霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一三章 詰腹(つめばら)〔一八〇二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻 篇:第2篇 迷想痴色 よみ(新仮名遣い):めいそうちしき
章:第13章 詰腹 よみ(新仮名遣い):つめばら 通し章番号:1802
口述日:1926(大正15)年01月31日(旧12月18日) 口述場所:月光閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年2月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
アリナは、玄真坊が左守シャカンナを兄弟分と呼び、自分の罪を認めようとしないのに困って、シャカンナ本人に相談にやってきた。
シャカンナは、3人の泥棒を内々に自分ひとりで取り調べることとなった。
シャカンナは、かつて自分が山賊をしていたことが、今回のことで明らかになってしまうのではないかとひそかに思い悩む
昔、政変で城を追われたシャカンナは、国政再興を夢見て、山賊となって力を蓄えようとした。しかし彼の悲願であった国政再興は、武力ではなく、娘のスバールが開明的な太子に見初められ、また自分を追放した政敵の息子=アリナの協力を得たことによって実現したのであった(第六十七巻第三篇から第六十八巻参照)。
シャカンナの前に引き出された3人は昔のことを並べ立て、無理難題をふっかけてシャカンナをゆする。
シャカンナは、昔の部下の有様に責任を感じ、金を与えて放免する。しかしその後すぐに、自分は遺書を残し、神前で切腹して果てた。
昔の義理によってしたこととはいえ、罪人を自分の一存で放免することは国法違反であり、その責任を取っての詰め腹であった。アリナは王・王妃に、シャカンナの遺書とともに事の顛末を報告したのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4313 OBC :rm7113
愛善世界社版:170頁 八幡書店版:第12輯 562頁 修補版: 校定版:178頁 普及版:83頁 初版: ページ備考:
001 左守(さもり)の司(かみ)の館(やかた)の離(はな)れ座敷(ざしき)には、002戸障子(としやうじ)を密閉(みつぺい)して右守(うもり)、003左守(さもり)が何事(なにごと)か秘々(ひそびそ)密談(みつだん)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。
004右(う)『左守(さもり)様(さま)、005此(この)間(あひだ)は広小路(ひろこうぢ)の大火(たいくわ)によりまして大変(たいへん)にお気(き)を揉(も)ましましたが006其(その)後(ご)何(なん)のお変(かは)りもありませぬか。007あの混雑(こんざつ)にまぎれ込(こ)み、008賊(ぞく)がお館(やかた)に忍(しの)び込(こ)みなど致(いた)しまして大変(たいへん)御(ご)心配(しんぱい)で御座(ござ)いませう』
009左(さ)『イヤ御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う御座(ござ)る。010ヤ、011もう年(とし)は取(と)り度(たく)ないものだ。012かうして床(とこ)の間(ま)の置物(おきもの)のやうに左守(さもり)の司(かみ)となつて居(ゐ)るが、013心(こころ)許(ばか)り焦(あせ)るのみでやくたいも無(な)い事(こと)で御座(ござ)る。014谷蟆山(たにぐくやま)の谷間(たにま)に居(を)つた時(とき)は015何(なん)とかして再(ふたた)び元(もと)の左守(さもり)となり、016国政(こくせい)の改革(かいかく)をかうもやつて見(み)よう、017あゝもやつて見(み)よう018と十(じふ)年(ねん)の間(あひだ)心胆(しんたん)を砕(くだ)いてゐたが、019実地(じつち)に当(あた)るとどうも甘(うま)く行(い)かぬものだ。020自分(じぶん)の心(こころ)では確(しつか)りして居(ゐ)るやうに思(おも)ふが、021何(なん)とはなしに耄碌(もうろく)したと見(み)えるわい』
