霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 伊猛彦(いたけりひこ)〔一六一〇〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm6303
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 玉国別(たまくにわけ)は三(さん)人(にん)の話(はなし)を聞(き)いて双手(もろて)を組(く)み何(なに)か思案(しあん)に暮(く)れてゐる。002伊太彦(いたひこ)は気(き)をいらち、
003『もし先生(せんせい)、004千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)、005何(なに)を御(ご)思案(しあん)して厶(ござ)るのですか。006貴方(あなた)も玉国別(たまくにわけ)と名(な)を頂(いただ)いた以上(いじやう)は、007今(いま)お聞(き)きでせうが夜光(やくわう)の玉(たま)を、008も一(ひと)つ伊太彦(いたひこ)にお取(と)らせになるのも、009お名前(なまへ)から云(い)つても普通(ふつう)の事(こと)だと考(かんが)へます。010私(わたし)も諦(あきら)めて居(を)りましたが、011又(また)俄(にはか)に何(なん)だか勇気(ゆうき)が勃々(ぼつぼつ)として参(まゐ)りました。012諺(ことわざ)にも「聞(き)かざるは之(これ)を聞(き)くに如(し)かず、013之(これ)を聞(き)くは之(これ)を見(み)るに如(し)かず、014之(これ)を見(み)るは之(これ)を知(し)るに如(し)かず、015之(これ)を知(し)るは之(これ)を行(おこな)ふに如(し)かず」と云(い)ふ事(こと)が厶(ござ)いますから、016玉(たま)の所在(ありか)を聞(き)いた以上(いじやう)は、017何処(どこ)迄(まで)も実否(じつぴ)をつきとめ、018果(はた)して玉(たま)在(あ)りとせば、019之(これ)を竜王(りうわう)の手(て)より預(あづか)つて帰(かへ)らうと思(おも)ひます。020そして竜王(りうわう)に三五(あななひ)の道(みち)を説(と)き聞(き)かせてやり度(た)う厶(ござ)いますが、021どうか私(わたし)を特命(とくめい)全権(ぜんけん)公使(こうし)に任命(にんめい)して下(くだ)さいますまいかな』
022玉国(たまくに)『「来(きた)りて学(まな)ぶを聞(き)く、023未(いま)だ行(ゆ)きて教(をし)ふるを聞(き)かず」と聖人(せいじん)も云(い)つて居(ゐ)る。024又(また)お前(まへ)の様(やう)に余(あま)り強(つよ)ばると025失策(しつさく)をやらうまいものでもないから、026些(ちつ)とジツクリしたら宜(よ)からう。027ウバナンダ竜王(りうわう)に教(をしへ)をするのは宜(よ)いが、028ここへ言霊(ことたま)を以(もつ)て招(まね)き寄(よ)せて教(をし)へてやつたらどうだ。029こちらから行(ゆ)く必要(ひつえう)はあるまい。030諺(ことわざ)にも「兵(へい)強(つよ)ければ即(すなは)ち滅(ほろ)び、031木(き)強(つよ)ければ即(すなは)ち折(を)れる」と云(い)ふ事(こと)がある。032人間(にんげん)は控目(ひかへめ)にすることが肝腎(かんじん)だからな』
033伊太(いた)『先生(せんせい)、034貴方(あなた)は卑怯(ひけふ)な事(こと)を仰(おほ)せられますな。035「危(あやふ)きは疑(うたが)ひに任(まか)すより危(あやふ)きはなし、036危(あやふ)きものは其(その)安(あん)を保(たも)ち、037亡(ほろ)ぶるものは其(その)存(そん)を保(たも)つ」と云(い)ひますぜ』
038 玉国別(たまくにわけ)は儼然(げんぜん)として容(かたち)を改(あらた)め、039徐(おもむろ)に口(くち)を開(ひら)いて、
