霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 生臭坊(なまぐさばう)〔一七九一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻 篇:第1篇 追僧軽迫 よみ(新仮名遣い):ついそうけいはく
章:第2章 生臭坊 よみ(新仮名遣い):なまぐさぼう 通し章番号:1791
口述日:1925(大正14)年11月07日(旧09月21日) 口述場所:不明 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年2月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
玄真坊とコブライは穴から抜け出して、性懲りもなくダリヤ探索に日を費やしている。二人は秋の七草の効能について四方山の話をしながら山を下り、二、三十戸の小さな村に出た。
二、三人の小僧たちが小魚釣りをやっていたが、一人が玄真坊を見て、その禿げ頭をからかう。
小僧は、この神谷村の庄屋の息子、「神の子」と名乗る。「神の子」は、神谷村が代々三五教を奉じていると語る。神の子は、玄真坊の素性、ダリヤ姫を捜索していること、今七草の話をしながら村にやってきたことなどを当てて見せる。
また、自分の庄屋の家で、ダリヤをかくまっていることを明かす。
玄真坊は小僧からダリヤの隠し場所を聞こうとするが、「神の子」は玄真坊を馬鹿にする狂歌を歌い、白い煙となって姿を隠してしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:5569 OBC :rm7102
愛善世界社版:24頁 八幡書店版:第12輯 507頁 修補版: 校定版:25頁 普及版:10頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎著作集 > 第三巻 愛と美といのち > [5] 自然といのち > [5-4] 心の病いと身の病い > [5-4-9] 七草の効用
001オーラの山(やま)に立(たて)籠(こも)り
002天来(てんらい)唯一(ゆゐいつ)の救世主(きうせいしゆ)
003天帝(てんてい)の化身(けしん)と触(ふ)れこみて
004女盗賊(をんなたうぞく)ヨリコ姫(ひめ)
005シーゴーの二人(ふたり)と共謀(きようぼう)し
006三千(さんぜん)人(にん)の賊徒(ぞくと)等(ら)を
007四方(しはう)八方(はつぱう)に間配(まくば)りて
008七千(しちせん)余国(よこく)の月(つき)の国(くに)
009占領(せんりやう)せむと大陰謀(だいいんぼう)
010企(たく)らみゐたる折(をり)もあれ
011三五教(あななひけう)に名(な)も高(たか)き
012梅公(うめこう)さまに踏(ふ)み込(こ)まれ
013常磐(ときは)堅磐(かきは)の岩窟(いはやど)を
014打(うち)破(やぶ)られて降伏(かうふく)し
015ヨリコの姫(ひめ)やシーゴーは
016誠(まこと)の道(みち)に帰順(きじゆん)して
017天下(てんか)公共(こうきよう)の其(その)為(ため)に
018余生(よせい)を捧(ささ)げ奉(まつ)らむと
019真心(まごころ)尽(つく)すに引(ひ)き換(か)へて
020一旦(いつたん)帰順(きじゆん)を粧(よそほ)ひし
021売僧(まいす)坊主(ばうず)の玄真(げんしん)は
022ハルの湖(みづうみ)横断(わうだん)し
023スガの港(みなと)の富豪(ふうがう)と
024世(よ)に聞(きこ)えたる薬屋(くすりや)の
025娘(むすめ)ダリヤに恋着(れんちやく)し
026言葉(ことば)たくみに誘惑(いうわく)し
027タニグク谷(だに)の山奥(やまおく)に
028左守(さもり)の司(かみ)のシヤカンナが
029数多(あまた)の手下(てした)を従(したが)へて
030籠(こも)りゐるよと聞(き)くよりも
031又(また)も一旗(ひとはた)あげむとて
032さも鷹揚(おうやう)な面付(つらつき)で
