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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第72巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 水波洋妖
第1章 老の高砂
第2章 時化の湖
第3章 厳の欵乃
第4章 銀杏姫
第5章 蛸船
第6章 夜鷹姫
第7章 鰹の網引
第2篇 杢迂拙婦
第8章 街宣
第9章 欠恋坊
第10章 清の歌
第11章 問答所
第12章 懺悔の生活
第13章 捨台演
第14章 新宅入
第15章 災会
第16章 東西奔走
第3篇 転化退閉
第17章 六樫問答
第18章 法城渡
第19章 旧場皈
第20章 九官鳥
第21章 大会合
第22章 妖魅帰
筑紫潟
余白歌
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霊界物語
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山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第72巻(亥の巻)
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<<< 蛸船
(B)
(N)
鰹の網引 >>>
第六章
夜鷹姫
(
よたかひめ
)
〔一八一五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
篇:
第1篇 水波洋妖
よみ(新仮名遣い):
すいはようよう
章:
第6章 夜鷹姫
よみ(新仮名遣い):
よたかひめ
通し章番号:
1815
口述日:
1926(大正15)年06月29日(旧05月20日)
口述場所:
天之橋立なかや別館
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1929(昭和4)年4月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
妖幻坊と高姫が湖上を進んでいくと、一艘の小船とすれ違った。高姫はその船に乗っている男を見て顔を赤くする。
妖幻坊はそれを見て、高姫が他の男に恋慕していると嫉妬し、小船を追いかける。
小船は、もと来た離れ小島に横付けとなっていた。妖幻坊は船に乗っていた男を追いかけていく。それは梅公別であった。
梅公別は高姫に「まんざら他人でもない」と挨拶して、妖幻坊の嫉妬をあおる。
妖幻坊は高姫に、梅公別を蟻の竹やぶに誘い込むように命令する。高姫は、竹やぶで蟻に責められている男女を救うように梅公別をそそのかす。
実は梅公別は、二人の男女が高姫にだまされて蟻に責められていることは、常磐丸の船内で透視して知っていた。そして二人を助けに小船でやってきたのであった。
すでに蟻の魔の森に鎮魂を修し、神霊を送って蟻を退けておいてあった。
また、高姫が自分を蟻の餌食にしようとしていることを知っていたが、だまされた振りをして、森に飛び込む。
妖幻坊と高姫はそれを見て満足し、船に乗って島を去っていく。
一方梅公別はフクエと岸子を救い出し、スガの港を指して進み行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-12-08 22:49:41
OBC :
rm7206
愛善世界社版:
68頁
八幡書店版:
第12輯 630頁
修補版:
校定版:
71頁
普及版:
27頁
初版:
ページ備考:
001
妖幻坊
(
えうげんばう
)
、
002
高姫
(
たかひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
太魔
(
たま
)
の
島
(
しま
)
に
繋
(
つな
)
いであつた
小船
(
こぶね
)
を
失敬
(
しつけい
)
し、
003
四五町
(
しごちやう
)
許
(
ばか
)
り
湖上
(
こじやう
)
を
進
(
すす
)
んだ
折
(
をり
)
しも、
004
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
く
一艘
(
いつさう
)
の
小船
(
こぶね
)
此方
(
こなた
)
を
指
(
さ
)
して
馳
(
は
)
せ
来
(
きた
)
るに
出会
(
でくは
)
した。
005
高姫
(
たかひめ
)
は
目敏
(
めざと
)
くも
其
(
その
)
船
(
ふね
)
を
見
(
み
)
てハツと
胸
(
むね
)
を
轟
(
とどろ
)
かせながら
006
顔色
(
がんしよく
)
を
紅
(
くれなゐ
)
に
染
(
そ
)
めた。
007
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
此
(
この
)
体
(
てい
)
を
見
(
み
)
るより
稍
(
やや
)
不審
(
ふしん
)
を
懐
(
いだ
)
き、
008
妖
(
えう
)
『
改
(
あらた
)
めて
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
009
いや
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
、
010
凄
(
すご
)
い
御
(
おん
)
腕前
(
うでまへ
)
にはこの
杢助
(
もくすけ
)
、
011
驚愕
(
きやうがく
)
否
(
いな
)
感激
(
かんげき
)
仕
(
つかまつ
)
りました。
012
帰命
(
きめう
)
頂礼
(
ちやうらい
)
謹請
(
ごんじやう
)
再拝
(
さいはい
)
謹請
(
ごんじやう
)
再拝
(
さいはい
)
』
013
高
(
たか
)
『これはしたり、
014
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
、
015
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
仰
(
おつ
)
しやいますね、
