霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 時化(しけ)の湖(うみ)〔一八一一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻 篇:第1篇 水波洋妖 よみ(新仮名遣い):すいはようよう
章:第2章 時化の湖 よみ(新仮名遣い):しけのうみ 通し章番号:1811
口述日:1926(大正15)年06月29日(旧05月20日) 口述場所:天之橋立なかや別館 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
妖幻坊と高姫の経緯を歌う:
初稚姫と霊犬スマートに祠の森を追い出された妖幻坊と高姫は、小北山の霊場から曲輪の玉を奪い、妖幻坊の妖術で曲輪城を作る。妖幻坊は高宮彦、高姫は高宮姫と名乗る。
そこへ初稚姫に踏み込まれ、妖幻坊は術が破れる。妖幻坊は高姫を抱え、月の国へ空を翔けて逃げ去るが、烈風によって高姫は吹き飛ばされ墜落し、息絶える。
高姫は幽界にさまよう。さまよいつつ八衢(やちまた)でウラナイ教の布教をしていたが、トルマン国の王妃・千草姫の他界と共にその肉体に宿り、現界によみがえる。
梅公別によって金毛九尾の正体をあらわしトルマン国を逃げ去った後、浜屋旅館の一室で妖幻坊の杢助に再開し、乗合船・高砂丸でスガの港をさして行く。
三五教の光を恐れた妖幻坊は、その神の道を破ろうと、三五教に捨てられた高姫に目をつけ、杢助に変装してたぶらかしたのであった。
高砂丸には、「高砂笑」といって、どんな身分の人間であれ、あらゆる人物を忌憚なく批評し、悪口をいい、嘲笑することが許される、面白い習慣が残っていた。
先客となっていたコブライ、コオロ(元玄真坊の部下)は、さっそく話の花を咲かせている。
玄真坊が千草の高姫に有り金を巻き上げられた上に殺されかけたこと、その高姫と、大雲山の妖怪の化身・妖幻坊が、万民を苦しめ三五教の聖地を横領しようと、ハルの海を渡ろうとしていること、などを語っている。
妖幻坊と高姫は、その話を聞き腹を立てつつ、水に弱いがために、悔し涙を流しながら黙って素知らぬ顔をしていた。
突然暴風雨が吹き出し、高砂丸はたちまち転覆してしまう。乗客一同は湖に投げ出されてしまうが、そこへ新造船が勢いよくやってくる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2019-05-11 01:37:24 文字数:3576 OBC :rm7202
愛善世界社版:17頁 八幡書店版:第12輯 612頁 修補版: 校定版:18頁 普及版:5頁 初版: ページ備考:
001妖幻坊(えうげんばう)の杢助(もくすけ)や
002金毛(きんまう)九尾(きうび)の高姫(たかひめ)は
003初稚姫(はつわかひめ)の神徳(しんとく)と
004猛犬(まうけん)スマートの威(ゐ)に怖(おそ)れ
005祠(ほこら)の森(もり)を逸早(いちはや)く
006雲(くも)を霞(かすみ)と逃(にげ)出(いだ)し
007薄(すすき)の茂(しげ)る大野原(おほのはら)
008彼方(あなた)此方(こなた)とかけ廻(めぐ)り
009迂路(うろ)つき魔誤(まご)つき歯噛(しが)みつき
010意茶(いちや)つき喧嘩(けんくわ)も病(やみ)つきで
011施(ほどこ)す術(すべ)も月(つき)の空(そら)
012遥(はるか)にかがやく小北山(こぎたやま)
013其(その)霊場(れいぢやう)に蠑螈別(いもりわけ)
