霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 夜鷹姫(よたかひめ)〔一八一五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻 篇:第1篇 水波洋妖 よみ(新仮名遣い):すいはようよう
章:第6章 夜鷹姫 よみ(新仮名遣い):よたかひめ 通し章番号:1815
口述日:1926(大正15)年06月29日(旧05月20日) 口述場所:天之橋立なかや別館 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
妖幻坊と高姫が湖上を進んでいくと、一艘の小船とすれ違った。高姫はその船に乗っている男を見て顔を赤くする。
妖幻坊はそれを見て、高姫が他の男に恋慕していると嫉妬し、小船を追いかける。
小船は、もと来た離れ小島に横付けとなっていた。妖幻坊は船に乗っていた男を追いかけていく。それは梅公別であった。
梅公別は高姫に「まんざら他人でもない」と挨拶して、妖幻坊の嫉妬をあおる。
妖幻坊は高姫に、梅公別を蟻の竹やぶに誘い込むように命令する。高姫は、竹やぶで蟻に責められている男女を救うように梅公別をそそのかす。
実は梅公別は、二人の男女が高姫にだまされて蟻に責められていることは、常磐丸の船内で透視して知っていた。そして二人を助けに小船でやってきたのであった。
すでに蟻の魔の森に鎮魂を修し、神霊を送って蟻を退けておいてあった。
また、高姫が自分を蟻の餌食にしようとしていることを知っていたが、だまされた振りをして、森に飛び込む。
妖幻坊と高姫はそれを見て満足し、船に乗って島を去っていく。
一方梅公別はフクエと岸子を救い出し、スガの港を指して進み行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2017-12-08 22:49:41 文字数:4481 OBC :rm7206
愛善世界社版:68頁 八幡書店版:第12輯 630頁 修補版: 校定版:71頁 普及版:27頁 初版: ページ備考:
001 妖幻坊(えうげんばう)、002高姫(たかひめ)の二人(ふたり)は太魔(たま)の島(しま)に繋(つな)いであつた小船(こぶね)を失敬(しつけい)し、003四五町(しごちやう)許(ばか)り湖上(こじやう)を進(すす)んだ折(をり)しも、004矢(や)を射(い)る如(ごと)く一艘(いつさう)の小船(こぶね)此方(こなた)を指(さ)して馳(は)せ来(きた)るに出会(でくは)した。005高姫(たかひめ)は目敏(めざと)くも其(その)船(ふね)を見(み)てハツと胸(むね)を轟(とどろ)かせながら006顔色(がんしよく)を紅(くれなゐ)に染(そ)めた。007妖幻坊(えうげんばう)は此(この)体(てい)を見(み)るより稍(やや)不審(ふしん)を懐(いだ)き、
008妖(えう)『改(あらた)めて千草(ちぐさ)の高姫(たかひめ)様(さま)、009いや女帝(によてい)様(さま)、010凄(すご)い御(おん)腕前(うでまへ)にはこの杢助(もくすけ)、011驚愕(きやうがく)否(いな)感激(かんげき)仕(つかまつ)りました。012帰命(きめう)頂礼(ちやうらい)謹請(ごんじやう)再拝(さいはい)謹請(ごんじやう)再拝(さいはい)』
013高(たか)『これはしたり、014杢助(もくすけ)様(さま)、015妙(めう)な事(こと)を仰(おつ)しやいますね、016何(なに)をそれ程(ほど)感激(かんげき)なさつたのですか。017他人(たにん)行儀(ぎやうぎ)に改(あらた)まつて謹請(ごんじやう)再拝(さいはい)だなんて、018よい加減(かげん)に揶揄(からか)つておいて下(くだ)さいな』
019妖(えう)『忍(しの)ぶれど色(いろ)に出(で)にけり吾(わが)恋(こひ)は
020物(もの)や思(おも)ふと人(ひと)の問(と)ふ迄(まで)。
