霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一四章 嬉(うれ)し涙(なみだ)〔一六二一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻 篇:第3篇 幽迷怪道 よみ(新仮名遣い):ゆうめいかいどう
章:第14章 嬉し涙 よみ(新仮名遣い):うれしなみだ 通し章番号:1621
口述日:1923(大正12)年05月25日(旧04月10日) 口述場所:教主殿 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年2月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
黒雲がもうもうとして天地四方を包み、夜とも昼とも見わけのつかない光景となってきた。吹き来る風はなまぐさく湿っぽく、表面は冷たいのに熱気を含んでいた。
伊太彦一行は相当に高い山に行き当たり、ほかに道がないため登って行った。険しい道を行くと、四方八方から嫌らしい泣き声が聞こえてくる。一行は天津祝詞を奏上しようとしたが、唇が強直してどうしても声を発することができなかった。
山の頂で一行はへとへとになり、倒れてしまった。そこへ下の方から一人の婆がすたすたと登ってきて、自分は高姫を守護している銀毛八尾の狐だと名乗った。
狐は、アスマガルダが高姫を打擲しようとしたため高姫は家を飛び出してどこかへ行ってしまい、その恨みで一行をこの山に踏み迷わせたのだという。
狐は地獄に落ちたくなければ降参して言うことを聞け、と脅した。五人は声が出ないまま、しきりに首を振って抵抗する。
狐の婆はいばらの鞭を振り上げて伊太彦の頭を打ち付けた。伊太彦は血を流しながら、決して三五教の教えは捨てないと首を振っている。
ベースはこの様の恐ろしさにくじけ、首を縦に振りだした。狐婆は妖術で座布団を出すとベースをその上に座らせ、果物や葡萄酒を与えた。ベース以外の者はみな、伊太彦どうように依然として首を横に振っている。
婆はベースのように観念しろと脅しながらますます鞭で四人を打ち据えた。四人は運を天に任せ、心のうちに神を念じていた。すると山岳も崩れるばかりに犬の唸り声が聞こえてきた。
この声を聴くと婆は銀毛八尾の正体を現して逃げ出した。四人はにわかに元気回復し、血潮の痕跡もなく、すっくと立ちあがって天津祝詞を奏上した。ベースは茨の中に突っ込まれて唸っている。
四人がベースのために祈っていると、猛犬スマートを連れた初稚姫の精霊が現れた。初稚姫は、伊太彦たちが試験に及第したと告げ、ウバナンダ竜王の玉を取って帰るようにと告げた。
初稚姫が天津祝詞を奏上すると、気が付けば一行五人は竜王の岩窟に、邪気に打たれて倒れていた。伊太彦たちは嬉し涙を流し、両手を合わせて初稚姫を伏し拝んでいる。
岩窟の奥の方から鏡のように光る大火団が現れ、一同の前に爆発した。そこには優美高尚な美人が十二人の侍女をしたがえていた。美人は初稚姫に向かって手を仕え、自分は神代の昔、大八洲彦命によって改心の修行のために岩窟に押し込まれたウバナンダ竜王であると名乗った。
時がきて宣伝使が玉を受け取りにやってきたが、伊太彦の神力が奥方のために薄らいでしまい、解脱できずに困っていたという。
五人が竜神の毒気で魂が離脱してしまっていたところ、初稚姫がやってきて言霊を聞かせてくれたおかげで解脱ができ、このような天女になることができたと明かした。
ウバナンダ竜王は伊太彦に、玉を授けるのでエルサレムに行って献じるようにと告げ、自分たちは眷属たちとともにハルナの都の言霊戦を陰ながら支援すると伝えた。
竜王は玉を伊太彦に渡し、初稚姫に改めて感謝を述べた。一同はそれぞれ述懐を述べ竜王に別れを告げた。竜王は雲を起こして侍女たちとともに空中に舞い上がり、姿は煙のように消えてしまった。