033ダリヤの手(て)をば携(たづさ)へつ
034一夜(いちや)を明(あ)かし振舞(ふるまひ)の
035酒(さけ)に舌(した)をばもつらせつ
036グツと寝入(ねい)つた其(その)隙(すき)に
037ダリヤの姫(ひめ)は泥棒(どろばう)の
038バルギーと共(とも)に踪跡(そうせき)を
039晦(くら)ましたるぞ可笑(をか)しけれ
040天帝(てんてい)の化身(けしん)と誤魔化(ごまくわ)せる
041玄真坊(げんしんばう)は矢(や)も楯(たて)も
042堪(たま)りかねてかシヤカンナの
043二百(にひやく)の部下(ぶか)を借用(しやくよう)し
044姫(ひめ)の後(あと)をば尋(たづ)ねむと
045小才(こさい)の利(き)いたコブライを
046引具(ひきぐ)し谷道(たにみち)トントンと
047喘(あへ)ぎ喘(あへ)ぎて立岩(たていは)の
048麓(ふもと)にズツポリ日(ひ)は暮(く)れぬ
049闇(やみ)の陥穽(かんせい)におち入(い)りて
050淋(さび)しき一夜(いちや)を送(おく)りつつ
051藤(ふぢ)の蔓(つる)をば辿(たど)りつつ
052漸(やうや)く虎口(ここう)を免(まぬが)れて
053草(くさ)茫々(ばうばう)と生(は)え茂(しげ)る
054羊腸(やうちやう)の小径(こみち)を辿(たど)りつつ
055交尾期(さかり)の出(で)て来(き)た犬猫(いぬねこ)が
056牝(めす)のお尻(しり)を嗅(か)ぐやうに
057夢路(ゆめぢ)を辿(たど)る憐(あは)れさよ
058暗(やみ)の扉(とびら)は上(あ)げられて
059東(あづま)の空(そら)は茜(あかね)刺(さ)し
060草葉(くさば)の露(つゆ)はキラキラと
061七宝(しつぽう)の光(ひかり)輝(かがや)ける
062その真中(まんなか)を二人(ふたり)連(づ)れ
063ダリヤダリヤと一筋(ひとすぢ)に
064岩(いは)の根(ね)木(き)の根(ね)踏(ふ)みさくみ
065汗(あせ)をタラタラ流(なが)しつつ
066苦(くるし)き坂(さか)を苦(く)にもせず
067心(こころ)を先(さき)に上(のぼ)り行(ゆ)く。
068天真坊(てんしんばう)『オイ、069もう余程(よほど)テクツて来(き)たやうだから、070一(ひと)つ此(この)見晴(みは)らしのよい処(ところ)で暫時(ざんじ)休養(きうやう)しようぢやないか。071この山頂(さんちやう)から四方(よも)の連山(れんざん)を見渡(みわた)す景色(けしき)と云(い)つたら、072まるで夢(ゆめ)の国(くに)を辿(たど)つてゐるやうだのう』
073コブライ『本当(ほんたう)に夢(ゆめ)見(み)たやうですな、074昨夜(さくや)だつて、075ダリヤさまの夢(ゆめ)を見(み)て深(ふか)い陥穽(おとしあな)へなだれ込(こ)んだ時(とき)なんざ、076ホントに生(い)きた心地(ここち)もなく、077これが夢(ゆめ)だつたらなアと、078このやうに思(おも)ひましたよ。079あの時(とき)ア、080ホントに、081どうなる事(こと)やらと、082チツト許(ばか)り心配(しんぱい)致(いた)しましたワイ』
083天(てん)『夢(ゆめ)の建築者(けんちくしや)は皆(みな)人間(にんげん)だからな、084夢(ゆめ)がなければ人生(じんせい)は淋(さび)しいものだ。085人生(じんせい)の虹(にじ)は夢(ゆめ)だからな、086かうして夢想郷(むさうきやう)に遊(あそ)んでゐる間(ま)が人間(にんげん)は花(はな)だ。087春(はる)の若葉(わかば)に銀風(ぎんぷう)のそよぐ如(ごと)きダリヤ姫(ひめ)の風情(ふぜい)、088見(み)るもスガスガしい思(おも)ひがするぢやないか。089その艶(あで)な姿(すがた)にあこがれてゐる間(ま)が、090人生(じんせい)の花(はな)だ、091夢(ゆめ)の建築(けんちく)だ、092人生(じんせい)の虹(にじ)だ』
093コ『成程(なるほど)、094さうすると、095此(この)世(よ)の中(なか)は何(なに)も彼(か)もサツパリ夢(ゆめ)と解(かい)すれば可(い)いのですか』
