霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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霊界物語 特別篇 筑紫潟(つくしがた)

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻 篇:後付 よみ(新仮名遣い):
章:筑紫潟 よみ(新仮名遣い):つくしがた 通し章番号:
口述日:1926(大正15)年06月29日(旧05月20日) 口述場所:天之橋立 掬翠荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1929(昭和4)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考:「筑紫潟」は九州の有明海の古称。口述地の島原は有明海に面している。 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-05-10 07:38:16 文字数:5204 OBC :rm729901
愛善世界社版:289頁 八幡書店版:第12輯 707頁 修補版: 校定版:301頁 普及版:116頁 初版: ページ備考:
001世(よ)は烏羽玉(うばたま)の闇(やみ)となり
002山河(さんか)草木(さうもく)ことごとく
003言問(ことと)ひさやぐ世(よ)の中(なか)を
004常磐(ときは)堅磐(かきは)の松(まつ)の世(よ)に
005治(をさ)めむ為(た)めと厳御魂(いづみたま)
006天津(あまつ)御神(みかみ)の御言(みこと)もて
007豊葦原(とよあしはら)の瑞穂国(みづほくに)
008綾(あや)の高天(たかま)に天降(あも)りまし
009至善(しぜん)至美(しび)なる御教(みをしへ)を
010蒼生(あをひとぐさ)に説(と)き諭(さと)し
011朝(あした)は東(ひがし)夜(よる)は西(にし)
012南船(なんせん)北馬(ほくば)の難(なん)を越(こ)え
013神(かみ)の稜威(みいづ)も伊都能売(いづのめ)の
014天津誠(あまつまこと)を宣(の)べませど
015悪(あく)に溺(おぼ)れし世(よ)の中(なか)は
016神(かみ)の言葉(ことば)に服(まつろ)はで
017力(ちから)かぎりに刃向(はむか)ひつ
018沐雨(もくう)櫛風(しつぷう)の苦業(くげふ)さへ
019水泡(みなわ)に帰(き)せむとなせし折(をり)
020天津(あまつ)御神(みかみ)は畏(かしこ)くも
021厳(いづ)の御霊(みたま)の杖柱(つゑはしら)
022珍(うづ)の御教(みのり)を助(たす)けむと
023瑞(みづ)の霊(みたま)を下(くだ)しまし
024瑞穂(みづほ)の国(くに)の中心(ちうしん)に
025高天原(たかあまはら)を築(きづ)かせつ
026経(たて)と緯(よこ)との機(はた)をおり
027心(こころ)も清(きよ)き紅(くれなゐ)の
028錦(にしき)の教(のり)を垂(た)れたまふ
029手段(てだて)となして畏(かしこ)くも
030明治(めいぢ)は二十五(にじふご)年(ねん)より
031天津(あまつ)御神(みかみ)の御心(みこころ)を
032筆(ふで)に写(うつ)して詳細(つばらか)に
033蒼生(あをひとぐさ)に教(をし)へます
034其(その)神文(かみぶみ)を一々(いちいち)に
035清書(きよがき)せよと命(めい)ぜられ
036飛(と)び立(た)つ許(ばか)り勇(いさ)み立(た)ち
037止(と)め度(ど)もなしに慢心(まんしん)の
038階段(かいだん)えちえち攀(よぢ)登(のぼ)り
039神(かみ)の見出(みだ)しに預(あづか)りし
040吾(われ)こそ真(まこと)の信仰(しんかう)と
041心(こころ)の黒(くろ)き黒姫(くろひめ)が
042神書(みふみ)の心(こころ)をとり違(ちが)へ
043瑞(みづ)の霊(みたま)の宣(の)り言(ごと)を
044残(のこ)らず曲(まが)と貶(へん)しつつ
045小北(こぎた)の山(やま)に巣(す)ぐひたる
046ウラナイ教(けう)の偽教主(にせけうしゆ)