021と云(い)ふ百人(ひやくにん)一首(いつしゆ)の歌(うた)を022お前(まへ)知(し)つて居(ゐ)るのだらう』
023高(たか)『ヘン、024馬鹿(ばか)にして下(くだ)さいますな、025そんな歌(うた)位(ぐらゐ)よう知(し)つて居(ゐ)ますよ、026それが一体(いつたい)何(なん)だと仰有(おつしや)るのです、027怪体(けつたい)の事(こと)を云(い)ふぢやありませぬか』
028妖(えう)『お前(まへ)は今(いま)彼処(あすこ)へやつて来(き)た一艘(いつそう)の船(ふね)の若者(わかもの)を見(み)て、029顔(かほ)を紅葉(もみぢ)に染(そ)めたぢやないか、030お前(まへ)の寝(ね)ても醒(さ)めても忘(わす)れる事(こと)の出来(でき)ない恋人(こひびと)に相違(さうゐ)あるまいがな、031さうだから凄(すご)いお腕前(うでまへ)だと云(い)つたのだ』
032高(たか)『何(なん)の事(こと)かと思(おも)へば又(また)嫉(や)いて居(ゐ)るのですか、033水(みづ)の上(うへ)で妬(や)くのも余(あま)り気(き)が利(き)かぬぢやありませぬか。034サ、035そんな気(き)の利(き)かぬ事(こと)を云(い)はないで艪(ろ)を操(あやつ)つて下(くだ)さいな』
036妖(えう)『艪(ろ)を操(あやつ)るより実(じつ)はあの男(をとこ)の艶福家(えんぷくか)にあやかり度(た)いのだ。037トルマン城(じやう)の王妃(わうひ)の君(きみ)、038千草(ちぐさ)の高姫(たかひめ)さまに思(おも)はれた天下(てんか)唯一(ゆゐいつ)の美男子(びだんし)だからなア。039俺(おれ)のやうな虎(とら)とも獅子(しし)とも訳(わけ)の分(わか)らぬ毛(け)の深(ふか)い男(をとこ)と一緒(いつしよ)に暮(くら)すよりも、040縮緬(ちりめん)のやうな肌(はだ)をした若(わか)い男(をとこ)と同棲(どうせい)した方(はう)が、041どの位(くらゐ)世(よ)の中(なか)が楽(たの)しいか分(わか)らないからのう。042いや醜男(ぶをとこ)には生(うま)れて来(き)たくないものだ』
043高(たか)『それや何(なに)を仰有(おつしや)います、044よい加減(かげん)に妾(わたし)を虐(いぢ)めて置(お)いて下(くだ)さいませ』
045妖(えう)『本当(ほんたう)に046お前(まへ)はあの男(をとこ)を知(し)らぬと云(い)ふのか』
047高(たか)『絶対(ぜつたい)に知(し)らない事(こと)は知(し)らないと云(い)ふより外(ほか)に道(みち)はありませぬもの』
048妖(えう)『日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)、049底(そこ)つ岩根(いはね)の大(おほ)ミロク様(さま)の身魂(みたま)は、050決(けつ)して嘘(うそ)は云(い)はないでせうね』
051高(たか)『勿論(もちろん)の事(こと)です』
052妖(えう)『そんなら此処(ここ)で一(ひと)つお前(まへ)と約束(やくそく)しよう、053お前(まへ)が知(し)つて居(ゐ)るか居(ゐ)ないか、054あの船(ふね)を追(お)つかけてあの若者(わかもの)に会(あ)はして見(み)よう。055もし、056向(むかふ)の方(はう)からお前(まへ)の顔(かほ)を見(み)て何(なん)とか言(い)つたら決(けつ)して知(し)らぬとは言(い)はさないからな、057関係(くわんけい)のない男女(だんぢよ)には言葉(ことば)を交(かは)さないのがこの国(くに)の規則(きそく)だ。058又(また)只(ただ)一度(いちど)でも関係(くわんけい)したら、059内証(ないしよう)でも言葉(ことば)をかけなければならぬ規則(きそく)だから、060どうだ高姫(たかひめ)、061知(し)らぬと云(い)ふなら調(しら)べて見(み)ようか』
062高(たか)『なんとマア嫉妬心(しつとしん)の深(ふか)い執念深(しふねんぶか)い人(ひと)だこと、063もうそんな事(こと)は水(みづ)に流(なが)して一(いち)時(じ)も早(はや)うスガの港(みなと)に行(ゆ)かうぢやありませぬか』