016
何
(
なに
)
をそれ
程
(
ほど
)
感激
(
かんげき
)
なさつたのですか。
017
他人
(
たにん
)
行儀
(
ぎやうぎ
)
に
改
(
あらた
)
まつて
謹請
(
ごんじやう
)
再拝
(
さいはい
)
だなんて、
018
よい
加減
(
かげん
)
に
揶揄
(
からか
)
つておいて
下
(
くだ
)
さいな』
019
妖
(
えう
)
『
忍
(
しの
)
ぶれど
色
(
いろ
)
に
出
(
で
)
にけり
吾
(
わが
)
恋
(
こひ
)
は
020
物
(
もの
)
や
思
(
おも
)
ふと
人
(
ひと
)
の
問
(
と
)
ふ
迄
(
まで
)
。
021
と
云
(
い
)
ふ
百人
(
ひやくにん
)
一首
(
いつしゆ
)
の
歌
(
うた
)
を
022
お
前
(
まへ
)
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだらう』
023
高
(
たか
)
『ヘン、
024
馬鹿
(
ばか
)
にして
下
(
くだ
)
さいますな、
025
そんな
歌
(
うた
)
位
(
ぐらゐ
)
よう
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
ますよ、
026
それが
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
だと
仰有
(
おつしや
)
るのです、
027
怪体
(
けつたい
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやありませぬか』
028
妖
(
えう
)
『お
前
(
まへ
)
は
今
(
いま
)
彼処
(
あすこ
)
へやつて
来
(
き
)
た
一艘
(
いつそう
)
の
船
(
ふね
)
の
若者
(
わかもの
)
を
見
(
み
)
て、
029
顔
(
かほ
)
を
紅葉
(
もみぢ
)
に
染
(
そ
)
めたぢやないか、
030
お
前
(
まへ
)
の
寝
(
ね
)
ても
醒
(
さ
)
めても
忘
(
わす
)
れる
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
ない
恋人
(
こひびと
)
に
相違
(
さうゐ
)
あるまいがな、
031
さうだから
凄
(
すご
)
いお
腕前
(
うでまへ
)
だと
云
(
い
)
つたのだ』
032
高
(
たか
)
『
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
かと
思
(
おも
)
へば
又
(
また
)
嫉
(
や
)
いて
居
(
ゐ
)
るのですか、
033
水
(
みづ
)
の
上
(
うへ
)
で
妬
(
や
)
くのも
余
(
あま
)
り
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かぬぢやありませぬか。
034
サ、
035
そんな
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はないで
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
036
妖
(
えう
)
『
艪
(
ろ
)
を
操
(
あやつ
)
るより
実
(
じつ
)
はあの
男
(
をとこ
)
の
艶福家
(
えんぷくか
)
に
あやかり
度
(
た
)
いのだ。
037
トルマン
城
(
じやう
)
の
王妃
(
わうひ
)
の
君
(
きみ
)
、
038
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
さまに
思
(
おも
)
はれた
天下
(
てんか
)
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
美男子
(
びだんし
)
だからなア。
039
俺
(
おれ
)
のやうな
虎
(
とら
)
とも
獅子
(
しし
)
とも
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
毛
(
け
)
の
深
(
ふか
)
い
男
(
をとこ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
暮
(
くら
)
すよりも、
040
縮緬
(
ちりめん
)
のやうな
肌
(
はだ
)
をした
若
(
わか
)
い
男
(
をとこ
)
と
同棲
(
どうせい
)
した
方
(
はう
)
が、
041
どの
位
(
くらゐ
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
楽
(
たの
)
しいか
分
(
わか
)
らないからのう。
042
いや
醜男
(
ぶをとこ
)
には
生
(
うま
)
れて
来
(
き
)
たくないものだ』
043
高
(
たか
)
『それや
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
います、
044
よい
加減
(
かげん
)
に
妾
(
わたし
)
を
虐
(
いぢ
)
めて
置
(
お
)
いて
下
(
くだ
)
さいませ』
045
妖
(
えう
)
『
本当
(
ほんたう
)
に
046
お
前
(
まへ
)
はあの
男
(
をとこ
)
を
知
(
し
)
らぬと
云
(
い
)
ふのか』
047
高
(
たか
)
『
絶対
(
ぜつたい
)
に
知
(
し
)
らない
事
(
こと
)
は
知
(
し
)
らないと
云
(
い
)
ふより
外
(
ほか
)
に
道
(
みち
)
はありませぬもの』
048
妖
(
えう
)
『
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
049
底
(
そこ
)
つ
岩根
(
いはね
)
の
大
(
おほ
)
ミロク
様
(
さま
)
の
身魂
(
みたま
)
は、
050
決
(
けつ
)
して
嘘
(
うそ
)
は
云
(
い
)
