霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 転盗(てんたう)〔一七九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻 篇:第1篇 追僧軽迫 よみ(新仮名遣い):ついそうけいはく
章:第5章 転盗 よみ(新仮名遣い):てんとう 通し章番号:1794
口述日:1925(大正14)年11月07日(旧09月21日) 口述場所:祥明館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年2月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
バルギーは黄金で姫の歓心を買って名誉を挽回しようと、夜が明けぬうちに、村へ盗賊に出てしまう。
バルギーは村の一軒に暴れこみ、家人を縛って金銭を奪い逃げ出すが、井戸に落ちてつかまってしまう。
バルギーは村の掟に従い、村から追い出されることになった。ダリヤは哀れを催し、ついに自分が、山賊の岩窟から逃げ出すためにバルギーをだましていたことを打ち明ける。
バルギーは村から去っていくが、ダリヤ姫は玉清別の勧めに従い、玄真坊を避けるためにしばらくまた村に滞在することとなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2019-01-11 17:47:43 文字数:4256 OBC :rm7105
愛善世界社版:66頁 八幡書店版:第12輯 523頁 修補版: 校定版:68頁 普及版:31頁 初版: ページ備考:
001 玉清別(たまきよわけ)夫婦(ふうふ)は神(かみ)の子(こ)、002玉(たま)の子(こ)と共(とも)に、003まだ夜(よ)のあけぬ中(うち)から神殿(しんでん)の大掃除(おほさうぢ)をなし004山野(やまぬ)の供物(くもつ)を献(けん)じ祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)してゐる。
 
005『高天原(たかあまはら)の聖場(せいぢやう)に元津(もとつ)御祖(みおや)の大神(おほかみ)の大神言(おほみこと)もちて、006天(あま)かけり国(くに)かける天使(あまつかひ)八百万(やほよろづ)神集(かむつど)ひに集(つど)ひます、007東(ひがし)の都(みやこ)は日出(ひいづ)る国(くに)の御名(みな)も高(たか)き、008いと清々(すがすが)しき小雲(こくも)の川(かは)を囲(めぐ)らせる綾(あや)の聖地(せいち)の八尋殿(やひろどの)、009又(また)西(にし)の国(くに)に至(いた)りては、010パレスチナの国(くに)の御名(みな)も高(たか)きエルサレムの都(みやこ)、011オリブ山(やま)の頂(いただ)きに宮柱(みやばしら)太(ふと)しく立(た)てて鎮(しづ)まります厳(いづ)と瑞(みづ)との二柱(ふたはしら)従(したが)ひ玉(たま)ふ神使(かむづかひ)012朝夕(あしたゆふべ)に天(あま)かけり国(くに)かけりまし、013ウブスナ山(やま)の聖場(せいぢやう)には神(かむ)素盞嗚(すさのを)の尊(みこと)、014常磐(ときは)堅磐(かきは)に御(み)あとを垂(た)れさせ玉(たま)ひ、015四方(よも)の青人草(あをひとぐさ)は云(い)ふも更(さら)なり、016草木(くさき)虫族(むしけら)の端(はし)に至(いた)る迄(まで)、017恵(めぐ)みの露(つゆ)を垂(た)れさせ玉(たま)ふ尊(たふと)き清(きよ)き大御心(おほみこころ)を拝(をろが)み奉(まつ)り、018朝(あさ)な夕(ゆふ)なに此(この)神床(かむどこ)に厳(いづ)の御魂(みたま)を斎(いつ)き奉(まつ)りて仕(つか)へまつる事(こと)の由(よし)を、019いと平(たひら)けく安(やす)らけく聞召(きこしめ)し相諾(あひうづな)ひ玉(たま)ひて、020バラモンの枉神(まがかみ)に退(やら)はれたる三五(あななひ)の神柱(かむばしら)玉清別(たまきよわけ)をして、021再(ふたた)び世(よ)の光(ひかり)となり、022塩(しほ)となり、023花(はな)ともなりて、024天晴(あつぱれ)大御神(おほみかみ)の大神業(おほみわざ)に仕(つか)へ奉(まつ)らしめ玉(たま)へ、025仰(あふ)ぎ願(ねが)はくばこれの家内(やぬち)をして諸々(もろもろ)の枉事(まがごと)、026罪(つみ)穢(けがれ)あらしめず、027日々(ひび)の業務(なりはひ)を励(いそし)み勤(つと)めて、028ゆるぶ事(こと)なく、029怠(おこた)る事(こと)なく、030神谷(かみたに)の村(むら)の鑑(かがみ)として常磐(ときは)堅磐(かきは)に臨(のぞ)ませ玉(たま)へと畏(かしこ)み畏(かしこ)み祈願(こひの)み奉(まつ)らくと申(まを)す。031三五(あななひ)の大神(おほかみ)守(まも)り玉(たま)へ幸(さち)はへ玉(たま)へ、032惟神(かむながら)の御魂(みたま)幸(さちは)へましませ』
 
033と祝詞(のりと)を終(をは)り、034庭園(ていゑん)を親子(おやこ)四(よ)人(にん)連(づ)れ新空気(しんくうき)を呼吸(こきふ)すべく逍遥(せうえう)し初(はじ)めた。
035 バルギーはダリヤ姫(ひめ)が寝息(ねいき)を窺(うかが)ひ、036ソツと裏口(うらぐち)よりかけ出(いだ)し、037何処(どこ)かの家(いへ)へ忍(しの)び込(こ)み、038沢山(たくさん)な黄金(わうごん)をせしめてダリヤ姫(ひめ)を驚(おどろ)かせ歓心(くわんしん)を買(か)はむものと039無謀(むぼう)にも飛(と)び出(だ)して了(しま)つた。
040 ダリヤ姫(ひめ)は玉清別(たまきよわけ)が祝詞(のりと)の声(こゑ)にフツと目(め)をさまし、041慌(あわ)てて手水(てうづ)を使(つか)ひ神殿(しんでん)に簡単(かんたん)なる祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、042終(をは)つて吾(わが)居間(ゐま)へ帰(かへ)り、043クラヴィコードをいぢつてゐると、044其処(そこ)へ玉清別(たまきよわけ)夫婦(ふうふ)が襖(ふすま)を静(しづか)に押(お)しあけ、045入(い)り来(きた)り、
046玉清(たまきよ)『ダリヤ様(さま)、047お早(はや)う御座(ござ)います』
048玉子(たまこ)『朝(あさ)も早(はや)うから丹精(たんせい)な事(こと)で御座(ござ)いますな、049ほんとうに御(お)手際(てぎは)がよく冴(さ)えてゐますワ』
050 ダリヤはクラヴィコードを床(とこ)に直(なほ)し、051一二(いちに)尺(しやく)後(あと)しざりし乍(なが)ら丁寧(ていねい)に両手(りやうて)をつき、
052『これはこれは御(ご)主人(しゆじん)様(さま)、053奥様(おくさま)、054お早(はや)う御座(ござ)います。055いかいお世話(せわ)に預(あづか)りまして誠(まこと)に申(まをし)訳(わけ)が御座(ござ)いませぬ』
056玉子(たまこ)『姫(ひめ)さま、057何(なに)を仰有(おつしや)います、058此処(ここ)は神(かみ)様(さま)の家(いへ)、059お世話(せわ)さして頂(いただ)くのは神(かみ)様(さま)への御(ご)奉公(ほうこう)で御座(ござ)います。060御(お)礼(れい)を申(まを)されましては却(かへつ)て困(こま)ります、061何卒(どうぞ)気(き)を使(つか)はずにユルユル御(ご)逗留(とうりう)下(くだ)さいませ』
