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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第63巻(寅の巻)
序歌
総説
第1篇 妙法山月
第1章 玉の露
第2章 妙法山
第3章 伊猛彦
第4章 山上訓
第5章 宿縁
第6章 テルの里
第2篇 日天子山
第7章 湖上の影
第8章 怪物
第9章 超死線
第3篇 幽迷怪道
第10章 鷺と鴉
第11章 怪道
第12章 五託宣
第13章 蚊燻
第14章 嬉し涙
第4篇 四鳥の別
第15章 波の上
第16章 諒解
第17章 峠の涙
第18章 夜の旅
第5篇 神検霊査
第19章 仕込杖
第20章 道の苦
第21章 神判
第22章 蚯蚓の声
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第63巻(寅の巻)
> 第4篇 四鳥の別 > 第17章 峠の涙
<<< 諒解
(B)
(N)
夜の旅 >>>
第一七章
峠
(
たうげ
)
の
涙
(
なみだ
)
〔一六二四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻
篇:
第4篇 四鳥の別
よみ(新仮名遣い):
しちょうのわかれ
章:
第17章 峠の涙
よみ(新仮名遣い):
とうげのなみだ
通し章番号:
1624
口述日:
1923(大正12)年05月29日(旧04月14日)
口述場所:
天声社
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年2月3日
概要:
舞台:
ハルセイ山
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6317
愛善世界社版:
232頁
八幡書店版:
第11輯 346頁
修補版:
校定版:
240頁
普及版:
64頁
初版:
ページ備考:
001
ハルセイ
山
(
ざん
)
の
峠
(
たうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
古
(
ふる
)
き
木株
(
こかぶ
)
に
腰
(
こし
)
打
(
うち
)
掛
(
か
)
け、
002
疲
(
つか
)
れを
休
(
やす
)
むる
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
003
過
(
す
)
ぎ
来
(
こ
)
し
方
(
かた
)
の
空
(
そら
)
を
眺
(
なが
)
めて
独語
(
ひとりごと
)
、
004
男
(
をとこ
)
『
春
(
はる
)
過
(
す
)
ぎ
夏
(
なつ
)
も
去
(
さ
)
り、
005
漸
(
やうや
)
く
初秋
(
はつあき
)
の
風
(
かぜ
)
は
吹
(
ふ
)
いて
来
(
き
)
た。
006
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
夏
(
なつ
)
の
印度
(
ツキ
)
の
国
(
くに
)
も、
007
此
(
この
)
高山
(
たかやま
)
の
峠
(
たうげ
)
に
登
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
れば、
008
ヤハリ
秋
(
あき
)
の
気分
(
きぶん
)
が
漂
(
ただよ
)
ふて
居
(
ゐ
)
る。
009
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
に
従
(
したが
)
ひ
010
凩
(
こがらし
)
荒
(
すさ
)
ぶ
冬
(
ふゆ
)
の
頃
(
ころ
)
、
011
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
を
立
(
たち
)
出
(
い
)
でて
難行
(
なんぎやう
)
苦行
(
くぎやう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
012
漸
(
やうや
)
くここ
迄
(
まで
)
来
(
く
)
るは
来
(
き
)
たものの、
013
吾
(
わが
)
身
(
み
)
に
積
(
つも
)
る
罪悪
(
ざいあく
)
の
重荷
(
おもに
)
に
苦
(
くる
)
しみ、
014
もはや
一歩
(
いつぽ
)
も
歩
(
ある
)
けなくなつて
来
(
き
)
た。
015
あゝ
如何
(
いか
)
にせば
吾
(
わが
)
罪
(
つみ
)
を
赦
(
ゆる
)
され、
016
神
(
かみ
)
の
任
(
よ
)
さしの
使命
(
しめい
)
をば
果
(
はた
)
すことが
出来
(
でき
)
ようか。
017
スダルマ
山
(
さん
)
の
山麓
(
さんろく
)
にて
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
に
別
(
わか
)
れ、
018
スーラヤ
山
(
さん
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
にナーガラシャーの
宝玉
(
はうぎよく
)
を
得
(
え
)
むと
勃々
(
ぼつぼつ
)
たる
野心
(
やしん
)
に
駆
(
か
)
られ、
019
カークス、
020
ベースの
両人
(
りやうにん
)
を
道案内
(
みちあんない
)
にして、
021
漸
(
やうや
)
くにしてスダルマの
湖水
(
こすい
)
の
一角
(
いつかく
)
に
辿
(
たど
)
りつき、
022
ルーブヤが
家
(
いへ
)
に
一夜
(
いちや
)
の
雨宿
(
あまやど
)
り、
023
ゆくりなくもブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
に
見
(
み
)
そめられ、
024
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
上
(
のぼ
)
る
途中
(
とちう
)
とは
知
(
し
)
り
乍
(
なが
)
らも、
025
同僚
(
どうれう
)
の
三千彦
(
みちひこ
)
が
嬪
(
ひん
)
に
做
(
な
)
らひ、
026
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
許
(
ゆる
)
しをも
得
(
え
)
ずして
027
神勅
(
しんちよく
)
を
楯
(
たて
)
に
自由
(
じいう
)
の
結婚談
(
けつこんだん
)
を
定
(
さだ
)
め、
028
それより
夫婦
(
ふうふ
)
気取
(
きど
)
りになつて
兄
(
あに
)
に
送
(
おく
)
られ、
029
スーラヤ
山
(
ざん
)
に
登
(
のぼ
)
り
