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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第71巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 追僧軽迫
第1章 追劇
第2章 生臭坊
第3章 門外漢
第4章 琴の綾
第5章 転盗
第6章 達引
第7章 夢の道
第2篇 迷想痴色
第8章 夢遊怪
第9章 踏違ひ
第10章 荒添
第11章 異志仏
第12章 泥壁
第13章 詰腹
第14章 障路
第15章 紺霊
第3篇 惨嫁僧目
第16章 妖魅返
第17章 夢現神
第18章 金妻
第19章 角兵衛獅子
第20章 困客
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第71巻(戌の巻)
> 第2篇 迷想痴色 > 第11章 異志仏
<<< 荒添
(B)
(N)
泥壁 >>>
第一一章
異志
(
いし
)
仏
(
ぼとけ
)
〔一八〇〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
篇:
第2篇 迷想痴色
よみ(新仮名遣い):
めいそうちしき
章:
第11章 異志仏
よみ(新仮名遣い):
いしぼとけ
通し章番号:
1800
口述日:
1926(大正15)年01月31日(旧12月18日)
口述場所:
月光閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年2月1日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玄真坊は逃げるうちにコブライ、コオロとはぐれてしまう。そこへ、二人の捕り手に追い詰められ、道ばたの辻堂に逃げ込み、石仏に化けてやり過ごそうとする。
二人の捕り手は玄真坊を追って辻堂にやってくるが、玄真坊が化けた石仏が生きているのに肝をつぶし、腰を抜かしてしまう。
玄真坊は逆に捕り手の食料を奪い、打ち倒してゆうゆうと逃げ去る。
その後、泥棒をしながらタラハン市の宿屋に逗留していたが、偶然、宿帳にコブライ・コオロの名前を見つけ、二人の部下と合流することができた。
3人は、かつて自分たちの頭領であったシャカンナが、今は国家の左守として権勢を振るっているのをやっかみ、左守の屋敷に泥棒に入ることに決めた。
深夜、闇にまぎれて左守家に向かっていた矢先、火事が起こって市中騒然となる。が、3人は逆に火事場泥棒を決め込んで、泥棒を決行する。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-28 02:49:56
OBC :
rm7111
愛善世界社版:
143頁
八幡書店版:
第12輯 552頁
修補版:
校定版:
149頁
普及版:
70頁
初版:
ページ備考:
001
玄真坊
(
げんしんばう
)
はコブライ、
002
コオロの
両人
(
りやうにん
)
と
思
(
おも
)
ひ
思
(
おも
)
ひに
追手
(
おつて
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
別
(
わか
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
003
当途
(
あてど
)
もなしに
西
(
にし
)
へ
西
(
にし
)
へと
月夜
(
つきよ
)
を
幸
(
さいは
)
ひ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
したが、
004
殆
(
ほとん
)
ど
空腹
(
くうふく
)
の
為
(
ため
)
に
身体
(
しんたい
)
は
弱
(
よわ
)
り
果
(
は
)
て、
005
足
(
あし
)
の
歩
(
あゆ
)
みも
捗々
(
はかばか
)
しからず、
006
どつかの
民家
(
みんか
)
を
尋
(
たづ
)
ねてパンにありつかむものと、
007
煙
(
けむり
)
が
何処
(
どこ
)
かに
見
(
み
)
えぬかと、
008
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
空
(
そら
)
を
向
(
む
)
き、
009
覚束
(
おぼつか
)
なき
足
(
あし
)
で
歩
(
あゆ
)
んでゐると、
010
傍
(
かたはら
)
の
森林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
から「オイ、
011
オーイ」と
人
(
ひと
)
を
呼
(
よ
)
ぶ
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
012
玄真坊
(
げんしんばう
)
は「ハテ
訝
(
いぶ
)
かしや、
013
かやうな
所
(
ところ
)
で
自分
(
じぶん
)
を
呼
(
よび
)
とめる
者
(
もの
)
はない
筈
(
はず
)
だ。
014
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
昨夜
(
さくや
)
の
捕手
(
とりて
)
の
奴
(
やつ
)
、
015
こんな
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
出
(
で
)
しやばつて、
016
吾々
(
われわれ
)
の
先廻
(
さきまは
)
りをしてゐるに
違
(
ちが
)
ひない、
017
コリヤうつかりして
居
(
を
)
れぬ、
018
三十六
(
さんじふろく
)
計
(
けい
)
の
奥
(
おく
)
の
手
(
て
)
は
逃
(
に
)
ぐるに
若
(
し
)
くはなし」と
019
疲
(
つか
)
れたコンパスに
撚
(
より
)
をかけ、
020
又
(
また
)
もや
草花
(
くさばな
)
の
茂
(
しげ
)
る
綺麗
(
きれい
)
な
原野
(
げんや
)
を
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
す。
021
後
(
あと
)
から
二人
(
ふたり
)
の
追手
(
おつて
)
が
十手
(
じつて
)
を
打振
(
うちふ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
022
「オイ、
023
オーイ」と
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
追
(
お
)
つかけ
来
(
きた
)
る。
024
トンと
突
(
つ
)
き
当
(
あた
)
つた
前方
(
ぜんぱう
)
の
峻山
(
しゆんざん
)
、
025
最早
(
もはや
)
自分
(
じぶん
)
は
到底
(
たうてい
