霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 門外漢(もんぐわいかん)〔一七九二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻 篇:第1篇 追僧軽迫 よみ(新仮名遣い):ついそうけいはく
章:第3章 門外漢 よみ(新仮名遣い):もんがいかん 通し章番号:1792
口述日:1925(大正14)年11月07日(旧09月21日) 口述場所:祥明館 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年2月1日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
かつて日の出別の宣伝使に使えていた玉清別は、バラモン教を逃れて、タニグク山の峰続きに神谷村を作って時期を待っていた。
玉清別には、妻玉子姫との間に、神の子、玉の子という二人の子があった。神の子は小さいころより、神童と呼ばれていた。
玄真坊はダリヤが庄屋・玉清別の屋敷にいると知ってさっそくたずねてくるが、玉子姫に正体を見破られ、言い負かされて閉め出しをくってしまう。
玄真坊は自分は改心し、神の柱となって福音を述べにきたと歌うが、神の子・玉の子に逆に心を見透かされ、馬鹿にされてしまう。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:3654 OBC :rm7103
愛善世界社版:40頁 八幡書店版:第12輯 513頁 修補版: 校定版:42頁 普及版:18頁 初版: ページ備考:
001 千(せん)年(ねん)の齢(よはひ)を保(たも)つ丹頂(たんちやう)の鶴(つる)は枯木(かれき)に巣(す)は造(つく)らない、002空(そら)を飛(と)ぶ鳥(とり)さへ突(つつ)かれた巣(す)には怖(おそ)れて帰(かへ)らず、003地(ち)を潜(くぐ)る獣(けだもの)も一(いつ)たん狙(ねら)はれた穴(あな)には再(ふたた)び近(ちか)づかぬ道理(だうり)、004バラモン教(けう)の悪神(あくがみ)に根城(ねじろ)を覆(くつが)へされ、005タラハン城下(じやうか)を立(たち)出(い)で、006打(う)ちもらされし残党(ざんたう)を集(あつ)めて007人跡(じんせき)稀(まれ)なる谷蟆山(たにぐくやま)の峰(みね)つづき神谷(かみたに)の平原(へいげん)に三十余(さんじふよ)戸(こ)の家(いへ)をつくつて008飽迄(あくまで)も祖先(そせん)伝来(でんらい)の三五(あななひ)の道(みち)を遵奉(じゆんぽう)し009昼夜(ちうや)孜々(しし)として家業(かげふ)を励(はげ)み、010時(とき)を得(う)れば再(ふたた)び三五(あななひ)の法城(はふじやう)を築(きづ)いて天下(てんか)に雄飛(ゆうひ)せむものと、011日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)に仕(つか)へたる玉清別(たまきよわけ)は此処(ここ)に千代(ちよ)の住家(すみか)を定(さだ)め、012遠大(ゑんだい)な望(のぞみ)を抱(いだ)いて時期(じき)の到(いた)るを待(ま)つて居(ゐ)た。
013 玉清別(たまきよわけ)には神(かみ)の子(こ)、014玉(たま)の子(こ)と云(い)ふ二男子(にだんし)があつた。015神(かみ)の子(こ)は幼少(えうせう)より神童(しんどう)と呼(よ)ばれ、016村内(そんない)に其(その)神名(しんめい)を轟(とどろ)かして居(ゐ)た。017玉清別(たまきよわけ)の妻(つま)、0171玉子姫(たまこひめ)は夕餉(ゆふげ)の用意(ようい)をなさむと018門先(かどさき)の井戸端(ゐどばた)に出(い)でて釣瓶(つるべ)に片手(かたて)をかけ水(みづ)を汲(く)まむとする時(とき)しもあれ、019異様(いやう)の托鉢僧(たくはつそう)が錫杖(しやくぢやう)をがちやづかせ乍(なが)ら、020三文奴(さんもんやつこ)を従(したが)へ、021さも鷹揚(おうやう)な態度(たいど)で現(あら)はれ来(きた)り、022玉子姫(たまこひめ)の美貌(びばう)を不出来(ふでき)な目鼻(めはな)を一(ひと)つに寄(よ)せて微笑(びせう)し乍(なが)ら眺(なが)め、023手鼻(てばな)をツンと噛(か)み、
