霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


【新着情報】サイトの全面改修に伴いサブスク化します。詳しくはこちらをどうぞ。(2023/12/19)
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第一一章 異志(いし)(ぼとけ)〔一八〇〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻 篇:第2篇 迷想痴色 よみ(新仮名遣い):めいそうちしき
章:第11章 異志仏 よみ(新仮名遣い):いしぼとけ 通し章番号:1800
口述日:1926(大正15)年01月31日(旧12月18日) 口述場所:月光閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年2月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
玄真坊は逃げるうちにコブライ、コオロとはぐれてしまう。そこへ、二人の捕り手に追い詰められ、道ばたの辻堂に逃げ込み、石仏に化けてやり過ごそうとする。
二人の捕り手は玄真坊を追って辻堂にやってくるが、玄真坊が化けた石仏が生きているのに肝をつぶし、腰を抜かしてしまう。
玄真坊は逆に捕り手の食料を奪い、打ち倒してゆうゆうと逃げ去る。
その後、泥棒をしながらタラハン市の宿屋に逗留していたが、偶然、宿帳にコブライ・コオロの名前を見つけ、二人の部下と合流することができた。
3人は、かつて自分たちの頭領であったシャカンナが、今は国家の左守として権勢を振るっているのをやっかみ、左守の屋敷に泥棒に入ることに決めた。
深夜、闇にまぎれて左守家に向かっていた矢先、火事が起こって市中騒然となる。が、3人は逆に火事場泥棒を決め込んで、泥棒を決行する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-05-28 02:49:56 OBC :rm7111
愛善世界社版:143頁 八幡書店版:第12輯 552頁 修補版: 校定版:149頁 普及版:70頁 初版: ページ備考:
001 玄真坊(げんしんばう)はコブライ、002コオロの両人(りやうにん)(おも)(おも)ひに追手(おつて)(おどろ)いて(わか)れて(しま)ひ、003当途(あてど)もなしに西(にし)西(にし)へと月夜(つきよ)(さいは)()()したが、004(ほとん)空腹(くうふく)(ため)身体(しんたい)(よわ)()て、005(あし)(あゆ)みも捗々(はかばか)しからず、006どつかの民家(みんか)(たづ)ねてパンにありつかむものと、007(けむり)何処(どこ)かに()えぬかと、008一生(いつしやう)懸命(けんめい)(そら)()き、009覚束(おぼつか)なき(あし)(あゆ)んでゐると、010(かたはら)森林(しんりん)(なか)から「オイ、011オーイ」と(ひと)()(こゑ)(きこ)えて()た。012玄真坊(げんしんばう)は「ハテ(いぶ)かしや、013かやうな(ところ)自分(じぶん)(よび)とめる(もの)はない(はず)だ。014(さつ)する(ところ)昨夜(さくや)捕手(とりて)(やつ)015こんな(ところ)(まで)()しやばつて、016吾々(われわれ)先廻(さきまは)りをしてゐるに(ちが)ひない、017コリヤうつかりして()れぬ、018三十六(さんじふろく)(けい)(おく)()()ぐるに()くはなし」と019(つか)れたコンパスに(より)をかけ、020(また)もや草花(くさばな)(しげ)綺麗(きれい)原野(げんや)一生(いつしやう)懸命(けんめい)()()す。021(あと)から二人(ふたり)追手(おつて)十手(じつて)打振(うちふ)(なが)ら、022「オイ、023オーイ」と(こゑ)(かぎ)りに()つかけ(きた)る。024トンと()(あた)つた前方(ぜんぱう)峻山(しゆんざん)025最早(もはや)自分(じぶん)到底(たうてい)(にげ)おうす(こと)出来(でき)まいと、026路傍(ろばう)辻堂(つじだう)見付(みつ)けて、027少時(しばし)姿(すがた)(かく)さむと這入(はい)りみれば、028等身(とうしん)石仏(いしぼとけ)()つてゐる。029矢庭(やには)玄真(げんしん)満身(まんしん)(ちから)をこめて、030(くび)のあたりをグツと()すと、031石仏(いしぼとけ)()もなく(たふ)れて(しま)つた。032玄真(げんしん)石仏(いしぼとけ)(たふ)れた(あと)台石(だいいし)にスークと()033不格好(ぶかつかう)羅漢面(らかんづら)をさらし(なが)(ひだり)()をふりあげ、034(みぎ)()(ひざ)のあたり(まで)さげ035石仏(いしぼとけ)()けて追手(おつて)()(のが)れむと、0351早速(さつそく)頓智(とんち)036そこへ(やうや)(かけ)つけやつて()二人(ふたり)追手(おつて)辻堂(つじだう)見付(みつ)けて、
037(かふ)『オイ、038あの泥棒(どろばう)はどつか、039ここらの(くさ)(なか)へでも沈澱(ちんでん)しやがつたとみえて、040(かげ)(かたち)()くなつたぢやないか、041こんな(もの)(さが)しに()つたつて(くも)(つか)()うなものだ、042彼奴(あいつ)魔法使(まはふづかひ)かも()れぬぞ。043()(かく)(この)辻堂(つじだう)があるのを(さいはひ)044コンパスに休養(きうやう)(めい)じたらどうだい。045(はら)相当(さうたう)()つて()たなり、046(いのち)(がけ)活動(はたらき)をして(つか)まへた(ところ)で、047(わづか)()くされ(がね)褒美(ほうび)(もら)(だけ)だ。048一遍(いつぺん)散財(さんざい)したら(しま)ひだからのう』
049(おつ)『そらさうだ、050(おれ)だつてお(まへ)だつて、051(いま)()うして堅気(かたぎ)になり、052追手(おつて)(やく)(つと)めてゐるものの、053(もと)(あら)へば立派(りつぱ)人間(にんげん)ぢやないからの、054グヅグヅしてをれば(はな)(した)干上(ひあが)るなり、055せう(こと)なしの追手(おつて)(やく)だ。056マア(この)(はる)()(なが)いのに泥棒(どろばう)一人(ひとり)(ぐらゐ)(つか)まへたつて、057(あま)()(ため)にもなるまいし、058(からだ)肝腎(かんじん)だ。059ア、060(この)辻堂(つじだう)(さいはひ)一服(いつぷく)せうぢやないか』
061(かふ)此処(ここ)には(めう)石仏(いしぼとけ)()つてゐるぞ、062(この)石工(いしく)(たれ)がやつたのか()らぬが、063(まる)生仏(いきぼとけ)()うだ、064(ひと)煙草(たばこ)でも()もうぢやないか』
065()(なが)ら、066ケチケチと火打(ひうち)()()し、067煙管(きせる)(さら)()うな雁首(がんくび)煙草(たばこ)一杯(いつぱい)()つて()をつけ、068両人(りやうにん)はスパリスパリと()(はじ)めた。069一服(いつぷく)()ふては石仏(いしぼとけ)(あし)(かふ)へポンポンと()(はら)ひ、070(また)煙草(たばこ)をつぎかへては()ひつける。071玄真坊(げんしんばう)(あつ)くてたまらず、072(くろ)(かほ)真中(まんなか)(はう)から、073(しろ)()(むき)()し、074(なみだ)さへたらし()した。075二人(ふたり)はフツと(うへ)むく途端(とたん)に、076石仏(いしぼとけ)()がグリグリと(まは)り、077(なみだ)さへ(おと)してゐるので、
078『ヤア、079此奴(こいつ)化物(ばけもの)だ』
080(おどろ)きの(あま)り、081アツと()つて(こし)をぬかし、