030
五大力
(
ごだいりき
)
とか
何
(
なん
)
とか
称
(
しよう
)
する
神
(
かみ
)
に
途中
(
とちう
)
に
出会
(
でつくは
)
し、
031
いろいろの
教訓
(
けうくん
)
を
受
(
う
)
け
乍
(
なが
)
ら、
032
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
とのみ
思
(
おも
)
ひつめ、
033
死線
(
しせん
)
を
越
(
こ
)
へて、
0331
岩窟
(
がんくつ
)
に
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
み
034
霊界
(
あのよ
)
現界
(
このよ
)
の
境
(
さかひ
)
迄
(
まで
)
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
035
高姫
(
たかひめ
)
の
精霊
(
せいれい
)
の
試
(
ため
)
しに
会
(
あ
)
はされ、
036
神
(
かみ
)
の
化身
(
けしん
)
に
助
(
たす
)
けられ、
037
漸
(
やうや
)
く
蘇生
(
そせい
)
し、
038
又
(
また
)
もや
竜王
(
りうわう
)
に
辱
(
はづかしめ
)
られ、
039
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
のおとりなしによつて
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
を
頂
(
いただ
)
き、
040
一先
(
ひとま
)
づエルサレムを
指
(
さ
)
して
上
(
のぼ
)
る
此
(
この
)
伊太彦
(
いたひこ
)
が
体
(
からだ
)
の
痛
(
いた
)
み、
041
死線
(
しせん
)
の
毒
(
どく
)
にあてられし
其
(
その
)
艱苦
(
なやみ
)
は
今
(
いま
)
に
残
(
のこ
)
れるか、
042
頭
(
かしら
)
は
痛
(
いた
)
み
胸
(
むね
)
は
苦
(
くる
)
しく、
043
足
(
あし
)
はかくの
如
(
ごと
)
く
腫
(
は
)
れ
上
(
あが
)
り、
044
もはや
一足
(
ひとあし
)
さへ
進
(
すす
)
まれぬ。
045
吾
(
われ
)
は
如何
(
いか
)
なる
因果
(
いんぐわ
)
ぞや。
046
許
(
ゆる
)
させ
玉
(
たま
)
へ
047
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
、
048
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
、
049
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
よ。
050
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
051
それにつけてもブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
は
孱弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
一人旅
(
ひとりたび
)
、
052
何処
(
いづく
)
の
野辺
(
のべ
)
にさまようであらうか。
053
山野
(
さんや
)
河海
(
かかい
)
を
跋渉
(
ばつせう
)
したる
此
(
この
)
伊太彦
(
いたひこ
)
の
健足
(
けんそく
)
でさへ、
054
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
痛
(
いた
)
むものを、
055
歩
(
あゆ
)
みもなれぬ
孱弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
の、
056
その
苦
(
くる
)
しみは
如何
(
いか
)
許
(
ばか
)
りぞや。
057
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
初
(
はじ
)
めて
知
(
し
)
つた
恋
(
こひ
)
のなやみ、
058
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御言葉
(
みことば
)
と
師
(
し
)
の
言葉
(
ことば
)
には
背
(
そむ
)
かれず、
059
さりとて
此
(
この
)
儘
(
まま
)
、
060
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
られぬ
胸
(
むね
)
の
苦
(
くる
)
しさ、
061
最早
(
もはや
)
かくなる
上
(
うへ
)
は
062
吾
(
われ
)
はハルセイ
山
(
ざん
)
の
頂
(
いただき
)
にて
朝
(
あした
)
の
露
(
つゆ
)
と
消
(
き
)
ゆるのではあるまいか。
063
仮令
(
たとへ
)
仮
(
かり
)
にもせよ、
064
千代
(
ちよ
)
を
契
(
ちぎ
)
つたブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
に
夢
(
ゆめ
)
になりとも
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
ふて、
065
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
別離
(
わかれ
)
が
告
(
つ
)
げ
度
(
た
)
いものだ。
066
あゝ
如何
(
いか
)
にせむ
千秋
(
せんしう
)
の
怨
(
うら
)
み、
067
万斛
(
ばんこく
)
の
涙
(
なみだ
)
、
068
何
(
いづ
)
れに
向
(
むか
)
つて
吐却
(
ときやく
)
せむや』
069
と、
070
胸
(
むね
)
を
躍
(
をど
)
らせ、
071
息
(
いき
)
もたえだえに
涙
(
なみだ
)
は
雨
(
あめ
)
と
降
(
ふ
)
りしきる。
072
かかる
処
(
ところ
)
へ
二人
(
ふたり
)
の
杣人
(
そまびと
)
に
担
(
かつ
)
がれて
色
(
いろ
)
青
(
あを
)
ざめ
半死
(
はんし
)
半生
(
はんしやう
)
の
態
(
てい
)
にて
登
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
たのは
073
夢寐
(
むび
)
にも
忘
(
わす
)
れぬ
恋妻
(
こひづま
)
のブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
