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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
第1章 追劇
第2章 生臭坊
第3章 門外漢
第4章 琴の綾
第5章 転盗
第6章 達引
第7章 夢の道
第2篇 迷想痴色
第8章 夢遊怪
第9章 踏違ひ
第10章 荒添
第11章 異志仏
第12章 泥壁
第13章 詰腹
第14章 障路
第15章 紺霊
第3篇 惨嫁僧目
第16章 妖魅返
第17章 夢現神
第18章 金妻
第19章 角兵衛獅子
第20章 困客
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第71巻(戌の巻)
> 第2篇 迷想痴色 > 第9章 踏違ひ
<<< 夢遊怪
(B)
(N)
荒添 >>>
第九章
踏違
(
ふみちが
)
ひ〔一七九八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第2篇 迷想痴色
よみ(新仮名遣い):
めいそうちしき
章:
第9章 踏違ひ
よみ(新仮名遣い):
ふみちがい
通し章番号:
1798
口述日:
1926(大正15)年01月31日(旧12月18日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
春山峠の南に、春山村という小部落があった。その一軒家にカンコという男が、名前も知れぬ病にかかって臥せっていた。
友人のキンスが見舞いにやってくる。キンスは病の原因を尋ねる。
カンコは、去年の夏にタラハン市の呉服屋に行き、そこで買い物をした時、呉服屋の娘インジンに恋焦がれてしまった。その後、インジンがカンコの家までわざわざやってきて、何か書き物をくれたのだが、それが恋文じゃないかと思ったとたん、病に臥せってしまったのだと言う。
キンスは、字の読めないカンコに代わって、その書き物を読んでやる。それは、カンコが買った木綿の請求書であった。
キンスは気の病を治すためには申の年・申の月・申の日・申の刻に生まれた女の生胆が効くという噂を信じて、友の恋の病を治すために、自分の妹の生胆をとろうとする。
妹のリンジャンを呼んでくるが、そこへ玄真坊一行が暴れこんできて金銭を要求する。
玄真坊はリンジャンの美貌を見て、気を引こうと、にわかに僧侶となり、自分は二人の泥棒からリンジャンを守ろうとしたのだ、と格好をつける。
しかしリンジャンは玄真坊の顔を見て、自分の妹をだまして汚したオーラ山の偽救世主だと見破り、役人を呼ぼうと外へ駆け出してしまった。
玄真坊らは役人が来る前にさっさと逃げ出してしまう。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7109
愛善世界社版:
118頁
八幡書店版:
第12輯 542頁
修補版:
校定版:
122頁
普及版:
56頁
初版:
ページ備考:
001
春山峠
(
はるやまたうげ
)
の
南麓
(
なんろく
)
に
春山村
(
はるやまむら
)
と
云
(
い
)
ふ
全戸数
(
ぜんこすう
)
七八戸
(
しちはちこ
)
の
小部落
(
せうぶらく
)
が
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
に
散
(
ち
)
らばつてゐる。
002
何
(
いづ
)
れの
家
(
いへ
)
も
軒
(
のき
)
は
傾
(
かたむ
)
き、
003
壁
(
かべ
)
はおち、
004
別
(
べつ
)
に
煙突
(
えんとつ
)
はなくとも
壁
(
かべ
)
の
落
(
お
)
ちた
碁盤形
(
ごばんがた
)
の
壁下地
(
かべしたぢ
)
の
穴
(
あな
)
から、
005
赤黒
(
あかぐろ
)
い
煙
(
けむり
)
が
朝晩
(
あさばん
)
に
立上
(
たちのぼ
)
つてゐる。
006
此
(
この
)
村
(
むら
)
の
一番
(
いちばん
)
高
(
たか
)
い
景勝
(
けいしよう
)
の
位置
(
ゐち
)
を
占
(
し
)
めた
一軒家
(
いつけんや
)
にはカンコと
云
(
い
)
ふ
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
が
名
(
な
)
のつかぬ
病
(
やまひ
)
にかかつて
007
日々
(
ひび
)
なす
事
(
こと
)
もなく
破
(
やぶ
)
れ
蒲団
(
ぶとん
)
の
上
(
うへ
)
に
息
(
いき
)
づいてゐる。
008
太陽
(
たいやう
)
が
七
(
なな
)
つ
下
(
さが
)
りと
覚
(
おぼ
)
しき
頃
(
ころ
)
、
009
カンコの
友人
(
いうじん
)
キンスがやつて
来
(
き
)
て、
010
斜
(
はすかひ
)
になつた
戸
(
と
)
をガラリと
開
(
あ
)
け
乍
(
なが
)
ら、
011
キンス『オイ、
012
兄貴
(
あにき
)
、
013
エー、
014
人
(
ひと
)
の
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
けば
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は、
015
お
前
(
まへ
)
も
何
(
なん
)
だかブラブラと
体
(
からだ
)
が
勝
(
すぐ
)
れぬやうだが、
016
一体
(
いつたい
)
どうしたと
云
(
い
)
ふのだい。
017
俺
(
おれ
)
ア
昨日
(
きのふ
)
タラハン
市
(
し
)
から
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのでチツともお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
も
知
(
し
)
らず
訪問
(
はうもん
)
にも
来
(
こ
)
ないで、
018
本当
(
ほんたう
)
にすまなかつたよ』
019
カンコ(
元気
(
げんき
)
ナイ
声
(
こゑ
)
で)『オー、
020
お
前
(
まへ
)
は
友達
(
ともだち
)
のキンスだな、
021
そらよう
来
(
き
)
てくれた。
022
マアマアマア
茶
(
ちや
)
でも
沸
(
わ
)
かして
飲