047鼻高姫(はなたかひめ)と諸共(もろとも)に
048魔我彦(まがひこ)誘(いざな)ひ聖地(せいち)をば
049後(あと)に見捨(みす)てて出(い)でてゆく
050いよいよ陰謀(いんぼう)七八分(しちはちぶ)
051成功(せいこう)なさむとせし時(とき)に
052瑞(みづ)の霊(みたま)は厳(おごそ)かに
053天(あま)の岩屋戸(いはやど)押(お)し開(ひら)き
054天地(てんち)に塞(ふさ)がる叢雲(むらくも)を
055伊吹(いぶき)払(はら)ひに払(はら)ひまし
056御空(みそら)は忽(たちま)ち五色(いついろ)の
057祥雲(しやううん)棚(たな)曳(び)き日月(じつげつ)の
058清(きよ)き光(ひかり)に曲神(まがかみ)の
059頭(かしら)を忽(たちま)ち射照(いてら)せば
060黒姫(くろひめ)身魂(みたま)に巣食(すく)ひたる
061常世(とこよ)の国(くに)の曲神(まがかみ)は
062汚(けが)れし身体(からたま)ぬけ出(いだ)し
063力(ちから)も落(お)ちて身体(からたま)は
064忽(たちま)ち神(かみ)の冥罰(めいばつ)を
065被(かうむ)り百日(ももか)百夜(ももよさ)の
066修祓(しうばつ)うけて敢(あ)へなくも
067命(いのち)の親(おや)と頼(たの)みたる
068高山彦(たかやまひこ)を残(のこ)し置(お)き
069黒白(あやめ)も分(わ)かぬ烏羽玉(うばたま)の
070暗(くら)き黄泉路(よみぢ)に旅立(たびた)ちて
071八衢(やちまた)街道(かいだう)の四(よ)つ辻(つじ)に
072鼻高姫(はなたかひめ)の精霊(せいれい)と
073出会(でくは)し種々(しゆじゆ)の物語(ものがた)り
074天国(てんごく)地獄(ぢごく)の問答(もんだふ)を
075いと諄々(じゆんじゆん)と初(はじ)めける
076其(そ)の経緯(いきさつ)を瑞霊(みづみたま)
077或夜(あるよ)の夢(ゆめ)に八衢(やちまた)に
078精霊(せいれい)出(い)でて聞(き)き取(と)りし
079一伍(いちぶ)一什(しじふ)の顛末(てんまつ)を
080茲(ここ)にあらあら述(の)べ立(た)つる
081時(とき)は昭和(せうわ)の第二(だいに)年(ねん)
082新(しん)の十(じふ)月(ぐわつ)十九(じふく)日(にち)
083神(かみ)に心(こころ)を筑紫潟(つくしがた)
084肥前(ひぜん)の国(くに)の島原(しまばら)の
085南風楼(なんぷうろう)の二階(にかい)の間(ま)
086北極星(ほくきよくせい)を枕(まくら)とし
087加藤(かとう)明子(はるこ)に筆(ふで)とらせ
088口(くち)解(ほど)きたる物語(ものがたり)
089述(の)ぶるも楽(たの)し惟神(かむながら)
090神(かみ)のまにまに初(はじ)めゆく
091あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
092御霊(みたま)幸(さち)倍(はへ)坐(ま)しませよ。
093 天地(てんち)寂然(せきぜん)として黒雲(くろくも)漲(みなぎ)り、094濃霧(のうむ)は四辺(あたり)を包(つつ)み、095昼(ひる)なほ暗(くら)き夜(よ)の如(ごと)くにして咫尺(しせき)を弁(べん)ぜず、096蒸(むし)暑(あつ)き嫌(いや)らしき悪臭(あくしう)を帯(お)びたる空気(くうき)身辺(しんぺん)を襲(おそ)ふ。097八万(はちまん)地獄(ぢごく)の草枕(くさまくら)、098旅(たび)に出(い)で立(た)つ黒姫(くろひめ)の曲(まが)の精霊(せいれい)は、099唯(ただ)一人(ひとり)小声(こごゑ)に呟(つぶや)きながら、100猶(なほ)現界(げんかい)に吾(わが)肉体(にくたい)のあるものと信(しん)じ、