初稚姫は岩窟の細い穴を伝って磯端に出た。一行も後に続いて出てみると、そこには玉国別と治道居士の一行が船を横づけにして待っていた。伊太彦は船に飛び乗ると、玉国別にしがみつきうれし泣きに泣いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4522 OBC :rm6314
愛善世界社版:192頁 八幡書店版:第11輯 331頁 修補版: 校定版:197頁 普及版:64頁 初版: ページ備考:
001 黒雲(こくうん)濛々(もうもう)として天地(てんち)四方(しはう)を包(つつ)み、002夜(よる)とも昼(ひる)とも見別(みわけ)のつかぬやうな光景(くわうけい)となつて来(き)た。003吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)は何(なん)となく腥(なまぐさ)く、004且(か)つ湿(しめ)つぽく、005表面(へうめん)は冷(つめ)たく、006どこやらに熱気(ねつき)を含(ふく)み、007体(からだ)から沾(ねば)つた汗(あせ)の滲(にじ)む空気(くうき)である。008伊太彦(いたひこ)一行(いつかう)は足(あし)に任(まか)せて、009方向(はうかう)も定(さだ)めず、010膝栗毛(ひざくりげ)の続(つづ)く限(かぎ)り進(すす)んで行(ゆ)くと、011相当(さうたう)に高(たか)い岩骨(ロツキー)の山(やま)の麓(ふもと)に行(ゆ)き当(あた)つた。012相当(さうたう)に高(たか)い山(やま)らしいが、013五合目(ごがふめ)あたりから、014灰色(はひいろ)の雲(くも)が包(つつ)んで巓(いただき)を見(み)る事(こと)が出来(でき)なかつた。015一行(いつかう)は此(この)山(やま)を登(のぼ)るより道(みち)がない。016針(はり)のやうな草(くさ)や、017荊(いばら)の間(あひだ)を種々(いろいろ)と苦心(くしん)して右(みぎ)へ避(よ)け左(ひだり)へ避(さ)け、018板壁(いたかべ)のやうな嶮(けは)しい所(ところ)を登(のぼ)つて往(ゆ)く。019四方(しはう)八方(はつぱう)から、020何(なん)とも知(し)れぬ悲(かな)しいやうな嫌(いや)らしいやうな泣声(なきごゑ)が聞(きこ)えて来(く)る。021猿(さる)の声(こゑ)でもなければ秋(あき)の夕(ゆふべ)の虫(むし)の音(ね)でもない。022実(じつ)に絶望(ぜつばう)の淵(ふち)に沈(しづ)んだ時(とき)のやうな嘆声(かこちごゑ)である。023一行(いつかう)は天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)せむとしたが、024どうしても唇(くちびる)が強直(きやうちよく)して声(こゑ)を発(はつ)する事(こと)が出来(でき)なかつた。025灰色(はひいろ)の雲(くも)の中(なか)へ身(み)を没(ぼつ)するやうになると、026スーラヤ山(さん)の死線(しせん)を越(こ)えた時(とき)のやうな再(ふたた)び不快(ふくわい)の気分(きぶん)に襲(おそ)はれた。027一同(いちどう)は不言(いはず)不語(かたらず)運(うん)を天(てん)に任(まか)し、028伊太彦(いたひこ)の後(あと)に従(したが)ひ登(のぼ)つて往(ゆ)くと、029山(やま)の巓(いただき)は、030蠣殻(かきがら)を打(ぶ)ちあけたやうな小石(こいし)が一面(いちめん)に被(かぶ)さつて居(ゐ)て031恰(あたか)も剣(つるぎ)の山(やま)を登(のぼ)るが如(ごと)くであつた。032伊太彦(いたひこ)は頂上(ちやうじやう)のバラの花(はな)のやうな形(かたち)した岩(いは)の上(うへ)にソツと腰(こし)を下(おろ)した。033後(おく)れ馳(ば)せながら四(よ)人(にん)はヘトヘトになり、034顔色(かほいろ)蒼白(あをざ)め、035唇(くちびる)を紫色(むらさきいろ)に染(そ)め、036さも絶望(ぜつばう)の淵(ふち)に沈(しづ)んだやうな面貌(おももち)で辿(たど)りつき、037気息(きそく)奄々(えんえん)として夏犬(なついぬ)のやうに舌(した)を垂(た)らし、038胸(むね)に浪(なみ)をうたせながら039蠣殻(かきがら)のやうな小石(こいし)の上(うへ)に倒(たふ)れて仕舞(しま)つた。