022右(う)『左守(さもり)様(さま)、023何(なに)を仰有(おつしや)いますか、024貴方(あなた)の御(ご)名声(めいせい)は大変(たいへん)な人気(にんき)で御座(ござ)いますよ。025この右守(うもり)も貴方(あなた)の御(ご)威光(ゐくわう)によつて歪(ゆが)みながらも御用(ごよう)を勤(つと)めさして頂(いただ)いて居(を)りますが、026行(ゆ)き届(とど)かぬ事(こと)許(ばか)りで027さぞお目(め)だるい事(こと)で御座(ござ)いませう。028国王(こくわう)殿下(でんか)は未(いま)だ御(ご)若年(じやくねん)でもあり、029左守(さもり)様(さま)に気張(きば)つて貰(もら)はねば到底(たうてい)タラハン国(ごく)は支(ささ)へられますまい』
030左(さ)『賢明(けんめい)なる国王(こくわう)殿下(でんか)と云(い)ひ、031聰明(そうめい)なる其方(そなた)と云(い)ひ、032タラハン国(ごく)の柱石(ちうせき)はもはやビクとも致(いた)すまい。033吾(われ)は老年(らうねん)、034気(き)許(ばか)り勝(か)つて思(おも)ふやうに体(からだ)が動(うご)かない、035困(こま)つたものだ。036政務(せいむ)一切(いつさい)を其方(そなた)に打(う)ちまかして誠(まこと)に済(す)まないと思(おも)ふが、037若(わか)い時(とき)の辛労(しんらう)は買(か)ふてもせいと云(い)ふから038どうか一(ひと)つ気張(きば)つて下(くだ)さい。039自分(じぶん)は床(とこ)の間(ま)の置物(おきもの)で居(ゐ)るのだ』
040右(う)『何(なに)を仰有(おつしや)います。041青二才(あをにさい)の吾々(われわれ)、042何(なに)が出来(でき)ますものか、043皆(みな)左守(さもり)様(さま)のお指揮(しき)によつて、044どうなりかうなり御用(ごよう)が勤(つと)まつて居(ゐ)るので御座(ござ)いますから。045時(とき)に左守(さもり)様(さま)、046広小路(ひろこうぢ)の大火災(だいくわさい)の夜(よる)お館(やかた)へ忍(しの)び込(こ)んだ泥棒(どろばう)について昨日(さくじつ)取調(とりしら)べました処(ところ)、047大変(たいへん)な事(こと)を申(まをし)ますので048取調(とりしらべ)を中止(ちうし)し牢獄(らうごく)につないでおきましたが、049又(また)しても左守(さもり)様(さま)のお名(な)を引(ひ)き合(あ)ひに出(だ)しますので050陪臣(ばいしん)の手前(てまへ)誠(まこと)に困(こま)つて居(を)ります。051如何(いかが)致(いた)せば宜敷(よろし)う御座(ござ)いますか』
052左(さ)『此(この)左守(さもり)を引(ひ)き合(あひ)に出(だ)す泥棒(どろばう)とは一体(いつたい)何者(なにもの)で御座(ござ)るかな』
053右(う)『何(なん)でも天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)、054天帝(てんてい)の化身(けしん)、055第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)、056天真坊(てんしんばう)だとか申(まを)して居(を)ります。057そして左守(さもり)様(さま)とは兄弟分(きやうだいぶん)だと主張(しゆちやう)しますので、058一応(いちおう)伺(うかが)ひました上(うへ)取調(とりしらべ)をせうと思(おも)ひまして、059態々(わざわざ)お伺(うかが)ひ致(いた)した次第(しだい)で御座(ござ)います』