064妖(えう)『お前(まへ)がさう云(い)へば云(い)ふ程(ほど)私(わし)の疑(うたがひ)が増(ま)して来(く)る許(ばか)りだ。065若(も)しお前(まへ)に関係(くわんけい)があつたとすれや如何(どう)して呉(く)れる。066サアそれから定(き)めておこう』
067高(たか)『さう疑(うたが)はれちや行(や)り切(き)れませぬから、068貴方(あなた)の御(ご)勝手(かつて)に調(しら)べて下(くだ)さい、069さうしたら屹度(きつと)疑(うたがひ)が晴(は)れるでせう。070妾(わたし)の身(み)は晴天(せいてん)白日(はくじつ)ですからなア』
071妖(えう)『よし、072おい出(で)た。073サアこれからが化(ばけ)の皮(かは)の現(あら)はれ時(とき)ぢや、074高姫(たかひめ)さま、075確(しつか)りなさいませや』
076高(たか)『何(なん)なと仰有(おつしや)いませ、077その代(かは)りあの男(をとこ)と妾(わたし)と関係(くわんけい)が無(な)かつたと云(い)ふ事(こと)が分(わか)つたら、078どうして呉(く)れますか』
079妖(えう)『ハヽヽ如何(どう)するも斯(か)うするもない、080分(わか)つたらお前(まへ)も疑(うたがひ)が晴(は)れて結構(けつこう)だらうし、081俺(おれ)も嫉妬心(しつとしん)がとれて大慶(たいけい)だ。082万々一(まんまんいち)俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)が違(ちが)つたら083今後(こんご)どんな事(こと)でもお前(まへ)の云(い)ふ事(こと)に絶対(ぜつたい)服従(ふくじう)を誓(ちか)つておく。084しかし俺(おれ)が勝(か)つたら085どんな事(こと)でもお前(まへ)は俺(おれ)の無理(むり)難題(なんだい)を聞(き)くだらうなア』
086高(たか)『あもやの喧嘩(けんくわ)で087餅論(もちろん)ですワ』
088 「よし面白(おもしろ)い」と云(い)ひ乍(なが)ら妖幻坊(えうげんばう)は船首(せんしゆ)を廻(まは)し089一艘(いつそう)の船(ふね)を目当(めあて)に追(おつ)かけて行(ゆ)く。090一艘(いつそう)の船(ふね)は自分(じぶん)の現在(げんざい)盗(と)つて来(き)た船(ふね)の繋(つな)いであつた場所(ばしよ)へと横(よこ)づけとなつた。091妖幻坊(えうげんばう)はオーイ オーイと熊谷(くまがひ)もどきに呼(よば)はり乍(なが)ら早(はや)くも岸辺(きしべ)についた。092梅公別(うめこうわけ)は二人(ふたり)の姿(すがた)をつくづく眺(なが)めながら、
093『ヤア、094誰(たれ)かと思(おも)へば千草(ちぐさ)の高姫(たかひめ)さまで御座(ござ)つたか、095其(その)後(ご)は打(う)ち絶(たえ)て御(ご)無沙汰(ぶさた)致(いた)しました。096貴女(あなた)のお居間(ゐま)でグツスリと寝(ね)さして貰(もら)ひ、097いかい失礼(しつれい)を致(いた)しましたが、098ますますお達者(たつしや)でお目出(めで)とう、099見(み)れば立派(りつぱ)なお婿(むこ)さまをお貰(もら)ひなさつたやうですね。100私(わたくし)とても万更(まんざら)他人(たにん)ではありますまい。101併(しか)し女(をんな)と云(い)ふものはよう気(き)の変(かは)るものですね。102どうか私(わたくし)の時(とき)のやうに、103気(き)の変(かは)らないやうに、104今度(こんど)の婿(むこ)さまを大切(たいせつ)にして上(あ)げて下(くだ)さいや。105斯(か)う云(い)ふても私(わたし)は貴女(あなた)に再縁(さいえん)を迫(せま)るやうな事(こと)もありませぬから御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませや。106さうしてお二人(ふたり)お揃(そろ)ひで此(この)島(しま)へ何(なん)の御用(ごよう)でお出(いで)ですか』
