霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 仕込杖(しこみづゑ)〔一六二六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻 篇:第5篇 神検霊査 よみ(新仮名遣い):しんけんれいさ
章:第19章 仕込杖 よみ(新仮名遣い):しこみづえ 通し章番号:1626
口述日:1923(大正12)年05月29日(旧04月14日) 口述場所:天声社 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年2月3日
概要: 舞台:ハルセイ山 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4041 OBC :rm6319
愛善世界社版:259頁 八幡書店版:第11輯 356頁 修補版: 校定版:269頁 普及版:64頁 初版: ページ備考:
001 イク、002サールの両人(りやうにん)は003伊太彦(いたひこ)の路傍(ろばう)の石(いし)に腰(こし)打(うち)掛(かけ)、0031俯向(うつむ)いてる姿(すがた)を見(み)て、004月影(つきかげ)にすかし乍(なが)ら、
005イク『貴方(あなた)は旅人(たびびと)とお見受(みう)け申(まを)しますが、006一寸(ちよつと)物(もの)をお尋(たづ)ね申(まを)します。007天女(てんによ)のやうな綺麗(きれい)な綺麗(きれい)な姫(ひめ)様(さま)が犬(いぬ)を連(つ)れてお通(とほ)りになつたのを御覧(ごらん)になりませぬか』
008 伊太彦(いたひこ)はハテ不思議(ふしぎ)な事(こと)を尋(たづ)ねるものだと思(おも)ひ乍(なが)ら、009二人(ふたり)の顔(かほ)をツラツラ眺(なが)めて、
010伊太(いた)『イヤさう聞(き)く声(こゑ)は何(なん)だか聞(き)き覚(おぼ)えがあるやうだ。011拙者(せつしや)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、012伊太彦(いたひこ)と申(まを)すもの、013左様(さやう)なお方(かた)はお通(とほ)り遊(あそ)ばしたのは見(み)た事(こと)は厶(ござ)らぬ』
014サール『やアお前(まへ)は伊太彦(いたひこ)さまぢやないか。015清春山(きよはるやま)の岩窟(がんくつ)では随分(ずいぶん)管(くだ)を捲(ま)いたものだな、016其(その)後(ご)玉国別(たまくにわけ)さまに跟(つ)いてハルナの都(みやこ)へ進(すす)まれた筈(はず)だが、017まだ斯(こ)んな処(ところ)へ迂路(うろ)ついて厶(ござ)つたのか』
018伊太(いた)『うん、019君(きみ)はイク、020サールの両人(りやうにん)だな。021これはこれは珍(めづ)らしい処(ところ)で会(あ)ふたものだ。022そして又(また)初稚姫(はつわかひめ)様(さま)の後(あと)を何処(どこ)迄(まで)も慕(した)うて行(ゆ)く考(かんが)へかな。023初稚姫(はつわかひめ)様(さま)がよくまアお伴(とも)を許(ゆる)された事(こと)だな』
024サール『何(なん)と云(い)つてもお許(ゆる)しが無(な)いものだから、025強行(きやうかう)進軍(しんぐん)と出掛(でか)け、026見(み)えつ隠(かく)れつ、027後(あと)になり前(さき)になり、028ここ迄(まで)ついて来(き)たのだが、029エルの港(みなと)からサツパリお姿(すがた)を見失(みうしな)ひ、030前(さき)になつてるのか、031後(あと)になつてるのか分(わか)らぬので心配(しんぱい)してるのだ』