はないでせうね』
051
高
(
たか
)
『
勿論
(
もちろん
)
の
事
(
こと
)
です』
052
妖
(
えう
)
『そんなら
此処
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つお
前
(
まへ
)
と
約束
(
やくそく
)
しよう、
053
お
前
(
まへ
)
が
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るか
居
(
ゐ
)
ないか、
054
あの
船
(
ふね
)
を
追
(
お
)
つかけてあの
若者
(
わかもの
)
に
会
(
あ
)
はして
見
(
み
)
よう。
055
もし、
056
向
(
むかふ
)
の
方
(
はう
)
からお
前
(
まへ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
て
何
(
なん
)
とか
言
(
い
)
つたら
決
(
けつ
)
して
知
(
し
)
らぬとは
言
(
い
)
はさないからな、
057
関係
(
くわんけい
)
のない
男女
(
だんぢよ
)
には
言葉
(
ことば
)
を
交
(
かは
)
さないのがこの
国
(
くに
)
の
規則
(
きそく
)
だ。
058
又
(
また
)
只
(
ただ
)
一度
(
いちど
)
でも
関係
(
くわんけい
)
したら、
059
内証
(
ないしよう
)
でも
言葉
(
ことば
)
をかけなければならぬ
規則
(
きそく
)
だから、
060
どうだ
高姫
(
たかひめ
)
、
061
知
(
し
)
らぬと
云
(
い
)
ふなら
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
ようか』
062
高
(
たか
)
『なんとマア
嫉妬心
(
しつとしん
)
の
深
(
ふか
)
い
執念深
(
しふねんぶか
)
い
人
(
ひと
)
だこと、
063
もうそんな
事
(
こと
)
は
水
(
みづ
)
に
流
(
なが
)
して
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
うスガの
港
(
みなと
)
に
行
(
ゆ
)
かうぢやありませぬか』
064
妖
(
えう
)
『お
前
(
まへ
)
がさう
云
(
い
)
へば
云
(
い
)
ふ
程
(
ほど
)
私
(
わし
)
の
疑
(
うたがひ
)
が
増
(
ま
)
して
来
(
く
)
る
許
(
ばか
)
りだ。
065
若
(
も
)
しお
前
(
まへ
)
に
関係
(
くわんけい
)
があつたとすれや
如何
(
どう
)
して
呉
(
く
)
れる。
066
サアそれから
定
(
き
)
めておこう』
067
高
(
たか
)
『さう
疑
(
うたが
)
はれちや
行
(
や
)
り
切
(
き
)
れませぬから、
068
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
に
調
(
しら
)
べて
下
(
くだ
)
さい、
069
さうしたら
屹度
(
きつと
)
疑
(
うたがひ
)
が
晴
(
は
)
れるでせう。
070
妾
(
わたし
)
の
身
(
み
)
は
晴天
(
せいてん
)
白日
(
はくじつ
)
ですからなア』
071
妖
(
えう
)
『よし、
072
おい
出
(
で
)
た。
073
サアこれからが
化
(
ばけ
)
の
皮
(
かは
)
の
現
(
あら
)
はれ
時
(
とき
)
ぢや、
074
高姫
(
たかひめ
)
さま、
075
確
(
しつか
)
りなさいませや』
076
高
(
たか
)
『
何
(
なん
)
なと
仰有
(
おつしや
)
いませ、
077
その
代
(
かは
)
りあの
男
(
をとこ
)
と
妾
(
わたし
)
と
関係
(
くわんけい
)
が
無
(
な
)
かつたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つたら、
078
どうして
呉
(
く
)
れますか』
079
妖
(
えう
)
『ハヽヽ
如何
(
どう
)
するも
斯
(
か
)
うするもない、
080
分
(
わか
)
つたらお
前
(
まへ
)
も
疑
(
うたがひ
)
が
晴
(
は
)
れて
結構
(
けつこう
)
だらうし、
081
俺
(
おれ
)
も
嫉妬心
(
しつとしん
)
がとれて
大慶
(
たいけい
)
だ。
082
万々一
(
まんまんいち
)
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
違
(
ちが
)
つたら
083
今後
(
こんご
)
どんな
事
(
こと
)
でもお
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
に
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじう
)
を
誓
(
ちか
)
つておく。
084
しかし
俺
(
おれ
)
が
勝
(
か
)
つたら
085
どんな
事
(
こと
)
でもお
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
の
無理
(
むり
)
難題
(
なんだい
)
を
聞
(
き
)
くだらうなア』
086
高
(
たか
)
『
あもや
の
喧嘩
(
けんくわ
)
で
087
餅論
(
もちろん
)
ですワ』
088
「よし
面白
(
おもしろ
)
い」と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
船首
(
せんしゆ
)
を
廻
(
まは
)
し
089
一艘
(
いつそう
)
の
船
(
ふね
)
を
目当
(
めあて
)
に
追
(
おつ
)
かけて
行
(
ゆ
)
く。
090
一艘
(
いつそう
)
の
船
(
ふね
)
は
自分
(
じぶん
)
の
現在
(
げんざい
)
盗
(
と
)
つて
来
(
き
)
た
船
(
ふね
)
の
繋
(
つな
)