(
の
)
んでくれ。
023
そして
序
(
ついで
)
に
俺
(
おれ
)
にも、
024
一杯
(
いつぱい
)
、
025
うまさうな
処
(
ところ
)
を
飲
(
の
)
まして
欲
(
ほ
)
しいものだな』
026
キ『ヨシ、
027
お
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
なら
茶
(
ちや
)
も
沸
(
わ
)
かしてやらう、
028
鰥暮
(
やもめぐら
)
しでは、
029
飯焚
(
めしたき
)
にも
困
(
こま
)
つてゐるだらう、
030
早
(
はや
)
う、
031
いい
嬶
(
かか
)
でも
貰
(
もら
)
つたがよからう。
032
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
もよいやうなものの、
033
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふものは、
034
何時
(
なんどき
)
体
(
からだ
)
に
変化
(
へんくわ
)
が
来
(
く
)
るか
分
(
わか
)
つたものぢやないからのう。
035
乞食
(
こじき
)
の
子
(
こ
)
でもいいから
女
(
をんな
)
と
名
(
な
)
のついたものを
探
(
さが
)
して
来
(
き
)
てお
前
(
まへ
)
に
世話
(
せわ
)
してやらうと
思
(
おも
)
ふがな、
036
今時
(
いまどき
)
の
女
(
をんな
)
は、
037
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
生意気
(
なまいき
)
になつてゐやがつてな、
038
風
(
かぜ
)
がふいた
位
(
くらゐ
)
ぢや、
039
其処
(
そこ
)
らあたりには
落
(
お
)
ちては
居
(
を
)
りくさらぬのだ。
040
俺
(
おれ
)
の
親父
(
おやぢ
)
の
話
(
はなし
)
によると、
041
昔
(
むかし
)
は
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
三界
(
さんかい
)
に
家
(
いへ
)
なしとか
云
(
い
)
つて
042
本当
(
ほんたう
)
に
男
(
をとこ
)
に
対
(
たい
)
しては
頭
(
あたま
)
の
上
(
あが
)
らないものだつたさうな、
043
殆
(
ほとん
)
ど
奴隷
(
どれい
)
扱
(
あつか
)
ひ
玩具
(
おもちや
)
扱
(
あつか
)
ひをされて
居
(
を
)
つたさうだが、
044
今時
(
いまどき
)
の
女
(
をんな
)
は
体
(
からだ
)
の
達者
(
たつしや
)
な
奴
(
やつ
)
は
工女
(
こうぢよ
)
になつて
大会社
(
だいくわいしや
)
に
抱
(
かか
)
へられよる、
045
電話
(
でんわ
)
の
交換手
(
かうくわんしゆ
)
から
自動車
(
じどうしや
)
の
運転手
(
うんてんしゆ
)
、
046
役場
(
やくば
)
の
書記
(
しよき
)
から
巡査
(
じゆんさ
)
に
迄
(
まで
)
採用
(
さいよう
)
され、
047
一人前
(
いちにんまへ
)
の
男
(
をとこ
)
と
肩
(
かた
)
を
並
(
なら
)
べて
歩
(
ある
)
くのみか、
048
自分
(
じぶん
)
の
人間
(
にんげん
)
としての
一番
(
いちばん
)
快楽
(
くわいらく
)
な
事
(
こと
)
をするにしても、
049
男子
(
だんし
)
から
金
(
かね
)
をとり、
050
高等
(
かうとう
)
内侍
(
ないじ
)
になつたり、
051
辻君
(
つじぎみ
)
になつたり、
052
それはそれは
女
(
をんな
)
の
職業
(
しよくげふ
)
と
云
(
い
)
ふものは、
053
あり
余
(
あま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから、
054
仲々
(
なかなか
)
女
(
をんな
)
の
廃物
(
すたりもの
)
がないので、
055
俺
(
おれ
)
もヤツパリ
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けてゐるのだ。
056
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
男子
(
だんし
)
と
云
(
い
)
ふものは、
057
それを
思
(
おも
)
ふと、
058
女
(
をんな
)
にはチツトも
頭
(
あたま
)
が
上
(
あが
)
りはせないワ。
059
まるつきり
女
(
をんな
)
の
世界
(
せかい
)
だ。
060
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
も
愛国
(
あいこく
)
婦人会
(
ふじんくわい
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
来
(
き
)
たが、
061
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
女
(
をんな
)
計
(
ばか
)
りだつたよ』
062
カ『そら、
063
さうだらうのう、
064
俺
(
おれ
)
は、
065
もう、
066
何
(
なん
)
だか、
067
バーツとしてしまつたのだ』
068
キ『バーツとしたつて、
069
何処
(
どこ
)
がバーツとしたのだい、
070
病気
(
びやうき
)
が
起
(
おこ
)
つたと
云
(
い
)
ふのか』
071
カ『ウン、
072
トツト、
073
モウ、
074
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
アない、
075
バーツとして、
076
ネツから
気分
(
きぶん
)
が
勝
(
すぐ
)
れぬのだ』
077
キ『フン、
078
さうすると、
079
病気
(
びやうき
)
だな』
080
カ『
病気
(
びやうき
)
か
何
(
なに
)
か
知
(
し
)
らぬが、
081
俺
(
おれ
)
は
病
(
やまひ
)
だ』
082
キ『
