理(そうり)大臣(だいじん)や或(あるひ)は小爵(こしやく)や柄杓(ひしやく)や疳癪(かんしやく)などの高位(かうゐ)に昇(のぼ)らうと思(おも)へば、099真面目(まじめ)臭(くさ)く、100法文(はふぶん)などを守(まも)つて居(を)つちや、101娑婆(しやば)では犬(いぬ)に小便(せうべん)をかけられ猫(ねこ)にふみつぶされて了(しま)ひますワ。102郷(がう)に入(い)つては郷(がう)に従(したが)へですから、103娑婆(しやば)ではこれでも立派(りつぱ)な公民(こうみん)、104紳士(しんし)中(ちう)でも錚々(さうさう)たる人物(じんぶつ)で厶(ござ)います、105ここへ来(く)れば、106凡(すべ)ての行方(やりかた)が違(ちが)ふでせうが、107娑婆(しやば)は娑婆(しやば)の法律(はふりつ)、108霊界(れいかい)は霊界(れいかい)の法律(はふりつ)があるでせう、109まだ霊界(れいかい)へ来(き)てから善(ぜん)もやつた事(こと)がない代(かは)りに、110悪(あく)をやる暇(ひま)もありませぬ、111娑婆(しやば)の事(こと)迄(まで)、112死(し)んだ子(こ)の年(とし)をくる様(やう)に、113こんな所(ところ)でゴテゴテ云(い)はれちや、114やり切(き)れませぬからなア。115エヽ、116何(なん)だか気(き)がせく、117斯様(かやう)な所(ところ)でヒマ取(ど)つては、118第一(だいいち)タイムの損害(そんがい)だ、119娑婆(しやば)で金貸(かねか)しをして居(を)つた時(とき)にや、120寝(ね)とつても起(お)きとつても、121時計(とけい)の針(はり)がケチケチと鳴(な)る内(うち)に、122金(かね)の利息(りそく)が、123十円札(じふゑんさつ)で一(いち)枚(まい)づつ、124輪転機(りんてんき)で新聞(しんぶん)を印刷(いんさつ)する様(やう)に、125ポイポイと生(うま)れて来(き)たものだが、126最早(もはや)ここへ来(き)ては無一物(むいちぶつ)だ、127之(これ)から一(ひと)つ冥途(めいど)を開拓(かいたく)して、128娑婆(しやば)に居(を)つた時(とき)よりもモ一(ひと)つ勉強家(べんきやうか)となり、129大地主(おほぢぬし)となつて、130冥途(めいど)の一生(いつしやう)を送(おく)りたい。131どうぞ邪魔(じやま)をして下(くだ)さるな』
132と云(い)ひながら、133大股(おほまた)にふん張(ば)つて、134関所(せきしよ)を突破(とつぱ)せむとする。
135 此(この)騒(さわ)ぎに伊吹戸主(いぶきどぬし)の神(かみ)は関所(せきしよ)の窓(まど)をあけて、136一寸(ちよつと)覗(のぞ)かせ給(たま)うた。137欲野(よくの)深蔵(ふかざう)は判神(はんしん)の霊光(れいくわう)に打(う)たれて、138アツと其(その)場(ば)に悶絶(もんぜつ)し、139蟹(かに)の様(やう)な泡(あわ)を吹(ふ)いて苦(くるし)み出(だ)した。140忽(たちま)ち館(やかた)の一方(いつぱう)より数人(すうにん)の番卒(ばんそつ)現(あら)はれ来(きた)り、141欲野(よくの)深蔵(ふかざう)の体(からだ)を荷車(にぐるま)に乗(の)せ、142ガラガラガラガラと厭(いや)らしき音(おと)をさせながら、143何処(どこ)ともなく運(はこ)び去(さ)つた。144之(これ)は地獄道(ぢごくだう)の大門口(おほもんぐち)内(ない)へ放(はふ)り込(こ)みに行(い)つたのである。145深蔵(ふかざう)は暗(くら)き門内(もんない)へ放(はう)り込(こ)まれ、146ハツと気(き)がつき、147ブツブツ小言(こごと)を小声(こごゑ)で囁(ささや)きながら、148トボトボと欲界(よくかい)地獄(ぢごく)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)くのであつた。