であつた。
074
伊太彦
(
いたひこ
)
は
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより、
075
嬉
(
うれ
)
しさ、
0751
悲
(
かな
)
しさ
胸
(
むね
)
に
迫
(
せま
)
り、
076
涙
(
なみだ
)
の
声
(
こゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
077
僅
(
わづ
)
かに、
078
『あゝ、
079
其女
(
そなた
)
はブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
であつたか。
080
お
前
(
まへ
)
の
其
(
その
)
様子
(
やうす
)
、
081
嘸
(
さぞ
)
苦
(
くる
)
しいであらう、
082
此
(
この
)
伊太彦
(
いたひこ
)
も
死線
(
しせん
)
を
越
(
こ
)
えた
時
(
とき
)
のなやみが、
083
まだ
体内
(
たいない
)
に
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
ると
見
(
み
)
え、
084
今
(
いま
)
は
九死
(
きうし
)
一生
(
いつしやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
085
せめては
一目
(
ひとめ
)
なりと、
086
お
前
(
まへ
)
に
会
(
あ
)
うて
天国
(
てんごく
)
の
旅
(
たび
)
がしたいものだと
思
(
おも
)
つてゐたのだ。
087
あゝ
斯様
(
かやう
)
の
処
(
ところ
)
で
会
(
あ
)
はうとは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らなかつた。
088
之
(
これ
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
のおとりなし。
089
あゝ
有難
(
ありがた
)
し
有難
(
ありがた
)
し、
090
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
091
と
合掌
(
がつしやう
)
する。
092
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
は
糸
(
いと
)
の
如
(
ごと
)
き
細
(
ほそ
)
き
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて
息
(
いき
)
も
苦
(
くる
)
しげに、
093
『あゝ
嬉
(
うれ
)
しや、
094
貴方
(
あなた
)
は
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
伊太彦
(
いたひこ
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
095
妾
(
わらは
)
はまだ
年端
(
としは
)
も
行
(
ゆ
)
かぬ
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
、
096
旅
(
たび
)
に
慣
(
な
)
れない
孱弱
(
かよわ
)
き
足許
(
あしもと
)
にて
貴方
(
あなた
)
に
会
(
あ
)
うた
嬉
(
うれ
)
しさ。
097
スーラヤ
山
(
さん
)
の
険
(
けん
)
を
越
(
こ
)
え、
0971
生死
(
せいし
)
の
境
(
さかひ
)
に
出入
(
しゆつにふ
)
し、
098
神
(
かみ
)
の
仰
(
おほせ
)
を
畏
(
かしこ
)
みて、
099
神力
(
しんりき
)
高
(
たか
)
き
御
(
ご
)
一行
(
いつかう
)
様
(
さま
)
に
立
(
たち
)
別
(
わか
)
れ、
100
踏
(
ふ
)
みも
習
(
なら
)
はぬ
山道
(
やまみち
)
をトボトボ
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
もあれ、
101
俄
(
にはか
)
に
体
(
からだ
)
は
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
て、
1011
魂
(
たま
)
は
宙
(
ちう
)
に
飛
(
と
)
び、
102
最早
(
もはや
)
臨終
(
りんぢう
)
と
見
(
み
)
えし
時
(
とき
)
、
103
此
(
この
)
杣人
(
そまびと
)
の
情
(
なさけ
)
によりて、
104
漸
(
やうや
)
くここに
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げられ
参
(
まゐ
)
りました。
105
何卒
(
どうぞ
)
伊太彦
(
いたひこ
)
様
(
さま
)
、
106
妾
(
わらは
)
の
命
(
いのち
)
は
最早
(
もはや
)
断末魔
(
だんまつま
)
と
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
107
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
名残
(
なごり
)
に
今一度
(
いまいちど
)
、
108
貴方
(
あなた
)
のお
手
(
て
)
をお
貸
(
か
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
109
さすれば
仮令
(
たとへ
)
此
(
この
)
儘
(
まま
)
死
(
し
)
するとも
少
(
すこ
)
しも
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
残
(
のこ
)
りは
厶
(
ござ
)
いませぬ。
110
あゝ
生
(
う
)
みの
父様
(
ちちさま
)
、
111
母様
(
ははさま
)
、
112
兄様
(
あにさま
)
が、
113
妾
(
わらは
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
事
(
こと
)
をお
聞
(
き
)
きなされば
114
如何
(
いか
)
にお
歎
(
なげ
)
き
遊
(
あそ
)
ばす
事
(
こと
)
であらう。
115
そればつかりが
黄泉路
(
よみぢ
)
の
障
(
さは
)
り、
116
あゝ
如何
(
いか
)
にせむか』
117
と
伊太彦
(
いたひこ
)
の
側
(
かたは
)
らに
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げ