096天(てん)『尤(もつと)もだ、097夢(ゆめ)の浮世(うきよ)と云(い)ふぢやないか、098併(しか)し乍(なが)ら夢(ゆめ)にも忘(わす)れられないのは、099ヤツパリ、100ダリヤ姫(ひめ)だ。
101夢(ゆめ)になりとも会(あ)ひ度(た)いものは
102 小判(こばん)千(せん)両(りやう)とダリヤ姫(ひめ)
103だ、104アツハヽヽヽヽ』
105コ『これ丈(だ)け四方(しはう)開展(かいてん)した山(やま)の上(うへ)で、106それ丈(だ)けタツプリお惚気(のろけ)を拝聴(はいちやう)する吾(われ)等(ら)は、1061実(じつ)に光栄(くわうえい)でも何(なん)でも、107ありませぬわい。108アツタ109ケツタ糞(くそ)の悪(わる)い110とも何(なん)とも申(まを)しませぬ、111さぞ山(やま)の神(かみ)さま等(たち)は涎(よだれ)をくつて貴方(あなた)の清(きよ)いお姿(すがた)を拝顔(はいがん)してる事(こと)でせう』
112天(てん)『ウツフヽヽヽ天下(てんか)の幸福(かうふく)を一身(いつしん)に集(あつ)めて天帝(てんてい)の化身(けしん)、113天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)、114玄真坊(げんしんばう)の又(また)の御(おん)名(な)天真坊(てんしんばう)様(さま)だもの、115泥棒(どろばう)仲間(なかま)の貴様(きさま)とは、116チツト許(ばか)りクラスが違(ちが)ふのだからなア』
117コ『ヘン、118ヒ、119ヒーンだ』
120天(てん)『ヒ、121ヒーンとは何(なん)だ、122まるで馬(うま)のやうな事(こと)を云(い)ふぢやないか』
123コ『ヒ、124ヒーン、125ボトボト馬(うま)の糞(くそ)だ、126牛(うし)の穴(けつ)の天真坊(てんしんばう)さまとは、127いい相棒(あいぼう)でせう、128イツヒヽヽヽヒ』
129天(てん)『何(なん)でもいいわ、130何処(どこ)かここらにダリヤの花(はな)が咲(さ)いてゐさうなものだなア、131風(かぜ)が持(も)てくるダリヤの香気(かうき)が鼻(はな)について、132何(なん)とも知(し)れぬ床(ゆか)しみを感(かん)ずるやうだ。133これから先(さき)は、134クダリヤ阪(さか)だ、135足(あし)も軽(かる)いだらうよ、136ウツフヽヽヽフ』
137コ『モシモシ電信棒(でんしんぼう)さま、138この山道(やまみち)は昔(むかし)から有名(いうめい)な腥草(なまぐさ)の名所(めいしよ)で139秋(あき)になると随分(ずいぶん)楽(たのし)い旅(たび)が出来(でき)ますよ。140泥棒稼(どろぼうかせ)ぎを行(や)つて居(ゐ)た吾々(われわれ)同類(どうるゐ)も、141此(この)辺(へん)を通過(つうくわ)する時(とき)には142優美(いうび)なデリケートななま臭(くさ)の咲(さ)き匂(にほ)ふ花(はな)を見(み)て143悪徒(あくと)が善人(ぜんにん)に墜落(つゐらく)した様(やう)な心持(こころも)ちに成(な)りましたよ』
144玄(げん)『そりや何(な)ンと云(い)ふ脱線振(だつせんぶり)だ。145俺(おれ)の名(な)は電信棒(でんしんぼう)ぢや無(な)い、146天帝(てんてい)の化身(けしん)天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)玄真坊(げんしんばう)と申(まを)すのだ。147天帝(てんてい)の天(てん)の一字(いちじ)と玄真坊(げんしんばう)の真(しん)の一字(いちじ)を取(と)つて天真坊(てんしんばう)と云(い)ふのだ。148そして今(いま)お前(まへ)は腥臭(なまくさ)が咲(さ)き匂(にほ)ふ山道(やまみち)だと云(い)つたが149夫(そ)れも又(また)脱線(だつせん)だよ。150七草(ななくさ)と云(い)ふて151秋(あき)の日(ひ)の景色(けしき)を添(そ)へたり種々(いろいろ)の薬品(やくひん)になる重宝(ちようはう)な草花(くさばな)だ』