040 其処(そこ)へ下(した)の方(はう)からスタスタ偉(えら)ひ勢(いきほひ)で登(のぼ)つて来(き)た一人(ひとり)の婆(ばば)がある。041一同(いちどう)の屁古垂(へこた)れた姿(すがた)を見(み)て婆(ばば)は大口(おほぐち)を開(ひら)いて、
042婆(ばば)『オホヽヽヽ。043これや伊太(いた)に阿魔女(あまつちよ)に三(さん)人(にん)のガラクタ共(ども)、044往生(わうじやう)致(いた)したか。045もう此処(ここ)迄(まで)来(き)た以上(いじやう)は往(ゆき)も戻(もど)りもならず、046此処(ここ)で露(つゆ)の命(いのち)を捨(す)てて八万(はちまん)地獄(ぢごく)へ落(お)ちるのだが、047夫(それ)でもお詫(わび)を致(いた)して助(たす)けて貰(もら)ふ気(き)はないか。048三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)だなどと申(まをし)て、049よくもよくも世界(せかい)を股(また)にかけて歩(ある)きよるな。050俺(わし)を誰(たれ)だと思(おも)ふて居(を)るか。051高姫(たかひめ)の守護(しゆご)を致(いた)して居(を)る銀毛(ぎんまう)八尾(はつぴ)のお稲荷(いなり)様(さま)だぞ。052これや開(あ)いた口(くち)が窄(すぼ)まるまい。053一口(ひとくち)でも喋(しやべ)るなら喋(しやべ)つて見(み)い。054アスマガルダの馬鹿者(ばかもの)が、055此(この)方(はう)の肉(にく)の宮(みや)を打擲(ちやうちやく)せむと致(いた)し嚇(おど)かしやがつた為(た)めに、056此(この)方(はう)の生宮(いきみや)は、057とうとう吾(わが)家(や)を飛(と)び出(だ)し行衛(ゆくゑ)不明(ふめい)となつて仕舞(しま)つたのだ。058恨(うらみ)を晴(は)らさうと思(おも)ひ此(この)方(はう)の計略(けいりやく)によつて、059此(この)山(やま)に踏(ふ)み迷(まよ)はしてやつたのだ。060サア、0601心(こころ)を改(あらた)めてウラナイ教(けう)に帰順(きじゆん)致(いた)すか、061どうだ、062きつぱりと返答(へんたふ)致(いた)せ。063いやいや返答(へんたふ)は出来(でき)まい。064耳(みみ)は聾(みみしひ)、065口(くち)は開(あ)かず、066言葉(ことば)も出(で)ぬものだから、067併(しか)し耳(みみ)は少(すこ)し聞(きこ)えるだらう。068此(この)方(はう)の申(まを)すやうに致(いた)すなら首(くび)を縦(たて)にふれ。069ても扨(さ)てもいげつないものだなア、070ても扨(さ)ても小気味(こきみ)よい事(こと)だなア、071オツホヽヽヽ』
072 伊太彦(いたひこ)は発言(はつげん)機関(きくわん)の止(と)まつた悲(かな)しさに、073一言(ひとこと)も発(はつ)する事(こと)を得(え)ず、074頻(しきり)に首(くび)を横(よこ)に振(ふ)つて居(ゐ)る。075外(ほか)四(よ)人(にん)も伊太彦(いたひこ)に做(な)らつて機械(きかい)人形(にんぎやう)のやうに首(くび)を横(よこ)に振(ふ)る。
076婆(ばば)『ても扨(さ)ても、077ど渋太(しぶと)い奴(やつ)だなア。078絶対(ぜつたい)絶命(ぜつめい)の場合(ばあひ)になつても、079まだ俺(わし)の云(い)ふ事(こと)が分(わか)らぬのか。080銅屑(どうくづ)の霊(みたま)と云(い)ふものは因果(いんぐわ)なものだなア。081これや伊太彦(いたひこ)』
