霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 イドム戦(せん)〔二〇二八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻 篇:第1篇 伊佐子の島 よみ(新仮名遣い):いさごのしま
章:第1章 イドム戦 よみ(新仮名遣い):いどむせん 通し章番号:2028
口述日:1934(昭和9)年08月04日(旧06月24日) 口述場所:伊豆別院 筆録者:森良仁 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高照山の西南、万里(まで)の海上に、伊佐子の島という面積の大きな島国があった。島の中央に大栄(おおさか)山脈という大きな山脈が、東西に横切っていた。
大栄山脈より南がイドムの国、北をサールの国といった。伊佐子島は、万里の海の島々の中でも最も古く生成された島であり、国津神たちが大勢住んでいた。
イドム、サールの両国はお互いに領土を占領しようと数十年にわたって戦争を続けており、国津神たちは苦しみ、救世神の降臨を今か今かと待ち望んでいる様子であった。
大栄山の中腹に、真珠湖という大きな湖があった。南北十里、東西二十里もあり、その湖水は不思議にも塩分を帯びていた。また、遠浅で、膝ほどの深さしかなく、水上を徒歩でわたることができたのであった。
この真珠湖には人魚が多数住んでおり、国津神のように茅で屋根をふいた住居に住み、生活ぶりも国津神のようであった。
真珠湖は大栄山の南側でイドム国領内にあった。イドムの国の人々は、人魚を捕らえて来てはいろいろと苦しめ、涙を流させた。すると、涙は真珠の珠となって落ちるのであった。
イドムの国津神たちはこれを装飾品にしていた。また、これを内服すると身体が光を放ち、子孫は美しい子のみが生まれるのであった。そういうわけで、時が経つにしたがって、イドムの国津神たちは美男美女のみとなってしまっていた。
これに反して、北側のサールの国津神たちは色黒で背が低く髪はちぢれ、醜い者ばかりであった。サール国王エールスは、真珠湖を占領してサールの国の種族を改良しようと目論んでいた。
ついにエールスは大軍を率いて大栄山を越え、真珠湖に向かって進軍を始めた。
サール国侵入の報を聞いたイドム国王アヅミは、さっそく軍議を召集した。軍議には王妃ムラジ、左守ナーマン、右守ターマン、軍師シウラン、王女チンリウ、侍女アララギが参加した。
軍議は、軍師シウラン、右守ターマンの主戦派の意見が取り入れられ、一気に決戦を挑むことになった。王女のチンリウ姫も出陣し、ともに戦うこととなった。
イドム国が将軍を場内に呼び集め、出陣の用意をしている折しも、サール国の軍隊はすでにイドム城下にまで迫っていた。
イドム国軍は決戦を挑み一日一夜激しく戦ったが、サール国は精鋭決死の兵士ばかりで、イドム国軍はもろくも敗戦し、国王以下、南方の月光山(つきみつやま)を指して逃走した。
アヅミ王は月光山に立て篭もって城壁を構え、イドム国再興を図ることとなった。
エールス王はイドム城を手に入れてイドム国を統治下に置いた。エールス王、サール国左守チクター、右守ナーリス、軍師エーマンはイドム城に入場し、勝利を祝うと、しばらくイドム城に駐屯することとなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:3629 OBC :rm8101