101黒姫(くろひめ)『いよいよ世(よ)の終末(しうまつ)は近(ちか)づけり、102日月(じつげつ)天(てん)に輝(かがや)けども、103世道(せだう)人心(じんしん)紊乱(ぶんらん)の極(きよく)に達(たつ)し104中空(なかぞら)に妖雲(えううん)起(おこ)りて105下(しも)万民(ばんみん)、1051飢渇(きかつ)に苦(くる)しむ。106時(とき)は今(いま)なり時(とき)は今(いま)なり、107妾(わらは)こそは、108厳(いづ)の霊(みたま)の恩命(おんめい)を拝(はい)し、109此(この)暗黒(あんこく)の世(よ)をして110光明(くわうみやう)世界(せかい)に転換(てんくわん)すべき大責任(だいせきにん)を双肩(さうけん)に担(にな)へり。111あゝ高山彦(たかやまひこ)は、112何(なに)を苦(くる)しみてか躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)する、113日(ひ)の出(で)の神(かみ)の肉(にく)の宮(みや)、114高姫司(たかひめつかさ)は何処(いづこ)にありや。115神諭(しんゆ)に云(い)ふ世(よ)の終(をは)りの時(とき)至(いた)らば、116至誠(しせい)至実(しじつ)の神柱(かむばしら)三(さん)人(にん)あれば可(か)なりと聞(き)く、117その三(さん)人(にん)とは、118竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)殿(どの)の肉(にく)の宮(みや)此(この)黒姫(くろひめ)の身魂(みたま)を初(はじ)め、119日(ひ)の出(で)の神(かみ)の肉宮(にくみや)とあれます小北山(こぎたやま)の高姫司(たかひめつかさ)、120高山彦(たかやまひこ)をおきて外(ほか)に誠(まこと)の神柱(かむばしら)は世(よ)に非(あら)じ、121あゝ思(おも)へば思(おも)へば吾(わ)が身魂(みたま)の責任(せきにん)の重(ぢう)且(か)つ大(だい)なる、122古今(ここん)其(その)比(ひ)を見(み)ず、123東西(とうざい)其(その)例(れい)を聞(き)かず。124変性(へんじやう)女子(によし)の身魂(みたま)と自称(じしよう)せる彼(かれ)贋神柱(にせかむばしら)が末路(まつろ)を見(み)よ、125彼(かれ)が光(ひかり)は螢火(ほたるび)にも如(し)かず、126彼(かれ)若(も)し真(しん)の瑞霊(ずゐれい)なりせば127此(この)世(よ)の終末(しうまつ)に際(さい)し、1271一大(いちだい)火光(くわくわう)となりて、128せめては地上(ちじやう)の低空(ていくう)を飛翔(ひしやう)往来(わうらい)し万民(ばんみん)の目(め)を醒(さ)ませ、129神聖(しんせい)の神国(しんこく)を樹立(じゆりつ)すべきに非(あら)ずや。130口先(くちさき)ばかりの瑞霊(ずゐれい)、131其(その)影(かげ)の薄(うす)きこと、132冬(ふゆ)の夕日(ゆふひ)に如(し)かず。133あゝ至(いた)れり至(いた)れり、134吾(わ)が願望(ぐわんまう)の成就(じやうじゆ)の時期(じき)、135高姫(たかひめ)来(きた)れ、136高山彦(たかやまひこ)、137吾(われ)につづけ』
138と呼(よ)ばはりながら、139木枯(こがらし)荒(すさ)ぶ茅野原(かやのはら)を、140神官扇(しんくわんあふぎ)を右手(めて)に持(も)ち、141左手(ゆんで)にコーランを携(たづさ)へて、142八衢(やちまた)街道(かいだう)の入口(いりぐち)に、143かかる折(をり)しも向(むか)ふより、144脛(はぎ)も現(あら)はにいそいそと、145金剛杖(こんがうづゑ)をつき乍(なが)ら、146髪(かみ)振(ふ)り乱(みだ)しだん尻(じり)を、147ぷりんぷりんと右左(みぎひだり)、148振舞(ふりま)ひながらやつて来(く)る。149女(をんな)は云(い)はずと知(し)れた小北山(こぎたやま)、150日(ひ)の出(で)の神(かみ)と自称(じしよう)する高姫司(たかひめつかさ)の精霊(せいれい)ぞ。