062ダリ『ハイ、063有難(ありがた)う御座(ござ)います。064お言葉(ことば)に甘(あま)へて、065ユツクリとお世話(せわ)に預(あづか)つて居(を)りまする』
066玉清(たまきよ)『然(しか)しダリヤ様(さま)、067貴女(あなた)のおつれになつたバルギーとか云(い)ふ方(かた)は、068何処(どこ)へ行(ゆ)かれましたか御存(ごぞん)じでせうなア』
069ダリ『ハイ、070夜前(やぜん)、071妾(わらは)のクラヴィコードをお聞(き)きになり、072直(すぐ)おやすみになつたやうに思(おも)つてゐますが』
073玉清(たまきよ)『ハテ、074姫(ひめ)様(さま)は御存(ごぞん)じがないのですか、075今朝(けさ)からお姿(すがた)が見(み)えないのですよ』
076ダリ『ハ、077左様(さやう)で御座(ござ)いますか』
078と平然(へいぜん)としてゐる。
079玉清(たまきよ)『姫(ひめ)様(さま)、080一寸(ちよつと)お伺(うかが)ひ致(いた)し度(た)いのですが、081あの男(をとこ)の素性(すじやう)は御存(ごぞん)じで御座(ござ)いませうね』
082ダリ『あれはバルギーと申(まを)しまして、083タニグク山(やま)の泥棒(どろばう)の岩窟(がんくつ)に小頭(こがしら)をやつてゐましたのだが、084妾(わらは)が、085昨夜(さくや)参(まゐ)つた玄真坊(げんしんばう)と云(い)ふ妖僧(えうそう)にそそのかされ、086泥棒(どろばう)の岩窟(がんくつ)に囚(とらは)れ 087どうかして逃(に)げ度(た)いと考(かんが)へ、088悪僧(あくそう)の酒(さけ)に酔(よ)ふたのを幸(さいは)ひ、089あのバルギーを色(いろ)を以(もつ)てちよろまかし、090うまく虎口(ここう)を逃(のが)れたので御座(ござ)います。091まだ家(いへ)にかへる迄(まで)道程(みちのり)も御座(ござ)いますので、092腹(はら)の悪(わる)い事(こと)と知(し)りながらスガの里(さと)にかへる迄(まで)、093何(なん)とか彼(かん)とか申(まを)して送(おく)らしてやらうかと考(かんが)へ、094道連(みちづ)れになつてるので御座(ござ)います。095実(じつ)の処(ところ)は096実際(じつさい)の事(こと)を御(ご)夫婦(ふうふ)様(さま)に打(う)ち明(あ)け度(た)いと存(ぞん)じましたが、097バルギーが何(なん)と云(い)つても側(そば)を離(はな)れないので申(まをし)上(あ)げる機会(きくわい)を得(え)ずに居(を)りました。098御(ご)夫婦(ふうふ)様(さま)は妾(わらは)が悪(わる)い男(をとこ)を連(つ)れてゐると、099さぞお蔑(さげす)みで御座(ござ)いませうが、100右(みぎ)のやうな次第(しだい)で御座(ござ)いますから101何卒(どうぞ)宜(よろ)しくお願(ねが)ひ申(まを)します』
102玉清(たまきよ)『いかにも、103吾(わが)家(や)へお訪(たづ)ねになつた時(とき)から妙(めう)な夫婦(ふうふ)だと思(おも)つて居(ゐ)ました。104どうして、105まあ、106貴女(あなた)のやうな淑女(しゆくぢよ)と泥棒面(どろぼうづら)の三品(さんぴん)野郎(やらう)と御(ご)夫婦(ふうふ)で旅行(りよかう)されたのか、107まるつきり……木馬(もくば)嘶(いなな)いて石女(せきぢよ)が子(こ)を産(う)むやうな話(はなし)だ……と云(い)つて家内(かない)と囁(ささや)いてゐた処(ところ)で御座(ござ)います。108ヤアそれ聞(き)いて安心(あんしん)致(いた)しました。109彼(か)のバルギーは、110最早(もはや)此処(ここ)へは帰(かへ)つて来(き)ますまい、111キツト吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)がお宅(たく)迄(まで)送(おく)つて上(あ)げますから御(ご)安心(あんしん)なさいませ』