出
(
だ
)
して
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ。
118
其
(
その
)
痛
(
いた
)
はしさ。
119
流石
(
さすが
)
豪気
(
がうき
)
の
伊太彦
(
いたひこ
)
も
女
(
をんな
)
の
情
(
なさけ
)
にひかされて
恩愛
(
おんあい
)
の
涙
(
なみだ
)
に
袖
(
そで
)
を
絞
(
しぼ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
120
『あゝ
其方
(
そなた
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
も
尤
(
もつと
)
もだが、
121
大切
(
たいせつ
)
なる
神
(
かみ
)
の
使命
(
しめい
)
を
受
(
う
)
けて、
122
此
(
この
)
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
をエルサレムの
宮
(
みや
)
に
献
(
けん
)
じ、
123
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
進
(
すす
)
まねばならぬ
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
124
仮令
(
たとへ
)
肉体
(
にくたい
)
は
亡
(
ほろ
)
ぶとも
125
精霊
(
せいれい
)
となつてでも
此
(
この
)
使命
(
しめい
)
を
果
(
はた
)
さねば、
126
どうして
神界
(
しんかい
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
が
立
(
た
)
たう。
127
初稚姫
(
はつわかひめ
)
を
通
(
とほ
)
しての
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
128
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
、
129
順序
(
じゆんじよ
)
も
守
(
まも
)
らねばならぬ
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
が、
130
如何
(
いか
)
に
恋
(
こひ
)
しき
妻
(
つま
)
の
身
(
み
)
なればとて、
131
どうして
妻
(
つま
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
よう。
132
もしも
此
(
この
)
玉
(
たま
)
の
神霊
(
しんれい
)
が
吾
(
わが
)
懐
(
ふところ
)
より
逃
(
に
)
ぐる
事
(
こと
)
あれば、
133
それこそ
末代
(
まつだい
)
の
不覚
(
ふかく
)
、
134
ここの
道理
(
だうり
)
を
聞
(
きき
)
分
(
わ
)
けて、
135
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
、
136
そればつかりは
許
(
ゆる
)
して
呉
(
く
)
れ。
137
仮令
(
たとへ
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
運命
(
うんめい
)
尽
(
つ
)
きて
霊界
(
れいかい
)
に
至
(
いた
)
るとも、
138
互
(
たがひ
)
に
相慕
(
あひした
)
ふ
愛善
(
あいぜん
)
の
思
(
おも
)
ひは
弥
(
いや
)
永久
(
とこしへ
)
に
失
(
う
)
するものではあるまい。
139
仮令
(
たとへ
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
で
長命
(
ながいき
)
をするとも
140
日数
(
ひかず
)
に
積
(
つも
)
れば
二三万
(
にさんまん
)
日
(
にち
)
の
日数
(
ひかず
)
、
141
此
(
この
)
短
(
みじか
)
き
瞬間
(
しゆんかん
)
に
恋
(
こひ
)
の
魔
(
ま
)
の
手
(
て
)
に
囚
(
とら
)
はれて
幾億万
(
いくおくまん
)
年
(
ねん
)
の
命
(
いのち
)
の
障害
(
さはり
)
になるやうな
事
(
こと
)
があつては、
142
吾
(
われ
)
も
汝
(
なんぢ
)
も、
143
とり
返
(
かへ
)
しのならぬ
罪悪
(
ざいあく
)
を
重
(
かさ
)
ねねばなるまい。
144
真
(
しん
)
に、
145
其方
(
そなた
)
を
愛
(
あい
)
する
伊太彦
(
いたひこ
)
は、
146
其女
(
そなた
)
に
無限
(
むげん
)
の
生命
(
せいめい
)
を
与
(
あた
)
へ
147
無窮
(
むきう
)
の
歓楽
(
くわんらく
)
に
浴
(
よく
)
せしめ
度
(
た
)
いからだ。
148
必
(
かなら
)
ず
悪
(
わる
)
く
思
(
おも
)
ふては
呉
(
く
)
れなよ』
149
と
息
(
いき
)
もちぎれちぎれに
苦
(
くる
)
しげに
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
す。
150
ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
は
首
(
かうべ
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り、
151
『いえいえ、
152
何
(
なん
)
と
仰
(
おほ
)
せられましても
153
臨終
(
いまは
)
の
際
(
きは
)
に
只
(
ただ
)
一回
(
いつくわい
)
の
握手
(
あくしゆ
)
位
(
くらゐ
)
許
(
ゆる
)
されない
事
(
こと
)
がありませうか。
154
恋
(
こひ
)
に
燃
(
も
)
え
立
(
た
)
つ
妾
(
わらは
)
の
胸
(
むね
)
、
155
焦熱
(
せうねつ
)
地獄
(
ぢごく
)
の
苦
(
くる
)
しみを
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
ふは
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
御手
(
みて
)
にあり、
156
仮令
(
たとへ
)
未来
(
みらい
)
に
於
(
おい
)
て
如何
(
いか
)
なる
責苦
(
せめく
)
に
会
(
あ
)
ふとても
157
夫婦
(
ふうふ