病
(
やまひ
)
も
病気
(
びやうき
)
も
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ぢやないか』
083
カ『それが、
084
バーツとした
病
(
やまひ
)
だ』
085
キ『バーツとした
初
(
はじ
)
まりは
如何
(
どう
)
ぢやつたのだい』
086
カ『バーツとした
病
(
やまひ
)
の
初
(
はじ
)
まりは
健康体
(
けんかうたい
)
だ』
087
キ『
健康体
(
けんかうたい
)
は
定
(
きま
)
つてるぢやないか、
088
バーツとした
原因
(
げんいん
)
を
聞
(
き
)
かせと
云
(
い
)
ふのだよ』
089
カ『
原因
(
げんいん
)
か、
090
ウン、
091
ヤツパリ、
092
淫
(
いん
)
だ、
093
淫欲
(
いんよく
)
から
起
(
おこ
)
つてバーツとしたのだ』
094
キ『
淫欲
(
いんよく
)
から
起
(
おこ
)
つてバーツとした、
095
ねつからバーツとしないぢやないか、
096
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
との
間
(
あひだ
)
だから、
097
何
(
なに
)
も
隠
(
かく
)
す
事
(
こと
)
はない、
098
お
前
(
まへ
)
の
為
(
ため
)
には、
099
どんな
事
(
こと
)
でもする
覚悟
(
かくご
)
だ、
100
竹馬
(
ちくば
)
の
友
(
とも
)
ぢやないか、
101
大方
(
おほかた
)
心
(
こころ
)
の
煩悶病
(
はんもんびやう
)
だらう、
102
包
(
つつ
)
まず
隠
(
かく
)
さず
俺
(
おれ
)
に
云
(
い
)
つて
聞
(
き
)
かせろ』
103
カ『
笑
(
わら
)
はへんか、
104
大方
(
おほかた
)
笑
(
わら
)
ふだらう、
105
ヤツパリ、
106
やめとこか、
107
あーア、
108
バーツとした』
109
キ『
何
(
なに
)
、
110
笑
(
わら
)
ふものかい、
111
しつかり
云
(
い
)
ひ
玉
(
たま
)
へ』
112
カ『そんなら、
113
どこ
迄
(
まで
)
も
笑
(
わら
)
はせんな』
114
キ『ウン、
115
断
(
だん
)
じて
笑
(
わら
)
はぬ、
116
サアサア
云
(
い
)
ふたり
云
(
い
)
ふたり』
117
カ『そんなら、
118
云
(
い
)
ふがな、
119
俺
(
わし
)
が
去年
(
きよねん
)
の
夏
(
なつ
)
だつたか、
120
タラハン
市
(
し
)
の
三
(
み
)
つ
丸屋
(
まるや
)
へ
褌
(
まはし
)
を
一丈
(
いちぢやう
)
買
(
か
)
ひに
行
(
い
)
つたのだ、
121
そした
所
(
ところ
)
が、
122
そこの
三
(
み
)
つ
丸
(
まる
)
呉服屋
(
ごふくや
)
の
娘
(
むすめ
)
さまに、
123
インジンと
云
(
い
)
ふ
別嬪
(
べつぴん
)
があつたのだ。
124
それから……バーツとしたのやな』
125
キ『アツハヽヽヽ、
126
何故
(
なぜ
)
又
(
また
)
一丈褌
(
いちぢやうまはし
)
を
買
(
か
)
ひに
行
(
い
)
つたのだい』
127
カ『
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
は
褌
(
まはし
)
にして、
128
残
(
のこ
)
りの
三尺
(
さんじやく
)
を
手拭
(
てぬぐひ
)
にしようと
思
(
おも
)
つてな、
129
一丈
(
いちぢやう
)
の
褌
(
まはし
)
を
切
(
き
)
つて
下
(
くだ
)
さいと
云
(
い
)
つたら、
130
インジンさまが、
131
俺
(
おれ
)
の
名
(
な
)
を、
132
細
(
こま
)
こう
聞
(
き
)
いてな、
133
「
春山村
(
はるやまむら
)
のカンコさまですか、
134
お
金
(
かね
)
はいいから、
135
まア
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい」と
云
(
い
)
つてな、
136
キレイな
白魚
(
しらうを
)
のやうな
手
(
て
)
でな、
137
褌
(
まはし
)
を
御
(
ご
)
丁寧
(
ていねい
)
に
包
(
つつ
)
んでな、
138
俺
(
おれ
)
の
懐
(
ふところ
)
に
突込
(
つつこ
)
んで
下
(
くだ
)
さつたのだ。
139
それからやさしい、
140
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
目付
(
めつき
)
をしてな、
141
「
又
(
また
)
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいよ」と
仰有
(
おつしや
)
つたのだ。
142
その
顔
(
かほ
)
見
(
み
)
るなり、
143
俺
(
わし
)
はな、
144
バーツとして
目
(
め
)
がまひさうになつたのだ。
145
それからヤツトの
事
(
こと
)
で
宅
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て、
146
此
(
この
)
褌
(
まはし
)
は
自分
(
じぶん
)
の
股
(
また
)
にするのは
勿体
(
もつたい
)
ない、
147
手拭
(
てぬぐひ
)
にするのも
勿体
(
もつたい
)
ないと
148
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
にブラ
下
(
さ
)
げて
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
拝
(
をが
)
んでゐたのだ。
149
さうすると、
150
其
(
その
)
褌
(
まはし
)
の
中
(
なか
)
からインジンさまの、
151
やさしい
姿
(
すがた
)
がボーツと
顕
(
あら
)
はれて
来
(
く
)
る、
152
その
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