)
逃
(
にげ
)
おうす
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まいと、
026
路傍
(
ろばう
)
の
辻堂
(
つじだう
)
を
見付
(
みつ
)
けて、
027
少時
(
しばし
)
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
さむと
這入
(
はい
)
りみれば、
028
等身
(
とうしん
)
の
石仏
(
いしぼとけ
)
が
立
(
た
)
つてゐる。
029
矢庭
(
やには
)
に
玄真
(
げんしん
)
は
満身
(
まんしん
)
の
力
(
ちから
)
をこめて、
030
首
(
くび
)
のあたりをグツと
押
(
お
)
すと、
031
石仏
(
いしぼとけ
)
は
苦
(
く
)
もなく
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
032
玄真
(
げんしん
)
は
石仏
(
いしぼとけ
)
の
倒
(
たふ
)
れた
後
(
あと
)
の
台石
(
だいいし
)
にスークと
立
(
た
)
ち
033
不格好
(
ぶかつかう
)
な
羅漢面
(
らかんづら
)
をさらし
乍
(
なが
)
ら
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
をふりあげ、
034
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
を
膝
(
ひざ
)
のあたり
迄
(
まで
)
さげ
035
石仏
(
いしぼとけ
)
に
化
(
ば
)
けて
追手
(
おつて
)
の
目
(
め
)
を
遁
(
のが
)
れむと、
0351
早速
(
さつそく
)
の
頓智
(
とんち
)
、
036
そこへ
漸
(
やうや
)
く
駆
(
かけ
)
つけやつて
来
(
き
)
た
二人
(
ふたり
)
の
追手
(
おつて
)
は
辻堂
(
つじだう
)
を
見付
(
みつ
)
けて、
037
甲
(
かふ
)
『オイ、
038
あの
泥棒
(
どろばう
)
はどつか、
039
ここらの
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
へでも
沈澱
(
ちんでん
)
しやがつたとみえて、
040
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
も
無
(
な
)
くなつたぢやないか、
041
こんな
者
(
もの
)
探
(
さが
)
しに
行
(
い
)
つたつて
雲
(
くも
)
を
掴
(
つか
)
む
如
(
や
)
うなものだ、
042
彼奴
(
あいつ
)
ア
魔法使
(
まはふづかひ
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ。
043
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
此
(
この
)
辻堂
(
つじだう
)
があるのを
幸
(
さいはひ
)
、
044
コンパスに
休養
(
きうやう
)
を
命
(
めい
)
じたらどうだい。
045
腹
(
はら
)
も
相当
(
さうたう
)
空
(
へ
)
つて
来
(
き
)
たなり、
046
命
(
いのち
)
掛
(
がけ
)
の
活動
(
はたらき
)
をして
捉
(
つか
)
まへた
所
(
ところ
)
で、
047
僅
(
わづか
)
の
目
(
め
)
くされ
金
(
がね
)
を
褒美
(
ほうび
)
に
貰
(
もら
)
ふ
丈
(
だけ
)
だ。
048
一遍
(
いつぺん
)
散財
(
さんざい
)
したら
了
(
しま
)
ひだからのう』
049
乙
(
おつ
)
『そらさうだ、
050
俺
(
おれ
)
だつてお
前
(
まへ
)
だつて、
051
今
(
いま
)
斯
(
か
)
うして
堅気
(
かたぎ
)
になり、
052
追手
(
おつて
)
の
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
めてゐるものの、
053
元
(
もと
)
を
洗
(
あら
)
へば
立派
(
りつぱ
)
な
人間
(
にんげん
)
ぢやないからの、
054
グヅグヅしてをれば
鼻
(
はな
)
の
下
(
した
)
が
干上
(
ひあが
)
るなり、
055
せう
事
(
こと
)
なしの
追手
(
おつて
)
の
役
(
やく
)
だ。
056
マア
此
(
この
)
春
(
はる
)
の
日
(
ひ
)
の
長
(
なが
)
いのに
泥棒
(
どろばう
)
の
一人
(
ひとり
)
位
(
ぐらゐ
)
掴
(
つか
)
まへたつて、
057
余
(
あま
)
り
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
にもなるまいし、
058
体
(
からだ
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だ。
059
ア、
060
此
(
この
)
辻堂
(
つじだう
)
を
幸
(
さいはひ
)
一服
(
いつぷく
)
せうぢやないか』
061
甲
(
かふ
)
『
此処
(
ここ
)
には
妙
(
めう
)
な
石仏
(
いしぼとけ
)
が
立
(
た
)
つてゐるぞ、
062
此
(
この
)
石工
(
いしく
)
は
誰
(
たれ
)
がやつたのか
知
(
し
)
らぬが、
063
丸
(
まる
)
で
生仏
(
いきぼとけ
)
の
如
(
や
)
うだ、
064
一
(
ひと
)
つ
煙草
(
たばこ
)
でも
喫
(
の
)
もうぢやないか』
065
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
066
ケチケチと
火打
(
ひうち
)
を
打
(
う
)
ち
出
(
だ
)
し、
067
煙管
(
きせる
)
の
皿
(
さら
)
の
如
(
や
)
うな
雁首
(
がんくび
)
に
煙草
(
たばこ
)
を
一杯
(
いつぱい
)
盛
(
も
)
つて
火
(
ひ
)
をつけ、
068
両人
(
りやうにん
)
はスパリスパリと
吸
(
す
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
069
一服
(
いつぷく
)
吸
(
す
)
ふては
石仏
(
いしぼとけ
)
の
足
(
あし
)
の
甲
(
かふ
)
へポンポンと
火
(
ひ
)
を
払
(
はら
)
ひ、
070
又
(
また
)
煙草
(
たばこ
)
をつぎかへては
吸
(
す
)
ひつける。
071
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