)
が
臨終
(
いまは
)
の
際
(
きは
)
に
互
(
たがひ
)
に
介抱
(
かいはう
)
をし
158
相助
(
あひたす
)
け
相救
(
あひすく
)
ふ
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
ない
道理
(
だうり
)
がありませうか。
159
物固
(
ものがた
)
いにも
程
(
ほど
)
が
厶
(
ござ
)
います。
160
妾
(
わらは
)
の
心
(
こころ
)
も
少
(
すこ
)
しは
推量
(
すいりやう
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
161
と
云
(
い
)
ひつつ
伊太彦
(
いたひこ
)
に
縋
(
すが
)
り
付
(
つ
)
かむとする。
162
伊太彦
(
いたひこ
)
は
儼然
(
げんぜん
)
として、
163
たかつた
蜂
(
はち
)
を
払
(
はら
)
うやうな
態度
(
たいど
)
にて
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
の
先
(
さき
)
にてブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
を
突
(
つ
)
き
除
(
の
)
け、
164
刎
(
は
)
ね
除
(
の
)
け、
165
『これブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
、
166
慮外
(
りよぐわい
)
な
事
(
こと
)
をなさるな。
167
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
168
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
を
何
(
なん
)
とする
考
(
かんが
)
へであるか。
169
今
(
いま
)
の
苦
(
くるし
)
みは
未来
(
みらい
)
の
楽
(
たのし
)
み、
170
左様
(
さやう
)
の
事
(
こと
)
に
弁別
(
わきまへ
)
のない
其方
(
そなた
)
とは
思
(
おも
)
はなかつた。
171
とは
云
(
い
)
ふものの、
172
同
(
おな
)
じ
思
(
おも
)
ひの
恋
(
こひ
)
しい
夫婦
(
ふうふ
)
、
173
あゝ
如何
(
いか
)
にせば
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
を
慰
(
ゐ
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ようか』
174
と
胸
(
むね
)
に
焼鉄
(
やきがね
)
あてし
心地
(
ここち
)
、
175
差
(
さし
)
俯向
(
うつむ
)
いて
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
176
二人
(
ふたり
)
の
杣人
(
そまびと
)
は
声
(
こゑ
)
高
(
たか
)
らかに
打
(
うち
)
笑
(
わら
)
ひ、
177
杣人
(
そまびと
)
の
一
(
いち
)
『アハヽヽヽヽ、
178
扨
(
さ
)
ても
扨
(
さ
)
ても
固苦
(
かたくる
)
しい
旧弊
(
きうへい
)
な
男
(
をとこ
)
だな。
179
最前
(
さいぜん
)
からの
二人
(
ふたり
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば
180
随分
(
ずいぶん
)
お
目出度
(
めでた
)
い
恋仲
(
こひなか
)
と
見
(
み
)
えるが、
181
永
(
なが
)
い
月日
(
つきひ
)
に
短
(
みじか
)
い
命
(
いのち
)
だ。
182
未来
(
みらい
)
がどうの、
183
こうのと
云
(
い
)
つても、
184
一旦
(
いつたん
)
死
(
し
)
んだものが
又
(
また
)
生
(
い
)
きる
道理
(
だうり
)
もなし、
185
人間
(
にんげん
)
の
命
(
いのち
)
は
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
と
消
(
き
)
えて
行
(
ゆ
)
くのだ。
186
長
(
なが
)
い
浮世
(
うきよ
)
に
短
(
みじか
)
い
命
(
いのち
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
187
何
(
なに
)
開
(
ひら
)
けぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
188
これこれ
夫婦
(
ふうふ
)
の
方
(
かた
)
、
189
未来
(
みらい
)
があるの、
190
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
恐
(
おそ
)
ろしいのと、
191
そんな
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
云
(
い
)
ふものではない。
192
況
(
ま
)
して、
193
二人
(
ふたり
)
の
此
(
この
)
断末魔
(
だんまつま
)
の
様子
(
やうす
)
、
194
死際
(
しにぎは
)
になつて
思
(
おも
)
ひ
合
(
あ
)
つた
夫婦
(
ふうふ
)
が
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
つてはならぬ
事
(
こと
)
があるものか。
195
それだから
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
ふものは
時代
(
じだい
)
遅
(
おく
)
れと
云
(
い
)
ふのだ。
196
誰
(
たれ
)
に
憚
(
はばか
)
つてそんな
遠慮
(
ゑんりよ
)
するのだ。
197
これ
伊太彦
(
いたひこ
)
さまとやら、
198
こんなナイスに
思
(
おも
)
はれて
据膳
(
すゑぜん
)
喰
(
く
)
はぬ
男
(
をとこ
)
があるものか。
199
可愛
(
かあい
)
がつてやらつせい』
200
伊太
(
いた
)
『あなたは
此
(
この
)
辺
(
あた
)
りの
杣人
(
そまびと
)
、
201
よくまア、
202
ブラヷーダを
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつた。
203
又
(
また
)
只今
(
ただいま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