に
俺
(
おれ
)
の
体
(
からだ
)
がバーツとするのだ。
153
それから
月末
(
げつまつ
)
になると、
154
カランコロン カランコロンと
駒下駄
(
こまげた
)
の
音
(
おと
)
がしたと
思
(
おも
)
へば、
155
やさしい
声
(
こゑ
)
で「あのカンコさまのお
宅
(
たく
)
はここで
御座
(
ござ
)
いますか、
156
私
(
わたし
)
はタラハン
市
(
し
)
の
三
(
み
)
つ
丸屋
(
まるや
)
のインジンで
御座
(
ござ
)
います。
157
一寸
(
ちよつと
)
ここあけて
下
(
くだ
)
さい」と
云
(
い
)
ふ
声
(
こゑ
)
がするので、
158
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か
幻
(
まぼろし
)
ぢやないかと
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
門
(
かど
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けて
見
(
み
)
ると、
159
鬼
(
おに
)
でも
掴
(
つか
)
むやうな
男衆
(
をとこしう
)
つれて、
160
やさしい
声
(
こゑ
)
で「ア、
161
カンコさま、
162
毎度
(
まいど
)
御
(
ご
)
贔屓
(
ひいき
)
に」と
云
(
い
)
つて、
163
何
(
なん
)
だか
書
(
か
)
いたものを
下
(
くだ
)
さつたのだ。
164
何
(
なん
)
だかあまり
長
(
なが
)
くない、
165
人
(
ひと
)
の
云
(
い
)
ふ
三行
(
みくだ
)
り
半
(
はん
)
位
(
くらゐ
)
だから、
166
之
(
これ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
、
167
まだ
結婚
(
けつこん
)
してゐないのだから、
168
之
(
これ
)
は
離縁状
(
りえんじやう
)
ぢやあるまいし、
169
結婚
(
けつこん
)
の
申込
(
まをしこみ
)
ぢやないかと
思
(
おも
)
つた
途端
(
とたん
)
に、
170
バーツとして、
171
そこへ
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
172
やつとの
事
(
こと
)
で、
173
気
(
き
)
がついて
見
(
み
)
ればインジンさまの
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えず、
174
隣村
(
となりむら
)
の
薮井
(
やぶゐ
)
竹庵
(
ちくあん
)
さまが
見
(
み
)
えて、
175
介抱
(
かいはう
)
してくれておつた。
176
それから
毎日
(
まいにち
)
日々
(
ひにち
)
体
(
からだ
)
はやせる
許
(
ばか
)
りで、
177
コレ、
178
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
体
(
からだ
)
も
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
許
(
ばか
)
りになり
179
竹細工
(
たけざいく
)
に
濡紙
(
ぬれがみ
)
を
貼
(
は
)
つたやうに
筋
(
すぢ
)
許
(
ばか
)
りになつて
了
(
しま
)
つたのだ』
180
キ『オイ、
181
その
書物
(
かきもの
)
を
見
(
み
)
せて
見
(
み
)
よ、
182
俺
(
おれ
)
が
読
(
よ
)
んでやらう、
183
お
前
(
まへ
)
は
無学
(
むがく
)
だからのう』
184
カ『
竹庵
(
ちくあん
)
さまに
読
(
よ
)
んで
貰
(
もら
)
はふと
何遍
(
なんべん
)
思
(
おも
)
つたかしれないが、
185
あんまり
恥
(
はづか
)
しいから
隠
(
かく
)
してゐたのだ。
186
笑
(
わら
)
はんでくれ、
187
そして
秘密
(
ひみつ
)
を
守
(
まも
)
つてくれよ』
188
と
大切
(
たいせつ
)
さうに
懐
(
ふところ
)
から
書物
(
かきもの
)
を
捻
(
ね
)
ぢ
出
(
だ
)
す。
189
キンスは
手早
(
てばや
)
く、
190
書物
(
かきもの
)
をとつて
191
覚
(
おぼえ
)
192
一、
193
白木綿
(
しろもめん
)
一丈
(
いちぢやう
)
、
194
右
(
みぎ
)
代金
(
だいきん
)
四拾八
(
しじふはつ
)
銭
(
せん
)
也
(
なり
)
三
(
み
)
つ
丸屋
(
まるや
)
、
195
春山村
(
はるやまむら
)
のカンコ
様
(
さま
)
196
と
読
(
よ
)
み
上
(
あ
)
げ、
197
キ『ハヽア、
198
此奴
(
こいつ
)
ア
褌
(
まはし
)
の
妄念
(
まうねん
)
だ、
199
四十八
(
しじふはつ
)
銭
(
せん
)
の
金
(
かね
)
を
受取
(
うけと
)
りに
来
(
き
)
たのだ。
200
恋文
(
こひぶみ
)
でも
結婚
(
けつこん
)
申込書
(
まをしこみしよ
)
でも
何
(
なん
)
でもないワ、
201
チツと
夢
(
ゆめ
)
を
覚
(
さま
)
さないか、
202
何
(
なん
)
だ、
203
恋病
(
こひわづらひ
)
をしやがつて、
204
あまりバツとせないぢやないか』
205
カ『
掛金
(
かけ
)
は
掛金
(
かけ
)
、
206
恋
(
こひ
)
は
恋
(
こひ
)
だ。
207
仮令
(
たとへ
)
インジンさまが
惚
(
ほれ
)
て
居
(
ゐ
)
なくても
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
は
十分
(
じふぶん
)
惚
(
ほれ
)
てゐるのだ。
208
それだから、
209
どうでも、
2091
かうでも、
210
インジンさまと
添
(
そ
)
はなくちや、
211
バーツとした
病
(
やまひ
)
の
病気
(
びやうき
)
が
癒
(
なほ
)
らぬのだ』
212
キ『エー、