いであつた
場所
(
ばしよ
)
へと
横
(
よこ
)
づけとなつた。
091
妖幻坊
(
えうげんばう
)
はオーイ オーイと
熊谷
(
くまがひ
)
もどきに
呼
(
よば
)
はり
乍
(
なが
)
ら
早
(
はや
)
くも
岸辺
(
きしべ
)
についた。
092
梅公別
(
うめこうわけ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
をつくづく
眺
(
なが
)
めながら、
093
『ヤア、
094
誰
(
たれ
)
かと
思
(
おも
)
へば
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
さまで
御座
(
ござ
)
つたか、
095
其
(
その
)
後
(
ご
)
は
打
(
う
)
ち
絶
(
たえ
)
て
御
(
ご
)
無沙汰
(
ぶさた
)
致
(
いた
)
しました。
096
貴女
(
あなた
)
のお
居間
(
ゐま
)
でグツスリと
寝
(
ね
)
さして
貰
(
もら
)
ひ、
097
いかい
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しましたが、
098
ますますお
達者
(
たつしや
)
でお
目出
(
めで
)
とう、
099
見
(
み
)
れば
立派
(
りつぱ
)
なお
婿
(
むこ
)
さまをお
貰
(
もら
)
ひなさつたやうですね。
100
私
(
わたくし
)
とても
万更
(
まんざら
)
他人
(
たにん
)
ではありますまい。
101
併
(
しか
)
し
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものはよう
気
(
き
)
の
変
(
かは
)
るものですね。
102
どうか
私
(
わたくし
)
の
時
(
とき
)
のやうに、
103
気
(
き
)
の
変
(
かは
)
らないやうに、
104
今度
(
こんど
)
の
婿
(
むこ
)
さまを
大切
(
たいせつ
)
にして
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいや。
105
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふても
私
(
わたし
)
は
貴女
(
あなた
)
に
再縁
(
さいえん
)
を
迫
(
せま
)
るやうな
事
(
こと
)
もありませぬから
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませや。
106
さうしてお
二人
(
ふたり
)
お
揃
(
そろ
)
ひで
此
(
この
)
島
(
しま
)
へ
何
(
なん
)
の
御用
(
ごよう
)
でお
出
(
いで
)
ですか』
107
高姫
(
たかひめ
)
『これはこれは
何処
(
どこ
)
の
方
(
かた
)
かは
知
(
し
)
りませぬが、
108
人違
(
ひとちが
)
ひをなさるも
程
(
ほど
)
がある。
109
成程
(
なるほど
)
妾
(
わたし
)
は
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
に
間違
(
まちがひ
)
はありませぬが、
110
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
には
同
(
おな
)
じ
顔
(
かほ
)
をした
女
(
をんな
)
もあり、
111
同
(
おな
)
じ
名
(
な
)
の
女
(
をんな
)
もあるでせう、
112
そんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふて
貰
(
もら
)
うと
夫
(
をつと
)
ある
妾
(
わたし
)
、
113
大変
(
たいへん
)
に
迷惑
(
めいわく
)
致
(
いた
)
します』
114
梅公
(
うめこう
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま
呆惚
(
とぼ
)
けちやいけませぬよ、
115
人違
(
ひとちが
)
ひするやうな
老眼
(
らうがん
)
でもなし、
116
昼夜
(
ちうや
)
間断
(
かんだん
)
なく
夢
(
ゆめ
)
にまで
貴女
(
あなた
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
探
(
さが
)
して
居
(
ゐ
)
る
私
(
わたし
)
、
117
どうして
間違
(
まちが
)
へる
気遣
(
きづか
)
ひがありませうか』
118
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
面色
(
めんしよく
)
朱
(
しゆ
)
を
注
(
そそ
)
ぎ
身体
(
しんたい
)
一面
(
いちめん
)
、
1181
慄
(
ふる
)
はせ
乍
(
なが
)
ら
119
高姫
(
たかひめ
)
と
梅公
(
うめこう
)
をグツと
睨
(
ね
)
めつけ、
120
妖
(
えう
)
『これや、
121
そこな
青二才
(
あをにさい
)
奴
(
め
)
、
122
誰
(
たれ
)
に
断
(
こと
)
わつて
俺
(
おれ
)
の
大切
(
だいじ
)
の
女房
(
にようばう
)
と
何々
(
なになに
)
しやがつたか、
123
サ、
124
その
理
(
わけ
)
を
聞
(
き
)
かせ、
125
返答
(
へんたふ
)
次第
(
しだい
)
によつては
容赦
(
ようしや
)
は
罷
(
まか
)
りならぬぞ。
126
これや
女帝
(
によてい
)
、
127
いや
阿魔奴
(
あまつちよ
)
、
128
夜鷹
(
よたか
)
、
129
辻君
(
つじぎみ
)
、
130
惣嫁
(
そうか
)
、
131
十銭
(
じつせん
)
、
132
下等
(
かとう
)
内侍
(
ないじ
)
、
133
蓆敷
(
むしろしき
)
奴
(
め
)
が、
134
八
(
はつ