112ダリ『如何(どう)して又(また)、113あのバルギーが此処(ここ)へ帰(かへ)らないのでせう、114貴方(あなた)に送(おく)つて頂(いただ)けばあのやうな危険(きけん)な者(もの)に道連(みちづ)れにならずによいから一安心(ひとあんしん)ですが、115彼(かれ)は又(また)何(なに)かよからぬ事(こと)でも致(いた)したので御座(ござ)いますか』
116玉清(たまきよ)『エー、117彼(かれ)は昨夜(ゆうべ)深更(しんかう)に、118村内(そんない)の杢兵衛(もくべゑ)が家(いへ)に覆面(ふくめん)頭巾(づきん)で暴(あば)れ込(こ)み、119家族(かぞく)をフン縛(じば)り、120金銭(きんせん)を残(のこ)らず奪(うば)ひとり逃(に)げ出(だ)す途端(とたん)、121門口(かどぐち)の深井戸(ふかゐど)に落(お)ち込(こ)み、122バサバサと騒(さわ)いで居(を)つた所(ところ)、123不寝番(ふしんばん)が見付(みつ)け出(だ)し、124井戸(ゐど)より引(ひ)き上(あ)げ彼(かれ)を引縛(ひきくく)つて、125杢兵衛(もくべゑ)の家(いへ)に、126つないであるさうで御座(ござ)います。127今(いま)の先(さき)不寝番(ふしんばん)からさう訴(うつた)へて参(まゐ)りました』
128 ダリヤはビツクリし乍(なが)ら、
129『エー、130何(なん)とマア悪(わる)い奴(やつ)で御座(ござ)いますな、131忽(たちま)ち天罰(てんばつ)が報(むく)ふて来(き)て吾(われ)と吾(わが)手(て)に深井戸(ふかゐど)に陥込(おちこ)んだので御座(ござ)いませう。132然(しか)し乍(なが)ら泥棒(どろばう)とは云(い)へ、133此(この)山阪(やまさか)をタニグク谷(だに)から此処(ここ)迄(まで)送(おく)つて来(き)てくれた男(をとこ)、134見捨(みす)てておく訳(わけ)にも行(ゆ)きませぬから、135一目(ひとめ)会(あ)はして下(くだ)さいませぬか。136彼(かれ)に誠(まこと)の道(みち)を説(と)き聞(き)かせてやり度(た)う御座(ござ)いますから、137それとも村(むら)の掟(きめ)で御(ご)成敗(せいばい)なさるのなら是非(ぜひ)は御座(ござ)いませぬ』
138玉清(たまきよ)『此(この)村(むら)は三十三(さんじふさん)戸(こ)御座(ござ)いまするが、139何(いづ)れも三五教(あななひけう)の信者(しんじや)で、140人間(にんげん)を裁(さば)くと云(い)ふ事(こと)を致(いた)しませぬ。141誠(まこと)の道(みち)を説(と)き聞(き)かせて、142この村外(むらはづ)れまで送(おく)り追放(つゐはう)する事(こと)になつて居(を)ります。143幸(さいは)ひ姫(ひめ)様(さま)が御(ご)訓戒(くんかい)を与(あた)へて下(くだ)さる事(こと)なら、144彼(かれ)も満足(まんぞく)するでせう。145然(しか)らばこれへ連(つ)れ参(まゐ)りますから』
146ダリ『ハイ、147お邪魔(じやま)乍(なが)らさう願(ねが)へれば結構(けつこう)で御座(ござ)いますが』