060 左守(さもり)は当惑(たうわく)さうな顔(かほ)をし乍(なが)ら、
061『右守(うもり)殿(どの)、062大方(おほかた)それは発狂者(はつきやうしや)で御座(ござ)らう。063兎(と)も角(かく)拙者(せつしや)が明日(みやうにち)取調(とりしら)べて見(み)ませう。064どうか誰(たれ)も来(こ)ないやうにして下(くだ)さい』
065右(う)『ハイ畏(かしこま)りまして御座(ござ)います。066夫(それ)から067もう二人(ふたり)の泥棒(どろばう)も天真坊(てんしんばう)と同様(どうやう)に左守(さもり)殿(どの)の御(お)名(な)を引(ひ)き合(あひ)に出(だ)し、068左守(さもり)の親分(おやぶん)に会(あは)せと主張(しゆちやう)致(いた)して居(を)ります』
069左(さ)『其(その)二人(ふたり)の泥棒(どろばう)の名(な)は何(なん)と云(い)ひましたかな』
070右(う)『ハイ、071一人(ひとり)はコブライと云(い)ひ、072一人(ひとり)はコオロと申(まをし)て居(を)ります』
073左(さ)『ハテナ、074谷蟆山(たにぐくやま)の岩窟(がんくつ)に……』
075と云(い)ひかけて俄(にはか)に言葉(ことば)を切(き)り、
076左(さ)『長(なが)らくの間(あひだ)拙者(せつしや)も谷蟆山(たにぐくやま)の奥(おく)深(ふか)く世(よ)を忍(しの)んで居(を)つたものだから様子(やうす)も分(わか)らず、077又(また)如何(いか)なるものが自分(じぶん)の顔(かほ)を見知(みし)つて吾(わが)名(な)を騙(かた)つて居(ゐ)るかも知(し)れますまい。078何(なに)は兎(と)もあれ三(さん)人(にん)の泥棒(どろばう)を右守(うもり)殿(どの)、079そつと吾(わが)館(やかた)へ呼(よ)んで来(き)て下(くだ)さいますまいか、080内々(ないない)取調(とりしら)べたい事(こと)が御座(ござ)るによつて……』
081右(う)『左守(さもり)様(さま)の仰(おほ)せとあらば、082仮令(たとへ)掟(おきて)に背(そむ)いても呼(よ)んで参(まゐ)りませう』
083左(さ)『いや白洲(しらす)で調(しら)べるのが規則(きそく)であれど、084この左守(さもり)は知(し)らるる通(とほ)りの老体(らうたい)、085到底(たうてい)足(あし)が続(つづ)かないから、086吾(わが)館(やかた)で取調(とりしら)べて見(み)たいと思(おも)ふのだ。087左守(さもり)は一国(いつこく)の宰相(さいしやう)、088吾(わが)家(や)で調(しら)べやうと、089白洲(しらす)で調(しら)べやうと些(ち)つとも差支(さしつか)へはない筈(はず)だ。090かかる例(ためし)は先王(せんわう)の時代(じだい)から幾度(いくど)もあつた事(こと)だから』
091右(う)『これはえらい失言(しつげん)を致(いた)しました。092然(しか)らば明日(みやうにち)はこれに引(ひ)き立(た)てて参(まゐ)りますから、093篤(とつく)りお調(しら)べを願(ねが)ひます。094左様(さやう)なら』
095と慇懃(いんぎん)に挨拶(あいさつ)を述(の)べ己(おの)が館(やかた)へ帰(かへ)り行(ゆ)く。096後(あと)に左守(さもり)は脇息(けふそく)にもたれ、097吐息(といき)をつきながら独語(ひとりごと)。