152コ『天真坊(てんしんばう)さま153コンナ山道(やまみち)に生(は)へる草花(くさばな)が薬(くすり)になると仰有(おつしや)つたが、154一体(いつたい)全体(ぜんたい)何(なん)の病(やまひ)に利(き)きますかい。155惚(ほれ)薬(ぐすり)にでもなりませぬかな』
156玄(げん)『七草(ななくさ)と云(い)へば157萩(はぎ)に葛(くづ)に尾花(をばな)に撫子(なでしこ)に女郎花(をみなへし)に桔梗(ききやう)に藤袴(ふぢばかま)、158これで七種(なないろ)ある、159それ故(ゆゑ)七草(ななくさ)と云(い)ふのだ。160秋(あき)の山野(さんや)と云(い)ふものは極(きは)めて詩的(してき)なもので、161懐(そぞ)ろに哀愁(あいしう)の念(ねん)を感(かん)ずるものだ。162釣瓶落(つるべおと)しに暮(く)れて行(ゆ)く夕日(ゆふひ)を浴(あ)びた路傍(ろばう)の草花(くさばな)は淋(さび)しき秋(あき)の名残(なご)りとし163人(ひと)の心(こころ)を傷(いた)ましめ且(か)つ慰(なぐさ)むるものだ。164薬用(やくよう)植物(しよくぶつ)としても仲々(なかなか)の効力(かうりよく)があるものだ』
165コ『萩(はぎ)は何(なん)の薬(くすり)になりますか』
166玄(げん)『萩(はぎ)は秋(あき)の七草(ななくさ)の書出(かきだ)しで、167莢果(けふくわ)植物(しよくぶつ)亜属(あぞく)の胡蝶(こてふ)花科(くわくわ)で、168一名(いちめい)荳科(とうくわ)植物(しよくぶつ)の一種(いつしゆ)だ。169この葉(は)を摘(つ)んで日光(につくわう)で乾(かわ)かし茶(ちや)の代用品(だいようひん)とするのだ。170余(あま)り興奮(こうふん)もせないので小供(こども)や老人(らうじん)の飲料(いんれう)には極(きは)めて理想(りさう)的(てき)だ。171お前(まへ)の様(やう)な青春(せいしゆん)の血(ち)に燃(も)えて居(ゐ)る性悪(せいあく)男子(だんし)は、172平素(へいそ)情欲(じやうよく)鎮圧薬(ちんあつやく)として、173毎日(まいにち)服用(ふくよう)したが可(よ)からうよ、174アハヽヽヽ』
175コ『天真(てんしん)さま、176貴方(あなた)チツト服用(ふくよう)されたら如何(どう)ですか。177眼(め)の色(いろ)が血走(ちばし)つて居(ゐ)ますよ、178イヒヽヽヽ。179それから葛(くづ)の効能(かうのう)を教(をし)へて下(くだ)さいな』
180天(てん)『又(また)しても葛々(くづくづ)と訳(わけ)もない質問(しつもん)を発(はつ)する奴(やつ)ぢやなア。181アタ邪魔(じやま)臭(くさ)い、182然(しか)し乍(なが)ら天帝(てんてい)の化身(けしん)とも云(い)ふべき天真坊(てんしんばう)さまが、183七草(ななくさ)位(ぐらゐ)の説明(せつめい)が出来(でき)ぬと思(おも)はれちや、184神(かみ)の威厳(ゐげん)にも関(くわん)する大問題(だいもんだい)だから、185チツト許(ばか)り解明(かいめい)の労(らう)を採(と)つてやらうかい、186アーン』
187コ『葛(くづ)の解釈(かいしやく)ぐらゐにサウ前置詞(ぜんちし)が多(おほ)いのでは実(じつ)に閉口(へいこう)ですワイ。188併(しか)し乍(なが)ら後学(こうがく)の為(ため)に大切(たいせつ)な耳(みみ)を暫時(ざんじ)貸(か)しませうかい』
189天(てん)『アハヽヽヽ随分(ずいぶん)負惜(まけをし)みの強(つよ)い野郎(やらう)だなア。190抑(そもそも)葛(くづ)は萩(はぎ)と同(おな)じく荳科(とうくわ)植物(しよくぶつ)の一種(いつしゆ)で、191昔(むかし)から葛根(くづね)と云(い)つて盛(さか)んに漢方医(かんぱうい)の山井(やまゐ)養仙(やうせん)などに使用(しよう)されて来(き)たものだ。192発汗剤(はつかんざい)、193下熱剤(げねつざい)として使用(しよう)したり、194胃腸(ゐちやう)の粘滑剤(ねんくわつざい)として使用(しよう)し、195又(また)は諸薬(しよやく)の配剤(はいざい)として調法(てうはふ)なものだ。196葛(くづ)は葛根(くづね)より搾取(さくしゆ)したもので最上等(さいじやうとう)の澱粉(でんぷん)だ。197色々(いろいろ)の料理(れうり)や、198夏季(かき)に於(お)ける汗打粉(あせうちこ)としての材料(ざいれう)となる。199それだから美人(びじん)には無(な)くてならない好植物(かうしよくぶつ)だ』