熱
(
あつ
)
くてたまらず、
072
黒
(
くろ
)
い
面
(
かほ
)
の
真中
(
まんなか
)
の
方
(
はう
)
から、
073
白
(
しろ
)
い
目
(
め
)
を
剥
(
むき
)
出
(
だ
)
し、
074
涙
(
なみだ
)
さへたらし
出
(
だ
)
した。
075
二人
(
ふたり
)
はフツと
上
(
うへ
)
むく
途端
(
とたん
)
に、
076
石仏
(
いしぼとけ
)
の
目
(
め
)
がグリグリと
廻
(
まは
)
り、
077
涙
(
なみだ
)
さへ
落
(
おと
)
してゐるので、
078
『ヤア、
079
此奴
(
こいつ
)
化物
(
ばけもの
)
だ』
080
と
驚
(
おどろ
)
きの
余
(
あま
)
り、
081
アツと
云
(
い
)
つて
腰
(
こし
)
をぬかし、
082
『アヽヽヽ、
083
羅漢
(
らかん
)
さま、
084
どうぞお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
085
エライ
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
086
どうにもかうにも
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
ちませぬワ。
087
どうぞ
一口
(
ひとくち
)
許
(
ゆる
)
すと
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
088
さうすると
恋
(
こひ
)
しい
女房
(
にようばう
)
の
家
(
うち
)
へ
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ます。
089
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
追手
(
おつて
)
の
役
(
やく
)
は
孫子
(
まごこ
)
の
代
(
だい
)
まで
致
(
いた
)
しませぬ』
090
と
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せて
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
頼
(
たの
)
み
込
(
こ
)
む。
091
玄真
(
げんしん
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
で「ハヽア、
092
バカな
奴
(
やつ
)
だな、
093
此奴
(
こいつ
)
、
094
本者
(
ほんもの
)
だと
思
(
おも
)
つてゐるらしい、
095
腰
(
こし
)
が
抜
(
ぬ
)
けたとあらばモウ
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ、
096
ソロソロ
還元
(
くわんげん
)
してやらうかな………」と
台
(
だい
)
の
上
(
うへ
)
からポイと
飛
(
と
)
びおり、
097
玄
(
げん
)
『コーリヤ、
098
木端
(
こつぱ
)
役人
(
やくにん
)
共
(
ども
)
、
099
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
俺
(
おれ
)
の
魔力
(
まりよく
)
には
驚
(
おどろ
)
いただろ、
100
俺
(
おれ
)
は
泥棒
(
どろばう
)
の
張本
(
ちやうほん
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
だぞ。
101
ここな
石仏
(
いしぼとけ
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
102
俺
(
おれ
)
の
小指
(
こゆび
)
一本
(
いつぽん
)
で
押
(
おし
)
倒
(
たふ
)
し、
103
其
(
その
)
跡
(
あと
)
へ
俺
(
おれ
)
が
立
(
た
)
てつて
居
(
を
)
つたのだ。
104
腰
(
こし
)
が
抜
(
ぬ
)
けたとありや、
105
何
(
ど
)
うすることも
出来
(
でき
)
まい。
106
汝
(
きさま
)
も
少々
(
せうせう
)
位
(
ぐらゐ
)
は
金
(
かね
)
を
持
(
も
)
つてをらう。
107
有金
(
ありがね
)
残
(
のこ
)
らずこちらへよこせ……ナニ、
108
ないと
申
(
まを
)
すか、
109
腰
(
こし
)
にブラ
下
(
さ
)
げてるのは、
110
そら
何
(
なん
)
だ』
111
甲
(
かふ
)
『ヤ、
112
コリヤ
弁当
(
べんたう
)
の
残
(
のこ
)
りで
御座
(
ござ
)
いますよ』
113
玄
(
げん
)
『ヨーシ、
114
分
(
わか
)
つてる、
115
俺
(
おれ
)
も
腹
(
はら
)
の
空
(
へ
)
つた
所
(
ところ
)
だ。
116
仮令
(
たとへ
)
汝
(
きさま
)
の
食
(
く
)
ひさしにしろ、
117
命
(
いのち
)
にはかへられぬ、
118
此方
(
こちら
)
へよこせ』
119
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
120
無理
(
むり
)
無体
(
むたい
)
にひきむしり、
121
一人
(
ひとり
)
の
弁当
(
べんたう
)
を
平
(
たひら
)
げて
了
(
しま
)
ひ、
122
又
(
また
)
次
(
つぎ
)
の
奴
(
やつ
)
の
腰
(
こし
)
の
弁当
(
べんたう
)
をむしつて
一粒
(
ひとつぶ
)
も
残
(
のこ
)
らぬ
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
、
123
いぢ
汚
(
ぎたな
)
く
食
(
く
)
ひ
了
(
をは
)
り、
124
弁当箱
(
べんたうばこ
)
は
小口
(
こぐち
)
から
舌
(
した
)
の
川
(
かは
)
で
洗
(
あら
)
つて
了
(
しま
)
つた。
125
甲
(
かふ
)
『モシ
玄真
(
げんしん
)
さま、
126
お
前
(
まへ
)
さまは
大変
(
たいへん
)
な
神力
(
しんりき
)
のある
方
(
かた
)
だな、
127
到底
(
たうてい
)
吾々
(
われわれ
)
の
手
(
て
)
には
合
(
あ
)
ひませぬワ。
128
お
前
(
まへ
)
さまの
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
てさへ
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