107高姫(たかひめ)『これはこれは何処(どこ)の方(かた)かは知(し)りませぬが、108人違(ひとちが)ひをなさるも程(ほど)がある。109成程(なるほど)妾(わたし)は千草(ちぐさ)の高姫(たかひめ)に間違(まちがひ)はありませぬが、110広(ひろ)い世界(せかい)には同(おな)じ顔(かほ)をした女(をんな)もあり、111同(おな)じ名(な)の女(をんな)もあるでせう、112そんな事(こと)を云(い)ふて貰(もら)うと夫(をつと)ある妾(わたし)、113大変(たいへん)に迷惑(めいわく)致(いた)します』
114梅公(うめこう)『高姫(たかひめ)さま呆惚(とぼ)けちやいけませぬよ、115人違(ひとちが)ひするやうな老眼(らうがん)でもなし、116昼夜(ちうや)間断(かんだん)なく夢(ゆめ)にまで貴女(あなた)の姿(すがた)を見(み)て探(さが)して居(ゐ)る私(わたし)、117どうして間違(まちが)へる気遣(きづか)ひがありませうか』
118 妖幻坊(えうげんばう)は面色(めんしよく)朱(しゆ)を注(そそ)ぎ身体(しんたい)一面(いちめん)、1181慄(ふる)はせ乍(なが)ら119高姫(たかひめ)と梅公(うめこう)をグツと睨(ね)めつけ、
120妖(えう)『これや、121そこな青二才(あをにさい)奴(め)、122誰(たれ)に断(こと)わつて俺(おれ)の大切(だいじ)の女房(にようばう)と何々(なになに)しやがつたか、123サ、124その理(わけ)を聞(き)かせ、125返答(へんたふ)次第(しだい)によつては容赦(ようしや)は罷(まか)りならぬぞ。126これや女帝(によてい)、127いや阿魔奴(あまつちよ)、128夜鷹(よたか)、129辻君(つじぎみ)、130惣嫁(そうか)、131十銭(じつせん)、132下等(かとう)内侍(ないじ)、133蓆敷(むしろしき)奴(め)が、134八(はつ)尺(しやく)の男子(だんし)を今(いま)迄(まで)馬鹿(ばか)にしよつたな、135サアこの裁(さば)きを確(しつか)りと付(つ)けて貰(もら)ひませうかい』
136高(たか)『これ杢助(もくすけ)さま、137辻君(つじぎみ)だの、138十銭(じつせん)だの、139蓆敷(むしろしき)だの、140余(あま)り情(なさけ)ないお言葉(ことば)ぢやありませぬか、141妾(わたし)こそ全(まつた)く知(し)らないのですもの。142此(この)人(ひと)は妾(わたし)の美貌(びばう)を見(み)て精神(せいしん)が錯乱(さくらん)したのでせう、143さうでなければ見(み)ず知(し)らずの妾(わたし)を見(み)て、144こんな事(こと)を云(い)ふ道理(だうり)がありませぬもの』
145妖(えう)『マアこの青二才(あをにさい)はこの島(しま)に置(お)いておきや逃(に)げる気遣(きづか)ひはない、146その代(かは)り此(こ)の借船(かりぶね)は預(あづ)かつて置(お)く』
147と確(しつか)りと自分(じぶん)の船尻(ふなじり)に縛(くく)りつけ148二三町(にさんちやう)許(ばか)り沖(おき)へ漕(こ)ぎ出(だ)し、
149『サア、150夜鷹(よたか)さま、151斯(か)うなつちや此方(こつち)のものだ。152本当(ほんたう)の事(こと)を云(い)ふて貰(もら)ひませうかい』
153 高姫(たかひめ)は進退(しんたい)これ谷(きは)まり154隠(かく)すにも隠(かく)されず虚実(きよじつ)取混(とりま)ぜて覚束(おぼつか)なくも白状(はくじやう)をする。