200コ『又(また)しても美人(びじん)が曳(ひ)き合(あ)ひに出(で)ましたな。201一層(いつそう)のこと葛(くづ)を澱粉(でんぷん)に製造(せいざう)して、202ダリヤ姫(ひめ)女帝(によてい)の土産物(みやげもの)となし、203その歓心(くわんしん)を買(か)つたら如何(どう)でせう。204これが女帝(によてい)の心(こころ)を動(うご)かす唯一(ゆゐいつ)無二(むに)の秘策(ひさく)でせう、205エヘヽヽヽ』
206天(てん)『クヅクヅ云(い)ふな。207サア是(これ)から一(ひと)ツいやらしい奴(やつ)を説明(せつめい)してやらう。208幽霊(いうれい)に因縁(いんねん)の深(ふか)い尾花(をばな)だ。209……幽霊(いうれい)の正体(しやうたい)見(み)たり枯尾花(かれをばな)……と云(い)つて随分(ずいぶん)ゾツとする代物(しろもの)だ。210直(ただ)ちに石塔(せきたふ)の裏(うら)を思(おも)ひ出(だ)す奴(やつ)だ、211アハヽヽヽ』
212コ『エヽ天真(てんしん)さま、213モウ止(や)めて下(くだ)さい。214こんな山道(やまみち)で気分(きぶん)が悪(わる)いぢやありませぬか。215ヒユードロドロと化(ば)けて出(で)られちや堪(たま)りませぬわ。216モツト真面目(まじめ)に云(い)つて下(くだ)さいな』
217天(てん)『ヨシヨシ俺(おれ)も余(あま)り心持(こころもち)が良(よ)くないのだ。218尾花(をばな)は禾本科(くわほんくわ)植物(しよくぶつ)で、219こいつの穂(ほ)を集(あつ)め、220日光(につくわう)で乾燥(かんさう)すると立派(りつぱ)な綿(わた)の様(やう)なものが出来(でき)る。221この綿(わた)は軽(かる)い擦過傷(さつくわしやう)や、222切傷(きりきず)の口(くち)にふりかけると血止(ちど)め薬(ぐすり)になる。223夜具(やぐ)にでも使用(しよう)すると軽(かる)くて暖(あたた)かくて大変(たいへん)に工合(ぐあひ)の良(よ)いものだ』
224コ『ダリヤ姫(ひめ)さまとの結婚式(けつこんしき)に御(ご)使用(しよう)になるお考(かんが)へですか、225エヘヽヽヽ』
226天(てん)『エヽ一(ひと)ツ一(ひと)ツ何(なん)とか彼(か)とか云(い)つてダリヤ姫(ひめ)に喰付(くつつ)けようと致(いた)すのだなア』
227コ『ヘンお気(き)に入(い)りませぬかな、228夫(そ)れよりもモツトモツト優美(いうび)な撫子(なでしこ)の説明(せつめい)をして下(くだ)はいな、229一寸(ちよつと)撫子(なでしこ)なんて乙(おつ)な名前(なまへ)でせう』
230天(てん)『エヘン、231撫子(なでしこ)は石竹科(せきちくくわ)の一種(いつしゆ)で、232日光(につくわう)に全草(ぜんさう)を乾燥(かんさう)させ、233一(いち)日(にち)に四五匁(しごもんめ)ばかりを煎(せん)じて利尿剤(りねうざい)となし、234第一(だいいち)腎臓病(じんざうびやう)、235脚気(かつけ)、236水腫(みづばれ)なぞの他(ほか)の難病(なんびやう)に用(もち)ゆると特効(とくかう)が顕(あら)はれるものだ』
237コ『いやはや感心(かんしん)々々(かんしん)238大(おほい)に感心(かんしん)致(いた)しました。239今度(こんど)は最(もつと)も粋(すゐ)な名(な)の付(つ)いた女郎花(をみなへし)の効能(かうのう)の説明(せつめい)を願(ねが)ひます』