032伊太(いた)『あ、033さうだつたか。034拙者(せつしや)も初稚姫(はつわかひめ)様(さま)に一度(いちど)会(あ)つてお礼(れい)を申(まを)し度(た)いのだが、035あの方(かた)は神(かみ)様(さま)だから変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)自在(じざい)、036何方(どちら)へおいでになつたか皆目(かいもく)分(わか)らぬのだ。037まアゆつくり一服(いつぷく)し玉(たま)へ。038まだ此(この)阪道(さかみち)は随分(ずいぶん)あるさうだから、039慌(あわて)た処(ところ)で仕方(しかた)がない。040チツとは人間(にんげん)の身体(からだ)も休養(きうやう)が大切(たいせつ)だ。041休(やす)んでは歩(ある)き、042休(やす)んでは歩(ある)きする方(はう)が、043身体(からだ)の為(ため)にも何(なに)程(ほど)よいか分(わか)らないよ』
044イク『久(ひさ)し振(ぶ)りに伊太彦(いたひこ)さまに面会(めんくわい)したのだから、045先(ま)づ此処(ここ)で、046ゆつくりと話(はな)して行(ゆ)かうぢやないか』
047サール『久(ひさし)振(ぶ)りだと云(い)ふけれど、048スマの関所(せきしよ)でお前(まへ)が宿屋(やどや)をやつて居(ゐ)た時(とき)に049入口(いりぐち)に守衛然(しゆゑいぜん)と控(ひか)へて居(を)つたぢやないか。050云(い)はば伊太彦(いたひこ)司(つかさ)等(たち)の救(すく)ひの神(かみ)さまだ』
051イク『成程(なるほど)、052あの時(とき)に伊太彦(いたひこ)司(つかさ)も居(ゐ)られたのかな。053あまり沢山(たくさん)のバラモン軍(ぐん)で見落(みおと)して居(ゐ)たのだ。054そして初稚姫(はつわかひめ)様(さま)に叱(しか)られるものだから、055スマの里(さと)を一目散(いちもくさん)に駆(か)け出(だ)し姫(ひめ)様(さま)を待(ま)ちつつ、056彼方(あなた)此方(こなた)とバラモンの泥棒(どろばう)を言向和(ことむけやは)して来(き)たものだから今(いま)になつたのだが、057伊太彦(いたひこ)さま、058之(これ)から三(さん)人(にん)一緒(いつしよ)にハルナの都(みやこ)へ行(ゆ)かうぢやないか。059どうしたものか姫(ひめ)様(さま)はハルナへ行(ゆ)かずに、060エルサレム街道(かいだう)の方(はう)へ足(あし)を向(む)けられたものだから、0601跟(つ)いて来(き)たのだが061一体(いつたい)どうなるのだらうな』
062伊太(いた)『神(かみ)様(さま)のなさる事(こと)は到底(たうてい)吾々(われわれ)には分(わか)らないよ。063吾(わが)師(し)の君(きみ)の玉国別(たまくにわけ)様(さま)だとて、064テームス峠(たうげ)を向(むか)ふへ渡(わた)り、065直(すぐ)にハルナに行(ゆ)かれる都合(つがふ)だつたが、066いろいろ神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)が出来(でき)たり、067事件(じけん)が突発(とつぱつ)して、068何者(なにもの)にか引(ひ)かるる様(やう)に此方(こちら)へおいでになつたのだ。069之(これ)も何(なに)かの神(かみ)様(さま)の御(ご)都合(つがふ)だらう。070然(しか)し乍(なが)ら三(さん)人(にん)一緒(いつしよ)に行(ゆ)く事(こと)は到底(たうてい)出来(でき)ない。071宣伝使(せんでんし)は一人(ひとり)と定(きま)つてるさうだから072初稚姫(はつわかひめ)様(さま)も伴(とも)をつれないのだ。073それで私(わたし)も玉国別(たまくにわけ)の師匠(ししやう)から074途中(とちう)から、0741突放(つつぱな)されて一人旅(ひとりたび)をやつてゐるが、075一人旅(ひとりたび)は辛(つら)いものの又(また)便利(べんり)なものの気楽(きらく)なものだ。076何(なに)は扨(さ)て置(お)き、077神(かみ)様(さま)の命令(めいれい)だから君(きみ)等(ら)と一緒(いつしよ)に行(ゆ)く事(こと)は出来(でき)ないわ。078何(いづ)れエルサレムで一緒(いつしよ)にお目(め)にかからうぢやないか』