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
を
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
馬鹿
(
ばか
)
にしよつたな、
135
サアこの
裁
(
さば
)
きを
確
(
しつか
)
りと
付
(
つ
)
けて
貰
(
もら
)
ひませうかい』
136
高
(
たか
)
『これ
杢助
(
もくすけ
)
さま、
137
辻君
(
つじぎみ
)
だの、
138
十銭
(
じつせん
)
だの、
139
蓆敷
(
むしろしき
)
だの、
140
余
(
あま
)
り
情
(
なさけ
)
ないお
言葉
(
ことば
)
ぢやありませぬか、
141
妾
(
わたし
)
こそ
全
(
まつた
)
く
知
(
し
)
らないのですもの。
142
此
(
この
)
人
(
ひと
)
は
妾
(
わたし
)
の
美貌
(
びばう
)
を
見
(
み
)
て
精神
(
せいしん
)
が
錯乱
(
さくらん
)
したのでせう、
143
さうでなければ
見
(
み
)
ず
知
(
し
)
らずの
妾
(
わたし
)
を
見
(
み
)
て、
144
こんな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふ
道理
(
だうり
)
がありませぬもの』
145
妖
(
えう
)
『マアこの
青二才
(
あをにさい
)
はこの
島
(
しま
)
に
置
(
お
)
いておきや
逃
(
に
)
げる
気遣
(
きづか
)
ひはない、
146
その
代
(
かは
)
り
此
(
こ
)
の
借船
(
かりぶね
)
は
預
(
あづ
)
かつて
置
(
お
)
く』
147
と
確
(
しつか
)
りと
自分
(
じぶん
)
の
船尻
(
ふなじり
)
に
縛
(
くく
)
りつけ
148
二三町
(
にさんちやう
)
許
(
ばか
)
り
沖
(
おき
)
へ
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
だ
)
し、
149
『サア、
150
夜鷹
(
よたか
)
さま、
151
斯
(
か
)
うなつちや
此方
(
こつち
)
のものだ。
152
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふて
貰
(
もら
)
ひませうかい』
153
高姫
(
たかひめ
)
は
進退
(
しんたい
)
これ
谷
(
きは
)
まり
154
隠
(
かく
)
すにも
隠
(
かく
)
されず
虚実
(
きよじつ
)
取混
(
とりま
)
ぜて
覚束
(
おぼつか
)
なくも
白状
(
はくじやう
)
をする。
155
『
前
(
ぜん
)
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
156
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
三羽烏
(
さんばがらす
)
の
御
(
ご
)
一人
(
いちにん
)
、
157
第一
(
だいいち
)
霊国
(
れいごく
)
の
御
(
ご
)
天人
(
てんにん
)
様
(
さま
)
、
158
曲輪
(
まがわ
)
の
術
(
じゆつ
)
に
妙
(
めう
)
を
得
(
え
)
たる
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
、
159
縦
(
たて
)
から
見
(
み
)
ても
横
(
よこ
)
から
見
(
み
)
ても、
160
頭
(
あたま
)
から
見
(
み
)
ても、
161
尻
(
しり
)
から
見
(
み
)
ても、
162
何処
(
どこ
)
に
一所
(
ひととこ
)
穴
(
あな
)
のない
吾
(
わが
)
夫様
(
つまさま
)
、
163
其
(
その
)
御
(
ご
)
慧眼
(
けいがん
)
には
遉
(
さすが
)
の
千草
(
ちぐさ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
も
感嘆
(
かんたん
)
の
舌
(
した
)
を
捲
(
ま
)
かざるを
得
(
え
)
ませぬワ』
164
妖
(
えう
)
『
何
(
なん
)
だ、
165
長
(
なが
)
たらしい
俺
(
おれ
)
の
名
(
な
)
を
並
(
なら
)
べやがつて、
166
機嫌
(
きげん
)
を
取
(
と
)
らうと
思
(
おも
)
つたつて
其
(
そ
)
の
手
(
て
)
に
乗
(
の
)
るものか、
167
善言
(
ぜんげん
)
美詞
(
びし
)
も
時
(
とき
)
と
場所
(
ばしよ
)
によるぞ。
168
阿婆摺
(
あばず
)
れ
阿魔奴
(
あまつちよ
)
、
169
そんな
追従
(
つゐしよう
)
は
聞
(
き
)
きたくない。
170
貴様
(
きさま
)
の
恋人
(
こひびと
)
に
間違
(
まちが
)
ひはなからうがな、
171
女
(
をんな
)
なら
女
(
をんな
)
らしくあつさりと
白状
(
はくじやう
)
しろ』
172
高
(
たか
)
『エヽもう
斯
(
か
)
うなれや
破
(
やぶ
)
れかぶれだ。
173
サア
私
(
わたし
)
をどうなとして
下
(
くだ
)
さいませ、
174
お
前
(
まへ
)
さまに
捨
(
す
)
てられちや、
175
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
生
(
いき
)
甲斐
(
がひ
)
もありませぬから、
176
覚悟
(
かくご
)
を
決
(
き
)
めました。
177
サア、
178
早
(
はや
)
う
殺
(
ころ
)
しなさい』
179
と
糞度胸
(
くそどきやう
)
を
据
(
す
)
ゑて、
180
もたれかかる。
181
妖
(
えう
)
『それ
程
(
ほど
)
殺
(
ころ
)
して
欲
(
ほ
)
しけれや、
182
敢
(
あへ
)
て
遠慮
(
ゑんりよ
)
はしない
覚悟
(
かくご
)
だが、
183