240天(てん)『女郎花(をみなへし)は茜草(せんさう)植物(しよくぶつ)亜属(あぞく)の敗醤科(はいしやうくわ)の一種(いつしゆ)で、241其(その)根(ね)を秋季(しうき)に採取(さいしゆ)し水(みづ)に能(よ)く洗(あら)ひ、242日光(につくわう)に乾(かわ)かして貯(たくは)へておき、243用(よう)に臨(のぞ)んで一(いち)日(にち)に四五匁(しごもんめ)許(ばか)りを煎(せん)じて服用(のむ)と、244婦人(ふじん)の血(ち)の道(みち)の順血薬(じゆんけつやく)として特効(とくかう)ありと云(い)ふことだ。245婦人(ふじん)に趣味(しゆみ)を持(も)つ男子(だんし)は246如何(どう)しても女郎花(をみなへし)許(ばか)りは気(き)をつけて平素(へいそ)から用意(ようい)しておく可(べ)きものだ、247アハヽヽヽ』
248コ『エヘヽヽヽ流石(さすが)は女殺(をんなごろ)しの後家(ごけ)欺(だま)しの天真坊(てんしんばう)さま、249何事(なにごと)にも抜目(ぬけめ)はありませぬな。250益々(ますます)このコブライ奴(め)感珍(かんちん)致(いた)しましたわい。251サア是(これ)から桔梗(ききやう)の効能(かうのう)を説明(せつめい)して頂(いただ)きませう』
252天(てん)『桔梗(ききやう)は桔梗科(ききやうくわ)の植物(しよくぶつ)で、253その根(ね)を秋季(しうき)に掘(ほ)り日光(につくわう)に乾燥(かんさう)したものを桔梗根(ききやうね)と云(い)ふ。254風邪(かぜ)の時(とき)、255鎮咳(ちんがい)去痰薬(きよたんやく)として用(もち)ゆると効(かう)がある。256一(いち)日(にち)に四五匁(しごもんめ)を水(みづ)に煎(せん)じて飲(の)むと良(よ)い、257エヘン。258血液(けつえき)を溶解(ようかい)するサボニンが含(ふく)まれて居(ゐ)るのだ。259その根(ね)から近時(きんじ)フストールやヱバニンと云(い)ふ新薬(しんやく)が製造(せいざう)されるのだ。260序(ついで)に藤袴(ふぢばかま)も説明(せつめい)しておくが、261是(これ)は菊科(きくくわ)植物(しよくぶつ)の一種(いつしゆ)で、262この葉(は)を日光(につくわう)に乾燥(かんさう)して煎(せん)じて飲(の)めば、263撫子(なでしこ)と同(おな)じく利尿剤(りねうざい)として効能(かうのう)があるのだ。264貴様(きさま)の如(や)うな痳病(りんびやう)の問屋(とひや)さまは秋(あき)が来(きた)ら忘(わす)れずに採取(さいしゆ)しておくが可(よ)からうよ、265アハヽヽヽ』
266コ『ウフヽヽヽ、267小便(せうべん)のタンク奴(め)破裂(はれつ)しさうだ。268天真(てんしん)さま、269御免(ごめん)下(くだ)さい』
270と云(い)ひ乍(なが)ら、271オチコを立(た)ててジヤアジヤアと行(や)り出(だ)した。
272 二人(ふたり)は漸(やうや)く下(くだ)り阪(ざか)となつたので足許(あしもと)も速(はや)く、273やや展開(てんかい)した野村(のむら)へ出(で)た。274此処(ここ)には二三十(にさんじつ)戸(こ)の百姓家(ひやくしやうや)が淋(さび)しげに立(た)つてゐる。275二三(にさん)人(にん)の腕白(わんぱく)小僧(こぞう)が小川(をがは)に竿(さを)を垂(た)れ小魚(さな)を釣(つ)り乍(なが)ら歌(うた)つてゐる。
 
276『水(みづ)はサラサラ  野(の)は青(あを)い
277 長(なが)い堤(つつみ)の木(き)の影(かげ)で  今日(けふ)は朝(あさ)から小魚(こうを)釣(つ)り
278 晴(は)れた空(そら)には何処(どこ)やらで  雲雀(ひばり)でも鳴(な)いてゐるやうな
279 時(とき)折(をり)聞(きこ)える眠(ねむ)さうな  牛(うし)の呻(うめ)きも午后(うまさがり)
280○
281 流(なが)れサラサラ  野(の)は青(あを)い
282 つれない竿(さを)を  投(な)げ出(だ)して
283 眺(なが)めてゐれば水(みづ)すまし  水(みづ)をすまして舞(ま)ふばかり』
 
284 そこへ天真坊(てんしんばう)が頭(あたま)をテカテカ日光(につくわう)に輝(かがや)かし乍(なが)らコブライを従(したが)へやつて来(く)ると、285腕白(わんぱく)小僧(こぞう)は遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなく、286頭(あたま)の光(ひか)つてるのを怪(あや)しみ乍(なが)ら歌(うた)ひ出(だ)した。
 