082と茨(いばら)の笞(むち)をふり上(あ)げて、083伊太彦(いたひこ)の頭(かしら)を続(つづ)け打(う)ちに十二三(じふにさん)打(う)ち続(つづ)けた。084頭部(とうぶ)からは、085花火(はなび)の薄(すすき)のやうに血(ち)がボトボトと線(せん)を劃(くわく)して流(なが)れ出(い)づる其(その)痛(いた)ましさ。086伊太彦(いたひこ)は目(め)をつぶつたまま、087仮令(たとへ)死(し)んでも三五教(あななひけう)の教(をしへ)は捨(す)てぬ。088如何(いか)な責苦(せめく)にあつても、089ウラナイ教(けう)に帰順(きじゆん)するものかと益々(ますます)首(くび)を横(よこ)に振(ふ)る。090婆(ばば)は又々(またまた)鞭(むち)を加(くは)へる。091此(この)体(てい)を見(み)たベースは驚(おどろ)いて、092そろそろ首(くび)を縦(たて)に振(ふ)り出(だ)した。093妖婆(えうば)はさも嬉(うれ)しさうに、094忌(い)やらしい笑(ゑみ)を泛(うか)べて、
095婆(ばば)『オホヽヽヽ。096お前(まへ)はベースだな。097よしよし偉(えら)いものだ。098本当(ほんたう)に水晶玉(すいしやうだま)だ。099五(ご)人(にん)の中(うち)でお前(まへ)一人(ひとり)。100「改心(かいしん)すれば其(その)日(ひ)から楽(らく)になるぞよ」と仰有(おつしや)るのだから、101みせしめのため此処(ここ)で一(ひと)つお前(まへ)に天国(てんごく)の楽(たのし)みを与(あた)へてやらう』
102と云(い)ひ乍(なが)ら、103懐(ふところ)から、104小(ちひ)さい玉(たま)のやうなものを取(と)り出(いだ)しブーブーと口(くち)に当(あ)て吹(ふ)くと、105フワリとした綾錦(あやにしき)の座布団(ざぶとん)が七八(しちはち)枚(まい)、106其処(そこ)に現(あらは)れた。
107婆(ばば)『ホヽヽヽ、108これやどうだ、109銀毛(ぎんまう)八尾(はつぴ)様(さま)のお働(はたら)きはこんなものだよ、110さあベース、111さぞ足(あし)が痛(いた)からう。112此(この)上(うへ)に坐(すわ)りなされ。113さあチヤツと坐(すわ)りなされ。114そして、115腹(はら)が空(す)いただらう。116此(この)玉(たま)を吹(ふ)きさへすればお前(まへ)の望(のぞ)み通(どほ)りの美味(びみ)の物(もの)が出(で)て来(く)るのだ』
117と云(い)ひ乍(なが)ら、118ベースの体(からだ)を鷲(わし)掴(づか)みにして119七八(しちはち)枚(まい)重(かさ)ねた柔(やはら)かい布団(ふとん)の上(うへ)に坐(すわ)らした。120ベースは四(よ)人(にん)の者(もの)に気兼(きがね)し乍(なが)ら坐(すわ)つた。121婆(ばば)はいろんな果物(くだもの)や、122葡萄酒(ぶだうしゆ)などを玉(たま)を吹(ふ)ひては拵(こしら)へ、123ベースに与(あた)へて居(ゐ)る。124アスマガルダも、125ブラヷーダも、126カークスも伊太彦(いたひこ)同様(どうやう)で依然(いぜん)として首(くび)を横(よこ)に振(ふ)つて居(ゐ)る。127妖婆(えうば)は之(これ)を見(み)て、128さも慨歎(がいたん)したやうに、
129婆(ばば)『ても扨(さ)ても因縁(いんねん)の悪(わる)いみ魂(たま)だなア。130此(この)やうに結構(けつこう)にして助(たす)けてやらうと思(おも)ふのに、131こんな責苦(せめく)に遇(あ)ふてもまだ我(が)を立(た)て通(とほ)しよる。132何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も首(くび)を横(よこ)に振(ふ)りやがつて、133エヽ俺(わし)が善悪(ぜんあく)の鏡(かがみ)を出(だ)して見(み)せてやらう。134皆(みな)がベースのやうにすればよいのだ。135俺(わし)だつて何(なに)も此(この)様(やう)なひどい事(こと)をしたくはないが、136八岐(やまた)大蛇(をろち)様(さま)からの御(ご)命令(めいれい)だから仕方(しかた)なしにやるのだ』