149 抑(そもそ)も此(この)八衢(やちまた)の関所(せきしよ)は天国(てんごく)へ上(のぼ)り行(ゆ)く人間(にんげん)と地獄(ぢごく)へ落(お)ちる人間(にんげん)とを査(しら)べる二(ふた)つの役人(やくにん)があつて、150天国(てんごく)へ行(ゆ)くべき人間(にんげん)に対(たい)しては、151色(いろ)の白(しろ)き優(やさ)しき守衛(しゆゑい)が之(これ)を査(しら)べ、152地獄(ぢごく)へ行(ゆ)くべき人間(にんげん)に対(たい)しては形相(ぎやうさう)凄(すさま)じい赤(あか)い顔(かほ)した守衛(しゆゑい)が之(これ)を査(しら)べる事(こと)になつてゐる。
153 竜公(たつこう)は此(この)光景(くわうけい)を見(み)て、154何(なん)とも云(い)へぬ怖(おそ)れを抱(いだ)き治国別(はるくにわけ)の袂(たもと)を固(かた)く握(にぎ)り、155不安(ふあん)の顔付(かほつき)にて少(すこ)しばかり慄(ふる)へながら、156息(いき)をこらして数多(あまた)の精霊(せいれい)の取査(とりしら)べらるるのを冷々(ひやひや)しながら眺(なが)めて居(ゐ)る。157暫(しばら)くすると錫杖(しやくじやう)をガチヤンガチヤンと言(い)はせながらやつて来(き)たのは、158バラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)であつた。159宣伝使(せんでんし)が此(この)赤門(あかもん)をくぐらうとするや白(しろ)、160赤(あか)二人(ふたり)の守衛(しゆゑい)は門口(もんぐち)に立塞(たちふさ)がり、
161二人の守衛『暫(しば)らくお待(ま)ちなさい、162取調(とりしら)ぶる事(こと)がある』
163と呼(よ)びかけた。164宣伝使(せんでんし)は後(あと)振返(ふりかへ)り怪訝(けげん)な顔(かほ)をして、
165宣伝使(ハリス)『拙者(せつしや)は大自在天(だいじざいてん)大国彦(おほくにひこの)命(みこと)の御(ご)仁慈(じんじ)と御(ご)神徳(しんとく)を天下(てんか)に紹介(せうかい)致(いた)すバラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)で厶(ござ)る。166拙者(せつしや)をお呼止(よびと)めになつたのは何用(なによう)で厶(ござ)るかな』
167赤(あか)『ここは霊界(れいかい)の八衢(やちまた)だ。168其(その)方(はう)が生前(せいぜん)に於(お)ける善悪(ぜんあく)の行為(かうゐ)を査(しら)べた上(うへ)でなくては、169此(この)門(もん)を通行(つうかう)させることはなりませぬ。170ここに御(お)待(ま)ちなされ』
171宣伝使(ハリス)『ハテ心得(こころえ)ぬ、172吾々(われわれ)は大黒主(おほくろぬし)の命(めい)を奉(ほう)じ、173月(つき)の国(くに)を巡回(じゆんくわい)致(いた)し、174デカタン高原(かうげん)に向(むか)ふハリスと申(まを)す者(もの)、175決(けつ)して吾々(われわれ)は死(し)んだ覚(おぼ)えは厶(ござ)らぬ。176いい加減(かげん)に戯談(じやうだん)を云(い)つておきなさるがよからう。177大黒主(おほくろぬし)の御(ご)命令(めいれい)、178片時(かたとき)も猶予(いうよ)してゐる訳(わけ)には参(まゐ)らぬ』
179と又(また)もや行(ゆ)かむとする。180赤(あか)は目(め)を怒(いか)らし、181大喝(だいかつ)一声(いつせい)、
182赤顔の守衛『偽(にせ)宣伝使(せんでんし)、183暫(しばら)く待(ま)てツ』
184と呶鳴(どな)りつけた。185ハリスは此(この)声(こゑ)にハツと気(き)が付(つ)き、186あたりをキヨロキヨロ見廻(みまは)しながら、
187ハリス『ヤアどうやらこれは霊界(れいかい)の様(やう)で厶(ござ)る、188いつの間(ま)に斯様(かやう)な所(ところ)へ来(き)たのかなア』