082『アヽヽヽ、083羅漢(らかん)さま、084どうぞお(ゆる)(くだ)さいませ。085エライ失礼(しつれい)(こと)(いた)しました。086どうにもかうにも(こし)()ちませぬワ。087どうぞ一口(ひとくち)(ゆる)すと()つて(くだ)さいませ。088さうすると(こひ)しい女房(にようばう)(うち)(かへ)(こと)出来(でき)ます。089(その)(かは)追手(おつて)(やく)孫子(まごこ)(だい)まで(いた)しませぬ』
090両手(りやうて)(あは)せて一生(いつしやう)懸命(けんめい)(たの)()む。091玄真(げんしん)(こころ)(うち)で「ハヽア、092バカな(やつ)だな、093此奴(こいつ)094本者(ほんもの)だと(おも)つてゐるらしい、095(こし)()けたとあらばモウ大丈夫(だいぢやうぶ)だ、096ソロソロ還元(くわんげん)してやらうかな………」と(だい)(うへ)からポイと()びおり、
097(げん)『コーリヤ、098木端(こつぱ)役人(やくにん)(ども)099神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)(おれ)魔力(まりよく)には(おどろ)いただろ、100(おれ)泥棒(どろばう)張本(ちやうほん)玄真坊(げんしんばう)(さま)だぞ。101ここな石仏(いしぼとけ)(この)(とほ)り、102(おれ)小指(こゆび)一本(いつぽん)(おし)(たふ)し、103(その)(あと)(おれ)()てつて()つたのだ。104(こし)()けたとありや、105()うすることも出来(でき)まい。106(きさま)少々(せうせう)(ぐらゐ)(かね)()つてをらう。107有金(ありがね)(のこ)らずこちらへよこせ……ナニ、108ないと(まを)すか、109(こし)にブラ()げてるのは、110そら(なん)だ』
111(かふ)『ヤ、112コリヤ弁当(べんたう)(のこ)りで御座(ござ)いますよ』
113(げん)『ヨーシ、114(わか)つてる、115(おれ)(はら)()つた(ところ)だ。116仮令(たとへ)(きさま)()ひさしにしろ、117(いのち)にはかへられぬ、118此方(こちら)へよこせ』
119()(なが)ら、120無理(むり)無体(むたい)にひきむしり、121一人(ひとり)弁当(べんたう)(たひら)げて(しま)ひ、122(また)(つぎ)(やつ)(こし)弁当(べんたう)をむしつて一粒(ひとつぶ)(のこ)らぬ(ところ)(まで)123いぢ(ぎたな)()(をは)り、124弁当箱(べんたうばこ)小口(こぐち)から(した)(かは)(あら)つて(しま)つた。
125(かふ)『モシ玄真(げんしん)さま、126(まへ)さまは大変(たいへん)神力(しんりき)のある(かた)だな、127到底(たうてい)吾々(われわれ)()には()ひませぬワ。128(まへ)さまの(つら)()てさへ(この)(とほ)(こし)()けて(しま)ふんだもの』
129(げん)『ワツハヽヽ、130(この)(はう)()神力(しんりき)には随分(ずいぶん)(おどろ)いただろ、131(きさま)一体(いつたい)(なん)といふ(やつ)だ』
132(かふ)(わたし)なんか()のあるやうな()()いた(もの)ぢや御座(ござ)いませぬ。133(しか)(なが)134(おや)()けてくれたか(ひと)()けてくれたか()りませぬが、135(わたし)はトンビと(まを)します。136一人(ひとり)(をとこ)はカラスと(まを)します』
137(げん)成程(なるほど)138トンビにカラス、139此奴(こいつ)面白(おもしろ)い、140そんなら(おれ)二人(ふたり)家来(けらい)(みち)ではぐれて(しま)つたのだから、141(まへ)()二人(ふたり)家来(けらい)にしてやらう。142どうだ143改心(かいしん)(いた)して追手(おつて)(やく)はやめるか』
144ト『ヘーヘ、145やめます(とも)146(なに)(ほど)147追手(おつて)よりもお(まへ)さまの乾児(こぶん)になつてる(はう)()()いてるか()れませぬワ。148のうカラス、149(きさま)もさうだらう』