137と云(い)ひ乍(なが)ら、138又(また)もや茨(いばら)の笞(むち)で三(さん)人(にん)を打(う)ち据(す)ゑる。139流血(りうけつ)淋漓(りんり)として目(め)も当(あ)てられぬ無残(むざん)さ、140四(よ)人(にん)は運(うん)を天(てん)に任(まか)して心(こころ)の中(うち)に神(かみ)を念(ねん)じて居(ゐ)た。141何処(どこ)とも無(な)く山岳(さんがく)を崩(くず)るる許(ばか)りの犬(いぬ)の声(こゑ)、
142『ウーワウ ワウ ワウ』
143 此(この)声(こゑ)を聞(き)くより妖婆(えうば)は忽(たちま)ち銀毛(ぎんまう)八尾(はつぴ)の正体(しやうたい)を現(あら)はし、144倒(こ)けつ輾(まろ)びつ雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げて行(ゆ)く。145伊太彦(いたひこ)、146ブラヷーダ、147アスマガルダ、148カークスの四(よ)人(にん)は149此(この)声(こゑ)の耳(みみ)に入(い)るや俄(にはか)に元気(げんき)回復(くわいふく)し150言霊(ことたま)を自由(じいう)に発(はつ)する事(こと)を得(え)た。151さうして今(いま)迄(まで)滴(したた)つて居(ゐ)た血潮(ちしほ)は痕跡(こんせき)も留(とど)めず、152元(もと)の如(ごと)く元気(げんき)よき面貌(めんばう)となり矗(すつく)と立(た)ち上(あが)り、153天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)した。154ベースはと見(み)れば猿取荊(さるとりいばら)の中(なか)に突(つ)つ込(こ)まれて155ウンウンと唸(うな)つて居(ゐ)る。
156伊太(いた)『あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
157 三(さん)人(にん)も一度(いちど)に、
158『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
159カークス『もし伊太彦(いたひこ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)、160怪体(けたい)の事(こと)があるものぢやありませぬか。161高姫(たかひめ)の守護神(しゆごじん)奴(め)がこんな所(ところ)迄(まで)やつて来(き)まして、162吾々(われわれ)を試(こころ)みようと致(いた)しましたが、163犬(いぬ)の声(こゑ)が聞(きこ)えると忽(たちま)ち正体(しやうたい)を現(あら)はして逃(に)げて仕舞(しま)つたぢや厶(ござ)いませぬか。164矢張(やつぱり)神(かみ)様(さま)は信仰(しんかう)せねばなりませぬなア』
165 伊太彦(いたひこ)は有難涙(ありがたなみだ)を流(なが)し乍(なが)ら、
166伊太(いた)『アヽ、167何(なん)とも有難(ありがた)くて言葉(ことば)も出(で)ませぬわい。168時(とき)にベースは何処(どこ)へ行(い)つたのでせうな』
169アスマガルダ『ここの猿取荊(さるとりいばら)の中(なか)に真裸体(まつぱだか)にせられ血塗(ちみどろ)になつて苦(くる)しんで居(ゐ)ます。170何(なん)とかして助(たす)けてやりたいものですなア』