287『モシモシ禿(はげ)よ禿(はげ)さんよ  世界(せかい)の中(うち)でお前(まへ)ほど
288 光(ひかり)の薄(うす)いものはない  どうしてそんなに暗(くら)いのか
289○
290 ナーンと仰有(おつしや)る電気(でんき)さん  そんならお前(まへ)と光(ひか)りつこ
291 向(むか)ふの小山(こやま)に太陽(ひ)が出(で)たら  どちらがよけいにピカつくか
292○
293 どんなに禿(はげ)をみがいても  どうで僕(ぼく)より暗(くら)いだろ
294 ここらで一寸(ちよつと)一休(ひとやす)み  ブラブラブラブラ ブーラブラ
295○
296 これはしまつた夜(よ)が明(あ)けた  ピカピカピカピカ ピーカピカ
297 あんまり暗(くら)い電気(でんき)さん  サツキの自慢(じまん)はどうしたね』
 
298 天真坊(てんしんばう)は此(この)歌(うた)を聞(き)いて、299ヤヤ悄気(しよげ)気味(ぎみ)になり、300錫杖(しやくぢやう)をガチヤン ガチヤンと、301ワザとに手荒(てあら)くゆり乍(なが)ら、
302『コーラ、303我太郎(がたらう)、304今(いま)云(い)つたこと、305ま一度(いちど)云(い)つて見(み)い、306場合(ばあひ)によつては承知(しようち)せないぞ。307餓鬼(がき)大将(だいしやう)奴(め)が』
308小供(こども)『アツハヽヽヽ、309オイ坊主(ばうず)、310此(この)村(むら)はなア、311昔(むかし)から三五教(あななひけう)の占有地(せんいうち)だ、312そんな怪体(けつたい)な風(ふう)をした化物(ばけもの)は一寸(ちよつと)も入(い)れる事(こと)は出来(でき)ないのだよ。313どつかへ早(はや)く姿(すがた)をかくさないと線香(せんかう)を立(た)てるぞ』
314天(てん)『チエ、315青大将(あをだいしやう)が座敷(ざしき)へ這入(はい)り込(こ)んだやうな事(こと)ぬかしやがる、316小供(こども)だつて油断(ゆだん)のならぬものだ。317小供(こども)、318オイ、319坊主(ばうず)、320ここを美(うつく)しい女(をんな)が、321通(とほ)らなかつたかのう』
322子供(こども)『通(とほ)つたよ。323一人(ひとり)の奴(やつこ)さんを連(つ)れて、324互(たがひ)に背中(せなか)を叩(たた)いたり、325頬辺(ほほべた)をつめつたり、326イチヤつきもつて、327ツイ今(いま)先(さ)き、328ここを通(とほ)りよつた筈(はず)だ。329俺(おれ)を今(いま)、330坊主(ばうず)と云(い)つたが俺(おれ)ヤ坊主(ばうず)ぢやないよ、331お前(まへ)こそ坊主(ばうず)ぢやないか。332俺(おれ)はなア神谷村(かみたにむら)の庄屋(しやうや)の息子(むすこ)で、333神(かみ)の子(こ)と云(い)ふ神童(しんどう)だ。334世界(せかい)の事(こと)なら何(なん)でも俺(おれ)に聞(き)いて見(み)よ。335何(なん)でも彼(かん)でも掌(たなごころ)を指(さ)す如(ごと)くに知(し)らしてやるよ。336お前(まへ)はオーラ山(さん)に立籠(たてこも)つて大山子(おほやまこ)をやつてゐた玄真坊(げんしんばう)のなれの果(はて)だらうがな。337スガの港(みなと)のダリヤ姫(ひめ)に恋着(れんちやく)し、338うまく誤魔化(ごまくわ)してタニグク山(やま)の岩窟(がんくつ)につれ込(こ)み、339寝(ね)てゐる間(ま)に顔(かほ)を草紙(さうし)にされ、340トカゲ面(づら)の男(をとこ)と一緒(いつしよ)に逃(に)げられて泡(あわ)を吹(ふ)き、341昨夜(さくや)は立岩(たていは)の側(そば)で人造(じんざう)化物(ばけもの)に誑(たぶらか)され、342深(ふか)い陥穽(おとしあな)へおち込(こ)んで向(むかふ)脛(ずね)をすりむき343泣(な)き泣(な)き山上(さんじやう)迄(まで)辿(たど)りつき、344七草(ななくさ)の講釈(かうしやく)を豪(えら)相(さう)におつ初(ぱじ)め、345それから、346ここ迄(まで)ダリヤの後(あと)をおつてやつて来(き)たのだらう。347どうだ違(ちが)ふかな』