150カ『お(まへ)意見(いけん)(どほり)だ。151モシ、152玄真(げんしん)さまとやら、153どうか(よろ)しうお(ねが)(まをし)ます』
154(げん)『ヨーシ、155(わか)つた。156そんなら(これ)から(おれ)のいふ(とほり)するのだよ。157(なん)でも命令(めいれい)服従(ふくじゆう)するのだぞ。158サア、1581()かう』
159ト『モーシモシ玄真(げんしん)さま、160()かうと仰有(おつしや)つても(こし)()ちませぬがな。161どうか貴方(あなた)神力(しんりき)でお(なほ)(くだ)さる(わけ)には(まゐ)りませぬか』
162(げん)『エー、163仕方(しかた)がねい、164(なほ)してやろ。165(その)(かは)(この)(こし)(なほ)つたら最後(さいご)166(おれ)神力(しんりき)(みと)めるだらうな』
167ト『ヘーヘ、168(みと)める(どころ)(だん)ぢやありませぬ、169(すで)(すで)(こし)()かした(とき)から、170(まへ)さまの神力(しんりき)(みと)めて()家来(けらい)にして(くだ)さいと(ねが)つてゐるのですもの』
171(げん)『ウーン成程(なるほど)172さうに間違(まちがひ)なからう』
173()(なが)ら、174両人(りやうにん)(こし)(あた)りをメツタ矢鱈(やたら)握拳(にぎりこぶし)(かた)めて(なぐ)りつけた。175二人(ふたり)(あま)りの(いた)さに(おも)はず()らず(たち)(あが)り、176一間(いつけん)(ばか)(にげ)()し、177(また)もやパタリと(たふ)れて(しま)つた。
178(げん)『ハツハヽヽ腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)だな、179(この)(やう)(もの)何万(なんまん)(にん)()れてゐたつて、180手足纏(てあしまと)ひになる(ばか)りだ。181(また)(こし)(なほ)つたらついて()い、182キツト家来(けらい)にしてやらう。183(おれ)天下(てんか)経綸(けいりん)事業(じげふ)(いそが)しいから御免(ごめん)(かうむ)らう、184ても(さて)(あは)れな代物(しろもの)だなア』
185(あご)()()つしやくり、186阪路(さかみち)元気(げんき)よく鼻唄(はなうた)(うた)(なが)(のぼ)()く。
187 (これ)より玄真坊(げんしんばう)彼方(あなた)此方(こなた)に、188(ひる)山野(さんや)()(よる)泥棒(どろばう)(かせ)いで、189(ひやく)(にち)(あま)りを(すご)した。190(また)もやダリヤ(ひめ)(こと)(おも)()し、191()ひたくて(たま)らず、192(なん)とかして(うま)彼女(かれ)()()れたいものだと、193少々(せうせう)(ふところ)(ぬく)くなつたので、194タラハン城市(じやうし)変装(へんさう)して(しの)()み、195タラハン市中(しちう)でも一等(いつとう)旅館(りよくわん)(きこ)えたる丸太(まるた)ホテルに(とま)()んで(しま)つた。196玄真坊(げんしんばう)(おく)二間造(ふたまづく)りの別室(べつしつ)(きよ)(かま)へ、197種々(いろいろ)とタラハン(じやう)転覆(てんぷく)(ゆめ)辿(たど)つてゐる。198そこへ下女(げぢよ)(ちや)()んで(いで)(きた)り、
199『モシお客様(きやくさま)200主人(しゆじん)から、201ネームを(うけたま)はつて()いと(おほ)せられましたが、202どうか(この)宿帳(やどちやう)にお(しる)(くだ)さいませ』
203(げん)『あゝよしよし』
204()(なが)ら、205スラスラと宿帳(やどちやう)(しる)した。206宿帳(やどちやう)(おもて)にはバリヲンと()(しる)し、