040『伊太彦(いたひこ)さま、041貴方(あなた)は夜光(やくわう)の玉(たま) 夜光(やくわう)の玉(たま)と頻(しき)りに熱望(ねつばう)して居(を)られますが、042形態(けいたい)ある玉(たま)は或(あるひ)は毀損(きそん)し043或(あるひ)は紛失(ふんしつ)する虞(おそ)れが伴(ともな)ふものですよ。044夫(そ)れよりも045貴方(あなた)御(ご)自身(じしん)が所持(しよぢ)して居(を)らるる内在(ないざい)の宝玉(はうぎよく)を046穢(けが)さないやうに為(な)さいませ』
047伊太(いた)『内在(ないざい)の玉(たま)とは何(なん)ですか。048拙者(わたし)はそんなものは持(も)ちませぬがナア。049貴師(あなた)は夜光(やくわう)の玉(たま)をお持(も)ちになつたものだから、050ソンナ平気(へいき)なことを謂(ゐ)つて居(を)られるでせうが、051苟(いやし)くも三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)たるもの052玉(たま)の一(ひと)つ位(ぐらゐ)有形(いうけい)的(てき)に所持(しよぢ)せなくては、053巾(はば)が利(き)かないぢや有(あ)りませぬか。054現(げん)に、055イク、056サールの両君(りやうくん)さへも結構(けつこう)な水晶魂(すいしやうだま)を神界(しんかい)より与(あた)へられて居(を)られるでせう。057拙者(せつしや)は如何(どう)しても、058今回(こんくわい)はお許(ゆる)しを戴(いただ)いて大蛇(をろち)の窟(いはや)に飛(と)び込(こ)み、059一箇(いつこ)だけ手(て)に入(い)れて見(み)たいものです。060言依別(ことよりわけの)命(みこと)様(さま)も国依別(くによりわけ)様(さま)も061琉(りう)と球(きう)との宝玉(ほうぎよく)の威光(ゐくわう)によつて、062アンナ立派(りつぱ)な御(ご)神業(しんげふ)を遊(あそ)ばしたぢや有(あ)りませぬか。063現(げん)にこの霊山(れいざん)に宝玉(ほうぎよく)ありと聞(き)いた以上(いじやう)は、064実否(じつぴ)は兎(と)も角(かく)も、065一度(いちど)探険(たんけん)と出(で)かけたいものですなア』
066玉国(たまくに)『伊太彦(いたひこ)さま、067御(お)説(せつ)は御尤(ごもつと)もだが俺(わし)の話(はなし)も一(ひと)つ聞(き)いて貰(もら)ひたい。068先(ま)づ第一(だいいち)に僕(ぼく)が玉(たま)を所持(しよぢ)して居(ゐ)るのは069貴方(あなた)の手(て)を通(とほ)して徳叉伽(タクシャカ)竜王(りうわう)から預(あづ)かり、070之(これ)を大神(おほかみ)様(さま)に奉納(ほうなふ)せなくては成(な)らぬ宝玉(ほうぎよく)だ。071この御用(ごよう)も僕(ぼく)から決(けつ)して希望(きばう)したのでは無(な)い、072惟神(かむながら)の摂理(せつり)によつて自然(しぜん)に僕(ぼく)があづからなくてはならない様(やう)になつたのだ。073天(てん)の命(めい)ずる所(ところ)だから、074之(これ)を拒(こば)むことは出来(でき)ない。075要(えう)するに竜王(りうわう)が帰順(きじゆん)の至誠(しせい)を表白(へうはく)する一(ひと)つの証拠品(しようこひん)だ。076之(これ)を僕(ぼく)が預(あづ)かつて大神(おほかみ)様(さま)に献(たてまつ)つて上(あ)げねば、077竜王(りうわう)さまの解脱(げだつ)が出来(でき)ないからだよ。078お前(まへ)の様(やう)に自分(じぶん)の方(はう)から求(もと)めて宝玉(ほうぎよく)を得(え)ようとするのは、079余(あま)り面白(おもしろ)くないと思(おも)ふがなア。080伊太彦(いたひこ)さま、081僕(ぼく)が何時(いつ)ぞやら比喩話(たとへばなし)を聞(き)いたことを今(いま)思(おも)ひ出(だ)したから聞(き)いて下(くだ)さい。