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 423頁 修補版: 校定版:7頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 高照山(たかてるやま)の西南(せいなん)に当(あた)る万里(まで)の海上(かいじやう)に、002相当(さうたう)面積(めんせき)を有(いう)する島国(しまぐに)あり、003之(これ)を伊佐子(いさご)の島(しま)といふ。004此(こ)の島(しま)の中央(ちうあう)に大山脈(だいさんみやく)東西(とうざい)に横(よこ)たはり、005之(これ)を大栄(おほさか)山脈(さんみやく)といふ。006大栄(おほさか)山脈(さんみやく)以南(いなん)をイドムの国(くに)といひ、007以北(いほく)をサールの国(くに)といふ。008この島(しま)は万里(まで)ケ海(うみ)の島々(しまじま)の中(なか)にも、009最(もつと)も古(ふる)く成出(なりいで)し島(しま)にして、010国津神(くにつかみ)等(たち)は数多(あまた)棲息(せいそく)し、011イドム、012サールの両国(りやうごく)は互(たがひ)に其(そ)の領域(りやうゐき)を占領(せんりやう)せむと、013数十(すうじふ)年(ねん)に亘(わた)つて戦争(せんさう)止(や)む時(とき)なく、014数多(あまた)の国津神(くにつかみ)等(たち)は塗炭(とたん)の苦(く)を嘗(な)め、015救世神(きうせいしん)の降臨(かうりん)を待(ま)つこと恰(あだか)も大旱(たいかん)の雲霓(うんげい)を待(ま)つの感(かん)ありける。
016 大栄山(おほさかやま)の中腹(ちうふく)に大(だい)なる湖水(こすい)ありて、017之(これ)を真珠湖(しんじゆこ)といふ。018真珠湖(しんじゆこ)は約(やく)二十(にじふ)メートルの山腹(さんぷく)に展開(てんかい)したる南北(なんぼく)十(じふ)里(り)、019東西(とうざい)二十(にじふ)里(り)の大湖水(だいこすい)なるが、020不思議(ふしぎ)にも海底(かいてい)より涌出(ようしゆつ)せるものの如(ごと)く、021湖水(こすい)皆(みな)濃厚(のうこう)なる塩味(えんみ)を含(ふく)み、022水上(すゐじやう)を徒渉(とせふ)するも僅(わづか)に膝(ひざ)を没(ぼつ)するに過(す)ぎざる湖水(こすい)なりけり。023この真珠湖(しんじゆこ)には人面(にんめん)魚身(ぎよしん)の人魚(にんぎよ)数多(あまた)住居(ぢうきよ)し、024湖辺(こへん)の汀辺(みぎはべ)に国津(くにつ)神(かみ)同様(どうやう)茅(かや)を以(もつ)て屋根(やね)を葺(ふ)きたる家居(かきよ)を構(かま)へ、025その生活(せいくわつ)の様(さま)も殆(ほとん)ど国津(くにつ)神(かみ)に酷似(こくじ)せり。
026 この湖(みづうみ)は大栄山(おほさかやま)の南側(なんそく)にあるを以(もつ)て無論(むろん)イドムの国(くに)の領域(りやうゐき)なりけるが、027イドムの国津(くにつ)神(かみ)は人魚(にんぎよ)を捕(とら)へ来(きた)りて、028色々(いろいろ)と苦(くる)しめ泣(な)かしめる時(とき)、029人魚(にんぎよ)は悲(かな)しみて涙(なみだ)を滝(たき)の如(ごと)く流(なが)しけるに、030不思議(ふしぎ)や其(そ)の涙(なみだ)は悉(ことごと)く真珠(しんじゆ)の玉(たま)となりて、031その美(うるは)しさ言(い)はむ方(かた)なし。032故(ゆゑ)にイドムの国津神(くにつかみ)等(たち)は之(これ)を唯一(ゆいつ)の宝(たから)として頭(かしら)に飾(かざ)り、033胸(むね)に飾(かざ)り、034その美(び)を誇(ほこ)る。