霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第二〇章 道(みち)の苦(く)〔一六二七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻 篇:第5篇 神検霊査 よみ(新仮名遣い):しんけんれいさ
章:第20章 道の苦 よみ(新仮名遣い):みちのく 通し章番号:1627
口述日:1923(大正12)年05月29日(旧04月14日) 口述場所:天声社 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年2月3日
概要: 舞台:ハルセイ山 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-03-18 19:02:19 文字数:3766 OBC :rm6320
愛善世界社版:271頁 八幡書店版:第11輯 360頁 修補版: 校定版:282頁 普及版:64頁 初版: ページ備考:
001ブラヷーダ『月照彦(つきてるひこ)の昔(むかし)より
002遠津(とほつ)御祖(みおや)の仕(つか)へてし
003三五教(あななひけう)の信徒(まめひと)と
004テルの里庄(りしやう)のルーブヤが
005家(いへ)に生(うま)れしブラヷーダ
006バラモン教(けう)の醜神(しこがみ)の
007教(をしへ)のために朝夕(あさゆふ)に
008虐(しひた)げられて表面(おもてむき)
009三五教(あななひけう)を打(う)ち捨(すて)て
010バラモン教(けう)を奉(ほう)じつつ
011家(いへ)の柱(はしら)に穴(あな)うがち
012神(かみ)の御名(みな)をば刻(きざ)みこみ
013密(ひそ)かに拝(をが)みまつりつつ
014時(とき)まつ程(ほど)に三五(あななひ)の
015神(かみ)の司(つかさ)の伊太彦(いたひこ)が
016鳩(はと)の如(ごと)くに下(くだ)りまし
017父(ちち)と母(はは)との許(ゆる)し得(え)て
018妹背(いもせ)の縁(えにし)を結(むす)ばせつ
019兄(あに)の命(みこと)も嬉(うれ)しみて
020伊太彦(いたひこ)司(つかさ)の神業(しんげふ)を
021助(たす)けむためとてスーラヤの
022湖水(こすい)の波(なみ)を打(う)ち越(こ)えて
023海抜(かいばつ)三千(さんぜん)有余(いうよ)尺(しやく)
024竜王(りうわう)の潜(ひそ)む岩窟(がんくつ)に
025進(すす)みて諸(もも)の苦(くる)しみを
026味(あぢ)はひ遂(つひ)に根(ね)の国(くに)の
027入口(いりぐち)迄(まで)も進(すす)み往(ゆ)き
028神(かみ)の恵(めぐみ)の御教(みをしへ)を
029いと懇(ねもごろ)にさとされつ
030初稚姫(はつわかひめ)に救(すく)はれて
031岩窟(いはや)の隙(すき)よりぬけ出(いだ)し
032姫(ひめ)の御船(みふね)に助(たす)けられ
033漸(やうや)くエルの港(みなと)まで
034安着(あんちやく)したる折(をり)もあれ
035神(かみ)の教(をしへ)に従(したが)ひて
036いとしき夫(をつと)に生(いき)別(わか)れ
037踏(ふ)みも習(なら)はぬ一人旅(ひとりたび)
038草鞋(わらぢ)に足(あし)を食(く)はれつつ
039道(みち)の小草(をぐさ)をあけに染(そ)め
040杖(つゑ)を力(ちから)にハルセイ山(ざん)の
041今(いま)や麓(ふもと)につきにけり
042音(おと)に名高(なだか)き月(つき)の国(くに)
043大高山(だいかうざん)と聞(きこ)えたる
044此(この)山(やま)越(こ)えてエルサレム
045聖地(せいち)に渡(わた)る吾(われ)なれど
046如何(いかが)はしけむ身(み)は疲(つか)れ
047息(いき)も苦(くる)しくなりにけり
048死線(しせん)を越(こ)えし其(その)時(とき)の
049妖邪(えうじや)の空気(くうき)の体(からたま)に
050未(いま)だ潜(ひそ)むと覚(おぼ)えたり
051玉国別(たまくにわけ)の師(し)の君(きみ)や