腰
(
こし
)
が
抜
(
ぬ
)
けて
了
(
しま
)
ふんだもの』
129
玄
(
げん
)
『ワツハヽヽ、
130
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
には
随分
(
ずいぶん
)
驚
(
おどろ
)
いただろ、
131
汝
(
きさま
)
は
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
といふ
奴
(
やつ
)
だ』
132
甲
(
かふ
)
『
私
(
わたし
)
なんか
名
(
な
)
のあるやうな
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
者
(
もの
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬ。
133
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
134
親
(
おや
)
が
附
(
つ
)
けてくれたか
人
(
ひと
)
が
附
(
つ
)
けてくれたか
知
(
し
)
りませぬが、
135
私
(
わたし
)
はトンビと
申
(
まを
)
します。
136
モ
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
はカラスと
申
(
まを
)
します』
137
玄
(
げん
)
『
成程
(
なるほど
)
、
138
トンビにカラス、
139
此奴
(
こいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い、
140
そんなら
俺
(
おれ
)
も
二人
(
ふたり
)
の
家来
(
けらい
)
が
途
(
みち
)
ではぐれて
了
(
しま
)
つたのだから、
141
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
を
家来
(
けらい
)
にしてやらう。
142
どうだ
143
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
して
追手
(
おつて
)
の
役
(
やく
)
はやめるか』
144
ト『ヘーヘ、
145
やめます
共
(
とも
)
、
146
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
147
追手
(
おつて
)
よりもお
前
(
まへ
)
さまの
乾児
(
こぶん
)
になつてる
方
(
はう
)
が
気
(
き
)
が
利
(
き
)
いてるか
知
(
し
)
れませぬワ。
148
のうカラス、
149
汝
(
きさま
)
もさうだらう』
150
カ『お
前
(
まへ
)
の
意見
(
いけん
)
通
(
どほり
)
だ。
151
モシ、
152
玄真
(
げんしん
)
さまとやら、
153
どうか
宜
(
よろ
)
しうお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まをし
)
ます』
154
玄
(
げん
)
『ヨーシ、
155
分
(
わか
)
つた。
156
そんなら
之
(
これ
)
から
俺
(
おれ
)
のいふ
通
(
とほり
)
するのだよ。
157
何
(
なん
)
でも
命令
(
めいれい
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
するのだぞ。
158
サア、
1581
行
(
ゆ
)
かう』
159
ト『モーシモシ
玄真
(
げんしん
)
さま、
160
行
(
ゆ
)
かうと
仰有
(
おつしや
)
つても
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
ちませぬがな。
161
どうか
貴方
(
あなた
)
の
神力
(
しんりき
)
でお
直
(
なほ
)
し
下
(
くだ
)
さる
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りませぬか』
162
玄
(
げん
)
『エー、
163
仕方
(
しかた
)
がねい、
164
直
(
なほ
)
してやろ。
165
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
此
(
この
)
腰
(
こし
)
が
直
(
なほ
)
つたら
最後
(
さいご
)
、
166
俺
(
おれ
)
の
神力
(
しんりき
)
は
認
(
みと
)
めるだらうな』
167
ト『ヘーヘ、
168
認
(
みと
)
める
所
(
どころ
)
の
段
(
だん
)
ぢやありませぬ、
169
已
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かした
時
(
とき
)
から、
170
お
前
(
まへ
)
さまの
神力
(
しんりき
)
を
認
(
みと
)
めて
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
にして
下
(
くだ
)
さいと
願
(
ねが
)
つてゐるのですもの』
171
玄
(
げん
)
『ウーン
成程
(
なるほど
)
、
172
さうに
間違
(
まちがひ
)
なからう』
173
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
174
両人
(
りやうにん
)
の
腰
(
こし
)
の
辺
(
あた
)
りをメツタ
矢鱈
(
やたら
)
に
握拳
(
にぎりこぶし
)
を
固
(
かた
)
めて
擲
(
なぐ
)
りつけた。
175
二人
(
ふたり
)
は
余
(
あま
)
りの
痛
(
いた
)
さに
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
立
(
たち
)
上
(
あが
)
り、
176
一間
(
いつけん
)
許
(
ばか
)
り
逃
(
にげ
)
出
(
だ
)
し、
177
又
(
また
)
もやパタリと
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
178
玄
(
げん
)
『ハツハヽヽ
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
だな、
179
此
(
この
)
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
を
何万
(
なんまん
)
人
(
にん
)
連
(
つ
)
れてゐたつて、
180
手足纏
(
てあしまと
)
ひになる
許
(
ばか
)
りだ。
181
又
(
また
)
腰
(
こし
)
が
直
(
なほ
)