213
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
だ。
214
然
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
もお
前
(
まへ
)
のお
父
(
とう
)
さまには
命
(
いのち
)
のない
処
(
ところ
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
つたのだから、
215
助
(
たす
)
けねばなるまい。
216
気
(
き
)
の
病
(
やまひ
)
を
癒
(
なほ
)
すには
申
(
さる
)
の
年
(
とし
)
の
申
(
さる
)
の
月
(
つき
)
の
申
(
さる
)
の
日
(
ひ
)
の
申
(
さる
)
の
刻
(
こく
)
に
生
(
うま
)
れた
女
(
をんな
)
の
生肝
(
いきぎも
)
を
取
(
と
)
つて
飲
(
の
)
ましたら
直
(
すぐ
)
に
癒
(
なほ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
217
俺
(
おれ
)
の
妹
(
いもうと
)
は
丁度
(
ちやうど
)
それだ。
218
待
(
ま
)
つとれ、
219
お
前
(
まへ
)
の
病気
(
びやうき
)
を
癒
(
なほ
)
す
為
(
ため
)
に、
220
之
(
これ
)
から
帰
(
い
)
んで
221
妹
(
いもうと
)
の
生肝
(
いきぎも
)
をとつて
来
(
く
)
る』
222
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らスタスタと
駆出
(
かけだ
)
し、
223
吾
(
わが
)
家
(
や
)
に
帰
(
かへ
)
つて
見
(
み
)
ると、
224
妹
(
いもうと
)
のリンジヤンは
嬉
(
うれ
)
しさうに
表
(
おもて
)
へ
出
(
で
)
て
迎
(
むか
)
へ、
225
『お
兄
(
あに
)
さま、
226
どこへ
行
(
い
)
つてゐらしたの、
227
大変
(
たいへん
)
心配
(
しんぱい
)
してゐましたよ』
228
キンス『ヤア
一寸
(
ちよつと
)
、
229
あんまり
景色
(
けしき
)
がいいので
春山峠
(
はるやまたうげ
)
の
中途
(
ちうと
)
迄
(
まで
)
上
(
のぼ
)
つてそこらの
眺望
(
てうばう
)
を
見
(
み
)
てゐたのだ、
230
アー、
231
いい
気持
(
きもち
)
だつたよ。
232
然
(
しか
)
しな、
233
今日
(
けふ
)
はお
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
と
一杯
(
いつぱい
)
飲
(
の
)
みたいのだが、
234
酒
(
さけ
)
を
一本
(
いつぽん
)
つけてくれないか』
235
リンジヤン『
兄
(
あに
)
さま、
236
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つて
兄妹
(
きやうだい
)
が
盃
(
さかづき
)
をするとは、
237
変
(
へん
)
ぢやありませぬか。
238
何
(
なん
)
で
又
(
また
)
そんな
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るのです、
239
之
(
これ
)
には
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
様子
(
やうす
)
がありさうに
思
(
おも
)
はれます。
240
どうぞハツキリ
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
241
キ『
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
は
俺
(
おれ
)
の
友人
(
いうじん
)
のカンコがタラハン
市
(
し
)
の
三
(
み
)
つ
丸屋
(
まるや
)
の
娘
(
むすめ
)
さまに
恋慕
(
れんぼ
)
し
恋病
(
こひやまひ
)
を
煩
(
わづら
)
つてゐるのだ。
242
之
(
これ
)
を
癒
(
なほ
)
すにはお
前
(
まへ
)
の
力
(
ちから
)
をかるより
外
(
ほか
)
にないのだ。
243
どうだ
兄
(
あに
)
が
一生
(
いつしやう
)
の
願
(
ねがひ
)
だから
聞
(
き
)
いてくれまいか。
244
俺
(
おれ
)
もカンコの
父親
(
てておや
)
に
恩
(
おん
)
になつて
居
(
ゐ
)
るのだから、
245
御
(
ご
)
恩報
(
おんはう
)
じをするのは
此
(
この
)
時
(
とき
)
だからのう』
246
リン『
私
(
わたし
)
が、
247
どうすれば、
2471
いいのですか』
248
キ『
妹
(
いもうと
)
、
249
耐
(
こら
)
へてくれ、
250
実
(
じつ
)
はお
前
(
まへ
)
の
肝
(
きも
)
、
251
イヤイヤイヤ
肝煎
(
きもい
)
りで
一
(
ひと
)
つ、
252
カンコの
病気
(
びやうき
)
を
癒
(
なほ
)
して
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いのだ』
253
リン『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
254
兄
(
あに
)
さまの
友達
(
ともだち
)
が
悪
(
わる
)
いのだから
255
私
(
わたし
)
がお
見舞
(
みまひ
)
に
上
(
あが
)
りませう』
256
キ『ヤア、
257
そりや
有難
(
ありがた
)
い、
258
善
(
ぜん
)
は
急
(
いそ
)
げだ、
259
サア
行
(
ゆ
)
かう』
260
と
茲
(
ここ
)
に
兄妹
(
きやうだい
)
二人
(
ふたり
)
はカンコの
破家
(
あばらや
)
さして
急
(
いそ
)
いで
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
れば、
261