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
を
殺
(
ころ
)
すと
忽
(
たちま
)
ち
困
(
こま
)
るのは
俺
(
おれ
)
だ。
184
お
前
(
まへ
)
の
美貌
(
びばう
)
を
種
(
たね
)
に
一芝居
(
ひとしばゐ
)
打
(
う
)
たにやならぬからのう』
185
高
(
たか
)
『ホヽヽヽヽ、
186
それやさうでせうとも、
187
ねえ
貴方
(
あなた
)
、
188
どうして
此
(
こ
)
の
可愛
(
かはい
)
い
女房
(
にようばう
)
に
刃
(
やいば
)
が
当
(
あ
)
てられませう、
189
そこが
人情
(
にんじやう
)
の
美
(
うつく
)
しいところ、
190
見上
(
みあ
)
げたるお
志
(
こころざし
)
、
191
益々
(
ますます
)
好
(
すき
)
になつて
来
(
き
)
ましたワ』
192
妖
(
えう
)
『エヽ
馬鹿
(
ばか
)
に
晒
(
さら
)
すない、
193
すべた
阿女
(
あま
)
奴
(
め
)
。
194
それよりも
約束
(
やくそく
)
を
履行
(
りかう
)
して
何
(
なん
)
でも
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
はうかい』
195
高
(
たか
)
『ハイ
何
(
なん
)
なりと
聞
(
き
)
きませう、
196
お
前
(
まへ
)
さまが
死
(
し
)
ねと
仰有
(
おつしや
)
つても
嫌
(
いや
)
とは
云
(
い
)
ひませぬ、
197
(
低
(
ひく
)
い
声
(
こゑ
)
)ことはないけど、
198
マアマア
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
きますから
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
199
妖
(
えう
)
『そんなら
俺
(
おれ
)
に
誠意
(
せいい
)
を
現
(
あら
)
はす
為
(
た
)
め、
200
あの
男
(
をとこ
)
を
甘
(
うま
)
くちよろまかして
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
へ
甘
(
うま
)
く
放
(
はう
)
り
込
(
こ
)
んでくれ。
201
さうすれや
彼奴
(
あいつ
)
は
蟻
(
あり
)
や
蜘蛛
(
くも
)
に
命
(
いのち
)
を
奪
(
と
)
られて
仕舞
(
しま
)
ふから、
202
俺
(
おれ
)
もお
前
(
まへ
)
に
尻
(
しり
)
を
振
(
ふ
)
られる
心配
(
しんぱい
)
もなし、
203
夜
(
よ
)
の
目
(
め
)
も
楽
(
らく
)
に
寝
(
ね
)
られると
云
(
い
)
ふものだ。
204
どうだ
得心
(
とくしん
)
か…
黙
(
だま
)
つて
返事
(
へんじ
)
をせぬのは
嫌
(
いや
)
と
吐
(
ぬか
)
すのか』
205
高
(
たか
)
『イエイエ、
206
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
嫌
(
いや
)
とは
申
(
まをし
)
ませぬ、
207
夫
(
をつと
)
の
為
(
ため
)
になる
事
(
こと
)
なら、
208
如何
(
どん
)
な
事
(
こと
)
でも
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
決行
(
けつかう
)
して
御覧
(
ごらん
)
に
入
(
い
)
れませう、
209
サア
早
(
はや
)
く
船
(
ふね
)
をつけて
下
(
くだ
)
さい』
210
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は「お
手並
(
てなみ
)
拝見
(
はいけん
)
」と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
211
梅公別
(
うめこうわけ
)
の
上陸
(
じやうりく
)
した
地点
(
ちてん
)
に
引
(
ひ
)
き
返
(
かへ
)
し
見
(
み
)
れば、
212
梅公
(
うめこう
)
は
二人
(
ふたり
)
の
様子
(
やうす
)
の
唯
(
ただ
)
ならぬに
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
み、
213
万々一
(
まんまんいち
)
大喧嘩
(
おほげんくわ
)
でも
湖上
(
こじやう
)
でおつ
始
(
ぱじ
)
めよつたら、
214
忽
(
たちま
)
ち
湖中
(
こちう
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
二人
(
ふたり
)
の
危急
(
ききふ
)
を
救
(
すく
)
はむと、
215
じつと
様子
(
やうす
)
を
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たのである。
216
雲
(
くも
)
突
(
つ
)
く
許
(
ばか
)
りの
妖幻坊
(
えうげんばう
)
は
高姫
(
たかひめ
)
と
共
(
とも
)
に
上陸
(
じやうりく
)
し、
217
妖
(
えう
)
『
其処
(
そこ
)
に
居
(
ゐ
)
る
青二才
(
あをにさい
)
奴
(
め
)
、
218
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
をよつく
承
(
うけたま
)
はれ、
219
吾
(
われ
)
こそは
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
総務
(
そうむ
)
を
勤
(
つと
)
むる
時置師
(
ときおかし
)
の
杢助
(
もくすけ
)
だ。
220
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