つたらついて
来
(
こ
)
い、
182
キツト
家来
(
けらい
)
にしてやらう。
183
俺
(
おれ
)
は
天下
(
てんか
)
経綸
(
けいりん
)
の
事業
(
じげふ
)
が
忙
(
いそが
)
しいから
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
らう、
184
ても
偖
(
さて
)
も
憐
(
あは
)
れな
代物
(
しろもの
)
だなア』
185
と
腮
(
あご
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つしやくり、
186
阪路
(
さかみち
)
を
元気
(
げんき
)
よく
鼻唄
(
はなうた
)
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
187
之
(
これ
)
より
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
に、
188
昼
(
ひる
)
は
山野
(
さんや
)
に
寝
(
い
)
ね
夜
(
よる
)
は
泥棒
(
どろばう
)
を
稼
(
かせ
)
いで、
189
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
余
(
あま
)
りを
過
(
すご
)
した。
190
又
(
また
)
もやダリヤ
姫
(
ひめ
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
191
会
(
あ
)
ひたくて
堪
(
たま
)
らず、
192
何
(
なん
)
とかして
甘
(
うま
)
く
彼女
(
かれ
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れたいものだと、
193
少々
(
せうせう
)
懐
(
ふところ
)
が
温
(
ぬく
)
くなつたので、
194
タラハン
城市
(
じやうし
)
へ
変装
(
へんさう
)
して
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
み、
195
タラハン
市中
(
しちう
)
でも
一等
(
いつとう
)
旅館
(
りよくわん
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
丸太
(
まるた
)
ホテルに
泊
(
とま
)
り
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
196
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
奥
(
おく
)
の
二間造
(
ふたまづく
)
りの
別室
(
べつしつ
)
に
居
(
きよ
)
を
構
(
かま
)
へ、
197
種々
(
いろいろ
)
とタラハン
城
(
じやう
)
転覆
(
てんぷく
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
辿
(
たど
)
つてゐる。
198
そこへ
下女
(
げぢよ
)
が
茶
(
ちや
)
を
汲
(
く
)
んで
出
(
いで
)
来
(
きた
)
り、
199
『モシお
客様
(
きやくさま
)
、
200
主人
(
しゆじん
)
から、
201
ネームを
承
(
うけたま
)
はつて
来
(
こ
)
いと
仰
(
おほ
)
せられましたが、
202
どうか
此
(
この
)
宿帳
(
やどちやう
)
にお
記
(
しる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
203
玄
(
げん
)
『あゝよしよし』
204
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
205
スラスラと
宿帳
(
やどちやう
)
に
記
(
しる
)
した。
206
宿帳
(
やどちやう
)
の
面
(
おもて
)
にはバリヲンと
書
(
か
)
き
記
(
しる
)
し、
207
玄
(
げん
)
『
俺
(
おれ
)
はな、
208
ハルナの
都
(
みやこ
)
から
遙々
(
はるばる
)
と
大黒主
(
おほくろぬし
)
さまの
命令
(
めいれい
)
に
仍
(
よ
)
つて、
209
諸国
(
しよこく
)
視察
(
しさつ
)
の
為
(
ため
)
行脚
(
あんぎや
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
てゐる
者
(
もの
)
だが、
210
最早
(
もはや
)
七千
(
しちせん
)
余国
(
よこく
)
は
遍歴済
(
へんれきずみ
)
となり、
211
当家
(
たうけ
)
に
於
(
おい
)
てゆるゆると
二三
(
にさん
)
ケ
月
(
げつ
)
許
(
ばか
)
り
休息
(
きうそく
)
さして
貰
(
もら
)
ふ
積
(
つも
)
りだから、
212
主人
(
しゆじん
)
に
宜
(
よろ
)
しく
云
(
い
)
ふてくれ。
213
そして
宿賃
(
やどちん
)
には
決
(
けつ
)
して
心配
(
しんぱい
)
かけないから、
214
朝夕
(
あさゆふ
)
の
膳部
(
ぜんぶ
)
にはな、
215
気
(
き
)
をつけるやうに
頼
(
たの
)
んでおく』
216
といひ
乍
(
なが
)
ら、
217
宿帳
(
やどちやう
)
を
二三
(
にさん
)
枚
(
まい
)
繰返
(
くりかへ
)
してみると、
218
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
から、
219
コブライ、
220
コオロが
泊
(
とま
)
つてゐると
見
(
み
)
えて、
221
自筆
(
じひつ
)
の
姓名
(
せいめい
)
が
記
(
しる
)
してある。
222
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
何
(
なに
)
食
(
く
)
はぬ
面
(
かほ
)
して
下女
(
げぢよ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
223
『ここにコブライとか、
224
コオロとかいふ
客
(
きやく
)
は
泊
(
とま
)
つて
居
(
ゐ
)
ないかのう』
225
下女
(
げぢよ
)
『ハイ、
226
泊
(
とま
)
つて
居
(
ゐ
)
られましたが、
227
昨日
(
きのふ
)
の
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
に、
228
一寸
(
ちよつと
)
そこ
迄
(
まで
)
見物
(
けんぶつ
)
に
出
(
で
)