079イク『それでも照国別(てるくにわけ)、080治国別(はるくにわけ)、081黄金姫(わうごんひめ)様(さま)等(など)は082一人(ひとり)でおいでになつたのでは無(な)からう。083あの方々(かたがた)はどうなるのだ』
084伊太(いた)『それも何(なに)か御(ご)都合(つがふ)のある事(こと)だらう。085俺(おれ)等(たち)には解(わか)らないわ』
086サール『おい、087イク、088そんな事(こと)云(い)ふ丈(だ)け野暮(やぼ)だよ。089初稚姫(はつわかひめ)様(さま)は只(ただ)一人(ひとり)おいでになつたのも独立(どくりつ)独歩(どくぽ)、090一人前(いちにんまへ)の宣伝使(せんでんし)になられたからだ。091黄金姫(わうごんひめ)、092清照姫(きよてるひめ)が二人(ふたり)連(づ)れで行(い)つたのは、093半人前(はんにんまへ)づつの二(ふた)つ一(いち)で行(い)つたのだよ。094其(その)外(ほか)の宣伝使(せんでんし)は皆(みな)三(さん)人(にん)連(づ)れ四(よ)人(にん)連(づ)れだからまア三分(さんぶん)の一(いち)、095四分(しぶん)の一(いち)の人間(にんげん)位(ぐらゐ)なものだ、096アツハヽヽヽ』
097イク『さうすると伊太彦(いたひこ)さまは偉(えら)いぢやないか。098到頭(たうとう)一人前(いちにんまへ)になられたと見(み)えるわい。099俺(おれ)等(たち)も二(ふた)つ一(ひとつ)かな』
100サール『きまつた事(こと)だよ。101二人(ふたり)に一(ひと)つの玉(たま)を頂(いただ)いて居(を)るのを見(み)ても分(わか)るぢやないか』
102イク『それでも伊太彦(いたひこ)さまは一人(ひとり)でゐ乍(なが)ら玉(たま)がないぢやないか。103そりや又(また)どうなるのだ』
104サール『改心(かいしん)の出来(でき)たお方(かた)は心(こころ)の玉(たま)が光(ひか)つてるのだから、105形(かたち)の上(うへ)の玉(たま)は必要(ひつえう)ないのだ。106玉(たま)を持(も)つて歩(ある)かなくちやならぬのは、107ヤツパリ何処(どこ)かに足(た)らぬ処(ところ)があるのだ。108夜道(よみち)が怖(こは)いと云(い)つて仕込杖(しこみづゑ)を持(も)つて歩(ある)くやうなものだ。109なア伊太彦(いたひこ)さま、110さうでせう』
111伊太(いた)『さう聞(き)かれるとお恥(はづ)かしい話(はなし)だが、112実(じつ)の所(ところ)はスーラヤ山(さん)の岩窟(がんくつ)に入(い)り、113ウバナンダ竜王(りうわう)の玉(たま)を頂(いただ)いて此処(ここ)に所持(しよぢ)して居(ゐ)るのだ。114ヤツパリ私(わたし)も仕込杖(しこみづゑ)の口(くち)かな』
115サール『ヤア其奴(そいつ)ア不思議(ふしぎ)だ。116あの八大(はちだい)竜王(りうわう)の中(なか)でも117最(もつと)も険難(けんのん)な所(ところ)に棲居(すまゐ)をしてゐる死(し)の山(やま)と聞(きこ)えたスーラヤ山(さん)へ駆(か)け上(のぼ)つて118玉(たま)をとつて来(く)るとは豪気(がうき)なものだ。119そして其(その)玉(たま)は今(いま)持(も)つて居(を)られるのか。120一(ひと)つ見(み)せて貰(もら)ひ度(た)いものだな』
121伊太(いた)『ヤア折角(せつかく)だが神器(しんき)を私(わたくし)する訳(わけ)には行(い)かぬ。122丁寧(ていねい)に包(つつ)んで懐(ふところ)に納(をさ)めてあるのだから、123エルサレムに行(い)つて言依別(ことよりわけ)の神(かみ)様(さま)にお渡(わた)しする迄(まで)は拝(をが)む事(こと)は出来(でき)ないのだ。124そしてお前(まへ)達(たち)の持(も)つて居(ゐ)る玉(たま)と云(い)ふのは誰(たれ)から頂(いただ)いたのだ』