207(げん)(おれ)はな、208ハルナの(みやこ)から遙々(はるばる)大黒主(おほくろぬし)さまの命令(めいれい)()つて、209諸国(しよこく)視察(しさつ)(ため)行脚(あんぎや)()()てゐる(もの)だが、210最早(もはや)七千(しちせん)余国(よこく)遍歴済(へんれきずみ)となり、211当家(たうけ)(おい)てゆるゆると二三(にさん)(げつ)(ばか)休息(きうそく)さして(もら)(つも)りだから、212主人(しゆじん)(よろ)しく()ふてくれ。213そして宿賃(やどちん)には(けつ)して心配(しんぱい)かけないから、214朝夕(あさゆふ)膳部(ぜんぶ)にはな、215()をつけるやうに(たの)んでおく』
216といひ(なが)ら、217宿帳(やどちやう)二三(にさん)(まい)繰返(くりかへ)してみると、218二三(にさん)日前(にちまへ)から、219コブライ、220コオロが(とま)つてゐると()えて、221自筆(じひつ)姓名(せいめい)(しる)してある。222玄真坊(げんしんばう)(なに)()はぬ(かほ)して下女(げぢよ)(むか)ひ、
223『ここにコブライとか、224コオロとかいふ(きやく)(とま)つて()ないかのう』
225下女(げぢよ)『ハイ、226(とま)つて()られましたが、227昨日(きのふ)()(くれ)に、228一寸(ちよつと)そこ(まで)見物(けんぶつ)()ると仰有(おつしや)つたきり、229まだお(かへ)りになりませぬので、230心配(しんぱい)をしてゐる(ところ)御座(ござ)います』
231(げん)『あゝさうか、232フーン』
233()(なに)貴方(あなた)234(この)(かた)()関係(くわんけい)御座(ござ)いますのですか』
235(げん)『ナーニ(べつ)関係(くわんけい)(なに)もない、236()()らずの(ひと)だが(あま)面白(おもしろ)()だから、237一寸(ちよつと)(たづ)ねてみたのだ。238ヨ、239(これ)(おれ)心付(こころづけ)だ』
240()(なが)(ふところ)から鳥目(てうもく)取出(とりだ)し、241下女(げぢよ)()(あた)へた。242下女(げぢよ)(よろこ)んで()(いただ)き、243母家(おもや)(はう)(かへ)つて()く。244(あと)玄真坊(げんしんばう)(うで)()吐息(といき)をつき(なが)ら、
245『アーア、246世間(せけん)()ふものは(ひろ)いやうでも(せま)いな。247三月(みつき)以前(いぜん)追手(おつて)にかかり、248(かれ)()両人(りやうにん)にはぐれて(しま)ひ、249何処(どこ)()つたかと(おも)ふてをれば、250(しか)(おな)宿(やど)(とま)つてゐたとは(じつ)不思議(ふしぎ)だ。251ア、252(さつ)する(ところ)253(かれ)()両人(りやうにん)(この)(おれ)がタラハン()大望(たいまう)遂行(すゐかう)(ため)()てゐるに(ちが)ひないと目星(めぼし)をつけ、254彼方(あなた)此方(こなた)行方(ゆくへ)(さが)してゐるのだらう。255(いづ)今日(けふ)明日(あす)(うち)には(かへ)つて()るだらうから、256様子(やうす)(わか)らうし、257マア(ゆつく)休養(きうやう)せうかい』
258(ひとり)ごちつつ(ひぢ)(まくら)にゴロンと(よこ)たはり、259グウグウと(らい)()うな(いびき)をかいて()(しま)つた。
260 少時(しばらく)すると(また)もや下女(げぢよ)がやつて()て、
261『モシモシお(きやく)さま、262エー、263貴方(あなた)のお(はなし)になつて()つた面白(おもしろ)()(かた)二人(ふたり)(かへ)つてみえました。264御用(ごよう)がありますなら()ふて()げて(くだ)さいませ』
265 玄真坊(げんしんばう)()をこすり(なが)ら、
266『ナアニ、267コブライ、268コオロの両人(りやうにん)(かへ)つたといふのか』