014魔我彦(まがひこ)司(つかさ)の居(ゐ)ると聞(き)き
015斎苑(いそ)の館(やかた)の総務職(そうむしよく)
016笠(かさ)にきながら妖幻坊(えうげんばう)
017ウラナイ教(けう)の大教祖(だいけうそ)
018高姫司(たかひめつかさ)と名乗(なの)りつつ
019二人(ふたり)は手(て)に手(て)を把(と)りながら
020一本橋(いつぽんばし)を撓(たわ)づかせ
021河鹿(かじか)の流(ながれ)を打(うち)渡(わた)り
022魔風(まかぜ)恋風(こひかぜ)吹(ふ)き荒(すさ)ぶ
023蠑螈館(いもりやかた)に来(き)て見(み)れば
024目界(めかい)の見(み)えぬ文助(ぶんすけ)が
025白(しろ)き衣(ころも)を着(つ)けながら
026受付席(うけつけせき)に控(ひか)へ居(ゐ)る
027高姫(たかひめ)見(み)るより驚(おどろ)いて
028『これこれお前(まへ)は文助(ぶんすけ)か
029此(この)聖場(せいぢやう)は高姫(たかひめ)の
030教(をしへ)を伝(つた)ふる蠑螈別(いもりわけ)
031神(かみ)の司(つかさ)の館(やかた)ぞや
032蠑螈(いもり)の別(わけ)の教(のり)の祖(おや)
033高姫司(たかひめつかさ)をさしおいて
034教(をしへ)を布(し)くとは虫(むし)がよい
035些(ち)つと心得(こころえ)なさりませ
036此(この)御(おん)方(かた)は産土(うぶすな)の
037山(やま)の台(うてな)に千木(ちぎ)高(たか)く
038大宮柱(おほみやばしら)太知(ふとし)りて
039鎮(しづ)まり居(ゐ)ます素盞嗚(すさのを)の
040神(かみ)の教(をしへ)に仕(つか)へます
041三羽烏(さんばがらす)の御(おん)一人(ひとり)
042杢助(もくすけ)総務(そうむ)で御座(ござ)るぞや
043早(はや)く挨拶(あいさつ)した上(うへ)で
044いと丁寧(ていねい)におもてなし
045神(かみ)の如(ごと)くに敬(うやま)へ』と
046大法螺(おほぼら)吹(ふ)き立(た)て尻(しり)を振(ふ)り
047松姫館(まつひめやかた)に駆(か)け込(こ)んで
048お千代(ちよ)やお菊(きく)に揶揄(からか)はれ
049腹(はら)は立(た)てども虫(むし)耐(こら)へ
050木端(こつぱ)役員(やくゐん)初(はつ)、徳(とく)を
051旨(うま)く抱(だ)き込(こ)み小北山(こぎたやま)
052神(かみ)の館(やかた)を奪(うば)はむと
053あらゆる手段(しゆだん)を尽(つく)す折(をり)
054頂上(ちやうじやう)の宮(みや)の鳴動(めいどう)に
055荒胆(あらぎも)つぶし逃(に)げ出(いだ)し
056二百(にひやく)の階段(かいだん)驀地(まつしぐら)
057下(くだ)る折(をり)しも文助(ぶんすけ)に
058思(おも)はず知(し)らず衝突(しようとつ)し
059曲輪(まがわ)の玉(たま)を遺失(ゐしつ)して
060高姫(たかひめ)、初(はつ)、徳(とく)諸共(もろとも)に
061雲(くも)を霞(かす)みと逃(に)げ出(いだ)し
062怪(あや)しの森(もり)の近(ちか)く迄(まで)
063逃(に)げ来(く)る折(をり)しも妖幻坊(えうげんばう)
064吾(わが)懐(ふところ)に隠(かく)したる
065曲輪(まがわ)の玉(たま)の影(かげ)なきに
066顔(かほ)青(あを)ざめて思案顔(しあんがほ)
067芝生(しばふ)の上(うへ)にどつと坐(ざ)し
068萎(しを)れかかりし其(その)風情(ふぜい)