024天真坊(てんしんばう)『拙者(せつしや)は天帝(てんてい)の化身(けしん)天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)天真坊(てんしんばう)と申(まを)す名僧(めいそう)知識(ちしき)で厶(ござ)る』
025と、026さも鷹揚(おうよう)に出歯(でば)をむき出(だ)して語(かた)る。027玉子姫(たまこひめ)は一目(ひとめ)見(み)るより思(おも)はず吹(ふ)き出(だ)さむとする臍茶(へそちや)の苦痛(くつう)を奥歯(おくば)に噛(かみ)殺(ころ)して028しみじみ見(み)れば見(み)る程(ほど)醜男(しこを)も醜男(しこを)、029不男(ぶをとこ)も不男(ぶをとこ)、030これ程(ほど)念入(ねんいり)に出来(でき)上(あが)つた面(つら)がまへでは031横町(よこまち)の雌犬(めすいぬ)にけしかけても叶(かな)はぬ筈(はず)の恋(こひ)、032まして図(づ)う図(づ)うしく人間(にんげん)の美人(びじん)、033匿(かくま)ひおいたダリヤ姫(ひめ)に向(むか)つて慕(した)ふて来(く)るとは、034恋(こひ)なればこそと可笑(をか)しさに堪(た)へかね、035「ホヽヽヽヽツ」と笑(わら)へば、036天真坊(てんしんばう)はますます居丈高(ゐたけだか)になり、
037天(てん)『これはしたり、038当家(たうけ)の奥様(おくさま)とあらう者(もの)が吾々(われわれ)の顔(かほ)を見(み)て、039一言(いちごん)の挨拶(あいさつ)もなく冷笑(れいせう)するとは何事(なにごと)で御座(ござ)る、040貴女(あなた)の御(ご)心底(しんてい)心得(こころえ)申(まを)さぬ』
041玉(たま)『これはこれは天帝(てんてい)の化身(けしん)様(さま)とやら、042何用(なによう)あつてお越(こ)し下(くだ)さいました。043エー御用(ごよう)があらば手(て)つ取(と)り早(ばや)く仰有(おつしや)つて下(くだ)さいませ。044エー一寸(ちよつと)御(ご)様子(やうす)を伺(うかが)へば貴方(あなた)は他宗(たしう)のお方(かた)と見(み)えますが、045当家(たうけ)は宗旨(しうし)が違(ちが)ひますから、046何卒(どうぞ)御(お)帰(かへ)りを願(ねが)ひます』
047 天真坊(てんしんばう)は……ハハア最前(さいぜん)の化小僧(ばけこぞう)が此(この)村(むら)は三五教(あななひけう)と云(い)ひよつたが、048これや一(ひと)つ三五教(あななひけう)に化(ば)けてやらねばなるまい……と態(わざ)と素知(そし)らぬ顔(かほ)をしながら、
049天(てん)『エー宗旨(しうし)が違(ちが)ふと今(いま)仰(おほ)せられましたが、050要(えう)するに宗旨(しうし)なんかは枝葉(しえふ)の問題(もんだい)で厶(ござ)います。051神(かみ)様(さま)は元(もと)は一株(ひとかぶ)、052時代(じだい)とエー、053国(くに)との都合(つがふ)によつて、054或(あるひ)は神(かみ)と現(げん)じ、055或(あるひ)は仏(ほとけ)と現(げん)じ、056自由(じいう)自在(じざい)の活動(くわつどう)を遊(あそ)ばすのが誠(まこと)の神(かみ)で御座(ござ)る。057拙者(せつしや)は斯様(かやう)な僧形(そうぎやう)をして居(を)れど真実(しんじつ)は三五教(あななひけう)を信仰(しんかう)いたすもの、058拙者(せつしや)の弟子(でし)には照国別(てるくにわけ)、059梅公(うめこう)、060照公(てるこう)などの宣伝使(せんでんし)も御座(ござ)いますから、061何宗(なにしう)か知(し)りませぬが、062暫(しばら)く拙者(せつしや)の申(まを)す事(こと)を一応(いちおう)お聞(き)き下(くだ)されたい』