151高姫(たかひめ)『マアマアマアマア、152黒姫(くろひめ)さまぢやないかいな。153此処(ここ)は何処(どこ)ぢやと思(おも)つて居(ゐ)ますか。154生前(せいぜん)に日(ひ)の出(で)の神(かみ)の云(い)ふ事(こと)を、155半信(はんしん)半疑(はんぎ)の態度(たいど)で聞(き)いて居(ゐ)たものだから神罰(しんばつ)は覿面(てきめん)、156お前(まへ)さまはこれから地獄(ぢごく)の旅(たび)に向(むか)ふのぢやないか。157生前(せいぜん)には比較(ひかく)的(てき)豊満(ほうまん)の霊衣(れいい)もすつかりと剥脱(はくだつ)され、158形(かたち)ばかりの三角形(さんかくけい)の霊衣(れいい)を額(ひたひ)に頂(いただ)いて居(ゐ)るスタイルは、159まるきり地獄(ぢごく)の八丁目(はつちやうめ)を歩(ある)いとる亡者(まうじや)ですよ。160あゝもう今(いま)となつては161此(この)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)も、1611お前(まへ)さまを助(たす)ける訳(わけ)には行(ゆ)きませぬわ、162マアマアマア163えらい事(こと)になりましたなア』
164と目(め)を丸(まる)うし、165口(くち)を尖(とが)らして名乗(なの)りかけた。
166黒姫(くろひめ)『どこの乞食婆(こじきばば)がやつて来(く)るのかと思(おも)へばお前(まへ)さまは高姫(たかひめ)さまぢやないか、167此(この)頃(ごろ)は天地(てんち)暗澹(あんたん)として四辺(しへん)暗(くら)く、168空気(くうき)が悪(わる)いので169まあまあ気(き)の毒(どく)な、170持(も)ち前(まへ)の病気(びやうき)が出(で)て発狂(はつきやう)しなさつたのだらう。171些(ちつ)と確(しつか)りして貰(もら)はぬと竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)の肉宮(にくみや)も困(こま)るぢやありませぬか、172ホヽヽヽ。173あのまあ小(こ)むつかしいスタイルだこと、174こんな所(とこ)を大将軍(たいしやうぐん)様(さま)にお目(め)にかけたら175千(せん)年(ねん)の恋(こひ)も一度(いちど)にさめますぞや』
176高姫(たかひめ)『ほつといて下(くだ)さい、177黒姫(くろひめ)さま、178お前(まへ)さまは聖地(せいち)に於(おい)て慢心(まんしん)した結果(けつくわ)、179日出(ひのでの)神(かみ)の教(をしへ)に背(そむ)き、180神罰(しんばつ)を蒙(かうむ)つて百日(ももか)百夜(ももよ)の修祓(しうばつ)を受(う)け、181筍笠(たけのこがさ)のやうに骨(ほね)と皮(かは)とになつて182お国替(くにが)へをなさつたのぢやないか。183それでもまだ現界(げんかい)に生(い)きて居(ゐ)る積(つも)りですか。184何(なん)とまあ慢心(まんしん)した身魂(みたま)の迷(まよ)ふたのは可愛(かあい)さうなものだなア。185あゝ底津(そこつ)岩根(いはね)の大(おほ)ミロク様(さま)、186此(この)黒姫(くろひめ)さまも一度(いちど)は竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)の肉(にく)の宮(みや)迄(まで)勤(つと)めた神界(しんかい)の殊勲者(しゆくんしや)ですから、187如何(いか)なる罪(つみ)がありませうとも、188神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)し、189どうか地獄(ぢごく)行(ゆ)きだけはお許(ゆる)し下(くだ)さいまして、190せめては第三(だいさん)天国(てんごく)の入口(いりぐち)迄(まで)なと上(あげ)てやつて下(くだ)さいませ、191惟神(かむながら)霊(たま)幸(ち)倍(はへ)坐(ま)世(せ)』
192と両眼(りやうがん)より玉(たま)の涙(なみだ)を滴(したた)らせながら、193天(てん)に向(むか)つて合掌(がつしやう)する。