035又(また)之(これ)を内服(ないふく)する時(とき)は身体(しんたい)忽(たちま)ち光(ひかり)を放(はな)ち、036且(かつ)美(うるは)しき子(こ)の生(うま)るるを以(もつ)て、037国津(くにつ)神(かみ)は競(きそ)ひて之(これ)を得(え)む事(こと)を欲(ほつ)し、038色々(いろいろ)の計略(けいりやく)を以(もつ)て人魚(にんぎよ)を奪(うば)ひ、039涙(なみだ)を採(と)る事(こと)を唯一(ゆいつ)の業務(げふむ)となしける。040故(ゆゑ)にイドムの国津(くにつ)神(かみ)は何(いづ)れも美男(びなん)美女(びぢよ)のみにして、041醜男(しうなん)醜女(しうぢよ)は終(つひ)に跡(あと)を断(た)つに至(いた)れるなり。042之(これ)に反(はん)して大栄山(おほさかやま)以北(いほく)のサールの国津(くにつ)神(かみ)は何(いづ)れも肌(はだ)黒(くろ)く、043髪(かみ)はちぢれ、044背(せ)は低(ひく)く且(かつ)醜男(しうなん)醜女(しうぢよ)のみなりける。
045 茲(ここ)にサールの国王(こくわう)エールスは、046如何(いか)にもして此(こ)の真珠湖(しんじゆこ)を占領(せんりやう)し種族(しゆぞく)の改良(かいりやう)を計(はか)らむとし、047大軍隊(だいぐんたい)を率(ひき)ゐて大栄山(おほさかやま)を南(みなみ)に越(こ)え、048真珠湖(しんじゆこ)に向(むか)つて進軍(しんぐん)を始(はじ)めける。049之(これ)を聞(き)くよりイドムの王(わう)アヅミは、050左守(さもり)、051右守(うもり)を始(はじ)めとし、052軍師(ぐんし)の神々(かみがみ)を大広間(おほひろま)に呼(よ)び集(あつ)め、053サール国(こく)の軍隊(ぐんたい)を殲滅(せんめつ)すべく軍議(ぐんぎ)を凝(こ)らす事(こと)となりける。
054 イドム王(わう)の名(な)はアヅミといふ。055王妃(わうひ)の名(な)をムラジといふ。056左守(さもり)をナーマン、057右守(うもり)をターマンといふ。058軍師(ぐんし)をシウランといひ、059アヅミ、060ムラジの間(あひだ)に生(うま)れたる娘(むすめ)をチンリウといひ、061侍女(じぢよ)をアララギといふ。062イドム王(わう)のアヅミは軍神(ぐんしん)を集(あつ)め、063サール国(こく)征伐(せいばつ)の軍議(ぐんぎ)を凝(こ)らさむとして歌(うた)ふ。
064『イドムの国(くに)は昔(むかし)より
065主(ス)の大神(おほかみ)の御水火(みいき)にて
066現(あら)はれ出(い)でし美(うま)し国(くに)
067春夏(しゆんか)秋冬(しうとう)順序(じゆんじよ)よく
068五風(ごふう)十雨(じふう)は永久(とこしへ)に
069国(くに)のことごと霑(うるほ)して
070至治(しち)太平(たいへい)を楽(たの)しみし
071世(よ)にも目出度(めでた)きイドム国(こく)
072真珠(しんじゆ)の湖(うみ)の幸(さち)はひに
073国津神(くにつかみ)等(ら)は悉(ことごと)く
074優(すぐ)れて清(きよ)く美(うるは)しく
075霊魂(みたま)身体(からたま)諸共(もろとも)に
076長寿(ちやうじゆ)を保(たも)ち神徳(しんとく)を
077忝(かたじ)けなみて来(きた)りしが
078日(ひ)は行(ゆ)き月(つき)は流(なが)れつつ
079星(ほし)の光(ひかり)も移(うつ)ろひて
080年月(としつき)経(へ)にし其(その)間(うち)に
081大栄山(おほさかやま)の真北(まきた)なる
082サールの国(くに)の国王(こくわう)は
083此(この)善(よ)き国(くに)を怨(うら)みつつ