189赤顔の守衛『其(その)方(はう)は世界(せかい)の人民(じんみん)に神(かみ)の福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)へ天国(てんごく)へ案内(あんない)すると申(まを)しながら、190其(その)実際(じつさい)に於(おい)て霊界(れいかい)の存在(そんざい)を信(しん)ぜず、191神(かみ)を認(みと)めず、192半信(はんしん)半疑(はんぎ)の状態(じやうたい)に在(あ)つて、193数多(あまた)の人間(にんげん)を中有界(ちううかい)又(また)は地獄(ぢごく)へ幾人(いくにん)落(おと)したか知(し)れない偽善者(ぎぜんしや)だ。194今(いま)ここで浄玻璃(じやうはり)の鏡(かがみ)にかけて、195其(その)方(はう)が霊肉(れいにく)共(とも)に犯(をか)したる罪悪(ざいあく)を査(しら)べてやらう』
196ハリス『イヤもう恐(おそ)れ入(い)りました。197仰(あふ)せの通(とほ)り社会(しやくわい)の人民(じんみん)に対(たい)し、198勧善(くわんぜん)懲悪(ちようあく)の道(みち)を説(と)き又(また)は天国(てんごく)地獄(ぢごく)の存在(そんざい)を朝(あさ)から晩(ばん)迄(まで)説(と)き諭(さと)して参(まゐ)りましたが、199実際(じつさい)に於(おい)て左様(さやう)な所(ところ)があるものか、200人間(にんげん)は此(この)肉体(にくたい)を去(さ)らば、201後(あと)は煙(けむり)の如(ごと)く消(き)え失(う)せるものだ、202コーランに示(しめ)されたる天国(てんごく)地獄(ぢごく)の状態(じやうたい)は、203要(えう)するに、204社会(しやくわい)の人心(じんしん)を調節(てうせつ)する方便(はうべん)に過(す)ぎないものだと信(しん)じて居(を)りました。205それ故(ゆゑ)何(ど)うしてもハツキリとした事(こと)は申(まを)されず、206自分(じぶん)も半信(はんしん)半疑(はんぎ)ながら天国(てんごく)地獄(ぢごく)の消息(せうそく)を説諭(ときさと)して来(き)たので厶(ござ)います。207今(いま)となつて考(かんが)へてみれば、208死後(しご)の世界(せかい)が斯(か)くも儼然(げんぜん)として存在(そんざい)するとは、209実(じつ)に驚愕(きやうがく)の至(いた)りで厶(ござ)います』
210赤顔の守衛『其(その)方(はう)は宣伝使(せんでんし)のレツテルをつけて世人(よびと)を迷(まよ)はした罪(つみ)は大(だい)なりと雖(いへど)も、211又(また)一方(いつぱう)に於(おい)て朧(おぼろ)げながら、212神(かみ)の存在(そんざい)を無信仰(むしんかう)者(しや)に伝(つた)へた徳(とく)に依(よ)つて、213地獄行(ぢごくゆき)丈(だけ)は許(ゆる)して遣(つか)はす、214少時(しばらく)此(この)中有界(ちううかい)にあつて心(こころ)を研(みが)き神(かみ)の善(ぜん)と真(しん)は何如(いか)なるものなるかを了解(れうかい)し得(う)る迄(まで)、215修業(しうげふ)を致(いた)したがよからう。216ここ三十(さんじふ)日(にち)の間(あひだ)、217中有界(ちううかい)に止(とど)まることを許(ゆる)してやるから、218其(その)間(あひだ)に智慧(ちゑ)と証覚(しようかく)を得(え)、219愛(あい)の善(ぜん)と信(しん)の真(しん)を了得(れうとく)し得(う)るならば、220霊相応(みたまさうおう)の天国(てんごく)へ昇(のぼ)り得(う)るであらう。221此(この)期限内(きげんない)に万々一(まんまんいち)改過(かいくわ)遷善(せんぜん)の実(じつ)をあげ得(え)ざるに於(おい)ては、222気(き)の毒(どく)ながら地獄(ぢごく)へ落(おと)さねばならない、223サア早(はや)く東(ひがし)を指(さ)して進(すす)んだがよからう』