194黒姫(くろひめ)『高姫(たかひめ)さま、195確(しつか)りして下(くだ)さい。196決(けつ)してこの竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)は死(し)んだ覚(おぼ)えは御座(ござ)いませぬよ。197お前(まへ)さま余(あま)り慢心(まんしん)が強(つよ)くて信仰(しんかう)に酔(よ)つ払(ぱら)つたものだから、198これ程(ほど)ピチピチして居(ゐ)る私(わたし)を亡者(まうじや)と間違(まちが)へてゐるのですよ、199なる程(ほど)百日(ももか)百夜(ももよ)の修祓(しうばつ)を受(う)けたのは事実(じじつ)です。200併(しか)しまだ死(し)んだ覚(おぼ)えはありませぬ。201かう常暗(とこやみ)の世(よ)の中(なか)となつては、202世界(せかい)万民(ばんみん)を助(たす)ける為(た)めに、203底津(そこつ)岩根(いはね)の大(おほ)ミロク様(さま)の神柱(かむばしら)、204日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)を兼(かね)たお前(まへ)さまが確(しつか)りして貰(もら)はなくちや、205どうしてミロクの世(よ)が建設(けんせつ)せられませう。206お前(まへ)さまは、207あまり大将軍(たいしやうぐん)さまに現(うつつ)を抜(ぬ)かし、208恋(こひ)に眼(め)が眩(くら)んで千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)になつて呆(はう)けたのでせう。209あゝ高姫(たかひめ)さま、210気(き)の毒(どく)な方(かた)ぢやなア、211伊都能売(いづのめ)の大神(おほかみ)様(さま)、212天(てん)の大(おほ)ミロク様(さま)、213三千(さんぜん)世界(せかい)の人民(じんみん)が可愛(かあい)さうと思(おぼ)し召(め)すなら、214どうぞこの高姫(たかひめ)さまの狂人(きちがひ)を本心(ほんしん)に立(た)ち直(なほ)らして下(くだ)さいませ、215高姫(たかひめ)さまさへ元(もと)の正気(しやうき)にお帰(かへ)りなされば私(わたし)の肉体(にくたい)はいつ国替(くにがへ)しても構(かま)ひませぬ』
216高姫(たかひめ)『あーあ、217仕方(しかた)のないものぢやな。218これ程(ほど)云(い)うても黒姫(くろひめ)さまの精霊殿(せいれいどの)は判(わか)らぬのかいな。219エヽぢれつたい、220惟神(かむながら)霊(たま)幸(ち)倍(はへ)坐(ま)世(せ)』
221黒姫(くろひめ)『あゝ高姫(たかひめ)さまも判(わか)らぬやうになつたものぢやなア、222長(なが)らく聖地(せいち)を離(はな)れて小北山(こぎたやま)に陣(ぢん)どり、223鰯(いわし)の昆布巻(こぶまき)になつて居(ゐ)るものだから、224肝腎(かんじん)の時(とき)に、225発狂(はつきやう)して仕舞(しま)つたのだらう。226生(いき)て居(ゐ)るか、227死(し)んで居(ゐ)るか、228見分(みわ)けのつかぬやうになつては、229神柱(かむばしら)も何(なに)もあつたものぢやない。230あゝ気(き)の毒(どく)だなア』
231○
232高山彦(たかやまひこ)『朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
233月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
234たとへ大地(だいち)は沈(しづ)むとも
235曲津(まがつ)の神(かみ)は荒(すさ)ぶとも
236誠(まこと)の心(こころ)にや叶(かな)はない
237小北(こぎた)の山(やま)より遥々(はるばる)と
238高姫(たかひめ)さまや黒姫(くろひめ)が
239山川(やまかは)千里(せんり)を越(こ)え乍(なが)ら
240幾十回(いくじつくわい)と限(かぎ)り無(な)く
241足(あし)を運(はこ)びし熱誠(ねつせい)に
242つい動(うご)かされ老骨(ろうこつ)を
243ひつさげ乍(なが)ら神界(しんかい)の
244御用(ごよう)の端(はし)に仕(つか)へむと
245妻子(つまこ)を後(あと)に振捨(ふりすて)て
246浪花(なには)の里(さと)に流(なが)れ入(い)り
247花柳(くわりう)の巷(ちまた)も厭(いと)ひなく
248神(かみ)の御(おん)為(た)め道(みち)の為(た)め
249烏(からす)のやうな黒姫(くろひめ)を
250老後(らうご)の妻(つま)と定(さだ)めつつ
251小北(こぎた)の山(やま)に往(ゆ)きかへり
252贋(にせ)の教(をしへ)と知(し)らずして