084真珠(しんじゆ)の湖(うみ)を占領(せんりやう)し
085人魚(にんぎよ)の宝(たから)を奪(うば)はむと
086数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)引具(ひきぐ)して
087襲(おそ)ひ来(きた)るぞ忌々(ゆゆ)しけれ
088吾(われ)等(ら)は元(もと)より戦(たたか)ひを
089好(この)むにあらねど斯(か)くならば
090この神国(かみくに)を守(まも)るため
091軍(いくさ)の神(かみ)を呼(よ)び集(あつ)め
092敵(てき)の悪事(あくじ)を打(う)ち懲(こら)し
093千(せん)里(り)の外(そと)に追(お)ひやりて
094昔(むかし)のままの安国(やすくに)と
095治(おさ)め守(まも)らむ吾(わが)心(こころ)
096左守(さもり)、右守(うもり)を始(はじ)めとし
097軍師(ぐんし)も諸々(もろもろ)国津(くにつ)神(かみ)も
098吾(わが)宣(の)り言(ごと)をよく守(まも)り
099一日(ひとひ)も早(はや)く敵陣(てきぢん)に
100向(むか)つて軍(いくさ)を進(すす)むべし
101それについては色々(いろいろ)の
102手段(てだて)もあれば国津(くにつ)神(かみ)
103互(たがひ)に力(ちから)を協(あは)せつつ
104心(こころ)を一(ひと)つに相固(あひかた)め
105サールに向(むか)つて戦(たたか)へよ
106サールの国(くに)の国王(こくわう)を
107始(はじ)め諸々(もろもろ)軍(いくさ)等(たち)
108残(のこ)らず征伐(きた)め平(たひら)げて
109国(くに)の災(わざは)ひ除(のぞ)けよや
110国(くに)の災(わざは)ひ除(のぞ)くべし
111ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
112吾(わが)言霊(ことたま)に力(ちから)あれ
113吾(わが)言霊(ことたま)に光(ひかり)あれよ』
114 軍師(ぐんし)シウランは答(こた)へて歌(うた)ふ。
115『吾(わが)王(きみ)の仰(おほ)せ畏(かしこ)し曲津(まが)神(かみ)を
116雲(くも)の彼方(かなた)に退(しりぞ)けやらむ
117エールスは真珠(しんじゆ)の湖(うみ)を奪(うば)はむと
118年(とし)ごろ心(こころ)を砕(くだ)き居(ゐ)にけり
119一度(ひとたび)は戦(いくさ)の仰(おほ)せあるものと
120腕(うで)を鍛(きた)へて待(ま)ち居(ゐ)たりけり
121我国(わがくに)は優等(いうとう)人種(じんしゆ)サール国(こく)は
122劣等(れつとう)人種(じんしゆ)怖(お)ぢるに足(た)らず
123吾(わが)王(きみ)よ心(こころ)安(やす)かれ今日(けふ)よりは
124軍(いくさ)を集(あつ)めて敵(てき)を払(はら)はむ』
125 アヅミ王(わう)は歌(うた)ふ。
126『シウランの言葉(ことば)に吾(われ)は力(ちから)得(え)て
127早(はや)くも勝(か)ちたる心地(ここち)するなり
128エールスが軍(いくさ)は数多(あまた)あるとても
129撓(たゆ)まず屈(くつ)せず進(すす)んで亡(ほろ)ぼさむ
130エールスの率(ひき)ゆる軍(いくさ)を打破(うちやぶ)り
131イドムの国(くに)の平和(へいわ)を来(きた)さむ
132シウランの吾(われ)は武勇(ぶゆう)を頼(たの)みとし
133勝利(しようり)の便(たよ)りを楽(たの)しみ待(ま)たむ』
134 王妃(わうひ)のムラジ姫(ひめ)は歌(うた)ふ。
135『エールスは道(みち)弁(わきま)へぬ代物(しろもの)よ