082エヽと或(あ)る処(ところ)に一人(ひとり)の男(をとこ)があつて、083友人(いうじん)の所(ところ)へ訪問(はうもん)した。084そして大変(たいへん)に振舞酒(ふるまひざけ)に泥酔(どろゑひ)して085グタグタに前後(ぜんご)も知(し)らず酔(よ)ひ潰(つぶ)れて了(しま)つた。086その時(とき)にその親友(しんいう)は、087或(あ)る官用(くわんよう)のために急(きふ)に出掛(でか)けることと成(な)つたので088酔(よ)ひ潰(つぶ)れて居(を)る友人(いうじん)を色々(いろいろ)と揺(ゆ)り起(おこ)して見(み)た所(ところ)が、089容易(ようい)に目(め)が醒(さ)めないので止(や)むを得(え)ず、090眠(ねむ)つてゐる友人(いうじん)の衣服(いふく)の裏(うら)へ091非常(ひじやう)に高価(かうか)な玉(たま)をソツと繋(つな)いで出掛(でかけ)た。092其(その)後(ご)になつて酒(さけ)に酔(よ)ひ潰(つぶ)れてゐた男(をとこ)は眼(め)を醒(さ)まし、093友人(いうじん)の繋(つな)いで置(お)いて呉(く)れた球(たま)のことは一向(いつかう)に気(き)が附(つ)かずに、094親友(しんいう)のゐないのに驚(おどろ)き家(いへ)を立(たち)出(い)で、095懐中(くわいちう)無一物(むいちぶつ)のため仕方(しかた)がないので096放浪(はうらう)して他国(たこく)へ出(で)かけて行(い)つた。097何(なん)と云(い)つても無銭(むせん)旅行(りよかう)をやつてゐるため098衣食(いしよく)と住居(ぢうきよ)に就(つい)て具(つぶ)さに艱難(かんなん)辛苦(しんく)を嘗(な)めた。099然(しか)しその男(をとこ)は例(れい)の親友(しんいう)が自分(じぶん)の衣服(いふく)の裏(うら)に、100貴重(きちよう)なる宝玉(ほうぎよく)を繋(つな)いで置(お)いて呉(く)れたことは夢(ゆめ)にも知(し)らず、101依然(いぜん)として衣食(いしよく)に窮(きう)し102所々(しよしよ)方々(はうばう)と放浪(はうらう)し苦辛(くしん)を嘗(な)めた。103所(ところ)が余程(よほど)経(た)つてから後(のち)のこと、104偶然(ぐうぜん)にも昔(むかし)の親友(しんいう)に出会(でつくは)した。105そこで今(いま)まで艱難(かんなん)苦労(くらう)したことの一部(いちぶ)始終(しじう)を涙(なみだ)と共(とも)に物語(ものがた)ると、106友人(いうじん)は吃驚(びつくり)して、107「君(きみ)はマア何(なん)といふ馬鹿(ばか)な真似(まね)をしたのだらう。108何(なに)もそれ程(ほど)迄(まで)に苦(くるし)まなくてもよかつたのだ。109昔(むかし)君(きみ)と僕(ぼく)と酒(さけ)を呑(の)んだ際(さい)に110君(きみ)は大変(たいへん)に酔(よ)つてゐたので知(し)らなかつたけれ共(ども)、111君(きみ)に将来(しやうらい)不自由(ふじゆう)なく安楽(あんらく)に暮(くら)させようと思(おも)つて、112態々(わざわざ)高価(かうか)な宝珠(ほつしゆ)を、113君(きみ)の衣服(いふく)の裏(うら)に繋(つな)ぎ隠(かく)しておいた筈(はず)だ。114まア、115一度(いちど)調(しら)べて見給(みたま)へ、116今(いま)も当時(たうじ)の球(たま)は君(きみ)の衣服(いふく)の裏(うら)にきつと有(あ)るに違(ちが)ひない。117君(きみ)がその球(たま)にさへ早(はや)く気(き)が附(つ)いてゐたら、118決(けつ)して今(いま)迄(まで)の様(やう)な苦労(くらう)なんか為(せ)なくても可(よ)かつた筈(はず)だ。119早(はや)く其(そ)の球(たま)を取(と)り出(だ)して120何(なん)なりと君(きみ)に必用(ひつよう)なものを買(か)ふ資料(しれう)にしたが可(い)い」と親切(しんせつ)に諭(さと)した。