125イク『勿体(もつたい)無(な)くも日出(ひのでの)神(かみ)から直接(ちよくせつ)に拝戴(はいたい)したのだ。126此(この)玉(たま)のお蔭(かげ)で沢山(たくさん)な泥棒(どろばう)にも出会(であ)ひ、127色々(いろいろ)の猛獣(まうじう)の原野(げんや)を渡(わた)り、128大河(おほかは)を越(こ)えて無事(ぶじ)で来(き)たのも、129此(この)水晶玉(すいしやうだま)の御(ご)神徳(しんとく)だ。130伊太彦(いたひこ)さまが玉(たま)が大切(たいせつ)だと云(い)へば、131此方(こちら)も大切(たいせつ)だ。132絶対(ぜつたい)的(てき)に見(み)せる事(こと)は出来(でき)ませぬわい』
133伊太(いた)『それでは仕方(しかた)がない、134売言葉(うりことば)に買言葉(かひことば)だ。135自分(じぶん)の玉(たま)を隠(かく)しておいて、136人(ひと)の玉(たま)を見(み)せろと云(い)ふのが此方(こちら)の誤謬(あやまり)だ。137さアここで別(わか)れませう。138エルサレムに行(い)つて何(いづ)れ十日(とをか)や二十日(はつか)は吾(わが)師(し)の君(きみ)も御(ご)修業(しうげふ)遊(あそ)ばすから、139其(その)間(あひだ)には一緒(いつしよ)になるであらう。140左様(さやう)なら』
141と伊太彦(いたひこ)はスタスタと下(くだ)り行(ゆ)く。
142 二人(ふたり)は伊太彦(いたひこ)の言葉(ことば)に従(したが)ひ後(あと)をも追(お)はず、143ゆつくりと路傍(ろばう)の岩(いは)に腰(こし)打(うち)掛(か)け話(はなし)に耽(ふけ)つてゐる。
144イク『おい、145サール、146伊太彦(いたひこ)が松彦(まつひこ)に捕(とら)へられ、147清春山(きよはるやま)の岩窟(がんくつ)にやつて来(き)た時(とき)は随分(ずいぶん)面白(おもしろ)い奴(やつ)だつた。148滑稽(こつけい)諧謔(かいぎやく)口(くち)を衝(つ)いて出(で)ると云(い)ふ人気(にんき)男(をとこ)が、149あれ丈(だ)けの神格者(しんかくしや)にならうとは予期(よき)しなかつた。150何(なん)と人間(にんげん)と云(い)ふものは変(かは)れば変(かは)るものぢやないか。151吾々(われわれ)二人(ふたり)は初稚姫(はつわかひめ)様(さま)のお伴(とも)も許(ゆる)されず、152日蔭者(ひかげもの)となつて、153斯(か)う春情(さかり)のついた牡犬(をいぬ)が牝犬(めいぬ)を探(さが)すやうに後(あと)を嗅(かぎ)つけてやつて来(き)たものの154公然(こうぜん)とお目(め)にかかる訳(わけ)にも行(い)かず、155ハルナの都(みやこ)へ行(い)つてから、156「不届(ふとど)きな奴(やつ)だ、157何(なに)しに来(き)た」と叱(しか)られでもしたら、158それこそ百(ひやく)日(にち)の説法(せつぽふ)屁(へ)一(ひと)つにもならない。159何(なん)とか立場(たちば)を明(あきら)かにせなくては、160「名(な)正(ただ)しからざるは立(た)たず」とか云(い)つて、161マゴマゴして居(ゐ)ると其処辺(そこら)四辺(あたり)の奴(やつ)に泥棒(どろぼう)扱(あつか)ひをされて、162其(その)上(うへ)163虻蜂(あぶはち)とらずになつては詮(つま)らぬぢやないか』
164サール『何(なに)、165神(かみ)様(さま)は心次第(こころしだい)の御(ご)利益(りやく)を下(くだ)さるのだから、166吾々(われわれ)の真心(まごころ)が姫(ひめ)様(さま)に通(とほ)らぬ道理(だうり)が何処(どこ)にあらう。167姫(ひめ)様(さま)は千(せん)里(り)向(むか)ふの事(こと)でも御(ご)承知(しようち)だから、168自分(じぶん)等(ら)が斯(か)うして跟(つ)いて来(く)るのも御(ご)承知(しようち)だ。169之(これ)を黙(だま)つて居(を)られるのは170表面(うはべ)は何(なん)とも云(い)はれないが、171実(じつ)は跟(つ)いて来(こ)いと言(い)はぬ許(ばか)りだ。172そんな取越(とりこし)苦労(くらう)はするな。173さア行(ゆ)かうぢやないか』
174イク『道(みち)の辺(べ)に憩(いこ)ふ二人(ふたり)は尻(しり)あげて
175またもや先(さき)へ行(い)かうぞとする』