ると
仰有
(
おつしや
)
つたきり、
229
まだお
帰
(
かへ
)
りになりませぬので、
230
心配
(
しんぱい
)
をしてゐる
所
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います』
231
玄
(
げん
)
『あゝさうか、
232
フーン』
233
下
(
げ
)
『
何
(
なに
)
か
貴方
(
あなた
)
、
234
此
(
この
)
方
(
かた
)
に
御
(
ご
)
関係
(
くわんけい
)
が
御座
(
ござ
)
いますのですか』
235
玄
(
げん
)
『ナーニ
別
(
べつ
)
に
関係
(
くわんけい
)
も
何
(
なに
)
もない、
236
見
(
み
)
ず
知
(
し
)
らずの
人
(
ひと
)
だが
余
(
あま
)
り
面白
(
おもしろ
)
い
名
(
な
)
だから、
237
一寸
(
ちよつと
)
尋
(
たづ
)
ねてみたのだ。
238
ヨ、
239
之
(
これ
)
は
俺
(
おれ
)
の
心付
(
こころづけ
)
だ』
240
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
懐
(
ふところ
)
から
鳥目
(
てうもく
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
241
下女
(
げぢよ
)
に
投
(
な
)
げ
与
(
あた
)
へた。
242
下女
(
げぢよ
)
は
喜
(
よろこ
)
んで
押
(
お
)
し
戴
(
いただ
)
き、
243
母家
(
おもや
)
の
方
(
はう
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
244
後
(
あと
)
に
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
み
吐息
(
といき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
245
『アーア、
246
世間
(
せけん
)
と
云
(
い
)
ふものは
広
(
ひろ
)
いやうでも
狭
(
せま
)
いな。
247
三月
(
みつき
)
以前
(
いぜん
)
に
追手
(
おつて
)
にかかり、
248
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
にはぐれて
了
(
しま
)
ひ、
249
何処
(
どこ
)
へ
行
(
い
)
つたかと
思
(
おも
)
ふてをれば、
250
而
(
しか
)
も
同
(
おな
)
じ
宿
(
やど
)
に
泊
(
とま
)
つてゐたとは
実
(
じつ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
だ。
251
ア、
252
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
、
253
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
は
此
(
この
)
俺
(
おれ
)
がタラハン
市
(
し
)
へ
大望
(
たいまう
)
遂行
(
すゐかう
)
の
為
(
ため
)
に
来
(
き
)
てゐるに
違
(
ちが
)
ひないと
目星
(
めぼし
)
をつけ、
254
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
と
行方
(
ゆくへ
)
を
捜
(
さが
)
してゐるのだらう。
255
何
(
いづ
)
れ
今日
(
けふ
)
明日
(
あす
)
の
内
(
うち
)
には
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るだらうから、
256
様子
(
やうす
)
も
分
(
わか
)
らうし、
257
マア
緩
(
ゆつく
)
り
休養
(
きうやう
)
せうかい』
258
と
独
(
ひとり
)
ごちつつ
肱
(
ひぢ
)
を
枕
(
まくら
)
にゴロンと
横
(
よこ
)
たはり、
259
グウグウと
雷
(
らい
)
の
如
(
や
)
うな
鼾
(
いびき
)
をかいて
寝
(
ね
)
て
了
(
しま
)
つた。
260
少時
(
しばらく
)
すると
又
(
また
)
もや
下女
(
げぢよ
)
がやつて
来
(
き
)
て、
261
『モシモシお
客
(
きやく
)
さま、
262
エー、
263
貴方
(
あなた
)
のお
話
(
はなし
)
になつて
居
(
を
)
つた
面白
(
おもしろ
)
い
名
(
な
)
の
方
(
かた
)
が
二人
(
ふたり
)
帰
(
かへ
)
つてみえました。
264
御用
(
ごよう
)
がありますなら
会
(
あ
)
ふて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいませ』
265
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
目
(
め
)
をこすり
乍
(
なが
)
ら、
266
『ナアニ、
267
コブライ、
268
コオロの
両人
(
りやうにん
)
が
帰
(
かへ
)
つたといふのか』
269
下女
(
げぢよ
)
『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
270
二人
(
ふたり
)
のお
客
(
きやく
)
さまに、
271
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
面相
(
めんさう
)
から、
272
お
背恰好
(
せかつかう
)
をお
話
(
はな
)
し
申
(
まを
)
しましたら、
273
お
二人
(
ふたり
)
さまは、
274
どうか
其
(
その
)
方
(
かた
)
に
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
ひたいものだと
仰有
(
おつしや
)
るので
275
お
伺
(
うかが
)
ひに
参
(
まゐ
)
りました』
276
玄
(
げん
)
『
別
(
べつ
)
にそんな
野郎
(
やらう
)
に
会
(
あ
)
ふ
必要
(
ひつえう
)
もなし、
277
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
もない
男
(
をとこ
)
だが、
278
所望
(
しよまう
)
とあらば、
279
俺
(
おれ
)
も
一人
(
ひとり
)
だから、
280
退屈
(
たいくつ
)
ざましに
会
(
あ
)
つてやらう、
281
ソツと
此方
(
こちら
)
へ
通
(
とほ
)
してみてくれ、