照国別
(
てるくにわけ
)
のヘボ
宣伝使
(
せんでんし
)
の
草履持
(
ぞうりもち
)
を
致
(
いた
)
す
木端
(
こつぱ
)
野郎
(
やらう
)
だらうがな。
221
俺
(
おれ
)
の
女房
(
にようばう
)
と
慇懃
(
いんぎん
)
を
通
(
つう
)
じたとか
云
(
い
)
ふ
話
(
はなし
)
だが、
222
今日
(
けふ
)
は
大目
(
おほめ
)
に
見
(
み
)
ておくから、
223
以後
(
いご
)
は
必
(
かなら
)
ず
慎
(
つつし
)
んだが
宜
(
よ
)
からうぞ』
224
梅
(
うめ
)
『ヤ、
225
貴方
(
あなた
)
が
噂
(
うはさ
)
に
高
(
たか
)
き
時置師
(
ときおかし
)
の
神
(
かみ
)
、
226
杢助
(
もくすけ
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか、
227
存
(
ぞん
)
ぜぬ
事
(
こと
)
とて
偉
(
えら
)
い
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました。
228
高姫
(
たかひめ
)
さまと
私
(
わたくし
)
との
仲
(
なか
)
は
双方
(
さうはう
)
共
(
とも
)
一度
(
いちど
)
は
恋慕
(
れんぼ
)
致
(
いた
)
しましたが、
229
未
(
ま
)
だ
要領
(
えうりやう
)
は
得
(
え
)
て
居
(
を
)
りませぬ。
230
それ
故
(
ゆゑ
)
赤
(
あか
)
の
他人
(
たにん
)
も
同様
(
どうやう
)
ですから、
231
余
(
あま
)
り
貴方
(
あなた
)
からお
咎
(
とが
)
めを
蒙
(
かうむ
)
る
訳
(
わけ
)
も
御座
(
ござ
)
いますまい』
232
妖
(
えう
)
『ハヽヽヽヽ、
233
口
(
くち
)
は
調法
(
てうはふ
)
なものだのう、
234
ゴテゴテ
云
(
い
)
ふにや
及
(
およ
)
ばない、
235
お
前
(
まへ
)
の
良心
(
りやうしん
)
に
問
(
と
)
うたら
分
(
わか
)
るだらう。
236
人
(
ひと
)
問
(
と
)
はば
鬼
(
おに
)
は
居
(
ゐ
)
ぬとも
答
(
こた
)
ふべし
237
心
(
こころ
)
の
問
(
と
)
はば
如何
(
いかが
)
こたへむ。
238
と
云
(
い
)
ふ
道歌
(
だうか
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るだらう、
239
俺
(
おれ
)
も
男
(
をとこ
)
だ、
240
敢
(
あへ
)
て
追及
(
つゐきふ
)
はしない。
241
高
(
たか
)
が
青二才
(
あをにさい
)
の
一匹
(
いつぴき
)
や
二匹
(
にひき
)
つかまへてゴテゴテ
云
(
い
)
ふのは
242
時置師
(
ときおかし
)
の
沽券
(
こけん
)
にも
関
(
くわん
)
するから、
243
寛大
(
くわんだい
)
の
処置
(
しよち
)
を
取
(
と
)
つて
不問
(
ふもん
)
に
付
(
ふ
)
しておく、
244
有難
(
ありがた
)
う
思
(
おも
)
へ』
245
高
(
たか
)
『もし
梅公別
(
うめこうわけ
)
様
(
さま
)
、
246
時置師
(
ときおかし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
はあゝ
仰有
(
おつしや
)
つても
247
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
さまを
憎
(
にく
)
むやうな
方
(
かた
)
ぢやないから
248
悪
(
わる
)
く
思
(
おも
)
はないやうにして
下
(
くだ
)
さい。
249
併
(
しか
)
し
あたい
に
恋慕
(
れんぼ
)
したつて
駄目
(
だめ
)
ですから
250
其
(
その
)
点
(
てん
)
は
固
(
かた
)
く
堅
(
かた
)
く
注意
(
ちうい
)
しておきますよ。
251
お
前
(
まへ
)
さまも
宣伝使
(
せんでんし
)
の
卵
(
たまご
)
ださうだから、
252
一
(
ひと
)
つ
手柄
(
てがら
)
初
(
はじ
)
めにこの
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
苦
(
くるし
)
んで
居
(
ゐ
)
る
男女
(
だんぢよ
)
の
命
(
いのち
)
を
救
(
たす
)
けておやりなさい。
253
さうすれや
杢助
(
もくすけ
)
さまの
怒
(
いかり
)
もとけ、
254
お
前
(
まへ
)
さまの
手柄
(
てがら
)
も
立
(
た
)
つと
云
(
い
)
ふもの、
255
どうです
256
一
(
ひと
)
つ
侠気
(
をとこぎ
)
を
出
(
だ
)
して
決行
(
けつかう
)
する
気
(
き
)
はありませぬかな』
257
梅公別
(
うめこうわけ
)
は
言霊別
(
ことたまわけ
)
の
化身
(
けしん
)
で
258
高姫
(
たかひめ
)
や
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
正体
(
しやうたい
)
を
感知
(
かんち
)
しない
筈
(
はず
)
はない。
259
さうして
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
に
高姫
(
たかひめ
)
に
誑
(
たぶら
)
かされ、
260
二人
(
ふたり
)
の
若
(
わか
)
き
男女
(
だんぢよ
)
が
蟻
(
あり
)
に
責
(
せ
)
められ
蜘蛛
(
くも
)
の
糸
(
いと
)
にまかれ
苦
(
くるし
)
んで
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
は、
261
既
(
すで
)
に