069見(み)るより高姫(たかひめ)怪(あや)しみて
070様子(やうす)を問(と)へば妖幻坊(えうげんばう)
071如意(によい)の宝珠(ほつしゆ)に勝(まさ)りたる
072曲輪(まがわ)の玉(たま)をはしなくも
073小北(こぎた)の山(やま)に落(おと)したり
074初(はつ)、徳(とく)両人(りやうにん)吾(わが)命(めい)を
075奉(ほう)じて小北(こぎた)の山(やま)に行(ゆ)き
076曲輪(まがわ)の玉(たま)を奪(と)り返(かへ)し
077帰(かへ)り来(きた)れと命(めい)ずれば
078尻(しり)を痛(いた)めた両人(りやうにん)は
079チガチガ坂(ざか)をよぢ登(のぼ)り
080文助司(ぶんすけつかさ)を気絶(きぜつ)させ
081漸(やうや)く曲輪(まがわ)の玉(たま)を奪(と)り
082再(ふたた)び怪(あや)しの森影(もりかげ)に
083走(はし)り帰(かへ)れば妖幻坊(えうげんばう)
084高姫(たかひめ)二人(ふたり)は喜(よろこ)びて
085やにわに玉(たま)を引奪(ひつたく)り
086其(その)懐(ふところ)に捻(ね)ぢ込(こ)みぬ
087折柄(をりから)下(さが)る闇(やみ)の幕(まく)
088是(これ)幸(さいは)ひと両人(りやうにん)は
089闇(やみ)に潜(ひそ)める初(はつ)、徳(とく)の
090頭(あたま)の辺(あたり)を目(め)がけつつ
091闇(やみ)に打(う)ち出(だ)す石礫(いしつぶて)
092夜目(よるめ)の見(み)える妖幻坊(えうげんばう)
093金毛(きんまう)九尾(きうび)の二人(ふたり)連(づ)れ
094雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ出(いだ)し
095浮木(うきき)の森(もり)の狸穴(まみあな)に
096暫(しばら)く身(み)をば潜(ひそ)めつつ
097曲輪(まがわ)の玉(たま)を応用(おうよう)し
098一夜(いちや)に造(つく)る城廓(じやうくわく)は
099天(てん)を摩(ま)しつつ聳(そそり)立(た)つ
100金毛(きんまう)九尾(きうび)の高姫(たかひめ)は
101実(まこと)の城(しろ)と思(おも)ひ詰(つ)め
102杢助司(もくすけつかさ)の妙術(めうじゆつ)を
103口(くち)を極(きは)めて称讃(しようさん)し
104高宮彦(たかみやひこ)は妖幻坊(えうげんばう)
105己(おのれ)は高宮姫(たかみやひめ)となり
106高子(たかこ)宮子(みやこ)の侍女(こしもと)を
107狸(たぬき)と知(し)らず侍(はべ)らせて
108恋(こひ)に狂(くる)へる折(をり)もあれ
109三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
110初稚姫(はつわかひめ)に踏(ふ)み込(こ)まれ
111妖術(えうじゆつ)ここに暴露(ばくろ)して
112妖幻坊(えうげんばう)は座(ざ)に堪(た)へず
113高姫司(たかひめつかさ)を引(ひ)つ抱(かか)へ
114もはや運命(うんめい)月(つき)の国(くに)
115デカタン国(ごく)の高原(かうげん)の
116空(そら)翔(か)けり行(ゆ)く折(をり)もあれ
117俄(にはか)に吹(ふ)き来(く)る烈風(れつぷう)に
118耐(たま)りかねてか高姫(たかひめ)を
119かかへし腕(かひな)くつろげば
120空中(くうちう)滑走(くわつそう)の曲芸(きよくげい)を
121演(えん)じて地上(ちじやう)に墜落(つゐらく)し