098『アヽ人間(にんげん)の行末(ゆくすゑ)位(ぐらゐ)果敢(はか)ないものはないなあ。099臥薪(ぐわしん)甞胆(しやうたん)十(じふ)年(ねん)の艱苦(かんく)を凌(しの)いでヤツと目的(もくてき)を達成(たつせい)し、100元(もと)の左守(さもり)となつて国政(こくせい)を改革(かいかく)し、101新王(しんわう)殿下(でんか)の政治(せいぢ)の枢機(すうき)に参与(さんよ)する身分(みぶん)となつたと思(おも)へば寸善(すんぜん)尺魔(しやくま)の世(よ)の中(なか)、102奸侫(かんねい)邪智(じやち)に長(た)けたる玄真坊(げんしんばう)が泥棒(どろばう)となつて入(い)り込(こ)み、103右守(うもり)に迄(まで)も吾(わが)古創(ふるきず)を羅列(られつ)して聞(き)かしたであらう。104アー情(なさけ)ない。105どうして今日(こんにち)の地位(ちゐ)が保(たも)たれやうか、106困(こま)つた事(こと)になつたものだ。107自分(じぶん)は心(こころ)より泥棒(どろばう)の親分(おやぶん)となつては居(ゐ)なかつたが、108タラハン国(ごく)を思(おも)ふ余(あま)り手段(しゆだん)を選(えら)まなかつたのが吾(わが)身(み)の不覚(ふかく)だ。109そして今度(こんど)の国政(こくせい)の改革(かいかく)について二百(にひやく)の部下(ぶか)は妨(さまた)げにこそなれ、110力(ちから)になつた奴(やつ)は一人(ひとり)もない。111あゝ世(よ)の中(なか)は正義(せいぎ)公道(こうだう)を踏(ふ)まねば末(すゑ)の遂(と)げられないものだなア』
112 左守(さもり)は来(こ)し方(かた)行末(ゆくすゑ)の事(こと)など思(おも)ひ浮(うか)べて、113其(その)夜(よ)は一目(ひとめ)も得眠(えねむ)らず夜(よ)を明(あか)して了(しま)つた。
114 烏(からす)は塒(ねぐら)を放(はな)れて嬉(うれ)しげに太平(たいへい)を歌(うた)ひ、115雀(すずめ)はチユンチユンと愉快気(ゆくわいげ)に軒(のき)に囀(さへづ)つて居(ゐ)る。116左守(さもり)は之(これ)を眺(なが)めて又(また)もや独語(ひとりごと)、
117『あゝ私(わし)は何故(なぜ)あの烏(からす)に生(うま)れて来(こ)なかつたらう。118自由(じいう)自在(じざい)に大空(たいくう)を何(なん)の憚(はばか)る事(こと)もなく前後(ぜんご)左右(さいう)に翺翔(かうしやう)する様(さま)はまるで天人(てんにん)のやうだ。119雀(すずめ)は無心(むしん)の声(こゑ)を放(はな)つて千代(ちよ)々々(ちよ)とないてゐる。120それにも拘(かかは)らず、121神(かみ)の生宮(いきみや)と生(うま)れた人間(にんげん)の吾(わが)身(み)、122何故(なぜ)まアこれだけ苦(くる)しみの深(ふか)い事(こと)だらう』
123と吐息(といき)を漏(も)らして居(ゐ)る処(ところ)へ、124玄真坊(げんしんばう)、125コブライ、126コオロの三(さん)人(にん)は獄吏(ごくり)に護(まも)られ大手(おほで)を振(ふ)り乍(なが)ら127裏門(うらもん)を潜(くぐ)つて左守(さもり)の居間(ゐま)の庭先(にはさき)へやつて来(き)た。128左守(さもり)は玄真坊(げんしんばう)の姿(すがた)を見(み)るよりアツと許(ばか)りに打(う)ち驚(おどろ)き卒倒(そつたう)せむとしたが、129吾(われ)と吾(わが)手(て)に気(き)を取(と)り直(なほ)し、
130『やア獄卒(ごくそつ)共(ども)御(ご)苦労(くらう)であつた。131三(さん)人(にん)の者(もの)はこの左守(さもり)が預(あづ)かつておく。132早(はや)く帰(かへ)つて呉(く)れ』
133獄卒(ごくそつ)『ハーイ』
134と云(い)ひ乍(なが)ら獄卒(ごくそつ)は逸早(いちはや)く此(この)場(ば)を立(た)ち去(さ)つた。135傍(かたはら)に人(ひと)なきを見(み)済(すま)した玄真坊(げんしんばう)は136遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなくツカツカと座敷(ざしき)に飛(と)び上(あが)り、137左守(さもり)の前(まへ)に胡座(あぐら)をかき黙然(もくぜん)として左守(さもり)の顔(かほ)を睨(ね)めつけて居(ゐ)る。138コブライ、139コオロの両人(りやうにん)も玄真坊(げんしんばう)の左右(さいう)に胡座(あぐら)をかき、140無雑作(むざふさ)に控(ひか)へて居(ゐ)る。