052伊太彦(いたひこ)司(つかさ)は今(いま)何処(いづこ)
053様子(やうす)聞(き)かまく思(おも)へども
054神(かみ)の戒(いまし)め強(つよ)くして
055遇(あ)はむよしなき旅(たび)の空(そら)
056国(くに)に残(のこ)せし父母(ちちはは)や
057兄(あに)の命(みこと)は嘸(さぞ)やさぞ
058昼(ひる)はひねもす終夜(よもすがら)
059二人(ふたり)の身(み)をば案(あん)じつつ
060神(かみ)に願(ねが)ひをかけまくも
061畏(かしこ)き厳(いづ)の御恵(みめぐみ)を
062二人(ふたり)の上(うへ)に与(あた)へよと
063祈(いの)らせ給(たま)ふ事(こと)ならむ
064雲路(くもぢ)遥(はるか)に進(すす)み来(く)る
065吾(われ)は孱弱(かよわ)き女(をんな)の身(み)
066後(あと)ふり返(かへ)り眺(なが)むれば
067限(かぎ)りも知(し)らぬ大野原(おほのはら)
068蓮華(はちす)の花(はな)は遠近(をちこち)に
069咲(さ)き匂(にほ)へども百鳥(ももどり)は
070声(こゑ)も涼(すず)しく謡(うた)へども
071言問(ことと)ふよしも泣(な)き逆吃(じやくり)
072此(この)山口(やまぐち)にたち並(なら)ぶ
073沙羅(さら)の古木(こぼく)に霊(れい)あらば
074吾(わ)が垂乳根(たらちね)や兄君(あにぎみ)や
075伊太彦(いたひこ)司(つかさ)の消息(せうそく)を
076完全(うまら)に知(し)らして呉(く)れるだらう
077あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
078神(かみ)に任(まか)せし此(この)身体(からだ)
079取(と)り越(こ)し苦労(くらう)は禁物(きんもつ)と
080教(をしへ)の言葉(ことば)を身(み)に刻(きざ)み
081心(こころ)に銘(しる)して忘(わす)れねど
082又(また)もや起(おこ)る慕郷心(ぼきやうしん)
083拭(ぬぐ)はせたまへ惟神(かむながら)
084御前(みまへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)る
085朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
086月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
087仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
088三五教(あななひけう)の御教(みをしへ)は
089此(この)現世(うつしよ)は云(い)ふも更(さら)
090吾(わが)魂(たましひ)の何処(どこ)迄(まで)も
091つづく限(かぎ)りは捨(す)てはせぬ
092誠(まこと)一(ひと)つの大道(おほみち)を
093進(すす)む吾(わが)身(み)は曲神(まがかみ)の
094さやらむ恐(おそ)れはなけれども
095心(こころ)にひそむ曲者(くせもの)が
096又(また)もや頭(かしら)擡(もた)げつつ
097清(きよ)き乙女(をとめ)の魂(たましひ)を
098恋(こひ)の暗路(やみぢ)にさそひ往(ゆ)く
099晴(は)れぬ思(おも)ひの吾(わが)体(からだ)
100救(すく)はせたまへ惟神(かむながら)
101御前(みまへ)に祈(いの)り奉(たてまつ)る』
102 斯(か)く謡(うた)ひながら、103漸(やうや)くにしてハルセイ山(ざん)の峠(たうげ)を中程(なかほど)迄(まで)登(のぼ)りつき、104茲(ここ)に息(いき)を休(やす)めて来方(こしかた)行末(ゆくすゑ)の事(こと)を思(おも)ひ案(あん)じ、105一人旅(ひとりたび)の淋(さび)しさに袖(そで)を霑(うるほ)して居(ゐ)る。106日(ひ)は漸(やうや)く西山(せいざん)に没(ぼつ)し、107四辺(あたり)は薄墨(うすずみ)の幕(まく)を卸(おろ)したやうになつて来(き)た。108花(はな)は扉(とびら)をとぢて眠(ねむ)りにつき109鳥(とり)は塒(ねぐら)をもとめて彼方(あちら)此方(こちら)の森林(しんりん)目蒐(めが)けて忙(いそが)しげに翅(つばさ)を早(はや)めて居(ゐ)る。110ブラヷーダ姫(ひめ)は独言(ひとりごと)、