176サール『此(この)場(ば)をばサールの吾(われ)は何処(どこ)へ行(い)く
177蓮花(はちすばな)咲(さ)くハルナの都(みやこ)へ。
178今(いま)先(さき)へ一人(ひとり)伊太彦(いたひこ)宣伝使(せんでんし)
179逃(に)げるやうにして玉(たま)抱(かか)へ行(ゆ)く』
180イク『泥棒(どろばう)のやうな顔(かほ)した吾々(われわれ)を
181恐(おそ)れて逃(に)げた伊太彦(いたひこ)司(つかさ)』
182サール『馬鹿(ばか)云(い)ふな此(この)世(よ)の中(なか)に住(す)む奴(やつ)は
183皆(みな)泥棒(どろばう)の未製品(みせいひん)なる』
184イク『バラモンの軍(いくさ)の君(きみ)に従(したが)ひて
185泥棒(どろぼう)稼(かせ)ぎし吾(われ)等(ら)二人(ふたり)よ』
186サール『そんな事(こと)夢(ゆめ)にも云(い)ふて呉(く)れるなよ
187吾(われ)等(ら)は最早(もはや)神(かみ)の生宮(いきみや)。
188泥濘(ぬかるみ)の泥(どろ)の中(なか)より蓮花(はちすばな)
189咲(さ)き出(い)づる例(ためし)あるを知(し)らずや』
190イク『蓮花(はちすばな)如何(いか)に清(きよ)けく匂(にほ)ふとも
191散(ち)りては泥(どろ)の埋草(うめぐさ)となる。
192一度(ひとたび)は祠(ほこら)の前(まへ)で咲(さ)き充(み)ちし
193蓮(はちす)なれども今(いま)は詮(せん)なし。
194神(かみ)の道(みち)聞(き)く度(たび)毎(ごと)に村肝(むらきも)の
195心(こころ)の垢(あか)の深(ふか)きをぞ知(し)る。
196吾(わが)胸(むね)にさやる黒雲(くろくも)吹(ふ)き払(はら)ひ
197照(て)らさせ玉(たま)へ水(みづ)の光(ひかり)に。
198伊太彦(いたひこ)の神(かみ)の司(つかさ)を規範(のり)として
199魂(たま)研(みが)かまし道(みち)歩(あゆ)みつつ』
200 二人(ふたり)は半時(はんとき)ばかり経(た)つて201又(また)もや宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)ひ乍(なが)ら足拍子(あしびやうし)をとり下(くだ)り行(ゆ)く。
202『月(つき)の国(くに)にて名(な)も高(たか)き
203百(もも)の花(はな)咲(さ)き匂(にほ)ふなる
204ハルセイ山(ざん)の大峠(おほたうげ)
205三日(みつか)三夜(みよさ)をてくついて
206漸(やうや)くここに来(き)て見(み)れば
207思(おも)ひも寄(よ)らぬ三五(あななひ)の
208伊太彦(いたひこ)司(つかさ)が道(みち)の辺(べ)に
209旅(たび)の疲(つか)れを休(やす)めつつ
210眠(ねむ)らせ玉(たま)ふ不思議(ふしぎ)さよ
211思(おも)へば思(おも)へば恥(はづ)かしや
212高春山(たかはるやま)の岩窟(がんくつ)に
213伊太彦(いたひこ)司(つかさ)と諸共(もろとも)に
214酒(さけ)酌(く)み交(か)はし夢(ゆめ)の世(よ)を
215酔(よ)ふて暮(くら)せし吾々(われわれ)も
216心(こころ)の駒(こま)を立(た)て直(なほ)し
217祠(ほこら)の森(もり)に屯(たむろ)して
218珍(うづ)の宮居(みやゐ)の神業(かむわざ)に
219仕(つか)へまつりし嬉(うれ)しさよ
220初稚姫(はつわかひめ)の御後(みあと)をば
221慕(した)ひてここ迄(まで)来(き)て見(み)れば
222姫(ひめ)の姿(すがた)は雲霞(くもかすみ)
223行衛(ゆくゑ)分(わか)らぬ旅(たび)の空(そら)
224大空(おほぞら)渡(わた)る月(つき)見(み)れば
225雲(くも)の御舟(みふね)に乗(の)らせつつ
226西(にし)へ西(にし)へと進(すす)みます
227ハルナの都(みやこ)に姫(ひめ)様(さま)が
228進(すす)ませ玉(たま)ふと聞(き)きつれど
229月(つき)の御後(みあと)を従(したが)ひて