155『前(ぜん)斎苑(いそ)の館(やかた)の救世主(きうせいしゆ)、156神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)の三羽烏(さんばがらす)の御(ご)一人(いちにん)、157第一(だいいち)霊国(れいごく)の御(ご)天人(てんにん)様(さま)、158曲輪(まがわ)の術(じゆつ)に妙(めう)を得(え)たる天下(てんか)無双(むさう)の英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)、159縦(たて)から見(み)ても横(よこ)から見(み)ても、160頭(あたま)から見(み)ても、161尻(しり)から見(み)ても、162何処(どこ)に一所(ひととこ)穴(あな)のない吾(わが)夫様(つまさま)、163其(その)御(ご)慧眼(けいがん)には遉(さすが)の千草(ちぐさ)の高姫(たかひめ)も感嘆(かんたん)の舌(した)を捲(ま)かざるを得(え)ませぬワ』
164妖(えう)『何(なん)だ、165長(なが)たらしい俺(おれ)の名(な)を並(なら)べやがつて、166機嫌(きげん)を取(と)らうと思(おも)つたつて其(そ)の手(て)に乗(の)るものか、167善言(ぜんげん)美詞(びし)も時(とき)と場所(ばしよ)によるぞ。168阿婆摺(あばず)れ阿魔奴(あまつちよ)、169そんな追従(つゐしよう)は聞(き)きたくない。170貴様(きさま)の恋人(こひびと)に間違(まちが)ひはなからうがな、171女(をんな)なら女(をんな)らしくあつさりと白状(はくじやう)しろ』
172高(たか)『エヽもう斯(か)うなれや破(やぶ)れかぶれだ。173サア私(わたし)をどうなとして下(くだ)さいませ、174お前(まへ)さまに捨(す)てられちや、175最早(もはや)此(この)世(よ)に生(いき)甲斐(がひ)もありませぬから、176覚悟(かくご)を決(き)めました。177サア、178早(はや)う殺(ころ)しなさい』
179と糞度胸(くそどきやう)を据(す)ゑて、180もたれかかる。
181妖(えう)『それ程(ほど)殺(ころ)して欲(ほ)しけれや、182敢(あへ)て遠慮(ゑんりよ)はしない覚悟(かくご)だが、183併(しか)しお前(まへ)を殺(ころ)すと忽(たちま)ち困(こま)るのは俺(おれ)だ。184お前(まへ)の美貌(びばう)を種(たね)に一芝居(ひとしばゐ)打(う)たにやならぬからのう』
185高(たか)『ホヽヽヽヽ、186それやさうでせうとも、187ねえ貴方(あなた)、188どうして此(こ)の可愛(かはい)い女房(にようばう)に刃(やいば)が当(あ)てられませう、189そこが人情(にんじやう)の美(うつく)しいところ、190見上(みあ)げたるお志(こころざし)、191益々(ますます)好(すき)になつて来(き)ましたワ』
192妖(えう)『エヽ馬鹿(ばか)に晒(さら)すない、193すべた阿女(あま)奴(め)。194それよりも約束(やくそく)を履行(りかう)して何(なん)でも俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)いて貰(もら)はうかい』
195高(たか)『ハイ何(なん)なりと聞(き)きませう、196お前(まへ)さまが死(し)ねと仰有(おつしや)つても嫌(いや)とは云(い)ひませぬ、197(低(ひく)い声(こゑ))ことはないけど、198マアマア何(なん)でも聞(き)きますから仰有(おつしや)つて下(くだ)さい』
199妖(えう)『そんなら俺(おれ)に誠意(せいい)を現(あら)はす為(た)め、200あの男(をとこ)を甘(うま)くちよろまかして魔(ま)の森(もり)へ甘(うま)く放(はう)り込(こ)んでくれ。201さうすれや彼奴(あいつ)は蟻(あり)や蜘蛛(くも)に命(いのち)を奪(と)られて仕舞(しま)ふから、202俺(おれ)もお前(まへ)に尻(しり)を振(ふ)られる心配(しんぱい)もなし、203夜(よ)の目(め)も楽(らく)に寝(ね)られると云(い)ふものだ。204どうだ得心(とくしん)か…黙(だま)つて返事(へんじ)をせぬのは嫌(いや)と吐(ぬか)すのか』