282
首実検
(
くびじつけん
)
の
上
(
うへ
)
、
283
言葉
(
ことば
)
をかけてやるかやらぬかが
定
(
きま
)
るのだ』
284
下女
(
げぢよ
)
『
左様
(
さやう
)
なら さう
申
(
まを
)
し
上
(
あげ
)
ます』
285
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
別
(
わか
)
れて
行
(
ゆ
)
く。
286
少時
(
しばらく
)
すると
二人
(
ふたり
)
はドヤドヤと
玄真
(
げんしん
)
の
居間
(
ゐま
)
にやつて
来
(
き
)
た。
287
コブ『イヤー、
288
親方
(
おやかた
)
、
289
どうも
久
(
ひさし
)
振
(
ぶ
)
りだつたな、
290
一体
(
いつたい
)
何処
(
どこ
)
をうろついとつたのだい、
291
どれ
丈
(
だけ
)
捜
(
さが
)
したか
知
(
し
)
れないワ、
292
のうコオロ』
293
玄真
(
げんしん
)
は
右手
(
めて
)
を
上
(
あ
)
げて
空中
(
くうちう
)
にふり
乍
(
なが
)
ら、
294
『オイ
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で
云
(
い
)
はないか、
295
近
(
ちか
)
うよれ
近
(
ちか
)
うよれ』
296
コブ『ハイ』
297
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
耳許
(
みみもと
)
に
両人
(
りやうにん
)
共
(
とも
)
より
添
(
そ
)
ふた。
298
玄真
(
げんしん
)
『どうだ、
299
タラハン
城
(
じやう
)
の
様子
(
やうす
)
は……
偵察
(
ていさつ
)
したか』
300
コブ『ハイ、
301
大変
(
たいへん
)
なこつて
御座
(
ござ
)
いますよ。
302
タニグク
山
(
やま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
で
吾々
(
われわれ
)
の
親分
(
おやぶん
)
になつて
居
(
を
)
つた、
303
あのシヤカンナさまが
左守
(
さもり
)
の
司
(
つかさ
)
となり、
304
娘
(
むすめ
)
のスバール
姫
(
ひめ
)
は
王妃
(
わうひ
)
殿下
(
でんか
)
と
成上
(
なりあが
)
り、
305
立
(
た
)
つ
鳥
(
とり
)
も
落
(
おと
)
す
如
(
や
)
うな
勢
(
いきほひ
)
で、
306
城下
(
じやうか
)
の
人気
(
にんき
)
と
云
(
い
)
つたら、
3061
素晴
(
すば
)
らしいものだ。
307
今日
(
けふ
)
のシヤカンナは
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
でなく、
308
最早
(
もはや
)
一国
(
いつこく
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
も
同様
(
どうやう
)
だ。
309
玄真
(
げんしん
)
僧都
(
そうづ
)
の
目的
(
もくてき
)
は、
310
マアマアマアここ
百
(
ひやく
)
年
(
ねん
)
や
二百
(
にひやく
)
年
(
ねん
)
は
到底
(
たうてい
)
立
(
た
)
ちますまいよ』
311
玄
(
げん
)
『
何
(
なん
)
と、
312
人
(
ひと
)
の
出世
(
しゆつせ
)
といふものは
分
(
わか
)
らぬものだの。
313
ウン、
314
さうか、
315
あの
爺
(
おやぢ
)
、
316
又
(
また
)
元
(
もと
)
の
左守
(
さもり
)
に
還元
(
くわんげん
)
しやがつたな。
317
ヨーシ、
318
それを
聞
(
き
)
くと、
319
俺
(
おれ
)
もむかついて
堪
(
たま
)
らぬ。
320
何
(
なん
)
だシヤカンナの
爺
(
おやぢ
)
が
一国
(
いつこく
)
の
棟梁
(
とうりやう
)
とは
321
チヤンチヤラ
可笑
(
をか
)
しいワ。
322
併
(
しか
)
し
両人
(
りやうにん
)
、
323
大分
(
だいぶん
)
に
稼
(
かせ
)
いだらうな』
324
コブ『
稼
(
かせ
)
いでみましたが、
325
ヤツとの
事
(
こと
)
で
両人
(
りやうにん
)
が
宿賃
(
やどちん
)
が
払
(
はら
)
へる
位
(
くらゐ
)
なものです。
326
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
金
(
かね
)
の
在所
(
ありか
)
は
沢山
(
たくさん
)
に
見届
(
みとど
)
けておきました。
327
どうも
大将
(
たいしやう
)
の
智慧
(
ちゑ
)
を
借
(
か
)
りなくちや、
328
吾々
(
われわれ
)
の
手
(
て
)
に
合
(
あ
)
ひませぬワイ』
329
玄
(
げん
)
『フン、
330
さうか、
331
それぢや
今晩
(
こんばん
)
一
(
ひと
)
つ、
332
何処
(
どつか
)
の
宝庫
(
むすめ
)
を
拐
(
かどは
)
かしてみようかい』
333
それより
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
浴湯
(
ゆ
)
を
使
(
つか
)
ひ
夕食
(
ゆふしよく
)
を
了
(
をは
)
り、
334
又
(
また
)
もや
一間
(
ひとま
)
に
入
(
はい
)
つてコソコソと
大望
(
たいまう
)
遂行
(
すゐかう
)
の
下準備
(
したじゆんび
)
の
相談
(
さうだん
)
をやつてゐた。
335
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
愈
(
いよいよ
)
左守司
(
さもりづかさ
)
の
屋敷
(
やしき
)
へ
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
り、
336
しこたま
金
(
かね
)
をふんだくらむと
覆面
(
ふくめん
)
頭巾
(
づきん
)
の
扮装
(
いでたち
)
で
裏口
(
うらぐち
)
からソツと
抜
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
し、
337
町裏
(
まちうら
)
の
細路
(
ほそみち
)
を
伝
(
つた
)
ふて、
338
左守
(
さもり
)
の
館
(
やかた
)
をさして
忍
(
しの
)
びゆく。
339
折柄
(
をりから
)
チヤン チヤン チヤン チヤンと
半鐘
(
はんしよう
)
の
声
(