253日(ひ)の出神(でのかみ)と自称(じしよう)する
254高姫(たかひめ)さまの筆先(ふでさき)を
255一字(いちじ)も残(のこ)らず読(よ)み尽(つく)し
256其(その)収穫(しうくわく)は五里(ごり)霧中(むちう)
257荒野(あらの)を彷徨(さまよ)ふ心地(ここち)にて
258三年(みとせ)四年(よとせ)と過(す)ぎけるが
259皇(すめ)大神(おほかみ)の御心(みこころ)に
260背(そむ)きし為(た)めか黒姫(くろひめ)は
261百日(ももか)百夜(ももよ)の苦(くるし)みを
262身(み)に受(う)け乍(なが)ら淋(さび)しげに
263吾(われ)を見捨(みす)てて神去(かむさ)りぬ
264さは去(さ)り乍(なが)ら人間(にんげん)は
265神代(かみよ)の昔(むかし)の因縁(いんねん)を
266持(も)ちて生(うま)れしものなれば
267如何(いか)に汚(きたな)き黒姫(くろひめ)も
268吾(わ)が女房(にようばう)と諦(あきら)めつ
269くだらぬ教(をしへ)を謹(つつし)みて
270聞(き)き居(ゐ)たるこそ嘆(うた)てけれ
271今日(けふ)は吾妹(わぎも)が昇天(しようてん)の
272百日祭(ひやくにちさい)になりぬれば
273心(こころ)の手向(たむけ)をなさむとて
274霊(みたま)の鎮(しづ)まる奥津城(おくつき)に
275花(はな)供(そな)へむと進(すす)むなり
276黒姫(くろひめ)果(はた)して霊(れい)あらば
277吾(われ)に一言(ひとこと)今(いま)迄(まで)の
278誤解(ごかい)を謝(しや)せよ天地(あめつち)の
279神(かみ)の御前(みまへ)に平(ひ)れ伏(ふ)して
280神(かみ)に背(そむ)きし罪業(ざいごふ)を
281悔(く)い改(あらた)めて根(ね)の国(くに)や
282底(そこ)の国(くに)なる苦(くる)しみを
283よく助(たす)かれよ惟神(かむながら)
284神(かみ)は汝(なんぢ)と共(とも)ならば
285必(かなら)ず地獄(ぢごく)の苦(く)を逃(のが)れ
286天津(あまつ)御国(みくに)に安々(やすやす)と
287神(かみ)の助(たす)けに昇(のぼ)るべし
288あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
289頓生(とんしやう)菩提(ぼだい)黒姫(くろひめ)よ
290後(あと)に残(のこ)りし吾(わ)が命(いのち)
291あまり惜(をし)くはなけれ共(ども)
292自殺(じさつ)をなせば天(てん)の罪(つみ)
293自然(しぜん)に死(し)して汝(な)が後(あと)を
294慕(した)ひて行(ゆ)かむ其(その)日(ひ)迄(まで)
295身魂(みたま)を研(みが)いて天国(てんごく)の
296神(かみ)の御苑(みその)に復活(ふくくわつ)し
297半座(はんざ)を分(わ)けて吾(われ)待(ま)てよ
298汝(なれ)が昇天(しようてん)せし後(のち)は
299一人(ひとり)くよくよ老(おい)の身(み)の
300淋(さび)しさ勝(まさ)る冬(ふゆ)の夜(よる)
301衣(ころも)は薄(うす)く歯(は)はふるひ
302足(あし)もわなわな行(ゆ)き艱(なや)む
303この窮状(きうじやう)を憐(あはれ)みて
304国治立(くにはるたち)の大御神(おほみかみ)
305一日(ひとひ)も早(はや)く黒姫(くろひめ)が
306御後(みあと)を追(お)はせ給(たま)へかし
307あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
308御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)を願(ね)ぎまつる』
309斯(か)く歌(うた)ひ乍(なが)ら
310高山彦(たかやまひこ)の精霊(せいれい)は
311枯草(かれくさ)茂(しげ)る荒野原(あれのはら)
312杖(つゑ)を力(ちから)にとぼとぼと
313八衢(やちまた)さして進(すす)み来(く)る
314黒姫(くろひめ)見(み)るより狂喜(きやうき)して
315黒姫(くろひめ)『お前(まへ)は吾(わが)夫(つま)高(たか)さまか