136心(こころ)を配(くば)り進(すす)めシウラン
137我国(わがくに)を奪(うば)はむとして攻(せ)め寄(よ)する
138エールス王(わう)は獣(けもの)に似(に)たり
139エールスの獣(けもの)の輩(やから)悉(ことごと)く
140言向(ことむ)け和(やは)せ生命(いのち)取(と)らずに
141玉(たま)の緒(を)の生命(いのち)は神(かみ)の御賜(みたま)もの
142むざむざ殺(ころ)すべきにあらずや』
143 アヅミ王(わう)は歌(うた)ふ。
144『道(みち)知(し)らぬ輩(やから)言霊(ことたま)宣(の)るとても
145何(なん)の要(えう)なし亡(ほろ)ぼすに如(し)かず
146弱(よわ)き心(こころ)持(も)ちてはこれの戦(たたか)ひに
147如何(いか)で勝(か)ち得(え)む飽(あ)くまで戦(たたか)へ
148ためらひの心(こころ)起(おこ)らば曲津(まが)神(かみ)に
149忽(たちま)ち生命(いのち)と国(くに)を奪(と)られむ』
150 左守(さもり)のナーマンは歌(うた)ふ。
151『昔(むかし)よりわが領域(りやうゐき)に忍(しの)び入(い)り
152人魚(にんぎよ)を奪(うば)ふサールの醜国(しこくに)
153サール国(こく)王(わう)亡(ほろ)ぼさざれば我国(わがくに)は
154終(つひ)に亡(ほろ)びむ戦(たたか)ふべき時(とき)
155さりながら敵(てき)は猛(たけ)しき獅子王(ししわう)の
156性(さが)もち居(を)れば容易(ようい)に亡(ほろ)びず
157計画(けいくわく)を完全(くわんぜん)にして進(すす)まずば
158敵(てき)の謀計(たくみ)の罠(わな)に陥(おちい)らむ
159真珠湖(しんじゆこ)の人魚(にんぎよ)の宝(たから)奪(うば)はむと
160永(なが)き年月(としつき)窺(うかが)へる曲津(まが)よ
161あくまでも心(こころ)を配(くば)り武(ぶ)を練(ね)りて
162寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を討(う)ち滅(ほろぼ)さむ』
163 右守(うもり)のターマンは歌(うた)ふ。
164『此(この)時(とき)をはづせば何時(いつ)の日(ひ)戦(たたか)はむ
165敵(てき)は大栄山(おほさかやま)を越(こ)えたり
166第一(だいいち)の吾(われ)の弱点(よわみ)は敵軍(てきぐん)に
167大栄山(おほさかやま)を越(こ)えられしにあり
168斯(か)くならば短兵(たんぺい)急(きふ)に攻(せ)め寄(よ)せて
169雌雄(しゆう)を決(けつ)せむためらふ事(こと)なく
170日頃(ひごろ)武(ぶ)を練(ね)り鍛(きた)へしも今日(けふ)の日(ひ)の
171備(そな)へなりけりいざや進(すす)まむ
172後(おく)れなば敵(てき)に敗(やぶ)れをとるならむ
173真珠(しんじゆ)の湖(うみ)は敵(てき)の影(かげ)のみ
174強敵(きやうてき)は高地(かうち)に陣取(ぢんど)りわが軍(ぐん)は
175下(した)より攻(せ)むる不利(ふり)の地(ち)にあり
176斯(か)くならば生命(いのち)を捨(す)てて戦(たたか)はむ
177イドムの国(くに)の一大事(いちだいじ)なり』
178 アヅミ王(わう)は歌(うた)ふ。
179『司(つかさ)等(ら)の心(こころ)一(ひと)つに定(さだ)まりぬ
180いざや進(すす)まむ敵(てき)の在処(ありか)へ』
181 娘(むすめ)チンリウは歌(うた)う。
182『父母(ちちはは)を始(はじ)め司(つかさ)の魂(たましひ)の