171伊太(いた)『吾々(われわれ)一同(いちどう)が神(かみ)様(さま)にお願(ねが)ひして救(すく)ふて頂(いただ)くより仕方(しかた)がないなア。172サアお願(ねが)ひせう』
173と茲(ここ)に四(よ)人(にん)は一同(いちどう)に天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、174ベースの取違(とりちがひ)をお詫(わび)し、175稍(やや)暫(しば)し汗(あせ)みどろになつて祈願(きぐわん)を凝(こ)らした。176ベースはウンウンと唸(うな)つて居(ゐ)る許(ばか)りである。177其処(そこ)へ忽然(こつぜん)として猛犬(まうけん)スマートを引(ひ)き連(つ)れて現(あら)はれたのは178初稚姫(はつわかひめ)の精霊(せいれい)であつた。179四(よ)人(にん)は姫(ひめ)の姿(すがた)を見(み)るより喜(よろこ)びと驚(おどろ)きとにうたれ180暫時(しばらく)、1801言葉(ことば)もなく、181姫(ひめ)の端麗(たんれい)なる顔(かほ)を見詰(みつ)めて居(ゐ)る。
182初稚(はつわか)『伊太彦(いたひこ)さま、183貴方(あなた)は試験(しけん)に及第(きふだい)致(いた)しました。184サアこれからウバナンダ竜王(りうわう)の玉(たま)を受取(うけと)つて聖地(せいち)にお出(いで)なさいませ。185妾(わらは)は貴方(あなた)がスーラヤ山(さん)にお登(のぼ)りになつたと聞(き)き、186スマートと共(とも)に船(ふね)を雇(やと)うて当山(たうざん)に登(のぼ)り187貴方(あなた)の身(み)の安全(あんぜん)を守護(しゆご)して居(を)りました。188最早(もはや)安心(あんしん)なさいませ』
189と云(い)ひながら190迦陵(かりよう)嚬伽(びんが)のやうな麗(うるは)しい声(こゑ)を出(だ)して天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)したまふた。191ハツと気(き)がついて見(み)れば192伊太彦(いたひこ)以下(いか)四(よ)人(にん)は竜王(りうわう)の岩窟(がんくつ)に、193邪気(じやき)に打(う)たれて倒(たふ)れて居(ゐ)たのである。
194伊太(いた)『あゝ矢張(やつぱ)り此処(ここ)は竜王(りうわう)の岩窟(がんくつ)で厶(ござ)いましたかなア。195大変(たいへん)な所(ところ)へ往(い)つて居(を)りました。196よくまアお助(たす)け下(くだ)さいました、197有難(ありがた)う厶(ござ)います』
198 外(ほか)四(よ)人(にん)は嬉(うれ)し涙(なみだ)を垂(た)らしながら、199両手(りやうて)を合(あは)せ、200初稚姫(はつわかひめ)を伏(ふ)し拝(をが)んで居(ゐ)る。201斯(かか)る所(ところ)へ岩窟(がんくつ)の奥(おく)の方(はう)より、202鏡(かがみ)の如(ごと)く光(ひか)る大火団(だいくわだん)現(あらは)れ来(きた)り、203一同(いちどう)の前(まへ)に爆発(ばくはつ)するよと見(み)る間(ま)に、204得(え)も云(い)はれぬ優美(いうび)高尚(かうしやう)なる美人(びじん)が、205十二(じふに)人(にん)の侍女(じぢよ)を従(したが)へ現(あら)はれ来(きた)り、206初稚姫(はつわかひめ)に向(むか)ひ手(て)を仕(つか)へ、