348天(てん)『ウンー、349いかにも、350お前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)り、351俺(おれ)の聞(き)く通(とほ)り、352森(もり)で烏(からす)の鳴(な)く通(とほ)り、353受取(うけとり)は右(みぎ)の通(とほ)り、354その通(とほ)りだ、355アツハヽヽヽ』
356神(かみ)の子(こ)『オイ、357禿(はげ)チヤン、358もう諦(あきら)めたがよからうぞ。359ダリヤ姫(ひめ)なんて、360お前(まへ)の性(しやう)に適(あ)はないや。361今(いま)の間(うち)に改心(かいしん)して俺(おれ)の尻拭(しりふき)になれ、362さうすりや又(また)浮(うか)ぶ瀬(せ)もあらうぞ。363いつ迄(まで)も悪業(あくごふ)をつづけてゐると364八万(はちまん)地獄(ぢごく)の釜(かま)の焦(こげ)おこしに落(おと)されて了(しま)ふぞ』
365天(てん)『オイ子供(こども)、366そのダリヤ姫(ひめ)は、367お前(まへ)の家(うち)にかくしてあるのと違(ちが)ふか』
368神(かみ)の子(こ)『ウン、369隠(かく)してある、370確(たしか)に、371かくまつてあるのだ』
372天(てん)『そりや、373どこに隠(かく)してあるのだ。374一寸(ちよつと)云(い)つて貰(もら)へまいかな』
375神(かみ)の子(こ)『バカを云(い)ふない、376かくしたものを云(い)ふ阿呆(あはう)があるかい。377隠(かく)した以上(いじやう)は、378どこ迄(まで)もかくすのが本当(ほんたう)だ』
379コブライ『もしもし天真坊(てんしんばう)さま、380この子供(こども)は本当(ほんたう)に神(かみ)様(さま)見(み)たやうな子供(こども)ですな。381貴方(あなた)ももういい加減(かげん)に兜(かぶと)を脱(ぬ)いだらどうですか。382ダリヤさまを諦(あきら)めては如何(どう)ですか。383貴方(あなた)の額(ひたひ)には悪相(あくさう)が現(あら)はれてゐますがな、384改心(かいしん)するのは今(いま)の時(とき)ですよ。385私(わたし)はここ迄(まで)ついて来(き)ましたが、386貴方(あなた)が改心(かいしん)するとせないとに拘(かかは)らず、387もう此処(ここ)でお暇(ひま)を貰(もら)つて此(こ)の神(かみ)さまのやうな子供(こども)にお尻拭(しりふき)にでも使(つか)つて貰(もら)ひますよ』
388神(かみ)の子(こ)『神(かみ)の子(こ)は神(かみ)に仕(つか)ふる清(きよ)きもの
389誰(たれ)が泥棒(どろばう)に尻(しり)を拭(ふ)かすか』
390コブライ『これはしたり失礼(しつれい)な事(こと)を云(い)ひました
391泥棒(どろばう)の身(み)をも弁(わきま)へずして』
392天(てん)『小賢(こざか)しく神(かみ)の子(こ)らしく申(まを)すとも
393天真坊(てんしんばう)にはトテも敵(かな)ふまい。
394それよりもダリヤの姫(ひめ)の在所(ありか)をば
395早(はや)く知(し)らせよお銭(かね)やるから』
396神(かみ)の子(こ)『尻(けつ)喰(くら)へ観音(くわんおん)さまの化身(けしん)ぞや
397嘘(うそ)をこくなよ玄真(げんしん)の枉(まが)』
398と云(い)ひ乍(なが)ら399プスツと象(ざう)が屁(へ)をこいたやうな音(おと)を立(た)て白(しろ)い煙(けむり)となつて了(しま)つた。400つれの子供(こども)も影(かげ)も形(かたち)もなくなつて了(しま)つた。
401(大正一四・一一・七 旧九・二一 北村隆光録)
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