122高姫(たかひめ)息(いき)は絶(た)えにけり
123さは然(さ)りながら高姫(たかひめ)は
124吾(わが)肉体(にくたい)の失(う)せしをば
125夢(ゆめ)にも知(し)らず幽界(いうかい)の
126八衢(やちまた)街道(かいだう)をとぼとぼと
127彼方(あなた)此方(こなた)に彷徨(さまよ)ひつ
128杢助司(もくすけつかさ)の所在(ありか)をば
129探(さが)し求(もと)めて三年振(みとせぶり)
130月日(つきひ)も照(て)らぬ岩山(いはやま)の
131麓(ふもと)に荒屋(あばらや)構(かま)へつつ
132往来(ゆきき)の精霊(せいれい)引(ひ)つ捕(とら)へ
133底(そこ)つ岩根(いはね)の大(おほ)ミロク
134日(ひ)の出(で)の神(かみ)の生宮(いきみや)を
135悟(さと)れよ知(し)れよ救世主(きうせいしゆ)
136此処(ここ)に居(ゐ)ますと法螺(ほら)を吹(ふ)き
137騒(さわ)ぎ廻(まは)るぞ可笑(をか)しけれ
138三年(みとせ)を過(す)ぎし暁(あかつき)に
139トルマン国(ごく)の王妃(わうひ)なる
140千草(ちぐさ)の姫(ひめ)の身(み)死(まか)りし
141其(その)肉体(にくたい)を宿(やど)となし
142再(ふたた)び現世(このよ)に蘇生(よみがへ)り
143千草(ちぐさ)の高姫(たかひめ)となりすまし
144国王(こくわう)迄(まで)も尻(しり)に敷(し)き
145あらむ限(かぎ)りの狂態(きやうたい)を
146日夜(にちや)演(えん)ずる折(をり)もあれ
147言霊別(ことたまわけ)の化身(けしん)なる
148梅公司(うめこうつかさ)に謀(はか)られて
149包(つつ)むに由(よし)なく忽(たちま)ちに
150金毛(きんまう)九尾(きうび)と還元(くわんげん)し
151トルマン城(じやう)を後(あと)にして
152雲(くも)を霞(かすみ)と逃(に)げ出(いだ)し
153妖僧(えうそう)キユーバーの行衛(ゆくゑ)をば
154探(さぐ)る折(をり)しも入江港(いりえかう)
155浜屋(はまや)旅館(りよくわん)の一室(いつしつ)で
156思(おも)はず知(し)らず杢助(もくすけ)に
157化(ば)けおほせたる妖幻坊(えうげんばう)に
158出会(でくは)し茲(ここ)に両人(りやうにん)は
159手(て)に手(て)を把(と)つて夜(よる)の道(みち)
160浜辺(はまべ)に出(い)でて乗合(のりあひ)の
161高砂丸(たかさごまる)に身(み)を任(まか)せ
162スガの港(みなと)をさして行(ゆ)く
163波瀾(はらん)重畳(ちようでふ)限(かぎ)りなき
164いと面白(おもしろ)き物語(ものがたり)
165完全(うまら)に委曲(つばら)に述(の)べてゆく
166あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
167恩頼(みたまのふゆ)をたまへかし
168○
169曲津(まがつ)の運命(うんめい)月(つき)の国(くに)
170大雲山(たいうんざん)に蟠(わだか)まる
171八岐(やまた)大蛇(をろち)の片腕(かたうで)と
172世(よ)に聞(きこ)えたる妖幻坊(えうげんばう)
173三五教(あななひけう)の皇神(すめかみ)の
174清(きよ)き明(あか)るき大道(おほみち)の
175光(ひかり)を怖(おそ)れ戦(をのの)きて
176数多(あまた)の魔神(まがみ)を呼(よび)集(つど)へ
177神(かみ)の大路(おほぢ)を破(やぶ)らむと
178心(こころ)を砕(くだ)き身(み)を焦(こが)し