204
実
(
じつ
)
に
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
205
未来
(
みらい
)
を
信
(
しん
)
ずる
吾々
(
われわれ
)
には、
206
どうして、
207
左様
(
さやう
)
な
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
が
出来
(
でき
)
ませうか』
208
杣
(
そま
)
の
一
(
いち
)
『
山
(
やま
)
の
奥
(
おく
)
まで
自由
(
じいう
)
恋愛
(
れんあい
)
だとか、
209
ラブ・イズ・ベストだとか、
2091
言
(
い
)
ふ
新
(
あたら
)
しい
空気
(
くうき
)
が
吹
(
ふ
)
いて
居
(
を
)
るのに、
210
之
(
これ
)
は
又
(
また
)
古
(
ふる
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
211
三五教
(
あななひけう
)
と
云
(
い
)
ふ
宗教
(
しうけう
)
は
実
(
じつ
)
に
古臭
(
ふるくさ
)
いものだな。
212
此
(
この
)
広
(
ひろ
)
い
天地
(
てんち
)
に
自在
(
じざい
)
に
横行
(
わうかう
)
濶歩
(
くわつぽ
)
し、
213
天地
(
てんち
)
経綸
(
けいりん
)
の
司宰
(
しさい
)
をする
人間
(
にんげん
)
が
214
些々
(
ささ
)
たる
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
に
愛
(
あい
)
を
注
(
そそ
)
いだと
云
(
い
)
つて、
215
それを
罰
(
ばつ
)
すると
云
(
い
)
ふやうな
開
(
ひら
)
けぬ
神
(
かみ
)
があらうか。
216
もし
神
(
かみ
)
ありとせば、
217
そんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
ふ
神
(
かみ
)
は
野蛮神
(
やばんがみ
)
の、
218
盲神
(
めくらがみ
)
だよ。
219
いや
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
220
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
申
(
まを
)
しませぬ。
221
この
可愛
(
かあい
)
らしい、
222
まだ
年
(
とし
)
の
行
(
ゆ
)
かぬナイスが
之
(
これ
)
丈
(
だ
)
け、
223
命
(
いのち
)
の
瀬戸際
(
せとぎは
)
になつて、
224
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かぬとは
無情
(
むじやう
)
にも
程
(
ほど
)
がある。
225
お
前
(
まへ
)
さまも、
226
よもや
木石
(
ぼくせき
)
でもあるまい。
227
暖
(
あたた
)
かい
血
(
ち
)
も
通
(
かよ
)
つてゐるだらう。
228
人情
(
にんじやう
)
も
悟
(
さと
)
つて
居
(
ゐ
)
るだらう。
229
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
がここに
居
(
を
)
つては、
230
恰好
(
かくかう
)
が
悪
(
わる
)
いと
思
(
おも
)
ひ、
231
躊躇
(
ちうちよ
)
してるのではあるまいか。
232
さうすれば
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
はここを
立
(
たち
)
退
(
の
)
くから、
233
泣
(
な
)
くなり、
234
笑
(
わら
)
ふなり、
235
意茶
(
いちや
)
つくなり、
236
好
(
す
)
きの
通
(
とほ
)
りにしなさい。
237
おい
兄弟
(
きやうだい
)
、
2371
行
(
ゆ
)
かう。
238
斯
(
か
)
うして
夫
(
をつと
)
に
渡
(
わた
)
して
置
(
お
)
けば、
239
俺
(
わし
)
等
(
たち
)
も
安心
(
あんしん
)
と
云
(
い
)
ふものだ』
240
杣
(
そま
)
の
二
(
に
)
『さうだな
兄貴
(
あにき
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
241
両人
(
ふたり
)
が
居
(
を
)
つては
恰好
(
かくかう
)
が
悪
(
わる
)
くて
意茶
(
いちや
)
つく
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
まい。
242
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
偽
(
いつは
)
りの
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だから、
243
人
(
ひと
)
の
前
(
まへ
)
では
思
(
おも
)
ふ
所
(
ところ
)
を
言葉
(
ことば
)
に
出
(
だ
)
し、
244
赤裸々
(
せきらら
)
に
自分
(
じぶん
)
の
信念
(
しんねん
)
を
吐
(
は
)
く
事
(
こと
)
は
誰
(
たれ
)
だつて
出来
(
でき
)
まい。
245
さうだ
246
俺
(
わし
)
等
(
たち
)
が
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
るので
断末魔
(
だんまつま
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
の
別
(
わか
)
れを
惜
(
をし
)
む
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬのだらう。
247
そんなら
兄貴
(
あにき
)
、
248
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
249
伊太
(
いた
)
『もしもし
杣人
(
そまびと
)
様
(
さま
)
、
250
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな。
251
世間
(
せけん
)
の
人間
(
にんげん
)
のやうに
吾々
(
われわれ
)
は
決
(
けつ
)
して
裏表
(
うらおもて
)
はありませぬ。
252
思
(
おも
)
ふ
処
(
ところ
)
を
云
(
い
)
ひ、
253
思
(