121所(ところ)がその男(をとこ)は今更(いまさら)のやうに気(き)がついて衣服(いふく)の裏(うら)を査(しら)べると122親友(しんいう)の言(い)つた通(とほ)り高価(かうか)な球(たま)があつたので、123男(をとこ)は友(とも)の懇情(こんじやう)を涙(なみだ)と共(とも)に感謝(かんしや)し、124それから後(のち)は安楽(あんらく)に暮(くら)したと謂(ゐ)ふことだ。125然(しか)し伊太彦(いたひこ)さま、126これは譬話(たとへばなし)だから有形(いうけい)の宝玉(ほうぎよく)ではない。127人間(にんげん)が本来(ほんらい)具有(ぐいう)せる内在(ないざい)の神(かみ)でもあり128霊的(れいてき)の宝玉(ほうぎよく)だ。129そして球(たま)を繋(つな)いで呉(く)れた親友(しんいう)と云(い)ふのは、130吾々(われわれ)に神(かみ)の性能(せいのう)あることを知(し)らして下(くだ)さつた瑞(みづ)の御魂(みたま)の救(すく)ひ主(ぬし)、131神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)様(さま)だ。132又(また)酒(さけ)と云(い)ふのは名利(めいり)女色(ぢよしよく)等(とう)の際限(さいげん)なき欲望(よくばう)のことだ。133そして酒(さけ)に酔(よ)ひつぶれた男(をとこ)と云(い)ふのは、134果(はた)して何人(なにびと)であらうか』
135伊太(いた)『先生(せんせい)136ソンナ事(こと)は三十万(さんじふまん)年(ねん)未来(みらい)に於(おい)て137月照彦(つきてるひこ)様(さま)が釈迦(しやか)と現(あら)はれて、1371御(お)説(と)きになつた138法華経(ほけきやう)の七大(しちだい)比喩(ひゆ)の中(なか)に記(しる)してある文句(もんく)ですよ。139内在(ないざい)の玉(たま)は既(すで)に已(すで)に認(みと)めて居(を)ります。140併(しか)し世界(せかい)は顕幽(けんいう)一本(いつぽん)とか霊肉(れいにく)一致(いつち)とか云(い)つて、141内外(ないぐわい)に玉(たま)が必用(ひつよう)ぢやありませぬか』
142玉国(たまくに)『アヽ困(こま)りましたなア。143到底(たうてい)拙者(せつしや)の言霊(ことたま)では伊太彦(いたひこ)砲台(はうだい)の陥落(かんらく)は不可能(ふかのう)かも知(し)れぬ。144治道(ちだう)様(さま)、145貴方(あなた)一(ひと)つ援兵(ゑんぺい)を繰(くり)出(だ)して下(くだ)さいな。146何(ど)うやら玉国別(たまくにわけ)の軍勢(ぐんぜい)は旗色(はたいろ)が悪(わる)くなつた様(やう)です』
147治道(ちだう)『伊太彦(いたひこ)さま、148先(ま)づ冷静(れいせい)にお考(かんが)へなさいませ。149現在(げんざい)の吾々(われわれ)お互(たがひ)を神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)の神鏡(しんきやう)に照(て)らして反省(はんせい)して見(み)ると、150今(いま)玉国別(たまくにわけ)様(さま)の御(お)言葉(ことば)の酔(よ)ひ潰(つぶ)れの男(をとこ)とは、151若(も)しや自分(じぶん)共(ども)の事(こと)を仰有(おつしや)つたのでは在(あ)りますまいか。152人間(にんげん)は兎角(とかく)忘(わす)れてはならない事(こと)を忘(わす)れたり、153忘(わす)れて可(よ)い事(こと)を忘(わす)れないものです。154今(いま)私(わたし)達(たち)は肉団(にくだん)の胸(むね)の中(うち)に高価(かうか)な珠(たま)を持(も)ち乍(なが)ら155忘(わす)れ込(こ)んで了(しま)つて居(ゐ)るのです。156又(また)その珠(たま)を用(もち)ゆることもせずに徒(いたづら)に形(かたち)ある宝(たから)に心酔(しんすゐ)して、1561肝腎(かんじん)の霊魂(たま)を失(うしな)つて居(ゐ)るのでは有(あ)りますまいかなア』