179三五教(あななひけう)に捨(す)てられて
180心(こころ)ひがめる高姫(たかひめ)の
181腸(はらわた)探(さぐ)り杢助(もくすけ)と
182身(み)をやつしたる恐(おそ)ろしさ
183身(み)を粉(こ)にしても砕(くだ)けても
184潰(つぶ)さにやおかぬ三五(あななひ)の
185道(みち)こそ強(つよ)き梓弓(あづさゆみ)
186ハルの海原(うなばら)船出(ふなで)して
187再(ふたた)び会(あ)ひし高姫(たかひめ)と
188教(のり)のとも船(ぶね)高砂(たかさご)の
189名(な)に負(お)ふ船(ふね)に身(み)を任(まか)せ
190油(あぶら)を流(なが)せし如(ごと)くなる
191浪(なみ)も静(しづか)な海原(うなばら)を
192鼻歌(はなうた)謡(うた)ひ勇(いさ)みつつ
193スガの港(みなと)をさして行(ゆ)く。
194 妖幻坊(えうげんばう)、195高姫(たかひめ)の乗(の)り込(こ)んだ高砂丸(たかさごまる)は[※第71巻第20章では舟を盗んだことになっている。]余(よ)程(ほど)の老朽船(らうきうせん)であつた。196此(この)船(ふね)には建造(けんざう)以来(いらい)、197高砂笑(たかさごわらひ)と云(い)つて一種(いつしゆ)の妙(めう)な習慣(しふくわん)が残(のこ)つて居(ゐ)た。198高砂丸(たかさごまる)に乗(の)り込(こ)んだ者(もの)は、199大(だい)は政治(せいぢ)の善悪(ぜんあく)より下(しも)は小役人(こやくにん)の行動(かうどう)をはじめ、200主人(しゆじん)や下僕(しもべ)、201朋友(ほういう)知己(ちき)、202其(その)外(ほか)所有(あらゆる)人物(じんぶつ)を捉(とら)へて忌憚(きたん)なく批評(ひひやう)し、203悪罵(あくば)し、204嘲笑(てうせう)することが不文律(ふぶんりつ)として許(ゆる)されて居(ゐ)た。205遅々(ちち)として進(すす)まぬ船(ふね)の脚(あし)、206退屈(たいくつ)まぎれに種々(いろいろ)の面白(おもしろ)き話(はなし)の花(はな)が咲(さ)いて来(き)た。
207 船客(せんきやく)の一人(ひとり)、
208甲(かふ)『オイ、209コブライ、210玄真坊(げんしんばう)と云(い)ふ売僧(まいす)坊主(ばうず)は本当(ほんたう)に仕方(しかた)のない餓鬼(がき)坊主(ばうず)ぢやないか。211天帝(てんてい)の化身(けしん)だの、212天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)だのと大法螺(おほぼら)を吹(ふ)きやがつて、213オーラ山(さん)に立(た)て籠(こも)り、214三五教(あななひけう)の梅公別(うめこうわけ)様(さま)に内兜(うちかぶと)を見透(みすか)され、215岩窟(いはや)退治(たいぢ)をせられてお払(はら)ひ箱(ばこ)となり、216三百(さんびやく)人(にん)の小泥棒(こどろぼう)を従(したが)へて再(ふたた)びオーラ山(さん)の二(に)の舞(まひ)をやらうと企(たくら)み、217スガの港(みなと)のダリヤ姫(ひめ)に懸想(けさう)して旨(うま)く肱鉄砲(ひぢてつぱう)を乱射(らんしや)され、218終(しまひ)の果(は)てにやタラハン城(じやう)の左守(さもり)の司(かみ)に腹(はら)迄(まで)切(き)らせ、219しこたま黄金(わうごん)を強奪(ふんだく)り俺(おれ)達(たち)に揚壺(あげつぼ)を喰(く)はし、220入江港(いりえかう)の浜屋(はまや)旅館(りよくわん)に泊(とま)り込(こ)み、221千草(ちぐさ)の高姫(たかひめ)とか云(い)ふ妖女(えうじよ)に涎(よだれ)を垂(た)らかし、222眉毛(まゆげ)をよまれ睾丸(きんたま)を締(しめ)られ、223所持金(ありがね)をすつかり奪(と)られて、224殺(ころ)されよつたと云(い)ふ事(こと)だが、225本当(ほんたう)によい気味(きみ)ぢやないか。