224ハリス『ハイ、225特別(とくべつ)の御(ご)憐愍(れんびん)を以(もつ)て地獄落(ぢごくおち)の猶予(いうよ)期間(きかん)をお与(あた)へ下(くだ)さいまして有難(ありがた)う厶(ござ)います。226左様(さやう)なればこれから中有界(ちううかい)を遍歴(へんれき)し、227力(ちから)一杯(いつぱい)善(ぜん)の為(ため)に善(ぜん)を行(おこな)ひ、228迷(まよ)ひ来(く)る精霊(せいれい)に対(たい)し、229十分(じふぶん)の努力(どりよく)を以(もつ)て、230私(わたし)の悟(さと)り得(え)たる所(ところ)を伝(つた)へるで厶(ござ)いませう』
231赤顔の守衛『コリヤコリヤ、232ハリス、233其(その)方(はう)が覚(さと)り得(え)たと思(おも)つたら大変(たいへん)な間違(まちがひ)であるぞ、234皆(みな)神(かみ)さまの御(ご)神格(しんかく)の内流(ないりう)に依(よ)つて、235知覚(ちかく)し、236意識(いしき)し、237証覚(しようかく)を得(う)るものだ。238決(けつ)して汝(なんぢ)一力(いちりき)のものと思(おも)つたら、239忽(たちま)ち天(てん)の賊(ぞく)となつて地獄(ぢごく)へ落(お)ちねばならないぞ、240ええか、241分(わか)つたか』
242ハリス『ハイ、243分(わか)りまして厶(ござ)います、244然(しか)らば之(これ)より東(ひがし)を指(さ)して修業(しうげふ)に参(まゐ)ります』
245赤顔の守衛『期限内(きげんない)に必(かなら)ずここへ帰(かへ)つて来(く)るのだぞ、246其(その)時(とき)改(あらた)めて汝(なんぢ)の改過(かいくわ)遷善(せんぜん)の度合(どあひ)を査(しら)べ、247汝(なんぢ)が所住(しよぢゆう)を決定(けつてい)するであらう』
248ハリス『どうも御(お)手数(てすう)をかけまして、249真(まこと)にすみませぬ、250左様(さやう)なれば御免(ごめん)下(くだ)さいませ』
251と云(い)ひながら、252始(はじ)めの勢(いきほひ)どこへやら、253悄然(せうぜん)として次第(しだい)々々(しだい)に其(その)影(かげ)はうすれつつ、254靄(もや)の中(なか)に消(き)えて了(しま)つた。
255 竜公(たつこう)は治国別(はるくにわけ)の袖(そで)をひき、256小声(こごゑ)になつて、
257竜公『モシ先生(せんせい)、258宣伝使(せんでんし)も霊界(れいかい)へ来(き)ては、259カラキーシ駄目(だめ)ですなア、260現界(げんかい)では丸(まる)で救(すくひ)の神(かみ)様(さま)の様(やう)に言(い)はれて居(を)つても、261茲(ここ)へ来(く)ると本当(ほんたう)に見(み)る影(かげ)もないぢやありませぬか』
262治国別『ウン、263さうぢや、264俺(おれ)達(たち)もまだ天国(てんごく)へは行(ゆ)けず、265中有界(ちううかい)に迷(まよ)うて居(ゐ)るのだからなア、266それだから吾々(われわれ)は八衢(やちまた)人足(にんそく)と、267信者(しんじや)以外(いぐわい)の連中(れんちう)から云(い)はれても仕方(しかた)がないのだ』
268竜公『何(ど)うしたら天国(てんごく)へ行(ゆ)けるでせうかな』
269治国別『さうだ、270心(こころ)のドン底(ぞこ)より、271神(かみ)さまの神格(しんかく)を理解(りかい)し、272神(かみ)の真愛(しんあい)を会得(ゑとく)し、273愛(あい)の為(ため)に愛(あい)を行(おこな)ひ、274善(ぜん)の為(ため)に善(ぜん)を行(おこな)ひ、275真(しん)の為(ため)に真(しん)を行(おこな)ふ真人間(まにんげん)とならなくちや到底(たうてい)駄目(だめ)だ。