157伊太(いた)『……』
158玉国(たまくに)『魯(ろ)の哀公(あいこう)[※魯(中国)の第27代君主。紀元前5世紀頃の人物。]は、159「人(ひと)の好(よ)く忘(わす)るるものあり、160移宅(わたまし)に乃(すなは)ち其(その)妻(つま)を忘(わす)れたり」といつた所(ところ)が、161孔子(こうし)は亦(また)、162之(これ)に対(たい)して「また好(よ)く忘(わす)るること此(これ)より甚(はなは)だしきあり。163桀紂(けつちう)は乃(すなは)ち其(その)身(み)を忘(わす)れたり」と皮肉(ひにく)を言(い)つたと言(い)ふが、164桀(けつ)と紂(ちう)とは支那(しな)の未来(みらい)の暴君(ばうくん)で、165酒地(しゆち)肉林(にくりん)の淫楽(いんらく)に耽(ふけ)つて、166遂(つひ)にその身(み)と国家(こくか)とを失(うしな)つた虐主(ぎやくしゆ)である。167何(なに)が一番(いちばん)大(おほ)きな忘(わす)れものだと言(い)つても、168自分(じぶん)を忘(わす)れる程(ほど)、169大(おほ)きい忘(わす)れものは無(な)からう。170人間(にんげん)の弱点(じやくてん)は兎角(とかく)この忘(わす)れる筈(はず)のもので無(な)い自分(じぶん)を忘(わす)れてゐる場合(ばあひ)が多(おほ)いものだ。171桀(けつ)や紂(ちう)の如(ごと)く暴君(ばうくん)たらずとも、172金銭(きんせん)や名誉(めいよ)や酒色(しゆしよく)の暴君(ばうくん)となつて173何時(いつ)も本来(ほんらい)の我(われ)を忘(わす)れてゐるのだ。174伊太彦(いたひこ)さまの霊肉(れいにく)一致説(いつちせつ)も亦(また)一理(いちり)ある様(やう)だが175肝腎(かんじん)の御魂(みたま)の置所(おきどころ)を忘(わす)れては居(ゐ)ないだらうかなア』
176伊太(いた)『御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな、177拙者(せつしや)は神界(しんかい)から直接(ちよくせつ)内流(ないりう)があつて命令(めいれい)を受(う)けてゐるのです。178何(なに)が御(ご)都合(つがふ)になるか判(わか)りませぬからなア』
179玉国(たまくに)『神界(しんかい)からの内流(ないりう)とある以上(いじやう)は、180吾(われ)何(なに)をか言(い)はむやだ。181そんなら伊太彦(いたひこ)さま、182玉国別(たまくにわけ)はこれ限(ぎ)り何(なに)も申(まを)しませぬ。183自由(じいう)に神示(しんじ)の御用(ごよう)をなさい。184人間(にんげん)の分際(ぶんざい)として神(かみ)の御(ご)経綸(けいりん)は到底(たうてい)測知(そくち)する事(こと)は出来(でき)ませぬからなア』
185伊太(いた)『さすがは先生(せんせい)だ。186有難(ありがた)うエヘヽヽヽ。187サア、188お許(ゆる)しを得(え)た以上(いじやう)は、189之(これ)から逸早(いちはや)くスダルマ山(さん)の嶮(けん)を越(こ)え、190カークス、191ベースの勇士(ゆうし)を従(したが)へ192旗鼓(きこ)堂々(だうだう)としてスーラヤの湖(うみ)に永久(とこしへ)に漂(ただよ)ふ宝(たから)の山(やま)、193スーラヤ山(さん)の岩窟(がんくつ)に攻(せ)め寄(よ)せ、194ウバナンダ竜王(りうわう)を言向(ことむ)け、195夜光(やくわう)の玉(たま)を貢(みつ)がせ、196三(さん)人(にん)轡(くつわ)を並(なら)べて黄金山(わうごんざん)に参上(まゐのぼ)り、197天晴(あつぱれ)功名(こうみやう)手柄(てがら)を致(いた)すで厶(ござ)らう。198者共(ものども)、199吾(われ)に従(したが)へ』