063玉(たま)『アヽ左様(さやう)で厶(ござ)いますか、064有名(いうめい)な照国別(てるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)のお師匠(ししやう)様(さま)と仰有(おつしや)る以上(いじやう)は065貴方(あなた)はお名前(なまへ)は何(なん)と仰有(おつしや)いますか、066それを承(うけたま)はつた上(うへ)、067都合(つがふ)によつてはお話(はなし)を聞(き)かして貰(もら)ひませう』
068天(てん)『拙者(せつしや)は最前(さいぜん)も申(まを)す通(とほ)り、069天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)、070天帝(てんてい)の化身(けしん)シーゴーヨリコ別(わけ)の命(みこと)で御座(ござ)る』
071玉(たま)『ホヽヽヽヽ。072まるきりオーラ山(さん)の山賊(さんぞく)みたやうなお名前(なまへ)で御座(ござ)いますな』
073天(てん)『これは怪(け)しからぬ、074拙者(せつしや)はオーラ山(さん)に立(た)ち向(むか)ひ、075シーゴー、076ヨリコの頭目(とうもく)を言向(ことむ)け和(やは)し一泡(ひとあわ)吹(ふ)かせ、077天下(てんか)の禍(わざはひ)を除(のぞ)き078記念(きねん)の為(た)めに彼(かれ)等(ら)頭目(とうもく)の名(な)を吾名(わがな)と致(いた)した剛(がう)のもので御座(ござ)る』
079玉(たま)『あら左様(さやう)で御座(ござ)いますか、080エー、081オーラ山(さん)には天帝(てんてい)の化身(けしん)天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)、0811玄真坊(げんしんばう)とか云(い)ふ山子(やまこ)坊主(ばうず)が居(を)つたやうに噂(うはさ)に聞(き)いて居(を)りますが、082其(その)玄真坊(げんしんばう)はどうなりました。083定(さだ)めし貴方(あなた)の御(ご)神力(しんりき)によつて打(う)ち滅(ほろぼ)されたことで御座(ござ)いませうねえ』
084 コブライは天真坊(てんしんばう)の袖(そで)をグイグイ引(ひ)き乍(なが)ら、
085『もし天真(てんしん)さま086駄目(だめ)ですよ。087足許(あしもと)の明(あか)るい中(うち)にとつとと帰(かへ)りませう。088此(この)女(をんな)一通(ひととほり)の女(をんな)ぢや御座(ござ)いませんよ。089グヅグヅしてをると化(ばけ)が現(あらは)れますぜ』
090 天真坊(てんしんばう)は小声(こごゑ)で、
091『馬鹿(ばか)云(い)ふな、092ダリヤ姫(ひめ)が当家(たうけ)に匿(かく)れて居(ゐ)ると云(い)つたからは、093何(なん)とか彼(か)とか云(い)ふて彼女(あいつ)を引張(ひつぱ)りだす迄(まで)、094此処(ここ)を動(うご)かない積(つも)りだ。095貴様(きさま)去(い)にたければ勝手(かつて)に去(い)ね』
096 玉子姫(たまこひめ)は耳(みみ)ざとくも二人(ふたり)の囁(ささや)き話(ばなし)を聞(き)き終(をは)り、
097『ホヽヽヽ、098やつぱり貴方(あなた)はオーラ山(さん)の玄真坊(げんしんばう)様(さま)でせう。099実(じつ)は奥座敷(おくざしき)にお前(まへ)さまの尋(たづ)ねて御座(ござ)るダリヤ姫(ひめ)さまが、100バルギーと云(い)ふ気(き)の利(き)いた男(をとこ)さまと休(やす)んで居(を)られますよ。101それはそれは睦(むつま)じさうな御(ご)夫婦(ふうふ)ですわ。102玄真坊(げんしんばう)と云(い)ふ修験者(しゆげんじや)がやつて来(きた)ら、103何卒(どうぞ)入(い)れないやうにして呉(く)れと呉々(くれぐれ)も頼(たの)まれて居(を)りますから、104何卒(どうぞ)お帰(かへ)り下(くだ)さいませ。105妾(わらは)は夕飯(ゆふはん)のお仕度(したく)で大層(たいそう)忙(いそが)しう御座(ござ)いますから』