230一旦(いつたん)珍(うづ)のエルサレム
231進(すす)ませ玉(たま)ふが天地(あめつち)の
232誠(まこと)の道(みち)に叶(かな)ふのか
233思(おも)へば思(おも)へば神(かみ)様(さま)の
234遊(あそ)ばす事(こと)は吾々(われわれ)の
235曇(くも)りきつたる魂(たましひ)で
236測(はか)り知(し)らるる事(こと)でない
237只(ただ)何事(なにごと)も惟神(かむながら)
238誠(まこと)の道(みち)を一筋(ひとすぢ)に
239行(ゆ)く処(とこ)までも行(い)つて見(み)よ
240神(かみ)は吾(われ)等(ら)と共(とも)にあり
241人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
242いかでか枉(まが)の襲(おそ)はむと
243教(をし)へ玉(たま)ひし御宣言(みことのり)
244頸(うなじ)に受(う)けて逸早(いちはや)く
245水晶(すいしやう)の玉(たま)を守(まも)りつつ
246伊太彦(いたひこ)司(つかさ)の後(あと)を追(お)ひ
247いざや進(すす)まむエルサレム
248守(まも)らせ玉(たま)へ天地(あめつち)の
249皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
250慎(つつし)み祈(いの)り奉(たてまつ)る
251朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
252月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
253仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
254誠(まこと)の道(みち)は世(よ)を救(すく)ふ
255誠(まこと)一(ひと)つの三五(あななひ)の
256道(みち)行(ゆ)く吾(われ)は惟神(かむながら)
257月(つき)の御神(みかみ)の後(あと)追(お)ふて
258神(かみ)の集(あつ)まるエルサレム
259黄金(こがね)花(はな)咲(さ)く神(かみ)の山(やま)
260黄金山(わうごんざん)に参上(まゐのぼ)り
261橄欖(かんらん)樹下(じゆか)に息(いき)休(やす)め
262神(かみ)の恵(めぐみ)の涼風(すずかぜ)に
263心(こころ)の塵(ちり)を払(はら)ふべし
264進(すす)めや進(すす)めいざ進(すす)め
265勝利(しようり)の都(みやこ)は近(ちか)づきぬ
266深(ふか)き恵(めぐみ)にヨルダンの
267川(かは)の流(なが)れに御禊(みそぎ)して
268生(うま)れ赤子(あかご)となり変(かは)り
269初稚姫(はつわかひめ)の御許(みゆる)しを
270受(う)けて尊(たふと)き神司(かむつかさ)
271栄(さか)えに充(み)てる御(おん)顔(かほ)を
272伏(ふ)し拝(をが)みつつツクヅクと
273エデンの川(かは)を舟(ふね)に乗(の)り
274フサの入江(いりえ)に漕(こ)ぎ出(だ)して
275何(なん)のなやみも波(なみ)の上(うへ)
276ハルナの都(みやこ)へ進(すす)むべし
277勇(いさ)めよ勇(いさ)めよ よく勇(いさ)め
278神(かみ)は吾(われ)等(ら)と共(とも)にあり
279あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
280御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を玉(たま)へかし』
281 かく謡(うた)ひ乍(なが)ら、282イク、283サールの両人(りやうにん)はハルセイ山(ざん)の西阪(にしざか)を勢(いきほひ)込(こ)んで下(くだ)り行(ゆ)く。
284(大正一二・五・二九 旧四・一四 於天声社楼上 北村隆光録)
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