200と云(い)ひ乍(なが)ら肩肱(かたひぢ)怒(いか)らし、201カークス、202ベースの両人(りやうにん)を引率(ひきつ)れ、203玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)に別(わか)れ、204「何(いづ)れエルサレムにて御(ご)面会(めんくわい)」と一言(ひとこと)を残(のこ)し、205意気(いき)揚々(やうやう)として、206カークスに間道(かんだう)を教(をし)へられ足早(あしばや)に進(すす)み行(ゆ)く。
207 後(あと)見送(みおく)つて玉国別(たまくにわけ)は打(うち)笑(わら)ひ、
208『アハヽヽヽヽ、209イヤ、210面白(おもしろ)い男(をとこ)だ。211之(これ)で伊太彦(いたひこ)の使命(しめい)も果(はた)せるであらう。212併(しか)し乍(なが)らスーラヤ山(さん)の竜王(りうわう)は非常(ひじやう)に猛悪神(まうあくしん)と聞(き)いて居(ゐ)る。213どうも伊太彦(いたひこ)一人(ひとり)にては心(こころ)許(もと)ない。214真純彦(ますみひこ)さま、215その他(た)皆(みな)さま、216之(これ)からそろそろ時機(じき)を見図(みはか)らひ応援(おうゑん)に参(まゐ)りませうか』
217治道(ちだう)『謹(つつし)んでお伴(とも)いたしませう。218伊太彦(いたひこ)さまは随分(ずいぶん)快活(くわいくわつ)な人(ひと)ですな。219拙者(せつしや)は非常(ひじやう)に伊太彦(いたひこ)崇拝熱(すうはいねつ)が高(たか)まつて参(まゐ)りましたよ。220アハヽヽヽヽ』
221真純(ますみ)『「材(ざい)に任(にん)じ能(のう)を使(つか)ふは務(つと)めを済(な)す所以(ゆゑん)なり、222物(もの)を済(な)す所以(ゆゑん)なり」と云(い)つて、223流石(さすが)は玉国別(たまくにわけ)様(さま)だ。224適材(てきざい)を適所(てきしよ)にお使(つか)ひ遊(あそ)ばす、225その御(ご)明察(めいさつ)には感(かん)じ入(い)りました』
226玉国(たまくに)『伊太彦(いたひこ)さまは本当(ほんたう)に偉(えら)いですよ。227最前(さいぜん)から彼(あ)んな事(こと)を云(い)つてゐましたが228神界(しんかい)の御(ご)経綸(けいりん)によつて神懸(かむがかり)になつてゐたのです。229諺(ことわざ)にも「死(し)を知(し)るは必(かなら)ず勇(ゆう)なり。230死(し)するは難(かた)きに非(あら)ず、231死(し)に所(しよ)するは難(かた)し」と云(い)つて、232剣呑(けんのん)な所(ところ)を好(この)んで神界(しんかい)のために行(ゆ)かうとする、233その精神(せいしん)は天晴(あつぱれ)なものですよ』
234三千(みち)『伊太彦(いたひこ)さまは普通(ふつう)の人間(にんげん)ぢやありますまいね』
235玉国(たまくに)『普通(ふつう)の人間(にんげん)ならば如何(どう)してタクシャカ竜王(りうわう)を言向和(ことむけやは)す事(こと)が出来(でき)ませう。236やがて霊(みたま)の素性(すじやう)が分(わか)るでせう。237私(わたし)も今(いま)初(はじ)めて非凡(ひぼん)の神格者(しんかくしや)なる事(こと)を……恥(はづか)し乍(なが)ら悟(さと)つたのです、238アハヽヽヽ』
239デビス『サア、240皆様(みなさま)、241ボツボツ参(まゐ)りませうか』
242『宜(よろ)しからう』
243と一同(いちどう)は油蝉(あぶらせみ)の鳴(な)く炎天(えんてん)の山道(やまみち)を喘(あへ)ぎ喘(あへ)ぎ登(のぼ)り行(ゆ)く。
244(大正一二・五・一八 旧四・三 北村隆光録)
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