カンコは
破
(
やぶ
)
れ
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うへ
)
に
大
(
だい
)
の
字
(
じ
)
になつて
倒
(
たふ
)
れてゐる。
262
キンスは
友達
(
ともだち
)
の
危急
(
ききふ
)
を
見
(
み
)
て
躊躇
(
ちうちよ
)
するに
忍
(
しの
)
びず、
263
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて
妹
(
いもうと
)
に
向
(
むか
)
ひ
涙
(
なみだ
)
乍
(
なが
)
らに、
264
キ『オイ、
265
妹
(
いもうと
)
リンジヤンよ、
266
お
前
(
まへ
)
は
母
(
はは
)
に
聞
(
き
)
いてゐたが、
267
申
(
さる
)
の
年
(
とし
)
、
268
申
(
さる
)
の
月
(
つき
)
、
269
申
(
さる
)
の
日
(
ひ
)
、
270
申
(
さる
)
の
刻
(
こく
)
に
生
(
うま
)
れた
女
(
をんな
)
ださうだな。
271
お
前
(
まへ
)
の
生肝
(
いきぎも
)
をとつてカンコに
直
(
すぐ
)
のませばカンコの
病気
(
びやうき
)
は
本復
(
ほんぷく
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だから、
272
どうぞ、
273
兄
(
あに
)
の
顔
(
かほ
)
を
立
(
た
)
てて
生命
(
いのち
)
を
呉
(
く
)
れないか』
274
リン『そら、
275
兄
(
あに
)
さま
無理
(
むり
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬか、
276
何程
(
なんぼ
)
何
(
なん
)
でも
肝玉
(
きもだま
)
迄
(
まで
)
とらいでも
病気
(
びやうき
)
本復
(
ほんぷく
)
の
方法
(
はうはふ
)
が
御座
(
ござ
)
いませう、
277
どうぞ
私
(
わたし
)
の
命
(
いのち
)
丈
(
だけ
)
は
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さい』
278
キ『イヤ
俺
(
おれ
)
も
男
(
をとこ
)
だ、
279
友達
(
ともだち
)
の
病気
(
びやうき
)
を
助
(
たす
)
けてやらうと
云
(
い
)
つた
限
(
かぎ
)
りは、
280
後
(
あと
)
にはひかれぬ。
281
兄
(
あに
)
がお
前
(
まへ
)
の
肝
(
きも
)
をとり
出
(
だ
)
してカンコに
飲
(
の
)
ましてやらねばおかぬのだ』
282
リン『そら、
283
兄
(
あに
)
さま、
284
あまりで
御座
(
ござ
)
います。
285
どうぞお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
286
かく
話
(
はな
)
してゐる
所
(
ところ
)
へ
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
287
コブライ、
288
コオロの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が、
289
何処
(
どこ
)
でぼつたくつて
来
(
き
)
たか
三尺
(
さんじやく
)
の
秋水
(
しうすい
)
を
抜
(
ぬ
)
き
放
(
はな
)
ち、
290
粗末
(
そまつ
)
な
一枚戸
(
いちまいど
)
を
蹴
(
け
)
り
破
(
やぶ
)
り
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
来
(
き
)
た。
291
リンジヤンは
此
(
この
)
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るよりアツと
驚
(
おどろ
)
き、
292
リン『
兄
(
あに
)
さま、
293
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さい、
294
ア
怖
(
こは
)
い、
295
肝
(
きも
)
が
潰
(
つぶ
)
れましたワ』
296
キ『エー
腑甲斐
(
ふがひ
)
ない
奴
(
やつ
)
だ、
297
肝
(
きも
)
が
潰
(
つぶ
)
れたなら、
298
もうお
前
(
まへ
)
に
用
(
よう
)
はないわい。
299
エー、
300
何処
(
どこ
)
の
泥棒
(
どろばう
)
か
知
(
し
)
らぬが、
301
要
(
い
)
らぬ
時
(
とき
)
に、
302
来
(
き
)
やがつて……コラ
泥棒
(
どろばう
)
、
303
ケツタイな
面
(
つら
)
しやがつて
断
(
ことわ
)
りもなしに
人
(
ひと
)
の
家
(
いへ
)
へ
来
(
く
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
304
エー、
305
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
け
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
け』
306
コブライ『
人
(
ひと
)
の
家
(
いへ
)
に
抜刀
(
ばつたう
)
で
這入
(
はい
)
るは
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
商売
(
しやうばい
)
だ。
307
ゴテゴテ
吐
(
ぬ
)
かすと、
308
笠
(
かさ
)
の
台
(
だい
)
が
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
すぞ。
309
こんなチツポケな
家
(
いへ
)
に
来
(
き
)
て、
310
金
(
かね
)
があらうとは
思
(
おも
)
はない、
311
御飯
(
ごはん
)
を
焚
(
た
)
いて
出
(
だ
)
せ、
312
此
(
この
)
盗公
(
どろこう
)
は、
313
チツト
小盗児
(
せうとる