111『あゝ味気(あぢき)なき浮世(うきよ)ぢやなア、112テルの里(さと)の酋長(しうちやう)の娘(むすめ)と生(うま)れ、113朝(あさ)な夕(ゆふ)なに三五(あななひ)の神(かみ)様(さま)を心(こころ)私(ひそ)かに念(ねん)じつつ、114幾度(いくど)となくバラモンの司(つかさ)に虐(しひた)げられ、115心(こころ)にもなきバラモンの信者(しんじや)となり済(す)まし、116吾(わが)一家(いつか)は云(い)ふも更(さら)、117村人(むらびと)迄(まで)が心(こころ)にも無(な)き信仰(しんかう)を強(しひ)られ、118月(つき)に三度(さんど)の火渡(ひわた)り水底(みなそこ)潜(くぐ)り、119裸体(らたい)の修業(しふげふ)、120荊蕀(いばら)の室(むろ)にと投(とう)ぜられ、121是(これ)が神(かみ)様(さま)の御心(みこころ)を安(やす)める第一(だいいち)の勤(つと)めと、122阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)の苦(くるし)みを忍(しの)びて漸(やうや)く孱弱(かよわ)き此(この)身(み)も十六(じふろく)の春(はる)を迎(むか)へ、123天運(てんうん)茲(ここ)に循環(じゆんくわん)して、124尊(たふと)き三五教(あななひけう)の神司(かむづかさ)と廻(めぐ)り会(あ)ひ、125親子(おやこ)兄弟(きやうだい)納得(なつとく)の上(うへ)、126夫婦(ふうふ)の契(ちぎり)を結(むす)び127如何(いか)なる艱難(かんなん)辛苦(しんく)も吾(わが)背(せ)の君(きみ)と一(ひと)つにせばやと父母(ふぼ)や兄(あに)に別(わか)れ、128此処(ここ)迄(まで)ぼつぼつ後(あと)を慕(した)ふて来(き)たものの、129もはや一歩(いつぽ)も進(すす)めなくなつて来(き)た。130あゝ如何(いか)にせば、131此(この)苦(くる)しみが免(のが)れるだらう。132是(これ)も矢張(やつぱり)表面(うはべ)を偽(いつは)り、133バラモンの神(かみ)を祭(まつ)り134勿体(もつたい)なや大慈(だいじ)大悲(だいひ)の三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)をせま苦(くる)しい柱(はしら)の穴(あな)を穿(うが)つて祭(まつ)り込(こ)んだ其(その)天罰(てんばつ)が報(むく)ひ来(き)たのであらうか。135「燈火(とうくわ)をともして床(ゆか)の下(した)に置(お)くものはない」とは聖者(せいじや)のお言葉(ことば)、136其(その)お言葉(ことば)に背(そむ)き、137バラモンの悪神(あくがみ)を尊敬(そんけい)して来(き)た重々(ぢうぢう)の罪業(ざいごふ)廻(めぐ)り来(き)て、138吾(わが)身(み)は如何(いか)なる苦(くる)しみを受(う)けやうとも、139最早(もはや)因縁(いんねん)づくと諦(あきら)めて決(けつ)して恨(うら)みは致(いた)しませぬ。140神(かみ)様(さま)何卒(どうぞ)、141垂乳根(たらちね)の父母(ちちはは)や兄(あに)や、142吾(わが)背(せ)の君(きみ)や村人(むらびと)の罪(つみ)をお許(ゆる)し下(くだ)さいまして、143天晴(あつぱれ)御(ご)神業(しんげふ)にお使(つか)ひ下(くだ)さるやう、144偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)ります。145あゝ斯(か)うなつては最(も)はや諦(あきら)めねばなるまい。146あゝ俄(にはか)に胸(むね)が痛(いた)くなつて来(き)た。147薬(くすり)の持(も)ち合(あは)せもない。148もはや吾(わが)身(み)の罪(つみ)を神(かみ)様(さま)にお許(ゆる)し願(ねが)ふ訳(わけ)にもゆくまい。149吾(わが)罪(つみ)が許(ゆる)されて、150父母(ふぼ)や吾(わが)背(せ)の君(きみ)に戒(いまし)めが往(ゆ)くやうであつてはならない。151どうぞ神(かみ)様(さま)、152妾(わらは)の身(み)をお召(め)し下(くだ)さつて、153一同(いちどう)の罪(つみ)を許(ゆる)して下(くだ)さいませ。154それに付(つ)いても、155恋(こひ)しい伊太彦(いたひこ)様(さま)に臨終(いまは)の際(きは)に一目(ひとめ)お目(め)にかかりたいものだ。156あゝどうしたらこの煩悶(はんもん)を消(け)す事(こと)が出来(でき)やうぞ』