141左守(さもり)『ヤアお前(まへ)は玄真坊(げんしんばう)ぢやないか、142何処(どこ)を迂路(うろ)ついて居(ゐ)たのだ。143さうしてダリヤ姫(ひめ)は手(て)に入(い)つたのか、144其(その)後(ご)の経過(けいくわ)を話(はな)して呉(く)れ』
145玄真坊(げんしんばう)『ハヽヽヽヽ、146ダリヤはどうでもよいが147オイ兄貴(あにき)、148随分(ずいぶん)山(やま)カンが当(あた)つたものだのう。149綺麗(きれい)な娘(むすめ)を持(も)つたおかげで、150一国(いつこく)の宰相(さいしやう)と迄(まで)なり上(あが)つたのだから、151些(ち)つとはおごつて貰(もら)つても好(よ)かりさうなものだ。152此(この)間(あひだ)もタラハン市(し)の火事(くわじ)と聞(き)くより兄貴(あにき)の家(いへ)が険呑(けんのん)と思(おも)ひ、153この両人(りやうにん)と共(とも)に救援(きうゑん)に向(むか)つたところ、154訳(わけ)のわからぬ雑兵(ざふひやう)どもが泥棒(どろばう)と間違(まちが)へ牢獄(らうごく)にぶち込(こ)みよつたのだ。155お前(まへ)も俺(おれ)の危難(きなん)を聞(き)かんでも無(な)からうに、156素知(そし)らぬ顔(かほ)とはあまり虫(むし)がよすぎるぢやないか。157そしてあの右守(うもり)の青二才(あをにさい)奴(め)、158俺(おれ)に対(たい)して無礼(ぶれい)の言(こと)をほざきよつた。159どうだ兄貴(あにき)、160兄弟(きやうだい)の誼(よしみ)で俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)いて呉(く)れないか』
161左(さ)『一体(いつたい)どうせいと云(い)ふのだ』
162玄(げん)『外(ほか)でもない、163あの右守(うもり)を免職(めんしよく)さしてその後釜(あとがま)にこの玄真坊(げんしんばう)を直(なほ)すか、164それも叶(かな)はずば、165兄貴(あにき)が右守(うもり)となり、166俺(おれ)を左守(さもり)に推薦(すいせん)するか、167二(ふた)つに一(ひと)つの頼(たの)みを聞(き)いて貰(もら)ひてえのだ』
168左(さ)『外(ほか)の事(こと)なら何(なん)でも聞(き)いてやるが、169オーラ山(さん)で泥棒(どろばう)をやつて居(を)つたお前(まへ)を、170左守(さもり)の司(かみ)に推薦(すいせん)する事(こと)は到底(たうてい)叶(かな)ふまい。171殿下(でんか)のお許(ゆる)しが無(な)いに定(きま)つて居(ゐ)るからのう』
172 玄真坊(げんしんばう)は大口(おほぐち)あけて高笑(たかわら)ひ、
173玄(げん)『ハヽヽヽヽ、174オイ兄貴(あにき)、175そりや何(なに)をいふのだ。176俺(おれ)はオーラ山(さん)に於(おい)て三千(さんぜん)人(にん)の泥棒(どろばう)の大親分(おほおやぶん)だぞ、177兄貴(あにき)は僅(わづ)かに二百(にひやく)人(にん)の小泥棒(こどろばう)の親分(おやぶん)ぢやないか、178二百(にひやく)人(にん)の親分(おやぶん)が左守(さもり)となつて、179三千(さんぜん)人(にん)の大親分(おほおやぶん)が左守(さもり)になれないと云(い)ふわけがあるか。180それはチと勝手(かつて)な理窟(りくつ)ぢやないか』
181 左守(さもり)は「ウン」と云(い)つたきり、182黙念(もくねん)として頸垂(うなだれ)る。183コブライは膝(ひざ)をにじりよせ、