)
と
違
(
ちが
)
ふのだ、
314
決
(
けつ
)
して
貧乏人
(
びんばふにん
)
は
苛
(
いじ
)
めない。
315
飯
(
めし
)
を
五六升
(
ごろくしよう
)
許
(
ばか
)
り
焚
(
た
)
いてくれ、
316
代金
(
だいきん
)
は
払
(
はら
)
つてやるから』
317
キ『どうかお
前
(
まへ
)
勝手
(
かつて
)
に
焚
(
た
)
いてくれないか、
318
実
(
じつ
)
は
俺
(
おれ
)
は、
319
此家
(
ここ
)
の
者
(
もの
)
ぢやない、
320
ここの
主人
(
しゆじん
)
が
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
に
陥
(
おちい
)
つてゐるのだから、
321
介抱
(
かいはう
)
に
来
(
き
)
てゐるのだからのう』
322
コブ『さうすると、
323
貴様
(
きさま
)
は
此家
(
ここ
)
の
主人
(
しゆじん
)
ぢやないのか、
324
ウン、
325
割
(
わり
)
とは
親切
(
しんせつ
)
な
奴
(
やつ
)
ぢやのう。
326
それではお
泥棒
(
どろぼう
)
様
(
さま
)
がお
手
(
て
)
づから
御飯
(
ごはん
)
をお
焚
(
た
)
き
遊
(
あそ
)
ばしてやらうかのう、
327
どつこへも
出
(
で
)
てはいけないぞ。
328
又
(
また
)
どつかへ
密告
(
みつこく
)
でもすると、
329
面倒
(
めんだう
)
いからのう』
330
キ『ヨシヨシ
逃
(
に
)
げも
隠
(
かく
)
れも
致
(
いた
)
さぬわい、
331
マア
332
ユツクリと
飯
(
めし
)
でも
焚
(
た
)
いて
行
(
い
)
つてくれ、
333
その
代
(
かは
)
り
此
(
この
)
村
(
むら
)
許
(
ばか
)
りは、
334
脅
(
おびや
)
かさぬやうにしてくれ』
335
コブ『ヘン、
336
あまり
見損
(
みそこな
)
ひをして
貰
(
もら
)
ふまいかい。
337
未来
(
みらい
)
のタラハン
城
(
じやう
)
の
左守司
(
さもりのかみ
)
様
(
さま
)
だぞ』
338
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らコオロと
共
(
とも
)
に
黍
(
きび
)
の
搗
(
つ
)
いたのを
二升
(
にしよう
)
許
(
ばか
)
り
桶
(
をけ
)
で
炊
(
かし
)
ぎ、
339
釜
(
かま
)
をかけて
夕飯
(
ゆふはん
)
の
用意
(
ようい
)
を
始
(
はじ
)
めかけた。
340
カンコはヤツパリ
虫
(
むし
)
の
息
(
いき
)
で
倒
(
たふ
)
れてゐる。
341
玄真坊
(
げんしんばう
)
はリンジヤンの
美
(
うつく
)
しい
顔
(
かほ
)
をツラツラ
眺
(
なが
)
め
涎
(
よだれ
)
をたらし、
342
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
うし、
343
心猿
(
しんゑん
)
意馬
(
いば
)
にかられて
又
(
また
)
もや
持病
(
ぢびやう
)
を
起
(
おこ
)
しかけてゐる。
344
カンコはキンスの
手厚
(
てあつ
)
き
介抱
(
かいはう
)
によつて
漸
(
やうや
)
く
回復
(
くわいふく
)
し
畳
(
たたみ
)
の
上
(
うへ
)
に
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り、
345
見馴
(
みな
)
れぬ
男
(
をとこ
)
が
来
(
き
)
てゐるのに、
346
又
(
また
)
もや
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
347
『オイ、
348
キンス、
349
どこの
人
(
ひと
)
ぢやか
知
(
し
)
らぬが、
350
又
(
また
)
どうやら、
351
バーツとしさうだわい』
352
玄
(
げん
)
『コレコレお
女中
(
ぢよちう
)
、
353
何
(
なに
)
を
慄
(
ふる
)
ふてゐるのか、
354
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさるな、
355
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
はお
見掛
(
みかけ
)
通
(
どほ
)
りの
泥棒
(
どろばう
)
で
御座
(
ござ
)
る。
356
当家
(
たうけ
)
へ
暴
(
あば
)
れ
込
(
こ
)
み、
357
飯
(
めし
)
を
喰
(
く
)
はせと
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのは
実
(
じつ
)
は
偽
(
いつは
)
りだ。
358
本当
(
ほんたう
)
の
腹
(
はら
)
をたたくと、
359
お
前
(
まへ
)
さまがこの
家
(
いへ
)
に
来
(
き
)
たのを
嗅
(
か
)
ぎつけ、
360
否応
(
いやおう
)
なしに
手込
(
てご
)
みにせむと、
361
拙者
(
せつしや
)
が
木陰
(
こかげ
)
に
休
(
やす
)
んでゐるのを
知
(
し
)
らず
話
(
はな
)
しあつて
居
(
ゐ
)
るのを
聞
(
き
)
いて、
362
お
前
(
まへ
)
さまの
危急
(
ききふ
)
を
救
(
すく
)
ふためにやつて
来
(
き
)
たが、
363
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
が
凶器
(
きやうき
)
を
以
(
もつ
)
て
対
(
むか
)
つて
来
(
き
)
たから
364
私
(
わたくし
)
も
剣
(
けん
)
を
抜
(
ぬ
)
いて
応戦
(
おうせん
)
したのだ。
365
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
は
金箔
(
きんぱく
)
付
(
づ
)
きの
泥棒
(
どろばう
)
だが、
366
俺
(
おれ
)
は