148玉清(たまきよ)『然(しか)らばこれから不寝番(ふしんばん)に申(まをし)付(つ)け、149此処(ここ)へ引張(ひつぱ)つて参(まゐ)りませう。150暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さい』
151と云(い)ひ乍(なが)ら足早(あしばや)に出(い)でて行(ゆ)く。
152 玉子姫(たまこひめ)も夫(をつと)の後(あと)に従(したが)ひ軽(かる)き目礼(もくれい)を施(ほどこ)し乍(なが)ら吾(わが)居間(ゐま)へと帰(かへ)り行(ゆ)く。153あとに残(のこ)つたダリヤ姫(ひめ)は悪人(あくにん)とは云(い)ひ乍(なが)ら、154何処(どこ)ともなしに憐(あは)れを催(もよほ)し、155如何(どう)かして彼(かれ)の心(こころ)を改(あらた)めしめむと、156クラヴィコードを弾(だん)じ乍(なが)ら神(かみ)に祈(いの)つてゐる。
157『天(あめ)と地(つち)とのその中(なか)に
158生(い)きとし生(い)ける物(もの)は沢(さは)あれど
159神(かみ)の形(かたち)に造(つく)られし
160人(ひと)は霊(かみ)の子(こ)霊(かみ)の宮(みや)と云(い)ふ
161そも人生(じんせい)の行路(かうろ)を尋(たづ)ぬれば
162川瀬(かはせ)の水(みづ)の流(なが)るる如(ごと)く
163朝(あした)夕(ゆふべ)に変(かは)り行(ゆ)く
164浮(う)きつ沈(しづ)みつ倒(こ)けつ転(まろ)びつ又(また)起(お)きつ
165人生(じんせい)の波(なみ)を渡(わた)り行(ゆ)く
166善(よ)きも悪(あ)しきも押(おし)なべて
167何(いづ)れも人(ひと)は神(かみ)の御子(みこ)
168なすべき業(わざ)は沢(さは)あれど
169人(ひと)の宝(たから)を掠(かす)めとり
170月日(つきひ)を送(おく)る人(ひと)こそは
171人(ひと)にして人(ひと)に非(あら)ず
172人(ひと)の皮(かは)着(き)る獣(けもの)ならめ
173バルギーだとて生(うま)れついての
174盗人(ぬすびと)には非(あら)ざらめ
175浮世(うきよ)の波(なみ)に襲(おそ)はれて
176聞(き)くも嫌(いや)らし盗人(ぬすびと)の
177群(むれ)に入(い)りたる事(こと)ならむ
178人(ひと)の情(なさけ)は彼(かれ)も知(し)る
179吾(われ)を慕(した)ひて山阪(やまさか)を
180此処(ここ)迄(まで)送(おく)り来(きた)りしは
181恋(こひ)とは云(い)へど一片(いつぺん)の
182誠心(まことごころ)の輝(かがや)きあればこそ
183スガの港(みなと)に至(いた)りなば
184悪(あ)しき心(こころ)を改(あらた)めて
185真人(まびと)にならむと誓(ちか)ひたる
186その舌(した)の根(ね)の乾(ひ)ぬ間(うち)に
187アヽあさましや人(ひと)の子(こ)の
188家(いへ)に忍(しの)びて黄金(わうごん)を
189盗(ぬす)む心(こころ)は何事(なにごと)ぞや
190吾(わが)身(み)を恋(こ)ふるその余(あま)り
191黄金(こがね)の宝(たから)を奪(うば)ひとり
192吾(わが)歓心(くわんしん)を買(か)はむとや
193扨(て)もあさましの心(こころ)かな
194三五教(あななひけう)の大御神(おほみかみ)
195彼(かれ)が心(こころ)に光明(くわうみやう)を
196射照(いて)り通(とほ)らせ片時(かたとき)も
197早(はや)く真人(まびと)の群(むれ)に入(い)り
198生(い)きて此(この)世(よ)の用(よう)に立(た)ち
199死(し)しては神(かみ)の常久(とことは)に
200あれます国(くに)に上(のぼ)り行(ゆ)き