226俺(おれ)達(たち)が越後(ゑちご)獅子(じし)に化(ば)けて、227彼奴(きやつ)の面(つら)を曝(さら)してやつた時(とき)の狼狽(うろたへ)やうつたら無(な)かつたぢやないか、228本当(ほんたう)に思(おも)うても溜飲(りういん)が下(さが)るやうぢやのう、229エヘヽヽヽ』
230コブライ『玄真坊(げんしんばう)なんか悪(わる)いと云(い)つたつて知(し)れたものだよ、231彼奴(あいつ)は女(をんな)さへ当(あて)がつておけば如何(どう)でもなる代物(しろもの)だ。232些(ち)つと山気(やまけ)はあるが、233根(ね)が愚物(ぐぶつ)だから、234あんな奴(やつ)は驚(おどろ)くに足(た)らないが、235この頃(ごろ)三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の話(はなし)に聞(き)けば、236大雲山(たいうんざん)の妖幻坊(えうげんばう)とか云(い)ふ獅子(しし)と虎(とら)との混血児(こんけつじ)なる大妖魅(だいえうみ)が天下(てんか)を横行(わうかう)し万民(ばんみん)を苦(くる)しめ、237三五教(あななひけう)の聖地(せいち)迄(まで)も横領(わうりやう)せむとして、238第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)の御(ご)化身(けしん)初稚姫(はつわかひめ)様(さま)とやら云(い)ふエンゼル様(さま)に太(いた)く誡(いまし)められ、239高姫(たかひめ)とか云(い)ふ淫乱婆(いんらんばば)と手(て)に手(て)を把(と)つてハルの湖(みづうみ)を渡(わた)ると云(い)ふぢやないか。240三五教(あななひけう)の照国別(てるくにわけ)とか云(い)ふ生神(いきがみ)様(さま)のお話(はなし)だと云(い)うて241今朝(けさ)も埠頭(はとば)に沢山(たくさん)の人(ひと)が居(ゐ)てこそこそ話(はな)して居(ゐ)たよ。242俺(おれ)達(たち)は玄真坊(げんしんばう)さへもあの通(とほ)りこつぴどくやつつけて肝玉(きもだま)を転倒(ひつくりかへ)してやつたのだから、243万一(まんいち)妖幻坊(えうげんばう)に出会(でくは)したら最後(さいご)素首(そつくび)を捻切(ねぢき)つて引(ひき)千(ち)断(ぎ)つて、244小供(こども)が人形(にんぎやう)を潰(つぶ)した様(やう)な目(め)に会(あは)してやり、245天下(てんか)万民(ばんみん)の憂(うれひ)を除(のぞ)き救世主(きうせいしゆ)にでもなつてやらうと思(おも)ひ、246もしや此(この)高砂丸(たかさごまる)に怪(あや)しい奴(やつ)が乗(の)つて居(ゐ)やしないかと目(め)をぎよろつかせて居(ゐ)るのだが、247ねつから悪魔(あくま)らしい奴(やつ)も見(み)えず、248いささか見当違(けんたうちが)ひで面喰(めんくら)つて居(ゐ)るのだ。249もしひよつと船底(せんてい)にでも潜伏(せんぷく)して居(ゐ)やうものなら、250俺(おれ)が口笛(くちぶえ)を吹(ふ)くから、251お前(まへ)も加勢(かせい)を頼(たの)むよ。252名誉(めいよ)は山別(やまわ)けだからのう、253オホン』