207竜女(りうぢよ)『妾(わらは)は神代(かみよ)の昔(むかし)より208大八洲彦(おほやしまひこの)命(みこと)様(さま)に改心(かいしん)の為(た)め此(この)岩窟(がんくつ)に閉(と)ぢ込(こ)められ、209今(いま)迄(まで)修業(しふげふ)を致(いた)して居(を)りましたウバナンダ竜王(りうわう)で厶(ござ)います。210此(この)度(たび)神政(しんせい)成就(じやうじゆ)について如何(いか)なる悪神(あくがみ)もお赦(ゆる)し下(くだ)さる時節(じせつ)が参(まゐ)りましたので、211誰(たれ)かお助(たす)けに来(き)て下(くだ)さるだらうと、2111今日(こんにち)迄(まで)212この宝玉(ほうぎよく)を大切(たいせつ)に保護(ほご)して待(ま)つて居(を)りました。213所(ところ)が伊太彦(いたひこ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)が四(よ)人(にん)の伴(とも)を連(つ)れて、2131お出(い)でになりましたが、214斯(か)う申(まを)すと何(なん)で厶(ござ)いますが、215もう些(すこ)し御(ご)神力(しんりき)が奥(おく)さまに引(ひ)かされて薄(うす)らいで居(ゐ)ますので、216私(わたし)が解脱(げだつ)する事(こと)も出来(でき)ませず、217困(こま)つて居(を)りました。218すると伊太彦(いたひこ)様(さま)外(ほか)御(ご)一同(いちどう)は竜神(りうじん)の毒気(どくき)に打(う)たれ、219精霊(せいれい)が脱(ぬ)け出(だ)され死人(しにん)同様(どうやう)になられ困(こま)つた事(こと)だと思(おも)つて居(ゐ)ました所(ところ)、220神力(しんりき)無限(むげん)の貴女(あなた)様(さま)がお出(いで)になりまして言霊(ことたま)を聞(き)かして下(くだ)さつたので、221昔(むかし)の罪障(ざいしやう)も解(ほど)け、222執着心(しふちやくしん)も取(と)れて今(いま)迄(まで)の醜(みぐる)しかつた姿(すがた)も消(き)え、223こんな天女(てんによ)となりました。224併(しか)しこの玉(たま)は伊太彦(いたひこ)さまにお授(さづ)け致(いた)しますから、225エルサレムに行(ゆ)き226此(この)玉(たま)を献(けん)じお手柄(てがら)をなさつて下(くだ)さい。227妾(わらは)は十二(じふに)人(にん)の侍女(じぢよ)と共(とも)に天(てん)に登(のぼ)り、228ハルナの都(みやこ)の言向(ことむ)け和(やは)しに影(かげ)乍(なが)らお助(たす)けを申(まをし)ます』
229と云(い)ひながら、230夜光(やくわう)の玉(たま)を伊太彦(いたひこ)に渡(わた)した。231伊太彦(いたひこ)は手足(てあし)を慄(ふる)はせ乍(なが)ら押(お)し戴(いただ)き、232叮嚀(ていねい)に布(ぬの)を以(もつ)て包(つつ)み懐(ふところ)に入(い)れた。
233初稚(はつわか)『竜王殿(りうわうどの)234お目出度(めでた)う厶(ござ)います。235嘸(さぞ)神(かみ)様(さま)も御(ご)満足(まんぞく)遊(あそ)ばす事(こと)で厶(ござ)いませう』
236竜王(りうわう)『ハイ、237お蔭(かげ)で助(たす)けて頂(いただ)きました。238此(この)御恩(ごおん)は決(けつ)して忘(わす)れは致(いた)しませぬ』
239竜王(りうわう)『久方(ひさかた)の天津国(あまつくに)より天降(あも)りませし
240姫(ひめ)の命(みこと)に救(すく)はれにけり。
241いざさらば天津(あまつ)御国(みくに)にまひのぼり
242月(つき)の御神(みかみ)に仕(つか)へまつらむ』
243初稚姫(はつわかひめ)『古(いにしへ)ゆ、暗(くら)きにかくれたまひたる
244汝(なれ)が命(みこと)を救(すく)ひし嬉(うれ)しさ。
245久方(ひさかた)の月(つき)の御国(みくに)に登(のぼ)りまさば
246吾(わが)神業(しんげふ)を伝(つた)へたまはれ』
247竜王(りうわう)『有難(ありがた)し此(この)有様(ありさま)を委曲(まつぶさ)に
248申(まをし)上(あげ)なむ月(つき)の御神(みかみ)に』
249伊太彦(いたひこ)『タクシャカのナーガラシャーを言向(ことむ)けて
250心(こころ)傲(おご)りし吾(われ)ぞうたてき』
251ブラヷーダ『背(せ)の君(きみ)の厳(いづ)の力(ちから)を包(つつ)みたる