106天(てん)『如何(いか)にも拙者(せつしや)は天帝(てんてい)の化身(けしん)、1061玄真坊(げんしんばう)で御座(ござ)る。107一度(いちど)はオーラ山(さん)に於(おい)て悪神(あくがみ)に嗾(そそのか)され108些(ちつ)と許(ばか)り善(よ)からぬ事(こと)を致(いた)したなれど、109悪(あく)に強(つよ)ければ善(ぜん)にもつよい道理(だうり)、110今日(こんにち)の玄真坊(げんしんばう)は清浄(しやうじやう)無垢(むく)、111昔日(せきじつ)の玄真坊(げんしんばう)では御座(ござ)らぬ。112それ故(ゆゑ)に天帝(てんてい)より天真坊(てんしんばう)と神名(しんめい)を賜(たま)はつた者(もの)、113拙者(せつしや)を一夜(いちや)お泊(と)め下(くだ)されば家(いへ)の御(ご)祈祷(きたう)にもなり、114子孫(しそん)長久(ちやうきう)、115福徳(ふくとく)円満(ゑんまん)疑(うたが)ひなし、116まげて一夜(いちや)の宿(やど)をお願(ねが)ひ申(まを)したい』
117玉(たま)『左様(さやう)ならば一寸(ちよつと)まつて居(ゐ)て下(くだ)さい。118妾(わらは)一量見(いちれうけん)には行(ゆ)きませぬ、119主人(しゆじん)に相談(さうだん)して参(まゐ)ります』
120と言(い)ひ乍(なが)ら足早(あしばや)に奥(おく)にかけ込(こ)んだ。
121 何時(いつ)迄(まで)まつても手桶(てをけ)に水(みづ)を汲(く)んで入(はい)つたきり、122ピシヤリと中(なか)から錠(ぢやう)を卸(おろ)し、123猫(ねこ)の子(こ)一匹(ひとつ)顔(かほ)を見(み)せぬ。124玄真坊(げんしんばう)は門口(かどぐち)に立(た)ち、125三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)つて主人(しゆじん)の疑(うたが)ひを晴(は)らさむものと126皺枯声(しわがれごゑ)を張(は)りあげ仔細(しさい)らしく歌(うた)ひ出(だ)した。
127『朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
128月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
129たとへ大地(だいち)は沈(しづ)むとも
130誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ
131誠(まこと)の力(ちから)と云(い)ふ事(こと)は
132天地(てんち)造化(ぞうくわ)の初(はじ)めより
133世(よ)の末々(すゑずゑ)に至(いた)る迄(まで)
134此(この)世(よ)を独(ひとり)守(まも)ります
135宇宙(うちう)唯一(ゆいつ)の神人(しんじん)の
136珍(うづ)の力(ちから)と云(い)ふ事(こと)だ
137あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
138霊(みたま)幸倍(さちはひ)ましまして
139天来(てんらい)唯一(ゆいつ)の救世主(きうせいしゆ)
140産土山(うぶすなやま)の聖場(せいぢやう)に
141現(あらは)れ給(たま)ふ瑞霊(みづみたま)
142神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の
143化身(けしん)とあれし玄真坊(げんしんばう)
144天帝(てんてい)の化身(けしん)と云(い)ふ事(こと)を
145此(この)家(や)の主人(あるじ)委細(つばら)かに