おも
)
ふ
所
(
ところ
)
を
行
(
おこな
)
ふのみです。
254
吾々
(
われわれ
)
は
痩
(
やせ
)
ても
倒
(
こ
)
けても
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
255
決
(
けつ
)
して
外面
(
ぐわいめん
)
的
(
てき
)
の
辞令
(
じれい
)
は
用
(
もち
)
ひませぬ。
256
それ
故
(
ゆゑ
)
に
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
に
恥
(
は
)
づる
事
(
こと
)
なき
二人
(
ふたり
)
の
行動
(
かうどう
)
、
257
貴方
(
あなた
)
がお
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
さらうが、
258
少
(
すこ
)
しも
差支
(
さしつかへ
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
259
何卒
(
どうぞ
)
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬが、
260
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
らずに、
261
もう
暫
(
しば
)
らく
私
(
わたし
)
の
最後
(
さいご
)
を
見届
(
みとど
)
けて
下
(
くだ
)
さい。
262
おひおひ
体
(
からだ
)
は
重
(
おも
)
くなり、
263
足
(
あし
)
は
一歩
(
いつぽ
)
も
歩
(
ある
)
けませぬ。
264
もし
吾々
(
われわれ
)
夫婦
(
ふうふ
)
が
此
(
この
)
儘
(
まま
)
死
(
し
)
んだならば
265
ウバナンダ
竜王
(
りうわう
)
が
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
た
此
(
この
)
夜光
(
やくわう
)
の
玉
(
たま
)
をエルサレムへ
持
(
も
)
つて
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ。
266
何卒
(
どうぞ
)
御
(
ご
)
面倒
(
めんだう
)
でせうが
乗
(
のり
)
掛
(
か
)
けた
舟
(
ふね
)
だと
思
(
おも
)
つて
267
息
(
いき
)
のある
中
(
うち
)
に
此
(
この
)
玉
(
たま
)
を
貴方
(
あなた
)
に
渡
(
わた
)
して
置
(
お
)
きますから、
268
貴方
(
あなた
)
代
(
かは
)
つて
何卒
(
どうぞ
)
これをエルサレム
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つて
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
へ
奉
(
たてまつ
)
つて
下
(
くだ
)
さいませぬか。
269
沢山
(
たくさん
)
はなけれども
此
(
この
)
懐
(
ふところ
)
の
金
(
かね
)
を
旅費
(
りよひ
)
として、
270
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
た
)
めと
思
(
おも
)
つて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませぬか』
271
杣
(
そま
)
の
一
(
いち
)
『ハヽヽヽ
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
男
(
をとこ
)
だな。
272
お
前
(
まへ
)
も
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
ならば、
273
何故
(
なぜ
)
も
少
(
すこ
)
し
男
(
をとこ
)
らしくならないのか。
274
醜
(
みにく
)
い
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
いて
275
人
(
ひと
)
に
泣顔
(
なきがほ
)
を
見
(
み
)
せると
云
(
い
)
ふのは
不心得
(
ふこころえ
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか、
276
喜怒
(
きど
)
哀楽
(
あいらく
)
を
色
(
いろ
)
に
現
(
あら
)
はさずと
云
(
い
)
ふのが
277
男
(
をとこ
)
の
中
(
なか
)
の
男
(
をとこ
)
で
厶
(
ござ
)
らうぞ』
278
伊太
(
いた
)
『
成程
(
なるほど
)
、
279
貴方
(
あなた
)
のお
説
(
せつ
)
も
尤
(
もつと
)
もだが、
280
人間
(
にんげん
)
は
悲
(
かな
)
しい
時
(
とき
)
に
泣
(
な
)
き、
281
腹
(
はら
)
の
立
(
た
)
つた
時
(
とき
)
に
怒
(
おこ
)
り、
282
嬉
(
うれ
)
しい
時
(
とき
)
に
笑
(
わら
)
ふのが
本当
(
ほんたう
)
の
神心
(
かみごころ
)
、
283
喜怒
(
きど
)
哀楽
(
あいらく
)
を
色
(
いろ
)
に
現
(
あら
)
はさぬ
人間
(
にんげん
)
は
偽
(
いつは
)
り
者
(
もの
)
か
化物
(
ばけもの
)
ですよ。
284
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は、
285
それだから
虚偽
(
きよぎ
)
虚飾
(
きよしよく
)
、
286
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
真暗
(
まつくら
)
になるのです。
287
吾々
(
われわれ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
は
之
(
これ
)
を
匡正
(
きやうせい
)
する
為
(
ため
)
、
288
道々
(
みちみち
)
宣伝
(
せんでん
)
し
乍
(
なが
)
らハルナの
都
(
みやこ
)
に
進
(
すす
)
むのです』
289
杣
(
そま
)
の
二
(
に
)
『
成程
(
なるほど
)
一応
(
いちおう
)
御尤
(
ごもつと
)
もだ。
290
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
紙
(
かみ
)
にも
裏表
(
うらおもて
)
がある。
291
最愛
(
さいあい
)
の
妻
(