252妾(わらは)は醜(しこ)の曲津(まがつ)神(かみ)なりし。
253さりながら心(こころ)改(あらた)め今(いま)よりは
254神(かみ)の大道(おほぢ)に専(もは)ら仕(つか)へむ』
255初稚姫(はつわかひめ)『皇神(すめかみ)をまづ第一(だいいち)と崇(あが)めつつ
256伊太彦(いたひこ)司(つかさ)をいつくしみませ』
257ブラヷーダ『有難(ありがた)し姫(ひめ)の命(みこと)の御教(みをしへ)は
258胸(むね)に刻(きざ)みて忘(わす)れざらまし』
259アスマガルダ『伊太彦(いたひこ)やわが妹(いもうと)に従(したが)ひて
260思(おも)はぬ恵(めぐみ)に逢(あ)ひにけるかな』
261カークス『もろもろの神(かみ)の試(ためし)に遇(あ)ひながら
262今(いま)は嬉(うれ)しき光(ひかり)見(み)るかな』
263ベース『曲神(まがかみ)にたぶらかされて思(おも)はずも
264道(みち)に背(そむ)きし吾(われ)ぞ悲(かな)しき。
265暗国(やみぐに)の山(やま)の尾上(をのへ)に登(のぼ)りつめ
266心(こころ)を変(か)へし身(み)の恥(はづ)かしさよ。
267御恵(みめぐみ)の限(かぎり)知(し)られぬ皇神(すめかみ)は
268此(この)罪人(つみびと)も赦(ゆる)したまひぬ』
269初稚姫(はつわかひめ)『いざさらばウバナンダ竜王(りうわう)永久(とこしへ)の
270住家(すみか)を捨(す)てて御国(みくに)に入(い)りませ』
271竜王(りうわう)『ありがたし姫(ひめ)の命(みこと)の御言葉(みことば)に
272天(あま)翔(かけ)りつつ神国(みくに)に往(ゆ)かむ』
273 かく互(たがひ)に歌(うた)を取(と)り交(かは)し竜王(りうわう)に別(わか)れを告(つ)げた。274竜王(りうわう)は十二(じふに)人(にん)の侍女(じぢよ)と共(とも)に275岩窟(がんくつ)より雲(くも)を起(おこ)し空中(くうちう)に舞(ま)ひ上(あが)り、276忽(たちま)ち姿(すがた)は煙(けぶり)の如(ごと)く消(き)えて仕舞(しま)つた。277初稚姫(はつわかひめ)は岩窟(がんくつ)の細(ほそ)き穴(あな)を伝(つた)ふて磯端(いそばた)に出(で)た。278此処(ここ)は平素(へいそ)波(なみ)荒(あら)く巨巌(きよがん)屹立(きつりつ)し船(ふね)の近(ちか)づく事(こと)の出来(でき)ぬ難所(なんしよ)である。279さうして外(そと)に出(で)れば底(そこ)ひも知(し)れぬ水(みづ)の深(ふか)さに、280船(ふね)を置(お)く場所(ばしよ)もなく、281スーラヤの湖(みづうみ)の大難所(だいなんしよ)と称(とな)へられ、282船人(ふなびと)の恐(おそ)れて近寄(ちかよ)らなかつた所(ところ)である。283初稚姫(はつわかひめ)、284スマートの後(あと)に従(したが)ひ285五(ご)人(にん)は細(ほそ)い穴(あな)を潜(くぐ)つて出(で)て見(み)ると286其処(そこ)には玉国別(たまくにわけ)、287治道(ちだう)居士(こじ)の一行(いつかう)が船(ふね)を横付(よこづ)けにして待(ま)つて居(ゐ)る。288伊太彦(いたひこ)は飛(と)び立(た)つばかり喜(よろこ)んで船(ふね)に飛(と)び乗(の)り、289玉国別(たまくにわけ)に獅噛(しが)みつき嬉(うれ)し泣(な)きに泣(な)いて居(ゐ)る。290玉国別(たまくにわけ)も唯(ただ)、2901嬉(うれ)し涙(なみだ)に咽(むせ)んで落涙(らくるい)する計(ばか)りであつた。291あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
292(大正一二・五・二五 旧四・一〇 於教主殿 加藤明子録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→