316何処(どこ)にどうして厶(ござ)つたの
317合点(がてん)のゆかぬ事(こと)許(ばか)り
318日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の
319高姫(たかひめ)さまが発狂(はつきやう)して
320私(わたし)を亡者(まうじや)と誤解(ごかい)する
321百万言(ひやくまんげん)を尽(つく)せども
322心(こころ)の狂(くる)ふた高姫(たかひめ)は
323私(わたし)の言葉(ことば)は糠(ぬか)に釘(くぎ)
324豆腐(とうふ)に鎹(かすがひ)応(こた)へなく
325如何(いかが)はせむと思(おも)ふ折(をり)
326かすかに聞(きこ)ゆる吾(わが)夫(つま)の
327声(こゑ)を力(ちから)に佇(たたず)めば
328まがふ方(かた)なき吾(わが)夫(つま)と
329知(し)りたる時(とき)の嬉(うれ)しさは
330百万(ひやくまん)人(にん)の味方(みかた)をば
331得(え)たるが如(ごと)く思(おも)ひます
332日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)の
333高姫(たかひめ)さまよよつく聞(き)け
334高山彦(たかやまひこ)のハズバンド
335ここに現(あら)はれます上(うへ)は
336私(わたし)が亡者(まうじや)になつてるか
337あなたが発狂(はつきやう)して居(を)るか
338いと明白(めいはく)に分(わか)るだろう
339まさかの時(とき)の助(たす)け舟(ぶね)
340あゝ天道(てんだう)は人(ひと)を殺(ころ)さない
341あゝ有難(ありがた)し有難(ありがた)し
342吾(わが)夫(つま)さま』と縋(すが)りつく
343高山彦(たかやまひこ)は仰天(ぎやうてん)し
344高山彦(たかやまひこ)『これやこれや黒姫(くろひめ)迷(まよ)ふなよ
345お前(まへ)は此(この)世(よ)の人(ひと)でない
346百日(ももか)百夜(ももよ)の病(わづら)ひに
347天命(てんめい)つきて現界(げんかい)を
348後(あと)に見捨(みす)てて行(い)つた者(もの)
349誤解(ごかい)するな』とたしなめば
350高姫(たかひめ)鼻(はな)をつんとかみ
351いとも急(せ)はしき口元(くちもと)で
352高姫(たかひめ)『高山彦(たかやまひこ)がよい証拠(しようこ)
353お前(まへ)は亡者(まうじや)に違(ちが)ひない
354早(はや)く神言(かみごと)奏上(そうじやう)し
355地獄(ぢごく)の関門(くわんもん)突破(とつぱ)して
356天国(てんごく)浄土(じやうど)に行(ゆ)くがよい
357高山彦(たかやまひこ)に執着(しふちやく)を
358のこしちやならぬ黒姫(くろひめ)さま
359左様(さやう)ならば』と背(せ)を向(む)けて
360一目散(いちもくさん)に駆(か)け出(だ)せば
361骨(ほね)と皮(かは)との瘠腕(やせうで)を
362グツと伸(の)ばして黒姫(くろひめ)が
363鼻高姫(はなたかひめ)の後(うしろ)髪(がみ)
364むんずと捉(つか)んで引(ひ)き戻(もど)す
365高姫(たかひめ)地上(ちじやう)に転倒(てんだう)し
366高姫(たかひめ)『あゝいやらしや いやらしや
367亡者(まうじや)になつても此(この)通(とほ)り
368執着心(しふちやくしん)の深(ふか)い婆々(ばば)
369地獄(ぢごく)に落(お)つるは当然(あたりまへ)
370日(ひ)の出神(でのかみ)は知(し)りませぬ
371これから高山彦(たかやまひこ)さまに
372とつつき散々(さんざん)愚知(ぐち)こぼし
373何(な)んなら冥途(めいど)の道(みち)づれに
374伴(つ)れて行(ゆ)かんせ左様(さやう)なら』
375悪垂口(あくたれぐち)を叩(たた)きつつ
376又(また)逃(に)げだすを黒姫(くろひめ)は
377頭(かしら)に角(つの)を立(た)て乍(なが)ら
378線香(せんかう)のやうな手(て)を出(だ)して
379襟髪(えりがみ)グツと引(ひ)き戻(もど)す
380高姫(たかひめ)再(ふたた)び地(ち)の上(うへ)に