205高(たか)『イエイエ、206決(けつ)して決(けつ)して嫌(いや)とは申(まをし)ませぬ、207夫(をつと)の為(ため)になる事(こと)なら、208如何(どん)な事(こと)でも命(いのち)を的(まと)に決行(けつかう)して御覧(ごらん)に入(い)れませう、209サア早(はや)く船(ふね)をつけて下(くだ)さい』
210 妖幻坊(えうげんばう)は「お手並(てなみ)拝見(はいけん)」と云(い)ひ乍(なが)ら211梅公別(うめこうわけ)の上陸(じやうりく)した地点(ちてん)に引(ひ)き返(かへ)し見(み)れば、212梅公(うめこう)は二人(ふたり)の様子(やうす)の唯(ただ)ならぬに気(き)を揉(も)み、213万々一(まんまんいち)大喧嘩(おほげんくわ)でも湖上(こじやう)でおつ始(ぱじ)めよつたら、214忽(たちま)ち湖中(こちう)に飛(と)び込(こ)み二人(ふたり)の危急(ききふ)を救(すく)はむと、215じつと様子(やうす)を見(み)て居(ゐ)たのである。216雲(くも)突(つ)く許(ばか)りの妖幻坊(えうげんばう)は高姫(たかひめ)と共(とも)に上陸(じやうりく)し、
217妖(えう)『其処(そこ)に居(ゐ)る青二才(あをにさい)奴(め)、218此(この)方(はう)の云(い)ふ事(こと)をよつく承(うけたま)はれ、219吾(われ)こそは斎苑(いそ)の館(やかた)の総務(そうむ)を勤(つと)むる時置師(ときおかし)の杢助(もくすけ)だ。220其(その)方(はう)は照国別(てるくにわけ)のヘボ宣伝使(せんでんし)の草履持(ぞうりもち)を致(いた)す木端(こつぱ)野郎(やらう)だらうがな。221俺(おれ)の女房(にようばう)と慇懃(いんぎん)を通(つう)じたとか云(い)ふ話(はなし)だが、222今日(けふ)は大目(おほめ)に見(み)ておくから、223以後(いご)は必(かなら)ず慎(つつし)んだが宜(よ)からうぞ』
224梅(うめ)『ヤ、225貴方(あなた)が噂(うはさ)に高(たか)き時置師(ときおかし)の神(かみ)、226杢助(もくすけ)様(さま)で御座(ござ)いましたか、227存(ぞん)ぜぬ事(こと)とて偉(えら)い失礼(しつれい)を致(いた)しました。228高姫(たかひめ)さまと私(わたくし)との仲(なか)は双方(さうはう)共(とも)一度(いちど)は恋慕(れんぼ)致(いた)しましたが、229未(ま)だ要領(えうりやう)は得(え)て居(を)りませぬ。230それ故(ゆゑ)赤(あか)の他人(たにん)も同様(どうやう)ですから、231余(あま)り貴方(あなた)からお咎(とが)めを蒙(かうむ)る訳(わけ)も御座(ござ)いますまい』
232妖(えう)『ハヽヽヽヽ、233口(くち)は調法(てうはふ)なものだのう、234ゴテゴテ云(い)ふにや及(およ)ばない、235お前(まへ)の良心(りやうしん)に問(と)うたら分(わか)るだらう。
236人(ひと)問(と)はば鬼(おに)は居(ゐ)ぬとも答(こた)ふべし
237心(こころ)の問(と)はば如何(いかが)こたへむ。
238と云(い)ふ道歌(だうか)を知(し)つて居(ゐ)るだらう、239俺(おれ)も男(をとこ)だ、240敢(あへ)て追及(つゐきふ)はしない。241高(たか)が青二才(あをにさい)の一匹(いつぴき)や二匹(にひき)つかまへてゴテゴテ云(い)ふのは242時置師(ときおかし)の沽券(こけん)にも関(くわん)するから、243寛大(くわんだい)の処置(しよち)を取(と)つて不問(ふもん)に付(ふ)しておく、244有難(ありがた)う思(おも)へ』
245高(たか)『もし梅公別(うめこうわけ)様(さま)、246時置師(ときおかし)の神(かみ)様(さま)はあゝ仰有(おつしや)つても247決(けつ)してお前(まへ)さまを憎(にく)むやうな方(かた)ぢやないから248悪(わる)く思(おも)はないやうにして下(くだ)さい。249併(しか)しあたいに恋慕(れんぼ)したつて駄目(だめ)ですから250其(その)点(てん)は固(かた)く堅(かた)く注意(ちうい)しておきますよ。251お前(まへ)さまも宣伝使(せんでんし)の卵(たまご)ださうだから、252一(ひと)つ手柄(てがら)初(はじ)めにこの魔(ま)の森(もり)に落(お)ち込(こ)んで苦(くるし)んで居(ゐ)る男女(だんぢよ)の命(いのち)を救(たす)けておやりなさい。253さうすれや杢助(もくすけ)さまの怒(いかり)もとけ、254お前(まへ)さまの手柄(てがら)も立(た)つと云(い)ふもの、255どうです256一(ひと)つ侠気(をとこぎ)を出(だ)して決行(けつかう)する気(き)はありませぬかな』