201永久(とは)の生命(いのち)を楽(たの)しげに
202送(おく)らせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
203バルギーの男(を)の子(こ)に相代(あひかは)り
204ダリヤの姫(ひめ)が真心(まごころ)を
205こめて祈願(こひの)み奉(たてまつ)る
206あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
207恩頼(みたまのふゆ)を垂(た)れ玉(たま)へ
208恩頼(みたまのふゆ)を垂(た)れ玉(たま)へ』
209 かかる所(ところ)へ村人(むらびと)の声(こゑ)ガヤガヤと210バルギーを引立(ひつた)て乍(なが)ら門口(もんぐち)に送(おく)つて来(き)た。
211 バルギーは庭(には)の植込(うゑこみ)の中(なか)に蹲(しやが)み乍(なが)ら212ダリヤ姫(ひめ)に合(あ)はす顔(かほ)なしと、213顔(かほ)をも得(え)あげず落涙(らくるゐ)してゐる。214ダリヤ姫(ひめ)は庭下駄(にはげた)を穿(は)き、215ツカツカと其(その)側(そば)により、216扇子(せんす)もて二(ふた)つ三(み)つ彼(かれ)の頭(かうべ)を軽(かる)く打(う)ち乍(なが)ら、217涙(なみだ)の声(こゑ)を張(は)り上(あ)げて、
218『これ、219バルギーさま、220お前(まへ)さまは、221妾(わらは)に改心(かいしん)したと云(い)つた事(こと)はスツカリ嘘(うそ)だつたのですね、222何(なん)と云(い)ふあさましい事(こと)をなさいました。223世(よ)の中(なか)に為(な)す業(わざ)は沢山(たくさん)あるに、224夜陰(やいん)に紛(まぎ)れて人様(ひとさま)の家(いへ)に忍(しの)び入(い)り225悪虐(あくぎやく)無道(ぶだう)にも人(ひと)を括(くく)り上(あ)げ嚇(おど)し文句(もんく)を並(なら)べ立(た)て、226汗(あせ)や膏(あぶら)で貯(たくは)へた金(かね)を盗(と)らうとは実(じつ)に男子(だんし)の面汚(つらよご)し、227何(なん)と云(い)ふ悪魔(あくま)が貴方(あなた)に魅(みい)つたのでせう。228妾(わらは)は貴方(あなた)のやうな方(かた)と例令(たとへ)三日(みつか)でも道連(みちづ)れになつたのが残念(ざんねん)で御座(ござ)います。229然(しか)し妾(わらは)も貴方(あなた)にお断(ことわ)り申(まを)さねばならぬ事(こと)が御座(ござ)います。230三五教(あななひけう)のピユリタンであり乍(なが)ら231如何(どう)かしてあの岩窟(いはや)から身(み)を逃(のが)れむと、232今(いま)迄(まで)心(こころ)にもない事(こと)を云(い)つて貴方(あなた)を騙(たばか)つてゐました。233決(けつ)して私(わたし)は貴方(あなた)に恋慕(れんぼ)してはゐませぬ。234腹(はら)の底(そこ)をたたけば、235いやでいやで堪(たま)らないのですよ。236然(しか)し乍(なが)ら、237スガの里(さと)へ帰(かへ)るまで貴方(あなた)をうまく利用(りよう)せうと思(おも)つた私(わたし)の罪(つみ)、238幾重(いくへ)にもお詫(わび)を致(いた)します。239お前(まへ)さまが此(この)村(むら)へ来(き)て赤恥(あかはぢ)をかくのも、240ヤツパリ私(わたし)があつたため、241私(わたし)が悪(わる)いのです。242どうぞ只今(ただいま)限(かぎ)り心(こころ)を改(あらた)めて真人間(まにんげん)になつて下(くだ)さいませ。243そして又(また)スガの里(さと)の方(はう)へでもお越(こ)しになりましたら、244どうぞ吾(わが)家(や)へ訪問(はうもん)して下(くだ)さいや。