つま
)
が
臨終
(
いまは
)
の
願
(
ねが
)
ひ、
292
それを
聞
(
き
)
かない
道理
(
だうり
)
が
厶
(
ござ
)
いませうか。
293
貴方
(
あなた
)
は
余
(
あま
)
り
理智
(
りち
)
に
走
(
はし
)
り
過
(
す
)
ぎる、
294
情
(
なさけ
)
がなければ
人間
(
にんげん
)
ではありませぬよ。
295
広
(
ひろ
)
い
心
(
こころ
)
に
考
(
かんが
)
へて
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は、
296
さう
狭
(
せま
)
く
考
(
かんが
)
へるものではありませぬ。
297
変幻
(
へんげん
)
出没
(
しゆつぼつ
)
窮
(
きは
)
まりなく、
298
時
(
とき
)
に
臨
(
のぞ
)
み
変
(
へん
)
に
応
(
おう
)
じ、
299
うまく
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
渡
(
わた
)
つて
行
(
ゆ
)
くのが、
300
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
たる
人間
(
にんげん
)
ではありますまいか。
301
ナアお
姫
(
ひめ
)
さま、
302
さうで
厶
(
ござ
)
いませう』
303
ブラヷ『はい、
304
伊太彦
(
いたひこ
)
さまのお
言葉
(
ことば
)
も
御尤
(
ごもつと
)
もなり、
305
貴方
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
も
御尤
(
ごもつと
)
もで
厶
(
ござ
)
います』
306
杣
(
そま
)
の
二
(
に
)
『
伊太彦
(
いたひこ
)
さまのお
言葉
(
ことば
)
も
御尤
(
ごもつと
)
も、
307
俺
(
わし
)
の
言葉
(
ことば
)
も
御尤
(
ごもつと
)
も、
308
とはチツト
可怪
(
をか
)
しいぢやありませぬか。
309
どちらか、
310
尤
(
もつと
)
もと
不尤
(
ふもつと
)
もの
区別
(
くべつ
)
がありさうなものだ。
311
さアお
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
312
貴女
(
あなた
)
の
思惑
(
おもわく
)
通
(
どほ
)
りなされませ。
313
斯
(
か
)
うして
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
314
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
別
(
わか
)
れと
見
(
み
)
える。
315
伊太彦
(
いたひこ
)
さまも
体
(
からだ
)
に
毒
(
どく
)
が
廻
(
まは
)
り
何
(
いづ
)
れは
死
(
し
)
なねばならぬ
命
(
いのち
)
、
316
生命
(
いのち
)
のある
間
(
うち
)
に
互
(
たがひ
)
に
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
つて
天国
(
てんごく
)
とかへ
行
(
ゆ
)
く
準備
(
じゆんび
)
をなさいませ。
317
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
申
(
まを
)
しませぬ』
318
伊太
(
いた
)
『ブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
初
(
はじ
)
めお
二人
(
ふたり
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
319
その
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
骨身
(
ほねみ
)
に
浸
(
し
)
み
渡
(
わた
)
つて、
320
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
有難
(
ありがた
)
さを
感
(
かん
)
じますが、
321
どうあつても
私
(
わたし
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
恐
(
おそ
)
ろしう
厶
(
ござ
)
います。
322
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
の
為
(
ため
)
には
如何
(
いか
)
なる
愛
(
あい
)
も、
323
如何
(
いか
)
なる
宝
(
たから
)
も
総
(
すべ
)
てを
犠牲
(
ぎせい
)
にする
考
(
かんが
)
へですから、
324
もう
之
(
これ
)
きり
何
(
なん
)
とも
仰有
(
おつしや
)
らずに
下
(
くだ
)
さいませ。
325
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
326
杣
(
そま
)
の
一
(
いち
)
『
扨
(
さ
)
ても
扨
(
さ
)
ても
固苦
(
かたくる
)
しい
男
(
をとこ
)
だな。
327
成程
(
なるほど
)
之
(
これ
)
では
世
(
よ
)
に
容
(
い
)
れられないのも
尤
(
もつと
)
もだ。
328
矢張
(
やつぱり
)
バラモン
教
(
けう
)
が
時勢
(
じせい
)
に
適当
(
てきたう
)
してるわい。
329
俺
(
わし
)
も
実
(
じつ
)
はバラモン
教
(
けう
)
の
信者
(
しんじや
)
だが、
330
まだ
一度
(
いちど
)
も
斯
(
こ
)
んな
固苦
(
かたくる
)
しい
宣伝使
(
せんでんし
)
に
会
(
あ
)
ふた
事
(
こと
)
はない。
331
押
(
お
)
せども
引
(
ひ
)
けども
少
(
すこ
)
しも
動
(
うご
)
かぬ
千引岩
(
ちびきいは
)
のやうな
宣伝使
(
せんでんし
)
だな。
332
斯様
(
かやう
)
な
無情
(
むじやう
)
な
男
(
をとこ
)
に
恋
(
こひ
)
をなさる
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
こそ
実
(
じつ
)
に
不幸
(
ふかう
)
なお
方
(
かた
)
だな。
333
あゝどうしたら
宜
(
よ
)
からうかな』
334
(
大正一二・五・二九
旧四・一四
於天声社
北村隆光
録)
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