276俺(おれ)達(たち)も少(すこ)しばかり言霊(ことたま)が利(き)くやうになつて、277自分(じぶん)が修行(しうぎやう)した結果(けつくわ)神力(しんりき)が備(そな)はつたと思(おも)うて居(を)つたが、278大変(たいへん)な間違(まちが)ひだつた、279何(いづ)れも皆(みな)瑞(みづ)の御霊(みたま)神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)の御(ご)神格(しんかく)が吾(わが)精霊(せいれい)を充(み)たし、280吾(わが)肉体(にくたい)をお使(つか)ひになつて居(を)つたのだつた。281之(これ)を思(おも)へば人間(にんげん)はチツとも我(が)を出(だ)すことは出来(でき)ない、282何事(なにごと)も自分(じぶん)の智慧(ちゑ)だ力(ちから)だ器量(きりやう)だと思(おも)ふのは、283所謂(いはゆる)大神(おほかみ)の御(ご)神徳(しんとく)を横領(わうりやう)致(いた)す天(てん)の賊(ぞく)だ。284斯様(かやう)な考(かんが)へで居(を)つたならば、285到底(たうてい)何時迄(いつまで)も中有界(ちううかい)に迷(まよ)ふか、286遂(つひ)には地獄道(ぢごくだう)へ落(お)ちねばならぬ、287有難(ありがた)や尊(たふと)や、288神(かみ)様(さま)の御恵(みめぐみ)に依(よ)つて、289ハツキリと霊界(れいかい)の様子(やうす)を見(み)せて頂(いただ)き、290実(じつ)に感謝(かんしや)の至(いた)りである。291之(これ)から吾々(われわれ)は、292今迄(いままで)の心(こころ)を入(い)れ替(か)へて、293何事(なにごと)も神(かみ)様(さま)に御(お)任(まか)せするのだなア、294自分(じぶん)の力(ちから)だと思(おも)へば、295そこに慢心(まんしん)の雲(くも)が湧(わ)いて来(く)る。296謹(つつし)んだ上(うへ)にも謹(つつし)むべきは心(こころ)の持方(もちかた)である。297あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
298と合掌(がつしやう)し感涙(かんるゐ)に咽(むせ)ぶのであつた。299竜公(たつこう)も亦(また)無言(むごん)のまま手(て)を合(あは)せ、300感謝(かんしや)の涙(なみだ)にくれてゐる。301伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)は二人(ふたり)に会釈(ゑしやく)し、302スーツと座(ざ)を立(た)つて、303館(やかた)の奥(おく)深(ふか)く入(い)らせ給(たま)うた。304二人(ふたり)は後(あと)を眺(なが)むれば、305伊吹戸主(いぶきどぬしの)神(かみ)の姿(すがた)は丸(まる)き玉(たま)の如(ごと)く光(ひか)り輝(かがや)き、306其(その)神姿(しんし)は判然(はんぜん)と見(み)えず、307月(つき)の如(ごと)き光(ひかり)が七(なな)つ八(や)つ或(あるひ)は九(ここの)つ円球(ゑんきう)の周囲(しうゐ)を取巻(とりま)き、308次第(しだい)々々(しだい)に奥(おく)の間(ま)に隠(かく)れ給(たま)ふのであつた。
309 凡(すべ)て智慧(ちゑ)と証覚(しようかく)のすぐれたる神人(しんじん)を、310それより劣(おと)りし証覚者(しようかくしや)が拝(はい)する時(とき)は、311光(ひかり)の如(ごと)く見(み)えて、312目(め)も眩(まばゆ)くなるものである。313神(かみ)の神格(しんかく)は神善(しんぜん)と神真(しんしん)であり、314それより発(はつ)する智慧(ちゑ)証覚(しようかく)は即(すなは)ち光(ひかり)なるが故(ゆゑ)である。315二人(ふたり)は愕然(がくぜん)としてものをも言(い)はず、316再(ふたた)び八衢(やちまた)の関所(せきしよ)に目(め)を放(はな)ちここに集(あつ)まり来(きた)る精霊(せいれい)の様子(やうす)を瞬(またた)きもせず窺(うかが)つてゐた。
317(大正一二・一・九 旧一一・一一・二三 松村真澄録)
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