183固(かた)まる上(うへ)は何(なに)をか恐(おそ)れむ
184吾(われ)も亦(また)女(をんな)なれども国(くに)の為(ため)
185敵(てき)亡(ほろ)ぶまで戦(たたか)はむかな』
186 アヅミ王(わう)は歌(うた)ふ。
187『勇(いさ)ましきチンリウ姫(ひめ)の心(こころ)かな
188吾(わが)勇気(ゆうき)又(また)次第(しだい)に加(くは)はる』
189 チンリウの侍女(じぢよ)アララギは歌(うた)ふ。
190『吾(わが)王(きみ)に願(ねが)ひ奉(まつ)るも姫君(ひめぎみ)の
191軍(いくさ)の御供(みとも)許(ゆる)させ給(たま)へ
192姫君(ひめぎみ)の御(おん)身(み)を守(まも)り敵軍(てきぐん)に
193向(むか)つて吾(われ)は死(し)すまで戦(たたか)はむ』
194 斯(か)く評議(ひやうぎ)一決(いつけつ)し、195国内(こくない)に急使(きふし)を派(は)し数多(あまた)の軍神(ぐんしん)を城内(じやうない)に集(あつ)め、196一斉(いつせい)に敵軍(てきぐん)に向(むか)つて進(すす)み戦(たたか)ふ事(こと)とはなりぬ。197此(こ)の時(とき)遅(おそ)く彼時(かのとき)早(はや)く、198エールス王(わう)は数多(あまた)の軍(いくさ)を指揮(しき)し、199連銭(れんぜん)葦毛(あしげ)の馬(こま)に跨(またが)り、200五色(ごしき)の采配(さいはい)を打振(うちふ)り打振(うちふ)り城下(じやうか)近(ちか)く攻(せ)め寄(よ)せ来(きた)る。201アヅミ王(わう)は烈火(れつくわ)の如(ごと)く憤(いきどほ)り、202軍師(ぐんし)シウランと共(とも)に弓(ゆみ)を満月(まんげつ)の如(ごと)く引(ひ)き絞(しぼ)り射向(いむか)ひけれども、203敵(てき)は名(な)に負(お)ふ剽悍(へうかん)決死(けつし)の士(し)のみにて、204一日(いちにち)一夜(いちや)の戦(たたか)ひにて脆(もろ)くもアヅミ王(わう)の軍隊(ぐんたい)は敗戦(はいせん)し、205南方(なんばう)の月光山(つきみつやま)を指(さ)して逃走(たうそう)せり。206この戦(たたか)ひに娘(むすめ)のチンリウ、207アララギを始(はじ)め数多(あまた)の軍士(つはもの)は、208或(あるひ)は討(う)たれ或(あるひ)は捕虜(ほりよ)となり、209縄目(なはめ)の恥辱(ちじよく)を受(う)ける事(こと)とはなりぬ。210茲(ここ)にエールス王(わう)はイドムの城(しろ)を占領(せんりやう)し、211数多(あまた)の軍隊(ぐんたい)を止(とど)めて天下(てんか)を睥睨(へいげい)する事(こと)とはなりぬ。212アヅミ王(わう)は百(ひやく)里(り)南方(なんぱう)の月光山(つきみつやま)に立籠(たてこも)り此処(ここ)に城壁(じやうへき)を構(かま)へ、213イドム国(こく)の再興(さいこう)を策(さく)しける。
214 エールス王(わう)は戦勝(せんしよう)の祝賀(しゆくが)の宴(えん)をイドム城内(じやうない)に開(ひら)き、215数多(あまた)の従神(じうしん)を集(あつ)めて心地(ここち)よげに歌(うた)ふ。
216『大栄山(おほさかやま)を乗(の)り越(こ)えて
217宝(たから)の国(くに)と聞(きこ)えたる
218イドムの国(くに)に押渡(おしわた)り
219アヅミの王(わう)の軍勢(ぐんぜい)を
220木端(こつぱ)微塵(みぢん)と踏(ふ)み砕(くだ)き
221イドムの城(しろ)を占領(せんりやう)し
222いよいよサールの我国(わがくに)は
223面積(めんせき)以前(いぜん)に倍加(ばいか)して