已
(
すで
)
に
常磐丸
(
ときはまる
)
の
船中
(
せんちう
)
に
於
(
おい
)
て
透視
(
とうし
)
して
居
(
ゐ
)
るのである。
262
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
に
梅公別
(
うめこうわけ
)
は
両人
(
りやうにん
)
を
救
(
すく
)
ふべく
263
小舟
(
こぶね
)
を
操
(
あやつ
)
つて
一人
(
ひとり
)
此所
(
ここ
)
に
上陸
(
じやうりく
)
したのである。
264
梅公別
(
うめこうわけ
)
は
早速
(
さつそく
)
鎮魂
(
ちんこん
)
の
神業
(
かむわざ
)
を
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
に
修
(
しう
)
し、
265
強
(
つよ
)
き
神霊
(
しんれい
)
を
送
(
おく
)
つて
居
(
ゐ
)
たから
266
蜘蛛
(
くも
)
も
蟻
(
あり
)
も
如何
(
どう
)
する
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ないのを
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
267
それ
故
(
ゆゑ
)
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
として
妖幻坊
(
えうげんばう
)
、
268
高姫
(
たかひめ
)
の
船中
(
せんちう
)
の
争
(
あらそひ
)
を
見物
(
けんぶつ
)
して
居
(
ゐ
)
たのである。
269
今
(
いま
)
高姫
(
たかひめ
)
が
侠気
(
をとこぎ
)
を
出
(
だ
)
して
二人
(
ふたり
)
の
男女
(
だんぢよ
)
を
救
(
すく
)
へと
云
(
い
)
つた
心
(
こころ
)
の
奥底
(
おくそこ
)
は、
270
梅公別
(
うめこうわけ
)
をあの
蟻
(
あり
)
の
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
ましめ、
271
喰
(
く
)
ひ
殺
(
ころ
)
さしめむと
企
(
たく
)
んで
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
もよく
承知
(
しようち
)
して
居
(
ゐ
)
た。
272
それ
故
(
ゆゑ
)
梅公別
(
うめこうわけ
)
は
二
(
ふた
)
つ
返事
(
へんじ
)
で
承諾
(
しようだく
)
し
273
妖幻坊
(
えうげんばう
)
、
274
高姫
(
たかひめ
)
の
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
で
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
魔
(
ま
)
の
森
(
もり
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
275
妖幻坊
(
えうげんばう
)
、
276
高姫
(
たかひめ
)
は
両手
(
りやうて
)
を
拍
(
う
)
つて
高笑
(
たかわら
)
ひ、
277
竹藪
(
たけやぶ
)
の
入口
(
いりぐち
)
に
進
(
すす
)
みよつて
腮
(
あご
)
を
突出
(
つきだ
)
し
尻
(
しり
)
を
叩
(
たた
)
き
278
所在
(
あらゆる
)
罵詈
(
ばり
)
嘲笑
(
てうせう
)
を
逞
(
たくまし
)
うし「ゆつくりお
喰
(
くは
)
れなされ」と
捨台詞
(
すてぜりふ
)
を
残
(
のこ
)
し、
279
再
(
ふたた
)
び
船
(
ふね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ、
280
何処
(
いづく
)
ともなく
浮
(
うか
)
び
行
(
ゆ
)
く。
281
梅公別
(
うめこうわけ
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
二人
(
ふたり
)
を
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
し、
282
暫
(
しば
)
し
大銀杏
(
おほいてふ
)
の
根下
(
ねもと
)
に
腰
(
こし
)
打
(
う
)
ちかけ、
283
種々
(
いろいろ
)
の
成行
(
なりゆ
)
き
話
(
ばなし
)
を
二人
(
ふたり
)
より
聞
(
き
)
き
取
(
と
)
り
乍
(
なが
)
ら
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一
(
ひと
)
つの
小船
(
こぶね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ、
284
スガの
港
(
みなと
)
をさして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
285
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
286
(
大正一五・六・二九
旧五・二〇
於天之橋立なかや旅館
加藤明子
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 蛸船
(B)
(N)
鰹の網引 >>>
霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第72巻(亥の巻)
> 第1篇 水波洋妖 > 第6章 夜鷹姫
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【第6章 夜鷹姫|第72巻|山河草木|霊界物語|/rm7206】
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