245此(この)村(むら)は三五教(あななひけう)の信者(しんじや)で、246人(ひと)のよい方(かた)許(ばか)りだから貴方(あなた)の罪(つみ)を許(ゆる)して下(くだ)さるさうですから、247サア早(はや)くどつかへおいでなさいませ。248必(かなら)ず必(かなら)ず道(みち)で悪(わる)い事(こと)をなすつちやいけませぬよ。249これは少(すこ)し許(ばか)りですが路銀(ろぎん)に使(つか)つて下(くだ)さい』
250と襟(えり)に縫(ぬ)ひこんであつた小判(こばん)を一(いち)枚(まい)とり出(だ)しバルギーの懐(ふところ)に捻(ね)ぢこみ、251『左様(さやう)なら』と云(い)ひつつ、252しやくり泣(な)きし乍(なが)ら与(あた)へられた吾(わが)居間(ゐま)へと帰(かへ)り行(ゆ)く。253村人(むらびと)はムラムラとバルギーの周囲(しうゐ)をとりまき、254青竹(あをたけ)持(も)つて大地(だいち)を叩(たた)き乍(なが)ら、
255『サア立(た)て、256帰(かへ)れ』
257と後(あと)をおつたて、258村外(むらはづ)れをさして送(おく)り行(ゆ)く。
259 玉清別(たまきよわけ)夫婦(ふうふ)はヤツと胸(むね)を撫(な)で下(おろ)し、260再(ふたた)びダリヤ姫(ひめ)の居間(ゐま)に入(い)り来(きた)り、
261玉清(たまきよ)『ダリヤ様(さま)、262貴女(あなた)の見上(みあ)げたお志(こころざし)、263側(そば)に聞(き)いてゐた吾々(われわれ)二人(ふたり)は心(こころ)の底(そこ)から泣(な)かされましたよ。264あの御(ご)訓戒(くんかい)によつてバルギーも改心(かいしん)するで御座(ござ)いませう』
265ダリ『ハイ誠(まこと)に赤面(せきめん)の至(いた)りで御座(ござ)います。266バルギーさまが、267あのやうなザマになつたのも、268もとを訊(ただ)せば私(わたし)が悪(わる)いので御座(ござ)います。269お館(やかた)に迷惑(めいわく)を掛(か)けて相済(あひす)みませぬ。270穴(あな)でもあればもぐり込(こ)み度(た)いやうな気分(きぶん)が致(いた)します』
271玉子(たまこ)『何(なに)仰有(おつしや)います、272ダリヤ様(さま)、273貴女(あなた)の立場(たちば)としては、274時(とき)と場合(ばあひ)によつて、275バルギーを騙(だま)しなさるのも止(や)むを得(え)ませぬ、276何事(なにごと)も皆(みな)神(かみ)様(さま)のなさる業(わざ)で御座(ござ)います。277然(しか)し乍(なが)ら天真坊(てんしんばう)と云(い)ふ奴(やつ)、278途中(とちう)に待(ま)ち受(う)け、279どんな事(こと)をするかも知(し)れませぬから、280二三(にさん)日(にち)逗留(とうりう)なさつてお帰(かへ)りなさつたら安全(あんぜん)で御座(ござ)いませう。281その時(とき)は、282屈強(くつきやう)な村人(むらびと)を二三(にさん)人(にん)つけて送(おく)らせますから御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さい』
283ダリ『何(なに)から何(なに)まで、284お世話(せわ)になりまして誠(まこと)に有難(ありがた)う御座(ござ)います。285何分(なにぶん)宜(よろ)しくお願(ねが)ひ申(まを)します』
286(大正一四・一一・七 旧九・二一 於祥明館 北村隆光録)
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