こゑ
)
、
340
瞬
(
またた
)
く
内
(
うち
)
に
炎々
(
えんえん
)
天
(
てん
)
を
焦
(
こが
)
してタラハン
市
(
し
)
の
目抜
(
めぬき
)
の
場所
(
ばしよ
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
広小路
(
ひろこうぢ
)
が
焼
(
や
)
け
出
(
だ
)
した。
341
殆
(
ほと
)
んど
森閑
(
しんかん
)
として
山河
(
さんか
)
草木
(
さうもく
)
居眠
(
ゐねむ
)
つてゐたやうな
星月夜
(
ほしづきよ
)
も
342
俄
(
にはか
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さま
)
したやうに、
343
あたりが
騒
(
さわ
)
がしくなつて、
344
何処
(
どこ
)
の
家
(
うち
)
も
彼処
(
かしこ
)
の
家
(
うち
)
も
火消
(
ひけし
)
装束
(
しやうぞく
)
でトビを
担
(
かた
)
げて
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
345
危険
(
きけん
)
で
堪
(
たま
)
らず、
346
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
或
(
ある
)
家
(
いへ
)
の
軒下
(
のきした
)
に
身
(
み
)
を
忍
(
しの
)
び、
347
又
(
また
)
もやコソコソと
相談
(
さうだん
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
348
玄
(
げん
)
『オイ
今夜
(
こんや
)
はダメかも
知
(
し
)
れぬぞ。
349
これ
丈
(
だけ
)
何処
(
どこ
)
の
家
(
いへ
)
も
何処
(
どこ
)
の
家
(
いへ
)
も
一度
(
いちど
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さま
)
し、
350
トビを
担
(
かた
)
げて
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
してゐやがるから、
351
街道
(
かいだう
)
の
混雑
(
こんざつ
)
といつたら
大変
(
たいへん
)
なものだ。
352
こんな
晩
(
ばん
)
に
仕事
(
しごと
)
をしなくても
又
(
また
)
明日
(
あす
)
の
晩
(
ばん
)
があるぢやないか』
353
コブ『
泥棒稼
(
どろぼうかせ
)
ぎには
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いの
夜
(
よ
)
さですよ。
354
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
火事
(
くわじ
)
の
方
(
はう
)
に
気
(
き
)
を
奪
(
と
)
られてるから、
355
火事泥
(
くわじどろ
)
と
云
(
い
)
つて、
356
何処
(
どこ
)
彼処
(
かしこ
)
となし
火消
(
ひけし
)
に
化
(
ば
)
けて
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
むのですよ。
357
あ
泥棒
(
どろばう
)
はこんな
時
(
とき
)
に
限
(
かぎ
)
りますよ、
358
のうコオロ』
359
コオ『ウンそらさうだ、
360
今
(
いま
)
一番
(
いちばん
)
現
(
げん
)
ナマを
余計
(
よけい
)
持
(
も
)
つてる
奴
(
やつ
)
、
361
左守
(
さもり
)
の
司
(
つかさ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
362
何時
(
いつ
)
も
彼奴
(
あいつ
)
の
家
(
うち
)
には
衛兵
(
ゑいへい
)
が
三四十
(
さんしじふ
)
人
(
にん
)
は
居
(
ゐ
)
やうが、
363
こんな
時
(
とき
)
は
余程
(
よほど
)
の
大火事
(
おほくわじ
)
だから、
364
皆
(
みな
)
火消
(
ひけし
)
に
出
(
で
)
てゐやがるから
家
(
いへ
)
はがら
空
(
あき
)
だ。
365
サ、
366
行
(
ゆ
)
かうぢやないか。
367
ナ、
368
千万
(
せんまん
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
をふんだくり、
369
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
にや
民衆
(
みんしう
)
を
買収
(
ばいしう
)
して、
370
タラハン
城
(
じやう
)
の
転覆
(
てんぷく
)
を
企
(
くはだ
)
てるには
恰好
(
かつかう
)
の
時期
(
じき
)
だ。
371
玄真
(
げんしん
)
さま、
372
こんな
可
(
よ
)
い
機会
(
きくわい
)
はありませぬよ。
373
左守
(
さもり
)
の
屋敷
(
やしき
)
はすつかりと
査
(
しら
)
べておきましたから、
374
私
(
わたし
)
に
案内
(
あんない
)
さして
下
(
くだ
)
さい』
375
玄真
(
げんしん
)
『
成程
(
なるほど
)
、
376
お
前
(
まへ
)
の
命令
(
めいれい
)
には
従
(
したが
)
はねばならぬのだつたな。
377
ヤ、
378
こんな
命令
(
めいれい
)
なら
服従
(
ふくじゆう
)
する』
379
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
380
自分
(
じぶん
)
の
身
(
み
)
に
災難
(
さいなん
)
が
罹
(
かか
)
るとは、
381
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
知
(
し
)
る
由
(
よし
)
もなく、
382
火事
(
くわじ
)
の
騒
(
さわ
)
ぎに
紛
(
まぎ
)
れて
左守
(
さもり
)
の
裏門
(
うらもん
)
より、
383
ソツと
三
(
さん
)
人
(
にん
)
共
(
とも
)
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
384
(
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旧一四・一二・一八
於月光閣
松村真澄
録)
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