224国(くに)の栄(さか)えは豊栄(とよさか)昇(のぼ)る
225天津(あまつ)日(ひ)の如(ごと)進(すす)むべし
226此(こ)の凱旋(がいせん)の賑(にぎは)ひは
227神(かみ)の賜(たま)ひし酒盛(さかもり)ぞ
228ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
229吾(わが)言霊(ことたま)に力(ちから)あれ
230吾(わが)言霊(ことたま)に幸(さち)あれや』
231 エールス王(わう)の左守(さもり)チクターは歌(うた)ふ。
232『吾(わが)王(きみ)の御稜威(みいづ)の御光(みひかり)現(あら)はれて
233イドムの国(くに)を握(にぎ)らせ給(たま)ひぬ
234この国(くに)はサールの国(くに)に比(くら)ぶれば
235美(うま)し御国(みくに)ぞ瑞穂(みづほ)の国(くに)ぞ
236これよりはイドムの国(くに)の国津(くにつ)神(かみ)を
237サールの国(くに)に移(うつ)し住(す)ませむ
238みのり悪(あ)しきサールの国(くに)の国津(くにつ)神(かみ)は
239イドムの国(くに)に安(やす)く住(す)ませむ
240真珠湖(しんじゆこ)は全(まつた)く吾手(わがて)に入(い)りにけり
241今日(けふ)より善(よ)き子(こ)生(うま)れ来(きた)らむ
242天地(あめつち)の神(かみ)の恵(めぐ)みと吾(わが)王(きみ)の
243厳(いづ)の力(ちから)に国(くに)広(ひろ)まれり
244吾(わが)王(きみ)の賜(たま)ひし貴(うづ)の盃(さかづき)を
245歓(よろこ)び受(う)けむ国津神(くにつかみ)等(ら)と』
246 右守(うもり)のナーリスは歌(うた)ふ。
247『漸(やうや)くに王(きみ)の望(のぞ)みは届(とど)きけり
248イドムの城(しろ)の手(て)に入(い)りし今日(けふ)
249苦(くる)しみし我(わが)国津(くにつ)神(かみ)も今日(けふ)よりは
250歓(ゑら)ぎ栄(さか)えむイドムに移(うつ)りて
251果(は)てしなき此(こ)の広(ひろ)き国(くに)を手(て)に入(い)れて
252臨(のぞ)ませ給(たま)ふ王(きみ)はいさまし
253今日(けふ)の日(ひ)の勝利(しようり)は軍師(ぐんし)エーマンの
254計画(けいくわく)全(まつた)く宜(よろ)しきを得(え)て
255エーマンの軍師(ぐんし)の謀(はから)ひ無(な)かりせば
256斯(か)く容易(たやす)くは勝(か)ち得(え)ざるなむ』
257 エールス王(わう)は歌(うた)ふ。
258『ナーリスの言葉(ことば)の如(ごと)くエーマンの
259力(ちから)に吾(われ)等(ら)の軍(いくさ)は勝(か)てり』
260 エーマンは歌(うた)ふ。
261『天地(あめつち)の恵(めぐみ)に戦(いくさ)は勝(か)ちにけり
262吾(われ)の力(ちから)の預(あづ)かり知(し)るべき
263この上(うへ)は兜(かぶと)の緒(を)をば締(し)め直(なほ)し
264敵(てき)の再来(さいらい)に備(そな)へ奉(まつ)らむ』
265 茲(ここ)にエールスは完全(くわんぜん)にイドム城(じやう)を占領(せんりやう)し、266凱歌(がいか)を挙(あ)げて暫(しば)し此処(ここ)に住(す)むこととはなりにける。267而(しか)してサールの王城(わうじやう)を北城(ほくじやう)と称(とな)へ、268イドム城(じやう)を南城(なんじやう)と称(しよう)しける。
269(昭和九・八・四 旧六・二四 於伊豆別院 森良仁謹録)
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