269下女(げぢよ)左様(さやう)御座(ござ)います。270二人(ふたり)のお(きやく)さまに、271貴方(あなた)()面相(めんさう)から、272背恰好(せかつかう)をお(はな)(まを)しましたら、273二人(ふたり)さまは、274どうか(その)(かた)一目(ひとめ)()ひたいものだと仰有(おつしや)るので275(うかが)ひに(まゐ)りました』
276(げん)(べつ)にそんな野郎(やらう)()必要(ひつえう)もなし、277()(こと)もない(をとこ)だが、278所望(しよまう)とあらば、279(おれ)一人(ひとり)だから、280退屈(たいくつ)ざましに()つてやらう、281ソツと此方(こちら)(とほ)してみてくれ、282首実検(くびじつけん)(うへ)283言葉(ことば)をかけてやるかやらぬかが(きま)るのだ』
284下女(げぢよ)左様(さやう)なら さう(まを)(あげ)ます』
285()(なが)(わか)れて()く。286少時(しばらく)すると二人(ふたり)はドヤドヤと玄真(げんしん)居間(ゐま)にやつて()た。
287コブ『イヤー、288親方(おやかた)289どうも(ひさし)()りだつたな、290一体(いつたい)何処(どこ)をうろついとつたのだい、291どれ(だけ)(さが)したか()れないワ、292のうコオロ』
293 玄真(げんしん)右手(めて)()げて空中(くうちう)にふり(なが)ら、
294『オイ(ちひ)さい(こゑ)()はないか、295(ちか)うよれ(ちか)うよれ』
296コブ『ハイ』
297()(なが)耳許(みみもと)両人(りやうにん)(とも)より()ふた。
298玄真(げんしん)『どうだ、299タラハン(じやう)様子(やうす)は……偵察(ていさつ)したか』
300コブ『ハイ、301大変(たいへん)なこつて御座(ござ)いますよ。302タニグク(やま)岩窟(がんくつ)吾々(われわれ)親分(おやぶん)になつて()つた、303あのシヤカンナさまが左守(さもり)(つかさ)となり、304(むすめ)のスバール(ひめ)王妃(わうひ)殿下(でんか)成上(なりあが)り、305()(とり)(おと)()うな(いきほひ)で、306城下(じやうか)人気(にんき)()つたら、3061素晴(すば)らしいものだ。307今日(けふ)のシヤカンナは泥棒(どろばう)親分(おやぶん)でなく、308最早(もはや)一国(いつこく)主権者(しゆけんしや)同様(どうやう)だ。309玄真(げんしん)僧都(そうづ)目的(もくてき)は、310マアマアマアここ(ひやく)(ねん)二百(にひやく)(ねん)到底(たうてい)()ちますまいよ』
311(げん)(なん)と、312(ひと)出世(しゆつせ)といふものは(わか)らぬものだの。313ウン、314さうか、315あの(おやぢ)316(また)(もと)左守(さもり)還元(くわんげん)しやがつたな。317ヨーシ、318それを()くと、319(おれ)もむかついて(たま)らぬ。320(なん)だシヤカンナの(おやぢ)一国(いつこく)棟梁(とうりやう)とは321チヤンチヤラ可笑(をか)しいワ。322(しか)両人(りやうにん)323大分(だいぶん)(かせ)いだらうな』
324コブ『(かせ)いでみましたが、325ヤツとの(こと)両人(りやうにん)宿賃(やどちん)(はら)へる(くらゐ)なものです。326(しか)(なが)(かね)在所(ありか)沢山(たくさん)見届(みとど)けておきました。327どうも大将(たいしやう)智慧(ちゑ)()りなくちや、328吾々(われわれ)()()ひませぬワイ』
329(げん)『フン、330さうか、331それぢや今晩(こんばん)(ひと)つ、332何処(どつか)宝庫(むすめ)(かどは)かしてみようかい』
333 それより(さん)(にん)浴湯()使(つか)夕食(ゆふしよく)(をは)り、334(また)もや一間(ひとま)(はい)つてコソコソと大望(たいまう)遂行(すゐかう)下準備(したじゆんび)相談(さうだん)をやつてゐた。