157と一人(ひとり)道傍(みちばた)の草(くさ)の上(うへ)に腰(こし)を卸(おろ)し、1571悲歎(ひたん)の涙(なみだ)に暮(く)れて居(ゐ)る。158猛獣(まうじう)の声(こゑ)は四方(しはう)八方(はつぱう)より山岳(さんがく)も揺(ゆ)るぐ許(ばか)り聞(きこ)えて来(き)た。159遉(さすが)気丈(きぢやう)のブラヷーダも160此(この)恐(おそ)ろしき唸(うな)り声(ごゑ)には身(み)の毛(け)も弥立(よだ)ち、161死(し)を決(けつ)した身(み)にも恐怖(きようふ)の波(なみ)の打(う)ち寄(よ)する憐(あは)れさ。162ブラヷーダは絶(た)え入(い)る許(ばか)り泣(な)き叫(さけ)びながら、163路傍(ろばう)の草(くさ)の上(うへ)に身(み)をなげ伏(ふ)せてひしひしと泣(な)き叫(さけ)んで居(ゐ)る。
164三千彦(みちひこ)『三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
165玉国別(たまくにわけ)に従(したが)ひて
166山野(さんや)を渡(わた)り河(かは)を越(こ)へ
167テルモン館(やかた)に立(た)ちよりて
168種々(いろいろ)雑多(ざつた)と村肝(むらきも)の
169心(こころ)を砕(くだ)き身(み)を砕(くだ)き
170館(やかた)の難儀(なんぎ)を救(すく)ひつつ
171風塵(ふうぢん)茲(ここ)におさまりて
172デビスの姫(ひめ)を妻(つま)となし
173吾(わが)師(し)の君(きみ)と諸共(もろとも)に
174キヨメの湖水(こすい)を横断(わうだん)し
175アヅモス山(さん)の山麓(さんろく)に
176広(ひろ)き館(やかた)を構(かま)へたる
177バーチル主従(しゆじゆう)の命(いのち)をば
178神(かみ)の恵(めぐみ)に救(すく)ひ上(あ)げ
179タクシャカ竜王(りうわう)を言向(ことむ)けて
180夜光(やくわう)の玉(たま)や如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
181授(さづ)かりながら師(し)の君(きみ)と
182珍(うづ)の都(みやこ)へ進(すす)み往(ゆ)く
183スーラヤ湖水(こすい)を乗(のり)越(こ)えて
184エルの港(みなと)につきし折(をり)
185三五教(あななひけう)の神柱(かむばしら)
186御稜威(みいづ)輝(かがや)く初稚姫(はつわかひめ)に
187迷(まよ)ひの雲(くも)を晴(は)らされて
188吾(わが)師(し)の君(きみ)と袂(たもと)をば
189いよいよ別(わか)ちデビス姫(ひめ)と
190恋(こひ)しき袂(たもと)を別(わか)ちつつ
191踏(ふ)みもならはぬ山野(やまの)をば
192いと雄々(をを)しくも進(すす)み往(ゆ)く
193此処(ここ)は名(な)に負(お)うハルセイ山(ざん)の
194嶮(けは)しき峠(たうげ)の登(のぼ)り口(ぐち)
195俄(にはか)に聞(きこ)ゆる猛獣(まうじう)の
196声(こゑ)は地震(ぢしん)か雷(かみなり)か
197身(み)の毛(け)も弥立(よだ)つ許(ばか)りなり
198神(かみ)の教(をしへ)を世(よ)に伝(つた)ふ
199吾(われ)は男子(をのこ)の身(み)なれども
200かく怖(おそ)ろしき心地(ここち)する
201此(この)山路(やまみち)を何(なん)として
202デビスの姫(ひめ)やブラヷーダ
203進(すす)まむよしもなかるべし
204思(おも)へば思(おも)へば可憐(いぢら)しや