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
天真坊
(
てんしんばう
)
と
云
(
い
)
ふ
名僧
(
めいそう
)
知識
(
ちしき
)
だ。
367
此
(
この
)
天真坊
(
てんしんばう
)
に
身
(
み
)
も
魂
(
たま
)
もお
任
(
まか
)
せなさい。
368
さうなれば
神仏
(
しんぶつ
)
の
御
(
お
)
加護
(
かご
)
により、
369
福徳
(
ふくとく
)
円満
(
ゑんまん
)
寿命
(
じゆみやう
)
長久
(
ちやうきう
)
疑
(
うたが
)
ひなしだ』
370
リン『ハイ、
371
何分
(
なにぶん
)
よろしく
御
(
ご
)
保護
(
ほご
)
を
願
(
ねが
)
ひ
上
(
あ
)
げまする、
372
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
泥棒
(
どろばう
)
位
(
くらゐ
)
恐
(
おそろ
)
しいものは
御座
(
ござ
)
いますせぬからな。
373
地震
(
ぢしん
)
、
374
雷
(
かみなり
)
、
375
火事
(
くわじ
)
、
376
親爺
(
おやぢ
)
よりも
恐
(
おそろ
)
しいのは
泥棒
(
どろばう
)
で
御座
(
ござ
)
いますワ』
377
コブライは
黍
(
きび
)
を
研
(
と
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
顔
(
かほ
)
をチラリと
眺
(
なが
)
め、
378
『チエツ、
379
玄真坊
(
げんしんばう
)
さま、
380
あまりひどいぢやありませぬか』
381
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
大喝
(
たいかつ
)
一声
(
いつせい
)
、
382
『バカ、
383
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かねい
野郎
(
やらう
)
だな』
384
コオ『
拙者
(
せつしや
)
が
命令
(
めいれい
)
する。
385
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
娘
(
むすめ
)
を
世話
(
せわ
)
するがよい、
386
コブライは
御飯
(
ごはん
)
の
用意
(
ようい
)
をせつせと
致
(
いた
)
せ』
387
コブ『チエツ、
388
馬鹿
(
ばか
)
にしやがる』
389
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
襷十字
(
たすきじふじ
)
にあやどり、
390
鉢巻
(
はちまき
)
を
横
(
よこ
)
にねぢ、
391
せつせと
飯焚
(
めした
)
きの
用意
(
ようい
)
にかかつてゐる。
392
リンジヤンはマジマジと
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
顔
(
かほ
)
を
見守
(
みまも
)
り、
393
ハツと
呆
(
あき
)
れて
反
(
そ
)
りかへり、
394
『ヤア、
395
お
前
(
まへ
)
はオーラ
山
(
さん
)
に
立籠
(
たてこも
)
り、
396
星下
(
ほしくだ
)
しの
芸当
(
げいたう
)
をやり、
397
私
(
わたし
)
の
妹
(
いもうと
)
を
手込
(
てご
)
めにした
売僧
(
まいす
)
だな』
398
玄
(
げん
)
『ハツハヽヽヽ
手込
(
てご
)
めにしても、
399
生命
(
いのち
)
は
決
(
けつ
)
して
奪
(
と
)
らないよ。
400
命
(
いのち
)
迄
(
まで
)
打
(
うち
)
込
(
こ
)
んで
惚
(
ほれ
)
て
居
(
ゐ
)
たのは、
401
之
(
これ
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
結
(
むす
)
んだ
縁
(
えん
)
だらう。
402
つながるお
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
となつて
然
(
しか
)
るべき
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
からの
縁
(
えん
)
が
結
(
むす
)
ばれてあるのだ』
403
リンジヤンは、
404
『エー、
405
けがらはしい
売僧
(
まいす
)
坊主
(
ばうず
)
、
406
これからお
役所
(
やくしよ
)
へ
訴
(
うつた
)
へて、
407
妹
(
いもうと
)
の
敵
(
かたき
)
を
打
(
う
)
たねばおかぬ、
408
覚悟
(
かくご
)
しや』
409
と
裏口
(
うらぐち
)
より
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
410
勝手
(
かつて
)
覚
(
おぼ
)
えし
田圃道
(
たんぼみち
)
を、
411
何処
(
いづこ
)
ともなく
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
して
了
(
しま
)
つた。
412
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
413
コブライ、
414
コオロの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
415
『こりや、
416
かうしては
居
(
を
)
られぬ』
417
と
又
(
また
)
もや
裏口
(
うらぐち
)
より
月夜
(
つきよ
)
の
野原
(
のはら
)
を、
418
空腹
(
くうふく
)
を
抱
(
かか
)
へて
何処
(
どこ
)
ともなく
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
して
了
(
しま
)
つた。
419
(
大正一五・一・三一
旧一四・一二・一八
於月光閣
北村隆光
録)
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