257 梅公別(うめこうわけ)は言霊別(ことたまわけ)の化身(けしん)で258高姫(たかひめ)や妖幻坊(えうげんばう)の正体(しやうたい)を感知(かんち)しない筈(はず)はない。259さうして魔(ま)の森(もり)に高姫(たかひめ)に誑(たぶら)かされ、260二人(ふたり)の若(わか)き男女(だんぢよ)が蟻(あり)に責(せ)められ蜘蛛(くも)の糸(いと)にまかれ苦(くるし)んで居(ゐ)る事(こと)は、261既(すで)に已(すで)に常磐丸(ときはまる)の船中(せんちう)に於(おい)て透視(とうし)して居(ゐ)るのである。262夫(それ)故(ゆゑ)に梅公別(うめこうわけ)は両人(りやうにん)を救(すく)ふべく263小舟(こぶね)を操(あやつ)つて一人(ひとり)此所(ここ)に上陸(じやうりく)したのである。264梅公別(うめこうわけ)は早速(さつそく)鎮魂(ちんこん)の神業(かむわざ)を魔(ま)の森(もり)に修(しう)し、265強(つよ)き神霊(しんれい)を送(おく)つて居(ゐ)たから266蜘蛛(くも)も蟻(あり)も如何(どう)する事(こと)も出来(でき)ないのを知(し)つて居(ゐ)た。267それ故(ゆゑ)泰然(たいぜん)自若(じじやく)として妖幻坊(えうげんばう)、268高姫(たかひめ)の船中(せんちう)の争(あらそひ)を見物(けんぶつ)して居(ゐ)たのである。269今(いま)高姫(たかひめ)が侠気(をとこぎ)を出(だ)して二人(ふたり)の男女(だんぢよ)を救(すく)へと云(い)つた心(こころ)の奥底(おくそこ)は、270梅公別(うめこうわけ)をあの蟻(あり)の魔(ま)の森(もり)に飛(と)び込(こ)ましめ、271喰(く)ひ殺(ころ)さしめむと企(たく)んで居(ゐ)る事(こと)もよく承知(しようち)して居(ゐ)た。272それ故(ゆゑ)梅公別(うめこうわけ)は二(ふた)つ返事(へんじ)で承諾(しようだく)し273妖幻坊(えうげんばう)、274高姫(たかひめ)の目(め)の前(まへ)で泰然(たいぜん)自若(じじやく)魔(ま)の森(もり)へ飛(と)び込(こ)んで仕舞(しま)つた。275妖幻坊(えうげんばう)、276高姫(たかひめ)は両手(りやうて)を拍(う)つて高笑(たかわら)ひ、277竹藪(たけやぶ)の入口(いりぐち)に進(すす)みよつて腮(あご)を突出(つきだ)し尻(しり)を叩(たた)き278所在(あらゆる)罵詈(ばり)嘲笑(てうせう)を逞(たくまし)うし「ゆつくりお喰(くは)れなされ」と捨台詞(すてぜりふ)を残(のこ)し、279再(ふたた)び船(ふね)に身(み)を任(まか)せ、280何処(いづく)ともなく浮(うか)び行(ゆ)く。281梅公別(うめこうわけ)は無事(ぶじ)に二人(ふたり)を救(すく)ひ出(だ)し、282暫(しば)し大銀杏(おほいてふ)の根下(ねもと)に腰(こし)打(う)ちかけ、283種々(いろいろ)の成行(なりゆ)き話(ばなし)を二人(ふたり)より聞(き)き取(と)り乍(なが)ら三(さん)人(にん)一(ひと)つの小船(こぶね)に身(み)を任(まか)せ、284スガの港(みなと)をさして進(すす)み行(ゆ)く。285あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
286(大正一五・六・二九 旧五・二〇 於天之橋立なかや旅館 加藤明子録)
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