205神(かみ)の御(おん)為(ため)道(みち)のため
206世人(よびと)の為(た)めとは云(い)ひながら
207かくも苦(くる)しき草枕(くさまくら)
208旅(たび)に出(い)で立(た)つ女子(をみなご)の
209行末(ゆくすゑ)思(おも)ひ廻(めぐ)らせば
210いとど憐(あは)れを催(もよほ)して
211涙(なみだ)の袖(そで)はひたされぬ
212あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
213御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましまして
214吾(わが)師(し)の君(きみ)は云(い)ふも更(さら)
215デビスの姫(ひめ)やブラヷーダ
216二人(ふたり)の繊弱(かよわ)き女子(をなご)をば
217神(かみ)の御稜威(みいづ)に守(まも)らせて
218いと易々(やすやす)と神業(しんげふ)を
219果(は)たさせたまへ惟神(かむながら)
220御前(みまへ)に謹(つつし)み願(ね)ぎまつる
221旭(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
222月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
223仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
224誠(まこと)一(ひと)つの三五(あななひ)の
225教(をしへ)を進(すす)む吾(われ)なれば
226怖(おそ)るる事(こと)はなけれども
227神(かみ)の教(をしへ)も悟(さと)り得(え)ぬ
228弱(よわ)き女(をんな)の如何(いか)にして
229此(この)難関(なんくわん)を越(こ)ゆるべき
230守(まも)らせたまへ天地(あめつち)の
231皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
232謹(つつし)み願(ねが)ひ奉(たてまつ)る』
233 三千彦(みちひこ)はかく謡(うた)ひ乍(なが)ら、234厭(いや)らしい唸(うな)り声(ごゑ)のする山路(やまぢ)をとぼとぼと登(のぼ)つて行(ゆ)く。235幽(かす)かに聞(きこ)ゆる悲(かな)しげなる女(をんな)の泣(な)き声(ごゑ)、236耳(みみ)に入(い)るより三千彦(みちひこ)は気(き)を取(と)り直(なほ)し、
237三千(みち)『さてあの泣声(なきごゑ)は正(まさ)しく女(をんな)と見(み)える。238此(この)夜(よる)の山(やま)を通(かよ)ふ女(をんな)はよもや他(た)にはあるまい。239正(まさ)しく、240デビス姫(ひめ)かブラヷーダ姫(ひめ)に間違(まちが)ひなからむ。241いで一走(ひとはし)り242実否(じつぴ)を探(さぐ)り見(み)む』
243と俄(にはか)に足(あし)を早(はや)め、244爪先(つまさき)上(あが)りの山路(やまみち)を勢(いきほひ)込(こ)んで上(のぼ)り行(ゆ)く。245見(み)れば道(みち)の傍(かたはら)の草(くさ)の上(うへ)に246悲(かな)しげな女(をんな)の姿(すがた)が横(よこ)たはつて居(ゐ)る。247三千彦(みちひこ)は驚(おどろ)き乍(なが)らツト傍(そば)により、
248三千(みち)『もしもしお女中(ぢよちう)様(さま)、249此(この)山路(やまみち)に唯(ただ)お一人(ひとり)倒(たふ)れて厶(ござ)るのは何処(どこ)の人(ひと)か、250折(をり)悪(あし)く月(つき)は黒雲(こくうん)に包(つつ)まれて、251お姿(すがた)はハツキリ分(わか)らねど、252どうやらブラヷーダ姫(ひめ)様(さま)の様(やう)に思(おも)ひますが、253もし間違(まちが)つたらお許(ゆる)しを願(ねが)ひます。254私(わたし)は決(けつ)して怪(あや)しい者(もの)ではありませぬ。255三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)三千彦(みちひこ)と申(まを)す者(もの)、256サア早(はや)く起(お)き上(あが)つて257有(あり)し次第(しだい)をお話(はな)し下(くだ)さいませ』