381転倒(てんだう)したる其(その)刹那(せつな)
382姿(すがた)は煙(けぶり)と消(き)えにけり
383高山彦(たかやまひこ)はゾツとして
384身慄(みぶる)ひしながら逃(に)げ出(だ)せば
385又(また)もや黒姫(くろひめ)後(あと)を追(お)ひ
386黒姫(くろひめ)『悪性(あくしやう)男(をとこ)のハズバンド
387この黒姫(くろひめ)の黒(くろ)い目(め)を
388ぬすんで日出(ひので)の生宮(いきみや)と
389甘(あま)い約束(やくそく)したのだらう
390許(ゆる)しはせない』と云(い)ひ乍(なが)ら
391氷(こほり)の如(ごと)き冷(ひや)やかな
392拳(こぶし)を固(かた)めて打(う)ちおろす
393全身(ぜんしん)汗(あせ)にしたりつつ
394高山彦(たかやまひこ)は手(て)を合(あは)せ
395高山彦(たかやまひこ)『黒姫(くろひめ)暫(しばら)く待(ま)つて呉(く)れ
396三千(さんぜん)世界(せかい)にお前(まへ)より
397外(ほか)に増(ま)す花(はな)持(も)たぬぞや
398左(さ)はさり乍(なが)ら果敢(はか)なくも
399散(ち)り行(ゆ)く花(はな)は是非(ぜひ)もなし
400汝(なれ)が後(あと)をば逐(お)はむかと
401天地(てんち)の神(かみ)に願(ねが)ひても
402業因(ごふいん)未(いま)だ尽(つ)きざるか
403死(し)ぬにも死(し)なれぬ身(み)の苦衷(くちう)
404察(さつ)してくれよ黒姫(くろひめ)』と
405両眼(りやうがん)涙(なみだ)を湛(たた)へつつ
406ことわけすれど黒姫(くろひめ)は
407白髪頭(しらがあたま)を横(よこ)にふり
408皺涸(しわが)れ声(ごゑ)を張(は)りあげて
409黒姫(くろひめ)『悪性(あくしやう)男(をとこ)のハズバンド
410黒姫(くろひめ)愛想(あいさう)が尽(つ)きたぞや
411鼻高姫(はなたかひめ)の後(あと)を追(お)て
412尻(しり)の世話(せわ)でもするがよい
413煩(うる)さい親爺(おやぢ)』と云(い)ひ乍(なが)ら
414悋気(りんき)の角(つの)をふりたてて
415夜叉(やしや)の如(ごと)くに駆(かけ)出(い)だす
416かかる折(をり)しも天空(てんくう)に
417天津(あまつ)祝詞(のりと)の声(こゑ)聞(きこ)え
418梅(うめ)の花片(はなびら)ちらちらと
419四辺(あたり)に落(お)ちて香(かん)ばしく
420いと爽(さはや)かな音楽(おんがく)に
421つれて紫雲(しうん)をわけ乍(なが)ら
422気高(けだか)きエンゼル悠々(いういう)と
423下(くだ)り来(く)るよと見(み)る中(うち)に
424黒姫(くろひめ)姿(すがた)は後(あと)もなく
425煙(けぶり)と消(き)えて室内(しつない)に
426眼(まなこ)くばれば高姫(たかひめ)が
427黒姫(くろひめ)霊璽(れいじ)の前(まへ)に座(ざ)し
428片言交(かたことまじ)りの祝詞(のりと)をば
429奏上(そうじやう)しながら涙(なみだ)ぐみ
430ぶつぶつ小言(こごと)を云(い)ひ居(ゐ)たり
431高山彦(たかやまひこ)は夢(ゆめ)さめて
432ホツと一息(ひといき)つきながら
433鼻高姫(はなたかひめ)の親切(しんせつ)を
434心(こころ)の底(そこ)より感謝(かんしや)しつ
435庭(には)に出(い)づれば大空(おほぞら)に
436皎々(かうかう)輝(かがや)く望(もち)の月(つき)
437心(こころ)も広(ひろ)く伏(ふ)し拝(をが)み
438感謝(かんしや)の祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し
439小北(こぎた)の山(やま)へと進(すす)み行(ゆ)く
440あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
441御霊(みたま)の恩頼(ふゆ)ぞ畏(かしこ)けれ。
442(昭和二・一〇・一九 長崎県島原町南風楼にて 加藤明子録)
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