335 (さん)(にん)(いよいよ)左守司(さもりづかさ)屋敷(やしき)(しの)()り、336しこたま(かね)をふんだくらむと覆面(ふくめん)頭巾(づきん)扮装(いでたち)裏口(うらぐち)からソツと()()し、337町裏(まちうら)細路(ほそみち)(つた)ふて、338左守(さもり)(やかた)をさして(しの)びゆく。339折柄(をりから)チヤン チヤン チヤン チヤンと半鐘(はんしよう)(こゑ)340(またた)(うち)炎々(えんえん)(てん)(こが)してタラハン()目抜(めぬき)場所(ばしよ)(きこ)えたる広小路(ひろこうぢ)()()した。341(ほと)んど森閑(しんかん)として山河(さんか)草木(さうもく)居眠(ゐねむ)つてゐたやうな星月夜(ほしづきよ)342(にはか)()(さま)したやうに、343あたりが(さわ)がしくなつて、344何処(どこ)(うち)彼処(かしこ)(うち)火消(ひけし)装束(しやうぞく)でトビを(かた)げて()()し、345危険(きけん)(たま)らず、346(さん)(にん)(ある)(いへ)軒下(のきした)()(しの)び、347(また)もやコソコソと相談(さうだん)(はじ)()した。
348(げん)『オイ今夜(こんや)はダメかも()れぬぞ。349これ(だけ)何処(どこ)(いへ)何処(どこ)(いへ)一度(いちど)()(さま)し、350トビを(かた)げて()()してゐやがるから、351街道(かいだう)混雑(こんざつ)といつたら大変(たいへん)なものだ。352こんな(ばん)仕事(しごと)をしなくても(また)明日(あす)(ばん)があるぢやないか』
353コブ『泥棒稼(どろぼうかせ)ぎには()つて()いの()さですよ。354何奴(どいつ)此奴(こいつ)火事(くわじ)(はう)()()られてるから、355火事泥(くわじどろ)()つて、356何処(どこ)彼処(かしこ)となし火消(ひけし)()けて()()むのですよ。357泥棒(どろばう)はこんな(とき)(かぎ)りますよ、358のうコオロ』
359コオ『ウンそらさうだ、360(いま)一番(いちばん)(げん)ナマを余計(よけい)()つてる(やつ)361左守(さもり)(つかさ)()(こと)だ。362何時(いつ)彼奴(あいつ)(うち)には衛兵(ゑいへい)三四十(さんしじふ)(にん)()やうが、363こんな(とき)余程(よほど)大火事(おほくわじ)だから、364(みな)火消(ひけし)()てゐやがるから(いへ)はがら(あき)だ。365サ、366()かうぢやないか。367ナ、368千万(せんまん)(りやう)(かね)をふんだくり、369(その)(つぎ)にや民衆(みんしう)買収(ばいしう)して、370タラハン(じやう)転覆(てんぷく)(くはだ)てるには恰好(かつかう)時期(じき)だ。371玄真(げんしん)さま、372こんな()機会(きくわい)はありませぬよ。373左守(さもり)屋敷(やしき)はすつかりと(しら)べておきましたから、374(わたし)案内(あんない)さして(くだ)さい』
375玄真(げんしん)成程(なるほど)376(まへ)命令(めいれい)には(したが)はねばならぬのだつたな。377ヤ、378こんな命令(めいれい)なら服従(ふくじゆう)する』
379()(なが)ら、380自分(じぶん)()災難(さいなん)(かか)るとは、381(かみ)ならぬ()()(よし)もなく、382火事(くわじ)(さわ)ぎに(まぎ)れて左守(さもり)裏門(うらもん)より、383ソツと(さん)(にん)(とも)(しの)()んで(しま)つた。
384大正一五・一・三一 旧一四・一二・一八 於月光閣 松村真澄録)

王仁三郎が著した「大作」がこれ1冊でわかる!
飯塚弘明・他著『あらすじで読む霊界物語』(文芸社文庫)
絶賛発売中!

目で読むのに疲れたら耳で聴こう!
霊界物語の朗読 ユーチューブに順次アップ中!
霊界物語の音読まとめサイト
オニド関連サイト最新更新情報
10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→