258 ブラヷーダ姫(ひめ)は三千彦(みちひこ)の情(なさけ)の籠(こ)もつた言葉(ことば)にノアの方舟(はこぶね)に出遇(であ)つたが如(ごと)く喜(よろこ)び、259重(おも)き身(み)をやうやうに起(お)き上(あが)り、
260ブラヷーダ『ハイ261妾(わらは)は伊太彦(いたひこ)の妻(つま)で厶(ござ)います。262貴方(あなた)は神徳(しんとく)高(たか)き三千彦(みちひこ)様(さま)、263ようまア尋(たづ)ねて下(くだ)さいました。264何(なに)を云(い)つても罪(つみ)の多(おほ)い此(この)体(からだ)、265神(かみ)様(さま)の戒(いまし)めに遇(あ)ひましたか、266モウ一足(ひとあし)も歩(ある)けなくなつて、267この草路(くさみち)に断末魔(だんまつま)の声(こゑ)を絞(しぼ)つて恥(はづか)しながら泣(な)いて居(を)りました』
268 三千彦(みちひこ)は此(この)体(てい)を見(み)るより涙(なみだ)をハラハラと流(なが)し声(こゑ)迄(まで)曇(くも)らせ乍(なが)ら、
269三千(みち)『御(ご)安心(あんしん)なさいませ。270神(かみ)様(さま)は屹度(きつと)貴女(あなた)の御(おん)身(み)をお守(まも)り下(くだ)さるでせう。271否(いな)魂(たましひ)迄(まで)も永久(とこしへ)に御(ご)守護(しゆご)下(くだ)さいます。272私(わたし)が貴女(あなた)をお連(つ)れ申(まを)してエルサレムまでお送(おく)り致(いた)し度(た)いは山々(やまやま)ですが、273神(かみ)様(さま)の仰(おほ)せは、274貴女(あなた)もお聞(き)き及(およ)びの通(とほ)り大層(たいそう)厳(きび)しくなりまして、275御(ご)同行(どうかう)は叶(かな)ひませぬ。276併(しか)し乍(なが)ら人(ひと)は心(こころ)が肝腎(かんじん)で厶(ござ)います。277心(こころ)さへ生々(いきいき)して居(を)れば、278肉体(にくたい)位(くらゐ)は何(なん)の雑作(ざふさ)も厶(ござ)いませぬ。279何(なに)程(ほど)疲(つか)れたと云(い)ふても休(やす)めば直(すぐ)に回復(くわいふく)するもので厶(ござ)います。280気(き)を確(たしか)にお持(も)ちなさいませ。281あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。282……あゝ三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)、283繊弱(かよわ)き女(をんな)のブラヷーダをお救(すく)ひ下(くだ)さるやう一重(ひとへ)にお願(ねが)ひ申(まをし)ます。284夫(そ)れについては、285デビス姫(ひめ)も繊弱(かよわ)い女(をんな)の一人旅(ひとりたび)、286何卒(なにとぞ)貴神(あなた)の御(ご)恩寵(おんちよう)をもつて287無事(ぶじ)に聖地(せいち)に御(ご)参詣(さんけい)の叶(かな)ふやう、288お取(と)り計(はか)らひを偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)ります。289あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
290と合掌(がつしやう)しながら291二人(ふたり)の間(あひだ)には暫(しば)し無言(むごん)の幕(まく)が卸(おろ)された。292猛獣(まうじう)の声(こゑ)は一層(いつそう)激(はげ)しく彼方(あなた)此方(こなた)の谷々(たにだに)より百雷(ひやくらい)の一(いち)時(じ)に落(お)つるが如(ごと)く響(ひび)き来(きた)る。
293(大正一二・五・二九 旧四・一四 於天声社 加藤明子録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→