254コオロ『ヘン偉(えら)さうに法螺(ほら)を吹(ふ)くなよ、255内弁慶(うちべんけい)の外(そと)すぼり奴(め)が、256貴様(きさま)の面(つら)で妖魅(えうみ)退治(たいぢ)も糞(くそ)もあつたものか、257天(てん)に口(くち)あり壁(かべ)にも耳(みみ)だ。258妖幻坊(えうげんばう)と云(い)ふ奴(やつ)は魔神(ましん)の大将(たいしやう)だから、259俺(おれ)達(たち)の囁(ささや)き話(ばなし)を千(せん)里(り)外(そと)からでも聞(き)いて居(ゐ)ると云(い)ふ事(こと)だ。260口(くち)は禍(わざはひ)の門(もん)と云(い)ふから、261先(ま)づ沈黙(ちんもく)したら宜(よ)からうぞ』
262コブ『馬鹿(ばか)を云(い)ふな、263妖幻坊(えうげんばう)が怖(こは)くて此(この)世(よ)の中(なか)に居(を)れるかい。264何(なに)程(ほど)強(つよ)いと云(い)つても女(をんな)の顔(かほ)を見(み)れや菎蒻(こんにやく)のやうになる代物(しろもの)だから、265知(し)れたものだよ。266見(み)ると聞(き)くとは大違(おほちが)ひと云(い)ふ諺(ことわざ)もあるから、267実物(じつぶつ)に遇(あ)うたら案外(あんぐわい)しやつちも無(な)い者(もの)かも知(し)れないよ、268アハヽヽヽ』
269 妖幻坊(えうげんばう)、270千草(ちぐさ)の高姫(たかひめ)は船(ふね)の底(そこ)に青(あを)くなつて縮(ちぢ)こまり、271二人(ふたり)の話(はなし)を聞(き)いて腹(はら)は立(た)つて堪(たま)らねど、272何(なん)と云(い)うても湖(うみ)の上(うへ)、273水(みづ)には弱(よわ)い両人(りやうにん)の事(こと)とて悔(くや)し涙(なみだ)を呑(の)み乍(なが)ら、274素知(そし)らぬ顔(かほ)して控(ひか)へて居(ゐ)た。275頃(ころ)しも晴(は)れ渡(わた)りたる東北(とうほく)の空(そら)に一塊(いつくわい)の黒雲(こくうん)現(あら)はれると見(み)る間(ま)に、276忽(たちま)ち東西(とうざい)南北(なんぼく)に拡大(くわくだい)し、277満天(まんてん)墨(すみ)を流(なが)したる如(ごと)く、278昼(ひる)尚(な)ほ暗(くら)く、279暴風(ばうふう)吹(ふ)き来(きた)り、280雨(あめ)沛然(はいぜん)として降(ふ)り注(そそ)ぎ、281波浪(はらう)は山岳(さんがく)の如(ごと)く猛(たけ)り狂(くる)ひ、282半(なか)ば荒廃(くわうはい)に帰(き)したる高砂丸(たかさごまる)は、283めきめきと怪(あや)しき音(おと)を立(た)て、284忽(たちま)ち転覆(てんぷく)の厄(やく)に遇(あ)ひ、285乗客(じやうきやく)一同(いちどう)は浮(う)きつ沈(しづ)みつ声(こゑ)を限(かぎ)りに助(たす)けを呼(よ)んだ。286折(をり)から激浪(げきらう)怒濤(どとう)を犯(をか)して八挺櫓(はつちやうろ)を漕(こ)ぎながら勢(いきほひ)よく進(すす)み来(きた)る新造船(しんざうせん)があつた。287嗚呼(ああ)船客(せんきやく)一同(いちどう)の運命(うんめい)は如何(どう)なるであらうか。
288(大正一五・六・二九 旧五・二〇 於天之橋立なかや旅館 加藤明子録)
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