146悟(さと)らせたまへ惟神(かむながら)
147慎(つつし)み敬(ゐやま)ひ願(ね)ぎまつる
148神(かみ)が表(おもて)に現(あらは)れて
149善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)てわける
150抑(そもそも)神(かみ)は何者(なにもの)ぞ
151際限(さいげん)もなき大宇宙(だいうちう)
152作(つく)り給(たま)ひし造物主(ざうぶつしゆ)
153これこそ誠(まこと)の神(かみ)なるぞ
154抑(そもそも)神(かみ)は無形(むけい)なり
155無声(むせい)に居(ゐ)ますその限(かぎ)り
156何(なに)程(ほど)力(ちから)があるとても
157そのまま此(この)世(よ)を守(まも)るてふ
158仕組(しぐみ)は到底(たうてい)むつかしい
159それ故(ゆゑ)神(かみ)に選(えら)まれし
160地上(ちじやう)唯一(ゆいつ)の予言者(よげんしや)を
161神(かみ)の機関(きくわん)と相定(あひさだ)め
162神(かむ)素盞嗚(すさのを)の精霊(せいれい)に
163珍(うづ)の聖霊(せいれい)を宿(やど)しまし
164下(くだ)らせたまひし肉(にく)の宮(みや)
165これこそ世界(せかい)の太柱(ふとばしら)
166神(かみ)の柱(はしら)は天真坊(てんしんばう)
167決(けつ)して間違(まちが)ひ御座(ござ)らぬぞ
168早(はや)く疑(うたが)ひ晴(は)らしませ
169神(かみ)は此(この)家(や)に幸(さいはひ)を
170与(あた)へて霊肉(れいにく)諸共(もろとも)に
171天国(てんごく)浄土(じやうど)に救(すく)はむと
172門(かど)の戸(と)たたき立(た)ちたまふ
173心(こころ)の暗(くら)き人々(ひとびと)は
174神(かみ)の柱(はしら)を見誤(みあやま)り
175門(かど)の戸(と)開(ひら)いて迎(むか)へ入(い)る
176礼儀(れいぎ)を知(し)らぬ愚(おろ)かさよ
177後(あと)の後悔(こうくわい)間(ま)に合(あ)はぬ
178早(はや)く心(こころ)を改(あらた)めて
179二(ふた)つの眼(まなこ)にかけたまふ
180青赤黒(あをあかくろ)の眼鏡(めがね)をば
181外(はづ)して吾(わが)身(み)の顔(かほ)を見(み)よ
182さすれば疑(うたが)ひ晴(は)れるだらう
183総(すべ)て化身(けしん)と云(い)ふものは
184人間並(にんげんなみ)の顔(かほ)ぢやない
185五百(ごひやく)羅漢(らかん)か不動(ふどう)さま
186悪鬼(あくき)羅刹(らせつ)の相(さう)をして
187人(ひと)の心(こころ)をひくために
188現(あらは)れ出(い)づるものなるぞ
189何(なに)程(ほど)顔(かほ)がきれいでも
190心(こころ)に潜(ひそ)む枉神(まがかみ)に
191注意(ちうい)せなくちや臍(ほぞ)をかむ
192やうな失敗(しつぱい)出来(でき)るぞや
193省(かへり)みたまへ玉子姫(たまこひめ)
194此(この)家(や)の主(あるじ)玉清別(たまきよわけ)の
195為(た)めに化身(けしん)が宣示(せんじ)する
196あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
197霊(みたま)幸倍(さちは)へましませよ』
198 神(かみ)の子(こ)は窓(まど)から二人(ふたり)の姿(すがた)をのぞき、199此(この)歌(うた)を聞(き)いて吹(ふ)き出(だ)しながら、200小(ちひ)さい手(て)を拍(う)つて弟(おとうと)の玉(たま)の子(こ)と共(とも)に歌(うた)ひ出(だ)した。
201『お化(ばけ)のやうな坊(ばう)さまが
202泥棒(どろばう)の乾児(こぶん)をつれて来(き)て
203誠(まこと)ぢや嘘(うそ)ぢや化身(けしん)ぢやと
204甘(うま)い事(こと)をば言(い)ひ並(なら)べ
205家(うち)のお父(とう)さまをごまかして