184『もし親分(おやぶん)、185貴方(あなた)は目的(もくてき)を達(たつ)したらお前(まへ)を重臣(ぢうしん)に使(つか)つてやらうと仰有(おつしや)つたな。186なア コオロお前(まへ)だつてさうだらう。187毎日(まいにち)々々(まいにち)日課(につくわ)のやうに聞(き)かされて居(を)つたのだからのう。188俺(おれ)だつて泥棒(どろばう)をして居(ゐ)たい事(こと)はないが、189何分(なにぶん)親分(おやぶん)の命令(めいれい)を忠実(ちうじつ)に守(まも)つてやつて来(き)たのだから、190親分(おやぶん)が出世(しゆつせ)すりや俺(おれ)達(たち)も出世(しゆつせ)するが当然(あたりまへ)ぢやないか』
191コオ『ウン、192そりやその通(とほ)りだ。193もし親分(おやぶん)、194いや左守(さもり)さま、195この瘠(やせ)つ節(ぷし)を買(か)つて下(くだ)さるでせうなア』
196左守(さもり)『そりや確(たしか)にお前(まへ)達(たち)にも其(そ)の約束(やくそく)はしておいた筈(はず)だ。197併(しか)し今日(こんにち)ではその約束(やくそく)を実行(じつかう)出来(でき)ないのを遺憾(ゐかん)とする。198仮令(たとへ)吾(わが)館(やかた)へ応援(おうゑん)に来(き)てくれたにもせよ、199護衛兵(ごゑいへい)の目(め)を忍(しの)び裏門(うらもん)から忍(しの)び込(こ)み、200宝庫(ほうこ)の錠前(ぢやうまへ)を捻切(ねぢき)らうとして居(ゐ)たのだから201誰(たれ)の目(め)から見(み)ても泥棒(どろばう)としか認(みと)められない。202今日(こんにち)は最早(もはや)お前方(まへがた)を罪人(ざいにん)と認(みと)める。203心易(こころやす)いは常(つね)の事(こと)、204タラハン国(ごく)の掟(おきて)は枉(ま)げる事(こと)は出来(でき)ない。205三(さん)人(にん)共(とも)死罪(しざい)に処(しよ)すべきが掟(をきて)なれ共(ども)、206兄弟分(きやうだいぶん)や主従(しゆじゆう)の誼(よしみ)で俺(おれ)が見逃(みのが)してやらう。207サア一時(いつとき)も早(はや)く裏門(うらもん)から姿(すがた)を隠(かく)したらよからう。208此(この)上(うへ)タラハン城(じやう)に迂路(うろ)つけば再(ふたた)び捕縛(ほばく)せらるるであらう、209さうすりやもう俺(おれ)の手(て)には及(およ)ばない』
210玄(げん)『エヽ仕方(しかた)がない、211今日(けふ)はおとなしく帰(かへ)つてやらう、212併(しか)し左守(さもり)213随分(ずいぶん)金(かね)が溜(たま)つたらう、214ちと土産(みやげ)にくれないか、215金(かね)なしには何所(どこ)へ行(ゆ)くわけにも行(ゆ)かないからな』
216左(さ)『そんなら仕方(しかた)がない、217お前(まへ)が忍(しの)び込(こ)もうとしたあの庫(くら)の中(なか)の有金(ありがね)をすつかりやるから、218それを持(も)つて早(はや)く姿(すがた)を隠(かく)してくれ。219後(あと)は私(わし)が何(なん)とか始末(しまつ)を付(つ)けて置(お)くから』
220玄(げん)『ヤ、221実(じつ)の処(ところ)はお察(さつ)しの通(とほ)り其(その)金(かね)が欲(ほ)しかつたのだ。222遉(さすが)は兄貴(あにき)だ』
223コ『ヤア遉(さすが)は親方(おやかた)……金(かね)さへあれば名(な)も位(くらゐ)も何(なに)も要(いら)ぬぢやないか』
224コオ『親分(おやぶん)有難(ありがた)う、225そんなら遠慮(ゑんりよ)なしに三(さん)人(にん)分配(ぶんぱい)して帰(かへ)ります』
226 これより三(さん)人(にん)は山吹色(やまぶきいろ)の小判(こばん)をしこたま身(み)につけ227裏門(うらもん)より木(こ)の葉(は)茂(しげ)れる密林(みつりん)を縫(ぬ)ふて、2271何処(いづこ)ともなく姿(すがた)を隠(かく)した。228後(あと)に左守(さもり)は料紙(れうし)を取(と)りよせ、229筆(ふで)の跡(あと)も麗々(れいれい)しく230国王(こくわう)、231王妃(わうひ)両殿下(りやうでんか)を初(はじ)め右守(うもり)に当(あ)てたる書置(かきおき)を残(のこ)し、232自分(じぶん)は白装束(しらしやうぞく)となつて、233三五(あななひ)の大神(おほかみ)の祭(まつ)りある神前(しんぜん)にて腹(はら)掻(か)き切(き)り立派(りつぱ)な最後(さいご)を遂(と)げた。
234 かかる事(こと)とは夢露(ゆめつゆ)知(し)らぬ右守(うもり)の司(かみ)は、235様子(やうす)如何(いか)にと再(ふたた)び左守(さもり)の館(やかた)を訪(と)ひ、236案内(あんない)もなく離棟(はなれ)の座敷(ざしき)に行(い)つて見(み)れば237左守(さもり)は紅(あけ)に染(そま)つて縡(ことき)れて居(ゐ)た。238そして其処(そこ)に三通(さんつう)の遺書(ゐしよ)が認(したた)めてあつた。239アリナは取(と)るものも取(と)りあへず240自分(じぶん)宛(あて)のを封(ふう)押(お)し切(き)つて読(よ)み下(くだ)せば左(さ)の通(とほ)りであつた。
 
241一、242拙者(せつしや)事(こと)、243国王(こくわう)殿下(でんか)のお見出(みだ)しに預(あづか)り日頃(ひごろ)の願望(ぐわんまう)を達(たつ)し、244国政(こくせい)に参与(さんよ)の栄(えい)を担(にな)ひ居(を)り候(さふらふ)処(ところ)、245今日(こんにち)玄真坊(げんしんばう)、246コブライ、247コオロの無頼漢(ぶらいかん)、248左守(さもり)たる拙者(せつしや)に向(むか)ひ無礼(ぶれい)の言(げん)を吐(は)き候(さふらふ)も、249これを咎(とが)むるの権威(けんゐ)なく、250止(や)むを得(え)ず金銭(きんせん)を与(あた)へて逃(に)げ帰(かへ)らし申(まをし)候(さふらふ)。251斯(かく)の如(ごと)き左守(さもり)の処置(しよち)は国王(こくわう)殿下(でんか)の発布(はつぷ)されたる法律(はふりつ)を無視(むし)し、252且(かつ)蹂躙(じうりん)せる大罪(だいざい)にして、253到底(たうてい)此(この)儘(まま)職(しよく)に留(とど)まるべき資格(しかく)なく、254国家(こくか)の大罪人(だいざいにん)なれば、255両殿下(りやうでんか)を初(はじ)め、256右守(うもり)殿(どの)其(その)他(た)国民(こくみん)一般(いつぱん)に対(たい)し謝罪(しやざい)のため、257皺腹(しわばら)切(き)つて相果(あひは)て申(まをし)候(さふらふ)。258今後(こんご)は何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)殿下(でんか)を輔(たす)け奉(まつ)り、259タラハン国(ごく)の基礎(きそ)を益々(ますます)鞏固(きようこ)ならしむべく、260奮励(ふんれい)努力(どりよく)あらむ事(こと)を願(ねが)ひ申(まをし)候(さふらふ)
261      国家(こくか)の大罪人(だいざいにん) シヤカンナより
262   右守(うもり)殿(どの) 参(まゐ)る
 
263と認(したた)めてあつた。264アリナは之(これ)を見(み)るより驚(おどろ)き乍(なが)らもわざと素知(そし)らぬ顔(かほ)を装(よそほ)ひ、265城中(じやうちう)に参内(さんだい)して両殿下(りやうでんか)に事(こと)の顛末(てんまつ)を詳細(つぶさ)に言上(ごんじやう)し、266二通(につう)の遺書(ゐしよ)を捧呈(ほうてい)した。267あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
268(大正一五・一・三一 旧一四・一二・一八 於月光閣 加藤明子録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→