206此(この)家(や)に一夜(いちや)とまり込(こ)み
207ねてもさめても夢現(ゆめうつつ)
208忘(わす)れられないダリヤさまを
209連(つ)れて帰(かへ)らうと企(たく)みつつ
210嘘八百(うそはつぴやく)を並(なら)べたて
211目玉(めだま)をむき出(だ)し嘴(くちばし)を
212無性(むしやう)矢鱈(やたら)にとがらして
213臭(くさ)い呼吸(いき)をば吐(は)き乍(なが)ら
214屋敷(やしき)の空気(くうき)を汚(けが)しよる
215もはや観念(くわんねん)するがよい
216万劫(まんごふ)末代(まつだい)門口(かどぐち)は
217お前(まへ)の為(た)めには開(ひら)かない
218三五教(あななひけう)に化(ば)けて来(き)て
219甘(うま)い事(こと)せうとはそれや何(なん)だ
220お尻(しり)喰(くら)ひの観音(くわんおん)だ
221早(はや)く帰(かへ)つたがよからうぞ
222お杓(しやく)に水(みづ)を汲(く)んで来(き)て
223頭(あたま)の上(うへ)からぶつかけよか
224尻尾(しつぽ)を股(また)へ捻(ね)ぢこんで
225一(いち)時(じ)も早(はや)く帰(かへ)れかし
226女(をんな)を逐(お)ふよな面(つら)でない
227早(はや)くいんで呉(く)れ貧乏神(びんばふがみ)
228アハヽヽヽヽヽあの面(つら)を
229一寸(ちよつと)見(み)なされお母(かあ)さま
230小田(をだ)の蛙(かはづ)の鳴(な)き損(そこ)ね
231夜食(やしよく)に外(はづ)れた梟鳥(ふくろどり)
232形容(けいよう)の出来(でき)ないスタイルだ
233ほんとに怪体(けたい)な売僧(まいす)坊主(ばうず)
234神(かみ)の館(やかた)を逸早(いちはや)く
235尻(しり)に帆(ほ)をかけ去(い)んで呉(く)れ
236お前(まへ)の去(い)んだその跡(あと)で
237お塩(しほ)の三俵(さんぺう)も振(ふ)り撤(ま)いて
238隅(すみ)から隅(すみ)迄(まで)大掃除(おほさうぢ)
239致(いた)さにやならぬ厄介(やくかい)な
240山子(やまこ)坊主(ばうず)が来(き)たものだ
241イヒヽヽヽヽヽイヒヽヽヽ』
242と腮(あご)をしやくり頭(あたま)を窓(まど)から突(つ)き出(だ)し、243小(ちひ)さい足音(あしおと)を刻(きざ)み乍(なが)ら奥(おく)に引(ひ)つこんでしまつた。
244 コブライは馬鹿(ばか)らしくて耐(たま)らず、245チエツと歯(は)噛(がみ)をなし、246睨(にら)みつけながら、247斜(はすかひ)になつて門口(もんぐち)を出(で)た。248天真坊(てんしんばう)もチエツと舌(した)うちしながら駆(か)けだす、249待(ま)ち構(かま)へて居(ゐ)た下男(げなん)は手早(てばや)く門(もん)の閂(かんぬき)を箝(は)めて仕舞(しま)つた。
250 夕陽(せきやう)傾(かたむ)いて暗(やみ)の扉(とびら)は四方(しはう)より拡(ひろ)がつて来(く)る。251執念(しふねん)深(ぶか)き玄真坊(げんしんばう)は現在(げんざい)恋慕(こひした)ふダリヤが此(この)館(やかた)に居(を)ると聞(き)いては、252仮令(たとへ)命(いのち)を的(まと)にかけても目的(もくてき)を達(たつ)せねばおかぬと253門先(かどさき)の石(いし)の上(うへ)に腰(こし)をうちかけ、254双手(もろて)を組(く)んで思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)る。255塒(ねぐら)求(もと)むる夕烏(ゆふがらす)、256近所(きんじよ)の森(もり)の上(うへ)から阿呆(あはう)々々(あはう)とおちよくるやうに頭(あたま)の上(うへ)から喚(わめ)いてゐる。
257(大正一四・一一・七 旧九・二一 於祥明館 加藤明子録)
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